(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
当該技術分野においては、様々な用途においてドアを支持するヒンジ装置としてのドアヒンジが使用されている。例えば、自動車分野においては、エネルギー効率の向上を目的として、動力源の如何を問わず自動車の更なる軽量化が求められている。従って、自動車のボディーを構成するドアを支持するヒンジ装置(ドアヒンジ:メールとヒメールとからなる1組の回転支承)にも軽量化が求められている。
【0003】
一方、例えば衝突安全装備及び快適装備等の搭載によりドア自体の重量が増える傾向にあり、ドアヒンジには更なる支持強度の向上が求められている。更に、ドアの開閉音にも高級感が要求されるようになってきており、その要求に応えるためにはドアヒンジの枢支剛性及び取付剛性を向上させることが必要となってきている。
【0004】
以上のように、昨今は、高強度及び高剛性化と軽量化という背反する課題を解決し得るドアヒンジが要求されている。そこで、当該技術分野においては、これらの要求に応えるために様々な検討が行われている。
【0005】
具体的には、従来はプレス加工によって板材から製造されることが一般的であったドアヒンジを、アルミニウム押出材等の形鋼からフライス盤にて削り出す工法(切削加工)によって製造する技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。しかしながら、当該製造方法においては、ドアヒンジの構成部材(メール及びヒメール)の取付部とアーム部との相対角度が押出材の断面形状によってほぼ決まってしまうので、形状の自由度が低い。加えて、構成部材の形状に応じた断面形状を有する長尺の専用押出材が必要となると共に、素材のかなりの部分が切削加工によって削り取られて廃棄される。従って、切削加工に要する工数が大きく、材料の歩留りも悪いため、製造コストが増大する傾向にある。
【0006】
また、温間鍛造によって連結部(枢着部)を成形する技術も提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。しかしながら、ドアヒンジの一部を鍛造によって成形するのみでは、上述した種々の要求を同時に満足することは困難である。
【0007】
更に、冷間鍛造の一種である閉塞鍛造法を用いて、ドアヒンジと類似の機能及び形状を有するパーキングポールブランクの全体形状を成形する技術も提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。閉塞鍛造法によれば、素材の全周囲が型によって拘束された状態で成形が行われるので形状の自由度は高い。しかしながら、鍛造時の高い圧力に耐え得る高い強度を有する型が必要とされると共に、それらの型を相対駆動させる必要があるため、設備コストが増大するのみならず、多くの手間及び高度な技術が必要とされる。しかも、当該技術を用いてドアヒンジの構成部材を成形しようとする場合、取付部とアーム部との相対角度を所望の角度に調整し難く且つ屈曲部における割れ及び/又は座屈が生じ易いため、ドアヒンジに求められる高い剛性を達成することが困難な場合がある。
【0008】
加えて、熱間鍛造法により鋼製の丸棒からドアヒンジの構成部材の取付部、アーム部及び柱状部を成形すると共にヒンジ用ピンを挿入する軸孔をプレス加工(パンチ)によって形成する技術が提案されている(例えば、特許文献4を参照。)。当該技術によれば、素材である丸棒を950〜1350℃に熱して上下の型によって叩くので成形性は優れる(形状の自由度は高い)。しかしながら、素材及び型を高温に加熱及び維持するための設備及びエネルギー並びに熱間鍛造時の高い温度及び圧力に耐え得る型冶具及び設備が必要とされるため、エネルギーコスト及び設備コストが増大する。しかも、熱間鍛造に特有の中間素材に発生するバリを除去する工程(トリミング)が必要となるため、材料の歩留まりの悪化及び製造工程の複雑化を招き、製造コストの増大に繋がる。
【0009】
また、上型の凸部による丸棒(素材)の中央部への加圧による折り曲げ加工において素材の屈曲部の外側が伸ばされるため、当該屈曲部に割れ及び/又は厚みの低下が生じ易く、ドアヒンジに求められる高い剛性を達成することが困難な場合がある。この問題の対策として素材全体の厚みを増大させることも考えられるが、このような対策は軽量化及びコスト削減の面において不利である。更に、熱間鍛造により素材の硬度が増大するため、プレス加工(パンチ)によって軸孔を形成するためには、より強固なパンチ及び拘束型が必要となり、製造コストの増大に繋がる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
《第1実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第1実施形態に係るドアヒンジ用メール及び/又はヒメールの製造方法(以下、「第1方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0023】
〈ドアヒンジの具体例〉
第1方法についての説明に先立ち、第1方法によって製造される構成部材(メール及び/又はヒメール)によって構成されるドアヒンジの具体例につき、
図1を参照しながら以下に説明する。
【0024】
上記ドアヒンジ(a)は、平面図(上面図)(b1)及び側面図(b2)によって示されるメール(b)、平面図(上面図)(c1)及び側面図(c2)によって示されるヒメール(c)、ピン(d)、プレート(e)並びにブッシュ(f)によって構成される。これらの構成部材のうち、メール(b)及びヒメール(c)の製造に第1方法を適用することができる。
【0025】
ところで、従来技術に係る製造方法により素材を屈曲させて製造されるドアヒンジ用メール及び/又はヒメールにおいては、例えば上記(b2)に示したように屈曲部を介して取付部とアーム部とが所定の角度をなすように一体的に形成されるのが一般的である。しかしながら、第1方法によれば、上記(c2)において点線によって囲まれた部分(α)によって示すように、取付部の主たる部分とは反対側に延在する部分を冷間鍛造によって屈曲部に容易に設けることができる。これにより、フランジ状の部分の長さ(β)を増大させて、ドア又はドアを取り付ける対象物(例えば自動車の車体等)と取付部全体(フランジ状の部分)との接触面(取付面)の面積を増大させることができる。その結果、ドアヒンジとしての取付剛性を増大させることができると共に、ドアヒンジとしての形状の自由度を向上させることができる。
【0026】
尚、
図1に示したメール(b)及びヒメール(c)はあくまでも例示に過ぎず、第1方法によって製造することができる構成部材はこれらの例示によって何ら限定されない。例えば、
図1に示したように、メール(b)はヨーク状のアーム部を有し、ヒメール(c)は1本のアーム部を有する。即ち、第1方法は、ヨーク状のアーム部を有するメール及びヒメールのみならず、1本のアーム部を有するメール及びヒメールの製造にも適用することができる。更に、第1方法は、3本以上のアーム部を有するメール及びヒメールの製造にも適用することができる。
【0027】
また、上記のような構成部材(メール及び/又はヒメール)を第1方法よって製造するための素材は、詳しくは後述するように冷間鍛造によって所望の断面形状とすることが可能な柱状の素材である限り、特に限定されない。即ち、上記構成部材を形成する材料は冷間鍛造によって所望の形状とすることが可能な材料である限り特に限定されない。このような材料の具体例としては、例えばS10C及びS20C等の炭素鋼を始めとする鉄系金属材料を挙げることができる。
【0028】
更に、ピン(d)、プレート(e)並びにブッシュ(f)については、当業者に周知であるので詳細な説明は割愛するが、それぞれ当該技術分野においてドアヒンジの構成部材として広く使用されているものを用途に応じて適宜選択することができる。但し、
図1に示したドアヒンジはあくまでも一例であって、第1方法によって製造される構成部材が当該ドアヒンジの構成部材に限定されると解釈されるべきではない。
【0029】
〈従来技術に係る中間素材の製造方法〉
次に、上記のような構成部材(メール及び/又はヒメール)の製造方法につき、従来技術に係る方法と第1方法との間での冷間鍛造工程(第1工程)における相違点に着目して、以下に詳しく説明する。先ず、従来技術に係る方法について説明する。
【0030】
一般に、従来技術に係るドアヒンジ用メール及び/又はヒメールの製造方法(以下、「従来方法」と称呼される場合がある。)において冷間鍛造によって柱状の素材を屈曲させる場合、柱状の素材の軸を曲げる方向に素材を屈曲させて取付部及びアーム部に対応する部分を形成する。
【0031】
具体的には、先ず、
図2の(a)に示すようにV字状(谷状)の凹部が形成された下型10の内部に柱状(角柱状)の素材20を配置する。このとき、冷間鍛造における曲げ線の方向(黒塗りの両矢印)と素材の軸の方向(白抜きの両矢印)とが交差する(典型的には直交する)ように素材20を配置する。
【0032】
そして、
図2の(b)乃至(d)に示すように下向きに突出した形状を有する凸部を有する上型30を下型10の上記凹部に挿入して素材20を押圧することにより素材20を屈曲させる。このとき、
図2の(c)に示すように、素材20の屈曲部の外側(図に向かって下側)には引張応力(白抜きの矢印)が、内側(図に向かって上側)には圧縮応力(黒塗りの矢印)が、それぞれ作用する。その結果、冷間鍛造によって製造された中間素材40の屈曲部(
図2の(d)において点線によって囲まれた部分)における割れ、座屈及び厚みの低下等の問題が発生し、ドアヒンジに求められる高い剛性を達成することが困難となる場合がある。
【0033】
〈第1方法における第1工程〉
そこで、本発明者は、前述したように、柱状の素材を押圧して当該素材の軸に平行な軸を有し且つ当該軸に垂直な平面による断面が屈曲した形状を有する中間素材を形成すれば、冷間鍛造によっても、例えば、屈曲部における割れ、座屈及び厚みの低下等の問題の発生を低減することができることを見出した。
【0034】
第1方法における冷間鍛造工程(第1工程)においては、先ず、
図3の(a)に示すようにV字状(谷状)の凹部が形成された下型10の内部に柱状(角柱状)の素材20を配置する。但し、第1方法においては、上述した従来方法とは異なり、冷間鍛造における曲げ線の方向(黒塗りの両矢印)と素材の軸の方向(白抜きの両矢印)とが平行となるように素材20を配置する。
【0035】
そして、
図3の(b)乃至(d)に示すように下向きに突出した形状を有する凸部を有する上型30を下型10の上記凹部に挿入して素材20を押圧することにより素材20を屈曲させるのではなく塑性変形させる。より詳しくは、
図3の(c)に示すように、下型10の凹部と上型30の凸部とによって挟まれる素材20が塑性変形して、素材20の軸に垂直な平面による断面の形状が下型10と上型30との間の空間によって規定される屈曲した形状へと変化する(白抜きの矢印)。
【0036】
上記のように、第1方法における冷間鍛造工程(第1工程)においては、素材20を、その軸を曲げる方向に屈曲させるのではなく、その軸に垂直な平面による断面が屈曲した形状となるように塑性変形させる。従って、上述した従来方法のように屈曲部の外側に引張応力が作用したり、屈曲部の内側に圧縮応力が作用したりすることを抑制することができる。その結果、冷間鍛造によって製造された中間素材40の屈曲部(
図3の(d)において点線によって囲まれた部分)における割れ、座屈及び厚みの低下等の問題の発生を低減し、ドアヒンジに求められる高い剛性を達成することができる。
【0037】
〈第1方法の概要〉
以上の説明から、従来技術に係る方法と第1方法との間での冷間鍛造工程(第1工程)における相違点は明らかとなった。そこで、第1方法全体としての概要及び詳細につき、以下に改めて説明する。
【0038】
前述したように、第1方法は、所定の角度をなすように一体的に形成された取付部及びアーム部を有するドアヒンジ用メール及び/又はヒメールの製造方法である。当業者に周知であるように、取付部とは、例えば、ドア又はドアを取り付ける対象物(例えば自動車の車体等)にドアヒンジを固定するためのフランジ状の部分であり、典型的には、ドアヒンジを固定するネジを通すためのネジ穴が形成されている。一方、アーム部とは、メール及び/又はヒメールにおける取付部ではない部分であり、その(取付部とは反対側の)先端近傍には、メールとヒメールとを回動自在に支承するためのピン(枢着ピン)を通すための貫通孔が形成される。この貫通孔を画定するアーム部の先端近傍領域を、以降「頭部」と称呼する場合がある。
【0039】
例えば、
図4のフローチャートによって示すように、第1方法によれば、先ずステップS01において、素材から中間素材を製造する冷間鍛造工程である第1工程が実行される。そして、次のステップS02において、中間素材から不要部を除去する不要部除去工程である第2工程が実行される。
【0040】
第1工程(ステップS01)においては、冷間鍛造により柱状の素材を押圧することにより、当該素材の軸に平行な軸を有し且つ当該軸に垂直な平面による断面が屈曲した形状を有する中間素材を形成する。具体的には、上述したように、中間素材に求められる屈曲した断面形状に対応した形状を構成する上型と下型との間に柱状の素材を挟み、室温において所定の圧力にて押圧する。このとき、冷間鍛造における曲げ線の方向と柱状の素材の軸の方向とが平行となるように、上型と下型との間に素材を配置する。これにより、柱状の素材の軸を屈曲させずに、所望の形状を有する中間素材を製造することができる。
【0041】
尚、第1工程において冷間鍛造を行うための設備としては、例えば、当該技術分野において広く使用されているプレス機及び型等の中から、例えば、加工対象となる素材の材質及び目的とする中間素材の形状等に応じて、適宜選択することができる。
【0042】
次に、第2工程(ステップS02)においては、上記中間素材の不要部を除去することによってメール及び/又はヒメールを製造する。具体的には、例えば切削加工等の手法により、製造しようとするドアヒンジの構成部材(メール及び/又はヒメール)として完成させるために中間素材から除去すべき部分(不要部)を除去する。このような不要部の具体例としては、例えば、取付部及びアーム部として必要な形状からはみ出す部分、ピンを通すために形成される貫通孔、及びドアヒンジを対象物に取り付けるために取付部に形成されるネジ穴等を挙げることができる。
【0043】
尚、第2工程において不要部を除去するための設備としては、例えば、当該技術分野において広く使用されているフライス盤等の切削機械等の中から、例えば、加工対象となる中間素材の材質(素材の材質)の性状(例えば、硬度等)及び目的とする構成部材の形状等に応じて、適宜選択することができる。
【0044】
〈第1方法によるメールの製造〉
ここで、上述した第1方法によって素材からメールが製造されるまでの各段階における形状につき、
図5を参照しながら詳細に説明する。
図5の上段には各段階における形状の平面図(上面図)を示し、下段には側面図を示す。
【0045】
(1)冷間鍛造工程(第1工程)
先ず、冷間鍛造工程である第1工程における素材の形状の変化について説明する。
図5の(a)は柱状の素材の形状を表す。
図5の(a)に示した素材は炭素鋼S10Cによって形成された円柱状の形状を有する丸棒である。この丸棒を、
図3の(a)に示したように下型のV字状の溝(凹部)を画定する2つの内壁が交差する線と丸棒の軸とが平行になるように(即ち、冷間鍛造における曲げ線の方向と素材の軸の方向とが平行となるように)、V字状の凹部の内部に載置する。
【0046】
そして、
図3の(b)乃至(d)に示したように、上記V字状の凹部に対応する形状を有する凸部を備える上型を上方から下降させ、この凸部と上記凹部との間において丸棒を押圧することにより、素材上方に窪みを設ける。これにより、
図5の(b)に示すように、軸に垂直な平面による断面が屈曲した形状を有する第1の中間素材を得る。
【0047】
次に、上記第1の中間素材を次の下型のV字状の溝(凹部)の内部に載置し、対応する凸部を有する上型によって押圧することにより、
図5の(c)に示す第2の中間素材を得る。これにより、屈曲部(点線によって囲まれた部分)の一方にはフランジ状の取付部が、他方にはアーム部が、それぞれ形成される。
【0048】
更に、上記第2の中間素材を次の下型のV字状の溝(凹部)の内部に載置し、対応する凸部を有する上型によって押圧することにより、
図5の(d)に示す第3の中間素材を得る。これにより、取付部及びアーム部の形状並びに取付部とアーム部との相対角度が適宜修正された最終的な中間素材が得られる。即ち、ここまでの工程が第1方法に含まれる第1工程(冷間鍛造工程)である。
【0049】
上記第1工程に含まれる何れの押圧においても素材(丸棒)の軸が曲げられることは無く、当該軸に垂直な平面による断面の変形によって取付部とアーム部とが所定の角度をなすように中間素材が形成される。その結果、中間素材の屈曲部(軸に垂直な平面による断面の屈曲部)における割れ、座屈及び厚みの低下等の問題の発生を低減し、ドアヒンジに求められる高い剛性を達成することができる。
【0050】
尚、本例においては、上記のように炭素鋼S10Cによって形成された円柱状の形状を有する丸棒を素材として使用した。しかしながら、前述したように、第1方法において使用される素材を形成する材料は、冷間鍛造によって所望の形状とすることが可能な材料である限り特に限定されず、例えばS10C及びS20C等の炭素鋼を始めとする鉄系金属材料を使用することができる。更に、第1方法において使用される素材の形状は円柱状に限定されず、種々の断面形状を有する様々な柱状の素材を使用することができる。
【0051】
また、本例においては、上記のように異なる型(上型及び下型)を使用する複数回(具体的には3回)の押圧に分割して冷間鍛造工程である第1工程を実行した。しかしながら、目的とする形状を有する中間素材を得ることが可能である限り、第1工程における押圧の回数及び使用される型の種類に制限は無い。
【0052】
即ち、例えば、1回の押圧によって目的とする形状を有する中間素材を得ることが可能である場合は、1回の押圧によって第1工程を完了することができる。逆に、1回の押圧によって目的とする形状を有する中間素材を得ることが不可能又は困難である場合は、複数の種類の型を使用する複数回の押圧によって第1工程を実行することができる。この場合、個々の押圧においては、素材又は中間素材の全体を押圧してもよく、或いは、素材又は中間素材の一部(例えば取付部に対応する部分及びアーム部に対応する部分等)のみを押圧してもよい。更に、第1工程は必ずしも冷間鍛造のみを実行するものではなく、冷間鍛造以外の手法による加工を必要に応じて組み合わせて実行してもよい。
【0053】
(2)不要部除去工程(第2工程)
次に、不要部除去工程である第2工程における中間素材の形状の変化について説明する。本例においては、先ず、上記第1工程の結果として得られた中間素材(d)のアーム部の先端近傍において枢着ピンを通すための貫通孔が形成される領域である「頭部」を切削加工して、例えば、
図5の(e)に二点鎖線によって示すように、枢着ピンの軸周りにおける回動に適した形状とする。このとき、例えば、枢着ピンの軸周りにおける回動範囲を規定するストッパ機構を構成する突起部等を形成してもよい。
【0054】
更に、
図5の(e)に示した中間素材のアーム部及び取付部に対応する部分を切削加工して不要部を除去することにより、
図5の(f1)に示すヨーク状のアーム部及び
図5の(f2)に示すフランジ状の取付部を形成する。加えて、ドアヒンジを固定するネジを通すためのネジ穴及び枢着ピンを通すための貫通孔を例えばドリル等の穿孔機械を使用して形成する。即ち、
図6の斜線部によって示される領域を不要部として除去することにより、
図5の(f)に示す最終製品としてのメールを得る。
【0055】
尚、本例においては、上記のように切削加工及び穿孔加工によって不要部を除去した。しかしながら、不要部を除去するための具体的な手法は特に限定されず、メールに求められる加工精度を満たすことが可能である限り、当該技術分野において使用されている種々の加工手法の中から適宜選択することができる。また、上記第2工程の後に、必要に応じて、例えば、より高い加工精度での仕上げ切削加工、メッキ処理及び塗装(例えば、カチオン塗装)等を含む仕上げ工程を実行してもよい。
【0056】
更に、本例においては、上記のように第1方法によって素材からメールが製造されるまでの各段階における形状について詳しく説明した。しかしながら、基本的には上記と同様の手順により、メールのみならずヒメールをも製造することが可能であることは言うまでも無い。従って、第1方法によって素材からヒメールが製造されるまでの各段階における形状についての説明は省略する。
【0057】
〈まとめ〉
以上のように、第1方法においては、
図2に例示したような従来技術に係る製造方法におけるように素材の軸(長手方向)を屈曲させるのではなく、
図3に例示したように当該軸に垂直な平面による断面が屈曲した形状となるように素材を押圧する。その結果、上述したように、例えば、素材の屈曲部の外側が伸ばされることに起因する屈曲部における割れ、座屈及び厚みの低下等の問題の発生を低減することができる。しかも、このような中間素材を冷間鍛造によって製造することができるので、エネルギーコスト及び設備コストの増大を抑制することができる。加えて、第1方法に含まれる第1工程は冷間鍛造によって実行されるので、中間素材の形状における自由度も高い。
【0058】
即ち、第1方法によれば、ドアヒンジの重量及び製造コストの増大を抑制しつつ機械的強度及び剛性を高めることができ且つ優れた成形性を有するメール及び/又はヒメールの製造方法を提供するという本発明の目的を達成することができる。
【0059】
《第2実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第2実施形態に係るドアヒンジ用メール及び/又はヒメールの製造方法(以下、「第2方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0060】
前述したように、本発明に係るドアヒンジ用メール及び/又はヒメールの製造方法は、第1工程により得られた中間素材の不要部を除去することによってメール及び/又はヒメールを製造する第2工程を含む。第1方法に関して示した例においては、中間素材の不要部を除去するための具体的な手法として切削加工及び穿孔加工を用いた。
【0061】
しかしながら、不要部の全てをこれらの加工手法によって除去する場合、不要部の除去に要する工数が大きくなり、製造コストの増大及び製造効率の低下を招く虞がある。そこで、第2方法においては、第2工程において除去される中間素材の不要部のうち少なくとも一部がシャー刃を用いる切断によって除去される。この点を除き、第2方法は第1方法と同様であるので、第2方法についての以下の説明においては第2工程における第1方法との相違点に着目して説明を行う。
【0062】
〈第2方法における第2工程〉
不要部除去工程である第2工程においては、例えば
図6の斜線部によって示される領域を第1工程により得られた中間素材から不要部として除去することにより
図5の(f)に示した最終製品としてのメールを得る。
【0063】
第2方法に含まれる第2工程においては、上述したように切削加工及び穿孔加工によって中間素材の不要部の全てを除去する手法とは異なり、例えば
図7に示すように、中間素材の不要部のうち少なくとも一部がシャー刃を用いる切断によって除去される。
【0064】
具体的には、先ず、
図7の(a)に示すように、第1工程により得られた中間素材をブランク50としてダイ60の所定の部位にセットする。このダイ60には、ブランク50を切断するパンチ70の刃先がブランク50の所定の切断箇所を通過するように形成された空間が画定されている。次に、
図7の(b)に示すように、パンチ70をダイ60の上記空間に挿入する。やがてパンチ70の刃先がブランク50の所定の切断箇所に到達し、
図7の(c)に示すように、当該切断箇所を刃先が通過することによりブランク50を切断して、不要部(の少なくとも一部)を除去する。
【0065】
当業者に周知であるように、上記第2工程においてブランク50から不要部を切断・除去するためにパンチ70に加えられる荷重の大きさは、例えば、切断しようとするブランク50の材質及び切断箇所の厚み等に応じて適宜定めることができる。また、ダイ60及びパンチ70の材質及び形状もまた、例えば、切断しようとするブランク50の材質及び切断箇所の厚み等に応じて適宜定めることができる。
【0066】
尚、上述したように、第2方法においては、第2工程において中間素材であるブランク50から不要部を切断・除去するためのパンチ70としてシャー刃が使用される。これにより、不要部の切断に要する荷重を低減することができるので、エネルギーコスト及び設備コストを削減することができる。
【0067】
更に、第2方法によれば、例えば切削加工等によって中間素材の不要部の全てを除去する従来技術に係る製造方法とは異なり、中間素材の不要部のうち少なくとも一部がシャー刃を用いる切断によって除去されるので、切削加工に要する工数を大幅に削減することができる。その結果、ドアヒンジ用メール及び/又はヒメールの製造コストを大幅に削減することができる。
【0068】
《第3実施形態》
以下、図面を参照しながら本発明の第2実施形態に係るドアヒンジ用メール及び/又はヒメールの製造方法(以下、「第3方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0069】
上述したように、第2方法においては、中間素材の不要部の少なくとも一部を除去するための具体的な手法として、シャー刃を用いる切断加工が採用される。しかしながら、取付部とアーム部とがなす角度及び頭部の大きさによっては、シャー刃の刃先が所定の切断箇所に到達する前に、シャー刃の刃先以外の部分と中間素材の不要部の一部とが接触する場合がある。
【0070】
具体的には、例えば、
図8の(a)に示すように、取付部とアーム部とがなす角度及び頭部の大きさが共に大きい中間素材50の切断加工に使用されるシャー刃70の刃先角度θが過度に大きい場合(本例においては直角(90°))を想定する。この場合、シャー刃70の刃先が所定の切断箇所(破線の直線と中間素材とが交差する点)に到達する前に、点線によって囲まれた部分のように、シャー刃70の刃先以外の部分と中間素材50の不要部の一部とが接触する。その結果、例えば、中間素材50から不要部がもぎ取られて破断面の荒れ及び中間素材(ブランク)の変形等の問題を招いたり、中間素材50からの不要部の切断・除去が不可能又は困難となったりする虞がある。
【0071】
一方、上記(a)と同じ中間素材の切断において、例えば、
図8の(b)に示すように刃先角度θが過度に小さい場合を想定する。この場合、上記(a)のようにシャー刃70の刃先が所定の切断箇所に到達する前にシャー刃70の刃先以外の部分と中間素材50の不要部の一部とが接触することは回避される。しかしながら、例えば、中間素材50から不要部を切断・除去するために必要な力(剪断力)にシャー刃70の刃先が耐えることができず、シャー刃70の刃先の変形等の問題を招いたり、中間素材50からの不要部の切断・除去が不可能又は困難となったりする虞がある。
【0072】
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、シャー刃の刃先角度θを特定の範囲に収めることにより、上記問題を回避し得ることを見出した。具体的には、刃先角度θは、シャー刃70の刃先以外の部分と中間素材50の不要部の一部とが接触する時点以前にシャー刃70の刃先が所定の切断箇所に到達することが可能な最大刃先角度(θmax)以下の角度とする。一方、刃先角度θは、中間素材50から不要部を切断・除去するために必要な力(剪断力)に起因する刃先の変形等の問題を伴うこと無く中間素材50から不要部を切断・除去することが可能な最小刃先角度(θmin)以上の角度とする。即ち、上記θmax以下であり且つ上記θmin以上である範囲に刃先角度θを収める。
【0073】
上記θmaxは、例えば、
図9の(a)に示すように、シャー刃70の刃先が所定の切断箇所の始点(破線の直線と中間素材とが交差する点)に到達するときに(点線によって囲まれた部分のように)シャー刃70の刃先以外の部分と中間素材50の不要部の一部とが接触する刃先角度として定めることができる。具体的なθmaxの値は、例えば中間素材50の取付部とアーム部とがなす角度及び頭部の大きさ等に応じて適宜定めることができる。
【0074】
一方、上記θminは、例えば、加工対象となる中間素材の材質(素材の材質)の性状(例えば、硬度等)及び形状(例えば、切断箇所の厚み等)並びに使用されるシャー刃の材質の性状(例えば、機械的強度、剛性及び硬度等)に応じて適宜定めることができる。
【0075】
上記のようにシャー刃の刃先角度θを特定の範囲に収めることにより、第3方法においては、第2工程においてシャー刃が中間素材を切断するとき、刃先角度が過度に小さいために中間素材を切断するときに刃先に作用する剪断力によって刃先が変形及び/又は破損したり、刃先角度が過度に大きいために中間素材の切断箇所にシャー刃の刃先が接触する前に中間素材の不要部に対応する部分にシャー刃(の刃先以外の部分)が接触してシャー刃による切断が不可能又は困難となったりする問題を低減することができる。
【0076】
ところで、本発明者は、更なる鋭意研究の結果、シャー刃の刃先が中間素材に接触した時点以降であり且つ刃先が中間素材から離れる時点以前の時点においてシャー刃の刃先以外の部分と中間素材の不要部とを接触させて中間素材の不要部を刃先から遠ざけることにより、より良好に不要部を切断・除去することができることを見出した。
【0077】
上記効果を達成するためには、例えば、シャー刃の刃先が中間素材の切断箇所に到達した時点からシャー刃の刃先が中間素材の切断箇所から離れる時点までの期間のうちの少なくとも一部の期間において中間素材の不要部に対応する部分にシャー刃の刃先以外の部分が接触する必要がある。この場合、上記θminは、例えば、
図9の(b)に示すように、シャー刃70の刃先が所定の切断箇所の終点(破線の直線と中間素材とが交差する点)に到達するときに(点線によって囲まれた部分のように)シャー刃70の刃先以外の部分と中間素材50の不要部の一部とが接触する刃先角度として定めることができる。具体的なθminの値は、例えば(シャー刃70の刃先が切断箇所の終点に到達するときの)中間素材50の取付部とアーム部とがなす角度及び頭部の大きさ等に応じて適宜定めることができる。
【0078】
上記によれば、上述したようなシャー刃の刃先の変形及び/又は破損並びに切断不良等の問題を低減するのみならず、中間素材の所定の切断箇所をシャー刃の刃先によって切断しつつシャー刃の刃先以外の部分によって不要部を押し退けることにより、より良好に不要部を切断・除去することができる。
【0079】
尚、本例においては、
図8及び
図9を参照しながら上述したように、2つの平面によって刃先が形成されるシャー刃を使用する場合について説明した。しかしながら、第2方法及び第3方法において使用されるシャー刃の形状は上述した例示に限定されない。即ち、第2工程における中間素材の切断時に中間素材の不要部と接触し得る面は必ずしも平面である必要は無く、例えば曲面及び段差等の任意の形状をとり得る。或いは、第2工程における中間素材の切断時に中間素材の不要部と接触し得る部分に別個の部材を配置し、当該部材の大きさ及び/又は形状を調節することにより、シャー刃の刃先以外の部分と中間素材の不要部の一部とが接触するタイミングを調整してもよい。
【0080】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態及び変形例につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態及び変形例に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内において、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。