特許第6604111号(P6604111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604111
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】フィルタ装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/028 20060101AFI20191031BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20191031BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20191031BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20191031BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   F01N3/028
   B01D53/94 241
   B01J35/04 301E
   B01J35/04 301Z
   F01N3/022 C
   F01N3/035 A
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-185933(P2015-185933)
(22)【出願日】2015年9月18日
(65)【公開番号】特開2017-57843(P2017-57843A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100192636
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】八木下 洋平
【審査官】 楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−295122(JP,A)
【文献】 特開昭61−197042(JP,A)
【文献】 特開2002−177794(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0101451(US,A1)
【文献】 特開2005−000818(JP,A)
【文献】 特開2002−349229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00〜 3/38
B01D 46/00〜46/54
B01D 53/86
B01D 53/94
B01J 35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガスの流入側になる第1端と、前記排気ガスの流出側になる第2端とを有するセラミック製のフィルタであって、前記第1端から前記第2端に向かって前記第2端の手前まで伸延する複数の第1穴部と、前記第2端から前記第1端に向かって前記第1端の手前まで、前記第1穴部とは互い違いに伸延する、複数の第2穴部とを有するフィルタと、
前記第1穴部及び前記第2穴部の内壁に設けられる、粒子状又はワイヤ状の金属部材と、
前記第1穴部及び前記第2穴部の内壁に設けられる、触媒部と、
前記フィルタの外側面、又は、前記外側面よりも外側に配設され、前記フィルタの内部に向けてマイクロ波を放射するマイクロ波放射部を含
前記金属部材は、前記フィルタの内部で、前記マイクロ波を透過又は反射し、
前記複数の第1穴部と前記複数の第2穴部の断面において、中心側に位置する前記第1穴部及び前記第2穴部の前記内壁に設けられる前記金属部材の密度は、前記断面における外側に位置する前記第1穴部及び前記第2穴部の前記内壁に設けられる前記金属部材の密度よりも高い、フィルタ装置。
【請求項2】
前記金属部材は、前記内壁において前記触媒部に重ねて設けられる、請求項記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記フィルタの前記第1端と前記第2端との間で前記外側面を覆うカバーをさらに含み、
前記マイクロ波放射部は、前記カバーの外表面に配設されるアンテナである、請求項1又は2記載のフィルタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンからの排ガスの流路に備えられるプラズマ発生器によってプラズマを発生させ、該排ガス中の窒素成分をプラズマ化して二酸化窒素を生成し、排ガス中の黒鉛微粒子を酸化燃焼することを特徴とするエンジン排ガスの処理方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、この特許文献1には、次のようなエンジン排ガスの処理装置が記載されている。エンジンから排出される排ガスの処理装置であって、排ガスの流れ方向に対して前流側に設けられ、窒素および酸素を含むガスを導入してプラズマを発生させる、プラズマ発生器を含むエンジン排ガスの処理装置である。エンジン排ガスの処理装置は、さらに、該プラズマ発生器を経由した処理用ガスを排ガスの流れに合流させる、処理用ガス合流部と、該処理用ガス合流部の後流に設けられ、排ガス中の黒煙微粒子を捕集する、フィルターと、を含む(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−201825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のエンジン排ガスの処理方法は、排ガス中の窒素成分をプラズマ化して二酸化窒素を生成し、排ガス中の黒鉛微粒子を酸化燃焼させているが、このようなプラズマ化を利用した黒鉛微粒子(煤)の除去方法は、構造が複雑であり、必ずしも効率的な黒鉛微粒子(煤)の除去方法ではない。
【0006】
そこで、効率的に煤を除去することができるフィルタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施の形態のフィルタ装置は、エンジンの排気ガスの流入側になる第1端と、前記排気ガスの流出側になる第2端とを有するセラミック製のフィルタであって、前記第1端から前記第2端に向かって前記第2端の手前まで伸延する複数の第1穴部と、前記第2端から前記第1端に向かって前記第1端の手前まで、前記第1穴部とは互い違いに伸延する、複数の第2穴部とを有するフィルタと、前記第1穴部及び前記第2穴部の内壁に設けられる、粒子状又はワイヤ状の金属部材と、前記第1穴部及び前記第2穴部の内壁に設けられる、触媒部と、前記フィルタの外側面、又は、前記外側面よりも外側に配設され、前記フィルタの内部に向けてマイクロ波を放射するマイクロ波放射部を含前記金属部材は、前記フィルタの内部で、前記マイクロ波を透過又は反射し、前記複数の第1穴部と前記複数の第2穴部の断面において、中心側に位置する前記第1穴部及び前記第2穴部の前記内壁に設けられる前記金属部材の密度は、前記断面における外側に位置する前記第1穴部及び前記第2穴部の前記内壁に設けられる前記金属部材の密度よりも高い
【発明の効果】
【0008】
効率的に煤を除去することができるフィルタ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態のフィルタ装置100を示す図である。
図2】実施の形態のフィルタ装置100を示す図である。
図3】穴部111と穴部112の配置と構成を示す図である。
図4】穴部111と穴部112の配置と構成を示す図である。
図5】フィルタ110における金属ワイヤ115及び116の体積占有率の異なる領域を示す図である。
図6】アンテナ130を高周波発生部200に接続した状態を示す図である。
図7】金属ワイヤ115及び116の体積占有率に対するマイクロ波の反射率と透過率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のフィルタ装置を適用した実施の形態について説明する。
【0011】
<実施の形態>
図1及び図2は、実施の形態のフィルタ装置100を示す図である。
【0012】
フィルタ装置100は、フィルタ110、カバー120、及びアンテナ130を含む。フィルタ装置100は、一例として、ディーゼルエンジンの排気ガスを浄化する装置であり、ディーゼルエンジンの排気ガスを排出する排気管に直列に挿入される。
【0013】
フィルタ110は、円柱状で多孔質のセラミック製の部材であり、複数の穴部111と、複数の穴部112とを有する。フィルタ110は、例えば、炭化珪素(SiC)製のセラミックで形成されていてもよい。
【0014】
また、フィルタ110は、一方の面110A(図1参照)、他方の面110B(図2参照)、及び側面110Cを有する。一方の面110Aと他方の面110Bは、ともに円形であり、側面110Cは、円柱体の側面の形状(長方形を環状に湾曲させた形状)である。
【0015】
穴部111は、フィルタ110の一方の面110Aに形成される開口部から他方の面110Bに向かってY軸方向に沿って伸延しており、他方の面110Bの手前で閉じられている。穴部111の伸延方向(Y軸方向)は、フィルタ110の円柱形状の中心軸が伸延する方向と等しい。
【0016】
穴部111の伸延方向に垂直な断面の形状は、一例として、正方形である。穴部111の伸延方向に垂直な断面は、XZ平面に平行な断面である。複数の穴部111は、XZ平面視で、複数の白い正方形と、複数の黒い正方形とを市松模様に配列したうちの白い正方形の位置に配置されており、一方の面110Aに形成される開口部から他方の面110Bの手前まで伸延している。
【0017】
穴部112の伸延方向に垂直な断面の形状は、一例として、正方形である。穴部112の伸延方向に垂直な断面は、XZ平面に平行な断面である。複数の穴部112は、XZ平面視で、複数の白い正方形と、複数の黒い正方形とを市松模様に配列したうちの黒い正方形の位置に配置されており、他方の面110Bに形成される開口部から一方の面110Aの手前まで伸延している。
【0018】
このように、複数の穴部111と、複数の穴部112とは、入れ子式に配置されており、三次元的に重複又は接触しないように互い違いに配置されている。また、フィルタ装置100は、ディーゼルエンジンの排気ガスを排出する排気管の第1区間と第2区間との間に直列に挿入される。第1区間は、第2区間よりもディーゼルエンジンに近い区間である。
【0019】
複数の穴部111には、第1区間から排出される排気ガスが流入する。すなわち、複数の穴部111は、排気ガスが流入する流入側に位置する。また、複数の穴部112は、フィルタ装置100で浄化した排気ガスを排気管の第2区間に排出する。すなわち、複数の穴部112は、排気ガスが流出する流出側に位置する。
【0020】
複数の穴部111に流入した排気ガスは、複数の穴部111と複数の穴部112との間のフィルタ110の多孔質の孔部を通過して、複数の穴部112から流出する。
【0021】
穴部111のXZ平面視での寸法は、一例として、1辺が1mmであり、これは穴部112についても同じである。穴部111と穴部112とのX軸方向及びZ軸方向の間隔は、一例として、300μmである。
【0022】
また、フィルタ110のXZ平面視での直径と、Y軸方向の長さとは、フィルタ装置100を用いるディーゼルエンジンの排気量又は用途等に応じて、適切な値に設定すればよい。
【0023】
なお、複数の穴部111と複数の穴部112との内部に配設される触媒と、金属部材とについては、図3及び図4を用いて後述する。
【0024】
カバー120は、円筒状の誘電体製の部材であり、フィルタ110の側面110Cから所定の間隔を隔てた位置において、円柱状のフィルタ110と、XZ平面視で同心円状に配置される。また、カバー120のY軸方向の長さは、一例として、フィルタ110と同一である。
【0025】
カバー120の外周面には、アンテナ130が配置される。カバー120は、アンテナ130をフィルタ110の外周部に配置するために設けられている。なお、カバー120の内周面と、フィルタ110の側面110Cとの間は、例えば、数ミリ程度であってもよい。また、カバー120の内周面と、フィルタ110の側面110Cとは、密着していてもよい。
【0026】
アンテナ130は、カバー120の外周面に複数設けられている。複数のアンテナ130は、カバー120の外周面において、周方向及びY軸方向において等間隔で配置されている。アンテナ130は、マイクロ波放射部の一例である。
【0027】
図1及び図2には、一例として、アンテナ130がカバー120の周方向に90度間隔で4つ配置され、カバー120のY軸方向に等間隔で4つ配置される形態を示す。カバー120の陰になる8つのアンテナ130の図示を省くが、16個のアンテナ130が等間隔でカバー120の外周面に配置される形態である。
【0028】
アンテナ130は、パッチアンテナである。アンテナ130は、例えば、銅又はアルミニウム等の金属製であればよく、薄い金属箔で実現することができる。アンテナ130は、図示しないマイクロ波電源に接続されており、カバー120の外周面の周方向、又は、Y軸方向に電界が変換するマイクロ波を放射する。
【0029】
ここでは、アンテナ130がマイクロ波を放射するパッチアンテナである形態について説明するため、平面視で正方形のアンテナ130の1辺の長さは、電気長で、マイクロ波の波長(λ)の半波長(λ/2)に設定すればよい。この1辺の長さは、カバー120及びフィルタ110の誘電率を考慮して決定すればよい。なお、マイクロ波の周波数は、例えば、ISM(Industry-Science-Medical)バンドのうちの2.45GHzであるが、これ以外の周波数であってもよい。マイクロ波とは、例えば、約300MHzから約数10GHz程度の周波数の電磁波である。
【0030】
なお、ここでは、16個のアンテナ130が等間隔でカバー120の外周面に配置される形態について説明するが、アンテナ130の数と位置は、フィルタ110の大きさ、及び、フィルタ110の内部でのマイクロ波の分布等に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
また、アンテナ130は、マイクロ波をフィルタ110の内部に向けて放射できるアンテナであればよいため、パッチアンテナに限られない。アンテナ130としては、スロットアンテナ、ダイポールアンテナ、又はモノポールアンテナを用いてもよい。
【0032】
図3及び図4は、穴部111と穴部112の配置と構成を示す図である。
【0033】
図3(A)には、フィルタ110の一方の面110Aを示す。図3(A)では、一方の面110Aに表出する穴部111を実線で示すとともに、一方の面110Aには表出しない穴部112を破線で示す。
【0034】
また、図4(A)には、フィルタ110の他方の面110Bを示す。図4(A)では、他方の面110Bに表出する穴部112を実線で示すとともに、他方の面110Bには表出しない穴部111を破線で示す。
【0035】
図3(A)及び図4(A)に示すように、穴部111と穴部112とは、市松模様を構築するように配置される。
【0036】
図3(B)には、一部の穴部111と、一部の穴部112とを斜視透視的に示す。また、図3(C)には、穴部111のY軸方向に沿った、XZ平面に平行な断面を示す。
【0037】
同様に、図4(B)には、一部の穴部112と、一部の穴部111とを斜視透視的に示す。また、図4(C)には、穴部112のY軸方向に沿った、XZ平面に平行な断面を示す。
【0038】
図3(B)と図4(B)には、5つの穴部111と、4つの穴部112とが市松模様状に配置される、3行3列の部分を示すが、フィルタ110の内部における穴部111及び穴部112の形状については、それぞれ、1つずつのみを破線で示す。
【0039】
穴部111は、一方の面110Aに形成される開口部111AからY軸方向に伸延しており、壁部111Bで閉じられている。また、穴部112は、他方の面110Bに形成される開口部112AからY軸方向に伸延しており、壁部112Bで閉じられている。
【0040】
また、図3(C)に示すように、穴部111の内壁111Dには、触媒粒子113が塗布されており、触媒粒子113は、内壁111Dの5面(Y軸方向に伸延する4面と、壁部111Bの手前の面との5面)のすべてに塗布されている。
【0041】
また、図4(C)に示すように、穴部112の内壁112Dには、触媒粒子114が塗布されており、触媒粒子114は、内壁112Dの5面(Y軸方向に伸延する4面と、壁部112Bの手前の面との5面)のすべてに塗布されている。
【0042】
触媒粒子113及び114は、例えば、白金製であり、ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる一酸化炭素を酸化して二酸化炭素に変換する。また、触媒粒子113及び114は、一酸化窒素を酸化して二酸化窒素に変換する。触媒粒子113及び114は、触媒部の一例である。
【0043】
触媒粒子113は、例えば、白金粒子をトルエン等の有機溶剤又は水に分散させて作製した溶液(スラリー)を内壁111Dに塗布することによって形成することができる。同様に、触媒粒子114は、例えば、白金粒子をトルエン等の有機溶剤又は水に分散させて作製した溶液(スラリー)を内壁112Dに塗布することによって形成することができる。
【0044】
また、図3(C)に示すように、穴部111の内壁111Dの触媒粒子113の上には、微小な金属ワイヤ115が配置されており、図4(C)に示すように、穴部112の内壁112Dの触媒粒子114の上には、微小な金属ワイヤ116が配置されている。
【0045】
金属ワイヤ115及び116は、マイクロメートル(μm)オーダー、又は、ナノメートル(nm)オーダーの微小なワイヤであり、例えば、鉄製又は銅製である。金属ワイヤ115及び116は、金属部材の一例である。
【0046】
金属ワイヤ115及び116は、アンテナ130からフィルタ110の内部に向けて放射されるマイクロ波を反射又は透過させるために設けられている。
【0047】
金属ワイヤ115は、内壁111Dの5面において、触媒粒子113の上に設けられており、金属ワイヤ116は、内壁112Dの5面において、触媒粒子114の上に設けられている。
【0048】
金属ワイヤ115は、例えば、金属ワイヤ115を水に分散させたスラリーを触媒粒子113の上に塗布することによって形成することができる。同様に、金属ワイヤ116は、例えば、金属ワイヤ116を水に分散させたスラリーを触媒粒子114の上に塗布することによって形成することができる。
【0049】
図5は、フィルタ110における金属ワイヤ115及び116の体積占有率の異なる領域を示す図である。図5(A)は、一方の面110Aを示し、図5(B)は、他方の面110Bを示す。
【0050】
図5(A)及び図5(B)に示す破線Aよりも内側に位置する金属ワイヤ115及び116の体積占有率は、図5(A)及び図5(B)に示す破線Aよりも外側に位置する金属ワイヤ115及び116の体積占有率よりも高く設定されている。
【0051】
ここで、フィルタ110の内部の領域のうち、破線Aよりも内側を領域Iと称し、破線Aよりも外側を領域IIと称す。
【0052】
破線Aよりも内側の領域Iでは、領域IIよりも金属ワイヤ115及び116の体積占有率を大きくすることにより、アンテナ130からフィルタ110の内部に放射されるマイクロ波が領域Iに入射しにくくなるようにしている。
【0053】
換言すれば、フィルタ110の外側から内側に向かって放射されるマイクロ波が、領域Iの金属ワイヤ115及び116によって反射される確率を大きくすることにより、領域IIに戻るようにしている。
【0054】
また、破線Aよりも外側の領域IIでは、領域Iよりも金属ワイヤ115及び116の体積占有率を小さくすることにより、金属ワイヤ115及び116によってマイクロ波が反射されることと、マイクロ波が金属ワイヤ115及び116を透過することとを生じさせて、領域IIの全体にマイクロ波が効率的に伝搬するようにしている。
【0055】
換言すれば、フィルタ110の外側から内側に向かって放射されるマイクロ波が、領域IIの内部に集中するようにしている。
【0056】
このようにマイクロ波を領域IIの内部に集中させるのは、次のような理由によるものである。
【0057】
フィルタ110を定期的に浄化する浄化処理において、燃料を用いて燃焼させると、中心部は温度が十分に高くなって煤が分解されるが、中心部よりも外側では温度が十分に上昇せず、煤が分解されずに残留するおそれがある。このような浄化処理は、煤の貯まったフィルタ110を再生するために行われる。
【0058】
実施の形態のフィルタ装置100では、再生処理において煤を比較的除去しにくい領域IIにマイクロ波を集中させて、マイクロ波で煤を除去する。これは、燃料を用いて燃焼させる再生処理では分解しきれないおそれのある、フィルタ110の領域IIに貯まる煤をマイクロ波で分解するためである。なお、煤とは、ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる排気微粒子であり、黒煙微粒子、又は、黒鉛微粒子である。
【0059】
領域Iと領域IIでは、金属ワイヤ115及び116の体積占有率が異なる。このように金属ワイヤ115及び116の体積占有率が異なる領域Iと領域IIとは、金属ワイヤ115及び116の含有量が異なるスラリーを塗り分けることによって形成すればよい。スラリーの塗布は、穴部111及び112の内部にスラリーを流し込むことによって行えばよい。
【0060】
例えば、領域IIの穴部111及び112をマスク等で覆った状態で、領域Iの穴部111及び112の内部に金属ワイヤ115及び116の含有量が多いスラリーを塗布すればよい。また、領域Iの穴部111及び112をマスク等で覆った状態で、領域IIの穴部111及び112の内部に金属ワイヤ115及び116の含有量が少ないスラリーを塗布すればよい。
【0061】
このような塗り分けを行うことにより、領域IIよりも領域Iにおける穴部111及び112の内部の金属ワイヤ115及び116の体積占有率を大きくすることができる。
【0062】
図6は、アンテナ130を高周波発生部200に接続した状態を示す図である。フィルタ装置100は、16個のアンテナ130を含むが、図6では、そのうちの一部を示す。16個のアンテナ130は、同軸ケーブル又はマイクロストリップライン等を介して、高周波発生部200に対して互いに並列に接続されるが、図6では一部の接続関係を略して示す。
【0063】
図6に示すアンテナ130は、パッチアンテナである。アンテナ130は、高周波発生部200によって給電点131から給電される。アンテナ130は、平面視で矩形状の金属箔であり、金属箔の厚さ方向にマイクロ波を放射する。
【0064】
高周波発生部200は、高周波電磁波となる200MHz〜300GHzの電磁波、より好ましくはマイクロ波(300MHz〜300GHz)を発生させる。高周波発生部200が発生する電磁波の周波数は、現時点のアンプの出力性能の点から、例えば300〜10GHzであるが、その範囲内に限定されるものではない。高周波発生部200は、例えば、GaN等により形成された半導体素子やマグネトロンを用いて構成される。
【0065】
すべてのアンテナ130を高周波発生部200に接続し、アンテナ130からフィルタ110(図1乃至図5参照)にマイクロ波を放射すれば、領域II(図5参照)にマイクロ波を集中させることができ、領域II内の穴部111及び112に貯まった煤を分解することができる。煤は、二酸化炭素と水蒸気に分解される。
【0066】
高周波発生部200は、フィルタ装置100を搭載する車両、船舶、又は建設機械等に搭載しておき、マイクロ波による煤の分解処理を行う際に、利用すればよい。
【0067】
また、高周波発生部200は、車両等に搭載しておかなくてもよく、例えば、サービス工場等に設置しておき、車両等が入庫したときに、アンテナ130に接続して、マイクロ波による煤の分解処理を行ってもよい。
【0068】
図7は、金属ワイヤ115及び116の体積占有率に対するマイクロ波の反射率と透過率の関係を示す図である。
【0069】
横軸は、体積占有率を表し、縦軸は、アンテナ130からフィルタ110に入力されるマイクロ波の電力の透過率と反射率を示す。なお、縦軸は、アンテナ130からフィルタ110に入力される電力で規格化した値(規格化電力)として透過率と反射率を示す。
【0070】
図7に示すように、金属ワイヤ115及び116の体積占有率の違いでマイクロ波の透過率と反射率が変化する。
【0071】
金属ワイヤ115及び116の材料として、一例として、鉄又は銅を用いることを想定して検討を行った。このため、図7には、鉄(Fe)について求めた結果を実線で示し、銅(Cu)について求めた結果を破線で示す。
【0072】
また、導電率が金属ワイヤ115及び116の密度に比例すると仮定し、式(1)で表されるインピーダンスの式と、式(2)で表される二つの媒質間における反射・透過の式とを用いて、マイクロ波の電力の透過率と反射率を算出した。
【0073】
μ0、ε0は、それぞれ、空気中の透磁率、誘電率を示す。σは導電率であり、空気中では0に設定した。金属ワイヤ115及び116中では、式(3)に示すように導電率が金属ワイヤ115及び116の密度に比例すると仮定した。
【0074】
nは金属ワイヤ115及び116の体積占有率、σ0は金属ワイヤ115及び116の材料の導電率、ξ0は空気中のインピーダンスである。ここでは、ξ0を120πに設定した。また、Γは反射率、Tは透過率を示す。なお、T=1+Γである。
【0075】
【数1】
【0076】
【数2】
【0077】
【数3】
【0078】
図7から分かるように、領域Iでは、マイクロ波はほとんど反射している。体積占有率が1×10−5以上であればマイクロ波は反射する。体積占有率が1×10−5であることは、例えば、X軸方向の長さが1mmでZ軸方向の長さが1mmの穴部111の内部で、金属ワイヤ115を含むスラリーを1μmの厚さで塗布した場合に、1mm×1mm×1μmの体積のスラリーの中に、直径100nm、長さ10μmの金属ワイヤ115が100本程度存在する条件に相当する。なお、穴部112の内部で金属ワイヤ116を含むスラリーが塗布された場合も同様である。
【0079】
体積占有率は、金属ワイヤ115及び116の直径及び長さ等のサイズと、スラリーに混入する金属ワイヤ115及び116の密度を設定することによって調整することができる。
【0080】
また、体積占有率が1×10−7〜1×10−6(領域IIとほぼ同じ範囲)では、反射率と透過率が同程度である。このような体積占有率は、例えばX軸方向の長さが1mmでZ軸方向の長さが1mmの穴部111の内部で、金属ワイヤ115を含むスラリーを1μmの厚さで塗布した場合に、直径20nm、長さ10μmの金属ワイヤ115が30本程度存在する条件に相当する。なお、穴部112の内部で金属ワイヤ116を含むスラリーが塗布された場合も同様である。
【0081】
フィルタ110の領域IIに含まれる穴部111及び112の内部に1×10−7〜1×10−6の体積占有率で分布する金属ワイヤ115及び116を塗布すれば、領域IIは、マイクロ波が透過及び反射する領域になる。
【0082】
また、領域Iに含まれる穴部111及び112の金属ワイヤ115及び116の体積占有率は、領域Iにおける体積占有率よりも高いため、領域Iと領域IIの境界付近でマイクロ波は反射し、領域IIに戻る。
【0083】
従って、フィルタ110の領域IIは、マイクロ波が絶えず照射される環境となり、煤に効率よくマイクロ波のエネルギを与えることが可能になる。
【0084】
なお、領域Iに形成する金属ワイヤ115及び116の体積占有率は、1×10−5以上であるので、スラリーの濃度も1×10−5以上の濃度に設定する。また、領域IIでは、1×10−7〜1×10−6オーダの体積占有率が必要であるため、スラリーの濃度も1×10−7〜1×10−6以上の濃度に設定すればよい。
【0085】
金属ワイヤ115及び116のサイズと形状としては、例えば、領域Iでは直径100nm、長さ10μmのナノワイヤであればよく、領域IIでは直径20nm、長さ10μmのナノワイヤであればよい。なお、鉄製のナノワイヤは、例えば、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法を用いて作製することができる。
【0086】
また、金属ワイヤ115及び116にマイクロ波を照射することにより、次のような効果も期待できる。電子レンジ内にスチールウールなどの金属ワイヤを設置し、マイクロ波を照射すると、火花放電が起こる。電子レンジは、マグネトロンから生じるマイクロ波が加熱対象物と加熱室内の側壁の間で何度も多重反射しながら加熱対象物にエネルギが供給されることによって対象物を加熱する。
【0087】
フィルタ装置100のフィルタ110の内部では、マイクロ波が多重反射する環境内に、上述の電子レンジ内に設置されるスチールウールに対応する金属ワイヤ115及び116が曝されるので、火花放電が起こると考えられる。このため、フィルタ装置100では、火花放電により煤の分解が促進されることが期待される。
【0088】
以上、実施の形態によれば、フィルタ110の中心側の領域Iの穴部111及び112の内部にそれぞれ設けられる金属ワイヤ115及び116の体積占有率を、フィルタ110の外側の領域IIの穴部111及び112の内部にそれぞれ設けられる金属ワイヤ115及び116の体積占有率よりも大きく設定し、フィルタ110の外部からマイクロ波を照射する。
【0089】
このため、マイクロ波は、主に領域IIの内部に集中し、領域IIの内部でマイクロ波の透過及び反射が絶え間なく行われることになる。
【0090】
従って、燃料を燃焼させて行う再生処理では煤を取り除き切れないフィルタ110の領域IIの内部に貯まる煤に、マイクロ波のエネルギを与えて効率的に分解することができる。
【0091】
以上、実施の形態によれば、効率的に煤を除去することができるフィルタ装置100を提供することができる。
【0092】
なお、以上では、フィルタ110の中心側の領域Iの中にある金属ワイヤ115及び116の体積占有率が、フィルタ110の領域Iよりも外側の領域IIの中にある金属ワイヤ115及び116の体積占有率よりも大きい形態について説明した。しかしながら、領域Iの中にある金属ワイヤ115及び116の体積占有率と、領域IIの中にある金属ワイヤ115及び116の体積占有率とは、等しくてもよい。等しい場合でも、領域IIの内部に貯まる煤をマイクロ波で効率的に分解することができる。
【0093】
また、ディーゼルエンジンの排気ガスを浄化する形態について説明したが、例えば、ガソリンエンジンのように、ディーゼルエンジン以外の形式のエンジンの排気ガスの浄化に用いてもよい。
【0094】
また、以上では、フィルタ110が円柱状である形態について説明したが、フィルタ110は、第1端から排気ガスが流入され、反対側の第2端から浄化した排気ガスを流出させるものであって、穴部111及び112を有する多孔質のものであれば、外形は円柱状ではなくてもよい。
【0095】
また、以上では、触媒粒子113及び114が白金製である形態について説明したが、白金以外の触媒作用のある貴金属又は金属であってもよい。
【0096】
また、以上では、金属ワイヤ115及び116を用いる形態について説明したが、金属ワイヤ115及び116の代わりに、粒子状の金属部材を用いてもよい。
【0097】
また、以上では、アンテナ130が、パッチアンテナ、スロットアンテナ、ダイポールアンテナ、又はモノポールアンテナである形態について説明したが、アンテナ130の代わりに、マイクロ波を放射する共振器、又は、導波管等を用いてもよい。
【0098】
また、以上では、16個のアンテナ130が等間隔でカバー120の外周面に配置される形態について説明したが、アンテナ130の位置と数は、フィルタ110の内部に十分にマイクロ波を放射できるのであれば、適宜変更してよい。
【0099】
以上、本発明の例示的な実施の形態のフィルタ装置について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
以上の実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
エンジンの排気ガスの流入側になる第1端と、前記排気ガスの流出側になる第2端とを有するセラミック製のフィルタであって、前記第1端から前記第2端に向かって前記第2端の手前まで伸延する複数の第1穴部と、前記第2端から前記第1端に向かって前記第1端の手前まで、前記第1穴部とは互い違いに伸延する、複数の第2穴部とを有するフィルタと、
前記第1穴部及び前記第2穴部の内壁に設けられる、粒子状又はワイヤ状の金属部材と、
前記フィルタの外側面、又は、前記外側面よりも外側に配設され、前記フィルタの内部に向けてマイクロ波を放射するマイクロ波放射部と
を含む、フィルタ装置。
(付記2)
前記金属部材は、前記フィルタの内部で、前記マイクロ波を透過又は反射する、付記1記載のフィルタ装置。
(付記3)
前記複数の第1穴部と前記複数の第2穴部の断面において、中心側に位置する前記第1穴部及び前記第2穴部の前記内壁に設けられる前記金属部材の密度は、前記断面における外側に位置する前記第1穴部及び前記第2穴部の前記内壁に設けられる前記金属部材の密度よりも高い、付記1又は2記載のフィルタ装置。
(付記4)
前記第1穴部及び前記第2穴部の内壁に設けられる、金属製の触媒部をさらに含み、
前記金属部材は、前記内壁において前記触媒部に重ねて設けられる、付記1乃至3のいずれか一項記載のフィルタ装置。
(付記5)
前記フィルタの前記第1端と前記第2端との間で前記外側面を覆うカバーをさらに含み、
前記マイクロ波放射部は、前記カバーの外表面に配設されるアンテナである、付記1乃至4のいずれか一項記載のフィルタ装置。
(付記6)
前記アンテナは、パッチアンテナである、付記5記載のフィルタ装置。
(付記7)
前記フィルタは、円柱状形状である、付記1乃至6のいずれか一項記載のフィルタ装置。
(付記8)
前記フィルタは、多孔質のセラミック製である、付記1乃至7のいずれか一項記載のフィルタ装置。
(付記9)
前記第1穴部と前記第2穴部とは、前記多孔質のフィルタを通じて連通する、付記8記載のフィルタ装置。
【符号の説明】
【0100】
100 フィルタ装置
110 フィルタ
111、112 穴部
110A 一方の面
110B 他方の面
110C 側面
113、114 触媒粒子
115、116 金属ワイヤ
120 カバー
130 アンテナ
200 高周波発生部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7