【文献】
DALY, MJ et al.,Small-molecule antioxidant proteome-shields in Deinococcus radiodurans,PLOS ONE,2010年 9月,Vol. 5, Issue 9,e12570
【文献】
NICIFOROVIC, L et al.,Experimental and systems biology studies of the molecular basis for the radioresistance of prostate carcinoma cells,ANNALS OF BIOMEDICAL ENGINEERING,2008年 5月,Vol. 36, No. 5,831-838
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試料のボクセルにおけるマンガンレベルの定量が、参照標準を用いてキャリブレーションされ、該参照標準は1つもしくは複数の参照ボクセルを含んでなり、それぞれの参照ボクセルは既知量のマンガンを含有する、請求項2に記載の方法。
被験試料が、被験体由来の任意の臓器もしくは組織から得られる組織サンプル、腫瘍、細胞の固体塊もしくは「液体」集団、白血病細胞を含む任意の造血系癌の細胞、固形腫瘍に由来する循環細胞、又は転移した細胞もしくは転移した細胞集団である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
前記対照試料が、細胞、細胞集団、「正常な」組織サンプル、精巣の癌の腫瘍/新生物の組織サンプル、リンパ腫、小細胞肺癌、脳腫瘍、中皮腫、メラノーマ、ならびに乳癌および前立腺癌を含むかまたはそれに由来する、請求項6に記載の方法。
被験体において癌を治療する方法であって、その方法が、被験体由来試料について請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法を実施すること、ならびにその癌が放射線に対して感受性であると判定されたら前記癌の治療に放射線治療を含めること、を含み、ここで前記被験体は非ヒト哺乳動物である、前記方法。
被験体において癌を治療する方法であって、その方法が、被験体由来試料について請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法を実施すること、ならびにその癌が放射線に対して抵抗性であると判定されたら前記癌の治療に放射線治療を含めないこと、を含み、ここで前記被験体は非ヒト哺乳動物である、前記方法。
HMRが、間質成分から癌細胞を区別する染色剤によって染色された被験試料の2次元領域においても同定され、好ましくは染色剤がヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色剤である、請求項14に記載の方法。
被験体における癌治療を補助する方法であって、被験体由来の被験試料について請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法を実施すること、ならびに前記癌が放射線に対して感受性であると判定された場合には前記癌の治療に放射線治療を含めることを補助することを含む、前記方法。
被験体における癌治療を補助する方法であって、被験体由来の被験試料について請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法を実施すること、ならびに前記癌が放射線に対して抵抗性であると判定された場合には前記癌の治療に放射線治療を含めないことを補助することを含む、前記方法。
【発明の概要】
【0029】
本発明の目的は、従来技術の治療法における少なくとも1つの不利な点を克服するか改善するおよび/または有用な代替手段を提供することである。
【0030】
本発明者らは、驚くべきことに、癌におけるマンガンレベルが癌の放射線応答性の指標として使用できることを発見した。具体的には、癌におけるマンガンレベルが高いほど、その癌は放射線に対して抵抗性が高い;さらに、癌のマンガンレベルが低いほど、その癌は放射線に対して感受性が高い。癌の放射線応答性(反応性)は、3次元および2次元解析の併用によってもっとも良好に測定することができる。したがって、ある態様において、本発明は、試料の3次元領域のボクセル(ヴォクセル)においてマンガンレベルを定量することを含む、生体試料(生物学的試験サンプル)の原子治療指標(Atomic Therapeutic Indicator(ATI))を作成する(生成する)方法を提供するが、その方法は、
(a)前記試料の2次元領域を選択すること、ここで、その2次元領域は組織分布的にX’:Y’座標系で定義され、このX’は2次元領域の長さ、Y’は2次元領域の幅であり、3次元領域は前記2次元領域に対応して、Zで表される選択された高さを有するが、この3次元領域は、各ボクセルの体積がXxYxZで定義される、所定の(予め規定された)体積のボクセルに分割され、Xはボクセルの長さ、Yはボクセルの幅、そしてZはクセルの高さを表す;
(b)それぞれのボクセルにおけるマンガンレベルを定量すること;ならびに
(c)選択されたボクセルにおけるマンガンの中心傾向レベルを計算すること
を含み、この選択されたボクセルにおけるマンガンの中心傾向レベルがATI(の意味)を定義する。
【0031】
別の態様において、本発明は、癌の放射線応答性を判定する方法を提供するが、その方法は、本発明にしたがって試料のATIを作成することを含み、ATIが低いほど癌は放射線に対して感受性が高く、ATIが高いほど癌は放射線に対して抵抗性が高い。
【0032】
ある実施形態において、ATIをあらかじめ定められたATI閾値と比較し、ATIがこのATI閾値より高いか低いかを評価することによって癌の放射線応答性を判定するが、
ATIがATI閾値より低いならば、癌は放射線に対して感受性であると判定され;さらに
ATIがATI閾値より高いならば、癌は放射線に対して抵抗性であると判定される。
【0033】
別の実施形態において、ATIを2つの所定の(予め決定された)ATI閾値と比較し、ATIが2つの閾値より高いか低いかを評価することによって癌の放射線応答性を判定するが、
ATIが低い方のATI閾値より低いならば、癌は放射線に対して感受性であると判定され;
ATIがもう1つの(高い方の)ATI閾値より高いならば、癌は放射線に対して抵抗性であると判定され;さらに
ATIが2つのATI閾値の間であるならば、癌は放射線に対して部分的に感受性であると判定される。
【0034】
試料のボクセルにおけるマンガンレベルの定量は、参照標準(標準試料)を用いてキャリブレーションされることが好ましいが、該参照標準は1つもしくは複数の参照ボクセルを含み、それぞれの参照ボクセルは既知量のマンガンを含有する。
【0035】
既知量のマンガンに加えて、参照標準は、参照標準中のマンガン量を被験試料中のマンガン量もしくはマンガンレベルと比較することを可能にする、任意の追加の物質を含有することができる。好ましくは、参照標準は、既知量の内因性もしくは外因性マンガンを含有する生体試料である。生体試料はヒトもしくは動物組織を含むことができる。
【0036】
好ましくは、参照標準は既知量のマンガンを添加した(たとえば哺乳類もしくは鳥類を含めた)動物由来組織を含む。当業者には当然のことながら(当然のことと理解されるが)、正確に定められた量のマンガンを有する、マトリックスマッチングを行った参照標準は、日常的なシグナルのばらつきを軽減するために、キャリブレーションされたカウント/秒の補正係数を計算するのに有用である。ある実施形態において、参照標準の組織はニワトリの胸肉に由来する。
【0037】
ある実施形態において、1つもしくは複数の対照試料の3次元領域で定量されるマンガンレベルは、被験試料を定量しているときに同時に、もしくは任意の順序で連続して、
又は被験試料と並べて定量される。
【0038】
ある実施形態において、対照試料は、分析のために被験試料に加えられる。
【0039】
好ましくは、中心傾向レベルは、中央値、算術平均、または最頻値である。
【0040】
当業者には当然のことながら、被験試料は染色されていても染色されなくてもよい。好ましくは、選択されるボクセルは、癌細胞が検出されるボクセルである。さらに好ましくは、癌細胞は、癌細胞を他の細胞から区別する染色剤で染色された被験試料の2次元領域
の視覚的検査によって検出される。癌細胞が、癌細胞を他の細胞から区別する染色剤で染色された被験試料の2次元領域を目で見て検査することによって検出される場合、その染色剤はヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)であることが好ましい。ある実施形態において、癌細胞は、抗体、好ましくは金属標識抗体、の癌細胞との結合によって検出される。
【0041】
本発明に関して、ボクセルの長さXは、測定可能な任意の範囲内であり、好ましくは約1ミクロンから約200ミクロンまでの範囲内である。ある実施形態において、Xは約10〜約50ミクロンから選択され、間にある任意の値であるが、Xは約35ミクロンであることが好ましい。
【0042】
本発明に関して、ボクセルの幅Yは、測定可能な任意の範囲内であり、好ましくは約1ミクロンから約200ミクロンまでの範囲内にある。ある実施形態において、Yは約10〜約50ミクロンから選択され、間にある任意の値であるが、Yは約35ミクロンであることが好ましい。
【0043】
本発明に関して、Zは測定可能な任意の範囲内であるが、好ましくは約1ミクロンから約20ミクロンの範囲内である。好ましくはZは約1〜約20ミクロンから選択され、間にある任意の値であるが、Zは、約1、または約2、または約3、または約4、または約5ミクロンであることが好ましい。
【0044】
好ましい実施形態において、X、Y、およびZはそれぞれ、約1〜200ミクロン、1〜200ミクロン、および1〜20ミクロンから選択され、各範囲内の間にある任意の値である。好ましくは、X、Y、およびZはそれぞれ35ミクロン、35ミクロン、および5ミクロンである。
【0045】
本発明のある実施形態において、各ボクセルの予め規定された(事前に定義された)体積は、約1立方ミクロン〜約8 x 10
5立方ミクロン、または約1立方ミクロン〜約10,000立方ミクロン、または約2000立方ミクロン〜約8000立方ミクロンの範囲内である。好ましい実施形態において、予め規定された体積は約6,125立方ミクロンである。
【0046】
ボクセル内のマンガンレベルは、元素分析技術によって測定することができる。好ましくは、元素分析技術は、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)、レーザーアブレーション飛行時間型質量分析法(LA-TOF-MS)、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)、マイクロ波プラズマ原子発光分光法(MP-AES)、レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)、二次イオン質量分析法(SIMS)、またはX線吸収端近傍構造(XANES)、原子吸光分光法(AA)、または蛍光X線(XRF)である。
【0047】
得られたデータは、コンピューター支援スクリーニング法を用いて解析することができる。たとえば、5ミクロン切片は、上から下まで一度に1回のアブレーショントラックで、スライドグラスを横切ってレーザーを横方向にラスタースキャンすることによってレーザーアブレーションを行うことができる。あるいはまた、5ミクロン切片は、横方向に一度に1回のアブレーショントラックで、スライドを横切ってレーザーを上から下までラスタースキャンすることによってレーザーアブレーションを行うことができる。たとえば、本発明のATIは、被験試料および/または対照(1つもしくは複数)を横切って、少なくとも1トラックのレーザーアブレーションによって作成することができるが、このアブレーショントラックは少なくとも1つのボクセルを含む。別の例において、本発明の方法は、2つ以上のアブレーショントラックおよび複数のボクセルを含む。
【0048】
好ましくは、被験試料は、細胞、細胞集団、1つもしくは複数の単細胞生物、組織サンプルもしくはその一部、臓器サンプルもしくはその一部、原核もしくは真核生物から得られる/に由来する1つもしくは複数の細胞、細胞集団およびそれに関連する非細胞性間質成分、腫瘍細胞もしくは腫瘍細胞集団、被験体由来の任意の臓器もしくは組織から得られる組織サンプル、腫瘍、細胞の固体塊もしくは「液体」集団、白血病細胞を含む任意の造血系癌の細胞、固形腫瘍に由来する循環細胞、ならびに転移した細胞もしくは転移した細胞集団から選択される。
【0049】
別の態様において、本発明は、被験体において癌を治療する方法を提供するが、その方法は、被験体由来試料について本発明の方法を実施すること、ならびに癌が放射線に対して感受性であると判定されたら前記被験体の癌の治療に放射線治療を含めることを含む。
【0050】
もう一つの態様において、本発明は被験体において癌を治療する方法を提供するが、その方法は、被験体由来試料について本発明の方法を実施すること、ならびに癌が放射線に対して抵抗性であると判定されたら前記被験体の癌の治療に放射線治療を含めないことを含む。
【0051】
好ましくは、被験体は、正常なヒトもしくは哺乳類被験体、治療もしくは予防の必要がある正常なヒトもしくは哺乳類被験体、癌/新生物を有すると疑われる、癌、新生物/腫瘍と診断された被験体、任意の癌を含めた任意の疾患のための治療および/または予防を受けている被験体、基礎疾患を示す検査もしくはスキャンを受けたことのある無症状の被験体、基礎疾患を示す検査もしくはスキャンを受けたことのある症状のある被験体、癌治療を含めた臨床治療、または薬物、化学療法、免疫療法、手術、放射線療法もしくは治療用機器の形で臨床的介入を受けている被験体、またはまだ何の臨床治療も受けていない被験体を含む。
【0052】
好ましくは、対照試料は、細胞、細胞集団、1つもしくは複数の単細胞生物、組織サンプルもしくはその一部、臓器サンプルもしくはその一部、原核もしくは真核生物から得られる/に由来する1つもしくは複数の細胞、細胞集団およびそれに関連する非細胞性間質成分、腫瘍細胞もしくは腫瘍細胞集団、被験体由来の任意の臓器もしくは組織から得られる組織サンプル、腫瘍(腫瘍はたとえば細胞の固体塊もしくは「液体」集団である)、白血病細胞を含む任意の造血系癌の細胞、固形腫瘍に由来する循環細胞、ならびに転移した細胞もしくは細胞集団を含み、またはそれらに由来する。
【0053】
ある実施形態において、被験試料および/または対照試料は、乳癌、前立腺癌、セミノーマを含む精巣の癌、B細胞リンパ腫を含むリンパ腫、小細胞肺癌、多形性膠芽腫を含む脳腫瘍、中皮腫、またはメラノーマの、腫瘍/新生物の細胞、細胞集団、または組織サンプルを含み、またはそれらに由来する。
【0054】
別の態様において、本発明は、放射線治療後の癌の再発可能性を判定する方法を提供するが、その方法は、
(a)癌由来被験試料の2次元領域を選択することによって、前記試料の3次元領域においてマンガンレベルを定量することであって、その2次元領域は組織分布的にX’:Y’座標系で明示され(このX’は2次元領域の長さ、Y’は2次元領域の幅である)、3次元領域は前記2次元領域に対応して、Zで表される選択された高さを有するが、この3次元領域は予め規定された体積の3個以上のボクセルに分割され、各ボクセルの体積がXxYxZで定義される(Xはボクセルの長さ、Yはボクセルの幅、そしてZはボクセルの高さを表す)、前記の、3次元領域においてマンガンレベルを定量すること、ならびに各ボクセルにおいてマンガンレベルを定量すること;
(b)中心傾向の倍数または整数間の任意の近似値である統計的閾値によって可能となるように、周囲の領域よりマンガンレベルの高い領域である高メタロミック領域(HMR)を、ボクセルのX-Y座標に対応する2次元領域において同定(識別)すること、
を含み、このHMRの頻度が高いほど癌再発の可能性が高く、HMRの頻度が低いほど癌再発の可能性が低い。
【0055】
好ましくは、HMRは、間質成分から癌細胞を区別する染色剤によって染色された被験試料の2次元領域においても識別され、染色剤はヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色剤であることが好ましい。
【0056】
本発明に関して、放射線応答性は、放射線治療に対する感受性/抵抗性の尺度である。
【0057】
一例を挙げると、被験試料のATIが、放射線感受性であると判明している対照試料で得られた所定の閾値より低いならば、被験試料は放射線治療に対して感受性であると判定される。さらに例を挙げると、被験試料のATIが、放射線抵抗性であると判明している対照試料で得られた所定の閾値より高いならば、被験試料は放射線治療に対して抵抗性であると判定される。
【0058】
本発明のある実施形態において、低いほうの限界値以下のATIを有する被験試料は、放射線治療に対して感受性であると判定され、高いほうの限界値以上の被験試料は、放射線治療に対して抵抗性であると判定される。
【0059】
参照標準もしくは対照試料を含むボクセルの体積は、被験試料のボクセルの体積と同じであることも異なることもある。
【0060】
本発明はさらに、本発明にしたがって、1つの被験試料の2つ以上の3次元領域においてマンガンレベルを定量し、すべての3次元領域にわたってマンガンの中心傾向レベルを計算することによってATIを作成することで、追加的なATIを作成する方法を提供する。
【0061】
本発明はさらに、本発明にしたがって、2つ以上の被験試料においてマンガンレベルを定量し、それらの被験試料にわたってマンガンの中心傾向レベルを計算することによってATIを作成することで、追加的なATIを作成する方法を提供する。
【0062】
本発明はさらに、本発明にしたがって、対照試料の3次元領域で定量されるマンガンレベルが、被験試料を定量時に同時に、もしくは任意の順序で連続して定量され、すなわち被験試料と並べて定量される方法を提供する。
【0063】
分析のために対照試料を被験試料に添加することができるとも考えられる。
【0064】
原子治療指標は任意の単位で表すことができる。たとえば、これはキャリブレーションカウント/秒(CC/S)、または当量比例濃度単位、たとえばマイクログラム/グラム、ミリグラム/キログラム、百万分率、マイクログラム/ボクセル、ミリグラム/ボクセル、モル、またはモル/ボクセルで表すことができる。
【0065】
本発明に至るまで、放射線感受性試料、たとえば細胞/組織、腫瘍細胞/腫瘍、から得られるATIを、放射線抵抗性である試料、たとえば細胞/組織、腫瘍細胞/腫瘍、のATIと区別することができることは、十分に理解されていなかった。この数量的差異は、特定の選択された細胞、組織サンプルもしくはその一部、腫瘍細胞、腫瘍サンプルもしくはその一部について、放射線応答性の判定(すなわち、放射線感受性および/または放射線抵抗性の判定)を可能にする。当業者には明らかであるが、「細胞」という用語は腫瘍細胞を含み、「組織サンプルもしくはその一部」という表現は腫瘍サンプルもしくはその一部を含む。本明細書で使用される「腫瘍性(新生物)の」という用語は、癌性であれ、前癌性であれ、細胞の異常増殖を引き起こす可能性をもたらす、細胞におけるあらゆる変化を含む。
【0066】
本明細書で使用される「腫瘍」という用語は、1つもしくは複数の腫瘍細胞、および/またはそれと関連するニッチ内の間質成分の集合体を含むがそれらに限定されない。たとえば、骨に転移した転移性前立腺癌の場合、本発明以前に使用された1つの放射線治療は、ラジウム223を使用するものであって、それは、骨の主成分であるヒドロキシアパタイト(Ca
5 (PO4)
3 OH)を好ましい標的とする。ラジウム223は効率的に骨に向かって「まっすぐ進む」。前立腺癌、乳癌、もしくは他の癌の細胞が骨に転移する場合、癌細胞はヒドロキシアパタイトと混ぜ合わされた状態となる。短距離のα粒子の放出は、骨芽細胞を破壊するが、癌細胞それ自体には直接影響を与えない。したがってこの場合、本来このニッチにおいて前立腺癌細胞の増殖を可能にする、間質(骨芽細胞)により生成される因子の抑制が損なわれ、癌細胞は同じようには増殖せず、患者の生存期間は増加する。したがって、当業者には当然のことながら、別の間質ニッチがさまざまな程度に癌細胞をサポートするが、そうしたニッチはそれ自体、メタロミック含量が非常に高いものから非常に低いものまでさまざまに異なる可能性があり、放射線感受性である可能性も、放射線抵抗性である可能性もある。したがって、放射線を「腫瘍」に当てる場合、4タイプの境界条件の可能性がある。間質および癌細胞がともに放射線抵抗性であるならば、「腫瘍」への放射線照射は無効であり、腫瘍はさらに増殖する可能性がある。間質および癌細胞がともに放射線感受性であるならば、腫瘍の増殖は停止する。間質細胞が放射線感受性で、癌細胞が放射線抵抗性である場合、間質細胞は放射線により効果的に死滅し、腫瘍細胞の増殖も停止するが、これは、腫瘍細胞にはもはや間質からの代謝性/因子のサポートがないため、腫瘍が増殖しないからである。間質細胞が放射線抵抗性で、癌細胞が放射線感受性である場合、腫瘍増殖は停止する。したがって、当業者には当然のことながら、「腫瘍もしくはその一部」という表現は、腫瘍細胞および/または関連するすべての多様な間質細胞(血管、浸潤および常在免疫細胞、線維芽細胞、周皮細胞、および浸潤性エキソソーム)を含む。
【0067】
本明細書に記載の任意の態様、実施形態、もしくは実施例にしたがって、選択された3次元領域においてマンガンレベルを測定することは、被験試料、参照標準、および/または対照試料、たとえば、細胞、組織サンプルもしくはその一部、腫瘍細胞、腫瘍サンプルもしくはその一部、に対して直接測定を行うことを含むが、これに限定されない。一例を挙げると、被験試料および/または対照試料は、たとえば、直接スキャンして、既知の方法にしたがって被験試料および/または対照試料の選択された3次元領域において、マンガンレベルを定量することによって、その天然の環境においてそのまま処理することができる。さらに一例を挙げると、たとえば、細胞、組織サンプルもしくはその一部、腫瘍細胞、腫瘍サンプルもしくはその一部、を含むか、またはそれらに由来する被験試料および/または対照試料は、顕微鏡検査のために、または既知の方法による機械走査で自動分析するために、調製される。細胞、組織サンプルもしくはその一部、腫瘍細胞、腫瘍サンプルもしくはその一部は、急速凍結するか、またはホルマリン固定してパラフィン包埋してもよく、1つもしくは複数の細胞は、たとえばSurePathのような系によって、顕微鏡スライドガラス上に単層として、またはほぼ単層として載せられる。組織/腫瘍サンプルもしくはその一部はまた、それから細胞もしくは細胞集団が得られ、たとえばSurePathのような系によって、顕微鏡スライドガラス上に単層もしくはほぼ単層として載せられるように処理してもよい。細胞、組織サンプルもしくはその一部、腫瘍細胞、腫瘍サンプルもしくはその一部の切片は、次に、顕微鏡検査用、または機械走査による自動分析用の切片を調製するために既知の方法にしたがって処理される。必要に応じて、1つもしくは複数の切片は、目的の形態学的特徴を可視化するために、H&E染色剤、および/または特異的抗体で染色する。一例を挙げると、1つもしくは複数の連続切片は、染色されずに固定され、本発明によるマンガンレベルの測定にそのまま使用される。別の一例では、1つもしくは複数の切片は、連続的に調製され、たとえばマッチングさせて、少なくとも1つはH&E染色剤および/または特異的抗体で染色されて、目的の形態的特徴が可視化されるが、染色された切片は非染色切片と並んで調製され、たとえば、連続切片が調製され、その少なくとも1つは本明細書に記載のように染色してもよく、少なくとも1つは染色されない。染色された切片はまず可視化されてから、そのまま、本発明にしたがってマンガンレベルの測定に使用されるか、または染色切片は当技術分野の標準的な方法にしたがって調製され、病理学者により可視化されて、形態学的特徴、およびマッチする非染色切片を判定するが、たとえば、連続切片は本発明によるマンガンレベルの測定のために選択され、使用される。
【0068】
本発明のマンガンレベルは、選択された3次元領域をX’:Y’:Z座標系により組織分布的に定義し、予め規定された体積のボクセルに分割することができる、当技術分野で知られている任意の方法によって測定される。たとえば、マンガンレベルは、予め規定された体積のボクセルにおいて測定され、参照標準または対照試料について、同一の、または異なる予め規定された体積を用いることができる。
【0069】
当業者には当然のことながら、ATIは、2つ以上のボクセルを含むいくつかのアブレーショントラックについて得られる。たとえば、アブレーショントラックの数は処理すべきと考えられる任意の数であってよく、約1〜100アブレーショントラックを含むがそれに限定されない。一例を挙げると、アブレーショントラックの数は、少なくとも3である。アブレーショントラックの長さは変動してもよく、本発明の任意の数のボクセルを含む。
【0070】
当業者には当然のことながら、ボクセルの数はボクセルのサイズに基づいて変動する。たとえば、トラックの長さは、使用される計測機器が許容する任意の長さとすることができる。一例を挙げると、トラックの長さは0.5〜1.0cmの間とすることができる。さらに例を挙げると、トラックの長さは約5.0cm、または約5.35cmの長さである。たとえば、各ボクセルが約35(長さ)x35(幅)x5(高さ)で、6,125立方ミクロンの体積を有するようなシングルトラックは、5.35cmのトラックの長さに基づいて約1,500ボクセルの分析をもたらすことになる。本発明にしたがって、サンプルの1つもしくは複数の領域をアブレーションして、本明細書の任意の態様、実施形態もしくは実施例によるATIを作成することも考えられる。たとえば、当業者には当然のことながら、1mm x 1mmの領域は通常、病理学者がスライドガラス上で分裂速度を測定するために使用するが、そうした領域を、本発明にしたがってアブレーションすることもできる。この場合、そうした領域はおよそ30ボクセル×30ボクセルの領域に相当し、それぞれのボクセルは約35(長さ)x35(幅)x5(高さ)であり、6,125立方ミクロンの体積を有する。さらに、分析のための最小領域の決定は検出方法の感度に応じて決まると考えられる。たとえば、領域のサイズは、2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18, 19, 20, 21, 22, 23, 24, 25, 26, 27, 28, 29, 30個程度の隣接するボクセルから、特定の腫瘍の分析のために選択されたサンプルサイズである数値までさまざまとすることができる。当業者には当然のことながら、本発明の領域のサイズは現在の技術を用いて測定できる任意の範囲に含まれる。
【0071】
やはり当然のことながら、本発明のマンガンレベルの測定は、バックグラウンドに対して補正することができる。たとえば、レーザーアブレーション質量分析法の場合、被験試料および/または対照試料のない領域を、バックグラウンド補正のために使用することができる。たとえば、スライドガラス上の被験試料および/または対照試料は、直接レーザーアブレーションすることができるが、被験試料および/または対照試料のないスライドガラス領域の背景が、バックグラウンド補正に使用される。
【0072】
1つもしくはいくつかの実施形態において、バックグラウンド補正は、特に高メタロミック含量の領域を明らかにできるレベルに設定される。こうした領域を高メタロミック領域(HMR)と称する。
【0073】
当業者には当然のことながら、本発明の被験試料、参照標準、および/または対照試料のボクセルは、適切な技術を用いて測定することができる任意の範囲内である。たとえば、Xは上記のように測定可能な任意の範囲にあるが、好ましくは約1ミクロン〜約200ミクロンまでの範囲内であり、その間にある任意の値である。一例を挙げると、Xは、約10〜約50ミクロンから選択され、その間の任意の値である。好ましくは、Xは、約35ミクロンである。Yは、測定可能な任意の範囲にあるが、好ましくは約1ミクロン〜約200ミクロンまでの範囲内であり、その間にある任意の値である。一例を挙げると、Yは、約10〜約50ミクロンから選択され、その間の任意の値である。好ましくは、Yは、約35ミクロンである。たとえば、Zは測定可能な任意の範囲にあるが、好ましくは約1ミクロン〜約200ミクロンまでの範囲内であり、その間にある任意の値である。一例を挙げると、Zは、約1〜約20ミクロンから選択され、その間の任意の値である。好ましくは、Zは、約1、または約2、または約3、または約4、または約5、または約6、または約7、または約8、または約9、または約10ミクロンである。当業者にはよく理解されていることであるが、X’およびY’座標は被験試料の選択された2次元を明示し、Zは被験試料の厚みを表す。したがって、上記のように、本発明のボクセル、たとえばXxYxZは、約1〜200:1〜200:1〜200立方ミクロンから選択される範囲、およびその間の任意の値を含むがそれに限定されない。たとえば、Xの値は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、もしくは200ミクロン、または整数間の任意の近似値である。たとえば、Yの値は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、もしくは200ミクロン、または整数間の任意の近似値である。たとえば、Zの値は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、もしくは20ミクロン、または整数間の任意の近似値である。したがって、記載されたそれぞれのX値のいずれか1つを、記載されたそれぞれのY値のいずれか1つと組み合わせ、次にそれを記載されたそれぞれのZ値のいずれか1つと組み合わせることができる。さらに当然のことながら、X、Y、およびZは長さが等しくなくてもよい。あるいはまた、X、Y、およびZは同じ長さであってもよい。別の一例を挙げると、XおよびYは同じ長さであり、ZはXおよびYとは同じでない。さらに一例を挙げると、XおよびZが同じ長さで、YはXおよびZと同じでない。好ましくは、XおよびYは長さが等しい。たとえば、ボクセルは、約1x1x1、または約5x5x1、または約10x10x1、または約15x15x1、または約20x20x1、または約25x25x1、または約30x30xx1、または約35x35x1、または約40x40x1、または約45x45x1、または約50x50x1、または約55x55x1、または約60x60x1、または約65x65x1、または約70x70x1、または約1x1x2、または約5x5x2、または約10x10x2、または約15x15x2、または約20x20x2、または約 25x25x2、または約30x30x2、または約35x35x2、または約40x40x2、または約45x45x2、または約50x50x2、または約55x55x2、または約60x60x2、または約65x65x2、または約70x70x2、または約1x1x3、または約5x5x3、または約10x10x3、または約15x15x3、または約20x20x3、または約 25x25x3、または約30x30x3、または約35x35x3、または約40x40x3、または約45x45x3、または約50x50x3、または約55x55x3、または約60x60x3、または約65x65x3、または約70x70x3、または約1x1x4、または約5x5x4、または約10x10x4、または約15x15x4、または約20x20x4、または約 25x25x4、または約30x30x4、または約35x35x4、または約40x40x4、または約45x45x4、または約50x50x4、または約55x55x4、または約60x60x4、または約65x65x4、または約70x70x4、または約1x1x5、または約5x5x5、または約10x10x5、または約15x15x5、または約20x20x5、または約 25x25x5、または約30x30x5、または約35x35x5、または約40x40x5、または約45x45x5、または約50x50x5、または約55x55x5、または約60x60x5、または約65x65x5、または約70x70x5、または約1x1x6、または約5x5x6、または約10x10x6、または約15x15x6、または約20x20x6、または約 25x25x6、または約30x30x6、または約35x35x6、または約40x40x6、または約45x45x6、または約50x50x6、または約55x55x6、または約60x60x6、または約65x65x6、または約70x70x6、または約1x1x7、または約5x5x7、または約10x10x7、または約15x15x7、または約20x20x7、または約 25x25x7、または約30x30x7、または約35x35x7、または約40x40x7、または約45x45x7、または約50x50x7、または約55x55x7、または約60x60x7、または約65x65x7、または約70x70x7、または約1x1x8、または約5x5x8、または約10x10x8、または約15x15x8、または約20x20x8、または約 25x25x8、または約30x30x8、または約35x35x8、または約40x40x8、または約45x45x8、または約50x50x8、または約55x55x8、または約60x60x8、または約65x65x8、または約70x70x8、または約1x1x9、または約5x5x9、または約10x10x9、または約15x15x9、または約20x20x9、または約 25x25x9、または約30x30x9、または約35x35x9、または約40x40x9、または約45x45x9、または約50x50x9、または約55x55x9、または約60x60x9、または約65x65x9、または約70x70x9、または約1x1x10、または約5x5x10、または約10x10x10、または約15x15x10、または約20x20x10、または約 25x25x10、または約30x30x10、または約35x35x10、または約40x40x10、または約45x45x10、または約50x50x10、または約55x55x10、または約60x60x10、または約65x65x10、または約70x70x10立方ミクロンである。好ましくは、ボクセルは35x35x5立方ミクロンである。
【0074】
当業者にはやはり当然のことながら、参照標準および対照試料(1つもしくは複数)のボクセル(1つもしくは複数)は、任意の体積とすることができる。上記のように、参照標準(1つもしくは複数)および対照試料(1つもしくは複数)は被験試料と同じ体積であってもよいが、体積が異なっていてもよく、当業者には当然のことながら、被験試料、参照標準(1つもしくは複数)、および対照試料(1つもしくは複数)を比較する計算は、被験試料、参照標準、および対照試料間の体積の変化を考慮に入れなければならない。したがって、上記のように、予め規定されたボクセルは、約1立方ミクロン〜約8 x 10
5立方ミクロンの範囲を含むがそれに限定されない。たとえば、予め規定されたボクセルは、1立方ミクロン〜10,000立方ミクロン、または約10,000〜100,000立方ミクロン、または約100,000〜800,000立方ミクロンの範囲内にある。一例を挙げると、予め規定されたボクセルは、約1立方ミクロン〜10,000立方ミクロン、または約2,000立方ミクロン〜約8,000立方ミクロンである。さらに一例を挙げると、ボクセルは約6,125立方ミクロンである。
【0075】
病理学的組織分布と原子的組織分布間の2次元(2D)マッピングは、マンガンの相対存在量を明らかにする。
【0076】
本発明の任意の態様、実施形態もしくは実施例による方法は、必要に応じて、被験体から被験試料を採取する、または引き出すステップを含む。たとえば、試料は、本明細書において「被験体」と称される「被験体」、「参加者」、または「患者」から得られる。試料は被験体の組織または臓器から得ることができる。本発明の任意の態様、実施形態および/または実施例により記載される被験体は、任意の正常なヒトもしくは哺乳類被験体、または本明細書に記載の任意の治療もしくは予防を必要とする任意のヒトもしくは哺乳類被験体を含むがそれらに限定されない。被験体には、癌、または本明細書に記載の何らかの癌もしくは新生物と診断された被験体、あるいは、癌、または本明細書に記載の何らかの癌もしくは新生物を有する疑いのある被験体がある。当業者には当然のことながら、被験体は、癌を含む何らかの疾患の治療および/または予防を受けている可能性がある。被験体は、無症状であるかも知れないが、基礎疾患を示す検査もしくはスキャンを受けたことがあり、または症状を示すこともある。被験体には、癌治療、言い換えると、薬物、化学療法、免疫療法、手術、放射線、もしくは治療用機器という形での臨床的介入、を含めた臨床治療を受けた被験体、または臨床治療をまだ受けていない被験体が含まれる。哺乳類被験体には、類人猿、ゴリラ、チンパンジー、絶滅危惧種、家畜、たとえばウシ、ブタ、ウマ、ならびにコンパニオンアニマル、たとえばイヌおよびネコがあるが、それに限定されない。
【0077】
本発明の対照試料は、任意の適当な試料とすることができるが、好ましくは生体試料である。たとえば、対照試料は、細胞、細胞集団、1つもしくは複数の単細胞生物、組織サンプルもしくはその一部、臓器サンプルもしくはその一部、原核もしくは真核生物から採取され/由来する1つもしくは複数の細胞、細胞集団およびそれに付随する非細胞性間質成分、腫瘍細胞もしくは腫瘍細胞集団、被験体の任意の臓器もしくは組織から得られる組織サンプル、腫瘍(腫瘍はたとえば固体塊、または白血病細胞を含めた造血系の任意の癌などの「液体」細胞集団である)、または固形腫瘍もしくはエキソソームなどの細胞から派生した循環細胞(転移した細胞もしくは細胞集団を含むがこれに限らない)を含み、またはそれらに由来するものとすることができる。好ましくは、対照試料は、細胞、細胞集団、「正常な」組織サンプル、腫瘍/新生物の組織サンプルを含み、またはそれに由来するが、腫瘍/新生物は精巣の癌(たとえばセミノーマ精上皮腫)、リンパ腫(たとえばB細胞リンパ腫)、小細胞肺癌、脳腫瘍(たとえば多形性膠芽腫/星細胞腫)、中皮腫、メラノーマ、ならびに乳癌および前立腺癌である。
【0078】
別の態様において、本発明は放射線治療後に再発しやすい癌を識別する方法を提供するが、その方法は:
(a)腫瘍由来被験試料の2次元領域を選択することによって、前記試料の3次元領域においてマンガンレベルを定量することであって、その2次元領域は組織分布的にX’:Y’座標系で明示され、3次元領域は前記2次元領域に対応して、Zで表される選択された高さを有するが、この3次元領域は予め規定された体積の3個以上のボクセルに分割され、各ボクセルの体積がXxYxZで定義される、前記の、3次元領域においてマンガンレベルを定量すること;
(b)各ボクセルにおいてマンガンの中心傾向レベルを測定すること;
(c)中心傾向の倍数または整数間の任意の近似値である統計的閾値によって可能となるように、ボクセルのX-Y座標に対応する2次元領域において、周囲の領域よりマンガンレベルの高い領域である高メタロミック領域(HMR)を識別すること;
を含み、このHMRの頻度が高い場合は、放射線治療後に癌が再発する可能性を示し、HMRの頻度が低い場合は、放射線治療後に癌が再発しない可能性を示す。
【0079】
別の態様において、本発明は、本発明にしたがって、癌細胞を他から区別する染色剤、好ましくはヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色剤で染色された被験試料の、対応する2次元領域においてHMRを特定する方法を提供する。
【0080】
他の態様において、本発明は、腫瘍の放射線応答性を判定する方法を提供するが、その方法は、腫瘍由来の被験試料においてメラニンレベルを測定することを含み、メラニンレベルが低いほど、腫瘍は放射線に対して感受性であり、メラニンレベルが高いほど、腫瘍は放射線に対して抵抗性である。
【0081】
本発明の任意の態様、実施形態、もしくは実施例による、方法または使用は、必要に応じて、被験体由来の対照試料を採取する、または引き出すステップを含む。たとえば、対照試料は、本明細書において「被験体」と称される「被験体」、「参加者」、または「患者」の組織または臓器から得られる。本発明の任意の態様、実施形態および/または実施例により記載される被験体は、任意の正常なヒトもしくは哺乳類被験体、または本明細書に記載の任意の治療もしくは予防を必要とする任意のヒトもしくは哺乳類被験体を含むがそれらに限定されない。被験体には、癌、または本明細書に記載の何らかの癌もしくは新生物と診断された、あるいは、癌、または本明細書に記載の何らかの癌もしくは新生物を有する疑いのある被験体がある。当業者には当然のことながら、被験体は、癌を含む何らかの疾患の治療および/または予防を受けている可能性がある。被験体は、無症状であるかも知れないが、基礎疾患を示す検査もしくはスキャンを受けたことがあり、または症状を示すこともある。被験体には、癌治療、言い換えると、薬物、化学療法、免疫療法、手術、放射線、もしくは治療用機器という形での臨床的介入、を含めた臨床治療を受けた被験体、または臨床治療をまだ受けていない被験体が含まれる。哺乳類被験体には、類人猿、ゴリラ、チンパンジー、絶滅危惧種、家畜、たとえばウシ、ブタ、ウマ、ならびにコンパニオンアニマル、たとえばイヌおよびネコがあるが、それに限定されない。対照試料は、ニワトリ、アヒル、またはガチョウなどの鳥類を含めるがこれに限定されない他の種から得ることもできる。
【0082】
当業者には当然のことながら、本明細書に記載の態様、実施形態、もしくは実施例のいずれにおいてもすべての種類の放射線が考慮されるが、たとえば、陽子もしくは陽子ベース、ガンマ線、アルファ線、ベータ線である。どのタイプの放射線も、他のいかなる主作用と関係なく水を電離する。たとえば、稀な甲状腺腫瘍を内部照射するためのヨウ素131、または放射性パラジウム103もしくはヨウ素125を用いた前立腺癌のための挿入シードによる密封小線源治療は、低エネルギーX線によって水の放射線分解をもたらし、あるいは、骨病巣への転移のためのラジウム223はアルファ粒子によって放射線照射するが、すべてが水の放射線分解をもたらす。同様に、イリジウム192を含有する針の一時的な挿入による高線量率密封小線源治療は、まったく同じメカニズムで機能する。特定の理論にとらわれなければ、当技術分野における関心はDNA修復にあるが、タンパク質の損傷が問題の核心である可能性があり、DNAの問題は二次的であるかもしれないと考えられる。損傷を与えるさまざまなイオンが、タンパク質に対する損傷を通じて、細胞の主要な問題を引き起こす。
【0083】
一般的な中心傾向の尺度は、中央値、算術平均、および最頻値である。中心傾向について当技術分野で知られている他の尺度も使用可能であり、幾何平均、medimean、k-timesウィンザライズド平均、K-timesトリム平均、および加重平均などがあって、それに限らないが、データは中心傾向を計算する前に変換することもできる。
【0084】
本発明に至るまで、マンガンの臨床的重要性は認識されたことがなく、マンガンは、放射線治療に関する臨床決定を下す目的で、被験試料の放射線感受性/放射線抵抗性を判断するために定量されたことはなかった。
【0085】
当然のことながら、本明細書で使用される「放射線感受性」すなわち「放射線に対する感受性」は、放射線にさらされると細胞が死滅するか、またはそれ以上分裂しないなど機能しないことを意味する。本明細書で使用される「放射線抵抗性」すなわち「放射線に対する抵抗性」は、1つもしくは複数の細胞が放射線治療後に生き残ること、ならびに依然として分裂可能であって、生存した腫瘍および間質細胞が照射部位に再配置されるのを可能にすることを意味する - これは、原発腫瘍、またはその転移腫瘍が被験体において、放射線で治療しても依然として増殖可能であり、ならびに/または、さらに転移可能であることを示すと思われる。
【0086】
当然のことながら、被験試料のマンガンレベルを、1つもしくは複数の参照標準のマンガンレベルと比較して、本発明のATIを算出することができる。
【0087】
本発明にしたがって使用するためのATIの閾値は、分析用の被験試料、参照標準(1つもしくは複数)および/または対照を選択した当業者には明白であろう。当然のことながら、1つもしくは複数のATI閾値は、既知の、または1つもしくは複数の対照試料から導き出された、放射線抵抗性に関するCC/Sレベルを基にすることができるが、この1つもしくは複数の対照試料は、被験試料と同じ型の癌の細胞を含有する。たとえば、本明細書の実施例に示すように、放射線感受性の閾値は、Mn55について2K キャリブレーションカウント/秒(CCS)で設定することができるが、これは35x35x5立方ミクロンのボクセルに当てはまる。同じ閾値は、70x70x5立方ミクロンのボクセルを基にして8k CC/Sに設定される。閾値は、放射線感受性の対照試料で得られた中心傾向値(好ましくは平均もしくは中央値)を1標準偏差上回って設定してもよく、または1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9もしくは4.0標準偏差上回って、または整数間の任意の近似値に設定してもよい。閾値は、さまざまな腫瘍型から経験的決定によって設定することもできる。本明細書の実施例に示すように、例えばメラノーマを使用して、中心傾向値(好ましくは平均もしくは中央値)より1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、または2.5倍高く、または整数間の任意の近似値に設定することができる。当業者には当然のことながら、閾値は、ほとんどの場合、所定の試料における「バックグラウンド」値に対する考慮を含む。たとえば、放射線感受性対照のATIと比較して設定された、所定のATI閾値を下回る、被験試料のATIはいずれも、その被験試料の起源が放射線に対して感受性であることを示すものと考えられる;ならびに、放射線抵抗性対照のATIと比較して設定された、所定のATI閾値を上回る、被験試料のATIはいずれも、その被験試料の起源が放射線に対して抵抗性であることを示すものと考えられる。
【0088】
さらに他の例として、放射線応答性を評価するために使用することができる1つの所定のATI閾値は、
図11において3つの放射線感受性腫瘍型(セミノーマ、リンパ腫および小細胞肺癌)に関する値の87%が2Kを下回るので、2K CC/Sである。臨床的に放射線抵抗性であるとの合意のある2つの腫瘍型、すなわち中皮腫および脳腫瘍については、
図11の値の86%が2K CC/Sを上回る。しかしながら、当業者には当然のことであるが、2K閾値は、ある状況では適切であるが、患者の遺伝的背景など他の要因に応じて患者間でばらつきがあるような他の状況では適切でないこともある。したがって、放射線感受性閾値は、状況次第で、3Kに設定されることもある。腫瘍学において認められる臨床的現実性は、所定の結果に対して通常2つの閾値が存在することである。第1の閾値未満で、1つの信頼できる結果が出て、第2の閾値より上で、別の信頼できる結果となるが、2つの閾値の間には「中間ゾーン」があり、これは臨床的に不均一であって、結果はばらつきがある。
図11のデータの場合、3Kおよび4Kに2つの閾値が設定され、中間ゾーンは3K-4Kとなる。そうした閾値は、よりメタロミックで放射線治療に役立つデータが利用できるようになると、もっと明確になる。
【0089】
当業者には明白なことであるが、本発明を用いて、マンガンなどの金属を特に高レベルで有する、本発明の3次元領域内のボクセルを識別することができる。たとえば、ボクセルがマンガンに対して比較的高レベルで陽性として現れるような閾値を設定することによって、高メタロミック含量の領域を特定することができる。高メタロミック領域(HMR)において特定の金属に言及する場合、本明細書で使用されるHMRは、たとえば、それぞれHMR(
55Mn)、HMR(
66Zn)、HMR(
56Fe)およびHMR(
63Cu)と表わされるが、HMR(
AM)は任意の金属の総称的な事例を表す。当業者には当然のことながら、任意の金属に関するHMR(HMR(
AM))は、ボクセル隣接の基準を満たすために、最小限2つの隣接するボクセルを含有する。HMR(
AM)のサイズは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30個などの連続するボクセルから、個別の腫瘍の分析のために選択された試料サイズである完全なものまで、さまざまとすることができる。
【0090】
当業者には当然のことながら、本発明のHMR(
AM)のサイズは、現行の技術によって測定可能な任意の範囲内にある。当然のことながら、通常のスライドガラスを、腫瘍材料とともに端までロードする場合に分析することができる最大の数は、選択されるボクセルの大きさによって決まる。たとえば、HMR(
AM)サイズは、2ボクセル〜約800,000ボクセルの範囲に及び、35 x 35(長さ×幅)平方ミクロンサイズを基にして間の任意の値とすることができる。単に実例として、経験的に選択された8 x 8ボクセル(2次元で35 x 35平方ミクロン)は、実施例に示すように、効率的に、高メタロミック含量の領域を明らかにした。最小の8x8ボクセルHMRを含有するランドスケープはX’およびY’の両方向に有界である。したがって、X8 x Y8ボクセルを上回るHMRは、X’およびY’の2次元方向に個別に、整数ずつ増やすことができるので、X[8+n] x Y[8+n] に至るまで、X[8+1] x Y[8]
: X[8]
x Y[8+1]
: X[8+1] x Y[8+1]
: X[8+2] x Y[8]
: X[8+2] x Y[8+1]
: X[8+2] x Y[8+2]
: X[8+1] x Y[8+2]
: X[8] xY [8+2]のHMRが得られ、nは1から1000までさまざまとすることができる整数であって、30 x 30ボクセル(2次元で1 mmに相当する)の試料をサンプリングした場合、1から22までが好ましい。当然のことながら、閾値は最低限の8ボクセルより低く設定されることもある。ここで8という値を使用したのは、HMRについて経験的に導き出された効果的なサーチツールであるからである。
【0091】
当業者には当然のことながら、HMRを腫瘍内の癌細胞に当てはめること、または細胞物質もしくは非細胞性物質の領域に当てはめることができるが、この非細胞性物質は、関連する間質と呼ばれ、隣接する癌細胞との相互作用のために、それ自体「活性化された」状態で存在する可能性がある。
【0092】
本発明にしたがって実際に与えられる、放射線治療および/または抗癌治療の量は、典型的には、治療すべき疾患を含めた関連する状況に照らして、化学療法および免疫療法などの他の選択肢、個々の患者の年齢、体重、および反応、患者の症状/病状の重症度などを考慮して、医師によって決定されることになる。放射線治療には、体幹部定位放射線治療、分割外部照射放射線治療および密封小線源治療があり、それらに限定されないが、外部照射放射線治療(EBRT)には、強度変調放射線治療、原体照射法、体幹部定位照射、陽子線照射、ガンマナイフ(GammaKnife)、およびサイバーナイフ(CyberKnife)があり、密封小線源治療には、放射性同位体「シード」の永久埋め込み、ならびに一時的な高線量率放射能シードがある。患者に照射される放射線照射の種類は、光子もしくは陽子をベースとし、直線加速器、ガンマ線(任意の線源から)、または放射能シードから照射することができるが、これには、LDRBT(永久挿入密封小線源治療)用にヨウ素125、セシウム131およびセシウム133、もしくはパラジウム103を、またはイリジウム192(高線量率密封小線源治療(HDRBT)用)、またはイットリウム90樹脂マイクロスフィア、もしくはリン32結合シリコン微粒子を含む。放射線照射は、ほかに下記によって照射することもできる(Chellan and Sadler, 2015, Phil. Trans. R. Soc, A.373: 20140182) - たとえば、放射線照射と併用される免疫治療のためのネオ抗原免疫反応刺激物質としてのタンパク質に結合した
9Be;造骨性骨転移のためのストロンチウム89;骨転移および去勢抵抗性前立腺癌の治療のためのパラジウム223;治療用放射性核種としてのスカンジウム47およびスカンジウム44;T細胞の免疫反応を引き起こすためのMHCおよびペプチドの表面に結合したニッケル59;癌治療のためのソマトスタチン受容体を標的とするイットリウム 90; 脂質の予防的抗酸化物質ならびに乳癌および食道癌の治療としての、モリブデン酸塩としてのモリブデン96;血清トランスフェリンを介した癌細胞へのルテニウム101投与;骨転移のためのロジウム 105;前立腺癌および脈絡膜メラノーマのための密封小線源治療としてのパラジウム 103;腫瘍細胞による効率的な取り込みのため、ならびに軟部組織肉腫および頭頚部癌への放射線の効果を高めるためのナノ粒子としてのハフニウム178;抗癌剤のポリオキソタングステートとしてのタングステン184;小細胞肺癌および前立腺癌のためのレニウム188およびレニウム186;スーパーオキシドミミックなららびに抗癌剤の有機オスミウムアレーン錯体としてのオスミウム190;癌化学療法におけるプラチナ195;骨肉腫および骨への転移性乳癌のためのサマリウム153;内部照射治療のためのホルミウム166;骨転移のためのイッテルビウム175標識ポリアミノホスホネート;小細胞肺癌のためのルテチウム177標識ペプチドおよび抗体;骨髄性癌のためのアクチニウム225およびその崩壊生成物ビスマス213;癌細胞を死滅させるための光線感作物質としてフタロシアニンを含有するケイ素28;HER2に結合して、さまざまな癌細胞型の内部移行に放射線を照射するためにトラスツズマブと併用した、放射免疫療法のための、212Biを生成する鉛212; さまざまな癌を治療するPhosphocolの
32P;前骨髄球性白血病、切除不能な肝細胞癌、および小細胞肺癌のためのAs
2O
3としてのヒ素75;急性骨髄性白血病の標的放射線療法のためのビスマス213標識リンツズマブ;前立腺癌の化学防御のためのセレン79;甲状腺癌のためのヨウ素127およびヨウ素131;ならびに脳腫瘍および再発卵巣癌において腫瘍細胞を除去するためのアスタチン211。もう1つ例を挙げると、そうした物質には放射線増感剤が含まれ、限定はしないが、たとえば、ホウ素(
10B)、ローズベンガル、2-デオキシ-D-グルコースがあり、または放射線照射と併用する免疫療法の追加が含まれる(Sharabi et al., Oncology [Williston Park] 2015, 29(5), pii:211304; Formenti, J Natl Cancer Inst 105, 256-265, 2013)。
【0093】
本発明に関して、「X’xY’xZ」という表現におけるX’、Y’、およびZの文字は、試料の「3次元領域」の寸法を表し、「X’xY’xZ」は3次元領域の長さ×幅×高さに関するものであって、これは3次元領域の体積を与える。
【0094】
本発明に関して、「XxYxZ」という表現におけるX、Y、およびZの文字は、試料の「3次元領域」内のボクセルの寸法を表し、「XxYxZ」はボクセルの長さ×幅×高さに関するものであって、これはボクセルの体積を与える。
【0095】
したがって、本発明に関して、「35x35x5」といった表現が現れる場合、それは長さ×幅×高さに関するものであって、体積の指標を与える;「35x35」という表現が現れる場合、それは長さ×幅に関しており、面積を与える(2次元)。
【0096】
別の態様において、本発明は、メラノーマの放射線応答性を判定する方法を提供するが、その方法は、メラノーマ由来の被験試料のメラニンレベルを測定することを含み、被験試料中のメラニンレベルが低いほど、そのメラノーマは放射線に対して感受性が高く、被験試料中のメラニンレベルが高いほど、そのメラノーマは放射線に対して抵抗性が高い。
【0097】
また別の態様において、本発明は、メラノーマの放射線応答性を判定する方法を提供するが、その方法は、メラノーマ由来の被験試料中のメラニンレベルを予め決定されたメラニン閾値と比較することを含み、メラノーマの放射線応答性は、被験試料中のメラニンレベルがメラニン閾値を上回るか下回るかを評価することによって判定されるが、被験試料中のメラニンレベルがメラニン閾値より低ければ、そのメラノーマは放射線に対して感受性であると判断される;ならびに
被験試料中のメラニンレベルがメラニン閾値より高ければ、そのメラノーマは放射線に対して抵抗性であると判断される。
【0098】
1つもしくは複数の実施形態において、被験試料中のメラニンレベルは、2つの予め決定されたメラニン閾値と比較され、メラノーマの放射線応答性は、被験試料中のメラニンレベルが2つの閾値より上か下かを評価することによって判定されるが、
被験試料中のメラニンレベルが低いほうのメラニン閾値より低いならば、そのメラノーマは放射線に対して感受性であると判定される;
被験試料中のメラニンレベルが高いほうのメラニン閾値より高いならば、そのメラノーマは放射線に対して抵抗性であると判定される;ならびに
被験試料中のメラニンレベルが2つのメラニン閾値の間にあるならば、そのメラノーマは放射線に対して部分的に感受性であると判定される。
【0099】
予め決定された(所定の)メラニン閾値を設定することは十分当業者の技能の範囲内である。切片におけるボクセル含有メラニン濃度はまず、任意の元素分析(LA-ICP-MSなど)によりアブレーションされる切片に対して金属標識メラニン抗体を使用し、同時に同じボクセルで
55Mnを測定して、特定することができる。メラニン欠乏性メラノーマに適用される同じ金属標識抗体の閾値レベルを超えるようなレベルのメラニンを含有するボクセルは情報を提供する。被験試料中のメラニン性ボクセルのパーセンテージは、そうしたボクセルの重み付き中央値とともに、放射線防護指数を与える。メラニンに関する閾値は、適当な単位で、中心傾向、好ましくは中央値もしくは平均値によってATIと同じ一般的方法で設定することができることは当業者に知られている。
55Mnがメラニンを分析したのと同じボクセルで同時に測定可能であることにも注目すべきである。
【0100】
たとえば、閾値は、放射線治療に対して異なる反応を示した(すなわち、一部は感受性であり、一部は抵抗性であった)コホート由来のメラノーマ中のメラニンの平均もしくは中央値レベルに設定することができるであろう。あるいはまた、2つの閾値を設定してもよく、その場合、たとえば、放射線治療に対して異なる反応を示したメラノーマの一群、たとえば同数の放射線抵抗性および放射線感受性メラノーマを含むコホート、において、メラニンレベルの平均値から1標準偏差または2標準偏差に設定することができる。
【0101】
別の態様において、本発明は、被験体においてメラノーマを治療する方法を提供するが、その方法は、被験体由来の被験試料について本発明の方法を実施すること、ならびにメラノーマが放射線に対して感受性であると判定された場合にはその被験体のメラノーマの治療に放射線治療を含めることを含む。
【0102】
もう1つの態様において、本発明は、被験体においてメラノーマを治療する方法を提供するが、その方法は、被験体由来の被験試料について本発明の方法を実施すること、ならびにメラノーマが放射線に対して抵抗性であると判定された場合にはその被験体のメラノーマの治療に放射線治療を含めないことを含む。
【0103】
文脈上明らかに他の意味に解釈すべき場合を除き、明細書および請求項を通じて、「含む」などの表現は、排他的もしくは網羅的な意味の対語として包括的な意味で解釈されるべきである:すなわち「含むがそれに限定されない」意味である。
【0104】
本明細書を通じて、特に明記するか文脈上他の意味に解すべき場合を除き、1つのステップ、1つの組成物、一連のステップ、または1つの組成物群は、1つおよび複数(すなわち1つもしくは複数)のステップ、組成物、ステップ群もしくは組成物群を包含すると解釈されるべきである。
【0105】
記載される本発明のそれぞれの態様、実施形態および/または例は、特に明記しない限り、それぞれすべての態様、実施形態および/または例に、変更すべきは変更して適用することができる。
【0106】
当業者には当然のことであるが、ここに記載の本発明は、そこに具体的に記載された以外に変更および修正が可能である。当然のことながら、本発明は多くのそうした変更および修正を含む。本発明はまた、本明細書で言及もしくは指示されたステップ、特徴、組成物および化合物のすべてを、個別的または集合的に含み、さらにあらゆる組成物または2つ以上の前記ステップもしくは特徴を含む。
【0107】
本発明は、本明細書に記載の具体的な実施形態によって範囲を限定されるべきではなく、こうした実施形態は例示のみを目的とするものである。機能的に同等の製品、組成物および方法は、明白に、本明細書に記載の本発明の範囲に含まれる。
【0108】
当業者に認められるとおり、本発明の方法は、臨床治療の内容においてけっして日常的もしくは習慣的なものではない。本発明が提供する正確さはこれまでのところ存在しない。たとえばLA-ICP-MSに基づいて腫瘍型(特に例示された8つの腫瘍型)を区別することは完全に新規である;結果は予想外であり、先行技術から予測することはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【
図1】48歳男性頸部のIb期の悪性黒色腫、TNM病期分類基準T2aN0M0、から採取されたホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)ブロックの標準的な5ミクロンのH&E染色組織切片の画像であって、前記T2は筋固有層への浸潤を表し、N0はリンパ節転移なし、M0は遠隔転移なしを表す。ここで留意すべきは、この切片の右上部が淡色のメラニン欠乏性腫瘍細胞からなるのに対して、図の左側および下部の色の濃い領域は濃く染色されるメラニンを含有する細胞で構成され、さらに大きなメラニンの斑点が画面の下部に黒いスポットとして細胞内および細胞外の両方にあることである。
【
図2】3つの異なるマンガンによる結合を示す図。1つの
55Mnが3つすべてに同時に結合しないことに留意すべきである(この図は単に説明用である - Slade and Radman, Microbiology and Molecular Biology Reviews, 75, 133-191, 2011から採られた)。
【
図3-1】A.正常な皮質組織の特性を示す50歳ヒト女性から採取された正常なヒト皮質のブロックのH&E染色5ミクロン組織切片の画像。同一ブロック由来の近傍の未染色切片であるが別のスライドガラス上で行われた、(より大きなマルチトラック組織アブレーションから得られた)3トラックアブレーションの位置を示す。図に示されるH&E染色領域は、別のスライドガラス上でLA-ICP-MSにより分析された同等の未染色領域に相当する。B.3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり70ボクセルをアブレーションした組織切片から、3つの隣接したアブレーショントラックの各ボクセルについて示す。
【
図3-2】C.(
図3Bの)未加工の数値のグラフ表示であるが、その各トラックは、3つのアブレーション列のそれぞれの隣接するボクセル内の、3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feに関する、キャリブレーションされたカウント/秒を示す70ボクセルからなる。
【
図4-1】A.多形性膠芽腫と分類される脳腫瘍を有する19歳ヒト女性のブロックから得られたH&E染色5ミクロン組織切片の画像。図に示されるH&E染色領域は、異なるスライドガラス上でLA-ICP-MSにより分析された同等の未染色領域に対応する。B. 3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり68ボクセルをアブレーションした組織切片から得られた、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて示す。
【
図4-2】C.多形性膠芽腫のヒト女性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける、隣接ボクセル内の3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feについてのキャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値(
図4B)のグラフ表示。Y軸はその金属イオンのキャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)を示し、X軸は3つのアブレーショントラックのボクセル数を示す。
【
図5-1】A.
図4に示す多形性膠芽腫の19歳ヒト女性の同じブロックの異なる領域から得られたH&E染色5ミクロン組織切片の画像。B. 3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり69ボクセルをアブレーションした組織切片から得られた、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて示す。
【
図5-2】C. 多形性膠芽腫のヒト女性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける隣接ボクセルでの3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feについてのキャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値(
図5B)のグラフ表示。Y軸はその金属イオンのキャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)を示し、X軸は3つのアブレーショントラックのボクセル数を示す。
【
図6-1】A.悪性中皮腫を有する60歳ヒト男性から得られたH&E染色5ミクロン組織切片の画像。B. 4つの金属
55Mn、
66Zn、
56Feおよび
63Cuのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり67ボクセルをアブレーションした組織切片から得られた、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて示す。
【
図6-2】C. 悪性中皮腫を有する60歳ヒト男性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける隣接ボクセル内の、4つの金属
55Mn、
66Zn、
56Feおよび
63Cuに関するキャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値(
図6B)のグラフ表示。Y軸はその金属イオンのキャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)を示し、X軸は3つのアブレーショントラックのボクセル数を示す。
【
図7-1】A.食道の悪性メラノーマを有する50歳男性から得られたH&E染色5ミクロン組織切片の画像。B. 3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり68ボクセルをアブレーションした組織切片から、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて示す。
【
図7-2】C. 食道の悪性黒色腫を有する50歳ヒト男性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける隣接ボクセル内の、3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feに関するキャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値(
図7B)のグラフ表示。Y軸はその金属イオンのキャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)を示し、X軸は3つのアブレーショントラックのボクセル数を示す。
【
図8-1】A. びまん性B細胞リンパ腫を有する57歳男性から得られたH&E染色5ミクロン組織切片の画像。B. 3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり79ボクセルをアブレーションした組織切片から得られた、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて示す。
【
図8-2】C. 精巣にびまん性B細胞リンパ腫を有する57歳男性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける隣接ボクセル内の、3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feに関するキャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値(
図8B)のグラフ表示。Y軸はその金属イオンのキャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)を示し、X軸は3つのアブレーショントラックのボクセル数を示す。
【
図9-1】A.肺の小細胞未分化悪性癌を有する38歳男性から得られた代表的なH&E染色5ミクロン組織切片の画像。B. 3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり65ボクセルをアブレーションした組織切片から、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて示す。
【
図9-2】C. 肺の小細胞未分化悪性癌を有する38歳男性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける隣接ボクセル内の、3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feに関するキャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値(
図9B)のグラフ表示。Y軸はその金属イオンのキャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)を示し、X軸は3つのアブレーショントラックのボクセル数を示す。
【
図10-1】セミノーマを有する52歳男性から得られた代表的なH&E染色5ミクロン組織切片の画像。B. 3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり79ボクセルをアブレーションした組織切片から得られた、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて示す。
【
図10-2】C. セミノーマを有する52歳男性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける隣接ボクセルでの3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feについてのキャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値(
図10B)のグラフ表示。Y軸はその金属イオンのキャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)を示し、X軸は3つのアブレーショントラックのボクセル数を示す。
【
図11】セミノーマ(55)、リンパ腫(10)、小細胞肺癌(20)、メラノーマ(64)、脳腫瘍(膠芽腫および星細胞腫)(25)、および中皮腫(10)を有する患者の腫瘍中の全マンガン量のグラフ表示(
55Mnのキャリブレーションカウント/秒、CC/Sとして表される)。それぞれの四角はメラノーマを除いて1人の患者を表すが、メラノーマでは64人の患者のうち2人がそれぞれ、腫瘍内に2系統を有しており、ヒストグラムではそれぞれの系統を別々に1つの四角で表した。
【
図12】メラノーマ中に2つの主要な系統が存在するメラノーマ患者の一人の、
図1に示す組織切片の上部を横切る3つのレーザーアブレーショントラックの2次元表示。スケール:右側(濃い灰色)、0-15,000;中央(白っぽい)、15,000-45,000;左側(薄い灰色)、45,000-150,000のキャリブレーションされたカウント/秒。
【0110】
【
図13】4つすべての金属に関する分析のグラフ表示であって、パネル(a)、(b)、(c)および(d)はそれぞれ
図1に示す腫瘍の
55Mn、
66Zn、
56Feおよび
63Cuを示す。
【
図14】メラノーマIV期、T4N0M1の54歳男性患者の左人差し指から得られた、メラノーマのH&E染色組織切片の画像(上図)。腫瘍を横切るアブレーショントラックの2次元表示(下図)。スケール:薄い灰色(腫瘍の主な大量の
55Mn値)0-2,000 CC/S;白っぽいフラットな領域、これは本明細書では一般に高メタロミック領域(HMR)と呼ばれるが、この例に限ってこの領域は>6,500のキャリブレーションカウント/秒に相当する。
【
図15】A.組織および細胞の形態を示す、
図14で解析された54歳男性の左人差し指のメラノーマから得られたホルマリン固定パラフィン包埋ブロックの標準的な5ミクロンH&E染色組織切片の画像。B.Aに示すサンプルのメタロミック含量を測定した。BパートはLA-ICP-MS後のこの切片の個々のボクセルにおける
55Mnの2次元表示である。高
55Mn含量の連続するボクセルからなる2つのクラスターはHMR(
55Mn)と称され、黒い領域として示されるが、ボクセルマトリックスのデータを目で見て検証して明白となる。C.AおよびBセクションの個々のボクセルにおける
55Mnレベルの2次元表示を、ボクセル全域当たりの中央値の2倍(+機器のバックグラウンド値)の閾値を適用することによってさらに解析した。黒い四角はこの特定の(2x中央値)閾値を超えるボクセルを示す。D.A およびBセクションの個々のボクセルにおける
55Mnレベルの2次元表示を、ボクセル全域当たりの中央値+全域のボクセル値の標準偏差+機器のバックグラウンド値の閾値を適用してさらに解析した。黒い四角はこの特定の(中央値+標準偏差)閾値を超えるボクセルを示す。
【
図16】上図。
図15のA図のメラノーマ患者の腫瘍に由来する同じ5ミクロンH&E染色組織切片の画像。中央の図。
図15のC図に示す
55Mn値の同じボクセルマトリックスの2次元表示であって、これはHMR(
55Mn)を構成する連続するボクセルのクラスターを示す。下図。中央の図に示したものに対する、
55Mnと同じ
66Znに関する閾値基準を用いた、個々のボクセルにおける
66Znボクセル値。
【
図17】異なる閾値基準を用いた、LA-ICP-MSにより作成されたボクセルマトリックスにおけるHMR(
55Mn)の分布および出現の2次元表示。左側の4枚のパネル(T1、T2、T3およびT4)は、51歳女性患者の肺の小細胞未分化癌の標準的な未染色5ミクロン組織切片の、31x31ボクセル領域のレーザーアブレーションから得られたデータを示す。右側の4枚のパネル(T1、T2、T3およびT4)は、
図14〜16に記載の54歳メラノーマ患者の、31x31ボクセル領域のレーザーアブレーションから得られたデータを示す。ボクセルマトリックスデータに適用された
55Mn閾値は;T1、0.5x 中央値;T2、1x 中央値;T3、1.5x 中央値;ならびにT4、2x 中央値である。各パネルの濃色のボクセルは、
55Mn値がそのパネルに関する閾値を超えているボクセルである。閾値を上回る単一の不連続ボクセルはシングルトンと呼ばれ、2つの隣接するボクセルはダブルトンと称される。
【
図18】
図17の2人の患者から得られた同じサンプルに関する、LA-ICP-MSにより作成されたボクセルマトリックスにおけるHMR(
66Zn)の分布および出現なしの2次元表示。左側の4枚のパネル(T1、T2、T3およびT4)は、
図17と同じ31x31ボクセル領域のレーザーアブレーションから得られたデータを示すが、その領域は
66Zn、
56Feおよび
63Cuについて同時に分析された。
66Znに関するデータを示す。右側の4枚のパネル(T1、T2、T3およびT4)は、
図17と同じ31x31ボクセル領域のレーザーアブレーションから得られたデータを示す。ボクセルマトリックスデータに適用された
66Zn閾値は、前に使用されたとおりである;T1、0.5x 中央値;T2、1x 中央値;T3、1.5x 中央値;ならびにT4、2x 中央値。各パネルの濃色のボクセルは、
66Zn値がそのパネルに関する閾値を超えているボクセルである。
【
図19】小細胞肺癌を有する20人の患者由来のレーザーアブレーションされた試料中の、
55Mnのキャリブレートされたカウント/秒(CC/S)として表される
55Mn含量中央値を示すヒストグラム。灰色の四角はそれぞれ、サンプリングされた一人の患者の腫瘍に由来する約1,888ボクセルの全領域から計算された中央値を表す。上のヒストグラムは、HMR(
55Mn)のない腫瘍を有する14人の患者を示す。下のヒストグラムは、2x中央値という標準的なT4閾値で判定された、t1からt6で表される6人の患者由来のHMR(
55Mn)のある腫瘍を示す。黒い四角は、2x中央値という標準的なT4閾値で判定された、患者t1からt6のそれぞれに由来する腫瘍に見いだされるHMR(
55Mn)の中央値である。HMR(
55Mn)値は、患者t1からt6のそれぞれの腫瘍の全体的な
55Mn中央値と点線で結ばれる。ヒストグラムの区間は200 CC/S単位である。
【
図20】シミュレートされた2D腫瘍ランドスケープにおける隣接するボクセル配置に関する、選択されたサンプルの大きさ、形および含量の概略図。指定の閾値を上回る癌細胞を含有するボクセルを黒で示す。A図は、ダブレットのボクセルだけを検討する場合、8つのとりうるボクセル配置のすべてを図示する。BおよびE図は、8x8閾値越えHMR(
AM)の基準を満足する多くのとりうる隣接ボクセル配置の1つを示すが、この
AMは任意の金属を表す。C図は、8x8最小閾値を下回る7x7ボクセルだけのボクセル配置を示す。DおよびF図は、リンパ管もしくはリンパ本幹に特徴的なボクセル配置を示す。G図は癌細胞の「1列縦隊」移動に特徴的な、または有意な機械の「スタッター」に特有のボクセル配置を示す。H図は、一部のメラノーマにみられる多数のボクセル配置に特徴的であって、この閾値を上回るボクセルは、高レベルの任意の金属を有する細胞に起因するか、または任意の金属と結合したメラニン顆粒に起因する可能性がある。
【
図21】びまん性B細胞リンパ腫患者10人の腫瘍の約1,800ボクセルの全領域からの、レーザーアブレーションサンプル中の
55Mnの、キャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)で表される
55Mn含量中央値を示すヒストグラム。灰色の四角はそれぞれ、1人の患者の腫瘍から算出された中央値を示す。ヒストグラムの区間は200 CC/S単位である。
【
図22】classicセミノーマの患者55人の腫瘍から得られたレーザーアブレーションサンプル中の
55Mnの、キャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)で表される
55Mn含量中央値を示すヒストグラム。灰色の四角はそれぞれ、1人の患者の腫瘍の約1,800ボクセルの全領域から算出された中央値を示す。上のヒストグラムは、HMR(
55Mn)のない51のセミノーマを示す。下の図は、S4からS7と名付けられた、4人の患者から得られたHMR(
55Mn)のある腫瘍を示すが、それらは2x中央値の標準T4閾値で判定された。黒い四角は、患者S4からS7のそれぞれに由来する腫瘍に見いだされるHMR(
55Mn)の中央値である。HMR(
55Mn)値は、患者S4からS7のそれぞれの腫瘍から得られる全体的な
55Mn中央値と点線で結ばれる。ヒストグラムの区間は200 CC/S単位である。S1、S2およびS3と称される患者は、それらの腫瘍が基準閾値のもとでHMR(
55Mn)を含有しないにもかかわらず、高い中央値を有するアウトライアーである。
【
図23】中皮腫の患者10人の腫瘍から得られたレーザーアブレーションサンプル中の
55Mnの、キャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)で表される
55Mn含量中央値のヒストグラム。灰色の四角はそれぞれ、1人の患者の腫瘍の約1,800ボクセルの全領域から算出された中央値を示す。上のヒストグラムは、HMR(
55Mn)のない9個の腫瘍を示す。下の図は、2x中央値のT4の基準閾値で判定された、1つのHMR(
55Mn)のある腫瘍を示す。黒い四角は、一人の中皮腫患者の腫瘍に見いだされるHMR(
55Mn)の中央値である。HMR(
55Mn)値は、その腫瘍の全体的な
55Mn中央値に点線で結び付けられる。ヒストグラムの区間は200 CC/S単位である。
【
図24】脳の多形性膠芽腫または星細胞腫のいずれかの患者25人の腫瘍から得られたレーザーアブレーションサンプル中の
55Mnの、キャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)で表される
55Mn含量中央値を示すヒストグラム。灰色の四角はそれぞれ、1人の患者の腫瘍の約1,800ボクセルの全領域から算出された中央値を示す。上のヒストグラムは、HMR(
55Mn)のない24個の腫瘍を示す。下の図は、2x中央値のT4の基準閾値で判定された、1つのHMR(
55Mn)のある腫瘍を示す。黒い四角は、その腫瘍に見いだされるHMR(
55Mn)の中央値である。HMR(
55Mn)値は、その腫瘍の全体的な
55Mn中央値に点線で結び付けられる。ヒストグラムの区間は200 CC/S単位である。
【
図25】メラノーマ患者64人の腫瘍から得られたレーザーアブレーションサンプル中の
55Mnの、キャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)で表される
55Mn含量中央値を示すヒストグラム。灰色の四角はそれぞれ、1人1人の患者の腫瘍の約1,800ボクセルの全領域から算出された中央値を示すが、ただし、同一腫瘍の中にそれぞれ2つの主要な系統を有する2人のメラノーマ患者を除くものとし、この場合サンプリングされる領域は系統ごとに900ボクセル未満である。上のヒストグラムは、HMR(
55Mn)のない腫瘍を示す。下の図は、2x中央値のT4基準閾値で判定された、HMR(
55Mn)のある腫瘍を示す。黒い四角は、腫瘍に見いだされるHMR(
55Mn)の中央値である。HMR(
55Mn)値は、その腫瘍の全体的な
55Mn中央値に点線で結び付けられる。腫瘍の中には複数のHMR(
55Mn)を有するものもあり、これらはその腫瘍に関する同じ点線上に示される。ヒストグラムの区間は200 CC/S単位である。ここで留意すべきは、多くのCC/S値が10,000を超えたので目盛りが圧縮されていることである。
【
図26】この出願において分析のために使用される、金属と結合したメラニンの複雑な重合体構造の概略図。
【
図27】パネルAおよびBは、組織および細胞の形態を示す、45歳女性の胸壁の悪性メラノーマから得られたホルマリン固定パラフィン包埋ブロックからの標準的な5ミクロンH&E染色組織切片の画像である。C.黒い領域として示される
66Zn高含量の隣接するボクセルを有する、この切片の個別のボクセル中の
66Znレベル。D. 黒い領域として示される
63Cu高含量の隣接するボクセルを有する、この切片の個別のボクセル中の
63Cuレベル。E. 黒い領域として示される
56Fe高含量の隣接するボクセルを有する、この切片の個別のボクセル中の
56Feレベル。F. 黒い領域として示される
55Mn高含量の隣接するボクセルを有する、この切片の個別のボクセル中の
55Mnレベル。
【
図28】メラノーマ患者64人の腫瘍の約1,800ボクセルの全領域から得られたレーザーアブレーションサンプル中の
55Mnの、キャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)で表される
55Mn含量中央値を示すヒストグラム。前記のように、64人の患者のうち2人はその腫瘍中に2つの主要な系統を有し、1つの四角を有するヒストグラムにおいてそうした系統はそれぞれ別々に表される。メラノーマサンプルは、原発部位に由来するもの(上のヒストグラム)、リンパ節に由来するもの(中央のヒストグラム)、および遠隔転移に由来するもの(下のヒストグラム)に分類された。
【
図29】A.54歳男性の小細胞肺癌から得られたホルマリン固定パラフィン包埋ブロックからの標準的な5ミクロンH&E染色組織切片の画像であって、これは濃く染色された癌細胞の領域、およびより薄く染色された間質領域の、組織および細胞の形態を示すものである。B.選択された閾値を上回る
66Znレベルは白/灰色で示され、この閾値未満の間質成分は黒で示される、同じ切片の2Dレリーフ画像。
【
図30】A. 66歳男性の直腸の悪性メラノーマから得られたホルマリン固定パラフィン包埋ブロックからの標準的な5ミクロンH&E染色組織切片の画像であって、これは濃く染色された癌細胞の領域、さらに濃く染色されたメラニン凝集、およびより薄く染色された間質領域の、組織および細胞の形態を示すものである。B.選択された閾値を上回る
66Znレベルは白/灰色で示され、この閾値未満の間質成分は黒で示される、同じ切片の2Dレリーフ画像。
【
図31】乳癌の患者15人の腫瘍から得られたレーザーアブレーションサンプル中の
55Mnの、キャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)で表される
55Mn含量中央値を示すヒストグラム。灰色の四角はそれぞれ、1人の患者の腫瘍の約1,800ボクセルの全領域から算出された中央値を示す。上のヒストグラムは、HMR(
55Mn)のない4個の腫瘍を示す。下の図は、2x中央値のT4標準閾値で判定された、HMR(
55Mn)のある11個の腫瘍を示す。黒い四角は、患者11人のそれぞれの腫瘍に見いだされるHMR(
55Mn)の中央値である。HMR(
55Mn)値は、その腫瘍の全体的な
55Mn中央値に点線で結び付けられる。腫瘍の中には複数のHMR(
55Mn)を有するものもあり、これらはその腫瘍に関する同じ点線上に示される。ヒストグラムの区間は200 CC/S単位である。
【
図32】A. 39歳女性から採取された高分化型乳癌から得られたホルマリン固定パラフィン包埋ブロックからの標準的な5ミクロンH&E染色組織切片の画像であって、これは組織および細胞の形態を示すものである。B.LA-ICP-MS後のこの切片の、個々のボクセルにおける
55Mnレベルの2Dレリーフ画像。高55Mn含量の近接ボクセルからなる複数のクラスターが黒い領域として示される。
【
図33】
図32の39歳女性から得られた、異なる閾値基準を用いてLA-ICP-MSにより作成されたボクセルマトリックスにおける、HMR(
55Mn)の分布および出現、ならびにHMR(
66Zn)の出現しないことを示す2次元表示。左側の4枚のパネル(T1、T2、T3およびT4)は、異なる基準閾値における、乳癌由来の31x31ボクセル領域のレーザーアブレーションから得られた
55Mnのデータを示す(T1、0.5x 中央値;T2、1x 中央値;T3、1.5x 中央値;ならびにT4、2x 中央値)。右側の4枚のパネル(T1、T2、T3およびT4)は、同一の31x31ボクセル領域のレーザーアブレーション、および同じ閾値基準から得られた
66Znのデータを示す。各パネルの濃色のボクセルは、
55Mnもしくは
66Znの値がそのパネルに関する閾値を超えているボクセルである。
【
図34】2Dデータを
図33に示した39歳女性から得られた乳癌サンプルにおける
55Mnおよび
66Znボクセル値分布の分散分析。パネルAは、個別の区間におけるボクセルの頻度をY軸上、ボクセルの値をX軸上として、
55Mnボクセルの右側非対称を示す。パネルBは、同じサンプルから得られた
66Znボクセル値の、ほぼ対称な分布を示す。
【
図35】A. 48歳女性から採取された浸潤性乳管癌から得られたホルマリン固定パラフィン包埋ブロックからの標準的な5ミクロンH&E染色組織切片の画像であって、これは不均一な組織および細胞の形態を示す。B.上の画像の主な形態の説明であって、リンパ本幹内の癌細胞(C1〜C5)、随伴する脂肪細胞に囲まれた正常なリンパ本幹(N)、ならびに免疫細胞の集中(免疫)を他の間質成分とともに示す。
【
図36】上の2つのパネルは、
図35に示す48歳女性から採取された浸潤性乳管癌から得られたホルマリン固定パラフィン包埋ブロックからの標準的な5ミクロンH&E染色組織切片の画像であって、これらは不均一な組織および細胞の形態を示すものである。下の4つのパネル。脂肪細胞を含有する領域および一部の間質領域における4つの金属
55Mn、
66Zn、
56Feおよび
63Cuの特異的分布の2Dレリーフ画像。
【
図37】A.前立腺腺癌患者Xの臨床データの図解であるが、PSAの8.1は前立腺の異なる領域における異常な状態を示しており、12領域のうち7つはほとんど重要性を持たない変化を示すが、5つの領域はグリーソンスコアがせいぜい7程度で定義される「癌」を有する(上図)。B.患者Xから得られた12か所の針生検の罹患範囲に関する診断要約記録(A部分〜L部分)。
【
図38】前立腺癌患者10人の腫瘍から得られたレーザーアブレーションサンプル中の
55Mnの、キャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)で表される
55Mn含量中央値を示すヒストグラム。灰色の四角はそれぞれ、1人の患者の腫瘍の約1,800ボクセルの全領域から算出された中央値を示す。ここに適用された2x中央値という標準的な閾値条件下で、HMR(
55Mn)は存在しなかった。
【
図39】70歳男性患者Yの脳の核磁気共鳴画像。A.薬物治療および放射線照射前の脳の中心に近い左頭頂葉における造影した病変の存在(矢印)。B.放射線治療および免疫療法薬治療後の同じ脳の領域のMRI。C.脳スキャン前に切除された同患者の原発性メラノーマから得られたホルマリン固定パラフィン包埋ブロックからの標準的な5ミクロンH&E染色組織切片の画像。DおよびE. LA-ICP-MSで分析された関心のある領域をさらに拡大した図。
【
図40】患者Yの原発性メラノーマの癌細胞の5つの別々の領域の、
55Mnのキャリブレーションシングルトラック(矢印→)。選択されたそれぞれの領域には、標準的な35ミクロン×35ミクロンボクセルの6つの近接したアブレーショントラックがあり、トラックの長さはそれぞれ、19、19、13、19および19ボクセルであった。
55Mnに関するキャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値を、6つのアブレーション列内の隣接ボクセルのそれぞれについて示す。
【
図41】上の図。放射線治療前の口部の扁平上皮癌を有する患者Z。下の図。放射線治療の6か月後の患者Z。
【
図42】メラノーマ患者の固形腫瘍をLA-ICP-MSで分析することに関するフロー図。患者のために放射線治療を勧めるか、そうした方法の使用を控えるかについて医師にエビデンスを提供する選択の経路は、ATIの均一性または不均一性に基づく。重要な決定ポイントは、
55Mnボクセル値が一定の指定された閾値を上回るか下回るかどうか、ならびに金属結合の観点から腫瘍のメラニン化の程度にかかわる。
【
図43】メラノーマ以外の患者の固形腫瘍をLA-ICP-MSで分析することに関するフロー図。患者のために放射線治療を勧めるか、そうした方法の使用を控えるかについて医師にエビデンスを提供する選択の経路は、ATIの均一性または不均一性に基づく。重要な決定ポイントは、
55Mnボクセル値が一定の指定された閾値を上回るか下回るかどうかにかかわる。
【発明を実施するための形態】
【0111】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明につながる研究において、本発明者らは、たとえば、比較目的で
図1に示すように、多くの腫瘍の、特にメラノーマの、2D空間特性が大きく変化することに注目した。
図1は、48歳男性の頸部のIb期悪性メラノーマ、TNM病期分類基準T2aN0M0、から採取されたホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)ブロックからの標準的な5ミクロンのH&E染色組織切片の画像を示すが、前記T2は筋固有層への浸潤を表し、N0はリンパ節転移なし、M0は遠隔転移なしを表す。ここで留意すべきは、この切片の上部右側が淡色のメラニン欠乏性腫瘍細胞からなるのに対して、図の左側および下部の色の濃い領域は濃く染色されるメラニンを含有する細胞で構成され、さらに大きなメラニンの斑点が画面の下部に黒いスポットとして細胞内および細胞外の両方にあることである。上記のように、こうした腫瘍の病理診断は、治療法を決定するために利用され、それに基づいて放射線照射を用いるかどうかの決定がなされるが、上記のようなH&E染色スライドの主観的な分析である。病理診断もそうした組織切片を腫瘍型によって異なる抗体のパネルを用いて調べることによって補助されているが、そうした結果もまた主観的であって、定量的であることからは程遠い。本発明に至るまで、利用可能な定量的な検査も、癌専門医が治療計画の一環として放射線を利用するか否かを決定するのに役立つ、放射線に対する感受性もしくは抵抗性を予測する検査も存在しなかった。
【0112】
具体的には、Lancet Oncology Commissionが最近、放射線治療への包括的なアクセスに関わる問題に対して新たなエビデンスを提出した(Atun et al., Lancet Oncology 2015, 16, 1153-1186)。それは、有効な癌の治療およびコントロールの基本要素として放射線治療を強調し、しかもそれが一般に準最適に使用されることを強調した。Lancetの編集者らは、放射線治療が他の治療法より特定の尺度で測定可能であること、ならびに有効な治療的ケアおよび緩和ケアを提供するために比類ないものとみなされることを指摘した(Coburn & Collingridge, Lancet Oncology, 2015, 16, 1143)。しかしながら、放射線治療を個々の患者の必要に合わせるには、引き続き存在する2つの障害がある。
【0113】
・第1に、本発明以前には、特定の患者において特定の腫瘍が特定の放射線治療計画に反応する程度を測定する「定量的な検査」がなかった。
【0114】
・第2に、任意の腫瘍が放射線治療後に再発しやすい程度(再発しやすさ)を測定する「定量的な検査」がなかった。
【0115】
本発明に至るまで、臨床的な判断は、医術に基づいており、放射線応答性を判定する定量的測定に基づいていなかった。
【0116】
いかなる特定の理論に縛られることなく、本発明者らは、放射線応答性を予測するためにATIを使用することができるという予想外の発見に対して以下の説明を提示する:
− ガンマ線およびX線などの電離放射線は、水の放射線分解をもたらし、それはあらゆる細胞において同じタイプの化学物質の形成をもたらすが、あらゆる細胞とは、細菌、藻類、真菌、無脊椎動物の細胞であり、人体の何百もの細胞型であり、癌細胞に至る逸脱の結果として生じる異常な細胞型である。
【0117】
放射線分解は一般に同じタイプの反応性分子を生成するが、3つの重要な分子は以下のとおりである;
− ヒドロキシルラジカルOH・、スーパーオキシドラジカルO
2・-、および過酸化水素(H
2O
2)(Daly, M; Nature Reviews Microbiology, 7, 237-245. 2009)。
【0118】
放射線照射を受けていない、正常な、健康な哺乳動物細胞においても、同じ3つの分子が、ミトコンドリア電子伝達系によって起こる正常なミトコンドリア呼吸過程の一環として形成される。酸素が受け取るのが完全に定数いっぱいの電子に満たない場合、結果として、O
2・-およびH
2O
2が形成される。H
2O
2が直ちに処理されないと、迷走原子の鉄Fe
2+がそれと反応して、危険性の高いヒドロキシルラジカルOH・を生成する。
【0119】
哺乳動物細胞において、スーパーオキシドラジカルO
2・-は、ミトコンドリア、細胞質および細胞外の酵素系、すなわちミトコンドリア内のマンガンスーパーオキシドジスムターゼ、細胞質における銅-亜鉛スーパーオキシドCuZnSOD、および主に内皮細胞に繋留される細胞外スーパーオキシドジスムターゼecSODにより処理される。
【0120】
H
2O
2は、カタラーゼおよびグルタチオンパーオキシダーゼによって除去され、水および酸素分子を生じる。
【0121】
危険性の高いヒドロキシルラジカルOH・は、酵素的プロセスによっては処理されない。高レベルの酸化的代謝の結果の一例が哺乳類の脳にあり、それは、脳細胞を、OH・からの脂質化酸化反応によって非常に攻撃されやすくする。
【0122】
本発明者らは、化学元素および元素レベル、たとえばマンガンが、放射線応答性に寄与すると考えた。本発明者らは、10グレイ(Gy)の全身暴露がほとんどの脊椎動物にとって致命的であるのに対して、D.radioduransなどの一部の細菌は17,000 Gyを超える線量を生き延びることに注目した。これを達成することができる寄与メカニズムの1つは、それが、放射線感受性の細菌種より150倍多くのマンガンを蓄積し、より少ない3分の1の鉄(Fe)を蓄積することである(Daly,M; Nature Reviews Microbiology, 7, 237-245, 2009)。鉄に対するマンガン比の高い細菌種は、最も放射線抵抗性であるのに対して、Mn/Fe比の最も低い細菌種は、高感受性である。放射線応答性の機構的基盤は、マンガンの蓄積が、鉄-硫黄(Fe-S)複合体を有するタンパク質を、放射線照射中に形成される(O
2・-)などのスーパーオキシドラジカルから遮蔽することを明らかにする。マンガンによるこの遮蔽は、鉄-硫黄含有タンパク質からの鉄イオン(Fe
2+)の放出を防ぎ、したがって高度に有害なFe
2+と過酸化水素との相互作用を防ぐ。Fe
2+が不運にもH
2O
2と反応すると、結果は、危険なヒドロキシラジカルOH・となり、ほとんどあらゆるタイプの生体分子を酸化することになる。
【0123】
過酸化水素と対照的に、O
2・-は容易には膜を越えないので、細胞内コンパートメントに蓄積する。したがって、フェントン反応に利用できるFe
2+の量を最小限にするだけでなく、Fe-S含有タンパク質をO
2・-への暴露から有効に遮蔽することができる、いかなる細胞システムも、照射後のダメージを最小限に抑え、放射線抵抗性を増すことになる。本発明者らは、細菌のデータによれば、マンガンイオンが保護金属であり、高濃度でも細菌細胞に対してほぼ無害であって、おそらく多細胞生物の多くの細胞型がそれによく耐えられるであろうと考えた。反対に、マンガンが低く遊離鉄が高い細菌系は、おそらくタンパク質および脂質をダメージから保護できなくなり、フェントン反応によって確実に、損傷を与えるOH・のレベルが増加してタンパク質および脂質の損傷ならびに細胞死をもたらすことになり、したがって細胞の放射線感受性につながるであろう。同様の状況は真核生物に存在するであろう。
【0124】
遊離鉄の細胞内利用可能性は、タンパク質カルボニル化による不可逆なタンパク質損傷に重要な役割を果たすことが知られている。酵母において、カルボニル化レベルは、酵母が特定の鉄貯蔵タンパク質を欠いていると高くなるが、そのホモログはヒトのミトコンドリアにあるフラタキシンタンパク質である。このような欠損のある酵母株へのヒトフェリチンの導入は、こうした酵母の鉄貯蔵能をある程度回復させ、鉄イオンレベルを低下させて、上昇したカルボニル化レベルに対抗して作用する。したがって、鉄貯蔵タンパク質は、電離放射線照射後の細胞の損傷を防ぐことにおいて重要な担い手となりそうである。
【0125】
スーパーオキシドラジカルO
2・-は高電荷ではあるがDNAとは反応しないことが知られている。むしろ、それは選ばれた標的と反応するが、この標的は特定のたんぱく質の露出した鉄-硫黄(Fe-S)原子団である。
【0126】
要するに、OH・はすべての細胞成分に大きな損傷を与えるが、それが引き起こす付帯的損傷は、寿命が短いために、形成された位置からわずか数オングストロームに限定される。一方H
2O
2は、細胞全体に拡散してFe
2+と反応する可能性があり、既知のもっとも強力な酸化反応を起こす。この反応はさらに多くのOH・を生じる。細菌のデータによれば、電離放射線に対する反応性は連続的な生物学的変数であり、細胞のマンガン濃度から、ならびにラジカルを除去し、遊離鉄を捕捉し、過酸化水素を減らし、タンパク質を最小化して再生産する関連酵素化学から、複数のインプットがあることは明らかである。
【0127】
In vitro系によって、ヒトマンガンスーパーオキシドジスムターゼがスーパーオキシドラジカルO
2・-をH
2O
2およびO
2に変換することが示された。多くのin vitroヒト細胞系において、ヒトMnSODタンパク質のレベルおよび活性が、電離放射線に対する抵抗性の増加と関連付けられた。同様に、細胞系においてMnSODタンパク質のレベルおよび活性を低下させると、放射線抵抗性の減少をもたらす。
【0128】
したがって、実験細胞および対照細胞の遺伝的背景が一定に保たれ、唯一の変数が導入遺伝子か、そのアンチセンス産物か、空ベクターのいずれかであるような、慎重にコントロールされた実験環境において、ミトコンドリアに存在するMnSODタンパク質は、電離放射線の影響から細胞を保護するのに役立つ。
【0129】
ヒト細胞には、スーパーオキシドラジカルO
2・-に作用するスーパーオキシドジスムターゼが3つだけ存在し、これらのスーパーオキシドジスムターゼはすべて、異なる細胞部位にある。マンガンスーパーオキシドジスムターゼMnSODはミトコンドリアにあり、銅-亜鉛スーパーオキシドCuZnSODは細胞質および核にみられるのに対して、細胞外スーパーオキシドジスムターゼecSODは、主に内皮細胞に繋留される。3つのスーパーオキシドジスムターゼは、これら3つの異なる部位でO
2・-と反応する。
【0130】
スーパーオキシドジスムターゼが大きく注目を集めた一方で、MnおよびCuなどの化学元素に関する基礎化学および生化学、細胞内でのそれらの位置および利用は、スーパーオキシドジスムターゼの特異性よりはるかに幅広く、たとえば、Mnは錯体形成に出現する(Daly et al., PLoS ONE, 5, e12570, 2010; Slade and Radman, Microbiology and Molecular Biology Reviews, 75, 133-191, 2011)。
【0131】
図2は、3つの異なるマンガン結合体を図示する。マンガンはオルトリン酸と錯体を形成してO
2・-を除去する。マンガンはまた、遊離アミノ酸またはペプチドと錯体を形成して、過酸化水素、ヒドロキシラジカル(OH・)、およびO
2・-を除去および分解する。ヌクレオチド、遊離アミノ酸、およびさまざまな代謝産物は、ヒドロキシラジカルを除去する(Slade and Radman, Microbiology and Molecular Biology Reviews, 75, 133-191, 2011)。
【0132】
鉄、銅、亜鉛およびマンガンなどの無機金属は、最も一般的には、タンパク質のための触媒コファクターと考えられている。
【0133】
金属が放射線抵抗性に重要な役割を果たすという前記の示唆にもかかわらず、本発明に至るまで、マンガンは、正常と比較して腫瘍について癌の2D含量として定量されなかったが、それによって放射線感受性/放射線抵抗性が判定され、続いて第1に放射線治療に関する決断をするために、第2に放射線治療後の腫瘍再発の可能性を予測するために利用される。
【0134】
本発明を実施するためのすべてのハードウェアおよびソフトウェアは現在、商業的にも臨床的にも利用可能である。当業者には明らかであるが、技術的な変更が有用となることがある。本発明による分析のための組織切片、細胞もしくは細胞集団の調製は、当技術分野で知られている任意の方法にしたがって行うことができる。たとえば、未染色組織切片、未染色凍結切片、またはSurePathシステムにより単層として沈着させた細胞は、当分野の技術にしたがって、たとえば本明細書に記載のように調製される。当技術分野で利用できるいかなる技術も使用可能であって、たとえば、SurePathシステムはコンパクトな円形部の中でスライドガラス上に細胞の単層を生成し、このようにして調製された材料は、LA-ICP-MS法に適している。2Dの完全性がなくならなければ、当技術分野で知られているいかなる方法も、本発明の被験試料および/または対照試料を調製するために使用することができる。たとえばレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)、レーザーアブレーション飛行時間型質量分析法(LA-TOF-MS)、誘導結合プラズマ-発光分光分析法(ICP-OES)、マイクロ波プラズマ-原子発光分光法(MP-AES)、レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)、二次イオン質量分析法(SIMS)、X線吸収端近傍構造(XANES)、原子吸光分光法(AA)または蛍光X線分析(XRF)によって、多くのアブレーショントラックを作成できる。
【0135】
1つもしくは複数のアブレーショントラックにおける値がすべて指定の閾値を上回るか、または下回る場合、病理学者による検査の必要はない。反対に、コンピューターソフトウェアによってフラグを付けられたトラックについてはいずれも、対をなす染色されたスライドガラスを病理学者が検査する。
【0136】
あるいはまた、スライドガラスははじめに病理学者によって検査され、病理学者は好ましいアブレーショントラックをどこになすべきか指導するであろう。
【0137】
注目すべきは、(幅110ミクロン未満の)1つのアブレーショントラックが、腫瘍組織の1cmトラックを約70秒のうちにアブレーションすることである。これに関して、その後のアブレーション分析のために病理学者によって位置を決められ指示された、腫瘍サンプルを横切る複数のトラック、または腫瘍内部の複数の分散した領域は、現在の技術によって、数分のうちに実行することができる。
【0138】
レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)は、元々はGray, Analyst, 110, 551-556. 1985、によってルビーレーザーを用いて導入された。これはその後、固体Nd:YAGレーザーおよびエキシマレーザーに取って代わられた。前者の使用はHare, D, et al., Analyst 134, 450-453. 2009 (Hare et al.の操作パラメーターに関する表1)に記載されている。エキシマレーザーについては、ビームは希ガス(アルゴン、クリプトンまたはキセノン)と塩素もしくはフッ素などの反応性気体とを組み合わせた気体混合物によって生じる。高圧および電気的刺激の下で、エキシプレックスと称される疑似分子(XeCl、KrFまたはArF)が作製され、それは紫外線を当てるとレーザー光を生じさせる。
【0139】
LA-ICP-MSとの関連でよく知られているエキシマに基づくシステムは、193 nmの波長を生じるNew Waveエキシマと結合されたAgilent 7700 ICP-MSであるが、そのレーザーははじめに、Gunther et al., J. Anal. At. Spectrom.12, 939-944, 1977によって使用された。遊離イオンの元素分析をLA-ICP-MSで実施するが、たとえばNew Wave Research Excimer 193レーザーアブレーションユニットと接続されたICP-MS機器Agilent Technologies 7700シリーズを使用する。さらに、ICP-MS機器は、八重極衝突/反応セルが取り付けられる。ThermofisherのiCAP(商標名)Q ICP-MS、Perkin ElmerのNexion Series、Shimadzu ICP-MS 2030、およびTofwerkのICP-TOF-MSを含めて、他のICP-MS機器も利用できる。ICP-MSシステムの代わりに、原子発光分光法の技術を用いてATIを測定することもできるが、それはたとえば、誘導結合プラズマ - 発光分光分析法(ICP-OES)、マイクロ波プラズマ-原子発光分光法、またはレーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)、または二次イオン質量分析法(SIMS)、またはX線吸収端近傍構造(XANES)、または原子吸光分光法(AA)、または蛍光X線分析(XRF)などである。
【0140】
高純度液体アルゴン(Ar)をキャリアーガスおよびプラズマ源として使用する一方で、超高純度(99.999%)水素(H2)を反応ガスとして使用する。LA-ICP-MSシステムは、日常的に、標準モードと反応モードの両方についてNIST 612 Trace Elements in Glassを用いて、最大の感度のために、そして酸化物の低形成を確実にするために、調整される。酸化物の低生産は、248/232(
232Th
16O
+/
232Th
+を表す)の質量対電荷比(m/z)を測定することによって保証され、常に0.3%未満である。その機器は組織分析のために、マトリックスマッチングを行った組織標準を用いて微調整される。
【0141】
LA-ICP-MSシステムの典型的な操作パラメーターは下記で与えられるが、明確にするために、7700 ICP-MSとレーザーについて別々に示す。
【0142】
ICP-MSパラメーター
高周波電力は1250.0ワットである;冷却ガス流量は15.0リットル/分である;キャリアーガス流量は1.2リットル/分であり、サンプルの奥行は4mmである;四重極バイアスは-3.0ボルトである;八重極バイアスは-6.0ボルトである;滞留時間はm/z当たり62ミリ秒である;エクストラクションレンズ1は5.0ボルトである;エクストラクションレンズ2は-100.0ボルトであり、水素衝突ガスは3.1ミリリットル/分である。
【0143】
New Wave 193エキシマレーザーのパラメーター
波長193 nm;繰り返し周波数40ヘルツ;レーザーエネルギー密度0.3〜0.5ジュール/cm
2;スポット直径35μm;ライン間隔 35 μm;モニターされた質量/電荷比 (m/z)、55 (Mn)、56 (Fe)、63 (Cu)および 66 (Zn)。ラスター速度は140μm/秒(35μmの4倍)である。
【0144】
簡単に述べると、個別の組織から得られた未染色切片を有する顕微鏡スライドガラスをアブレーションチャンバー内に置き、(変動する直径の)高エネルギーレーザービームの焦点を切片に合わせて、生体物質の一部をレーザービームからのエネルギー転移の結果として気化させる。得られた粒子状物質をキャリアーガスによって誘導結合プラズマ内に移動させるが、キャリアーガスは通常アルゴン、ヘリウム、またはアルゴン+ヘリウムであり(本発明のある実施形態に使用されるシステムではアルゴンである)、誘導結合プラズマは7,000℃以上10,000℃未満の温度であって、粒子状物質を原子化およびイオン化してその構成成分の元素にする。衝突/反応セルの使用(Tanner et al., Spectrochim. Acta. Part B, 57, 1361-1452, 2002)はスペクトル干渉を最小限とし、酸素:アルゴン種(
16O
40Ar
+)などの多原子イオンを「除去する」が、これは、そうしないと56シグナルとして出現して誤って
56Feのものとされると思われる多原子イオンである。動的反応セルにおいて、干渉する多原子イオンは、より高いm/zで異なるイオン種に変換され、標的イオンにもはや干渉しない。衝突セルから出現した後、イオンは四重極マスフィルターにフォーカスされ、そこでm/z比によって分離され、検出および定量される。
【0145】
四重極システムの代わりに、ICP-MSシステムは、二重収束磁場セクター型質量分析計、または飛行時間型(TOF)分析機を組み入れることが可能である。ICP-TOF-MSは30,000フルマススペクトル/秒の非常にハイスループットな捕捉能力を有する(Resano et al., Mass Spectrom. Rev. 29,-55-78, 2010)。
【0146】
顕微鏡スライドガラス上の材料の2D元素マップを作成するために、レーザーはスライドからスライドへサンプルを横断して、一度に上から下まで1トラックで走査され、そのトラックは選択された幅を有する。得られた画像は、隣接ピクセルとして可視化されるが、アブレーションされた材料は奥行があるので、各ピクセルは組織の体積、ボクセルを表す。
【0147】
当業者には明らかであるが、本発明は以下の利点を提供する:
a) アーティファクトの取り込みを回避する最小のサンプル調製;
b) 同時的かつ迅速に複数の元素データが得られること;
c) 腫瘍細胞、間質細胞、異常な脈管構造、移行する免疫細胞、および膠原線維束などの非細胞性物質に関する腫瘍構造についての2D 情報のデコンボリューションであって、これらすべてが、腫瘍を構成する相互作用環境を形成し、放射線感受性の下限と放射線抵抗性の上限との間の位置に影響する;
d) それはそのまま、治療法、すなわち任意の組織もしくは臓器型に対する電離放射線照射、の使用または回避に置き換えられる。放射線治療が用いられる場合、本発明は腫瘍再発の可能性を判定する。
【0148】
e) それは、特定のタイプの腫瘍に特有のことではない。限局性であれ転移性であれ、良性であれ悪性であれ、任意の腫瘍に適用できる。このように、それは汎診断的(完全に診断用)である。たとえば、前立腺特異抗原検査は、良性もしくは悪性の腫瘍、またはまったく良性の前立腺肥大、または激しい運動、の存在を示す可能性のある血流中の1つの循環物質を測定する。したがって、それは必要とされる治療的介入のタイプを示唆しない。またそれは男性に特有である。これに対して、本発明は、性別もしくは腫瘍型の特異性に制限されないので、非小細胞肺癌に対するタルセバのような、個別の腫瘍型に対する特異的抗体もしくは薬物を開発する必要がない。
【0149】
f) 放射線照射は外照射または埋め込み型シードとすることができるが、その放射線は、血管系によって送達され、全組織に拡散し、必ず非特異的作用を正常組織に及ぼして、様々なレベルの毒性を引き起こす、たとえばケラトアカントーマを引き起こすメラノーマにおけるベムラフェニブなどの、低分子量薬物、化学療法薬、または抗体ベースの生物学的薬剤とは異なり、限局された解剖学的領域に届けられる。
【0150】
g) 本発明はダイレクトである。サンプルの多段階調製ステップに関する中間ステップがない。本アッセイは、PCRのようにシグナル増幅のために複数のプロセスに依存する方法につきものの潜在的なバイアスによって混乱させられないが、PCRの場合、そうした方法で通常使用される酵素は、異なる配列の増幅率の差によってシステマティックなバイアスを取り込む可能性がある。ハイブリダイゼーションの特異性が変動する抗体と組織切片とのハイブリダイゼーションも増幅シグナルの測定も行わない。本発明は、多段階処理の結果として生じるゆがみのない、サンプル中に存在するものを測定する。
【0151】
h) 測定可能な7桁のリニアダイナミックレンジがある。範囲と直線性はいずれも、物質の変換もしくは増幅を必要とする先行技術の方法によって潜在的なエラーを持ち込むことなしに、細胞集団における元素量の正確な測定を可能にするのできわめて重要である。
【0152】
本発明は、病状、幹細胞および誘導細胞集団の分化状態の検知、細胞状態への薬物の影響の検出および測定、ならびに細胞状態を正確に示すことが有用である他の任意の状況に特に適している。
【0153】
本発明は、特定の組成物および使用法を記述する、具体的であるが限定的でない例を参照して、より詳細に説明される。しかしながら、当然のことであるが、具体的な手順、組成物および方法に関する詳細な記述は、本発明を例証するためにのみ含められる。けっして上記発明概念の広範な説明に対する制限として理解されるべきではない。
【実施例1】
【0154】
組織スタンダードの調製
基準化およびキャリブレーション実験を、マトリックスマッチングした組織スタンダードの厚さ30μmの切片を用いて行った。これらのスタンダードは、脂肪および結合性の物質を取り除いたニワトリ胸組織から調製し、一部をポリカーボネートプローブに適合するOmniTech TH組織ホモジナイザーを用いてホモジナイズしたのち(Kelly Scientific, North Sydney, New South Wales, Australia)、Ca、Mn、Fe、Co、Cu、およびZnの標準溶液を添加した。溶液は、1% HNO
3 (Choice Analytical, Thornleigh, New South Wales, Australia)に溶解した高純度(min 99.995%)可溶性の塩化物、硫酸塩、もしくは硝酸塩である金属塩(Sigma-Aldrich, Castle Hill, New South Wales, Australia)を用いて調製され、希釈して約100,000μg mL-1および10,000μg mL-1の濃度とした。次に、ニワトリ胸の一部に、濃度を変えたそれぞれの元素を添加して、低速で5分間ホモジナイズした。6つの、それぞれホモジナイズされた組織スタンダードの250 mg部分を、Milestone MLS 1200 密閉容器マイクロ波消化装置(Kelly Scientific)内で、5:1 Seastar Baseline grade HNO
3/H
2O
2 (Choice Analytical)中で消化し、溶液ICP-MSを用いて分析して、組織スタンダード中の各元素の濃度および均一性を確認した。添加組織は凍結し、30μm切片に切り分けて、分析用の顕微鏡スライドガラス上に置いた。この方法は、5ミクロンにカットされた切片にも単純に適用することができるが、その小部分はそれぞれの腫瘍スライドに添加される。
【0155】
キャリブレーションおよびバックグラウンド分析
調製されたマトリックスマッチングした組織スタンダードを用いて、LA-ICP-MSを実行するために、後述の条件下で分析の感度を基準化するための検量線を作図した。ガスブランクからそれぞれのm/zについてバックグラウンドシグナルを得るために、組織のアブレーション前10秒間のデータを集めた。この方法を用いて、異なる腫瘍の異なる実行操作の間の比較が可能となった。たとえば、2Kキャリブレーションカウント/秒が得られた。
【0156】
感度閾値
放射線感受性対照の平均値および中央値と関連した標準偏差として、または任意の腫瘍型から得られた経験的に決定された値として前に記載されたものに代わる、閾値設定の別の方法は、たとえば
図11の上のヒストグラムにおいて前立腺サンプルを、閾値がそのヒストグラムのパーセンテージとして定義されるように割り当てることによって、感度閾値を設定することである。たとえば、
図11のセミノーマは55人の患者に由来し、この75%閾値を下回る、これらの患者の41/55人はヒストグラムの75%を構成し、これらの患者はすべて放射線感受性である。次に、47/55人はヒストグラムの85%を構成し、放射線感受性であると思われる。最後に、52/55人の患者はヒストグラムのほぼ95%を構成するが、これらの外れ値の患者の一部はある程度放射線抵抗性である可能性がある。ヒストグラムの割合を表すこれらのパーセンテージの数値が、放射線抵抗性に関して選択しうる可変閾値を表す、もう1つの方法である。
【実施例2】
【0157】
一例として、本明細書に記載の顕微鏡スライドガラス上の正常な脳組織の切片を、レーザーアブレーションして、そのメタロミック含量をLA-ICP-MSシステムによって分析した。
【0158】
図3Aは、正常な皮質組織の特性を示す50歳ヒト女性から採取された正常なヒト皮質のブロックからの、代表的なH&E染色5ミクロン組織切片を示す。この図は、同一ブロック由来の近傍の未染色切片であるが別のスライドガラス上で行われた、(より大きなマルチトラック組織アブレーションから得られた)3トラックアブレーションの位置を示す。
図3Aに示されるH&E染色領域は、別のスライドガラス上でLA-ICP-MSにより分析された同等の未染色領域に相当する。未染色5ミクロン組織切片は、同一ブロックから切り出され、レーザーアブレーションを行って、Agilent Technologies 7700 LA-ICP-MSシステムを用いて分析したが、詳細な操作パラメーターは前に記載した。未染色切片は通常、染色剤、染色溶液中に存在するか、または処理中に容器から浸出する、化学元素の移入を避けるために使用される。染色された切片も使用することができる。
【0159】
別々の顕微鏡スライドガラス上で未染色材料の元素マップを作成するために、レーザーはスライドガラスを横切って側面に沿って走査し、1つのアブレーショントラックは同時に上から下まで走査した。これは、組織サンプルのサイズに応じて最大で数百もの水平トラックを作成し、それぞれのトラックの幅は35ミクロンである。横方向の分解能は、四重極質量分析計の積分時間の関数であり、35ミクロンの分解能を与えるように、これらのデータセットにおいて選択された。完全な画像が作成されたが、それは35ミクロン×35ミクロンピクセルの基本ユニットからなる。組織切片は5ミクロンの厚みがあるので、それぞれのピクセルは、35×35×5の組織体積を表し、すなわち6125立方ミクロンのボクセルを表す。50水平トラックのアブレーションランは、そのそれぞれのアブレーショントラックがたとえば70ボクセルからなるので、3500ボクセルからなる2D画像を作成した。
【0160】
3つの金属、
55Mn、
66Zn、および
56Feのキャリブレーションシグナルを測定した。トラック当たり70ボクセルをアブレーションした組織切片から、3つの隣接したアブレーショントラックの各ボクセルについて結果を示す(
図3B)。これらの金属に関する、バックグラウンドを差し引いたボクセル当たりの中央値は、キャリブレーションされたカウント/秒として表され、それぞれ3,409、6,651および441,317である。
63Cuの測定値は技術的な理由で得られなかった。
【0161】
これらの未加工データは
図3cにグラフの形で示されるが、そのそれぞれのトラックは70ボクセルからなる。
図3cは、3つのアブレーション列のそれぞれの隣接するボクセル内の、3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feに関する、キャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値のグラフを示す。未染色5ミクロン組織切片は同じブロックから切り出され、レーザーアブレーションを行って、Agilent Technologies 7700 LA-ICP-MSシステムを用いて分析したが、詳細な操作パラメーターは前に記載した。
【0162】
レーザーはスライドガラス上で未染色組織切片を横切って走査されるので、それぞれの金属に関する値は、バックグラウンドレベルから組織サンプルに特徴的なレベルまで変化し、その後再びバックグラウンド値まで戻る。値の変動は概して、形態の変化、および染色された組織切片において見られる腫瘍構造の変化に沿っている。
【0163】
この実施例において、上の図の未加工の遊離イオン、マンガンの値は、アブレーション列2のボクセル55にスパイクがあることを明らかにするが、それに隣接する8つのボクセルはどれも、(
図3Bのデータからわかるように)この大幅な中央値からの逸脱を示さない。個々のボクセルに関するこれらの大きな単独スパイクは、機械の「ジター」に起因し、こうしたスパイクはほとんど常に中央値から3標準偏差より大きい。未加工データの表示を例証目的のためにここに示したが、それらは機械「ノイズ」に相当するので統計分析の前に取り除かれる。それらは、たとえデータ分析の一部のままであったとしても、中央値などの重要な結果にごくわずかの影響しか及ぼさないほど十分にまれである。
【実施例3】
【0164】
放射線抵抗性および感受性の対比を伴う腫瘍サンプル
上記のように、Lancet Oncology Commissionは、有効な癌の治療およびコントロールの基本要素として放射線治療を強調し、しかもそれが一般に準最適に使用されることを強調した(Atun et al., Lancet Oncology 2015, 16, 1153-1186)。本発明に至るまで、臨床上許容される基準は、膠芽腫、中皮腫およびメラノーマなどの一部の細胞型がおもに放射線抵抗性であるのに対して、ほとんどのリンパ腫、小細胞肺癌、および精巣腫瘍、たとえばクラシックセミノーマは放射線感受性であるということである。乳房および前立腺の癌といった他のおもな腫瘍型は全般的に、「中間的な」放射線応答性を有すると考えられるが、「中間的」とは状況依存的であり、測定困難である。臨床の現実は、原発癌のうち何パーセントを放射線治療単独で根絶することができるかということ、および必要とされる線量、ならびに焼灼放射線治療に対するさまざまな転移性病変の感受性パーセントにかかっている。したがって、大きなセミノーマおよびリンパ腫の塊は、放射線治療により容易に根絶されるが、肉腫および膵臓癌は線量にかかわらずまれにしか根絶されない。その上、放射線治療は一部の「低い/中程度の」リスクの前立腺癌、および一部の前立腺癌骨転移に対して「治癒力がある」とされ、そうした前立腺癌は確かに、非常に放射線感受性であると分類された。
【0165】
上記の臨床的なばらつきを考慮して、最初の3つは放射線抵抗性の境界を与え、次の3つは放射線感受性の境界を与えるように、本発明者らはATIを評価するために6つの腫瘍型を選択した。しかしながら、これら6つの腫瘍型のそれぞれの中にも、予想されたようには放射線治療に反応しない少数派の存在が臨床的に認められている。これは、本発明以前に使用された方法に関する問題、たとえばH&E染色された病理学的材料の解像力が低いこと、ならびにいかなる腫瘍型においても分類について病理学者の間で相当な不一致があることに起因する。ホルマリン固定パラフィン包埋およびヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色された組織切片の抗体染色を加えても、腫瘍型におけるばらつきの解釈は依然として主観的であり、病理学者間の一致は変わりやすい(Elmore et al., JAMA, 313; 1122-1132. 2015)。
【0166】
メラノーマは、放射線治療を個体向けにするチャレンジの例証となる。従来メラノーマは、本質的に放射線抵抗性であるとみなされており、そうした見方は初期の細胞培養研究および生存曲線の分析から生じた。この考えは、40年のメラノーマ患者における放射線治療の臨床使用から得られたデータに基づいて、最近評価された(Mahadevan et al., Oncology, 29, (10): 743-751, 2015)。新たな解釈は、メラノーマの放射線抵抗性は多様である、ということである。それはBurmeisterにより正確に要約された;「私は25年以上にわたってメラノーマに取り組んできたが、いまだに私を驚かせるのは、一部の患者では病気が全く消失するが、また一部では、人をあざ笑って数週間か数か月のうちに患者を死に至らしめる・・・というさまであり、個々の患者におけるこの疾患の挙動には信じがたいばらつきがある」。
【0167】
本明細書に示される原子データは、初めて、(i) (他の腫瘍型のみならず)どのメラノーマ患者が放射線治療の好適な候補となるかについての定量的な基盤、(ii) どの患者の癌が放射線治療後に再発する可能性が高いかを判定するための定量的基準、ならびに(iii) 腫瘍の変化に関する測定可能な基準、の存在を明らかにする。こうした多様性はメラノーマに限らないことにも注目すべきである。乳癌および前立腺癌患者、ならびにその腫瘍もさまざまなレベルで多様であって、放射線治療に対するそれらの反応も同様である。
【0168】
1. 放射線抵抗性腫瘍
もう1つの例において、臨床スペクトルの放射性抵抗性末端にあるとみなされる腫瘍のメタロミック値を分析した。たとえば、致死的な脳腫瘍である多形性膠芽腫は、臨床スペクトルの放射線抵抗性末端にあると考えられるが、実施例2に記載のように分析した。この実施例は、脳腫瘍のメタロミック値が正常脳組織とどのように異なるかを、正常サンプルと腫瘍サンプルをともに同一のスライドガラス上に載せ、同じ実験実行条件下、同じLA-ICP-MSシステムで評価して示す。
【0169】
図4aは、多形性膠芽腫と分類される脳腫瘍を有する19歳ヒト女性のブロックから得られた代表的なH&E染色5ミクロン組織切片を示す。図に示されるH&E染色領域は、異なるスライドガラス上でLA-ICP-MSにより分析された同等の未染色領域に対応する。
【0170】
3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり68ボクセルをアブレーションした組織切片から得られた、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて示す(
図4B)。これらの金属に関するボクセル当たりの、バックグラウンドを差し引いた中央値は、キャリブレーションカウント/秒として表され、それぞれ3,198、5,066および219,905であると判明した。多形性膠芽腫を有する女性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける、隣接ボクセル内の3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feに関するキャリブレーションカウント/秒の未加工の数値のグラフを作成し、
図4Cに示す。
【0171】
多形性膠芽腫を有する同じヒト患者の同一ブロックから採取された、異なる切片の間の変化の尺度を得るために、同一スライドガラス上の2つの未染色領域を同じ機械の作動で、LA-ICP-MSにより分析した。結果を
図5A、5Bおよび5Cに示す。
【0172】
図5Aは、
図4に示す多形性膠芽腫を有する19歳ヒト女性の同じブロックの異なる領域から得られた、代表的なH&E染色5ミクロン組織切片を示す。
【0173】
3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり69ボクセルをアブレーションした組織切片から得られた、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて測定した(
図5B)。これらの金属に関するボクセル当たりの、バックグラウンドを差し引いた中央値は、キャリブレーションカウント/秒として表され、それぞれ2,980, 4,155, and 190,127であると判明した。多形性膠芽腫を有するヒト女性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける、隣接ボクセル内の3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feに関するキャリブレーションカウント/秒の未加工の数値のグラフを作成し、
図5Cに示す。
【0174】
これらの結果は、同一個体の同一ブロックから採取された異なる組織切片に関する、同一のLA-ICP-MS機器作動での、バックグラウンドを差し引いた中央値キャリブレーションカウント/秒のばらつきが、優秀であることを示す。それぞれ、
55Mnに関するcc/sは3,198および2,980であった;
66Znに関するcc/sは5,066および4,155であった;ならびに
56Feに関するcc/sは219,905および190,127であった。
【0175】
次の例は、やはり臨床スペクトルの放射線抵抗性末端にあるとみなされる、別の腫瘍に関するものである。この例は、中皮起源の腫瘍であって、腹腔の悪性中皮腫を有する60歳男性からもたらされ、その特徴を
図6A、6Bおよび6Cに示す。
【0176】
図6Aは、悪性中皮腫を有する60歳ヒト男性から得られた、代表的なH&E染色5ミクロン組織切片を示す。
【0177】
4つの金属
55Mn、
66Zn、
56Feおよび
63Cuのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり67ボクセルをアブレーションした組織切片から得られた、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて測定した(
図6B)。これらの金属に関するボクセル当たりの、バックグラウンドを差し引いた中央値は、キャリブレーションカウント/秒として表され、それぞれ4,522、8,805、112,772および1,097である。悪性中皮腫を有する60歳ヒト男性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける隣接ボクセル内の、4つの金属
55Mn、
66Zn、
56Feおよび
63Cuに関する、キャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値のグラフ表示を測定し、
図6Cに示す。
【0178】
やはり臨床スペクトルの放射線抵抗性末端にあるとみなされる別の腫瘍に関するもう1つの例は、食道の悪性メラノーマ(病期IIa、T3N0M0)を有する50歳男性からもたらされる。メタロミック特性を
図7A、7Bおよび7Cに示す。
【0179】
図7Aは、食道の悪性メラノーマを有する50歳男性から得られた代表的なH&E染色5ミクロン組織切片を示す。
【0180】
3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり68ボクセルをアブレーションした組織切片から得られた、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて測定した(
図7B)。これらの金属に関するボクセル当たりの、バックグラウンドを差し引いた中央値は、キャリブレーションカウント/秒として表され、それぞれ10,565、6,961、および121,495である。食道の悪性黒色腫を有する50歳ヒト男性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける隣接ボクセル内の、3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feに関するキャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値のグラフ表示を、
図7Cに示すように測定した。
【0181】
注目すべきは、一部のメラノーマのボクセル間のメタロミック含量に、正常組織および他の腫瘍と比べて非常に大きなばらつきがあることである。こうしたばらつきが増加する主な要因の1つは、メラニンの分布に細胞内および細胞外の不均一性が存在することであるが、メラニンは異なる化学元素、特に金属の貯蔵能を有するものである。この形態学的不均一性は、本明細書に示される最初の図においてはっきり見てとれるが、これは48歳男性の頸部のIb期悪性メラノーマから得られたH&E染色切片の一部である(
図1)。同じ腫瘍の中に、メラニン欠乏性系統および高度にメラニン沈着した異なる領域が存在した。この腫瘍のメタロミック特性をここでさらに説明する(実施例5を参照されたい)。
【0182】
2. 放射線感受性腫瘍
臨床スペクトルの放射線感受性末端にあるとみなされる、3つの異なる腫瘍型の特性をここに記載する。それらはびまん性B細胞リンパ腫、小細胞肺癌、および精巣のセミノーマである。
【0183】
リンパ腫:臨床スペクトルの放射線感受性末端にあるとみなされる腫瘍の最初の例は、精巣にびまん性B細胞リンパ腫を有する57歳男性からもたらされる。そのメタロミック特性を、
図8A、8B、および8Cに示す。
【0184】
図8A は、びまん性B細胞リンパ腫を有する57歳男性から得られた代表的なH&E染色5ミクロン組織切片を示す。
【0185】
3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり79ボクセルをアブレーションした組織切片から得られた、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルに測定した(
図8B)。これらの金属に関するボクセル当たりの、バックグラウンドを差し引いた中央値は、キャリブレーションカウント/秒として表され、それぞれ776、18,892、および247,923である。精巣にびまん性B細胞リンパ腫を有する57歳男性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける隣接ボクセル内の、3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feに関するキャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値のグラフ表示を作成し、
図8Cに示す。Y軸はその金属イオンのキャリブレーションされたカウント/秒(CC/S)を示し、X軸は3つのアブレーショントラックのボクセル数を示す。
【0186】
悪性癌:臨床スペクトルの放射線感受性末端にあるとみなされる腫瘍の第2の例は、肺の小細胞未分化悪性癌を有する38歳男性からもたらされる(病期IIIB、T4N1M0)。そのメタロミック特性を
図9A、9Bおよび9Cに示す。
【0187】
図9Aは、肺の小細胞未分化悪性癌を有する38歳男性から得られた代表的なH&E染色5ミクロン組織切片を示す。
【0188】
3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり65ボクセルをアブレーションした組織切片から得られた、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて測定した(
図9B)。これらの金属に関するボクセル当たりの、バックグラウンドを差し引いた中央値は、キャリブレーションカウント/秒として表され、それぞれ1,749、4,836、および88,317である。肺の小細胞未分化悪性癌を有する38歳男性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける隣接ボクセル内の、3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feに関する、キャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値のグラフ表示を作成し、
図9Cに示す。
【0189】
セミノーマ:臨床スペクトルの放射線感受性末端にあるとみなされる腫瘍の第3の例は、セミノーマを有する52歳男性からもたらされる。そのメタロミック特性を
図10A、10Bおよび10Cに示す。
【0190】
図10Aは、セミノーマを有する52歳男性から得られた代表的なH&E染色5ミクロン組織切片を示す。
【0191】
3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feのそれぞれのキャリブレーションされたシグナルを、トラック当たり79ボクセルをアブレーションした組織切片から得られた、3つの隣接するアブレーショントラックの各ボクセルについて測定した(
図10B)。これらの金属に関するボクセル当たりの、バックグラウンドを差し引いた中央値は、キャリブレーションカウント/秒として表され、それぞれ1,565、13,528、および52,115である。セミノーマを有する52歳男性から得られた3つのアブレーション列のそれぞれにおける隣接ボクセル内の、3つの金属
55Mn、
66Zn、および
56Feに関するキャリブレーションされたカウント/秒の未加工の数値のグラフ表示を作成し、
図10Cに示す。
【0192】
全体として、上記の例は、臨床スペクトルの放射線抵抗性末端にある3つの腫瘍型(膠芽腫、中皮腫、およびメラノーマ)、ならびに臨床スペクトルの放射線感受性末端にある3つの腫瘍型(B細胞リンパ腫、小細胞肺癌、および精巣のセミノーマ)のメタロミック特性を示す。
【実施例4】
【0193】
患者コホートへのLA-ICP-MSの適用
上記の実施例が、癌患者の各分類における個人のメタロミック特性を示すのに対して、セミノーマを有する55個体、リンパ腫の10個体、小細胞肺癌の20個体、メラノーマのの64個体、多形性膠芽腫または星細胞腫を有する25個体、ならびに中皮腫の10個体に関する徹底分析は、それらの全マンガン含量について二分性を明らかにし、これらの癌型の放射線治療に対する既知の臨床転帰を判定して、
図11に示す。精巣の癌(セミノーマ)、リンパ腫、小細胞肺癌、中皮腫、脳腫瘍(多形性膠芽腫および星細胞腫)およびメラノーマを有する患者から得られた腫瘍における、全マンガン遊離イオン含量中央値(キャリブレーションカウント/秒、
55MnのCC/S)を測定して示す。それぞれの四角は1人の患者を表すが、ただし、64人の患者のうち2人がそれぞれ、その腫瘍の中に2つの主要な系統を有し、それぞれの系統が1つの四角でヒストグラムにおいて別々に表されている2つのメラノーマのケースを除く。
【0194】
認められた臨床的状況は、セミノーマ、リンパ腫および小細胞肺癌の約85%が放射線に対して感受性であるということであり、結果として腫瘍は大幅に減少し、完全に消失することもあり、平均余命を増加させる。上記の値と合致して、しかもここで判定されるように、セミノーマを有する個体の89%、小細胞肺癌個体の80%、およびリンパ腫個体の90%が、2,000 cc/s未満の全腫瘍マンガン含量を有すると判明した。この点において、これは、2,000 cc/sの閾値を下回る値を有するこのような放射線感受性腫瘍の相関関係に関する最初の実証である。
【0195】
上記とは対照的に、放射線に対して大いに抵抗性であるとみなされるが、その一部は放射線に対する感受性に差異のある、3つの腫瘍型(中皮腫、多形性膠芽腫、星細胞腫、およびメラノーマ)は、異なる結果を与える。これら3つの腫瘍型のそれぞれにおける不一致は非常に大きいだけでなく、中皮腫の90%、多形性膠芽腫、星細胞腫の85%、ならびにメラノーマの59%は2,000 CC/Sマンガン値を上回っている。
【0196】
上記の二分性に鑑み、腫瘍のメタロミック含量、たとえばマンガン含量は、本発明に至るまで、実践的臨床ケアに関してこれまでまったく認識されたことのない、放射線治療に関する重要な指標となる。35ミクロンピクセルを用いたこれらの例において、低い全マンガン含量(たとえば、2,000 CC/S未満)を示す腫瘍を有する個体は、放射線治療から恩恵を受ける可能性が高いのに対して、(たとえば2,000 CC/Sをかなり上回る)マンガン含量の固体は、放射線治療を回避することによって利益を得る可能性がある。ピクセルサイズを増加させると、CC/Sが増加するので、より高い閾値が考えられる。値域が依然として十分に直線性の範囲にとどまるので、問題となる統計的問題はない。
【0197】
癌患者の大部分が医術に基づいて放射線治療を受けるとしたら、腫瘍特性に関する定量的データよりもむしろ、このようなデータが、臨床的実用性に向けて、たとえばLA-ICP-MSによる定量的データの使用をサポートする。医術は、原発癌の何パーセントが放射線治療単独で根絶されるか、ならびにそうするために必要な線量、ならびにさまざまな転移性病変の焼灼放射線に対する感受性パーセントに関わる。集団に基づくアプローチとして、それは個別の特定の患者の腫瘍(1つもしくは複数)に適用されず、「オーダーメイド医療」ではない。
【0198】
統計分析
2標本ノンパラメトリックコルモゴロフ-スミルノフ(K-S)検定は、2つのデータセットの累積分布を比較する。帰無仮説は、2つのデータセットが同じ分布を有する集団からサンプリングされたということである。
【0199】
上記のデータから、精巣癌(セミノーマ)とリンパ腫に関する値の分布の比較は、0.2182のD値をもたらしたが、これに関連するP値0.762は有意でない;セミノーマおよびリンパ腫は、有意な差異がなく、同一分布を有する集団からサンプリングされた。
【0200】
小細胞肺癌と精巣癌(セミノーマ)に関する値の分布の比較は、0.3182のD値をもたらしたが、これに関連するP値0.081は有意でない;セミノーマおよび小細胞肺癌は有意な差異がなく、同一分布の集団からサンプリングされた。
【0201】
小細胞肺癌とリンパ腫に関する値の分布の比較は、0.3000のD値をもたらしたが、これに関連するP値0.507は有意ではない;小細胞肺癌およびリンパ腫は、有意な差異がなく、同一分布の集団からサンプリングされた。
【0202】
結論:セミノーマ、リンパ腫、および小細胞肺癌から得られたデータは、統計学的に妥当性が検証されたユニタリ群(統一的グループ分け)に相当する。
【0203】
脳腫瘍(膠芽腫および星細胞腫)と中皮腫に関する値の分布の比較は、0.3250のD値をもたらし、これに関連するP値0.371は有意でない;脳腫瘍および中皮腫は、有意な差異がなく、同一分布の集団からサンプリングされた。
【0204】
脳腫瘍(膠芽腫および星細胞腫)とメラノーマに関する値の分布の比較は、0.2226のD値をもたらし、これに関連するP値0.277は有意でない;脳腫瘍およびメラノーマは、有意な差異がなく、同一分布の集団からサンプリングされた。
【0205】
メラノーマと中皮腫に関する値の分布の比較は、0.4303のD値をもたらし、これに関連するP値0.056は有意でない;メラノーマおよび中皮腫は、有意な差異がなく、同一分布の集団からサンプリングされた。
【0206】
結論:脳腫瘍、中皮腫、およびメラノーマは統計的に妥当性が検証されたユニタリ群(単一的グルーピング)である。
【0207】
群間比較
精巣癌(セミノーマ)と脳腫瘍に関する値の分布の比較は、0.7712のD値をもたらし、これに関連するP値0.000は有意である;セミノーマおよび脳腫瘍は有意に異なり、異なる分布を有する集団からサンプリングされた。
【0208】
精巣癌(セミノーマ)と中皮腫に関する値の分布の比較は、0.8455のD値をもたらし、これに関連するP値0.000は有意である;セミノーマおよび中皮腫は有意に異なり、異なる分布を有する集団からサンプリングされた。
【0209】
精巣癌(セミノーマ)とメラノーマに関する値の分布の比較は、0.6879のD値をもたらし、これに関連するP値0.000は有意である;セミノーマおよびメラノーマは有意に異なり、異なる分布を有する集団からサンプリングされた。
【0210】
リンパ腫と脳腫瘍に関する値の分布の比較は、0.7750のD値をもたらし、これに関連するP値0.000は有意である;リンパ腫および脳腫瘍は有意に異なり、異なる分布を有する集団からサンプリングされた。
【0211】
リンパ腫と中皮腫に関する値の分布の比較は、0.9000のD値をもたらし、これに関連するP値0.000は有意である;リンパ腫および中皮腫は有意に異なり、異なる分布を有する集団からサンプリングされた。
【0212】
リンパ腫とメラノーマに関する値の分布の比較は、0.6727のD値をもたらし、これに関連するP値0.000は有意である;リンパ腫およびメラノーマは有意に異なり、異なる分布を有する集団からサンプリングされた。
【0213】
小細胞肺癌と脳腫瘍に関する値の分布の比較は、0.7333のD値をもたらし、これに関連するP値0.000は有意である;リンパ腫および脳腫瘍は有意に異なり、異なる分布を有する集団からサンプリングされた。
【0214】
小細胞肺癌と中皮腫に関する値の分布の比較は、0.9000のD値をもたらし、これに関連するP値0.000は有意である;リンパ腫および中皮腫は有意に異なり、異なる分布を有する集団からサンプリングされた。
【0215】
小細胞肺癌とメラノーマに関する値の分布の比較は、0.6273のD値をもたらし、これに関連するP値0.000は有意である;リンパ腫およびメラノーマは有意に異なり、異なる分布を有する集団からサンプリングされた。
【0216】
結論:セミノーマ、リンパ腫、および小細胞肺癌は、脳腫瘍、中皮腫およびメラノーマからなるユニタリ群(統一的グループ分け)とは統計学的に別個のユニタリ群であることが判明した。
【0217】
統計分析はリンパ腫、小細胞肺癌、脳腫瘍、および中皮腫を、正規分布から引き出されたものとして示すが、メラノーマおよびセミノーマにはそうしたことは当てはまらず、これらはいずれも正規分布にも、対数正規分布にも従わない。
【0218】
コルモゴロフ-スミルノフ検定による統計分析は、
図11に示すメラノーマの値の分布が正規分布にも対数正規分布にも従わないことを示す。後述の実施例に示すように、メラノーマは不均一性を示し、この不均一性は細胞内および細胞外メラニン沈着物、複数の金属と結合した高分子の不均一な集合によって、ならびに多くのメラノーマの中に分布する高メタロミック領域(HMR)の存在によって、増大する。これらのHMRは、本出願に記載の技術のおかげで初めて明らかされた、隠された原子に関する変化を生み出す。このような領域は、従来の病理学検査では検出できない。
【0219】
図11のセミノーマは、2つの集団からなる可能性があり、一つは個体の大部分を占める差異の小さいものであり、また一つは、より多様で、2Kから4Kまで広がっている。
図11のセミノーマの大部分が、放射線に対してきわめてよい反応性を有する臨床群に対応するのに対して、残りの小群は、比較的放射線抵抗性が高いことはおおいにありうる。この発見は臨床データ(下記)と一致する。また、
図11に示すセミノーマが、あるユニタリ群(統一的グループ分け)、すなわち病理学的文脈でいうと「クラシック」セミノーマであることにも注目すべきである。この外見に現れる形態学的均一性にもかかわらず、メタロミック分析は、従来の分析からは気づかれない、内在する不均一性を明らかにした。
【0220】
1. 精巣癌
精巣の腫瘍について大分類は比較的単純であって、精巣性胚細胞腫瘍(GCT)はセミノーマおよび非セミノーマの2つの大きなカテゴリーに分類される。精巣の「癌」を呈する患者について、約50%がセミノーマと診断される。これらのうち、約85%が第1病期を呈し、残りは臨床病期IIAおよびIIBである。(病期IIAおよび病期IIBの区別は、前者ではリンパ節が≦2 cmであり、後者では2〜5 cmであることである)。
【0221】
精巣セミノーマに対する術後放射線治療は、半世紀以上にわたって術後補助療法の中心となってきた。セミノーマは、放射線に対して最も感受性の高い腫瘍の1つであって、第1病期の精巣セミノーマの臨床試験から、2週間にわたって10回に分けて与えられる20グレイの治療線量が、5年での約98%治癒率をもたらすのに十分であることが判明している(Jones et al., Journal of clinical Oncology, 23, 1200-1208, 2005; Medical Research Council Trial TE18/European Organisation for the Research and Treatment of Cancer Trial 30942 (ISRCTN18525328))。この放射線量は、高悪性度神経膠腫、たとえば多形性膠芽腫、に対する60グレイ(および最大で90グレイ)に匹敵するが、この場合、全生存は数か月しか増加しない。
【0222】
初期のセミノーマが極めて放射線感受性であることは十分に説明されており、精巣上皮内腫瘍に対して13グレイまで線量減少がなされているが、この腫瘍はより浸潤性の高い癌型への前駆型である(Sedlmayer et al., Int J Radiat. Oncol. Biol. Phys. 50, 909-913, 2001; Classen et al., Br J Can. 88, 828-831, 2003)。European Germ Cell Consensus Groupは2008年にその立場をまとめ、2グレイずつの単一線量で20グレイが推奨される放射線治療であるとした(Krege et al., Eur. Urol. 53, 478-496, 2008)。著者らは、第II病期の精巣セミノーマに関して、IIA期には30グレイの総線量、ならびにIIB期には36グレイの総線量が「妥当であろう」と指摘する。これら2つの投与線量が「妥当であろう」という主張は先行技術(Krege et al., Eur. Urol. 53, 497-513, 2008)の不正確さを際立たせる。36グレイは推奨線量ではあるが、早くからII期について、線量減少の可能性があることが、Classen et al., J Clin Oncol 21, 1101-1106, 2003)により指摘されていることにも注目すべきである。IIA期の無再発生存率が95%であり、IIB期については89%であることにも留意すべきである。全生存率は100%に近い。
【0223】
I期およびII期セミノーマに関するアメリカの推奨は、上記のヨーロッパと一致する。2015年まで、Meadらは、いくつもの臨床検査からエビデンスを評価し(Mead et al., Journal of the National Cancer Institute, 103, 241-249, 2011)、I期セミノーマの推奨は上記のとおりである。IIA期セミノーマについては、大動脈周囲リンパ節および上同側骨盤への低線量放射線治療が、著しいリンパ節腫大の領域に25〜35グレイの総線量で推奨される。
【0224】
胚細胞腫瘍の非常に強い感受性は、精巣癌の放射線感受性を脳腫瘍と比較することによって大局的に把握される。
【0225】
2.脳腫瘍
成人神経膠腫の管理および治療のための臨床診療には相当なばらつきがあるが、オーストラリアおよびニュージーランドでは、成人神経膠腫は、以下の頻度で発生する;4% 星細胞腫グレードI;10% 星細胞腫グレードII;22% 星細胞腫グレードIII;52% 多形性膠芽腫グレードIV;ならびに乏突起神経膠腫および乏突起星細胞腫が残りを構成する(Cancer Council Australia/Australian Cancer Network/Clinical Oncological Society of Australia, ISBN 978-0-9775060-8-8; 2009)。本発明に関して重要となるのは、上記神経膠腫のなかでもっとも進行した多形性膠芽腫であるが、それは、放射線科医がそれを放射線抵抗性とみなしているからである。さらに、膠芽腫とIII期星細胞腫との比較は、臨床比較に対して、メタロミクスの観点から明確化する(下記を参照されたい)。グレードの高い星細胞腫の標準放射線治療は、2グレイに分割して60グレイである(10グレイ追加することもある)が、多形性膠芽腫などのグレードIV神経膠腫について最適線量を測定したデータはない。グレードIII神経膠腫については、多くの放射線科医は1.8グレイの分割法で59.4グレイを使用するが、グレードIII神経膠腫の場合における2.0グレイから1.8グレイへの、分割量あたり10%の減少は、それに起因する組織損傷を減らす可能性があるという「期待」に基づいている。
【0226】
2つの第III相臨床試験がこれらのデータに関係する;Radiation Therapy Oncology Group (RTOG7401) および Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG1374) (Nelson et al., NCI Monogr. 6, 279-284, 1988 ならびにChang et al., Cancer, 52, 997-1007, 1983)。治療群(放射線照射:放射線照射+ブースト照射;放射線照射+BCNU、および放射線照射+CCNU)の間に生存率の差はなく、退形成星細胞腫と膠芽腫との間にほとんど差はなかった。退形成星細胞腫と膠芽腫との間の生存結果のわずかな相違という観点から顕著なのは、これらのカテゴリーのメタロミックデータが均一でないことであって、それらの分布はオーバーラップしており、コルモゴロフ-スミルノフ検定を用いて検討すると互いに有意な相違はない(P=0.581)。
【0227】
全脳に対する放射線治療に関する中心的課題は、神経認知問題、白質脳症および内分泌障害などの複数の合併症の出現である。これらの一部は、病巣部照射野放射線治療(Involved Field Radiation Therapy(IFRT))によって改善されたが、再発頻度は変化せず、多くの局所機能不全を有する患者の割合も変化しなかった。
【0228】
放射線抵抗性である可能性が高い患者を残す一方で、治療法を患者に、たとえば、放射線療法をスペクトラムの放射線感受性末端に位置する患者に、よりよく合わせる必要があるのは明らかである。メタロミックデータを含む、本出願のデータによって与えられる新たな知見を考慮すると、たとえば放射線療法のような、現行の汎用型の治療法は時代遅れである。
【0229】
3.漿膜の癌;中皮腫
中皮腫は放射線抵抗性であるとみなされており、治療プロトコールは、おおよそ1.8グレイ分割で与えられる54グレイの線量である。
【0230】
中皮腫に関する臨床的状況は、医師を他の腫瘍型に向き合わせる状況とほとんど変わらない。先に外科的に切除可能な腫瘍を調べ、従来からの3つの方法を用いる:根治的外科手術、放射線療法、および全身性化学療法である。中皮腫の場合、根治的外科手術の役割は論議の的となっており、腫瘍の切除が特定の患者にとって生存率の改善をもたらすかどうか不明であって、前向き臨床試験はこの問題に関係しない。また、術前もしくは術後の放射線療法および化学療法の統合に関わる、適切に強化された無作為第III相臨床試験も行われておらず、最も近いのは、胸膜肺全摘出術の後に54グレイの半胸部放射線療法を用いた第II相試験である(Rusch et al., J Thorac Cardiovasc Surg 122, 788-795, 2001)。
【0231】
4.小細胞肺癌
放射線科医および内科医は、小細胞肺癌を、放射線治療に対して良好な奏効率を有する放射線感受性腫瘍であるとみなしている。欧州臨床腫瘍学会(ESMO)は、修正された腫瘍結節転移分類および病期グループ分けを詳細に記録し、診断、治療および経過観察のためのガイドラインを公開している(Fruh et al., Annals of Oncology, 24, (Supplement 6), vi105, 2013; Table 3)。治癒目的の最良の全生存は、化学療法とともに、毎日1.5グレイ分割で45グレイの総線量から得られる(Turrisi et al., N Engl J Med, 340, 265-271, 1999)。
【0232】
5.リンパ腫
Cancer Council AustraliaおよびAustralian Cancer Networkは、リンパ腫の診断および管理のための臨床診療ガイドラインを設定した(ISBN: 0-9775060-0-2; 2005)。臨床病期I-IIIの低悪性度濾胞性リンパ腫については、30-36グレイの病巣部照射野放射線治療を推奨している。成人非ホジキンリンパ腫については、US National Cancer Instituteが25グレイから50グレイまでの線量を推奨している。本明細書に記載のびまん性B細胞リンパ腫については、National Comprehensive Cancer Network (NCCN.org; 2015)が、化学療法後30-36グレイ、化学療法不応性または化学療法の非候補者に対する一次治療として45-55グレイ、ならびに幹細胞移植前もしくは移植後の救援のために30-40グレイを推奨している。非ホジキンリンパ腫を含む多様なスペクトルの中で、一部の患者は長期間にわたって無痛性のままである腫瘍を有し、また一部は、急速に進んで迅速な治療を必要とする。上記からわかるように、放射線治療に関して、大いに汎用的な状況である。
【0233】
6.メラノーマ
メラノーマは、一般に放射線抵抗性腫瘍であるとみなされてきたが、データは矛盾しており、その証拠の多くは放射線抵抗性の広範なスペクトルを示す細胞株に由来する。オーストラリアおよびニュージーランドにおけるメラノーマの管理に関する臨床診療ガイドラインは、Cancer Council Australia/Australian Cancer Network/Ministry of Health New Zealandによって詳細に設定された。オーストラリアについてはISBN 978-0-9775060-7-1、ニュージーランドについてはISBN (電子版) 978-1-877509-05-6を参照されたい。臨床データはWazer et al., UptoDate, 2015により概説されているが、やはり矛盾がある。Wazerらにより概説された臨床試験は、メラノーマが放射線抵抗性腫瘍である「が、最適線量および分割は依然として不確かである」という結論に導いた。転移性疾患の観点から、皮膚、リンパ節、内臓転移、もしくは骨もしくは脳への転移の間で放射線応答性にかなりの相違がある。(注目すべきは、矛盾する臨床試験データが、メタロミックデータの観点から科学的により有意義であって、そのデータには患者間で広範なマンガン値が存在し、
図1で示されるように、1つの腫瘍の内部に大きな相違があるということである。)メラノーマの部位に応じて、線量は32グレイから100グレイまでさまざまであった。最終的に、放射線治療は、骨、脳、および内臓転移の状況において緩和ケアに有効であるが、高い分割線量が緩和を改善するかどうかは全く不明である。
【実施例5】
【0234】
メラニンおよび形態学的不均一性ならびに放射線感受性/非感受性
上記のように、メラニンの分布は、さまざまな化学元素、特に金属の貯蔵能力を有し、メラノーマに認められる変化に寄与する主要な要素となりうる。
図1は、形態学的不均一性を示すH&E染色されたメラノーマの画像であるが、それは、その中に2つの区別できる系統としてはっきり視認できる;一方の系統は薄い色で、おおむねメラニン欠乏性であり、もう一方は、濃く染色され、細胞内および細胞外の両方にメラニンを含有する。さらに、メラニン欠乏性領域の細胞は、核の大きさに関して、大量にメラニン沈着した領域内の細胞より均一であり、ATIに影響する発見である。複数の特性のいずれかにおける細胞集団の分散が小さいほど、かく乱要因(perturbagen)に対する反応はより制限される。
図1に示す同一組織切片の上部のメタロミック含量を測定した。メラノーマから得られたアブレーショントラックの2次元表示を
図12に示す。これらのデータは、同一腫瘍の異なる部分におけるマンガンレベルの変化を示し、患者を放射線治療すべきか否かについて情報に基づく選択をするために2Dランドスケープを特徴づけることの重要性を浮き彫りにする。これらの視覚的に選択された領域内の、バックグラウンド補正したマンガン中央値は、31,939キャリブレーションカウント/秒、および3,045キャリブレーションカウント/秒である。
【0235】
2Dランドスケープは、腫瘍内において、指定された閾値より上にあるサンプリングされた領域の割合の推定を提示する。上のサンプルにおいて、これは、たとえば、どれだけの割合のランドスケープが10パーセンタイル、20パーセンタイル、30パーセンタイル、40パーセンタイル、50パーセンタイルなどを下回るかについて定められるので、定量が達成される。したがって、たとえば、サンプリングされた領域の90パーセントが、きわめて低マンガンである場合、腫瘍は全体として、放射線に対して感受性である可能性が高い。その一方で、領域の90%が高マンガンである腫瘍を照射することにはあまり意味がないが、それは放射線照射が腫瘍を傷つけないままにすると思われるからである。注目すべきは、これらのパーセンタイルを、分子研究のために「粉砕した」腫瘍サンプルから導き出すことはできないということである。
【0236】
図1と同じ腫瘍を、さらに分析して、
55Mn、
66Zn、
56Feおよび
63Cu の4つすべての金属の含量を測定したが、それを
図13に示す。形態学的に見られるように、二分されることがこれらの結果から明らかである。アブレーションは非常に高い値の左側から、それより非常に低い値の右側へ進むので、変曲点はボクセル34辺りに現れる。
【0237】
その一方で、均一な形態を有するメラノーマが、それでも非常に異なるメタロミック含量を示すことがある。たとえば、
図14は、54歳男性の左人差し指から採取されたメラノーマ;ステージIV、T4N0M1のH&E染色組織切片を示す。特にこのメラノーマは均一な形態を有し、病変は熟達した病理医にとって注意をひかないと思われる(
図14、上の図)。メタロミック含量をこのメラノーマにおいて測定したが、それを
図14、下の図に示す。内在する2Dメタロミック含量はたいへん異なる。実際、非常に高レベルのマンガンを有する細胞の、2つの大きな集中がある。
【0238】
この腫瘍サンプルの大部分に関する
55Mn中央値を測定し、817バックグラウンド補正キャリブレーションカウント/秒であったが、それは、この腫瘍を、放射線応答性スペクトルの非常に感受性の末端に位置付ける。その一方で、2つの白っぽいフラットな領域、すなわちHMR、のうち大きいほうは、6,500キャリブレーションカウント/秒を超える値を有することが判明し、これはその領域をスペクトルの放射線抵抗性末端に位置付ける。
【0239】
これら2つの領域は、ボクセルマトリックスの視認検査から明らかである。しかしながら、これら2つのHMR領域の徹底分析のために、閾値に関する厳密な分析が必要であり、この分析を
図15および16に示す。本明細書で使用されるように、高メタロミック領域において特定の金属に言及する場合、HMRはたとえば、それぞれHMR(
55Mn)、HMR(
66Zn)、HMR(
56Fe)およびHMR(
63Cu)と称され、HMR(
AM)は任意の金属にかんする一般的な場合を表す。
【0240】
図15のパネルAは、標準的なH&E病理学によって可視化された22 x 60ボクセルの腫瘍領域(約1800ボクセル領域からサンプリングされた)の均一な形態学的特性を示す。パネルBは、各ボクセル内の数値を見て検査することにより見いだされる2つのHMR(
55Mn)領域を示す。パネルCは、閾値として、全領域のボクセル当たりの中央値+全領域のボクセルの標準偏差(St.Dev.)(中央値+St.Dev.)を使用したときに、この22 x 60ボクセル2Dランドスケープから出現するHMRを示す。別の閾値の方法もこの22 x 60ボクセル2Dランドスケープ内の同じ2つの領域をロバストに明らかにするが(パネルD)、このもう一つの方法は、全領域のボクセル値の中央値の2倍(2 x 中央値)を用いる。
【0241】
パネルCおよびDにおいて閾値を超えて現れるクラスター状ボクセルの分布(灰色を背景とした黒い四角)によってわかるように、(中央値+St.Dev)と(2x 中央値)を用いた結果は、HMRs(
55Mn)を見出すことに関してほぼ同一である。6つの腫瘍型の分析は、2x 中央値法が、中央値+St.Dev.法より、HMR(
55Mn)、HMR(
66Zn)、HMR(
56Fe)およびHMR(
63Cu)の検出に関して整合性があるかもしれないことを明らかにする。いずれの方法も本発明にしたがって非限定的な例として使用することができることは当業者に明白であるが、2x中央値法を本明細書に示す以後の分析に使用した。
【0242】
同じ原子ランドスケープにおけるHMR(
55Mn)およびHMR(
66Zn)の分布に関する重要な知見をさらに
図16に示す。上の図は、
図15と同じH&E腫瘍ランドスケープを示し、中央の図は、検出された2つのHMR(
55Mn)領域を示し、下の図は、パネルBのボクセルマトリックスと同一のボクセルにおける亜鉛の分布を明らかにする。2つのHMR(
55Mn)とは対照的に、HMR(
66Zn)の小領域のみが亜鉛閾値の2x 閾値を超えて出現する。亜鉛、鉄および銅の値は概して、HMR(
55Mn)領域において大部分の腫瘍領域の値にとどまる。この一般化は、メラノーマ腫瘍のメラニンリッチ領域には当てはまらず、この領域では4つすべての金属が、メラニン顆粒に伴って、ともに高濃度で見いだされる。
【0243】
当業者には明らかなように、放射線治療について行う臨床決定に最も有用な、腫瘍内のメタロミックな関心領域を明らかにするのに役立つ、閾値に到達する数学的および統計学的方法はいくつも存在する。
【0244】
図17は、放射線抵抗性腫瘍に対する放射線感受性腫瘍などの、異なる腫瘍型においてHMR(
55Mn)が出現する程度の例を与える。この比較は、小細胞未分化肺癌(I期、T1N0M0)を有する51歳女性患者と、左人差し指のメラノーマ(IV期、T4N0M1)を有する54歳患者との比較である。説明目的でここに使用される領域は、3つの腫瘍のそれぞれの約1 mm x 1 mmサンプルに相当する(31 x 31ボクセルは総計961ボクセルとなる)。
図17の8つの図は、4つの異なる閾値を用いた
55Mn集中領域を明らかにする、(i) T1、0.5x 中央値の閾値を上回る、(ii) T2、1.0x中央値の閾値を上回る、(iii) T3、1.5x中央値の閾値を上回る、
ならびに(iv) T4、2.0x中央値の閾値を上回る。
【0245】
小細胞肺癌の場合、最も高い閾値である2x中央値、T4を上回ったままのボクセルは、概して、サンプル中に散在する隣接しないボクセル(シングルトン)である。この放射線感受性腫瘍サンプルにおいてHMR(
55Mn)ボクセルの近接もしくは隣接した集中はほとんど存在しない。これに対して、メラノーマ患者から得られた4つの右側の図は、隣接するHMR(
55Mn)ボクセルの出現を明らかにするが、これらはT3、1.5x中央値において容易に識別できるものであり、これらのHMR(
55Mn)は、よりストリンジェントなT4レベルの2x中央値においてもそのままである。
【0246】
図18のデータによれば、非限定的な例として、同じ閾値基準がこれら2つの腫瘍の同一ボクセルに適用されるが、そこで同時にHMR(
66Zn)についてアッセイした場合、HMR(
66Zn)領域は、特にこの患者の小細胞癌においてT1、T2、T3およびT4の閾値で存在せず、隣接するZnボクセルの小さな集中だけが、メラノーマ患者において明白である。
66Znボクセル値の分布は、これら2つの腫瘍において比較的一定にとどまるが、HMR(
55Mn)は
図17に示すようにメラノーマにおいて際立っている。
【0247】
一方は放射線感受性であり他方は放射線抵抗性である2つの腫瘍型のこの比較は、次の7つの図(
図19〜25)において、非限定的な例としてさらに浮き彫りになる。これらは、放射線応答性スペクトルの両端の典型となる腫瘍を有する184人の患者から得られたデータを示す;小細胞肺癌、リンパ腫、および精巣腫瘍はスペクトルの放射線感受性末端にあり、中皮腫、脳腫瘍およびメラノーマはスペクトルの放射線抵抗性末端にある。
【0248】
非限定的な例として、高メタロミック集中を有する腫瘍領域およびその臨床的意義に関する概観が以下に与えられる。
【0249】
図19は、約1,800ボクセルの腫瘍領域がサンプリングされた時の、小細胞肺癌を有する20人の患者のそれぞれから得られた
55Mnボクセルデータを示す。それぞれの患者由来の腫瘍の大部分の
55Mn中央値は、四角で表され、0 CC/Sから7,000 CC/Sまでの範囲にわたって集約された200カウント/秒の区間に配置される。20人の患者はすべて、大部分の
55Mn値が3,000 CC/Sを下回る腫瘍を有する(灰色の四角)。20人のうち14人の患者は、上のラインを超えて灰色の四角で表されるが、2X中央値のT4閾値を用いるとHMR(
55Mn)はない。それに対して、6人の患者の腫瘍、t1からt6、は単一のHMRs(
55Mn)を含有する(点線で灰色の四角に結び付けられた黒い四角)。個別の例において、患者t6の腫瘍の大部分は、2,400から2,600の区画にある
55Mn中央値を有する(灰色四角)が、この腫瘍は6,400から6,600の区画にあるHMR(
55Mn)も含有する(黒い四角)。患者サンプルt1からt6における6つのHMR(
55Mn)の閾値を上回る隣接ボクセルの数は、サンプリングされた腫瘍領域のうちそれぞれ、4.9%、3.1%、2.1%、12.3%、12.6%および5.2%である。これらの患者のうち3人、t2、t5およびt6は、それらのHMR(
55Mn)の
55Mnレベルが4,000 CC/Sを上回る。このような領域は、ある程度の放射線抵抗性を示す細胞を含有する可能性がある。
【0250】
限定的でない一例として、最小サイズである8x8ボクセルは、高メタロミック含量の領域を効率的に明らかにした。当業者には当然のことであるが、このサイズ未満で、しかも使用する機器の感度によっては、
図17の小細胞肺癌にみられるように、最終的に、ランダムに生じるシングルトンのバックグラウンドから区別できなくなるまで、ますます小さなHMRが検知される。8x8 HMRを含有するランドスケープは、X’およびY’の両方向に境界がある。X8 x Y8ボクセルを超えるHMRは、X’およびY’方向に個別に数字の分だけ増やすことができて、X[8+1] x Y[8]
: X[8]
x Y[8+1]
: X[8+1] x Y[8+1]
: X[8+2] x Y[8]
: X[8+2] x Y[8+1]
: X[8+2] x Y[8+2]
: X[8+1] x Y[8+2]
: X[8] xY [8+2] から X[8+n] x Y[8+n]までのHMRが得られるが、このnは1から1000まで変化させることができる整数である。30 x 30ボクセルのサンプル(1 mm
2がサンプリングされる)の場合、好ましくは、この整数は1から100まで、より好ましくは1から22まで、変化する。当業者には当然のことながら、最小の8ボクセルより低い閾値を設定することを妨げるものはない。8という値がここで使用されたのは、経験的に導き出されて、HMRのための効率的検索ツールの例として役立つからである。
【0251】
HMRのサイズ
HMRに関する重要な識別要素は、そのサイズ、形状および内容である。総計184人の患者から得られた6つの腫瘍型を分析した。当業者には当然のことながら、HMRのサイズ、形、および内容は変えられる可能性があるが、最小面積の決定は機械のジターに左右され、場合によっては、単一ボクセルがデータの中で、稀な、頻度の低い電子的「スパイク」を表すことがある。さらに、機械の「スタッター」は、時にXもしくはY方向に2または3つの連続した高い値を生じることがあるが、適当な画像フィルタリングソフトウェアによって容易に見分けられる。
【0252】
上記を考慮して、任意の金属に関するHMR [HMR(
AM)、
AM = 任意の金属] は、ボクセルの隣接に関する基準を満たす、2つの隣接するボクセルを含有することができる。
図20のパネルAは、基準の単一ボクセル(星印を付す)から2つの隣接するボクセル(ダブレット)を配置する、8通りの理論上のやり方を示す。HMR(
AM)のサイズは、2、3、4、5、6、7、8、9、10個などの隣接したボクセルから、特定の腫瘍を分析するために選択されるサンプルサイズである整数まで、変化しうる。当業者には当然であるが、本発明のHMR(
AM)のサイズは、現行の技術で測定可能な任意の範囲内である。たとえば、HMR(
AM)サイズは、2ボクセルから約800,000ボクセルに及ぶ可能性があり、その間の任意の値である(これは、腫瘍材料を従来のスライドガラスの端に載せたら、分析することができる35 x 35ミクロンピクセルの最大数である)。やはり当業者に当然であるように、HMRは、腫瘍の中の癌細胞に適用することが可能であり、または概して細胞性および非細胞性材料の領域に適用可能であって、それは一般に付随する間質と呼ばれ、隣接する癌細胞との相互作用のせいで、それ自体「活性化された」状態で存在しうる。
【0253】
臨床応用のために、1つのサンプルサイズは典型的には面積1mm
2とするが、それはそうしたサイズが日常的な病理分析において慣例となっているからである。したがって、病理医が、たとえばメラノーマにおいて、分裂速度について腫瘍切片を検査する場合、高倍率視野当たりの、または高倍率視野10視野当たりの有糸分裂数を通常使用している(Burton et al., 2012, Am.J Surg. 204, 969-974)。限定的でない例として、HMR(
AM)について、1mm
2サンプルは好都合なことに本明細書における1,000ボクセルにほぼ近い。1枚のスライドガラス上で1つの組織切片に由来する複数の1mm
2サンプルをレーザーアブレーションすることができる。同じ腫瘍ブロックから得られた複数の切片に由来する複数の1mm
2サンプルをレーザーアブレーションすることができる。同一腫瘍またはそれに由来する転移腫瘍から得られた異なるサンプルを代表する、複数のブロックに由来する複数の1mm
2サンプルをレーザーアブレーションすることができる。複数のサンプルから測定される累積HMR(
AM)の大きさは、1つの腫瘍について4ボクセル(2ダブレット)から何百万までさまざまとすることができる。上限は、分析に要する時間の実際的可能性および保健医療費用によって制約される、と理解される。
【0254】
HMRの形状
限定的でない例として、1mm
2のサンプルサイズ、または35x35x5ミクロン型の約1000ボクセルの中に、ボクセルの接触条件に合致する、多数のHMR(
AM)の形状がある。本明細書に初めて記載されるように、一般的な形状は
図14および15のメラノーマ患者データに実例として示される形状であって、
図20のパネルBおよびCに様式的に表される。パネルD、E、F、GおよびHに示されるようなパターンは、さまざまな腫瘍型で現れる。たとえば、パネルDは、癌性上皮細胞がリンパ管もしくはリンパ本幹の内側を裏打ちしている。パネルEおよびGは、膠原線維束、または膠芽腫もしくは星細胞腫における主要な神経走行、または乳癌切片にみられる一列縦隊パターンなどの、腫瘍内の構造モチーフに沿って進む、細胞の古典的な「一列縦隊」移動を代表すると考えられる。パネルFは、癌細胞が血管もしくはリンパ管の内部に含まれる、上皮内乳管癌のような場合を表す。パネルHは、あるメラニン性腫瘍における細胞およびメラニン沈着の分布を示す。
【0255】
当然のことながら、任意の既知の数学的および統計学的方法、ならびに関連ソフトウェアを使用して、マトリクスにおけるパターンおよび不均質性を分析することができる。このような方法は、多くの形状およびサイズのボクセルの集中を明らかにすることができるが、それを次に、基調をなす病理学的ランドスケープの上にマッピングすることができる。
【0256】
HMR(AM)のフットプリントおよび放射線応答性におけるその値
2x中央値の閾値を用いた1,000ボクセルのサンプルにおいて、HMR(
AM)(
図20における黒四角)、パネルB、C、D、E、FおよびGは、サンプルの4%、3.7%、2.4%、1.5%、3.7%、および0.9%に相当する。
【0257】
図19に示すように、腫瘍t2、t5およびt6を有する患者が、治療意図に基づく解析(intention-to-treat)もしくは対症療法として放射線治療により治療されるならば、(<800、<1,800および<2,600の値を有する)癌細胞の大部分は、死滅するか、またはそれ以上の細胞分裂を受けることができないほど十分にダメージを受ける。対照的に、(>4,000、>4,200および>6,400の値を有する)これらの腫瘍のHMR(
55Mn)の細胞の大半は、生存し、やがて新たな形の腫瘍を生じると考えられ、よく知られた腫瘍再発の臨床所見につながる。
【0258】
リンパ腫、精巣腫瘍、中皮腫、脳腫瘍およびメラノーマからのHMRデータ
図21は、レーザーアブレーション技術によって
55Mn含量について約1,800ボクセルの腫瘍領域をサンプリングしたときの、びまん性B細胞リンパ腫患者10人から得られたデータを示す。2x中央値の閾値を用いた場合、黒い四角がないことで明らかなように、腫瘍はいずれもHMR(
55Mn)を有していなかった。さらに、
55Mn中央値はすべて3,200 CC/Sを下回った。予想されるのは、これら10人の腫瘍が治療意図に基づく解析(intention-to-treat)もしくは対症療法として放射線治療により治療されると、細胞の大部分は、死滅するか、またはそれ以上の細胞分裂を受けることができないほど十分にダメージを受けるであろうということである。リンパ腫の大きな塊が放射線治療によって容易に根絶されることは、この領域における臨床診療から認められている。
【0259】
図22は、約1,800ボクセルの腫瘍領域をサンプリングしたときの、精巣腫瘍患者55人から得られたデータを示す。これら55人の腫瘍はすべてクラシックセミノーマであり、行理学的基準に基づいてユニタリ群(統一的グループ分け)をなしている。放射線腫瘍医および腫瘍内科医は、それらの腫瘍をきわめて放射線感受性であるとみなしているが、それは大きなセミノーマの塊が放射線によって容易に根絶されるからである。上のラインを超える51個の灰色の四角によって示されるように、これらのセミノーマのうち51には、2x中央値の閾値を用いた場合、HMR(
55Mn)がない。これに対して、4人の患者、S4、S5、S6およびS7は、それらの大部分の値(灰色四角)に対して1つのHMR(
55Mn)(黒い四角)を有する。これら4つのHMR(
55Mn)の大きさは、サンプリングされた面積の1.8から6.3%に及ぶ。これらの患者のうち2人、S6およびS7、では、HMR(
55Mn)のCC/Sは5,000 CC/Sを超え、そうした領域は放射線抵抗性の細胞を含有する可能性が高い。これらのデータは、これら2人の患者が治療意図に基づく解析(intention-to-treat)もしくは対症療法として放射線治療により治療される場合、細胞の大部分は、死滅するか、またはそれ以上の細胞分裂を受けることができないほど十分にダメージを受けるが、HMR(
55Mn)の細胞は生存して、やがて新しい形の腫瘍を生じる可能性を裏付ける。
【0260】
最後に、これらのセミノーマの前の統計分析から判明したように、それらはユニタリ群(統一的グループ分け)ではない。3人のセミノーマ患者の腫瘍S1、S2およびS3が、上の分布のきわめて右側の尾を引く部分にあり、その大部分の
55Mn中央値は3,000から4,000であるが、ある程度の放射線抵抗性を有することはありうる。これらの3つの外れ値からの(ならびにその腫瘍がHMR(
55Mn)を保有する患者S4、S5およびS6からの)データは、ごく一部のセミノーマが放射線抵抗性の兆候を示すことを明らかにする臨床データと合致する。
【0261】
図23は、約1,800ボクセルの腫瘍領域をサンプリングしたときの、中皮腫患者10人から得られたデータを示す(中皮腫は放射線抵抗性であるとみなされている)。患者のうち9人は、上のラインを超える灰色四角によって示されるように、2x中央値の閾値を用いた場合、HMR(
55Mn)はない。最低の中央値CC/Sの値を有する1人の患者は1つのHMR(
55Mn)を有するが、そのCC/Sは5,000を超え(黒い四角)その大きさはサンプリングされた面積の3.2%であった。重要なことは、中皮腫
55Mn値の大半が、3つの感受性腫瘍型の値を超えていることである。
【0262】
図24は、約1,800ボクセルの腫瘍領域をサンプリングしたときの、脳腫瘍(膠芽腫および星細胞腫)患者25人から得られた知見を示す(脳腫瘍は大部分は放射線抵抗性であるとみなされている)。患者のうち24人は、上のラインを超える灰色四角によって示されるように、2x中央値の閾値を用いた場合、HMR(
55Mn)はない。最低の
55Mn中央値を有する1人の患者は1つのHMR(
55Mn)を有するが、そのCC/Sは6,000を超え、その大きさはサンプリングされた面積の3.6%であった。脳腫瘍の
55Mn値の大半が、3つの感受性腫瘍型の値を超えているが、これらのデータは、これらの患者のうち8人の
55Mn中央値が3,000 CC/Sを下回るので、一部の膠芽腫および星細胞腫が放射線治療に反応する可能性があることを示す。
【0263】
図25は、約1,800ボクセルの腫瘍領域をサンプリングしたときの、メラノーマ患者64人から得られたデータを示すが、メラノーマは歴史的に放射線抵抗性腫瘍であるとみなされている。メラノーマは他の5つの腫瘍型と比較して、広範な不均質性を示し、29人の患者の腫瘍にはHMR(
55Mn)はなく、35人の患者はHMR(
55Mn)のある腫瘍を有する。HMR(
55Mn)が腫瘍サンプル中に単一の実体として存在していた前の5つの腫瘍型とは異なり、メラノーマの半数は、同一腫瘍の中に複数のHMRを有する。HMR(
55Mn)の大きさは、サンプリングされた面積の1.6から21.8%までさまざまである。ここで閾値(2x中央値)に用いられる厳密さのせいで、サンプル当たりのHMR(
55Mn)の数は実際のところ、最小限の見積もりである。
図25はまた、腫瘍のほぼ30%について、腫瘍の大部分の中央値が2KのCC/S閾値を下回り(灰色四角)、腫瘍の3分の2については、ボクセルの大部分の中央値が4KのCC/S閾値を下回る(灰色四角)。
【0264】
結果的に、これらの原子データは、多くのメラノーマが放射線感受性の領域を有することを示す。転移性疾患に関しては、皮膚、リンパ節、内臓転移、または骨もしくは脳への転移の間に、放射線応答性のかなりの相違がある。メラノーマが放射線抵抗性であることについての広く支持されている意見は、矛盾するデータに基づいており、具体的には、メラノーマには放射線治療後に溶けてなくなるものがある一方で、放射線治療にもかかわらず急速に患者を死に至らしめるものもあるという研究結果により明らかである。ここに与えられるメタロミックデータは、初めて、メラノーマ腫瘍において、これまで知られていなかったHMR(
55Mn)の発見により、従来の矛盾するデータを部分的に解決することができる方法を示す。
【0265】
図25はまた、メラノーマHMR(
55Mn)の88%が4,000のCC/S値を超え(黒い四角)、HMR(
55Mn)のほぼ半分が10,000の値を超え、100,000に近いものもある。これらの新規データによれば、多くのメラノーマが実は初めは放射線感受性である可能性があるが、大半が相当なレベルのマンガンを含有するHMRを保有するので、そのような細胞集団は放射線治療をおそらく生き延びて、腫瘍は放射線抵抗性の残存部分から再発するであろう。患者は放射線治療後に腫瘍が再発して逆戻りするという臨床転帰となるが、この再発腫瘍は最初の腫瘍より抵抗性である。次に、メラノーマの多くは大量の細胞外および細胞内メラニンを含有し、本研究のデータが示すように、これも初めて、レーザーアブレーションで分析された組織切片において、メラニンは、以下に概説する生化学的プロセスによって放射線抵抗性に寄与することができる。
【0266】
メラニンは不明確な3D構造をもつ不均一重合体であって、ジヒドロキシインドールおよびベンゾチアジン環およびさまざまな未同定の化学基のオーバーラップしたシートからなる多層複合体を形成している(Zecca et al., Trends in Neurosciences, 26; 578-580, 2003)。ニューロメラニンの場合、広範な多価不飽和脂質を含んでいる。ニューロメラニンは、クロム、コバルト、鉛およびカドミウムなどの多くの金属のシンクとして機能しており、本出願について意義深いことに、それらはMn、Zn、FeおよびCuのアイソトープも含んでいる(
図26)。メラニンは細胞外に放出され、その化学的性質により、細胞外環境で長期間存続できる。メラニンは放射線防護性を有し、そのことはチェルノブイリの原子炉の壁や現在運転中の原子炉の冷却水中で生き続けるメラニン沈着真菌によって証明されている。メラニンはX線を散乱させ、放射線に対するシールドとして機能する。単離されたメラニンの性質に関する膨大な文献にもかかわらず、その放射線防護性を解明する最初の体系的な試みは、2007年になってやっとなされた(Dadachova et al., Pigment Cell Melanoma Res. 21; 192-199, 2007)。本発明に至るまで、癌の病理学的検体のレベルでのメラニンの放射線防護能力、ならびに放射線治療による患者の治療に対するそれらの予測される関連性についての、物理的説明は実現されなかった。さらに、これまでに最も化学的で構造的な研究は、単離されたメラニンに基づくもので、メラニンのin situ分子特性に基づいておらず、本明細書に記載のような腫瘍由来の組織切片の2D分析ではなかった。このことは、胸壁の悪性メラノーマ(病期II、T4N0M0)を有する45歳女性のメラノーマにおけるメラニンの集中に関する検討によって浮き彫りになる(
図27)。
【0267】
説明の明確さのために、ならびに別の物質の集中と比較するために、パネルAおよびBは、同一のH&E染色切片の重複とする。切片内のメラニンの分布は、メラニン特異的抗体による染色がそれを明らかにするために必要とならないほど十分に高い。4つの金属、
66Zn、
63Cu、
56Feおよび
55Mnの分布は、下の4枚のパネルに示すが、メラニンの分布と視覚的に比較することができる。
【0268】
パネルCは、
66Znの2D分布を示し、その最も高い集中(黒で示す)は主要なメラニントラックとともに局在化している。薄い色に染色された領域の
66Znに関する大部分の値は、3,000から18,000 CC/Sまでであるのに対して、メラニントラック内の
66Znレベルは18,000から45,000である。
【0269】
パネルDは、メラニン分布を重ねて詳細に追跡する
63Cuの2D分布を(黒で)示す。薄い色に染色された領域の
63Cuに関する大部分の値は200から1,000 CC/Sまでであるのに対して、メラニントラック内の
63Cuレベルは1,000から4,000である。
【0270】
パネルEは、メラニン分布を詳細に追跡する
56Feの高い集中を(黒で)示す。薄い色に染色された領域の
56Feに関する大部分の値は、20,000から80,000 CC/Sであるのに対して、メラニントラック内の
56Feレベルは80,000から100,000である。
【0271】
パネルFは、メラニントラックを詳細に追跡する
55Mnの集中を明らかにする。薄い色に染色された領域の
55Mnの大部分の値は、1,000から2,500 CC/Sであるのに対して、メラニントラック内の
55Mnレベルは2,500から10,000である。
図12の前の実施例が示すように、高度にメラニン沈着した領域からなるHMR(
55Mn)は、100,000の
55Mnレベルに達する可能性がある。したがって、メラニンは、放出されると放射線抵抗性の重要な要因となる可能性のある、高レベルの金属のための貯蔵場所である。本発明者らの知る限り、これが最初の、癌組織の2D組織切片図でのメラニンにおけるin situ
55Mn集中に関する証明であり、最初の、放射線治療での患者の治療に関する、このような金属とメラニンの共局在化から得られる定量的予測である。メラノーマは放射線に対して二重の防御を有する。第1は、細胞内の
55Mnの蓄積である。第2は、大量のメラニンの生成であり、これは
55Mnの蓄積容量として機能するのみならず、電離放射線からの構造的な遮蔽をもたらす可能性もある。
【0272】
図27のメラニンリッチのボクセルトラックの大きさおよび形状は、
図20に概説した、可能性のあるボクセル集合体の大きさおよび形と比較することができる(特に
図20のパネルH)。
【0273】
図25に与えられるデータを、原発腫瘍由来であるメラノーマサンプル、または転移部位由来である同サンプルにさらに分けることができるので、メラノーマは、さらに臨床的な意味で有益である。これらのデータは
図28に示される。原発もしくは転移性メラノーマを有するさまざまな患者に関するCC/S中央値の分布の比較は、0.1889のD値をもたらし、これは関連する有意でないP値0.557を有する。したがって、メラノーマから得られた
55Mn中央値に関して、原発性および転移性メラノーマは、同一分布を有する集団からサンプリングされたことと一致する。
【0274】
原発腫瘍から、および特に、すでにリンパ節に広がった転移性腫瘍から得られた
55Mn値の分布の統計比較は、0.2222のD値をもたらし、、これは関連する有意でないP値0.442を有する。したがって、原発腫瘍、およびリンパ節から採取された腫瘍から得られた
55Mn中央値は、同一分布を有する集団から採取されたことと一致する。
【0275】
HMR(
55Mn)の頻度が原発腫瘍と転移性腫瘍で異なるかどうかを判定するための、HMR(
55Mn)を有する腫瘍、およびHMR(
55Mn)のない腫瘍の分布の検討は、異ならないことを明らかにする(有意でないP値0.457を与える)。したがって、
55Mn中央値の分布に関して、原発腫瘍および転移性腫瘍は区別できない。この知見は、原発腫瘍とそのリンパ節転移性腫瘍との間に差のある
55Mn蓄積に有利に働く、先験的な一連の生化学的過程が存在しないことによって裏付けられる。
【0276】
腫瘍組織の2D領域内の
55Mnレベルおよびその分布を例証するが、限定的でない一例として、別の金属である亜鉛も、
55Mn分析のための最適領域に焦点を合わせるうえで、識別するものとして役立つ可能性がある。腫瘍の多くの領域は、さまざまな細胞系統、ならびに正常細胞および非細胞性成分と交じり合って、癌細胞を含有する。腫瘍環境は、線維芽細胞、細胞外マトリックス成分、膠原線維束、毛細血管、リンパ管ならびに周皮細胞および平滑筋細胞などの支持細胞、マクロファージ、骨芽細胞、破骨細胞、加えて骨の微小環境におけるヒドロキシアパタイトなどの成分を含有する可能性がある。まず第1に、それが、ATIについて定量するために選択された癌細胞集団であるならば、亜鉛を用いて癌である細胞とそうでない細胞とを区別することができる。したがって、亜鉛は、確実に、最も適切な癌細胞含有ボクセルだけが55Mn値およびその分布の測定に使用されるようにするためのフィルターを提供することができる。(ここで留意すべきは、亜鉛は放射線感受性および放射線抵抗性細胞を区別しないことである。)亜鉛ボクセル値は、HMR(
55Mn)を同定するうえで判断を誤らせる可能性のある領域を最初に無効にすることを可能にする。これは
図29および30に示す。
【0277】
図29のパネルAは、未分化型小細胞肺癌(IIIa期;T2N2M0)を有する54歳男性から得られたH&E染色切片を示す。主に非癌性および非細胞性物質からなる薄い色に染色された領域は、H&E画像から明らかである。この薄い色に染色された領域は、濃い色に染色された癌細胞と比較して低い
66Znボクセル値を有する。適切な閾値が
66Znに適用されると、その結果得られるパネルBの画像は、その上のH&E画像にみられる異なる領域へのすぐれた目安となる。これは、この腫瘍サンプルにおける
55Mn値の分析が、非癌性領域のボクセルからの影響なしに、パネルBに示される
66Znボクセルにのみ、より正確に基づいていることを意味する。これは、間質成分の臨床的意義を重要視しないことを意図するものではなく、それは単にデータ分析を区分するために役立つ。
66Znを用いた組織切片ランドスケープのこのプレスクリーニングは、非癌性物質が、癌細胞含有ボクセルとかなり密接に交じり合っている乳癌および前立腺癌などの腫瘍に特に有用である。上記と相関して、腫瘍のどの部分が間質集団のATIをもっとも有利に与える可能性があるかを判定するのにも亜鉛が役立つ可能性がある。
【0278】
同様の例が
図30で明白であって、そのパネルAは、直腸の悪性メラノーマ(IIB期;T4N0M0)を有する66歳男性から得られたH&E染色切片を示す。非癌性細胞領域は、特にパネルの下部の6時の位置にこの場合もやはり明白である。
66Znデータに適当な閾値を設定すると、その結果得られるパネルBの画像はその上のH&E画像にみられる異なる細胞成分を反映する。
66Znを用いたこのプレスクリーニングは、
55Mn値のその後の分析が、非癌性/間質性領域のボクセルからの「汚染」なしにパネルBに示す
66Znボクセルだけを用いてより正確に測定可能であることを、この場合も示している。
【0279】
当業者には当然のことながら、
66Znのほかに、他の原子およびその関連同位体が、間質の癌性、正常、活性化、および非細胞性成分を特に異なる組織において区別する、同じく有用な機能を提供する可能性がある。
【実施例6】
【0280】
乳癌
本明細書に示すデータは、55Mnレベルと、放射線感受性および放射線抵抗性に関係する腫瘍スペクトルの両端との間に相関関係があることを初めて示す。本明細書に示すデータはまた、これまで知られていなかったHMRの存在に関する洞察を与えるが、このHMRは従来の病理検査から見逃されており、放射線抵抗性、ならびに腫瘍が放射線治療後に再発する徴候に重要な役割を果たすものである。さらに、データは、間質成分と癌細胞集団との相互作用から由来するメタロミックの関与に関する根拠を提供する。
【0281】
限定的でない一例として、「中間的な」放射線感受性を有するとして大まかに分類される腫瘍、たとえば乳房および前立腺の腫瘍も、本発明にしたがって分析した。
【0282】
15例の乳房の腫瘍に対して、本明細書に記載の6つの腫瘍型に使用したのと同じレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法の定量アプローチを適用した。これらのデータの概略を
図31に示す。これらの乳房の腫瘍の大部分の
55Mn値を検討すると(灰色四角)、1,000から4,400 CC/Sの値を示す。この検査レベルにおいて、その値は、セミノーマ、小細胞肺癌およびリンパ腫でみられた感受性の値と、それより高い、膠芽腫、中皮腫およびメラノーマの
55Mn値とのまさに中間である。しかしながら、これらの乳癌の70%より多くがHMR(
55Mn)を有し、それらの値は4,000から16,000 CC/Sまで広がる(下図の黒い四角)。さらに、一部の腫瘍は、ストリンジェントな8x8検出閾値を用いて2つ、および3つのHMR(
55Mn)を有する。本発明に至るまで、原子データが「乳癌が非常に多様である」という臨床的観察と合致することは十分理解されていなかった。
【0283】
オーダーメイド医療の観点から、乳癌を多様であると評する現在の医術は、どの患者が放射線治療から利益を得るか、ならびにどの患者が放射線治療の有害な作用を回避すべきかを決定するうえで役に立たない。有用な予測基準なく、いつまでも変わらないH&E病理学のもとで、あらゆる可能な治療法が適用されたとみなされるように、たとえばアメリカでは、ほとんどの乳癌患者が腫瘍の外科的切除後に放射線照射を受ける、というのが臨床の現実である。乳房腫瘍の切除端は、腫瘍の周縁部に存在する可能性のある残存癌細胞を外科的に除去するチャンスを増やせるように、大きくなる可能性がある。放射線治療は切除を免れた細胞を破壊する可能性をさらに増大させるが、放射線の害は、原子データが非常に高レベルの
55Mnを示す場合にも避けられない。このような高
55Mnの場合、治療意図に基づく状況での放射線治療は、大部分は役に立たない。
【0284】
図32の上の図は、39歳女性から採取された高分化型浸潤性乳管癌(IIIa期、T3N1M0)を示す。H&E切片は、病理検査で目立ったところはなく一様である。それに対して、下図に示す原子データは、見逃されていたHMR(
55Mn)の多様性(大きな黒い領域)およびそれらの重要な臨床的意味を明らかにする。この乳房切片は、分裂速度を測定するのに典型的に使用される標準的なサンプルサイズと均衡を保つように、約1mm
2領域として検査された。
【0285】
図33は、31x31ボクセルからなる約1mm
2領域の分析を示すが、それは同時に2つの原子
55Mnおよび
66Znについて、前に適用された標準的な閾値を用いて分析された(T1、0.5x 中央値;T2、1x 中央値;T3、1.5x 中央値、およびT4、2x 中央値)。2つのHMR(
55Mn)が、T4閾値を用いたMn分析で明白になるが、同一ボクセルが
66Znについてはそれらの大部分の腫瘍レベルのままである。それは、これらのHMRの重要な特徴となる
55Mnレベルである。8x8閾値未満の大きさの、可能性のあるHMR(
55Mn)は、パネルT3およびT4の他の2つの上に見ることができる。
【0286】
この約1mm
2領域をさらに分析することは、データを「プールする」外見的に均一な病理サンプルのバルク分析と比較してHMRを分析する有用性を実証する。ヒストグラム形式でのこのサンプル中の全961ボクセルの分析を、
55Mnおよび
66Znについて
図34に示す。上の図において、ボクセル内の高
55Mnレベルの不均一性は、5000 CC/Sの値を超えておよそ15,000の値に達する、値のピークおよび低く這うテールとして認められる。この不均一性は、厳密な統計学的方法で、たとえば、Bowley’s Non Parametric Skew Statistic (NPSS) (Bowley, 1901, Elements of Statistics, P S King and Son, publishers, Westminster, London, UK)を用いたボクセル含量の分析によって、調べることができる。限定的でない一例として、これは
55MnデータおよびNPSS値に適用され[平均−中央値] / [標準偏差St.Dev.]、0.25と判明したが、それよりずっと対称な
66Znデータについては、0.02であると判明し、大きな相違を示した。当業者には明白なことであるが、不均一性を評価する統計学的方法は数多くあり、ここに示した非対称性とともに使用することができる。
【0287】
その領域をさらに分析すると、サンプル全体に均一に広がるボクセルからなる高
55Mn値の分布、すなわち凝集体としてのその存在が明らかになった。最後に、
55Mnレベルに認められる不均一性と比較して、下の図は、同一のZnボクセルの値がより均一であったことを示す。これは、下図において主要ピークの右側にピークも低く這うテールもないことによって相互に関連付けられる。
【0288】
転移の過程でのリンパ管/「本幹」における癌細胞
上記の浸潤癌に見られる病理学上の形態的均一性の例とは対照的に、
図35の上図は、H&Eにより可視化された、48歳女性の浸潤性乳管癌(IIa、T2N0M0)の形態学的不均一性を示す。この切片は、(i) 3時の方向に正常な乳腺小葉の領域(Nで示される)、脂肪細胞を伴って、(ii) 癌細胞(Cで示される)がリンパ管の内側に見えており、したがって転移する過程である、C1からC5で表される5つの領域、ならびに(iii) サンプルの中ほどから右側まで広がっている脂肪細胞を含めて、間質成分とともに、免疫細胞(免疫と示される)が集中する領域を含有するので、ATIの観点から情報として有益なサンプルである。
【0289】
乳房の正常な部分の、Nと示される正常なリンパ管の
55Mn値は、3,204、3,104および3,155のCC/S値をもたらす。癌細胞を含有するリンパ管は、情報を与え有益である。リンパ管C1は2,904の値を、C2およびC3は2,804を、C4は2,771をもたらす。したがって、これらの移行する転移細胞の
55Mn含量は、正常な乳管を構成するその前駆細胞と、ほとんど相違がない。それに対して、リンパ管5の中の移行細胞は、8612の中央値CC/Sを有し、放射線抵抗性であると予測される。この例は、乳房の1つの小サンプルに存在する原子的な微小不均一性を示す。顕微鏡レベルでは区別できないと思われるので、この微小不均一性は、転移過程にあるC1からC5における癌細胞の病的状況から引き出すことができる。
【0290】
メタロミックデータによれば、4つの金属
55Mn、
66Zn、
63Cu及び
56Feのすべてが、H&E染色切片に見られる細胞性および非細胞性領域に対して、脂肪細胞からなる領域を容易に解明する(
図36)。脂肪細胞のメタロミック含量は、そのような細胞内の高濃度の脂質によって薄められる。
【0291】
不均一性の問題は、形態学的およびメタロミックなレベルの両方でこの乳癌において明白に認められるが、他の癌型においても、同一臓器内の異なる大領域においても、蔓延している。
【0292】
癌患者の治療に関して医療専門家が考慮するいくつかの重要な問題が存在し、それには、患者の年齢;患者の現在の健康状態;併存疾患;1つもしくは複数の腫瘍の部位(原発もしくは転移);外科手術、化学療法、薬物治療、免疫療法、もしくは放射線治療が選択肢となるどうか、ならびに治療が治癒を目的とするか緩和として行われるか、があるが、それらに限定されない。このリストは、最良の意見を得るためにたどるべき臨床決定ネットワークの実例を示す。血液検査およびスキャンを終えた後の中心的な決断点は、腫瘍の病理である。腫瘍が良性である可能性が高いか、進行する可能性が高いかについて推論されるので、他のすべての決断はこの決断点で得られた情報から得られる。分裂速度を測定する場合を除いて、本発明に至るまで、その推論はこれまでのところ定量的データに基づいておらず、個別の腫瘍型の全般的な経験に基づく。比較的まれな腫瘍については、通常、治療ステップが最良の所見となる指導を与える臨床試験はほとんどない。乳房、前立腺、脳、皮膚、および卵巣の腫瘍などの、一般的な腫瘍型についても、いま存在する多数の臨床試験において不十分な点が、継続中の議論を引き起こしている。主な問題は、個別の腫瘍型に関するこのきわめて重要な病理学的決断点において、集められたデータは、必須の定量的な性質のものではなく、本出願に至るまで、すべての腫瘍型に一般化できないことである。
【0293】
きわめて重要な病理学的情報(すなわち、放射線治療などの主要な治療的見解を実施すべきかどうかに対する指針)の臨床的「価値」は、抗体情報もしくはさまざまな形のin situハイブリダイゼーションと組み合わせた染色法の主観的解釈に頼る部分が大きく、それはさらに、最新のゲノム技術およびプロテオーム技術によって補完される。以下の他の例によって補強されるように、原子データは、この重要な病理学/放射線治療の決断点において、これまで欠けていた、評価法の新たな指標を与える。任意の腫瘍型の原子治療指標は、患者が放射線治療の好適な候補であること、ならびにその患者の腫瘍が放射線治療後に再発する可能性が高いことの、初めて定量的な基礎を与える。
【実施例7】
【0294】
前立腺癌
図37は、組織もしくは臓器、この場合は前立腺、のさまざまな部分の病理学的状況における、不均一性の臨床例を示す。それは、(患者の完全な開示許可を得て)米国のFinal Prostate Biopsy Reportによって示される。患者(以後患者Xと称する)は、前立腺の腺癌を有し、PSAレベルは8.1 ng/mlである。生検の報告は、前立腺の異なる領域において異常性を記録し、12領域のうち7領域は、ほとんど重要性をもたない変化を示すが、5領域はグリーソンスコアがせいぜい7程度であるがそのスコアで定義される「癌」を有する(上図)。12のコア生検のそれぞれの罹患範囲の診断要約記録も示す(下図;パートAからパートLまで)。本発明より前に、この患者は、放射線治療が正当とされることを示す定量的な指標なしに、放射線治療について評価されることになった。この患者は、そのかかりつけ医との話し合いののち、個人の実績に基づいて放射線治療を受けるが、かれに提示される他の選択肢は、根治的前立腺全摘除術である。本発明にしたがって、これらの領域のそれぞれにおける元素の化学物質分布が測定され、たとえば
55Mnレベル、2D分布およびHMR(
AM)はレーザーアブレーションで測定される。結果は、代表値の計算を含めて、利用できる統計学的方法および統計理論によって分析されるが、一般的な代表値は中央値、算術平均および最頻値である。当分野で知られている他の任意の代表値も使用することが可能であって、それには幾何平均、medimean、ウィンザー的k平均、kトリム平均、および加重平均があるがそれらに限定されず、データは代表値を計算する前に変換してもよい。たとえば、データは、コルモゴロフ-スミルノフ検定を含めたノンパラメトリック統計を用いて検定されるが、それは、データの分布について何も仮定しないことが必要である。他の統計学的方法には、Demystify Statistical Significance-Time to Move on from the P value to Bayesian Analysis, (Lee, J Journal of the National Cancer Institute, 103, 2-3 2010) およびBerry, Carlin, Lee & Muller. Bayesian Adaptive Methods for Clinical Trials. Chapman and Hall/ CRC Biostatistics series. ISBN 9781439825488. 2010; Nuzzo, Nature, 506, 150-152. 2014)においてLeeおよび共著者により明記される、ベイズ統計学および、より標準的な統計学の組み合わせを含む。
【0295】
他の統計学的方法論には、Talfryn et al., British Medical Journal, 316, 989-991, 1998; Sterne & Smith, British Medical Journal, 322, 226-231, 2001; Bland & Altman, British Medical Journal, 328, 1073, 2004に記載のものなどがある。臨床環境において、他の方法にはRubinstein et al., Journal of the National Cancer Institute, 99, 1422-1423, 2007; Krzywinski & Altman, Nature Methods, 10, 1041-1042, 2013) などがある。
【0296】
統計分析が終了したら、腫瘍のさまざまな領域の放射線感受性もしくは放射線抵抗性について、ならびにもっとも適切な治療について決定がなされる。たとえば、大部分のレベルで、ならびにその癌細胞を含んだHMR(
55Mn)(もしあれば)において、放射線感受性とみなされる腫瘍は放射線照射を受ける。放射線抵抗性であるか、または大きなHMR(
55Mn)を有する腫瘍については、放射線治療は推奨されない。放射線感受性である腫瘍の特定領域については、選択的放射線治療が推奨される。たとえば、腫瘍の特定領域を選択的に標的とする放射線治療が推奨される。利用可能で当技術分野で知られている、このような選択的放射線治療が考慮される。当業者は、どの選択的治療が是認されるかを容易に決定することができる。
【0297】
これまでに記載した前の7つの腫瘍型に使用されたのと同じ、LA-ICP-MSの定量的アプローチを、前立腺癌の10腫瘍に対して使用した。これらのデータの概略を
図38に示す。
【0298】
結論:高いHMR(
55Mn)を有する腫瘍はなく、それらのボクセル値は全般的に、ATIスペクトルの低い側の端にあり(すなわち低い範囲のCC/Sであり)、したがって、このサンプルから、腫瘍は、ほとんど放射線感受性と期待される。
【実施例8】
【0299】
脳転移した皮膚の原発性メラノーマ
図39および40は、70歳患者(以下患者Yとする)から得られた、詳細な臨床データおよび定量的な原子データの比較を明らかにするが、この患者は最初に原発性メラノーマを呈し、その後脳腫瘍と診断された。患者は全脳照射、さまざまな薬物、免疫療法(ペンブロリズマブ)による治療を受け、最後に定位開頭術を受けた。この例は、原子データとマッチさせるために必要とされる臨床上の詳細さの度合い、ならびに日常の医療業務にATIを取り入れることに関わる臨床的ベースラインを示す。患者は開示を完全に許可した。
【0300】
患者Yは、はじめに、きれいなセンチネルリンパ節、ならびに若干の基底細胞癌および扁平上皮細胞癌を有する、上背部の原発性メラノーマと診断された。何年かのち、発作の後に、MRIスキャンによって左頭頂葉の脳腫瘍が明らかになった(
図39、パネルA、矢印)。放射線治療後、MRIスキャンは、腫瘍部位に残存物の存在を示し、それは解釈の曖昧さを伴った(
図39、パネルB)。
【0301】
詳細な病理報告は、原発性メラノーマの皮膚から得られた切片が、潰瘍のある結節型メラノーマを示し、その腫瘍細胞はMelanA陽性および34Be12陰性であって、メラノーマと合致することを記載した(
図39、パネルC)。Breslowクラークレベル4;潰瘍、3ミリメートル;皮膚浸潤性腫瘍幅パーセント、約50%;皮膚分裂9/mm
2(これは分裂速度が速いとみなされる);主要な細胞型、母斑性および類上皮;血管内およびリンパ管浸潤はみられず、光線性/日光弾性線維症は軽い。
【0302】
メラニン沈着領域は、右上背部から大きく切除され、4つのセンチネルリンパ節の切除も行った。切片はS100、HMB45およびMelanAで処理して、病変が原発性メラノーマであることを確認した。
【0303】
基本の楕円はメラノーマであると判明したが、それ以上の腫瘍は広範な切除において明白ではなかった。隣接した皮膚は、反応性の変化を示さなかった。センチネルリンパ節1、2、3および4はH&Eおよび免疫ペルオキシダーゼ法に基づいてさらに悪性腫瘍がある証拠はまったく示さなかったが、リンパ節3の状態は報告されなかった。切除後、患者は「癌がない」と宣言され、6か月後に、再発メラノーマの兆候は全く示さなかった。
【0304】
3年後、患者は倒れたが回復したものの、歩行時に左の協調運動失調の兆候を示した。同様の下肢の不随意運動の症状発現が1日に最大で20回繰り返され、最初は頭の左側に違和感を伴った。脳MRIは、中心前回の周りの傍正中の左頭頂葉に14mmの造影病変を示した(
図39)。放射線科医は、低グレードの神経膠腫という鑑別診断を下したが、その患者は3年前にメラノーマを患ったので、頭部の病変はそれよりむしろ再発メラノーマである可能性があった。この曖昧さはMRIの限界を反映している。放射線科医は「この病変の性質は明確でない。病変に伴う腫瘤効果もしくは浮腫がないのでなおさら、低グレードの脳腫瘍を意味する可能性がある。ADC(Apparent Diffusion Coefficient)マップにおける低シグナルの拡散強調スキャンによる知見は、神経節膠腫などの低グレード病変である可能性を強めるが、DNET(胚芽異形成性神経上皮腫瘍)または嚢胞性成分のない多形性黄色星状膠細胞腫も考慮することを可能にする。小さい乏突起膠腫の可能性も残されている」と結論付けた。
【0305】
その時点で脳神経外科手術は行われず、定位放射線治療が適切な選択肢であると勧められた。患者が原発性メラノーマと診断されていたことを考慮すると、脳の病変が脳転移したメラノーマである可能性があった。患者は、想定される転移性メラノーマへの放射線治療を受け、全投与線量は25グレイであり、また、ペンブロリズマブの免疫治療法コースも放射線治療の2か月後に始めた。さらに数か月後、MRIは、正中前頭部転移腫瘍は、16mmから11mmに減少したことを示した。文字通りの意味で、腫瘍は感受性成分と抵抗性成分を有していた。腫瘍は、より薄いはっきりした縁、ならびに、さらにまばらな信号強度が低い中心部によって、いっそう明確になった。腫瘍サイズのこの減少の大部分は、免疫治療に起因し、免疫治療薬ペンブロリズマブによるものではないが、それは1か月のこの薬物治療の後の腫瘍退縮が平均するとわずかに6%となるからである(Hamid et al., 2013, New England Journal of Medicine, 369, 134-144)。この患者の腫瘍は直径16mm:16mm:16mmから11mm:11mm:11mmに減少した。これは(5+5+5)/(16+16+16)、31%の減少であり、そのうち6%は薬物に、25%は放射線照射に起因すると考えられる。これは腫瘍の最初の退縮の80%(25/31)が放射線に起因していたことを意味する。3か月後のもう1回のMRIは、腫瘍病巣に隣接する白質内に周囲のコントラストが強調された赤みを示したが、それは腫瘍が前の検査以後、進行していることを示唆した。腫瘍は2か月後にまだ11mmの最長直径であった。後のMRIでも、腫瘍の周りに最長直径が23mmある著しい進行が明らかになった(
図39パネルB)が、これが放射線壊死であるか進行性腫瘍であるかを識別することは不可能であった。患者はアバスチンによる治療も始め、開頭術に進むことを決意した。開頭術の前に、高信号の中心壊死腫瘍は、体軸横断面で約18 x 33 mm、および斜め上方33 mmを示し、 高グレード腫瘍と一致する特徴を示した。患者は定位固定開頭術を受け、左前頭部病変を摘出した。
【0306】
切除された脳腫瘍の組織病理は、15mm x 10mm x 5mm および9mm x 6mm x 5mmの2片の淡褐色および褐色の不規則な崩れやすい柔らかい組織を示した。不鮮明な核を有し、ごくわずかの散在する失活した「メラノーマ」細胞が存在したが、この検体において残存する生存可能な悪性腫瘍の明白な証拠は存在しなかった。検体はメラノーママーカーmelanAおよびHMB45に対して陰性であり、明白な色素は見られなかった。マーカー確認がない場合、病理学者がメラノーマに傾いたとしても、これが転移性メラノーマであるか、または無関係の脳の病変であると明確に言える十分な証拠はない。
【0307】
原発腫瘍生検の原子分析
放射線照射前の脳病変の生検標本がないので、腫瘍の本質および放射線応答性に関する唯一の利用可能な証拠は、原発腫瘍に由来する(
図39、パネルC、DおよびE)。標準的な5ミクロン組織切片が採取され(倫理的、法律的、および患者の同意の問題は履行されている)、
図39パネルCの領域全体がレーザーアブレーションされて、パネルCの大半に見える正常な間質の不均一性の中の癌細胞巣の存在について検討された。
【0308】
レーザーアブレーションから得られた数値データを
図40に示すが、そこで、原発腫瘍の5か所の異なる領域を分析した。バックグラウンドを差し引いた後5つすべてのトラックから得られた
55Mn中央値は、3,747 CC/S (ATI)であったが、これは原発腫瘍を放射線応答性の中間領域に位置付けた。腫瘍は放射線で除去されたので、臨床データはこの値と矛盾しない。
【0309】
上記のように、患者はPD-1を標的とするペンブロリズマブによる免疫治療法によっても治療されたが、最終的な転帰に寄与したのはこれらすべての要因の組み合わせである。しかしながら、上記で指摘したように、初発腫瘍サイズの80%の減少は、放射線治療に起因する。
【実施例9】
【0310】
目に見える腫瘍の照射後の腫瘍の状態
ATIの観点から、より定量的なアプローチに適した腫瘍が1つあるが、これは「外から見える」腫瘍であって、放射線治療後のその状態、進行、および条件を「内部の」腫瘍より容易に評価することができる。患者Zは、このような場合の一例である(
図41)。プライバシー上の理由から、この事例は、あくまでも、直接測ることができる、曖昧さのない、外から見える腫瘍の放射線治療の転帰の説明としての役割を果たし、患者Yの脳病変で経験した内部腫瘍の問題で経験的に学んだ曖昧さとの相違を際立たせる。
【0311】
患者Zは、扁平上皮癌の放射線治療を受けた(
図41上図)が、癌は放射線治療後6か月以内にほぼ完全に消失した(下図)。生検検体が原子分析に利用できていたなら、臨床上の反応とATIとの比較が役立ったであろう。
【0312】
患者が特定の腫瘍型を有するかどうかについては情報を提供するが、その患者に向けて個別に調整された次の治療ステップは提供しない他の診断法とは異なり、ATIはすべての腫瘍型に適用可能である。ATIは汎診断的(完全な診断)である。それはたとえば、4 ng/ml を超える値が得られると、治療的介入は何か?が次に問題となる、PSA検査のように、制限的でない。ATIとは異なり、PSA検査はそれ自体、治療上の指針を与えない。
【0313】
乳癌の場合、幅広い周縁部とともに腫瘍の完全な切除が行われたとしても、続いて化学療法、放射線照射、ハーセプチンおよび/またはアバスチンおよび/または免疫チェックポイント阻害薬および/または免疫アゴニストおよび/またはワクチンによるホルモン療法および薬物治療が行われるが、放射線応答性の可能性に関して一次資料の情報がない場合、腫瘍が再発する確率はどれほどであろう?乳房腫瘍生検検体がたとえば閾値以下のATIを有するならば、その放射線照射後の再発確率は、生検検体のATIが閾値を上回る場合、ならびに腫瘍が1つもしくは複数のHMR(
55Mn)を有する場合より低くなると考えられ、細胞はすでにそこから遊走しているかもしれない。腫瘍細胞が乳房から近隣のリンパ節にすでに広がってしまっている場合、これらのリンパ節でのATIの評価(高い、もしくは低い)は、臨床医に、より慎重な患者のモニタリングが必要かどうかの指標を与えることになろう。
【0314】
同様に、メラノーマのBRAF
V600E変異において、ならびに多くのゲノム検査において、細胞サンプルから、または血管系の環状核酸から、標的化することができるドライバー変異の存在が推論される。これは腫瘍ランドスケープの2D可視化の高い値を示さないが、それは前者がプールされた一群であるからである。これは、ATIの利用とプールされたサンプルの利用との間のきわめて重要な差別化要因であって、後者では、高い表示値が癌細胞の小集団のアウトプットから由来するのか、活性化された間質細胞からなのか、あるいは、サンプル中のほとんどの細胞がその表示値に寄与しているのかを見分けることは不可能である。治療に関する臨床上の意味合いは非常に難しい。ベムラフェニブによる治療を受けたメラノーマ患者で、たとえば、変異したタンパク質を生成する少数の細胞を腫瘍内に有する前記患者は、治療から利益を受けることはほとんどないが、その薬物は、腫瘍内の多数の細胞が欠損タンパク質産物を生成しているメラノーマ患者でははるかに有効となる。2Dランドスケープが利用できなければ、これを区別することは困難である。
【実施例10】
【0315】
放射線増感剤/相乗作用物質を用いた測定
10ホウ素
腫瘍の放射線応答性は、本発明にしたがって
55Mnおよびそのキャリブレーションされたシグナルを測定することにより判定されるが、放射線応答性は、増感剤の添加によって影響を受けることもある。このような場合、ホウ素中性子捕捉療法の成功は、全
55Mnキャリブレーションシグナルと増感剤添加の両方にかかっている。P-ホウ素化フェニルアラニンなどの増感剤を高マンガンの腫瘍細胞集団に添加することは、低マンガンの細胞集団に添加するほど有効でない可能性がある。この例において、ホウ素中性子捕捉療法を行う前に、腫瘍に関するATIをLA-ICP-MSにより測定する。
【0316】
腫瘍サンプルは、FDA認可の増感剤、たとえばp-ホウ素化フェニルアラニンなどの
10ホウ素誘導体、または以前記載されたホウ素誘導体を含有するリポソームの静脈内注射(Heber et al., Proc. Natl. Acad, Sci. USA, 111, 16077-16081. 2014)、または以前記載されたホウ素ナノ粒子(Petersen et al., Anticancer Research, 28, 571-576, 2008)を用いてあらかじめ静脈内注入された患者から採取される。腫瘍サンプルはその後、
10ホウ素の2D分布を調べて、そのレベルおよび分布が放射線照射に関して有利であるかどうかを判定する。同時に、または別々に、Mnの分布およびレベルを測定する。55Mnおよび10Bの相対量が、放射線照射に適した患者の腫瘍を決定する。
【0317】
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)を簡単に説明する。いくつかの外部の物質、例えば、ホウ素、
10Bが、腫瘍を、放射線に対してより感受性にすることが知られている。熱中性子は、
10Bの原子核によって捕捉され、その後の核分裂反応が、反跳として
7リチウム、アルファ粒子、弱いガンマ線(0.5 MeVガンマプロトン)、および2.4 MeVの運動エネルギーを生じる。
7Liイオンおよびアルファ粒子は、高い線エネルギー付与放射線として分類され、高度に破壊的である。
【0318】
マウスでの研究において、ホウ素ナノ粒子とともにプレインキュベートされた細胞のマウスへの皮下注射は、その後中性子線による照射を受けて、生存期間の延長をもたらしたが、それは腫瘍の増殖が遅くなったためである(おそらくホウ素を有する腫瘍は中性子照射に対してより感受性になったためであろう)(Petersen et al., Anticancer Research, 28, 571-576, 2008)。頭頚部腫瘍の治療に関する臨床試験が、Boneca Corporation (ClinicalTrials.gov identifier; NCT00114790)によって開始された。さらに、p-ホウ素化フェニルアラニンおよび中性子照射による治療を受けたアルゼンチン人患者に対する第I/II相臨床試験は、ほぼ70%の奏効率をもたらす(Menendez P Appl. Rad. Isot. 67, (7-8 Suppl.)S50-S53). 2009)。ホウ素中性子捕捉療法は、非小細胞肺癌にも使用された(Farias et al., Phys. Med. 30,888-897. 2014)。
【0319】
2-デオキシ-D-グルコース、2-DG
他の有用な放射線増感剤には、たとえば、Shenoy & Singh, Cancer Investigation 10, 533-551, 1992にまとめられている増感剤がある。これには2-デオキシ-D-グルコースが含まれており、これはグルコースの近縁アナログであるが2位にヒドロキシル基がない。
【0320】
2-DGは、利用可能なエネルギー源としてグルコースを優先して利用する腫瘍細胞によって貪欲に取り込まれるが、ヘキソキナーゼによるリン酸化に際して、2-DGはそれ以上代謝されない。したがって、グルコース取り込みとの競合、ならびにその後のステップによって、2-DGは代謝ストレスを引き起こし、放射線に対して細胞をいっそう感受性にする。電離放射線に暴露され、同時に2-DGで処理された細胞株において、放射線損傷は一部で増大し、細胞株間で通常の不均一性が観察された(Dawrkanath et al., Int. J Radiat. Oncol. Biol. Phys. 50, 1051-1061, 2001)。一部の腫瘍細胞集団の放射線感受性は、チオール代謝の妨害によって生じると考えられる(Lin et al., Cancer Research, 63, 3413-3417, 2003)。
【0321】
進行性脳腫瘍の患者に関する初期の第I/II相臨床試験において、大量分割、5グレイ、放射線治療と組み合わせた2-DGの使用(2-DG+RT)の毒性および実行可能性は、良好な耐容性を示すことが明らかになった(Mohanti, B, Int. J. Radiat. Oncol, Biol. Phys, 35, 103-11, 1996)。
【0322】
漸増経口用量の2-DGおよび放射線による多形性膠芽腫患者の治療は、250 mg/kg体重までであれば、正常な脳へのさしたる損傷もなくよく耐えられることが明らかになった。さらに、このコホートの患者60人のうち一部は、放射線治療だけを受けた患者の生存期間を超える生存期間中央値を示した(Singh et al., Strahentherapie und Onkologie, 8, 507-514, 2005)。患者の治療および転帰の概要はDwarakanath, J. Cancer Research and Therapeutics, 5, 21-26, 2009に記載されている。
【0323】
最後に、異所性膵臓腫瘍を有するヌードマウスにおいて、2-DG+放射線による治療は、結果として、対照と比べて腫瘍増殖の抑制ならびに生存期間の増加をもたらした(Coleman et al., Free Radical Biology and Medicine, 44, 322-331, 2008)。
【0324】
したがって、放射線照射の前に腫瘍を
55Mn(および他の関連するメタロミックデータ)について検査することは、単に2-DGのみならず、放射線増感剤に対する本発明の技術のまた別の実用的応用である。
【0325】
免疫療法
放射線照射、ならびにその後の抗腫瘍免疫反応は、癌細胞の表面上の膠原提示の増加、ならびに抗原提示細胞の反応に影響を及ぼす多数のタンパク質およびペプチド(ならびにタンパク質およびペプチドに結合した金属)の放出を伴う相互作用系をなす。したがって、照射を受けた原発腫瘍(または照射を受けなかった同一個体の遠隔転移増殖)は、さまざまな免疫細胞による攻撃に対して感受性を増す可能性がある。この感受性の増加に関する基本的メカニズムが活発に議論されているが、未解決のままである(Sharabi et al., 2015, Oncology [Williston Park] 2015, 29(5), pii:211304; Formenti, J Natl Cancer Inst. 105, 256-265, 2013)。放射線に対して抵抗性の高いメラノーマは、高レベルのメラニン(これは多数の金属を貯蔵する)を有する。本発明との関連において、免疫療法の有効性も取り上げる。特定の理論にとらわれず、放射線抵抗性癌細胞の広範で非常にさまざまな代謝特性は、放射線感受性癌細胞と対比して、放射線治療の前も後も、おそらく免疫系によって等しく扱われないであろう。したがって、免疫療法と同時の放射線照射;免疫療法に先立つ放射線照射、または放射線照射に先立つ免疫療法は、差別的選択のため腫瘍内に全く異なる細胞集団を生じることになる。この例において、腫瘍はまず、本明細書の任意の態様、実施形態もしくは実施例の方法にしたがって、そのATIによって特徴を明らかにしたのち、有用な免疫療法が施される。本明細書の任意の態様、実施形態もしくは実施例にしたがって本発明の方法を実施することによって、免疫療法の有効性、および/または放射線治療を施すべき時、たとえば免疫療法前、免疫療法中、または免疫療法後、が検討される。さまざまなタイプの免疫療法が、同一タイプの放射線と異なる相互作用をすると考えられる。たとえば、去勢抵抗性前立腺癌用のSipuleucel-T(前立腺酸性ホスファターゼに対する免疫を誘導するようにデザインされた樹状細胞ワクチン)、切除不能転移性メラノーマ用のイピリムマブ(抗CTLA4)、メラノーマ用のペンブロリズマブおよびニボルマブ(抗PD-1)、メラノーマおよび進行性扁平上皮非小細胞肺癌用のニボルマブ、ならびにトレメリムマブおよびリリルマブは、キメラ抗原受容体T細胞を用いた免疫療法(CAR-T免疫療法)より、放射線に対して異なる反応を生じる可能性が高い。定位放射線照射と組み合わせたチェックポイント阻害免疫療法は、膠芽腫を治療するために進行中であるが、膠芽腫は単一のものとして治療されている。したがって、本明細書の任意の態様、実施形態もしくは実施例の方法にしたがって、あらゆる膠芽腫の特徴を明らかにし、免疫療法に対して最もよく反応する患者に関する評価を与える。
【0326】
ローズベンガルおよびメラノーマ
ローズベンガル(4,5,6,7-テトラクロロ-2′,4′,5′,7′-テトラヨードフルオレセイン)は、1882年に特許取得された、糸および食品を赤く染める工業用化学物質である。皮膚メラノーマに病巣内投与すると、一部の腫瘍の有意な縮小が生じることがある(Thompson et al., Melanoma Research, 18, 405-411, 2008; Thompson et al., Ann. Surg. Oncol. 22, 2135-2142, 2015)。ローズベンガル病巣内治療後に、処置された皮膚病巣の体積は減少したが、同じ患者の離れた未処置の腫瘍の一部も収縮し、これはおそらく免疫反応の関与を示す。ローズベンガル(RB)治療に放射線治療(RT)を加えると、2つの治療法、RB+TRを両方とも受けた3人の患者について示されるように、腫瘍消失をさらに強めることができる(Foote et al., Melanoma Research, 2010, 20, 48-51, 2010)。しかしながら、注目すべきは、放射線応答性が本出願以前は測定可能ではなかったので、これらの患者の放射線治療が、患者の複数の腫瘍の放射線感受性または放射線抵抗性に関する事前の知見に基づいていなかったことである。実際、「メラノーマにおいて最適な線量および分割照射に関するコンセンサスは未だ存在しない」ことは注目される(Foote et al., Melanoma Research, 20, 48-51, 2010)。
【0327】
ローズベンガルは、複数の作用様式を有する薬剤;放射線に対する細胞の増感剤、免疫系の増強による増感剤;「細胞死滅添加」剤、または相乗作用物質、とみなすことができる。これらの相互作用の分子機構は不明なので、それらを区別することは不可能であり、RBを取り込んだ癌細胞および間質細胞の空間的配置は依然として不明である。したがって、臨床医には、メラノーマ患者、特に、局所再発、衛星病巣再発、およびin-transit転移などの局所的転移領域を有する前記患者を管理する困難な課題が残される。現在の治療ガイドラインは、主に、外科的切除、局所焼灼、病巣内化学療法、およびベムラフェニブなどの標的薬を含む。これらのすべては、「疾患の不均一性ならびに度重なり持続する病変の増殖に起因して」困難である(Thompson et al., 2015, Ann. Surg. Oncol. 22, 2135-2142, 2015)。
【0328】
ローズベンガルおよび治療法の選択肢に対する本出願の関連性は、ローズベンガル分子が、組織切片においてLA-ICP-MSで容易に測定される4つのヨウ素原子を含有することである。したがって、ローズベンガルによる病巣内注入を受けた任意の腫瘍の切片を、放射線治療の前、または後に、それぞれのボクセルにおいて、ヨウ素、
55Mn、またはほかの任意の原子について同時に分析して、どの細胞集団が放射線の影響を受けやすいかを判定することができる。このようにして、より正確に影響を受けやすい病変を標的とすることができる。これまでのところ、放射線照射が後に行われるRB、またはRBが後に行われる放射線照射の相対的な臨床的有効性を判定するデータはない。明らかなことは、RBの病巣内注射を利用できる腫瘍ならば、本出願の方法によって分析して放射線治療の選択肢に関する定量的データを提供することができる、ということである。
【0329】
限定的でない一例として、複数回針生検の方法で前立腺にRBを注射すること、ならびに組織切片からヨウ素および
55Mnについて同時にレーザーアブレーション分析することは、正常、癌、および間質集団のどの細胞型が優先してRBを保持しているかについて情報を提供することになる。これらの空間的分布は、放射線治療に関してなされる決定をより良いものにするであろう。
【0330】
同様に、乳房腫瘍内へのRBの病巣内沈着は、組織切片からヨウ素および
55Mnを同時にレーザーアブレーション分析することを可能にし、正常、癌性、および間質性集団のどの細胞型が優先してRBを保持しているかについて情報を提供する(本出願の
図35および36に
55Mn、
66Zn、
56Fe および
63Cuについて示すとおりである)。これらの空間的分布は、放射線治療に関してなされる決定をより良いものにするであろう。
【実施例11】
【0331】
原子治療指標の臨床実施
8つの異なる腫瘍型から得られたデータの分析から、ATIの技術的および臨床的態様を大局的にとらえる、いくつかの知見が明らかになった。当然のことながら、メラノーマ以外の腫瘍型はいずれもメラニンを合成しないので、メラノーマは他のすべての上皮腫瘍とは異なる(無関係な細胞型におけるメラニン生成に至るすべての経路の偶発的活性化、または免疫細胞とメラノーマ細胞との細胞融合の結果でない限り)。さらに、メラノーマは、神経堤細胞の初期発生で派生した細胞に由来するが、それは集合してさまざまな胎児構造を構成する遊走細胞である。胚細胞の初期遊走性を除けば、神経堤細胞は、長い距離を遊走る他の唯一の一過性細胞型である。さまざまなメラニン性腫瘍について本明細書に記載される通り、メラニンは高濃度の
55Mn、
66Zn、
56Feおよび
63Cuと共局在化する。これらのうち、
55Mnは、さまざまな化学物質と結合する場合、O
2・-、H
2O
2およびもっとも危険なヒドロキシラジカルOH・と結合する能力を有することで放射線防護を与える可能性が最も高い(
図2)。さらに、腫瘍の全体にわたって高濃度のメラニンは、他のどの腫瘍型にも得られないある程度の物理的遮蔽をもたらす可能性がある。他のすべての腫瘍型とともに合理的に位置付けられる唯一のメラノーマは、メラニン生成に至るステップの不活化によって完全にメラニン欠乏性となっているメラノーマである。この点について顕著なのは、本明細書で検討されたメラノーマ、ならびに検鏡によって明確に低濃度のメラニン色素顆粒を有するメラノーマが、低い
55Mn CC/S値を有することである(ボクセル値の中央値は、1,939、1,239、817、1,439、1,278、939、1,617および1,678 CC/S)。これらはすべて、
図11に示す2K ATI閾値を下回る。この知見がその後定量的に確認されると、メラニン欠乏条件は、HMRがない場合、低
55Mn ATI、ならびに放射線感受性を示す可能性がある。
【0332】
臨床的な視点から、ATIを腫瘍生検に応用する1つのやり方は、
図42および43に示すフローダイヤグラムである。前者において、到達しやすいメラノーマは、患者Yによって例示されるように、広範囲切除の外科手術によって除去される。Bowleyノンパラメトリック非対称統計量(NPSS)(Bowley, 1901, Elements of Statistics, P S King and Son, publishers, Westminster, London, UK)は、均一性、または均一性の欠如に関する最初の情報を与える。第2に、均一性のための条件は、(i)
55Mn、
66Zn、
56Feおよび
63Cu のNPSS値がすべて低いこと、(ii) サンプルが癌細胞にも間質コンパートメントにもHMR(
55Mn)を有していないこと、ならびに(iii) 明白なメラニン化がないことである。サンプルが均一であると判明した場合、そのATIは、選択された臨床上重要な閾値より上か下となるであろう。原発腫瘍が切除されたら、均一性に関するデータ、および閾値より上、または下のデータは、患者Yの頭蓋転移のように早期に転移した細胞の、予想される特徴について情報を提供する。原発性メラノーマの除去を受けた患者から得られた、切除リンパ節の分析は、上記と同様に分析される。ATIは、後になって原発腫瘍の転移性派生物が生じたとしても放射線照射を開始するかどうかについて指針を与える。転移部位からの生検が得られるならば、
図42のフローダイヤグラムはあらためて開始される。
【0333】
図42の右側のパネルは、生検が、ボクセルの特性に関して不均一であるサンプルを報告する場合、ならびに腫瘍が切除されている場合の状況を示す。不均一性は、いくつかの要因、(i) 主要なランドスケープ内の不均一性、(ii) 癌細胞および間質コンパートメントの両者におけるHMR(
55Mn)の存在、サイズ、および内容、(iii) メラニン顆粒の存在および細胞内メラニン濃度の範囲に由来すると考えられる。すべてのHMR(
55Mn)の評価は、遠隔の腫瘍の再発の見込みを示す(原発腫瘍の切除前の早期に細胞が転移していたとして)。
【0334】
図42のフローダイヤグラムは、手術による切除を適用できない部位から採取されたいかなる生検検体にも適用されるが、その場合、放射線による治療意図に関して、放射線照射が有用な選択肢であるならば、ATIの測定によって確かめる必要がある。
【0335】
メラノーマ以外の他のすべての腫瘍型について、
図43のフローダイヤグラムは、放射線を用いるかどうか、またはそれを控えるかどうかについて、臨床決定のポイントに導くであろう。生検は均一性もしくは不均一性のいずれかをあきらかにするであろう(後者は臨床的な意味で避けがたいグレーゾーンである)。腫瘍は、切除可能または不可能のいずれかであり、放射線照射は、ATIが、HMR(
55Mn)が存在しないことに由来して閾値を下回っているならば、用いられることになる。腫瘍が不均一性であって、しかも切除可能であるならば、ATIは、その患者の一生のうちで後になって遠隔転移が生じる場合に予想されることの指標となる。腫瘍が切除不可能ならば、放射線照射するか否かの決断は、閾値に基づいて行われる。
【0336】
当業者には当然のことながら、ATIと無関係ないくつかの他の要因が、主治医および患者の両者によって考慮される可能性がある。これらには、患者の年齢、患者の現在の健康状態、併存疾患、1つもしくは複数の腫瘍の部位(原発もしくは転移)、ならび患者を放射線感受性にする何らかの遺伝性疾患が考えられるがそれらに限定されない。脳病変の場合、一部の腫瘍は他の腫瘍型より放射線抵抗性である可能性があり、それは癌細胞が微細管を介した相互接続の新規メカニズムを利用し、それによって損傷した癌細胞が腫瘍内の他の細胞により修復されることが可能になるからである(Osswald et al., Nature, 528, 93-98, 2015)。
【実施例12】
【0337】
他と組み合わせた原子治療指標の臨床実施
本出願の重要な根幹は、組織切片を横断して適用される高照射量レーザーエネルギーの集中的なパルス、および気化した物質の質量分析法による分析が、2D 空間的原子マップを提供し、それがATIを通じて、癌患者の放射線治療に関する直接的な治療上の重要性を有するということである。このATI/H&Eマップは、他の異なるマップをその上に重ね合わせることができる土台となる。当業者には認識されていることであるが、重層的な/重ね合わされる情報を提供する生物学的実体の賢明な選択が、本出願以前に利用できなかった状況である、ATIの臨床上の効果をさらに高めることになる。本発明者らは、元素分析、すなわちレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)もしくはレーザーアブレーション飛行時間型質量分析法(LA-TOF-MS)もしくは誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)、もしくはマイクロ波プラズマ原子発光分光法(MP-AES)、もしくはレーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)、もしくは二次イオン質量分析法(SIMS)、もしくはX線吸収端近傍構造(XANES)、原子吸光分光法(AA)もしくは蛍光X線(XRF)により金属標識抗体を用いて追加のマップを統合することが、どのように臨床上の意思決定プロセスの能力を高めることができるかを以下に示す。
【0338】
追加のマップ
遺伝子発現は、逆転写オリゴ(dT)プライマーアレイおよび蛍光標識ヌクレオチド(Stahl et al., Science, 353, 78-82, 2016)を用いた「空間的トランスクリプトミクス」によって、組織切片において測定することができる。これは、組織切片のH&Eマップと対比した遺伝子発現の空間地図を与えるが、それは、ライブラリ構築、増幅ステップ、時間経過による蛍光強度損失、染色アーチファクト、および自己蛍光、ならびに臨床的意義の不明なものに関する大量のデータセットのデコンボリューションなどを含めて、多大な労力を要することになる。本発明者らが知る限り、組織切片に関する以前のいかなる空間的遺伝子発現マップも、放射線照射が患者にとって好ましい治療オプションであるかという臨床上の問題について報告していない。
【0339】
本出願に至るまで利用できなかったものは、タンパク質もしくは細胞レベルで特別に選択された生物学的パラメーターとともにATIを同時に測定することから作成される、臨床上有用な2D マップである。これらのパラメーターは、放射線治療に関与が推定される必要があり、現在の病理学的および分子技術で直ちに実行可能である必要がある。そのようなマップのいくつかの例を以下に示す。
【0340】
多くの腫瘍は「癌幹細胞」(CSC)を含有するとされているが(Clevers, Nature Medicine, 17, 313-319, 2011)、それは実質的に放射線に対して抵抗性である(Ogawa et al., 2013, Anticancer Research, 33, 747-754)。CSCのこの放射線抵抗性は、CSCの優れたDNA修復能力、および活性酸素種に対する防御が高められていることを含めて、多くの要因に起因すると考えられる。このようなCSCは、自己再生し、ゆっくりと分裂して、腫瘍を再構成すると考えられる。実際にそうであるとしたら、「癌幹細胞の特性」マップを構築して、ATI/H&Eマップ上に重ね合わせることは、臨床上有利であると考えられる。これは、金属標識抗体を用いて行うことができる。
【0341】
ホルマリン固定パラフィン包埋組織切片に関する最近の技術は、通常、目的の抗原に対する抗体を使用するが、同一の組織切片上に共局在化している可能性のある、いくつかの、たとえば4か5個のタンパク質腫瘍マーカーを多重化することは、現在の免疫組織化学によってはほとんど不可能である。抗原特異的な一次抗体の使用に続いて、酵素標識二次抗体を用いた増幅ステップを行う。異なる時点で異なる染色条件で処理された、5つの一連の組織切片の染色の時間的要因は、迅速で正確なスループットに寄与することもなく、解釈の助けにもならない。しかしながら、金属(特にランタニドおよびそれらの容易に識別される同位体)を用いた抗体標識化の使用は、それぞれ異なる同位体で標識された異なる抗体を、同一組織切片に適用できることを意味しており、その切片を次にLA-ICP-MSで直接分析する(Giesen et al., 2011, Anal. Chem. 83, 8177-8183)。この場合、共存下の染色手順、蛍光の問題点、または定量に伴う曖昧さはない。この方法論は、診断の状況において、ランタニド系元素、ホルミウム、ツリウムおよびテルビウムを用いた、一次抗体、抗Her2、抗CK-7、および抗MUC 1の標識化に適用され、その後乳癌組織切片におけるそれらの位置がLA-ICP-MSによって分析された(Giesen et al., 2011, Anal. Chem. 83, 8177-8183)。それはまた、抗チロシンヒドロラーゼ(TH)をイッテルビウム173で直接標識するためにも適用された(Paul et al., 2015, Chemical Science, DOI:10.1039/c5sc02231b, 2015)。
【0342】
上記データは、元素分析により分析された複数のランタニド標識抗体が、同一の組織切片における抗原の空間的分布について報告することができること、ならびに薬物に基づく患者の治療に役立つ臨床情報を提供することを示す。しかしながら、放射線治療に関しては、必要なものが異なる。それは、同一組織切片において、または(たとえば、
図35に例示される乳癌切片であって、そこでは、リンパ管に癌細胞が存在し、それらの転移細胞が異なる
55Mnレベルを有する、前記乳癌切片における)連続した一連の切片において、ATI、および放射線治療に重要な意味を持つものを測定することである。これは、次のように実行することができる。
【0343】
15個のランタニド系元素;ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムおよびルテチウムは、スカンジウムおよびイットリウムとともに、LA-ICP-MSにより容易に区別される複数の同位体を有することが知られている。したがって、17個の元素の代わりに、好ましい抗体を標識するために選択する対象となる約32個の標識の最小のパレットがある。本出願に関して、次のステップは、「幹細胞性」、DNA修復、ROS、細胞分裂、ならびにメチラーゼおよびデメチラーゼのマーカーとなる抗原を選択することであるが、メチラーゼおよびデメチラーゼは癌細胞内で腫瘍サプレッサーのサイレンシングに関与するものであり、前記はすべて放射線治療の妥当性に影響するものである。
【0344】
非限定的な文脈において、第1のステップは以下を含む:
(i) 腫瘍の攻撃性/転移能に関係する「幹細胞性」ネットワークに関与するタンパク質、たとえば、Clevers (Nature Medicine, 17, 313-319, 2011)により記載されたCD44(乳房、肝臓および膵臓)、CD133(脳、結腸直腸、肺、肝臓)、EpCAM(直腸結腸および膵臓)など、ならびに癌幹細胞を対象とする薬物の標的とされるタンパク質、たとえば、NOTCH、DLL4、 FAK、STAT3、およびNANOG (Kaiser, Science, 347, 226-229, 2015)など、を選択すること。
【0345】
(ii) DNA修復に関与するタンパク質、たとえば、Woodら (2001, Science 291, 1284-1289、およびその後の改訂)により総説にまとめられたBRCA1、BRCA2、およびATMなど、を選択すること。
【0346】
(iii) 腫瘍ニッチにおいて主要な役割を果たす活性酸素種の代謝ネットワークに関与するタンパク質、たとえば、低酸素誘導因子、HIF(Simon and Keith, Nature Reviews Molecular Cell Biology, 9, 285-296, 2008)、炭酸脱水酵素IX、およびカタラーゼなど、を選択すること。
【0347】
(iv) 細胞分裂ネットワークに関与するタンパク質、たとえば、Ki-67 (Inwald et al., Breast Cancer Res Treat. 139, 539-552, 2013)などを選択すること。
【0348】
(v) DNAデメチラーゼTET1およびTET3(Forloni et al., Cell Reports, 16, 1-15, 2016)、ならびにDNAメチラーゼ、たとえばDNMT1、DNMT3aおよびDNMT3bなどの、ゲノム領域をサイレンシングするかまたは活性化して、腫瘍内の細胞の発癌性に影響を及ぼすタンパク質を選択すること。
【0349】
第2のステップは、上記のタンパク質産物に対する一次抗体を使用して、次に、一次抗体か二次抗体のいずれかを適当なランタニド系元素で標識して、これらの抗体を組織切片にハイブリダイゼーションさせることを含む。
【0350】
第3のステップは、そうした抗体リッチな切片に元素分析を適用することを含む。これは、ATIを作成しHMRを位置付ける、本明細書で使用された内在する金属、Mn、Zn、FeおよびCuの同時読み出しをもたらし、加えて、さまざまなランタニド系元素の空間的な読み出しをもたらすが、これは、ランタニド系元素を付けた関連タンパク質のATI/H&Eマップにおける位置を明らかにする。これは、臨床上の重要性に関する多重化された迅速な地図作成である。
図35のような組織切片に適用すると、乳房(および他の任意の腫瘍)のリンパ管および毛細血管内の細胞集団の特性、原発性および二次性腫瘍内の不均一性、ならびに、前立腺の針生検の場合の病理学的洞察をはるかに上回る包括的な概要のより完全な理解が可能となる。
【0351】
このATI/H&Eマップ上に重ね合わされた重層的情報を論理的に展開すると、これまで見られなかった新しい病理学的分類法がもたらされるが、それは、放射線治療に関連して評価することができる同一または一連の組織切片から、迅速な、臨床的に意義のある定量的な情報を生み出すものである。
【0352】
本発明の利点
本発明の2D地図作成の本質は、腫瘍をホモジナイズして、腫瘍の単位質量当たりのマンガン量を測定するという地図作成によらない別法と比較して、取り組むことができる臨床的な放射線治療に関係するいくつかの重要な特性を有する。
【0353】
・第1に、すべての腫瘍は、間質性物質の量および種類に関して不均一であるので、間質性物質に対する腫瘍細胞の相対量は、2Dマップを基準にした場合のみ可視化および測定が可能であるが、ATI中央値に影響を及ぼす。
【0354】
・第2に、2D領域がほぼすべての癌細胞で構成されている場合でも、それらの細胞はそのMnレベルに関して大きく異なっている可能性がある。
図1は、このことを完璧に示しており、切片の3分の1ほどは、約3,000のCC/S中央値を有するメラニン欠乏性腫瘍細胞からなるが、切片の残りの部分は、Mnレベルが15,000-45,000 CC/Sの間で異なる領域および45,000-150,000 CC/Sの間でさまざまとなるHMR(
55Mn)で構成される。この切片をホモジナイズしたならば、ATIの中央値は10,000 CC/Sをはるかに上回ったであろう。臨床的な意味で失われたであろうものは、この患者の放射線治療が、低いATIを有する腫瘍の3分の1を死滅させるので、全身腫瘍組織量は減少し、患者にとって臨床的に利益となったであろうことである。
【0355】
・より重要なことは、切片または腫瘍サンプルをホモジナイズすることは、本発明の重要な態様の1つである、腫瘍の再発を予測するHMR(
55Mn)を失わせることである。ほとんどのHMRは切片の10%未満に相当するので、ホモジナイズすると、ATI中央値はほとんど動かないが、HMR(
55Mn)の存在に関するその情報が失われる。
【0356】
正常な乳管、免疫細胞領域、脂肪細胞および間質細胞の入り混じった、
図35の乳癌の例において、もっとも危険な臨床的に意味のある細胞は、ただ1つのリンパ管C5内にすでにある細胞である。その細胞は転移の途上にあり、8,612 CC/Sの中央値を有する。もし切片全体をホモジナイズしたら、この臨床的に意味のある情報が完全に失われる。なぜならばホモジナイズされた切片の中央値は今や約1,669 CC/Sという、脂肪細胞集団、間質の割合、および正常な乳管における比較的低い値の影響を受けた低い値となるからである。
本発明は以下の実施形態を包含する。
[1] 試料の3次元領域のボクセルにおいてマンガンレベルを定量することを含む、生体試料の原子治療指標(ATI)を作成する方法であって、その方法が、
(a)前記試料のある2次元領域を選択すること、ここで、該2次元領域は組織分布的にX’:Y’座標系で定義され、このX’は2次元領域の長さ、Y’は2次元領域の幅であり、3次元領域は前記2次元領域に対応し、Zで表される選択された高さを有し、該3次元領域は、各ボクセルの体積がXxYxZで定義される、予め規定された体積のボクセルに分割され、Xはボクセルの長さ、Yはボクセルの幅、そしてZはボクセルの高さを表す;
(b)それぞれのボクセルにおけるマンガンレベルを定量すること;ならびに
(c)選択されたボクセルにおけるマンガンの中心傾向レベルを計算すること
を含み、選択されたボクセルにおけるマンガンの中心傾向レベルが前記ATIを定義する、前記方法。
[2] 癌の放射線応答性を判定する方法であって、実施形態1にしたがって試料のATIを作成することを含み、ATIが低いほどその癌は放射線に対して感受性が高く、ATIが高いほどその癌は放射線に対して抵抗性が高い、前記方法。
[3] 試料のボクセルにおけるマンガンレベルの定量が、参照標準を用いてキャリブレーションされ、該参照標準は1つもしくは複数の参照ボクセルを含んでなり、それぞれの参照ボクセルは既知量のマンガンを含有する、実施形態1〜3のいずれか1つに記載の方法。
[4] 参照標準が、既知量の内因性もしくは外因性マンガンを含有する生体試料である、実施形態3に記載の方法。
[5] ATIがキャリブレーションカウント/秒(CC/S)で表される、実施形態1〜4のいずれか1つに記載の方法。
[6] 中心傾向レベルが中央値、算術平均、または最頻値である、実施形態1〜5のいずれか1つに記載の方法。
[7] 1つもしくは複数の対照試料の3次元領域で定量されるマンガンレベルが、被験試料を定量するときに同時に、もしくは任意の順序で連続して、すなわち被験試料と並べて定量される、実施形態1〜6のいずれか1つに記載の方法。
[8] ATIをあらかじめ定められたATI閾値と比較して、ATIがATI閾値より高いか低いかを評価することによって癌の放射線応答性を判定し、
ATIがATI閾値より低いならば、癌は放射線に対して感受性であると判定される;ならびにATIがATI閾値より高いならば、癌は放射線に対して抵抗性であると判定される、
実施形態2〜7のいずれか1つに記載の方法。
[9] ATIを2つの予め決定されたATI閾値と比較し、ATIが2つの閾値より高いか低いかを評価することによって癌の放射線応答性を判定し、
ATIが低いほうのATI閾値より低いならば、癌は放射線に対して感受性であると判定される;
ATIが第2のATI閾値より高いならば、癌は放射線に対して抵抗性であると判定される;ならびに
ATIが該2つのATI閾値の間であるならば、癌は放射線に対して部分的に感受性であると判定される、
実施形態2〜7のいずれか1つに記載の方法。
[10] 選択されるボクセルが、癌細胞が検出されるボクセルである、実施形態1〜9のいずれか1つに記載の方法。
[11] 癌細胞が、癌細胞を他の細胞から区別する染色剤で染色された被験試料の2次元領域を目で見て検査すること(視覚的検査)によって検出され、好ましくはその染色剤はヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色剤である、実施形態10に記載の方法。
[12] 癌細胞が、抗体、好ましくは金属標識抗体、の癌細胞との結合によって検出される、実施形態10に記載の方法。
[13] Xが測定可能な任意の範囲内にあり、好ましくは約1ミクロンから約200ミクロンまでの範囲内である、実施形態1〜12のいずれか1つに記載の方法。
[14] Xが約10〜約50ミクロンから選択され、間にある任意の値であり、好ましくはXが約35ミクロンである、実施形態13に記載の方法。
[15] Yが測定可能な任意の範囲内にあり、好ましくは約1ミクロンから約200ミクロンまでの範囲内である、実施形態1〜14のいずれか1つに記載の方法。
[16] Yが約10〜約50ミクロンから選択され、間にある任意の値であり、好ましくはYが約35ミクロンである、実施形態15に記載の方法。
[17] Zが測定可能な任意の範囲内にあるが、好ましくは約1ミクロンから約20ミクロンの範囲内である、実施形態1〜16のいずれか1つに記載の方法。
[18] Zが約1〜約20ミクロンから選択され、間にある任意の値であり、好ましくはZは、約1、または約2、または約3、または約4、または約5ミクロンである、実施形態17に記載の方法。
[19] X、Y、およびZがそれぞれ、約1〜200ミクロン、1〜200ミクロン、および1〜20ミクロンから選択され、各範囲内の間にある任意の値である、実施形態1〜12のいずれか1つに記載の方法。
[20] X、Y、およびZがそれぞれ35ミクロン、35ミクロン、および5ミクロンである、実施形態19に記載の方法。
[21] 各ボクセルの予め規定された体積が、約1立方ミクロン〜約8 x 105立方ミクロン、または約1立方ミクロン〜約10,000立方ミクロン、または約2000立方ミクロン〜約8000立方ミクロンの範囲内である、実施形態1〜12のいずれか1つに記載の方法。
[22] 予め規定された体積が約6,125立方ミクロンである、実施形態21に記載の方法。
[23] ボクセル内のマンガンレベルの定量が、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)、レーザーアブレーション飛行時間型質量分析法(LA-TOF-MS)、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)、マイクロ波プラズマ原子発光分光法(MP-AES)、レーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS)、二次イオン質量分析法(SIMS)、X線吸収端近傍構造(XANES)、原子吸光分光法(AA)、または蛍光X線(XRF)によるものである、実施形態1〜22のいずれか1つに記載の方法。
[24] ボクセルが被験試料を横切るトラック内に配置され、マンガンレベルの定量が、トラックのレーザーアブレーションによって行われる、実施形態1〜23のいずれか1つに記載の方法。
[25] 被験試料が、細胞、細胞集団、1つもしくは複数の単細胞生物、組織サンプルもしくはその一部、臓器サンプルもしくはその一部、原核もしくは真核生物から得られる/に由来する1つもしくは複数の細胞、細胞集団およびそれに付随する非細胞性間質成分、腫瘍細胞もしくは腫瘍細胞集団、被験体由来の任意の臓器もしくは組織から得られる組織サンプル、腫瘍、細胞の固体塊もしくは「液体」集団、白血病細胞を含む任意の造血系癌の細胞、固形腫瘍に由来する循環細胞、ならびに転移した細胞もしくは転移した細胞集団から選択される、実施形態1〜24のいずれか1つに記載の方法。
[26] 被験体において癌を治療する方法であって、その方法が、被験体由来試料について実施形態1〜25のいずれか1つに記載の方法を実施すること、ならびにその試料が放射線に対して感受性であると判定されたら前記被験体の癌の治療に放射線治療を含めること、を含む前記方法。
[27] 被験体において癌を治療する方法であって、その方法が、被験体由来試料について実施形態1〜25のいずれか1つに記載の方法を実施すること、ならびにその試料が放射線に対して抵抗性であると判定されたら前記被験体の癌の治療に放射線治療を含めないこと、を含む前記方法。
[28] 被験体がヒトである、実施形態27に記載の方法。
[29] 対照試料が、細胞、細胞集団、1つもしくは複数の単細胞生物、組織サンプルもしくはその一部、臓器サンプルもしくはその一部、原核もしくは真核生物から得られる/に由来する1つもしくは複数の細胞、細胞集団およびそれに付随する非細胞性間質成分、腫瘍細胞もしくは腫瘍細胞集団、被験体由来の任意の臓器もしくは組織から得られる組織サンプル、腫瘍がたとえば細胞の固体塊もしくは「液体」集団である前記腫瘍、白血病細胞を含む任意の造血系癌、固形腫瘍に由来する循環細胞、ならびに転移した細胞もしくは細胞集団を含むか、またはそれらに由来する、実施形態7〜28のいずれか1つに記載の方法。
[30] 被験試料および/または対照試料が、乳癌、前立腺癌、精巣の癌、リンパ腫、小細胞肺癌、脳腫瘍、中皮腫、またはメラノーマの、腫瘍/新生物の細胞、細胞集団、または組織サンプルを含み、またはそれらに由来する、実施形態1〜29のいずれか1つに記載の方法。
[31] 放射線治療後の癌の再発可能性を判定する方法であって、その方法が、
(a)癌由来被験試料の2次元領域を選択することによって、前記試料の3次元領域においてマンガンレベルを定量すること、ここで、その2次元領域は組織分布的にX’:Y’座標系で定義され、このX’は2次元領域の長さ、Y’は2次元領域の幅であり、3次元領域は前記2次元領域に対応し、Zで表される選択された高さを有し、該3次元領域は、各ボクセルの体積がXxYxZで定義される、予め規定された体積の3個以上のボクセルに分割され、Xはボクセルの長さ、Yはボクセルの幅、そしてZはボクセルの高さを表す、ならびに各ボクセルにおけるマンガンレベルを定量すること;
(b)中心傾向の倍数または整数間の任意の近似値である統計的閾値によって可能となるように、周囲の領域よりマンガンレベルの高い癌の領域である、高メタロミック領域(HMR)を、ボクセルのX-Y座標に対応する2次元領域において同定すること、
を含み、HMRの頻度が高いほど癌再発の可能性が高く、HMRの頻度が低いほど癌再発の可能性が低い、前記方法。
[32] HMRが、間質成分から癌細胞を区別する染色剤によって染色された被験試料の2次元領域においても同定され、好ましくは染色剤がヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色剤である、実施形態31に記載の方法。
[33] メラノーマの放射線応答性を判定する方法であって、該方法は、メラノーマ由来の被験試料のメラニンレベルを測定することを含み、被験試料中のメラニンレベルが低いほど、そのメラノーマは放射線に対して感受性が高く、被験試料中のメラニンレベルが高いほど、そのメラノーマは放射線に対して抵抗性が高い、前記方法。
[34] メラノーマの放射線応答性を判定する方法であって、該方法は、メラノーマ由来の被験試料中のメラニンレベルを予め決定されたメラニン閾値と比較することを含み、メラノーマの放射線応答性は、被験試料中のメラニンレベルがメラニン閾値を上回るか下回るかを評価することによって判定され、
被験試料中のメラニンレベルがメラニン閾値より低ければ、そのメラノーマは放射線に対して感受性であると判定される;ならびに
被験試料中のメラニンレベルがメラニン閾値より高ければ、そのメラノーマは放射線に対して抵抗性であると判定される、
前記方法。
[35] 被験試料中のメラニンレベルが、2つの予め決定されたメラニン閾値と比較され、メラノーマの放射線応答性は、被験試料中のメラニンレベルが2つの閾値より上か下かを評価することによって判定され、
被験試料中のメラニンレベルが低いほうのメラニン閾値より低いならば、そのメラノーマは放射線に対して感受性であると判定される;
被験試料中のメラニンレベルが高いほうのメラニン閾値より高いならば、そのメラノーマは放射線に対して抵抗性であると判定される;ならびに
被験試料中のメラニンレベルが2つのメラニン閾値の間にあるならば、そのメラノーマは放射線に対して部分的に感受性であると判定される、
実施形態33または34に記載の方法。
[36] 被験体においてメラノーマを治療する方法であって、被験体由来の被験試料について実施形態33〜35のいずれか1つに記載の方法を実施すること、ならびにメラノーマが放射線に対して感受性であると判定された場合にはその被験体のメラノーマの治療に放射線治療を含めることを含む、前記方法。
[37] 被験体においてメラノーマを治療する方法であって、被験体由来の被験試料について実施形態33〜35のいずれか1つに記載の方法を実施すること、ならびにメラノーマが放射線に対して抵抗性であると判定された場合にはその被験体のメラノーマの治療に放射線治療を含めないことを含む、前記方法。