(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記主軸制御部は、前記誘導モータの2次磁束を制御する励磁電流指令と、前記誘導モータのトルクを制御するトルク電流指令とに基づいて、誘導モータのベクトル制御を行い、
前記事前変更部は、前記励磁電流指令、又は前記励磁電流指令を生成するための磁束指令を増加させることにより、前記誘導モータの2次磁束を増加させる、
請求項1に記載のモータ制御装置。
前記動作指令の変化は、前記主軸の回転速度を制御するための速度指令の増加、又は、前記速度指令から前記主軸の回転位置を制御するための位置指令への動作指令の変更である、請求項1〜5の何れか1項に記載のモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0017】
(第1実施形態)
図1Aは、第1実施形態に係るモータ制御装置の構成の一例を示す図である。
図1Aに示すモータ制御装置1は、スピンドル加工機のような工作機械の主軸を回転駆動する誘導モータ2を制御するための装置である。モータ制御装置1は、数値制御部(CNC)100と、主軸制御部200と、駆動部300とを備える。
【0018】
数値制御部100は、工作機械の動作プログラム(加工プログラムともいう。)を記憶している。なお、数値制御部100は、外部装置に記憶されている工作機械の動作プログラムを取得するようにしてもよい。
数値制御部100は、この動作プログラムに基づいて、主軸の回転速度を制御するための速度指令vcmdを生成し、主軸制御部200に供給する。
【0019】
主軸制御部200は、数値制御部100からの速度指令vcmdに従って、誘導モータ2を駆動制御する。主軸制御部200は、速度制御部220と電流制御部230とを備える。
【0020】
速度制御部220は、数値制御部100からの速度指令vcmdと、誘導モータ2に設けられたエンコーダ3で検出された誘導モータ2の実速度(速度FB)vaとの差分に基づいてトルク指令Tcmdを生成する。
【0021】
電流制御部230は、速度制御部220からのトルク指令Tcmdと、エンコーダ3からの実速度vaと、駆動部300に設けられた電流検出器310で検出された駆動部300の出力電流、すなわち誘導モータ2を駆動するための実電流(電流FB、駆動電流)Iu,Iv,Iwとに基づいて、駆動部300を駆動するための電圧指令Vu,Vv,Vwを生成する。
【0022】
数値制御部100及び主軸制御部200は、例えば、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field−Programmable Gate Array)等の演算プロセッサで構成される。数値制御部100及び主軸制御部200の機能は、例えば記憶部に格納された所定のソフトウェア(プログラム)を実行することで実現される。数値制御部100及び主軸制御部200の機能は、ハードウェアとソフトウェアとの協働で実現されてもよいし、ハードウェア(電子回路)のみで実現されてもよい。
【0023】
駆動部300は、電流制御部230からの電圧指令Vu,Vv,Vwに基づいて、誘導モータ2を駆動するための実電流(駆動電流)Iu,Iv,Iwを生成する。
駆動部300は、例えば、商用3相交流電力を直流電力に変換するコンバータと、コンバータからの直流電力を3相交流電力に変換するインバータとにより構成される。この場合、電圧指令Vu,Vv,Vwはインバータの制御電圧として用いられる。
【0024】
図2Aは、
図1に示す主軸制御部200における電流制御部230の構成の一例を示す図であり、
図2Bは、
図1に示す主軸制御部200における電流制御部230の構成の他の一例を示す図である。
図2A及び
図2Bに示す電流制御部230(すなわち主軸制御部200)は、誘導モータ2の1次電流すなわち駆動電流を、磁束生成のための励磁電流(d相電流)と、トルク生成のためのトルク電流(q相電流)とに分けて制御するベクトル制御を行う。
【0025】
図2Aに示す電流制御部230は、磁束指令発生部231と、減算器232,235,238と、磁束制御部233と、磁束推定部234と、励磁電流制御部236と、トルク電流指令発生部237と、トルク電流制御部239と、2相−3相変換部240とを備える。
【0026】
磁束指令発生部231は、トルク指令Tcmdと誘導モータ2の実速度(速度FB)vaとに基づいて、誘導モータ2の磁束生成のための磁束指令Φcmdを生成する。
【0027】
減算器232は、磁束指令Φcmdと、磁束推定部234で推定された誘導モータ2の2次磁束の推定値Φ2dとの差分を求める。
磁束制御部233は、減算器232で求められた磁束指令Φcmdと磁束推定値Φ2dとの差分に基づいて、励磁電流指令(d相電流指令)Idcmdを生成する。
磁束推定部234は、磁束制御部233で生成された励磁電流指令Idcmdと、例えば記憶部(図示省略)に格納された誘導モータ2の相互インダクタンスMと、誘導モータ2の回路定数で決まる時定数τ=L
2/R
2とに基づいて、下式(1)より誘導モータ2の2次磁束Φ2dを推定する。
【数1】
なお、磁束推定部234は、励磁電流指令Idcmdに代えて誘導モータ2の励磁電流(d相電流)のフィードバックI1dを用い、下式(2)より誘導モータ2の2次磁束Φ2dを推定してもよい。
【数2】
【0028】
このように、磁束指令発生部231、減算器232、磁束制御部233及び磁束推定部234は、上式(1)又は上式(2)のように時定数τ=L
2/R
2の1次遅れを考慮して励磁電流指令Idcmd又は励磁電流I1dから誘導モータ2の2次磁束Φ2dを推定し、磁束指令Φcmdと磁束推定値Φ2dとの偏差から励磁電流指令Idcmdを生成する。
【0029】
減算器235は、磁束制御部233で生成された励磁電流指令Idcmdと、2相−3相変換部240によって実電流Iu,Iv,Iwが変換された励磁電流(d相電流)のフィードバックI1dとの差分を求める。
励磁電流制御部236は、励磁電流指令Idcmdと励磁電流のフィードバックI1dとの差分に基づいて、d相電圧指令Vdcmdを生成する。
【0030】
トルク電流指令発生部237は、トルク指令Tcmdに基づいてトルク電流指令(q相電流指令)Iqcmdを生成する。
【0031】
減算器238は、トルク電流指令発生部237で生成されたトルク電流指令Iqcmdと、2相−3相変換部240によって実電流Iu,Iv,Iwが変換されたトルク電流(q相電流)のフィードバックI1qとの差分を求める。
トルク電流制御部239は、トルク電流指令Iqcmdとトルク電流のフィードバックI1qとの差分に基づいて、q相電圧指令Vqcmdを生成する。
【0032】
2相−3相変換部240は、d相電圧指令Vdcmdとq相電圧指令Vqcmdとを、uvw各相の電圧指令Vu,Vv,Vwに変換する。また、2相−3相変換部240は、uvw各相の実電流Iu,Iv,Iwを、励磁電流(d相電流)I1d及びトルク電流(q相実電流)I1qに変換する。
【0033】
図2Bに示す電流制御部230は、
図2Aに示す電流制御部230において、磁束指令発生部231、減算器232、磁束制御部233及び磁束推定部234に代えて励磁電流指令発生部241を備える。
励磁電流指令発生部241は、トルク指令Tcmdと誘導モータ2の実速度(速度FB)vaとに基づいて、励磁電流指令(d相電流指令)Idcmdを生成する。
【0034】
このように、
図2Bに示す電流制御部230では、励磁電流指令発生部241により励磁電流を直接指令することで間接的に誘導モータ2の2次磁束Φ2dを制御する。
ここで、上式(2)に示すように、誘導モータ2では、励磁電流(d相電流)I1dを供給しても、2次磁束Φ2dは時定数τ=L
2/R
2だけ遅れて立ち上がる。
この点に関し、
図2Aに示す電流制御部230では、磁束指令発生部231、減算器232、磁束制御部233及び磁束推定部234により、時定数τ=L
2/R
2の1次遅れを考慮して励磁電流から誘導モータ2の2次磁束Φ2dを推定し、磁束指令Φcmdと磁束推定値Φ2dとの偏差から励磁電流指令Idcmdを生成する。これにより、
図2Aの電流制御部230は、
図2Bの電流制御部230よりも、励磁電流変化時の過渡状態における誘導モータ2の制御性を向上できる。
【0035】
ところで、モータ制御装置1は、誘導モータ2の発熱低減のため、誘導モータ2の負荷が軽く高トルクが必要とされない場合(軽負荷時)には、誘導モータ2の2次磁束(励磁電流)を小さく制御する(磁束弱め制御)。例えば、
図2Aに示す電流制御部230では、磁束指令発生部231により、
図3に示すように、トルク指令が小さくなるにつれて磁束指令を次第に小さくするように、トルク指令に応じて磁束指令を変更する。また、
図2Bに示す電流制御部230では、励磁電流指令発生部241により、
図3に示すように、トルク指令が小さくなるにつれて励磁電流指令を次第に小さくするように、トルク指令に応じて磁束指令を変更する。
【0036】
例えば、磁束弱め制御により磁束指令又は励磁電流指令を30%にしているときに停止状態から加速動作を行うと、トルク指令は0%から100%に変化するため、磁束指令又は励磁電流指令は30%から100%に変化する。このとき、
図4に示すように、実際の2次磁束Φ2dは、励磁電流I1d、すなわち磁束指令又は励磁電流指令に対して時定数τ=L
2/R
2で遅れて立ち上がる。
【0037】
誘導モータ2のトルクTは、下式(3)に示すように2次磁束Φ2dとトルク電流(q相電流)I1qの積で表される。
【数3】
Np:極対数
そのため、加速時のような大きなトルクが必要な場合、すなわち速度指令が増加する場合、磁束指令又は励磁電流指令を増加した直後は、2次磁束Φ2dが十分に立ち上がっていないために十分なトルクを出力することができず、磁束の立ち上がりを待つ必要がある。磁束の立ち上がりを待たずに加速する場合、加速時間が延びてしまう。
【0038】
そこで、本実施形態では、
図5に示すように、動作プログラムを先読みして速度指令の変化(増加)を事前に検知し、速度指令が変化(増加)する時刻t1までに2次磁束が十分に立ち上がるように、時刻t1よりも所定時間だけ早い時刻t0において磁束指令又は励磁電流指令を増加させる。
【0039】
具体的には、
図1Aに示すように、数値制御部100は、事前検知部10、記憶部11及び設定部12を備え、主軸制御部200は、事前変更部20を備える。
【0040】
記憶部11は、
図4及び
図5に示すような誘導モータ2の2次磁束Φ2dの変化に関する時定数、すなわち上式(2)に示すように誘導モータ2の回路定数で決まる時定数τ=L
2/R
2を記憶する。記憶部11は、例えばEEPROM等の書き換え可能なメモリである。
【0041】
設定部12は、速度指令vcmdの変化に先行して誘導モータ2の2次磁束Φ2dを増加させる変更タイミングを設定値として設定する。設定部12は、
図5に示すように、速度指令vcmdが変化(増加)する時刻t1までに2次磁束Φ2dが十分に立ち上がるように、磁束指令又は励磁電流指令を増加させる変更タイミングを設定する。本実施形態では、設定部12は、時刻t1よりも所定時間だけ早い時刻t0において磁束指令又は励磁電流指令を増加させるために、所定時間(t1−t0)を設定値として設定する。
例えば、設定部12は、設定値(t1−t0)を、記憶部11に記憶された誘導モータ2の時定数τ=L
2/R
2に基づいて、時定数τの3倍以上の時間に設定してもよい。これにより、速度指令vcmdが変化(増加)する時刻t1までに、誘導モータ2の2次磁束Φ2dを90%以上まで立ち上げることができる(励磁電流0%から100%への変化時)。
設定部12は、設定値(t1−t0)を、時定数τの4倍以上7倍以下の時間に設定することが好ましい。設定値(t1−t0)を時定数τの4倍以上の時間に設定すると、速度指令vcmdが変化(増加)する時刻t1までに、誘導モータ2の2次磁束Φ2dを98%以上まで立ち上げることができる(励磁電流0%から100%への変化時)。また、設定値(t1−t0)を時定数τの7倍程度の時間に設定すると、時刻t1までに誘導モータ2の2次磁束Φ2dを約100%まで立ち上げることができる(励磁電流0%から100%への変化時)。
なお、設定部12は、設定値(t1−t0)を、使用する誘導モータによらず固定値に設定してもよい。
【0042】
事前検知部10は、動作プログラムを先読みして、速度指令の変化(増加)、すなわち誘導モータ2の2次磁束を増加させる必要がある動作指令の変化を事前に検知する。本実施形態では、事前検知部10は、現在から速度指令の変化(増加)までの時間が設定部12で設定された設定値以下である速度指令の変化(増加)を検知する。換言すれば、事前検知部10は、設定部12で設定された変更タイミングを経過するときに、速度指令の変化(増加)を検知する。事前検知部10は、検知結果を示す検知信号を事前変更部20に送信する。
【0043】
事前変更部20は、検知信号が示す検知結果に基づいて、事前検知部10で速度指令の変化(増加)が検知された場合に、速度指令の変化(増加)に先行して磁束指令又は励磁電流指令を増加させることにより、誘導モータ2の2次磁束を増加させる。
例えば、事前変更部20は、
図1A及び
図2Aに示すように、電流制御部230における磁束指令発生部231に変更指令を行う。これにより、磁束指令発生部231は、
図5に示すように、速度指令の変化(増加)に先行して磁束指令を増加する。
また、事前変更部20は、
図1A及び
図2Bに示すように、電流制御部230における励磁電流指令発生部241に変更指令を行う。これにより、励磁電流指令発生部241は、
図5に示すように、速度指令の変化(増加)に先行して励磁電流指令を増加する。
【0044】
なお、本実施形態では、
図1Bに示すように、主軸制御部200が、事前検知部10、設定部12及び記憶部11を備えてもよい。
【0045】
次に、
図6を参照して、第1実施形態に係るモータ制御装置1による先読み動作について説明する。
【0046】
まず、事前検知部10は、動作プログラムを先読みして(S1)、現在から速度指令の変化(増加)までの時間を計測し(S2)、計測した時間が設定部12で設定された設定値以下であるか否かを判定する(S3)。
【0047】
計測した時間が設定値以下である場合、すなわち、事前検知部10が速度指令の変化(増加)を事前に検知した場合、事前変更部20は、磁束指令又は励磁電流指令を増加させ、誘導モータ2の2次磁束を増加させる(S4)。
【0048】
一方、計測した時間が設定値よりも長い場合、すなわち、事前検知部10が速度指令の変化(増加)を検知したがまだ早い場合、或いは、事前検知部10が速度指令の変化(増加)を検知しない場合、先読み動作を終了する。
【0049】
モータ制御装置1は、例えば設定部12で設定された設定値よりも十分に短い時間間隔で、上述したステップS1〜S4の動作を繰り返す。
【0050】
以上説明したように、第1実施形態のモータ制御装置1によれば、動作プログラムを先読みして速度指令の変化(増加)を事前に検知し、速度指令の変化(増加)に先行して磁束指令又は励磁電流指令を増加させ、誘導モータ2の2次磁束を増加させる。これにより、誘導モータの発熱の低減のために誘導モータ2の軽負荷時に磁束弱め制御を行っても、速度指令の変化(増加)時には、誘導モータ2の2次磁束を十分に立ち上げることができ、十分なトルクを得られ、加速時間を短縮できる。
このように、第1実施形態のモータ制御装置1によれば、誘導モータ2の軽負荷時の磁束弱め制御による誘導モータ2の発熱の低減と、速度指令の変化(増加)時の誘導モータ2の加速時間の短縮、すなわち制御の高い応答性との両立を図ることができる。
【0051】
(第2実施形態)
第1実施形態では、速度指令に基づく速度制御において加速動作を行うモータ制御装置について説明した。第2実施形態では、速度指令に基づく速度制御と位置指令に基づく位置制御との制御モード切換を行うモータ制御装置について説明する。
【0052】
図7Aは、第2実施形態に係るモータ制御装置の構成の一例を示す図である。
図7Aに示すモータ制御装置1Aは、
図1Aに示すモータ制御装置1において数値制御部100及び主軸制御部200に代えて数値制御部100A及び主軸制御部200Aを備える。
【0053】
数値制御部100Aは、動作プログラム(加工プログラム)に基づいて、速度指令に基づく速度制御モードと位置指令に基づく位置制御モードとの制御モードの切り換えを行う。速度制御モード時、数値制御部100Aは、主軸の回転速度を制御するための速度指令vcmdを生成し、主軸制御部200に供給する。また、位置制御モード時、数値制御部100Aは、主軸の回転位置を制御するための位置指令Pcmdを生成し、主軸制御部200に供給する。
【0054】
主軸制御部200Aは、速度制御モード時、数値制御部100Aからの速度指令vcmdに従って、誘導モータ2を駆動制御する。また、主軸制御部200Aは、位置制御モード時、数値制御部100Aからの位置指令Pcmdに従って、誘導モータ2を駆動制御する。主軸制御部200Aは、
図1Aに示す主軸制御部200において位置制御部210と制御切換部212とを更に備える。
【0055】
位置制御部210は、数値制御部100Aからの位置指令Pcmdと、誘導モータ2に設けられたエンコーダ3で検出された誘導モータ2の位置(回転位置)のフィードバックPaとの差分に基づいて速度指令vcmdを生成する。
【0056】
制御切換部212は、例えば数値制御部100からの制御モード切換信号に基づいて、位置制御部210からの速度指令vcmdと数値制御部100からの速度指令vcmdとを切り換える。具体的には、制御切換部212は、速度制御モード時、数値制御部100からの速度指令vcmdを速度制御部220に供給する。また、制御切換部212は、位置制御モード時、位置制御部210からの速度指令vcmdを速度制御部220に供給する。
【0057】
上述したように、速度指令に基づく速度制御時、モータ制御装置1は、誘導モータ2の発熱低減のため、誘導モータ2の負荷が軽く高トルクが必要とされない場合(軽負荷時)には、誘導モータ2の2次磁束(励磁電流)を小さく制御する(磁束弱め制御)。
一方、位置指令に基づく位置制御では軽負荷時でも高い応答性が求められるため、軽負荷時の磁束指令又は励磁電流指令を大きく設定する。例えば、
図2Aに示す電流制御部230では、磁束指令発生部231により、
図8に示すように、トルク指令によらず常に磁束指令を100%に設定する。また、
図2Bに示す電流制御部230では、励磁電流指令発生部241により、
図8に示すように、トルク指令によらず常に励磁電流指令を100%に設定する。
【0058】
例えば、停止状態(軽負荷時)の速度制御モードにおいて磁束弱め制御により磁束指令又は励磁電流指令を30%にしているときに速度制御モードから位置制御モードに切り換えると、磁束指令又は励磁電流指令は30%から100%に変化する。このとき、
図4に示すように、実際の2次磁束Φ2dは、励磁電流I1d、すなわち磁束指令又は励磁電流指令に対して時定数τ=L
2/R
2で遅れて立ち上がる。
【0059】
上述したように、誘導モータ2のトルクTは、上式(3)に示すように2次磁束Φ2dとトルク電流(q相電流)I1qの積で表される。
そのため、
図9Aに示すように、速度制御モードから位置制御モードへ制御モードが変更する場合、磁束指令又は励磁電流指令を増加した直後(時刻t1直後)は、2次磁束Φ2dが十分に立ち上がっていないために十分なトルクを出力することができず、位置制御の応答性が低下してしまう。
そのため、制御モード切換時、2次磁束が十分に立ち上がるまで待ってから動作を開始する必要があった(時刻t2)。制御モード切換時に毎回この待ち時間が発生すると、加工時間が長くなってしまう。
【0060】
この点に関し、制御モード切換時に磁束指令又は励磁電流指令を100%以上に大きくすることで2次磁束の立ち上がりを早める技術がある(磁束増幅、磁束ブースト)(特許文献2参照)。
例えば、
図2Aに示す電流制御部230では、磁束指令発生部231により、
図9Bに示すように、磁束指令30%の速度制御モードから磁束指令100%の位置制御モードに切り換えるときに、所定時間だけ磁束指令を例えば200%に増幅する(時刻t1)。また、
図2Bに示す電流制御部230では、励磁電流指令発生部241により、
図9Bに示すように、励磁電流指令30%の速度制御モードから励磁電流指令100%の位置制御モードに切り換えるときに、所定時間だけ励磁電流指令を例えば200%に増幅する(時刻t1)。これにより、2次磁束の立ち上がりを早め、位置制御の動作開始を早めることができる(時刻t2)。
しかし、励磁電流を急激に変化させることで生じるトルク変動が静止摩擦力よりも大きくなってしまい、励磁電流増幅時に誘導モータ2が動いてしまうという問題がある。
【0061】
そこで、本実施形態でも、
図10に示すように、動作プログラムを先読みして速度指令から位置指令への動作指令の変更(制御モード切換信号)を事前に検知し、速度指令から位置指令へ動作指令が変更する時刻t1までに2次磁束が十分に立ち上がるように、時刻t1よりも所定時間だけ早い時刻t0において磁束指令又は励磁電流指令を増加させる。
【0062】
具体的には、
図7Aに示すように、数値制御部100Aは、
図1Aに示す数値制御部100と同様に、事前検知部10、記憶部11及び設定部12を備える。また、主軸制御部200Aは、
図1Aに示す主軸制御部200と同様に、事前変更部20を備える。
【0063】
事前検知部10は、動作プログラムを先読みして、速度指令から位置指令への動作指令の変更、すなわち誘導モータ2の2次磁束を増加させる必要がある動作指令の変化を事前検知する。本実施形態では、事前検知部10は、現在から動作指令の変更までの時間が設定部12で設定された設定値以下である動作指令の変更を検知する。換言すれば、事前検知部10は、設定部12で設定された変更タイミングを経過するときに、速度指令から位置指令への動作指令の変更を検知する。事前検知部10は、検知結果を示す検知信号を事前変更部20に送信する。
【0064】
事前変更部20は、検知信号が示す検知結果に基づいて、事前検知部10で速度指令から位置指令への動作指令の変更が事前に検知された場合に、速度指令から位置指令への動作指令の変更に先行して磁束指令又は励磁電流指令を増加させることにより、誘導モータ2の2次磁束を増加させる。
例えば、事前変更部20は、
図7A及び
図2Aに示すように、電流制御部230における磁束指令発生部231に変更指令を行う。これにより、磁束指令発生部231は、
図10に示すように、速度指令から位置指令への動作指令の変更に先行して磁束指令を増加する。
また、事前変更部20は、
図7A及び
図2Bに示すように、電流制御部230における励磁電流指令発生部241に変更指令を行う。これにより、励磁電流指令発生部241は、
図10に示すように、速度指令から位置指令への動作指令の変更に先行して励磁電流指令を増加する。
【0065】
なお、本実施形態でも、
図7Bに示すように、主軸制御部200Aが、事前検知部10、記憶部11及び設定部12を備えてもよい。
【0066】
次に、
図11を参照して、第2実施形態に係るモータ制御装置1Aによる先読み動作について説明する。
【0067】
まず、事前検知部10は、動作プログラムを先読みして(S1)、現在から、速度指令から位置指令への動作指令の変更までの時間を計測し(S12)、計測した時間が設定部12で設定された設定値以下であるか否かを判定する(S3)。
【0068】
計測した時間が設定値以下である場合、すなわち、事前検知部10が速度指令から位置指令への動作指令の変更を事前に検知した場合、事前変更部20は、磁束指令又は励磁電流指令を増加させ、誘導モータ2の2次磁束を増加させる(S4)。
【0069】
一方、計測した時間が設定値よりも長い場合、すなわち、事前検知部10が速度指令から位置指令への動作指令の変更を検知したがまだ早い場合、或いは、事前検知部10が速度指令から位置指令への動作指令の変更を検知しない場合、先読み動作を終了する。
【0070】
モータ制御装置1Aは、例えば設定部12で設定された設定値よりも十分に短い時間間隔で、上述したステップS1,S12,S3及びS4の動作を繰り返す。
【0071】
以上説明したように、第2実施形態のモータ制御装置1Aによれば、動作プログラムを先読みして速度指令から位置指令への動作指令の変更を事前に検知し、速度指令から位置指令への変更に先行して磁束指令又は励磁電流指令を増加させ、誘導モータ2の2次磁束を増加させる。これにより、速度制御時に、誘導モータの発熱の低減のために誘導モータ2の軽負荷時に磁束弱め制御を行っても、速度制御から位置制御への制御モード切換時には、誘導モータ2の2次磁束を十分に立ち上げることができ、十分なトルクを得られ、加速時間を短縮できる。
このように、第2実施形態のモータ制御装置1Aによれば、誘導モータ2の軽負荷時の磁束弱めによる誘導モータ2の発熱の低減と、速度指令から位置指令への動作指令の変更時の誘導モータ2の位置制御の高い応答性との両立を図ることができる。
【0072】
また、第2実施形態のモータ制御装置1Aによれば、磁束増幅(磁束ブースト)技術を使用する必要がないので、速度指令から位置指令への動作指令の変更時に誘導モータ2が動くことがない。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更及び変形が可能である。