(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記衝撃吸収部と前記バンパとの間に設けられ、前記衝撃吸収部及び前記バンパと一体に形成された柱状の補強部材をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両前部構造。
【背景技術】
【0002】
近年、車両前部構造を設計する場合に、歩行者の安全性を考慮した改善が図られている。
図6(A)に示すように、バンパ110が上方のラジエータグリル112より前方へ突出し、バンパ110が歩行者100の膝部102の高さに略等しい場合、バンパ110が歩行者100の膝部102に接触した時、膝部102より上方に位置する上肢部106を支持する車体部材がないため、上肢部106が下肢部104に対して膝部102の関節回りに車体後方へ倒れ込むおそれがある。
これによって、膝部102の靭帯の伸び量が過大となり、靭帯が損傷するおそれがある。
図6(A)において、上肢部106の倒れ込み角度をaで示している。また、ラジエータグリル112の車体後方には、車体骨格メンバとしての高剛性のサイドメンバ114が設けられ、バンパ110の車体後方には、車体骨格メンバとしての高剛性のクロスメンバ116が設けられている。
なお、
図6の(A)及び(B)は、
図2中のB−B線に沿う断面図に相当する断面を示す。
【0003】
特許文献1には、上記課題を解消するため、バンパの上方に、ラジエータコアサポート部材から車体前方に突出した補助部材を車幅方向に設けた構成が開示されている。これによって、歩行者の脚部が車両前端部に接触した時、歩行者の上肢部が上記補強部材に当接することで、歩行者の上肢部が膝部の関節回りで車体後方へ倒れ込むことを防止するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された手段では、車体前方へ突出した上記補強部材を車幅方向に延設するので、重量増加と車両前部構造の変更とを伴い、車両前部構造の設計が制約を受けるおそれがある。
【0006】
そこで、これら技術的課題に鑑み、本発明の少なくとも一つの実施形態は、簡易かつ低コストな手段で、歩行者の膝部の損傷を抑制可能な車両前部構造を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る車両前部構造は、車体の前部に車幅方向に設けられるバンパと、前記バンパの上方に設けられるラジエータグリルと、前記ラジエータグリルの車体後方に配置されるグリルサポート部材と、前記ラジエータグリルの車体後方であって前記グリルサポート部材の車幅方向両側に、車体前方から付加される荷重に対して前記ラジエータグリルを支持するように設けられ、前記荷重に対して潰れ量を制御可能な衝撃吸収部と、前記衝撃吸収部の車体後方に設けられ、前記衝撃吸収部に前方から付加される荷重に対して前記衝撃吸収部を支持する車体骨格メンバと、を備える。
【0008】
上記構成(1)によれば、上記ラジエータグリルは車体後方から上記衝撃吸収部で支持されるので、車体前方から付加される荷重に対してその変形量を低減できる。
従って、歩行者の脚部が車両の前端部に接触し、歩行者の上肢部がラジエータグリルに当っても、歩行者の上肢部が膝部の関節回りで車体後方へ倒れ込むのを抑制できる。
これによって、靭帯を含めた膝部の靭帯の伸びを抑え、膝部の損傷を抑制できる。
また、上記衝撃吸収部はラジエータグリルを介して加わった荷重に対してその潰れ作用により衝撃を吸収するため、衝撃吸収部の反力として上肢部に加わる衝撃を緩和できる。また、衝撃吸収部は加わる荷重に対して潰れ量を制御可能な構成を有するため、衝撃吸収部に加わる荷重の大小に係わらず、歩行者の脚部に加わる衝撃を緩和できる。
衝撃吸収部は車体骨格メンバ(例えば、車両前後方向に設けられるサイドフレーム、車幅方向に設けられるクロスメンバ等の高剛性メンバ)で支持されるので、車体前方から過大な荷重が付加されてもその荷重を受け止め、車体後方へ後退しない。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、前記構成(1)において、前記衝撃吸収部は剛性を制御することで前記潰れ量の制御が可能に構成されている。
上記構成(2)によれば、衝撃吸収部は剛性を制御することでその潰れ量を制御できるため、衝撃吸収部に加わる荷重の大小に係わらず、脚部に加わる衝撃を緩和できる。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では、前記構成(2)において、前記衝撃吸収部はボックス形状を有すると共に、内部に補強リブを有し、前記補強リブの数又は形状によって剛性を制御可能である。
上記構成(3)によれば、衝撃吸収部の剛性の制御が衝撃吸収部の内部構造の変更のみで可能になり、剛性の制御が低コストで可能になる。
なお、ここで言う「ボックス形状」とは、外表面の形状として、直方体、正方体、球状等のすべての立体を含むと共に、内部が稠密又は中空の場合を含む。また、中空の場合、内部空間が隔壁で密閉され、又は少なくとも一面が開放される場合を含む。
【0011】
(4)幾つかの実施形態では、前記構成(1)〜(3)の何れかにおいて、前記衝撃吸収部と前記バンパとの間に設けられ、前記衝撃吸収部及び前記バンパと一体に形成された柱状の補強部材をさらに備える。
上記構成(4)によれば、上記補強部材を備えることで、バンパの支持強度を増加でき、バンパの垂れ下がりによる車両前部構造の見栄えの悪化やバンパの下部取付け部の重量増加を抑制できる。
【0012】
(5)幾つかの実施形態では、前記構成(4)において、前記補強部材は前記グリルサポート部材と一体に形成され、前記グリルサポート部材は前記補強部材に近接した位置で前記車体骨格メンバに取り付けられる。
上記構成(5)によれば、グリルサポート部材の強度を増大できるため、ラジエータグリルが車体前方から荷重を受けてもラジエータグリルの車体後方への変形を抑制できる。
これによって、上肢部の車体後方への倒れ込みを抑制でき、歩行者の靭帯の損傷を抑制できる。
また、補強部材をグリルサポート部材と一体に形成し、グリルサポート部材は補強部材に近接した位置で車体骨格メンバに取り付けられるので、補強部材によるバンパの支持強度をさらに増加できる。これによって、バンパの垂れ下がりを防止できる。
【0013】
前記構成(4)又は(5)において、前記補強部材は前記グリルサポート部材に対して離れた側の端部が車体後方へ曲げられたL形断面を有するとよい。
上記構成によれば、簡易かつ低コストな構成で補強部材の強度を増大できる。これによって、バンパの垂れ下がりを有効に防止できる。
【0014】
(6)幾つかの実施形態では、前記構成(1)〜(5)の何れかにおいて、前記衝撃吸収部は歩行者の上肢部に対応する高さに配置されると共に、車体前方に向いた平坦な受け面を有する。
上記構成(6)によれば、歩行者の上肢部がラジエータグリルに当っても、ラジエータグリルは上記衝撃吸収部で支持され、車体後方への変形が抑制されるので、歩行者の上肢部が膝部の関節回りで車体後方へ倒れ込むのを抑制できる。これによって、膝部の損傷を抑制できる。
また、衝撃吸収部の前端面が平坦な面を有するので、衝撃吸収部でラジエータグリルを安定して支持できる。これによって、歩行者の上肢部の車体後方への倒れ込みをラジエータグリルで確実に受け止めることができるので、靭帯を含め膝部の損傷を最小限に抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、簡易かつ低コストな手段で、歩行者の上肢部が膝部の関節回りで車体後方へ倒れ込むのを抑制でき、これによって、膝部にある靭帯の損傷を抑制できる。また、歩行者の脚部への衝撃を緩和して脚部の損傷を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、これらの実施形態に記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状及びその相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一つの構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0018】
本発明の幾つかの実施形態に係る車両前部構造10は、
図1〜
図3に示すように、車体の前部に設けられるバンパ12と、車両の前部においてバンパ12の上方に設けられるラジエータグリル14と、ラジエータグリル14の車体後方に配置されるグリルサポート部材16とを備える。なお、
図1はラジエータグリル14の図示を省略した図である。
ラジエータグリル14の車体後方であってグリルサポート部材16の車幅方向両側に衝撃吸収部18が設けられる。衝撃吸収部18は車体前方から付加される荷重Fに対してラジエータグリル14を支持する。衝撃吸収部18は車体前方から付加される荷重Fによって変形可能に剛性が制御され、その潰れ量を制御可能に構成されている。
【0019】
図3に示すように、衝撃吸収部18の車体後方に高剛性の車体骨格メンバ30が設けられる。衝撃吸収部18は前方から付加される荷重に対して車体骨格メンバ30で支持される。これによって、衝撃吸収部18に対して車体前方から荷重が付加されても、車体骨格メンバ30で支持されるので、車体前方から衝撃吸収部18に過大な荷重が付加されても、衝撃吸収部18は荷重を受け止め、車体後方へ後退しない。
図示した実施形態では、車体骨格メンバ30は車体前後方向へ設けられたサイドメンバであり、衝撃吸収部18はサイドメンバの前端面に接するよう配置され、このサイドメンバの前端面で支持される。
【0020】
これによって、
図6(B)に示すように、歩行者100の脚部が車両の前端部に接触し、歩行者100の上肢部106がラジエータグリル14に接触しても、ラジエータグリル14は衝撃吸収部18で支持され、車体後方への変形を抑制される。そのため、上肢部106が膝部102の関節回りで車体後方へ倒れ込むのを抑制できる。
また、衝撃吸収部18は車体前方から加わる荷重Fによって変形することで衝撃を吸収できるため、衝撃吸収部18の反力として上肢部106に加わる衝撃を緩和できる。
【0021】
なお、衝撃吸収部18は車体骨格メンバ30の前端面に接するように配置してもよいし、車体骨格メンバ30の前端面に固着するようにしてもよい。
図示した実施形態では、
図6(B)に示すように、バンパ12の車体後方に高剛性の車体骨格メンバ32が設けられる。車体骨格メンバ32は、例えば、車幅方向に設けられたクロスメンバである。
【0022】
図1〜
図3に示す実施形態では、バンパ12はラジエータグリル14より車体前方へ突出している。グリルサポート部材16はバンパ12の上方で車幅方向へ延設されている。また、バンパ12の領域内に下部フロントグリル20が設けられ、下部フロントグリル20の車幅方向両側にフォグランプサポートパネル22が設けられている。
なお、
図1は車両の左半分のみを図示しており、そのため、車体の右側に設けられた衝撃吸収部18の図示は省略されている。
【0023】
例示的な実施形態では、衝撃吸収部18はその剛性を制御することで、潰れ量を制御できるように構成される。
例示的な実施形態では、
図4に示すように、ボックス形状を有し、内部に補強リブ24を有する。衝撃吸収部18は補強リブ24の数又は形状によって潰れ量を制御できるように構成される。
図4に示す実施形態では、衝撃吸収部18は平面視で3方に隔壁を有し、1方(車体後方)が開放された四角断面を形成している。そして、内部に上記隔壁に架設された複数の補強リブ24を備える。
【0024】
例示的な実施形態では、
図1〜
図3に示すように、衝撃吸収部18とバンパ12との間に柱状の補強部材28が設けられる。補強部材28は衝撃吸収部18及びバンパ12に一体に形成される。補強部材28を設けることで、バンパ12の支持強度を増大でき、
図5に基づいて後述するバンパ12の垂れ下がりを抑制できる。
例示的な実施形態では、補強部材28は軸方向が車体上下方向に向く柱形状とすることで、車体上下方向の剛性を高めることができる。
【0025】
例示的な実施形態では、
図2及び
図3に示すように、衝撃吸収部18はグリルサポート部材16と一体に形成される。
また、グリルサポート部材16は、
図2及び
図5に示すように、補強部材28に近接した位置で車体骨格メンバ30に取り付けられる。
これによって、グリルサポート部材16の強度を増大でき、ラジエータグリル14が車体前方から荷重Fを受けてもラジエータグリル14をグリルサポート部材16で支持することで、ラジエータグリル14の一定以上の車体後方への変形を抑制できる。
【0026】
図示した実施形態では、
図2に示すように、グリルサポート部材16にはボルト取付孔16aが形成され、
図5に示すように、グリルサポート部材16はボルト取付孔16aに挿入されるボルト34によって車体骨格メンバ30に取り付けられる。
また、バンパ12の下端は車体骨格メンバ32に取り付けられたフレーム36にボルト38によって結合される。
【0027】
例示的な実施形態では、補強部材28は軸方向が車体上下方向に向く柱形状であって、かつグリルサポート部材16に対して離れた側の端部が車体後方へ曲げられたL形断面を有する。
これによって、簡易かつ低コストで補強部材28の強度を増大できる。
図示した実施形態では、
図4に示すように、補強部材28にも1個又は複数の補強リブ26を適宜設けることで、補強部材28の強度を向上できる。
【0028】
例示的な実施形態では、
図3に示すように、衝撃吸収部18は歩行者の上肢部106に対応する高さに配置されると共に、車体前方に向いた平坦な受け面18aを有する。
これによって、
図6(B)に示すように、上肢部106がラジエータグリル14に当っても、ラジエータグリル14は衝撃吸収部18で支持され、車体後方への変形が抑制される。そのため、上肢部106が膝部102の関節回りで車体後方へ倒れ込むのを抑制できる。
【0029】
幾つかの実施形態によれば、衝撃吸収部18を設けることで、
図6(B)に示すように、補強部材28の上肢部106が膝部102の関節回りで車体後方へ倒れ込むのを抑制できるため、膝部102にある靭帯の伸び量を抑制でき、これによって、靭帯を含めた膝部の靭帯の損傷を抑制できる。
また、衝撃吸収部18の潰れ作用によって上肢部106に加わる衝撃を緩和できると共に、衝撃吸収部18の潰れ量を制御することで、衝撃吸収部18に加わる荷重の大小に係わらず、脚部に加わる衝撃を緩和できる。
さらに、衝撃吸収部18をボックス形状とし、その内部に補強リブ24を設けることで衝撃吸収部18の剛性を制御することで、剛性の制御が低コストで可能になる。
さらに、衝撃吸収部18は車体骨格メンバ30によって支持されるので、車体前方から過大な荷重が付加されてもその荷重を受け止め、車体後方へ後退しない。
【0030】
図5に示すように、車体取付け位置(ボルト34の位置)からバンパ12の前端までの張出し量Lが大きい場合、バンパ12が矢印方向へ傾斜してしまい、下部取付け部Rにバンパ110の重量が集中し、バンパ12の垂れ下がりが生じるおそれがある。これによって、見栄えが悪くなると共に、下部取付け部Rの補強のために重量が増加する、等の問題がある。
これに対し、例示的な実施形態によれば、バンパ12と衝撃吸収部18との間に柱状の補強部材28を設けることで、バンパ12の支持強度を増加できる。これによって、
図5に示すように、バンパ12の垂れ下がりにより車両前部構造の見栄えの悪化やバンパ12の下部取付け部R(ボルト38の周辺域)の重量増加を抑制できる。
【0031】
また、例示的な実施形態によれば、補強部材28は軸方向が車体上下方向に向く柱形状で構成され、かつグリルサポート部材16に対して離れた側の端部が車体後方へ曲げられたL形断面を有するので、簡易かつ低コストで補強部材28の強度を増大できる。
【0032】
また、例示的な実施形態によれば、補強部材28がグリルサポート部材16と一体に形成されると共に、グリルサポート部材16は、
図2及び
図5に示すように、補強部材28に近接した位置で車体骨格メンバ30に取り付けられるので、グリルサポート部材16の強度を増大できる。
これによって、ラジエータグリル14が車体前方から荷重Fを受けてもラジエータグリル14をグリルサポート部材16で支持することで、ラジエータグリル14の一定以上の車体後方への変形を抑制できる。そのため、
図6(B)に示すように、上肢部106の車体後方への倒れ込みを抑制できるため、歩行者100の靭帯の損傷を抑制できる。
また、バンパ12の支持強度をさらに増加できるため、
図5に示すように、バンパ12の垂れ下がりにより車両前部構造の見栄えの悪化やバンパ12の下部取付け部R(ボルト38の周辺域)の重量増加を有効に抑制できる。
【0033】
また、衝撃吸収部18が歩行者の上肢部106に対応する高さに配置されるため、上肢部106の車体後方への倒れ込みを効果的に抑制できると共に、衝撃吸収部18の前端面18aが平坦な面であるので、ラジエータグリル14を安定して支持できると共に、上肢部106の車体後方への倒れ込みをラジエータグリル14で確実に受け止め、靭帯の損傷を最上限に抑制できる。
図6の(A)及び(B)に示すように、従来の車両前部構造の上肢部106の倒れ込み角度aに比べて、本発明の実施形態に係る上肢部106の倒れ込み角度bは傾斜が少なくなっている。
【0034】
図7は、
図6の(A)に示す従来の車両前部構造及び(B)に示す本発明の実施形態に係る上肢部106の車体後方への侵入量を示している。図中、ラインXは上記実施形態の侵入量であり、ラインYは従来例の侵入量を示している。図から、上記実施形態の侵入量は従来例より少ないことがわかる。