(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
移動体(1)に搭載され、投影窓(2a)を通じて投影部材(3)へ表示光を投影することにより、乗員により視認可能に虚像表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
画像を可視領域の複数の波長を含む前記表示光として投射する表示光投射部(10)と、
前記表示光投射部からの前記表示光を前記投影部材側へ導光する導光部(30)と、を備え、
前記導光部は、光学多層膜(44)を用いて前記表示光を透過させると共に、前記投影窓から入射した外光を遮光可能な多層膜フィルタ部(40)を有し、
XYZ表色系において、等色関数Zの値が最大となる波長(λzm)と等色関数Yの値が最大となる波長(λym)との間の波長領域を第1波長領域(WR1)と、前記等色関数Yの値が最大となる波長と等色関数Xの値が最大となる波長(λxm)との間の波長領域を第2波長領域(WR2)と定義し、
前記表示光に対する前記多層膜フィルタ部の透過率であって、対象となる波長領域の各波長の透過率のうち最小値をとる透過率を最小透過率と定義すると、
前記第1波長領域における前記最小透過率は、前記第2波長領域における前記最小透過率よりも小さいヘッドアップディスプレイ装置。
移動体(1)に搭載され、投影窓(2a)を通じて投影部材(3)へ表示光を投影することにより、乗員により視認可能に虚像表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
画像を可視領域の複数の波長を含む前記表示光として投射する表示光投射部(10)と、
前記表示光投射部からの前記表示光を前記投影部材側へ導光する導光部(30)と、を備え、
前記導光部は、光学多層膜(44)を用いて表示光を透過させると共に、前記投影窓から入射した外光を遮光可能な多層膜フィルタ部(40)を有し、
XYZ表色系において、等色関数Zの値が最大となる波長(λzm)と等色関数Yの値が最大となる波長(λym)とのちょうど中間となる波長を第1中間波長(λm1)と、
前記等色関数Yの値が最大となる波長と等色関数Xの値が最大となる波長(λxm)とのちょうど中間となる波長を第2中間波長(λm2)と定義すると、
前記表示光に対する前記多層膜フィルタ部の透過率について、第1中間波長における透過率は、第2中間波長における透過率よりも小さいヘッドアップディスプレイ装置。
前記表示光に対する前記多層膜フィルタ部の透過率について、赤外領域における各波長の平均透過率は、可視領域における各波長の平均透過率よりも小さい請求項1又は2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
前記外光に対する前記多層膜フィルタ部の透過率について、赤外領域としての780nm以上1080nm以下の波長領域における各波長の平均透過率は、20%以下である請求項1から3のいずれか1項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
前記傾斜配置フィルタは、前記表面における法線方向(ND)が前記光軸に対して30度以上の角度を成すように、傾斜配置されている請求項5又は6に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に採用されているような一般的なホットミラーでは、可視領域の全域において、高い透過率が実現されている。こうした透過率特性では、表示光の透過という点では、可視領域のうち特定波長領域が減衰する可能性が少なく、虚像の表示品位が低下する懸念は少ない。しかし逆に言えば、可視領域の全域において、外光がホットミラーを透過してしまう。したがって、ホットミラーによる外光の遮光性能は十分とは言えず、当該ホットミラーを透過した光が表示光投射部に到達して熱に変換され、当該熱の影響により表示光投射部が損傷してHUD装置の寿命が低下することが懸念されている。
【0005】
そこで、本発明者らは、虚像の表示品位を保ちつつ、外光からの耐性をより高めたHUD装置について、詳細な検討を行なった。そして、本発明者らは、表示光を透過させると共に、外光を遮光可能なフィルタ部であって、光学多層膜を用いることによりXYZ表色系における等色関数X,Y,Zを考慮して透過率を設定した多層膜フィルタ部を、導光部に設けることを着想した。
【0006】
具体的に、等色関数Zの値が最大となる波長と等色関数Yの値が最大となる波長との間の波長領域である第1波長領域と、等色関数Yの値が最大となる波長と等色関数Xの値が最大となる波長との間の波長領域である第2波長領域とを、比較する。この比較の結果により、第1波長領域における虚像の輝度への影響度及び虚像の色度への影響度は、共に、第2波長領域よりも相対的に小さくなる傾向が存在することが見出された。発明者らは、この傾向を利用して、上述の性能が実現可能であることを見出したのである。
【0007】
本発明は、以上説明した問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、虚像の表示品位を保ちつつ、外光からの耐性をより高めたHUD装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示される発明のひとつは、移動体(1)に搭載され、投影窓(2a)を通じて投影部材(3)へ表示光を投影することにより、乗員により視認可能に虚像表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
画像を可視領域の複数の波長を含む表示光として投射する表示光投射部(10)と、
表示光投射部からの表示光を投影部材側へ導光する導光部(30)と、を備え、
導光部は、光学多層膜(44)を用いて表示光を透過させると共に、投影窓から入射した外光を遮光可能な多層膜フィルタ部(40)を有し、
XYZ表色系において、等色関数Zの値が最大となる波長(λzm)と等色関数Yの値が最大となる波長(λym)との間の波長領域を第1波長領域(WR1)と、等色関数Yの値が最大となる波長と等色関数Xの値が最大となる波長(λxm)との間の波長領域を第2波長領域(WR2)と定義し、
表示光に対する多層膜フィルタ部の透過率であって、対象となる波長領域の各波長の透過率のうち最小値をとる透過率を最小透過率と定義すると、
第1波長領域における最小透過率は、第2波長領域における最小透過率よりも小さい。
【0009】
このような発明によると、多層膜フィルタ部の最小透過率は、第1波長領域において第2波長領域よりも小さい。このようにすると、虚像への影響度が相対的に大きい第2波長領域では、最小透過率が大きいため、表示光が多層膜フィルタ部を透過し易いので、投影部材への投影により、第2波長領域の表示光の多くを虚像の表示に寄与させることができる。一方、第1波長領域では、最小透過率が小さいため、表示光が多層膜フィルタ部を透過して投影部材側へ導光され難くなるが、虚像への影響度が相対的に小さくて済む。そして、太陽光等の外光のうち第1波長領域の光が、投影窓を通じてHUD装置内部に入射しても、多層膜フィルタ部を透過し難いので、当該光が表示光投射部まで到達し、当該表示光投射部が熱により損傷することが抑制される。以上により、XYZ表色系における等色関数X,Y,Zを考慮した透過率特性の多層膜フィルタ部が採用された結果として、虚像の表示品位を保ちつつ、外光からの耐性をより高めたHUD装置を提供することができるのである。
【0010】
また、開示される発明の他のひとつは、移動体(1)に搭載され、投影窓(2a)を通じて投影部材(3)へ表示光を投影することにより、乗員により視認可能に虚像表示するヘッドアップディスプレイ装置であって、
画像を可視領域の複数の波長を含む表示光として投射する表示光投射部(10)と、
表示光投射部からの表示光を投影部材側へ導光する導光部(30)と、を備え、
導光部は、光学多層膜(44)を用いて表示光を透過させると共に、投影窓から入射した外光を遮光可能な多層膜フィルタ部(40)を有し、
XYZ表色系において、等色関数Zの値が最大となる波長(λzm)と等色関数Yの値が最大となる波長(λym)とのちょうど中間となる波長を第1中間波長(λm1)と、
等色関数Yの値が最大となる波長と等色関数Xの値が最大となる波長(λ
xm)とのちょうど中間となる波長を第2中間波長(λm2)と定義すると、
表示光に対する多層膜フィルタ部の透過率について、第1中間波長における透過率は、第2中間波長における透過率よりも小さい。
【0011】
このような発明によると、多層膜フィルタ部の透過率は、第1中間波長において第2中間波長よりも小さい。このようにすると、虚像への影響度が相対的に大きい第2中間波長の近傍では、透過率が大きいため、表示光が多層膜フィルタ部を透過しやすいので、投影部材への投影により、第2中間波長の近傍波長の表示光の多くを虚像の表示に寄与させることができる。一方、第1中間波長の近傍では、透過率が小さいため、表示光が多層膜フィルタ部を透過して投影部材へ導光され難くなるが、虚像への影響度が相対的に小さくて済む。そして、太陽光等の外光のうち第1中間波長の近傍波長の光が、投影窓を通じてHUD装置内部に入射しても、多層膜フィルタ部を透過し難いので、当該光が表示光投射部まで到達し、当該表示光投射部が熱により損傷することが抑制される。以上により、XYZ表色系における等色関数X,Y,Zを考慮した透過率特性の多層膜フィルタ部が採用された結果として、虚像の表示品位を保ちつつ、外光からの耐性をより高めたHUD装置を提供することができるのである。
【0012】
なお、括弧内の符号は、記載内容の理解を容易にすべく、後述する実施形態において対応する構成を例示するものに留まり、発明の内容を限定することを意図したものではない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1に示すように、本発明の一実施形態によるHUD装置100は、移動体の一種である車両1に搭載され、インストルメントパネル2内に収容されている。HUD装置100は、インストルメントパネル2の上面部に設けられた投影窓2aを通じて、車両1の投影部材としてのウインドシールド3へ表示光を投影する。表示光がウインドシールド3に反射されることで、HUD装置100は、画像を車両1の乗員により視認可能に虚像表示する。すなわち、ウインドシールド3に反射される表示光が車両1の室内において設定された視認領域EBに到達し、当該視認領域EBにアイポイントEPが位置する乗員が当該表示光を虚像VIとして知覚する。そして、乗員は、虚像VIにより各種情報を認識することができる。画像として虚像表示される各種情報としては、車速、燃料残量等の車両1の状態、又は、道路情報、視界補助情報等のナビゲーション情報が挙げられる。
【0016】
車両1のウインドシールド3は、透光性のガラスないしは合成樹脂により板状に形成されている。ウインドシールド3は、表示光が投影される投影面3aを滑らかな凹面状又は平面状に形成している。なお、投影部材として、ウインドシールド3の代わりに、車両1と別体となっているコンバイナを車両1内に設置して、当該コンバイナに画像を投影するものであってもよい。また、HUD装置100自体が投影部材としてのコンバイナを備えていてもよい。
【0017】
視認領域EBは、HUD装置100により表示される虚像VIが明瞭に視認可能となる領域である。通常、視認領域EBは、車両1に設定されたアイリプスと重なるように設けられる。アイリプスは、乗員としての運転者のアイポイントの分布を統計的に表したアイレンジに基づいて、設定されている(詳細は、JISD0021:1998参照)。
【0018】
このようなHUD装置100の具体的構成を、
図2に基づいて、以下に説明する。HUD装置100は、表示光投射部10及び導光部30を備えている。表示光投射部10及び導光部30は、HUD装置100のハウジング50内に収容されている。
【0019】
表示光投射部10は、
図2,3に示すように、光源12、コンデンサレンズ14、フィールドレンズ16及び液晶パネル20を有し、例えば箱状のケーシング10aにこれらを収容して形成されている。
【0020】
光源12は、例えば複数の発光素子12aの配列により構成されている。本実施形態における発光素子12aは、光源用回路基板12b上に配置され、電源と接続されている発光ダイオード素子である。各発光素子12aは、通電により電流量に応じた発光量にて光を発する。より詳細には、各発光素子12aでは、例えば青色発光ダイオードを蛍光体で覆うことにより、疑似白色での発光が実現されている。本実施形態では、発光素子12aは3つ設けられている。
【0021】
コンデンサレンズ14及びフィールドレンズ16は、光源12と液晶パネル20との間に配置されている。コンデンサレンズ14は、例えば合成樹脂ないしはガラス等により透光性を有して形成されている。特に本実施形態のコンデンサレンズ14は、複数の凸レンズ素子14aが発光素子12aの数及び配置に合わせて配列されたレンズアレイとなっている。コンデンサレンズ14は、光源12側から入射した光を集光してフィールドレンズ16側へ射出する。
【0022】
フィールドレンズ16は、コンデンサレンズ14と液晶パネル20との間に配置され、例えば合成樹脂ないしはガラス等により、透光性を有して形成されている。特に本実施形態のフィールドレンズ16は、平板状に形成されたフレネルレンズとなっている。フィールドレンズ16は、コンデンサレンズ14側から入射した光をさらに集光して液晶パネル20側へ向けて射出する。
【0023】
本実施形態の液晶パネル20は、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、TFT)を用いた液晶パネルであって、例えば2方向に配列された複数の液晶画素21から形成されたアクティブマトリクス型の液晶パネルである。
【0024】
具体的に
図4に示すように、液晶パネル20は、長手方向及び短手方向を有する矩形状を呈している。
図5に示すように、液晶画素21が長手方向及び短手方向に配列されることで、導光部30側において画像を表示光として射出する表示面20aもまた矩形状を呈している。各液晶画素21では、表示面20aの法線方向に貫通して設けられる透過部22と、当該透過部22を囲んで形成された配線部23とが設けられている。
【0025】
液晶パネル20は、
図6に示すように、一対の偏光板25a,25b及び一対の偏光板25aに挟まれた液晶層27等が積層されて形成されていることで、平板状を呈している。各偏光板25a,25bは、透過軸26aと当該透過軸26aと直交する吸収軸26bを有している。各偏光板25a,25bは、透過軸26aの方向に偏光した光を透過させ、吸収軸26bの方向に偏光した光を吸収する性質を有しており、一対の偏光板25a,25bは、当該透過軸26aの方向を互いに直交させて配置されている。液晶層27は、液晶画素21毎の電圧印加により、印加電圧に応じて液晶層27を透過する光の偏光方向を回転させることが可能となっている。偏光方向の回転により、導光部30側の偏光板25bを透過する光の割合、すなわち透過率を随時変えることができる。
【0026】
したがって、液晶パネル20は、光源12側の表面である照明対象面20bへのフィールドレンズ16からの光の入射に対して、液晶画素21毎の透過率を制御する。すなわち、液晶パネル20は、光源12側からの照明に応じた画像を形成して、表示光として射出可能となっている。本実施形態において表示光は、導光部30側の偏光板25bの透過軸26aが長手方向に沿っていることにより、液晶パネル20の長手方向に沿った偏光方向に偏光した直線偏光として投射される。
【0027】
隣り合う液晶画素21には、
図5に示すように、互いに異なる色(例えば、赤、緑及び青)のカラーフィルタ24r,24g,24bが設けられており、これらの組み合わせにより、様々な色が実現されるようになっている。
【0028】
液晶パネル20によって、表示光投射部10は、画像を、光源12の発光スペクトル及びカラーフィルタ24r,24g,24bの透過率特性に応じたスペクトルをもつ表示光として投射可能となっている。
図7には、本実施形態において、全ての液晶画素21の透過率を性能上最大とした場合の表示光投射部10により投射される表示光のスペクトルが示されている。可視領域(例えば380〜780nm)に複数の波長を含む表示光のスペクトルは、各カラーフィルタ24r,24g,24bの特性に対応して、約450nm、約350nm及び約600nmに極大値を有し、約500nm及び約580nmに極小値を有する。
【0029】
こうした表示光投射部10により、液晶パネル20の表示面20aから投射された表示光は、導光部30に入射するようになっている。
【0030】
導光部30は、
図2に示すように、表示光投射部10からの表示光をウインドシールド3側へ導光する光学系であり、表示光が視認領域EBに到達するまでの光路OPの一部を構成している。導光部30は、多層膜フィルタ部40及び導光ミラー部31を有している。
【0031】
本実施形態の多層膜フィルタ部40は、表示光の光路OP上において、導光部30の各ミラー32,33よりも表示光投射部10側に配置されている。多層膜フィルタ部40は、光学多層膜44を用いて表示光を透過させるようになっている。多層膜フィルタ部40を透過した表示光は、導光ミラー部31に入射するようになっている。
【0032】
導光ミラー部31は、平面ミラー32及び凹面ミラー33を有している。平面ミラー32は、表示光の光路OP上において、凹面ミラー33よりも表示光投射部10側に配置されている。平面ミラー32は、例えば合成樹脂ないしはガラス等からなる基材の表面に反射面32aとしてアルミニウムを蒸着させること等により形成されている。反射面32aは、滑らかな平面状に形成されている。光路OPにおいて表示光投射部10側から平面ミラー32に入射した表示光は、反射面32aにより、ウインドシールド3側の凹面ミラー33へ向けて反射される。
【0033】
凹面ミラー33は、光路OP上において、平面ミラー32よりもウインドシールド3側に配置されている。凹面ミラー33は、例えば合成樹脂ないしはガラス等からなる基材の表面に反射面33aとしてアルミニウムを蒸着させること等により形成されている。反射面33aは、凹面ミラー33の中心が凹む凹状に湾曲することで、滑らかな凹面状に形成されている。光路OPにおいて表示光投射部10側の平面ミラー32から凹面ミラー33に入射した表示光は、反射面33aにより、投影窓2aを通じてウインドシールド3へ向けて反射される。詳細に、凹面状の反射面33aにより、凹面ミラー33は、表示光投射部10における表示面20aの画像のサイズに対して、乗員により視認される虚像VIのサイズを拡大する機能を有する。
【0034】
また、凹面ミラー33は、ステッピングモータと連結された連結軸まわりに回転可能となっており、回転により反射面33aの向きが変わることで、虚像VIの位置を上下移動させることができるようになっている。
【0035】
ここで本実施形態において、導光部30により構成され得る光軸OAは、表示光投射部10の表示面20aの中心と、各ミラー32,33の反射面32a,33aにおける中心とを通る光線の経路とする。
【0036】
ハウジング50において投影窓2aに対応する箇所には、導光部30の一構成部材として、透光性の防塵カバー52が配置されている。したがって、凹面ミラー33からの表示光は、防塵カバー52を透過して、ウインドシールド3へ投影される。こうしてウインドシールド3に反射された表示光が視認領域EBに到達することで、虚像VIを乗員が視認可能となるのである。
【0037】
このようなHUD装置100を搭載した車両1では、例えば太陽光等の外光がウインドシールド3を透過した後、さらに投影窓2aを通じてHUD装置100内部に入射し得る。投影窓2aからHUD装置100内部に入射した光の一部は、表示光の進行とは光路OPを逆行するように、導光部30において凹面ミラー33に反射された後、さらに平面ミラー32に反射され、多層膜フィルタ部40に入射する。
図8には、多層膜フィルタ部40に入射し得る外光として、太陽光のスペクトルが示されている。太陽光のスペクトルは、
図7の表示光のスペクトルに対して、波長依存性は小さく、可視領域(例えば380〜780nm)及び赤外領域(例えば780〜1080nm)において広くなだらかに分布していると言える。
【0038】
このような太陽光の多くを、多層膜フィルタ部40が表示光投射部10側へ透過するような特性を有していると、太陽光が表示光投射部10へ到達する光量が増大してしまう。表示光投射部10へ到達した太陽光は、例えば熱に変換されることで表示光投射部10にダメージを与え、表示光投射部10の寿命を縮めることとなる。すなわち、多層膜フィルタ部40は、太陽光の透過率が小さい特性であることが望まれる。
【0039】
一方、多層膜フィルタ部40は、表示光を透過する機能も有しているから、表示品位が高い状態で表示光により虚像VIが表示されることが望まれる。
【0040】
ここで、
図7のスペクトルを有する表示光において、各波長が輝度や色度に及ぼす影響度について説明する。以下の説明におけるXYZ表色系としては、CIE1931表色系が適用されるものとする。ただし、アイポイントEPから虚像VIまでの距離が非常に近くなる場合等、CIE1931表色系の適用が明らかに不当となる特別の事情がある場合には、CIE1931表色系の適用に代えて、CIE1964表色系が適用されるものとする。また、各表色系の詳細は、ISO11664−1:2007を参照することができる。
【0041】
さらに以下の説明のために、上述のXYZ表色系において、
図9,10に示すように、等色関数Zの値が最大となる波長λzmと等色関数Yの値が最大となる波長λymとの間の波長領域を第1波長領域WR1と定義し、等色関数Yの値が最大となる波長λymと等色関数Xの値が最大となる波長λxmとの間の波長領域を第2波長領域WR2と定義する。CIE1931表色系では、波長λxmは599nmであり、波長λymは555nmであり、波長λzmは446nmである。したがって、実質的に、第1波長領域WR1は446〜555nmの範囲に対応し、第2波長領域WR2は555〜599nmの範囲に対応する。
【0042】
さらに、等色関数Zの値が最大となる波長λzmと等色関数Yの値が最大となる波長λymとのちょうど中間となる波長を第1中間波長λm1と定義し、等色関数Yの値が最大となる波長λymと等色関数Xの値が最大となる波長λxmとのちょうど中間となる波長を第2中間波長λm2と定義する。CIE1931表色系では、第1中間波長λm1は約500nmであり、第2中間波長λm2は約580nmである。
【0043】
本実施形態の表示光における各波長の輝度への影響度は、
図9の等色関数Yと、
図7の当該表示光のスペクトルとを掛け合わせて、
図11のように表すことができる。ここで表示光は、第1波長領域WR1及び第2波長領域WR2の波長を含んでいるので、
図11において各領域WR1,WR2における影響度は当然0とはならない。具体的に
図11によれば、影響度が最も高い約550nmから第1波長領域WR1側は、漸次影響度が低下するのに対し、第2波長領域WR2側は、全域に亘って0.5以上の影響度が維持されている。したがって、第1波長領域WR1は、第2波長領域WR2よりも輝度への影響度が小さいと言える。また、第1中間波長λm1の影響度は約0.1であり、第2中間波長λm2の影響度は約0.7である。したがって、第1中間波長λm1は、第2中間波長λm2よりも輝度への影響度が小さいと言える。
【0044】
本実施形態の表示光における各波長の色度への影響度は、
図10の等色関数X、等色関数Y及び等色関数Zと、
図8の当該表示光のスペクトルとを掛け合わせて、
図12のように表すことができる。
図12によれば、第1波長領域WR1には、影響度が0.2以下となる領域があるのに対し、第2波長領域WR2は、全域に亘って0.3以上の影響度となっている。したがって、第1波長領域WR1は、第2波長領域WR2よりも色度への影響度が小さいと言える。また、第1中間波長λm1の影響度は約0.1であり、第2中間波長λm2の影響度は約0.3である。したがって、第1中間波長λm1は、第2中間波長λm2よりも色度への影響度が小さいと言える。
【0045】
太陽光を多層膜フィルタ部40によって遮光することを優先して、影響度が大きな波長領域の透過率が小さく設定されると、表示光のうち当該波長領域の光も多層膜フィルタ部40によって遮光されてしまう。表示光のうち影響度が大きな波長領域の光が遮光されると、虚像VIの表示品位への影響は大きい。具体的に、表示光のうち輝度の影響度が大きな波長領域の光が遮光されると虚像VIの輝度は大きく低下し、また、表示光のうち色度の影響度が大きな波長領域の光が遮光されると虚像VIの色度は大きく変質する。
【0046】
一方、影響度が小さな波長領域の透過率が小さく設定されても、虚像VIの表示品位への影響は小さい。こうした波長領域では、太陽光を遮光することを優先しても問題は少ない。従って、多層膜フィルタ部40の透過率について、第1波長領域WR1の透過率を第2波長領域WR2の透過率よりも小さく設定することが好ましい。同様に、第1中間波長λm1の反射率を第2中間波長λm2の反射率よりも小さく設定することが好ましい。
【0047】
こうした輝度への影響度及び色度への影響度を考慮しつつ、本実施形態の多層膜フィルタ部40は、投影窓2aから入射した外光のうち少なくとも一部を遮光可能に構成されている。具体的に本実施形態の多層膜フィルタ部40は、単数の傾斜配置フィルタ42を有している。
【0048】
傾斜配置フィルタ42は、
図2に示すように、透光性基板43及び光学多層膜44を有している。透光性基板43は、例えば合成樹脂ないしはガラス等により、透光性を有する平板状に形成されている。透光性基板43は、実質的に無色透明であり、可視領域の全領域に亘って透過率が大きなものとなっている。
【0049】
光学多層膜44は、傾斜配置フィルタ42の表面42a,42bのうち、例えば表示光投射部10側の表面42aに形成されている。光学多層膜44は、2種類以上の互いに屈折率の異なる光学材料からなる薄膜を、表面42aの法線方向NDに沿って積層して形成されている。薄膜としては、誘電体薄膜ないしは金属薄膜を採用可能である。薄膜の光学材料としては、例えば、酸化チタン(TiO
2)、酸化シリコン(SiO
2)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化タンタル(Ta
2O
5)、フッ化マグネシウム(MgF
2)、フッ化カルシウム(CaF
2)等を採用することが可能である。本実施形態の光学多層膜44は、酸化チタンからなる薄膜と、酸化シリコンからなる薄膜とを、交互に積層して形成されている。
【0050】
各薄膜における各膜厚は、例えば、上述の考慮に基づいた条件設定の下、事前にコンピュータによる最適化計算によって適宜設定される。特に本実施形態の傾斜配置フィルタ42は、以下に詳述するように、傾斜配置されているので、当該傾斜配置に基づいた表示光の入射角を設定した条件下、最適化計算が実行される。
【0051】
傾斜配置フィルタ42は、
図13に示すように、導光部30における光軸OAに対して、傾斜配置されている。傾斜配置フィルタ42は、液晶パネル20の導光部30側の偏光板25aの配置に応じて、傾斜方向が設定されている。具体的に、傾斜配置フィルタ42は、光軸OAと垂直な仮想の平面に沿った状態から、当該仮想の平面に導光部30側の偏光板25aの吸収軸26bを当該光軸OAに沿って投影した軸を仮想の回転軸RAとして、回転させた姿勢で、傾斜配置されている。
【0052】
表示光投射部10は、透過軸26aを偏光方向とした直線偏光として表示光を射出するので、当該表示光は、p偏光の成分がs偏光の成分よりも大きな状態で、傾斜配置フィルタ42に入射することとなる。より厳密には、表示光は、p偏光として傾斜配置フィルタ42に入射することとなる。
【0053】
さらに傾斜配置フィルタ42は、光軸OAに対してブリュースター角の関係を成立させるように、傾斜配置されている。すなわち、表示光のうち、光軸OAに沿って進行する光は、傾斜配置フィルタ42の表面42aに、およそブリュースター角を入射角として入射することとなる。換言すると、傾斜配置フィルタ42は、光軸OAと垂直な仮想の平面に沿った状態から、上述の回転軸RAまわりに、ブリュースター角の角度だけ回転させた姿勢で傾斜配置されている。本実施形態では、傾斜配置フィルタ42の表面42aの法線方向NDが光軸OAに対して30度以上(例えば58度)の角度をなすように、傾斜配置されている。
【0054】
図14には、多層膜フィルタ部40における傾斜配置フィルタ42の透過率特性が示されている。
図14では、実際の表示光に対応するブリュースター角を入射角とした透過率であって、p偏光の成分に対応する透過率Tpと、s偏光の成分に対応する透過率Tsとがそれぞれ示されている。ここで、表示光はp偏光として傾斜配置フィルタ42に入射するので、
図14におけるp偏光の透過率Tpが、実質的な表示光に対する多層膜フィルタ部40の透過率となる。
【0055】
一方、外光としての太陽光は、各ミラー32,33に反射されながら多層膜フィルタ部40に到達するので、基本的には、光軸OAに沿って表示光とは反対側から傾斜配置フィルタ42に入射することとなる。したがって、太陽光も傾斜配置フィルタ42の表面42bに、およそブリュースター角を入射角として入射することとなる。したがって、太陽光に対する多層膜フィルタ部40の透過率についても、
図14の透過率を参照して差し支えないが、太陽光は基本的にランダム偏光であることに注意すべきである。すなわち、
図14におけるp偏光の透過率Tpとs偏光の透過率Tsとの平均値が、実質的な太陽光に対する多層膜フィルタ部40の透過率となる。なお、
図14に示す透過率は、エネルギー透過率である。
【0056】
上述の傾斜配置により、傾斜配置フィルタ42を透過せずに反射された太陽光等の外光は、ハウジング50の内壁へ向けて反射されるようになっている。
【0057】
多層膜フィルタ部40の透過率特性は、光学多層膜44における光の干渉の結果によって特徴づけられている。このため、多層膜フィルタ部40の透過率Tp,Tsは、例えば薄膜の膜数が常識的な膜数を超えた場合、薄膜の光学材料固有の吸収線の影響を顕著に受けた場合等を除いて、波長に対して離散的な値を取り難い。すなわち、以下において2つの特定波長間の透過率Tp,Tsを比較した場合であっても、実施的に、当該特定波長近傍の波長にも当該比較が当てはまる蓋然性が高い。
【0058】
ここで、表示光に対する多層膜フィルタ部40の透過率であって、対象となる波長領域内の各波長の透過率のうち最小値をとる透過率を最小透過率と定義する。こうした定義下、
図14を参照すると、第1波長領域WR1における最小透過率は、第2波長領域WR2における最小透過率よりも小さいことがわかる。
【0059】
同様に
図14を参照すると、第1中間波長λm1における透過率は、第2中間波長λm2における透過率よりも小さいことがわかる。
【0060】
より詳細に、表示光に対する透過率として、第2波長領域WR2における最小反射率及び第2中間波長λm2におけるp偏光の透過率Tpが80%以上となっている一方、第1波長領域WR1における最小反射率及び第1中間波長λm1におけるp偏光の透過率Tpが80%以下となっている。
【0061】
また可視領域において、多層膜フィルタ部40の透過率特性は、
図10の等色関数X、等色関数Y及び等色関数Zと、あるいは、
図8の輝度への影響度の波長依存性と、またあるいは、
図9の色度への影響度の波長依存性と、およそ負の相関があることがわかる。
【0062】
また
図14を参照すると、表示光又は太陽光に対する透過率について、赤外領域における平均透過率は、可視領域における平均透過率よりも小さいことがわかる。表示光又は太陽光に対する赤外領域における平均透過率は、20%以下となっている。
【0063】
より具体的に、可視領域のうち420〜640nmの範囲の波長領域において、p偏光の平均透過率は、91%であり、s偏光の平均透過率は、48%である。p偏光の平均透過率とs偏光の平均透過率との差は、約40%である。太陽光に対する透過率として、さらにp偏光とs偏光とを平均した場合、当該透過率は、約70%である。赤外領域におけるp偏光とs偏光とを平均した場合の透過率は、約14%である。
【0064】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の作用効果を以下に説明する。
【0065】
本実施形態によると、多層膜フィルタ部40の最小透過率は、第1波長領域WR1において第2波長領域WR2よりも小さい。このようにすると、虚像VIへの影響度が相対的に大きい第2波長領域WR2では、最小透過率が大きいため、表示光が多層膜フィルタ部40を透過し易いので、ウインドシールド3への投影により第2波長領域WR2の表示光の多くを虚像VIの表示に寄与させることができる。一方、第1波長領域WR1では、最小透過率が小さいため、表示光が多層膜フィルタ部40を透過してウインドシールド3側へ導光され難くなるが、虚像VIへの影響度が相対的に小さくて済む。そして、太陽光等の外光のうち第1波長領域WR1の光が、投影窓2aを通じてHUD装置100内部に入射しても、多層膜フィルタ部40を透過し難いので、当該光が表示光投射部10まで到達し、当該表示光投射部10が熱により損傷することが抑制される。以上により、XYZ表色系における等色関数X,Y,Zを考慮した透過率特性の多層膜フィルタ部40が採用された結果として、虚像VIの表示品位を保ちつつ、外光からの耐性をより高めたHUD装置100を提供することができるのである。
【0066】
また、本実施形態によると、多層膜フィルタ部40の透過率は、第1中間波長λm1において第2中間波長λm2よりも小さい。このようにすると、虚像VIへの影響度が相対的に大きい第2中間波長λm2の近傍では、透過率が大きいため、表示光が多層膜フィルタ部40を透過しやすいので、ウインドシールド3への投影により第2中間波長λm2の近傍波長の表示光の多くを虚像VIの表示に寄与させることができる。一方、第1中間波長λm1の近傍では、透過率が小さいため、表示光が多層膜フィルタ部40を透過してウインドシールド3へ導光され難くなるが、虚像VIへの影響度が相対的に小さくて済む。そして、太陽光等の外光のうち第1中間波長λm1の近傍波長の光が、投影窓2aを通じてHUD装置100内部に入射しても、多層膜フィルタ部40を透過し難いので、当該光が表示光投射部10まで到達し、当該表示光投射部10が熱により損傷することが抑制される。以上により、XYZ表色系における等色関数X,Y,Zを考慮した透過率特性の多層膜フィルタ部40が採用された結果として、虚像VIの表示品位を保ちつつ、外光からの耐性をより高めたHUD装置100を提供することができるのである。
【0067】
また、本実施形態によると、赤外領域における各波長の平均透過率は、可視領域における各波長の平均透過率よりも小さい。このような多層膜フィルタ部40の透過率特性では、太陽光等の外光のうち赤外領域の光が投影窓2aを通じてHUD装置100内部に入射しても、多層膜フィルタ部40に透過され難いので、当該光が表示光投射部10まで到達することが抑制される。その一方で、可視領域の波長を含む表示光を相対的に多くウインドシールド3側へ導光することができる。したがって、表示光の多くを虚像VIの表示に寄与させることができる。
【0068】
また、本実施形態によると、赤外領域としての780nm以上1080nm以下の波長領域における各波長の平均透過率は、20%以下である。このようにすると、多層膜フィルタ部40により赤外領域の外光を確実に遮光することができ、外光のうち赤外領域の光が表示光投射部10により到達し難くなる。
【0069】
また、本実施形態によると、傾斜配置フィルタ42は、光軸OAに対して傾斜配置されている。こうした傾斜配置により、表示光は、p偏光の成分がs偏光の成分よりも大きな状態で傾斜配置フィルタ42に入射する。フレネルの式によれば、p偏光の透過率Tpは、s偏光の透過率Tsよりも大きい傾向があるので、傾斜配置フィルタ42は、各偏光成分の透過率Tp,Ts差を利用して表示光を効率的に透過可能となる。一方、太陽光等の外光は、実質的にランダム偏光の状態で傾斜配置フィルタ42に入射することとなるので、各偏光の平均透過率で遮光される。すなわち、s偏光の透過率Ts低下の影響を受けて、より遮光される割合が多くなり得る。この結果、虚像VIの表示品位を高めつつ、外光からの耐性をさらに高めることができる。
【0070】
また、本実施形態によると、表示光投射部10により投射され、直線偏光に偏光した表示光は、p偏光として傾斜配置フィルタ42に入射する。フレネルの式によれば、p偏光の透過率Tpは、s偏光の透過率Tsよりも大きい傾向があるので、傾斜配置フィルタ42は、各偏光成分の透過率Tp,Ts差を確実に利用して表示光を効率的に透過可能となる。
【0071】
また、本実施形態によると、傾斜配置フィルタ42は、光軸OAに対してブリュースター角の関係を成立させるように傾斜配置されている。このようにすると、表示光の多くがブリュースター角に近い角度で傾斜配置フィルタ42に入射することとなる。フレネルの式によれば、ブリュースター角において、p偏光の透過率Tpが最大となるので、傾斜配置フィルタ42は、効率を最大限に高めて、表示光を透過可能となる。
【0072】
また、本実施形態によると、傾斜配置フィルタ42は、表面42aにおける法線方向NDが光軸OAに対して30度以上の角度を成すように、傾斜配置されている。こうした構成では、s偏光に対して、p偏光の透過率Tpを確実に大きいものとすることができるので、傾斜配置フィルタ42は、各偏光成分の透過率Tp,Ts差を確実に利用して表示光を効率的に透過可能となる。
【0073】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0074】
具体的に変形例1としては、光学多層膜44は、傾斜配置フィルタ42の表面42a,42bのうち、表示光投射部10とは反対側の表面42bに形成されていてもよい。
【0075】
変形例2としては、光学多層膜44は、傾斜配置フィルタ42の表面42a,42bのうち、表示光投射部10側の表面42a及び表示光投射部10とは反対側の表面42bの両方に形成されていてもよい。
【0076】
変形例3としては、傾斜配置フィルタ42は、光軸OAに対してブリュースター角の関係を成立させていなくてもよく、その法線方向NDを光軸OAに対して30度以上の角度を成すように傾斜配置されていてもよい。
【0077】
ここで、法線方向NDの光軸OAに対する角度を変えた場合の透過率特性のグラフについて、
図15〜17に示す。法線方向NDの光軸OAに対する角度がブリュースター角よりも小さい
図15の場合では、s偏光の透過率Tsがp偏光の透過率Tpよりもおよそ20%小さいが、その差はブリュースター角の関係が成立している場合よりも小さい。このため、外光を遮光する効果はブリュースター角の関係が成立する場合よりも小さい。なお、
図15は、法線方向NDの光軸OAに対する角度が48度の場合を示している。
【0078】
法線方向NDの光軸OAに対する角度がブリュースター角よりも大きい
図16,17の場合では、s偏光の透過率Tsが小さいことにより、外光を遮光する効果は高まるものの、p偏光の透過率も小さくなるため、虚像VIの輝度が低下してしまう。なお、
図16は、法線方向NDの光軸OAに対する角度が68度の場合を示し、
図17は、法線方向NDの光軸OAに対する角度が78度の場合を示している。
【0079】
変形例4としては、
図18に示すように、傾斜配置フィルタ42は、その法線方向NDを光軸OAに対して0度よりも大きく30度よりも小さい角度を成すように傾斜配置されていてもよい。なお、
図18は、法線方向NDの光軸OAに対する角度が15度の場合を示している。
【0080】
変形例5としては、多層膜フィルタ部40は、光軸OAに対して傾斜していないフィルタにより、構成されていてもよい。
【0081】
変形例6としては、多層膜フィルタ部40は、導光部30の各ミラー32,33よりも表示光投射部10側に配置されていなくてもよい。この例として、多層膜フィルタ部40は、平面ミラー32と凹面ミラー33との間に配置されていてもよい。また、多層膜フィルタ部40は、各ミラー32,33よりもウインドシールド3側に、例えば投影窓2aを塞ぐ防塵カバー52として設けられてもよい。
【0082】
変形例7としては、多層膜フィルタ部40は、複数のフィルタにより構成されていてもよい。
【0083】
変形例8としては、表示光投射部10として、他の構成を採用することができる。例えば、液晶パネル20のカラーフィルタに、赤、緑及び青に加えて、黄色等のカラーフィルタを加えてもよい。この場合、黄色のカラーフィルタによって、表示光のうち580nm近傍の波長の影響度が相対的に高まるため、本多層膜フィルタ部40の適用効果が相乗的に高まる。また例えば、液晶パネル20にカラーフィルタが設けられておらず、表示光投射部10が白色光を投射するものであってもよい。
【0084】
さらには、液晶パネル20を用いない表示光投射部10が採用されてもよい、この例として、レーザ光束が入射する走査ミラーの向きを走査することでスクリーン上に画像を形成して表示光として投射するレーザスキャナ方式が採用されてもよい。表示光投射部10から投射される表示光は、偏光していないものであってもよい。表示光投射部10にて偏光していない表示光であっても、多層膜フィルタ部40に入射するまでに偏極状態が変わることで、p偏光の成分がs偏光の成分よりも大きな状態で、当該多層膜フィルタ部40に入射させることが可能である。
【0085】
変形例9としては、車両1以外の船舶ないしは飛行機等の各種移動体(輸送機器)に本発明を適用してもよい。