(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604118
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】炭素繊維シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 9/22 20060101AFI20191031BHJP
D21H 13/18 20060101ALI20191031BHJP
D04H 1/4242 20120101ALI20191031BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20191031BHJP
D21H 25/04 20060101ALI20191031BHJP
H01M 4/88 20060101ALN20191031BHJP
H01M 4/96 20060101ALN20191031BHJP
【FI】
D01F9/22
D21H13/18
D04H1/4242
D06M13/256
D21H25/04
!H01M4/88 C
!H01M4/96 B
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-190819(P2015-190819)
(22)【出願日】2015年9月29日
(65)【公開番号】特開2017-66541(P2017-66541A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】矢口忠平
(72)【発明者】
【氏名】川真田友紀
(72)【発明者】
【氏名】草野瑛司
(72)【発明者】
【氏名】藤野謙一
【審査官】
春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/183668(WO,A1)
【文献】
特開2004−111341(JP,A)
【文献】
特開平06−060884(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0167200(US,A1)
【文献】
特開2004−027435(JP,A)
【文献】
特開昭61−236664(JP,A)
【文献】
特開平01−132832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B−D21J
C01B32/00−32/991
D01F9/08−9/32
D04H1/00−18/04
D06M13/00−15/715
H01M4/86−4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする不融化工程を含まない炭素繊維シートの製造方法。
(a)炭素繊維シートの原料となるポリアクリロニトリル系繊維を含有するシートを準備する工程
(b)上記有機繊維を含有するシートを有機スルホン酸で処理する工程
(c)上記有機スルホン酸で処理したシートを不活性ガス雰囲気中、加熱温度500〜2600℃で処理する工程
【請求項2】
更に下記の(d)の工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維シートの製造方法。
(d)前記(c)工程で得られた有機系スルホン酸を用いて処理を施した後に加熱処理した炭素繊維シートを不活性ガス雰囲気中、2200〜3200℃で再加熱処理する工程
【請求項3】
前記炭素繊維シートの原料となるポリアクリロニトリル系繊維が、不活性ガス雰囲気中、500〜2600℃で加熱処理した場合の残炭率が5重量%以上であることを特徴とする請求項1〜請求項2のいずれかに一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項4】
前記炭素繊維シートの原料となるポリアクリロニトリル系繊維を含有するシートが、抄紙法によって準備され、且つ前記シート全重量に対してパルプが10重量%以上含有することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項5】
前記有機スルホン酸が、メタンスルホン酸であることを特徴とする請求項1〜請求項4の
いずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【請求項6】
前記炭素繊維の原料となる繊維を含有するシートに処理する有機スルホン酸の付着率が、
処理前のシート全重量に対して1〜50重量%であることを特徴とする請求項1〜請求項
5のいずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維シートの製造方法に関するものである。更に詳しく述べると、炭素繊維の原料となる有機繊維を含むシートを有機スルホン酸で処理した後、不活性ガス雰囲気中で加熱処理する炭素繊維シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は軽量で、強度、導電性、耐熱性、耐薬品性に優れており、スポーツ・レジャー用品から宇宙航空や産業分野用途に至るまで幅広く利用されている。炭素繊維からなる炭素材料がそのまま利用される場合にも、又はそれら炭素材料に各種樹脂が加工された複合材料として利用される場合にも、炭素材料はシート状で用いられることが多い。
炭素繊維の原料となる有機繊維としては、PAN(ポリアクリロニトリル)系の他、ピッチ系、レーヨンが挙げられるが、得られる炭素繊維の優れた特長から主にPAN系繊維が用いられている。有機繊維から炭素繊維を製造する場合、原料繊維をそのまま炭化すると繊維の溶融により元の繊維の形態が保たれない、熱分解により繊維のほとんどが消失してしまう、あるいは炭素繊維が得られても炭化収率が極めて低くなるといった問題がある。そこで、有機繊維を炭素繊維の原料とする場合には、繊維の溶融や収率低下を抑制する目的で、加熱処理の前に不融化(又は耐炎化ともいう)処理が行われる。
【0003】
炭素繊維からなるシートの製造方法として、予め不融化(耐炎化)処理した炭素繊維の原料となるPAN、レーヨン、フェノール系のいずれかの繊維を主成分とする織布又は不織布を、温度が150〜350℃である熱ロールを通過させた後に、800〜3000℃で加熱処理する方法が提案されている(特許文献1)。また、PAN繊維とパルプとを主成分とする原料から抄紙して得られたシートに、フェノール樹脂と炭素質粉末とを含有する含浸液を含浸・乾燥し、次いでこの含浸シートの中のフェノール樹脂を硬化した後、空気中で不融化処理(150〜350℃、数十分〜百時間)を施し、次いで不活性ガス雰囲気中、800〜1200℃で加熱処理する方法が提案されている(特許文献2)。これらの例に示されるように、炭素繊維からなるシートをいかなる方法で製造する場合にも、炭素繊維の原料となる有機繊維を不融化する工程が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−111341
【特許文献2】特開平06−60884
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この不融化処工程は、エネルギー消費量が大きく、炭素繊維シートの製造工程が煩雑になる為、製造コストを増大させる一因となっている。
【0006】
そこで、本発明は、不融化処理を必要としない、炭素繊維の原料となる有機繊維を含有する炭素繊維シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]〜[9]の発明を提供する。
[1] 下記の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする不融化工程を含まない炭素繊維シートの製造方法。
(a)炭素繊維シートの原料となる有機繊維を含有するシートを準備する工程
(b)上記有機繊維を含有するシートを有機スルホン酸で処理する工程
(c)上記有機スルホン酸で処理したシートを不活性ガス雰囲気中、加熱温度500〜2600℃で処理する工程
[2] 更に下記の(d)の工程を含むことを特徴とする[1]に記載の炭素繊維シートの製造方法。
(d)前記(c)工程で得られた有機系スルホン酸を用いて処理を施した後に加熱処理した炭素繊維シートを不活性ガス雰囲気中、2200〜3200℃で再加熱処理する工程
[3] 前記炭素繊維シートの原料となる有機繊維が、不活性ガス雰囲気中、500〜2600℃で加熱処理した場合の残炭率が5重量%以上であることを特徴とする[1]〜[2]のいずれかに記載の炭素繊維シートの製造方法。
[4] 前記有機繊維が、ポリアクリロニトリル系繊維であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
[5]
前記炭素繊維シートの原料となる有機繊維を含有するシートが、抄紙法によって準備され、且つ前記シート全重量に対してパルプが10重量%以上含有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
[6] 前記有機スルホン酸が、メタンスルホン酸であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
[7] 前記炭素繊維の原料となる繊維を含有するシートに処理する有機スルホン酸の付着率が、処理前のシート全重量に対して1〜50重量%であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の炭素繊維シートの製造方法。
[8] [1]〜[7]のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維シートを用いることを特徴とする複合材料。
[9] [1]〜[7]のいずれか一項に記載の方法で製造された炭素繊維シートを用いることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭素繊維の原料となる有機繊維を含有するシートを不融化する工程を必要としない、炭素繊維シートの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、炭素繊維の原料となる有機繊維を含有するシートに、有機スルホン酸を処理した後、不活性ガス雰囲気中、500〜2600℃の温度にて加熱処理することで、前記シートを不融化する工程を必要としない、炭素繊維シートの製造方法に関する。なお、得られた炭素繊維シートを、2200〜3200℃での再加熱処理することも可能である。
【0010】
本発明において、炭素繊維の原料となる有機繊維を含有するシートの製造方法は特に限定されるものではなく、平織、綾織、朱子織などの織物、長網抄紙機、丸網抄紙機、ギャップフォーマ、ハイブリッドフォーマ、多層抄紙機などにより抄紙した紙、湿式又は乾式の不織布などを用いることができる。
(炭素繊維の原料となる有機繊維)
本発明において、炭素繊維の原料となる有機繊維としては、特に限定されるものではないが、有機繊維を不活性ガス雰囲気中、500〜2600℃で加熱処理した場合の残炭率が、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。残炭率が5%に満たない場合には、有機スルホン酸を処理した後に加熱処理して製造した炭素繊維シートの収率向上効果が得られ難いだけでなく、実用的価値が乏しい。
本発明において、炭素繊維の原料となる有機繊維としては、前記炭素繊維シートの物性及び収率が優れていることから、PAN系繊維が最も好ましい。
PAN系繊維以外の炭素繊維の原料となる有機繊維としては、500〜2600℃で加熱処理した場合の残炭率が5%以上であればよく、特に限定されないが、炭素繊維の原料として一般に知られているピッチ系繊維やレーヨンなどのセルロース系繊維の他、熱可塑性樹脂であるポリビニルアルコール、ポリアミドイミド、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンエーテルからなる繊維、熱硬化性樹脂であるフェノール、フラン、尿素、エポキシ、不飽和ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミドからなる繊維などの例を挙げることができる。
【0011】
本発明において、ピッチ系繊維とは、コールタールピッチや石油ピッチを精製、改質、熱処理した後、紡糸して得られる繊維である。
本発明において、セルロース系繊維とは、樹木などから得られる植物系セルロース物質及び/又は植物系セルロース物質(綿、木材パルプなど)に化学処理を施して溶解させて得られる長い繊維状の再生セルロース系物質から構成された繊維であり、この繊維にリグニンやヘミセルロースなどの成分が含まれていても構わない。
【0012】
セルロース系繊維(植物系セルロース物質、再生セルロース物質)の原料としては、綿(例えば、短繊維綿、中繊維綿、長繊維綿、超長綿、超・超長綿)、麻、竹、こうぞ、みつまた、バナナ、被嚢類等の植物性セルロース繊維、銅アンモニア法レーヨン、ビスコース法レーヨン、ポリノジックレーヨン、竹を原料とするセルロースなどの再生セルロース繊維、有機溶剤(NメチルモルフォリンNオキサイド)紡糸される精製セルロース繊維やジアセテートやトリアセテートなどのアセテート繊維などが例示される。これらの中では、入手のし易さから、キュプラアンモニウムレーヨン、ビスコース法レーヨン、精製セルロース繊維から選ばれる少なくとも一種類であることが好ましい。
【0013】
(パルプ)
本発明において、炭素繊維の原料となる有機繊維を含有するシートが、抄紙法により準備される場合には、シート全重量に対して、パルプを10重量%以上含有させることは抄紙性の点から好ましい。
本発明において、パルプとは、セルロースを主成分とする天然繊維であって、製紙用として一般的に用いられる針葉樹又は広葉樹から得られる木材パルプの他、麻、竹、バガスなどの非木材パルプが例として挙げられ、これらのうちから適宜選択できる。これらのパルプは、製造される炭素繊維シートに要求される密度、強度などの物性に応じて適切な方法によって叩解処理を行うことができるが、叩解処理を行わずに用いることもできる。
前述のセルロース系繊維と同様、パルプに有機スルホン酸を処理した後に加熱処理することにより、元の繊維形態を保持したままの炭素繊維が得られ、有機スルホン酸を処理しない場合に比べて炭化収率が向上する。
【0014】
(有機スルホン酸)
本発明において、シートに含浸させる有機スルホン酸としては、炭素骨格にスルホ基(1つであっても複数であってもよい)が結合した有機化合物であればいずれであってもよく、脂肪族系、芳香族系の種々のスルホ基を有する化合物が利用可能であるが、取扱いの観点から低分子であることが好ましい。
【0015】
有機スルホン酸の具体例として、例えばR−SO3H(式中、Rは炭素原子数1〜20の直鎖/分岐鎖アルキル基、炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、または、炭素原子数6〜20のアリ−ル基を表し、アルキル基、シクロアルキル基、アリ−ル基はそれぞれアルキル基、水酸基、ハロゲン基で置換されていても良い。)で表される化合物が挙げられる。例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、ビニルスルホン酸、シクロヘキサンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、カンファ―スルホン酸などが挙げられる。このうち、得られる効果の点で、メタンスルホン酸を選択することが好ましい。また、有機スルホン酸は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0016】
本発明において用いる有機スルホン酸は、水酸基を有する化合物に対しては脱水触媒として作用し、分子内及び分子間における水酸基等の脱水反応を促進し、化合物の耐熱性向上及び脱水反応以外の熱分解反応の抑制に寄与し、その結果炭化収率が向上すると考えられる。例えば、セルロース系繊維の熱重量分析では、有機スルホン酸でセルロース系繊維を処理した場合には、処理しない場合に比べ、重量減少が開始する温度が低温側にシフトし、炭化収率が向上することを確認している。一方、PAN系繊維についても、熱重量分析では、セルロース系繊維と同様、有機スルホン酸で処理した場合には、処理しない場合に比べ、重量減少の開始温度が低温側へシフトし、炭化収率が向上する。しかし、PAN系繊維には水酸基がほとんど存在しないか、存在したとしても少ないので、有機スルホン酸による収率向上が主として脱水触媒としての作用に基づくものであるとは考え難い。したがって、PAN系繊維に対しては、有機スルホン酸は脱水反応以外の反応にも関わっていると推測されるが、その詳細については明らかでない。
【0017】
前記シートに有機スルホン酸を処理する方法は特に限定されない。例えば、(1)有機スルホン酸の濃度0.1mоl/L〜2.0mоl/Lの水溶液中に前記シートを1秒〜30分浸漬してから水溶液から引き上げ、必要に応じて過剰な有機スルホン酸水溶液を搾って除去し、乾燥する方法、(2)有機スルホン酸若しくは何らかの溶剤及び/または水で濃度0.1mоl/L〜2.0mоl/Lとなるように希釈した有機スルホン酸をシートに必要量塗布し乾燥する方法、(3)有機スルホン酸の蒸気にシートを接触させ乾燥する方法等が挙げられ、これらの中では(1)が好ましい。
【0018】
有機スルホン酸のシートへの有効成分付着率は、もとのシートの重量に対し、1〜50重量%、好ましくは2〜30%である。有機スルホン酸の付着率は、製造した炭素繊維シートの収率と物性とのバランスから、適宜調整できる。付着率が低すぎる場合には所望の効果が得られず、一方過剰な場合は、有機スルホン酸が無駄になるだけでなく、特にシートにパルプ又はセルロース系繊維が含有する場合には、セルロースの経時劣化が顕著となり、その後の工程におけるシートのハンドリングや炭素繊維シートの物性にも悪影響を及ぼすことになる。有機スルホン酸の付着率は、通常有機スルホン酸溶液の濃度とシートによる吸液率とによって調整することができる。
【0019】
また本発明において、セルロースの熱分解を抑え炭化を更に安定的に行うためにシートにシリコーン系高分子溶液に含浸させることができる。上記シリコーン系高分子としては、ポリシロキサン(polysiloxane:PS)、ポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane)、室温硬化型シリコーン(Room Temperature Vulcanizing Silicone:RTV)、ポリメチルフェニルシロキサン(Poly Phenyl Siloxane:PMPS)、ポリシラザン(Polysilazane)等を挙げることが出来る。またシリコーン系高分子溶液において、溶媒は極性溶媒が使用されるが、前期極性溶媒の例としては、アセトン(Acetone)、パークロロエチレン(Perchloroethylene)、テトラヒドロフラン(Tetrahydrofurane:THF)、メチルエチルケトン(Methyl ethyl ketone:MEK)、エチルアルコール(Ethyl alcohol)、メチルアルコール(Methyl alcohol)等を挙げることができる。
【0020】
(炭化処理)
本発明において、有機系スルホン酸で処理したシートを加熱処理(炭化)する。炭化は不活性ガス雰囲気中で行う。不活性ガスとしてはアルゴン、窒素等が例示される。
【0021】
本発明において、有機系スルホン酸を処理したシートを不活性ガス雰囲気中、500
〜2600℃の温度にて加熱処理することが好ましい。この加熱処理条件とすることにより、シートの形態が維持された炭素繊維シートを得ることができる。加熱処理温度が500℃未満であると炭素繊維シートの炭素含有率が80%以下で炭化が不十分であり、一方2600℃を超えても炭化状態はもはや殆ど変化しない。また、炭化処理は、連続式またはバッチ式のどちらで行ってもよい。
【0022】
また、有機系スルホン酸を処理したシートを不活性ガス雰囲気中、500〜2600℃の温度にて加熱処理した後に、さらに不活性ガス雰囲気中、2200〜3200℃で再加熱処理(グラファイト化工程)することが可能である。再加熱処理温度が2200℃未満であるとグラファイト化(結晶化)の進行が殆ど起こらず、一方3200℃を超えても、もはやグラファイト化の程度は殆ど変わらなくなる。
【0023】
以下に具体的な炭化方法を記載する。
まず、上記のスルホン酸処理工程を経たシートを、その形態を維持した状態で電気炉を用いて窒素又はアルゴン雰囲気下、500〜2600℃で加熱処理する。この際、加熱処理時間は処理温度にもよるが、好ましくは0.5〜2時間である。また、室温から所定処理温度までの昇温時間は3〜8℃/分が好ましい。加熱処理工程において管状炉や電気炉等の不活性ガス雰囲気にした高温炉を使用できるが、この場合、不活性ガスの排気管に活性炭素のような吸着材を充填し、スルホン酸及びから発生する少量の硫黄系のガスの脱硫処理を行うことが好ましい。また、炭素繊維の原料となる有機繊維としてPAN系繊維を用いる場合は、加熱処理を行う過程で毒性の強いシアン系ガスが発生するので、その場合には、排気ガスの燃焼など適切な処理を行うことにより、シアン系ガスの無害化を行う必要がある。
【0024】
再加熱処理工程(部分グラファイト化工程)として、上記工程で熱処理したシートを連続して、あるいは一旦室温まで戻した後、不活性ガス雰囲気中、2200〜3200℃の温度で再加熱処理する。これにより、最初の形態が維持された状態で部分的にグラファイト化した炭素繊維シートを得ることができる。本発明において、シートが織物からなる場合は、再加熱処理の際に、経糸と平行した方向および/または織物の経糸と交差する方向に張力を加えてに延伸させることにより、炭素繊維の繊維軸方向にグラファイト結晶を効率よく配向させることができるため、炭素繊維織物の強度が向上する。また、本発明の炭素繊維シートの製造方法により、シートの形態を維持することができる
【実施例】
【0025】
本発明を実施例および比較例より説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、実施例中、%とあるのは重量%を表す。
【0026】
(実施例1)
繊度1.7dtex、繊維長5mmのPAN繊維40%および未叩解広葉樹パルプ60%をそれぞれ離解処理した後、混合して水で希釈しスラリーとし、角型抄紙機(25×25cm)を用いて抄紙し、常法によりプレスおよび乾燥を行い、坪量70g/m
2のシートを得た。このシートをメタンスルホン酸水溶液に5分間浸漬した後、シートを2本のゴムロール(ヒシラコピー)の間を通過させて過剰なメタンスルホン酸水溶液を搾り取り、室温で風乾させ炭化用シートを調製した。なお、メタンスルホン酸水溶液の濃度は、シートへのメタンスルホン酸付着率が約6%となるように調整した。次いで、このメタンスルホン酸処理を行った炭化用シートをグラファイト板の間に挟み、電気炉で、窒素ガス雰囲気中、5℃/min.で昇温の後、800℃を1時間保持して加熱処理することにより炭素繊維シートを得た。
【0027】
(比較例1)
実施例1と同様に原料を抄紙して坪量70g/m
2のシートを得た後、メタンスルホン酸による処理は行わず、実施例1と同様に電気炉で加熱処理することにより、炭素繊維シートを得た。
【0028】
(比較例2)
実施例1と同様に原料を抄紙して坪量70g/m
2のシートを得た後、このシートを送風乾燥機を用いて、空気中、250℃で20分間加熱処理してシートに含まれるPAN繊維の不融化処理を行い、メタンスルホン酸による処理は行わず、実施例1と同様に電気炉で加熱処理することにより、炭素繊維シートを得た。
【0029】
(比較例3)
実施例1と同様に原料を抄紙して坪量70g/m
2のシートを得た後、このシートを送風乾燥機を用いて、空気中、250℃で20分間加熱処理してシートに含まれるPAN繊維の不融化処理を行い、実施例1と同様にメタンスルホン酸による処理を行い、電気炉で加熱処理することにより、炭素繊維シートを得た。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示すように、本発明によれば、炭素繊維の原料となる有機繊維を含有するシートを有機スルホン酸により処理することにより、不融化処理を行わなくても、不融化処理を行った場合と同等かそれ以上の炭化収率で炭素繊維シートを製造することができた。