(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の粘着剤層付の面ファスナーおよび同面ファスナーを取り付けたトイレ設備について図面に基づいて詳しく説明する。
【0016】
まず本発明を構成する面ファスナーは、
図1に示すように表面にフック状係合素子を有する雄型面ファスナーであっても、
図2に示すように表面にループ状係合素子を有する雌型面ファスナーであっても、さらには、
図3に示すように、フック状係合素子とループ状係合素子が同一面に混在しているフック・ループ混在型面ファスナーのいずれであってもよい。
【0017】
面ファスナーのうち、雄型面ファスナーは、主として、フック状係合素子用モノフィラメント糸、経糸および緯糸から形成される。一方、雄型面ファスナーの係合相手となる雌型面ファスナーは、主として、ループ状係合素子用マルチフィラメント糸、経糸および緯糸から形成される。また、フック状係合素子とループ状係合素子が同一面に混在しているフック・ループ混在型面ファスナーは、主として、フック状係合素子用モノフィラメント糸、ループ状係合素子用マルチフィラメント糸、経糸および緯糸から形成される。そして、これら面ファスナーには、必要により、これら以外の糸が織り込まれていてもよい。
【0018】
これらの主要糸を構成する繊維としては、ポリポロピレンで代表されるポリオレフィン系繊維やナイロン6やナイロン66で代表されるポリアミド系繊維やポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートで代表されるポリエステル系繊維のいずれでもよいが、トイレに使用される洗浄剤により劣化しないこと、さらに吸水・吸湿により波打ち(面ファスナーの基布面が不規則に上下して、水平な面とならない状態)を生じない点から、いずれも、実質的にポリエステル系のポリマーから構成されている繊維が好ましい。
【0019】
従来から、織物を基布とする面ファスナーに関しては、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド系の繊維からなる糸が主要糸して広く一般的に用いられているが、ポリアミド系繊維の糸を用いた場合には、洗浄剤によって劣化する場合があり、さらに吸水・吸湿により基布の形状が変化し、場合によっては形態が損なわれる問題点を有している。
【0020】
したがって、経糸や緯糸や係合素子用糸を構成する繊維としては、主としてポリエステル系ポリマーからなるのが好ましい。ポリエステル系ポリマーとは、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルまたはブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルであり、主としてテレフタル酸とエチレングリコールからの縮合反応またはテレフタル酸とブタンジオールからの縮合反応により得られるポリエステルである。
【0021】
そして好ましくは、緯糸以外の経糸と係合素子用糸は、ともにポリエチレンテレフタレートホモポリマーまたはポリブチレンテレフタレートホモポリマーから形成されている場合である。いずれにしても、後述する緯糸を構成する芯鞘型熱融着性繊維の鞘成分を融着させるための熱処理温度で、溶融しない融点を有するポリエチレンテレフタレート系ポリエステルやポリブチレンテレフタレート系ポリエステルが糸を構成する主成分であるのが好ましい。また、上記ポリエステル系繊維には、必要により、他の繊維が混綿や混繊、引き揃えられていてもよい。
【0022】
経糸としてはマルチフィラメント糸が好ましく、そして経糸を構成するマルチフィラメント糸の太さとしては、10〜100本のフィラメントからなるトータルデシテックスが100〜400デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に30〜50本のフィラメントからなるトータルデシテックスが130〜200デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0023】
緯糸としてはマルチフィラメント糸が好ましく、緯糸を構成するマルチフィラメント糸の太さとしては、10〜200本のフィラメントからなるトータルデシテックスが100〜500デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に50〜120本のフィラメントからなるトータルデシテックスが250〜350デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0024】
そして、緯糸には熱融着性繊維を含んでいるのが好ましい。熱融着性繊維の代表例として、鞘成分を熱融着成分とする芯鞘型の熱融着性繊維が挙げられる。緯糸が熱融着性繊維を含んでいることにより、係合素子用糸を基布に強固に固定することが可能となり、従来の面ファスナーのように係合素子用糸が基布から引き抜かれることを防ぐためにポリウレタン系やアクリル系のバックコート樹脂を面ファスナー基布裏面に塗布する必要もなくなる。
【0025】
緯糸に代えて経糸に熱融着性繊維を用いることにより係合素子用糸を基布に固定することも可能であるが、係合素子用糸は経糸に平行に基布に打ち込まれることから、経糸は係合素子用糸と交差する箇所が緯糸に比べてはるかに少なく、したがって熱融着性繊維を経糸にのみ用いた場合には係合素子用糸が基布に強固に固定され難く、さらに経糸に熱融着性繊維を用いた場合には、面ファスナーを連続生産する上で、走行する基布に掛かる張力を一定に保つことが難しく、一定品質の面ファスナーを安定に連続生産することが困難となり易い。
【0026】
上記した芯鞘型の熱融着性繊維としては、鞘成分を溶融させてフック状係合素子用モノフィラメント糸またはループ状係合素子用マルチフィラメント糸の根元を基布に強固に固定できるポリエステル系の樹脂からなるものが好ましく、例えば、芯成分は熱処理条件下では溶融しないが鞘成分は溶融する芯鞘型の断面を有するポリエステル系繊維が挙げられる。具体的には、ポリエチレンテレフタレートを芯成分とし、イソフタル酸やアジピン酸等で代表される共重合成分を多量に共重合、例えば20〜30モル%共重合することにより融点又は軟化点を大きく低下させた共重合ポリエチレンテレフタレートを鞘成分とする芯鞘型ポリエステル繊維が代表例として挙げられる。
【0027】
鞘成分の融点または軟化点としては100〜210℃であり、かつ経糸や芯成分やフック状係合素子用モノフィラメント糸あるいはループ状係合素子用マルチフィラメント糸の融点より20〜150℃低いのが好ましい。芯鞘型熱融着性繊維の断面形状としては、同心芯鞘であっても、偏心芯鞘であっても、あるいは1芯芯鞘であっても、多芯芯鞘であってもよい。
【0028】
さらには、緯糸を構成する繊維中に占める芯鞘型熱融着性繊維の割合は、特に緯糸の全てが実質的に芯鞘型の熱融着性繊維で形成されている場合、つまり緯糸が芯鞘型の熱融着性のフィラメントからなるマルチフィラメント糸である場合には、フック状係合素子用糸およびループ状係合素子用糸がともに強固に基布に固定されることとなるため好ましい。
【0029】
緯糸を構成する繊維が芯鞘断面形状ではなく、繊維断面の全てが熱融着性のポリマーで形成されている場合には、溶けて再度固まった熱融着性ポリマーは脆く割れやすくなり、縫製した場合等は縫糸部分から基布が裂け易くなる。したがって、熱融着性繊維は、熱融着されない樹脂を含んでいることが好ましく、芯鞘の断面形状を有していることが好ましいということになる。そして、芯成分と鞘成分の重量比率は20:80〜80:20の範囲、特に40:60〜60:40の範囲が好ましい。
【0030】
雄型面ファスナーまたはフック・ループ混在型面ファスナーを構成するフック状係合素子には、軽い力ではフック形状が伸展されない、いわゆるフック形状保持性と剛直性が求められ、そのために太い合成繊維製のモノフィラメント糸が用いられる。好ましくは、このモノフィラメント糸として、特にフック形状保持性に優れたポリエチレンテレフタレート系ポリエステルまたはポリブチレンテレフタレート系ポリエステルから形成され、かつ上記熱融着性繊維を熱融着させる際の温度では溶融しないポリエステルからなるモノフィラメント糸が用いられる。このようなポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるフック状係合素子用モノフィラメント糸の太さとしては、直径0.10〜0.25mmのものが係合性の点で好ましく、より好ましくは直径0.12〜0.22mmのものである。
【0031】
雌型面ファスナーまたはフック・ループ混在型面ファスナーを構成するループ状係合素子用糸も、雄型面ファスナーと同様にポリエチレンテレフタレート系ポリエステルまたはポリブチレンテレフタレート系ポリエステルから構成され、かつ上記熱融着性繊維を熱融着させる際の温度では溶融しないポリエステルからなるマルチフィラメント糸が好ましい。ループ状係合素子用糸を構成するマルチフィラメント糸の太さとしては、5〜20本のフィラメントからなるトータルデシテックスが150〜350デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に7〜15本のフィラメントからなるトータルデシテックスが230〜300デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0032】
以上述べた経糸、緯糸、フック状係合素子用モノフィラメント糸、ループ状係合素子用マルチフィラメント糸から、まず面ファスナー用織物を織成する。織物の織組織としては、フック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を経糸の一部とした平織が好ましく、これら係合素子用糸は、経糸と平行に存在しつつ、組織の途中で基布面から立ち上がり、雄型面ファスナーの場合にはループを形成しつつ経糸を1〜3本飛び越えて経糸間にもぐり込むような織組織で、一方、雌型面ファスナーの場合には経糸を跨ぐことなくループを形成し、経糸に平行に存在している織組織が、さらにフック・ループ混在型面ファスナーの場合にはこれら両者をともに満足するような織組織が、フック状係合素子用ループの片足側部を効率的に切断でき、さらにフック状係合素子とループ状係合素子が係合し易いことから好ましい。
【0033】
そして、経糸の織密度としては、熱処理後の織密度で50〜90本/cmが、また緯糸の織密度としては、熱処理後の織密度で15〜25本/cmが好ましい。そして、緯糸の重量割合としては、面ファスナーを構成するフック状係合素子用糸あるいはループ状係合素子用糸と経糸および緯糸の合計重量に対して15〜40%が好ましい。
【0034】
またフック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸の打ち込み本数は、それぞれ、経糸20本(フック状係合素子用モノフィラメント糸またはループ状係合素子用マルチフィラメント糸を含む)に対して2〜10本程度が好ましい。フック・ループ混在型面ファスナーの場合には、フック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸の合計で経糸20本(フック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸を含む)に対して2〜10本が好ましく、そしてフック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸の本数比が30:70〜70:30の範囲が好ましい。
【0035】
このようにして得られた面ファスナー用織物に、次に熱処理して緯糸を構成する芯鞘型熱融着性繊維の鞘成分を溶融させて係合素子用のモノフィラメント糸やマルチフィラメント糸の根元を基布に強固に固定させる。これにより、従来の面ファスナーで行われていたバックコート樹脂処理が不要となり、バックコート用樹脂層による粘着剤との接着性の問題が生じることを防ぐことができる。さらに、この熱処理の際の熱によりフック状係合素子のループ形状が固定され、フック状係合素子の片足を切断してフック状係合素子とした後においても、フック形状を保ち、十分な係合強度が得られることとなる。
【0036】
なお、雄型面ファスナーはフック状係合素子であっても、あるいは基布表面に林立させたモノフィラメント繊維の先端を熱により溶融させて玉状にさせたものや、さらに溶融させた先端部を平坦な金属面に押し付けてきのこ状係合素子としたものであってもよい。
【0037】
熱処理の際の温度としては、熱融着性繊維が溶融または軟化するがそれ以外の糸は溶融しない温度で、かつフック状係合素子用モノフィラメント糸が熱固定される温度である150〜250℃が一般的に用いられ、より好ましくは185〜220℃の範囲、さらに好ましくは190〜210℃の範囲である。
【0038】
次に、このように熱処理した面ファスナー用織物の表面から突出しているフック状係合素子用ループ脚部の片脚側部を切断してフック状係合素子とする。フック状係合素子用ループの片側部を切断するために用いられる切断装置としては、地経糸方向に走行する雄型面ファスナー用布のフック状係合素子用ループの片脚を2本の固定刃の間を可動切断刃の往復運動によって切断する構造となっている切断装置が好ましく、そのために、フック状係合素子用のループは、上記したように地経糸をまたぐ場所で形成していると、ループの片足だけを容易に切断できることから好ましい。
【0039】
またフック状係合素子の高さとしては基布面から1〜5mmが、またループ状係合素子の高さとしては基布面から1〜5mmが、係合力の点で、さらに係合素子の倒れにくさの点で好ましい。
【0040】
雄型面ファスナーにおけるフック状係合素子の密度、雌型面ファスナーにおけるループ状係合素子の密度、フック・ループ混在型面ファスナーにおけるフック状係合素子とループ状係合素子の合計密度としては、係合素子が存在している基布部分基準でかつ熱処理後の広さ基準で、それぞれ30〜60個/cm
2、30〜120個/cm
2、30〜100個/cm
2が好ましい。そして、フック・ループ混在型面ファスナーにおいて、フック状係合素子の個数とループ状係合素子の個数の比率としては、40:60〜60:40の範囲が好ましい。
【0041】
本発明では、このようにして得られた面ファスナーの裏面に
図1〜3に示すように粘着剤層を付与する。従来の面ファスナーの場合には、前記したように、基布の裏面には、バックコート樹脂層が存在しており、この層が原因で、面ファスナーを剥離した場合には、被着物側に粘着剤層が残存し、これを除去するのに手間や工夫を要するという問題点を有していたが、本願発明の場合には、面ファスナー裏面に粘着剤を直接塗布することから、粘着剤が面ファスナーの基布の織組織内に進入し、アンカー効果により面ファスナー裏面から粘着剤層が剥離することが少なく、従って上記したような問題をほとんど生じない。
【0042】
本発明では、ゴム系粘着剤層(4)とアクリル系粘着剤層(5)の2層を面ファスナーの裏面に存在させる。しかも、
図1〜3に示すように、ゴム系粘着剤層(4)を面ファスナー裏面側に、アクリル系粘着剤層(5)を被着物(6)側に存在させる。ゴム系粘着剤層とアクリル系粘着剤層の順序を逆転させたり、ゴム系粘着剤層とアクリル系粘着剤層の一方しか存在させない場合には、洗浄剤により接着力が急速に低下したり、あるいは洗浄剤により面ファスナー裏面と粘着剤層との間で剥離が生じたりする。
【0043】
本発明を構成するゴム系粘着剤(4)としては、天然ゴム系、合成ゴム系のいずれでもよい。合成ゴム系粘着剤としては、例えば、スチレン−ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ポリイソブチレン、ブチルゴム、アクリルゴム、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体などが挙げられる。
【0044】
また、本発明を構成するアクリル系粘着剤(5)としては、アクリル酸ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーからなる重合体、あるいはこれら重合体にアクリル酸やメタクリル酸等のカルボキシル基含有アクリル系モノマーを共重合したものが挙げられる。
【0045】
これら粘着剤層(4)および(5)には、必要により、架橋剤、タッキファイヤー、軟化剤、可塑剤、安定剤、着色剤、充填剤、酸化防止剤等が添加されていてもよい。
【0046】
そして本発明において、面ファスナー裏面に存在させるゴム系粘着剤層(4)の厚みとして150〜350μmの範囲が、そして、ゴム系粘着剤層に積層させるアクリル系粘着剤層(5)の厚みとして400〜1000μmの範囲が好ましい。ゴム系粘着剤層の厚みがこの範囲を外れる場合には、洗浄剤の洗浄により面ファスナー(1)とゴム系粘着剤(4)との間で一部剥離が生じる場合があり、アクリル系粘着剤層の厚みがこの範囲を外れる場合はアクリル系粘着剤層(5)のズレや膨張が大きくなり、好ましくない。より好ましくはゴム系粘着剤層の厚さが200〜300μmの範囲で、アクリル系粘着剤層の厚さが500〜800μmの範囲で、特に好ましくはゴム系粘着剤層の厚さが220〜280μmの範囲でアクリル系粘着剤層の厚さが550〜700μmの範囲である。
【0047】
前記した面ファスナーには、必要によりコロナ処理等の処理を裏面に行った後、
図1〜3に示すように、ゴム系粘着剤(4)とアクリル系粘着剤(5)を順次塗布する。粘着剤は溶剤系、エマルジョン系、熱融着系のいずれでもよく、その塗布方法としては通常のグラビアコート方式やナイフコート方式等が用いられる。そして、必要により乾燥処理して本発明の粘着剤層付の面ファスナーが得られる。
【0048】
そして、無用な粘着を防ぐために、必要により面ファスナーの裏面側に形成させた粘着剤層の表面を剥離シートで覆う。剥離シートとしては、紙やフィルムの表面にシリコン樹脂やパラフィン等を塗布したシートが使用される。そして、被着物に接着させる際には、剥離シートを剥がし、アクリル系粘着剤層(5)を露出させ、この露出させたアクリル系粘着剤層(5)を被着物(6)に接着させる。
【0049】
本発明の粘着剤層付の面ファスナーはトイレ設備に使用される。具体的には、便器本体の側面に化粧カバーを取り付けたりするのに、あるいは便器本体に電気機器類を収納できる窪み部を覆うために化粧カバーを取り付けたりするのに、あるいは便器の周りに敷くマットレスを床面に固定するのに、あるいは便座カバーを便座に取り付けるのに、あるいはトイレの配管やタンク等を化粧カバーで覆うことにより意匠性を高めるために使用される。
【0050】
そして、粘着剤層付雄型面ファスナーを粘着剤層の面で便器本体に取り付け、化粧カバーの裏面に雌型面ファスナーを係合素子面と反対側の面を取り付けて便器本体に化粧カバーを取り付ける。ここで粘着剤層付雌型面ファスナーの粘着剤層の面を化粧カバーの裏面に取り付けることが、取り付け性が容易な点で好ましい。なお、便器本体に取り付ける粘着剤層付面ファスナーを雄型から雌型に変えて化粧カバーにその係合相手になる面ファスナーを用いることは自由に選択可能である。
同様に床面や便座に雄型または雌型の粘着剤層付面ファスナーを取り付け、その係合相手となる面ファスナー、好ましくは粘着剤層付面ファスナーをマットレスや便座カバーに取り付ける。あるいは同様にトイレ配管やトイレタンクさらにはトイレの壁面に一方の面ファスナーをそして化粧カバーの裏面にもう一方の面ファスナーを取り付け、そして、両方の面ファスナーを係合させることにより、それぞれの部位に化粧カバーが取り付けられる。
【0051】
これらトイレ設備品は洗浄剤で洗浄されるが、洗浄剤には塩酸等の酸性物質が含まれている場合が多く、このような洗浄剤を用いた場合には、ポリアミド系繊維からなる面ファスナーは短期間で繊維が劣化し、面ファスナーが破断したり、係合素子が引きちぎられ易くなるが、ポリエステル系繊維から形成された面ファスナーの場合にはこのような問題が生じない。また洗浄剤が水酸化ナトリウムや次亜塩素酸塩を含む場合にも、アクリル系粘着剤のみからなる場合には粘着力が短期間で低下して剥離することが多いが、本発明のようにゴム系の粘着剤層とアクリル系の粘着剤層が存在している場合にはこのような問題を生じない。
【0052】
以下本発明を実施例により説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、耐トイレ洗浄剤性は、1cm×10cmの粘着剤層付面ファスナーを便器本体に貼り付け、24時間放置し、トイレ用洗浄剤の原液を刷毛により1日1回面ファスナー面に塗布し、この作業を7日間行い、翌日粘着力を測定した。粘着力の測定は、JIS Z 0237の粘着テープ粘着シートの試験方法に準じて測定した。なお、トイレ用洗浄剤としてキンチョウ製サンポールおよびユニリーバジャパン製ドメストを使用した。
【0053】
実施例1
面ファスナーの基布を構成する地経糸および地緯糸、フック状係合素子用モノフィラメント、ループ状係合素子用マルチフィラメントとして次の糸を用意した。
[地経糸]
・融点260℃のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:167dtexで30本
[地緯糸(芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント系熱融着糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(重量比): 70:30
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:99dtexで24本
【0054】
[フック状係合素子用モノフィラメント]
・ポリエチレンテレフタレート繊維(融点:260℃)
・繊度:390dtex(直径:0.19mm)
[ループ状係合素子用マルチフィラメント]
・ポリエチレンテレフタレート繊維(融点:260℃) ・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:265dtexで7本
【0055】
上記4種の糸を用いて、以下の条件で雄型面ファスナー(A)および雌型面ファスナー(B)を製造した。
[雄型面ファスナー(A)]
上記地経糸、地緯糸およびフック状係合素子用モノフィラメントを用いて、織組織として平織を用い、織密度(熱収縮処理後)が地経糸55本/cm、地緯糸20本/cmとなるように織った。そして、地経糸4本に1本の割合でフック状係合素子用モノフィラメントを地経糸に平行に打ち込み、地緯糸5本を浮沈したのちに地経糸3本をまたぐようにし、またいだ箇所でループを形成するように基布上にループを形成した。
【0056】
上記条件にて織成されたフック面ファスナー用テープを、地緯糸の鞘成分のみが熱溶融し、なおかつ、地経糸、フック係合素子用モノフィラメントさらには地緯糸の芯成分が熱溶融しない温度域、すなわち200℃で熱処理を施した。地緯糸は鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を融着させた。そして、得られた織物を冷却させたのち、フック状係合素子用ループの片脚部を切断したフック状係合素子を形成した。
得られた雄型面ファスナー(A)のフック状係合素子密度は42個/cm
2であり、さらにフック状係合素子の基布面からの高さは1.8mmであった。
【0057】
[雌型面ファスナー(B)]
上記地経糸、地緯糸およびループ状係合素子用マルチフィラメントを用いて、織組織として平織を用い、織密度(熱収縮処理後)が地経糸55本/cm、地緯糸22本/cmとなるように織った。そして、地経糸4本に1本の割合でループ状係合素子用マルチフィラメントを地経糸をまたぐことなく地経糸に平行に打ち込み、地緯糸5本を浮沈したのちループを形成するように基布上にループを形成した。
【0058】
上記条件にて織成された雌型面ファスナー用テープを、地緯糸の鞘成分のみが熱溶融し、なおかつ、地経糸、ループ係合素子用マルチフィラメントさらには地緯糸の芯成分が熱溶融しない温度域、すなわち200℃で熱処理を施した。地緯糸は鞘成分が溶融して近隣に存在する糸を融着させた。そして、得られた織物を冷却させた。得られた雌型面ファスナー(B)のループ状係合素子密度は44個/cm
2であり、さらにループ状係合素子の基布面からの高さは2.4mmであった。
【0059】
このようにして得られた雄型面ファスナー(A)および雌型面ファスナー(B)の裏面に
図1および2に示すように、ゴム系粘着剤(日立化成製XH−118−1)を乾燥後の厚さが250μmの厚みとなるように塗布し、さらにその上にアクリル系粘着剤(積水化学製SJ06B)を600μmの厚みとなるように塗布し積層した。
【0060】
得られた粘着剤付の雄型面ファスナー(A)および雌型面ファスナー(B)を便器のタイル面(本体)に貼り付け、前記した耐トイレ洗浄剤性をテストし、粘着力を測定した。
その結果、雄型面ファスナー(A)の場合には粘着力は23N/cm、雌型面ファスナー(B)の場合には24N/cmであり、テスト前の粘着力(ともに26N/cm)と比べて殆ど粘着力が低下していないことが分かった。そして、剥離はともに粘着剤層と便器本体の間で生じており、剥離後に便器に粘着剤の一部が残存することはなかった。
【0061】
この粘着剤付の雄型面ファスナー(A)と雌型面ファスナー(B)を用い、便器本体の窪み部に化粧カバーを取り付けた。そして、毎週1回トイレ用洗浄剤(前記ドメストまたはサンポールを使用)で洗浄し、12ヵ月後の状態を観察したところ、化粧カバーは便器表面に強固に貼り付いており、面ファスナー自体も劣化している様子は全くなかった。
【0062】
比較例1
雄型面ファスナー(A)の裏面にゴム系粘着剤層を塗布することなく、実施例1で用いたアクリル系粘着剤層を直接600μmの厚みで付与した。そして得られた粘着剤層付の面ファスナーを実施例1と同様に便器のタイル面(本体)に貼り付け、耐トイレ洗浄剤性をテストし、粘着力を測定した。
【0063】
その結果、テスト後の粘着力は前記ドメストおよびサンポールともに3N/cmであり、テスト前の粘着力(28N/cm)と比べて大きく粘着力が低下しており、容易に剥離が生じる状態となっていることが分かった。そして、剥離は基布と粘着剤層の間で生じており、剥離後に便器本体に粘着剤の大半が残存していることが分かった。
【0064】
比較例2
雄型面ファスナーの裏面に実施例1で用いたゴム系粘着剤のみを250μmの厚みで塗布し、アクリル系粘着剤を塗布しなかった。得られた粘着剤層付の実施例1と同様に面ファスナーを便器のタイル面(本体)に貼り付け、耐トイレ洗浄剤性をテストし、粘着力を測定した。
【0065】
その結果、粘着力は、ドメストの場合が15N/cm、サンポールの場合が17N/cmであり、テスト前の粘着力(30N/cm)と比べてかなり低下していた。そして、剥離は上記比較例1と同様に基布と粘着剤層の間で生じており、剥離後に便器本体に粘着剤の大半が残存していることが分かった。
【0066】
比較例3
雄型面ファスナー(A)の裏面に、アクリル系粘着剤(トーヨーケム製BPW6358)を150μmの厚さで塗布し、その表面に実施例1で用いたアクリル系粘着剤を600μmの厚みで塗布した。得られた粘着剤層付の面ファスナーを実施例1と同様に便器のタイル面(本体)に貼り付け、耐トイレ洗浄剤性をテストし、粘着力を測定した。
【0067】
その結果、粘着力はドメストの場合が8N/cm、サンポールの場合が12N/cmであり、かつテスト前の粘着力(16N/cm)も低く、この低い粘着力がさらにトイレ洗浄剤により低下していることが分かった。そして、剥離は2層の粘着剤層間で生じており、剥離後に便器本体に一方の粘着剤の大半が残存していることが分かった。
【0068】
比較例4
上記実施例1において、ゴム系粘着剤層とアクリル系粘着剤層の順序を逆にして雄型面ファスナー(A)の裏面に塗布した。アクリル系粘着剤層の厚さとゴム系粘着剤層の厚さは、実施例1と同様に、それぞれ600μmと250μmである。そして得られた粘着剤層付の面ファスナーを実施例1と同様に便器のタイル面(本体)に貼り付け、耐トイレ洗浄剤性をテストし、粘着力を測定した。
【0069】
その結果、粘着力はドメストの場合が3N/cm、サンポールの場合が3N/cmであり、テスト前の粘着力(17N/cm)と比べて大きく粘着力が低下しており、容易に剥離が生じる状態となっていることが分かった。そして、剥離は基布と粘着剤層の間で生じており、剥離後に便器に粘着剤の大半が残存していることが分かった。しかも便器上に残存している粘着剤は強固に貼り付いており、便器面(本体)から剥離することが極めて困難であった。
【0070】
実施例2
上記実施例1において、雄型面ファスナーとして、ナイロン6繊維からなりかつ基布の裏面には係合素子の引き抜きを防止するためにポリウレタンからバックコート樹脂層が30μmの厚さで存在している面ファスナーを用い、実施例1と同様にゴム系粘着剤層とアクリル系粘着剤層を裏面に付与した。
【0071】
そして得られた粘着剤層付の面ファスナーを実施例1と同様に便器のタイル面(本体)に貼り付け、耐トイレ洗浄剤性をテストし、粘着力を測定した。その結果、粘着力は、ドメストの場合が24N/cm、サンポールの場合が21N/cmであり、テスト前の粘着力(28N/cm)と比べて粘着力がわずかに低下していた。そして、剥離は粘着剤層と便器本体の間で生じており、剥離後に便器(本体)に粘着剤の一部が残存することはなかった。
【0072】
しかしながら、この面ファスナーの場合には、トイレ洗浄剤がサンポールのような酸性洗浄剤の場合には、洗浄剤により面ファスナー構成繊維が劣化しており、面ファスナーを両手で強く引っ張ると破断が生じた。またフック状係合素子も強度低下により、係合素子を引っ張ると断糸するとともに係合が外れ易いものもあった。
【0073】
実施例3
上記実施例1において、ゴム系粘着剤層の厚さを150μmに変更する以外は実施例1と同様に面ファスナー(A)に粘着剤層を付与し、そして洗浄剤テストを実施した。その結果、その結果、粘着力は、ドメストの場合が23N/cm、サンポールの場合が20N/cmであり、テスト前の粘着力(26N/cm)と比べて粘着力がわずかに低下していた。そして、剥離は粘着剤層と便器本体の間で殆ど生じていたが、剥離後に便器(本体)に粘着剤の極一部が残存しているのが認められた。