特許第6604153号(P6604153)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604153
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20191031BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20191031BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   B60C1/00 A
   C08L15/00
   C08K3/36
   B60C1/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-222440(P2015-222440)
(22)【出願日】2015年11月12日
(65)【公開番号】特開2017-88042(P2017-88042A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 美夏子
(72)【発明者】
【氏名】児島 良治
【審査官】 増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/084724(WO,A1)
【文献】 特開2009−062039(JP,A)
【文献】 特開2010−138249(JP,A)
【文献】 特開2005−008870(JP,A)
【文献】 特開平09−077915(JP,A)
【文献】 特開2001−323110(JP,A)
【文献】 特開平09−309976(JP,A)
【文献】 特開2005−281390(JP,A)
【文献】 特開2010−202819(JP,A)
【文献】 特開平09−031250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00
C08K 3/36
C08L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ブタジエンゴムを含むゴム成分およびシリカを含有し、
変性ブタジエンゴムおよびシリカをマスターバッチとして含有し、
純水の接触角が125〜140°であるゴム組成物を用いたタイヤ。
【請求項2】
前記ゴム組成物中のフィラーゲル量が45質量%以上である請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
各成分を混練りする混練り工程が、変性ブタジエンゴムおよびシリカを含むマスターバッチを製造するX練り工程、
前記マスターバッチに加硫剤および加硫促進剤以外の残りの配合剤および添加剤を添加して混練りするY練り工程、および
前記Y練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするF練り工程からなる請求項1または2記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のゴム組成物を用いて製造されたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スタッドレスタイヤ、スノータイヤなどの冬用タイヤの氷雪上グリップ性能を向上させる方法として、トレッド用ゴム組成物の硬度(Hs)を低くすることにより、低温における弾性率(モジュラス)を低下させ(低温特性を向上させ)、粘着摩擦を向上させる方法や、トレッドのブロック表面に所定のサイプを設け、氷雪路面でのグリップ力を得る方法、トレッド表面に深い横溝を設け、この横溝により雪を圧縮し、圧縮した雪を掴むように走行することでグリップ力を得る方法が提案されている。
【0003】
ブロック表面に設けたサイプは、路面上の雪や氷と接触することでグリップ力を発揮できる。しかし、トレッド表面に雪が付着する「雪付き」が生じると、サイプは路面上の雪や氷と接触することができず、本来有する氷雪上グリップ性能を発揮することができなくなるという問題がある。
【0004】
また、横溝に掴まれた雪は、タイヤが1周して再度、横溝が路面上の雪に接触するまでに排雪される。これにより、横溝は繰り返しグリップ力を発揮できる。しかし、排雪ができなくなる「雪詰まり」が生じると、その横溝は雪を掴むことができない、つまり本来有する雪上グリップ性能を発揮することができなくなるという問題がある。
【0005】
これらの問題を解消する方法として横溝などのトレッドパターンを所定の形状とする方法が提案されている。例えば、特許文献1には、トレッドパターンを所定の形状とすることで雪付きを抑制する方法が記載されている。また、特許文献2には、横溝を所定の形状に設計することで雪詰まりを抑制する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−221955号公報
【特許文献2】特開2014−80050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
横溝などのトレッドパターン形状のみによる雪詰まりおよび雪付きの抑制には限界があり、さらなる氷雪上グリップ性能の改善が求められている。また、横溝などのトレッドパターン形状が、雪詰まりおよび雪付きを抑制し得る形状に束縛されるため、形状設計の自由度が低下し、氷雪上性能、耐摩耗性能やウェットグリップ性能などが犠牲になるという問題がある。
【0008】
本発明は、雪詰まりおよび雪付きが抑制されたタイヤを提供することを目的とする。特に、トレッドパターン形状に依存することなく、ウェットグリップ性能および耐摩耗性を維持したまま、雪詰まりおよび雪付きが抑制され、氷雪上性能に優れたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、変性ブタジエンゴムを含むゴム成分およびシリカを含有し、
純水の接触角が125〜140°であるゴム組成物を用いたタイヤに関する。
【0010】
前記ゴム組成物中のフィラーゲル量が45質量%以上であることが好ましい。
【0011】
前記ゴム組成物が、変性ブタジエンゴムおよびシリカをマスターバッチとして含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の変性ブタジエンゴムを含むゴム成分およびシリカを含有し、純水の接触角が125〜140°であるゴム組成物を用いたタイヤによれば、雪詰まりおよび雪付きが抑制されたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタイヤは、変性ブタジエンゴムを含むゴム成分およびシリカを含有し、純水との接触角が所定の範囲を満たすゴム組成物を用いたことを特徴とする。
【0014】
前記ゴム成分は変性ブタジエンゴムを含有する。変性ブタジエンゴムとは、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴムであり、シランカップリング剤およびシリカとの反応性に優れたゴム成分である。この変性ブタジエンゴムをシリカと併用することにより、シリカ表面の親水基と変性ブタジエンゴムとが結合してフィラーゲルが形成され、シリカの親水基が被覆され、その結果、ゴム組成物の撥水性を向上させること、つまり純水の接触角を大きくすることができる。
【0015】
前記変性ブタジエンゴムは、活性末端を有するブタジエンゴムを用い、このブタジエンゴムの活性末端に、アルコキシシリル基を含む2つ以上の反応基を有するアルコキシシラン化合物を導入させる変性反応を行う変性工程(A)と、周期律表の第4族、12族、13族、14族および15族に含まれる元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する縮合触媒の存在下で、前記活性末端に導入されたアルコキシシラン化合物の残基を縮合反応させる縮合工程(B)とを備え、前記ブタジエンゴムとして、下記(a)〜(c)成分の混合物を主成分とする触媒組成物の存在下で重合したブタジエンゴムを用いる製造方法により得られるものである。
(a)成分:ランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有するランタノイド含有化合物、または、該ランタノイド含有化合物とルイス塩基との反応により得られる反応生成物
(b)成分:アルミノオキサン、および、一般式(1);AlR123で表される有機アルミニウム化合物(ただし、一般式(1)中、R1およびR2は、同一または異なって、炭素数1〜10の炭化水素基または水素原子を表す。R3は、R1およびR2と同一または異なって、炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物
(c)成分:その分子構造中に少なくとも1個のヨウ素原子を含有するヨウ素含有化合物
【0016】
すなわち、シス−1,4−結合量が94.0質量%以上であるブタジエンゴムの活性末端に、アルコキシシラン化合物を導入させる変性反応を行い、周期律表の第4族、12族、13族、14族および15族に含有される元素のうちの少なくとも1種の元素を含む縮合触媒の存在下で、前記活性末端に導入されたアルコキシシラン化合物のアルコキシシラン化合物残基を縮合反応させることによって、本発明において用いられる変性ブタジエンゴムを製造することができる。
【0017】
前記変性ブタジエンゴムはこのような製造方法により製造されたものであるため、低燃費性、耐摩耗性、破壊特性に優れたものである。そして、本発明におけるゴム組成物は、このような変性ブタジエンゴムと、天然ゴムと、シリカとを含有するものであるために、極めて加工性が良好であるだけでなく、低温での硬度上昇を抑制でき、また、そのようなゴム組成物を用いて作製したトレッド(多層構造のトレッドの場合には、キャップトレッド)を有するスタッドレスタイヤは氷雪上性能および耐摩耗性にバランス良く優れている。また、キャップトレッド以外の内層のベーストレッドに本発明におけるゴム組成物を適用したスタッドレスタイヤは、氷雪上性能および耐久性にバランス良く優れている。
【0018】
前記変性工程(A)は、活性末端を有するブタジエンゴムを用い、このブタジエンゴムの活性末端に、アルコキシシリル基を含む2つ以上の反応基を有するアルコキシシラン化合物を導入させる変性反応を行う工程である。
【0019】
前記ブタジエンゴムは、活性末端を有するブタジエンゴムである。このブタジエンゴムのシス−1,4−結合量は、好ましくは94.0質量%以上であり、より好ましくは94.6質量%以上であり、更に好ましくは98.5質量%以上であり、より更に好ましくは99.0質量%以上である。シス−1,4−結合量が94.0質量%未満であると、変性ブタジエンゴムを含有するゴム組成物を用いて作製されるスタッドレスタイヤの氷雪上性能、耐摩耗性、破壊特性が十分とはならないおそれがある。なお、本明細書において、シス−1,4−結合量は、NMR分析により測定されるシグナル強度から算出した値である。
【0020】
前記ブタジエンゴムは、1,3−ブタジエンの重合体である。
【0021】
前記ブタジエンゴムを製造する際には、溶媒を用いて重合を行ってもよいし、無溶媒下で重合を行ってもよい。重合に用いる溶媒(重合溶媒)としては、不活性な有機溶媒を用いることができるが、具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の炭素数4〜10の飽和脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の炭素数6〜20の飽和脂環式炭化水素、1−ブテン、2−ブテン等のモノオレフィン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、クロロトルエン等のハロゲン化炭化水素などが挙げられる。
【0022】
前記ブタジエンゴムを製造する際の重合反応温度は、−30〜200℃であることが好ましく、0〜150℃であることがより好ましい。重合反応の形式としては特に制限されず、バッチ式反応器を用いて行ってもよいし、多段連続式反応器などの装置を用いて連続式で行ってもよい。なお、重合溶媒を用いる場合は、この溶媒中のモノマー濃度が5〜50質量%であることが好ましく、7〜35質量%であることがより好ましい。また、ブタジエンゴム製造の効率性の観点、および、活性末端を有するブタジエンゴムを失活させない観点から、重合系内に、酸素、水または炭酸ガス等の失活作用のある化合物を極力混入させないようにすることが好ましい。
【0023】
また、本発明における変性ブタジエンゴムを製造する際に用いるブタジエンゴムとしては、下記(a)〜(c)成分の混合物を主成分とする触媒組成物(以下、「触媒」とも称する。)の存在下で重合したブタジエンゴムが用いられる。
(a)成分:ランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有するランタノイド含有化合物、または、該ランタノイド含有化合物とルイス塩基との反応により得られる反応生成物
(b)成分:アルミノオキサン、および、一般式(1);AlR123で表される有機アルミニウム化合物(ただし、一般式(1)中、R1およびR2は、同一または異なって、炭素数1〜10の炭化水素基または水素原子を表す。R3は、R1およびR2と同一または異なって、炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物
(c)成分:その分子構造中に少なくとも1個のヨウ素原子を含有するヨウ素含有化合物
【0024】
このような触媒を用いることにより、シス−1,4−結合量が94.0質量%以上であるブタジエンゴムを製造しやすくなる。また、この触媒は、極低温で重合反応を行う必要がなく、操作が簡便であることから、工業的な生産を行う上で有用である。
【0025】
前記(a)成分は、ランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有するランタノイド含有化合物、または、該ランタノイド含有化合物とルイス塩基との反応により得られる反応生成物である。ランタノイドの中でも、ネオジム、プラセオジム、セリウム、ランタン、ガドリニウム、サマリウムが好ましい。本発明の製造方法においては、これらのうち、ネオジムが特に好ましい。なお、前記ランタノイドとしては、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。前記ランタノイド含有化合物の具体例としては、ランタノイドのカルボン酸塩、アルコキサイド、β−ジケトン錯体、リン酸塩、亜リン酸塩等が挙げられる。このうち、カルボン酸塩、またはリン酸塩が好ましく、カルボン酸塩がより好ましい。
【0026】
前記ランタノイドのカルボン酸塩の具体例としては、一般式(2);(R4−COO)3Mで表されるカルボン酸の塩を挙げることができる(ただし、一般式(2)中、Mは、ランタノイドを表す。R4は、同一または異なって、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)。なお、前記一般式(2)中、R4は、飽和または不飽和のアルキル基であることが好ましく、直鎖状、分岐状または環状のアルキル基であることが好ましい。また、カルボキシル基は、一級、二級または三級の炭素原子に結合している。具体的には、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、安息香酸、ナフテン酸、商品名「バーサチック酸」(シェル化学社製、カルボキシル基が三級炭素原子に結合しているカルボン酸)等の塩が挙げられる。これらのうち、バーサチック酸、2−エチルヘキサン酸、ナフテン酸の塩が好ましい。
【0027】
前記ランタノイドのアルコキサイドの具体例としては、一般式(3);(R5O)3Mで表されるものを挙げることができる(ただし、一般式(3)中、Mは、ランタノイドを表す。)。なお、前記一般式(3)中、「R5O」で表されるアルコキシ基の具体例としては、2−エチル−ヘキシルアルコキシ基、オレイルアルコキシ基、ステアリルアルコキシ基、フェノキシ基、ベンジルアルコキシ基等が挙げられる。これらのうち、2−エチル−ヘキシルアルコキシ基、ベンジルアルコキシ基が好ましい。
【0028】
前記ランタノイドのβ−ジケトン錯体の具体例としては、アセチルアセトン錯体、ベンゾイルアセトン錯体、プロピオニトリルアセトン錯体、バレリルアセトン錯体、エチルアセチルアセトン錯体等が挙げられる。これらのうち、アセチルアセトン錯体、エチルアセチルアセトン錯体が好ましい。
【0029】
前記ランタノイドのリン酸塩または亜リン酸塩の具体例としては、リン酸ビス(2−エチルヘキシル)、リン酸ビス(1−メチルヘプチル)、リン酸ビス(p−ノニルフェニル)、リン酸ビス(ポリエチレングリコール−p−ノニルフェニル)、リン酸(1−メチルヘプチル)(2−エチルヘキシル)、リン酸(2−エチルヘキシル)(p−ノニルフェニル)、2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシル、2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−p−ノニルフェニル、ビス(2−エチルヘキシル)ホスフィン酸、ビス(1−メチルヘプチル)ホスフィン酸、ビス(p−ノニルフェニル)ホスフィン酸、(1−メチルヘプチル)(2−エチルヘキシル)ホスフィン酸、(2−エチルヘキシル)(p−ノニルフェニル)ホスフィン酸等の塩が挙げられる。これらのうち、リン酸ビス(2−エチルヘキシル)、リン酸ビス(1−メチルヘプチル)、2−エチルヘキシルホスホン酸モノ−2−エチルヘキシル、ビス(2−エチルヘキシル)ホスフィン酸の塩が好ましい。
【0030】
前記ランタノイド含有化合物としては、これらのなかでも、ネオジムのリン酸塩、または、ネオジムのカルボン酸塩が特に好ましく、ネオジムのバーサチック酸塩、または、ネオジムの2−エチルヘキサン酸塩が最も好ましい。
【0031】
前記ランタノイド含有化合物を溶剤に可溶化させるため、若しくは、長期間安定に貯蔵するために、ランタノイド含有化合物とルイス塩基とを混合すること、または、ランタノイド含有化合物とルイス塩基とを反応させて反応生成物とすることも好ましい。ルイス塩基の量は、ランタノイド1モルに対して、0〜30モルとすることが好ましく、1〜10モルとすることがより好ましい。ルイス塩基の具体例としては、アセチルアセトン、テトラヒドロフラン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、チオフェン、ジフェニルエーテル、トリエチルアミン、有機リン化合物、一価または二価のアルコール等が挙げられる。これまで述べてきた(a)成分は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
前記(b)成分は、アルミノオキサン、および、一般式(1);AlR123で表される有機アルミニウム化合物(ただし、一般式(1)中、R1およびR2は、同一または異なって、炭素数1〜10の炭化水素基または水素原子を表す。R3は、R1およびR2と同一または異なって、炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。
【0033】
前記アルミノオキサン(以下、「アルモキサン」とも称する。)は、その構造が、下記一般式(4)または(5)で表される化合物である。なお、ファインケミカル,23,(9),5(1994)、J.Am.Chem.Soc.,115,4971(1993)、およびJ.Am.Chem.Soc.,117,6465(1995)で開示されている、アルモキサンの会合体であってもよい。
【0034】
【化1】
【0035】
【化2】
【0036】
前記一般式(4)および(5)中、R6は、同一または異なって、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。pは、2以上の整数である。前記R6の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基等が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、イソブチル基、t−ブチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。また、前記pは、4〜100の整数であることが好ましい。
【0037】
前記アルモキサンの具体例としては、メチルアルモキサン(以下、「MAO」とも称する。)、エチルアルモキサン、n−プロピルアルモキサン、n−ブチルアルモキサン、イソブチルアルモキサン、t−ブチルアルモキサン、ヘキシルアルモキサン、イソヘキシルアルモキサン等が挙げられる。これらの中でも、MAOが好ましい。前記アルモキサンは、公知の方法によって製造することができるが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の有機溶媒中に、トリアルキルアルミニウム、または、ジアルキルアルミニウムモノクロライドを加え、更に水、水蒸気、水蒸気含有窒素ガス、または、硫酸銅5水塩や硫酸アルミニウム16水塩等の、結晶水を有する塩を加えて反応させることにより製造することができる。なお、前記アルモキサンは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
前記一般式(1)で表される有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ−n−プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−t−ブチルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリシクロヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、水素化ジエチルアルミニウム、水素化ジ−n−プロピルアルミニウム、水素化ジ−n−ブチルアルミニウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化ジヘキシルアルミニウム、水素化ジイソヘキシルアルミニウム、水素化ジオクチルアルミニウム、水素化ジイソオクチルアルミニウム、エチルアルミニウムジハイドライド、n−プロピルアルミニウムジハイドライド、イソブチルアルミニウムジハイドライド等が挙げられる。これらの中でも、水素化ジイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、水素化ジエチルアルミニウムが好ましく、水素化ジイソブチルアルミニウムが特に好ましい。前記有機アルミニウム化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
前記(c)成分は、その分子構造中に少なくとも1個のヨウ素原子を含有するヨウ素含有化合物である。このようなヨウ素含有化合物を用いることで、シス−1,4−結合量が94.0質量%以上であるブタジエンゴムを容易に製造することができる。前記ヨウ素含有化合物としては、その分子構造中に少なくとも1個のヨウ素原子を含有している限り特に制限されないが、例えば、ヨウ素、トリメチルシリルアイオダイド、ジエチルアルミニウムアイオダイド、メチルアイオダイド、ブチルアイオダイド、ヘキシルアイオダイド、オクチルアイオダイド、ヨードホルム、ジヨードメタン、ベンジリデンアイオダイド、ヨウ化ベリリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化カドミウム、ヨウ化水銀、ヨウ化マンガン、ヨウ化レニウム、ヨウ化銅、ヨウ化銀、ヨウ化金等が挙げられる。
【0040】
なかでも、前記ヨウ素含有化合物としては、一般式(6):R7qSiI4-q(一般式(6)中、R7は、同一または異なって、炭素数1〜20の炭化水素基または水素原子を表す。また、qは0〜3の整数である。)で表されるヨウ化ケイ素化合物、一般式(7):R8r4-r(一般式(7)中、R8は、同一または異なって、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。また、rは1〜3の整数である。)で表されるヨウ化炭化水素化合物またはヨウ素が好ましい。このようなヨウ化ケイ素化合物、ヨウ化炭化水素化合物、ヨウ素は有機溶剤への溶解性が良好であるため、操作が簡便になり、工業的な生産を行う上で有用である。すなわち、前記(c)成分が、ヨウ化ケイ素化合物、ヨウ化炭化水素化合物、および、ヨウ素からなる群より選択される少なくとも1種のヨウ素含有化合物であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0041】
前記ヨウ化ケイ素化合物(前記一般式(6)で示される化合物)の具体例としては、トリメチルシリルアイオダイド、トリエチルシリルアイオダイド、ジメチルシリルジヨード等が挙げられる。なかでも、トリメチルシリルアイオダイドが好ましい。また、前記ヨウ化炭化水素化合物(前記一般式(7)で示される化合物)の具体例としては、メチルアイオダイド、ブチルアイオダイド、ヘキシルアイオダイド、オクチルアイオダイド、ヨードホルム、ジヨードメタン、ベンジリデンアイオダイド等が挙げられる。なかでも、メチルアイオダイド、ヨードホルム、ジヨードメタンが好ましい。
【0042】
前記ヨウ素含有化合物としては、これらのなかでも、ヨウ素、トリメチルシリルアイオダイド、トリエチルシリルアイオダイド、ジメチルシリルジヨード、メチルアイオダイド、ヨードホルム、ジヨードメタンが特に好ましく、トリメチルシリルアイオダイドが最も好ましい。前記ヨウ素含有化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
前記各成分((a)〜(c)成分)の配合割合は、必要に応じて適宜設定すればよい。(a)成分の配合量は、例えば、100gの共役ジエン系化合物に対して、0.00001〜1.0ミリモルであることが好ましく、0.0001〜0.5ミリモルであることがより好ましい。0.00001ミリモル未満とした場合には、重合活性が低下してしまうおそれがある。1.0ミリモルを超えて使用した場合には、触媒濃度が高くなり、脱灰工程が必要となることがある。
【0044】
前記(b)成分がアルモキサンである場合、アルモキサンの配合量としては、(a)成分と、アルモキサンに含まれるアルミニウム(Al)とのモル比で表すことができ、「(a)成分」:「アルモキサンに含まれるアルミニウム(Al)」(モル比)が1:1〜1:500であることが好ましく、1:3〜1:250であることがより好ましく、1:5〜1:200であることが更に好ましい。アルモキサンの配合量が前記範囲外であると、触媒活性が低下したり、または、触媒残渣を除去する工程が必要となったりする場合がある。
【0045】
また、前記(b)成分が有機アルミニウム化合物である場合、有機アルミニウム化合物の配合量としては、(a)成分と、有機アルミニウム化合物とのモル比で表すことができ、「(a)成分」:「有機アルミニウム化合物」(モル比)が1:1〜1:700であることが好ましく、1:3〜1:500であることがより好ましい。有機アルミニウム化合物の配合量が前記範囲外であると、触媒活性が低下したり、または、触媒残渣を除去する工程が必要となったりする場合がある。
【0046】
前記(c)成分の配合量としては、(c)成分に含有されるヨウ素原子と、(a)成分とのモル比で表すことができ、((c)成分に含有されるヨウ素原子)/((a)成分)(モル比)が0.5〜3.0であることが好ましく、1.0〜2.5であることがより好ましく、1.2〜2.0であることが更に好ましい。((c)成分に含有されるヨウ素原子)/((a)成分)のモル比が0.5未満である場合には、重合触媒活性が低下するおそれがある。((c)成分に含有されるヨウ素原子)/((a)成分)のモル比が3.0を超える場合には、触媒毒となってしまうおそれがある。
【0047】
上述した触媒には、(a)〜(c)成分以外に、必要に応じて、共役ジエン系化合物および非共役ジエン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を、(a)成分1モルに対して、1000モル以下含有させることが好ましく、3〜1000モル含有させることがより好ましく、5〜300モル含有させることが更に好ましい。触媒に共役ジエン系化合物および非共役ジエン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有させると、触媒活性が一段と向上するために好ましい。このとき、用いられる共役ジエン系化合物としては、後述する重合用のモノマーと同じく、1,3−ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。また、非共役ジエン系化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、トリイソプロペニルベンゼン、1,4−ビニルヘキサジエン、エチリデンノルボルネン等が挙げられる。
【0048】
前記(a)〜(c)成分の混合物を主成分とする触媒組成物は、例えば、溶媒に溶解した(a)〜(c)成分、更に必要に応じて添加される共役ジエン系化合物および非共役ジエン系化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を反応させることにより、調製することができる。なお、調製の際の各成分の添加順序は任意であってよい。ただし、各成分を予め混合、反応させるとともに、熟成させておくことが、重合活性の向上および重合開始誘導期間の短縮の観点から好ましい。熟成温度は0〜100℃とすることが好ましく、20〜80℃とすることがより好ましい。0℃未満であると、熟成が不十分となる傾向にある。一方、100℃を超えると、触媒活性の低下や、分子量分布の広がりが生じ易くなる傾向にある。なお、熟成時間は特に制限されない。また、重合反応槽に添加する前に、各成分同士をライン中で接触させてもよいが、その場合の熟成時間は0.5分以上あれば十分である。なお、調製した触媒は、数日間は安定である。
【0049】
本発明における変性ブタジエンゴムを製造する際に用いるブタジエンゴムとしては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比、すなわち、分子量分布(Mw/Mn)が、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることが更に好ましい。分子量分布が3.5を超えるものであると、破壊特性、低発熱性を始めとするゴム物性が低下する傾向にある。一方、分子量分布の下限は、特に限定されない。なお、本明細書において、分子量分布(Mw/Mn)は、重量平均分子量と数平均分子量との割合(重量平均分子量/数平均分子量)により算出される値を意味する。ここで、ブタジエンゴムの重量平均分子量は、GPC法(Gel Permeation Chromatography法)で測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量である。また、ブタジエンゴムの数平均分子量は、GPC法で測定されたポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0050】
なお、前記ブタジエンゴムの、ビニル含量、シス−1,4−結合量は、重合温度をコントロールすることによって、容易に調整することができる。また、前記Mw/Mnは前記(a)〜(c)成分のモル比をコントロールすることによって、容易に調整することができる。
【0051】
また、前記ブタジエンゴムの100℃におけるムーニー粘度(ML1+4(100℃))は、5〜50の範囲であることが好ましく、10〜40であることがより好ましい。5未満では、加硫後の機械特性、耐摩耗性などが低下することがある、一方、50を超えると、変性反応を行った後の変性ブタジエンゴムの混練り時の加工性が低下することがある。このムーニー粘度は、前記(a)〜(c)成分のモル比をコントロールすることにより容易に調整することができる。なお、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))は後述の実施例に記載の測定方法により得られる値である。
【0052】
更に、前記ブタジエンゴムの1,2−ビニル結合の含量(1,2−ビニル結合量)は、0.5質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることが更に好ましい。0.5質量%を超えるものであると、破壊特性などのゴム物性が低下する傾向にある。また、前記ブタジエンゴムの1,2−ビニル結合量としては、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましい。なお、本明細書において、1,2−ビニル結合量は、NMR分析により測定されるシグナル強度から算出した値である。
【0053】
前記変性工程(A)に用いるアルコキシシラン化合物(以下、「変性剤」とも称する。)としては、アルコキシシリル基を含む2つ以上の反応基を有するものである。アルコキシシリル基以外の反応基としては、特にその種類は限定されないが、例えば、(f);エポキシ基、(g);イソシアネート基、(h);カルボニル基、および(i);シアノ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基が好ましい。すなわち、前記アルコキシシラン化合物が、(f);エポキシ基、(g);イソシアネート基、(h);カルボニル基、および(i);シアノ基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を含有することもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。なお、前記アルコキシシラン化合物は、部分縮合物であってもよいし、該アルコキシシラン化合物と該部分縮合物の混合物であってもよい。
【0054】
ここで、「部分縮合物」とは、アルコキシシラン化合物のSiOR(ORは、アルコキシ基を表す。)の一部(すなわち、全部ではない)が縮合によりSiOSi結合したものをいう。なお、前記変性反応に用いるブタジエンゴムは、少なくとも10%のポリマー鎖がリビング性を有するものが好ましい。
【0055】
前記アルコキシシラン化合物の具体例としては、(f);エポキシ基を含有するアルコキシシラン化合物(以下、「エポキシ基含有アルコキシシラン化合物」とも称する。)として、2−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、2−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、(2−グリシドキシエチル)メチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシランが好適なものとして挙げられるが、これらの中でも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランがより好ましい。
【0056】
また、(g);イソシアネート基を含有するアルコキシシラン化合物(以下、「イソシアネート基含有アルコキシシラン化合物」とも称する。)としては、例えば、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリイソプロポキシシランなどが挙げられるが、なかでも、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0057】
また、(h);カルボニル基を含有するアルコキシシラン化合物(以下、「カルボニル基含有アルコキシシラン化合物」とも称する。)としては、3−メタクリロイロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロイロキシプロピルトリイソプロポキシシランなどが挙げられるが、なかでも、3−メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0058】
更に、(i);シアノ基を含有するアルコキシシラン化合物(以下、「シアノ基含有アルコキシシラン化合物」とも称する。)としては、3−シアノプロピルトリエトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルメチルジエトキシシラン、3−シアノプロピルトリイソプロポキシシランなどが挙げられるが、なかでも、3−シアノプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0059】
前記変性剤としては、これらのなかでも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシランが特に好ましく、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが最も好ましい。これら変性剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上述のアルコキシシラン化合物の部分縮合物を用いることもできる。
【0060】
前記変性工程(A)の変性反応では、前記アルコキシシラン化合物の使用量は、前記(a)成分1モルに対して、0.01〜200モルであることが好ましく、0.1〜150モルであることがより好ましい。0.01モル未満では、変性反応の進行が十分とはならず、充填剤の分散性が十分に改良されないために、加硫後の機械特性、耐摩耗性、低発熱性が十分に得られないおそれがある。一方、200モルを超えて使用しても、変性反応は飽和している場合があり、その場合には使用した分のコストが余計にかかってしまう。なお、前記変性剤の添加方法は特に制限されないが、一括して添加する方法、分割して添加する方法、連続的に添加する方法などが挙げられ、なかでも、一括して添加する方法が好ましい。
【0061】
前記変性反応は、溶液中で行うことが好ましく、この溶液としては、重合時に使用した未反応モノマーを含んだ溶液をそのまま使用することができる。また、変性反応の形式については特に制限されず、バッチ式反応器を用いて行ってもよいし、多段連続式反応器やインラインミキサなどの装置を用いて連続式で行ってもよい。また、この変性反応は、重合反応終了後、脱溶媒処理、水処理、熱処理、重合体単離に必要な諸操作などの前に行うことが好ましい。
【0062】
前記変性反応の温度は、ブタジエンゴムを重合する際の重合温度と同様とすることができる。具体的には20〜100℃が好ましく、30〜90℃がより好ましい。温度が20℃より低くなると重合体の粘度が上昇する傾向があり、100℃を超えると、重合活性末端が失活するおそれがある。
【0063】
また、前記変性反応における反応時間は、5分〜5時間であることが好ましく、15分〜1時間であることがより好ましい。なお、縮合工程(B)において、重合体の活性末端にアルコキシシラン化合物残基を導入した後、所望により、公知の老化防止剤や反応停止剤を添加してもよい。
【0064】
前記変性工程(A)においては、前記変性剤の他に、縮合工程(B)において、活性末端に導入された変性剤であるアルコキシシラン化合物残基と縮合反応し、消費されるものを更に添加することが好ましい。具体的には、官能基導入剤を添加することが好ましい。この官能基導入剤により、変性ブタジエンゴムの耐摩耗性を向上させることができる。
【0065】
前記官能基導入剤は、活性末端との直接反応を実質的に起こさず、反応系に未反応物として残存するものであれば特に制限されないが、例えば、前記変性剤として用いるアルコキシシラン化合物とは異なるアルコキシシラン化合物、即ち、(j);アミノ基、(k);イミノ基、および(l);メルカプト基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を含有するアルコキシシラン化合物であることが好ましい。なお、この官能基導入剤として用いられるアルコキシシラン化合物は、部分縮合物であってもよいし、官能基導入剤として用いるアルコキシシラン化合物の部分縮合物でないものと該部分縮合物との混合物であってもよい。
【0066】
前記官能基導入剤の具体例としては、(j);アミノ基を含有するアルコキシシラン化合物(以下、「アミノ基含有アルコキシシラン化合物」とも称する。)として、3−ジメチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3−ジメチルアミノプロピル(トリメトキシ)シラン、3−ジエチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3−ジエチルアミノプロピル(トリメトキシ)シラン、2−ジメチルアミノエチル(トリエトキシ)シラン、2−ジメチルアミノエチル(トリメトキシ)シラン、3−ジメチルアミノプロピル(ジエトキシ)メチルシラン、3−ジブチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリエトキシシラン、3−(N−メチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(N−メチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(1−ピロリジニル)プロピル(トリエトキシ)シラン、3−(1−ピロリジニル)プロピル(トリメトキシ)シランや、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1−メチルエチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−エチリデン−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1−メチルプロピリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(4−N,N−ジメチルアミノベンジリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(シクロヘキシリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、および、これらのトリエトキシシリル化合物に対応するトリメトキシシリル化合物、メチルジエトキシシリル化合物、エチルジエトキシシリル化合物、メチルジメトキシシリル化合物またはエチルジメトキシシリル化合物などが挙げられるが、なかでも、3−ジエチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3−ジメチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(1−メチルプロピリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミンが特に好ましい。
【0067】
また、(k);イミノ基を含有するアルコキシシラン化合物(以下、「イミノ基含有アルコキシシラン化合物」とも称する。)として、3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン、3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル(トリメトキシ)シラン、(1−ヘキサメチレンイミノ)メチル(トリメトキシ)シラン、(1−ヘキサメチレンイミノ)メチル(トリエトキシ)シラン、2−(1−ヘキサメチレンイミノ)エチル(トリエトキシ)シラン、2−(1−ヘキサメチレンイミノ)エチル(トリメトキシ)シラン、3−(1−ヘプタメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン、3−(1−ドデカメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン、3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル(ジエトキシ)メチルシラン、3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル(ジエトキシ)エチルシラン、また、1−〔3−(トリエトキシシリル)プロピル〕−4,5−ジヒドロイミダゾール、1−〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕−4,5−ジヒドロイミダゾール、3−〔10−(トリエトキシシリル)デシル〕−4−オキサゾリン、N−(3−イソプロポキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−(3−メチルジエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾールが好適なものとして挙げられるが、これらの中でも、3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン、3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン、(1−ヘキサメチレンイミノ)メチル(トリメトキシ)シラン、1−〔3−(トリエトキシシリル)プロピル〕−4,5−ジヒドロイミダゾール、1−〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾールがより好ましい。
【0068】
また、(l);メルカプト基を含有するアルコキシシラン化合物(以下、「メルカプト基含有アルコキシシラン化合物」とも称する。)として、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピル(ジエトキシ)メチルシラン、3−メルカプトプロピル(モノエトキシ)ジメチルシラン、メルカプトフェニルトリメトキシシラン、メルカプトフェニルトリエトキシシランなどが挙げられるが、なかでも、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0069】
前記官能基導入剤としては、これらのなかでも、3−ジエチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3−ジメチルアミノプロピル(トリエトキシ)シラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン、N−(1−メチルプロピリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、3−(1−ヘキサメチレンイミノ)プロピル(トリエトキシ)シラン、(1−ヘキサメチレンイミノ)メチル(トリメトキシ)シラン、1−〔3−(トリエトキシシリル)プロピル〕−4,5−ジヒドロイミダゾール、1−〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕−4,5−ジヒドロイミダゾール、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランが特に好ましく、3−アミノプロピルトリエトキシシランが最も好ましい。これらの官能基導入剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
前記官能基導入剤としてアルコキシシラン化合物を用いる場合、その使用量は、前記(a)成分1モルに対して、0.01〜200モルが好ましく、0.1〜150モルがより好ましい。0.01モル未満では、縮合反応の進行が十分とはならず、充填剤の分散性が十分に改良されないために、加硫後の機械特性、耐摩耗性、低発熱性に劣る場合がある。一方、200モルを超えて使用しても、縮合反応は飽和している場合があり、その場合には使用した分のコストが余計にかかってしまう。
【0071】
前記官能基導入剤の添加時期としては、前記変性工程(A)において前記ブタジエンゴムの活性末端にアルコキシシラン化合物残基を導入した後であって、前記縮合工程(B)における縮合反応が開始される前が好ましい。縮合反応開始後に添加した場合、官能基導入剤が均一に分散せず触媒性能が低下する場合がある。官能基導入剤の添加時期としては、具体的には、変性反応開始5分〜5時間後であることが好ましく、変性反応開始15分〜1時間後であることがより好ましい。
【0072】
なお、前記官能基導入剤として、前記官能基を有するアルコキシシラン化合物を用いる場合、活性末端を有するブタジエンゴムと、反応系に加えられた実質上化学量論的量の変性剤とが変性反応を起こし、実質的に活性末端の全てにアルコキシシリル基が導入され、更に前記官能基導入剤を添加することにより、このブタジエンゴムの活性末端の当量より多くのアルコキシシラン化合物残基が導入されることになる。
【0073】
アルコキシシリル基同士の縮合反応は、遊離のアルコキシシラン化合物とブタジエンゴム末端のアルコキシシリル基の間で起こること、また場合によってはブタジエンゴム末端のアルコキシシリル基同士で起こることが、反応効率の観点から好ましく、遊離のアルコキシシラン化合物同士の反応は好ましくない。したがって、官能基導入剤としてアルコキシシラン化合物を新たに加える場合には、そのアルコキシシリル基の加水分解性が、ブタジエンゴム末端に導入したアルコキシシリル基の加水分解性に比べて低いことが好ましい。
【0074】
例えば、ブタジエンゴムの活性末端との反応に用いられるアルコキシシラン化合物には加水分解性の高いトリメトキシシリル基を含有する化合物を用い、官能基導入剤として新たに添加するアルコキシシラン化合物には、該トリメトキシシリル基含有化合物より加水分解性が低いアルコキシシリル基(例えば、トリエトキシシリル基)を含有するものを用いる組み合わせが好ましい。逆に、例えば、ブタジエンゴムの活性末端との反応に用いられるアルコキシシラン化合物としてトリエトキシシリル基を含有する化合物を用い、官能基導入剤として新たに添加するアルコキシシラン化合物がトリメトキシシリル基を含有する化合物であると、反応効率が低下してしまうおそれがある。
【0075】
前記縮合工程(B)は、周期律表の第4族、12族、13族、14族および15族に含まれる元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有する縮合触媒の存在下で、前記活性末端に導入されたアルコキシシラン化合物の残基を縮合反応させる工程である。
【0076】
前記縮合触媒は、周期律表の第4族、12族、13族、14族および15族に含まれる元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有するものであれば、特に制限されないが、例えば、チタン(Ti)(第4族)、スズ(Sn)(第14族)、ジルコニウム(Zr)(第4族)、ビスマス(Bi)(第15族)およびアルミニウム(Al)(第13族)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むものであることが好ましい。
【0077】
前記縮合触媒の具体例としては、スズ(Sn)を含む縮合触媒として、例えば、ビス(n−オクタノエート)スズ、ビス(2−エチルヘキサノエート)スズ、ビス(ラウレート)スズ、ビス(ナフトエネート)スズ、ビス(ステアレート)スズ、ビス(オレエート)スズ、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジn−オクタノエート、ジブチルスズジ2−エチルヘキサノエート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレート、ジブチルスズビス(ベンジルマレート)、ジブチルスズビス(2−エチルヘキシルマレート)、ジn−オクチルスズジアセテート、ジn−オクチルスズジn−オクタノエート、ジn−オクチルスズジ2−エチルヘキサノエート、ジn−オクチルスズジラウレート、ジn−オクチルスズマレート、ジn−オクチルスズビス(ベンジルマレート)、ジn−オクチルスズビス(2−エチルヘキシルマレート)等が挙げられる。
【0078】
ジルコニウム(Zr)を含む縮合触媒として、例えば、テトラエトキシジルコニウム、テトラn−プロポキシジルコニウム、テトラi−プロポキシジルコニウム、テトラn−ブトキシジルコニウム、テトラsec−ブトキシジルコニウム、テトラtert−ブトキシジルコニウム、テトラ(2−エチルヘキシルオキシド)ジルコニウム、ジルコニウムトリブトキシステアレート、ジルコニウムトリブトキシアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムトリブトキシエチルアセトアセテート、ジルコニウムブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムジアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ビス(2−エチルヘキサノエート)ジルコニウムオキサイド、ビス(ラウレート)ジルコニウムオキサイド、ビス(ナフテート)ジルコニウムオキサイド、ビス(ステアレート)ジルコニウムオキサイド、ビス(オレエート)ジルコニウムオキサイド、ビス(リノレート)ジルコニウムオキサイド、テトラキス(2−エチルヘキサノエート)ジルコニウム、テトラキス(ラウレート)ジルコニウム、テトラキス(ナフテート)ジルコニウム、テトラキス(ステアレート)ジルコニウム、テトラキス(オレエート)ジルコニウム、テトラキス(リノレート)ジルコニウム等が挙げられる。
【0079】
ビスマス(Bi)を含む縮合触媒として、例えば、トリス(2−エチルヘキサノエート)ビスマス、トリス(ラウレート)ビスマス、トリス(ナフテート)ビスマス、トリス(ステアレート)ビスマス、トリス(オレエート)ビスマス、トリス(リノレート)ビスマス等が挙げられる。
【0080】
アルミニウム(Al)を含む縮合触媒として、例えば、トリエトキシアルミニウム、トリn−プロポキシアルミニウム、トリi−プロポキシアルミニウム、トリn−ブトキシアルミニウム、トリsec−ブトキシアルミニウム、トリtert−ブトキシアルミニウム、トリ(2−エチルヘキシルオキシド)アルミニウム、アルミニウムジブトキシステアレート、アルミニウムジブトキシアセチルアセトネート、アルミニウムブトキシビス(アセチルアセトネート)、アルミニウムジブトキシエチルアセトアセテート、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、トリス(2−エチルヘキサノエート)アルミニウム、トリス(ラウレート)アルミニウム、トリス(ナフテート)アルミニウム、トリス(ステアレート)アルミニウム、トリス(オレエート)アルミニウム、トリス(リノレート)アルミニウム等が挙げられる。
【0081】
チタン(Ti)を含む縮合触媒として、例えば、テトラメトキシチタニウム、テトラエトキシチタニウム、テトラn−プロポキシチタニウム、テトラi−プロポキシチタニウム、テトラn−ブトキシチタニウム、テトラn−ブトキシチタニウムオリゴマー、テトラsec−ブトキシチタニウム、テトラtert−ブトキシチタニウム、テトラ(2−エチルヘキシルオキシド)チタニウム、ビス(オクタンジオレート)ビス(2−エチルヘキシルオキシド)チタニウム、テトラ(オクタンジオレート)チタニウム、チタニウムラクテート、チタニウムジプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムジブトキシビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムトリブトキシステアレート、チタニウムトリプロポキシステアレート、チタニウムトリプロポキシアセチルアセトネート、チタニウムジプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタニウムトリプロポキシエチルアセトアセテート、チタニウムプロポキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムトリブトキシアセチルアセトネート、チタニウムジブトキシビス(アセチルアセトネート)、チタニウムトリブトキシエチルアセトアセテート、チタニウムブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムジアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、ビス(2−エチルヘキサノエート)チタニウムオキサイド、ビス(ラウレート)チタニウムオキサイド、ビス(ナフテート)チタニウムオキサイド、ビス(ステアレート)チタニウムオキサイド、ビス(オレエート)チタニウムオキサイド、ビス(リノレート)チタニウムオキサイド、テトラキス(2−エチルヘキサノエート)チタニウム、テトラキス(ラウレート)チタニウム、テトラキス(ナフテート)チタニウム、テトラキス(ステアレート)チタニウム、テトラキス(オレエート)チタニウム、テトラキス(リノレート)チタニウム等が挙げられる。
【0082】
これらの中でも、前記縮合触媒としては、チタン(Ti)を含む縮合触媒がより好ましい。チタン(Ti)を含む縮合触媒の中でも、チタン(Ti)のアルコキシド、カルボン酸塩またはアセチルアセトナート錯塩であることが更に好ましい。特に好ましくは、テトラi−プロポキシチタニウム(テトライソプロピルチタネート)である。チタン(Ti)を含む縮合触媒を用いることにより、変性剤として用いる前記アルコキシシラン化合物の残基、および官能基導入剤として用いる前記アルコキシシラン化合物の残基の縮合反応をより効果的に促進させることができ、加工性、低温特性および耐摩耗性に優れた変性ブタジエンゴムを得ることが可能となる。このように、前記縮合触媒が、チタン(Ti)を含むこともまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0083】
前記縮合触媒の使用量としては、縮合触媒として用いることができる前記種々の化合物のモル数が、反応系内に存在するアルコキシシリル基総量1モルに対して、0.1〜10モルとなることが好ましく、0.3〜5モルが特に好ましい。0.1モル未満では、縮合反応が十分に進行しないおそれがある。一方、10モルを超えて使用しても、縮合触媒としての効果は飽和している場合があり、その場合には使用した分のコストが余計にかかってしまう。
【0084】
前記縮合触媒は、前記変性反応前に添加することもできるが、変性反応後、かつ縮合反応開始前に添加することが好ましい。変性反応前に添加した場合、活性末端との直接反応が起こり、活性末端にアルコキシシリル基が導入されない場合がある。また、縮合反応開始後に添加した場合、縮合触媒が均一に分散せず触媒性能が低下する場合がある。前記縮合触媒の添加時期としては、具体的には、変性反応開始5分〜5時間後であることが好ましく、変性反応開始15分〜1時間後であることがより好ましい。
【0085】
前記縮合工程(B)の縮合反応は、水溶液中で行うことが好ましく、縮合反応時の温度は85〜180℃であることが好ましく、100〜170℃であることがより好ましく、110〜150℃であることが特に好ましい。縮合反応時の温度が85℃未満であると、縮合反応の進行が十分とはならず、縮合反応を完結させることができない場合があり、その場合、得られる変性ブタジエンゴムに経時変化が発生し、品質上問題となるおそれがある。一方、180℃を超えると、ポリマーの老化反応が進行し、物性を低下させるおそれがある。
【0086】
前記縮合反応が行われる水溶液のpHは9〜14であることが好ましく、10〜12であることがより好ましい。水溶液のpHをこのような範囲とすることにより、縮合反応が促進され、変性ブタジエンゴムの経時安定性を改善することができる。pHが9未満であると、縮合反応の進行が十分とはならず、縮合反応を完結させることができない場合があり、その場合、得られる変性ブタジエンゴムに経時変化が発生し、品質上問題となるおそれがある。一方、縮合反応が行われる水溶液のpHが14を超えると、単離後の変性ブタジエンゴム中に多量のアルカリ由来成分が残留し、その除去が困難となるおそれがある。
【0087】
前記縮合反応の反応時間は、5分〜10時間であることが好ましく、15分〜5時間程度であることがより好ましい。5分未満では、縮合反応が完結しないおそれがある。一方、10時間を超えても縮合反応が飽和しているおそれがある。また、縮合反応時の反応系内の圧力は、0.01〜20MPaであることが好ましく、0.05〜10MPaであることがより好ましい。
【0088】
縮合反応の形式については特に制限されず、バッチ式反応器を用いて行ってもよいし、多段連続式反応器などの装置を用いて連続式で行ってもよい。また、この縮合反応と同時に脱溶媒を行ってもよい。
【0089】
上述のように縮合反応を行った後、従来公知の後処理を行い、目的の変性ブタジエンゴムを得ることができる。
【0090】
前記変性ブタジエンゴムのムーニー粘度(ML1+4(125℃))は、10〜150であることが好ましく、20〜100であることがより好ましい。ムーニー粘度(ML1+4(125℃))が10未満であると、破壊特性を始めとするゴム物性が低下するおそれがある。一方、ムーニー粘度(ML1+4(125℃))が150を超えるものであると、作業性が悪くなり、配合剤とともに混練りすることが困難になるおそれがある。なお、ムーニー粘度(ML1+4(125℃))は後述の実施例に記載の測定方法により得られる値である。
【0091】
また、前記変性ブタジエンゴムの分子量分布(Mw/Mn)は、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることが更に好ましい。分子量分布が3.5を超えるものであると、破壊特性、低発熱性などのゴム物性が低下する傾向がある。ここで、変性ブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、GPC法(Gel Permeation Chromatography法)で測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量である。また、変性ブタジエンゴムの数平均分子量(Mn)は、GPC法で測定されたポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0092】
また、前記変性ブタジエンゴムのコールドフロー値(mg/分)は、1.0以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましい。コールドフロー値が1.0を超えるものであると、貯蔵時におけるポリマーの形状安定性が悪化するおそれがある。なお、本明細書において、コールドフロー値(mg/分)は、後述する測定方法により算出される値である。
【0093】
更に、前記変性ブタジエンゴムの経時安定性の評価値は、0〜5であることが好ましく、0〜2であることがより好ましい。この評価値が5を超えるものであると、貯蔵時にポリマーが経時変化するおそれがある。なお、本明細書において、経時安定性は、後述する測定方法により算出される値である。
【0094】
また、前記変性ブタジエンゴムのガラス転移温度は、−40℃以下であることが好ましい。より好ましくは−43℃以下であり、更に好ましくは−46℃以下であり、特に好ましくは−50℃以下である。ガラス転移温度が−40℃を超えると、スタッドレスタイヤに必要な低温特性を十分確保できないおそれがある。他方、該ガラス転移温度の下限は特に制限されない。ここで、変性ブタジエンゴムのガラス転移温度は、後述の実施例に記載の測定方法により測定することができる。
【0095】
前記変性ブタジエンゴムのゴム成分中の含有量は、氷雪上性能および耐摩耗性に優れるという観点から、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましい。また、変性ブタジエンゴムの含有量は、85質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が最も好ましい。
【0096】
前記ゴム成分は、前記変性ブタジエンゴム以外の他のゴムを含んでいてもよい。前記他のゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)、改質天然ゴム等のイソプレン系ジエンゴム;ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴム;エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)等の非ジエン系ゴム等が挙げられる。なお、前記改質天然ゴムとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等が挙げられる。
【0097】
なかでも、氷雪上性能および耐摩耗性に優れることから、NRを含むことが好ましい。NRとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20などが挙げられる。また、前記IRとしてもタイヤ業界において一般的なものを用いることができる。
【0098】
前記NRを含む場合のゴム成分中の含有量は、本発明の効果がより良好に得られるという理由から、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、35質量%以上がより好ましい。また、NRの含有量は、低温特性の観点から、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下がさらに好ましい。
【0099】
前記シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0100】
シリカのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、耐久性や破断時伸びの観点から、80m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。また、シリカのN2SAは、低燃費性および加工性の観点から、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAとは、ASTM D3037−93に準じて測定された値である。
【0101】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は、耐久性や破断時伸びの観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましい。また、シリカの含有量は、混練時の分散性向上の観点、圧延時の加熱や圧延後の保管中にシリカが再凝集して加工性が低下することを抑制するという観点から、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。
【0102】
シリカを含有する場合はシランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、エボニックデグッサ社製のSi75、Si266(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)、同社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)などのスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、Momentive社製のNXT−Z100、NXT−Z45、NXTなどのメルカプト系(メルカプト基を有するシランカップリング剤)、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのグリシドキシ系、3−ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系、3−クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、スルフィド系、メルカプト系がシリカとの結合力が強く、低発熱性において優れるという点から好ましい。
【0103】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が2質量部未満の場合は、シリカ分散性の改善効果が十分に得られない傾向がある。また、シランカップリング剤の含有量は、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が25質量部を超える場合は、コストに見合った効果が得られない傾向がある。
【0104】
本発明に係るゴム組成物は前記のゴム成分および配合剤以外にも、従来からタイヤ工業に使用される配合剤や添加剤、例えば、シリカ以外の補強用充填剤、酸化亜鉛、各種オイル、軟化剤、ワックス、各種老化防止剤、ステアリン酸、硫黄などの加硫剤、各種加硫促進剤などを、必要に応じて適宜含有することができる。
【0105】
前記シリカ以外の各種補強用充填剤としては、従来、タイヤ用ゴム組成物において慣用されるもののなかから任意に選択して用いることができ、補強性の観点からカーボンブラックが好ましい。
【0106】
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイトなどが挙げられ、これらのカーボンブラックは単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。なかでも、低温特性と摩耗性能をバランスよく向上させることができるという理由から、ファーネスブラックが好ましい。
【0107】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、十分な補強性および耐摩耗性が得られる点から、70m2/g以上が好ましく、90m2/g以上がより好ましい。また、カーボンブラックのN2SAは、分散性に優れ、発熱しにくいという点から、300m2/g以下が好ましく、250m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAとは、JIS K 6217−2「ゴム用カーボンブラック基本特性−第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」に準じて測定された値である。
【0108】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、3質量部以上が好ましく、4質量部以上がより好ましい。3質量部未満の場合は、十分な補強性が得られない傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。200質量部を超える場合は、加工性が悪化する傾向、発熱しやすくなる傾向、および耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0109】
本発明に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0110】
ここで、各成分を混練りする混練り工程は、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤をバンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどの混練機で混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤や加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程からなる混練り工程とすることもできるが、より効率的にシリカ表面の親水基と変性ブタジエンゴムとを結合させ、ゴム組成物の撥水性をさらに向上させるという観点から、前記ベース練り工程を、変性ブタジエンゴムおよびシリカを含むマスターバッチを製造するX練り工程および前記マスターバッチに加硫剤および加硫促進剤以外の残りの配合剤および添加剤を添加して混練するY練り工程とに分けることが好ましい。
【0111】
前記マスターバッチは、変性ブタジエンゴムおよびシリカを含有する。シリカが変性ブタジエンゴム以外のゴム成分と混練りされる前に、変性ブタジエンゴムと混練りすることで、より効率的にシリカ表面の親水基と変性ブタジエンゴムとを結合させることができる。
【0112】
前記マスターバッチ中の変性ブタジエンゴムの含有量は、本発明の効果がより発揮できるという観点から、全変性ブタジエンゴムの50質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0113】
前記マスターバッチ中のシリカの含有量は、本発明の効果がより発揮できるという観点から、全シリカの50質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0114】
前記マスターバッチは、変性ブタジエンゴムおよびシリカ以外に、シランカップリング剤やオイルなどを適宜含有することができる。シランカップリング剤を配合する場合のマスターバッチ中のシリカに対する含有量は、前述のシリカに対する含有量と同様である。
【0115】
前記X練り工程における排出温度は、変性ブタジエンゴムとシリカとの結合を十分に促進することができるという理由から、140〜170℃が好ましく、150〜167℃がより好ましく、155〜165℃がさらに好ましい。
【0116】
前記X練り工程における混練時間は特に限定されないが、シリカが良好に分散した混練物を効率良く得られるという理由から、2.0〜4.0分が好ましく、2.5〜3.5分がより好ましく、2.7〜3.2分がさらに好ましい。
【0117】
前記混練時間は、混練開始から混練温度が排出温度に到達するまでの時間であるが、前記X練り工程では、排出温度に到達した後、排出温度を維持したまま1〜5分混練することが、変性ブタジエンゴムとシリカとの結合をより促進することができるという理由から好ましい。
【0118】
前記Y練り工程における混練温度や混練時間は特に限定されず、従来のベース練り工程の条件などで行うことができる。
【0119】
本発明に係るゴム組成物は、純水の接触角が125〜140°であり、128〜140°が好ましく、130〜140°以上がより好ましい。ここで、純水との接触角とは、水平に保持されたゴム組成物の表面に純水をガラス細管等を用いて小粒状に滴下し、そのときの液滴の端部がゴム組成物の表面となす角度をいう。接触角が大きいほど撥水力が高いことを示す。また、この接触角は、接触角測定装置を用いて測定することができる。
【0120】
また、本発明に係るゴム組成物は、フィラーゲル量が45質量%以上であることが好ましく、55質量%以上がより好ましい。ゴム組成物中のフィラーゲルとは、シリカなどのフィラーとゴム成分とが結合して形成されたものであり、本発明においては、シリカ表面の親水基と、変性ブタジエンゴムなどのシリカと結合し得るゴム成分との結合量の指標となるものである。すなわち、ゴム組成物中のフィラーゲル量が多いほど、シリカ表面の親水基と変性ブタジエンゴムとの結合量が多いことを示す。フィラーゲル量の上限は特に限定されないが、65質量%以下が好ましい。
【0121】
ゴム組成物のフィラーゲル量の測定方法は特に限定されないが、フィラーゲルはゴム成分を溶解し得る溶媒に対しても不溶性であることから、未加硫ゴム組成物をゴム溶剤に浸漬することでフィラー結合していないゴム成分を溶解させ、不溶性のフィラーゲルを回収し、測定する方法などが挙げられる。なお、フィラーゲル量は未加硫ゴム組成物100質量%中の量を示す。
【0122】
本発明の空気入りタイヤは、前記ゴム組成物を用いて、通常の方法により製造することができる。すなわち、前記の各成分を混練して得られた未加硫ゴム組成物をタイヤ部材の形状にあわせて押出し加工した部材をタイヤ成形機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成形することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本発明のタイヤを得ることができる。前記ゴム組成物は、雪詰まりおよび雪付きを抑制することができるゴム組成物であることから、タイヤ外周のトレッドおよび/またはサイドウォールを構成するゴム組成物とすることが好ましく、雪詰まりおよび雪付きの抑制がより求められるトレッドを構成するゴム組成物とすることがより好ましい。
【0123】
本発明のタイヤは、空気入りタイヤとすることが好ましく、特に前記ゴム組成物により構成されたトレッドを有する空気入りタイヤは、トレッドパターン形状に依存することなく雪詰まりおよび雪付きが抑制されたタイヤであることから、スタッドレスタイヤ、スノータイヤなどの冬用タイヤに適用することが好ましく、特に氷上でのグリップ性能が求められるスタッドレスタイヤに適用することがより好ましい。
【実施例】
【0124】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、実施例にのみ限定されるものではない。
【0125】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
変性BR:下記<変性BRの製造>で合成した変性ブタジエンゴム
BR:日本ゼオン(株)製のBR1220(未変性BR、シス含量:96質量%)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックI(ASTM No.N220、N2SA:114m2/g、DBP:114ml/100g)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:15nm)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi75(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140(アロマオイル)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0126】
<変性BRの製造>
ブタジエンゴムの合成
0.18ミリモルのバーサチック酸ネオジムを含有するシクロヘキサン溶液、3.6ミリモルのメチルアルモキサンを含有するトルエン溶液、6.7ミリモルの水素化ジイソブチルアルミニウムを含有するトルエン溶液、および、0.36ミリモルのトリメチルシリルアイオダイドを含有するトルエン溶液と1,3−ブタジエン0.90ミリモルを30℃で60分間反応熟成させて得られる触媒組成物(ヨウ素原子/ランタノイド含有化合物(モル比)=2.0)を得た。続いて、シクロヘキサン2.4kg、1,3−ブタジエン300gを窒素置換された5Lオートクレーブに投入した。そして、前記触媒組成物を前記オートクレーブに投入し、30℃で2時間、重合反応させて、ブタジエンゴム溶液を得た。なお、投入した1,3−ブタジエンの反応転化率は、ほぼ100%であった。
【0127】
ここで、ブタジエンゴム、すなわち、未変性ブタジエンゴムの各種物性値を測定するため、前記ブタジエンゴム溶液から200gのブタジエンゴム溶液を抜き取り、このブタジエンゴム溶液に2,4−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを1.5g含むメタノール溶液を添加し、重合反応を停止させた後、スチームストリッピングにより脱溶媒し、110℃のロールで乾燥して、得られた乾燥物をブタジエンゴムとした。
【0128】
得られたブタジエンゴムについて、以下に示す測定方法によって各種物性値を測定したところ、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が12であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.6であり、シス−1,4−結合量が99.2質量%であり、1,2−ビニル結合量が0.21質量%であった。
【0129】
[ムーニー粘度(ML1+4(100℃))]
JIS K 6300に準じて、Lローターを使用して、予熱1分、ローター作動時間4分、温度100℃の条件で測定した。
【0130】
[分子量分布(Mw/Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー(株)製のHLC−8120GPC)を使用し、検知器として、示差屈折計を用いて、以下の条件で測定し、標準ポリスチレン換算値として算出した。
カラム;商品名「GMHHXL」、(東ソー(株)製)2本
カラム温度;40℃
移動相;テトラヒドロフラン
流速;1.0ml/分
サンプル濃度;10mg/20ml
【0131】
[シス−1,4−結合量、1,2−ビニル結合量]
シス−1,4−結合の含量、および1,2−ビニル結合の含量は、1H−NMR分析および13C−NMR分析により測定を行った。NMR分析には、日本電子(株)製の商品名「EX−270」を使用した。具体的には、1H−NMR分析としては、5.30〜5.50ppm(1,4−結合)、および4.80−5.01ppm(1,2−結合)におけるシグナル強度から、ブタジエンゴム中の1,4−結合と1,2−結合の比を算出した。更に、13C−NMR分析としては、27.5ppm(シス−1,4−結合)、および32.8ppm(トランス−1,4−結合)におけるシグナル強度から、ブタジエンゴム中のシス−1,4−結合とトランス−1,4−結合の比を算出した。これらの算出した値の比率を算出し、シス−1,4−結合量(質量%)および1,2−ビニル結合量(質量%)とした。
【0132】
変性ブタジエンゴムの合成
変性ブタジエンゴムを得るために、前記ブタジエンゴム溶液に次の処理を行った。温度30℃に保持したブタジエンゴム溶液に、1.71ミリモルの3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含有するトルエン溶液を添加し、30分間反応させて反応溶液を得た。それから、この反応溶液に1.71ミリモルの3−アミノプロピルトリエトキシシランを含有するトルエン溶液を添加し、30分間撹拌した。続いて、この反応溶液に1.28ミリモルのテトライソプロピルチタネートを含有するトルエン溶液を添加し、30分間撹拌した。その後、重合反応を停止させるため、2,4−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを1.5g含むメタノール溶液を添加して、この溶液を変性ブタジエンゴム溶液とした。収量は2.5kgであった。続いて、この変性ブタジエンゴム溶液に、水酸化ナトリウムによりpH10に調整した水溶液20Lを添加し、110℃で2時間、脱溶媒とともに縮合反応させた。その後、110℃のロールで乾燥して、得られた乾燥物を変性ブタジエンゴムとした。
【0133】
得られた変性ブタジエンゴムについて、以下に示す測定方法によって各種物性値を測定したところ(ただし、分子量分布(Mw/Mn)の測定は、前記ブタジエンゴムと同様の条件で行った。)、ムーニー粘度(ML1+4(125℃))が46であり、分子量分布(Mw/Mn)が2.4であり、コールドフロー値が0.3mg/分であり、経時安定性が2であり、ガラス転移温度が−106℃であった。
【0134】
[ムーニー粘度(ML1+4(125℃))]
JIS K 6300に準じて、Lローターを使用して、予熱1分、ローター作動時間4分、温度125℃の条件で測定した。
【0135】
[コールドフロー値]
圧力3.5lb/in2、温度50℃でブタジエンゴムを1/4インチオリフィスに通して押し出すことにより測定した。定常状態にするため、10分間放置後、押し出し速度を測定し、その測定値を毎分のミリグラム数(mg/分)で表示した。
【0136】
[経時安定性]
90℃の恒温槽で2日間保存した後のムーニー粘度(ML1+4(125℃))を測定し、下記式により算出した値である。なお、値が小さいほど経時安定性が良好である。
式:[90℃の恒温槽で2日間保存した後のムーニー粘度(ML1+4(125℃))]−[合成直後に測定したムーニー粘度(ML1+4(125℃))]
【0137】
[ガラス転移温度]
ガラス転移温度は、JIS K 7121に準じて、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製の示差走査熱量計(Q200)を用いて昇温速度10℃/分で昇温しながら測定することにより、ガラス転移開始温度として求めた。
【0138】
実施例および比較例
表1に示す配合処方およびX練り工程条件に従い、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いたX練り工程およびY練り工程、ならびにオープンロールを用いたファイナル練り工程を行い各未加硫ゴム組成物を得た。X練り工程条件における「キープ時間」とは、排出温度に到達後、排出温度を維持して混練りを行った時間である。なお、Y練り工程は排出温度150℃、混練り時間5分の条件で、ファイナル練り工程は80℃で3分間練り込む条件で行った。さらに、得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、各試験用ゴム組成物を得た。
【0139】
また、前記未加硫ゴム組成物を所定の形状の口金を備えた押し出し機でタイヤトレッドの形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15、スタッドレスタイヤ)を製造した。
【0140】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物および試験用タイヤについて下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0141】
フィラーゲル量
各未加硫ゴム組成物0.5gを1mm角の細片に切断し、これを200メッシュのステンレス製金網で作った30mm角の立方体の籠の中に入れ、籠ごと50mlのトルエンに浸して25℃で48時間暗所に静置した。その後、籠内の固形物をガラス繊維フィルター(孔径:0.1μm)でろ過し、トルエン不溶分を分離した後、不溶分を25℃で真空乾燥させてフィラーゲルを調製した。得られたフィラーゲルの質量を測定し、未加硫ゴム組成物中のフィラーゲル量を算出した。
【0142】
純水の接触角
各加硫ゴム組成物を接触角測定装置(協和界面科学(株)製のCA−A型機)により液滴の接触角を測定することで行った。液適としては純水を用い、滴下5秒後に測定を行った。接触角が大きいほど加硫ゴム組成物が撥水性に優れることを示す。
【0143】
耐摩耗性能
各試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着し、走行距離8000km後のタイヤトレッド部の溝深さを測定し、タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を求めた。結果は指数で表し、指数が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。指数は次の式で求めた。
(耐摩耗性指数)=(各配合例のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)/(比較例3のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)×100
【0144】
ウェットグリップ性能
各試験用タイヤを車両(国産FF2000cc)の全輪に装着して、湿潤アスファルト路面にて初速度100km/hからの制動距離を求めた。結果は指数で表し、指数が大きいほどウェットグリップ性が良好であることを示す。指数は次の式で求めた。
(ウェットグリップ性指数)=(比較例3の制動距離)/(各配合例の制動距離)×100
【0145】
氷雪上性能
前記試験用タイヤを国産2000ccのFR車に装着し、下記条件下で氷雪上を実車走行し、氷雪上性能を評価した。氷雪上性能評価としては、具体的には、前記車両により氷雪上を走行し、時速30km/hでロックブレーキを踏み、停止させるまでに要した停止距離(氷上制動停止距離、雪上制動停止距離)を測定し、下記式により指数表示した。指数が大きいほど、氷雪上性能(氷雪上でのグリップ性能)が良好である。なお、指数の値が100を超えると、氷雪上性能が改善しているといえる。
(制動性能〔氷雪上性能〕指数)=(比較例3の制動停止距離)/(各配合の制動停止距離)×100
(氷上)試験場所:北海道名寄テストコ−ス、気温:−1〜−6℃
(雪上)試験場所:北海道名寄テストコ−ス、気温:−2〜−10℃
【0146】
雪詰まり、雪付き
各試験用タイヤを試験用実車(国産FR車、排気量:2000cc)に装着し、雪上で実車走行を行い、走行後の各試験用タイヤの横溝における雪詰まりおよび雪付きを目視にて観察し、5点満点で評価した。点数が大きいほど、雪詰まりおよび雪付きを抑制する効果が高いことを示し、4点以上であれば雪詰まりおよび雪付きが抑制されたと評価できる。なお、試験場所は住友ゴム工業株式会社の北海道名寄テストコースで行い、雪上気温は−2〜−10℃であった。
【0147】
【表1】
【0148】
表1の結果より、変性ブタジエンゴムを含むゴム成分およびシリカを含有し、純水の接触角が所定の範囲を満たすゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤとすることにより、トレッドパターン形状に依存することなく、ウェットグリップ性能および耐摩耗性を維持したまま、雪詰まりおよび雪付きが抑制され、氷雪上性能に優れたタイヤが得られることがわかる。