(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
合口を備えた割りリング形状に形成され、円環状のスペーサエキスパンダーに組み合わされて該スペーサエキスパンダーとともに内燃機関用の組合せオイルリングを構成するサイドレールであって、
径方向外側を向き、軸方向に平行な円筒面形状の外周面と、
径方向内側を向く内周面と、
軸方向の一方側を向く第1の軸方向側面と、
軸方向の他方側を向くとともに前記第1の軸方向側面と平行な第2の軸方向側面と、
前記外周面と前記第2の軸方向側面との間に設けられている面取り部と、を有し、
前記外周面が、前記第2の軸方向側面との間に面取り部を有し、
前記面取り部が、前記第1の軸方向側面から前記第2の軸方向側面に向けて軸方向に0.05mm以上離れた前記外周面上の位置を起点として前記第2の軸方向側面の側に向けて徐々に縮径するテーパ面により形成され、
前記テーパ面が、軸方向に対してなす角度が10°以上である、円錐面形状又は周方向に垂直な断面形状が曲面状に形成されている第1のテーパ面部と、該第1のテーパ面部と前記外周面との間に設けられ、前記第1のテーパ面部よりも軸方向に対する傾斜角度が小さい、円錐面形状に形成されている第2のテーパ面部と、を有し、
前記第1のテーパ面部は、前記第2の軸方向側面が位置する側の端部で、前記第2の軸方向側面と連続し、
前記第2のテーパ面部は、前記第1の軸方向側面が位置する側の端部で、前記外周面と連続し、
前記第1のテーパ面部及び前記第2のテーパ面部は連続している、又は、前記第1のテーパ面部及び前記第2のテーパ面部は、これらの間に設けられた周方向に垂直な断面形状が曲面状のテーパ面副部により繋げられている、ことを特徴とするサイドレール。
前記第1のテーパ面部が軸方向に対してなす角度と、前記第2のテーパ面部が軸方向に対してなす角度と、の差が2°以上であることを特徴とする請求項1に記載のサイドレール。
前記第1のテーパ面部の前記第1の軸方向側面が位置する側の端部と、前記第2のテーパ面部の前記第2の軸方向側面が位置する側の端部と、の軸方向中心位置から、前記第1の軸方向側面までの軸方向に沿う距離が、前記サイドレールの軸方向厚みに対して60%以上80%以下の大きさであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のサイドレール。
【背景技術】
【0002】
レシプロエンジン(往復動内燃機関)のピストンには、燃焼ガスをシールするためのコンプレッションリングに加えて、シリンダ内面のオイルを制御するためのオイルリングが装着されている。このようなオイルリングとしては、円環状のスペーサエキスパンダーに1つまたは一対のサイドレールを組み合わせて構成される組合せオイルリングが多く用いられている。
【0003】
組合せオイルリングに用いられるサイドレールは合口を備えた割りリング形状に形成されており、スペーサエキスパンダーにより径を拡大させるように付勢されてその外周面においてシリンダ内面に所定の接触圧力(面圧)で接触する。そして、エンジンが作動してピストンが往復動すると、サイドレールはその外周面においてシリンダ内面上を摺動して、シリンダ内面に適切な厚みの油膜を形成するとともにシリンダ内面に付着した余分なオイルをクランク室側に向けて掻き落としてオイル上がりを防止する。
【0004】
近年、低燃費や低オイル消費などの市場要求による内燃機関用エンジンの性能向上に伴い、組合せオイルリングにも、ピストン上昇行程(圧縮行程および排気行程)時のオイル掻きあげ作用の制御やピストン下降行程(吸入行程および燃焼行程)時のオイル掻き落とし作用の増幅により、シリンダ内面に対するフリクションを低減させつつオイル消費量を低減させ得る性能を有したものが求められている。そして、このような要求に対応するために、径方向外側を向く外周面を種々の形状としたサイドレールが提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、径方向外側を向く外周面を、軸方向中心位置に頂点を有するとともに径方向外側に突出する湾曲面形状に形成するようにしたサイドレールが記載されている。
【0006】
また、一般的に、外周面のシリンダ内面への当り幅を小さくすればサイドレールのシリンダ内面に対するフリクションが低減することが知られており、当該当り幅を小さくするために、サイドレールの外周面を微小な形状変化を有する上下(表裏)非対称形状に形成することが行われている。
【0007】
例えば特許文献2には、外周面を、外周頂点部を含むとともに軸方向について非対称形状となる非対称領域を有するとともに、当該非対称領域を挟んだ軸方向の両側に軸方向について互いに対称となる一対の対称領域を有する構成としたサイドレールが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のように外周面が微小な形状変化で上下非対称の形状に形成されていると、サイドレールの上下(表裏)の方向性の判別が困難であり、このサイドレールの製造時やピストンのリング溝への組み付け作業時等においてサイドレールが誤った姿勢で組み付けられるおそれがあるという問題点があった。
【0010】
本発明は、このような点を解決することを課題とするものであり、その目的は、上下の方向性の判別が容易なサイドレールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のサイドレールは、合口を備えた割りリング形状に形成され、円環状のスペーサエキスパンダーに組み合わされて該スペーサエキスパンダーとともに内燃機関用の組合せオイルリングを構成するサイドレールであって、径方向外側を向く外周面と、径方向内側を向く内周面と、軸方向の一方側を向く第1の軸方向側面と、軸方向の他方側を向くとともに前記第1の軸方向側面と平行な第2の軸方向側面とを有し、前記外周面が、前記第2の軸方向側面との間に面取り部を有し、前記面取り部が、前記第1の軸方向側面から前記第2の軸方向側面に向けて軸方向に0.05mm以上離れた前記外周面上の位置を起点として前記第2の軸方向側面の側に向けて徐々に縮径するテーパ面により形成され、前記テーパ面が、軸方向に対してなす角度が10°以上である第1のテーパ面部と、該第1のテーパ面部と前記外周面との間に設けられ、前記第1のテーパ面部よりも軸方向に対する傾斜角度が小さい第2のテーパ面部と、を有することを特徴とする。
【0012】
なお、上記構成において、「合口部を備えた割りリング形状」とは、オイルリング本体が、その周方向の一部分において切断されて当該切断部分が合口部となったC字形状に形成されていることを意味する。また、「軸方向」とは、割リング形状のサイドレールの軸心に沿う方向を意味する。
【0013】
本発明は、上記構成において、前記第1のテーパ面部が軸方向に対してなす角度と、前記第2のテーパ面部が軸方向に対してなす角度と、の差が2°以上であることが好ましい。
【0014】
本発明は、上記構成において、前記第2のテーパ面部が軸方向に対してなす角度が2°以上12°以下であることが好ましい。
【0015】
本発明は、上記構成において、前記第1のテーパ面部の前記第1の軸方向側面が位置する側の端部と、前記第2のテーパ面部の前記第2の軸方向側面が位置する側の端部と、の軸方向中心位置から、前記第1の軸方向側面までの軸方向に沿う距離が、前記サイドレールの軸方向厚みに対して60%以上80%以下の大きさであることが好ましい。
【0016】
本発明は、上記構成において、前記第1のテーパ面部と前記第2のテーパ面部とが曲面状のテーパ面副部によって滑らかに繋げられているのが好ましい。
【0017】
本発明は、上記構成において、前記外周面と前記第2のテーパ面部とを合わせた領域を外周面領域としたときに、該外周面領域を軸方向に挟むように設けられた、前記テーパ面副部の領域及び前記外周面と前記第1の軸方向側面との間に設けられる曲面形状の外周下端面の領域とが、前記第1の軸方向側面と前記第2の軸方向側面との軸方向中間位置を通る仮想面を基準として互いに非対称形状であるのが好ましい。
【0018】
本発明は、上記構成において、前記第1のテーパ面部が曲面状に形成されているのが好ましい。
【0019】
本発明は、上記構成において、前記外周面及び前記面取り部の表面に硬質皮膜が設けられているのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、外周面と第2の軸方向側面との間に視認性のある面取り部が設けられるので、サイドレールが上下(表裏)の方向性を有していても、その製造時やピストンのリング溝への組み付け作業時等において面取り部を目視することで、サイドレールの上下を容易に判別することができる。
【0021】
このように、本発明によれば、上下の方向性の判別が容易なサイドレールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に例示説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明の一実施の形態であるサイドレール1は、スペーサエキスパンダー2とともに組合せオイルリング(オイルコントロールリング)3を構成する。図示する場合では、組合せオイルリング3は、スペーサエキスパンダー2の軸方向の両側に一対のサイドレール1を組み合わせた3ピースタイプとなっており、
図2に示すように、ガソリンエンジンなどの往復動内燃機関のピストン4の外周面に形成されたリング溝4aに装着して使用される。
【0025】
組合せオイルリング3は、スペーサエキスパンダー2に1つのサイドレール1のみを組み合わせた2ピースタイプとすることもできる。
【0026】
スペーサエキスパンダー2は鋼材により径方向内外方向に向けて弾性変形自在な円環状に形成されており、縮径方向に弾性変形した状態でピストン4のリング溝4aに装着されてサイドレール1を径方向外側および軸方向外側に向けて拡径させるように付勢する。
【0027】
発明の一実施の形態である一対のサイドレール1は互いに同一の構成を有するものであり、
図3に示すように、長尺で平板状の鋼材(スチール材)を曲げることにより、合口10を備えた割リング形状に形成されている。つまり、サイドレール1は、その周方向の一部分が切断されて当該切断部分が合口10となったC字形状に形成されている。サイドレール1は、合口10の間隔を周方向に拡大させるように弾性変形して、径方向外側に向けて拡径することができる。
【0028】
図4に示すように、このサイドレール1は、軸方向の一方側(図中下側)を向く第1の軸方向側面11、軸方向の他方側(図中上側)を向く第2の軸方向側面12、径方向内側を向く内周面13および径方向外側を向く外周面14を備えており、その周方向に垂直な断面形状は全周に亘って略一様となっている。なお、「軸方向」とは、割リング形状のサイドレール1の軸心に沿う方向である。
【0029】
第1の軸方向側面11は軸方向に垂直な平坦面に形成されている。
図2に示すように、第1の軸方向側面11は、このサイドレール1を用いた組合せオイルリング3がピストン4に装着された状態においてエンジンのクランク室側に向けられる。
【0030】
図4に示すように、第2の軸方向側面12は軸方向に垂直つまり第1の軸方向側面11に平行な平坦面に形成されている。
図2に示すように、第2の軸方向側面12は、このサイドレール1を用いた組合せオイルリング3がピストン4に装着された状態においてエンジンの燃焼室側に向けられる。
【0031】
なお、図示する場合では、サイドレール1の一対の軸方向側面11、12の軸方向間隔つまりサイドレール1の軸方向厚み(レール幅)Wは0.35mm、内周面13と外周面14との間隔つまり径方向長さLは1.52mmとなっている。
【0032】
図4に示すように、サイドレール1の内周面13は軸方向中心位置に頂点を有する湾曲面形状(バレルフェース)に形成されている。
図2に示すように、サイドレール1の内周面13は、サイドレール1を用いた組合せオイルリング3がピストン4に装着された状態においてスペーサエキスパンダー2の座面2aに当接する。
【0033】
なお、内周面13は、上記形状に限らず、例えば軸方向に平行な円筒面形状など種々の形状を採用することができる。
【0034】
図4に示すように、サイドレール1の外周面14は軸方向に平行な円筒面形状に形成されている。
図2に示すように、サイドレール1は、この外周面14においてシリンダ内面20に接する。
【0035】
このサイドレール1では、外周面14の軸方向の両端部のうち一方側の端部に面取り部30が設けられている。つまり、外周面14と第2の軸方向側面12との間に面取り部30が設けられている。なお、外周面14と第1の軸方向側面11との間は面取り部が設けられない形状に形成されてもよいが、丸みを帯びたR形状に形成されてもよく、この場合、R形状は面取り部30よりも径方向幅および軸方向幅が小さく形成される。
【0036】
面取り部30は、第1の軸方向側面11から第2の軸方向側面12に向けた第1の軸方向距離Bが0.05mm以上となる外周面14上の位置、つまり第1の軸方向側面11から第2の軸方向側面12に向けて軸方向に0.05mm以上離れた外周面14上の位置を起点とし、該起点から第2の軸方向側面12の側に向けて徐々に縮径しながら第2の軸方向側面12にまで延びるテーパ面30aにより形成されている。
【0037】
なお、面取り部30の起点となる第1の軸方向距離Bは、より好ましくは0.10mm以上に設定される。
【0038】
図4に示すように、面取り部30を構成するテーパ面30aは、軸方向に対して角度θ1で傾斜する第1のテーパ面部30a1と、第1のテーパ面部30a1と外周面14との間に設けられて第1のテーパ面部30a1よりも小さい角度θ2で軸方向に対して傾斜する第2のテーパ面部30a2とを有して構成されている。なお、第1のテーパ面部30a1は、第2の軸方向側面12が位置する側の端部において、第2の軸方向側面12と連続している。また、第2のテーパ面部30a2は、第1の軸方向側面11が位置する側の端部において、外周面14と連続している。
【0039】
第1のテーパ面部30a1が軸方向に対してなす角度θ1は、10°以上である。角度θ1を10°以上とすることで、面取り部30を面取り部30以外の箇所から識別しやすくなり、面取り部30の視認性を確保することができる。視認性確保の観点から、角度θ1を30°以上とすることが好ましい。また、第1のテーパ面部30a1が軸方向に対してなす角度θ1と、第2のテーパ面部30a2が軸方向に対してなす角度θ2と、の差は、2°以上であることが好ましい。角度θ1と角度θ2との差を2°以上とすることで、第1のテーパ面部30a1により反射される光の反射角度と、第2のテーパ面部30a2により反射される光の反射角度との差異が大きくなり、面取り部30の視認性をより高めることができる。
【0040】
ところで、サイドレール1は、
図2に示したピストン4のリング溝4aに装着された状態では、ピストン4の上下運動中に傾動することで、面取り部30がシリンダ内面20に衝突することがある。この衝突を緩和する観点からも、第2のテーパ面部30a2が軸方向に対してなす角度θ2を、第1のテーパ面部30a1が軸方向に対してなす角度θ1よりも2°以上小さいことが好ましい。衝突を緩和する観点から、第2のテーパ面部30a2が軸方向に対してなす角度θ2は、2°以上10°以下とすることが好ましい。また、第1のテーパ面部30a1がシリンダ内面20に衝突することを防ぐためには、第2のテーパ面部30a2の軸方向距離が0.10mm以上であることが好ましく、0.15mm以上であることがより好ましい。
【0041】
なお、図示する場合では、第1のテーパ面部30a1及び第2のテーパ面部30a2は、何れも、直線的に縮径する形状(円錐面形状)つまり線形テーパ面に形成されている。
【0042】
また、面取り部30つまりテーパ面30aの径方向長さTは0.05mm以上とするのが好ましい。
【0043】
このように、本発明のサイドレール1では、外周面14の軸方向の両端部のうち一方側の端部に視認性のある面取り部30を設けるようにしたので、面取り部30を設けることによりサイドレールが上下(表裏)の方向性を有することになっても、このサイドレール1の製造時やピストンのリング溝への組み付け作業時等において、作業者による面取り部30の目視や、例えば光学式の非接触判別装置等によって、サイドレール1の上下を容易に判別することができる。したがって、当該作業時においてサイドレール1が誤った姿勢に誤組みされることを防止することができる。
【0044】
また、面取り部30を構成するテーパ面30aを、第1のテーパ面部30a1と、第1のテーパ面部30a1よりも小さい角度θ2で軸方向に対して傾斜する第2のテーパ面部30a2とを有する構成とすることにより、面取り部30の径方向長さTを確保してその視認性を高めつつ、第2のテーパ面部30a2により外周面14に対する入射角度を低減させることができる。これにより、面取り部30にシリンダ内面20に対する外周面14のエッジによるオイル掻き上げを防止させてオイル消費を低減させることができる。なお、オイル消費を低減させる観点から、第2のテーパ面部30a2が軸方向に対してなす角度θ2は、2°以上12°以下であることが好ましく、4°以上8°以下であることがより好ましい。
【0045】
ところで、
図4に示すように、第1のテーパ面部30a1の第1の軸方向側面11が位置する側の端部31と、第2のテーパ面部30a2の第2の軸方向側面12が位置する側の端部32と、の軸方向中心位置33から、第1の軸方向側面11までの軸方向に沿う第2の軸方向距離Cが、サイドレール1の軸方向厚みWに対して60%以上80%以下の大きさであることが好ましい。第2の軸方向距離Cを、サイドレール1の軸方向厚みWに対して80%以下とすることで、面取り部30の径方向長さTを一定以上に確保できるため、面取り部30の視認性を高めることができる。また、第2の軸方向距離Cを、サイドレール1の軸方向厚みWに対して60%以上とすることで、第2のテーパ面部30a2の領域を一定以上に確保できるため、オイル消費を低減させることができる。なお、
図4に示す例では、第1のテーパ面部30a1と第2のテーパ面部30a2とが連続しているため、軸方向中心位置33は、端部31及び端部32と同じ位置である。
【0046】
図5に示すように、面取り部30を構成するテーパ面30aは、第1のテーパ面部30a1と第2のテーパ面部30a2との間に曲面状のテーパ面副部30a3を設け、このテーパ面副部30a3によって第1のテーパ面部30a1と第2のテーパ面部30a2とを滑らかに繋げた構成とすることもできる。この場合、テーパ面副部30a3は、一定の曲率半径を有する曲面状とするのが好ましいが、曲率半径が徐々に変化する曲面状とすることもできる。なお、
図5に示す例では、
図4に示した例と同様に、第1のテーパ面部30a1及び第2のテーパ面部30a2が、何れも、直線的に縮径する形状(円錐面形状)つまり線形テーパ面に形成されている。
【0047】
このように、面取り部30を構成するテーパ面30aを、第1のテーパ面部30a1と第2のテーパ面部30a2との間に曲面状のテーパ面副部30a3を設けた構成とすることにより、外周面14のエッジによるオイル掻き上げをさらに効果的に防止させてオイル消費をさらに低減させることができる。
【0048】
なお、
図5に示す例においても、
図4に示した例と同様に、第1のテーパ面部30a1が軸方向に対してなす角度θ1は、10°以上であり、30°以上であることが好ましい。また、第1のテーパ面部30a1が軸方向に対してなす角度θ1と、第2のテーパ面部30a2が軸方向に対してなす角度θ2と、の差は、2°以上であることが好ましい。また、第2のテーパ面部30a2が軸方向に対してなす角度θ2は、2°以上12°以下であることが好ましい。更に、第1のテーパ面部30a1の第1の軸方向側面11が位置する側の端部31と、第2のテーパ面部30a2の第2の軸方向側面12が位置する側の端部32と、の軸方向中心位置33から、第1の軸方向側面11までの軸方向に沿う第2の軸方向距離Cが、サイドレール1の軸方向厚みWに対して60%以上80%以下の大きさであることが好ましい。なお、
図5に示す例では、軸方向中心位置33は、テーパ面副部30a3の軸方向中心に位置する。
【0049】
また、
図6に示すように、面取り部30の第1のテーパ面部30a1は曲面状に形成することもできる。この場合においても、第1のテーパ面部30a1は一定の曲率半径を有する曲面状とするのが好ましいが、曲率半径が徐々に変化する曲面状とすることもできる。なお、
図6に示す例において、第2のテーパ面部30a2は、直線的に縮径する形状(円錐面形状)つまり線形テーパ面に形成されている。
【0050】
このように、面取り部30を曲面状の第1のテーパ面部30a1を有する構成とすることにより、面取り部30をより視認し易くして、このサイドレール1の上下判別をさらに容易にすることができる。
【0051】
なお、
図6に示す例においても、
図4及び
図5に示した例と同様に、第1のテーパ面部30a1が軸方向に対してなす角度θ1は、10°以上であり、30°以上であることが好ましい。また、第1のテーパ面部30a1が軸方向に対してなす角度θ1と、第2のテーパ面部30a2が軸方向に対してなす角度θ2と、の差は、2°以上であることが好ましい。また、第2のテーパ面部30a2が軸方向に対してなす角度θ2は、2°以上12°以下であることが好ましい。更に、第1のテーパ面部30a1の第1の軸方向側面11が位置する側の端部31と、第2のテーパ面部30a2の第2の軸方向側面12が位置する側の端部32と、の軸方向中心位置33から、第1の軸方向側面11までの軸方向に沿う第2の軸方向距離Cが、サイドレール1の軸方向厚みWに対して60%以上80%以下の大きさであることが好ましい。
【0052】
ここで、
図6に示すように、曲面状の第1のテーパ面部30a1が軸方向に対してなす角度θ1は、第1のテーパ面部30a1の第1の軸方向側面11が位置する側の端部31における第1のテーパ面部30a1の接線が、軸方向に対してなす角度であるとする。
【0053】
なお、
図6に示す場合では、第1のテーパ面部30a1と第2のテーパ面部30a2との間にテーパ面副部30a3は設けられていないが、第1のテーパ面部30a1と第2のテーパ面部30a2との間にテーパ面副部30a3を設けた構成とすることもできる。
【0054】
図5に示すように、面取り部30のうち径方向外側を向く第2のテーパ面部30a2と外周面14とを合わせた領域を外周面領域A1とすると、サイドレール1の上下判別を容易にするためには、この外周面領域A1を軸方向に挟む2つの領域、すなわちテーパ面副部30a3の領域A2と、外周面14と第1の軸方向側面11との間に設けられる曲面形状の外周下端面15の領域A3とが、第1の軸方向側面11と第2の軸方向側面12との軸方向中間位置を通る仮想面Sを基準として互いに非対称形状であるのが好ましい。
【0055】
この場合、サイドレール1の外周面領域A1は、軸方向について非対称形状に形成するのが好ましい。詳細は図示しないが、この非対称形状としては、以下のような形状とすることができる。すなわち、その軸方向の中心を通って軸方向に直交する線を第1中間線とし、縦断面における外周面の輪郭曲線がトレースされた外周先端部において、外周頂点から径方向の内周側に向かい距離3μmの位置における輪郭曲線上の2つの位置のうちエンジンの燃焼室側の位置を位置a1、エンジンの燃焼室から離れる側の位置を位置b1とし、それら位置a1と位置b1との間の線分の長さをL1とし、その長さL1の線分の中間線を第2中間線としたとき、第2中間線は、第1中間線よりもエンジンの燃焼室から離れる側に位置する。また、サイドレール1の外周頂点は、第2中間線上か、または第2中間線よりもエンジンの燃焼室から離れる側に位置する。また、縦断面における外周面の輪郭曲線は、径方向の内周側位置に軸方向両端側を一対とする対称形状が存在するよう、サイドレール1の外周頂点から径方向の内周側に向かって少なくとも0.025mmまでトレースされている。サイドレール1の外周先端部における非対称形状の輪郭曲線を、径方向の内周側に向かい外周頂点と外周頂点から距離1.5μmで挟まれる曲線部分と径方向の内周側に向かい外周頂点から距離1.5μmと距離3.0μmで挟まれる輪郭部分に区分し、シリンダのエンジンの燃焼室側から第1輪郭区分、第2輪郭区分、および第3輪郭区分としたとき、第1輪郭区分は第2輪郭区分のエンジンの燃焼室側の第1端部を始点として直線形状または2次曲線形状の一部に設けられる。また、第2輪郭区分は、その中途に外周頂点が存在し、弧状に設けられる。また、第3輪郭区分は、第2輪郭区分のエンジンの燃焼室から離れる側の第2端部を始点とし2次曲線形状の一部となるように設けられる。また、サイドレール1の外周面のうち非対称部分の表面粗さは0.6μmRp以下である。輪郭曲線における外周先端部のうち、位置a1と位置b1との間の線分に直交する径方向の線であって外周頂点を通る線で分割された線分L1の位置a1側の長さをL2、位置b1側の長さをL3とし、さらに径方向の内周側に向かい距離1.5μmにおける輪郭曲線上の2つの位置においてエンジンの燃焼室側の位置を位置a2、エンジンの燃焼室から離れる側の位置を位置b2とし、位置a2と位置b2との間の線分の長さをL4としたとき、0.05mm≦L1≦0.15mm、L2/L1≧0.5、L3/L1≦0.74の条件を満たす。位置a1と位置a2を通る第1直線とシリンダの軸方向とがなす角度を角度θ3としたとき、2度≦θ3≦7度の条件を満たす。位置b1と前記位置b2を通る第2直線とシリンダの軸方向とがなす角度を角度θ4としたとき、9度≦θ4の条件を満たす。
【0056】
または、サイドレール1の外周面領域A1の非対称形状としては、以下のような形状とすることもできる。すなわち、そのセグメント幅の中心を通る線を第1中間線とし、縦断面における外周面の輪郭曲線がトレースされた外周先端部において、外周頂点から径方向の内周側に向かい距離3μmの位置における輪郭曲線上の2つの位置のうちエンジンの燃焼室側の位置を位置a1、エンジンの燃焼室から離れる側の位置を位置b1とし、それら位置a1と位置b1との間の線分の長さをL1とし、その長さL1の線分の中間線を第2中間線としたとき、第2中間線は、第1中間線よりもエンジンの燃焼室から離れる側に位置する。また、サイドレール1の外周頂点は、第2中間線上か、または第2中間線よりもエンジンの燃焼室から離れる側に位置する。また、縦断面における外周面の輪郭曲線は、径方向の内周側位置に軸方向両端側を一対とする対称形状が存在するよう、サイドレール1の外周頂点から径方向の内周側に向かって少なくとも0.025mmまでトレースされている。サイドレール1の外周先端部における非対称形状の輪郭曲線を、径方向の内周側に向かい外周頂点と外周頂点から距離1.5μmで挟まれる曲線部分とセグメント径方向の内周側に向かい外周頂点から距離1.5μmと距離3.0μmで挟まれる輪郭部分に区分し、シリンダのエンジンの燃焼室側から第1輪郭区分、第2輪郭区分、および第3輪郭区分としたとき、第1輪郭区分は第2輪郭区分のエンジンの燃焼室側の第1端部を始点として直線形状または2次曲線形状の一部に設けられる。また、第2輪郭区分はその中途に平坦部を有し、平坦部の軸方向のエンジンの燃焼室側の端部から直線形状または2次曲線形状の一部からなり第1輪郭区分に連続した形状であり、平坦部の軸方向のエンジンの燃焼室から離れる側の端部から2次曲線形状の一部からなり第3輪郭区分に連続した形状で設けられる。また、第3輪郭区分は、第2端部に連続する2次曲線形状の一部となるように設けられる。サイドレール1の外周面のうち非対称部分の表面粗さは0.6μmRp以下である。サイドレール1の外周面の輪郭曲線における外周先端部のうち、位置a1と位置b1との間の線分に直交する径方向の線であって外周頂点を通る線で分割された線分L1の位置a1側の長さをL2、位置b1側の長さをL3とし、さらに径方向の内周側に向かい距離1.5μmにおける輪郭曲線上の2つの位置においてエンジンの燃焼室側の位置を位置a2、エンジンの燃焼室から離れる側の位置を位置b2とし、位置a2と位置b2との間の線分の長さをL4としたときおよび第2輪郭区分の平坦部の軸方向長さをL5としたとき、0.05mm≦L1≦0.15mm、L2/L1≧0.5、L4/L1≦0.76、0<L5≦0.05mmの条件を満たす。位置a1と位置a2を通る第1直線とシリンダの軸方向とがなす角度を角度θ3としたとき、3度≦θ3≦6度の条件を満たす。位置b1と位置b2を通る第2直線とシリンダの軸方向とがなす角度を角度θ4としたとき、9度≦θ4の条件を満たす。
【0057】
外周面領域A1をこのような形状としつつテーパ面副部30a3の領域A2と外周下端面15の領域A3とを第1の軸方向側面11と第2の軸方向側面12との軸方向中間位置を通る仮想面Sを基準として互いに非対称形状とすることにより、オイル消費量を低減しつつサイドレール1の上下判別をさらに容易にすることができる。
【0058】
詳細は図示しないが、少なくとも外周面14と面取り部30つまりテーパ面30aの表面に硬質皮膜(硬質層)を設けた構成とすることもできる。硬質皮膜としては、例えば窒化処理層、PVD処理層、硬質クロムめっき処理層およびDLC層のうちの少なくとも何れか1種の層を備えた構成を採用することができる。
【0059】
なお、「PVD処理層」とは「物理気相成長(Physical Vapor Deposition)により形成された層」を意味し、「DLC(Diamond Like Carbon)層」とは主として炭化水素や炭素の同素体から成る非晶質の硬質炭素膜を意味する。
【0060】
このような硬質皮膜を設けることにより、外周面14の摩耗による形状変化がなく、外周面形状が維持され、面圧減少も少なく、オイルコントロール機能が持続され、長期間に亘ってオイル消費量を低減しつつエンジンの燃費を低減する効果を得ることができるとともに、目視により視認される面取り部30の色相を、第2の軸方向側面12や外周面14に対してより鮮明に変えることができる。特に、外周面14にラッピング加工を施した場合には、その色相の差はより大きくなる。したがって、当該硬質皮膜を設けることにより、この面取り部30をより視認し易くして、このサイドレール1の上下判別をさらに容易にすることができる。
【実施例】
【0061】
(実施例1)
図4に示す形状を有するとともに、軸方向厚み(W)が0.35mm、面取り部の面取り位置を示す第1の軸方向距離(B)が0.15mm、面取り部の第1のテーパ面部の軸方向に対する角度(θ1)が30°、第2のテーパ面部の軸方向に対する角度(θ2)が6°とされた100本のサイドレールを用意し、作業者10名によりこれらのサイドレールの目視での上下の方向判別を実施した。その結果、全てのサイドレールについて作業者は、その上下の方向性を正しく判別することができた。
【0062】
(実施例2)
図4に示す形状を有するとともに、軸方向厚み(W)が0.35mm、径方向長さ(L)が1.62mm、面取り部の面取り位置を示す第1の軸方向距離(B)が0.15mm、第2の軸方向距離(C)が軸方向厚み(W)の67%、すなわち0.23mm、面取り部の第1のテーパ面部の軸方向に対する角度(θ1)が15°とされた複数のサイドレールを用意した。これら複数のサイドレールの第2のテーパ面部の軸方向に対する角度(θ2)は、それぞれ異なる角度とした。
【0063】
作業者10名により、これら複数のサイドレールの目視での上下の方向判別を実施した。その結果、作業者は、第1のテーパ面部の軸方向に対する角度(θ1)と第2のテーパ面部の軸方向に対する角度(θ2)との差が、2°以上のときは100本中100本全てのサイドレールについて正しく判別でき、2°未満のときは100本中3本のサイドレールについて誤って判別した。すなわち、作業者は、サイドレールの第2のテーパ面部の軸方向に対する角度(θ2)が、第1のテーパ面部の軸方向に対する角度(θ1)よりも2°以上小さくなると、サイドレールの上下の方向性をより正しく判別することができた。
【0064】
(実施例3)
実施例2で用いた複数のサイドレールによりそれぞれ構成した複数の組合せオイルリングを作製した。作製した複数の組合せオイルリングをそれぞれのリング溝に装着した複数のピストンを用意し、シリンダ内で所定回数往復運動させたときの、オイル消費量を計測した。具体的には、水冷4サイクルの過給器付ガソリンエンジン(排気量2.0L、4気筒)を用いて、6000rpm、全負荷(WOT:Wide Open Throttle)条件にて所定時間運転したときのオイル消費量を計測した。なお、各計測において、後述する対比例と共通のトップリング及びセカンドリングを用いた。
図7は、本実施例における、第2のテーパ面部の軸方向に対する角度(θ2)と、オイル消費量比との関係を示すグラフである。ここで、オイル消費量比は、対比例として、外周面を軸方向中心位置に頂点を有する湾曲面形状(バレルフェース)に形成したサイドレールを用いた場合のオイル消費量を100としたときの、計測されたオイル消費量である。
図7に示すように、第2のテーパ面部の軸方向に対する角度(θ2)は、2°以上12°以下であればオイル消費量を低減でき、4°以上8°以下であれば、オイル消費量をより低減できることが分かった。また、第2のテーパ面部の軸方向に対する角度(θ2)が2°以上12°以下の場合、シリンダ内面に傷がついたことは確認されなかったため、面取り部のシリンダ内面への衝突が緩和されたと考えられる。
【0065】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0066】
例えば、前記実施の形態では、外周面14を軸方向に平行な円筒面形状としているが、外周面14を微小な形状変化を有する上下(表裏)非対称形状などの他の形状に形成することもできる。