(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、本明細書中において「〜」は特に断りがなければ以上から以下を表す。
【0011】
[モータハウジング]
図1は、本実施形態に係るモータハウジング100およびこれを適用するモータ200の構造例を示す斜視図である。
本実施形態のモータハウジング100は、熱硬化性樹脂組成物の硬化体により構成された円筒状の固定子20と、固定子20の外周面に密着してなる金属製のブラケット10とを備えるモータハウジング100であって、ブラケット10における、ブラケット10と固定子20との密着面は粗化処理されたものであり、前記熱硬化性樹脂組成物が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される1種または2種以上の熱硬化性樹脂を含む。
以下、このモータハウジング100の構成についてより詳細に説明する。
【0012】
本実施形態のモータハウジング100は
図1に示されるように、モータ200を構成する部品として用いられる。
図1はモータ200の分解斜視図であるが、モータハウジング100に対して、ベアリング30、ロータ40、ベアリング50、シャフト60が組み合わされてモータ200が構成される。なお、これらベアリング30、ロータ40、ベアリング50、シャフトの材料は公知のものの中から適宜選択すればよい。
本実施形態のモータハウジング100においては、内部に備える固定子20が熱硬化性樹脂組成物の硬化体により構成され、モータハウジング100全体としての軽量化を達成することができる。また、モータハウジング100を構成するブラケット10は金属であり、高い機械的強度を発現することができる。
さらに、ブラケット10における、ブラケット10と固定子20との密着面が粗化処理されているものであることから、固定子20を構成する熱硬化性樹脂組成物の硬化体との密着性が向上されており、さらなる機械的強度の向上が実現できる。
【0013】
ここでモータハウジング100全体としての比重は、適度な機械的強度を達成する観点からは、好ましくは1.
5以上であり、より好ましくは1.
7以上であり、さらに好ましくは1.
8以上である。また、モータハウジング100全体としての比重は、全体として軽量化し、幅広い用途に適用させる観点からは、好ましくは7.
5以下であり、より好ましくは
7以下であり、さらに好ましくは6.
5以下である。
【0014】
ここで固定子20としての比重は、適度な機械的強度を達成する観点からは、好ましくは1.
3以上であり、より好ましくは1.
4以上であり、さらに好ましくは1.
5以上である。また、固定子20としての比重は、全体として軽量化し、幅広い用途に適用させる観点からは、好ましくは2.
5以下であり、より好ましくは2.
3以下であり、さらに好ましくは
2以下である。
【0015】
また、本実施形態において、固定子20の厚み(T1)は、用途等に応じ適宜設定することができるが、たとえば、好ましくは1mm以上であり、より好ましくは1.5mm以上であり、さらに好ましくは2mm以上である。また、固定子20の厚み(T1)は、好ましくは10mm以下であり、より好ましくは8mm以下であり、さらに好ましくは5mm以下である。
固定子20の厚み(T1)を上記の範囲に設定することで、適度な機械的強度を発現させつつ、モータハウジング100全体としての軽量化を行うことができる。
【0016】
一方、本実施形態において、ブラケット10の厚み(T2)は、用途等に応じ適宜設定することができるが、たとえば、好ましくは0.5mm以上であり、より好ましくは0.7mm以上であり、さらに好ましくは0.8mm以上である。また、ブラケット10の厚み(T2)は、好ましくは15mm以下であり、より好ましくは10mm以下であり、さらに好ましくは8mm以下である。
このようにブラケット10の厚み(T2)の下限値を設定することで、適切な機械的強度を実現でき、また、ブラケット10の厚み(T2)の上限値を上記のように設定することで、モータハウジング100全体としての軽量化にも資することができる。
【0017】
また、本実施形態において、固定子の厚み(T1)と、ブラケットの厚み(T2)の厚みの比(T1/T2)は、0.06以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、1以上であることがさらに好ましい。また、固定子の厚み(T1)と、ブラケットの厚み(T2)の厚みの比(T1/T2)は、20以下であることが好ましく、15以下であることがより好ましく、12以下であることがさらに好ましい。
T1/T2を上記の範囲に設定することにより、適度な機械的強度を発現させつつ、モータハウジング100全体としての軽量化を行うことができる。
【0018】
以下、このモータハウジング100を構成するブラケット10と固定子20についてより具体的に説明する。
【0019】
[ブラケット10]
本実施形態に係るブラケット10は金属により構成され、このブラケット10における、ブラケット10と固定子20との密着面は粗化処理されたものであることを特徴とする。
ここで、ブラケット10は、公知の金属材料の中から適宜選択して構成することができるが、汎用性の高さや、機械的強度の高さから、たとえば、銅、アルミニウム、鉄またはステンレス材から構成されることが好ましい。
【0020】
本実施形態のモータハウジング100に係るブラケット10は、固定子20とブラケット10との接合強度を向上させる観点から、ブラケット10における、ブラケット10と固定子20との密着面(接合面103ともいう(
図2参照))は粗化処理されたものとなっている。すなわち、ブラケット10として
図2に示されるような「粗化層102」(ブラケット10の表面に設けられた複数の凹部を有する領域)を有している。
【0021】
本実施形態のブラケット10の有する粗化層102の厚みは、好ましくは3μm以上40μm以下であり、より好ましくは4μm以上32μm以下であり、特に好ましくは4μm以上30μm以下である。粗化層102の厚みが上記範囲内であると、ブラケット10と固定子20との接合強度をより一層向上させることができる。ここで、本実施形態において、粗化層102の厚みは、複数の凹部201の中で、最も深さが大きいものの深さD3(
図2参照)を表し、電子顕微鏡(SEM)写真から算出することができる。
【0022】
本実施形態のモータハウジング100は、ブラケット10における、ブラケット10と固定子20との密着面が複数の凹部201を有しており、凹部201の断面形状D2が、凹部201の開口部203から底部205までの間の少なくとも一部に開口部203の断面幅D1よりも大きい断面幅を有する形状となっていることが好ましい。
ブラケット10として係る形状を有することにより、より一層ブラケット10と固定子20との接合強度を向上させることができる。
図2に示すように、凹部201の断面形状は、D2がD1よりも大きければ特に限定されず、様々な形状を取り得る。凹部201の断面形状は、例えば、電子顕微鏡(SEM)により観察することができる。
【0023】
より好ましくは、後述する熱硬化性樹脂組成物(P)として、(B)充填材が含まれるものが用いられ、係る(B)充填材の一部が、この凹部201の内部に存在していることが好ましい。
このように(B)充填材が凹部201の内部に存在することにより、より一層ブラケット10と固定子20との接合強度を高めることができる。
【0024】
より具体的には、(B)充填材として、後述する(B2)充填材が用いられ、平均アスペクト比が好ましくは1以上50以下、より好ましくは1以上40以下である繊維状充填材または板状充填材である充填材が、この凹部201の内部に存在することが好ましい。
【0025】
凹部201の平均深さは、好ましくは0.5μm以上40μm以下であり、より好ましくは1μm以上30μm以下である。凹部201の平均深さが上記範囲であると、後述する熱硬化性樹脂組成物(P)が凹部201の奥まで十分に入り込むことができ、また、後述する凹部201の内部に存在する充填材(B)の割合を増やすことができるため、モータハウジング100全体としての機械的強度の向上を図ることができる。
凹部201の平均深さは、例えば、以下のように走査型電子顕微鏡(SEM)写真から測定することができる。まず、走査型電子顕微鏡により、粗化層102の断面を撮影する。その観察像から、凹部201を任意に50個選択し、それらの深さをそれぞれ測定する。凹部201の深さの全てを積算して個数で除したものを平均深さとする。
その他、粗化処理を行う前の金属部材の質量と、特定の処理を行った場合における質量の減少度合いの相関が分かる場合は、粗化処理前後の質量の変化から、凹部201の平均深さを見積もることもできる。
【0026】
凹部201の開口部203の平均断面幅は、好ましくは2μm以上60μm以下であり、より好ましくは3μm以上50μm以下であり、さらに好ましくは3μm以上30μm以下である。開口部203の平均断面幅が上記上限値以下であると、樹脂部材と金属部材との間のアンカー効果をより一層強く発現できる。開口部203の平均断面幅が上記下限値以上であると、後述する凹部201の内部に存在する充填材(B)の割合を増やすことができるため、熱硬化性樹脂組成物の硬化体の強度を向上させることができる。したがって、開口部203の平均断面幅が上記範囲内であると、ブラケット10と固定子20との接合強度をより一層向上させることができる。
開口部203の平均断面幅は、例えば、以下のようにSEM写真から測定することができる。まず、走査型電子顕微鏡により、粗化層102の断面を撮影する。その観察像から、凹部201を任意に50個選択し、それらの断面幅D1をそれぞれ測定する。開口部203の断面幅D1の全てを積算して個数で除したものを平均断面幅とする。
【0027】
接合面103の表面粗さRaは、好ましくは0.5μm以上40μm以下であり、より好ましくは1μm以上20μm以下であり、特に好ましくは1μm以上10μm以下である。上記表面粗さRaが上記範囲内であると、ブラケット10と固定子20との接合強度をより一層向上させることができる。
また、接合面103の最大高さRzは、好ましくは1μm以上40μm以下であり、より好ましくは3μm以上30μm以下である。上記最大高さRzが上記範囲内であると、ブラケット10と固定子20との接合強度をより一層向上させることができる。なお、RaおよびRzは、JIS−B0601に準拠して測定することができる。
【0028】
次に、粗化層102を形成する方法について説明する。
粗化層102は、例えば、表面処理剤を用いて、ブラケット10の表面(内壁面)を化学的処理することにより形成することができる。
以下、ブラケット10の表面(内壁面)に粗化層102を形成する方法の一例を示す。ただし、本実施形態に係る粗化層102の形成方法は、以下の例に限定されない。
【0029】
はじめに、(1)金属部材と表面処理剤の組み合わせを選択する。
鉄やステンレスから構成される金属部材を用いる場合は、表面処理剤として、無機酸、塩素イオン源、第二銅イオン源、チオール系化合物を必要に応じて組合せた水溶液を選択するのが好ましい。
アルミニウムやアルミニウム合金から構成される金属部材を用いる場合は、表面処理剤として、アルカリ源、両性金属イオン源、硝酸イオン源、チオ化合物を必要に応じて組合せた水溶液を選択するのが好ましい。
その他、マグネシウムやマグネシウム合金から構成される金属部材を用いる場合は、表面処理剤として、アルカリ源が用いられ、特に水酸化ナトリウムの水溶液を選択するのが好ましい。
また、銅や銅合金から構成される金属部材を用いる場合は、表面処理剤として、硝酸、硫酸などの無機酸、不飽和カルボン酸などの有機酸、過硫酸塩、過酸化水素、イミダゾールおよびその誘導体、テトラゾールおよびその誘導体、アミノテトラゾールおよびその誘導体、アミノトリアゾールおよびその誘導体などのアゾール類、ピリジン誘導体、トリアジン、トリアジン誘導体、アルカノールアミン、アルキルアミン誘導体、ポリアルキレングリコール、糖アルコール、第二銅イオン源、塩素イオン源、ホスホン酸系キレート剤酸化剤、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−シクロヘキシルアミンから選ばれる少なくとも1種を用いた水溶液を選択するのが好ましい。
【0030】
つぎに、(2)金属部材を表面処理剤に浸漬させ、金属部材表面に化学的処理をおこなう。このとき、処理温度は、例えば、30℃である。また、処理時間は選定する金属部材の材質や表面状態、表面処理剤の種類や濃度、処理温度などにより適宜決定されるが、例えば、30〜300秒である。このとき、金属部材の深さ方向のエッチング量を、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上にすることが重要である。金属部材の深さ方向のエッチング量は、溶解した金属部材の重量、比重および表面積から算出して、評価することができる。この深さ方向のエッチング量は、表面処理剤の種類や濃度、処理温度、処理時間などにより調整することができる。
本実施形態では、深さ方向のエッチング量を調整することにより、前述した粗化層102の厚み、凹部201の平均深さ、Ra、Rz等を調整することができる。
【0031】
最後に、(3)化学的処理後の金属部材表面に後処理をおこなう。まず、金属部材表面を水洗、乾燥する。次いで、化学的処理をおこなった金属部材表面を硝酸水溶液などで処理する。
以上の手順により、本実施形態に係る粗化層102を得ることができる。
【0032】
[固定子20]
つづいて、本実施形態に係る固定子20について説明する。
本実施形態に係る固定子20は、熱硬化性樹脂組成物の硬化体により構成されるものであるが、より具体的な態様としては、以下のように構成される。
すなわち、固定子20は、例えば、熱硬化性樹脂(A)と充填材(B)とを含む熱硬化性樹脂組成物(P)を硬化することで作製される。
【0033】
熱硬化性樹脂(A)としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される1種または2種以上の熱硬化性樹脂を含む。係る熱硬化性樹脂を用いることにより、ブラケット10との接合性を一段と向上させることができる。
また、上述した以外の熱硬化性樹脂としては、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、オキセタン樹脂、マレイミド樹脂、ユリア(尿素)樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂などを併用することもできる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、耐熱性、加工性、機械的特性、電気特性、接着性および耐摩耗性に優れるフェノール樹脂が好適に用いられる。
熱硬化性樹脂(A)の含有量は、熱硬化性樹脂組成物(P)全体を100質量%としたとき、好ましくは5質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上30質量%以下である。
【0034】
フェノール樹脂としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂などのノボラック型フェノール樹脂;メチロール型レゾール樹脂、ジメチレンエーテル型レゾール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油などで溶融した油溶融レゾールフェノール樹脂などのレゾール型フェノール樹脂;アリールアルキレン型フェノール樹脂などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも入手容易性、安価およびロール混練による作業性が良好などの理由からノボラック型フェノール樹脂が好ましい。
【0035】
上記フェノール樹脂において、ノボラック型フェノール樹脂を用いる場合は、通常、硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを使用する。ヘキサメチレンテトラミンは、特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、10質量部以上25質量部以下使用することが好ましく、13質量部以上20質量部以下使用することがより好ましい。ヘキサメチレンテトラミンの使用量が上記下限値以上であると、成形時の硬化時間を短縮することができる。また、ヘキサメチレンテトラミンの使用量が上記上限値以下であると、固定子20の成形性を向上させることができる。
【0036】
熱硬化性樹脂組成物(P)は、固定子20の機械的強度を向上させる観点から、充填材(B)を含むことが好ましい。
充填材(B)の含有量は、熱硬化性樹脂組成物(P)の全体を100質量%としたとき、好ましくは40質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは50質量%以上80質量%以下である。充填材(B)の含有量を上記範囲内とすることにより、熱硬化性樹脂組成物(P)の作業性を向上させつつ、得られる固定子20の機械的強度をより一層向上させることができる。これにより、ブラケット10と固定子20との接合強度により一層優れたモータハウジング100を得ることができる。また、充填材(B)の種類や含有量を調整することにより、得られる固定子20の線膨張係数α
Rの値等を調整することができる。
【0037】
充填材(B)としては、例えば、繊維状充填材、粒状充填材、板状充填材などが挙げられる。ここで、繊維状充填材はその形状が繊維状である充填材である。板状充填材はその形状が板状である充填材である。粒状充填材は、不定形状を含む繊維状・板状以外の形状の充填材である。
【0038】
上記繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、金属繊維、ワラストナイト、アタパルジャイト、セピオライト、ロックウール、ホウ酸アルミニウムウイスカー、チタン酸カリウム繊維、炭酸カルシウムウィスカー、酸化チタンウィスカー、セラミック繊維などの繊維状無機充填材;アラミド繊維、ポリイミド繊維、ポリ(パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などの繊維状有機充填材;が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
なお、本実施形態においては、熱硬化性樹脂組成物(P)として、ガラス繊維が含まれることが好ましい。
【0039】
また、上記板状充填材、粒状充填材としては、例えば、タルク、カオリンクレー、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸カルシウム水和物、マイカ、ガラスフレーク、ガラス粉、炭酸マグネシウム、シリカ、酸化チタン、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸ナトリウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、上記繊維状充填材の粉砕物などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0040】
充填材(B)は、充填材(B)の全体を100質量%としたとき、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径が5μmを超える充填材(B1)を1質量%以上100質量%以下含むことが好ましく、2質量%以上98質量%以下含むことがより好ましい。これにより、熱硬化性樹脂組成物(P)の作業性を向上させつつ、得られる固定子20の機械的強度をより一層向上させることができる。充填材(B1)の平均粒子径の上限は特に限定されないが、例えば、100μm以下である。
充填材(B1)としては、平均長径が5μm以上50mm以下で、平均アスペクト比が1以上1000以下である繊維状充填材または板状充填材を含むことがより好ましい。
充填材(B1)の平均長径および平均アスペクト比は、例えば、以下のようにSEM写真から測定することができる。まず、走査型電子顕微鏡により、複数の繊維状充填材または板状充填材を撮影する。その観察像から、繊維状充填材または板状充填材を任意に50個選択し、それらの長径(繊維状充填材の場合は繊維長、板状充填材の場合は平面方向の長径寸法)および短径(繊維状充填材の場合は繊維径、板状充填材の場合は厚み方向の寸法)をそれぞれ測定する。長径の全てを積算して個数で除したものを平均長径とする。同様に、短径の全てを積算して個数で除したものを平均短径とする。そして、平均短径に対する平均長径を平均アスペクト比とする。
【0041】
充填材(B1)としてはワラストナイト、ガラス繊維、炭素繊維、ガラスビーズ、炭酸カルシウムなどから選択される1種または2種以上が好ましい。このような充填材(B1)を用いると、固定子20の機械的強度を特に向上させることができる。
【0042】
また、充填材(B)は、充填材(B)の全体を100質量%としたとき、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径が0.1μm以上5μm以下である充填材(B2)を0質量%以上99質量%以下含むことが好ましく、2質量%以上98質量%以下含むことがより好ましい。これにより、凹部201の内部に充填材(B)を十分に存在させることができる。その結果、ブラケット10と固定子20との接合強度を高め、機械的強度をより一層向上させることができる。
充填材(B2)としては、平均長径が好ましくは0.1μm以上100μm以下、より好ましくは0.2μm以上50μm以下であり、平均アスペクト比が好ましくは1以上50以下、より好ましくは1以上40以下である繊維状充填材または板状充填材を含むことがより好ましい。
充填材(B2)の平均長径および平均アスペクト比は、例えば、以下のようにSEM写真から測定することができる。まず、走査型電子顕微鏡により、複数の繊維状充填材または板状充填材を撮影する。その観察像から、繊維状充填材または板状充填材を任意に50個選択し、それらの長径(繊維状充填材の場合は繊維長、板状充填材の場合は平面方向の長径寸法)および短径(繊維状充填材の場合は繊維径、板状充填材の場合は厚み方向の寸法)をそれぞれ測定する。長径の全てを積算して個数で除したものを平均長径とする。同様に、短径の全てを積算して個数で除したものを平均短径とする。そして、平均短径に対する平均長径を平均アスペクト比とする。
【0043】
このような充填材(B2)としては、ワラストナイト、カオリンクレー、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸カルシウム水和物、ホウ酸アルミニウムウイスカー、およびチタン酸カリウム繊維から選択される1種または2種以上が好ましい。
係る充填材(B2)は、先述のような平均長径や平均アスペスト比を満たすためブラケット10における凹部201中に介在しやすくなる。すなわち、上述の充填材(B2)が凹部201中に存在することにより、モータハウジング100全体としての機械的強度を向上させることができる。
【0044】
また、充填材(B)は、後述するシランカップリング剤(C)などのカップリング剤による表面処理が行われていてもよい。
【0045】
熱硬化性樹脂組成物(P)は、シランカップリング剤(C)をさらに含んでもよい。シランカップリング剤(C)を含むことにより、ブラケット10と固定子20との密着性を向上させることができる。また、シランカップリング剤(C)を含むことにより、熱硬化性樹脂(A)と充填材(B)との親和性が向上し、その結果、固定子20の機械的強度をより一層向上させることができる。
【0046】
シランカップリング剤(C)の含有量は、充填材(B)の比表面積に依存するので特に限定されないが、充填材(B)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上4.0質量部以下であり、より好ましくは0.1質量部以上1.0質量部以下である。シランカップリング剤(C)の含有量が上記範囲内であると、充填材(B)を十分に被覆しつつ、固定子20の機械的強度をより一層向上させることができる。
【0047】
シランカップリング剤(C)としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物;γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物;γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物;γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物;γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0048】
熱硬化性樹脂組成物(P)の製造方法は特に限定されず、一般的に公知の方法により製造することができる。例えば、以下の方法が挙げられる。まず、熱硬化性樹脂(A)、必要に応じて充填材(B)、シランカップリング剤(C)、エラストマー、硬化剤、硬化助剤、離型剤、顔料、難燃剤、耐候剤、酸化防止剤、可塑剤、潤滑剤、摺動剤、発泡剤などを配合して均一に混合する。次いで、得られた混合物をロール、コニーダ、二軸押出し機などの混練装置単独で、またはロールと他の混練装置との組合せで加熱溶融混練する。最後に、得られた混合物を造粒または粉砕することにより、熱硬化性樹脂組成物(P)が得られる。
本実施形態においては、このようにして得られた熱硬化性樹脂組成物(P)を成形することにより固定子20が得られる。
【0049】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物(P)の硬化体、すなわち、固定子20を構成する樹脂部材の25℃からガラス転移温度までの範囲における線膨張係数αは、好ましくは10ppm/K以上40ppm/K以下であり、より好ましくは10ppm/K以上35ppm/K以下である。線膨張係数αが上記範囲内であると、モータハウジング100の信頼性をより一層向上させることができる。
なお、上記線膨張係数αは、成形後のサンプルについて、MD方向の線膨張係数とTD方向の線膨張係数との平均値として算出することができる。
【0050】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物(P)の硬化体、すなわち、固定子20を構成する樹脂部材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは120℃以上であり、より好ましくは130℃以上であり、さらに好ましくは140℃以上である。また、熱硬化性樹脂組成物(P)の硬化体、すなわち、固定子20を構成する樹脂部材のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは300℃以下であり、より好ましくは290℃以下である。熱硬化性樹脂組成物(P)の硬化体について、ガラス転移温度(Tg)を上記のように設定することにより、モータハウジング100の信頼性をより一層向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物(P)の硬化体、すなわち、固定子20を構成する樹脂部材は、絶縁抵抗が高いことが好ましい。より具体的に、熱硬化性樹脂組成物(P)の硬化体、すなわち、固定子20を構成する樹脂部材は、体積抵抗値として、1×10
10Ω・cm
−1以上であることが好ましく、1×10
11Ω・cm
−1以上であることがより好ましい。
このように絶縁抵抗を調整することにより、従来存在するような金属のみから構成されるモータハウジングとは異なる用途に用いることが可能となる。
【0052】
また、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物(P)の硬化体、すなわち、固定子20を構成する樹脂部材は、熱伝導率が高いことが好ましい。より具体的に、熱硬化性樹脂組成物(P)の硬化体、すなわち、固定子20を構成する樹脂部材は、熱伝導率として、0.2W/(m・K)以上であることが好ましく、0.3W/(m・K)以上であることがより好ましい。
このように熱伝導率を調整することにより、ロータ40周辺で発生した熱を円滑に外部に放出することができ、モータ200としての寿命を延ばすことができる。
【0053】
[モータハウジング100の製造方法]
本実施形態のモータハウジング100は、たとえば、以下のような工程を組み合わせることにより製造することができる。
内壁面が粗化処理された金属製のブラケットおよび金型を準備する工程。
金型の成形空間内にブラケットを配置する工程。
フェノール樹脂、エポキシ樹脂および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される1種または2種以上の熱硬化性樹脂を含み、流動化した、熱硬化性樹脂組成物で成形空間内を充填する工程。
充填された熱硬化性樹脂組成物を硬化させて円筒状の固定子を形成し、当該円筒状の固定子と前記ブラケットとが接合されたモータハウジングを得る工程。
【0054】
係る方法で用いられる金属製のブラケットや熱硬化性樹脂組成物は前述したものを採用することができる。すなわち、本実施形態の製造方法は、ブラケット10、および熱硬化性樹脂組成物(P)を用いて行うことができる。
【0055】
本実施形態のモータハウジングの製造方法は、ブラケット10を金型の成形空間内に配置し、さらに、熱硬化性樹脂組成物(P)にてこの成形空間内を充填することにより行われる。
係る条件は、採用する成形方法により異なるため特に限定されないが、採用する成形方法における一般的に公知の成形条件を採用することができる。成形方法として圧縮成形法を用いる場合、例えば、温度が150〜180℃、圧力5〜30MPa、硬化時間30秒間から5分間の成形条件を挙げることができる。
【0056】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を示す。
<1>
熱硬化性樹脂組成物の硬化体により構成された円筒状の固定子と、前記固定子の外周面に密着してなる金属製のブラケットとを備えるモータハウジングであって、
前記ブラケットにおける、前記ブラケットと前記固定子との密着面は粗化処理されたものであり、
前記熱硬化性樹脂組成物が、フェノール樹脂、エポキシ樹脂および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される1種または2種以上の熱硬化性樹脂を含む、モータハウジング。
<2>
<1>に記載のモータハウジングであって、
前記ブラケットにおける、前記ブラケットと前記固定子との密着面が複数の凹部を有しており、
前記凹部の断面形状が、前記凹部の開口部から底部までの間の少なくとも一部に前記開口部の断面幅よりも大きい断面幅を有する形状となっている、モータハウジング。
<3>
<1>または<2>に記載のモータハウジングであって、
前記熱硬化性樹脂組成物が、ガラス繊維を含む、モータハウジング。
<4>
<2>または<3>に記載のモータハウジングであって、
前記熱硬化性樹脂組成物が、充填材をさらに含み、
前記凹部の内部に前記充填材の一部が存在している、モータハウジング。
<5>
<>4に記載のモータハウジングであって、
前記凹部の内部に存在する前記充填材の平均アスペクト比が1以上50以下である、モータハウジング。
<6>
<4>または<5>に記載のモータハウジングであって、
前記凹部の内部に存在する前記充填材がワラストナイト、カオリンクレー、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸カルシウム水和物、ホウ酸アルミニウムウイスカー、およびチタン酸カリウム繊維からなる群から選ばれる一種または二種以上である、モータハウジング。
<7>
<1>ないし<6>のいずれか一に記載のモータハウジングであって、
前記ブラケットが、銅、アルミニウム、鉄またはステンレス材から構成される、モータハウジング。
<8>
<1>ないし<7>のいずれか一に記載のモータハウジングであって、
前記固定子の比重が1.3以上2.5以下である、モータハウジング。
<9>
<1>ないし<8>のいずれか一に記載のモータハウジングであって、
当該モータハウジング全体の比重が1.5以上7.5以下である、モータハウジング。
<10>
<1>ないし<9>のいずれか一に記載のモータハウジングであって、
前記固定子の厚み(T1)が1mm以上10mm以下である、モータハウジング。
<11>
<1>ないし<10>のいずれか一に記載のモータハウジングであって、
前記ブラケットの厚み(T2)が0.5mm以上15mm以下である、モータハウジング。
<12>
<1>ないし<11>のいずれか一に記載のモータハウジングであって、
前記固定子の厚み(T1)と、前記ブラケットの厚み(T2)の厚みの比(T1/T2)が0.06以上20以下である、モータハウジング。
<13>
<1>ないし<12>のいずれか一に記載のモータハウジングであって、
前記熱硬化性樹脂組成物の硬化体のガラス転移温度(Tg)が120℃以上である、モータハウジング。
<14>
<1>ないし<13>のいずれか一に記載のモータハウジングであって、
前記熱硬化性樹脂組成物の硬化体の線膨張係数が10ppm/K以上40ppm/K以下である、モータハウジング。
<15>
内壁面が粗化処理された金属製のブラケットおよび金型を準備する工程と、
前記金型の成形空間内に前記ブラケットを配置する工程と、
フェノール樹脂、エポキシ樹脂および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される1種または2種以上の熱硬化性樹脂を含み、流動化した、熱硬化性樹脂組成物で前記成形空間内を充填する工程と、
充填された前記熱硬化性樹脂組成物を硬化させて円筒状の固定子を形成し、当該円筒状の固定子と前記ブラケットとが接合されたモータハウジングを得る工程とを含む、
モータハウジングの製造方法。
<16>
<15>に記載のモータハウジングの製造方法であって、
前記ブラケットにおける、前記ブラケットと前記固定子との密着面が複数の凹部を有しており、
前記凹部の断面形状が、前記凹部の開口部から底部までの間の少なくとも一部に前記開口部の断面幅よりも大きい断面幅を有する形状となっている、モータハウジングの製造方法。
<17>
<15>または<16>に記載のモータハウジングの製造方法であって、
前記熱硬化性樹脂組成物が、ガラス繊維を含む、モータハウジングの製造方法。
<18>
<16>または<17>に記載のモータハウジングの製造方法であって、
前記熱硬化性樹脂組成物が、充填材をさらに含み、
前記凹部の内部に前記充填材の一部が存在している、モータハウジングの製造方法。
<19>
<18>に記載のモータハウジングの製造方法であって、
前記凹部の内部に存在する前記充填材の平均アスペクト比が1以上50以下である、モータハウジングの製造方法。
<20>
<18>または<19>に記載のモータハウジングの製造方法であって、
前記凹部の内部に存在する前記充填材がワラストナイト、カオリンクレー、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、ケイ酸カルシウム水和物、ホウ酸アルミニウムウイスカー、およびチタン酸カリウム繊維からなる群から選ばれる一種または二種以上である、モータハウジングの製造方法。
<21>
<15>ないし<20>のいずれか一に記載のモータハウジングの製造方法であって、
前記ブラケットが、銅、アルミニウム、鉄またはステンレス材から構成される、モータハウジングの製造方法。
【実施例】
【0057】
以下、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
<熱硬化性樹脂組成物(P1)の調製>
ノボラック型フェノール樹脂(PR−51305、住友ベークライト社製)を34.0質量%、ヘキサメチレンテトラミンを6.0質量%、ガラス繊維(CS3E479、日東紡社製、平均粒子径:11μm、平均長径:3mm、平均アスペクト比:270)を52.0質量%、ワラストナイト(NYCO Minerals社製、NYAD5000、平均粒子径:3μm、平均長径:9μm)を6.0質量%、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学株式会社製、KBE−903)0.2質量%、酸化マグネシウム(神島化学工業社製)を0.5質量%、潤滑剤等のその他の成分を1.3質量%、それぞれ乾式混合し、これを90℃の加熱ロールで溶融混練して、シート状にして冷却したものを粉砕して顆粒状の熱硬化性樹脂組成物(P1)を得た。
【0059】
<金属部材の準備>
表面処理がされていない金属シートとして、その表面が#4000の研磨紙で十分研磨された、アルミニウム合金A5052の金属シートA(80mm×10mm、厚さ1.0mm、密度2.68g/cm
3、熱伝導率138W/(m・K))を用意した。別途、水酸化カリウム(16質量部)、塩化亜鉛(5質量部)、硝酸ナトリウム(5質量部)、チオ硫酸ナトリウム(13質量部)の水溶液を調製した。得られた水溶液(30℃)中に、金属シートAを浸漬して揺動させ、深さ方向に15μm(アルミニウムの減少した重量から算出)溶解させた。次いで、水洗を行い、35質量部の硝酸水溶液(30℃)中に浸漬して、20秒間揺動させた。その後、水洗、乾燥し、金属シート1(金属部材)を得た。
なお、この金属シート1について、凹部の断面は、凹部の開口部から底部までの間の少なくとも一部に開口部の断面幅よりも大きい断面幅を有する形状になっていた。
【0060】
<金属樹脂複合体の作製>
得られた熱硬化性樹脂組成物(P1)および金属シート1を用いて、金属樹脂複合体1を作製した。具体的には、以下の手順により作製した。
はじめに、金型内に厚み1mmの金属シート1を固定せずに配置した。次いで、硬化後の厚みが3mmとなるように、熱硬化性樹脂組成物(P1)を加熱し、上記金型内に所定量注入した。このとき、熱硬化性樹脂組成物(P1)の流体圧力により、金属シート1を金型の内壁に押しつけるようにした。最後に、圧縮成形により熱硬化性樹脂組成物(P1)を硬化することにより、厚み3mmの樹脂部材シートと厚み1mmの金属シート1の2層シートである金属樹脂複合体1を得た。この金属樹脂複合体1を試験片1とした。なお、圧縮成形条件は、実効圧力20MPa、金型温度175℃、硬化時間3分間とした。
【0061】
<モータハウジングの作製>
試験片1を作製するのと同様の条件で、樹脂金属複合体からなるモータハウジングを作製した。具体的には、円筒形状の金属部材を用意し、これに対して、圧縮成形により熱硬化性樹脂組成物(P1)を作用させることでモータハウジング1を得た。
【0062】
上述した方法にて得られた熱硬化性樹脂組成物、金属部材、金属樹脂複合体、またはモータハウジングを用いて、後述する測定及び評価を行った。
【0063】
(実施例2)
熱硬化性樹脂組成物(P1)に用いた、ワラストナイトの代わりに、ケイ酸カルシウム水和物(宇部マテリアルズ社製、ゾノハイジ、平均粒子径:0.1〜0.5μm、平均長径:1〜5μm)を6.0質量%用いて、熱硬化性樹脂組成物(P2)を調製した以外は、実施例1と同様の方法により試験片2とモータハウジング2を作製した。これらについて、後述する測定及び評価を行った。
【0064】
(実施例3)
熱硬化性樹脂組成物(P1)の代わりに、以下の熱硬化性樹脂組成物(P3)を使用し、また、金属シートとして、以下で得られたSUS304製の金属シート2を用いた以外は、実施例1と同様の方法により樹脂金属複合体3とモータハウジング3を作製した。これらについて、後述する測定及び評価を行った。
【0065】
<熱硬化性樹脂組成物(P3)の調製>
ノボラック型フェノール樹脂(PR−51305、住友ベークライト社製)を25.5質量%、ヘキサメチレンテトラミンを4.5質量%、ガラス繊維(CS3E479、日東紡社製、平均粒子径:11μm、平均長径:3mm、平均アスペクト比:270)を61.2質量%、ワラストナイト(NYCO Minerals社製、NYAD5000、平均粒子径:3μm、平均長径:9μm)を7.0質量%、酸化マグネシウム(神島化学工業社製)を0.5質量%、潤滑剤等のその他の成分を1.3質量%、それぞれ乾式混合し、これを90℃の加熱ロールで溶融混練して、シート状にして冷却したものを粉砕して顆粒状の熱硬化性樹脂組成物(P3)を得た。
【0066】
<金属部材の表面処理>
まず、表面処理がされていないステンレスシートA(80mm×10mm、厚さ1.0mm、密度7.93g/cm
3、熱伝導率16.7W/(m・K)、SUS304)を準備した。また、別途、硫酸(50質量%)、硫酸第二銅5水和物(3質量%)、塩化カリウム(3質量%)、チオサリチル酸(0.0001質量%)の水溶液を調製した。そして、得られた水溶液(30℃)中に、ステンレスシートAを浸漬して揺動させ、深さ方向に13μm(ステンレスの減少した重量から算出)溶解させた。次いで、水洗、乾燥し、金属シート2(金属部材)を得た。
なお、この金属シート2について、凹部の断面は、凹部の開口部から底部までの間の少なくとも一部に開口部の断面幅よりも大きい断面幅を有する形状になっていた。
【0067】
(比較例1)
樹脂部材を含まない試験片を用意した。具体的には、表面処理がされていない金属シートとして、その表面が#4000の研磨紙で十分研磨された、アルミニウム合金A5052の金属シートB(80mm×10mm、厚さ4.0mm、密度2.68g/cm
3、熱伝導率138W/(m・K))を用意し、試験片4とした。
また、アルミニウム合金A5052を公知の加工法により加工することにより厚みが4mmのモータハウジング4を作製した。
試験片4およびモータハウジング4について、後述する測定及び評価をおこなった。
【0068】
(比較例2)
金属部材を含まない試験片を作製した。具体的には、熱硬化性樹脂組成物(P1)を加熱し、金型内に所定量注入した後、圧縮成形により熱硬化性樹脂組成物(P1)を硬化することにより、80mm×10mm、厚さ4.0mmの樹脂部材のみからなる試験片5を得た。なお、圧縮成形条件は、実効圧力20MPa、金型温度175℃、硬化時間3分間とした。また、同様に、圧縮成形により厚みが4mmのモータハウジング4を作製した。
試験片4およびモータハウジング4について、後述する測定及び評価をおこなった。
【0069】
(比較例3)
金属シート1の代わりに、粗化処理がされていない金属シートAを使用した以外は、実施例1と同様の方法により試験片6およびモータハウジング6を作製した。これらについて、後述する測定及び評価をおこなった。
【0070】
用いた熱硬化性樹脂組成物、金属部材、試験片、モータハウジングは以下の内容に従い評価を行った。
【0071】
[熱硬化性樹脂組成物の評価]
ガラス転移温度(Tg):作製した試験片から、厚さ2mmの樹脂試料を切り出し、JIS K 6911に準拠して、測定を行った。単位は℃とした。
【0072】
線膨張係数:熱機械測定装置(TAインスツルメント社製)を用い、空気雰囲気下、圧縮モードで昇温速度5℃/min、温度25〜300℃、荷重100mN、1サイクル測定を行った。熱膨張係数は、温度80〜120℃における平均線熱膨張係数とした。単位はppm/Kとした。
【0073】
耐電圧特性(絶縁抵抗):作製した試験片から、厚さ2mmの樹脂試料を切り出し、JIS K 6911に準拠して体積抵抗値を測定した。単位はΩ・cm
−1とした。
【0074】
曲げ強度:各樹脂組成物から、80mm×10mm、厚さ4.0mmの試験片を作製し、曲げ強度をJIS K 7171に準じて測定した。
具体的には、試験片の片方の面に2つの支点をあて、反対の面の中央に圧子をあてて3点曲げ応力を加えた。25℃雰囲気にて、試験速度を2mm/min、支点間の距離Lを64mmとして曲げ強さを測定した。単位はMPaとした。
【0075】
熱伝導率:作製した試験片から、厚さ2mmの樹脂試料を切り出し、レーザーフラッシュ法を用いて樹脂試料の厚さ方向の熱伝導率を測定した。単位はW/(m・K)とした。
【0076】
比重:試験片から厚さ2mmの樹脂試料を切り出し、水中置換法により樹脂部材の比重を測定した
。
【0077】
[金属部材の評価]
RaおよびRz:超深度形状測定顕微鏡(キーエンス社製VK9700)を用いて、JIS−B0601に準拠して、倍率20倍における金属部材の樹脂部材との接合面の表面形状を測定した。表面粗さはRaおよびRzを測定した。単位はμmとした。
【0078】
[試験片の評価]
せん断密着性試験:別途幅18mm×長さ45mmの面積を有する金属シートを用意し(この金属シートは各実施例・比較例で用いたものに対応するものである。)、幅10mm×長さ45mmの樹脂材料を、長さ5mm分金属シートに重なるように調整しながらトランスファー成形によって試験片を作製した。
この試験片について、ISO19095に準じてせん断密着強度の測定を行った。単位はMPaとした。なお、比較例1および比較例2は複合材料には該当しないため、この試験は行っていない。
【0079】
曲げ強度:各試験片について、曲げ強度をJIS K 7171に準じて測定した。
具体的には、試験片の片方の面に2つの支点をあて、反対の面の中央に圧子をあてて3点曲げ応力を加えた。25℃雰囲気にて、試験速度を2mm/min、支点間の距離Lを64mmとして曲げ強さを測定した。単位はMPaとした。
【0080】
曲げ疲労試験:試験片の100万回曲げ疲労耐性を評価した。試験片の面に2つの支点をあて、反対側の面の中央に圧子をあてた。25℃雰囲気にて、繰り返し応力の周波数を30Hz、支点間の距離Lを64mmとし、140MPaの曲げ応力を試験片に連続して100万回加えた。100万回繰り返し応力を印加しても破断も剥離もしなかった場合を○とし、100万回繰り返し応力を印加する間に破断または剥離が生じた場合を×として評価した。
【0081】
ヘリウムリーク試験:試験片について真空法吹付け法(スプレー法)に準じて評価を行った。テストポートに被検査体を接続し、リークディテクタにて内部を真空排気し、外部よりHeガスを吹付けてリーク量を測定した。
このヘリウムリーク試験を行うに際しては、以下の基準により評価を行った。
○:リーク量e
−7Pa・m
3/sec以下
×:リーク量e
−7Pa・m
3/sec超
【0082】
電磁波シールド性:作製した試験片を用いて、KEC法に準じて樹脂金属複合体の電磁波シールド率を測定した。この測定を行うに際しては、以下の基準により評価を行った。
○:シールド率99.9%以上
×:シールド率99.9%未満
【0083】
[モータハウジングの評価]
比重:得られたモータハウジングについて、水中置換法により比重を測定した
。
【0084】
ヒートサイクル性:得られたモータハウジングについて、−40℃に冷却した雰囲気中に1時間、150℃の乾燥炉に1時間交互に入れる試験を1000回繰り返し、250回毎に金属材料と樹脂材料との剥離の有無を確認した。1000回の試験を終了後、剥離の発生の無いものについては○、剥離の発生したものは×とした。
【0085】
上記評価項目に関する評価結果を、以下の表1に各成分の配合比率と共に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示される結果から分かるように、実施例で得られるモータハウジングは金属のみで構成されるモータハウジングよりも軽量化できることが期待され、また、金属部材と樹脂部材との密着性にも優れることから、高い機械的強度の双方の要求を満たすことが期待される。