(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明にかかる遊星ローラ式変速機10の組立方法の一実施形態(以下、「本実施形態」という)を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態で使用する組立装置50の概略構成を示す説明図であり、遊星ローラ式変速機10を組み立てている状態を示している。本実施形態の組立装置50では、遊星ローラ式変速機10は、回転軸線Kを鉛直方向に配置している。以下の説明では、回転軸線Kの方向を軸方向といい、これに直交する方向を径方向という。
【0014】
(遊星ローラ式変速機)
図1に示すように、遊星ローラ式変速機10は、ハウジング30と、トラクションドライブユニット14と、モータ16とで構成されており、トラクションドライブユニット14を軸方向に挟んで、ハウジング30とモータ16が略同軸に組み付けられている。遊星ローラ式変速機10の出力軸48は、回転軸線Kを中心として回転する。
【0015】
まず、
図2を参照しつつ、トラクションドライブユニット14について説明する。
図2は、
図1のX−Xの位置における径方向の断面図である。
トラクションドライブユニット14は、固定輪44と、入力軸である太陽軸46と、複数の遊星ローラ40と、キャリア34とで構成される。
【0016】
固定輪44は、リング状で、軸受鋼などの高炭素鋼を焼入れ硬化処理して製作されている。外周及び内周は、互いに同軸に形成された円筒面である。内周は、研削加工によって真円形状に仕上げられている。軸方向の両側には、それぞれ軸に直交する向きで側面45,45が形成されている。側面45,45は、互いに平行で、いずれも研削加工によって仕上げられている。
固定輪44には、側面45に垂直で軸方向に貫通する4本のボルト穴26が周方向に等配に形成されている。ボルト穴26は、トラクションドライブユニット14とハウジング30とを組み合わせたときに、ハウジング30のボルト穴24と対応する位置に形成されている。
【0017】
太陽軸46は、中実の円筒形状で、軸受鋼などの高炭素鋼を焼入れ硬化処理して製作されている。外周は、研削加工によって真円形状に仕上げられている。太陽軸46は、遊星ローラ40より軸方向の一方の側(
図1では鉛直方向上方である)に突出する位置に組み込まれている。太陽軸46とモータ16の回転シャフトとがカップリング52によって連結されている。
【0018】
遊星ローラ40は、円筒形状で、軸受鋼などの高炭素鋼を焼入れ硬化処理して製作されている。互いに同軸の円筒面である内周面及び外周面を有している。外周面は研削加工によって真円形状に仕上げられている。
トラクションドライブユニット14には、固定輪44の内周と太陽軸46の外周との間に、3個の遊星ローラ40が周方向に等しい間隔で組み込まれている。各遊星ローラ40は、太陽軸46の外周及び固定輪44の内周と転がり接触している。遊星ローラ40の外周面の直径寸法は、固定輪44の内周と太陽軸46の外周との間の径方向寸法よりわずかに大きい。これにより、遊星ローラ40は、固定輪44及び太陽軸46に対して所定の圧接力を持って接触している。遊星ローラ40と固定輪44及び太陽軸46との接触面には、トラクションオイルが塗布されている。太陽軸46が回転すると、トラクションオイルの剪断力によって遊星ローラ40が公転する。
【0019】
キャリア34は、円板状のキャリアプレート35と、3本の駆動ピン38とで構成されている。
キャリアプレート35は、互いに平行な一対の円形側面36を有しており、アルミニウム合金鋼で製作されている。
各駆動ピン38は、キャリアプレート35の軸方向の一方の側に突出しており、それぞれ円形側面36の中心から径方向に等しい距離だけ離れた位置で、円形側面36に対して垂直で、周方向に互いに等しい間隔で組み込まれている。各駆動ピン38は、中実の円筒形状で、軸受鋼などの高炭素鋼を焼入れ硬化処理して製作されている。外周は、研削加工によって真円に仕上げられている。
【0020】
出力軸48は、キャリアプレート35の円形側面36の中心に、各駆動ピン38と平行に組み付けられており、軸方向の各駆動ピン38と反対の側に突出している。出力軸48は中実の円筒形状で、ステンレス鋼で製作されている。外周は、研削加工によって真円に仕上げられている。
【0021】
キャリアプレート35に組み付けられた3本の駆動ピン38は、遊星ローラ40の内周にそれぞれ嵌め合わされている。駆動ピン38の外周には、薄肉で円筒形状のスリーブ41が締りばめの状態で嵌め合わされている。スリーブ41は、油を浸み込ませた焼結材で形成されている。遊星ローラ40の内周とスリーブ41の外周は、わずかなすきまをもって嵌め合わされており、遊星ローラ40と駆動ピン38とは互いに回転自在である。こうして、キャリア34は遊星ローラ40と係合して、遊星ローラ40の公転運動に伴って回転軸線Kの周りを回転する。
図2では、駆動ピン38と遊星ローラ40との位置関係を理解しやすくするために、駆動ピン38の外周に嵌め合わされたスリーブ41と遊星ローラ40の内周とのすきまの大きさを誇張して図示している。なお、スリーブ41は、フッ素樹脂などの滑り摩擦特性に優れた合成樹脂で形成してもよい。
【0022】
ハウジング30は、トラクションドライブユニット14のキャリア34側に組み付けられている。
ハウジング30は、アルミ合金鋼を切削加工することによって製作されており、内周に転がり軸受である深溝玉軸受20が締りばめの状態で組み付けられており、出力軸48を回転支持している。
取付面31は、回転軸線Kと直交する向きに形成されている。取付面31には、軸方向に所定寸法だけ突出する複数(本実施形態では2か所)の位置決めピン22が設けられている。ハウジング30には、軸方向の取付面31の反対側に、キャリア34を収容する凹部32が形成されている。
ハウジング30には、取付面31の側から軸方向に貫通するボルト穴24が複数形成されている。本実施形態では、4本のボルト穴24が周方向に等配に形成されている。ボルト穴24の取付面31側の開口部には、座ぐり加工がされており、六角穴付きボルト28の頭部が取付面31から突出しないようになっている。
【0023】
図4によって、深溝玉軸受20について詳細に説明する。
図4は、
図1において深溝玉軸受20が組み付けられている部分の要部拡大図である。
深溝玉軸受20は、外輪71と内輪76と転動体である複数の玉69とで形成されている。外輪71の内周側には、軸方向の断面形状が円弧状の外側軌道面72が形成されている。内輪76の外周側には、軸方向の断面形状が円弧状の内側軌道面77が形成されている。複数の玉69は、各軌道面72,77を転動する。外輪71の端面71aと内輪76の端面76aとを面一に配置した時には、外側軌道面72の軌道底Po(内径寸法が最大となる点である)と、内側軌道面77の軌道底Pi(外径寸法が最小となる点である)とは、互いに径方向に対向する位置に組み合わされている。
【0024】
深溝玉軸受20は、所定の大きさのラジアルすきまRsを有している。ラジアルすきまRsとは、外輪71に対して内輪76が径方向に変位しうる大きさであり、式(1)で定義される。
Rs=(Do―Di)―2×Db ・・・式(1)
ここで、Doは、外側軌道面72の軌道底Poにおける内径寸法であり、Diは、内側軌道面77の軌道底Piにおける外径寸法であり、Dbは玉69の直径である。ラジアルすきまRsの大きさの詳細については後述する。
【0025】
出力軸48は、深溝玉軸受20の内周に締りばめの状態で組み付けられている。出力軸48は、深溝玉軸受20から軸方向に突出しており、その突出した出力軸48に、位置決め部材79が組み付けられている。位置決め部材79は出力軸48に締りばめの状態で組み付けられている。位置決め部材79と深溝玉軸受20との間にはスペーサ86が挿入されている。
図3は、
図1のY−Yの位置で矢印の向きに軸方向に見た模式図である。
図3に示したように、スペーサ86は、略長方形の帯状であって、長手方向の一端にU字状の切込みが形成されている。切込みの幅方向両側に、帯状部88から二股になって延在する足87,87が形成されている。二股の足87,87が出力軸48を跨ぐように挿入されていて、切込みの最も奥側に出力軸48が位置するように組み付けられている。スペーサ86は、シム材などの薄肉のステンレス鋼板やポリアミド樹脂などの合成樹脂で製作されている。スペーサ86の厚さは、深溝玉軸受20のアキシャル方向すきまAsより大きい。アキシャルすきまAsとは、外輪71に対して内輪76が軸方向に変位しうる大きさである。
スペーサ86を上記の位置に保持した状態で、出力軸48の軸端から位置決め部材79が組み付けられており、足87,87が位置決め部材79と内輪76の端面76aとの間で挟持されている。
【0026】
モータ16は、トラクションドライブユニット14を挟んで、ハウジング30と軸方向の反対側に組み付けられている。モータ16は、取付フランジ17を備えており、取付フランジ17には4本のねじ穴18が周方向に等配に形成されている。
【0027】
こうして、遊星ローラ式変速機10では、
図1の下方から上方に向けて、順に、ハウジング30、トラクションドライブユニット14、モータ16が、それぞれのボルト穴24,26の位置をモータ16のねじ穴18と合わせて軸方向に組み合わされている。このボルト穴24,26を貫通して、六角穴付きボルト28をモータ16のねじ穴18にねじ込むことによって、ハウジング30、トラクションドライブユニット14、モータ16が、一体に固定されて、遊星ローラ式変速機10が組み立てられている。こうして、深溝玉軸受20は、ハウジング30を介してトラクションドライブユニット14の固定輪44に固定されて、出力軸48を回転自在に支持している。
【0028】
(回転ムラが生じる原因)
次に、出力軸48に回転ムラが生じる原因について、
図2を用いて説明する。
図2では、遊星ローラ40に対して、駆動ピン38が径方向に位置ずれしている状態を破線で示している。なお、以下の説明では、出力軸48の軸と直交する平面上で、駆動ピン38又は遊星ローラ40のそれぞれの軸をつないで形成される仮想円をピッチ円という。位置ずれがない場合の駆動ピン38のピッチ円をピッチ円Aとし、位置ずれが生じたときのピッチ円をピッチ円Bとする。また、ピッチ円Aの中心をピッチ円中心Oaとし、ピッチ円Bの中心をピッチ円中心Obとする。
スリーブ41は駆動ピン38の外周に圧入されており、駆動ピン38と一体として運動する。説明が煩雑になるのを避けるために、以下の説明では、駆動ピン38の外周に嵌め合わせたスリーブ41の外周を、単に駆動ピン38の外周という。
【0029】
図2に実線で示したように、駆動ピン38のピッチ円中心Obが遊星ローラ40のピッチ円中心Oaと同軸に配置されている場合には、例えば、太陽軸46が時計回りの方向(
図2に矢印Dで示す向き)に回転するときには、遊星ローラ40が矢印Dqで示す向きに公転するので、遊星ローラ40と駆動ピン38とがピッチ円A上の点Mで接触する。この場合には、遊星ローラ40が公転する間に、遊星ローラ40の内周と駆動ピン38の外周との接触位置が変化しない。この結果、キャリア34は遊星ローラ40と同一の位相で回転するので、出力軸48の回転角度は、太陽軸46の回転が固有の減速比Rで減速されたときの回転角度に対して偏差を生じることがない。
【0030】
遊星ローラ式変速機10の固有の減速比Rは、トラクションドライブユニット14の各部寸法によって定まる減速比である。
太陽軸46の回転速度をNiとすると、出力軸48の回転速度Noは、式(2)で表されるので、固有の減速比Rは、式(3)で表される。
No=d×Ni/(d+D)・・・式(2)
R=No/Ni=d/(d+D)・・・式(3)
ここで、dは太陽軸46の外径寸法であり、Dは固定輪44の内径寸法である。
【0031】
これに対して、
図2に破線で示したように、駆動ピン38のピッチ円中心Obが、遊星ローラ40のピッチ円中心Oaに対して位置ずれしている場合(
図2では上方に位置ずれしている)には、遊星ローラ40と駆動ピン38は、点Mに対して径方向外方又は径方向内方に偏った位置で接触する。この接触位置は、遊星ローラ40の回転軸線Kの周りの位置に応じて変化する。このため、遊星ローラ40の公転角度と駆動ピン38の公転角度との間で差が生じる。公転角度とは、回転軸線K(遊星ローラ40のピッチ円中心Oaと一致する)を中心として、周方向に移動する角度である。
このため、太陽軸46が一定の回転速度で回転し、遊星ローラ40が一定の速度で公転した場合であっても、キャリア34の回転速度が周期的に増減する。こうして出力軸48に回転ムラが生じている。
【0032】
以上説明したように、遊星ローラ40のピッチ円Aに対して、駆動ピン38のピッチ円Bが径方向に位置ずれしているときには、遊星ローラ40が一定速度で公転したとしても、出力軸48には回転速度に変動が生じてしまう。この結果、例えば印刷機等では印刷用紙の位置がずれて印刷品質が低下してしまう。
【0033】
(組立方法)
図1によって遊星ローラ式変速機10の組立方法について説明する。
組立方法は、出力軸48の回転ムラを計測する計測工程と、計測工程で計測した回転ムラの測定結果を用いて、キャリア34の位置を調整しながら遊星ローラ式変速機10を組み立てる組立工程とを備えている。
【0034】
組立工程では、出力軸48の回転ムラを計測しながら、遊星ローラ式変速機10を組み立てている。
【0035】
組立装置50は、遊星ローラ式変速機10を固定する支持台57と、キャリア34の位置を調整する調整装置55とを備えている。遊星ローラ式変速機10は、支持台57に載置されている。支持台57を挟んで遊星ローラ式変速機10の反対側に、ロータリーエンコーダ64が同軸に配置されており、カップリング53によって出力軸48と連結されている。
【0036】
図4を参照して、組立工程における深溝玉軸受20の組み付け方法を説明する。
組立工程では、ロータリーエンコーダ64と出力軸48とを連結した後、ロータリーエンコーダ64を出力軸48から離れる向きに軸方向に変位させている。これによって、出力軸48を図の下方に向けて付勢している。カップリング53は、可撓性を有する金属製の板を介して連結された構成である。金属製の板が弾性をもって回転軸線Kの方向に撓みうるので、その弾性によって、深溝玉軸受20の内輪76には、
図4に矢印で示した向きに力Fが作用している。
【0037】
深溝玉軸受20は、ラジアルすきまRsを有している。このため、力Fによって内輪76が外輪71に対して軸方向に変位して、スペーサ86と外輪71の端面71aとの間にすきまGが生じる。このとき、深溝玉軸受20では、玉69と外側軌道面72、及び、玉69と内側軌道面77とが互いに軌道中心から軸方向に偏った点P1及び点P2で接触している。すきまGの大きさは、概ねアキシャルすきまAsの1/2である。
こうして、玉69を介して内輪76が外輪71に対して押し付けられていて、深溝玉軸受20では、実質的にラジアルすきまRsがゼロになった状態で、内輪76と外輪71とが組み合わされている。
【0038】
組立装置50では、調整装置55が固定輪44の周囲に4個設置されていて、キャリア34と遊星ローラ40の位置を調整することが出来る。調整装置55の配置について図示を省略するが、2個の調整装置55が一組となって回転軸線Kを挟んで径方向に向き合って配置され、二組の調整装置55が、互いに直交する向きで設置されている。各調整装置55は、それぞれ取付台56によって支持台57に固定されている。
【0039】
調整装置55では、遊星ローラ式変速機10の側にスピンドル59が突出しており、スピンドル59の先端は固定輪44の外周と径方向に当接している。調整装置55は、ねじのピッチが0.5mm程度の精密ねじや差動ねじなどで形成された微細送り機構を有している。軸端の調整ダイアル60を回転させることによって、スピンドル59が軸方向に精密に伸縮する。この工程では、六角穴付きボルト28が緩んだ状態で組み付けられているので、固定輪44を径方向の任意の位置に変位させることが出来る。こうして4個の調整装置55を適宜操作することによって、遊星ローラ40の径方向の位置を調整することが出来る。
【0040】
支持台57には、ハウジング30の位置決めピン22に対応する位置に、軸方向に貫通するピン挿入孔58が設けられている。遊星ローラ式変速機10は、位置決めピン22を支持台57のピン挿入孔58に挿入して取り付けられている。ピン挿入孔58と位置決めピン22とは、互いに極めて小さいすきまで嵌め合わされているので、ハウジング30と支持台57は互いに位置ずれすることがない。
本実施形態では、出力軸48に力Fを負荷することによって深溝玉軸受20のラジアルすきまRsが実質的にゼロになっている。このため、キャリア34は、深溝玉軸受20を介してハウジング30で支持されているので、支持台57に対してその位置が固定されている。
【0041】
こうして、調整装置55を操作して固定輪44を径方向に変位させることによって、キャリア34の位置と遊星ローラ40の位置とが一致するように調整することが出来る。
【0042】
計測工程では、計測装置63を用いて出力軸48の回転ムラを計測している。
計測装置63は、ロータリーエンコーダ64、F/Vコンバータ65、及びオシロスコープ66を備えている。
ロータリーエンコーダ64から発信される電気的なパルス信号の周期を、F/Vコンバータ65で周波数に応じた電気信号に変換して、出力軸48の回転ムラが計測されている。F/Vコンバータ65が出力する電気信号は、オシロスコープ66などの表示装置を用いて表示させることが出来る。
【0043】
本実施形態では、このオシロスコープ66の表示を確認しながら深溝玉軸受20の径方向の位置を順次変えて出力軸48の回転ムラを計測し、回転ムラが最も小さくなる位置で遊星ローラ式変速機10を組み立てている。
支持台57には、六角穴付きボルト28に対応する位置に軸方向に貫通する工具穴54が設けられている。工具穴54の大きさは、締め付け工具が挿入出来る大きさである。回転ムラが最小になる状態で、六角穴付きボルト28を締結して、遊星ローラ式変速機10を組み立てることが出来る。
こうして、キャリア34の位置と遊星ローラ40の位置とを正確に一致させて、出力軸48の回転ムラを小さくした遊星ローラ式変速機10を組み立てることが出来る。
【0044】
なお、本実施形態では、出力軸48に軸方向の力Fを負荷することによって深溝玉軸受20のラジアルすきまRsを実質的にゼロにしている。しかし、遊星ローラ式変速機10を、その回転軸線Kを鉛直方向に向けて設置したときには、出力軸48にはカップリング53やキャリア34の重量が作用するので、出力軸48が自重で鉛直方向下方に変位する。出力軸48の重量が十分に大きい時には、出力軸48を軸方向に付勢する付勢装置を設けなくてもよい。
【0045】
(印刷機等への取付方法)
次に、
図5によって、上記の組立方法で組み立てられた遊星ローラ式変速機10を、被駆動装置である印刷機等80に取り付ける取付方法を説明する。
図5は、本実施形態の組立方法で組み立てた遊星ローラ式変速機10が、印刷機等80に取り付けられた状態を示す軸方向断面図である。
【0046】
印刷機等80の取付面82には、位置決めピン22を受容するピン挿入孔84が形成されていて、遊星ローラ式変速機10を取り付ける場合には、ハウジング30に設けた位置決めピン22をピン挿入孔84に嵌め合わせて取り付けている。ピン挿入孔84の内径寸法は、遊星ローラ式変速機10を容易に脱着出来るようにするため、位置決めピン22の外径寸法より20μm程度大きく設定されている。
図5では、ピン挿入孔84と位置決めピン22とのすきまの大きさを誇張して図示している。
【0047】
位置決めピン22とピン挿入孔84とのすきまの大きさCは、式(4)で表される寸法である。
C=(Dp1−Dp2)/2・・・式(4)
ここで、Dp1は、ピン挿入孔84の内径寸法であり、Dp2は、位置決めピン22の外径寸法である。
このように、位置決めピン22とピン挿入孔84との間にすきまがあるために、遊星ローラ式変速機10を取り付けたときに、位置決めピン22が、ピン挿入孔84のなかで径方向の任意の位置に動きうる。このため、印刷機等80に対して、遊星ローラ式変速機10の取付位置が径方向にずれる場合がある。取付位置が径方向にずれた量を取付誤差といい、取付誤差の最大値はCである。
【0048】
本実施形態では、出力軸48を
図5の右方に寄せて、スペーサ86が外輪71の端面71aに当接した状態で、遊星ローラ式変速機10が印刷機等80に取り付けられている。この状態で、遊星ローラ式変速機10の出力軸48と印刷機等80の入力軸81とがカップリング83で連結されて、出力軸48の回転が印刷機等80に伝達されている。
【0049】
スペーサ86は、平板状の位置決め部材79で支持されているので、スペーサ86が外輪71の端面71aに当接したときには、外輪71の端面71aと内輪76の端面76aとが面一となる位置で組み込まれている。外輪71の端面71aと内輪76の端面76aとが面一となる位置とは、
図4において、すきまGがゼロになった状態をいう。
【0050】
本実施形態の取付方法では、この状態でスペーサ86を取り外している。スペーサ86と接する位置決め部材79の側面79aと、内輪76の端面76a及び外輪71の端面71aは、それぞれ径方向に形成された平坦な面であるので、帯状部88を把持して径方向外方に付勢することによって、スペーサ86を容易に引き抜き可能である。
こうしてスペーサ86を除去したときには、外輪71の端面71aと内輪76の端面76aとが面一であるので、深溝玉軸受20では、外側軌道面72の軌道底Poと、内側軌道面77の軌道底Piとが径方向に対向している。このため、内輪76が径方向に最大限変位することが出来る。このとき、外輪71に対する内輪76の変位量は、外輪71と内輪76とが互いに同軸に配置されている位置から径方向の任意の向きで、ラジアルすきまRsの1/2の大きさまで許容される。
【0051】
ピン挿入孔84と位置決めピン22とのすきまによって、遊星ローラ式変速機10が、Co(ただし、Co<Cとする)だけ径方向に位置ずれした状態、すなわち、取付誤差がCoの状態で組み付けられている場合について説明する。
図6は、取付誤差が生じたときのキャリア34の変位を説明する説明図である。実線は、遊星ローラ式変速機10の出力軸48と印刷機等80の入力軸81とが、同軸に配置されている状態を示しており、破線は、これらが互いに径方向にCoだけ位置ずれした状態を示している。以下の説明の便宜上、
図6に示すように、出力軸48の軸端N1と深溝玉軸受20の軸方向中心との軸方向寸法をAとし、深溝玉軸受20の軸方向中心と遊星ローラ40の軸方向中心との軸方向寸法をBとする。
【0052】
出力軸48は、印刷機等80の入力軸81とカップリング83によって同軸に連結されている。このため、出力軸48の軸端N1は、入力軸81とともに径方向にCoだけ変位している。内輪76は出力軸48に固定されているので、出力軸48とともに径方向に変位する。駆動ピン38のピッチ円中心と遊星ローラ40のピッチ円中心とが同軸である場合には、内輪76の径方向の変位量C1は、式(5)で表される。
変位量C1=Co×B/(A+B)・・・式(5)
【0053】
ここで、深溝玉軸受20のラジアルすきまRsが、変位量C1の2倍の大きさより大きい場合には、内輪76が径方向に変位量C1だけ変位したときに、内輪76と外輪71とが玉69を介して径方向に強く接触することがない。したがって、遊星ローラ式変速機10を印刷機等80に組み付けたときに取付誤差によって位置ずれを生じた場合でも、出力軸48の径方向の変位が、深溝玉軸受20によって拘束されることがない。
【0054】
本実施形態では、取付誤差の最大値はCである。したがって、深溝玉軸受20のラジアルすきまRsを、取付誤差がCのときの内輪76の径方向の変位量の2倍の大きさより大きくすることによって、出力軸48が深溝玉軸受20によって径方向に拘束されることを確実に回避することが出来る。
このため、本実施形態では、深溝玉軸受20のラジアルすきまRsは、取付誤差に対して式(6)の関係となる値に設定されている。
Rs>2×C×B/(A+B)・・・式(6)
ただし、
Rs:深溝玉軸受20のラジアルすきま
A:出力軸48の軸端N1と深溝玉軸受20の軸方向中心との軸方向寸法
B:深溝玉軸受20の軸方向中心と遊星ローラ40の軸方向中心との軸方向寸法
C:取付誤差の最大値
【0055】
こうして、出力軸48が深溝玉軸受20に拘束されることなく回転することが出来るので、遊星ローラ式変速機10を印刷機等80に組み付けたときに取付誤差によって位置ずれを生じた場合でも、遊星ローラ40のピッチ円Aと、駆動ピン38のピッチ円Bとを同軸にすることが出来る。したがって、出力軸48の回転ムラが増大することがない。
【0056】
こうして、本発明の組立方法によると、遊星ローラ式変速機10を印刷機等80に組み付けたときに取付誤差によって位置ずれを生じた場合でも、遊星ローラ式変速機10の出力軸48の回転ムラを極めて小さくすることが出来る。
【0057】
本実施形態では、印刷機等80に遊星ローラ式変速機10を取り付けるにあたって、位置決めピン22とピン挿入孔84を嵌め合わせることによって、互いの位置を合わせている。印刷機等80に遊星ローラ式変速機10との位置決めは、他の手段も取りうる。例えば、ハウジング30の取付面31に、回転軸線Kを中心とする円形の凸部を形成し、印刷機等80の取付面82に、この凸部を収容する円形の凹部を形成し、この凸部と凹部とを嵌め合わせることによって位置決めしてもよい。この場合には、凸部の直径寸法と凹部の直径寸法との差の1/2が取付誤差となる。
また、本実施形態では、出力軸48を深溝玉軸受20で支持しているが、これに限定されない。深溝玉軸受のほか、アンギュラ玉軸受、円すいころ軸受などが使用できる。