(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブリッジ配線導体及び前記ローサイド接続手段の各々に流れる主電流は、その大きさが等しく、その向きが逆方向且つ平行であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハーフブリッジパワー半導体モジュール。
前記起立型ブリッジ端子、前記起立型ハイサイド端子、及び前記起立型ローサイド端子は、互いに近接して平行に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のハーフブリッジパワー半導体モジュール。
前記起立型ハイサイド端子及び前記起立型ブリッジ端子の各々に流れる主電流は、その大きさが等しく、その向きが逆方向且つ平行であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のハーフブリッジパワー半導体モジュール。
前記起立型ローサイド端子及び前記起立型ブリッジ端子の各々に流れる主電流は、その大きさが等しく、その向きが逆方向且つ平行であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のハーフブリッジパワー半導体モジュール。
前記ハイサイドパワー半導体装置と前記起立型ハイサイド端子の距離と、前記ローサイドパワー半導体装置と前記起立型ローサイド端子の距離とが等距離であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のハーフブリッジパワー半導体モジュール。
前記ハイサイドパワー半導体装置と前記ローサイドパワー半導体装置の少なくともいずれか一方がスイッチングパワー素子であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のハーフブリッジパワー半導体モジュール。
前記ハイサイドパワー半導体装置及び前記ローサイドパワー半導体装置の少なくとも一方が、パワースイッチング素子と前記パワースイッチング素子に逆並列に接続されたパワーダイオードとを備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のハーフブリッジパワー半導体モジュール。
前記正極配線導体及び前記ブリッジ配線導体の少なくとも一方には、前記パワースイッチング素子と前記パワーダイオードの間を仕切るスリットが形成されていることを特徴とする請求項10に記載のハーフブリッジパワー半導体モジュール。
2以上の前記ローサイドパワー半導体装置は、前記ブリッジ配線導体及び前記ローサイド接続手段の各々に流れる主電流の重心を一致させるように、前記ブリッジ配線導体及び前記ローサイド接続手段が一方向に配列されていることを特徴とする請求項10〜12のいずれか一項記載のハーフブリッジパワー半導体モジュール。
前記起立型ハイサイド端子及び前記起立型ローサイド端子は、それぞれ、前記絶縁板の主面の法線方向に起立した平板状のベース部と、ベース部から分岐した複数の歯部とからなり、複数の歯部の先端が前記正極配線導体及び前記負極配線導体に接続していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のハーフブリッジパワー半導体モジュール。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態及びその変形例を複数の図面を参照して説明する。ただし、以下では、ハーフブリッジパワー半導体モジュールの構成を模式的に説明するが、これらの模式図では理解を容易にするために、厚さと平面寸法との関係や各層の厚さの比率等は誇張して描いている。また原則として同一部材には同一符号を付して再度の説明は省略する。
【0009】
(第1実施形態)
図1A、
図1B、
図2を参照して、第1実施形態に係わるハーフブリッジパワー半導体モジュール1の構造を説明する。
図1A(a)は平面図であり、
図1A(b)は
図1A(a)のA−A’切断線に沿った断面図、
図1A(c)は
図1A(a)のB−B’切断線に沿った断面図、
図1B(a)は
図1A(a)のC−C’切断線に沿った断面図である。
図1B(b)は、ハーフブリッジパワー半導体モジュール1の回路表現図である。
図2(a)〜(c)はハーフブリッジパワー半導体モジュール1の主要な製造工程を示す平面図である。
【0010】
ハーフブリッジパワー半導体モジュール1は、積層構造を有する絶縁配線基板15と、絶縁配線基板15の表面に、互いに電気的に絶縁して配置されたハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HT及びローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTと、ブリッジ端子14Bと、ハイサイド端子14Hと、ローサイド端子14Lと、ハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HTとブリッジ端子14Bとを接続するハイサイド接続手段18BTと、ブリッジ端子14Bとローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTを接続するローサイド接続手段18LTと、を備える。
【0011】
ハイサイド接続手段18BT及びローサイド接続手段18LTの一例は、
図1に示したように、ボンディングワイヤーであるが、ボンディングリボンやリードフレームなど他の接続手段を用いることができる。ここで、電気抵抗及び寄生インダクタンスを極力軽減する観点から、加工上の制約、機械的強度、長期疲労耐性が損なわれない限りにおいて、接続手段18BT、18LTは可能な限り、断面積が大きく、かつ、表面積が大きく、対地高が低く、(ボンディングワイヤーの場合)本数が多く、なるように最適化される。
【0012】
[絶縁配線基板15]
絶縁配線基板15は、1枚の絶縁板16と、絶縁板16の表面に互いに電気的に絶縁して配置された複数の配線導体(12H、12B、12L、12HG、12HS、12LG、12LS)と、を備える。複数の配線導体には、正極配線導体12H、ブリッジ配線導体12B、負極配線導体12L、ゲート信号配線導体(12HG、12LG)、ソース信号配線導体(12HS、12LS)が含まれる。これら各配線導体は絶縁板16の表面上に直接銅接合法あるいは活性金属接合法などで接合されている。
【0013】
図2(a)は絶縁配線基板15の平面図である。
図1A(a)及び
図2(a)に示すように、負極配線導体12Lは、絶縁板16の主面の法線方向から見て、空隙を介してブリッジ配線導体12Bに包囲されている。負極配線導体12Lにはローサイド端子14Lが接合されている。正極配線導体12Hとブリッジ配線導体12Bの境界部(
図2(a)参照)には、それぞれの領域に相互に突起しあう凸部が設けられている。正極配線導体12Hの凸部にはハイサイド端子14Hが、ブリッジ配線導体12Bの凸部にはブリッジ端子14Bが接合されている。
【0014】
図2(a)に示すように、正極配線導体12Hの凸部の深さ(x)と、この凸部先端と負極配線導体12Lとの水平距離(y)、負極配線導体12Lの長さ(z)は絶縁配線基板15の重要な設計パラメータである。x、y、zは、その合算値(x+y+z)が最小になるように、与えられた要件の基で設計される。ブリッジ端子14Bは水平距離(y)の中点に配置される。また、y=0とする設計も可能である。
【0015】
絶縁配線基板15は、パワーモジュールの製造工程の途中で起こる熱応力による基板の反りを防止する観点から、絶縁板16の裏面に添付された熱歪み緩和導体22を備えることが望ましい。
【0016】
絶縁板16は、例えば、窒化ケイ素(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ等のセラミック板、或いは、ベースプレートに貼付した絶縁耐圧性樹脂シートからなる。絶縁板16の熱抵抗を極力軽減するために、絶縁板16の厚みは絶縁耐圧と機械的強度、長期疲労耐性の満足する最小の厚みに設定することが望ましい。たとえば、1.2kVの瞬時耐圧が求められる場合、絶縁板16の厚みは0.2〜1.5mmの範囲である。具体的に、SiN板の場合、機械的強度の考慮しつつ、0.31mm位の薄さが実施可能である。
【0017】
上記の表面の各配線導体(12H、12B、12L、12HG、12HS、12LG、12LS)は、平板状の形状を有し、例えば、CuやAlなどの金属板片からなり、耐酸化性を持たせるために表面がNiめっきされていることが望ましい。ブリッジ端子14B、ハイサイド端子14H、及びローサイド端子14Lについても、表面がNiめっきされていることが望ましい。
【0018】
[ハイサイドパワー半導体装置13HT及びローサイドパワー半導体装置13LT]
第1実施形態において、
図1A(c)に示すように、ハイサイドパワー半導体装置13HT及びローサイドパワー半導体装置13LTの各々は、逆導通ダイオードを内蔵するユニポーラ型パワースイッチング素子、たとえば、MOSFETや接合FETなどである。ハイサイドパワー半導体装置13HT及びローサイドパワー半導体装置13LTの各々は、表面電極と裏面電極との間が導通する状態(オン状態)と、遮断された状態(オフ状態)とを切り替えるための制御信号(ゲート信号)が入力されるゲート電極を有する。
【0019】
ハイサイドパワー半導体装置13HTの表面には表面電極(ソース電極)が形成され、裏面には裏面電極(ドレイン電極)が形成されている。裏面電極は、はんだなどで正極配線導体12Hにオーミック接続(以後、単に「接続」と略す)されている。一方、ハイサイドパワー半導体装置13HTの表面電極はハイサイド接続手段18BT(例えば、
図1Aでは複数のボンディングワイヤー)を介して、ブリッジ端子14Bに接続されている。
【0020】
同様に、ローサイドパワー半導体装置13LTにも表面電極(ソース電極)と裏面電極(ドレインまたはコレクタ電極)が形成されている。裏面電極は、はんだなどでブリッジ配線導体12Bに接続されている。一方、ローサイドパワー半導体装置13LTの表面電極は、ローサイド接続手段18BT(例えば、
図1Aでは複数のボンディングワイヤー)を介して、ローサイド端子14Lに接続されている。
【0021】
更に、各半導体装置(13HT、13LT)表面に配置されたゲート電極は、ゲート信号接続手段18HG、18LG(
図1Aでは一例としてボンディングワイヤー)を介して、ゲート信号配線導体12HG、12LG(またはゲート信号端子14HG、14LG)を接続されている。同様に、各半導体装置(13HT、13LT)表面のソース電極は、ソース信号接続手段18HS、18LS(
図1では一例としてボンディングワイヤー)を介して、ソース信号配線導体12HS、12LS(またはソース信号端子14HS、14LS)に接続されている。なお、ゲート信号接続手段及びソース信号接続手段として、ボンディングワイヤーの他に、ボンディングリボンやリードフレームを用いることができる。
【0022】
[ブリッジ端子14B、ハイサイド端子14H、ローサイド端子14L]
ブリッジ端子14B、ハイサイド端子14H、ローサイド端子14L、ゲート信号端子14HG、14LG、ソース信号端子14HS、14LSの各端子は絶縁配線基板15の表面から垂直に起ち上っている起立型端子である。繰り返しになるが、
図1A(b)、(c)及び
図1B(a)の断面図を参照すれば分かるように、各端子の要部断面はL字型をしている。ブリッジ端子14Bは、ブリッジ配線導体12Bに接続され、ブリッジ配線導体12Bから起立している。同様にハイサイド端子14Hとローサイド端子14Lは、それぞれ正極配線導体12H、負極配線導体12Lに接続され、正極配線導体12H、負極配線導体12Lから起立している。ブリッジ端子14Bは「起立型ブリッジ端子」に相当し、ハイサイド端子14Hは「起立型ハイサイド端子」に相当し、ローサイド端子14Lは「起立型ローサイド端子」に相当し、ゲート信号端子14HG、14LGは「起立型ゲート信号端子」に相当し、ソース信号端子14HS、14LSは「起立型ソース信号端子」に相当する。
【0023】
ハイサイド端子14Hは、ハイサイドパワー半導体装置13HTとブリッジ端子14Bの間に配置されていて、ブリッジ端子14Bに対して近接し且つ平行に配置さている。ローサイド端子14Lは、ローサイドパワー半導体装置13LTとブリッジ端子14Bの間に配置されていて、ブリッジ端子14Bに対して近接し且つ平行に配置さている。ハイサイド端子14Hとブリッジ端子14Bの間、及びブリッジ端子14Bとローサイド端子14Lの間に、放電防止と接触防止の観点から、絶縁部材(図示せず)を挟持することが望ましい。
【0024】
図2(c)に示すように、ハイサイドパワー半導体装置13HTとハイサイド端子14Hの距離(h)、及びローサイドパワー半導体装置13LTとローサイド端子14Lの距離(l)は、ハーブリッジパワー半導体モジュール1の大きさ、寄生インダクタンスの大きさ、放熱性能、組立容易性を規定する重要な設計パラメータである。
図2(c)の構造を成立させるためには、少なくともh>xかつl>zでなければならない。ハイサイド領域の寄生インダクタンスとローサイド領域の寄生インダクタンスのアンバランスを少なくするために、h=lであることが望ましい。また、寄生インダクタンスとモジュールサイズを小さくするために、他の設計要件が許す限り、距離(h)及び距離(l)はできるだけ小さいことが望ましい。
【0025】
ゲート信号端子14HGとソース信号端子14HSは、
図1(d)に示されるように、絶縁配線基板15表面のゲート信号配線導体12HG、ソース信号配線導体12HSに接続され、同配線導体から起立した平板状の起立型端子である。ゲート信号端子14LGとソース信号端子14LSは、ゲート信号配線導体12LG、ソース信号配線導体12LSに接続され、同配線導体から起立した平板状の起立型端子である。ゲート信号端子(14HG、14LG)は対となるソース信号端子(14LG、14LS)に対してそれぞれ近接し且つ平行に配置されている。この配置はゲート信号線路の寄生インダクタンスを低減する望ましい効果を奏している。
【0026】
本実施形態において、ハイサイドパワー半導体装置13HT及びローサイドパワー半導体装置13LTは、排他的にターンオンするように制御されることを想定している。ただし、ハイサイドパワー半導体装置13HTとローサイドパワー半導体装置13LTを同時にターンオンさせる(地絡させる)ことは可能である。
【0027】
[ハーフブリッジパワー半導体モジュール1の製造方法]
次に、
図2(a)〜
図2(c)を用いて、
図1A及び
図1Bのハーフブリッジパワー半導体モジュール1の製造方法の一例を説明する。
【0028】
第1工程において、
図2(a)に示すように、表面に正極配線導体12H、ブリッジ配線導体12B、負極配線導体12L、ゲート信号配線導体(12HG、12LG)及びソース信号配線導体(12HS、12LS)、裏面に熱歪み緩和導体22(図示せず)を備えた絶縁配線基板15と、図示は省略するが、各起立型端子(14H、14B、14L、14HG、14HS、14LG、14LS)を用意し、アセトン、イソプロパノールなどの有機溶剤で十分に洗浄する。なお、この様な絶縁配線基板15や各起立型端子はセラミック基板メーカや板金加工メーカに図面を添えて発注すれば入手することができる。
【0029】
つづいて、第2工程において、
図2(b)に示すように、銀ろう(例えばAg−24%Cu−15%In合金など)と減圧高温接合装置を用いて、各起立型端子(14H、14B、14L、14HG、14HS、14LS、14LS)を絶縁配線基板15の表面配線導体12H、12B、12L、14HG、14HS、14LG、14LSの所定の位置に接合する。この時、各起立型端子の正確な位置決めを行うために、カーボン等でできた位置決め治具を使用するのが望ましい。接合方法は銀ろう付けに限定するものではない。はんだ付けや導電性接着剤を用いた接合、AgやCu等のサブミクロン導体粒子を用いた接合、レーザー溶接、固相(または液相)拡散接合なども用いることができる。
【0030】
つづいて、第3工程において、
図2(c)に示すように、減圧リフロー装置を用いて、十分洗浄した各パワー半導体装置(13HT、13LT)チップを正極配線導体12H、ブリッジ配線導体12Bの所定の位置にはんだ付けする。この時、各パワー半導体装置(13HT、13LT)チップの正確な位置決めを行うために、カーボン等でできた位置決め治具を使用するのが望ましい。接合の方法ははんだ付けに限定するものではなく、導電性接着剤を用いた接合、AgやCu等のサブミクロン導体粒子を用いた接合、固相(または液相)拡散接合なども用いることができる。接合のプロセス温度はパワー半導体装置(13HT、13LT)の耐熱温度及び前記第2工程で使用した接合材の耐熱温度より30℃以上低い材料であることが望ましい。
【0031】
最後に第4工程において、ワイヤボンド装置を用いて、各パワー半導体装置(13HT、13LT)の表面電極(ソース電極、ゲート電極)と各配線導体(12B、12L、12HG、12HS、12LG、12LS)とを、表面接合手段一例としてのボンディングワイヤー(18BT、18HG、18HS、18LT、18LG、18LS)で接続する。ボンディングワイヤーに限らず、ボンディングリボンやリードフレームなどのその他の表面接続手段を用いても構わない。こうして、
図1Aに示すハーフブリッジパワー半導体モジュール1が完成する。
【0032】
第1実施形態に係る製造方法の一変形例(第1変形例)として、第2工程の各起立型端子(14H、14B、14L、14HG、14HS、14LG、14LS)の接合と第3工程の各パワー半導体装置(13HT、13LT)チップの接合を同じ接合材を使用して同時に実施することも可能である。この場合、製造工程が短縮化され、製造コストが縮減されるという利点が生まれる。接合のプロセス温度はパワー半導体装置(13HT、13LT)の耐熱温度が上限となる。
【0033】
第1実施形態に係る製造方法の他の変形例(第2変形例)として、第2工程(
図2(b))と第3工程(
図2(c))の間に各起立型端子を接合させた絶縁配線基板15に対して無電解Niめっき処理を行い、各配線導体(12B、12L、12HG、12HS、12LG、12LS)の表面と各起立型端子(14H、14B、14L、14HG、14HS、14LS、14LS)の表面にNiめっきを被覆する工程を付加することもできる。
【0034】
[比較例]
次に、
図10に示す比較例を参照して、
図1Aのハーフブリッジパワー半導体モジュール1より得られる作用及び効果を説明する。
【0035】
炭化珪素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)のワイドバンドギャップ半導体を用いたパワー半導体装置(MOSFET、JFET、SBDなど)や、スーパージャンクション構造のパワーSi−MOSFETの出現によって、昨今、600V〜1.7kVの高電圧領域において、高速スイッチングさせて駆動する次世代電力変換器(インバータやコンバータ)の開発が盛んになってきている。高速スイッチング駆動ができるのはこれらパワー半導体装置が高電圧領域でユニポーラ動作するデバイスだからである。
【0036】
高速スイッチング駆動の第1の恩恵は、パワー半導体装置のスイッチング損失を低減して、変換効率を高めることであるが、変換効率を落とさずに、スイッチング周波数(またはキャリア周波数)を上げられるという第2の恩恵の方が実用上はより重要である。なぜなら、スイッチング周波数が上がれば、結合キャパシタやリアクトルなどの大型受動部品の体積が小さくなり、それは電力変換器の寸法や価格の縮減に繋がるからである。
【0037】
ところで、モータやインダクタ、トランスなど大きな誘導性の負荷を制御する電力変換器の主回路として、1パッケージ内に1つまたは複数のハーフブリッジ(パワー)回路を収納したパワーモジュールが広く用いられている。このハーフブリッジ(パワー)回路をごく簡単に説明すると、2つのパワー半導体装置チップを順方向に直列接続にして、その接続中点を出力端子にした回路である。
【0038】
ところが、このハーフブリッジ(パワー)回路を高速でスイッチングさせようとすると、以下のような問題が生じる場合がある。
【0039】
(1)ターンオンしていたパワー半導体装置をターンオフする瞬間に大きなサージ電圧(または跳ね上がり電圧)が発生してスイッチング損失が増大する。
(2)このサージ電圧でパワー半導体装置を破壊する。
(3)この脅威から逃れるために、より高耐圧仕様のパワー半導体装置を採用すると導通損失が増大する上に、製造コストも増大する。
【0040】
上記問題の原因は、主電流(負荷電流)の流れるモジュール配線経路に生じる寄生インダクタンス(自己インダクタンス)Lsと急速な電流変化(di/dt)との干渉が引き起こす逆起電圧(=−Ls×di/dt)である。
【0041】
配線の寄生インダクタンスを軽減する方法として、近接させた往復配線に逆方向の電流を流すことによって起こる相互コンダクタンス効果を用いて、寄生インダクタンスを減殺する電磁気学的方法がある(特許文献1及び2参照)。即ち、表面にブリッジ回路を形成した絶縁配線基板の裏面に、ハイサイド電位またはローサイド電位のいずれかと同電位にした平行配線板を設けて、平行配線板に表面の主電流と逆向きの主電流を流して、「近接逆平行通流」を形成する方法である。
【0042】
図10は、この電磁気学的方法を、ハーフブリッジパワーモジュール1000内部の寄生インダクタンス低減に適用した比較例の要部断面図である。ハーフブリッジパワーモジュール1000は2層絶縁板3層導体板構造の絶縁配線基板115を用いている。すなわち、絶縁配線基板115は第1絶縁板116と第2絶縁板121を備え、第1絶縁板116の表面に、表面配線導体(112H、112B、112L1、112L2)を設け、第1絶縁板116と第2絶縁板121の間には中間配線導体117Lを設け、第2絶縁板121の裏面に熱歪み緩和導体122を設けている。第1絶縁板116を貫通する開口に接続導体(120L1、120L2)が埋め込まれている。接続導体120L1は表面配線導体112L1と中間配線導体117Lを接続し、接続導体120L2は表面配線導体112L2と中間配線導体117Lを接続している。
【0043】
ハイサイド端子114Hは表面配線導体112Hに設けられ、ローサイド端子114Lは表面配線導体112L1に設けられ、ブリッジ端子114Bは表面配線導体112Bに設けられている。
【0044】
ハイサイドパワー半導体装置(スイッチング素子)113HTの裏面電極(ドレイン電極)は表面配線導体112Hに接合され、ローサイドパワー半導体装置(スイッチング素子)113LTの裏面電極(ドレイン電極)は表面配線導体112Bに接合されている。ハイサイドパワー半導体装置113HTの表面電極はボンディングワイヤー118Bを介して表面配線導体112Bに接続されている。ローサイドパワー半導体装置113LTの表面電極はボンディングワイヤー118Lを介して表面配線導体112L2に接続されている。
【0045】
しかし、
図10のパワーモジュール1000の構造においては、第1絶縁板116と熱応力緩和導体122のとの間に中間配線導体117Lと第2絶縁板121が挿入されている。よって、今日広く用いられている単層絶縁板の両面に導体板を貼り付けた単純な絶縁基板と比較すると、絶縁配線基板115の熱抵抗が増大してしまう。このため、パワー半導体装置(113HT、113LT)の放熱性が悪くなり接合温度が高くなるという問題があった。熱抵抗に与える影響度は、中間配線導体117Lより第2絶縁板121が大きい。これは第2絶縁板121の熱伝導度が著しく低いからである。
【0046】
[第1実施形態による作用効果]
正極配線導体12H及びハイサイド接続手段(
図1Aでは複数のボンディングワイヤー)18BTの各々に流れる主電流は、その大きさが等しく、その向きが逆方向であり且つ分散して近接平行している。また、ブリッジ配線導体12B及び複数のボンディングワイヤー18LTの各々に流れる主電流は、その大きさが等しく、その向きが逆方向且つ分散して近接平行している。
【0047】
ブリッジ端子14Bとハイサイド端子14H、及びブリッジ端子14Bとローサイド端子14Lは、互いに近接して平行に配置されている。ハイサイド端子14H及びブリッジ端子14Bの各々に流れる主電流は、その大きさが等しく、その向きが逆方向且つ分散して近接平行に流れる。ローサイド端子17L及びブリッジ端子14Bの各々に流れる主電流は、その大きさが等しく、その向きが逆方向且つ分散して近接平行に流れる。
【0048】
更に、正極配線導体12Hに流れる主電流の向きとハイサイド端子14Hに流れる主電流の向きは略直角を成している。負極配線導体21Lに流れる主電流の向きとローサイド端子17Lに流れる主電流の向きは略直角を成している。
【0049】
このような主電流の向きを形成することにより、
図1Aのハーフブリッジパワー半導体モジュール1は、
図10のハーフブリッジパワーモジュール1000と同等またはそれ以上に低い寄生インダクタンスを実現することができる。
【0050】
更に、
図1Aのハーフブリッジパワー半導体モジュール1は、単層の絶縁板16を備えることにより、
図10のハーフブリッジパワーモジュール1000と同等またはそれ以上に低い寄生インダクタンスを実現しながら、単層の絶縁板を備える絶縁配線基板を用いた従前のハーフブリッジパワー半導体モジュールと同等の熱抵抗(絶縁配線基板の熱抵抗)を達成することができる。
【0051】
ここで、第1実施形態のハーフブリッジパワー半導体モジュール1が従前のハーフブリッジパワー半導体モジュールと同等の熱抵抗を達成することができる理由を詳しく説明する。一般に、パワー半導体装置で発生したジュール熱の大部分は絶縁配線基板の下部に結合された放熱器に向かって垂直に伝播する。この伝播経路を構成する部材の熱抵抗の総和が絶縁配線基板の熱抵抗である。
【0052】
第1実施形態のハーフブリッジパワー半導体モジュール1は、
図1A(b)の断面構造を参照すれば明白なように、従前のハーフブリッジパワー半導体モジュールと同じ垂直構造を有する。つまり、単層の絶縁板16を備える絶縁配線基板15を用いている。よって、第1実施形態に係わる絶縁配線基板15の熱抵抗は、従前の絶縁配線基板の熱抵抗と同じであると言うことができる。配線導体(12H、12B)の熱抵抗をRth_C1、絶縁板16の熱抵抗をRth_I1、熱歪み緩和導体22の熱抵抗をRth_C2とすると、絶縁配線基板15の熱抵抗Rth_subはこれらの直列接続抵抗となる。
Rth−sub=Rth_C1+Rth_I1+Rth_C2・・・・(1)
【0053】
式(1)に示す絶縁配線基板の熱抵抗Rth_subは、単層の絶縁板を備える絶縁配線基板を用いた従前のハーフブリッジパワー半導体モジュールと同じである。
【0054】
これに対して、比較例(
図10)の熱抵抗Rth_subは、式(2)で表すことができる。Rth_Cm、Rth_I2はそれぞれ中間配線導体117Lと第2絶縁板121の熱抵抗である。
Rth−sub=Rth_C1+Rth_I1+(Rth_Cm+Rth_I2)+Rth_C2・・・・(2)
【0055】
式(1)と式(2)を比較すると明らかなように、第1実施形態のハーフブリッジパワー半導体モジュール1の熱抵抗は、比較例(
図10)に比べて、中間配線導体117Lと第2絶縁板121の熱抵抗(Rth_Cm+Rth_I2)だけ低減されていると言うことができる。よって、熱的に優れた性能を備えていることが数式的にも理解される。
【0056】
つぎに、第1実施形態のハーフブリッジパワー半導体モジュール1が、比較例(
図10)と同等またはそれ以上に低い寄生インダクタンスを実現できる3つの理由を、
図3A及び
図3Bを用いて、説明する。
【0057】
まず、第1の理由は次のとおりである。
図3A(a)及び(b)に示すように、たとえば、ハイサイドパワー半導体装置13HTがターンオンしているときは、ハーフブリッジパワー半導体モジュール1には矢印及び点線で示す主電流ILHが流れる。主電流ILHは、ハイサイド端子14Hからモジュールに入り、正極配線導体12Hを流れ、ハイサイドパワー半導体装置13HTで折り返し、ハイサイド接続手段(複数のボンディングワイヤー)18BTを経由して、ブリッジ端子14Bからモジュール外に出る。このように、ハイサイドパワー半導体装置13Hがターンオンしているとき、主電流端子14H、14Bを含むほぼ全ての地点において、大きさが同じ且つ向きが逆となる主電流ILHが拡がって、近接位置で逆平行循環している。すなわち、主電流(ILL)の「近接逆平行通流」の構成が主電流の流路のほぼ全域で達成されていると言うことができる。これにより、ハイサイドパワー半導体装置13HTがターンオンしているときに流れる主電流の流路に発生する寄生インダクタンスLsを電磁気学的に理想的に低減することができる。
【0058】
図3A(c)及び(d)に示す主電流ILLはローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTに内蔵されたダイオードが逆導通しているときに流れる主電流(環流電流)を示し、
図3B(a)及び(b)に示す主電流ILLはローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTがターンオンしたときに流れる主電流を示し、
図3B(c)及び(d)に示す主電流ILHはハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HTに内蔵されたダイオードが逆導通しているときに流れる主電流(環流電流)を示している。ハーフブリッジパワー半導体モジュール1のその他の動作状態にいても、このように、主電流(ILH、ILL)が拡がって「近接逆平行通流」を達成し、主電流の流路に発生する寄生インダクタンスLsを電磁気学的に理想的に低減していると言うことができる。
【0059】
さらには、上述のように
図3A及び
図3Bに示したすべての定常動作状態において、近接逆平行通流をハイサイド領域単位及びローサイド領域単位で実現していることから、ある定常動作状態から他の定常動作状態に移行する過渡動作状態(ターンオン、ターンオフする瞬間)であっても近接逆平行通流を達成していると言うことができる。たとえば、ローサイドパワー半導体装置13LTがターンオフする瞬間の過渡状態は、
図3B(a)〜(d)に示す近接逆平行通流が同時に起こる。もう少し厳密に言うと、
図3B(a)及び(b)の近接逆平行通流が減少しつつ、
図3B(c)及び(d)の接逆平行通流が増加するような遷移が起きる。この様な過渡状態であっても、ハイサイド及びローサイドに分岐した主電流がそれぞれのサイドにおいて、近接逆平行通流を実現していることが分かる。他の過渡状態、すなわち、ローサイドパワー半導体装置13LTがターンオンする瞬間、ハイサイドパワー半導体装置13HTがターンオフ或いはターンオンする瞬間も同様である。この作用によって、過渡状態で発生する電圧サージのみならず電流のリンギングもまた極めて効果的に低減することができる。
【0060】
これに対して、比較例(
図10)のパワーモジュールの構造においては、主電流の「近接逆平行通流」が不完全になる区間が必然的に生じる。このため、寄生インダクタンスLsの低減が抑制される、その結果として、電圧サージの低減も思うようにできないという問題がある。この影響は抵抗成分が優勢な負荷の場合やパワーモジュールを並列接続して使用する場合には深刻になってくる。
【0061】
図10の矢印破線ILLは、ローサイドパワー半導体装置113LTがターンオンしているときの主電流(負荷電流)の流れを示す。主電流(ILL)は、ブリッジ端子114Bからパワーモジュールに入力され、表面配線導体112B、ローサイドパワー半導体装置113LT、ボンディングワイヤー118L、表面配線導体112L2、接続導体120L2、中間配線導体117L、接続導体120L1、及び表面配線導体112L1を経由してローサイド端子114Lから出力される。ここで、
図10の第1区間G1では、絶縁基板115の表面側に流れる主電流(ILL)と裏面側に流れる主電流(ILL)とが逆向きとなる。よって、主電流の「近接逆平行通流」の効果があるため、低い寄生インダクタンスLsを実現できる。しかし、第1区間G1に隣接する第2区間G2で、主電流(ILL)は、中間配線導体117Lだけに流れる。よって、主電流の「近接逆平行通流」の効果が無いため、第2区間G2に大きな寄生インダクタンスLsが生じることになる。
【0062】
図10の矢印破線ILHは、ハイサイドパワー半導体装置113HTがターンオンしているときの主電流(負荷電流)の流れを示す。主電流(ILH)は、ハイサイド端子114Hからパワーモジュールに入力され、表面配線導体112H、ハイサイドパワー半導体装置113HT、ボンディングワイヤー118B、表面配線導体112Bを経由して、ブリッジ端子114Bから出力される。ここで注目すべきは、中間配線導体117Lに主電流(ILH)が一切流れず、「近接逆平行通流」の効果が無い点である。すなわち、ハーサイド半導体装置113Hがターンオンしているとき、主電流(ILH)の電流経路(114H、112H、113HT、118B、112B、114B)は寄生インダクタンスLsが高い状態になっている。
【0063】
同様に、ハイサイドパワー半導体装置113HTあるいはローサイドパワー半導体装置113LTが転流モード(逆導通モード)にあるときも第2区間G2は大きな寄生インダクタンスになっている。
【0064】
以上説明したように、第1実施形態では比較例の「近接逆平行通流」が成立しない区間G2が存在しない。このため、第1実施形態はどのような負荷条件であっても、比較例より寄生インダクタンスLsを効果的に削減することができる。
【0065】
低い寄生インダクタンスを実現できる第2の理由は、主電流の流路が比較例より短いからである。比較例(
図10)では、中間配線導体117Lに主電流を流すために、第1絶縁板116に2つの接続口(接続導体120L1、120L2)を設ける必要がある。このため、接続口を持たない第1実施形態(
図1A(b))と比べると主電流の流路は長くなる。短い電流流路は寄生インダクタンスを縮減する効果があるため、第1実施形態は比較例よりも寄生インダクタンスを小さくすることができる。また、主電流の流路を比較例より短くしたことにより、モジュールの寸法を小さくできるという効果も合わせて得られる。
【0066】
低い寄生インダクタンスを実現できる第3の理由は、逆平行させて流れる2つの主電流(往路電流と復路電流)の距離が比較例よりも狭いからである。比較例(
図10)の2つの主電流は絶縁板116を挟んでいる。一方、第1実施形態(
図1A(b))の2つの主電流は絶縁板16を挟んでいない。第1実施形態は、絶縁板116の厚みに相当する分だけ、2つの主電流(往路電流と復路電流)を近接させることができる。第1実施形態は、この近接効果によって、比較例よりも寄生インダクタンスを小さくすることができる。
【0067】
以上述べた作用効果は、後述する他の実施形態及び変形例においても共通する。
【0068】
(第2実施形態)
第1実施形態では、ハイサイドパワー半導体装置13HT及びローサイドパワー半導体装置13LTがともにスイッチング素子(すなわち、MOSFETやJFETなどのトランジスタ)であるハーフブリッジパワー半導体モジュールの場合を示した。しかしながら、ハイサイドパワー半導体装置またはローサイドパワー半導体装置の一方がダイオード、他方がトランジスタであるハーフブリッジパワー半導体モジュールであっても、同様にして、寄生インダクタンスLsを低減し、その結果として、トランジスタのターンオンで発生するサージ電圧を低減することができる。
【0069】
第2実施形態は、本発明を降圧チョッパーや昇圧チョッパーと呼ばれるDC−DC変換器等に広く用いられている、一方がダイオード、他方がトランジスタであるハーフブリッジパワー半導体モジュール2に適用した例である。
【0070】
図4A及び
図4Bを参照して、第2実施形態に係わるハーフブリッジパワー半導体モジュール2の構成を説明する。
図4A(a)はハーフブリッジパワー半導体モジュール2の平面図であり、
図4A(b)は
図4A(a)のA−A’切断線に沿って切断した断面図であり、
図4A(c)は
図4A(a)のB−B’切断線に沿って切断した断面図である。
図4B(a)は
図4A(a)のC−C’切断線に沿って切断した断面図であり、
図4B(b)はハーフブリッジパワー半導体モジュール2の回路表現図である。
【0071】
ハーフブリッジパワー半導体モジュール2は、ハイサイドにハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HDを備え、ローサイドに高速還流パワーダイオード13LDを備えている。高速還流パワーダイオード13LDはショットキーダイオードまたは高速pnダイオードである。高速還流パワーダイオード13LDの裏面電極(カソード電極)はブリッジ配線導体12Bの表面に、はんだ等によってダイボンドされている。一方、高速還流パワーダイオード13LDの表面電極(アノード電極)は、ローサイド接続手段(
図4A(a)では複数のボンディングワイヤー)18LDによってローサイド端子14Lに接続されている。ローサイド接続手段18LDにはボンディングリボンあるいはリードフレーム等その他の接続手段を用いてもよい。ハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HTは逆導通ダイオードを内蔵していないユニポーラ型スイッチでもバイポーラ型スイッチでも構わない。
【0072】
ハーフブリッジパワー半導体モジュール2は、ハーフブリッジパワー半導体モジュール1と同じ単層絶縁板16を具有する絶縁配線基板15を備える。高速還流パワーダイオード13LDはゲート電極を有しないため、絶縁配線基板15は、ローサイドのゲート信号配線導体(12LG)及びソース信号配線導体(12LS)を有さない。絶縁配線基板15は、この点を除き、
図1A(a)の配線基板15と同じ構成である。また、ハーフブリッジパワー半導体モジュール2はローサイドのボンディングワイヤー(18LG、18LS)、及びゲート/ソース信号端子(14LG、14LS)も存在しない。
【0073】
その他の符号に対応する構成は
図1A及び
図1Bと同じなので、説明は省略する。なお、降圧チョッパーでは、通常、ハイサイド端子14Hに直流電源の正極が接続され、ローサイド端子14Lに直流電源の負極が接続され、ブリッジ端子14Bとローサイド端子14Lの間には直列接続にしたエネルギー蓄積用コイルと平滑コンデンサが接続される。降圧された直流電圧はこの平滑コンデンサの両端から出力される。
【0074】
次に、
図4A及び
図4Bのハーフブリッジパワー半導体モジュール2は、
図2(a)〜(c)を参照して説明した、第1実施形態の製造方法と同じ方法によって製造することができる。ただし、
図2(a)〜(c)の絶縁配線基板15を
図4A(a)の構成の絶縁配線基板15に置き換え、ローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTを高速還流パワーダイオード13LDに置き換え、ボンディングワイヤー18LTをボンディングワイヤー18LDに置き換え、そして、配線導体(12LG、12LS)、ボンディングワイヤー(18LG、18LS)、及び信号端子(14LG、14LS)を削除するものとする。
【0075】
第2実施形態による作用効果を説明する。ハイサイドパワー半導体装置13Hがターンオンしているときに流れる主電流(負荷電流)ILHは、
図3A(a)及び(b)と同じであり、第1実施形態で説明した効果と同様な効果が得られる。また、ハイサイドパワー半導体装置13Hがターンオフした後、高速還流パワーダイオード(ローサイドパワー半導体装置)13LDを含むローサイド領域には、
図4Aの破線で示すような転流主電流(還流電流)ILLが流れる。この転流主電流(還流電流)ILLの流れは
図3A(c)及び(d)と同様に近接逆平行通流であり、ローサイド領域においても寄生インダクタンスの低減が図られているのが分かる。
【0076】
さらに、ハイサイドパワー半導体装置13HTがターンオン或いはターンオフする瞬間の過渡状態では、
図3A(a)、(b)及び
図4Aの破線に示した主電流(ILH、ILL)がハイサイド領域とローサイド領域とで同時に流れるが、この間もハイサイド及びローサイドそれぞれの領域において近接逆平行通流が実現されているから、寄生インダクタンスの低減の作用が遺憾なく発揮される。これによって、ターンオフした瞬間のハイサイドパワー半導体装置13Hのサージ電圧が小さくなるという効果が得られる。また、ターンオン或いはターンオフする瞬間に主回路で起こる電流、電圧のリンギングも低減できるという効果が得られる。
【0077】
(第3実施形態)
ハーフブリッジパワー半導体モジュールに使用するハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)或いはローサイドパワー半導体装置(スイッチ)の属性によっては、パワー半導体装置(スイッチ)に高速還流パワーダイオードFWD(ショットキーダイオードまたは高速pnダイオード)を逆並列に設置する必要がある場合がある。これに該当するのは、たとえば、IGBTのように逆導通させることが原理的に困難なバイポーラパワー半導体装置の場合、ユニポーラ型であってもパワー半導体装置(スイッチ)に逆導通型ダイオードが内蔵されていない場合、パワー半導体装置(スイッチ)に内蔵されている逆導通型ダイオードの電流定格では容量が足らない場合、あるいは、何らかの理由で内蔵ダイオードを逆導通させたくない場合、などである。本発明は、以下に述べるようにこのような場合でも適用可能である。
【0078】
第3実施形態においては、ハイサイドパワー半導体装置及びローサイドパワー半導体装置の少なくとも一方が、パワースイッチング素子(13HT、13LT)とパワースイッチング素子に逆並列に接続された還流用のパワーダイオード(13HD、13LD)とを備える構成となっている。もしパワースイッチング素子(13HT、13LT)が逆導通ダイオードを内蔵している場合には、所期の目的を達成するために、パワーダイオード(13HD、13LD)の定格動作電圧が内蔵逆導通ダイオードの動作電圧よりも十分低くなるようパワーダイオードが選択されているものとする。
【0079】
図5は、第3実施形態に係わるハーフブリッジパワー半導体モジュール3の構成を示す。
図5(a)はハーフブリッジパワー半導体モジュール3の平面図であり、
図5(b)は
図5(a)の中で使用している絶縁配線基板15単体の平面図であり、
図5(c)はハーフブリッジパワー半導体モジュール3の回路表現図である。
図5(a)に引いた線分A1−A1’及び線分A2−A2’に切った断面構造は、
図4A(b)のA−A’断面図と略同じであり、
図5(a)の線分B1−B1’及び線分B2−B2’に切った断面構造は、前記
図4(c)B−B’断面図と略同じであるため、断面の図示は省略する。
【0080】
ハーフブリッジパワー半導体モジュール3は、第1及び第2実施形態と同様に、一枚の絶縁層(単層)を備える絶縁配線基板15の上に築かれたハイサイド領域とローサイド領域をブリッジ接続した基本構成を有する。
【0081】
具体的には、ハーフブリッジパワー半導体モジュール3のハイサイド領域には、逆並列接続されたハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HTとハイサイドパワー半導体装置(ダイオード)13HDとが配置されている。ハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HT及びハイサイドパワー半導体装置(ダイオード)13HDの裏面電極(ドレイン電極、カソード電極)は、正極配線導体12Hの所定の位置に、はんだなどで電気的且つ機械的に接合されている。ハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HT及びハイサイドパワー半導体装置(ダイオード)13HDの表面主電極(ドレイン電極、カソード電極)は、ボンディングワイヤーなどのハイサイド接続手段18BT、18BDを介して、ブリッジ端子14Bの足甲に結線されている。正極配線導体12Hは、スリット26Hによって、ハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HTを置くスイッチ領域12H(T)と、ハイサイドパワー半導体装置(ダイオード)13HDを置くダイオード領域12H(D)と、に分割されている。
【0082】
同様に、ハーフブリッジパワー半導体モジュール3のローサイド領域には、逆並列接続されたローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTとローサイドパワー半導体装置(ダイオード)13LDとが配置されている。ローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LT及びローサイドパワー半導体装置(ダイオード)13LDの裏面電極は、はんだなどでブリッジ配線導体12Bの所定の位置に電気的且つ機械的に接合されている。ローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LT及びローサイドパワー半導体装置(ダイオード)13LDの表面主電極(ドレイン電極、カソード電極)は、ボンディングワイヤーなどのローサイド接続手段18LT、18LDを介して、負極端子14Lの足甲に結線されている。ブリッジ配線導体12Bは、スリット26Bによって、ローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTを置くスイッチ領域12B(T)と、ローサイドパワー半導体装置(ダイオード)13LDを置くダイオード領域12B(D)と、に分割されている。
【0083】
スリット(26H、26B)を設けることにより、次のような作用効果が生まれる。すなわち、スリット26Hは、正極配線導体12H(T)(または12H(D))を一方向に流れる主電流の重心線とハイサイド接続手段(図中では複数のボンディングワイヤー)18HT(または18HD)を逆方向に流れる主電流の重心線を近接(或いは一致)させ、ハイサイド領域の寄生インダクタンスを一層低減させることができる。同様に、スリット26Bは、ブリッジ配線導体12B(T)(または12B(D))を流れる負荷電流の重心線と複数のボンディングワイヤー18LT(または18LD)を流れる逆向きの負荷電流の重心線を近接(或いは一致)させ、ローサイド領域の寄生インダクタンスをさらに一層低減させることができる。
【0085】
また、第3実施形態に係るハーフブリッジパワー半導体モジュール3の製造工程は、
図2を用いて説明したハーフブリッジパワー半導体モジュール1の製造工程と変わるところがないので説明を省略する。
【0086】
第3実施形態に係るハーフブリッジパワー半導体モジュール3は、第1実施形態、第2実施形態と同様に、単層の絶縁板16の両面に各種配線導体と熱歪み緩和導体22を張り付けた構成の絶縁配線基板15を備える。よって、2層の絶縁板と3層の導体層からなる比較例(
図10)の絶縁配線基板115より熱抵抗が低く、従前のパワー半導体モジュールと全く同等の低い熱抵抗を実現している。
【0087】
図6(a)〜(d)の矢印破線は、第3実施形態に係るハーフブリッジパワー半導体モジュール3の定常動作状態において流れる主電流(ILH、ILL)の流れを示している。すなわち、
図6(a)は、ハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HTがターンオンしているときに流れる主電流(ILH)を示し、
図6(b)は、ローサイドパワーダイオード13LDが逆導通(転流)しているときに流れる主電流(ILL)を示し、
図6(c)は、ローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTがターンオンしているときに流れる主電流(ILL)を示し、
図6(d)は、ハイサイドパワーダイオード13HDが逆導通(転流)したているときに流れる主電流(ILH)を示す。ハーフブリッジパワー半導体モジュール3は、4つの基本定常動作状態すべてにおいて、絶縁配線基板15上であっても、主端子(14H,14B、14L)であっても、近接逆平行通流条件を達成していることが確認される。
【0088】
このように、第3実施形態は第1実施形態と第2実施形態と同様に、パワーモジュール内部の寄生インダクタンスと熱抵抗を同時に低減していると言うことができる。
【0089】
ハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HTがターンオフする瞬間は、主電流ILH(
図6(a))は減少しつつ、
図6(b)のパワーダイオード13LDの主電流ILL(
図6(b))は増加するように、主電流(ILH、ILL)が同時に流れる。このような過渡状態であっても、主電流(ILH、ILL)の各々は、ハイサイド及びローサイドの各領域で近接逆平行通流を達成している。このため、過渡状態でも寄生インダクタンスが小さくなり、結果としてハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HTに印加されるサージ電圧の発生を抑制するという効果を奏することができる。
【0090】
一方、ローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTがターンオフする瞬間も、主電流ILL(
図6(c))は減少しつつ、パワーダイオード13HDの主電流ILH(
図6(d))は増加するように、主電流(ILH、ILL)が同時に流れる。このような過渡状態であっても、主電流(ILH、ILL)の各々は、ハイサイド及びローサイドの各領域で近接逆平行通流を達成している。このため、寄生インダクタンスが小さくなり、結果としてローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTに印加されるサージ電圧の発生を抑制するという効果を奏することができる。
【0091】
更に、ハイサイド及びローサイドの各領域で近接逆平行通流を達成しているため、パワー半導体装置(スイッチ)13HT、13LTがターンオンする瞬間も寄生インダクタンスが低い状態が維持されている。つまり、第3実施の形態ハーフブリッジパワー半導体モジュール3はパワー半導体装置(スイッチ)13HT、13LTがターンオンする瞬間もターンオフする瞬間も寄生インダクタンスが低く抑制されている。このため、寄生インダクタンスと主電流の急激変化で引き起こされる電流リンギングや電圧リンギングを抑制することができる。
【0092】
(変形例1)
ここで、第3実施形態に係わる変形例1を説明する。
図7(a)は、変形例1に係わるハーフブリッジパワー半導体モジュール3−1の構成を示す平面図であり、
図7(b)はハーフブリッジパワー半導体モジュール3−1に使用している絶縁配線基板15の平面図である。要部断面構造は、
図1A(b)、
図1A(c)、及び
図1B(a)と基本的に変わらないから、図示を省略する。また、回路表現図も
図5(c)と同じであるから、図示を省略する。
【0093】
ハーフブリッジパワー半導体モジュール3(
図5)と変形例1に係わるハーフブリッジパワー半導体モジュール3−1(
図7)との相違点を説明する。第1の相違は、ローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTとローサイドパワー半導体装置(ダイオード)13LDの配置が入れ替わっていることである。この位置の入れ替わりにより、ハイサイド側とローサイド側の配置が入出力端子(14H、14B、14L)を境に略左右対称に配置されている。このため、変形例1によれば、ハーフブリッジパワー半導体モジュール3と比べて、ハイサイドとローサイドの寄生インダクタンスの総合バランスが良好に取れるという効果が得られる。
【0094】
また、第1の相違に起因して、次に示す第2の相違が生まれる。すなわち、ローサイドのゲート信号端子14LGとソース信号端子14LSが下部に移動し、ブリッジ配線導体12B(D)上部のスペースが空く。これにより、絶縁配線基板(モジュール)15の縦寸法が小さくできるという利点が生じる。
【0095】
ハーフブリッジパワー半導体モジュールは、PWM変調を行うDC−DCコンバータや正弦波波形を出力するPWMインバータのように、同極性の電力パルスを連続して出力する用途にしばしば用いられる。この場合、一方のサイド(例えばハイサイド)のスイッチをターンオン或いはターンオフし、他方のサイド(例えばローサイド)のダイオードに転流させる動作を繰り返す。このような動作モードの場合には、変形例1のハーフブリッジパワー半導体モジュール3−1(
図7)よりも、第3実施形態のハーフブリッジパワー半導体モジュール3(
図5)の方が、寄生インダクタンスのアンバランスの悪影響は少なく、優れている。この例で分かるように、用途によって最良の実施形態やその変形例を選ぶべきである。この指針は実施形態全体に共通して適用される。
【0096】
変形例1のハーフブリッジパワー半導体モジュール3−1の製造工程は第1実施形態(
図2)と同じなので説明は省略する。
【0097】
(第4実施形態)
第1乃至第3実施形態及びその変形例においては、ハイサイド領域とローサイド領域の中央にブリッジ端子14Bを配置する構成であった。しかし、本発明はこのようなレイアウトに限定されるものではない。第4実施形態は、本発明がブリッジ端子14Bを中央に配置しない構成でも実現可能であることを示す一例である。
【0098】
図8A及び
図8Bは、第4実施形態にかかるハーフブリッジパワー半導体モジュール4の構造を示す。ハーフブリッジパワー半導体モジュール4は、第1実施例(
図1A及び
図1B)のレイアウトを変更した一例であるが、2実施形態や第3実施形態のモジュールのレイアウト変更も同様の思想に基づいて可能であることを始めに断っておきたい。
図8A(a)は平面図であり、
図8B(a)は
図8A(a)の線分A−A’で切断した断面図、
図8B(b)は
図8A(a)の線分B−B’切断した断面図、
図8B(c)は
図8A(a)の線分C−C’で切断した断面図、
図8B(d)は
図8A(a)の線分D−D’で切断した断面図である。
図8A(b)は絶縁配線基板15単独の平面図である。回路表現図は前記
図1B(b)と同じなので描画を省略する。
図1と同じ記号を付した
図8の各要素は
図1の各要素と同じであるから説明は省略するか、簡単な説明に留める。
【0099】
絶縁配線基板15は、絶縁板16の表面に貼付された各種配線導体(正極配線導体12H、ブリッジ配線導体12B、負極配線導体12L、12HG、12HS、12LG、12LS)と、絶縁板16の裏面に貼付された熱歪み配線導体22とを備える、単層の絶縁配線基板である。
図8A(b)に示すように、ブリッジ配線導体12Bは、ハイサイド領域、ローサイド領域に分岐して存在している。
【0100】
ハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HT及びローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTの各々は、逆導通ダイオードを内蔵している。ハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HTの裏面は、正極配線導体12Hに接合され、ローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTの裏面は、ブリッジ配線導体12Bに接合されている。
【0101】
ブリッジ端子14Bは、起立型端子であって、ハイサイド領域およびローサイド領域のブリッジ配線導体12Bに接合されている。ハイサイド端子14Hは、起立型端子であって、正極配線導体12Hに接合され、ブリッジ端子14Bに近接し、かつ、ブリッジ端子14Bとハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HTの間に所在する。ローサイド端子14Lは、起立型端子であって、負極配線導体12Lに接合され、ブリッジ端子14Bに近接し、かつ、ブリッジ端子14Bとローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTの間に所在する。
【0102】
ハイサイド接続手段18BTは、ハイサイドパワー半導体装置(スイッチ)13HTの表面電極(ソースまたはエミッタ電極)と起立型ブリッジ端子14Bの足甲を接続する。ローサイド接続手段18LTは、ローサイドパワー半導体装置(スイッチ)13LTの表面電極(ソースまたはエミッタ電極)と起立型ローサイド端子14Lの足甲を接続する。
【0103】
第4実施形態に係るハーフブリッジパワー半導体モジュール4は、
図2を用いて説明した製造工程で製作できるので製造工程の説明は省略する。
【0104】
第4実施形態に係るハーフブリッジパワー半導体モジュール4は、
図8B(a)〜(d)に示すように、単層の絶縁板16の両面に各種配線導体と熱歪み緩和導体22を張り付けた絶縁配線基板15を備える。よって、2層の絶縁板と3層の導体層からなる比較例(
図10)の絶縁配線基板115より熱抵抗が低く、従前のパワー半導体モジュールと全く同等の低い熱抵抗を実現していると言える。
【0105】
図9(a)〜(d)に記載された矢印及び破線は、ハーフブリッジパワー半導体モジュール4の4つの定常動作状態において流れる主電流(ILH、ILL)を示す。全定常動作状態において、絶縁配線基板15上、及び主端子14H,14B、14Lで、ハーフブリッジパワー半導体モジュール3は近接逆平行通流の条件を満足していることが分かる。よって、第4実施形態に係るハーフブリッジパワー半導体モジュール4は、第1実施形態のハーフブリッジパワー半導体モジュール1と同等の低寄生インダクタンスを達成していると言える。
【0106】
主回路の寄生インダクタンスが小さくなったため、内部のパワー半導体装置(スイッチ)がターンオフする瞬間に発生するサージ電圧を顕著に低減することができる。さらには、寄生インダクタンスと主電流の急激変化で引き起こされる電流リンギングや電圧リンギングを抑制することができる。
【0107】
以上、実施例に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。