(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6603453
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】択一的な駆動ユニットを備えたクレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 23/36 20060101AFI20191028BHJP
B66C 23/38 20060101ALI20191028BHJP
B66C 23/40 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
B66C23/36 Z
B66C23/38
B66C23/40
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-256274(P2014-256274)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2015-117135(P2015-117135A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2017年9月13日
(31)【優先権主張番号】10 2013 021 499.8
(32)【優先日】2013年12月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597120075
【氏名又は名称】リープヘル−ヴェルク エーインゲン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Liebherr−Werk EhingenGmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ディーター ヴィリム
【審査官】
三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−144595(JP,A)
【文献】
実開昭60−115941(JP,U)
【文献】
特開2000−319878(JP,A)
【文献】
特開2008−069516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 19/00−23/94
B66C 13/00−15/06
E02F 9/00
E02D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クローラ式クレーン(1)であって、
前記クレーン(1)に択一的に連結可能に構成される少なくとも2個の異なる駆動ユニット(2)を備え、
前記2個の異なる駆動ユニット(2)は、それぞれ少なくとも1個の内燃機関(22)と少なくとも1個の油圧ポンプ(23)または少なくとも1個の発電機(23)を備え、
前記2個の異なる駆動ユニット(2)の内燃機関(22)は、適合するそれぞれの排ガス基準および/またはそれぞれが必要とする運転媒体に関して、互いに異なっており、
前記クレーン(1)は、下部走行体と上部旋回体(11)をそれぞれ少なくとも1個ずつ備え、前記下部走行体および/または上部旋回体(11)は、固定的に設置された駆動ユニット(2)を備えておらず、
前記上部旋回体(11)は、すべてその上に設置されたポンプ(15)、油圧モータ(13)または電動機、およびポンプ移送ケーシング(14)を備えており、前記ポンプ(15)は前記ポンプ移送ケーシング(14)を介して、独立した前記油圧モータ(13)または前記電動機によって駆動されるように配置されており、
前記2個の異なる駆動ユニット(2)のいずれかに択一的に連結可能な、クローラ式クレーン(1)。
【請求項2】
前記駆動ユニット(2)が、前記クレーン(1)の前記下部走行体および/または前記上部旋回体(11)に連結可能であることを特徴とする請求項1に記載のクレーン(1)。
【請求項3】
前記駆動ユニット(2)が、普通のバラストの代わりにおよび/または付加的なバラストとして前記クレーン(1)に連結可能であることを特徴とする請求項1に記載のクレーン(1)。
【請求項4】
前記クレーン(1)が、移動不可能であるかまたは制限的にのみ移動可能である前記クレーン(1)の1つの運転モードで、前記駆動ユニット(2)を前記クレーン(1)の近くの地面上に配置することができることを特徴とする請求項1に記載のクレーン(1)。
【請求項5】
1つの駆動ユニット(2)の内燃機関(22)がディーゼルエンジンであり、他の駆動ユニット(2)の内燃機関(22)がガスエンジンであることを特徴とする請求項1に記載のクレーン(1)。
【請求項6】
前記駆動ユニット(2)が、それぞれ、コンプレッサ(27)、オイルタンク(24)、及び他の制御装置又は貯蔵タンク(28)を付加的に備えることを特徴とする請求項1に記載のクレーン(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに択一的に連結可能である駆動ユニットを備えたクレーン、特にクローラ式クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばクローラ式クレーンのようなクレーンは技術水準で知られている。このクレーンは、きわめて大きな荷物を持ち上げるためあるいはきわめて大きな高低差を克服するために設計された大型クレーンとして形成可能である。
【0003】
大型クレーンとして設計されたこのようなクレーンは、持続的に定置されて使用されるのではなく、世界中のいろいろな使用場所でフレキシブルに使用可能である。そのために、このような大型クレーンを、組み立てまたは分解できるような構造および分解した状態で全世界に移動できるような構造で提供することが知られている。
【0004】
クレーンのこのような世界規模での使用の場合、クレーンは、外的条件に基づいて異なる要求がクレーンに課せられるいろいろな地域で使用可能である。その際、異なる気象条件が問題であり、この気象条件のために、クレーンに挿入された駆動装置の所定の燃料は非常に適しているかまたはあまり適していない。さらに、クレーンの駆動装置の作動状態に関するいろいろな現行の規定が問題である。
【0005】
その際、クレーンの駆動装置が例えば或る地域の現行の排ガス規定を守らないかまたは温かい気象条件に基づいて、付加的な高価な冷房システムの使用下で例えば尿素のような所定の運転媒体だけしか使用できないという問題がある。従って、駆動システムが使用場所の要求に適切に適合していないクレーンは、場合によっては上記の使用場所で使用することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、いろいろな使用場所で使用することができるクレーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は本発明に従い、少なくとも2個の異なる駆動ユニットがクレーンに択一的に連結可能である、請求項1の特徴を有するクレーン、特にクローラ式クレーンによって解決される。
【0008】
少なくとも2個の異なる駆動ユニットによって択一的に運転するためのクレーンのこのような実施は、クレーンの使用場所の実状に応じてふさわしい駆動ユニットをクレーンに設けることを可能にする。クレーンは適当な駆動ユニットから容易に分離可能であり、道路運搬用駆動ユニットからも分離可能である。クレーンと1個または複数個の駆動ユニットの間の連結は例えば専用に設けた連結要素に取り付けることによって行われる。同様に、1個または複数個の駆動ユニットをクレーンにボルト止めすることもできる。その際、クレーンとの簡単な連結またはクレーンからの簡単な連結解除を可能にするために、1個または複数個の駆動ユニットをモジュール方式に形成することができる。
【0009】
他の有利な実施形では、クレーンが下部走行体と上部旋回体をそれぞれ少なくとも1個ずつ備え、下部走行体および/または上部旋回体が固定設置された駆動ユニットを備えていない。
【0010】
固定設置された1個の駆動ユニットまたは固定設置された複数個の駆動ユニットを備えていないことにより、クレーンを運転するために公知のごとくクレーンの使用場所の実状に依存して必要な駆動ユニットをクレーンに取り付けることが簡単かつ有利に可能である。その際、クレーン構成要素、すなわち特に1個または複数個の駆動ユニットを搬送するために、この駆動ユニットをクレーンから分離してあるいは駆動ユニットを互いに分離して搬送できることが重要である。クレーンの上部旋回体は、それを下部走行体に回転可能に連結する回転継手を備えることができる。
【0011】
他の有利な実施形では、複数の駆動ユニットが少なくとも1個ずつの内燃機関と少なくとも1個の油圧ポンプおよび/または少なくとも1個の発電機を備えている。
【0012】
その際、駆動ユニットは内燃機関一式、すなわち燃料タンク、冷却装置、ファン、制御装置等を有する内燃機関を備えることができる。さらに、高性能で調節可能な少なくとも1個の油圧ポンプを内燃機関に設けることができる。このポンプはオイルタンクに接続可能である。さらに、外部の消費装置を駆動するための接続個所を駆動ユニットに設けることができる。
【0013】
本発明に係る解決策は同様に、油圧ポンプの代わりに発電機を使用することができる。この場合、駆動ユニットとクレーンの間に油圧接続部を設けないで、電気的な接続部が設けられている。さらに、油圧モータの代わりに、電動機を設けることができる。このような発電機セットは世界中で別個の構成要素として追加購入可能であり、そしてクレーンに連結可能である。
【0014】
さらに、発電機を使用する場合には代替的に、電気エネルギーを油圧エネルギーに変換しないで、少なくとも1個またはすべてのクレーンアクチュエータを電気的に直接駆動することができる。例えば旋回機構駆動装置またはジブの駆動装置を電気的に駆動することが考えられる。いろいろな回転数を達成できるようにするために、周波数変換器を使用することが考えられる。
【0015】
上部旋回体が固有の一次エネルギー供給部を備えていない実施形では、上部旋回体に専ら油圧モータを設けることができる。この油圧モータは例えばポンプ用動力分配ギヤボックスを介してクレーンアクチュエータ用の種々のポンプに連結可能である。空調用コンプレッサは駆動ユニット内に設けてもよいし、ポンプと共に上部旋回体内に設けてもよい。
【0016】
連結要素を介して1個の駆動ユニットまたは複数個の駆動ユニットとクレーンの間の機械的な連結を行う際または行った後で、油圧接続を行うことができる。同様に、1個の駆動ユニットまたは複数個の駆動ユニットとクレーンの間で、電気的接続またはデータ接続のような他の接続を行うかまたは設けることができる。
【0017】
他の実施形では、駆動ユニットの内燃機関がそれによって守られる排ガス基準および/またはそれに必要な運転媒体に関して異なっている。
【0018】
その際、例えば駆動ユニットの内燃機関をディーゼルエンジンとして形成し、他の駆動ユニットの内燃機関をガスエンジンとして形成することができる。常に一定の回転数で運転される定回転エンジンを使用することもできる。このような場合、定回転エンジンは消費装置を直接操作するかまたは適当なエネルギーアキュムレータに充電または充填する。例えば尿素のような所定の付加的な運転媒体が供されない地域または過大な費用をかけてのみ供される地域で、クレーンが使用されるときには、用意するのにコストのかかるこのような運転媒体に頼らなくてもよい内燃機関を備えた少なくとも1個の駆動ユニットが提供される。これは特に、クレーンが暑い国で使用されるときに有利である。というのは、尿素が低い沸点を有し、それによって持続的で入念な冷却が必要であるからである。さらに、守るべき排ガス基準があまり厳しくない場合には、粗野な駆動ユニットを使用することができる。
【0019】
他の有利な実施形では、駆動ユニットが簡単に交換できるようにクレーンに連結可能である。
【0020】
これによって、計画された使用場所の実状に依存して、クレーンの有利で簡単で迅速な組み立てまたは分解が可能になる。
【0021】
他の有利な実施形では、駆動ユニットがクレーンの下部走行体および/または上部旋回体に連結可能である。
【0022】
駆動ユニットをクレーンのいろいろな範囲にフレキシブルに設けることができると、クレーンのいろいろな大まかな負荷計画に対応することができ、そして実際の大まかな負荷計画にできるだけ合うようにクレーンを構成することができるという利点がある。その際、駆動ユニットを下部走行体に設けることもでき、そして例えばロータリジョイントを経て、上部旋回体の油圧モータに油を供給することできる。
【0023】
他の実施形では、同時に1個よりも多い駆動ユニットがクレーンに連結可能であり、駆動ユニットがそれによって守られる排ガス基準および/またはそれに必要な運転媒体に関して異なっていない。
【0024】
クレーンが運転のために大きな出力を必要とする大型クレーンであると、クレーンを運転するために、2個またはそれ以上の駆動ユニットと付属の油圧モータを必要とし、かつこの駆動ユニットと油圧モータを適切に使用する必要がある。
【0025】
他の有利な実施形では、駆動ユニットが普通のバラストの代わりにおよび/または付加的なバラストとしてクレーンに連結可能である。
【0026】
これにより、クレーンの運転のために必要なバラストの全量あるいはクレーンのバラスト調整のために必要な部分を低減することができる。その際、駆動ユニットは駆動力の供給とバラスト重量の提供の二重機能を発揮する。それによって、クレーンを搬送するための物流コストまたはクレーン構成部品が低減されるという利点がある。
【0027】
他の有利な実施形では、クレーンが移動不可能であるかまたは制限的にのみ移動可能であるクレーンの運転モードで、駆動ユニットをクレーンの近くの地面上に降ろすことができる。
【0028】
本発明はさらに、請求項1〜9のいずれか一項に記載のクレーンに連結可能な駆動ユニットに関する。
【0029】
更なる詳細と本発明の効果を図に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】クレーンの上部旋回体に連結された駆動ユニットの概略図である。
【
図2】クレーンに連結された駆動ユニットの詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に示した駆動ユニット2は接続要素21を介してクレーン1の上部旋回体11に接続されている。クレーン1は図示した実施の形態ではそれ以外の駆動ユニットを備えていない。
【0032】
図2はクレーン1またはクレーン1の上部旋回体11を示している。上部旋回体11は回転継手12を介して図示していない下部走行体に連結可能である。上部旋回体11は旋回機構駆動装置16を介して下部走行体と相対的に旋回揺動可能である。下部旋回体と上部旋回体11の間の動力伝達および/または情報伝達はロータリジョイント29を介して行うことができる。
【0033】
図示した実施の形態において、上部旋回体11にはさらに、1個のポンプ15または複数個のポンプ15を駆動するための油圧モータ13が設けられている。この場合、ポンプ15はポンプ用動力分配ギヤボックス14を介して駆動制御可能である。大型クレーンの場合にはさらに、できるだけ多くのポンプ15を運転するために、複数個、例えば2個の油圧モータ13を設けることができる。上部旋回体11にはさらに、制御装置および/またはタンクのような他のユニット28を設けることができる。
【0034】
上部旋回体11は、接続部26、例えば図示した実施の形態のような油圧式接続部26を介して1個または複数個の駆動ユニット2に接続可能である。駆動ユニット2は例えばディーゼルエンジンとして形成可能な少なくとも1個の内燃機関22を備えることができる。この内燃機関22は図示した実施の形態に示すように、少なくとも1個の油圧ポンプ23に接続可能である。この油圧ポンプは接続部26を接続するための適当な接続個所25を備えている。
【0035】
駆動ユニット2はさらに、運転室の空調制御を行うことができる1個または複数個のコンプレッサ式空調設備または空調用コンプレッサ27を備えている。大型クレーンの場合にはさらに、2個以上の空調用コンプレッサ27を駆動ユニット2に設けることができる。
【0036】
さらに、オイルタンク24、燃料タンクまたはその他のユニット28のような装置を駆動ユニット2に設けることができる。その他のユニットは例えば制御装置および/またはタンク等である。
【0037】
その際、駆動ユニット2は、1200回転/分で約350kWの出力を生じる内燃機関22を備えることができる。勿論、異なる性能の内燃機関22も使用可能である。
【0038】
駆動ユニット2は慣用のすべてのクローラ式クレーンに適している。大型クレーン1は同じような駆動ユニット2を複数個同時に使用可能である。
【0039】
内燃機関22を始動するために、油圧ポンプ23の送出量をゼロにセットすることができる。それによって、低い温度の場合にも内燃機関22を容易に始動することができる。
【0040】
車両式クレーンまたはクレーン1の場合、無負荷運転の割合が80%以下であるので、無負荷運転相の間はポンプ23をゼロストロークに調節することができ、それによって大幅な燃料節約が達成可能である。このような場合、クレーン1の空調設備の機能を維持するために、空調用コンプレッサ27を駆動ユニット2に設けなければならない。それによって、すべての油圧モータ13とポンプ15が停止する。ポンプ23と場合によっては空調コンプレッサ27が無負荷運転に移行する。それに起因する節約に対して、普通のクレーン運転における効率低下が相対峙する。この効率低下は普通のクレーン運転時に必要な油圧波によって生じる。しかし、普通のクレーン運転が内燃機関22の運転時間の約20%にすぎないので、クレーン1の運転時間全体における燃料が節約される。
【0041】
駆動ユニット2の2つまたはそれ以上のバージョンが考えられる。その際、一方のバージョンは、欧州や米国での使用のために設計され、この場合例えばEPA TIER 4に係る排ガス基準または97/68/EG IVに係る排ガス段階が守られる。駆動ユニット2の他のバージョンは世界の他の部分での使用のために設計され、例えば97/68/EG IIIAに係る排気ガス段階が守られる。
【0042】
大型クレーン1において例えば2つの駆動ユニット2が設けられている場合には、自動的で完全な緊急運転が可能である。
【0043】
一方の駆動ユニット2が故障した場合、他方の駆動ユニット2を、故障した駆動ユニットの代わりとして、クレーン1の使用現場に運ぶことができる。故障した駆動ユニット2は例えば整備工場で整備することができる。クレーン1自体は第2の代替駆動ユニット2によって比較的に迅速に運転開始され、そして整備工場での良好な作業条件が故障した駆動ユニット2の整備の質を向上させる。
【0044】
全体として、クレーンメーカーではクレーン1または上部旋回体11から駆動ユニットを分離することによって少しだけ追加コストがかかるが、それによって多大な物流上の利点が生じる。さらに、多数の種類のクレーンのために、駆動ユニット2を1種類または2種類だけ設計および製作することができる。これによって、駆動ユニット2の製造時に節約が生じる。