(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の船舶用の内燃機関を適用したディーゼルエンジンの要部の構造を概念的に示す概念図である。図示する内燃機関は、重油を燃料とするユニフロー掃気ディーゼルエンジンであり、クロスヘッド型を採用し、大型の船舶用の動力機関として搭載される。
【0020】
このディーゼルエンジンは、動力を発生させる内燃機関本体1と、複数の過給機2とを備えている。
【0021】
上記内燃機関本体1は、上下方向に延びるシリンダ3と、該シリンダ3の直下に配置されたクランクシャフト(クランク軸)4が内装されるクランクケース6とを有している。
【0022】
シリンダ3は、船舶に推進方向に複数並べて配置されている。このシリンダ3の上端部は、シリンダヘッド7によって構成され、このシリンダ3の内周側の空間には、自身の軸方向にスライド移動自在となるようにピストン8が収容支持されている。シリンダ3内における該ピストン8の上方側の空間は、燃料が燃焼される燃焼室3aになる。
【0023】
シリンダ3の上部に位置するシリンダヘッド7には、排気ガスが上方に排出する排気ポート3bが開口形成されるとともに、シリンダ3の下部寄り部分の周壁には、掃気ポート3cが周方向に沿って複数開口形成されている。上記排気ポート3bは、OHV方式の排気弁9によって、開閉される。
【0024】
2サイクルのディーゼルエンジンでは、燃料及びエア等を混合してなる混合気が燃焼室3a内で爆発すると、ピストン8が下方にスライド移動し、排気弁9が開作動する。この爆発時に発生した燃焼室3a内の排気ガスが、排気ポート3bから排気される。
【0025】
上記爆発時の衝撃によって、ピストン8が掃気ポート3cよりも下方にスライド移動し、新気が該掃気ポート3cから燃焼室3a内に流入する。その後、ピストン8がシリンダ3内を再び上昇し、これに伴って、燃焼室3a内の圧力が上昇し、この圧力が所定以上になると、燃焼室3a内の混合気が爆発し、以下、このサイクルを繰返す。ちなみに、新気(エア)が導入された燃焼室3a内に、燃料を噴霧することにより、混合気が構成される。
【0026】
排気ポート3bから排気される排気ガスは、シリンダ3の斜め上方に配置された排気マニホールド11に送られる。一方、掃気ポート3cを介して、シリンダ3内の新気を送る掃気マニホールド12が、シリンダ3の下部外周側に設けられている。
【0027】
上記過給機2は、前記排気マニホールド11内の排気ガスによって駆動され、掃気マニホールド12内に供給する新気の圧力を上昇させる。ちなみに、この過給機2は、複数設けられている。この他、圧縮された新気は、インタークーラ13によって、冷却された後に、掃気マニホールド11に供給される。
【0028】
上記クランクケース6内には、シリンダ3毎に、上下方向に延びる筒状のガイド14が設けられている。各ガイド14は、対応するシリンダ3と同一軸心であって且つ該シリンダ3の直下に配置されている。このガイド14内には、クロスヘッド16が、軸方向(上下方向)にスライド自在に作動可能な構成で収容支持されている。
【0029】
このクロスヘッド16は、ピストン8から垂直方向下方側に一体的に延設されたピストンロッド17の下端部と、下端部がクランクピン15によってクランクシャフト4に回転自在に連結されているコンロッド(コネクティングロッド)18の上端部とを、回動自在に連結し、これによって、ピストン8と、クランクシャフト4とを動力伝動可能に機械的に連結させる連係機構19を構成している。言換えると、ピストン8とクランクシャフト4とは、連係機構19を介して、機械的に連結され、ピストン8のシリンダ3の軸方向への往復作動によって、クランクシャフト4が回転駆動される。
【0030】
このクランクシャフト4は、継手によって、船舶のスクリュープロベラに直接接続してもよいし、或いは、減速機を介して、スクリュープロペラに動力を伝動させてもよい。ちなみに、減速機等を介す場合には、クランクシャフト4を推進方向に向けることは必須ではなくなる。
【0031】
このディーゼルエンジンは、プロペラや船体によって、燃料消費率を最良とする航行速度(回転数)が常用速度(常用回転数)として定まるが、この常用速度が20ノットに定められている場合に、これよりも遅い速度(例えば、18ノット)で、航行すると、燃料消費率が悪化する。これを防止するため、このディーゼンルエンジンには、燃費を最良とする航行速度を、常用速度よりも低速とする低速状態に、機械的に可逆的に改変する改変機構(改変手段)を複数設けている。すなわち、このディーゼルエンジンにおける上記改変前の本来の状態が標準状態であり、該ディーゼルエンジン(特に、内燃機関本体1)は、上記改変によって、標準状態よりも出力が低下し、この出力特性の変更によって、減速航行時の燃料消費率を良好とする。
【0032】
具体的には、過給機2側に設けた改変機構が、第1改変機構になり、連係機構19側に設けた改変機構が、第2改変機構になり、シリンダ3側に設けた改変機構が、第3改変機構になる。
【0033】
図2(A),(B)は、第1改変機構による低速状態への切換の前後の状態をそれぞれ示す配管図である。複数の各供給管22から吸気された新気は、掃気マニホールド12に供給される。一方、排気マニホールド11の排気ガスは、複数の分岐管23に分岐され、その後、この複数の分岐管23が合流して、排気管24になり、外部に排気される。
【0034】
過給機2は、一の分岐管23と、一の供給管22に至る範囲に設けられている。そして、過給機2は、分岐管23側に設置されたタービン2aと、供給管22側に設置されたコンプレッサ2bとを有し、排気ガスによって、タービン2aが作動し、コンプレッサ2bを駆動させ、供給管22から掃気マニホールド12に供給されるエアを圧縮する。この供給管22の途中には、上述した通り、インタークーラ13が設けられ、圧縮されたエア(新気)が冷却される。
【0035】
第1改変機構は、この複数の過給機2の内、一部の過給機2(以下、「対象過給機2A」と呼び、図示する例では左右真ん中の過給機2)を駆動させないように、機械的に可逆可能に切換える。具体的には、この対象過給機2Aのタービン2aが設置された分岐管23における該タービン2aの上流側には、該タービン2aへの排気ガスの供給経路の開閉切換を行う切換弁(開閉部材)26を設けている。
【0036】
この切換弁26によって上記供給経路が閉塞されている時には、該対象過給機2Aのタービン2aが設置された分岐管23における該タービン2aの下流側も、開閉切換可能な切換弁27によって閉塞される他、この対象過給機2Aのコンプレッサ2bによって加圧される供給管22における該コンプレッサ2bの上流側(具体的には、この供給管22の流入側端部)と、下流側(具体的には、この供給管22の掃気マニホールド12への流出側端部)も、開閉切換可能な切換弁28,29によって、それぞれ閉塞される。
【0037】
該構成の第1改変機構によれば、各切換弁26,27,28,29の閉塞によって、低速状態への切換が行われる一方で、各切換弁26,27,28,29の開放によって、低速状態から元の状態(標準状態)への切換が行われる。
【0038】
第1改変機構の上記構成によれば、過給機2が設置された内燃機関であれば、どのようなものにも設けることが可能であり、且つ弁を設ければよいため、汎用性が高く、設置も容易である。ちなみに、減速航行時には、過給機2一台あたりの排気ガス流入量が低下し、タービン2aによる圧縮効率が低下するが、上記のように作動する過給機2を減らすことによって、作動させる過給機2の一台あたりの圧縮効率を向上させることが可能になる。
【0039】
図3は、第2改変機構を設けた連係機構の構造を示す側面図であり、
図4は、クロスヘッドピンの構成を示す斜視図であり、
図5は、クロスヘッド軸受の構成を示す斜視図である。上記クロスヘッド16は、クランクシャフト4と平行なクロスヘッドピン31と、該クロスヘッドピン31を軸回りに回動可能に支持するクロスヘッド軸受32とを有している。
【0040】
クロスヘッドピン31の軸方向中央部の外周面側には、ピストンロッド17の下端部に一体的に成形された方形フランジ状の接続部17aを嵌合収容させる凹部31aが、方形状に切欠き形成されて設けられている。
【0041】
この凹部31aに、接続部17aを嵌合収容させてボルト固定させることにより、ピストンロッド17の下端部が、クロスヘッドピン31に取付固定される。また、この凹部31aの底面と、接続部17aとの間には、該凹部31aに少なくとも一部を嵌合収容させた状態(図示する例では、略全部を嵌合収容させた状態)で、方形板状の圧縮シム(調整部材)33を介挿し、これを接続部17aと共に、ボルト締めさせてもよい。
【0042】
ちなみに、圧縮シム33は、上記構成によって、厚みの異なるものに交換可能であり、この圧縮シム33の素材としては、弾性変形可能な合成樹脂材や金属等の硬質性の素材等、様々なものを採用することが可能である。なお、接続部17aは、その少なくとも一部を、凹部31a内に収容させれば、必ずしも嵌合させる必要はなく、この場合には、接続部17aの平面視サイズを、凹部31aの平面視サイズよりも若干小さく設定する。
【0043】
クロスヘッド軸受32は、コンロッド18の上端側からクランクシャフト4と平行な両方向に突出形成され且つ断面視で上方が開放された半円の円弧状をなす下側分割片34と、この下側分割片34の内周面にクロスヘッドピン31の外周面の下部分を収容させた状態で、クロスヘッドピン31の外周面の上部分に沿う円弧状に形成された一対の上側分割片36とを有している。
【0044】
一対の上側分割片36を、クランクシャフト4と平行な方向に並べ、該一対の上側分割片36と、下側分割片34との間に、クロスヘッドピン31を挟持するように収容させた状態で、上下の分割片34,36同士をボルト固定して締着させると、クロスヘッドピン31が軸回りに回転自在に支持される。クロスヘッドピン31は、上記した通り、ピストンロッド17の下端部に固定されるため、結果として、コンロッド18は、ピストンロッド17に回動可能に支持される。
【0045】
上記連係機構19によれば、圧縮シム33の有無や圧縮シム33を設ける場合におけるその厚みの選択によって、該連係機構19におけるピストン8からクランクシャフト4への動力伝動経路の長さを変更することが可能であり、これによって、ピストン8のシリンダ3内での往復作動範囲を変化させ、その結果、出力特性も変更することが可能になる。
【0046】
言換えると、圧縮シム33の有無を選択可能で、且つ厚みの異なる圧縮シム33に交換可能な連係機構19によって、上記第2改変機構が構成される。具体的には、標準状態時には、厚みの薄い圧縮シム33(
図5に実線で示す圧縮シム33)を採用し、低速状態時には、厚みのある圧縮シム33(
図5に仮想線で示す圧縮シム33)を採用するようにしてもよいし、或いは、標準状態時には、圧縮シム33を省略し、低速状態時には、圧縮シム33を介挿するようにしてもよい。
【0047】
第2改変機構の上記構成によれば、クロスヘッド型の内燃機関であれば、どのようなものにも設けることが可能であり、汎用性が高い他、ピストン8の作動範囲の変更によって、圧縮比等、出力特性を決定する要素を直接変更できるため、調整も容易である。ちなみに、減速航行時には、シリンダ3への新気(エヤ)の流入量が減るため、ピストン8による圧縮時の圧力が低下するが、これを防止するために、圧縮比を高くすることが必要であり、このため、ピストンの作動範囲を上記のようにして、変更させている。
【0048】
図6(A)は標準状態時の第3改変機構の要部正面図であり、(B)は低速状態時の第3改変機構の要部正面図である。前記シリンダ3内を冷却させる冷却水の流路である冷却路37を、該シリンダ3の周壁部内における上部側に形成している。この冷却路37は、シリンダ3の外周面側まで延設されてスペースが拡大された露出部37aを構成している。
【0049】
冷却路37におけるシリンダ3の外周面から露出した露出部37a以外の部分である本体部37bは、径細に形成され、シリンダ3の軸方向に沿うように湾曲形成されている。この冷却路37に冷却水を供給する工程と、排出する工程とを繰返すことにより、シリンダ3内(特に、燃焼室3a)が冷却される。
【0050】
この本体部37bの内周面の少なくとも一部に、弾性変形可能な筒状のインシュレーションチューブ(断熱部材)38を嵌合挿入すると、冷却水の冷機がシリンダ3の周壁に伝導され難くなり、その結果、冷却水と、シリンダ3内(特に、燃焼室3a)との熱交換効率が低くなり、冷却効率が低下する。
【0051】
そして、このインシュレーションチューブ38の挿入の有無の切換や、その長さを変更することによって、冷却効率を適宜変更し、本ディーゼルエンジンの上記改変を可逆的に行うことが可能になる。
【0052】
例えば、
図6(A)に示す状態は、インシュレーションチューブ38を、本体部37bの内周における手前側部分のみに設け、冷却効率(熱交換効率)を向上させる標準状態である一方で、同図(B)に示す状態は、インシュレーションチューブ38を、本体部37bの内周における略全体に設け、冷却効率(熱交換効率)を低下させる低速状態である。
【0053】
第3改変機構の上記構成によれば、既に存在する冷却路37を利用し、この冷却路37へのインシュレーションチューブ38の挿入の有無、或は挿入するインシュレーションチューブ38の長さ変更という簡易な構成によって、冷却能力を変更できるため、設置コストが安価になる。ちなみに、減速航行時には、シリンダ3内で発生する熱量も低くなり、これによって、熱効率が低下し、これがシリンダ3の内壁面の結露に繋がり、排気ガス中の硫黄と化学反応して、硫酸が発生し、この硫酸によって、本ディーゼルエンジンの腐食が進むことになるが、これを防止する目的で、上記のように冷却を制限している。
【0054】
以上のように構成されるディーゼルエンジンによれば、3つの改変機構の全て又は一部を可逆的に改変することによって、標準状態から低速状態への切換、低速状態から標準状態への切換を行う改造を行うことが可能になる。具体的には、第1改変機構のみで用い
る場合と、第1改変機構及び第2改変機構を組合せて用いる場合と、第1改変機構及び第3改変機構を組合せて用いる場合と、第2改変機構及び第3改変機構を組合せて用いる場合がある。
【0055】
なお、第1改変機構のみによって、改造を行う方法によれば、内燃機関本体1に複数設けられた過給機2の内から予め定められた一の過給機2(
図2に示す例では、中央側の過給機2)に対して、内燃機関本体1からの排気ガスの供給の有無を切換えることにより、上記改変による出力調整量が、該過給機2一台分に設定される。
【0056】
そして、ディーゼルエンジン(全体)の出力が変化しないように過給機2の設置数を増減させると、過給機2の一台分の出力上昇値が変化するため、出力調整量の変更が容易になる。具体的には、全体の出力が一定又は略一定になるように、過給機
2の設置数を増加させた場合、個々の過給機
2による出力上昇値は小さくなるため、調整量は細かくなる一方で、このように、第1改変機構のみを用いる改造方法によれば、調整量も自在に設定できる。
【0057】
図7(A)はある船舶におけるプロペラ回転数に対する必要出力のグラフであり、図中の二点鎖線は本ディーゼルエンジンが改造を含めたセッティングにより対応可能な範囲を示しており、(B)は本ディーゼルエンジンの出力に対する燃料消費率の特性グラフであり、標準状態と低速状態のそれぞれのセッティングに対応している。同図に示す通り、このような改造方法(船舶用の内燃機関の改造方法)によれば、標準状態と、低速状態との間で、自在にセッティング可能になり、さらには、燃料消費率を最小とする航行速度は、標準状態よりも低速状態の方が、低速になるため、運航計画に併せて、適宜セッティングを行う。