(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記枠部の外壁の前記基板の厚み方向の一方側の面に対する角度は、前記蓋部の側壁の前記基板の厚み方向の一方側の面に対する角度と異なる、請求項1乃至5のいずれかに記載の弾性波装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係るSAW装置について図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
【0014】
第2の実施形態以降において、既に説明された実施形態と共通または類似する構成について、既に説明された実施形態と共通の符号を用い、また、図示や説明を省略することがある。
【0015】
<第1の実施形態>
(SAW装置等の構成)
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係るSAW装置1の平面図であり、
図1(b)は、SAW装置1の蓋部4を外した状態における平面図である。また、
図2は
図1(a)のII−II線における断面図である。
【0016】
SAW装置1は、素子基板3と、素子基板3の第1主面3a上に設けられた励振電極5と、第1主面3a上に設けられ、励振電極5に接続されたパッド7と、励振電極5を覆うとともにパッド7を露出させるカバー9と、素子基板3の第2主面3bに設けられた裏面部11とを有している。
【0017】
SAW装置1は、複数のパッド7のいずれかを介して信号の入力がなされる。入力された信号は、励振電極5等によってフィルタリングされる。そして、SAW装置1は、フィルタリングした信号を複数のパッド7のいずれかを介して出力する。各部材の具体的構成は以下のとおりである。
【0018】
素子基板3は、圧電基板によって構成されている。具体的には、例えば、素子基板3は、タンタル酸リチウム単結晶,ニオブ酸リチウム単結晶等の圧電性を有する単結晶の基板によって構成されている。素子基板3は、例えば、直方体状に形成されており、矩形状で互いに平行かつ平坦な第1主面3aおよび第2主面3bを有している。素子基板3の大きさは適宜に設定されてよいが、例えば、厚さ(Z方向)は0.2mm〜0.5mmであり、1辺の長さ(X方向またはY方向)は0.5mm〜3mmである。
【0019】
励振電極5は、第1主面3a上に形成されている。励振電極5は、いわゆるIDT(InterDigitalTransducer)であり、一対の櫛歯状電極を有している。各櫛歯状電極は、素子基板3における弾性表面波の伝搬方向に延びるバスバーと、バスバーから弾性表面波の伝搬方向に直交する方向に伸びる複数の電極指とを有している。2つの櫛歯状電極同士は、それぞれの電極指が互いに噛み合うように設けられている。
【0020】
なお、
図1等は模式図であることから、数本の電極指を有する1対の櫛歯状電極を示しているが、実際には、これよりも多数の電極指を有する複数対の櫛歯状電極が設けられてよい。また、複数の励振電極5が直列接続や並列接続等の方式で接続されたラダー型SAWフィルタが構成されてもよいし、複数の励振電極5が弾性表面波の伝搬方向に配列された2重モードSAW共振器フィルタが構成されてもよい。
【0021】
パッド7は、第1主面3a上に形成されている。パッド7の平面形状は適宜に設定されてよく、例えば、その平面形状は円形である。パッド7の数および配置位置は、励振電極5によって構成されるフィルタの構成等に応じて適宜に設定される。SAW装置1では、6つのパッド7が第1主面3aの外周に沿って配列されている場合を例示している。
【0022】
励振電極5とパッド7とは配線15によって接続されている。配線15は、第1主面3a上に形成され、励振電極5のバスバーとパッド7とを接続している。なお、配線15は、第1主面3a上に形成された部分だけでなく、異なる信号が流れる2つの配線15同士を間に絶縁体を介在させた状態で立体交差させるようにしてもよい。
【0023】
励振電極5、パッド7および配線15は、例えば、互いに同一の導電材料によって構成されている。導電材料は、例えば、AlまたはAl−Cu合金等のAl合金である。また、励振電極5、パッド7および配線15は、例えば、互いに同一の厚さで形成されており、これらの厚さは、例えば、100〜500nmである。また、配線15同士を立体交差させる場合は、第1主面3a側の配線15を例えばAl−Cu合金で形成し、その上に絶縁体を介して配置される配線15を、例えば下から順にCr/Ni/Au、あるいはCr/Alとした多層構造の配線によって形成する。なお、立体配線の上側の配線をCr/Ni/Auによって形成した場合は、最上層のAuと樹脂との密着性が比較的弱いことから、樹脂からなるカバー9がこの立体配線上に積層されないようにするとよい。これにより、カバー9の剥がれを抑制することができる。一方、立体配線の上側の配線をCr/Alによって形成した場合は、この立体配線上にカバー9が積層されるようにしてもよい。
【0024】
なお、パッド7には、励振電極5と同一の材料および同一厚さの層に加えて、導電性接合材との接続性を高める等の目的で接続強化層6が設けられている。接続強化層6は、例えば、パッド7に重ねられたニッケルの層と、ニッケルの層に重ねられた金の層とからなる。
【0025】
カバー9は、例えば、隣接するパッド7の間に張り出す張出部9aを有し、張出部9aを除いた平面形状が、概略、矩形状をなしている。換言すれば、カバー9はパッド7を覆う程度の大きさを有する矩形からパッド7が露出するように切り欠いた形状と捉えることもできる。
【0026】
カバー9は、第1主面3a上に設けられ、第1主面3aの平面視において励振電極5を囲む枠部2と、枠部2に重ねられ、枠部2の開口を塞ぐ蓋部4とを有している。そして、第1主面3a、枠部2および蓋部4により囲まれた空間によって、励振電極5により励振されるSAWの振動を妨げないようにするための振動空間21が形成されている。
【0027】
振動空間21の平面形状は、適宜に設定されてよいが、SAW装置1では、概ね矩形状である。なお、カバー9は、振動空間21を構成する凹部が下面側に形成された形状であると捉えてもよい。
【0028】
枠部2は、概ね一定の厚さの層に振動空間21となる開口が1以上形成されることによって構成されている。枠部2の厚さ(振動空間21の高さ)は、例えば、数μm〜30μmである。蓋部4は、概ね一定の厚さの層によって構成されている。蓋部4の厚さは、例えば、数μm〜30μmである。
【0029】
蓋部は4の平面形状は、例えば、枠部2の平面形状と概ね同じであり、枠部2よりも蓋部4の方が一回り小さくなるように形成されている。換言すれば、枠部2は、平面視したときに枠部2の外周に沿った部分が蓋部4からわずかにはみ出るような大きさとされている。
【0030】
枠部2および蓋部4は、同一の材料によって形成されていてもよいし、互いに異なる材料によって形成されていてもよい。本願では、説明の便宜上、枠部2と蓋部4との間を境界線として明示しているが、現実の製品においては、枠部2と蓋部4とは、同一材料によって一体的に形成されていてもよい。
【0031】
カバー9(枠部2および蓋部4)は、感光性の樹脂によって形成されている。感光性の樹脂は、例えば、アクリル基やメタクリル基等のラジカル重合により硬化する、ウレタンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系の樹脂である。その他、ポリイミド系の樹脂等も用いることができる。
【0032】
裏面部11は、例えば、素子基板3の第2主面3bの概ね全面を覆う裏面電極と、裏面電極を覆う絶縁性の保護層とを有している。裏面電極により、温度変化等によって素子基板3表面にチャージされた電荷が放電される。保護層により、素子基板3の損傷が抑制さ
れる。なお、以下では、裏面部11について、図示や説明を省略することがある。
【0033】
図3は
図2における領域IIIの拡大図である。
【0034】
素子基板3の第1主面3a上には保護層8が配置されており、カバー9は保護層8の上に配置されている。保護層8は、励振電極5を覆って励振電極5の酸化防止等に寄与するものである。保護層8は、例えば、酸化珪素(SiO
2など)、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化珪素またはシリコンによって形成されている。保護層8の厚さは、例えば、励振電極5の厚さの1/10程度(10〜30nm)、または励振電極5よりも厚く、200nm〜1500nmである。
【0035】
パッド7あるいは接続強化層6は保護層8から露出している。なお、
図3では、保護層8の接続強化層6を露出させるための開口は、接続強化層6と同一の形状および面積とされているが、当該開口は、接続強化層6よりも大きくてもよいし、小さくても(保護層8の開口周囲の部分が接続強化層6の外周部を覆っていても)よい。
【0036】
同図に示すように、SAW装置1は蓋部4が下垂部4aを有している。下垂部4aは、蓋部4のうち、枠部2の内壁2aの上辺から連なって内壁2aの少なくとも一部を被覆している部分である。SAW装置1では、下垂部4aは枠部2の内壁2aの概ね上半分を被覆している。蓋部4にこのような下垂部4aを設けることによって、蓋部4と枠部2との接触面積が増加するため、蓋部4と枠部2との剥がれを抑制することができる。加えて、蓋部4と枠部2との境界部分から外部の水分が浸入するときに、その浸入経路が白抜き矢印で示したように下垂部4aが枠部2の内壁に接触している分だけ長くなるため、振動空間21内に水分が入り込みにくくなる。よって、振動空間内の励振電極5等の腐食を抑制することができ、長期にわたってSAW装置1の電気特性を安定化させることができる。
【0037】
下垂部4aは、平面視したときに例えば環状に形成されている。すなわち、枠部2の内壁2aに沿って一回りするように内壁2aを被覆している。これによって、蓋部4と枠部2との間からの水分の浸入抑制効果をより高めることができる。
【0038】
下垂部4aは、例えば、蓋部4を枠部2に貼り付ける際の温度等の条件を調整することによって形成することができる。例えば、樹脂製の蓋部4と樹脂製の枠部2と貼り付けるためにある程度高い温度で加熱を行うことがあるがその際の温度を通常より若干高めにし、その温度の保持時間を通常より若干長めにするなど温度や保持時間を調整することによって樹脂製の蓋部4の一部が枠部2の内壁2aに沿って垂れてその部分が固り、それによって下垂部4aとすることができる。なお、下垂部4aが形成されるのに伴って蓋部4の上面のうち下垂部4aの直上領域には微小凹部4bが形成されることがある。
【0039】
枠部2の外壁2bは素子基板3の第1主面3aに向かうほど外側に向かうように傾斜している。枠部2の外壁2bの第1主面3aに対する角度αは、例えば、80°程度である。外壁2bの下端は接続強化層6(接続強化層6がない場合はパッド7)から離れている。その距離は、例えば、40μmから65μmである。
【0040】
蓋部4の側壁4cは、枠部2の外壁2bと同様に素子基板3の第1主面3aに向かうほど外側に向かうように傾斜していてもよいし、傾斜していなくてもよい。蓋部4の外壁4bの主面3aに対する角度βは、例えば、角度αと同じであってもよいし、大きくしてもよいし、小さくしてもよい。また、蓋部4の側壁4cは枠部2の外壁2bよりも若干内側に位置している。換言すれば、平面視したときに蓋部4は枠部2より一回り小さくされている。例えば、蓋部4の側壁4cは、枠部2の外壁2bよりも数μmから数十μm内側に位置している。
【0041】
図4は、SAW装置1が実装された電子部品51の一部を示す断面図である。
【0042】
電子部品51は、実装基板53と、実装基板53の実装面53a上に設けられたパッド55と、パッド55上に配置された導電性接合材57と、導電性接合材57を介して実装面53aに実装されたSAW装置1と、SAW装置1を封止するモールド樹脂59とを有している。
【0043】
なお、電子部品51は、例えば、この他に、実装基板53に実装されモールド樹脂59によってSAW装置1とともに封止されたIC等を有し、モジュールを構成している。
【0044】
実装基板53は、例えば、プリント配線板によって構成されている。プリント配線板は、リジッド基板であってもよいし、フレキシブル基板であってもよい。また、プリント配線板は、1層板であってもよいし、2層板であってもよいし、2層以上の多層板であってもよい。また、プリント配線板の基材、絶縁材料および導電材料は適宜な材料から選択されてよい。
【0045】
導電性接合材57は、SAW装置1のパッド7および実装基板53のパッド55の両方に当接している。導電性接合材57は、加熱によって溶融してパッド7に接着される金属によって形成されている。導電性接合材57は、例えば、はんだからなる。はんだは、Pb−Sn合金はんだ等の鉛を用いたはんだであってもよいし、Au−Sn合金はんだ、Au−Ge合金はんだ、Sn−Ag合金はんだ、Sn−Cu合金はんだ等の鉛フリーはんだであってもよい。
【0046】
モールド樹脂59は、例えば、エポキシ樹脂、硬化材およびフィラーを主成分としている。モールド樹脂59は、SAW装置1を裏面部11側および側方から覆うだけでなく、SAW装置1と実装基板53との間にも充填されている。具体的には、モールド樹脂59は、カバー9の上面と実装基板53の実装面53aとの間および導電性接合材57の周囲にも充填されている。
【0047】
導電性接合材57は、例えば導体バンプなどの概ね球状であったものがパッド7とパッド55とによって潰された形状である。すなわち、導電性接合材57はパッド7およびパッド55に接する2平面と、2平面を接続する外周面とを有し、その2平面および外周面は平面視において円形状であり、外周面は側面視において中央側が外側に突出する曲面状となっている。
【0048】
導電性接合材57のパッド7およびパッド55に接する平面の面積は、好適には、パッド7およびパッド55の面積と同じかそれ以下である。
【0049】
枠部2の側壁2bおよび蓋部4の側壁4bは、その全体に亘って、導電性接合材57に接していない。従って、カバー9(枠部2および蓋部4)の外壁と導電性接合材57との隙間は、カバー9の上面から下面に亘るまで形成され、その隙間にモールド樹脂59が充填されている。
【0050】
このように枠部2の側壁2bおよび蓋部4の側壁4bが、その全体に亘って導電性接合材57に接しておらず、それらの側壁と導電性接合材57との間にモールド樹脂が充填されていることから、導電性接合材57は、カバー9の外壁の形状の影響を受けにくい。その結果、例えば、カバー9の外壁とカバーの上面との角部等によって、導電性接合材57に応力集中が生じやすい形状が形成されることが抑制され、導電性接合材57のクラックの発生が抑制される。これらの効果は、特に、実施形態のように、モールド樹脂59が、
カバー9の上面から下面に亘って、導電性接合材57とカバー9の外壁との間に充填されているときに顕著となる。
【0051】
また、先に述べたようにカバー9を構成する枠部2の外壁2bは、素子基板3の主面3aに向かうほど広がるように傾斜しており、この傾斜した外壁2bにモールド樹脂59が接している。
【0052】
従って、例えば、傾斜した外壁2bと導電性接合材57との間において、モールド樹脂59がカバー9の上面側から下面側へ流れ込みやすくなり、モールド樹脂59に空洞ができることが抑制される。モールド樹脂59に空洞が存在すると、リフロー時に熱が印加された際にその空洞が膨張し、SAW装置1の実装不良の要因となることがあるが、空洞の形成が抑制されるため、そのような実装不良等の発生が抑制される。
【0053】
また、蓋部4の外壁4cが枠部2の外壁2bよりも内側に位置しているため、上述した枠部2の外壁2bが傾斜していることによる効果と同様の効果が期待される。すなわち、カバー9の外壁と導電性接合材57との間において、モールド樹脂59がカバー9の上面側から下面側へ流れ込みやすくなる。
【0054】
(SAW装置の製造方法)
図5(a)〜
図6(c)は、SAW装置1および電子部品51の製造方法を説明する断面図(
図1のIII−III線に対応)である。製造工程は、
図5(a)から
図6(c)まで順に進んでいく。
【0055】
SAW装置1の製造方法に対応する
図5(a)〜
図6(a)の工程は、いわゆるウエハプロセスにおいて実現される。すなわち、分割されることによって素子基板3となる母基板を対象に、薄膜形成やフォトリソグラフィー法等が行われ、その後、ダイシングされることにより、多数個分のSAW装置1が並行して形成される。ただし、
図5(a)〜
図6(a)では、1つのSAW装置1に対応する部分のみを図示する。また、導電層や絶縁層は、プロセスの進行に伴って形状が変化するが、変化の前後で共通の符号を用いることがあるものとする。
【0056】
図5(a)に示すように、まず、素子基板3の主面3a上には、励振電極5、パッド7および配線15が形成される。具体的には、まず、スパッタリング法、蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の薄膜形成法によって、主面3a上に金属層が形
成される。次に、金属層に対して、縮小投影露光機(ステッパー)とRIE(Reactive Ion Etching)装置とを用いたフォトリソグラフィー法等によってパターニングが行われる。パターニングにより、励振電極5、配線15およびパッド7が形成される。
【0057】
励振電極5等が形成されると、
図5(b)に示すように、保護層8が形成される。具体的には、まず、適宜な薄膜形成法によって保護層8となる薄膜が形成される。薄膜形成法は、例えば、スパッタリング法またはCVDである。次に、パッド7が露出するように、RIE等によって薄膜の一部が除去される。これにより、保護層8が形成される。
【0058】
保護層8が形成されると、
図5(c)に示すように、枠部2となる、感光性樹脂からなる薄膜が形成される。薄膜は、例えば、フィルムが貼り付けられることによって形成される。フィルムは、例えば、ベースフィルム31と、ベースフィルム31に貼り付けられた枠部2となる樹脂層17とを有している。樹脂層17を保護層8に密着させた後、矢印y1によって示すように、ベースフィルム31が剥がされる。なお、枠部2となる薄膜は、保護層8と同様の薄膜形成法によって形成されてもよいし、その他、スピンコート法等によって形成されてもよい。
【0059】
枠部2となる薄膜が形成されると、
図5(d)に示すように、フォトリソグラフィー法等によって、励振電極5上の薄膜およびパッド7が配置された素子基板3の外周に沿った領域の薄膜が除去される。また、薄膜は、ダイシングライン上においても、一定の幅で除去される。このようにして枠部2が形成される。なお、枠部2となる薄膜がフィルムの貼り付けによって形成される場合において、ベースフィルム31を剥がす工程は、フォトリソグラフィーの露光工程後に行われてもよい。
【0060】
枠部2が形成されると、
図6(a)に示すように、蓋部4となる、感光性樹脂からなる薄膜が形成される。薄膜は、例えば、フィルムが貼り付けられることによって形成される。フィルムは、例えば、ベースフィルム32と、ベースフィルム32に貼り付けられた蓋部4となる樹脂層18とを有している。そしてベースフィルム32が張り付けられた状態の樹脂層18を加熱することによって樹脂層18と枠部2とを接着する。樹脂層18と枠部2との接着は、例えば、素子基板3を40℃から50℃程度に加熱したステージ29に置き、その状態で同じく40℃から50℃程度に加熱したローラー30を回転させながらベースフィルム32が貼り付けられた樹脂層18に押し当てることによって行う。このときにステージ29およびローラー30の温度、ローラーの回転速度等を所定の条件に設定すると、軟化した樹脂層18を枠部2の内壁2aに沿って垂れるようにすることができ、この垂れた部分が下垂部4aとなる。下垂部4aの形状は、ステージ29およびローラー30の温度、ステージ29への保持時間、ローラーの回転速度等を調整することによってある程度制御することができる。例えば、枠部2および樹脂層18の材料としてエポキシアクリレートを使用し、枠部2および樹脂層18の厚みがともに30μmである場合に、ステージ29およびローラー30を通常の接着時の温度よりも数℃高い42℃から45℃程度にすることによって、枠部2の内壁2aのおおよそ上半分を被覆する下垂部4aを形成することができる。
【0061】
その後、ベースフィルム32を剥がし、
図6(b)に示すようにフォトリソグラフィー法等により、蓋部4となる樹脂層18の外周に沿った領域が除去され、下垂部4aを有する蓋部4が形成される。また、薄膜はダイシングライン上においても一定の幅で除去される。蓋部4が形成されることによって、保護層8、枠部2および蓋部4によって囲まれた空間からなる振動空間21が形成されることとなる。なお、振動空間21の形成方法はこれに限らず、例えば、振動空間21を形成すべき部分に犠牲層をあらかじめ形成しておき、カバーとなる樹脂を犠牲層を覆うようにして形成した後、最後に犠牲層を除去することによって形成するようにしてもよい。
【0062】
蓋部4が形成されると、
図6(c)に示すように、SAW装置1はウェハから切り出され、実装基板53に実装される。SAW装置1の実装前において、実装基板53の実装面53aには、パッド55および導電性接合材57が設けられている。導電性接合材57は、SAW装置1を接合する前に導体バンプである場合であれば、例えば、蒸着法、めっき法もしくは印刷法によって、表面張力の影響等を利用することによって概ね球状もしくは半球状に形成されている。
【0063】
そして、SAW装置1は、カバー9の上面を実装面53aに対向させて配置される。導電性接合材57は、SAW装置1側のパッド7に当接し、SAW装置1を支持する。その後、SAW装置1および実装基板53は、リフロー炉に通されることなどによって一時的に加熱され、導電性接合材57の溶融および凝固によって導電性接合材57とパッド7とが固定される。
【0064】
その後、SAW装置1は、モールド樹脂59によって覆われる。モールド樹脂59は、例えばトランスファーモールド法もしくは印刷法によってSAW装置1の周囲に供給され
る。SAW装置1の周囲に供給されたモールド樹脂59は、付与された圧力によってカバー9の上面と実装面53aとの間に流れ込み、さらには、カバー9の側面と導電性接合材57との間に流れ込む。そして、
図4に示したように電子部品51が製造される。
【0065】
(変形例)
図7は第1の実施形態におけるSAW装置1の変形例を示す拡大断面図である。なお、
図7の断面図は
図4で示した部分に対応している。
【0066】
この変形例にかかるSAW装置1は、下垂部4aの形状が
図1に示したSAW装置1とは異なっている。具体的には、変形例に係るSAW装置1では下垂部4aの下端が素子基板3の第1主面3aまで達している。このように下垂部4aの下端を第1主面3aまで達していることによって下垂部4aと枠部2の内壁2aとの接触面積が増えるため、蓋部4と枠部2との接着強度をより向上させることができると同時に、蓋部4と枠部2との間における水分の浸入経路が長くなるため、振動空間21に水分がより入り込みにくくなる。さらに、枠部2の素子基板3からの剥がれが生じた場合でも、下垂部4aの下端が素子基板3が接触している分、枠部2の外壁2b下端から振動空間21までの水分の浸入経路が長くなる。よって、これによっても水分の振動空間21への浸入を抑制し、励振電極5等の腐食を抑制することができる。
【0067】
図23は第1の実施形態におけるSAW装置1の別の変形例を示す拡大断面図であり、
図4で示した部分に対応する箇所の拡大断面図である。
【0068】
まず
図23(a)に示す変形例では、下垂部4aが枠部2の外壁側にも設けられている。すなわち、
図23(a)に示すSAW装置1は、枠部2の内壁2aの上辺から連なって内壁2aの一部を被覆している下垂部4aおよび枠部2の外壁2bの上辺から連なって外壁2bの一部を被覆している下垂部4aを有している。
【0069】
このように内壁2a側だけでなく外壁2b側にも下垂部4aを形成することによって、枠部2と蓋部4との接触面積がより増加するため、枠部2と蓋部4との剥がれ抑制効果を向上させることができる。また、外部からの水分の浸入経路となり得る枠部2と蓋部4との間の部分が長くなるため、振動空間21への水分の浸入抑制効果も向上する。
【0070】
一方、
図23(b)に示す変形例では、下垂部4aは枠部2の外壁側にのみ設けられており、枠部2の内壁側には設けられていない。このように枠部2の外壁側にのみ下垂部4aを設けた場合も、枠部2の内壁側にのみ下垂部4aを設けた上述のSAW装置1と同様に、枠部2と蓋部4との剥がれを抑制するとともに、振動空間21への水分の浸入を抑制できる。特に、励振電極5と枠部2の内壁2aとの距離が近い場合は、内壁2a側に下垂部4aを形成すると下垂部4aが励振電極5に接触しやすくなるため、
図23(b)に示すSAW装置のように枠部2の外壁2b側にのみ下垂部4aを形成することによって、下垂部4aの励振電極5への接触を防ぎつつ枠部2と蓋部4との剥がれおよび振動空間21への水分の浸入を抑制することができる。
【0071】
なお、下垂部4aをいずれの箇所に形成するかは、例えば、
図6(a)で示したローラー30の回転速度を下垂部4aを形成する位置では遅くするなど、ローラー30の回転速度や温度等を調整することによって制御することができる。
【0072】
<第2の実施形態>
図8は、第2の実施形態のSAW装置101を示す、
図2に相当する断面図である。SAW装置101は、カバー9の上面に配置された補強層22を有している。
【0073】
補強層22は、カバー9(特に蓋部4)の強度を補強するためのものである。補強層22は、カバー9の比較的広い範囲に亘って形成されている。例えば、補強層22は、カバー9の上面の概ね全面に亘って形成されている。従って、補強層22は、平面視において、振動空間21の概ね全体を覆うとともに振動空間21の外側に延出し、蓋部4とともに枠部2に支持されている。
【0074】
SAW装置101は下垂部4aを有していることから、カバー9の上面のうち下垂部4aの直上領域には微小凹部4bが形成されているが、補強層22はこの微小凹部4bの内面に接しながら形成されている。よって補強層22とカバー9の上面との接触面積が増えるなどして補強層22のカバー9からの剥がれを抑制することができる。
【0075】
補強層22は、カバー9の材料よりもヤング率が高い材料によって構成されている。例えば、カバー9がヤング率0.5〜1GPaの樹脂によって形成されているのに対し、補強層22はヤング率100〜250GPaの金属によって形成されている。補強層22の厚さは、例えば、1〜50μmである。
【0076】
補強層22は、例えば、カバー9の上面に直に位置する下地層と、下地層に重なる金属部とを有している。下地層は、例えば、銅、チタン、またはこれらを積層したものによって形成されている。下地層の厚さは、例えば、下地層が銅からなる場合は300nm〜1μm、下地層がチタンからなる場合は10nm〜100nmである。金属部は、例えば、銅によって形成されている。
【0077】
<第3の実施形態>
図9は、第3の実施形態のSAW装置201を示す、
図2に相当する断面図である。
【0078】
SAW装置201は、枠部2の外壁2bから蓋部4の側壁4cにかけて被覆する封止膜23を有している。
【0079】
このように枠部2の外壁2bから蓋部4の側壁4cにかけて被覆する封止膜23を設けることによって、枠部2と蓋部4との間から浸入し得る水分等の振動空間21への浸入抑制効果をより高めることができる。
【0080】
封止膜23としては、例えば、酸化珪素、窒化珪素等の絶縁材料、銅等の金属材料を使用することができる。SAW装置201では、封止膜23を金属材料によって形成し、枠部2の外壁2bから蓋部4の側壁4cにかけてだけでなく、カバー9の上面まで連続して形成している。これによって、封止膜23を第2の実施形態におけるSAW装置101の補強層22としても使用することができる。
【0081】
また、蓋部4の側壁4cを枠部2の外壁2bよりも内側に位置させておくことによって、枠部2の外壁2bと蓋部4の側壁4cとの間の部分に段差ができるため、枠部2の外壁2bと蓋部4の側壁4cとの間の部分に十分な厚みの封止膜23を形成しやすくなる。
【0082】
<第4の実施形態>
図10は、第4の実施形態のSAW装置301を示す、
図2に相当する断面図である。SAW装置301は、端子25を有している。この端子25はパッド7と電気的に接続された状態でパッド7の上に位置している。また端子25はカバー9を縦方向に貫通し、パッド7と接続されない方の端部はカバー9の上面から露出している。端子7は例えば銅等を用いてめっき法によって形成される。
【0083】
また、このようなカバー9を貫通する端子25を設けた上、補強層22も設けている場
合には、補強層22全体を絶縁膜24によって覆っておくことが好ましい。これにより、SAW装置301を実装基板に実装した際に補強層22と端子25とが短絡するのを抑制することができる。
【0084】
かかるSAW装置301の製造方法について、
図11および
図12を用いて説明する。SAW装置301の製造工程のうち、枠部2を形成する前までの工程(
図5(a)〜
図5(c)に示した工程)はSAW装置1の製造工程と同じであるため、その部分の説明は省略し、以下では枠部2を形成する工程から説明する。
【0085】
まず、
図11(a)に示すように、SAW装置301では、柱状の端子25を形成する必要があるため、柱状の端子25が形成されるパッド7上に第1貫通孔33が形成されるように、枠部2となる樹脂層17のパターニングを行う。
【0086】
続いて、
図11(b)に示すように、蓋部4となる樹脂層18を枠部2に接着するとともに下垂部4aを形成する。かかる工程は、
図6(a)に示したSAW装置1の工程と基本的に同じである。ここで、樹脂層18として感光性のネガ型レジストを使用している。
【0087】
次に、
図11(c)に示すように、マスク40を介して樹脂層18の露光を行う。マスク40は、透明基板38および透明基板38の下面に所定のパターンで形成された遮光部39を有する。
【0088】
樹脂層18はネガ型であることから、樹脂層18のうち遮光部38によって露光されない部分が露光後の現像によって除去されることとなる。よって、遮光部38はマスク40の位置設定をしたときに樹脂層18を除去すべき位置に対応する位置に配置され、除去すべき部分の形状に対応する形状とされている。この実施形態においては、第1貫通孔33の直上部分に配置された遮光部39と、第1貫通孔33と振動空間21の間の領域の直上部分に配置された遮光部39が設けられている。
【0089】
ここで、第1貫通孔33と振動空間21との間の領域の直上部分にも遮光部39を設けた理由について、そのような遮光部39を設けない場合と比較しながら説明する。
【0090】
第1貫通孔33と振動空間21との間の領域の直上部分に遮光部39を設けていないマスク40を用いて露光を行い、その後、現像処理をすると、
図13(b)に示すように、端子25の上側部分を配置するための第2貫通孔34の内周面に微小突起26が形成される場合がある。
【0091】
このような微小突起26が形成されるメカニズムは明確にはなっていないが、樹脂層18への露光工程において、以下の現象が起こっていることによるものと推測される。
【0092】
図13(a)は、第1貫通孔33と振動空間21との間の領域の直上部分に遮光部39が設けられていないマスク40を用いて露光を行う工程を示す断面図である。
図13(a)に示すように、露光用の光Lの一部は、下垂部4aの下端において散乱され、散乱された光の一部が樹脂層18のうち第1貫通孔33の直上部分に達すると考えられる。そうすると、本来は露光させない部分が露光されてしまい、この後に現像処理を行うと、
図13(b)に示す微小突起26が形成されるものと推測される。
【0093】
このような微小突起26が第2貫通孔34の内周面に存在すると、第2貫通孔34の内周面にスパッタリング法等によってめっき下地膜を形成する際に、微小突起26が障害となって、めっき下地膜の形成されない部分ができる。めっき下地膜が存在しない部分にはめっきが成長しないため、端子25の形状がいびつになり、実装不良等の要因となる。
【0094】
一方、
図11(c)に示すように、第1貫通孔33と振動空間21との間の領域の直上部分に遮光部39を設けておくと、下垂部4aの下端部で散乱した露光用の光Lの一部が第1貫通孔33の直上領域に向かったとしても、そこに達する前に露光されていない第1貫通孔33の直上領域よりも内側の部分(
図11(c)において点線で囲った領域T)を露光し、その領域Tの感光に使用されるため、第1貫通孔33の直上領域に達しにくくなる。これによって、散乱光による第1貫通孔33の直上領域への露光が抑制され、微小突起26が形成されにくくなる。
【0095】
その後、現像処理を行うことによって、
図12(a)に示すように、第1貫通孔33に連結された第2貫通孔34が形成され、蓋部4と枠部2とからなるカバー9が完成する。また、散乱光による領域Tへの露光の照度は比較的弱いため、領域Tの感光が十分されず、溝部12が形成される。なお、溝部12が形成されないようにする場合には、
図11(c)において、領域Tに対応する遮光部39の幅を所定寸法よりも小さくすればよい。遮光部39の幅を所定寸法よりも小さくすることによって、散乱光による弱い露光によっても領域T全体が感光されるためである。
【0096】
次に、
図12(b)に示すように、めっき用レジスト層41を形成する。このめっき用レジスト層41は、端子25を形成すべき部分および補強層22を形成すべき部分に開口を有するようにパターニングされている。なお、めっき用レジスト層41を形成する前に蓋部4の上面、第1貫通孔33および第2貫通孔34の内周面、ならびに第1貫通孔の底面にめっき下地膜を形成しておく。めっき下地膜の成膜は、例えば、スパッタリング法等によって行われる。
【0097】
次に、
図12(c)に示すように、めっき法によって端子25と補強層22とを形成する。
【0098】
具体的には、まず、めっき用レジスト層41から露出しているめっき下地膜に対してめっき処理を施し、めっきを成長させる。そして、成長しためっきの上面を化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)等によって平坦化し、めっき用レジスト層41を除去する。これによって、端子25と補強層22とが完成する。
【0099】
めっき法は、適宜に選択されてよいが、電気めっき法が好適である。電気めっき法は、柱状の端子25の高さの自由度が高く、また、めっき下地膜との密着性が良好なためである。
【0100】
最後に、補強層22を覆う絶縁膜24を形成する。絶縁膜24は、例えば、ネガ型の感光性樹脂をスピンコート法等によってカバー9の上面に塗布した後、露光・現像処理をしてパターニングを行うことによって形成することができる。なお、この絶縁膜24を溝部12に充填するようにしてもよい。以上の工程を経て、SAW装置301が完成する。
【0101】
(変形例)
図14は、第4の実施形態におけるSAW装置301の変形例を示す断面図である。この変形例は、カバー9の上面のうち、カバー9を平面視したときに端子25と振動空間21との間に位置する部分に溝部12を形成し、その溝部12に補強層22の一部が嵌まるようにしたものである。このように、補強層22の一部を溝部12に嵌めることによって、補強層22のカバー9からの剥がれを抑制することができる。補強層22を嵌めるための溝部12は、例えば、
図11(c)に示したように、溝部12を形成すべき位置に遮光部39を設けたマスク40を用いて露光を行うことによって形成することができる。
【0102】
<第5の実施形態>
図15は、第5の実施形態のSAW装置401を示す平面図である。なお、
図15では振動空間21の外周(枠部の内壁2a)を点線で示している。
【0103】
SAW装置401は、素子基板3の主面3aの所定の領域に凹部10を有している。凹部10は、
図15に示すように、平面視したときに枠部2から露出するようにして設けられている。
【0104】
図16は、
図15のXVI−XVI線における部分断面図である。SAW装置401では、平面視したときに凹部10がちょうど枠部2の外壁2bに接する位置に設けられている。
【0105】
このような凹部10を素子基板3の主面3aに設けることによって、周囲の温度が変化した際などにカバー9にかかる応力を低減させることができることを、シミュレーションによって確かめた。
【0106】
図17はそのシミュレーションに用いたSAW装置の基準解析モデルSである。なお、基準解析モデルSは、回転対称軸Aを回転軸として形成される立体の一部分を切り出して簡易モデル化したものである。素子基板3の材料はタンタル酸リチウム単結晶とし、カバー9は、−40℃における熱膨張率が38.5ppm/℃(実測値)で、85℃における熱膨張率が50ppm/℃(実測値)である材料とした。各部分の寸法は
図17に示したとおりである。そして基準解析モデルSのSAW装置に、各種凹部10または切欠き部13を形成したものを解析モデルA〜Eとした。
【0107】
解析モデルAは、基準解析モデルSに
図16に示した凹部10を形成したものであり、凹部10は枠部2の外壁2bに接する位置に形成されている。解析モデルBは、基準解析モデルSに
図18(a)に示した凹部10を形成したものであり、凹部10は、一部が枠部2の下に位置し、残りの部分が枠部2から外側の領域に露出している。解析モデルCは、基準解析モデルSに
図18(b)に示した凹部10を形成したものであり、凹部10は、全体が枠部2の下に位置している。解析モデルDは、
図18(c)に示した凹部10を基準解析モデルSに形成したものであり、凹部10は、全部が枠部2から露出している。解析モデルEは、基準解析モデルSに凹部10ではなく切欠き部13を形成したものである。この切欠き部13は、枠部2の外壁2bの素子基板3の主面に接する部分を起点として素子基板3の角部を側面に至るまで切り欠くようにして形成されたものである。
【0108】
これらの各解析モデルについて、環境温度を85℃から−40℃にしたときに、カバー9にかかる最大主応力を有限要素法によるシミュレーションによって調べた。その結果を表1に示す。なお、表1には各解析モデルに設けた凹部10または切欠き部13の深さdおよび幅wの寸法も併せて記載している。
【0110】
この表に示す結果からわかるように、解析モデルC以外、すなわち解析モデルA、解析モデルB、解析モデルDおよび解析モデルEでは、基準解析モデルSと比べてカバー9にかかる最大主応力が小さくなった。一方、解析モデルCは、逆に最大主応力が基準解析モデルSに比べて大きくなった。
【0111】
この結果から考察するに、素子基板3の主面3aのうち振動空間21を区画する枠部2の内壁2aの下端に位置する部位よりも外側の領域に、平面視したときに、一部が枠部2の下に位置するか、または全部が枠部2の外側に位置する凹部10、あるいは枠部2の外壁2bの下端の近傍から素子基板3の側面まで達している切欠き部13を形成することによって、大きな温度変化が生じた際などにカバー9にかかる応力を低減させることができるといえる。このようにカバー9にかかる応力が低減されることによって、カバー9の素子基板3からの剥がれを抑制することができる。
【0112】
このように凹部10または切欠き部13を形成することによって、カバー9にかかる応力を低減させることができる理由は必ずしも明らかではないが、1つの理由としては、熱応力が緩和されることによるものであると考えられる。SAW装置において、素子基板3を圧電材料によって形成し、カバー9を樹脂によって形成した場合は、素子基板3とカバー9との熱膨張係数の違いによって、周囲の環境の温度変化に応じてカバー9に熱応力が生じる。このときに例えば、
図16に示すように凹部10を設けておくと、カバー9(枠部2)の白抜き矢印S1で示す収縮に追従して素子基板3も白抜き矢印S2に示すように幾分変形するようになり、これによってカバー9の熱応力が低減されるものと考えられる。
【0113】
なお、
図18(c)に示した解析モデルDにおいては、凹部10の枠部2側の縁と枠部2の外壁2bとの間隔を4μmとしたが、その間隔が4μmより大きくなるとカバー9によって発生する応力を緩和する効果が低減する。このことから、凹部10または切欠き部13は、枠部2の近傍、より具体的には少なくとも枠部2側の縁が枠部2に接する位置に形成すれば、応力緩和効果を高めることができると考えられる。
【0114】
凹部10の断面形状は、
図16、
図18(a)〜(c)に示したように、矩形状のものに限られず、
図19(a)に示すように三角形状のものでもよいし、
図19(b)に示すように底が円弧状になったものなどでもよい。また、切欠き部13の断面形状についても、
図18(d)に示したように三角形状に切り欠いたものに限られず、
図19(c)に示すように、例えば、矩形状に切り欠いたものでもよい。
【0115】
また、
図15に示すように、素子基板3の平面形状が長方形状である場合には、素子基板3の短辺側において枠部2にクラックが発生しやすくなるという傾向が見られる。これについての原因は明らかではないが、素子基板3の短辺側は素子基板3に反りが生じた場合に大きな応力がかかりやすいため、その部分に蓋部4の収縮応力が加わることによって、蓋部4のエッジを起点としてクラックが生じるということが1つの要因として考えられる。そこで、素子基板3の平面形状が長方形状である場合には、凹部10あるいは切欠き部13を、素子基板3の主面3aの短辺側に形成しておけば、枠部2にかかる応力が緩和される結果、枠部2におけるクラックの発生を抑制することができるものと考えられる。
【0116】
なお、凹部10または切欠き部13の形成位置は、
図15に示したものに限られず、例えば、
図20に示すように、主面3aの各辺に形成してもよい。その他、素子基板3の主面3aの外周に沿って枠状に形成してもよいし、凹部10と切欠き部13の両方を混在させて形成してもよい。
【0117】
このような凹部10および切欠き部13は、上述したSAW装置の製造方法の過程において、例えば、
図5(b)で示した保護層8を形成した段階、
図5(d)で示した枠部2を形成した段階、あるいは
図6(c)の前のウエハ状の素子基板3の集合体を素子基板3ごとに切断する前の段階などにおいて、ダイシングブレード等を用いて素子基板3の主面3aに切り込みを入れることなどによって形成することができる。
【0118】
<第6の実施形態>
図21は、第6の実施形態のSAW装置501を示す断面図であり、
図22は
図21に示す領域Eの拡大図である。
【0119】
第6の実施形態におけるSAW装置501は、カバー9(枠部2)の下端部に伸長部14を有している。伸長部14は、カバー9の素子基板3との接合部の外面側および内面側に素子基板3の主面3aに沿って伸びている。換言すれば、伸長部14は、枠部2の内壁2a側においては、この内壁2aから振動空間21に向かって伸び、枠部2の外壁2b側においては、この外壁2bから素子基板3の外周に向かって伸びている。また、伸長部14は、カバー9の下端部のほぼ全周にわたって設けられているが、配線15の近傍には設けられていない。
【0120】
このような伸長部14が形成されていることによって、伸長部14の分だけカバー9と主面3aとの間における振動空間21への水分等の浸入経路が長くなるため、振動空間21の気密性を長時間にわたって正常な状態に保持することができる。よって、振動空間内の励振電極5等の腐食を抑制することができ、長期にわたってSAW装置1の電気特性を安定化させることができる。
【0121】
伸長部14は、例えば、カバー9と同一材料からなり、カバー9と一体的に形成されている。このように伸長部14をカバー9と一体的に形成すれば、カバー9の主面3a側への接触面積が伸長部14の分だけ大きくなるとみなすことができるため、カバー9の素子基板3への密着性が向上し、カバー9の素子基板3からの剥離を抑制することができる。なお、伸長部14はカバー9とは別の材料によって形成してもよい。
【0122】
外部からの水分等の浸入経路を長くするという観点からすれば、枠部2の幅をそのまま大きくすることも考えられる。しかし、枠部2のように厚みの大きいものは、励振電極5および素子基板3に対し所定の距離だけ離しておく必要があるため、単純に大きくすることはできない。これは、励振電極5側においては、励振電極5に枠部2のように厚みの大きいものが触れると励振電極5の振動に大きな影響を与えてしまい電気特性の劣化を招くためであり、素子基板3の外周側では、その部分がウエハのダイシングラインになっていることから、ダイシングライン上に厚みの大きい枠部2が存在していると、ウエハの切断時に素子基板3等に欠けが発生しやすくなることによるものである。さらには後述するようにSAW装置501を他の実装基板に実装し、そのSAW装置501全体を外装樹脂によって被覆するような場合には、カバー9の外壁が素子基板2の外周付近まできていると、SAW装置1と実装基板の主面との間に外装樹脂が入りこみにくくなり、その部分に空隙ができやすくなるという不具合も発生する。
【0123】
これに対し、伸長部14はカバー9の下端部から伸びるようにして薄く形成されていることから、仮に伸長部14が励振電極5に触れたり、あるいは素子基板3の外周付近まで伸びていたとしても上記の不具合が抑制される。特に伸長部14を外方に向かうにつれて漸次厚みが小さくなるように形成しておけば、その先端が励振電極5に触れても電気特性に大きな影響を与えることがなく、また、素子基板3の外周付近まで伸びていたとしてもウエハのダイシング時に素子基板3等に欠けが発生するのをより効果的に抑制することができる。さらには、SAW装置501を他の実装基板に実装して、外装樹脂によって被覆するような場合には、SAW装置1と実装基板との間に空隙が形成されるのを抑制することができる。伸長部14の最も厚みの厚い部分、すなわちカバー9との接続部分における厚みは、例えば、枠部2の厚みの1/30〜1/10となっている。具体的には、枠部2の厚みが30μmである場合に伸長部14の最も厚みの厚い部分の大きさは1.5μmである。なお、伸長部14の水平方向の幅は例えば40μm程度である。
【0124】
伸長部14の断面形状は、
図22に示した三角形状のものに限らず、外周が円弧状のもの、台形状のもの、矩形状のもの等も可能である。
【0125】
<第7の実施形態>
図24(a)乃至(c)は、第7の実施形態のSAW装置601を示す、
図3に対応する部分の拡大断面図である。
【0126】
図24(a)乃至(c)に示すSAW装置601は、いずれも枠部2の上面に凹凸部が形成されている。一方、蓋部4の下面には枠部2に形成した凹凸部に嵌まる凹凸部が形成されており、蓋部4が枠部2に重なった状態において、蓋部4の凹凸部は枠部2の凹凸部に嵌まっている。
【0127】
このような凹凸部を枠部2および蓋部4に形成することによっても、上述した第1実施形態のSAW装置1における下垂部4aと同様に蓋部4と枠部2との接触面積が増加するため、蓋部4と枠部2との剥がれを抑制することができるとともに振動空間21に外部から水分が浸入するのを抑制することができる。
【0128】
図24(a)に示すように枠部2の上面に比較的大きな凹部を形成するには、例えば、枠部2を形成した段階(
図5(d))で枠部2の上面をドライエッチングまたはウェットエッチングにより削ればよい。
【0129】
図24(b)に示すように枠部2の上面に比較的大きな凸部を形成するには、例えば、枠部2を2層構造とすればよい。具体的には、凸部よりも下の1層目を通常の枠部2を形
成する場合と同じようにフォトリソグラフィー法等によって形成し(
図5(d))、その後、1層目の上に凸部となる2層目をフォトリソグラフィー法等によって形成すればよい。
【0130】
図24(c)に示すように枠部2の上面に比較的小さな凹凸を形成するには、例えば、枠体2を形成した段階(
図5(d))において、枠体2の上面に酸素プラズマ等を用いてアッシング処理を施せばよい。
【0131】
枠部2の上面に形成した凹凸部に嵌まる蓋部4の凹凸部は、例えば、蓋部4となる薄膜を枠部2に貼り付ける段階(
図6(a))において、ローラー30の回転速度や温度、ステージ29の温度等を所定の条件に設定することによって形成することができる。
【0132】
図24(a)乃至(c)には、凹凸部の断面形状が矩形状である例を示したが、凹凸部の断面形状はこれに限らず、例えば、三角状、台形状、円弧状など任意の形状が可能である。凹凸部における凹部の深さ(凸部の高さ)は、
図24(a)および(b)のように比較的大きな凹凸を形成する場合には、例えば、枠部2の厚みの10%〜60%であり、具体的には1μm〜20μmである。また
図24(c)のように比較的小さな凹凸を形成する場合には、枠部2の上面が粗面化されていると見ることができ、粗面化された枠部2の上面の算術平均粗さ(レーザー顕微鏡で測定したときの算術平均粗さ)は0.5μm〜2μmである。
【0133】
また、枠部2の上面に形成する凹凸部は、枠部2を平面視したときに枠部2の上面に一様に点在するようにして形成してもよいし、凹部が枠部2の上面に沿って一続きの溝になるように形成してもよい。
【0134】
なお、第1の実施形態に係るSAW装置1も枠部2の上面に形成された枠部側凹凸部と蓋部4の下面に形成された蓋部側凹凸部とが嵌まった形状であると見ることもできる。すなわち、蓋部4に下垂部4aが形成されていることによって蓋部4の下面に比較的大きな凹部が形成されており、その凹部に嵌まる凸部が枠部2の上面に形成されていると見ることができる。
【0135】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよく、また上述した実施形態は、適宜に組み合わされてよい。例えば、下垂部4aが形成された第1の実施形態のSAW装置1に対して、第6の実施形態に係るSAW装置601のように枠部2の上面に凹凸部を形成し、蓋部4の下面に枠部2の凹凸部に嵌まる凹凸部を形成してもよい。
【0136】
弾性波装置は、SAW装置に限定されない。例えば、弾性波装置は、圧電薄膜共振器であってもよい。
【0137】
また、弾性波装置において、保護層8および裏面部11は必須の要件ではなく、省略されてもよい。