特許第6604161号(P6604161)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧
<>
  • 特許6604161-遊星ローラ式変速機の組立方法 図000002
  • 特許6604161-遊星ローラ式変速機の組立方法 図000003
  • 特許6604161-遊星ローラ式変速機の組立方法 図000004
  • 特許6604161-遊星ローラ式変速機の組立方法 図000005
  • 特許6604161-遊星ローラ式変速機の組立方法 図000006
  • 特許6604161-遊星ローラ式変速機の組立方法 図000007
  • 特許6604161-遊星ローラ式変速機の組立方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604161
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】遊星ローラ式変速機の組立方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 13/08 20060101AFI20191031BHJP
   G01P 3/44 20060101ALI20191031BHJP
   G01P 3/48 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   F16H13/08 F
   F16H13/08 Z
   G01P3/44 A
   G01P3/48 B
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-229498(P2015-229498)
(22)【出願日】2015年11月25日
(65)【公開番号】特開2017-96412(P2017-96412A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2018年10月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 肇
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−113931(JP,A)
【文献】 特開2002−090381(JP,A)
【文献】 特開2001−045793(JP,A)
【文献】 実開平02−149161(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 13/08
G01P 3/44
G01P 3/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、
前記入力軸の径方向外方で同軸に配置された固定輪と、
前記入力軸の外周及び前記固定輪の内周と転がり接触する複数の遊星ローラと、
前記遊星ローラと係合して前記入力軸と略同軸に回転するキャリアと、
前記キャリアに固定され前記入力軸と略同軸に回転する出力軸と、
前記固定輪に固定されて前記出力軸を回転自在に支持するハウジングと、
を備えた遊星ローラ式変速機の組立方法であって、
前記固定輪に対する前記ハウジングの固定位置を調整可能とする調整装置と、前記出力軸の回転ムラを計測する計測装置とを備えた組立装置を用いて、
前記固定輪に対する前記ハウジングの固定位置を順次変えて前記出力軸の回転ムラを計測する計測工程と、
前記回転ムラが最小となる位置で前記固定輪と前記ハウジングとを互いに固定する組立工程とを備えたことを特徴とする遊星ローラ式変速機の組立方法。
【請求項2】
前記計測装置は、前記出力軸の回転速度変動と基準回転速度とを計測する計測手段であって、
前記計測工程では、前記計測手段で計測した前記出力軸の回転速度変動と基準回転速度との偏差を時間で積分することによって、基準回転角度に対する前記出力軸の回転角度のずれを演算する積分回路を備えており、前記積分回路で演算した前記回転角度のずれに基づいて前記出力軸の回転ムラを計測することを特徴とする請求項1に記載する遊星ローラ式変速機の組立方法。
【請求項3】
前記計測装置は、前記出力軸に取り付けられて、前記出力軸の回転にともなってパルス信号を発信するロータリーエンコーダと、前記パルス信号の周期に基づいて前記出力軸の回転速度を計測するF/Vコンバータとを備えており、
前記ロータリーエンコーダは、1回転あたり、一の遊星ローラ式変速機に組み込まれている前記遊星ローラの個数の4倍以上でかつ30倍以下のパルス信号を発信することを特徴とする請求項1に記載する遊星ローラ式変速機の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星ローラ式変速機の組立方法に関するものであって、特に出力軸の回転ムラを低減する組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷機や複写機などの用紙の送り機構では、印刷品質を高めるために、送り速度を精密に制御する必要がある。送り機構はモータで駆動されており、モータの回転速度を変速して伝達している。ここで使用される変速機としては、モータの回転運動を精密に伝達することが出来る遊星ローラ式の変速機が使用されている。
図7に示すように、遊星ローラ式変速機100では、互いに同軸に配置された固定輪101と太陽軸102との間に複数の遊星ローラ103が配置されており、太陽軸102が回転するときの遊星ローラ103の公転運動をキャリア107の回転として出力している(特許文献1)。
【0003】
遊星ローラ式変速機100では、遊星ローラ103の公転中心とキャリア107の回転中心とがずれている場合には、遊星ローラ103の公転角度とキャリア107の回転角度との間にずれが生じる。このため、仮に、太陽軸102を一定速度で回転させて、遊星ローラ103が一定速度で公転したとしても、キャリア107の回転速度が変動する。この場合には、モータ105の回転を正確に出力軸108に伝達出来ないので、印刷の位置がずれて印刷品質が低下する。このため、複写機などにおいては、遊星ローラ103のピッチ円中心とキャリア107の回転中心の同軸度を10μm程度にする必要がある。上記のように、入力軸(太陽軸102)の回転速度や回転角度に対して、出力軸108の回転速度や回転角度が増減する現象を「回転ムラ」という。
【0004】
遊星ローラ103の公転中心とキャリア107の回転中心の同軸度を確保する方法としては、固定輪101とキャリア107を支持するハウジング110とに、それぞれ組み立て用の案内溝(図示しない)を設けておき、ハウジング110と固定輪101との位置を合わせて組み立てる方法が一般的である。しかし、この方法は、キャリア107の位置を直接調整するものではないので、たとえば、固定輪101に案内溝を加工するときの位置精度のばらつきなどの影響を受けて、固定輪101の位置とキャリア107の組付け位置とが僅かにずれを生じる場合があった。このため、単に、案内溝を設けることによってハウジング110と固定輪101の位置を合わせただけでは、キャリア107を上記のような高い精度で同軸に組み込むことが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−113931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の状況に鑑み、この発明は、遊星ローラ式変速機を組み立てるにあたって、キャリアの位置と遊星ローラの位置とを正確に組み合わせることによって、出力軸の回転ムラを極めて小さくすることが出来る組立方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる遊星ローラ式変速機の組立方法の一実施形態は、入力軸と、前記入力軸の径方向外方で同軸に配置された固定輪と、前記入力軸の外周及び前記固定輪の内周と転がり接触する複数の遊星ローラと、前記遊星ローラと係合して前記入力軸と略同軸に回転するキャリアと、前記キャリアに固定され前記入力軸と略同軸に回転する出力軸と、前記固定輪に固定されて前記出力軸を回転自在に支持するハウジングと、を備えた遊星ローラ式変速機の組立方法であって、前記固定輪に対する前記ハウジングの固定位置を調整可能とする調整装置と、前記出力軸の回転ムラを計測する計測装置とを備えた組立装置を用いて、前記固定輪に対する前記ハウジングの固定位置を順次変えて前記出力軸の回転ムラを計測する計測工程と、前記回転ムラが最小となる位置で前記固定輪と前記ハウジングとを互いに固定する組立工程とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組立方法によると、遊星ローラ式変速機を組み立てるにあたって、キャリアの位置と遊星ローラの位置とを正確に組み合わせることによって、出力軸の回転ムラを極めて小さくすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明にかかる組立方法の第1実施形態を説明するための説明図である。
図2図1のX−Xの位置における断面図である。
図3図1のX−Xの位置における断面図において、遊星ローラに対して、駆動ピンが位置ずれしている状態を説明する説明図である。
図4】出力軸の回転速度変動の状態を表す概念図である。
図5】第2実施形態における組立装置の構成図である。
図6】出力軸の回転速度変動の状態を表す概念図の部分拡大図である。
図7】従来の遊星ローラ式変速機の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、この発明にかかる遊星ローラ式変速機10の組立方法の一実施形態(以下、「第1実施形態」という)を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、第1実施形態で使用する組立装置50の概略構成を示す説明図であり、遊星ローラ式変速機10を組み立てている状態を示している。図2は、図1のX−Xの位置における断面図である。図1では、遊星ローラ式変速機10は、回転軸線Kを鉛直方向に配置している。以下の説明では、回転軸線Kの方向を軸方向といい、これに直交する方向を径方向という。
【0011】
(遊星ローラ式変速機10の説明)
まず、遊星ローラ式変速機10について説明する。
図1に示すように、遊星ローラ式変速機10は、ハウジング30と、トラクションドライブユニット14と、モータ16とで構成されており、トラクションドライブユニット14を軸方向に挟んで、ハウジング30とモータ16が同軸に組み付けられている。
【0012】
ハウジング30は、アルミ合金鋼を切削加工することによって製作されている。外周は円筒形状で、径方向内方には深溝玉軸受20が同軸に組み込まれている。
ハウジング30の鉛直方向下方の面は、遊星ローラ式変速機10が印刷機等に取り付けられるときに、図示しない印刷機側の取付面と向き合って取り付けられる取付面31である。取付面31は、回転軸線Kと直交する向きに形成されている。取付面31には、軸方向に所定寸法だけ突出する複数(第1実施形態では2か所)の位置決めピン22が設けられている。
印刷機側の取付面には、当該位置決めピン22を受容するピン挿入孔が形成されている。遊星ローラ式変速機10を印刷機等に取り付けるときには、この位置決めピン22によって位置合わせがされている。
【0013】
また、ハウジング30には、取付面31の側から軸方向に貫通するボルト穴24が複数形成されている。第1実施形態では、4本のボルト穴24が周方向に等配に形成されている。ボルト穴24の取付面31側の開口部には、座ぐり加工がされており、六角穴付きボルト28の頭部が取付面31から突出しないようになっている。
【0014】
ハウジング30には、軸方向の取付面31と反対側に、合わせ面33が形成されている。合わせ面33は、取付面31と平行に形成されており、トラクションドライブユニット14の固定輪44と向き合って組み付けられる。ハウジング30の合わせ面33の側には、軸方向に所定の深さまで円筒形状の凹部32が加工されている。凹部32の内側には、所定のすきまをもってキャリア34(詳細は後述する)が収容されている。
【0015】
深溝玉軸受20は、その外周がハウジング30に締りばめの状態で組み込まれている。深溝玉軸受20のラジアルすきまは20μm以下に設定されている。ラジアルすきまとは、玉と内輪及び外輪との径方向のすきまで、外輪に対して内輪が径方向に変位しうる大きさである。
【0016】
ハウジング30は、後述するトラクションドライブユニット14のキャリア34側に組み付けられており、深溝玉軸受20の内輪を出力軸48に外嵌させて組み付けられている。モータ16は、トラクションドライブユニット14を挟んで、ハウジング30と軸方向の反対側に組み付けられている。
モータ16は、取付フランジ17を備えており、取付フランジ17には4本のねじ穴18が周方向に等配に形成されている。
【0017】
(トラクションドライブユニット14の説明)
図2によって、図1を参照しつつトラクションドライブユニット14について説明する。トラクションドライブユニット14は、固定輪44と、入力軸である太陽軸46と、複数の遊星ローラ40と、キャリア34とで構成される。
【0018】
固定輪44は、リング状で、軸受鋼などの高炭素鋼を焼入れ硬化処理して製作されている。外周及び内周は、互いに同軸に形成された円筒面である。内周は、研削加工によって真円形状に仕上げられている。軸方向の両側には、それぞれ軸に直交する向きで側面45が形成されている。側面45は、互いに平行で、いずれも研削加工によって仕上げられている。
固定輪44には、側面45に垂直で軸方向に貫通する4本のボルト穴26が周方向に等配に形成されている。ボルト穴26は、トラクションドライブユニット14とハウジング30とを組み合わせたときに、ハウジング30のボルト穴24と対応する位置に形成されている。
【0019】
太陽軸46は、中実の円筒形状で、軸受鋼などの高炭素鋼を焼入れ硬化処理して製作されている。外周は、研削加工によって真円形状に仕上げられている。太陽軸46は、遊星ローラ40より軸方向の一方の側(図1では鉛直方向上方である)に突出する位置に組み込まれている。太陽軸46とモータ16の回転シャフトとがカップリング52によって連結されている。
【0020】
遊星ローラ40は、円筒形状で、軸受鋼などの高炭素鋼を焼入れ硬化処理して製作されている。互いに同軸の円筒面である内周面及び外周面を有している。外周面は研削加工によって真円形状に仕上げられている。
トラクションドライブユニット14には、固定輪44の内周と太陽軸46の外周との間に、3個の遊星ローラ40が周方向に等しい間隔で組み込まれている。遊星ローラ40の外周面の直径寸法は、固定輪44の内周と太陽軸46の外周との間の径方向寸法よりわずかに大きい。これにより、遊星ローラ40は、固定輪44及び太陽軸46に対して所定の圧接力を持って接触している。遊星ローラ40と固定輪44及び太陽軸46との接触面には、トラクションオイルが塗布されている。太陽軸46が回転すると、トラクションオイルの剪断力によって遊星ローラ40が公転する。
【0021】
キャリア34は、円板状のキャリアプレート35と、3本の駆動ピン38とで構成されている。
キャリアプレート35は、互いに平行な一対の円形側面36を有しており、アルミニウム合金で製作されている。
各駆動ピン38は、キャリアプレート35の軸方向の一方の側に突出しており、それぞれ円形側面36の中心から径方向に等しい距離だけ離れた位置で、円形側面36に対して垂直で、周方向に互いに等しい間隔で組み込まれている。各駆動ピン38は、中実の円筒形状で、軸受鋼などの高炭素鋼を焼入れ硬化処理して製作されている。外周は、研削加工によって真円に仕上げられている。
出力軸48は、キャリアプレート35の円形側面36の中心に、各駆動ピン38と平行に組み付けられており、軸方向の各駆動ピン38と反対の側に突出している。出力軸48は中実の円筒形状で、ステンレス鋼で製作されている。外周は、研削加工によって真円に仕上げられている。
【0022】
キャリアプレート35に組み付けられた3本の駆動ピン38は、遊星ローラ40の内周にそれぞれ嵌め合わされている。駆動ピン38の外周には、薄肉で円筒形状のスリーブ41が締りばめの状態で嵌め合わされている。スリーブ41は、油を浸み込ませた焼結材で形成されている。遊星ローラ40の内周とスリーブ41の外周は、わずかなすきまをもって嵌め合わされており、遊星ローラ40と駆動ピン38とは互いに回転自在である。なお、スリーブ41は、フッ素樹脂などの滑り摩擦特性に優れた合成樹脂で形成してもよい。
【0023】
こうして、遊星ローラ式変速機10では、鉛直方向下方から順に、ハウジング30、トラクションドライブユニット14、モータ16の各構成部品が、それぞれのボルト穴24,26の位置をモータ16のねじ穴18と合わせて軸方向に組み合わされている。このボルト穴24,26を貫通して、六角穴付きボルト28をモータ16のねじ穴18にねじ込むことによって、ハウジング30とトラクションドライブユニット14がモータ16と一体に組み付けられている。
【0024】
(回転ムラが生じる原因)
次に、出力軸48に回転ムラが生じる原因について、図3を用いて説明する。
図3は、図1のX−Xの位置における断面図であって、遊星ローラ40のピッチ円Aに対して、駆動ピン38のピッチ円Bが径方向に位置ずれしている状態を表している。破線は、位置ずれをしていないときの駆動ピン38の位置を表している。ピッチ円とは、出力軸48の軸と直交する平面上で、駆動ピン38または遊星ローラ40のそれぞれの軸をつないで形成される仮想円をいう。また、ピッチ円Aの中心をピッチ円中心Oaとし、ピッチ円Bの中心をピッチ円中心Obとする。
図3では、駆動ピン38と遊星ローラ40との位置関係を理解しやすくするために、駆動ピン38の外周に嵌め合わされたスリーブ41と遊星ローラ40の内周とのすきまの大きさを誇張して図示している。なお、図3では、スリーブ41の表示を省略している。スリーブ41は駆動ピン38の外周に圧入されており、駆動ピン38と一体として運動する。説明が煩雑になるのを避けるために、以下の説明では、駆動ピン38の外周に嵌め合わせたスリーブ41の外周を、単に駆動ピン38の外周という。
【0025】
図3に破線で示したように、駆動ピン38のピッチ円中心Obが遊星ローラ40のピッチ円中心Oaと同軸に配置されている場合には、例えば、太陽軸46が時計回りの方向(図3に矢印Dで示す向き)に回転するときには、遊星ローラが矢印Dqで示す向きに公転するので、遊星ローラ40と駆動ピン38とがピッチ円A上の点Mで接触する。この場合には、遊星ローラ40が公転する間に、遊星ローラ40の内周と駆動ピン38の外周との接触位置が変化しない。この結果、キャリア34は遊星ローラ40と同一の位相で回転するので、出力軸48は、遊星ローラ式変速機10の固有の減速比Rで減速された回転速度で回転し、回転角度偏差が生じることがない。
【0026】
遊星ローラ式変速機10の固有の減速比Rは、トラクションドライブユニットの各部寸法によって定まる減速比である。
太陽軸46の回転速度をNiとすると、出力軸48の回転速度Noは、式(1)で表されるので、固有の減速比Rは、式(2)で表される。
No=d×Ni/(d+D)・・・式(1)
R=No/Ni=d/(d+D)・・・式(2)
ここで、dは太陽軸46の外径寸法であり、Dは固定輪44の内径寸法である。
【0027】
これに対して、図3に実線で示したように、駆動ピン38のピッチ円中心Obが、遊星ローラ40のピッチ円中心Oaに対して位置ずれしている場合(図3では図の上方に位置ずれしている)には、遊星ローラ40と駆動ピン38は、点Mに対して径方向外方又は径方向内方に偏った位置で接触する。このため、遊星ローラ40の公転角度と駆動ピン38の公転角度との間で差が生じる。公転角度とは、回転軸線K(遊星ローラ40のピッチ円中心Oaと一致する)の周りを公転するときの周方向に移動する角度である。
この接触位置は、遊星ローラ40の公転角度に応じて周期的に変化する。このため、太陽軸46が一定の回転速度で回転し、遊星ローラが一定の速度で公転した場合であっても、駆動ピンの公転速度が変動することになる。この結果、出力軸48の回転角度θoは、太陽軸46の回転角度θiと減速比Rとで定まる回転角度θr(θr=θi/R)に対して、増減することになる。こうして出力軸48に回転ムラが生じている。
【0028】
以上説明したように、遊星ローラ40のピッチ円Aに対して、駆動ピン38のピッチ円Bが径方向に位置ずれしているときには、遊星ローラ40が一定速度で公転したとしても、出力軸48には回転速度に変動が生じてしまう。この結果、例えば印刷機では印刷用紙の位置がずれて印刷品質が低下してしまう。
【0029】
出力軸48の回転速度変動S1を図4に示している。図4は、縦軸を出力軸48の回転速度、横軸を時間で示している。なお、図4は、出力軸48における回転速度変動の状態を概念的に説明するための図であって、回転速度変動の周波数や振幅は、実際の回転速度変動の状態を正確に表すものではない。
発明者による実験では、出力軸48の回転速度変動S1は、キャリア34の回転方向の位相に応じて増減を繰り返していることが分かった。第1実施形態では、遊星ローラ式変速機10は遊星ローラ40を3個備えているので、出力軸48が1回転する間に、3回の変動を生じている。また、モータ16の回転シャフトでは、回転速度が数100Hz以上の高周波数で変動している。
このため、遊星ローラ式変速機10の出力軸48の回転速度変動S1は、キャリア34の位置と遊星ローラ40の位置とがずれることによって出力軸が一回転する間に3回の変動をする回転速度変動S2と、モータ16自体の高周波数の回転速度変動S3とが重なった波形となっている。図4では、回転速度変動S1を細い実線で、回転速度変動S2を太い実線で、回転速度変動S3を破線で示している。
【0030】
以上説明したように、出力軸48の回転速度変動S1を低減するためには、駆動ピン38のピッチ円中心Obと遊星ローラ40のピッチ円中心Oaとが出来る限り同軸となるように配置されなければならない。
【0031】
(組立装置50の説明)
次に、同じく図1図2によって組立装置50について説明する。
組立装置50は、遊星ローラ式変速機10を固定するアタッチメントフランジ57と、トラクションドライブユニット14のキャリア34の位置を調整する調整装置55と、出力軸48の回転速度変動を計測する計測装置63とを備えている。
【0032】
調整装置55は、それぞれ取付台56によってアタッチメントフランジ57に固定されており、図2に示したように、互いに直交する向きで、それぞれ一対の調整装置55が回転軸線Kを挟んで径方向に向き合って配置されている。
【0033】
遊星ローラ式変速機10は、アタッチメントフランジ57の調整装置55と同じ側の面に載置されている。アタッチメントフランジ57には、ハウジング30の位置決めピン22に対応する位置に、軸方向に貫通するピン穴58が設けられている。遊星ローラ式変速機10は、位置決めピン22をアタッチメントフランジ57のピン穴58に挿入して取り付けられている。ピン穴58と位置決めピン22とは、互いに極めて小さいすきまで嵌め合わされているので、ハウジング30とアタッチメントフランジ57は互いに位置ずれすることなく一体に組み合わされている。
調整装置55には、遊星ローラ式変速機10の側にスピンドル59が突出しており、スピンドル59の先端は固定輪44の外周と、径方向に当接している。調整装置55は、ねじのピッチが0.5mm程度の精密ねじや差動ねじなどで形成された微細送り機構を有している。軸端の調整ダイアル60を回転させることによって、スピンドル59が軸方向に精密に伸縮する。これによって、固定輪44を径方向に変位させることが出来る。4個の調整装置55を適宜操作することによって、固定輪44に対するハウジング30の径方向の位置を、任意に調整することが出来る。
【0034】
計測装置63は、ロータリーエンコーダ64、F/Vコンバータ65、及びオシロスコープ66を備えている。
ロータリーエンコーダ64は、アタッチメントフランジ57を挟んで遊星ローラ式変速機10の反対側に、回転軸線Kと同軸に配置され、カップリング53によって出力軸48と連結されている。ロータリーエンコーダ64は、所定の角度回転するごとに電気的なパルス信号を発信する。このパルス信号は、F/Vコンバータ65に送信されている。F/Vコンバータ65は周波数/電圧変換器であって、ロータリーエンコーダ64からパルス信号が入力されると、そのパルス信号の1周期ごとに周波数が計測され、計測した周波数に応じた電気信号が出力される。この周波数の変化を逐次計測することによって、出力軸48の回転速度の変動を計測することが出来る。
【0035】
先に述べたように、出力軸48が1回転する間に、回転速度は3回の周期的な変動を繰り返している。発明者が行った実験では、回転速度の変動を計測するためには、その変動の一周期について少なくとも4つのパルス信号のデータが必要であることが確認された。すなわち、4パルスより小さいパルス数では、回転速度の変動を検出することが出来なかった。このため、ロータリーエンコーダ64が発信するパルス数は、ロータリーエンコーダ64の一回転あたり、遊星ローラ式変速機10に組み込まれている遊星ローラ40の個数の4倍以上必要である。そこで、第1実施形態では、ロータリーエンコーダ64が発信するパルス数は、ロータリーエンコーダ64の一回転あたり12パルス(4パルス×3周期=12パルス、以下「必要最小パルス数」という)以上に設定している。
なお、ロータリーエンコーダ64が発信するパルス信号の数の上限は、モータ16の回転速度変動の影響を避けるため、一回転あたり遊星ローラ40の個数の30倍以下、さらに好ましくは必要最小パルス数の2倍(第1実施形態では12パルス×2=24パルス)以内に設定するのがよい。
【0036】
F/Vコンバータ65が出力する電気信号は、オシロスコープ66などの表示装置を用いて表示させることが出来る。これによって、出力軸48の回転速度変動S1を連続的に計測することが出来る。
モータ16に起因する回転速度変動S3が大きいときには、F/Vコンバータ65の出力を、ローパスフィルター67を通してオシロスコープ66に送信することが出来る。このときは、ローパスフィルター67の遮断周波数を遊星ローラ40の個数の30倍以下とすればよく、ロータリーエンコーダ64が一回転あたりで発信するパルス信号の数は上記(一回転あたり遊星ローラ40の個数の30倍以下)に限定されない。これによって、モータ16の回転速度変動S3に起因する高周波数の信号成分を取り除いて、キャリア34の位置と遊星ローラ40の位置とがずれることによる回転速度変動S2のみを計測することが出来る。
【0037】
(組立工程)
遊星ローラ式変速機10の組立工程について説明する。
図1に示すように、アタッチメントフランジ57の上に、遊星ローラ式変速機10を載置する。この組立工程では、六角穴付きボルト28が緩んだ状態で組み付けられている。このため、調整装置55を操作することによって、固定輪44を径方向に自在に変位させることが出来る。これによって、キャリア34の位置と遊星ローラ40の位置とが一致するように調整することが出来る。
組立時には、モータ16を鉛直方向上方に配置することによって、固定輪44とハウジング30との間に摩擦力が作用する。第1実施形態では、調整装置55のスピンドル59が機械的に伸縮して摩擦力より大きい力で固定輪44を押すので、固定輪44を任意の位置に確実に変位させることが出来る。
【0038】
モータ16が回転し、遊星ローラ式変速機10の出力軸48が回転すると、ロータリーエンコーダ64からパルス信号が発信され、出力軸48の回転速度変動S1が連続的にオシロスコープ66に表示される。
表示された回転速度変動S1の大きさを確認しながら、X方向及びY方向(図2参照)の調整装置55を交互に操作して、回転速度変動S1が減少する方向に固定輪44を変位させる。回転速度変動S1が最も小さくなる位置で六角穴付きボルト28を締結する。こうして、キャリア34の位置と遊星ローラ40の位置とを正確に組み合わせた状態で、ハウジング30と固定輪44とを固定することが出来る。なお、アタッチメントフランジ57には、六角穴付きボルト28に対応する位置に軸方向に貫通する工具穴54が設けられている。工具穴54の大きさは、締め付け工具が挿入出来る大きさである。締め付け工具を工具穴54から挿入して六角穴付きボルト28を締結することが出来る。
【0039】
こうして、第1実施形態の組立方法によると、出力軸48の回転ムラが極めて小さい遊星ローラ式変速機10を組み立てることが出来る。
【0040】
(第2実施形態)
次に、遊星ローラ式変速機10の組立方法の第2実施形態について説明する。第2実施形態の組立装置80では、第1実施形態と比較して、計測装置83の構成が異なっている。図5は、第2実施形態における組立装置80の構成図である。
第2実施形態において、組立装置80に遊星ローラ式変速機10を載置する手順、及び、オシロスコープ66に表示された出力軸48の回転角度変動D1の大きさを確認しながら調整装置55を操作して、回転角度変動D1が最も小さくなる位置でハウジング30と固定輪44とを固定する手順については、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0041】
第2実施形態では、計測装置83は、ロータリーエンコーダ64、F/Vコンバータ65、積分回路81、及びオシロスコープ66を備えている。
ロータリーエンコーダ64は、第1実施形態と同様に、回転軸線Kと同軸に配置され、出力軸48と連結されている。ロータリーエンコーダ64から発信されたパルス信号は、F/Vコンバータ65に送信されている。
【0042】
第2実施形態の組立装置80では、F/Vコンバータ65から出力される回転速度変動S1の信号を積分回路81で演算した後、オシロスコープ66で表示させている。このため、オシロスコープ66では、出力軸48の回転速度変動S1ではなく、回転角度変動D1が表示される。以下に、その計測方法を説明する。
【0043】
図6は、F/Vコンバータ65から出力される出力軸48の回転速度変動S1の波形の一部を拡大した図である。図6は、縦軸を出力軸48の回転速度、横軸を時間で示している。第2実施形態においても第1実施形態と同様に、キャリア34の位置と遊星ローラ40の位置とがずれることによって、出力軸48が一回転する間に3周期の回転速度変動S2が生じている。また、モータ16自体の回転速度変動S3が生じている。図6では、3周期の回転速度変動S2のうち一周期分について、出力軸48の回転速度変動S1を模式的に示している。
また、図6では、出力軸48の回転速度変動S1を実線で、キャリア34の位置と遊星ローラ40の位置とがずれることによる回転速度変動S2を破線で示している。なお、モータ16自体の回転速度変動S3については図示を省略する。
【0044】
第2実施形態では、F/Vコンバータ65で、出力軸48の基準回転速度S0(図6参照)を求めている。
ロータリーエンコーダ64は、回転に伴うパルス信号とともに、一回転毎に回転方向の基準位置を表す基準パルス信号を発信している。F/Vコンバータ65では、この基準パルス信号によって、出力軸48の基準回転速度S0を求めている。基準回転速度S0は、出力軸48のマクロ的な回転速度と一致する。
F/Vコンバータ65では、出力軸48の回転速度変動S1と基準回転速度S0との偏差δsを積分回路81に出力している。図6では、偏差δsの領域にハッチングを付して示している。
【0045】
積分回路81では、偏差δsを積分している。得られた積分値は、出力軸48が時間tだけ回転したときの基準回転角度D0に対する進み遅れの角度を表している。基準回転角度D0とは、出力軸48が回転速度変動を生じることなく一定の基準回転速度S0で時間tだけ回転したと仮定したときの回転角度である。
図6から理解できるように、回転速度変動S1の波形のうち、回転速度変動S2より大きい領域Aと、領域Aに隣接し回転速度変動S2より小さい領域Bとは、面積が同等である。したがって、偏差δsを時間で積分することによって、回転速度変動S1の波形と同様の傾向で増減する回転角度変動D1のデータを求めることが出来る。
また、積分回路81で積分されることによって、回転速度変動S1の波形では、モータ16に起因する高周波成分の振幅のみが大幅に減少する。このため、積分回路81から出力される回転角度変動D1の波形は、高周波成分が除去されて、回転速度変動S2と近似した波形となる。
この回転角度変動D1の信号がオシロスコープ66に送信されている。
【0046】
以上の説明で理解できるように、F/Vコンバータ65から出力される偏差δsの信号に高周波数の回転速度変動S3の信号が含まれている場合であっても、積分回路81を備えることによって、回転速度変動S3の信号成分を除去した信号を得ることが出来る。このため、第1実施形態と異なり、ロータリーエンコーダ64が一回転あたりで発信するパルスの数は、遊星ローラ40の個数の30倍以下に限定されない。
【0047】
なお、基準回転速度S0に対して回転速度変動S2の変動幅が極めて小さい。このため、出力軸48の回転速度変動S1を直接積分したときには、出力軸48が基準回転速度S0で回転したときのマクロ的な回転角度が計測されるだけで、回転角度変動D2を検出することが出来ない。第2実施形態では、基準回転速度S0に対する偏差δsを積分することによって、微小な回転角度変動D2を検出することが出来る。
【0048】
こうして第2実施形態では、第1実施形態に比べて、出力軸48の回転ムラをさらに明確に計測することが出来る。
例えば、基準回転速度S0に対する回転速度変動S1の偏差δsが大きい時であっても、偏差δsを生じている時間が短いときには、基準回転角度に対する出力軸48の回転角度のずれは小さい。逆に、偏差δsが小さい時であっても、偏差δsを生じている時間が長いときには基準回転角度に対する出力軸48の回転角度のずれが大きくなる。
複写機では、基準回転角度に対する出力軸48の回転角度のずれによって印刷の品質が左右される。したがって、基準回転角度に対する回転角度のずれを管理することによって、複写機などの品質をさらに向上させることが出来る。
【0049】
こうして、第2実施形態では、出力軸48の回転角度の変動を連続的にオシロスコープ66に表示させることが出来る。そして、第1実施形態と同様にして、表示された回転角度変動D1の大きさを確認しながら、調整装置55を操作して、回転角度変動D1が最も小さくなる位置で六角穴付きボルト28を締結することが出来る。これにより、キャリア34の位置と遊星ローラ40の位置とを正確に組み合わせた状態で、遊星ローラ式変速機10を組み立てることが出来るので、複写機などで要求される出力軸48の位置ずれを極めて小さくした遊星ローラ式変速機10を組み立てることが出来る。
【符号の説明】
【0050】
(第1実施形態)10:遊星ローラ式変速機、14:トラクションドライブユニット、16:モータ、20:深溝玉軸受、30:ハウジング、34:キャリア、38:駆動ピン、40:遊星ローラ、41:スリーブ、44:固定輪、46:太陽軸、48:出力軸、50:組立装置、55:調整装置、57:アタッチメントフランジ、59:スピンドル、60:調整ダイアル、63:計測装置、64:ロータリーエンコーダ、65:F/Vコンバータ、66:オシロスコープ、
(第2実施形態)80:組立装置、81:積分回路、83:計測装置、
(従来技術)100:遊星ローラ式変速機、101:固定輪、102:太陽軸、103:遊星ローラ、105:モータ、107:キャリア、108:出力軸、110:ハウジング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7