(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スポーツ界において、ボールにマイコンとセンサを埋め込み、ボールの動きを測定する試みが行われている。
後述する本発明は硬式野球のボールにマイコンを埋め込む技術であるので、これ以降、硬式野球ボールを例示して従来技術の説明を行う。
野球ボールやゴルフボール等のボールにマイコンとセンサを埋め込む、という技術思想自体は古くから提唱されていた。しかし、そのボールに埋め込まれたマイコンに、具体的にどのような手法で電源を供給し、どのような手法で電源のオン・オフ動作を行わせるのかについて、決定的な技術は未だ見受けられない。
【0005】
ボールは真っ直ぐに投てきされたら真っ直ぐに進まなければならない。すなわち、ボールの重心が中心からずれていてはいけない。このため、ボールの表面に電源スイッチを設ける、という技術は当然に採用できない。また、硬式野球ボールの製造工程は、中心の核部に毛糸を巻き付ける工程を含む。このため、中心の核部からボールの表面に何かを露出させるようなものを設けることは極めて困難である。同様の理由で、フォトトランジスタやフォトダイオード等の光センサも、機械スイッチと同様に、ボールの表面に設けなければならないのでこれも採用できない。
【0006】
ボールは厚みがあるため、ボールの外部から磁力を用いて電源供給を行うことは現実的ではない。したがって、一次電池を封入して、一次電池が完全に消耗するまで使用する、使い捨ての形態で実装せざるを得ない。磁力を用いて外部から非接触で電源オンを指示することは不可能ではないが、電源オン指示専用の装置を必要とするため、簡便でない。
また、電波を用いて非接触で電源のオン・オフを指示する、ということも考えられるが、パワーセーブモードにおいてもボール内部の通信モジュールに電源を供給し続けなければならないため、電池の消耗が激しく、実用的でない。
以上のように、硬式野球ボールにおいて電源オンを指示する、という技術課題を解決することは非常に困難であった。
【0007】
本発明は係る状況に鑑みてなされたものであり、外部に何らの装置を用いることなく、容易に電源オンを指示することができる、センサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のセンサ装置は、負荷に対する電源の供給を制御する電子スイッチと、3軸の加速度を検出して加速度データを送出する起動用加速度センサと、起動用加速度センサから得られるX軸加速度データ、Y軸加速度データ及びZ軸加速度データのそれぞれのデータに対し、絶対値に変換した上で合算し、合算加速度絶対値を出力する絶対値合算部とを具備する。更に、合算加速度絶対値を、地球の重力加速度を下回る自由落下検出閾値と比較するコンパレータと、コンパレータが、合算加速度絶対値が自由落下検出閾値未満の値になったことを、所定の時間間隔以上検出したことに呼応して、電子スイッチをオン制御する電源制御部とを具備する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、外部に何らの装置を用いることなく、容易に電源オンを指示することができる、センサ装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明者は、本発明の実施形態に係る投球動作計測装置を実現するにあたり、光も磁気も電波も使わずに投球動作計測装置に電源オンを指示する方法として、「ボールを真上に投げ上げる動作を検出する」、すなわち、自由落下の状態を与えることで、電源オンの指示を与えることを想到した。自由落下の状態を検出すれば、特別な器具を用いることなく、投球動作計測装置に電源オンの指示を与えることが実現できる。
【0012】
[投球動作計測装置101の外観と内部構造]
図1Aは、本発明の実施形態に係る投球動作計測装置101の使用態様として、投手102が投球動作計測装置101を投げるためのセットアップモーションの状態を示す概略図である。
図1Bは、投手102が投球動作計測装置101を投げた状態を示す概略図である。
図1A及び
図1Bを見てわかるように、本発明の実施形態に係る投球動作計測装置101は、投手102が硬式野球ボールを投げる動作を計測する機能を有する。
【0013】
図2Aは、投球動作計測装置101の外観図である。
図2Bは、投球動作計測装置101を輪切りにした状態を示す断面図である。
図2Cは、投球動作計測装置101の芯部204を示す概略図である。
投球動作計測装置101の外皮201は、硬式野球ボールと全く同一の牛革である。外皮201の直下は、綿糸層202と毛糸層203が存在する。この綿糸層202と毛糸層203も、硬式野球ボールと全く同一の仕様である。毛糸層203の更に内側には、投球動作計測装置101の機能を実現するマイコン等の電子回路が封入された芯部204が存在する。
すなわち、本発明の実施形態に係る投球動作計測装置101は、外観が硬式野球ボールと全く同一であり、更に芯部204を除き、硬式野球ボールと全く同じ製造プロセスで製造される。
芯部204には、CR2032等のボタン型電池と、ワンチップマイコンと、センサが実装されたプリント基板205が封入されている。
芯部204はボールの中心部分に位置しているので、多少重心がずれていても、投手102の投球動作に殆ど悪影響を及ぼさず、ほぼ真っ直ぐに投球できる。
【0014】
[投球動作計測装置101のハードウェア構成]
図3Aは、投球動作計測装置101のハードウェア構成を示すブロック図である。
ワンチップマイコン301は、バス302に演算装置であるCPU303、ROM304、RAM305、不揮発性ストレージ306が接続されている。バス302にはこの他に、外部のパソコンとBluetooth(登録商標)Low Energy規格で無線通信を行うための近距離無線通信部307と、I2C等のシリアルインターフェース308と、システムクロック309と、カウンタ310と、ドライバ311が接続されている。
シリアルインターフェース308には、起動用加速度センサ312と、6軸センサ313と、地磁気センサ314が接続されている。
ドライバ311には、電子スイッチであるNチャネル型のMOSFET315のゲートが接続されている。
【0015】
システムクロック309は、CPU303を含むワンチップマイコン301が動作するために必要な動作クロックを生成する。その際、ワンチップマイコン301がパワーセーブモードの時と、通常動作モードの時とで、出力する動作クロックの周波数を変更するように制御する。
すなわち、パワーセーブモードにおけるシステムクロック309は、後述する起動用加速度センサ312のデータを演算するに必要な最低限の演算能力を実現する、低い周波数の動作クロックを生成する。
また、通常動作モードにおけるシステムクロック309は、近距離無線通信部307と、6軸センサ313と、地磁気センサ314を稼働させ、外部のパソコンと通信を行うに必要な演算能力を実現する、高い周波数の動作クロックを生成する。
【0016】
起動用加速度センサ312は、3軸の加速度を検出して、デジタルの加速度データを送出するセンサである。この起動用加速度センサ312は、後述する6軸センサ313よりも低消費電力であり、このため6軸センサ313よりも出力するデータの分解能が低い。
6軸センサ313は、6軸の加速度を検出して、デジタルの加速度データ及び角加速度データを送出するセンサである。これは投手102の投球動作に起因する加速度及び角加速度のデータを出力する。
【0017】
地磁気センサ314は、3軸の地磁気の変化を検出して、デジタルデータを送出するセンサである。これは投手102の投球動作に起因して変動する地磁気の方向(地磁気センサ314自体の姿勢)を示すデータを出力する。
MOSFET315は、負荷Z316に対する電力の供給を制御するためのローサイドスイッチである。この負荷Z316は、
図3Bに示すように、6軸センサ313と地磁気センサ314が該当する。なお、Nチャネル型のMOSFET315に代えてPチャネル型のMOSFETを用いてハイサイドスイッチを構成してもよい。
【0018】
図3Bは、投球動作計測装置101の、電源と負荷Z316の関係を示す回路図である。
起動用加速度センサ312とワンチップマイコン301は電池317と接続されており、常に電力の供給を受けている。これに対し、6軸センサ313と地磁気センサ314はMOSFET315によってオン・オフ制御される。したがって、6軸センサ313と地磁気センサ314への電力の供給は、MOSFET315がオンになったときだけ、行われる。
【0019】
[投球動作計測装置101のソフトウェア機能]
図4は、投球動作計測装置101の、電源オン動作に関するソフトウェア機能を示すブロック図である。なお、
図4に示すブロック図は一部のソフトウェアの機能を等価的にハードウェアの記号にて記載したものを含む。したがって、必ずしも当該ハードウェアを使用しなければならない訳ではない。
スリープモードでは、ワンチップマイコン301は起動動作検出部401として動作する。
【0020】
起動用加速度センサ312は、X軸、Y軸及びZ軸の3軸について、デジタルの加速度データである、X軸加速度データ、Y軸加速度データ及びZ軸加速度データを出力する。
X軸加速度データ、Y軸加速度データ及びZ軸加速度データは、絶対値合算部402に入力される。絶対値合算部402は、X軸加速度データ、Y軸加速度データ及びZ軸加速度データのそれぞれのデータに対し、絶対値に変換した上で合算し、合算加速度絶対値を出力する。
この合算加速度絶対値は、コンパレータ403のマイナス側端子に供給される。コンパレータ403のプラス側端子には、地球の重力加速度に相当する1.0Gを下回る自由落下検出閾値404が供給されている。例えば0.3Gである。したがって、コンパレータ403は、合算加速度絶対値が自由落下検出閾値404未満の値になったら、論理の真を出力する。
【0021】
コンパレータ403の出力論理値は、カウンタ310のリセット端子に入力される。カウンタ310は、リセット端子の論理値が論理の偽である期間に、サンプルクロック
405から出力されるクロックパルスを計数する。
図4中、カウンタ310のリセット端子は負論理であるため、コンパレータ403の出力論理値が高電位の状態において、リセットが無効になり、カウンタ310の計数機能が有効化される。
カウンタ310はサンプルクロック405から出力されるクロックパルスを計数した値が、予め設定された所定の計数値に達したら、論理の真を出力する。所定の計数値は例えば「15」である。
【0022】
サンプルクロック405は、カウンタ310とコマンド発行部406にクロックパルスを出力する。クロックパルスの周波数は、例えば25Hzである。
コマンド発行部406は、起動用加速度センサ312に対し、加速度の計測を指示するコマンドを発行する。このコマンドは、自由落下状態が所定時間以上継続したことを検出できる、最低の分解能を実現する時間間隔で発行される。したがって、この時間間隔はサンプルクロック405によって決定される。
【0023】
カウンタ310が論理の真を出力すると、カウンタ310の出力端子に接続されている電源制御部407がオン動作する。
電源制御部407は、
カウンタ310が論理の真を出力したことに呼応して、システムクロック309が出力するクロックの周波数を低い周波数から高い周波数へ変更する。また同時に、電源制御部407は近距離無線通信部307をオン制御する。更に、電源制御部407はMOSFET315をオン制御する。こうして、投球動作計測装置101は通常動作モードに移行する。
【0024】
[投球動作計測装置101の起動処理の流れ]
図5は、投球動作計測装置101の、電源オン動作に関するソフトウェアの動作の流れを示すフローチャートである。
処理を開始すると(S501)、起動動作検出部401は先ず、動作モードをパワーセーブモードに設定する(S502)。
次に、起動動作検出部401は投てき動作のチェックを行う(S503)。投てき動作のチェックは、
図4の
カウンタ310の論理出力である。
カウンタ310が論理の偽を出力している場合、すなわち、起動動作検出部401が投てき動作を検出できない場合(S504のNO)は、起動動作検出部401は再び
カウンタ310の論理出力を見て、投てき動作のチェックを繰り返す(S503)。
【0025】
ステップS504において、
カウンタ310が論理の真を出力している場合、すなわち、起動動作検出部401が投てき動作を検出できた場合(S504のYES)、起動動作検出部401は動作モードを通常動作モードに設定する(S505)。次に、電源制御部407を通じてMOSFET315と近距離無線通信部307をオン制御し、システムクロック309のクロック周波数を通常動作用の周波数に転換する(S506)。
【0026】
次に起動動作検出部401は、パワーセーブ条件のチェックを行う(S507)。パワーセーブ条件とは、投球動作計測装置101が静置された状態が続き、パワーセーブモードに入るべきであると判断するための条件である。この条件は、例えば、起動用加速度センサ312の合算加速度絶対値が1.2G(地球の重力加速度の1.2倍)未満の状態を60秒維持させる等である。つまり、使わなくなったら自動的に電源オフ状態(厳密にはパワーセーブモードである)に移行するための条件である。
パワーセーブ条件が満たされない状態では(S508のNO)、起動動作検出部401は再度パワーセーブ条件のチェックを繰り返す(S507)。
【0027】
ステップS508において、パワーセーブ条件が満たされた場合(S508のYES)、起動動作検出部401は動作モードをパワーセーブモードに設定する(S502)。
起動動作検出部401は、電池317がなくなるまで
図5のステップS502からS508までの動作を繰り返す。
【0028】
[投てき動作のチェック]
図6は、投球動作計測装置101に計測用プログラムを書き込み、実際に投球動作計測装置101を真上に投げ上げた時の、起動用加速度センサ312から得られる合算加速度絶対値の変化を示すグラフである。横軸は時間であり、縦軸は合算加速度絶対値である。
静止状態において、投球動作計測装置101の起動用加速度センサ312から得られる合算加速度絶対値は、地球の重力加速度である1.0Gである。
時点T601において、投球動作計測装置101は真上に投げ上げられる。投球動作計測装置101が時点T602で試験者の手を離れるまで、時点T601から時点T602まで、合算加速度絶対値は1.0Gから上昇する。
【0029】
時点T602において、投球動作計測装置101は試験者の手を離れるので、投球動作計測装置101に加わる加速度は減少傾向になる。上昇する投球動作計測装置101の速度は減少する。やがて投球動作計測装置101の起動用加速度センサ312から得られる合算加速度絶対値は、再び1.0Gまで減少する。この時点T603が、投球動作計測装置101が投げ上げられた頂点に到達し、一瞬だけ静止した時点である。そして投球動作計測装置101はすぐに落下を始める。すると、時点T604において、合算加速度絶対値は0Gに限りなく近い値まで減少する。すなわち、ほぼ無重力に近い状態になる。
【0030】
起動動作検出部401は、この真上に投げ上げる動作によって生じる、時点T604以降に生じる、無重力状態を捉える。そこで、コンパレータ403を用いて、合算加速度絶対値が自由落下検出閾値G605未満の値になったことを検出する。厳密には、時点T606において、合算加速度絶対値が自由落下検出閾値G605未満になった時点から、カウンタ310でサンプルクロック405が出力するクロックパルスの計数を開始する。そして、カウンタ310の計数値が所定の値に達した時点T607で、カウンタ310は論理の真を出力する。
以上、投球動作計測装置101が所定の時間間隔(時点T606からT607の間)、自由落下状態を維持したことをカウンタ310が検出することで、投球動作計測装置101が真上に投げ上げられたことを検出することが可能になる。
【0031】
本実施形態では、投球動作計測装置101を開示した。
硬式野球ボールの形態である投球動作計測装置101は、投球動作計測装置101を投げ上げたことによって生じる自由落下状態を、起動用加速度センサ312、コンパレータ403及びカウンタ310の機能を用いて検出することで、パワーセーブモードから通常動作モードに移行することができる。すなわち、特別な装置等を用いることなく、簡単に電源オン状態に移行させることが可能になる。
また、特別な製造工程を用いることなく、従来の硬式野球ボール製造設備のままで本発明の実施形態に係る投球動作計測装置101を製造することが可能である。
【0032】
本実施形態において説明した投球動作計測装置101は、芯部204を更に小型化させることで、ゴルフボールにも適用が可能である。ゴルフボールの場合には、投球動作の計測ではなく、ショットの計測になる。すなわち本発明は、競技の種類を問わず、ボールの中心部分に封入するセンサを有する、センサ装置として広く適用が可能である。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。