(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係るワイヤ放電加工機について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0034】
本発明の一実施形態に係るワイヤ放電加工機10は、
図1に示すように、ワイヤ電極12により被加工物Wとの間に放電を生じさせて、被加工物Wを加工する工作機械である。ワイヤ放電加工機10は、被加工物Wを間に挟んで図示しない一対の加工用電極(陽極、陰極)を備え、結線作業により被加工物Wに挿通されたワイヤ電極12に加工用の電力を供給することで、被加工物Wに対して放電を行う。
【0035】
また、ワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12を所定の移動経路Cに沿って搬送する自動結線機構14(搬送装置)を備えている。自動結線機構14は、例えば、ワイヤ電極12の断線や加工箇所の変更、被加工物Wの交換等が生じた場合に、ワイヤ電極12を自動的に通す結線作業を行う。結線作業では、使用していたワイヤ電極12を切断して、切断下流側のワイヤ電極12を回収すると共に、切断上流側のワイヤ電極12を新たに搬送する。この際、切断上流側のワイヤ電極12は、自動結線機構14の各構成を通過すると共に、被加工物Wの孔Whや溝に挿通されることで、移動経路Cに沿うように再び配置(すなわち、自動結線)される。
【0036】
以下、このワイヤ放電加工機10の自動結線機構14について、より詳細に説明していく。なお、本実施形態において「自動結線」との表現は、ワイヤ電極12が移動経路C全体に配置された場合に用いるだけでなく、移動経路C上の自動結線機構14の各構成(後記の分割領域A)をワイヤ電極12がそれぞれ通過した場合にも用いる。
【0037】
自動結線機構14は、上流側から下流側に向かって順に、ワイヤボビン16、複数のローラ18、ブレーキローラ20、上パイプ22、切断電極24、上ワイヤガイド26、固定治具28、下ワイヤガイド30、下パイプ32、フィードローラ34を備える。またワイヤ放電加工機10は、機器全体の動作を制御する制御装置36と、作業者がワイヤ放電加工機10に指示や設定等を行うための入力装置38と、ワイヤ放電加工機10が装置状態、動作内容、エラー等を作業者に提供するための出力装置40とを備える。
【0038】
ワイヤボビン16は、連続する長尺なワイヤ電極12を巻回している。このワイヤボビン16は、自動結線機構14の図示しない回転駆動機構に取り付けられることで、制御装置36の制御下に、移動経路Cの下流側にワイヤ電極12を供給する。ワイヤ放電加工機10に用いられるワイヤ電極12の材料は、例えば、タングステン系、銅合金系、黄銅系等の金属材料があげられる。
【0039】
複数のローラ18は、所定位置に回転自在に設けられることで、例えば、ワイヤ電極12の向きを変える等してワイヤ電極12を搬送する。
【0040】
ブレーキローラ20は、図示しない回転駆動機構により回転し、所定方向に搬送されていたワイヤ電極12を下方向に送り出す。また、ブレーキローラ20は、切断電極24と協働してワイヤ電極12を切断する際に、ワイヤ電極12に張力を付与する(ワイヤ電極12を引き上げる)。さらに、ブレーキローラ20は、ワイヤ電極12を滑りなく移動させる構成となっている。これにより、ワイヤ放電加工機10は、ブレーキローラ20の回転量に基づき、ワイヤ電極12の送出量を精度良く認識することが可能となる。
【0041】
上パイプ22は、ブレーキローラ20の下方位置に設けられ、その内部にはワイヤ電極12を通す挿通孔22aが貫通形成されている。上パイプ22は、ワイヤ電極12を挿通孔22aに通すことで、このワイヤ電極12を下方向(重力方向)に沿って直線状に案内する。また、上パイプ22は、図示しない冷却媒体供給装置を上部に備え、冷却媒体(例えば、冷却エア)を挿通孔22aに供給することで、切断電極24と協働してワイヤ電極12を切断する。
【0042】
切断電極24は、上パイプ22の上方に設けられた上電極24aと、上パイプ22の下方に設けられた下電極24bとで構成されている。例えば、上電極24a及び下電極24bは、ワイヤ電極12の搬送時に開状態を呈し、制御装置36の制御下に同時に閉状態となることでワイヤ電極12を狭持するグリッパとして構成されている。そして、上電極24a及び下電極24bは、ワイヤ電極12を狭持して、その間に電流を流すことでワイヤ電極12をジュール熱で加熱する。
【0043】
加熱の際に、冷却媒体供給装置が上パイプ22の挿通孔22aに冷却エアを流すと、冷却エアによってパイプ上部側のワイヤ電極12が冷却され、パイプ下部側のワイヤ電極12の温度が上部側に比べて高くなる。すなわち、ワイヤ電極12は、冷却エアの吹き出し口から最も遠い下電極24b付近の温度が最も高くなり、ブレーキローラ20が切断上流のワイヤ電極12を引き上げると、常に下電極24b付近で切断される。
【0044】
図1及び
図2に示すように、上ワイヤガイド26は、切断電極24(下電極24b)の下方且つ被加工物Wの上方に設けられ、ワイヤ電極12の搬送及び支持を行うと共に、被加工物Wに加工液を噴出する機能を有している。この上ワイヤガイド26は、上ガイドブロック42と、上ダイスガイド44と、上ノズル46とを含む。
【0045】
上ガイドブロック42は、上ブロック孔42aを内部に有し、被加工物Wに向かうワイヤ電極12をガイドする。また、上ガイドブロック42は、ワイヤ電極12の結線作業において上ブロック孔42aや上ダイスガイド44に対し案内用流体を供給する図示しない流体供給部を備えていてもよい。この案内用流体により、ワイヤ電極12は下方向に向かって直線状に移動するように促される。
【0046】
上ダイスガイド44は、上ガイドブロック42の下部に取り付けられ、被加工物Wの上方で被加工物Wに送り出すワイヤ電極12の位置決めを行う。この上ダイスガイド44の内部には、上ブロック孔42aに連通して、上下方向に延びる上ダイス孔44aが形成されている。上ダイス孔44aは、ワイヤ電極12の外径に対して僅かに大きい直径に設計されている。そのためワイヤ電極12が上ダイス孔44aを貫通すると、被加工物Wに対するワイヤ電極12の相対位置を規定することができる。
【0047】
上ノズル46は、側面断面視で、下方に向かって先細りとなるテーパ状に形成され、上ガイドブロック42の下部で上ダイスガイド44を囲うように取り付けられる。上ノズル46は、上ダイスガイド44の下方位置に上ノズル孔46aを有し、図示しない加工液供給装置から供給された加工液を被加工物Wに噴出する。この上ノズル孔46aは、上ダイス孔44aよりも大径に形成されており、ワイヤ電極12を送出し、また加工液供給装置の供給タイミングに応じて加工液を吐出する。
【0048】
固定治具28は、被加工物Wを位置決め固定する。そして被加工物Wの放電加工では、図示しない変位機構により、ワイヤ電極12と被加工物Wの相対位置を変化させる。例えば、ワイヤ電極12を固定して被加工物WをXY平面上で移動させる、或いは、被加工物Wを固定してワイヤ電極12をXY平面上で移動させる、また或いは、ワイヤ電極12をXY平面上の一方向に移動させ、被加工物Wを一方向と直交する他方向に移動させる。
【0049】
固定治具28に固定される被加工物Wは、種々の形状体を適用することができる。被加工物Wに放電加工を行う際には、予め形成された孔Whや溝にワイヤ電極12を配置する、又はワイヤ電極12を被加工物Wの外側から切り込むことで、ワイヤ電極12を加工予定箇所に導く。予め形成された孔Whや溝とは、例えば、放電加工前に他の工程で形成されたもの、又はワイヤ電極12の放電加工により形成されたもの等である。また、被加工物Wの材料としては、例えば、鉄系材料又は超硬材料等の金属材料があげられる。
【0050】
下ワイヤガイド30は、固定治具28の下方に設けられ、上ワイヤガイド26と同様に、ワイヤ電極12の搬送及び支持を行うと共に、被加工物Wに加工液を噴出する機能を有している。下ワイヤガイド30は、下ガイドブロック48と、下ダイスガイド50と、下ノズル52と、下ガイドローラ54とを含む。
【0051】
下ガイドブロック48は、上下方向と水平方向に延びるL字状に形成されている。また、下ガイドブロック48の内部には、被加工物Wの孔Wh又は溝を通ったワイヤ電極12をフィードローラ34に向かうようにガイドする下ブロック孔49が設けられている。下ブロック孔49は、下ガイドブロック48の上端(L字状の一端)から下方向に延びる上流側下ブロック孔49aと、下ガイドローラ54が設けられ上流側下ブロック孔49aから湾曲する湾曲下ブロック孔49bと、湾曲下ブロック孔49bから水平方向に延びL字状の他端に至る下流側下ブロック孔49cとで構成される。
【0052】
下ダイスガイド50は、被加工物Wの下方で、被加工物Wを通過したワイヤ電極12の位置決めを行う。すなわち、ワイヤ電極12は、上ダイスガイド44と下ダイスガイド50とにより支持される。下ダイスガイド50の内部には、下ブロック孔49に連通して、上下方向に延びる下ダイス孔50aが形成されている。下ダイス孔50aは、ワイヤ電極12の外径に対して僅かに大きい直径に設計されており、ワイヤ電極12が貫通すると、被加工物Wに対するワイヤ電極12の相対位置を規定する。
【0053】
下ノズル52は、側面断面視で、上方に向かって先細りとなるテーパ状に形成され、下ガイドブロック48の上部で下ダイスガイド50を囲うように取り付けられる。この下ノズル52は、下ダイスガイド50の上方位置に下ノズル孔52aを有し、図示しない加工液供給装置から供給された加工液を上方の被加工物Wに噴出する。
【0054】
下ガイドローラ54は、L字状の下ガイドブロック48内の屈曲部分に回転自在に設けられる。この下ガイドローラ54は、下ガイドローラ54の上流側で下方向に搬送されるワイヤ電極12を、下ガイドローラ54の下流側で水平方向に向かわせる。
【0055】
下パイプ32は、下ガイドブロック48の側方に連結固定され、その内部にはワイヤ電極12を通す挿通孔32aが貫通形成されている。下パイプ32は、下ガイドブロック48とフィードローラ34をつなぎ、またワイヤ電極12を水平方向に直線状に案内する。
【0056】
フィードローラ34は、下パイプ32の側方において上下一対で設けられる。一対のフィードローラ34は、使用済のワイヤ電極12を挟み込んで進行方向に引っ張る。フィードローラ34によって引っ張られたワイヤ電極12は、図示しないバケットに回収される。一対のフィードローラ34は、自動結線機構14の図示しない回転駆動機構に取り付けられ、制御装置36の制御下に回転することでワイヤ電極12を適度な速度で引き込む。
【0057】
また、自動結線機構14は、ブレーキローラ20の回転量や回転速度を検出して回転信号Se(パルス信号等)を出力するエンコーダ57を備える。制御装置36は、このエンコーダ57の回転信号Seを受信して、ワイヤボビン16の回転速度をフィードバック制御する。そして、制御装置36は、エンコーダ57を自動結線の判定時の位置検出部として機能させており、ワイヤ電極12の送出量を算出して、切断上流側のワイヤ電極12の先端位置を認識する。なお、自動結線機構14は、ワイヤボビン16にも回転量や回転速度を検出するエンコーダを備え、先端位置の認識に利用してもよい。
【0058】
さらに、自動結線機構14は、切断上流側のワイヤ電極12に撓みが生じているか否かを検出する撓みセンサ58(失敗検出部)を備えている。撓みセンサ58は、例えば、リング状の接触センサを適用可能であり、ブレーキローラ20と切断電極24(上電極24a)の間に設けられ、リング内にワイヤ電極12を挿通している。この撓みセンサ58は、結線作業時に、ワイヤ電極12が自動結線機構14の構成等への引っ掛かりにより撓んで撓みセンサ58の内側に接触すると、撓み検出信号Sfを出力する。これにより、制御装置36がワイヤ電極12の自動結線の失敗を認識することができる。なお、自動結線の失敗検出方法は、種々の方法があげられ、例えば、ワイヤ電極12の撓みを光学的に検出する方法等を採ってもよい。
【0059】
また、ワイヤ放電加工機10の入力装置38としては、物理操作ボタン、キーボードやマウス等の作業者が操作可能な周知の構成があげられ、出力装置40としては、モニタ、スピーカ、報知灯等の作業者が認識可能な周知の構成があげられる。入力装置38及び出力装置40は、タッチパネル等のように一体化した装置でもよい。
【0060】
一方、制御装置36は、図示しない入出力インターフェース、プロセッサ、メモリM(記憶媒体:
図3参照)を有する周知のコンピュータを適用することができる。この制御装置36は、図示しない制御プログラムをメモリMに備え、プロセッサが制御プログラムを読み出し実行することで、ワイヤ放電加工機10の作業全体を管理及び制御する。特に、制御装置36は、結線作業において、自動結線が失敗しても複数回試行するようにプログラミングされている。
【0061】
ここで、ワイヤ電極12の結線作業においては、上述した自動結線機構14の各構成や被加工物Wの孔Whを通過せずにワイヤ電極12が引っ掛かって撓むことで、自動結線が失敗することになる。制御装置36は、自動結線の失敗を検出すると、ワイヤ電極12を上流側に若干戻した後、ワイヤ電極12を再進出させることで自動結線を再試行する。さらに、制御装置36は、自動結線の失敗回数をカウントし、この失敗回数が上限値を超えるまで自動結線の試行を繰り返す。
【0062】
そして、本実施形態に係る制御装置36は、
図2に示すように、結線作業時に、ワイヤ電極12の移動経路Cを複数の領域(分割領域A)に分割して、ワイヤ電極12の自動結線の成功又は失敗を分割領域A毎に監視する構成となっている。これにより、分割領域A毎にワイヤ電極12の自動結線の失敗を認識することが可能となる。
【0063】
例えば、移動経路Cは10個の分割領域Aに区分される。以下、移動経路Cの上流側から下流側に向かって順に第1〜第10分割領域A1〜A10ともいう。なお、移動経路Cの分割数や分割領域Aの範囲は、後述するように作業者が任意に設計可能な構成である他に、出荷時等に予め設定され変更不能であってもよい。
【0064】
例えば、第1分割領域A1は、切断電極24から上ワイヤガイド26までの範囲であり、第2分割領域A2は、上ワイヤガイド26の設置範囲であり、第3分割領域A3は、上ワイヤガイド26から下ワイヤガイド30までの範囲(被加工物Wが待機している範囲)であり、第4分割領域A4は、下ワイヤガイド30の下ダイスガイド50及び下ノズル52の設置範囲であり、第5分割領域A5は、下ガイドブロック48の上流側下ブロック孔49aの形成範囲であり、第6分割領域A6は、下ガイドブロック48内の下ガイドローラ54が存在する湾曲下ブロック孔49bの範囲であり、第7分割領域A7は、下ガイドブロック48の下流側下ブロック孔49cの形成範囲であり、第8分割領域A8は、下パイプ32の挿通孔32aの上流端から軸方向中間部までの範囲であり、第9分割領域A9は、下パイプ32の挿通孔32aの軸方向中間部から下流端までの範囲であり、第10分割領域A10は、フィードローラ34の設置範囲である。
【0065】
制御装置36は、プロセッサによる制御プログラムの実行に伴い、上記の第1〜第10分割領域A1〜A10毎の自動結線の失敗を評価する機能ブロックを構築する。具体的には、自動結線の失敗を認識する認識部60と、失敗評価参照データD1を設定してメモリMに保存する設定部70と、認識部60からの失敗情報と失敗評価参照データD1とに基づきワイヤ電極12の自動結線全体が正常か否かを判定する判定処理部80とを有する。また、制御装置36は、自動結線機構14の各駆動機構を制御する駆動制御部90を備える。
【0066】
認識部60は、ワイヤ電極12の自動結線の失敗を検出すると共に、その失敗位置を検出する。そのため、認識部60は、失敗検出部61、ワイヤ位置管理部62及び失敗情報生成部63を備える。
【0067】
失敗検出部61は、撓みセンサ58からの撓み検出信号Sfを受信して、例えば、撓み検出信号Sfがある程度の期間、所定の閾値を超えると、ワイヤ電極12の自動結線の失敗を検出する。
【0068】
ワイヤ位置管理部62は、切断電極24によるワイヤ電極12の切断タイミングを受信して、切断上流側のワイヤ電極12の先端を認識する。そして、エンコーダ57の回転信号Seを定常的に受信して、ワイヤ電極12の送出量を算出することで、ワイヤ電極12の移動経路C上の先端位置を特定する。
【0069】
失敗情報生成部63は、失敗検出部61からの検出結果及びワイヤ位置管理部62のワイヤ電極12の先端の位置を受信して失敗情報Ffを生成する。失敗情報Ffは、自動結線が失敗である旨の情報と、ワイヤ電極12の先端位置の情報とを含んでいる。すなわちワイヤ電極12の先端がどの位置で引っ掛かったか(失敗したか)が特定されている。失敗情報生成部63は、失敗情報Ffを生成すると、判定処理部80及び駆動制御部90に出力する。これにより駆動制御部90は、失敗情報の受信に伴いワイヤボビン16やブレーキローラ20の回転を停止し、ワイヤ電極12の送出を止める。
【0070】
設定部70は、ワイヤ電極12の自動結線の試行時における失敗評価参照データD1を設定する機能部である。この設定部70は、分割領域設定部71、試行上限設定部72(失敗上限設定部)、難易度設定部73及びデータ生成部74を備えている。
【0071】
分割領域設定部71は、ワイヤ電極12の移動経路Cにおける分割領域Aの数及び範囲を作業者に設定させる。例えば、分割領域設定部71は、出力装置40のモニタに分割領域Aを設定させる入力画面を表示して、作業者が入力装置38により入力した情報を、分割領域情報AfとしてメモリMの記憶領域Adに記憶する。
【0072】
試行上限設定部72は、分割領域設定部71と同様に、入力画面を表示等して自動結線の失敗回数の上限値を作業者に設定させて、その上限値情報UfをメモリMの記憶領域Udに記憶する。本実施形態における「上限値」とは、自動結線機構14が自動結線を試行した際の全体の失敗回数のリミットであり、例えば値として20が設定される。なお、失敗回数の上限値は機器に応じて予め設定されていてもよい。
【0073】
難易度設定部73は、分割領域設定部71により設定された第1〜第10分割領域A1〜A10のそれぞれに、自動結線の難易度を設定させる。既述したように、移動経路Cには、自動結線の難易度が低い箇所と、自動結線の難易度が高い箇所とが存在する。そのため、本実施形態では、複数の分割領域A毎に難易度を設定することで、分割領域A毎の難易度に応じて自動結線の失敗評価を行う構成となっている。
【0074】
この「難易度」は、例えば、難易度が低い1から難易度が高い10までの10段階の数値で設定される。そして、本実施形態では、難易度設定部73により設定された難易度を、実際の失敗回数を除すための数値として用いている。この難易度を使用した失敗評価については後に詳述する。
【0075】
一例としては、
図2及び
図4Aに示すように、第1分割領域A1は、ワイヤ電極12の移動を阻害する構成が無いので難易度=1を設定する。第2分割領域A2は、ワイヤ電極12が上ワイヤガイド26内を通過するため比較的引っ掛かり易いと言え、難易度=5を設定する。第3分割領域A3は、ワイヤ電極12が被加工物Wの孔Whを通過するため最も引っ掛かり易いと言え、難易度=8を設定する。第4分割領域A4は、ワイヤ電極12が下ノズル52、下ダイスガイド50を通過するため比較的引っ掛かり易いと言え、難易度=6を設定する。第5分割領域A5は、下ガイドブロック48の上流側下ブロック孔49aを通過するため多少引っ掛かる可能性があると言え、難易度=3を設定する。同様に、第6分割領域A6は、湾曲下ブロック孔49bを通過し、第7分割領域A7は下流側下ブロック孔49cを通過するため多少引っ掛かる可能性があると言え、それぞれ難易度=3を設定する。第8分割領域A8及び第9分割領域A9は、下パイプ32の挿通孔32a内を通過するだけなので、引っ掛かる可能性が殆ど無いと言え、難易度=1を設定する。第10分割領域A10も、下パイプ32から送出されたワイヤ電極12をフィードローラ34がそのまま直線状に引っ張り出すだけなので、難易度=1を設定する。
【0076】
一方、データ生成部74は、各設定部で設定された分割領域A、失敗回数の上限値、分割領域A毎の難易度を、判定処理部80が参照し易いように紐づけた失敗評価参照データD1に生成してメモリMの記憶領域Ddに記憶する。失敗評価参照データD1は、例えば、
図4Aに示すように、第1〜第10分割領域A1〜A10と各難易度を対応させたマップとして生成されるとよい。
【0077】
判定処理部80は、メモリMに記憶された分割領域情報Af、上限値情報Uf、失敗評価参照データD1と、認識部60から送信される失敗情報Ffとに基づきワイヤ電極12の自動結線の失敗時の処理を行う。この判定処理部80は、失敗回数算出部81、試行結果判定部82及び報知処理部83を備えている。
【0078】
失敗回数算出部81は、分割領域情報Afに基づき分割領域A、及び失敗情報Ffに含まれるワイヤ電極12の先端の失敗位置を識別する。そして、どの分割領域Aで自動結線が失敗したか否かを判断して、失敗を判断した分割領域Aの失敗回数をカウントし、そのカウント情報Cfを試行結果判定部82に送信する。また失敗回数算出部81は、分割領域A毎のカウント結果をメモリMに記憶して、次の失敗情報Ffの送信時にカウント結果を用いる。
【0079】
試行結果判定部82は、失敗回数算出部81のカウント情報Cfに基づき、ワイヤ電極12の自動結線の正否を判定する。具体的には、失敗評価参照データD1とカウント情報Cfを用いて、分割領域A毎に設定されている難易度で実際の失敗回数を除算する、つまり失敗評価値Ev=(カウント情報Cf)/(難易度D)の式により、失敗評価値Evを算出する。
【0080】
その後、試行結果判定部82は、分割領域A毎の失敗評価値Evを合算し、その合計の失敗評価値Evと、失敗回数の上限値(上限値情報Uf)とを比較する。そして、失敗評価値Evが上限値情報Uf以下であれば、自動結線の再試行を判定し、逆に失敗評価値Evが上限値情報Ufを上回っていれば、自動結線の試行停止を判定する。
【0081】
報知処理部83は、試行結果判定部82による自動結線の試行停止が判定された場合に、作業員に知らせるべき報知内容Alを生成して、出力装置40を動作させて報知(モニタの表示、スピーカから警告、報知灯の点灯等)を適宜行う。
【0082】
また、判定処理部80は、試行結果判定部82による自動結線の試行停止が判定された場合に、駆動制御部90にも判定結果を通知して、駆動制御部90に試行停止時の動作を行うように指示する。例えば、駆動制御部90は、試行停止において、切断上流側のワイヤ電極12を巻き戻して、自動結線機構14の各構成を駆動停止させる、又はワイヤ電極12の先端を切断電極24により切断する等の動作を実施する。すなわち「自動結線の試行停止」とは、これまで移動経路Cを通過させようとしたワイヤ電極12の結線作業を停止することである。
【0083】
その一方で、駆動制御部90は、自動結線の再試行の判定がなされた場合、ワイヤボビン16及びブレーキローラ20を再回転させて、自動結線の失敗により上流側に一旦引き上げていたワイヤ電極12を、下流側に再度繰り出す動作を行う。すなわち「自動結線の再試行」とは、これまで移動経路Cを通過させようとしたワイヤ電極12の結線作業を継続することである。
【0084】
本実施形態に係るワイヤ放電加工機10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下その作用効果について説明する。
【0085】
ワイヤ放電加工機10の自動結線機構14は、ワイヤ電極12の断線や加工箇所の変更、被加工物Wの交換等が生じた場合に、制御装置36の制御下に結線作業を実施する。結線作業において、自動結線機構14は、切断電極24によりワイヤ電極12の切断を行う。これにより切断上流側のワイヤ電極12の先端が下電極24bの上方且つ近傍位置に位置するようになる。
【0086】
次に、自動結線機構14は、フィードローラ34を回転させて、切断下流側のワイヤ電極12を回収する。また、自動結線機構14は、ワイヤボビン16やブレーキローラ20を回転させて、切断上流側のワイヤ電極12の先端を切断電極24よりも下流側の移動経路Cに向けて移動させる。これにより、ワイヤ電極12は、上ガイドブロック42の上ブロック孔42aに進入し、上ダイスガイド44の上ダイス孔44a、上ノズル46の上ノズル孔46a、被加工物Wの孔Wh、下ノズル52の下ノズル孔52a、下ダイスガイド50の下ダイス孔50a、下ガイドブロック48の下ブロック孔49、下パイプ32の挿通孔32a、一対のフィードローラ34の間を順に通過する。この際、認識部60のワイヤ位置管理部62は、エンコーダ57の回転信号Seに基づき、移動経路C上におけるワイヤ電極12の先端位置を認識している。
【0087】
そして、制御装置36は、移動中に、ある分割領域Aにおいてワイヤ電極12が引っ掛かった場合に、撓みセンサ58によりワイヤ電極12の撓みを検出する。制御装置36の失敗検出部61は、撓みセンサ58から撓み検出信号Sfを受信し、この信号が要件を満たすと自動結線の失敗を検出する。自動結線の失敗の検出と、ワイヤ位置管理部62からのワイヤ電極12の先端位置とに基づき、失敗情報生成部63は、失敗情報Ffを生成して判定処理部80に送信する。
【0088】
判定処理部80の失敗回数算出部81は、失敗情報Ffを受けると、失敗情報Ffに含まれるワイヤ電極12の先端位置を、分割領域情報Afに当てはめて、失敗が生じた分割領域Aの失敗回数をカウントし、そのカウント情報Cfを試行結果判定部82に送る。
【0089】
試行結果判定部82は、このカウント情報Cfと、メモリMに記憶されている失敗評価参照データD1とにより失敗評価値Evを算出する。例えば、第1分割領域A1は問題なく通過し、第2分割領域A2において6回の自動結線の失敗が検出された場合は、
図4Cに示すように、第2分割領域A2の難易度5を除算して6/5=1.2の失敗評価値Evを得る。同様に、第3分割領域A3において12回の自動結線の失敗が検出された場合は、12/8=1.5の失敗評価値Evを得る。第4分割領域A4において3回の自動結線の失敗が検出された場合は、3/6=0.5の失敗評価値Evを得る。よって、第4分割領域A4までの失敗評価値Evの合計は、3.2となり充分に低くなる。
【0090】
ここで、従来のワイヤ放電加工機は、分割領域Aの難易度に関係なく、移動経路Cに生じた自動結線の失敗を単純にカウントしていくだけだったので、
図4Bに示すように、第4分割領域A4までの失敗回数を合計すると21回に達してしまう。そのため、失敗回数の上限値が20だとすると、従来は、第4分割領域A4まで進んだワイヤ電極12を巻き戻して、自動結線機構14の動作を停止していた。
【0091】
これに対し、本実施形態のワイヤ放電加工機10は、上記のように分割領域A毎の難易度を考慮して失敗評価値Evを算出している。そして、失敗評価値Evの合計値と、ワイヤ電極12の上限値情報Ufとを比較して、自動結線の再試行又は試行停止を判定する。そのため、難易度が高い分割領域Aで多数の試行を行っても失敗評価値Evが下がり、難易度が高い領域を通過した後に自動結線を失敗しても、ワイヤ電極12の結線作業の試行停止を行うことが抑制される。
【0092】
以上のように、本実施形態に係るワイヤ放電加工機10は、ワイヤ電極12の移動経路Cを複数の分割領域Aに分割することで、分割領域A毎にワイヤ電極12の自動結線の状態を監視することができる。すなわち、自動結線を失敗した際に、判定処理部80は、分割領域Aの失敗評価参照データD1を参照することにより、難易度が高い分割領域Aに関しては、失敗回数の増加を許容することができる。これにより自動結線機構14は、難易度の高い分割領域Aを複数回の試行により通過した後に、難易度の低い分割領域Aで失敗しても、自動結線を継続することができる。その結果、ワイヤ放電加工機10は、結線の成功率及び加工全体の作業効率の向上を図ることが可能となる。
【0093】
この場合、失敗評価参照データD1は、ワイヤ電極12が通過し難い分割領域Aほど、自動結線の失敗回数の増加を許容する、すなわち難易度を高めることで、判定処理部80による判定時に、難易度の高い分割領域Aの再試行の回数を多くすることができる。これにより自動結線が一層成功し易くなる。また、判定処理部80は、判定時に分割領域A毎の自動結線の失敗回数をカウントすることで、この失敗回数に応じて、より適切な判定を行うことができる。さらに、失敗評価参照データD1に関わる情報として、失敗上限値Uf(上限値情報)、分割領域A及び難易度を作業者により設定させることで、実際の自動結線機構14におけるワイヤ電極12の通り難さ等に応じて、分割領域Aの状態をより詳細に設定することができる。これによりワイヤ放電加工機10の使用性を高めることができる。
【0094】
またさらに、判定処理部80が分割領域A毎の難易度に基づき失敗評価値Evを算出することで、この失敗評価値Evは、難易度の情報を含むことになる。これにより判定処理部80は、自動結線の再試行又は試行停止をより良好に判定することができる。この際、判定処理部80が、失敗回数に対し難易度を除算することで、難易度が高い分割領域Aほど失敗評価値Evを下げることができる。これにより、自動結線の難易度が高い分割領域Aで失敗を繰り返しても、自動結線を継続することができ、結線の成功率を高めることが可能となる。
【0095】
なお、ワイヤ放電加工機10は、上述した構成に限定されるものではなく、種々の変形例を採ることができる。例えば、試行結果判定部82は、カウント情報Cfに対して失敗評価参照データD1を参照した難易度をそのまま除すだけなく、種々の計算方法を採用してよい。具体例としては、失敗評価値Ev=(カウント情報Cf)/(難易度)に所定の定数Xをかけることで、難易度により除す値を最大1/2程度に制限することができる。例えば、難易度が10段階であれば、定数Xとして5を乗じればよく、上述の失敗回数の例では、第2分割領域A2の失敗評価値Evが6/5×5=6、第3分割領域A3の失敗評価値Evが12/8×5=7.5、第4分割領域A4の失敗評価値Evが3/6×5=2.5となり、失敗評価値Evの合計が16となる。
【0096】
また、難易度を1未満の値に設定可能とすることで、実際の失敗回数<新しい失敗回数となり、本来失敗しないような箇所での失敗が発生した場合に、速やかに試行の上限値に到達する。これにより、ワイヤ放電加工機10のメンテナンスやワイヤ電極12の切断のやり直し等の次の工程に早期に移行することができる。従って、ワイヤ放電加工機10全体としての作業効率が向上する。
【0097】
さらに、ワイヤ放電加工機10の駆動制御部90は、分割領域A毎の難易度に応じて、ワイヤ電極12の移動制御を調整してもよい。例えば、難易度が高い分割領域Aでは、ワイヤ電極12の移動速度を遅くする等の制御を行うことで、結線の成功率向上を期待することができる。
【0098】
以下、ワイヤ放電加工機10の他の変形例について説明していく。なお、以降の説明において、上述したワイヤ放電加工機10と同一の構成又は同一の機能を有する構成には、同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0099】
〔第1変形例〕
第1変形例に係る制御装置36Aは、
図3及び
図5Aに示すように、失敗評価参照データD2として、移動経路C上に設定した分割領域A毎に、自動結線の失敗回数の上限値である分割領域上限値Uvを紐づけている点で、上述の制御装置36と異なる。このため、制御装置36Aの設定部70には、分割領域A毎の分割領域上限値Uvを設定可能な分割領域上限設定部75が設けられている。
【0100】
この場合、分割領域上限設定部75は、入力画面を表示等して分割領域A毎の分割領域上限値Uvを作業者に設定させて、失敗評価参照データD2を生成してメモリMの記憶領域Ddに記憶する。失敗評価参照データD2は、例えば、
図5Aに示すように、第1〜第10分割領域A1〜A10と分割領域上限値Uvとを対応させたマップとして生成されるとよい。
【0101】
ここで、分割領域上限値Uvは、分割領域A毎の自動結線の難易度に対応した値をとり得る。よって、難易度が低ければ分割領域上限値Uvを低くし、難易度が高ければ分割領域上限値Uvを高くするとよい。例えば、
図5Aに示す失敗評価参照データD2では、第1分割領域A1の分割領域上限値Uvが1、第2分割領域A2の分割領域上限値Uvが10、第3分割領域A3の分割領域上限値Uvが15、第4分割領域A4の分割領域上限値Uvが10、第5分割領域A5〜第7分割領域A7の分割領域上限値Uvが2、第8分割領域A8〜第10分割領域A10の分割領域上限値Uvが1に設定される。
【0102】
一方、試行結果判定部82は、失敗回数算出部81のカウント情報Cfと失敗評価参照データD2とを比較し、分割領域A毎の分割領域上限値Uvに対し、実際の失敗回数が超えたか否かを判定する。そして、分割領域A毎の失敗回数が、分割領域上限値Uv以下であれば、自動結線を再試行する判定をし、逆に失敗回数が分割領域A毎で分割領域上限値Uvを上回ると、自動結線の試行停止を判定する。
図5Bに示すように、判定処理部80は、実際の失敗回数が分割領域上限値Uvを下回っている場合に、失敗フラグを立ち下げたまま(0のまま)とし、分割領域上限値Uvを以上になった場合に、失敗フラグを立ち上げる(1にする)とよい。
【0103】
また、試行結果判定部82は、分割領域A毎の失敗回数を、その分割領域Aのみに適用するものとし、分割領域Aを通過した後は考慮しないものとする。例えば試行結果判定部82は、第2分割領域A2での実際の失敗回数が6回であった場合、第2分割領域A2の分割領域上限値Uv=10と比較して下回っていることから自動結線の継続を判定する。そして、次の第3分割領域A3では、他の分割領域Aの分割領域上限値Uvに関係なく、第3分割領域A3の分割領域上限値Uv=15と実際の失敗回数とを比較するようにする。
【0104】
このように第1変形例に係る制御装置36Aは、各分割領域Aに対して自動結線の分割領域上限値Uvを個別に設けることにより、失敗回数が多い箇所と少ない箇所に分けて、自動結線の継続又は停止を判断することができる。従って、自動結線の再試行又は試行停止を良好に判定することができ、結果として、結線作業の効率化や結線の成功率の向上を図ることが可能になる。
【0105】
なお、第1変形例に係る制御装置36Aにおいても、本来失敗しないような箇所での分割領域上限値Uvを小さくしておくことで、失敗が発生した場合に速やかに分割領域上限値Uvに到達する。これにより、ワイヤ放電加工機10のメンテナンスやワイヤ電極12の切断のやり直し等の次の工程に早期に移行することができる。
【0106】
また、制御装置36Aの分割領域上限設定部75は、難易度設定部73により作業者が入力した難易度から分割領域上限値Uvを導き出す構成としてもよい。例えば、分割領域上限設定部75は、難易度設定部73がメモリMに記憶した難易度を読み出し、難易度の割合から分割領域上限値Uvを自動的に算出する構成を採ることができる。これにより、ワイヤ放電加工機10は、作業者が難易度を直感的に設定することに基づき、分割領域上限値Uvを簡単に設定することができ、第1変形例に係る処理を簡単に実施することができる。
【0107】
〔第2変形例〕
第2変形例に係る制御装置36Bは、
図3及び
図6Aに示すように、失敗評価参照データD3として、ワイヤ電極12の移動経路C上に設定した分割領域A毎に、自動結線の失敗回数の加算値Avを紐づけている点で、上述の制御装置36、36Aと異なる。このため、制御装置36Bの設定部70には、分割領域A毎の加算値Avを設定可能な加算値設定部76が設けられている。
【0108】
この場合、加算値設定部76は、入力画面を表示等して分割領域A毎の失敗回数の加算値Avを作業者に設定させて、失敗評価参照データD3を生成してメモリMの記憶領域Ddに記憶する。失敗評価参照データD3は、例えば、
図6Aに示すように、第1〜第10分割領域A1〜A10と加算値Avとを対応させたマップとして生成されるとよい。
【0109】
ここで、加算値Avとは、ワイヤ電極12の移動経路C全体の上限値情報Uf(例えば20)に対し、分割領域A毎の自動結線の難易度に応じた値を追加するものである。例えば、
図6Aに示す失敗評価参照データD3では、第1分割領域A1の加算値Avが0、第2分割領域A2の加算値Avが2、第3分割領域A3の加算値Avが3、第4分割領域A4の加算値Avが2、第5分割領域A5〜第7分割領域A7の加算値Avが1、第8分割領域A8〜第10分割領域A10の加算値Avが0に設定される。従って、ワイヤ電極12の失敗上限値Uf(上限値情報)と、各分割領域Aの加算値Avを合算すると、難易度の分だけ失敗回数が大きくなる。なお図示例では、加算値Avの合計値が10であり、失敗上限値Ufが20であるため、全体の上限合計値は30となる。
【0110】
一方、試行結果判定部82は、失敗回数算出部81のカウント情報Cfと失敗評価参照データD3とを比較する。この際、試行結果判定部82は、分割領域A順に実際の失敗回数を累積していった累積失敗回数を算出し、さらに分割領域A順に加算値Avを累積して失敗上限値Ufを加えた累積上限値を算出する。そして、累積失敗回数が累積上限値を超えたか否かを、ワイヤ電極12が移動する分割領域Aの順番に沿って判定する。この際、累積失敗回数が累積上限値以下であれば、自動結線の再試行を判定し、逆に累積失敗回数が累積上限値を上回ると、自動結線の試行停止を判定する。
【0111】
例えば、
図6Bに示すように、第4分割領域A4で累積失敗回数が21となることで、従来であれば失敗回数の上限値に達する(
図4Bも参照)。しかしながら、本変形例に係る制御装置36Bは、第4分割領域A4を通過した時点で第1〜第4分割領域A1〜A4の加算値Avの合計値7の加算があるため、累積上限値が27となっている。そのため、第5分割領域A5以降で、自動結線が失敗してもすぐに累積上限値に達することがなく、結線作業を継続することができる。
【0112】
このように第2変形例に係る制御装置36Bは、各分割領域Aに対し加算値Avを個別に設定することでも、自動結線が難しい分割領域Aで多く失敗した場合に結線を継続させることができる。従って、自動結線の再試行又は試行停止を良好に判定することができ、その結果、結線作業の効率化や結線の成功率の向上を図ることが可能になる。
【0113】
なお、第2変形例に係る制御装置36Bにおいても、加算値Avをマイナスの値に設定可能にすることで、本来失敗しないような箇所での失敗が発生した場合は試行上限値を減らすように動作させることができる。これにより、速やかに試行上限値に到達するため、ワイヤ放電加工機10のメンテナンスやワイヤ電極12の切断のやり直し等の次の工程に早期に移行することができる。
【0114】
また、制御装置36Bの加算値設定部76も、第1変形例と同様に、難易度設定部73により作業者が入力した難易度から加算値Avを導き出す構成としてもよい。例えば、加算値設定部76は、難易度設定部73がメモリMに記憶した難易度を読み出し、難易度の割合から加算値Avを自動的に算出する構成を採ることができる。これにより、ワイヤ放電加工機10は、作業者が難易度を直感的に設定することに基づき、加算値Avを簡単に設定することができ、第2変形例に係る処理を簡単に実施することができる。
【0115】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能なことは言うまでもない。