(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部に前記輝度差閾値が複数設定され、該制御部は、前記表示部に各輝度差閾値と前記輝度差との関係に応じて異なる前記通知表示を表示させるように構成されている、請求項1に記載の冷延鋼帯の洗浄設備。
前記輝度差閾値を複数設定し、前記メンテナンスを実施する際に各輝度差閾値と前記輝度差との関係に応じ、異なる内容の前記メンテナンスを実施する、請求項4に記載の冷延鋼帯の洗浄方法。
【背景技術】
【0002】
熱延鋼帯を所定の板厚まで冷間圧延することで得られる冷延鋼帯(以下、単に「鋼帯」ともいう)は、焼鈍設備において焼鈍処理されることが一般的である。一方、鋼帯表面には冷間圧延時に噴射される圧延油や、鉄粉、塵埃等が付着しており、通常は焼鈍処理の前に圧延油等の付着物を除去するために鋼帯が洗浄される。鋼帯の洗浄が不十分であると、製品品質に悪影響を与えることが懸念される。
【0003】
従来の鋼帯の洗浄装置には、アルカリ溶液等の洗浄液に鋼帯を浸漬させてブラシスクラバーで鋼帯表面の付着物を除去する特許文献1に示す装置や、洗浄液を鋼帯表面に噴射して付着物を除去する特許文献2に示す装置がある。
【0004】
これらの洗浄装置では、作業者が所定の頻度で鋼帯表面が適切に洗浄されているか否かについて洗浄度評価を実施していた。鋼帯の洗浄度評価は、例えば洗浄後の鋼帯表面の付着物の有無を目視で確認する目視チェックや、洗浄後の鋼帯表面にテープを貼り、剥がしたテープに付着する鉄粉等の量を目視確認するテープテストによって行われる。
【0005】
一方、洗浄度評価は、焼鈍設備の入側に設けられたルーパーの鋼帯蓄積量や鋼帯を払い出すコイルの残長等を考慮して行う必要があり、洗浄度評価を実施するタイミングには制限がある。また、作業者の主観による洗浄度評価は、評価結果にバラつきが生じることが懸念される。このため、洗浄度評価の実施タイミングが制限されずに定量的な洗浄度評価を実施することが望まれる。
【0006】
これに対し、特許文献3では、洗浄後の鋼帯表面の輻射率または色調を計測する洗浄装置が開示されている。特許文献3の洗浄装置は、鋼帯の電解洗浄を行う電解槽と、鋼帯表面の付着物を除去するブラシスクラバーと、鋼帯表面に残存する洗浄液を除去するリンスタンクとを備えており、リンスタンクの下流側には洗浄後の鋼帯表面の輻射率または色調を計測するセンサーが設けられている。特許文献3の洗浄装置では、計測された輻射率または色調に基づいて鋼帯表面の鉄粉残存量が推定され、これにより鋼帯の洗浄度評価がなされている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る冷延鋼帯Sの洗浄設備1は、例えば冷延鋼帯Sの連続焼鈍ラインに配置される。
図1に示すように、第1の実施形態に係る洗浄設備1は、走行方向Tに沿って走行する鋼帯Sを洗浄する洗浄装置10と、洗浄装置10の入側に設けられた輝度計(以下、「入側輝度計20」という)と、洗浄装置10の出側に設けられた輝度計(以下、「出側輝度計30」という)を備えている。洗浄装置10の下流側には鋼帯Sを蓄積するルーパー80が設けられ、ルーパー80に蓄積される鋼帯Sはその後焼鈍設備に向かう。第1の実施形態における出側輝度計30は、ルーパー80の入側近傍に配置されている。
【0018】
洗浄装置10は、鋼帯Sの走行方向Tに沿って順に、鋼帯Sの電解洗浄を行う電解タンク11と、鋼帯表面に残存する圧延油や鉄粉等の付着物を除去するブラシスクラバー12と、鋼帯表面に残存する洗浄液を洗い落すリンスタンク13と、鋼帯表面を乾燥させるドライヤー14とを備えている。電解タンク11には洗浄液として苛性ソーダ等のアルカリ溶液が貯留している。ブラシスクラバー12では、上下一対のブラシロールが走行方向Tに沿って複数配置され、洗浄液を鋼帯Sに噴射する機構(図示省略)を有している。リンスタンク13には温水が貯留している。
【0019】
入側輝度計20は、洗浄装置10の入側において電解タンク11に向かう鋼帯Sの表面に対向するように設けられている。同様に出側輝度計30は、ルーパー80の入側において鋼帯Sの表面に対向するように設けられている。入側輝度計20および出側輝度計30は、CCDセンサを内蔵する輝度計であり、撮像範囲内の各画素で測定される輝度の平均値を輝度測定値として出力するタイプのものである。なお、輝度計は、CCDセンサタイプのものに限定されず、例えばCMOSセンサタイプの輝度計を用いても良い。
【0020】
洗浄設備1は、入側輝度計20や出側輝度計30に対して鋼帯表面の輝度の測定開始や測定終了を命令する制御部40も備えている。なお、制御部40は、例えば洗浄設備1を制御するための制御装置として単体で設けられていても良いし、洗浄設備1や連続焼鈍ライン全体の稼働状態を管理する管理コンピュータとして設けられていても良い。
【0021】
制御部40は、入側輝度計20から出力される輝度測定値(以下、「入側輝度」という)および出側輝度計30から出力される輝度測定値(以下、「出側輝度」という)を読み込み、出側輝度と入側輝度との差(以下、「輝度差」という)を算出する機能を有している。また、制御部40は、入側輝度の出力間隔および出側輝度の出力間隔も制御することができる。
【0022】
輝度差を算出する場合、例えば任意の時間tにおいて測定された入側輝度および出側輝度を用いて計算される。このように輝度差を算出する場合、鋼帯表面上における出側輝度の測定箇所は、鋼帯表面上における入側輝度の測定箇所の洗浄後の箇所ではないことから、任意の時間tにおいて測定された入側輝度および出側輝度を用いて算出される輝度差は、厳密には鋼帯表面の同一箇所における洗浄前後の輝度差ではない。しかし、入側輝度計20と出側輝度計30の間の鋼帯長さはそれほど長くなく、その間の鋼帯表面の汚れの程度も同程度であることから、任意の時間tにおいて測定された出側輝度および入側輝度から算出される輝度差と、鋼帯表面の同一箇所における洗浄前後の輝度差との間に大きな差異はない。このため、任意の時間tにおいて測定された出側輝度および入側輝度から算出される輝度差を用いて洗浄能力評価を実施しても特段問題は生じない。なお、入側輝度計20から出側輝度計30までの鋼帯長さや通板速度等を考慮し、入側輝度の測定位置が出側輝度計30に到達するタイミングを算出して同一箇所の輝度差を比較できるような制御を実施しても良い。
【0023】
制御部40は、輝度差と、輝度差に関して予め設定された閾値(以下、「輝度差閾値」という)との対比判定を行う機能も備えている。なお、「輝度差閾値」は、洗浄対象となり得る鋼帯Sの表面汚れの程度や、洗浄装置10が本来有する最大の洗浄能力、洗浄装置10の連続稼働による洗浄能力の低下の程度等を勘案して適宜設定される値である。輝度差閾値は、例えば輝度差が当該閾値を下回ると洗浄能力の低下が著しくなり、鋼帯Sの洗浄品質に悪影響を及ぼすような値に設定される。洗浄装置10の洗浄能力の低下に因る鋼帯Sの洗浄品質の低下が起こらないように値を設定することが好ましい。また、制御部40への輝度差閾値の設定は、例えばオペレーターが制御部40として機能するパソコン等に直接入力することで設定されても良いし、鋼帯情報等の各種情報に基づいて制御部40により算出された値が設定されても良い。
【0024】
制御部40は、上記対比判定を行った結果、出側輝度と入側輝度の輝度差が予め設定された輝度差閾値未満となった場合に、予め設定された所定の通知表示をパソコンのディスプレイ等の表示部50に表示させる機能を有している。「通知表示」とは、洗浄装置10の洗浄能力が低下していることを示すメッセージや記号等のことである。例えば通知表示として所定のメッセージを表示部50に表示する場合には“WARNING”や“洗浄能力低下”等の通知メッセージが表示部50に表示され、洗浄装置10の使用を続けることで鋼帯Sの洗浄品質に悪影響を及ぼす旨をオペレーターに通知する。
【0025】
第1の実施形態に係る洗浄設備1は以上のように構成されている。次に、この洗浄設備1を用いた冷延鋼帯Sの洗浄方法について説明する。
【0026】
ペイオフリール(図示省略)から払い出されて洗浄設備1に到達する冷延鋼帯Sは、
図1に示すように、まず洗浄装置10の電解タンク11内を通過する。ここでは鋼帯Sの電解洗浄が実施される。即ち、洗浄液に鋼帯Sが浸漬した状態で洗浄液の電気分解が行われ、鋼帯表面に酸素や水素の気泡を発生させることにより鋼帯表面に付着する圧延油や鉄粉等の付着物を浮き上がらせる。これにより、鋼帯表面に付着した付着物だけでなく、鋼帯表面の微細な溝に入り込んだ付着物も除去することができる。電解タンク11を通過した鋼帯Sは、次にブラシスクラバー12に進む。ブラシスクラバー12では、鋼帯Sに洗浄液が噴射され、回転するブラシロールによって鋼帯表面に残存する付着物が物理的に除去される。ブラシスクラバー12を通過した鋼帯Sは、次にリンスタンク13内を通過する。ここで鋼帯Sがリンスタンク13に貯留する温水内を通過することによって、鋼帯表面に残存する洗浄液が洗い落される。リンスタンク13を通過した鋼帯Sは、その後ドライヤー14により乾燥される。この乾燥工程を終えることで冷延鋼帯Sの洗浄工程が終了となる。洗浄装置10を通過した鋼帯Sは、その後ルーパー80を介して焼鈍設備(図示省略)に向かう。
【0027】
鋼帯Sの洗浄工程は上述の流れで進むが、第1の実施形態の洗浄設備1においては鋼帯Sの洗浄中に
図1に示す制御部40で
図2に示すような制御が実施される。これにより洗浄装置10の洗浄能力の評価が行われる。以下、
図2を参照しながら洗浄設備1の制御フローについて説明する。なお、以下の説明で示される符号の内、
図2に表記がない符号は
図1に示されている。
【0028】
まず、制御部40はステップS101として、入側輝度計20および出側輝度計30に対して鋼帯表面の輝度測定を開始させる。このとき制御部40は、入側輝度計20および出側輝度計30に対して例えば1秒間隔で輝度測定値を出力させるように制御する。なお、鋼帯表面の輝度測定値は、鋼帯表面の汚れ具合によって値が異なってくる。例えば鋼帯表面が酷く汚れている場合は鋼帯表面の反射率が小さくなり、測定される輝度が小さくなる。一方、鋼帯表面がそれほど汚れていない場合は鋼帯表面の反射率が大きくなり、測定される輝度が大きくなる。
【0029】
次に、制御部40はステップS102として、出側輝度と入側輝度の輝度差を算出する。前述の通り、鋼帯表面の輝度の大きさは表面の汚れの程度と相関があることから、洗浄装置10によって鋼帯表面の汚れが落ちたならば出側輝度は入側輝度に対して大きくなる。即ち、出側輝度と入側輝度との輝度差が大きければ、洗浄装置10の洗浄能力が十分に発揮されていることになる。
【0030】
そこで、制御部40はステップS103として、出側輝度と入側輝度から算出された輝度差と予め設定された輝度差閾値との対比を行い、どちらの値が大きいか判定する。ステップS103の判定において輝度差が輝度差閾値以上である場合、制御部40は洗浄装置10の洗浄能力が十分発揮されていると判断し、洗浄能力評価を終了する。
【0031】
一方、ステップS103の判定において輝度差が輝度差閾値未満である場合、制御部40は洗浄装置10の洗浄能力が低下していると判断し、ステップS104として、通知表示の一例である警告メッセージを表示部50に表示させる。このとき表示される警告メッセージにより、オペレーターは洗浄装置10の洗浄能力が低下していることを認識することができる。
【0032】
洗浄能力の低下を認識したオペレーターは、洗浄能力を回復させるために洗浄装置10のメンテナンスを実施する。洗浄装置10のメンテナンスは、例えば輝度差と輝度差閾値との差に応じて、電解洗浄における電解電流の調節や、電解タンク11への洗浄液の添加による電解液濃度の調節、あるいは鋼帯Sに対するブラシロールの押し付け力を調節するといった作業が行われる。これらの作業はどれか1つだけ実施されても良いし、複数組み合わせても良い。例えば、輝度差が輝度差閾値をわずかに下回る場合には電解電流の調節のみの作業で洗浄能力を回復させることとし、輝度差が輝度差閾値を大きく下回る場合には電解電流の調節に加えて更に電解タンク11に洗浄液を添加しても良い。
【0033】
制御部40は、ステップS104において表示部50に通知メッセージを表示させた後、洗浄装置10の洗浄能力評価を終了する。なお、前述の通り、ステップS101では、入側輝度計20および出側輝度計30から所定の間隔で輝度測定値が出力される。このため制御部40は、それら各輝度測定値を用いてステップS101〜S104に係る制御を繰り返し実行する。これにより、洗浄設備の稼働中に洗浄能力評価が繰り返し行われる。
【0034】
以上説明した通り、第1の実施形態に係る洗浄設備1は、洗浄装置10の入側と出側においてそれぞれ輝度計を設けたことにより、洗浄装置10の入側と出側における鋼帯表面の輝度差を算出することが可能となる。これにより、洗浄装置10の洗浄能力を把握することが可能となり、鋼帯Sの洗浄品質に悪影響を及ぼす前に洗浄能力を回復する洗浄装置10のメンテナンスを行うことができる。その結果、鋼帯Sの洗浄品質を良好に保つことができる。
【0035】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る洗浄設備1は、洗浄能力の低下状況をより詳細に把握することを可能にする。第2の実施形態における洗浄設備1は、
図1に示す第1の実施形態に係る洗浄設備1と同様の構成を有しているが、第2の実施形態では、制御部40に輝度差閾値Aおよび輝度差閾値Bといった2つの閾値が設定されている。輝度差閾値Aは、輝度差閾値Bよりも小さい値であり、例えば輝度差が当該閾値を下回ると洗浄能力の低下が著しくなり、鋼帯Sの洗浄品質に著しい悪影響を及ぼすような値に設定される。また、輝度差閾値Bは、例えば輝度差が当該閾値を下回ると洗浄能力の低下がある程度認められ、輝度差閾値Aを下回る場合ほどではないが鋼帯Sの洗浄品質に悪影響を及ぼすような値に設定される。
【0036】
また、制御部40には、通知表示のパターンが複数設定され、各輝度差閾値A,Bと輝度差との関係に応じて異なる通知表示を表示部50に表示させる機能を有している。以下、
図3を用いて第2の実施形態に係る制御部40の制御フローについて説明する。なお、以下の説明で示される符号のうち、
図3に表記がない符号は
図1に示されている。
【0037】
まず、
図3に示すステップS101及びステップS102では、制御部40は第1の実施形態におけるステップS101及びステップS102と同様の制御を行う。続いて、制御部40は、ステップS103として鋼帯表面の輝度差と予め設定された輝度差閾値Aとの対比を行い、どちらの値が大きいか判定する。
【0038】
ステップS103の判定において輝度差が輝度差閾値Aを下回るような場合、制御部40は洗浄装置10の洗浄能力が著しく低下していると判断し、ステップS104として通知表示の一例である警告メッセージを表示部50に表示させる。このとき表示される警告メッセージは、洗浄装置10の洗浄能力の回復を強く促すことを警告するものであり、オペレーターは警告メッセージを見て洗浄装置10の洗浄能力が著しく低下していることを認識する。そして、洗浄能力の著しい低下を認識したオペレーターは、洗浄能力を回復させる洗浄装置10のメンテナンスを開始する。例えば電解洗浄における電解電流を大きくしたり、電解タンク11への洗浄液の添加、鋼帯Sに対するブラシロールの押し付け力を大きくするといった作業を組み合わせたメンテナンスが行われる。
【0039】
一方、ステップS103の判定において輝度差が輝度差閾値A以上である場合、制御部40はステップS105として輝度差と輝度差閾値Bとの対比を行い、どちらの値が大きいか判定する。
【0040】
ステップS105の判定において輝度差が輝度差閾値B以上である場合、制御部40は、洗浄装置10の洗浄能力が十分発揮されていると判断し、洗浄能力評価を終了する。
【0041】
一方、ステップS105の判定において輝度差が輝度差閾値Bを下回った場合、制御部40は洗浄装置10の洗浄能力がやや低下していると判断し、ステップS106として表示部50に注意喚起メッセージを表示させる。このとき表示される注意喚起メッセージは、ステップS104で表示されるような警告メッセージではなく、洗浄装置10の洗浄能力が低下し始めていることを知らせるものである。オペレーターはその注意喚起メッセージを見て、洗浄能力がやや低下していることを認識し、洗浄能力を回復させる洗浄装置10のメンテナンスを実施する。なお、ステップS106のメッセージが表示される場合は、ステップS104のメッセージが表示される場合よりも洗浄装置10の洗浄能力が低下しておらず、緊急性が低いため、オペレーターは電解洗浄における電解電流の調節や、電解タンク11への洗浄液の添加による電解液濃度の調節、あるいは鋼帯Sに対するブラシロールの押し付け力の調節等の作業のうち、いずれか1つの作業のみを実施することにしても良い。
【0042】
以上のように第2の実施形態に係る洗浄設備1では、洗浄装置10の洗浄能力評価に用いられる輝度差閾値を2つ設定していることで、洗浄装置10の洗浄能力の低下状況をより詳細に把握することが可能となる。これにより、洗浄装置10が現に有する洗浄能力に応じて、内容の異なるメンテナンスを実施することも可能となり、操業の自由度が向上する。
【0043】
なお、第2の実施形態では、輝度差閾値を2つ設定することとしたが、輝度差閾値の数はこれに限定されない。即ち、制御部40に輝度差閾値が複数設定され、当該制御部40が輝度差と輝度差閾値の関係に応じて、内容の異なる通知表示を表示部50に表示させるように構成されていれば、第2の実施形態で説明した効果を享受することができる。
【0044】
(第3の実施形態)
洗浄装置10の洗浄能力を十分に発揮できたとしても洗浄装置10の洗浄能力には限界があることから、洗浄前の段階でそれほど汚れていない鋼帯Sを洗浄する場合の洗浄効果は、洗浄前の段階で酷く汚れている鋼帯Sを洗浄する場合に比べて小さくなる。即ち、洗浄前の段階でそれほど汚れていない鋼帯Sを洗浄する場合には、出側輝度と入側輝度の輝度差が小さくなる傾向にある。このため、輝度差のみに着目した洗浄能力評価を行うと、洗浄前の鋼帯Sがそれほど汚れていない場合において輝度差が小さく算出されることによって、洗浄装置10が十分な洗浄能力を有しているにも関わらず制御部40により洗浄装置10の洗浄能力が低下していると判定される。この場合、本来必要でないメンテナンスを実施してしまうことも考えられる。そこで、本発明の第3の実施形態に係る洗浄設備1は、洗浄装置10の洗浄能力をより正確に評価することを可能にし、メンテナンス作業を適切なタイミングで行うことを可能にする。
【0045】
第3の実施形態に係る洗浄設備1は、
図1に示す第1の実施形態に係る洗浄設備1と同様の構成を有しているが、第3の実施形態の制御部40は、入側輝度と、入側輝度に関して予め設定された閾値(以下、「入側輝度閾値」という)との対比を行い、どちらの値が大きいか判定する機能を有している。なお、「入側輝度閾値」は、洗浄装置10が本来有する最大の洗浄能力や、洗浄対象となり得る鋼帯Sの表面汚れの程度等を勘案して適宜決定される値である。入側輝度閾値は、例えば入側輝度が当該閾値以上になると、鋼帯Sの汚れの程度が小さいために十分な洗浄能力を有する洗浄装置10であっても洗浄効果が小さくなるような値に設定される。なお、制御部40への入側輝度閾値の設定は、例えばオペレーターが制御部40として機能するパソコン等に直接入力することで設定されても良いし、鋼帯情報等の各種情報に基づいて制御部40により算出された値が設定されても良い。
【0046】
以下、
図4を用いて第3の実施形態に係る制御部40の制御フローについて説明する。なお、以下の説明で示される符号のうち、
図4に表記がない符号は
図1に示されている。
【0047】
まず、
図4に示すステップS101〜ステップS103では、制御部40は第1の実施形態におけるステップS101〜ステップS103と同様の制御を行う。
【0048】
ステップS103の判定において輝度差が輝度差閾値以上である場合、制御部40は洗浄装置10の洗浄能力が十分発揮されていると判断し、洗浄能力評価を終了する。一方、ステップS103の判定において輝度差が輝度差閾値未満である場合、制御部40はステップS107として、入側輝度と入側輝度閾値とを対比し、どちらの値が大きいか判定する。
【0049】
ステップS107の判定において入側輝度が入側輝度閾値以上である場合、制御部40は、洗浄中の鋼帯Sが洗浄前からそれほど汚れていないためにステップS103において輝度差が小さくなったと判断し、洗浄能力評価を終了する。
【0050】
一方、ステップS107の判定において入側輝度が入側輝度閾値未満である場合、制御部40は、洗浄装置10の洗浄能力が低下していると判断し、ステップS108として表示部50に警告メッセージを表示させる。このとき表示される警告メッセージによってオペレーターは洗浄装置10の洗浄能力が低下していることを認識し、洗浄能力を回復させる洗浄装置10のメンテナンスを行う。
【0051】
以上のように第3の実施形態における洗浄設備1では、制御部40が入側輝度と入側輝度閾値との対比判定を行う機能を有しているため、洗浄前の鋼帯Sの汚れの程度を考慮した上で洗浄装置10の洗浄能力評価を行うことが可能になる。これにより、洗浄装置10のメンテナンスが実際に必要なタイミングで適切に洗浄装置10のメンテナンスを実施することができる。
【0052】
なお、第3の実施形態の説明では、輝度差閾値を1つ設定することとしたが、輝度差閾値は、
図3に示す第2の実施形態で説明したように複数設けても良い。例えば
図3に示すステップS103とステップS104の間、および、ステップS105とステップS106の間でそれぞれ
図4に示すステップS107を実行するような制御を行えば、第2の実施形態で説明した効果と第3の実施形態で説明した効果を組み合わせた効果を享受することができる。
【0053】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0054】
例えば、上記第1〜第3の実施形態では洗浄装置10を電解タンク11、ブラシスクラバー12、リンスタンク13、ドライヤー14で構成することとしたが、洗浄装置10の構成はこれに限定されない。
【0055】
また、上記第1〜第3の実施形態では、洗浄装置10の入側および出側で鋼帯Sの輝度を測定するために、測定した輝度を制御部40に出力する輝度計を用いたが、輝度計を用いずに鋼帯Sの輝度を測定しても良い。例えば洗浄装置10の入側および出側に鋼帯表面を撮像する撮像装置をそれぞれ配置し、各撮像装置で撮像された画像を任意の制御部に送信して当該制御部で画像処理することで鋼帯Sの輝度を測定しても良い。ここでいう制御部は、
図1に示す制御部40であっても良いし、
図1に示す制御部40とは異なる他の制御部(図示省略)であっても良い。即ち、洗浄装置10の入側に鋼帯表面の輝度を測定する輝度測定装置(入側輝度測定装置)が設けられ、同様に洗浄装置10の出側に鋼帯表面の輝度を測定する輝度測定装置(出側輝度測定装置)が設けられていれば、上記第1〜第3の実施形態で説明した効果を享受することができる。
【0056】
また、洗浄装置10のメンテナンスは、オペレーターの操作により開始されても良いし、制御部40により自動開始されても良い。制御部40で自動的にメンテナンスを開始する場合、表示部50には例えば“メンテナンス開始”といった洗浄装置10のメンテナンス動作が開始された旨の通知メッセージが表示される。
【実施例】
【0057】
輝度差閾値としての好ましい値を求めるため、
図1に示す構成の洗浄設備を用いて冷延鋼帯の洗浄を実施し、洗浄装置の入側と出側における鋼帯表面の輝度を測定した。輝度の測定条件は次の通りである。管長2500mm、150Wの蛍光灯を長手方向が鋼帯の幅方向に沿うように鋼帯表面から1〜3m離した位置に設置し、洗浄装置の入側および出側に配置する輝度計として株式会社キーエンス製CV−2500を使用した。各輝度計は、測定範囲が鋼帯の中央部となるように設置され、各輝度計で測定される輝度測定値は1秒毎に出力される設定とした。なお、本実施例では洗浄能力が低下していない洗浄装置を用いて鋼帯の洗浄を実施している。
【0058】
上記測定条件で測定された輝度測定値を用いて、出側輝度を横軸、出側輝度と入側輝度の輝度差を縦軸として
図5に鋼帯品質との関係をグラフ化した。なお、
図5では、出側輝度と鋼帯の洗浄度との関係から得られる鋼帯品質に影響を与える閾値(以下、「出側輝度閾値」という)を図示している。上記測定条件の下で導かれる出側輝度閾値は50cd/m
2と40cd/m
2である。出側輝度が50cd/m
2以上の鋼帯は電清不良欠陥が発生せず、品質に関して特段問題がない安全領域にある鋼帯である。出側輝度が40cd/m
2以上、50cd/m
2未満の鋼帯は、外観厳格材などの自動車用外板材としての使用は好ましくないが、他の用途においては特段問題がなく、品質に関して注意を要する注意領域にある鋼帯である。出側輝度が40cd/m
2未満の鋼帯は電清不良欠陥が発生し、品質に関して著しく劣る警告領域にある鋼帯である。
【0059】
図5に示すように出側輝度と入側輝度の輝度差が小さくなりすぎた場合には、鋼帯が十分に洗浄されず、品質に関して安全領域にあった鋼帯が注意領域あるいは警告領域に移動してしまうことが想定される。本実施例の結果を考慮すると、鋼帯表面の汚れの程度に関わらず良好な洗浄品質を維持することが可能な好ましい輝度差閾値は、18cd/m
2であることがわかる。
【0060】
即ち、輝度差が18cd/m
2未満となった場合は、洗浄能力を回復させる洗浄装置のメンテナンスを実施することで鋼帯の洗浄品質を良好に保つことが可能となる。また、輝度差が更に小さくなり、10cd/m
2未満となるような場合は鋼帯の洗浄品質が著しく劣ることになるため、電解電流の増大や電解タンクへの洗浄液の添加等の複数の作業を組み合わせたメンテナンスを行うことが好ましい。