特許第6603920号(P6603920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6603920
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】ホローカソード
(51)【国際特許分類】
   H01J 1/22 20060101AFI20191031BHJP
【FI】
   H01J1/22
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-130283(P2015-130283)
(22)【出願日】2015年6月29日
(65)【公開番号】特開2017-16795(P2017-16795A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】391019360
【氏名又は名称】株式会社ナガノ
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】窪田 健一
(72)【発明者】
【氏名】大塩 裕哉
(72)【発明者】
【氏名】張 科寅
(72)【発明者】
【氏名】大川 恭志
(72)【発明者】
【氏名】船木 一幸
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】安藤 春夫
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄平
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−250316(JP,A)
【文献】 特開昭56−112100(JP,A)
【文献】 特開2007−040436(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0058305(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 1/00
F03H 1/00
H05H 1/00
H05B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気推進装置又は汎用イオン源において使用されるホローカソードであって、
端部に円筒状部を有するカソードチューブと、
前記カソードチューブの前記円筒状部の内側に設けられ、加熱することによって電子を放出する電子放出材と、
前記円筒状部の周囲に、前記カソードチューブから離間して設けられた、少なくとも前記円筒状部の周囲の部分の全体が発熱するヒータと、
を備え、前記ヒータを加熱したときに生じる放射により前記カソードチューブ及び電子放出材を加熱して前記電子放出材から前記電子を放出することを特徴とするホローカソード。
【請求項2】
前記ヒータを覆うように設けられたヒートシールドをさらに備え、当該ヒートシールドと前記ヒータとが離間した状態を維持する支持手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のホローカソード。
【請求項3】
前記ヒータには、軸方向の切れ目が複数設けられ、前記支持手段は、これらの切れ目に挿入可能な形状とされていることを特徴とする請求項2に記載のホローカソード。
【請求項4】
前記ヒータの素材は炭素を含むことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載のホローカソード。
【請求項5】
前記ヒータの素材はタングステンを含むことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載のホローカソード。
【請求項6】
前記ヒータの素材はタンタルを含むことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載のホローカソード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙機の電気推進装置や汎用イオン源に使用されるホローカソードに関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙機の宇宙空間における推進手段の一つして電気推進という技術が知られている。電気推進では、プラズマと呼ばれる高温のガスを生成し、これに電圧を印加してイオンを加速し外部へ噴射することによって推力を得る。このイオンビームの電気的中和あるいは放電室への電子供給のために、電子源が必要となる。この電子源の一つとしてホローカソードが知られている。
【0003】
図4は、従来のホローカソードの電子放出部近傍(全体を符号101で示す)の構造を示した断面図である。図4に示すように、ホローカソードの電子放出部近傍101には、円筒状のカソードチューブ110と、その内側に設けられた電子放出材であるサーミオニック・エミッタ(「インサート」とも言う)102が設けられる。カソードチューブ110の外側にはヒータ103が巻かれる。ヒータ103は、カソードチューブ110とは電気的に絶縁する必要があるため、ヒータ103とカソードチューブ110とを絶縁するとともにヒータ103を固定する、アルミナなどからなる絶縁体104が設けられる。絶縁体104の外側には、熱の散逸を低減する金属からなるヒートシールド105が設けられる。さらにその外側には、ホローカソードの全体を包む、全体として円筒状のキーパー電極106が設けられる。なお、図4では、カソードチューブ110の下流端部分のみを示している。
【0004】
ヒータ103の電源をオンにすると、ヒータ103は加熱し、それに伴いカソードチューブ110を介してサーミオニック・エミッタ102が熱伝導により加熱される。そしてサーミオニック・エミッタ102が所定の温度以上に加熱した上でキーパー電極106あるいは図4の左側に電圧を印加すると、サーミオニック・エミッタ102から電子が放出され放電が開始する。図4の右側からは、例えばキセノンなどの不活性ガスが供給され放電によりプラズマ化する。サーミオニック・エミッタ102から放出された電子は、キーパー電極106や外部から印加された電圧によって加速され、カソードチューブ110の左側に設けられた開口部110a及びキーパー電極106に設けられた開口部106aを経て外部に放出される。
【0005】
電子放出材であるサーミオニック・エミッタ102としては、従来BaO等の酸化物が含浸されたタングステンが使用されていたが、取り扱いが困難であるため、近年ではより取り扱いが容易なLaB6が注目されている。しかし、LaB6から電子を放出させるためには、より高温(例えば1500℃あるいはそれ以上)まで加熱する必要がある。したがって、ホローカソードにはこの高温に耐えうる高い耐熱性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5376449号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Goebel, D. M. and Watkins, R. M., "Compact Lanthanum Hexaboride Hollow Cathode," Review of Scientific Instruments 81, 8, 083504 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図4に示したホローカソード101では、カソードチューブ110の周囲にヒータ103が巻かれ、ヒータ103が発する熱が、絶縁体104及びカソードチューブ110を介した熱伝導でサーミオニック・エミッタ102に伝達され加熱される。しかし、高温の状況下では、ヒータ103の線材と絶縁体104との化学反応によって変質することがあり、また各部の熱膨張によって空隙が発生するなどして絶縁体104が破損し、ヒータ103が故障するリスクが高いことが問題となっている。本発明はかかる問題を解決することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る、電気推進装置又は汎用イオン源において使用されるホローカソードは、
端部に円筒状部を有するカソードチューブと、
前記カソードチューブの前記円筒状部の内側に設けられ、加熱することによって電子を放出する電子放出材と、
前記円筒状部の周囲に、前記カソードチューブから離間して設けられたヒータと、
を備え、前記ヒータを加熱したときに生じる放射により前記カソードチューブ及び電子放出材を加熱して前記電子放出材から前記電子を放出することを特徴とする。
【0010】
さらに、前記ヒータを覆うように設けられたヒートシールドをさらに備え、当該ヒートシールドと前記ヒータとが離間した状態を維持する支持手段を備える。
【0011】
前記ヒータには、軸方向に切れ目を複数設け、前記支持手段を、これらの切れ目に挿入可能な形状とすることができる。
【0012】
前記ヒータの素材としては、炭素繊維、タングステン、タンタルを含むものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態のホローカソードの電子放出部近傍の構造を示した断面図である。
図2】本発明の一実施形態のホローカソードの電子放出部近傍のやや簡略化した断面図である。
図3】2種類の電気推進装置におけるホローカソードが配置される位置を示した図である。
図4】従来のホローカソードの電子放出部近傍の構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るホローカソードの電子放出部近傍(全体を符号1で示す)を示しており、(a)は軸に垂直な断面図(左側)、(b)は軸方向に沿った断面図(右側)である。図2は、図1の主要部を分かりやすく簡略化して示した軸方向に沿った断面図である。図1及び図2おいて、同一構成部分には同じ符号を付してある。
【0015】
図3は、2種類の電気推進装置のどこにホローカソードが配置されるかを示した図であり、(a)はイオンエンジンの場合、(b)はホールスラスタの場合である。図3の破線の四角で囲んだ部分がホローカソードである。
【0016】
図1及び図2に示すように、本実施形態のホローカソードの電子放出部近傍1には、円筒状のカソードチューブ10と、その内側に設けられたサーミオニック・エミッタ2と、カソードチューブ10の外側に設けられる放射加熱ヒータ3と、放射加熱ヒータ3の外側に設けられ、熱の散逸を低減するヒートシールド5と、ホローカソードの全体を包む、全体として円筒状のキーパー電極6(図2では、カソードチューブの左側の部分のみ示している)とが含まれている。
【0017】
図2によく示されているように、放射加熱ヒータ3とカソードチューブ10との間には空間が設けられ、放射加熱ヒータ3とヒートシールド5との間にも空間が設けられている。さらに、図1に示すように、放射加熱ヒータ3とヒートシールド5との間の離間した状態を維持するために、断面(軸に垂直に切った断面)がT字状の支持部材11a、11b、11c、11dが設けられている(図2では省略した)。支持部材11a、11b、11c、11dは、例えばセラミック製とすることができる。ヒートシールド5は金属膜からなるため、T字状の支持部材11a、11b、11c、11dを設けることによって、放射加熱ヒータ3とヒートシールド5との短絡を防止することができる。このように放射熱で加熱する本実施形態のホローカソードの構造では、図4に示した、ヒータ103の熱をカソードチューブ110に直接伝達するための絶縁体104は不要となる。
【0018】
放射加熱ヒータ3は、例えば炭素からなる素材、具体的にはCCコンポジットなどの炭素複合材などから作成することができる。他にも例えばタングステン、タンタルなどの素材から形成することも可能である。放射加熱ヒータ3は、全体としてはカソードチューブ10を包む円筒状であるが、複数の適切な切れ目を逆方向から交互に設けることによって軸と平行に電流が行き来する電流経路が形成されるような形状とする。この切れ目に、前述のT字状の支持部材11a、11b、11c、11dを挿入することによって、容易に支持部材を装着することができる。こうして形成される電流経路の両端から電流を供給することによって、放射加熱ヒータ3の全体を発熱させることができる。
【0019】
放射加熱ヒータ3を高温まで加熱すると、放射を発生する。この放射が放射加熱ヒータ3とカソードチューブ10との間の空間を伝搬してカソードチューブ10に達すると、カソードチューブ10を加熱し始める。すなわち、放射加熱ヒータ3とカソードチューブ10は物理的には接触していないが、放射加熱ヒータ3を加熱することによって、空間を伝搬する放射によりカソードチューブ10を加熱することができる。カソードチューブ10が加熱されると、その内側に設けられたサーミオニック・エミッタ2にもその熱が伝わり加熱される。そして、サーミオニック・エミッタ2の温度が一定程度の高温に達した際にキーパー電極などに電圧を印加すると、電子を放出する。放出された電子が図の右側から左側へ向かって放出される点は、従来のホローカソードと同様である。
【0020】
放射加熱ヒータ3からの放射は、カソードチューブ10に向かうだけでなく外側にも向かうが、放射加熱ヒータ3の周囲に金属膜からなるヒートシールド5を設けることによって、外部へ散逸する熱を軽減することができる。
【0021】
放射加熱ヒータ3とカソードチューブ10との間に空間を設けることによって、カソードチューブ10に熱膨張が生じても、従来のように、ヒータの周囲に設けられていた絶縁体が破損するという問題は生じない。そして、カソードチューブ10自身が破損することもなく、また、カソードチューブ10の熱膨張が放射加熱ヒータ3に影響を与えることもない。このため、従来のホローカソードよりも優れた耐久性を備え、信頼性は高まる。
【0022】
ところで、空間を伝搬する放射による加熱は、最初に加熱することだけを考えた場合、熱伝導によって直接加熱する場合に比べ、消費電力の観点からは有利とは言えないかもしれない。しかしながら、一旦高温のプラズマガスが発生すると、その熱は内側からサーミオニック・エミッタ2及びカソードチューブ10に伝わって高温が維持される。このため、高温のプラズマガスが発生した後は、断熱性が高い場合は放射加熱ヒータ3の動作を停止させることができる。図4に示した従来のホローカソードでは、カソードチューブとヒータが直接接しているため熱が外部に散逸しやすく、高温のプラズマガスが発生した後でも、断熱性が悪い場合は放電を維持するために、ヒータのオン、キーパー電極への投入電力増、ガス流量増などをする必要があった。
【0023】
これに対し、本発明に係るホローカソードでは、カソードチューブ10の外側は直接ヒータに接していないため、熱伝導による熱の散逸を低減できるため高温の維持性能が高く、ヒータオン、キーパー電極への投入電力増、ガス流量増などを伴わずに放電を維持できる動作領域が広くなる可能性が高い。すなわち、電気推進装置の様々な動作条件に柔軟に対応できる。したがって、従来のホローカソードと比較して種々の電気推進装置への適用性が高い。
【0024】
以上では、電気推進装置の電子源を加熱するためのホローカソードについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。電気推進装置以外の、例えば汎用イオン源にも本願発明のホローカソードを使用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1,101 ホローカソードの電子放出部近傍
2,102 サーミオニック・エミッタ
3 放射加熱ヒータ
5,105 ヒートシールド
6,106 キーパー電極
7a,7b,107a,107b 電源
10,110 カソードチューブ
103 ヒータ
104 絶縁体
図1
図2
図3
図4