(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
超音波探触子を用い、被検体内の特定部位に超音波を集中させるプッシュパルスを送信して特定部位にある組織を物理的に押圧した後検出波の送受信を被検体内に対して繰り返し行うことで、押圧された特定部位の組織を振動源とするせん断波の伝播速度を検出する超音波診断装置であって、
プッシュパルスを送信するプッシュパルス送信部と、
前記プッシュパルスに続き平面波を検出波として被検体内の着目領域へ複数回送信し、検出波に対応する被検体からの反射検出波を受信して複数の受信信号を時系列に生成する検出波送受信部と、
前記反射検出波の受信時刻のそれぞれにおける、前記プッシュパルスに起因するせん断波による前記着目領域内の組織の変位を前記複数の受信信号からそれぞれ検出する変位検出部と、
前記変位検出部が検出した変位に基づいて前記着目領域内におけるせん断波の伝播速度を検出するせん断波解析部と
を備え、
前記検出波送受信部は、プッシュパルスに続く一連の検出波の送信において、連続する2つの検出波の送信間隔が、第1の送信間隔と、前記第1の送信間隔より長い第2の送信間隔とを少なくとも含むように、検出波を送信する
ことを特徴とする超音波診断装置。
前記検出波送受信部は、前記プッシュパルスの送信時刻からの経過時間が所定時間以下である場合は前記第1の送信間隔で検出波を送信し、前記プッシュパルスの送信時刻からの経過時間が所定時間を超えた場合は前記第2の送信間隔で検出波を送信する
請求項1に記載の超音波診断装置。
前記検出波送受信部は、前記プッシュパルスに続いてすでに送信した検出波の回数が所定回数以下である場合は前記第1の送信間隔で検出波を送信し、前記プッシュパルスに続いてすでに送信した検出波の回数が所定回数を超えた場合は前記第2の送信間隔で検出波を送信する
請求項1に記載の超音波診断装置。
前記検出波送受信部は、前記プッシュパルスの送信前において前記せん断波解析部が保持しているせん断波の伝播速度からせん断波の位置を推定し、せん断波の推定位置が前記着目領域の外部である場合に検出波を送信しない
ことを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
前記検出波送受信部は、せん断波の速度および/または位置を推定する場合において、保持しているせん断波の伝播速度のうち、前記プッシュパルスが集中する焦点の深さに関する情報を用いる
ことを特徴とする請求項4から7のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
超音波探触子を用い、被検体内の特定部位に超音波を集中させるプッシュパルスを送信して特定部位にある組織を物理的に押圧した後検出波の送受信を被検体内に対して繰り返し行うことで、押圧された特定部位の組織を振動源とするせん断波の伝播速度を検出する超音波信号処理方法であって、
プッシュパルスを送信し、
前記プッシュパルスに続き平面波を検出波として被検体内の着目領域へ複数回送信し、検出波に対応する被検体からの反射検出波を受信して複数の受信信号を時系列に生成し、
前記反射検出波の受信時刻のそれぞれにおける、前記プッシュパルスに起因するせん断波による前記着目領域内の組織の変位を前記複数の受信信号からそれぞれ検出し、
検出した前記変位に基づいて前記着目領域内におけるせん断波の伝播速度を検出する
処理を含み、
プッシュパルスに続く一連の検出波の送信において、連続する2つの検出波の送信間隔が、第1の送信間隔と、前記第1の送信間隔より長い第2の送信間隔とを少なくとも含むように、検出波を送信する
ことを特徴とする超音波信号処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪発明を実施するための形態に至った経緯≫
発明者は、せん断波を用いて組織の硬さの測定を行う超音波診断装置において、測定精度の低下を抑止しながら平面波たる検出波の送受信頻度を低下させるために各種の検討を行った。なお、本開示では、平面波を検出波として用いる場合について検討を行っている。これは、平面波を検出波として用いる場合、1送信で着目領域全域に対して超音波の送受信が行えるため、検出波の送信頻度を変位検出のためのBモード画像のフレームレートより高くする必要がないためである。
【0010】
上述したように、検出波の送受信頻度が高くなると、超音波探触子が発熱する。特に、検出波の送受信頻度が高い状態を長時間維持すると、超音波探触子が発熱しやすい。また、検出波として平面波を用いる場合には、焦点波を検出波として用いる場合と比べ、超音波送信に用いる振動子の数が多く、より発熱量が大きい。その結果、超音波探触子の発熱によって短時間に超音波探触子の温度上限に達する可能性があり、超音波診断装置の連続動作の妨げになっている。この問題を解決するためには超音波探触子が発熱量を減らす、および/または発熱時間を短縮・低頻度化する必要がある。したがって、検出波の送受信頻度を削減し、および/または、検出波の送受信頻度が高い状態が維持される時間を短縮することが好ましい。また、送受信回数が増加すると、取得される受信信号が比例して増加するため、演算量が膨大となる。演算量が増加すると超音波診断装置がユーザ(検査者)に結果を提示するための所要時間が長くなり、結果のリアルタイム性が低下し、使い勝手の低下に結びつくこととなる。
【0011】
一方で、検出波の送受信頻度を単純に低下させると、せん断波の伝播解析において時間解像度が低下する。結果として、せん断波の速度が時間方向および空間方向に平均化され、小さな硬い異物を発見しづらくなる、硬い組織と周辺組織との界面が不明瞭になる、など、測定精度の低下に結びつくこととなる。また、検出波の送受信時間を単純に短縮すると、着目領域の範囲が狭小化することとなる。これは、せん断波の速度が組織の硬さに依存するため、観測時間を短縮すれば、当然に観測時間中にせん断波が移動する範囲が狭くなるためである。
【0012】
そこで、発明者は、上記課題に鑑み、せん断波の速度検出精度と着目領域の面積とに影響を与えないように検出波の送受信頻度を低下させる技術について実施の形態に係る超音波診断装置に相当するに至ったものである。
以下、実施の形態に係る超音波診断装置について図面を用いて詳細に説明する。
≪実施の形態≫
実施の形態に係る超音波診断装置1のブロック図を
図1に示す。超音波診断装置1は、制御部11、せん断波励起部12、超音波信号取得部13、変位検出部14、伝播解析部15、断層画像記憶部16、変位量記憶部17、波面画像記憶部18、弾性画像記憶部19を備える。また、制御部11には、超音波探触子2と表示部3とがそれぞれ接続可能に構成されている。
図1は超音波診断装置1に超音波探触子2、表示部3が接続された状態を示している。
【0013】
超音波探触子2は、例えば、一次元方向に配列された複数の振動子(不図示)を有する。各振動子は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)により構成される。超音波探触子2は、せん断波励起部12で生成された電気信号(以下、「ARFI駆動信号」と呼ぶ)、または、超音波信号取得部13で生成された電気信号(以下、「検出駆動信号」と呼ぶ)を制御部11から受け取り、超音波に変換する。超音波探触子2は、超音波探触子2の振動子側外表面を被検体の皮膚表面など表面に接触させた状態で、ARFI駆動信号又は検出駆動信号から変換され、複数の振動子から発せられる複数の超音波からなる超音波ビームを被検体内の測定対象に向けて送信する。そして、超音波探触子2は、検出駆動信号に基づく送信検出波に対する、測定対象からの複数の反射検出波を受信し、複数の振動子によりこれら反射超音波をそれぞれ電気信号(以下、「素子受信信号」と呼ぶ)に変換し、制御部11を介して素子受信信号を超音波信号取得部13に供給する。なお、ここではせん断波励起部12及び超音波信号取得部13を別構成として説明しているが、超音波信号取得部13の検出駆動信号を生成する構成と同一の構成により、ARFI駆動信号を生成してもよい。
【0014】
せん断波励起部12は、プッシュパルスを超音波探触子2に送出させるための電気信号であるARFI駆動信号を生成する。プッシュパルスとは、被検体内にせん断波を発生させるため、被検体内の組織に変位をもたらすためのパルス状の超音波である。具体的には、被検体内の着目領域内のある1点を焦点とする、波数が後述する送信超音波より多い超音波である。したがって、ARFI駆動信号は、超音波探触子2を構成する各振動素子から送出される超音波が焦点に届くように生成される、振動素子ごとにタイミングの異なるパルス状の電気信号である。
【0015】
超音波信号取得部13は、送信検出波を超音波探触子2に送出させるための電気信号である検出駆動信号を生成する。検出駆動信号は、超音波探触子2を構成する各振動素子から送出される検出波の波面が、進行方向に対して直交する平面となるように生成される電気信号である。具体的には、すべての振動子の駆動タイミングが同一となるように、または、振動子列の一方の端から他方の端まで固定ピッチで段階的に動作タイミングをずらした、検出駆動信号を生成する。これにより、送信検出波は着目領域全体にいきわたるように送信される。また、超音波信号取得部13は、反射検出波に基づく素子受信信号に整相加算を行って、着目領域全体の音響線信号を生成する。超音波信号取得部13は、生成した音響線信号を、制御部11を介して断層画像記憶部16に出力する。超音波信号取得部13は、所定のプロファイルに従って検出駆動信号を制御部11に出力することで、所定のタイミングで検出波を繰り返し送信させる。詳細は後述する。
【0016】
変位検出部14は、変位検出の対象となる1つの断層画像に係る複数の音響線信号(以下、「断層画像信号」と呼ぶ)と、基準となる1つの断層画像に係る複数の音響線信号(以下、「基準断層画像信号」と呼ぶ)とを、制御部11を介して断層画像記憶部16から取得する。基準断層画像信号とは、断層画像信号からせん断波による変位を抽出するために用いるものであり、具体的には、プッシュパルス送出前に着目領域を撮像した断層画像信号である。そして、変位検出部14は、断層画像信号と基準断層画像信号との差分から、断層画像信号の各画素の変位を検出し、変位を各画素の座標と関連付けて変位画像を生成する。変位検出部14は、生成した変位画像を、制御部11を介して変位量記憶部17に出力する。
【0017】
伝播解析部15は、変位画像を、制御部11を介して変位量記憶部17から取得する。伝播解析部15は、変位画像から、変位画像を取得した各時刻における、せん断波の波面の位置、進行方向および速度を検出し、波面画像を生成する。伝播解析部15は、せん断波の波面の位置、進行方向および速度から、変位画像の各画素に対応する被検体組織の弾性率を算出し、弾性画像を生成する。伝播解析部15は、生成した波面画像を波面画像記憶部18に、弾性画像を弾性画像記憶部19に、制御部11を介してそれぞれ出力する。
【0018】
制御部11は、上述したような各構成要素の制御に加え、伝播解析部15が生成した弾性画像を表示部3に出力する。
断層画像記憶部16、変位量記憶部17、波面画像記憶部18、弾性画像記憶部19は、それぞれ、断層画像、変位画像、波面画像、弾性画像データを記憶する。断層画像記憶部16、変位量記憶部17、波面画像記憶部18、弾性画像記憶部19のそれぞれは、例えば、RAM、フラッシュメモリ、ハードディスク、光学ディスクなどの記憶媒体で実現される。なお、断層画像記憶部16、変位量記憶部17、波面画像記憶部18、弾性画像記憶部19のうち2以上を単一の記憶媒体で実現してもよい。また、断層画像記憶部16、変位量記憶部17、波面画像記憶部18、弾性画像記憶部19のうち1以上は、超音波診断装置1の外部に構成され、USBやeSATAなどのインターフェースを介して超音波診断装置1と接続されてもよいし、超音波診断装置1からネットワークを介してアクセス可能に構成された資源、例えば、ファイルサーバやNAS(Network Attached Storage)であってもよい。
【0019】
制御部11、せん断波励起部12、超音波信号取得部13、変位検出部14、伝播解析部15のそれぞれは、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Ingegrated Circuit)などのハードウェアにより実現される。なお、これらの一部または全部は、単一のFPGA、または、ASICで実現されてもよい。また、これらは、それぞれ個別に、または、2以上を1まとめとして、メモリと、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)などのプログラマブルデバイスとソフトウェアで実現されてもよい。
【0020】
<動作>
実施の形態1に係る超音波診断装置1の動作について説明する。
図2は、超音波診断装置1全体の動作を示すフローチャートである。
まず、制御部11が、着目領域を設定する(ステップS10)。着目領域を設定する方法は、例えば、表示部3に断層画像記憶部16に記録されている最新の断層画像を表示し、タッチパネル、マウス、トラックボールなどの入力部(図示しない)を通して検査者に着目領域を指定させる。なお、着目領域の設定方法はこの場合に限られず、例えば、断層画像の全域を着目領域としてもよいし、あるいは、断層画像の中央部分を含む一定範囲を着目領域としてもよい。また、着目領域を設定する際に、改めて断層画像を取得してもよい。
【0021】
次に、被検体に超音波を送受信し、取得した受信信号を記憶する(ステップS20)。具体的には、次のような動作となる。まず、以下のように送信イベントを行う。最初に、超音波信号取得部13が、パルス状の送信信号を生成する。次に、超音波信号取得部13は、送信信号に対して、超音波探触子2の素子毎の遅延時間を設定する送信ビームフォーミングを行い、超音波探触子2の各素子に対応する複数の検出駆動信号を生成する。超音波探触子2の各振動子は対応する検出駆動信号を超音波に変換することで、超音波ビームが被検体内に送出される。次に、超音波探触子2の各振動子は、被検体内から反射された反射超音波を取得して素子受信信号に変換する。超音波信号取得部13は、素子受信信号に整相加算を行い、音響線信号を生成する。制御部11は、1回の送信イベントで生成した1つの断層画像を構成する複数の音響線信号を超音波信号取得部13から取得し、基準断層画像信号として、断層画像記憶部16に記憶する。
【0022】
次に、プッシュパルスの送信終了からの経過時間が長くなると検出波の送信間隔が長くなるように、検出波の送信プロファイルを決定する(ステップS30)。本実施の形態では、
図4(a)に示すような所定の送信プロファイルを用いる。
図4(a)は、本実施の形態に係る検出波の送信プロファイルを示すタイムチャートである。ここでは、プッシュパルス400の送信が完了した後、第1期間P1においては、検出波の送信間隔をI1とする。すなわち、第1の検出波411−1の送信後、I1の間隔を置いて第2の検出波411−2が送信される。最後に、n番目の検出波411−nが送信される。次に、第1期間P1に続く第2期間P2においては、検出波の送信間隔を、I1より長いI2とする。すなわち、検出波411−nの送信後、I2の間隔を置いて検出波412−1が送信され、さらにI2の間隔を置いて検出波412−2が送信される。最後に、検出波412−mが送信される。次に、第2期間P2に続く第3期間P3においては、検出波の送信間隔を、I2より長いI3とする。すなわち、検出波412−mの送信後、I3の間隔を置いて検出波413−1が送信される。つまり、プッシュパルス400の送信時刻と検出波の送信時刻との間の時間が長くなるに従い、段階的に送信間隔が大きくなる送信プロファイルである。より具体的には、例えば、第1期間P1は3.8msであり、送信間隔I1は100μsである(つまり、送信回数は38回である)。また、第2期間P2は3.8msであり、送信間隔I2は200μsである(送信回数は19回である)。また、第3期間P3は11.2msであり、送信間隔I3は400μsである(送信回数は28回である)。また、第4期間P4は12msであり、送信間隔I4は800μsである(送信回数は15回である)。つまり、100回の送信を30.8msかけて行う。
【0023】
続いて、プッシュパルスを送信する(ステップS40)。具体的には、せん断波励起部12が、パルス状のARFI信号を生成する。次に、せん断波励起部12は、ARFI信号に対して、超音波探触子2の素子毎の遅延時間を設定する送信ビームフォーミングを行い、超音波探触子2の各素子に対応する複数のARFI駆動信号を生成する。超音波探触子2の各振動子は対応する送信駆動信号を超音波に変換することで、プッシュパルスが被検体内に送出される。
【0024】
ここで、プッシュパルスによるせん断波の生成について、
図5(a)〜(e)の模式図を用いて説明する。
図5(a)は、着目領域に対応した被検体内領域の、プッシュパルス印加前における組織を示した模式図である。
図5(a)〜(e)において、個々の“○”は、着目領域における被検体内の組織の一部を、破線の交点は、負荷がない場合の組織”○“の中心位置を、それぞれ示している。ここで、超音波探触子2を皮膚表面100に密接させた状態で焦点101に対してプッシュパルスを印加すると、
図5(b)の模式図に示すように、焦点101に位置していた組織132が、プッシュパルスの進行方向に押されて移動する。また、組織132からプッシュパルスの進行方向側にある組織133は、組織132に押されてプッシュパルスの進行方向に移動する。次に、プッシュパルスの送信が終了すると、組織132、133が元の位置に復元しようとするので、
図5(c)の模式図に示すように、組織131〜133がプッシュパルスの進行方向に沿った振動を開始する。すると、
図5(d)の模式図に示すように、振動が組織131〜133に隣接する、組織121〜123および組織141〜143に伝播する。さらに、
図5(e)の模式図に示すように、振動がさらに組織111〜113および組織151〜153に伝播する。したがって、被検体内において、振動が振動の方向と直交する向きに伝播する。すなわち、せん断波がプッシュパルスの印加場所に発生し、被検体内を伝播する。
【0025】
図2に戻って説明を続ける。次に、着目領域に検出波を複数回送受信し、取得した複数の超音波信号を記憶する(ステップS50)。以下、
図3を用いて詳細に説明する。
図3は、ステップS50の詳細を示すフローチャートである。まず、検出波送受信部13は、第1タイマーを起動した後(ステップS51)、第1タイマーの値が、1回目の検出波の送信タイミングになるまで待機する(ステップS52)。次に、期間カウンタjを1に初期化した後(ステップS53)、第2タイマーを起動して(ステップS54)、検出波を着目領域に送信する(ステップS55)。ステップS55においては、ステップS20と同様、超音波信号取得部13は、パルス状の送信信号を生成し、送信信号に対して超音波探触子2の素子毎の遅延時間を設定する送信ビームフォーミングを行い、超音波探触子2の各素子に対応する複数の検出駆動信号を生成する。超音波探触子2の各振動子は対応する検出駆動信号を超音波に変換することで、検出波が被検体内に送出される。次に、超音波探触子2の各振動子は、被検体内から反射された反射超音波を取得して素子受信信号に変換する。超音波信号取得部13は、素子受信信号を取得して記憶する(ステップS56)。次に、超音波信号取得部13は、第1タイマーの値が、第1期間〜第j期間の長さ(ここでは、第1期間P1の長さ)を超えているかどうかを判定する(ステップS57)。1回目の検出波の送信後最初のステップS57ではNoとなるので、超音波信号取得部13は、第2タイマーの値が送信間隔Ij(ここでは、送信間隔I1)となるまで待機した後(ステップS58)、第2タイマーをゼロにリセットして(ステップS54)、検出波を着目領域に送信する(ステップS55)。つまり、ステップS54からS58のループによって検出波が繰り返し送信間隔I1で送信される。ここで、第1期間P1が完了すると、最後の検出波の送信後、ステップS57においてYesとなるので、第2期間P2が存在すれば(ステップS59でYes)、jを2にインクリメントし(ステップS61)、第2タイマーの値が送信間隔Ij(ここでは、送信間隔I2)となるまで待機した後(ステップS58)、第2タイマーをゼロにリセットして(ステップS54)、検出波を着目領域に送信する(ステップS55)。これにより、第2期間P2の最初の検出波は第1期間P1の最後の検出波より送信間隔I2だけ遅れて送信される。以下、第1期間P1と同様の処理により、第2期間P2の間、検出波が繰り返し送信間隔I2で送信される。ここで、第2期間P2が完了すると、同様に、最後の検出波の送信後、ステップS57においてYesとなるので、第3期間P3が存在すれば(ステップS59でYes)、jを3にインクリメントし(ステップS61)、第2タイマーの値が送信間隔Ij(ここでは、送信間隔I3)となるまで待機した後(ステップS58)、第2タイマーをゼロにリセットして(ステップS54)、検出波を着目領域に送信する(ステップS55)。この繰り返しにより、最後の第j期間まで、検出波が送信プロファイル通りに送信される。最後に、超音波信号取得部13は、検出波ごとに、素子受信信号に整相加算を行い、音響線信号を生成する(ステップS62)。制御部11は、検出波ごとに生成した複数の音響線信号を超音波信号取得部13から取得し、断層画像信号として、断層画像記憶部16に記憶する。
【0026】
次に、各画素の変位を検出する(ステップS60)。具体的には、まず、変位検出部14が、ステップS20で断層画像記憶部16に記憶された基準断層画像信号を取得する。次に、変位検出部14は、ステップS50で断層画像記憶部18に記憶された各断層画像信号に対し、基準断層画像信号との差分から、当該断層画像信号に係る反射検出波を受信した時刻における、各画素の変位を検出する。より具体的には、例えば、断層画像信号と基準断層画像信号との相関処理を行うことで、断層画像信号上の画素が基準断層画像信号上のいずれの画素に対応するのかを検索し、その座標差を、断層画像信号上の画素に対応する変位として特定する。なお、変位の検出方法は相関処理に限られず、例えば、パターンマッチングなど、2つの断層画像信号間の動き量を検出する任意の技術を用いてよい。パターンマッチングの例としては、例えば、断層画像信号を8ピクセル×8ピクセルなどの所定の大きさの領域に分割し、各領域と基準断層画像信号とをパターンマッチングすることで、断層画像信号の各画素の変位を検出することができる。パターンマッチングの方法としては、例えば、各領域と基準断層画像信号内の同サイズの基準領域との間で、対応する画素毎に輝度値の差分を算出してその絶対値の合計値を算出し、その合計値が最も小さくなる領域と基準領域との組み合わせについて、領域と基準領域とが同一の領域であるものとし、領域の基準点(例えば、左上の角)と基準領域の基準点との距離を変位として検出する。なお、所定の大きさの領域は他のサイズであってもよいし、輝度値の差分の絶対値の合計値に替えて、例えば、輝度値の差分の2乗の合計値を用いてもよい。また、相関処理やパターンマッチングにより変位を検出する際、対応する画素の座標差ではなく、対応する画素のy座標の差(深さの差)を変位の大きさとして用いてもよい。これは、せん断波の伝播方向が原則として素子列方向(x方向)であるため、せん断波による変位は伝播方向とは直交する方向であり、原則として深さ方向(y方向)であるからである。以上の処理により、各断層画像信号の各画素に対応する被検体の組織が、プッシュパルスまたはせん断波によってどれだけ動いたかが変位として算出される。変位検出部14は、1の断層画像に係る各画素の変位を当該画素の座標と対応付けることで変位画像を生成し、生成した変位画像を変位量記憶部17に出力する。
【0027】
次に、せん断波の伝播解析を行う(ステップS70)。具体的には、各変位画像からせん断波の波面を抽出して波面画像を生成する。この波面画像より、波面の位置、振幅、進行方向および速度を容易に検出することができる。波面画像の生成は、例えば、変位領域の抽出、細線化処理、空間フィルタリング、時間フィルタリングの手順によって行う。
図6を用いて具体的な処理を説明する。
図6(a)は、変位画像の一例を示している。
図5と同じく、図中の“○”は着目領域における被検体内の組織の一部を示しており、プッシュパルスを印加する前の位置は破線の交点である。伝播解析部15は、y座標ごとに変位量δを座標xの関数として、動的閾値を用いることで変位量δが大きい領域を抽出する。また、x座標ごとに変位量δを座標yの関数として、動的閾値を用いて、ある閾値を超える領域を変位量δが大きい領域として抽出する。動的閾値とは、対象領域内について信号解析又は画像解析を行って閾値を決定することである。閾値は一定値ではなく、対象領域の信号の幅や最大値などによって異なる値となる。
図6(a)に、y=y
1の直線210上における変位量をプロットしたグラフ211と、x=x
1の直線220上における変位量をプロットしたグラフ221とを示す。これにより、例えば、変位量δが閾値より大きな変位領域230が抽出できる。
【0028】
次に、伝播解析部15は、変位領域に細線化処理をおこなって波面を抽出する。
図6(b)の模式図に示している変位領域240、250は、それぞれ、ステップS52において変位領域として抽出された領域である。伝播解析部15は、例えば、Hilditchの細線化アルゴリズムを用いて、波面を抽出する。例えば、
図6(b)の模式図において、変位領域240から波面241が、変位領域250から波面251が、それぞれ抽出される。なお、細線化のアルゴリズムはHilditchに限らず、任意の細線化アルゴリズムを用いてよい。また、各変位領域に対して、変位量δが閾値以下の座標を変位領域から取り除く処理を、変位領域が幅1ピクセルの線になるまで、閾値を大きくしながら繰り返し行ってもよい。
【0029】
次に、伝播解析部15は、細線化処理後の波面画像データに対して空間フィルタリングを行い、長さが短い波面を除去する。例えば、ステップS53で抽出した各波面の長さを検出し、全ての波面の長さの平均値の1/2よりも長さが短い波面を、ノイズとして削除する。具体的には、
図6(c)の波面画像に示すように、波面261〜264の長さの平均値を算出し、それよりも短い波面263、264を、ノイズとして消去する。これにより、誤検出された波面を消去できる。
【0030】
伝播解析部15は、変位領域の抽出、細線化処理、空間フィルタリングの動作を、全ての変位画像に対して行う。これにより、変位画像に対して1対1で波面画像データが生成される。
最後に、伝播解析部15は、複数の波面画像データに対して時間フィルタリングを行い、伝播していない波面を除去する。具体的には、時間的に連続する2以上の波面画像において、波面位置の時間変化を検出し、速度が異常である波面をノイズとして除去する。伝播解析部15は、例えば、時刻t=t
1の波面画像270、時刻t=t
1+Δtの波面画像280、時刻t=t
1+2Δtの波面画像290との間で、波面位置の時間変化を検出する。例えば、波面271に対して、波面画像280のうち、波面271と同じ位置を中心に、波面と垂直な向き(
図7においてはx軸方向)にΔtの間にせん断波が移動しうる領域276で、波面271との相関処理を行う。このとき、波面271のx軸の正方向(図の右側)と負方向(図の左側)の双方を含む範囲内で相関処理を行う。これは、透過波と反射波の両方を検出するためである。これにより、波面271の移動先が波面画像280内の波面281であると検出し、時間Δtにおける波面271の移動距離を算出する。同様に、波面272、273のそれぞれについて、波面画像280において当該波面と同じ位置を中心に、波面と垂直な向きにΔtの間にせん断波が移動しうる領域で相関処理を行う。これにより、波面272が波面283の位置に、波面273が波面282の位置に、それぞれ移動したことを検出する。波面画像280と波面画像290との間でも同様の処理を行い、波面281が波面291の位置に、波面282が波面292の位置に、波面283が波面293の位置に、それぞれ移動したことを検出する。ここで、波面273、波面282、波面292で示される1の波面については、他の波面と比べて移動距離が著しく小さい(伝播速度が著しく遅い)。このような波面は誤検知である可能性が高いので、ノイズとして消去する。これにより、
図6(e)の波面画像300に示すように、波面301、302が検出できる。
【0031】
伝播解析部15は、生成した時刻ごとの波面画像データと、波面の対応情報とを用いて、波面の位置と速度を算出する。ここで、波面の対応情報とは、同一の波面が各波面画像のどの波面に対応するかを示した情報であり、例えば、
図6(d)において、波面272が波面283の位置に移動したことが検出された場合、波面283と波面272とが同一の波面であるという情報である。以下、
図7を用いて波面の速度算出について説明する。
図7(a)は、ある時刻t
1における波面画像と、時刻t
2(t
1<t
2)における波面画像を1つの波面画像310として合成したものである。ここで、時刻t
1における波面311と、時刻t
2における波面312とが同一の波面であるとする対応情報が存在するものとする。伝播解析部15は、対応情報から、波面311上の座標(x
t1、y
t1)に対応する波面312上の座標(x
t2、y
t2)を検出する。これにより、時刻t
1に座標(x
t1、y
t1)を通過したせん断波が、時刻t
2に座標(x
t2、y
t2)に到達していると推定できる。したがって、座標(x
t1、y
t1)を通過したせん断波の速度v(x
t1、y
t1)は、座標(x
t1、y
t1)と座標(x
t2、y
t2)との間の距離dを所要時間Δt=t
2−t
1で割った値と推定できる。すなわち、v(x
t、y
t)=d/Δt=√{(x
t2−x
t1)
2+(y
t2−y
t1)
2}/Δtとなる。伝播解析部15は、全ての波面に対して上述の処理を行い、波面が通過した全座標についてせん断波の速度を取得し、各画素とせん断波の速度とを対応付けて速度分布図を作成してこれを保持する。
【0032】
図2に戻って説明を続ける。最後に、弾性画像を生成して表示する(ステップS80)。具体的には、まず、伝播解析部15が、速度分布図の各画素についてせん断波の速度から弾性率を算出し、各画素と弾性率とを対応付けて弾性画像を生成する。座標(x
t、y
t)における弾性率E(x
t、y
t)は、当該座標におけるせん断波の速度v(x
t、y
t)を用いて、以下のように算出できる。
E(x
t、y
t)=2(1+γ)ρ・v(x
t、y
t)
2
ここで、γは座標(x
t、y
t)における組織のポアソン比、ρは密度である。簡易的には、例えば、γ=0.5、ρ=1g/cm
3として、以下のように算出してよい。
E(x
t、y
t)≒3・v(x
t、y
t)
2
各画素と弾性率との対応付けは、例えば、色情報をマッピングすることで行う。これにより、例えば、
図7(b)に示すように、弾性率が一定値以上の座標は赤、弾性率が一定値未満の座標は緑、弾性率が取得できなかった座標は黒、というように色分けした弾性画像320を生成する。分類は二値化に限られず、所定の段階で分類及び色分けを行ってよい。
図7(b)において、領域322は弾性率が一定値以上の領域であり、内包物321に対応する。なお、
図7(b)では説明のために内包物321を明示しているが、内包物321は実際の弾性画像上には直接現れない。伝播解析部15は、生成した弾性画像を制御部11に出力し、制御部11は弾性画像を弾性画像記憶部19に出力する。制御部11は、弾性画像と超音波画像とを表示する。具体的には、制御部11は、ステップS80で生成された弾性画像と、ステップS20で取得した基準断層画像信号とに対して画面表示用の画像データとなるよう幾何変換を行い、幾何変換後の弾性画像と超音波画像とを表示部3に出力する。
【0033】
<検出波の送信プロファイルがせん断波の伝播解析にもたらす効果>
以下、検出波の送信プロファイルがせん断波の伝播解析にもたらす効果について説明する。
まず、せん断波の伝播速度が速い場合について、
図4(b)の模式図を用いて説明する。
図4(b)は、第1期間P1の間にせん断波が着目領域外に伝播した場合について説明する模式図である。
【0034】
せん断波の伝播速度が速い場合、プッシュパルス焦点450で発生したせん断波は、第1期間P1の間にせん断波が着目領域の外周に達し、外に伝播する。この場合、第2期間P2以降には波面が検出されないため、着目領域内には、第1期間P1の波面群460、すなわち波面461〜468のみが検出されることとなる。したがって、連続する2つの検出波の送信間隔は、常に最も短い送信間隔であるI1である。そのため、せん断波の伝播解析において、時間解像度が低下する場所がなく、せん断波の速度の精度低下を抑止することができる。
【0035】
一方、せん断波の伝播速度が遅い場合について、
図4(c)の模式図を用いて説明する。
図4(c)は、第3期間P3の間にせん断波が着目領域外に伝播した場合について説明する模式図である。
せん断波の伝播速度が遅い場合、プッシュパルス焦点470で発生したせん断波は、第2期間P2が終了しても着目領域内を伝播している。この場合、第1期間P1の波面群480、すなわち波面481〜488と、第2期間P2の波面群490、すなわち波面491〜494と、第3期間P3の波面群500、すなわち波面501が検出されることとなる。ここで、せん断波の進行速度が遅いことから、第2期間P2に係る送信間隔I2におけるせん断波の波面の移動距離が過大となることによる空間解像度および時間解像度の低下が発生せず、せん断波の伝播解析の精度は低下しない。すなわち、第1期間P1と第2期間P2の間においては、せん断波の伝播解析には十分に短い間隔で検出波が送信されており、せん断波の速度の精度低下は発生しない。一方、第3期間P3に取得された波面501では、送信間隔I3におけるせん断波の波面の移動距離が大きくなり、空間解像度および時間解像度が低下する。しかしながら、第3期間P3ではプッシュパルスの送信時刻より時間が経過しているため、せん断波のエネルギーが減衰しており、せん断波による変位量の絶対値が小さい。そのため、第3期間P3では、仮に送信間隔I1で検出波を送信しても、せん断波の伝播解析結果を精度良く得ることができない。したがって、第3期間P3では、送信間隔I3がせん断波の伝播解析のために必要な間隔より長いとしても、精度の高くない領域の精度がさらに低下するに過ぎず、その影響は小さい。
【0036】
また、着目領域内の一部においてせん断波の伝播速度が異なる場合について、
図8を用いて説明する。
図8(a)は、深さ方向(y方向)に一定の帯状の領域812におけるせん断波の伝播速度が、周囲の領域811、813より速い場合について示した模式図である。この場合、せん断波の伝播速度は、領域812内では速く、領域811、813では遅い。そのため、領域812の全域に対して、第1期間P1に取得された波面801〜808により、伝播解析を行うことができる。したがって、せん断波の伝播速度の速い領域812については、せん断波の伝播解析において、時間解像度が低下せず、せん断波の速度の精度低下を抑止することができる。一方、領域811、813では、第1期間P1に取得された波面801〜808に加え、第2期間P2に取得された波面821を用いて伝播解析を行うこととなる。しかしながら、領域811、813では、せん断波の伝播速度が速くないため、せん断波の伝播解析を精度良く行うには十分に短い間隔で検出波が送信されており、せん断波の速度の精度低下は発生しない。
【0037】
一方、
図8(b)は、硬い組織840(せん断波の伝播速度の速い領域)がプッシュパルスの焦点830に近い位置に存在する場合を示した模式図である。この場合、硬い組織840内をせん断波が第1期間P1の間に透過する。したがって、硬い組織840の内部について、第1期間P1の波面群850、すなわち波面851〜858を用いて伝播解析を行うことができる。そのため、硬い組織840の内部を最も短い送信間隔であるI1を用いて取得した波面を用いて解析でき、せん断波の速度の精度低下を抑止することができる。また、硬い組織840の外部では、せん断波の伝播速度が速くないため、せん断波の伝播解析を精度良く行うためには送信間隔I2でも十分短い。そのため、第1期間P1の波面群850、すなわち波面851〜858と、第2期間P2の波面群860、すなわち波面861〜863との両方を用いて精度よく伝播解析を行うことができる。
【0038】
一方、
図8(c)は、硬い組織880がプッシュパルスの焦点870より遠い位置に存在する場合を示した模式図である。この場合、せん断波の伝播速度は、硬い組織880の外部では遅いため、せん断波の波面が第1期間P1のうちに硬い組織880に到達せず、第2期間P2にはいってから、せん断波の波面が硬い組織880に到達している。ここで、硬い組織880の外部ではせん断波の伝播速度が速くないため、せん断波の伝播解析を精度良く行うためには送信間隔I2でも十分短い。そのため、第1期間P1の波面群890、すなわち波面891〜898と、第2期間P2の波面群900、すなわち波面901〜903との両方を用いて伝播解析を行うことができ、せん断波の速度の精度低下は発生しない。一方で、硬い組織880については、せん断波の伝播速度が速いのに対し、送信間隔I2で取得された波面群900を用いて伝播解析を行うこととなるため、伝播速度の解析精度が低下する。しかしながら、プッシュパルスの焦点と硬い領域との間の距離が大きい場合、せん断波のエネルギーは硬い領域に到達する前に大きく減衰している。さらに、硬い領域の表面ではせん断波の反射が発生する。したがって、波面903は反射波波面903−2と透過波波面903−1に分離しており、さらに、せん断波のエネルギーが小さいため、透過波波面903−2における変位量は非常に小さい。したがって、硬い組織880のせん断波の伝播解析は、検出波の送信間隔とは無関係に困難であり、検出波を送信間隔I2で送信した場合の精度低下の影響は無視することができる。
【0039】
実施の形態に係る検出波の送信タイミングによれば、速度の速いせん断波を観測すべき、プッシュパルスの送信時刻と近い期間においては検出波の送信間隔を短くし、速度の遅いせん断波を観測すべき、プッシュパルスの送信時刻から遠い期間においては検出波の送信間隔を長くする。したがって、せん断波の伝播速度にかかわらず、本実施の形態に係る検出波の送信間隔によれば、せん断波の速度の精度低下を抑止することができる。また、検出波の送信間隔は第1期間P1を除いて間隔I1より長くなるため、超音波探触子の発熱を抑止することができる。また、時間当たりの検出波の送信回数は常に間隔I1で送信する場合より少なくなるため、受信信号の量を削減して演算量を削減することができる。さらに、演算量の削減により、プッシュパルスを送信してから弾性画像を生成するまでの時間を短縮することが可能となり、超音波診断装置のリアルタイム性を向上しユーザビリティの向上に奏功する。
【0040】
<小括>
実施の形態に係る超音波診断装置の構成により、せん断波速度の精度低下を抑止しながら、検出波の送受信頻度を低下させることができる。
≪実施の形態2≫
実施の形態1では、予め用意した検出波の送信プロファイルを用いることで、検出波の送受信頻度を低下させる場合について説明した。
【0041】
これに対し、実施の形態2では、事前取得した組織の硬さ情報を基に、検出波の送受信プロファイルを最適化することに特徴がある。
<動作>
実施の形態2に係る超音波診断装置の動作について説明する。
図9は実施の形態2に係る超音波診断装置の動作を示すフローチャートである。なお、
図2と同じ動作については同じステップ番号を付し説明を省略する。
【0042】
実施の形態2に係る超音波診断装置は、ステップS140において、伝播解析部がステップS70で行った伝播解析の結果を弾性画像記憶部に記憶する。さらに、超音波信号取得部は、ステップS120において、同一の着目領域を用いて以前に行われたステップS140で記憶された伝播解析の結果を取得し、ステップS130において、伝播解析の結果からせん断波の速度を推定し、せん断波の速度が速い期間では検出波の送信間隔を短く、せん断波の速度が遅い期間では検出波の送信間隔を長くなるように、検出波の送信タイミングを決定する。
【0043】
以下、ステップS130について詳細に説明する。
まず、超音波信号取得部は、弾性画像記憶部から、すでに取得済みの、着目領域に係る弾性画像を取得する。次に、弾性画像に基づいて、検出波の送信タイミングを決定する。
図10は、実施の形態2に係る検出タイミングの決定方法を示す模式図である。
図10において、弾性画像530は、着目領域の弾性画像である。ここで、内包物542、543は周辺組織より硬い。なお、弾性画像を取得した際のプッシュパルスの焦点は焦点541である。速度グラフ520は、プッシュパルスの焦点541を含む一定の深さ上の直線531における、せん断波の速度を示すグラフである。速度グラフ520に示すように、せん断波の速度は、内包物542に対応する区間522、内包物543に対応する区間524では速く、これに対し、その他の区間521、523、525では遅い。そこで、せん断波の速度は弾性画像530と同一であるものと推定し、せん断波の速度が速い期間については検出波を時間的に密に送信し、それ以外の期間については検出波の送信間隔を広くする。すなわち、生成される検出波の送信プロファイル510は、以下のようになる。せん断波の速度の速い区間522に対応する期間P11、区間524に対応する期間P12では、検出波の送信間隔を短くする。これに対し、せん断波速度の遅い区間521に対応する期間P21、区間523に対応する期間P22、区間525に対応する期間P23では、検出波の送信間隔を長くする。より具体的には、せん断波の推定速度が所定の閾値(例えば、5m/s)以上であれば、検出波の送信間隔を100μsとし、閾値未満であれば、200μsとする。
【0044】
なお、さらに、せん断波が着目領域の端に達する時刻t=t
1より後の時刻については、検出波を送信しない、としてもよい。このようにすることで、せん断波が着目領域外に伝播した後における不必要な検出波の送受信を抑止することができ、検出波の送受信回数をさらに削減することができる。
<補足>
上述の例では、着目領域に係る弾性画像と新たに行う測定との間でプッシュパルスの焦点位置が同一である場合について説明した。しかしながら、例えば、着目領域に係る弾性画像と新たに行う測定との間でプッシュパルスの焦点位置が同一でなくてもよい。この場合、以下のような処理を行うことができる。
【0045】
例えば、着目領域に係る弾性画像と新たに行う測定との間でプッシュパルスの焦点位置について、深さ(y軸方向)のみが同一で素子列方向(x軸方向)が異なる場合、速度グラフにおいて新たなプッシュパルスの焦点位置におけるt座標を、検出波送信プロファイルのt=0(プッシュパルスの送信直後)とする。具体的には、せん断波の進行方向が右側(y軸の正の方向)で、新たなプッシュパルスの焦点位置が元のプッシュパルスの焦点より右側(y軸の正の方向)であるとした場合、せん断波が新たなプッシュパルスの焦点位置を通過する時刻における時刻を検出波送信プロファイルのt=0(プッシュパルスの送信直後)とするように、検出波送信プロファイル上のt=0をt軸の正の方向に移動させる。同様に、プッシュパルスの焦点位置がせん断波の進行方向とは逆方向に移動する場合には、せん断波が新たなプッシュパルスの焦点位置を通過する時刻における時刻を検出波送信プロファイルのt=0とするように、検出波送信プロファイル上のt=0をt軸の負の方向に移動させる。
【0046】
また、着目領域に係る弾性画像と新たに行う測定との間でプッシュパルスの焦点位置について、深さが異なる場合は、新たなプッシュパルスの焦点位置の深さにおけるせん断波の速度を用いることができる。なお、弾性画像に係るプッシュパルスの焦点位置の深さにおけるせん断波の速度を、新たなプッシュパルスの焦点位置の深さにおけるせん断波の速度の代用としてもよい。
【0047】
また、せん断波の速度はプッシュパルスの焦点位置の深さに限らず、例えば、着目領域の中心点を含む深さ、皮膚表面から所定の深さ、などの特定の深さにおけるせん断波の伝播速度を用いてもよい。例えば、上述の例において、直線531を、深さ方向に着目領域の中心となる深さに設けてもよい。また、弾性画像530に単一の深さの直線を複数引き、複数の直線それぞれにおけるせん断波の伝播速度を検出し、それらを統合してせん断波の伝播速度を推定するとしてもよい。単一の深さの直線としては、例えば、着目領域を深さ方向に1:3に分割する直線、1:1に分割する直線、3:1に分割する直線、の組み合わせを用いることができる。統合する手段としては、例えば、せん断波の素子列方向(x方向)における同一の座標に対し、複数のy座標におけるせん断波の伝播速度の平均値を用いるとしてもよいし、平均値に代えて、中央値、最大値等他の代表値を用いるとしてもよい。
【0048】
なお、上述の説明では、弾性画像に基づいてせん断波の速度を算出したが、伝播解析の結果に基づいてせん断波の速度を算出してもよい。さらに、例えば、プッシュパルスの送信後最初に変位の検出された時刻を波面の到達とみなす方法により、せん断波の速度を算出してもよい。
なお、着目領域におけるせん断波の速度を取得していない場合、超音波信号取得部は、実施の形態1に係る方法で、検出波の送信プロファイルを設定することができる。
【0049】
<小括>
以上のように検出波の送信プロファイルを設定することで、せん断波の速度の速い期間については検出波を時間的に密に送信し、せん断波の速度の精度低下を抑止することができる。また、せん断波の速度の遅い期間では検出波の送信間隔が長くなるため、超音波探触子の発熱を抑止することができる。また、常に検出波を時間的に密に送信する場合と比較して検出波の送信回数も少なくなるため、受信信号の量を削減して演算量を削減することができる。さらに、演算量の削減および不必要な検出波の送受信の抑止により、プッシュパルスを送信してから弾性画像を生成するまでの時間を短縮することが可能となり、超音波診断装置のリアルタイム性を向上しユーザビリティの向上に奏功する。
【0050】
≪実施の形態3≫
実施の形態1、2では、せん断波の速度の算出において、プッシュパルスの送信を1度だけ行う場合について説明した。
これに対し、実施の形態3では、せん断波の速度算出をプッシュパルスの複数送信で行うことに特徴がある。
【0051】
<動作>
実施の形態3に係る超音波診断装置の動作について説明する。
図11は実施の形態3に係る超音波診断装置の動作を示すフローチャートである。なお、
図2、
図9と同じ動作については同じステップ番号を付し説明を省略する。
着目領域の設定(ステップS10)から検出波の送信プロファイルの決定(ステップS130)については、実施の形態2と同一であるので説明を省略する。
【0052】
次に、プッシュパルスの送信と後に続く検出波の送受信について説明する(ステップS210〜250)。ここでは、プッシュパルスの焦点を4つ用い、各プッシュパルスの送出後に検出波の送受信を行ったのち伝播解析を行う。4つの焦点位置は、ここでは、着目領域を振動子の列方向に4分割した小領域の1つの中央に設定する。そして、各プッシュパルスの送信後、ステップS130で決定した送信プロファイルに従って検出波の送受信を行い、変位の検出とせん断波の伝播解析を行う。
【0053】
以下、せん断波の伝播解析結果の合成(ステップS270)について、
図12の模式図を用いて説明する。
図12(a−1)〜(a−4)は、それぞれ、第1〜第4のプッシュパルスに対応する、着目領域とせん断波の速度分布、および、プッシュパルスの焦点との位置関係を示している。例えば、
図12(a−1)における速度分布
図610では、着目領域611の左端近くにプッシュパルスの焦点位置612が存在し、せん断波の伝播速度が高い領域613が検出されている。同様に、
図12(a−2)における速度分布
図620では、着目領域621の左寄りにプッシュパルスの焦点位置622が存在し、せん断波の伝播速度が高い領域623が検出されている。また、
図12(a−3)における速度分布
図630では、着目領域631の右寄りにプッシュパルスの焦点位置632が存在し、せん断波の伝播速度が高い領域433が検出されている。同様に、
図12(a−4)における速度分布
図640では、着目領域641の右端近くにプッシュパルスの焦点位置642が存在し、せん断波の伝播速度が高い領域643が検出されている。なお、せん断波の伝播速度が高い領域613、623、633、643は、実際には1つの組織に対応したものであるが、せん断波の減衰により、プッシュパルスの焦点位置より近い部分はその他の領域との境界が明確である半面、プッシュパルスの焦点位置より遠い部分についてはその他の領域との境界が不明確となることがある。これらを統合し、
図12(b)に示すような1つの速度分布
図650を作成する。具体的には、各座標について、速度分布
図610、620、630、640のそれぞれからせん断波の速度を取得し、代表値を算出する。代表値の算出方法としては、例えば、重みづけ平均、最大値などを用いてもよいし、または、無効なデータ(例えば、速度が取得できておらず値がない、他の速度分布図から取得した速度のいずれとも差異が大きい、など)を除いた平均値を用いるとしてもよい。重みづけ平均を用いる場合、重みづけ係数a
iとしては、プッシュパルスの焦点位置に近づくほど大きく、プッシュパルスの焦点位置から遠ざかるほど小さくなる値を用いることができる。これは、プッシュパルスの焦点距離から近いほどせん断波のエネルギーが大きく、せん断波速度の精度が高いことが期待できるからである。重みづけ係数a
iの一例として、
図12(c)の係数661に示すように、プッシュパルスの焦点位置(x座標がx
f)とx座標の差が一定以上であれば0としてもよいし、
図12(c)の係数662〜664に示すように、プッシュパルスの焦点位置(x座標がx
f)とx座標の差が小さいほど大きくなるような任意の関数を使用してよい。このようにすることで、せん断波の伝播速度が高い領域653の全貌が確認できるような速度分布
図650を生成することができる。
【0054】
せん断波の伝播解析結果の合成後、伝播解析部は、合成後の速度分布
図650を保持し(ステップS140)、弾性画像を生成し制御部がこれを表示部に表示する(ステップS80)。
<小括>
上記構成により、着目領域内の各観測点と最近接のプッシュパルスの焦点との間の距離を短縮することができ、精度の高いせん断波の速度測定を行うことが可能となる。さらに、せん断波の速度の速い期間についてはせん断波を時間的に密に送信し、せん断波の速度の精度低下を抑止することができる。また、せん断波の速度の遅い期間では検出波の送信間隔が長くなるため、超音波探触子の発熱を抑止することができる。また、検出波の送信回数も少なくなるため、受信信号の量を削減して演算量を削減することができる。さらに、演算量の削減により、プッシュパルスを送信してから弾性画像を生成するまでの時間を短縮することが可能となり、超音波診断装置のリアルタイム性を向上しユーザビリティの向上に奏功する。
【0055】
≪変形例≫
実施の形態3では、複数のプッシュパルスに係るせん断波の伝播解析結果を合成し、次回以降の測定において、合成後のせん断波の伝播解析結果を用いて検出波の送受信プロファイルを最適化する場合について説明した。
本変形例ではこれに対し、複数のプッシュパルスを用いた測定を行ってその結果を合成する場合に、2回目以降のプッシュパルスの送信後の検出波の送信において、1回目以降のプッシュパルスに係るせん断波の伝播解析結果を用いる点に特徴がある。
【0056】
<動作>
変形例に係る超音波診断装置の動作について説明する。
図13は変形例に係る超音波診断装置の動作を示すフローチャートである。なお、
図2、
図9、
図11と同じ動作については同じステップ番号を付し説明を省略する。
本実施例では実施の形態3と異なり、プッシュパルスの送信ごとに、ステップS140で記憶された伝播解析の結果を取得し(ステップS120)、検出波の送信タイミングを決定する(ステップS330)。また、伝播解析部は、1回のプッシュパルスに係る伝播解析が完了するごとに、伝播解析結果を保持する(S140)。したがって、i≧2におけるステップS120では、i=i−1におけるステップS140で記憶されたせん断波の伝播解析結果が取得されることになる。そして、すべてのプッシュパルスに係る伝播解析の完了後、せん断波の伝播解析結果の合成(ステップS270)と弾性画像の生成および表示(ステップS80)を行う。
【0057】
以下、ステップS330について詳細に説明する。
まず、超音波信号取得部は、弾性画像記憶部から、直前に送出したプッシュパルスに係る、着目領域に係る弾性画像を取得する。次に、弾性画像に基づいて、検出波の送信タイミングを決定する。
図14は、変形例に係る検出タイミングの決定方法を示す模式図である。
図14の弾性画像700は、第1回目のプッシュパルスに係る着目領域の弾性画像である。ここで、内包物703は周辺組織より硬く、内包物704は内包物703よりさらに硬い。なお、第1回目のプッシュパルスの焦点は焦点701である。速度グラフ710は、焦点701および第2回目のプッシュパルスの焦点702を含む一定の深さ上の直線710における、せん断波の速度を示すグラフである。速度グラフ710に示すように、せん断波の速度は、内包物703に対応する区間722では速く、内包物704に対応する区間715ではさらに速く、その他の区間711、714、716では遅い。そこで、せん断波の速度が速い期間については検出波を時間的に密に送信し、それ以外の期間については検出波の送信間隔を広くする。ここで、焦点の位置が異なるため、次の方法によりせん断波速度の予測を行う。まず、プッシュパルスの送信終了タイミングにおいてt=0となるように、せん断波が焦点702に到達する時刻t
2を、検出波の送信プロファイル720におけるt=0(プッシュパルスの送信終了時)とする。次に、焦点の位置が異なることにより、せん断波の進行向きが逆転する領域について、データの補正を行う。すなわち、焦点701と焦点702の間の領域では、焦点701を発生源とするせん断波が右向き(x軸の正の方向)に伝播するところ、焦点702を発生源とするせん断波は左向き(x軸の負の方向)に伝播することになる。そこで、当該領域について、せん断波の伝播速度の大きさ(絶対値)は進行方向に依存しないと仮定する。すなわち、焦点702から見て焦点701側の領域(焦点702より左側の領域)に対応する区間711、712、713について、速度グラフ710における点722を中心とした点対称となるように折り返し、それらを区間711’、712’、713’とする。そして、せん断波の速度の速い区間に対応する期間では検出波の送信間隔を短くし、せん断波速度の遅い区間に対応する期間では、検出波の送信間隔を長くする。したがって、区間715および区間712’のうち少なくとも一方に対応する期間P41では検出波の送信間隔を短くし、それ以外の期間P31、P32では検出波の送信間隔を長くする。また、折り返し区間711’、712’、713’を含めてせん断波が着目領域内に存在しなくなる時刻t=t
3以降については、検出波を送信しない。
【0058】
<小括>
上記構成により、実施の形態3の構成に加えて、プッシュパルスを複数回送信する場合に、着目領域に関するせん断波の速度を事前に得ていなくても、2回目以降のプッシュパルスの送信について、検出波の送受信プロファイルを最適化することが可能となる。
≪実施の形態に係るその他の変形例≫
(1)実施の形態1では、第1期間P1は3.8ms、送信間隔I1は100μs、第2期間P2は3.8ms、送信間隔I2は200μs、第3期間P3は11.2ms、送信間隔I3は400μs、第4期間P4は12ms、送信間隔I4は800μsである場合について説明したが、本発明は必ずしもこの場合に限られない。具体的には、I1<I2<I3<I4であればよく、また、P1、P2、P3、P4は任意に設定してよい。例えば、I1:I2:I3:I4=1:2:3:4としてもよいし、I1:I2:I3:I4=1:3:9:27としてもよい。なお、I1は最も速い伝播速度v
1を有するせん断波の伝播解析を精度良く行える間隔であることが好ましく、P1は伝播速度v
1のせん断波が発生してから着目領域外に伝播する時間であることが好ましい。また、I2は次に速い伝播速度v
2を有するせん断波の伝播解析を精度良く行える間隔であることが好ましく、P1+P2が伝播速度v
2のせん断波が発生してから着目領域外に伝播する時間であることが好ましい。同様に、I4は最も遅い伝播速度v
4を有するせん断波の伝播解析を精度良く行える間隔であることが好ましく、P1+P2+P3+P4が伝播速度v
4のせん断波が発生してから着目領域外に伝播する時間であることが好ましい。
【0059】
なお、実施の形態及び上述の変形例では期間および送信間隔を4種類ずつ設定するものとしたが、2種類や3種類であってもよいし、5種類以上を用いてもよい。
また、着目領域の大きさや観測すべき部位に応じて、プロファイルを調整、または、あらかじめ用意した複数のプロファイルから1つを選択する、としてもよい。例えば、着目領域の素子列方向の幅が広い場合には、送信間隔I2〜I4をそれぞれ長くする、などの手法で、プッシュパルスの送信回数を削減することができる。また、例えば、平均的な弾性率が大きい着目領域については、送信間隔I1〜I4をそれぞれ短くし、平均的な弾性率が小さい着目領域については、送信間隔I1〜I4をそれぞれ長くする、としてもよい。
【0060】
(2)各実施の形態及び変形例では、検出波の送信プロファイルを、送信間隔と期間との組み合わせで示しているが、例えば、検出波の送信プロファイルを、送信間隔と送信回数の組み合わせで示してもよい。例えば、第1期間P1は3.8ms、送信間隔I1は100μs、第2期間P2は3.8ms、送信間隔I2は200μs、第3期間P3は11.2ms、送信間隔I3は400μs、第4期間P4は12ms、送信間隔I4は800μsである場合について、第1送信回数C1は38回、送信間隔I1は100μs、第2送信回数C2は19回、送信間隔I2は200μs、第3送信回数C3は28回、送信間隔I3は400μs、第4送信回数C4は15回、送信間隔I4は800μsとして示してもよい。この2つの送信プロファイルは本質的には同一であり、表現を変えているに過ぎないからである。なお、検出波の送信プロファイルを、送信間隔と送信回数との組み合わせとして示してもよいのは勿論である。
【0061】
(3)各実施の形態及び変形例では、検出波の送信プロファイルは、期間ごとに送信間隔を定め、段階的に送信間隔を変更しているが、送信間隔を連続的に変化させてもよい。例えば、実施の形態1の場合において、送信間隔を、プッシュパルスの送信から直前の検出波送信までの時間に依存して増加する関数、例えば、一次関数として定めてもよい。同様に、例えば、実施の形態2の場合において、送信間隔を、せん断波の推定速度が高いほど小さくなる関数、例えば、反比例として定めてもよい。
【0062】
(4)実施の形態2、3および変形例では、せん断波の波面の推定位置が着目領域外である時刻には検出波を送信しないこととしたが、さらに、以下のような処理を行ってもよい。例えば、検出波の総送信回数が閾値より小さくなった場合には、第1期間P1を延長する、または、送信間隔I1を短縮するなどの処理を行ってもよい。具体的には、検出波の総送信回数が80回に満たない場合には、総送信回数が100となるように、第1期間P1を延長してもよい。このようにすることで、検出波の総送信回数が少なく超音波探触子の発熱を考慮する必要がない場合、せん断波の伝播解析の精度をさらに高めることが可能となる。
【0063】
(5)各実施の形態及び変形例では、せん断波の伝播解析を、変位領域の抽出、細線化処理、空間フィルタリング、時間フィルタリングの手順によって行う場合について説明したが、各場所の変位のピーク時刻検出、時間フィルタリング、空間フィルタリングの手順で行ってもよい。
また、せん断波の伝播解析を、上述したような手法ではなく、単に、着目領域内の各場所において、プッシュパルスの送信後最初に変位が観測された時刻を、当該場所にせん断波の波面が到達したとみなして伝播解析を行ってもよい。
【0064】
(6)実施の形態3の変形例では、i=1のプッシュパルスに係る検出波の送信プロファイルについては実施の形態1と同様の方法で決定するとしたが、実施の形態3と同様の方法で検出波の送信プロファイルを決定してもよい。また、i≧2のプッシュパルスに係る検出波の送信プロファイルについては直前のプッシュパルスに係るせん断波の伝播解析結果を用いるとしたが、例えば、2以上前のプッシュパルスに係るせん断波の伝播解析結果を用いるとしてもよい。
【0065】
(7)実施の形態および各変形例では、超音波診断装置は表示部3と接続される構成であるとしたが、本発明は必ずしもこの場合に限られない。例えば、超音波診断装置1は表示部3を内蔵しているとしてもよい。または、超音波診断装置1は表示部3と接続されず、伝播解析部15が生成し弾性画像記憶部19に記憶されている弾性画像を他の記憶媒体に保存、あるいは、ネットワークを通じて他の装置に出力するとしてもよい。
【0066】
また、同様に、超音波診断装置は超音波探触子2を内蔵しているとしてもよいし、あるいは、超音波探触子2が超音波信号取得部13を備え、超音波信号取得部13を有さない超音波診断装置が超音波探触子2から音響線信号を取得するとしてもよい。
(8)実施の形態および各変形例に係る超音波診断装置は、その構成要素の全部又は一部を、1チップ又は複数チップの集積回路で実現してもよいし、コンピュータのプログラムで実現してもよいし、その他どのような形態で実施してもよい。例えば、伝播解析部と評価部とを1チップで実現してもよいし、超音波信号取得部のみを1チップで実現し、変位検出部等を別のチップで実現してもよい。
【0067】
集積回路で実現する場合、典型的には、LSI(Large Scale Integration)として実現される。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路、又は汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。
【0068】
さらには、半導体技術の進歩、又は派生する別技術により、LSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。
また、各実施の形態および各変形例に係る超音波診断装置は、記憶媒体に書き込まれたプログラムと、プログラムを読み込んで実行するコンピュータとで実現されてもよい。記憶媒体は、メモリカード、CD−ROMなどいかなる記録媒体であってもよい。また、本発明に係る超音波診断装置は、ネットワークを経由してダウンロードされるプログラムと、プログラムをネットワークからダウンロードして実行するコンピュータとで実現されてもよい。
【0069】
(9)以上で説明した実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程、工程の順序などは一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない工程については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0070】
また、発明の理解の容易のため、上記各実施の形態で挙げた各図の構成要素の縮尺は実際のものと異なる場合がある。また本発明は上記各実施の形態の記載によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
さらに、超音波診断装置においては基板上に回路部品、リード線等の部材も存在するが、電気的配線、電気回路について当該技術分野における通常の知識に基づいて様々な態様を実施可能であり、本発明の説明として直接的には無関係のため、説明を省略している。尚、上記示した各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示したものではない。
【0071】
≪まとめ≫
(1)実施の形態に係る超音波診断装置は、超音波探触子を用い、被検体内の特定部位に超音波を集中させるプッシュパルスを送信して特定部位にある組織を物理的に押圧した後検出波の送受信を被検体内に対して繰り返し行うことで、押圧された特定部位の組織を振動源とするせん断波の伝播速度を検出する超音波診断装置であって、プッシュパルスを送信するプッシュパルス送信部と、前記プッシュパルスに続き平面波を検出波として被検体内の着目領域へ複数回送信し、検出波に対応する被検体からの反射検出波を受信して複数の受信信号を時系列に生成する検出波送受信部と、前記反射検出波の受信時刻のそれぞれにおける、前記プッシュパルスに起因するせん断波による前記着目領域内の組織の変位を前記複数の受信信号からそれぞれ検出する変位検出部と、前記変位検出部が検出した変位に基づいて前記着目領域内におけるせん断波の伝播速度を検出するせん断波解析部とを備え、前記検出波送受信部は、プッシュパルスに続く一連の検出波の送信において、連続する2つの検出波の送信間隔が、第1の送信間隔と、前記第1の送信間隔より長い第2の送信間隔とを少なくとも含むように、検出波を送信することを特徴とする。
【0072】
また、実施の形態に係る超音波信号処理装置は、超音波探触子を用い、被検体内の特定部位に超音波を集中させるプッシュパルスを送信して特定部位にある組織を物理的に押圧した後検出波の送受信を被検体内に対して繰り返し行うことで、押圧された特定部位の組織を振動源とするせん断波の伝播速度を検出する超音波信号処理方法であって、プッシュパルスを送信し、前記プッシュパルスに続き平面波を検出波として被検体内の着目領域へ複数回送信し、検出波に対応する被検体からの反射検出波を受信して複数の受信信号を時系列に生成し、前記反射検出波の受信時刻のそれぞれにおける、前記プッシュパルスに起因するせん断波による前記着目領域内の組織の変位を前記複数の受信信号からそれぞれ検出し、検出した前記変位に基づいて前記着目領域内におけるせん断波の伝播速度を検出する処理を含み、プッシュパルスに続く一連の検出波の送信において、連続する2つの検出波の送信間隔が、第1の送信間隔と、前記第1の送信間隔より長い第2の送信間隔とを少なくとも含むように、検出波を送信することを特徴とする。
【0073】
本開示によれば、上記構成により、検出波の送信間隔を調整することで、せん断波の伝播速度の精度低下を抑止しながら検出波の送受信頻度を低下させることができる。
(2)また、上記(1)の超音波診断装置は、前記検出波送受信部は、前記プッシュパルスの送信時刻からの経過時間が所定時間以下である場合は前記第1の送信間隔で検出波を送信し、前記プッシュパルスの送信時刻からの経過時間が所定時間を超えた場合は前記第2の送信間隔で検出波を送信する、としてもよい。
【0074】
(3)また、上記(1)の超音波診断装置は、前記検出波送受信部は、前記プッシュパルスに続いてすでに送信した検出波の回数が所定回数以下である場合は前記第1の送信間隔で検出波を送信し、前記プッシュパルスに続いてすでに送信した検出波の回数が所定回数を超えた場合は前記第2の送信間隔で検出波を送信する、としてもよい。
上記(2)または(3)の構成により、速度の速いせん断波を観測すべき、プッシュパルスの送信時刻と近い期間においては検出波の送信間隔を短くし、速度の遅いせん断波を観測すべき、プッシュパルスの送信時刻から遠い期間においては検出波の送信間隔を長くする。したがって、せん断波の伝播速度にかかわらず、せん断波の速度の精度低下を抑止することができる。
【0075】
(4)また、上記(1)の超音波診断装置は、前記せん断波解析部は、前記着目領域内におけるせん断波の伝播速度を保持し、前記検出波送受信部は、前記プッシュパルスの送信前において前記せん断波解析部が保持しているせん断波の伝播速度からせん断波の伝播速度を推定し、前記プッシュパルスの送信後の期間のうち、推定されたせん断波の伝播速度が所定速度以上である期間においては前記第1の送信間隔で、所定速度未満である期間においては前記第2の送信間隔で、それぞれ検出波を送信する、としてもよい。
【0076】
上記構成により、せん断波の速度の速い期間については検出波を時間的に密に送信し、せん断波の速度の精度低下を抑止することができる。また、せん断波の速度の遅い期間では検出波の送信間隔が長くなるため、検出波の送信頻度を低下させることができる。
(5)また、上記(4)の超音波診断装置は、前記プッシュパルス送信部は、複数のプッシュパルスを送信し、前記検出波送受信部は、プッシュパルスのそれぞれに続いて一連の検出波の送受信を行い、前記変位検出部は、プッシュパルスごとに、プッシュパルスに続く一連の検出波の送受信で得た前記複数の受信信号に基づいて前記着目領域内の組織の変位を検出し、前記せん断波解析部は、プッシュパルスごとに、変位に基づいて前記着目領域内のせん断波の伝播速度を検出した後、検出した伝播速度を合成することで前記着目領域内のせん断波の合成伝播速度を検出し、前記せん断波の合成伝播速度を保持する、としてもよい。
【0077】
上記構成により、せん断波の伝播速度の合成によってせん断波の伝播速度の解析結果の精度を高めることができる。また、精度の高いせん断波の伝播速度の解析結果に基づいて、検出波の送信方法を最適化することが可能となる。
(6)また、上記(4)の超音波診断装置は、前記プッシュパルス送信部は、複数のプッシュパルスを送信し、前記検出波送受信部は、プッシュパルスのそれぞれに続いて一連の検出波の送受信を行い、前記変位検出部は、プッシュパルスごとに、プッシュパルスに続く一連の検出波の送受信で得た前記複数の受信信号に基づいて前記着目領域内の組織の変位を検出し、前記せん断波解析部は、プッシュパルスごとに、変位に基づいて前記着目領域内のせん断波の伝播速度を検出した後、前記せん断波の伝播速度を保持し、さらに、すべてのプッシュパルスの送信後、検出した伝播速度を合成することで前記着目領域内のせん断波の合成伝播速度を検出する、としてもよい。
【0078】
上記構成により、せん断波の伝播速度の合成によってせん断波の伝播速度の解析結果の精度を高めることができる。また、2回目以降のプッシュパルスの送信に続く検出波の送信方法を1回目以降のプッシュパルスに起因するせん断波の解析結果に基づいて決定できる。したがって、同一の着目領域に対する合成伝播速度がなくても検出波の送信方法を最適化することが可能となる。
【0079】
(7)また、上記(4)〜(6)の超音波診断装置は、前記検出波送受信部は、前記プッシュパルスの送信前において前記せん断波解析部が保持しているせん断波の伝播速度からせん断波の位置を推定し、せん断波の推定位置が前記着目領域の外部である場合に検出波を送信しない、としてもよい。
上記構成により、不必要な検出波の送受信を抑止することができ、せん断波の伝播速度の精度に影響を与えることなく検出波の送受信回数を削減できる。
【0080】
(8)また、上記(4)〜(7)の超音波診断装置は、前記検出波送受信部は、せん断波の速度および/または位置を推定する場合において、保持しているせん断波の伝播速度のうち、前記プッシュパルスが集中する焦点の深さに関する情報を用いる、としてもよい。
上記構成により、せん断波の速度または位置を効率よく推定することができる。