(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記連係部材として板状材が用いられると共に、当該板状材のうち前記駆動側回転体に対し前記第1方向に沿って形成された係合溝部に嵌り込む領域によって前記第1係合部が構成され、当該板状材のうち前記インナギヤに突出形成された係合突起が前記第2方向に沿って相対移動自在に嵌り込む係合孔によって前記第2係合部が構成されている請求項1に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術では、インナギヤが偏心軸の軸芯を中心にした公転を許容しつつ、このインナギヤの回転を従動側回転体(出力軸)に伝えるため、係合突起の外径に対して、従動側回転体に形成される係合孔の内径が大きく設定されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術のように、係合孔に係合突起を係合させて回転力を伝える構成では、係合孔の内周に対して係合突起の外周を常に隙間なく接触させ、且つ、接触時に過剰な応力が発生しないように、係合孔と係合突起とを高い精度で形成する必要がある。
【0007】
特に、係合孔に係合突起を係合させる構成では、係合孔の内周と係合突起の外周とが接触する小さい面で回転力を伝える構成であるため、応力の集中を抑制する複数の係合孔と複数の係合突起とを必要とすることになり、加工に時間と精度が要求される観点から改善の余地がある。
【0008】
また、この構成の弁開閉時期制御装置では、駆動側回転体と従動側回転体との相対回転位相を維持する場合にも、電動アクチュエータを駆動する必要から所定の電気エネルギーを消費するものであり、省エネルギーの観点から改善が望まれる。
【0009】
このように、インナギヤを、偏心軸芯を中心に公転させる減速装置を有する弁開閉時期制御装置において、インナギヤと駆動側回転体とを連係させる機構を応力の集中を抑制し、省エネルギーを実現することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、回転軸芯を中心に内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
前記回転軸芯と同軸芯上で前記駆動側回転体と相対回転自在に配置され、前記内燃機関の弁開閉用のカムシャフトと一体回転する従動側回転体と、
電動アクチュエータにより前記駆動側回転体及び前記従動側回転体の相対回転位相を設定する位相調節機構と、を備え、
前記位相調節機構が、前記従動側回転体として前記回転軸芯と同軸芯上に配置される内歯型のリングギヤと、前記回転軸芯と平行姿勢の偏心軸芯と同軸芯上に配置され前記リングギヤと歯数が異なる外歯型のインナギヤと、前記インナギヤを前記駆動側回転体に連係させる連係機構と備えると共に、前記リングギヤの歯部の一部に前記インナギヤの歯部の一部を噛み合わせ、前記電動アクチュエータの駆動力で前記回転軸芯を中心に前記偏心軸芯の位置を公転させて前記リングギヤに対して前記インナギヤを相対回転させる差動型の減速機構に構成され、
前記連係機構が、前記駆動側回転体に対して径方向となる第1方向に変位自在に係合する第1係合部と、前記インナギヤに対して前記第1方向と直交する第2方向に変位自在に係合する第2係合部と、を有する連係部材を備えると共に、前記連係部材を前記駆動側回転体に対して前記第1方向又は前記第2方向に付勢する付勢部材を備えた点を特徴とする。
【0011】
これによると、電動アクチュエータにより回転軸芯を中心に偏心軸芯の位置が公転する場合には、インナギヤの公転に伴い連係部材の第1係合部が駆動側回転体に対して第1方向に変位し、インナギヤが第2係合部において連係部材に対して第2方向に相対変位することにより、インナギヤの回転方向への変位を連係部材が受け止める。このため、連係部材により駆動側回転体に対するインナギヤの回転が規制され、駆動側回転体に対して従動側回転体を相対回転させることになる。特に、この構成では、第1係合部と第2係合部とにおいて直線的な作動を行う構成であるため、何れの箇所でも広い面で回転を受け止めることができ、応力集中を解消できる。
また、付勢部材の付勢力によって連係部材を第1方向又は第2方向に付勢することにより、この付勢力の作用により偏心軸芯が安定する位置に達するまでインナギヤを公転させることが可能となる。このように安定する位置に達した場合には、電動アクチュエータの駆動力を低減しても相対回転位置を維持することが可能となる。
従って、インナギヤを、偏心軸芯を中心に公転させる減速装置を有する弁開閉時期制御装置において、インナギヤと駆動側回転体とを連係させる連係機構に対する応力の集中を抑制し、省エネルギーも実現する。
【0012】
本発明は、前記連係部材として板状材が用いられると共に、当該板状材のうち前記駆動側回転体に対し前記第1方向に沿って形成された係合溝部に嵌り込む領域によって前記第1係合部が構成され、当該板状材のうち前記インナギヤに突出形成された係合突起が前記第2方向に沿って相対移動自在に嵌り込む係合孔によって前記第2係合部が構成されても良い。
【0013】
これによると、駆動側回転体に形成された係合溝部に嵌り込む領域と、インナギヤに形成された係合突起が嵌り込む係合孔とを備えることで連係部材を構成できる。これにより、例えば、板状材をプレス加工することによって連係部材を構成することも可能となる。
【0014】
本発明は、前記回転軸芯を挟んで対向する位置に前記連係部材が配置されても良い。
【0015】
これによると、一対の連係部材に作用する付勢力を、駆動側回転体とインナギヤとを相対移動させる方向に作用させ、より強い力でインナギヤの公転位置を安定させることが可能となる。
【0016】
本発明は、一対の前記連係部材が連結部により一体化されても良い。
【0017】
これによると、一対の連係機構を一体的に作動させることが可能となり、安定的な作動を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1〜
図4に示すように、内燃機関としてのエンジンEのクランクシャフト2と同期回転する駆動側回転体Aと、吸気カムシャフト3と一体回転する従動側回転体Bと、位相制御モータM(電動アクチュエータの一例)の駆動力により駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定する位相調節機構Cとを備えて弁開閉時期制御装置1が構成されている。
【0020】
エンジンEは、シリンダブロックに形成された複数のシリンダボアにピストン4を収容し、そのピストン4をコネクティングロッド5によりクランクシャフト2に連結した4サイクル型に構成されている。このエンジンEのクランクシャフト2の出力プーリ2Sと、駆動側回転体Aの駆動プーリ11Sとに亘ってタイミングベルト6(タイミングチェーン等でも良い)が巻回されている。
【0021】
これによりエンジンEの稼働時には、弁開閉時期制御装置1の全体が回転軸芯Xを中心に回転する。また、位相調節機構Cの駆動により駆動側回転体Aに対し従動側回転体Bが回転方向と同方向又は逆方向に変位可能に構成されている。
【0022】
この弁開閉時期制御装置1は、ECU等の制御装置で位相制御モータMの駆動を制御することにより、位相調節機構Cで駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定し、この設定により、吸気カムシャフト3のカム部3Aによる吸気バルブ3Bの開閉時期(開閉タイミング)の制御を実現している。
【0023】
〔弁開閉時期制御装置〕
駆動側回転体Aは、駆動プーリ11Sが形成されたアウタケース11とフロントプレート12とを複数の締結ボルト13で締結している。アウタケース11の内部空間には、従動側回転体Bと、ハイポトロコイド型減速ギヤ(差動型減速機構の具体例)として構成される位相調節機構Cとが収容されている。
【0024】
従動側回転体Bは、多数の内歯を有する内歯部21Aが形成されたリングギヤ21で構成されている。位相調節機構Cは、リングギヤ21と、このリングギヤ21の内歯部21Aに噛合する多数の外歯を有する外歯部22Aが形成されたインナギヤ22と、インナギヤ22に連係する駆動シャフト24と、インナギヤ22を駆動側回転体Aに連係させる連係機構を構成する一対の連係部材30とを備えている。
【0025】
図2に示すように、リングギヤ21は回転軸芯Xと同軸芯上に配置され、インナギヤ22は、回転軸芯Xと並行姿勢の偏心軸芯Yと同軸芯上に配置されている。外歯部22Aの一部がリングギヤ21の内歯部21Aの一部に噛み合い、インナギヤ22の外歯部22Aの歯数は、リングギヤ21の内歯部21Aの歯数より1歯だけ少なく設定されている。
【0026】
位相制御モータM(電動モータ)は、その出力軸Maが回転軸芯Xと同軸芯上に配置するように支持フレーム7によりエンジンEに支持されている。
【0027】
リングギヤ21は、内歯部21Aが形成されたリング状部分に対して、回転軸芯Xに対して直交する姿勢の従動プレート21Pを一体化した構造を有している。この従動プレート21Pの中央の孔部に連結ボルト35を挿通し、吸気カムシャフト3に螺合させることにより、このリングギヤ21が回転軸芯Xと同軸芯上において吸気カムシャフト3に連結されている。
【0028】
駆動シャフト24は、回転軸芯Xに沿う方向での外端側に回転軸芯Xを中心とする外周面の第1支持部24Aが形成され、内端側に偏心軸芯Yを中心とする外周面の第2支持部24Bが形成されている。第2支持部24Bの外周には一対の切欠部が形成され、各々にバネ部材25が嵌め込まれる。また、駆動シャフト24は、回転軸芯Xを中心とする孔部24Cが形成され、この孔部24Cには、位相制御モータMの出力軸Maの係合部材28が係合する一対の係合溝24Tが回転軸芯Xと平行姿勢で形成されている。
【0029】
図1に示すように、フロントプレート12の中央の開口に第1ボールベアリング26を嵌め込み、この第1ボールベアリング26に第1支持部24Aを挿入することで、駆動シャフト24が駆動側回転体Aに対し回転軸芯Xを中心に回転自在に支持される。また、駆動シャフト24の第2支持部24Bに第2ボールベアリング27を外嵌し、これにインナギヤ22が回転自在に外嵌される。また、止め輪としてのCリング29を備えることにより、第2ボールベアリング27の第2支持部24Bからの脱落を阻止している。
【0030】
更に、孔部24Cには、回転軸芯Xと平行姿勢となる単一の潤滑溝24Gが形成され、この潤滑溝24Gから外面に貫通する潤滑流路24Rが形成されると共に、一対の係合溝24Tから外面に貫通する一対の潤滑流路24Rが形成されている。
【0031】
図1に示すように、フロントプレート12の中央の開口に第1ボールベアリング26を嵌め込み、この第1ボールベアリング26に第1支持部24Aを挿入することで、駆動シャフト24が駆動側回転体Aに対し回転軸芯Xを中心に回転自在に支持される。
【0032】
また、駆動シャフト24の第2支持部24Bに第2ボールベアリング27を外嵌し、この第2ボールベアリング27の内周に付勢力を作用させるように、駆動シャフト24の一対の切欠部に嵌め込み、第2ボールベアリング27にインナギヤ22を回転自在に外嵌している。更に、止め輪としてのCリング29を備えることにより、第2ボールベアリング27の第2支持部24Bからの脱落が阻止される。
【0033】
これによりインナギヤ22が偏心軸芯Yを中心に回転自在に支持されると共に、その外歯部22Aの一部がリングギヤ21の内歯部21Aの一部に噛み合い、一対のバネ部材25の付勢力で噛み合いが維持される。
【0034】
〔位相調節機構:連係部材〕
連係機構を構成する一対の連係部材30は、板状材のプレス加工等により全体的に矩形となるように製造され、板バネで成る付勢部材Sにより付勢される。この連係部材30は、第1係合部31と、矩形の係合孔として形成される第2係合部32とを備えている。一対の連係部材30は、回転軸芯Xに直交する仮想平面上に配置されている。
【0035】
駆動側回転体Aを構成するアウタケース11のうち、フロントプレート12に接触する連結面に対して回転軸芯Xを通過する(アウタケース11の中心から半径方向に伸びる)一対の係合溝部ATが形成されている。各々の係合溝部ATの外端位置に外壁部が形成され、この外壁部と連係部材30との間に付勢部材Sが配置される。この一対の係合溝部ATが並ぶ直線の方向が第1方向(
図3では左右方向)となる。
【0036】
また、インナギヤ22の端面には偏心軸芯Yを挟んで対向する位置に一対の係合突起22Tが形成されている。このように一対の係合突起22Tが並ぶ方向が第2方向(
図3では上下方向)となり、第1方向と第2方向とは互いに直交する姿勢に設定されている。
【0037】
図3に示すように回転軸芯Xに沿う方向視で、各々の係合溝部ATの幅方向(同図で上下方向)の両端縁には、第1方向に対して平行姿勢となる第1ガイド面G1が形成されている。また、回転軸芯Xに沿う方向視で、各々の係合突起22Tの幅方向(同図で左右方向)の両端縁には、第2方向に対して平行姿勢となる第2ガイド面G2が形成されている。
【0038】
第1係合部31は、連係部材30において係合溝部ATに嵌り込むように第1方向に伸びる領域によって構成されている。第2係合部32は係合突起22Tが嵌り込むように矩形の係合孔で構成されている。また、第2係合部32の第2方向に沿う方向での寸法が係合突起22Tの第2方向での寸法より大きく設定されている。
【0039】
この構成から、一対の第1ガイド面G1に対して第1係合部31の幅方向での両端部を接触させ、一対の第2ガイド面G2に対して第2係合部32の内面を接触させるように連係部材30がセットされる。
【0040】
更に、リングギヤ21の端面に接触することにより、回転軸芯Xに沿う方向でのリングギヤ21の位置決めを行う複数の突出部12Aをフロントプレート12の内面(アウタケース11に対向する側の面)に突出形成している。
【0041】
このような構成から、付勢部材Sの付勢力は、駆動側回転体Aと連係部材30との間に作用するものであり、連係部材30を係合溝部ATに沿って(第1方向に沿って)回転軸芯Xに近接させる方向に作用する。更に、この付勢力は連係部材30の第2係合部32を介してインナギヤ22に伝えられ、結果としてインナギヤ22を回転軸芯Xに近接させる方向に作用する。
【0042】
〔位相調節機構の作動形態〕
吸気カムシャフト3の回転速度より高速又は低速で位相制御モータMの出力軸Maを駆動回転することにより、第2支持部24Bの偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に公転する。この公転によりリングギヤ21の内歯部21Aに対するインナギヤ22の外歯部22Aに対する噛み合い位置がリングギヤ21の内周に沿って変位し、インナギヤ22には偏心軸芯Yを中心に自転しようとする。
【0043】
このようにインナギヤ22の偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に公転する際には、インナギヤ22の変位が、係合突起22Tから連係部材30の第2係合部32を介して、連係部材30に伝えられる。この変位のうち第1方向に沿う方向の成分が含まれる場合には、これに対応して連係部材30が第1方向に変位し、第2方向に沿う方向の成分が含まれる場合には、第2係合部32において係合突起22Tが第2方向に沿って相対変位する。
【0044】
この構成では、インナギヤ22と駆動側回転体Aを構成するアウタケース11との相対回転が一対の連係部材30により規制されるため、インナギヤ22の公転に伴いインナギヤ22を自転させる方向に作用する回転力によりリングギヤ21を、回転軸芯Xを中心に回転させる。つまり、インナギヤ22がリングギヤ21に対して公転することにより、駆動側回転体Aを基準にしてリングギヤ21を相対回転させることになり、結果として、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を設定し、吸気カムシャフト3による開閉時期の設定を実現するのである。
【0045】
また、インナギヤ22の外歯部22Aの歯数が、リングギヤ21の内歯部21Aの歯数より1歯だけ少なく設定されているため、インナギヤ22の偏心軸芯Yが回転軸芯Xを中心に1回転だけ公転した場合には、1歯分だけリングギヤ21が回転することになり大きい減速を実現している。
【0046】
特に、この構成ではインナギヤ22に対して連係部材30から付勢力が作用するため、例えば、
図4に示すように、一対の連係部材30を結ぶ仮想ラインに近接する位置に偏心軸芯Yがある場合には、一方の付勢部材Sが他方より大きく圧縮され、大きく圧縮された付勢部材Sの付勢力が強く作用する。この付勢力は、インナギヤ22に対して、回転軸芯Xを中心に偏心軸芯Yを公転させる力として作用する。つまり、付勢部材Sの付勢力によって偏心軸芯Yを
図3に示す位置まで公転させ、偏心軸芯Yの位置を安定させ、この安定した位置に偏心軸芯Yを軽く拘束する作動を可能にするのである。
【0047】
〔実施形態の作用・効果〕
このような構成から、リングギヤ21に対してインナギヤ22の偏心軸芯Yが公転する場合には、一対の連係部材30が第1方向に変位し、この連係部材30に対してインナギヤ22が第2方向に相対変位することにより、インナギヤ22と駆動側回転体Aとの相対回転を阻止し、リングギヤ21(従動側回転体B)に連結する吸気カムシャフト3を駆動側回転体Aに対して相対回転させることになる。
【0048】
連係部材30が第1方向に変位する場合には、第1係合部31の直線状の側面が直線状の第1ガイド面G1に摺接することになり、円滑な変位を行わせ摺接面において過大な圧力が作用することもない。また、インナギヤ22が第2方向に変位する場合には、連係部材30の第2係合部32の直線状の第2ガイド面G2に対して、係合突起22Tの直線状の側面が摺接することになり、円滑な変位を行わせ、摺接面において過大な圧力が作用することがない。
【0049】
フロントプレート12の内面に形成した複数の突出部12Aを、リングギヤ21の端面に接触可能な位置に配置しているため、回転軸芯Xに沿う方向でのリングギヤ21の位置が決まる。
【0050】
弁開閉時期制御装置1は、エンジンEの吸気カムシャフト3と、排気カムシャフトとを駆動するチェーンケースの内部に配置される。このような位置関係から、カムシャフトやチェーンに供給される潤滑油の一部がフロントプレート12の中央の開口から駆動シャフト24の孔部24Cに流れ込み、アウタケース11の内部空間の各部に供給され位相調節機構Cを円滑に作動させる。
【0051】
つまり、孔部24Cに流れ込んだ潤滑油は、内端位置からリングギヤ21の内部に供給され、リングギヤ21の内歯部21Aとインナギヤ22の外歯部22Aとの間に供給され、この後にアウタケース11の内部空間に流れる。また、孔部24Cに流れ込んだ潤滑油の一部は、複数の潤滑溝24Gから駆動シャフト24の外面に流れ、連係部材30の第1係合部31と係合溝部ATとの間に供給されると共に、第2係合部32と係合突起22Tとの間に供給される。
【0052】
特に、付勢部材Sの付勢力を作用させているため、例えば、一対の連係部材30を結ぶ仮想ラインに近接する位置に偏心軸芯Yがある場合には(
図4を参照)、一方の付勢部材Sが他方より圧縮され、大きく圧縮された側の付勢部材Sの付勢力が強く作用する。
【0053】
この付勢力は、インナギヤ22には
図3に示す位置まで偏心軸芯Yを公転させる力として作用し、この位置に達した状態で安定する。これにより、エンジンEの停止後には
図3に示す位置まで偏心軸芯Yを公転させ、一対の付勢部材Sの付勢力が等しくなり、偏心軸芯Yの位置を安定させて軽く拘束することが可能となる。また、エンジンEを始動する場合に駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を維持することも可能となる。
【0054】
このように、付勢部材Sの付勢力により偏心軸芯Yの位置が軽く拘束されるため、位相制御モータMを駆動する電力を低減することや、電力を遮断することによっても駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を保持することが可能となる。尚、この構成では、位相制御モータMとしてブラシレスDCモータを想定しており、このモータに供給する電力を低減、あるいは、遮断する状態でも相対回転位相の保持が可能となり、省エネルギーが実現するのである。
【0055】
具体的な制御形態として、駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの相対回転位相を検知する位相センサの検知に基づいて、目標とする相対回転位相に停止したタイミングで、位相制御モータMに供給する電力を低減することも考えられる。特に、目標とする相対回転位相に達したタイミングにおいて、例えば、付勢部材Sの付勢力により偏心軸芯Yが公転する場合でも、この公転に起因する駆動側回転体Aと従動側回転体Bとの位相差の変動は極めて小さく、実用上問題はない。
【0056】
〔別実施形態〕
本発明は、上記した実施形態以外に以下のように構成しても良い(実施形態と同じ機能を有するものには、実施形態と共通の番号、符号を付している)。
【0057】
(a)
図6に示すように、4つの連係部材30を備える。この別実施形態では、インナギヤ22に4つの係合突起22Tを形成しており、アウタケース11の外周に沿う方向で4つに分割するように4つの係合溝部ATを形成している。この構成から、4つの係合溝部ATに対して、実施形態と同様の構成の連係部材30の第1係合部31を嵌め込み、各々の第2係合部32に対して係合突起22Tを係合させている。つまり、第1方向に沿って一対の連係部材30が配置され、第2方向に沿って一対の連係部材30が配置されることになる。
【0058】
この構成から、リングギヤ21に対してインナギヤ22の偏心軸芯Yが公転する場合には、リングギヤ21に対してインナギヤ22が第1方向と、第2方向との何れの方向に変位する場合でも、複数の連係部材30をアウタケース11に対してスライドさせることになる。これにより、インナギヤ22と駆動側回転体Aを構成するアウタケース11との相対回転を4つ連係部材30により高強度で規制することが可能となる。更に、付勢部材Sの付勢力により偏心軸芯Yが安定する位置を、第1方向と第2方向との中間の領域に設定でき、付勢部材Sの付勢力によって偏心軸芯Yが公転する角度を小さくできる。
【0059】
(b)実施形態と同様に一対の連係部材30を備えると共に、
図7に示すように、一対の連係部材30を連結部30Aにより連結している。この構成では連係部材30のうち第2係合部32が、回転軸芯Xの方向に開放した構造を有しており、係合突起22Tの外側の第2ガイド面G2に対して、第2係合部32に対して外側から接触する。
【0060】
これにより、一対の連係部材30が、連結部30Aで連結されることから一対の連係部材30を一体的に変位させ、各々の連係部材30の円滑な作動を実現する。
【0061】
(c)
図8に示すように、実施形態で示した板バネで成る付勢部材Sに代えて圧縮コイルバネでなる付勢部材Sを用いる。つまり、連係部材30の外端側(第1係合部31)に形成した切欠部とアウタケース11との間に収容するように圧縮コイルバネで成る付勢部材Sを備える。このように切欠部に対して圧縮コイルバネで成る付勢部材Sを収容することにより、第1係合部31と第1ガイド面G1との接触長を長くする構成を作用でき、安定的な摺動を実現する。
【0062】
(d)
図9に示すように、前述した別実施形態(b)の構成において板バネで成る付勢部材Sに代えて圧縮コイルバネで成る付勢部材Sを用いる。つまり、連係部材30の外端側(第1係合部31)に形成した切欠部とアウタケース11との間に収容するように圧縮コイルバネで成る付勢部材Sを備える。このように切欠部に対して圧縮コイルバネで成る付勢部材Sを収容することにより、第1係合部31と第1ガイド面G1との接触長を長くする構成を作用でき、安定的な摺動を実現する。また、一対の連係部材30が、連結部30Aで連結されることから一対の連係部材30を一体的に変位させ、各々の連係部材30の円滑な作動を実現する。
【0063】
(e)
図10に示すように、前述した別実施形態(d)の構成に加えて、第2方向に沿う付勢力を作用させる付勢部材Sを係合突起22Tと連係部材30との間に備えている。具体的な構成として、第1方向に沿って一対の連係部材30を配置し、これらを連結部30Aにより連結した構成を有している。また、連係部材30の切欠部(第1係合部31)に形成した切欠部に対して第1方向に付勢力を作用させる圧縮コイルバネで成る付勢部材Sを用いている。更に、リングギヤ21に対してインナギヤ22が第2方向に付勢力を作用させるための付勢部材Sを備えている。
【0064】
このように、一対の連係部材30が連結部30Aで連結されるため、これらが連係して円滑な作動を行うと共に、第1方向に付勢力を作用させる付勢部材Sと、第2方向に付勢力を作用させる付勢部材Sとの付勢力の作用により偏心軸芯Yが安定する位置を、第1方向と第2方向との中間の領域に設定でき、付勢部材Sの付勢力によって偏心軸芯Yが公転する角度を小さくできる。
【0065】
(f)前述した実施形態、及び、別実施形態では、連係部材30を駆動側回転体Aの外周側から中心に方向に向けて押し出すように付勢部材Sの付勢形態を設定していたが、これに代えて、引っ張りコイルバネ等を用いることにより、一対の連係部材30を駆動側回転体Aの外周に引き寄せるように構成しても良い。