特許第6604017号(P6604017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604017
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】水域環境保全材料の施用方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 1/00 20060101AFI20191031BHJP
   A01K 61/70 20170101ALI20191031BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20191031BHJP
   C02F 11/02 20060101ALI20191031BHJP
   C02F 3/00 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   E02B1/00 301Z
   A01K61/00 311
   B09B3/00 AZAB
   C02F11/02
   C02F3/00 D
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-73559(P2015-73559)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-194195(P2016-194195A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2017年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】小杉 知佳
【審査官】 中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−254450(JP,A)
【文献】 特開2014−200213(JP,A)
【文献】 特開平09−127003(JP,A)
【文献】 特開2005−034140(JP,A)
【文献】 特開2007−330254(JP,A)
【文献】 特開2006−081457(JP,A)
【文献】 特開2011−153353(JP,A)
【文献】 特開2012−034661(JP,A)
【文献】 特開2010−142158(JP,A)
【文献】 米国特許第05968245(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 1/00−3/02
E02B 3/16−3/28
A01G 33/00−33/02
A01K 61/70−61/78
B09B 1/00−5/00
B09C 1/00−1/10
C02F 3/00−3/10
C02F 3/28−3/34
C02F 11/00−11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐植酸供給物質を発酵させて腐植酸を生成させる腐植酸供給物質の発酵工程と、
前記発酵工程後の前記腐植酸を含む前記腐植酸供給物質を、鉄含有物質と混合して水域環境保全材料を製造する水域環境保全材料の製造工程と、
前記水域環境保全材料を水域に施用する施用工程と、
を備える、水域環境保全材料の施用方法であって、
前記腐植酸供給物質には、腐植土が含まれており、
前記腐植酸供給物質の発酵工程にて、フルボ酸とフミン酸とのそれぞれの含有量の経時変化を測定し、予め測定されている発酵期間と前記含有量との関係に基づいて、前記フミン酸に比べて前記フルボ酸が多く含有されている発酵途中の腐植酸供給物質を取得し
前記製造工程にて、取得した前記発酵途中の腐植酸供給物質を前記鉄含有物質と混合する、水域環境保全材料の施用方法。
【請求項2】
前記腐植土は、廃木材チップ、樹木のバーク、落ち葉、剪定くず、除草発生材の少なくともいずれか一つを含む、請求項1に記載の水域環境保全材料の施用方法。
【請求項3】
前記発酵途中の腐植酸供給物質は、前記フルボ酸の含有量が最大量に達する以前に取得される、請求項1又は2に記載の水域保全材料の施用方法。
【請求項4】
前記鉄含有物質には製鋼スラグが含まれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水域環境保全材料の施用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、淡水、汽水、海水の沿岸の水域に生育する藻類や微生物等の海洋生物に対して栄養成分を供給するための水域環境保全材料、並びにこの水域環境保全材料の施用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水域では、生物の生育に必要な鉄分の不足による生物生産量の低下が生じている。例えば沿岸部の海域では、岩場から海藻が消えて石灰藻に覆われる磯焼け現象が進行し、コンブ、ウニ、アワビ等の沿岸水産資源の減少が顕著になってきている。
【0003】
沿岸の水域の鉄分は、森林の腐植土中で生成した水溶性の腐植酸鉄(フルボ酸(fulvic acid)やフミン酸(humic acid)等の腐植酸が鉄イオンと錯形成したもの)が河川を通じて山から海へ流入することにより、供給されていると考えられている。しかし、近年の森林の荒廃等によって腐植酸鉄の沿岸水域への供給量が減少し、そのことが原因となって、例えば磯焼けが起きる場合がある。
【0004】
このような沿岸水域の鉄分の供給不足の問題に対し、従来、鉄分等のミネラルを付着させた、および/または、石炭灰(フライアッシュ)等を混入させたコンクリート等を海中に沈設する技術(例えば、下記特許文献1〜3)、あるいは、鉄分等のミネラルを供給するためのミネラル供給材を海中に設置する技術(例えば、下記特許文献4〜6)が提案されている。さらに、二価鉄含有肥料を水域に設置する技術(例えば、下記特許文献4、7)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−217657号公報
【特許文献2】特開平8−89126号公報
【特許文献3】特開2002−45078号公報
【特許文献4】特開2006−212036号公報
【特許文献5】特開2013−102743号公報
【特許文献6】特開2013−126409号公報
【特許文献7】特開2007−330254号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】生産研究、第45巻、第7号、2頁(1993)
【非特許文献2】http://www.humicsubstances.org/soilhafa.html
【非特許文献3】地盤工学会「JGS T 232 土の腐植含有量試験」
【非特許文献4】「堆肥等有機物分析法」(日本土壌学会)
【非特許文献5】海洋科学研究、第22巻、第1号、19頁(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に記載の技術では、コンクリート材料からの鉄分等のミネラルの溶出は極めて遅く、かつ、少ないため、海水中での海藻増殖の効果が小さい。また、特許文献2、4〜7に記載の技術では、従来のミネラル供給材を海中設置する際、鉄イオン等を生物が取り込みやすい溶存態として安定化させるために、ミネラル含有物質をフルボ酸や有機酸などのイオン交換物質と混合する必要がある。しかしながら、これらのイオン交換物質は水溶性が高く、速やかに海水中に溶出するため、ミネラル供給材に含まれるイオン交換物質は急速に枯渇してしまうことから、海中に対する施肥効果が持続しない。さらに、特許文献2、4〜7では、水域への鉄分等の供給効果を長期間にわたって持続させるための要件については何ら開示されていない。具体的には、特許文献4には、ミネラル供給材が、発酵後にフルボ酸を含有する物質と、発酵促進剤とを含有することの開示があるが、水域への鉄分等の供給効果を持続させるためにミネラル供給材に含有される物質の含有量や状態についての詳細な要件は、明確にされていない。
【0008】
そこで、本発明の課題は、鉄イオンを、持続的に水域に供給することを可能とする水域環境保全材料の施用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を要旨とする。
(1)腐植酸供給物質を発酵させて腐植酸を生成させる腐植酸供給物質の発酵工程と、前記発酵工程後の前記腐植酸を含む前記腐植酸供給物質を、鉄含有物質と混合して水域環境保全材料を製造する水域環境保全材料の製造工程と、前記水域環境保全材料を水域に施用する施用工程と、を備える、水域環境保全材料の施用方法であって、前記腐植酸供給物質には、腐植土が含まれており、前記腐植酸供給物質の発酵工程にて、フルボ酸とフミン酸とのそれぞれの含有量の経時変化を測定し、予め測定されている発酵期間と前記含有量との関係に基づいて、前記フミン酸に比べて前記フルボ酸が多く含有されている発酵途中の腐植酸供給物質を取得し、前記製造工程にて、取得した前記発酵途中の腐植酸供給物質を前記鉄含有物質と混合する、水域環境保全材料の施用方法。
【0010】
(2)前記腐植土は、廃木材チップ、樹木のバーク、落ち葉、剪定くず、除草発生材の少なくともいずれか一つを含む、上記(1)に記載の水域環境保全材料の施用方法。
【0011】
(3)前記発酵途中の腐植酸供給物質は、前記フルボ酸の含有量が最大量に達する以前に取得される、上記(1)又は(2)に記載の水域保全材料の施用方法。
【0012】
(4)前記鉄含有物質には製鋼スラグを含まれることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の水域環境保全材料の施用方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水域環境保全材料は、鉄含有物質(鉄イオンを溶出可能な物質)と腐植酸供給物質とを混合して用いるので、設置初期ばかりでなく、長期間にわたって腐植酸鉄を持続的に生成させることが可能となる。これにより水域環境保全が達成できる。つまり、初期の含有成分としての腐植酸鉄ばかりでなく、水域環境保全材料の設置後、微生物等の作用によって初期の含有成分が代謝されて腐植酸鉄が新たに、かつ、持続的に生成することにより、長期間にわたって水域に持続的に鉄分を供給できる。水域に鉄分を供給することができれば、それを必要とする海藻類の増殖を惹起し、それを契機として豊かな水辺環境が創生される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の腐植酸供給物質の発酵工程における腐植酸含有量および有機物質含有量の経時変化を示した図である。
図2】実施例1〜2で用いた水域環境保全材料を収納して海中に沈設するための容器の斜視図である。
図3】実施例Aにおける海水中の溶存鉄濃度増加量の経時変化を示した図である。
図4】比較例Bにおける海水中の溶存鉄濃度増加量の経時変化を示した図である。
図5】実施例2で用いた腐植酸供給物質の発酵工程におけるフルボ酸含有量、フミン酸含有量および有機物質含有量の経時変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本実施形態で使用される材料について説明する。
【0016】
以下の説明において、「水域環境保全材料」とは、水域環境の保全に寄与する材料を意味し、「水域環境保全」とは、水域環境にとって良い影響を与えることを意味する幅広い概念を意味する。具体的には、「水域環境保全」には、海藻の繁茂を契機として、水質汚濁栄養成分の吸収除去等を通じた水質改善や魚介類の蝟集や生息を誘起した生物環境改善などが含まれる。また、「水域」とは、海水であるか淡水であるかを問わず、水が関連する場所を意味する概念である。例えば、海、河川、湖沼、干潟などが水域の例としてあげられる。
【0017】
(水域環境保全材料)
本実施形態に係る水域環境保全材料は、フルボ酸やフミン酸などの腐植酸と、腐植酸等を生成することができる腐植酸供給物質と、鉄イオンを溶出可能な鉄含有物質とを含有することができる。水域環境保全材料は、さらに、ギ酸や酢酸などの低分子の有機酸等を含有してもよい。
【0018】
(腐植酸)
以下に、本実施形態に係る腐植酸について説明する。狭義にはフミン酸のことを腐植酸と呼ぶ場合があるが、本実施形態においては、腐植酸はフルボ酸とフミン酸の両方を含む。なお、腐植酸のうち、酸可溶性成分がフルボ酸であり、酸性条件下で沈殿する有機物質がフミン酸である。なお、水域環境保全材料に含有される腐植酸に関しては、フミン酸は水溶性が低いために水域への腐植酸鉄供給量が少なくなることから、フルボ酸が多く含有されることが好ましく、フミン酸よりもフルボ酸が多く含有されていることがさらに好ましい。
【0019】
(腐植酸供給物質)
次に、本実施形態に係る腐植酸供給物質について説明する。腐植酸供給物質とは、微生物の代謝反応による発酵によって、腐植酸や有機酸を生成することができる有機物質である。本実施形態の腐植酸供給物質としては、腐植土を用いるのが好適である。腐植土は、植物系の有機物質原料を発酵させて堆肥化したものであり、他の腐植酸供給物質に比べ、最も腐植酸生成量が多く、更にはフルボ酸生成量が多く、熟成し易く、劣化が少なく、環境汚染の可能性が低く、さらに、植物の一種である海藻類の成分組成に近い。腐植土としては、例えば廃木材チップ、樹木のバーク、落ち葉、剪定くず、除草発生材、水産加工残渣、魚かす、家畜ふん、下水汚泥などを用いることができる。
【0020】
本実施形態の腐植酸供給物質としては、天然に発酵した腐植土を用いることもでき、人工的な発酵で熟成させた腐植土を用いることもできる。しかしながら、本実施形態においては、天然の腐植土中では微生物が代謝しにくい有機物質に変質している場合が多いことから、天然に発酵した腐植土よりも、人工的な発酵で熟成させた腐植土を用いる方が好ましい。
【0021】
さらに、人工的な発酵で熟成された腐植土を用いる場合、腐植土の発酵が進み過ぎると、腐植土の発酵から生成された腐植酸が分解されて、腐植酸供給物質の腐植酸の含有量が減少する場合がある。したがって、本実施形態においては、予め腐植酸の含有量を測定して、十分な腐植酸を含有することを確認した腐植酸供給物質を用いることが好ましい。
【0022】
そこで、本実施形態においては、腐植酸供給物質を発酵させ、腐植酸を生成する工程で、予め発酵期間と腐植酸含有量の関係を測定によって把握する。そして、把握した発酵期間と腐植酸含有量の関係に基づいて、腐植酸の含有量が最大量に到達する以前の(すなわち、腐植酸の含有量が増加している途中の)腐植酸供給物質を取得する。そして、この腐植酸供給物質と鉄含有物質とを混合する。このような発酵途中の腐植酸供給物質を選択することで、水域環境保全材料を水域に設置した後も熟成反応が進行して持続的に腐植酸を生成させることができる。なお、本明細書においては、腐植酸の含有量が最大量に到達する以前には、腐植酸含有量が最大量に到達する前と、腐植酸含有量が最大量に到達した時点とを含む。
【0023】
さらに、本実施形態においては、腐植酸の含有量が最大量程度となっている腐植酸供給物質を鉄含有物質と混合することが好ましい。水域環境保全材料が設置される水域は、例えば、腐植酸供給物質の発酵に最適な温度と比べ低い温度であったり、発酵を阻害する塩分の濃度が高かったりと、腐植酸供給物質の発酵に最適な環境ではないことが多い。したがって、水域環境保全材料が設置される水域によっては、設置後に腐植酸供給物質の熟成反応が十分に進まず、熟成反応未達となる腐植酸供給物質が多くなり、水域環境保全材料に含まれる腐植酸供給物質が本来供給可能な量の腐植酸を水域に供給できない可能性がある。そこで、本実施形態においては、発酵に最適の環境下で行われる後述の発酵工程においてあらかじめ腐植酸供給物質の発酵を十分に行って得た、腐植酸の含有量が最大量程度となった腐植酸供給物質を用いることで、腐植酸供給物質が本来供給可能な量の腐植酸を水域に供給することができる。そして、腐植酸供給物質が生成可能な腐植酸をより多く利用することが可能となることから、鉄イオンを効果的、且つ、持続的に水域に供給することができる。
【0024】
すなわち、本実施形態は、水域環境保全材料が水域に設置された後の腐植酸供給物質の状態について考慮して、用いる腐植酸供給物質の選定を行うことにより、腐植酸供給物質の腐植酸供給能力を最大限に引き出そうとするものである。そして、本実施形態においては、腐植酸供給物質の選定は、後述するように、腐植酸供給物質に含有される腐植酸を測定することによって行う。
【0025】
腐植酸の含有量は、例えば上記非特許文献2に開示された方法、あるいは上記非特許文献3で開示された方法によって、測定することできる。非特許文献2では、供試材料から指定の方法で腐植酸を抽出したのち、腐植酸の乾燥質量として腐植酸の含油量を測定する方法が開示されている。また、非特許文献3では、供試材料から指定の方法で腐植酸を抽出したのちに、腐植酸を二クロム酸カリウム含有の酸化剤により酸化し、その際使用した酸化剤の量から酸化に必要な酸素量を求めて、腐植酸の量に換算する測定方法が開示されている。
【0026】
先に説明したように、本実施形態に係る水域環境保全材料には、フルボ酸が多く含有されることが好ましく、フミン酸よりもフルボ酸が多く含有されていることがさらに好ましい。腐植酸供給物質の発酵が進み過ぎると、例えば、発酵から生成された水溶性の高いフルボ酸から水溶性の低いフミン酸やフミン質への分解・重合が進んで(例えば、非特許文献1)、フルボ酸含有量が減少する場合がある。したがって、予めフルボ酸又はフミン酸の含有量を測定して、十分なフルボ酸を含有しつつ、フルボ酸が分解・重合して生成されたフミン酸が少ないことを確認した腐植酸供給物質を選択することが好ましい。すなわち、本実施形態は、フルボ酸の状態について考慮して、用いる腐植酸供給物質の選定を行うことにより、腐植酸供給物質のフルボ酸供給能力を最大限に引き出そうとするものである。そして、本実施形態においては、腐植酸供給物質の選定は、後述するように、腐植酸供給物質に含有されるフルボ酸及びフミン酸を測定することによって行う。
【0027】
そこで、本実施形態においては、腐植酸供給物質を発酵させ、腐植酸を生成する工程で、予め発酵期間とフルボ酸及びフミン酸の各含有量の関係を測定によって把握し、把握した発酵期間とフルボ酸及びフミン酸の各含有量の関係に基づいて、フルボ酸の含有量が最大量に到達する以前の腐植酸供給物質を選択する。より好ましくは、フルボ酸の含有量が最大量程度である腐植酸供給物質を選択する。このような発酵途中の腐植酸供給物質を選択することで、水域環境保全材料を水域に設置した後も熟成反応が進行して持続的にフルボ酸を生成させることができ、鉄イオンを効果的、且つ、持続的に水域に供給することができる。なお、本明細書においては、フルボ酸の含有量が最大量に到達する以前には、フルボ酸含有量が最大量に到達する前と、フルボ酸含有量が最大量に到達した時点とを含む。
【0028】
なお、フルボ酸とフミン酸の含有量は、例えば上記非特許文献2に開示された方法、あるいは上記非特許文献3で開示された方法によって、測定することできる。
【0029】
また、本実施形態の水域環境保全材料を海域で使用する場合、海水のpHは一般に8程度であり、鉄イオンは十分に溶解できないため、鉄含有物質からの鉄イオンの溶解を促進するために、水域環境保全材料の内部を酸性状態にすることが好ましい。そこで、腐植酸供給物質として酸性度の高い材料を選定することが好ましく、具体的には、pH7を下回ると鉄イオンの溶解度が急速に高まるので、水域環境保全材料の内部のpHが7を下回る状態にすることができるような腐植酸供給物質を用いることがより好ましい。また、鉄含有物質として鉄鋼スラグを採用した場合、水域環境保全材料の内部はアルカリ性を示す。このため、鉄含有物質として鉄鋼スラグを使用した場合であっても、水域環境保全材料の内部のpHが海水のpHを下回るような腐植酸供給物質を用いることが好ましい。さらに、水域環境保全材料に、腐植酸供給物質と共に、ピートモス、木酢液、水産加工残さもしくはその発酵物などの酸性資材を混合してもよい。
【0030】
(鉄含有物質)
本実施形態の鉄含有物質としては、先に述べたように、鉄や鉄を含有する物質を用いる。具体的には、鉄を含有する物質としては、製鋼スラグを用いることができ、特に、有害な重金属の混入が少ない転炉系製鋼スラグを用いることが好ましい。さらに、先に説明したが、水域環境保全材料の周囲の水域のpHがアルカリ性となる場合、鉄の溶出が低減することから、製鋼スラグは炭酸化処理によって中和されていることが好ましい。
【0031】
(施用方法)
本実施形態に係る水域環境保全材料の施用方法は、腐植酸供給物質を発酵させて腐植酸を生成させる腐植酸供給物質の発酵工程と、発酵工程後の腐植酸供給物質を、鉄含有物質と混合して水域環境保全材料を製造する水域環境保全材料の製造工程と、水域環境保全材料を水域に施用する施用工程とを有することができる。
【0032】
(発酵工程)
本実施形態の発酵工程では、廃木材のチップ、樹木のバーク、落ち葉、剪定くず、除草発生材、水産加工残渣、魚かす、家畜ふん、下水汚泥などの有機物質原料を1種または2種以上混合して得られた腐植酸供給物質を、必要に応じて加水した後、静置することにより、腐植酸供給物質の発酵を行う。この際、腐植土に含まれる微生物の活性によって腐植土中の有機物が分解され、例えば、セルロースやリグニンなどの高分子成分が低分子化し、さらに、低分子化した成分が重合し、様々な有機酸や腐植酸が生成する。本実施形態の発酵工程の温度は、腐植酸供給物質の発酵を行うことができる温度であれば特に限定されないが、60℃以上にすることが好ましい。また、発酵期間は、腐植酸供給物質の種類や状態等によって異なり、後述する測定の結果に基づいて最適な発酵期間が選択されることとなるが、好ましくは3か月以上から2年以下である。さらに、発酵の途上で必要に応じて、腐植土の切り返しを行い、腐植土中の状態の均質化をはかってもよい。
【0033】
本実施形態においては、発酵工程で、発酵期間と腐植酸(フルボ酸、フミン酸)含有量の関係を測定によって把握する。腐植酸(フルボ酸、フミン酸)の含有量の経時変化は、発酵中に定期的に試料をサンプリングして測定する。測定方法については、上述したとおりである。なお、腐植土中の成分や発酵を行う環境(温度、湿度、酸素量等)によって、腐植酸供給物質の発酵速度や完熟期間は異なるため、試料のサンプリング間隔は、腐植酸の含有量の変化が識別できる程度の任意の間隔にすることができる。そして、測定に基づいて、腐植酸の含有量がピークに到達する以前の腐植酸供給物質を取得し、この腐植酸供給物質を次の水域環境保全材料の製造工程で用いる。
【0034】
(製造工程)
本実施形態の水域環境保全材料の製造工程では、上記発酵工程で得られた腐植酸を含む腐植酸供給物質と、鉄含有物質と混合することによって水域環境保全材料を製造する。腐植酸供給物質と鉄含有物質との混合比は、腐植酸鉄の供給速度やその持続性を鑑みて任意の割合を選ぶことができる。腐植酸供給物質の混合割合が高すぎると鉄含有物質の混合割合が低くなるため、水域への水域環境保全材料の設置初期の腐植酸鉄の供給速度は高くなるが、水域への腐植酸鉄の供給は持続性に欠ける。一方、鉄含有物質の混合割合が高すぎると腐植酸供給物質の混合割合が低くなるため、鉄の供給に対して腐植酸の供給が不足し、その結果、水域への腐植酸鉄の供給量が少なくなる。したがって、水域への腐植酸鉄の供給量とその持続性を顧慮して、最適な混合割合を選択することが好ましい。
【0035】
(施用工程)
本実施形態に係る水域環境保全材料は、種々の水域において施用可能である。また、水域環境保全材料を水域に設置する方法については特に限定はなく、例えば、透水性の袋状、籠状の容器に水域環境保全材料を収容して水域に沈設することや、水辺を含む水域の地盤に水域環境保全材料を埋設することができる。また、波浪や潮流によって逸失することを予防するために、藻礁ブロックや漁礁ブロックに水域環境保全材料を固定することもできる。さらに、設置した水域の水が流通するように穿孔した箱状構造物に、水域環境保全材料を収容して水域に沈設することができる。
【0036】
本実施形態の水域環境保全材料によれば、水域環境保全材料を水域に設置した後も熟成反応が進行して持続的に腐植酸を生成させ、鉄イオンを持続的に水域に供給する効果を得ることができる。さらに、水域に持続的に鉄イオンを供給することによって、鉄イオンを必要とする海藻類等の増殖を惹起し、それを契機として豊かな水辺環境を創生することができる。すなわち、本実施形態の水域環境保全材料によれば、水域環境保全を達成することができる。なお、本実施形態の水域環境保全材料によって得られる効果は水域によって若干異なる。例えば、海水中の鉄分が低く、海水交換が少ない海域おいては、本実施形態の水域環境保全材料よって、顕著な効果を得ることができる。一方、潮汐や潮流による海水交換が大きい海域では、希釈拡散により、水中の鉄イオンの有効濃度の保持が難しいために、本実施形態の水域環境保全材料よる顕著な効果を期待することが難しい場合がある。さらに、鉄分が欠乏していない水域においては、本実施形態の水域環境保全材料によって得られる効果が顕著に表れることが難しい場合がある。
【実施例】
【0037】
以下、本発明について、実施例に基づき説明する。なお、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0038】
(実施例1)
本発明の効果を確認するために、本発明の実施例に係る鉄含有物質と腐植酸を含む腐植酸供給物質を混合した水域環境保全材料を収容した容器を海中に設置し、水域環境保全材料からの腐植酸鉄の供給性能を調べた。
【0039】
実施例1においては、腐植酸供給物質として、廃木材チップを原料として製造した人工腐植土を用い、先に説明したように、腐植酸供給物質の発酵工程を行った。腐植酸供給物質の発酵工程において、経時的にのべ4回にわたって腐植酸含有量と有機物質含有量とを測定した。腐植酸供給物質の腐植酸含有量は、上記非特許文献3に準拠し、また、腐植酸供給物質の有機物質含有量は、上記非特許文献4に記載の乾式燃焼法に準拠し、測定を行った。測定された有機物質含有量は、微生物の代謝反応による発酵によって、腐植酸や有機酸を生成することができる有機物質、すなわち、腐植酸供給物質の含有量を示す。
【0040】
図1に、測定した結果を示す。図1は、実施例1の腐植酸供給物質の発酵工程における腐植酸含有量および有機物質含有量の経時変化を示した図である。なお、図1において、試料番号が大きくなるにしたがって、発酵時間が長くなる。図1に示すように、有機物質含有量は、試料番号が大きくなるにしたがって低減したことから、経時的に腐植酸供給物質の発酵は進行していることが分かる。一方、腐植酸含有量は、試料番号1では6.9乾燥質量%であり、試料番号2では9.5乾燥質量%まで増加し、試料番号3、試料番号4となるにつれて腐植酸含有量が低減した。このことから、発酵時間の経過に伴い、最初は、腐植酸の含有量が多くなるが、その後、発酵時間が長くなるにつれて、生成された腐植酸が分解されて、腐植酸の含有量が減少したと推定される。なお、図1から、例えば、試料番号1と試料番号2との間の状態にある発酵途中の腐植酸供給物質と、試料番号2と試料番号3との間の状態にある腐植酸分解途中の腐植酸供給物質とでは、含まれる腐植酸の量が同じになる場合があることから、両者の水域への腐植酸供給量は同じになることが予測される。しかしながら、水域への設置後も腐植酸供給物質が発酵し、腐植酸が生成される可能性があるため、本実施形態においては、両者のうち、試料番号1と試料番号2との間の状態にある発酵途中の腐植酸供給物質を用いることが好ましい。また、発酵が難しい環境に設置する場合であっても、発酵工程に必要とする時間が短くなるため、両者のうち、試料番号1と試料番号2との間の状態にある発酵途中の腐植酸供給物質を用いることが好ましい。
【0041】
次に、上記で得られた腐植酸を含む腐植酸供給物質を用いて、水域環境保全材料を製造した。詳細には、鉄含有物質としては、粒径20mm以下の転炉系製鋼スラグを炭酸化処理して用いた。さらに、下記の表1に示すように、腐植酸含有量が異なる2種類の腐植酸供給物質(図1の試料番号2及び試料番号4)を用いた。鉄含有物質と腐植酸供給物質の割合が容積比50:50の配合となるようにして混合し、実施例A及び比較例Bの水域環境保全材料として製造した。なお、図1に示されるように、腐植酸供給物質の発酵工程において、腐植酸供給物質の発酵時間に対する生成された腐植酸と有機物質の含有量の測定を予め行うことにより、実施例Aとして、含有される腐植酸が最も多く、且つ、比較例Bと比べて、水域に水域環境保全材料を設置した後の腐植酸供給源になりうる有機物質を多く含有する腐植酸供給物質を選択した。
【0042】
【表1】
【0043】
上述のように準備した実施例A及び比較例Bの水域環境保全材料を図2に示した鋼製の容器10にそれぞれ収容して、水深約5mの海中に沈設した。鋼製の容器10には、実施例A、比較例Bともにそれぞれ約1tの水域環境保全材料を、20kg毎に布製袋に充填して収容した。なお、図2は、実施例1の水域環境保全材料を収納して海中に沈設するための容器10の斜視図である。この容器10の表面11には、容器内部に収容された水域環境保全材料の成分を水域に拡散させるための複数の孔部12が形成されている。
【0044】
実施例A及び比較例Bの水域環境保全材料が収容された容器10を海域への沈設後、18か月間の間、定期的に容器10の上面中央から上方1mの位置で海水を清澄なポリビンに採取することで周囲の海水を採取して、海水に含有される腐植酸鉄を分析した。腐植酸鉄の含有量は、非特許文献5に記載の方法に準拠し、溶存鉄濃度として計量した。さらに、実施例A及び比較例Bの容器10のそれぞれの設置場所に近接した海域であって、実施例A及び実施例Bの水域環境保全材料からの腐植酸鉄溶出の影響のない海域でも定期的に海水を採取し、採取した海水についても同様の計量を行い、溶存鉄濃度のバックグラウンド(基準)とした。そして、計測された実施例A及び比較例Bの各溶存鉄濃度からバックグラウンドとしての溶存鉄濃度を差し引くことにより、腐植酸鉄の各増加量を算出した。
【0045】
実施例Aにおける海水中の溶存鉄濃度から前述のバックグラウンドの溶存鉄濃度との差分である溶存鉄増加量の経時変化を図3に示す。実施例Aの水域環境保全材料を内蔵した容器10を設置した直後の周囲海水においては、バックグラウンドの溶存鉄濃度に対して15.7μg/リットルの増加があり、設置4ヶ月後では、バックグラウンドの溶存鉄濃度に対して25.3μg/リットルの増加であった。その後、9か月後では、バックグラウンドの溶存鉄濃度に対して3μg/リットルの増加となり、増加量が低減したが、18ヶ月後でも、バックグラウンドの溶存鉄濃度に対して2.7μg/リットルの増加となっており、実施例Aの水域環境保全材料による効果が持続していることがわかった。
【0046】
一方、比較例Bにおける海水中の溶存鉄濃度から前記したバックグラウンドの溶存鉄濃度との差分である溶存鉄増加量の経時変化を図4に示す。比較例Bの水域環境保全材料内蔵した容器10を設置した直後の周囲海水においては、バックグラウンドの溶存鉄濃度に対して19.0μg/リットルの増加があったが、速やかに増加量が低減し、設置4ヶ月後では、4.2μg/リットルの増加となり、6ヶ月後で1.6μg/リットルの増加量に至り、12ヶ月後には、増加量がほぼゼロとなった。この結果から、比較例Bの水域環境保全材料による効果は、実施例Aに比べて、持続しないことがわかった。
【0047】
図3ないしは図4の結果に基づいて、実施例Aないしは比較例Bの水域環境保全材料を海水に設置後12ヶ月後までの、実施例Aないしは比較例Bの水域環境保全材料による腐植酸鉄の累積供給量をそれぞれ算出した。表2に、比較例Bに係る累積供給量を100%とした場合の、実施例Aに係る累積供給量の割合を示す。表2に示すように、実施例Aの水域環境保全材料においては、設置後12か月の間、同期間の比較例Bの水域環境保全材料に対して2.3倍の腐植酸鉄の供給を行ったことが確認できた。
【0048】
【表2】
【0049】
このことから、実施例Aの水域環境保全材料によれば、比較例Bの水域環境保全材料と比べて、腐植酸鉄を持続的に海水に供給することができ、且つ、腐植酸鉄の累積供給量も多いことがわかった。すなわち、実施例Aの水域環境保全材料は、比較例Bと比べて、効果的、且つ、持続的に水域に腐植酸鉄、すなわち、鉄イオンを供給することができることがわかった。
【0050】
(実施例2)
本発明の効果を確認するために、本発明の実施例に係る鉄含有物質と腐植酸を含む腐植酸供給物質を混合した水域環境保全材料を収容した容器を海中に設置し、水域環境保全材料としての藻場造成効果を調べた。
【0051】
実施例2においては、実施例1と同様に、腐植酸供給物質として、廃木材チップを原料として製造した人工腐植土を用い、先に説明したように、腐植酸供給物質の発酵工程を行った。腐植酸供給物質の発酵工程において、経時的にのべ4回にわたって、腐植酸供給物質のフルボ酸含有量、フミン酸含有量および有機物質含有量を測定した。フルボ酸含有量とフミン酸含有量は上記非特許文献3に準拠し、また、有機物質含有量は上記非特許文献4に記載の乾式燃焼法に準拠して測定した。
【0052】
図5に、測定した結果を示す。図5は、実施例2の腐植酸供給物質の発酵工程における腐植酸含有量および有機物質含有量の経時変化を示した図である。なお、図5においては、試料番号が大きくなるにしたがって、発酵時間が長くなっている。図5に示すように、腐植酸供給物質の有機物質含有量は、試料番号が大きくなるにしたがって低減したことから、経時的に腐植酸供給物質の発酵は進行していることが分かる。一方、フルボ酸含有量は、試料番号1では4.4乾燥質量%であり、試料番号2では6.1乾燥質量%まで増加し、試料番号3、試料番号4となるにつれてフルボ酸含有量が低減した。また、フミン酸含有量は、試料番号が大きくなるにしたがって、すなわち経時的に一貫して、増加傾向を示したことから、熟成の進行によってフミン酸含有量は増えることが確認された。すなわち、熟成が進みすぎた場合にはフルボ酸がフミン酸に変質し、フミン酸の含有量が増加することが確認された。本実施形態において用いる腐植酸供給物質としては、熟成が進みすぎフミン酸が増加する傾向にある試料番号3、4よりもフルボ酸を多く含み、且つ、フミン酸が少ないことから、試料番号2が最適である。
【0053】
次に、上記で得られたフルボ酸を含む腐植酸供給物質を用いて、水域環境保全材料を製造した。詳細には、鉄含有物質としては、実施例1と同様に、粒径20mm以下の転炉系製鋼スラグを炭酸化処理して用いた。さらに、下記の表3に示すように、フルボ酸含有量が異なる2種類の腐植酸供給物質(図5の試料番号2及び試料番号4)を用いた。鉄含有物質と腐植酸供給物質の割合が容積比50:50の配合となるようにして混合し、実施例C及び比較例Dの水域環境保全材料として製造した。なお、図5に示されるように、腐植酸供給物質の発酵工程において、腐植酸供給物質の発酵時間に対する生成されたフルボ酸、フミン酸及び有機物質の含有量の測定を予め行うことにより、実施例Cとして、含有されるフルボ酸が最も多く、比較例Dと比べて、水域に水域環境保全材料を設置した後の腐植酸供給源になりうる有機物質を多く含有し、且つ、フミン酸の含有量が少ない腐植酸供給物質を選択した。
【0054】
【表3】
【0055】
上述のように準備した実施例C及び比較例Dの水域環境保全材料を、実施例1と同様に、図2に示した鋼製の容器10にそれぞれ収容して、水深約5mの海中に沈設した。鋼製の容器10には、実施例C、比較例Dともにそれぞれ約1tの水域環境保全材料を、20kg毎に布製袋に充填して収容した。
【0056】
実施例C及び比較例Dの水域環境保全材料が収容された容器10を海域への沈設後、各容器10を設置した周囲の海域における海藻類の繁茂状況を定期的に観察した。詳細には、実施例Cおよび比較例Dの水域環境保全材料が収容された容器10の中心から東西南北の方角に沿って5m離れた位置の海底に50cm四方の調査区をそれぞれ4区設定し、各区での海藻類の繁茂状況を観察した。なお、10月に容器10を沈設し、沈設後概ね3か月ごとに調査を行った。その結果、表4に示すように、比較例Dの水域環境保全材料の周囲の各区画に比べて実施例Cの水域環境保全材料の周囲の各区画での海藻類の生育がよかった。
【0057】
【表4】
【0058】
さらに、上述の各区での海藻被度を調べた。海藻被度とは、各区画の海底面全体に対する海藻に覆われている海底の面積の割合である。その結果、容器10の沈設後の約半年後の5月において、実施例Cに係る区画の海藻被度の平均値が55%であり、比較例Dに係る区画の海藻被度の平均値は16%であった。また、繁茂した主要な海藻であるヤナギモクについて、実施例Cに係る区画、比較例Dに係る区画からそれぞれ30本採取して葉長を計測した結果、平均葉長が実施例Cでは37cm、比較例Dでは23cmであった。つまり、実施例Cの水域環境保全材料によれば、比較例Cの水域環境保全材料と比べて、海藻被度が3.4倍、海藻葉長が1.6倍になるという結果が得られた。したがって、実施例Cによれば、鉄イオンを必要とする海藻類等の増殖を効果的に惹起し、効果的に水域環境保全を達成することができることがわかった。
【0059】
以上に説明した実施例1及び実施例2から、本発明にかかる実施例によれば、鉄イオンを持続的に水域に供給することを可能とする効果を得ることができる。さらに、水域に、効果的、且つ、持続的に鉄イオンを供給することができ、その結果として海藻生長に代表される水域環境保全が達成できることは明らかである。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0061】
10 容器
11 表面
12 孔部
図1
図2
図3
図4
図5