特許第6603185号(P6603185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6603185
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】炭素短繊維不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/50 20060101AFI20191028BHJP
   D21B 1/12 20060101ALI20191028BHJP
   D21B 1/32 20060101ALI20191028BHJP
   D04H 1/44 20060101ALI20191028BHJP
   D04H 1/4242 20120101ALI20191028BHJP
【FI】
   D21H13/50
   D21B1/12
   D21B1/32
   D04H1/44
   D04H1/4242
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-159225(P2016-159225)
(22)【出願日】2016年8月15日
(65)【公開番号】特開2018-28151(P2018-28151A)
(43)【公開日】2018年2月22日
【審査請求日】2018年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鍛治 裕夫
(72)【発明者】
【氏名】津田 研史
(72)【発明者】
【氏名】門間 憲司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光男
【審査官】 堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−249555(JP,A)
【文献】 特開2012−162835(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/057393(WO,A1)
【文献】 登録実用新案第3077410(JP,U)
【文献】 国際公開第2014/014055(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0155568(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/176033(WO,A1)
【文献】 特開2011−001081(JP,A)
【文献】 特開2014−025175(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102013226921(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00−D21J7/00
B29B11/16、15/08−15/14
C08J5/04−5/10、5/24
D04H1/00−18/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生炭素短繊維を水中で、高速回転する細かなスリットを持つリング状刃物を構造の一部に有する高速回転せん断型分散機を使って分散したスラリーを用いて、湿式抄紙法によって炭素短繊維不織布を製造することを特徴とする炭素短繊維不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生炭素短繊維を含む炭素短繊維不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic、「CFRP」と記す場合がある)は、炭素繊維(Carbon Fiber、「CF」と記す場合がある)が母材樹脂中に分散されている。CFRPは、軽量である上に、比強度や比剛性が高いため、ゴルフシャフト、テニスラケット、釣竿などに利用されている。また、最近では、翼や胴体などの大型航空機の主要構造部材にも使用されていて、市場規模が拡大している。
【0003】
この市場規模の拡大に伴い、廃棄されるCFRPの量も増大している。例えば、航空機の場合、安全性が非常に重要であるため、特に品質が第一に考えられ、CFRPの歩留まりは50%と言われる。すなわち、トリミングのため、廃棄される部位も少なくない。また、型に合わせて切断されたプリプレグ、期限切れの未硬化状態、半硬化状態又は硬化状態のプリプレグも、廃棄されるCFRPの一種であり、大量に廃棄されている。
【0004】
炭素繊維が通常の状態では不燃であるため、廃棄されるCFRPの最終廃棄処理は極めて面倒である。したがって、これまでは、廃棄されるCFRPは破砕され、埋め立て処分されていた。しかし、炭素繊維はその製造時に多くのエネルギーを消費するだけに、埋め立て処分することは、非常に無駄が多く、再利用が望まれている。
【0005】
そこで、廃棄されるCFRPから炭素繊維をリサイクルする方法として、焼結処理、過熱水蒸気による処理等によって、廃棄されるCFRPの母材樹脂を分解させて、不燃である炭素繊維を再生炭素短繊維として回収する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0006】
回収された再生炭素繊維を使って不織布を製造する方法として、カード機に通して、再生炭素繊維と他の繊維とを絡ませてウエッブを形成させる乾式法が主流であった(例えば、特許文献5参照)。しかし、これら方法によって形成された不織布は、均一性が充分でなく、緻密性に劣るものであった。また、不織布を後工程において加工する際に、不織布の強度が充分でなく、不織布の切断、割れが生じ、加工性に劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−307121号公報
【特許文献2】特開2008−285600号公報
【特許文献3】特開2008−285601号公報
【特許文献4】特開2013−147545号公報
【特許文献5】特開2014−025175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、均一性に優れ、加工性に優れた再生炭素短繊維を含む炭素短繊維不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、下記発明によって解決することができる。
【0010】
(1)再生炭素短繊維を水中で、高速回転する細かなスリットを持つリング状刃物を構造の一部に有する高速回転せん断型分散機を使って分散したスラリーを用いて、湿式抄紙法によって炭素短繊維不織布を製造することを特徴とする炭素短繊維不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、均一性に優れ、加工性に優れた炭素短繊維不織布を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の炭素短繊維不織布の製造方法は、再生炭素短繊維を水中で、高速回転せん断型分散機を使って分散したスラリーを用いて、湿式抄紙法によって炭素短繊維不織布を製造することを特徴としている。
【0014】
本発明では、再生炭素短繊維を用いる。再生炭素短繊維は、廃棄されるCFRPを、アルゴン、窒素などの不活性ガス中又は水蒸気中で処理して、母材樹脂を焼結除去して得られる炭素短繊維である。特に過熱水蒸気による焼結方法は、大気下で熱を奪うと水に戻ることから、安価で環境を汚染しない有効な方法である。廃棄されるCFRPは、アングルプライ積層体など多様な形態をしており、通常は一定サイズに落としてから、焼結処理し、未硬化状態、半硬化状態又は硬化状態の熱硬化性樹脂である母材樹脂を除去して、裁断する。この場合、繊維長の異なる再生炭素短繊維が得られる。本発明において、再生炭素短繊維を用いる場合の好ましい繊維長は3〜500mmであり、より好ましい繊維長は6〜150mmである。
【0015】
上記に述べた再生炭素短繊維は、数本の再生炭素短繊維が束になった状態となり、この状態のまま、水中にゆるやかに分散しても、再生炭素短繊維の束は解けず、湿式抄紙法で炭素短繊維不織布を製造した場合には、大きな欠点となり、炭素短繊維不織布の均一性を損ねる。また、後工程において、炭素短繊維不織布をスリット加工する際に、スリット刃で再生炭素短繊維の束を切断した場合、再生炭素短繊維の部分が核となって、炭素短繊維不織布に亀裂が入る場合があり、後加工の加工性を著しく損なう場合がある。
【0016】
本発明では、炭素短繊維不織布を製造する場合、再生炭素短繊維を水中で、高速回転せん断型分散機を使って分散したスラリーを用いる。本発明において、「高速回転せん断型分散機」とは、分散刃を有して回転するローターと分散刃を有したステーターとの間に、炭素短繊維を含むスラリーを通過させ、スラリー中の炭素短繊維にせん断力を与えて分散させる分散機である。具体的な装置としては、シングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー、コニカルリファイナー等が挙げられる。
【0017】
さらに、均一に効率良く、再生炭素短繊維の束を分散させたスラリーを得るためには、高速回転せん断型分散機が、高速回転する細かなスリットを持つリング状刃物を構造の一部に有する高速回転せん断分散機であることが有効である。高速回転する細かなスリットを持つリング状刃物を構造の一部に有する高速回転せん断分散機においては、スリット間で発生する流体力学的な衝撃波が、再生炭素短繊維の束に有効に作用する。具体的な装置としては、トップファイナー(相川鉄工製)、VFポンプ(新浜ポンプ製)、マイルダー(太平洋機工製)等が挙げられる。
【0018】
上記分散機を使って、再生炭素短繊維の束を分散させたスラリーを得る際には、スラリー濃度、処理時間、分散機のローターの回転数、ステーターとローターとのクリアランス等を調整することによって、炭素短繊維の分散性を適宜調整することができる。
【0019】
本発明では、再生炭素短繊維とバージンの炭素短繊維とを併用することができる。バージンの炭素短繊維としては、ポリアクリロニトリルを原料とするPAN系炭素短繊維、ピッチ類を原料とするピッチ系炭素短繊維が挙げられる。バージンの炭素短繊維の繊維径は3〜20μmであることが好ましく、5〜15μmであることがより好ましい。また、バージンの炭素短繊維の繊維長は1〜30mmであることが好ましく、3〜12mmであることがより好ましい。
【0020】
本発明の炭素短繊維不織布の製造方法では、炭素短繊維以外の繊維を併用することができる。木材パルプ、再生セルロース繊維、ミクロフィブリル化セルロース繊維、熱可塑性樹脂繊維等を、単独、又は、組み合わせて併用することができる。炭素短繊維:炭素短繊維以外の繊維の含有比率(質量基準)が8.5:1.5〜5:4であることが好ましく、8:2〜6:4であることがより好ましい。
【0021】
熱可塑性樹脂繊維を併用した場合、炭素短繊維が不織布から脱離することを防止し、炭素短繊維不織布に強度を付与することができる。熱可塑性樹脂繊維としては、非結晶性のポリビニルアルコール(ビニロン)短繊維、表面が低融点化されているポリエステル芯鞘繊維、未延伸ポリエステル繊維、ポリカーボネート(PC)繊維、ポリオレフィン繊維、表面が低融点化されているポリオレフィン芯鞘繊維、表面が酸変性ポリオレフィンよりなるポリオレフィン繊維、脂肪族ポリアミド繊維、未延伸ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエーテルケトンケトン繊維等が挙げられる。
【0022】
熱可塑性樹脂繊維の融点は60〜260℃であることが好ましく、60〜230℃であることがより好ましく、60〜180℃であることがさらに好ましく、80〜160℃であることが特に好ましい。熱可塑性樹脂繊維の融点がこの温度範囲であることによって、不織布製造工程における加熱処理によって、結着性が付与され、炭素短繊維不織布に強度が付与される。
【0023】
熱可塑性樹脂繊維の繊維径は3〜40μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。また、熱可塑性樹脂繊維の繊維長は1〜20mmであることが好ましく、3〜12mmであることがより好ましい。
【0024】
本発明における炭素短繊維不織布は、湿式抄紙法で製造された湿式抄紙不織布である。湿式抄紙法では、まず、再生炭素短繊維と、場合によって他の併用する繊維とを均一に水中に混合分散させてスラリーとし、その後、スクリーン(異物、塊等除去)等の工程を経て、最終の繊維濃度が0.01〜0.50質量%に調整されたスラリーを得る。該スラリーが抄紙機で抄き上げられ、湿紙が得られる。繊維の分散性を均一にするために、工程中で分散剤、消泡剤、親水剤、帯電防止剤、高分子粘剤、離型剤、抗菌剤、殺菌剤等の薬品を添加する場合もある。
【0025】
抄紙機としては、例えば、長網、円網、傾斜ワイヤー等の抄紙網を単独で使用した抄紙機、同種又は異種の2以上の抄紙網がオンラインで設置されているコンビネーション抄紙機等を使用することができる。また、炭素短繊維不織布が2層以上の多層構造の場合には、各々の抄紙機で抄き上げた湿紙を積層する抄き合わせ法や、一方の層を形成した後に、該層上に繊維を分散したスラリーを流延して積層とする流延法等で、炭素短繊維不織布を製造することができる。繊維を分散したスラリーを流延する際に、先に形成した層は湿紙状態であっても、乾燥状態であってもいずれでも良い。また、2枚以上の乾燥状態の層を熱融着させて、多層構造の炭素短繊維不織布とすることもできる。
【0026】
本発明において、炭素短繊維不織布が多層構造である場合、各層の繊維配合が同一である多層構造であっても良く、各層の繊維配合が異なっている多層構造であっても良い。多層構造である場合、各層の坪量が下がることにより、スラリーの繊維濃度を下げることができるため、炭素短繊維不織布の地合が良くなり、その結果、炭素短繊維不織布の地合の均一性が向上する。また、各層の地合が不均一であった場合でも、積層することで補填できる。さらに、抄紙速度を上げることができ、操業性が向上するという効果も得られる。
【0027】
湿式抄紙法では、抄紙網で製造された湿紙を、ヤンキードライヤー、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラム式ドライヤー、赤外方式ドライヤー等で乾燥することによって、シート状の湿式抄紙不織布が得られる。湿紙の乾燥の際に、ヤンキードライヤー等の熱ロールに密着させて熱圧乾燥させることによって、密着させた面の平滑性が向上する。熱圧乾燥とは、タッチロール等で熱ロールに湿紙を押しつけて乾燥させることを言う。熱ロールの表面温度は、100〜180℃が好ましく、100〜160℃がより好ましく、110〜160℃がさらに好ましい。圧力は、好ましくは50〜1000N/cmであり、より好ましくは100〜800N/cmである。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。なお、実施例中における部や百分率は断りのない限り、すべて質量によるものである。また、実施例1及び2は参考例である。
【0029】
実施例1〜6及び比較例1
(再生炭素繊維の分散処理)
焼結処理によってCFRPから回収された再生炭素短繊維(5mm幅カット品)を表1記載の条件、装置で分散処理を行い、再生炭素短繊維のスラリーを得た。
【0030】
【表1】
【0031】
表1記載の条件で分散処理してスラリーとした再生炭素短繊維と熱可塑性樹脂繊維(芯鞘ポリエステル繊維、繊維径1.7デニール、繊維長5mm)を固形分基準の質量比で95:5になるように混合し、分散濃度0.2質量%、分散時間5分間で分散した後、90メッシュの金属ワイヤーを有した円網抄紙機で、湿紙を形成し、その後、表面温度140℃のヤンキードライヤーで乾燥し、坪量25g/mの実施例1〜6と比較例1の炭素短繊維不織布を得た。
【0032】
実施例及び比較例で製造した炭素短繊維不織布に対して、以下の評価を行い、結果を表2に示した。
【0033】
(欠点数評価)
25cm×25cmの炭素短繊維不織布を透過光で観察し、サンプル中に存在する未離解繊維(束になった状態の繊維)の数をカウントし、単位平米当たりの欠点数に換算した。
【0034】
(比強度評価)
幅方向15mm×流れ方向240mmの炭素短繊維不織布を採取して、縦強度測定紙片とし、幅方向240mm×流れ方向15mmの炭素短繊維不織布を採取して、横強度測定紙片とした。得られた縦・横強度測定紙片の引張強度を、JIS P8113(1976)に準拠して、引っ張り速度20mm/minで測定した。縦横強度(単位:N/15m)の平均値を坪量で除した値を「比強度」とした。
【0035】
【表2】
【0036】
実施例1及び2と比較例1とを比較することで、再生炭素短繊維を水中で、高速回転せん断型分散機を使って分散したスラリーを用いて、湿式抄紙法によって炭素短繊維不織布を製造することにより、欠点数が少なく、均一性に優れ、比強度が高く、加工性に優れた再生炭素短繊維を含む炭素短繊維不織布を提供することできることがわかる。
【0037】
実施例1及び2と実施例3及び4とを比較することで、高速回転せん断型分散機が、高速回転する細かなスリットを持つリング状刃物を構造の一部に有する分散機であることで、再生炭素短繊維の束をより効率良く、より均一に分散することができる。そして、欠点数がより少なく、均一性により優れ、比強度がより高く、加工性により優れた再生炭素短繊維を含む炭素短繊維不織布を提供することができることがわかる。
【0038】
実施例3及び4と実施例5及び6とを比較することで、高速回転せん断型分散機が、高速回転する細かなスリットを持つリング状刃物を構造の一部に有する分散機であることで、処理濃度が高い場合においても、再生炭素短繊維を分散することができる。そして、欠点数が少なく、均一性に優れ、比強度が高く、加工性に優れた再生炭素短繊維を含む炭素短繊維不織布を提供することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の炭素短繊維不織布の製造方法で得られた炭素短繊維不織布は、電子機器材料、電気機器材料、土木材料、建築材料、自動車材料、航空機材料、各種製造業で使用されるロボット、ロール等の製造部品等に利用可能である。