特許第6604005号(P6604005)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604005
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/16 20060101AFI20191031BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   G03G15/16 103
   G03G15/00 303
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-37115(P2015-37115)
(22)【出願日】2015年2月26日
(65)【公開番号】特開2016-161587(P2016-161587A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2018年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋太郎
【審査官】 山下 清隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−223779(JP,A)
【文献】 特開2001−051518(JP,A)
【文献】 特開2004−219716(JP,A)
【文献】 特開2001−255760(JP,A)
【文献】 特開2000−298410(JP,A)
【文献】 特開2001−331045(JP,A)
【文献】 特開2013−114226(JP,A)
【文献】 特開2011−007907(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0047988(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/16
G03G 15/00−15/01
G03G 21/00
G03G 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙へ転写する像を担持する像担持体と、
前記用紙を搬送するともに、前記像担持体に対向するように配置されてニップ部を形成するベルト状の転写部材と、
前記転写部材の内側に配置されたローラで構成され、前記ニップ部において前記転写部材の内側に当接する転写部と、
前記転写部を通じて前記転写部材に電圧を印加して、用紙を前記像担持体から分離する第1の電流および前記像担持体上に担持された像を用紙へ転写する第2の電流のうち、少なくとも前記第2の電流を前記ニップ部に供給する転写電源と、
前記転写電源が前記転写部材へ供給する電流を制御する転写電流制御部と、
前記転写電源の電圧を検知する電圧検知部と、
前記転写部材を前記像担持体に接触又は離間させる接離部と、
前記転写部材が前記像担持体と離間した状態における前記電圧検知部の検知結果と前記転写電源が供給する電流の補正値との対応関係を記憶する記憶部と、
前記接離部により前記転写部材を前記像担持体から離間させた状態で、前記転写電源から前記転写部材に所定の電荷を付与した場合における前記電圧検知部の検知結果に基づき、前記検知結果と前記転写電源が供給する電流の補正値との前記対応関係により、前記転写電源が前記転写部材へ供給すべき電流を決定する制御を行う制御部と、を備え、
前記制御部は、所定の坪量以下の用紙に画像を形成する時に、前記検知結果と前記転写電源が供給する電流の補正値との前記対応関係により、前記転写電源が前記転写部材へ供給すべき電流を決定する制御を行う
画像形成装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記電圧検知部により検知された前記転写電源の電圧が小さいほど、前記第1の電流または前記第2の電流の絶対値を、大きい値に決定する
請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電圧検知部により検知された前記転写電源の電圧が所定のしきい値よりも小さい場合に、前記転写電源が前記転写部材へ供給すべき電流を変更する
請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記転写電流制御部は、前記転写電源から出力される前記電流が一定の電流値となるよう制御する
請求項1乃至3のいずれかに記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記転写部材が高湿環境下である場合、または前記転写部材が所定の時間以上放置された場合に、前記検知結果と前記転写電源が供給する電流の補正値との前記対応関係により、前記転写電源が前記転写部材へ供給すべき電流を決定する制御を行う
請求項1乃至4のいずれかに記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、像担持体を有する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ベルト転写方式の画像形成装置が知られている。ベルト転写方式では、感光体ドラムと接触するように転写ベルトを走行させ、感光体ドラム上に形成したトナー像と同期して用紙を搬送する。転写ベルトにトナーの帯電極性とは逆極性(転写極性)の転写電圧を印加し、静電引力により感光体ドラム上のトナー像を用紙側に転写させる。
【0003】
ベルト転写方式では、画像形成装置の長期間の使用により転写ベルト内面に付着物が生成される場合がある。この状態で画像形成装置が高湿環境下に長時間放置された場合には、転写ベルト内面の付着物が空気中の水分を吸収(吸湿)することで、転写ベルトの電気抵抗が低下する。
【0004】
転写ベルトの表面抵抗が低下すると、転写ローラに電圧を印加してニップ部に電流を流す場合に、転写ローラから感光体へ向かう方向のみならず、転写ベルトに沿って、転写ベルトの移動方向の上流側や下流側にも電流が流れる場合がある。すなわち、転写ベルトの移動方向に沿った方向に電流が漏れ、転写ローラから感光体へ向かう電流の割合が減少する。このため、用紙(誘電体)の先端部を感光体ドラムから分離する際に、転写ベルトと用紙先端部との間に生じる電界(分離電界)が小さくなり、感光体ドラムからの記録用紙の分離性能が低下してしまう。また、感光体ドラム上に形成したトナー像を用紙に転写する際に生じる電界(転写電界)も小さくなるため、トナーの転写性能も低下してしまう。
【0005】
そして、転写ベルトの使用履歴(例えば、画像形成装置における総プリント枚数)が増大すると、転写ベルトの内周面に放電生成物等が形成されて当該転写ベルトは吸湿しやすくなるため、用紙の分離性能が低下する現象は悪化する傾向にある。
【0006】
さらに言えば、湿度環境、転写ベルトの放置時間、転写ベルトの使用履歴、およびプリント開始からの出力数等、多くのパラメーターによって、転写ベルトや感光体ドラムの抵抗値、および用紙先端部に作用する転写電界は様々に変化する。そのため、高湿環境下における感光体ドラムからの用紙の分離性能を制御することは困難である。
【0007】
特許文献1には、環境条件に応じて抵抗が変化する弾性材料からなる転写ベルトを、転写バイアスを印加する高圧電源を電源とする環境センサとして使用し、環境条件に応じた制御を行う画像形成装置が記載されている。この画像形成装置は、転写ベルトを感光体ドラムから離間させた後、高圧電源から電圧を印加された転写ベルトの印加電圧と流れる総電流を検出し、環境条件に応じた環境値を設定してメモリに記憶させる。そして、画像形成装置は、メモリから読み出した環境値に応じて各種の制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−197837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の発明は、転写ローラ(バイアスローラ)と感光体とが転写ベルトの面方向に離れて配置され、通常の画像形成時に転写ベルトの面方向に転写電流を流す構成である。そのため、転写ベルトの面方向の抵抗変動に対して転写出力を制御する手段は必須であり、転写ベルトに流れる電流を駆動ローラ及び従動ローラを通して検知する手段を備えている。そして、このような手段を用いて、プリント時(感光体ドラムと転写ベルトの圧着時)に転写ベルトに流れる電流を検知して転写出力を制御する。感光体ドラムから転写ベルトを離間させるのは環境を検知するためであり、転写出力については考慮されていない。
【0010】
さらに、特許文献1に記載の発明は、転写ベルトが持つ抵抗値の環境依存性(環境条件に応じて抵抗が変化する特性)を利用し、印加電圧と検知電流との関係から転写ベルトの抵抗値即ち環境値を算出し、その環境値に応じて画像形成条件を制御している。転写ベルト内面の放電生成物(付着物)に対する検知は行われていない。
【0011】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、画像形成装置が高湿環境下に長時間放置されて、転写ベルトの付着物が吸湿することにより転写ベルトの抵抗値が低下した場合であっても、像担持体から用紙へのトナー像の転写性能の低下といった、ニップ部における電界の減少による障害を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様の画像形成装置は、像担持体と、転写部材と、転写電源と、転写電流制御部と、電圧検知部と、接離部と、記憶部と、制御部とを備える。
像担持体は、用紙へ転写する像を担持する。
転写部材は、前記用紙を搬送するともに、前記像担持体に対向するように配置されてニップ部を形成する。
転写電源は、前記転写部材に電圧を印加して、用紙を前記像担持体から分離する第1の電流および前記像担持体上に担持された像を用紙へ転写する第2の電流のうち、少なくとも前記第2の電流を前記ニップ部に供給する。
転写電流制御部は、前記転写電源が前記転写部材へ供給する電流を制御する。
電圧検知部は、前記転写電源の電圧を検知する。
接離部は、前記転写部材を前記像担持体に接触又は離間させる。
記憶部は、前記転写部材が前記像担持体と離間した状態における前記電圧検知部の検知結果と前記転写電源が供給する電流の補正値との対応関係を記憶する。
制御部は、前記接離部により前記転写部材を前記像担持体から離間させた状態で、前記転写電源から前記転写部材に所定の電荷を付与した場合における前記電圧検知部の検知結果に基づき、前記検知結果と前記転写電源が供給する電流の補正値との対応関係により、前記転写電源が前記転写部材へ供給すべき電流を決定する制御を行う。
【発明の効果】
【0013】
少なくとも本発明の一態様の画像形成装置によれば、転写部材を像担持体から離間した状態で転写電流印加時の電圧を測定することで、転写部材の厚み方向の抵抗変動の影響を受けることなく、転写部材の抵抗値の変化に応じた転写部材経由の電流漏れ量を推測することができる。それにより、その電流漏れ量に応じた転写電流の適正な補正が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明が適用される画像形成装置の一例を示す全体構成図である。
図2】本発明が適用される画像形成装置の制御系の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る転写電流を決定する処理例を示すフローチャートである。
図4】離間時検知電圧と適正補正係数との対応関係の一例を示すグラフである。
図5】本発明の有効性を確認する実験(実験1)の結果を示す図である。
図6】本発明の有効性を確認する実験(実験2)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明や各図において、同一要素または同一機能を有する要素には同一の符号を付して示し、重複する説明は省略する。
【0016】
<1.第1の実施の形態>
[画像形成装置の構成例]
まず、本発明が適用される画像形成装置の概要について、図1を参照して説明する。
図1は、本発明が適用される画像形成装置の一例を示す全体構成図である。
【0017】
本発明の一実施の形態に係る画像形成装置として、複写機、プリンタ装置、ファクシミリ装置、印刷機、複合機等を例示することができる。以下に、本実施の形態に係る画像形成装置が複写機である場合を例に挙げて説明する。
【0018】
図1に示す画像形成装置10は、電子写真プロセスにより用紙に画像を形成する。図1に示すように、画像形成装置10は、画像形成装置本体20、画像読取装置30、自動原稿送り装置40を有する構成となっている。
【0019】
画像形成装置本体20は、画像形成部210、定着部220および用紙搬送部230を有する。この画像形成装置本体20において、画像形成部210は、感光体211、帯電部212、露光部213、現像部214、転写部(バックアップローラ)215、転写ベルト217(転写部材の一例)、およびクリーニング部216等から構成されている。
【0020】
感光体211は、像担持体として機能する感光体ドラムであり、図示しない駆動源による駆動によって回転する。帯電部212は、感光体211に電荷を与えることによって当該感光体211の表面を一様に帯電する。露光部213は、原稿dから読み取られた画像データ等に基づいて、感光体211の表面に対して露光を行うことにより、感光体211上に静電潜像を形成する。
【0021】
現像部214は、トナーとキャリアからなる2成分現像剤を用いて、感光体211上に形成された静電潜像を現像してトナー像とする。感光体211の外周面の一部と接触する転写ベルト217の内側には、転写ベルト217に対して転写電圧を印加可能なバックアップローラである転写部215が配置されている。転写ベルト217は、第2給紙部233等により感光体211の近くまで搬送された用紙Pを更に搬送し、転写部215の位置で、感光体211上に形成されたトナー像を用紙Pに転写する。クリーニング部216は、感光体211上に残留しているトナーを除去する、即ち、感光体211の表面をクリーニングする。
【0022】
用紙搬送部230は、給紙カセット231、第1給紙部232、第2給紙部233、排紙部234、搬送路切換部235、循環再給紙部236、および反転排紙部237から構成されている。
【0023】
自動原稿送り装置40の原稿台上に載置された原稿dは、原稿搬送部41によって画像読取装置30へ搬送される。画像読取装置30へ搬送された原稿dは、その片面又は両面の画像が光学系により露光され、イメージセンサ31によって読み取られる。イメージセンサ31により光電変換されたアナログ信号は、画像処理部32において、アナログ処理、A/D変換処理、シェーディング補正処理、画像圧縮処理等の各種の処理が行われる。そして、各種の信号処理が行われた画像信号は、画像処理部32から露光部213に送られる。
【0024】
画像形成部210においては、感光体211の表面が帯電部212により帯電され、露光部213からのレーザ光の照射により静電潜像が形成され、現像部214により静電潜像が顕像化されてトナー像となる。次いで、給紙カセット231に収容された用紙Pが第1給紙部232によって搬送される。用紙Pは、レジストローラから成る第2給紙部233でトナー像との同期がとられて搬送される。その後、用紙Pは、転写部215でトナー像が転写され、しかる後定着部220により定着される。
【0025】
定着後の用紙Pは、排紙部234によって画像形成装置本体20外に排出される。一方、クリーニング部216により感光体211上の転写残りのトナーの除去処理が行われる。なお、両面コピーの場合は、第1面に画像形成された用紙Pは、循環再給紙部236に送り込まれて反転され、再び画像形成部210において第2面に画像形成後、排紙部234によって画像形成装置本体20外に排出される。反転排紙の場合には、通常の排紙通路から分岐した用紙Pは、反転排紙部237においてスイッチバックして表裏反転された後、排紙部234によって画像形成装置本体20外に排出される。
【0026】
環境検知センサ240は、画像形成装置本体20内部の温度及び湿度を測定し、測定結果(環境値)として測定データを制御部51へ供給する。環境検知センサ240は、転写ベルト217の近傍に配置されることが望ましい。環境検知センサ240の検知結果から、画像形成装置10内部(特に転写ベルト217)の環境がわかる。
【0027】
[画像形成装置の制御系]
次に、画像形成装置10の制御系を説明する。
図2は、画像形成装置10の制御系の一例を示すブロック図である。
【0028】
転写ベルト217は、駆動ローラ218、従動ローラ219、および他のローラの間に張架され、感光体211の下方で、転写ベルト217の表面が感光体211の外周面の一部と接触するように配置されている。すなわち、転写ベルト217と感光体211とは対向するように配置され、転写ベルト217と感光体211との間において、転写領域としてのニップ部NPが形成される。用紙Pは、ニップ部NPにおいて転写ベルト217により感光体211に押圧されながら搬送される。また、転写ベルト217の内側には、転写ベルト217に対して転写電圧を印加可能な転写部(バックアップローラ)215が配置されている。駆動ローラ218および従動ローラ219は、接地されている。
【0029】
転写ベルト217には、厚さ0.5[mm]のクロロプレーンゴム等により構成される基材の表面に、コート層として厚さ3[μm]のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を施したものが用いられる。転写ベルト217は、所定の環境(温度:20[℃]、相対湿度:50[%]、電圧印加:500[V])下において、体積抵抗率が9.5[log(=109.5)Ω・cm]で、表面抵抗率が10.5[log(=1010.5)Ω/□]である。なお、体積抵抗とは、転写ベルト217の厚み方向における抵抗である。また、表面抵抗とは、転写ベルト217の面方向における抵抗である。
【0030】
転写ベルト217に正極性の転写電圧が印加されることによって、感光体211に接触中の用紙Pに、感光体211上の負極性のトナー像が転写される。
【0031】
画像形成装置10は、制御系として、制御部51、記憶部52、転写電流制御部53、転写電源54、電圧検知部55、及びベルト接離部56(接離部の一例)を備える。
【0032】
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えている。制御部51のCPUは、ROMから処理内容に応じたプログラムを読み出してRAMに展開し、展開したプログラムと協働して画像形成装置10の各ブロックの動作を制御する。このとき、記憶部52に格納されている各種データが参照される。また、制御部51は、環境検知センサ240から検知結果(環境値)を受信する。記憶部52には、環境検知センサ240から供給される環境値の他、用紙の紙種や坪量などのデータが記憶されている。記憶部52は、例えば不揮発性の半導体メモリ(いわゆるフラッシュメモリ)やハードディスクドライブで構成される。
【0033】
転写部215に接続された転写電源54は、転写ベルト217に転写電圧(電荷)を印加する電源である。転写電源54は、転写電流制御部53から印加される電流に応じて、転写部(バックアップローラ)215に転写電圧を供給する。
【0034】
転写電流制御部53は、制御部51の制御により、転写電源54から転写部215に一定の電流(広義の転写電流)が流れるように、転写電源54を定電流制御する。ニップ部NPにおいて同じ強さの電界が形成されるよう転写電源54から出力される電流を制御することにより、分離性や転写性が安定する。
【0035】
電圧検知部55は、転写電源54の電圧を検出し、電圧に応じた信号を検知結果として制御部51へ通知する。これら転写電流制御部53、転写電源54および電圧検知部55は、周知の電気回路又は電子回路を適宜用いて構成することができ、詳細な説明を割愛する。
【0036】
ベルト接離部56は、制御部51の制御により、駆動ローラ218を軸に転写ベルト217全体を矢印方向に回動させて、転写ベルト217を感光体211に接触又は離間させる。以下、感光体211と転写ベルト217が接触しているときを単に「圧着時」、また感光体211と転写ベルト217が離間しているときを単に「離間時」と記すことがある。
【0037】
[転写電流値を決定する処理]
以下、画像形成装置10の動作の概要を説明する。
図3は、本発明の一実施の形態に係る転写電流値を決定する処理例を示すフローチャートである。制御部51は、記憶部52に記憶されたプログラムを実行することで、図3に示す処理を実現する。
【0038】
図3の制御を実行するタイミングとしては、様々なタイミングが考えられる。例えば、画像形成装置10の電源を入れてから該画像形成装置10を立ち上げる際に実行してもよいし、所定の枚数の用紙(例えば10ページ)に対して画像を形成する毎に実行してもよい。ここでは例として、画像形成装置10の電源を入れてから、画像形成動作を開始する前に図3の制御を実行する場合について説明する。
【0039】
画像形成装置10の制御部51は、画像形成動作を開始する前に、転写部215に印加する転写電流の電流値を決定するモード(以下「転写電流決定モード」と記す)を開始する(S1)。
【0040】
次に、制御部51は、環境検知センサ240の検知結果に基づいて、画像形成装置本体20内部の湿度が基準湿度よりも高い、あるいは放置時間が基準時間よりも長いかどうかを判定する(S2)。ここで、検知された湿度が基準湿度よりも高くない場合(S2のNO)、あるいは放置時間が基準時間よりも短い場合には、制御部51は、転写電流の補正を行わずにステップS5へ進む(ステップS7)。
【0041】
ステップS2の判定処理において画像形成装置本体20内部の湿度が基準湿度よりも高い、あるいは放置時間が基準時間よりも長い場合には(S2のYES)、制御部51は、ベルト接離部56を制御して転写ベルト217を感光体211から離間させる。その後、転写電流制御部53が、制御部51の制御により、転写電源54に所定の電流を印加する。そして、電圧検知部55は、感光体211と転写ベルト217が離間しているときの転写電源54の電圧(以下「離間時検知電圧」と称す)を計測する(S3)。電圧検知部55により検出された転写電源54の電圧の検知結果が、制御部51へ供給される。
【0042】
制御部51は、記憶部52に記憶された、転写電源54の電圧と、通常時の転写電流値を基準とした適正補正係数(補正値)との対応関係(図4参照)から、転写電流の補正計数を算出する(S4)。
【0043】
次に、制御部51は、環境や紙種等に応じて決められた通常時(電流漏れのない状態)の転写電流の設定値に補正係数をかけた電流値を新たな転写電流の電流値として設定し、プリントモードへ移行する(S5)。
【0044】
そして、制御部51は、転写ベルト217の使用履歴(例えば、画像形成装置における総プリント枚数)に応じて転写電流決定モードを行い、転写電流の電流値を補正しながらプリント(画像形成動作)を継続する(S6)。本実施の形態では、電圧検知部55により検出される転写電源54の電圧(離間時検知電圧)がプリント初期時よりも大きくなれば、転写電源54は転写電流を小さくする。
【0045】
転写電源54は、基本的には用紙に対して画像を形成する動作(画像形成動作)において、用紙がニップ部NPを通過する際に、転写ベルト217が所定の転写電位(正極性)となるように転写部215に正極性(トナー像とは逆極性)の転写電圧を印加する。これにより、ニップ部NPにおいて感光体211に接触中の用紙に、感光体211上の負極性のトナー像が転写される。このとき転写電圧の印加に伴い転写部215へ供給される電流を、画像部電流(狭義の転写電流)という。画像部電流(第2の電流)は、ニップ部NPを用紙のトナー像が転写される領域(画像部)が通過する際に、転写部215に供給される。画像部電流は、転写ベルト217に正極性の転写電圧が印加されることによって、感光体211に接触中の用紙に、感光体211上の負極性のトナー像が転写される際に流れる電流であるから、画像部電流の方向は、転写部215から感光体211へ向かう方向である。
【0046】
ただし、制御部51は、用紙の先端部分の感光体211からの分離性を向上させるため、用紙がニップ部NPを通過する際に、転写部215に転写電圧とは逆極性の逆電圧を印加する処理(以下、「逆電圧印加処理」と称する)を実行することが可能である。この転写部215に逆電圧が印加されているときに流れる電流を、紙先端電流(「分離電流」とも呼ばれる)という。紙先端電流(第1の電流)は、用紙先端部に電界(分離電界)を発生させ、転写ベルト217と用紙(誘電体)の先端部の静電吸着力によって感光体211から分離するものであるため、分離電流の方向は、転写部215から感光体211へ向かう方向であってもよいし、その逆方向であってもよい。
【0047】
図3において決定する転写電流(紙先端電流および画像部電流)の電流値とは、制御部51が転写電源54を制御してニップ部NPに電流を流す際に制御の目標値とする値であって、この電流値には、転写部215から感光体211へ向かう方向へ流れる電流の電流値のみならず、転写ベルト217の移動方向に沿った方向に漏れた電流の電流値も含まれる。
【0048】
[離間時検知電圧と適正補正係数との対応関係]
感光体211と転写ベルト217が離間しているときに電圧検知部55により検知される転写電源54の電圧(離間時検知電圧)と、通常時の転写電流値を基準とした適正補正係数との適切な対応関係については、予め実験評価等を行って決定しておくことが可能である。例えば、画像形成装置10若しくはこれと同等の実験装置を準備しておき、離間時検知電圧に対して種々の適正補正係数を割り振って試験的にプリントを行い、分離性などを評価することにより、適切な対応関係を見出すことが可能である。
【0049】
図4は、離間時検知電圧と適正補正係数との対応関係の一例を示すグラフである。
図4の横軸は、感光体211と転写ベルト217が離間しているときに電圧検知部55により検出される転写電源54の電圧(離間時検知電圧[V])を表し、縦軸は、通常時の転写電流を基準とした適正補正係数を表す。
【0050】
図4に示すように、通常時の転写電流値に対する適正補正係数を1.00とした場合に、離間時検知電圧が小さいほど適正補正係数は大きくなる。また、離間時検知電圧が例えば約80[V]を超える範囲では、適正補正係数は1.00に収斂される。
【0051】
なお、本実施の形態では、記憶部52に記憶される離間時検知電圧と適正補正係数との対応関係は、図4に示すようなプロファイルデータでもよいし、ルックアップテーブルでもよい。また、離間時検知電圧に対する適正補正係数を補正値として用いて印加する転写電流値を決定したが、適正補正係数の代わりに補正後の転写電流値を補正値としてもよい。あるいは、基準となる通常時の転写電流値と条件に応じた適正な転写電流値との差分を補正値としてもよい。
【0052】
[本実施の形態の効果]
以上説明したように、本実施の形態では、転写ベルト217を感光体211(像担持体)から離間した状態で転写電流印加時の電圧を測定することで、転写ベルト217の厚み方向の抵抗変動の影響を受けることなく、転写ベルト217の抵抗値の変化に応じた転写ベルト217経由の電流漏れ量を推測することができる。それにより、その電流漏れ量に応じた転写電流(紙先端電流、画像部電流)の適正な補正が可能となる。
【0053】
したがって、画像形成装置10が高湿環境下に長時間放置されて転写ベルト217の抵抗値が低下した場合であっても、像担持体からの用紙の分離性能の低下や像担持体から用紙へのトナー像の転写性能の低下といった、ニップ部NPにおける電界の減少による障害を抑制することが可能となる。それゆえ、良好な分離性および転写性が得られる。
【0054】
また、図3の制御において、転写電流制御部53は、電圧検知部55により検知された転写電源54の電圧の絶対値が小さいほど、転写電流の電流値の絶対値を、大きい値に補正する。このように制御して、転写ベルト217の抵抗値がより大きく低下している場合には、転写電流の絶対値をより大きくすることで、さらに確実にニップ部NPにおける電界の減少による障害を抑制することが可能となる。
【0055】
なお、上述した実施の形態において、転写電源54の電圧が所定のしきい値以上である場合には、転写電流を変更せず、転写電源54の電圧が所定のしきい値よりも小さい場合のみ電流漏れが無視できないと判断して転写電流を変更するようにしてもよい。例えば、図4において、離間時検知電圧のしきい値として70V(適正補正係数は約1.10)としてもよいし、それよりも低い50V(適正補正係数は約1.20)でもよい。
【0056】
また、上述した実施の形態において、環境検知センサ240の検知結果(環境値)に応じて、通常時の転写電流値を切り替えて制御するルックアップテーブルを、記憶部52に記憶させて制御するようにしてもよい。なお、環境値ごとに図4の対応関係を示すプロファイルデータやテーブルを用意してもよい。
【0057】
また、上述した実施の形態において、転写ベルト217が高湿環境下にある場合、又は画像形成装置10が所定の時間以上放置された場合に、図3の制御を行うようにしてもよい。高湿環境であるまたは放置時間が長いほど、転写ベルト217の付着物が吸湿して転写ベルト217の抵抗値が低下する。そのため、そのような条件に限定して図3の制御を行うことにより、効率よく転写電流を制御することができる。
【0058】
また、上述した実施の形態において、画像形成装置10が所定枚数のプリントを行うごとに、図3の制御を行うようにしてもよい。
【0059】
[実験結果]
以下、本発明の有効性を確認する実験1および実験2の結果について、図5および図6を参照して説明する。
いずれの実験も、図5及び図6の各条件(湿度環境、放置時間、転写ベルトの使用履歴、離間時又は圧着時)で転写電源54に所定の電流を印加したときに電圧検知部55で検知された電圧に基づいて、図4に示す対応関係より、用紙の先端部及び画像部に印加する転写電流値を算出する。転写ベルト217の使用履歴は、転写ベルト217を使用してプリントされた総プリント枚数で表され、図5及び図6では「ベルト履歴」と表記している。そして、算出された転写電流値を用いて、20枚の用紙に対して画像形成動作を行い、そのときの分離性および転写性を評価した。図5及び図6において漏れ電流が記載されているが、参考データとして今回の実験用に漏れ電流検知手段を設置し測定したものであり、実際の画像形成装置には漏れ電流を検知する手段は設けられていない。
【0060】
実験条件として、通常時(電流漏れのない状態)における高湿環境を、温度が30℃、相対湿度が80%(絶対湿度は約2400[×10−2g/m])の状態とした。転写電流制御部53から転写電源54に印加した電流の電流値は10μAである。また、実験に用いた用紙としては、坪量40g/mの用紙を用いた。
【0061】
上記の各条件にて実験評価を行った結果は、図5および図6に示す表の通りである。なお、当該表において、○は良好な結果であることを示し、△は許容範囲内の結果であることを示し、×は許容範囲外の結果であることを示す。分離性は、感光体分離ジャム発生の有無によって評価した。また、転写性は、黒ベタ画像の濃度の濃さ、及び転写ハジキの有無によって評価した。以下、当該結果についてより詳細に説明する。
【0062】
(実験1)
実験1においては、画像形成装置10の電源を入れてから最初のプリント(画像形成動作)を行う前に、図3の制御(転写電流決定モード)を実行した。すなわち、感光体211と転写ベルト217の離間時又は圧着時の転写電源54の電圧を検知し、図4の対応関係から算出した転写電流(紙先端電流、画像部電流)の電流値を用いて画像形成動作を行い、分離性および転写性を評価した。
【0063】
図5は、実験1の条件および結果を示す表である。
実験条件について説明する。「通常時」と記載している実験結果は、高湿環境下で放置することなく、通常時の紙先端電流および画像部電流の電流値を用いた場合の実験結果である。
比較例1A,1B、比較例2及び比較例3は、高湿環境下で放置した画像形成装置10において、感光体211と転写ベルト217が圧着状態での転写電源54の電圧を検知し、図4の対応関係から算出した紙先端電流および画像部電流の電流値を用いた実験結果である。比較例1Aおよび比較例1Bともに、通常時よりも放置時間が長い。比較例2は、比較例1A及び比較例1Bよりも湿度が低い(温度は若干高い)が、放置時間が長く、ベルト履歴においてもプリント枚数が増えている。比較例3は、比較例1Aおよび比較例1Bよりも放置時間が短い。
【0064】
実施例1〜6は、高湿環境下で放置した画像形成装置10において、各条件(環境、放置時間、ベルト履歴)を変えて離間時の転写電源54の電圧を検知し、図4の対応関係から算出した紙先端電流および画像部電流の電流値を用いた実験結果である。例えば実施例1は、通常時よりも放置時間が長い。実施例2は、実施例1よりも湿度が低い(温度は若干高い)が、放置時間が長く、ベルト履歴においてもプリント枚数が増えている。実施例3は、実施例1よりも放置時間が短い。実施例4は、実施例1よりも放置時間が短く、かつ転写ベルト217が新品である。実施例5は、実施例3と実施例4よりも放置時間が更に短い。実施例6は、実施例1よりも温度及び湿度ともに低い。
【0065】
比較例1Cは、特許文献1(特開平9−197837号公報)に記載の制御を、本願発明の構成に適用し、高湿環境下で放置した画像形成装置10において、図4の対応関係を用いることなく、転写ベルト217を環境センサとして用いて推測した環境値に基づいて転写電流を決定した場合の実験結果である。
【0066】
次に、実験結果について説明する。通常時(電流漏れのない状態)の実験条件においては、転写性および分離性ともに良好であった。画像形成装置10が高湿環境下に放置されないため、転写電流は、環境や紙種、坪量に応じて決まる設定(紙先端電流:60μA、画像部電流:100μA)となる。画像形成装置10が高湿環境下に放置されていないため、転写ベルト217の抵抗値が低下することないからである。なお、通常時における離間時検知電圧は900Vであった。また、参考として圧着状態での検知電圧を測定したところ、3.2Vであった。
【0067】
比較例1Aにおいては、分離性および転写性ともに大きく悪化した。画像形成装置10が高湿環境下に放置された状態で転写ベルト217が使い込まれることにより、転写ベルト217の抵抗値が低下し、通常時と同じ転写電流値(紙先端電流:60μA、画像部電流:100μA)を用いた場合では、ニップ部NPに十分な転写電界が形成されないからである。
【0068】
比較例1Bでは、感光体211と転写ベルト217が圧着状態のときに転写電源54に10μAの電流を印加したときの転写電源54の電圧を検知し、図4の対応関係から算出した転写電流値を用い、画像形成動作を行った。この比較例1Bにおいては、通常時にも同様に測定しておいた圧着時の転写電源54の電圧と、放置後の圧着時の電圧との比より、転写電流の適正補正係数を3とし、通常時の転写電流値に適正補正係数3をかけた転写電流を転写部215に印加しプリントを実施したところ、電流値が過剰な値となり、分離性が悪化し、転写ハジキも発生した。画像形成装置10を高湿環境下に放置しない通常時と画像形成装置10を高湿環境下に放置した後との間で、転写ベルト217の厚み方向の抵抗が変動することで面方向の漏れ電流の変動割合を精度よく検知できないため、転写電流の適切な補正もできない。
【0069】
実施例1においては、転写性および分離性ともに良好であった。離間時の検知電圧に基づき、図4の対応関係から転写電流の適正補正係数を求め、通常時の転写電流値に1.5をかけた電流値を転写部215に印加したことにより、転写ベルト217の抵抗値が低下して電流が漏れた場合であっても、電流漏れが無いときと同等の転写電界が形成されたためと考えられる。なお、参考として圧着時の転写電源54の電圧を測定したところ、3.2Vであった。
【0070】
比較例2では、比較例1Bと同様に、圧着時の転写電源54の電圧を検知した。そして、圧着時の転写電源54の電圧3.2Vが、実施例1でも参考として測定しておいた圧着時の検知電圧3.3Vとほぼ同等であったため、適正補正係数を実施例1と同じ1.5として転写電流値を補正し、画像形成動作を実施した。この比較例2においては、実施例2と比較して転写電流値がやや過剰であり、分離性が悪化し、転写ハジキも発生した。実施例1と比較例2とでは転写ベルト217の厚み方向の抵抗(体積抵抗)が異なるため、転写電流の補正も適正ではない。
【0071】
実施例2においては、転写性および分離性ともに良好であった。実施例2では、実施例1と同様に、感光体211と転写ベルト217を離間させた後、転写電源54に10μAの電流を印加したときの転写電源54の電圧を検知し、図4の対応関係から転写電流の適正補正係数を求め、通常時の転写電流値に1.9をかけた電流値を転写部215に印加し、画像形成動作を行った。この実施例2においては、放置時間やベルト履歴が増えているが、離間時の検知電圧に基づき転写電流値を算出することで、転写ベルト217の抵抗値が低下して電流が漏れた場合であっても、ニップ部NPで十分な強さの電界を形成することができたためと考えられる。
【0072】
比較例3では、比較例1Bと同様に、圧着時の転写電源54の電圧に基づいて図4の対応関係から算出した転写電流値を用いて、画像形成動作を実施した。この比較例3においては、実施例3と比較して転写電流値が過剰であり、分離性および転写性ともに悪化した。
【0073】
実施例3〜6においては、実施例1および実施例2よりも転写ベルト217の抵抗値が低下しない条件であるが、離間状態での転写電流決定モード(適正補正係数はほぼ1)により転写電流値を適正化することで、いずれの条件でも良好な分離性および転写性が得られた。
【0074】
比較例1Cでは、感光体211と転写ベルト217を離間時の転写電源54の電圧(離間時検知電圧)を測定し、予め測定しておいた内面付着物のない転写ベルト単体でのベルト表面の抵抗値の環境依存性から環境値を推測(プロファイルを作成)した。その環境値を用いて転写部215に印加する転写電流値をその環境での通常状態の電流値(紙先端電流:48μA、画像部電流:80μA)に設定した。内面付着物による抵抗変動のため環境値が正しく検出されず、転写電流値が大幅に不足し、分離性および転写性ともに許容範囲外の結果である。
【0075】
本実施の形態は、感光体211と転写部215が転写ベルト217を介して圧着状態となる位置関係にあり、通常は転写ベルト217の面方向に転写電流は流さない構成である。転写ベルト217内面の付着物が吸湿した限定的な場合のみ、付着物を介して電流が面方向に流れる。このため、本実施の形態では、転写ベルト217の面方向への電流漏れを直接検知する手段は持たない。本実施の形態は、電流漏れを直接検知する手段がなくても、簡易的に電流漏れの変化を推定できる制御法である。感光体211と転写ベルト217が離間時に転写電源54の電圧を検知することにより、転写ベルト217とその表面付着物による面方向の抵抗と、転写ベルト217の厚み方向の抵抗とを切り分けている。
【0076】
また、本実施の形態において制御対象となる転写電流値は、環境のみで適正値が決まるものではなく、転写ベルト217そのものが持つ抵抗の環境依存性以外の変動(付着物の吸湿状態による電流漏れ量の変動)を検知して制御が行われる。具体的には、湿度環境、転写ベルト217の使用履歴、放置時間、電源オンからのプリント数などによって付着物の吸湿状態が変わるため、上記特許文献1に記載の環境値のみによっては、転写電流値の適正な制御はできない。
【0077】
仮に特許文献1に記載の制御を、本願発明の構成に適用して転写出力を制御しようとした場合、離間時の転写ベルト217を流れる電流から環境値を設定するが、転写ベルト217内面に付着物があって吸湿している状態では、ベルト面方向の電気抵抗が低くなる。そのため、実際の環境よりも高湿として判定され、転写電流値が小さく設定されるが、ベルト面方向に電流漏れが生じるため逆効果となり、分離性および転写性ともに悪化してしまう。
【0078】
(実験2)
実験2においては、まず、画像形成動作を開始する前に図3の制御(転写電流決定モード)を実行して適切な転写電流(紙先端電流、画像部電流)の電流値を算出してから、さらに、画像形成動作を開始した後に所定枚数をプリントする毎に、紙間にて図3の制御を実行して転写電流の電流値を算出した。そして、算出された転写電流(紙先端電流、画像部電流)の電流値を用いて画像形成動作を継続し、分離性および転写性を評価した。なお、いずれの実験においても、画像形成装置10を高湿環境下(温度30℃、相対湿度80%)で20時間放置した後に、図3の制御を行い、画像形成動作を開始した。高湿環境下に放置する前の転写ベルトの使用履歴(総プリント枚数)は、100万枚である。
【0079】
図6は、実験2の条件および結果を示す表である。
実験条件について説明する。「プリント数」は、画像形成装置10を高湿環境下に20時間放置した後にプリントした枚数である。
実施例7,9〜11,12は、高湿環境下で放置した画像形成装置10において、プリント中に図3の制御(転写電流決定モード)を実行して算出した転写電流(紙先端電流、画像部電流)の電流値を用いた実験結果である。実験例7,9〜11,12では、プリント枚数が異なり、それぞれ、0枚、20枚、50枚、100枚、300枚である。
比較例8A,8B,12は、高湿環境下で放置した画像形成装置10において、プリント中に図3の制御を実行しなかった実験結果である。
【0080】
次に、実験結果について説明する。
実施例7,9〜11,12においては、常に良好な転写性および分離性を確保できた。プリント中に、感光体211と転写ベルト217を離間時の転写電源54の電圧と図4の対応関係とから、転写電流(紙先端電流、画像部電流)の電流値を変更することにより、ニップ部NPに電流漏れが無いときと同等の十分な強さの転写電界が形成されたと考えられる。300枚をプリントした以降は、離間時検知電圧が150V以上となり、適正補正係数もほぼ1であるため、電流値の補正は不要であった(電流漏れがほとんどなくなったと判断できる)。
【0081】
比較例8Aにおいては、プリント中に、適正補正係数を1として転写電流の補正を行なわず、転写性および分離性ともに悪化した。
【0082】
比較例8B,12においては、プリント中に、プリント初期(実施例7)と同等の補正を行ったが、実施例9と比較して転写電流値が過剰であり、分離性が悪化し、転写ハジキも発生した。
【0083】
<2.変形例>
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明した。しかしながら、上記実施の形態による発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0084】
図3の制御においては、転写電流として紙先端電流および画像部電流の電流値を決定したが、いずれか一方の電流値のみを決定してもよい。
【0085】
また、上述した実施の形態では、感光体211が本発明の像担持体として機能する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、中間ベルト転写方式(間接転写方式)の画像形成装置である場合、当該中間転写ベルトが像担持体として機能するようにしてもよい。
【0086】
また、上述した実施の形態においては、ニップ部NPを通過する用紙の紙種及び坪量が1種のみのため、図3の制御において使用する通常時の転写電流(紙先端電流、画像部電流)の電流値は一定であったが、用紙の紙種(例えば、普通紙、上質紙、ラフ紙等)や坪量に応じて、通常時の転写電流の電流値を決定してもよい。このように制御することによって、用紙の特性に応じた転写電流の電流値を決定することができ、ニップ部NPにおける電界の減少による障害をより確実に抑制することが可能となる。なお、用紙の紙種や坪量ごとに図4の対応関係を示すプロファイルデータやテーブルを用意しておいてもよい。
【0087】
ここで、制御部51は、所定の坪量以下の用紙に画像を形成する時に、図3の制御を行うようにしてもよい。坪量が小さい用紙は、坪量が大きい用紙と比較して分離不良を起こす可能性が高いため、分離不良を起こす可能性が高い用紙に対して効率よく転写電流を制御することができる。この場合、予め記憶部52に用紙と坪量との関係を記憶しておくことで、制御部51は、ジョブに含まれる用紙情報に基づいて該当する用紙の坪量を取得する。
【0088】
また、上述した実施の形態において、圧着時と離間時の両方において電圧検知部55により転写電源54の電圧を検知し、両者の検知結果を比較して転写電流を決定するようにしてもよい。このようにした場合には、転写ベルト217の体積抵抗と表面抵抗の両方を推定することができ、より適正に転写電流を決定できる。
【0089】
また、本発明は、単色画像を形成する画像形成装置10、カラー画像を形成するカラー画像形成装置の何れにも適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
10…画像形成装置、 20…画像形成装置本体、 51…制御部、 52…メモリ、 53…転写電流制御部、 54…転写電源、 55…電圧検知部、 56…ベルト接離部、 210…画像形成部、 211…感光体、 215…転写部(バックアップローラ)、 217…転写ベルト、 218…駆動ローラ、 219…従動ローラ、 240…環境検知センサ、 NP…ニップ部、 P…用紙
図1
図2
図3
図4
図5
図6