特許第6604329号(P6604329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社スリーボンドの特許一覧

特許6604329光硬化性組成物、仮固定剤および被着体の仮固定方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604329
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】光硬化性組成物、仮固定剤および被着体の仮固定方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20191031BHJP
   C08F 2/46 20060101ALI20191031BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20191031BHJP
   C08F 220/56 20060101ALI20191031BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20191031BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   C08F2/44 C
   C08F2/46
   C08F290/06
   C08F220/56
   C09J4/02
   C09J11/06
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-545395(P2016-545395)
(86)(22)【出願日】2015年7月28日
(86)【国際出願番号】JP2015071370
(87)【国際公開番号】WO2016031472
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2018年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2014-173482(P2014-173482)
(32)【優先日】2014年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野上 容利
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−326917(JP,A)
【文献】 特開2007−056066(JP,A)
【文献】 特開2014−105216(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/039226(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60
C09J
C08F 290/00−290/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(E)成分を含み、下記(A)成分100質量部に対して下記(D)成分を0質量部を超えて30質量部以下の割合で含み、下記(A)成分100質量部に対して、下記(B)成分と下記(C)成分とを、合計で0質量部を超えて20質量部以下の割合で含む、光硬化性組成物:
(A)成分:(メタ)アクリル基を有する化合物;
(B)成分:アクリルアミド化合物;
(C)成分:水;
(D)成分:膨張を開始する温度が70〜95℃の膨張性カプセル;および
(E)成分:光重合開始剤。
【請求項2】
前記(D)成分が、25℃において液状の炭化水素化合物を内包する膨張性カプセルである、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
(F)成分として、25℃で液状の(メタ)アクリル(共)重合体をさらに含む、請求項1または2に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記(A)成分100質量部に対して、前記(F)成分を0質量部を超えて20質量部以下の割合で含む、請求項に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
前記(A)成分が、水酸基および(メタ)アクリル基を有する化合物を含む、請求項1〜のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
スペーサーをさらに含む、請求項1〜のいずれかに記載の光硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の光硬化性組成物を含む、仮固定剤。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の光硬化性組成物または請求項に記載の仮固定剤を硬化させた硬化物を、90℃以上の媒体中に浸漬して前記硬化物を被着体から剥離させることを含む、被着体の仮固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨・切削等の加工工程に使用される際の被着体の仮固定に適した光硬化性組成物、仮固定剤および被着体の仮固定方法に関する。より詳細には、本発明は、光硬化性組成物で被着体を固定した後に、光硬化性組成物にエネルギー線を照射して硬化させ、作業後に90〜200℃の媒体にて硬化物が溶解することなく剥離させることができる光硬化性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリルアミドを用いた仮固定剤として、特開2011−148842号公報の様な水溶解性の仮固定剤が知られており、当該仮固定剤は溶解するため、被着体からの剥離性は良好である。これは、アクリルアミドが水に対して溶解性が高いという特性を応用した仮固定剤である。しかしながら、被着体表面に仮固定剤成分が残留するため、洗浄を念入りに行う必要があった。また、媒体である水の汚染が進みやすく、水の交換を頻繁に行う必要がある。
【0003】
さらに、特開2007−326917号公報では、熱膨張性カプセルを添加した光硬化性組成物(活性エネルギー線硬化型樹脂組成物)の発明が記載されている。当該文献では、2枚の被着体で光硬化性組成物を挟む形で硬化させ、これを熱水に浸漬して剥離性の確認を行っている。しかしながら、特開2007−326917号公報の実施例で評価された条件は、被着体が26mm×70mmと接着面積が小さく、また、クリアランス(被着体同士の間隔)も200μmと広い。このように、クリアランスが広い場合には、硬化物に水分が入り込み易く、さらに、接着面積が小さいと、被着体の仮固定時に剥離し易い。また、特開2007−326917号公報に開示された光硬化性組成物は、熱膨張性カプセルを大量に添加しているため、剥離後の硬化物が膨張しすぎて剥離用の媒体中でふくれあがることが予想される。
【0004】
また、90℃より低い温度の熱水で光硬化性組成物の硬化物を剥離させるためには、被着体に対する接着強さを弱くしないと剥離させることができない。しかしながら、その一方、接着強さを弱くしすぎると、切削・研磨等の加工作業で剥離が発生してしまう恐れがある。
【発明の概要】
【0005】
上記のように、従来の光硬化性組成物によれば、比較的小さな面積の板状の被着体を、広いクリアランスで接着した場合には、仮固定後、容易に剥離することは可能である。しかし、特に、大面積の板状の被着体の仮固定を、狭いクリアランスで行う場合、十分な接着強度を維持しながらも、仮固定後に行われる被着体の加工作業等の後には、容易に剥離させることは困難であった。具体的には、硬化物が媒体に溶解することなく、また、硬化物が膨張することなく容易に剥離させることが困難であった。
【0006】
そこで本発明は、大面積の板状の被着体を接着により仮固定する際、狭いクリアランスで使用された場合であっても、仮固定することに適し、被着体の加工作業等を行った後に、溶解や膨張を伴わずに容易に剥離させることが可能な光硬化性組成物を提供することを目的とする。また、本発明の他の目的は、上記光硬化性組成物を用いた仮固定剤および被着体の仮固定方法を提供することにある。
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、仮固定に適した光硬化性組成物に関する本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の要旨を以下に説明する。本発明の第一の実施態様は、下記(A)〜(E)成分を含み、下記(A)成分100質量部に対して下記(D)成分を0質量部を超えて30質量部以下の割合で含む、光硬化性組成物である:
(A)成分:(メタ)アクリル基を有する化合物;
(B)成分:アクリルアミド化合物;
(C)成分:水;
(D)成分:膨張を開始する温度が70〜95℃の膨張性カプセル;および
(E)成分:光重合開始剤。
【0009】
本発明の第二の実施態様は、前記(D)成分が、25℃において液状の炭化水素化合物を内包する膨張性カプセルである、第一の実施態様に記載の光硬化性組成物である。
【0010】
本発明の第三の実施態様は、前記(A)成分100質量部に対して、前記(B)成分と前記(C)成分とを、合計で0質量部を超えて20質量部以下の割合で含む、第一または第二の実施態様に記載の光硬化性組成物である。
【0011】
本発明の第四の実施態様は、(F)成分として、25℃で液状の(メタ)アクリル(共)重合体をさらに含む、第一から第三の実施態様のいずれかに記載の光硬化性組成物である。
【0012】
本発明の第五の実施態様は、前記(A)成分100質量部に対して、前記(F)成分を0質量部を超えて20質量部以下の割合で含む、第四の実施態様に記載の光硬化性組成物である。
【0013】
本発明の第六の実施態様は、前記(A)成分が、水酸基および(メタ)アクリル基を有する化合物を含む、第一から第五の実施態様のいずれかに記載の光硬化性組成物である。
【0014】
本発明の第七の実施態様は、スペーサーをさらに含む、第一から第六の実施態様のいずれかに記載の光硬化性組成物である。
【0015】
本発明の第八の実施態様は、第一から第七の実施態様のいずれかに記載の光硬化性組成物を含む、仮固定剤である。
【0016】
本発明の第九の実施態様は、第一から第七の実施態様のいずれかに記載の光硬化性組成物または第八の実施態様に記載の仮固定剤を硬化させた硬化物を、90℃以上の媒体中に浸漬して前記硬化物を被着体から剥離させることを含む、被着体の仮固定方法である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の詳細を以下に説明する。
【0018】
≪光硬化性組成物≫
本発明の光硬化性組成物は、下記(A)〜(E)成分を含み、下記(A)成分100質量部に対して下記(D)成分を0質量部を超えて30質量部以下の割合で含む、光硬化性組成物である:
(A)成分:(メタ)アクリル基を有する化合物;
(B)成分:アクリルアミド化合物;
(C)成分:水;
(D)成分:膨張を開始する温度が70〜95℃の膨張性カプセル;および
(E)成分:光重合開始剤。
【0019】
本発明に係る光硬化性組成物は、(B)成分と(C)成分とを組み合わせることにより、剥離性が向上する。加えて、(D)成分を含むため、(D)成分の膨張に起因して剥離性が良好となる。以上のことから、本発明の光硬化性組成物は、優れた剥離性を有する(仮固定後に剥離しやすくなる)。また、上記(B)〜(D)成分のみならず、さらに(A)成分および(E)成分を含んでいるため、本発明に係る光硬化性組成物は、光照射により硬化させることができる。したがって、本発明に係る光硬化性組成物は、大面積の被着体を狭いクリアランスで接着した場合であっても十分な接着強度を維持しつつ、また、剥離も容易に行うことができる。すなわち、本発明の光硬化性組成物は、大面積の板状の被着体を、他の被着体に対して狭いクリアランスで貼り合わせた状態で、光照射により仮固定することに適している。
【0020】
より具体的には、本発明に係る光硬化性組成物は、被着体の貼り合わせ後に行われる被着体の加工作業時においても、被着体が剥離することがないだけでなく、さらに、加工作業後は、90℃以上(好ましくは90〜200℃)の媒体中で硬化物が溶解することなく硬化物がそのままの状態で剥離する。特開2011−148842号公報に開示された技術では、仮固定剤を除去する際、被着体表面に仮固定剤成分が残留するため、洗浄を念入りに行う必要があった。また、当該仮固定剤を除去する際には、媒体である水の汚染が進みやすく、水の交換を頻繁に行う必要があった。本発明の光硬化性組成物に含まれる(B)成分のみである場合には、形成する硬化物が水に溶解してしまうが、本発明の光硬化性組成物に同時に含まれる(A)成分は、架橋反応することができるため、硬化物全体としては水に対する溶解性が低くなる。したがって、水等の媒体中への溶解が抑制されることから、上記の不都合をも解決することができる。
【0021】
さらに、特開2007−326917号公報に開示された光硬化性組成物は、熱膨張性カプセルが大量に含まれているため、剥離後の硬化物が膨張しすぎてしまい、剥離用の媒体中で膨れ上がることが予想され、このような場合、作業性が低下する虞がある。これに対し、本発明に係る光硬化性組成物は、(D)成分を特定の質量比((A)成分100質量部に対して0質量部を超えて30質量部以下)で含むため、かような不都合もまた解決することができる。
【0022】
ただし、上記メカニズムは推測であり、本発明の技術的範囲は、上記メカニズムによって限定されない。
【0023】
以下、本発明の光硬化性組成物の構成成分についてそれぞれ詳説する。
【0024】
〈(A)成分:(メタ)アクリル基を有する化合物〉
本発明で使用することができる(A)成分としては、アクリル基および/またはメタクリル基を有する化合物である。以下、アクリル基とメタクリル基とを合わせて(メタ)アクリル基と呼ぶ。(A)成分は、以下で詳説する(B)成分であるアクリルアミド化合物、および(F)成分である(メタ)アクリル重合体を含まない。
【0025】
(A)成分は、(メタ)アクリル基を1以上有する化合物であれば特に制限されないが、本発明の(B)成分と(C)成分との相溶性が良好であると好適である。(A)成分は、(メタ)アクリレートオリゴマー成分および/または(メタ)アクリレートモノマー成分を含むことができる。
【0026】
((メタ)アクリレートオリゴマー成分)
本発明において「(メタ)アクリレートオリゴマー」とは、以下で詳述する(F)成分としての(メタ)アクリル(共)重合体とは異なる。より具体的には、「(メタ)アクリレートオリゴマー」は、(F)成分としての、(メタ)アクリル基を有する単量体に由来する構成単位を繰り返し単位として有する(共)重合体ではなく、例えば、以下のようなものが挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリレートオリゴマーの具体例としては、分子内にエステル結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマー、エーテル結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマー、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ変性(メタ)アクリレートオリゴマーなどが挙げられ、その主骨格はビスフェノールA、ノボラックフェノール、ポリブタジエン、ポリエステル、ポリエーテルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記の中でも、(メタ)アクリレートオリゴマー成分は、分子内にエステル結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマー、エーテル結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマーおよびエポキシ変性(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群から選択される少なくとも一種を含むと好ましい。
【0028】
また、本発明に使用することができる(A)成分には、1分子中にエポキシ基を1以上とアクリル基を1以上とを有する化合物等、(メタ)アクリル基以外の置換基をさらに含む化合物も含まれる。(A)成分が2以上の(メタ)アクリル基を有する化合物を含んでいると、形成される硬化物が硬く、脆くなる傾向があり、より容易に剥離させやすいという理由から、(メタ)アクリレートオリゴマー成分は、2以上の(メタ)アクリル基を有するオリゴマー(二官能以上の(メタ)アクリレートオリゴマー)を含んでいると好ましい。
【0029】
エステル結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリオールと多価カルボン酸との合成によりエステル結合を形成して、未反応の水酸基にアクリル酸を付加させたものが知られているが、この合成方法に限定されるものではない。具体的例としては、東亜合成株式会社製のアロニックス(登録商標)M−6100、M−6200、M−6250、M−6500、M−7100、M−7300K、M−8030、M−8060、M−8100、M−8530、M−8560、M−9050などが、日本合成化学工業株式会社製のUV−3500BA、UV−3520TL、UV−3200B、UV−3000Bなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
エーテル結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリエーテルポリオールの水酸基や、ビスフェノールなどの芳香族系水酸基にアクリル酸を付加させたものが知られているが、この合成方法に限定されるものではない。具体例としては、日本合成化学工業製のUV−6640B、UV−6100B、UV−3700Bなどが、共栄社化学株式会社製のライト(メタ)アクリレート3EG−A、4EG−A、9EG−A、14EG−A、PTMGA−250、BP−4EA、BP−4PA、BP−10EAなどが、ダイセル・オルネクス株式会社製のEBECRYL(登録商標)3700などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリオールとポリイソシアネートとによりウレタン結合を形成して、未反応の水酸基にアクリル酸を付加させたものなどが知られているが、この合成方法に限定されるものではない。具体例としては、共栄社化学株式会社製のAH−600、AT−600、UA−306H、UF−8001などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
エポキシ変性(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、エポキシ基に(メタ)アクリル酸を付加させたものなどが知られている。具体例としては、ダイセル・オルネクス株式会社製のEBECRYL(登録商標)3700などが知られているが、これらに限定されるものではない。
【0033】
((メタ)アクリレートモノマー成分)
(A)成分は、上記(メタ)アクリレートオリゴマー成分だけでなく、さらに(メタ)アクリレートモノマー成分を含んでいると好ましい。(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内に(メタ)アクリル基を1以上有するモノマーを使用することができる。ここで、(メタ)アクリレートモノマー成分は、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー、分子内にエステル結合を有する(メタ)アクリレートモノマー、エーテル結合を有する(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレートオリゴマー、およびエポキシ変性(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される少なくとも一種を含むと好ましい。さらに、(メタ)アクリレートモノマー成分は、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマー、分子内にエステル結合を有する(メタ)アクリレートモノマー、およびエーテル結合を有する(メタ)アクリレートモノマーからなる群から選択される少なくとも一種を含むと好ましい。さらにまた、(メタ)アクリレートモノマー成分は、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーを含んでいると特に好ましい。
【0034】
また、(メタ)アクリレートモノマーとしては、1官能性モノマー、2官能性モノマー、3官能性モノマー、およびこれら以外の多官能性モノマーを用いることができる。
【0035】
1官能性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェニルポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート((メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル)、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エピクロロヒドリン(以下ECHと略記)変性ブチル(メタ)アクリレート、ECH変性フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド(以下EOと略記)変性フタル酸(メタ)アクリレート、EO変性コハク酸(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノ(メタ)アクリレート、EO変性リン酸(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
好ましくは、適度な接着強度を発現するだけでなく、適度な剥離性を有するという理由から、(A)成分は、水酸基および(メタ)アクリル基を有する化合物を含んでいると好ましい。すなわち、(A)成分中に、水酸基を有する1官能性(メタ)アクリレートモノマーが含まれていることが好ましい。具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
また、水酸基および(メタ)アクリル基を有する化合物と共に、1官能性モノマーとして、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等のエーテル結合を有する(メタ)アクリレートモノマーを含んでいるとさらに好ましい。
【0038】
2官能性モノマーの具体例としては、1、3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジアクリレ−ト、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、EO変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド(以下POと略記)変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ECH変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、EO変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、ジアクリロイルイソシアヌレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
光照射時、架橋を促進して硬化させやすくなるという観点からは、(A)成分中に2官能性モノマーが含まれていると好ましい。このとき、(A)成分中の2官能性モノマーは、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートであるとより好ましい。
【0040】
3官能性モノマーの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ECH変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ECH変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
多官能モノマーの具体例としては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
上記(A)成分としての(メタ)アクリレートオリゴマー成分および(メタ)アクリレートモノマー成分は、単独で使用されてもまたは2種以上を混合して使用されてもよい。なお、(A)成分として複数種類の化合物を含む場合は、(A)成分の含有量は、これらの合計量を指すものとする。
【0043】
〈(B)成分:アクリルアミド化合物〉
本発明で用いられる(B)成分は、アクリルアミド化合物である。(B)成分の具体例としては、ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロイルモルホリン、ジエチルアクリルアミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独で使用されてもまたは2種以上を混合して使用されてもよい。価格と入手のし易さを考慮するとジエチルアクリルアミドまたはジメチルアクリルアミドが好ましい。原因は解明されていないが、本発明においては(B)成分と(C)成分とを組み合わせることにより、剥離性が向上する。(B)成分の具体例としては、KJケミカル株式会社製のDMAA、ACMO、DEAAなどが知られているが、これらに限定されるものではない。
【0044】
(A)成分100質量部に対して、(B)成分は0.1〜20質量部含まれていると好ましい。さらに好ましくは、(B)成分が0.1〜10質量部で含まれる。(A)成分100質量部に対して、(B)成分が0.1質量部以上であると剥離性がより良好となり、さらに、0.1質量部超である場合は剥離性がさらに良好となる。一方、(B)成分が20質量部以下であると、他の成分と相溶しやすくなり、さらに、20質量部未満である場合、さらに他の成分と相溶しやすくなる。さらに、剥離性と、他の成分との相溶性とを両立させるという観点からは、(B)成分は、(A)成分100質量部に対して、1〜5質量部含まれているとより好ましい。なお、(B)成分として複数種類の化合物を含む場合は、(B)成分の含有量は、これらの合計量を指すものとする。
【0045】
〈(C)成分:水〉
本発明で使用することができる(C)成分としては、水である。水道水、精製装置による精製水、イオン交換水、蒸留水などを使用することができるが、不純物が少ないという観点から、(C)成分は、精製水、イオン交換水、蒸留水であると好ましい。
【0046】
(A)成分100質量部に対して、(C)成分は0.1〜20質量部含まれていると好ましい。さらに好ましくは、(C)成分が0.1〜10質量部である。(C)成分が0.1質量部以上である場合は、より良好な剥離性を維持することができる。さらに、(C)成分が0.1質量部超であると、さらに良好な剥離性を維持することができる。一方、(C)成分が20質量部以下であると、他の成分との相溶性を向上させることができる。(C)成分が20質量部未満であると、さらに他の成分との相溶性を向上させることができる。さらに、剥離性の維持と、他の成分との相溶性とを両立させるという観点からは、(C)成分は、(A)成分100質量部に対して、1〜5質量部含まれているとより好ましい。
【0047】
さらに、上記(B)成分と上記(C)成分とは、その合計が、(A)成分100質量部に対して、0質量部を超えて20質量部以下であると好ましい。これらの合計量の下限は、特に制限されないが、(A)成分100質量部に対して、1質量部以上であるとより好ましい。
【0048】
さらに、また、剥離性、接着強さの観点から、上記(B)成分と上記(C)成分とは、互いに同じ質量で含まれていると好ましい。
【0049】
〈(D)成分:膨張を開始する温度が70〜95℃の膨張性カプセル〉
本発明で使用することができる(D)成分としては、膨張を開始する温度が70〜95℃の膨張性カプセルである。入手容易性や実用的な観点から、膨張性カプセルの膨張を開始する温度は、70℃以上95℃以下であると好ましい。一方、膨張性カプセルの膨張を開始する温度が95℃超であると、仮固定後の剥離性が低下する。
【0050】
好ましくは、(D)成分は、25℃において液状の炭化水素化合物を内包する膨張性カプセルである。なお、本明細書中、(D)成分が膨張を開始する温度は、1つの膨張性カプセルをTMA(Thermo Mechanical Analysis)つまり、線膨張率測定により測定し、膨張を開始する温度を測定することにより測定される。測定時の温度範囲は、室温(25℃)〜220℃までとした。
【0051】
より具体的には、(D)成分として、25℃において液状の炭化水素化合物(加熱により容易にガス化して膨脹する炭化水素化合物)を、弾性を有する外殻物質からなる殻内(外殻内)に内包させた熱膨張性の微小な球状物質を用いると好ましい。
【0052】
特に、被着体同士を貼り合わせて仮固定する際には、組成物の硬化物が厚くならない方が加工しやすいため、(D)成分の平均粒径(膨張前)は、小さい方が好ましく、具体的には、100μm以下、より好ましくは70μm以下、さらにより好ましくは70μm未満、特に好ましくは50μm以下である。一方、当該平均粒径の下限値は特に制限されないが、入手容易性を考慮すると、1μm以上であると好ましく、10μm以上であるとより好ましく、10μm超であると特に好ましい。(D)成分の具体例としては、日本フィライト株式会社製のExpancel(登録商標)031−40DUなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0053】
本発明に係る光硬化性組成物中、(A)成分100質量部に対して(D)成分は、0質量部を超えて30質量部以下の割合で含まれる。好ましくは、(D)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜30質量部である。(D)成分が添加されないと剥離性が低下し、(D)成分が30質量部より多く添加されると剥離時の硬化物が膨張してふくれあがるため、剥離作業に支障が発生する。さらに、剥離性と作業性との両立という観点からは、(D)成分は、(A)成分100質量部に対して1〜20質量部含まれているとより好ましく、2〜15質量部含まれているとさらにより好ましい。なお、(D)成分として複数種類の膨張性カプセルを含む場合、(D)成分の含有量は、これらの合計量を指すものとする。
【0054】
〈(E)成分:光重合開始剤(光硬化剤)〉
本発明で用いられる(E)成分は、光重合開始剤である。光重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、電子線等のエネルギー線によりラジカル種を発生するラジカル系光重合開始剤であれば特に限定はない。
【0055】
具体的としては、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)ブタノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等のアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4′−メチル−ジフェニルサルファイド、3,3′,4,4′−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−(3−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシ)−3,4−ジメチル−9H−チオキサントン−9−オンメソクロリド等のチオキサントン類などが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、これらは単独で使用されてもまたは2種以上を混合して使用されてもよい。
【0056】
本発明の(E)成分と合わせて、カチオン系光重合開始剤を使用することもできる。前記カチオン系光重合開始剤の具体例としては、ジアゾニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩等が挙げられるが、具体的にはベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゼンジアゾニウムヘキサフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロボレート、4,4’−ビス[ビス(2−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホニオ]フェニルスルフィドビスヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0057】
(A)成分が100質量部に対して、(E)成分は0.1〜10質量部含まれていると好ましい。(E)成分が0.1質量部以上である場合、光硬化性をより維持しやすくなる。さらに、(E)成分が0.1質量部超である場合は光硬化性をさらに良好に維持することができる。一方、(E)成分が10質量部以下であると、保存時に増粘することを抑制しやすくなり、より良好な保存安定性を維持することができる。さらに、10質量部未満であると、保存時の増粘をより抑制する効果が高まり、保存安定性をさらに向上させることができる。さらに、光硬化性と保存安定性との両立という観点からは、(E)成分は、(A)成分100質量部に対して、1〜5質量部であると好ましい。なお、(E)成分として複数種類の化合物を含む場合は、(E)成分の含有量は、これらの合計量を指すものとする。
【0058】
〈(F)成分:25℃で液状の(メタ)アクリル(共)重合体〉
さらに、本発明に係る光硬化性組成物は、(F)成分として、25℃で液状の(メタ)アクリル(共)重合体をさらに含んでいると好ましい。
【0059】
(F)成分としての(メタ)アクリル重合体とは、(メタ)アクリル基を有する単量体に由来する構成単位を繰り返し単位として有する(共)重合体を指す。よって、(F)成分は、上記(A)成分、より詳細には(A)成分としての(メタ)アクリレートオリゴマーとは、繰り返し単位の構成という観点で異なる。
【0060】
(メタ)アクリル(共)重合体は、極性を有する官能基や反応性官能基を含んでいても含んでいなくても良く、極性を有する官能基として水酸基、カルボキシル基などが挙げられ、反応性官能基としては(メタ)アクリル基(この場合、(A)成分から除かれる。)、エポキシ基、アルコキシシリル基等の加水分解性シリル基などが挙げられるが、これらに限定されることはない。なかでも、上記極性を有する官能基は、水酸基、エポキシ基、アルコキシシリル基等の加水分解性シリル基であると好ましい。
【0061】
(F)成分としての(メタ)アクリル(共)重合体を添加することで、剥離性がさらに向上する。(F)成分の25℃の粘度としては100〜15000mPa・sが好ましく、100〜10000mPa・sがより好ましく、さらにより好ましくは100〜5000mPa・sである。100mPa・s以上であれば硬化物からブリードアウトしにくくなり、15000mPa・s以下、より好ましくは10000mPa・s以下、さらにより好ましくは5000mPa・sであれば他の成分との相溶性が良好である。
【0062】
(メタ)アクリル(共)重合体を構成する単量体成分は、(メタ)アクリル基を有するものであれば特に制限されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびそのエステル等が挙げられる。
【0063】
当該(メタ)アクリル(共)重合体の市販品の具体例としては、東亞合成株式会社のアルフォンシリーズ UP−1000、UP−1020、UP−1021、UP−1061、UP−1110、UP−1170、UH−2000、UG−4010、US−6120などが挙げられるが、これらに限られるものではない。また、これらは単独で使用されてもまたは2種以上を混合して使用されてもよい。
【0064】
(A)成分100質量部に対して、(F)成分は0.1〜20質量部含まれていると好ましい。(F)成分が0.1質量部以上であると剥離性が向上し、0.1質量部超であると、剥離性がさらに向上する。一方、20質量部以下であると組成物の相溶性が維持されやすくなり、ブリードアウトが抑制されやすくなり、さらに、20質量部未満であると、組成物の相溶性がさらに維持されやすくなり、ブリードアウト抑制効果がさらに向上する。さらに、剥離性の向上とブリードアウトの抑制効果の向上との両立を図るという観点からは、(F)成分は、(A)成分100質量部に対して、1〜15質量部であるとより好ましく、3〜12質量部であるとさらにより好ましい。なお、(F)成分として複数種類の(メタ)アクリル(共)重合体を含む場合は、(F)成分の含有量は、これらの合計量を指すものとする。
【0065】
〈スペーサー(充填剤)〉
さらに、本発明に係る光硬化性組成物は、スペーサーをさらに含んでいると好ましい。当該スペーサーとして充填剤を添加することができる。特に好ましくは、スペーサーは、球状の樹脂ビーズである。板状の被着体を貼り合わせて仮固定する場合、仮固定剤にスペーサーとして球状の樹脂ビーズを添加することで略平行な樹脂層が形成される。当該原料として、具体的には、(メタ)アクリル樹脂やウレタン樹脂製の樹脂ビーズなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。スペーサーは粒度分布がシャープであることが好ましく、平均粒径としては1〜100μmが好ましい。特に好ましくは、10〜70μmである。1μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは10μm超であると、剥離作業の際に剥離しやすくなり、100μm以下、より好ましくは70μm以下、さらにより好ましくは70μm未満であると、塗膜の厚さが安定する。
【0066】
(メタ)アクリル樹脂製のスペーサーの具体例として、根上工業株式会社製のアートパール(登録商標)SE−050T、ガンツ化成株式会社製のガンツパールGM−4003などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらは単独で使用されてもまたは2種以上を混合して使用されてもよい。
【0067】
(A)成分100質量部に対して、スペーサーは0.01〜10質量部含まれていると好ましい。0.01質量部以上とすることで、被着体同士を平行に貼り合わせることができる。一方、10質量部以下とすることで、剥離するための媒体(熱水等)が硬化物に進入することを妨げない。上記観点から、スペーサーは、(A)成分100質量部に対して、0.1〜5質量部含まれているとより好ましく、0.5〜3質量部含まれているとさらにより好ましい。なお、スペーサーとして複数種類の充填剤を含む場合は、スペーサーの含有量は、これらの合計量を指すものとする。
【0068】
〈その他の充填剤〉
本発明には、本発明の特性を損なわない範囲において顔料、染料などの着色剤、金属粉、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤、難燃剤、有機充填剤、可塑剤、酸化防止剤、消泡剤、カップリング剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤等の添加剤を適量配合しても良い。これらは単独で使用されてもまたは2種以上を混合して使用されてもよい。これらの添加により樹脂強度・接着強さ・作業性・保存性等に優れた組成物およびその硬化物が得られる。
【0069】
上記その他の充填剤(スペーサー以外の充填剤)の含有量は、その目的とする効果に依存して適宜決定されるが、例えば、(A)成分100質量部に対して、0.1〜10質量部含まれていると好ましく、1〜5質量部含まれているとより好ましい。なお、その他の充填剤として複数種類の充填剤を含む場合は、その他の充填剤の含有量は、これらの合計量を指すものとする。
【0070】
≪仮固定剤≫
本発明は、他の実施形態として、上記光硬化性組成物を含む、仮固定剤もまた提供する。本発明に係る仮固定剤は、上記光硬化性組成物を含むため、大面積の板状の被着体を接着により仮固定する際、狭いクリアランスで使用された場合であっても、光照射により仮固定することに適し、被着体の加工作業等を行った後に容易に剥離させることが可能である。
【0071】
≪被着体の仮固定方法≫
本発明の光硬化性組成物(および仮固定剤)は、光照射により硬化させることができ、被着体を適度な強度を以って接着することができる。具体的には、本発明の光硬化性組成物(または仮固定剤)を被着体上に塗出した後、被着体(一の被着体)を固定する対象物(他の被着体)上に設置して押圧し、光照射を行うことにより、光硬化性組成物(または仮固定剤)が硬化する。そして、当該硬化物により、被着体が固定対象物に対して仮固定される。
【0072】
被着体を押圧する時の圧力は、特に制限されず、被着体の材料等に応じて適宜決定される。また、光照射時の条件も特に制限されないが、例えば、紫外光の照射エネルギー量(積算光量)を、10〜10000mJ/cmとすることができる。さらに、紫外光の照射エネルギー量(積算光量)は、100〜5000mJ/cmであることがより好ましく、1000〜4000mJ/cmであるとより好ましい。
【0073】
本発明の光硬化性組成物の硬化物は、媒体中で剥離性を有する。剥離用媒体としては、90℃以上の媒体を用いると好ましい。よって本発明は、さらに他の実施形態として、上記光硬化性組成物または上記仮固定剤を硬化させた硬化物を、90℃以上の媒体中に浸漬して前記硬化物を被着体から剥離させることを含む、被着体の仮固定方法もまた提供する。
【0074】
90℃以上の媒体としては、90〜100℃の熱水または90〜200℃の媒体(熱水以外)が挙げられる。90〜200℃の媒体(熱水以外)としては、100℃以上の媒体を用いると好ましく、100〜200℃の媒体としては、水と沸点が100℃以上の水溶性有機溶剤との混合物を用いることができる。
【0075】
水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコールなどを単体または混合して使用することができ、特定の温度を設定することができれば任意に混合することができる。
【0076】
被着体の仮固定を充分な強度で行うことができると共に、硬化物が被着体に残留すること無く剥離させるためには、90℃以上の媒体、より好ましくは90〜200℃の媒体中で剥離をさせることが好ましい。特に、100℃〜200℃の媒体中で剥離することができる本発明の光硬化性組成物または仮固定剤は、被着体の仮固定をする能力に優れ、加工作業時に外部からかかる応力に対しても剥離することなく仮固定ができる。
【0077】
本発明に係る被着体の仮固定方法によれば、比較的大きな面積の板状の被着体を狭いクリアランス(被着体同士の間隔)で仮固定が行われた場合であっても、適度な強度で接着することができ、かつ、剥離する際には容易に剥離することができる。例えば、被着体の面積が2,000mm以上であっても、十分な強度で接着可能であると共に、容易に剥離を行うこともできる。さらに、本発明の仮固定方法によれば、被着体の面積が8,000mm以上、さらには10,000mm以上であっても、仮固定の用途に好適に用いることができる。
【0078】
また、クリアランスとしては、例えば、200μm未満といったように、狭いクリアランスであっても剥離を容易に行うことができる。さらに、本発明の仮固定方法によれば、クリアランスが150μm以下、さらには100μm以下であっても、容易に剥離が可能であり、仮固定の用途に好適に用いることができる。
【0079】
本発明の光硬化性組成物および仮固定剤は、被着体を仮固定して切削・研磨等の作業工程を行う用途に適している。被着体としては、シリコーンウェハ、サファイアガラス、セラミックス材料、光学用ガラス、水晶、磁性材料などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0081】
光硬化性組成物を調製するために下記成分を準備した。(以下、光硬化性組成物を単に組成物とも呼ぶ。)
(A)成分:(メタ)アクリル基を有する化合物
・二官能ポリエステルアクリレート(アロニックス(登録商標)M−6200 東亞合成株式会社製;以下、「M−6200」とも略記することがある)
・二官能ビスフェノールAタイプエポキシアクリレート(EBECRYL(登録商標)3700(M.W.500) ダイセル・オルネクス株式会社製;以下、「3700」とも略記することがある)
・トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(ライトアクリレートDCP−A(M.W.302) 共栄社化学株式会社製;以下、「DCP−A」とも略記することがある)
・メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA 株式会社日本触媒製;以下、「HEMA」とも略記することがある)
・エチルカルビトールアクリレート(ビスコート#190 大阪有機化学工業株式会社製;以下、「#190」とも略記することがある)
(B)成分:アクリルアミド化合物
・ジメチルアクリルアミド(DMAA KJケミカル株式会社製;以下、「DMAA」とも略記することがある)
(C)成分:水
・精製水(共栄製薬株式会社製)
(D)成分:膨張を開始する温度が70〜95℃の膨張性カプセル
・膨張開始温度が80〜95℃の膨張性カプセル(平均粒径:13μm)(Expancel(登録商標) 031−40DU 日本フェライト株式会社製;以下、「031−40DU」とも略記することがある)
(D’)成分:(D)成分以外の膨張性カプセルと膨張剤
・膨張開始温度が108〜113℃の膨張性カプセル(平均粒径:12μm)(Expancel(登録商標) 051−40DU 日本フェライト株式会社製;以下、「051−40DU」とも略記することがある)
・膨張開始温度が96〜103℃の膨張性カプセル(平均粒径:13μm)(Expancel(登録商標) 053−40DU 日本フェライト株式会社製)
・N、N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(セルラーGX 永和化成工業株式会社製;以下、「セルラーGX」とも略記することがある)
・炭酸水素ナトリウム(試薬)
・エチレングリコール(試薬)
(E)成分:光重合開始剤(光硬化剤)
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(Suncure84 Chemark Chemical Co.,Ltd製;以下、「Suncure」とも略記することがある)
(F)成分:25℃で液状の(メタ)アクリル重合体
・粘度が1000mPa・s/25℃の官能基を有さない(メタ)アクリル重合体(アルフォン(登録商標)UP−1000(M.W.3,000) 東亞合成株式会社製;以下、「UP−1000」とも略記することがある)
・粘度が14000mPa・s/25℃の水酸基を有する(メタ)アクリル重合体(アルフォン(登録商標)UH−2000(M.W.11,000) 東亞合成株式会社製;以下、「UH−2000」とも略記することがある)
・粘度が3700mPa・s/25℃のエポキシ基を有する(メタ)アクリル重合体(アルフォン(登録商標)UG−4010(M.W.2,900) 東亞合成株式会社製;以下、「UG−4010」とも略記することがある)
・粘度が2200mPa・s/25℃のアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル重合体(アルフォン(登録商標)US−6120(M.W.2,400) 東亞合成株式会社製;以下、「US−6120」とも略記することがある)
(充填剤(スペーサー))
・アクリルビーズ(平均粒径:45μm)(アートパール(登録商標)SE−050T 根上工業株式会社製;以下、「SE−050T」とも略記することがある)
・アクリルビーズ(平均粒径:40μm)(ガンツパールGM−4003 ガンツ化成株式会社製;以下、「GM−4003」とも略記することがある)
(その他の充填剤)
・ジメチルジクロロシラン変性のアモルファスシリカ(平均粒径:16nm)(アエロジル(登録商標)R972 日本アエロジル株式会社製;以下、「R972」とも略記することがある)
[実施例1〜4、比較例1〜4]
(A)〜(C)成分と充填剤を攪拌釜に秤量した後、30分間、真空下で脱泡しながら攪拌を行った。その後、(D)成分または(D’)成分を秤量して攪拌釜に添加し、さらに15分間、真空下で脱泡しながら攪拌した。その後、(E)成分を秤量して攪拌釜に添加し、15分間真空下で脱泡しながら攪拌した。詳細な調製量(添加量)は表1に従い、表中、数値は全て質量部で表記した。
【0082】
【表1】
【0083】
実施例1〜4および比較例1〜4の組成物に対して、それぞれ、剥離性確認(初期)、剥離後の硬化物状態確認および剥離性確認(保存後)を行った。その結果を表2にまとめる。
【0084】
[剥離性確認(初期)]
長さ100mm×幅100mm×厚さ0.7mmのガラス板上に組成物を塗出した。もう一方の同一形状のガラス板を貼り合わせて、組成物がガラス面に均一になるまで圧力をかけた。その後、3000mJ/cmのUV照射により組成物を硬化させてテストピースを作製した。テストピースの硬化物の厚さは60μmであった。当該テストピースを100℃の熱水に浸漬して、ガラス板から硬化物が剥離した時間を「剥離性(単位:分)」とした。表中、60分で剥離しない場合は「NG」と記載し、他の試験・測定は行わずに「−」と記載した。「剥離性」は60分以内が好ましく、より好ましくは30分以内である。
【0085】
[剥離後の硬化物状態確認]
剥離性確認(初期)でガラス板から剥離した硬化物の状態を目視で確認して、下記の評価基準で判断して「剥離後の硬化物状態」とした。剥離した硬化物が不溶で膨張すると、かさばって作業に支障が発生するため、硬化物が不溶で膨張せずにそのまま剥離することが好ましい。
【0086】
〈評価基準〉
○:硬化物が不溶で膨張せずに剥離した
×:硬化物が不溶で膨張して剥離した。
【0087】
[剥離性確認(保存後)]
組成物を25℃雰囲気で30日間放置した後、上記の剥離性確認試験を再度行い、下記の評価基準により「剥離性(保存後)」として評価した。25℃雰囲気下で放置しても剥離性に変化が無いことから、「○」であることが好ましい。
【0088】
〈評価基準〉
○:60分以内に剥離した
×:60分以内に剥離しない。
【0089】
【表2】
【0090】
実施例1〜4の組成物に関しては、膨張開始温度が80〜95℃の膨張性カプセルを使用している。一方、96℃以上で膨張する膨張性カプセルを用いた比較例1と2では剥離させることができなかった。また、膨張剤としては、加熱により分解して気体が発生する膨張剤が知られているが、かような膨張剤を使用した比較例3と4では、組成物を25℃雰囲気に保存すると徐々に膨張剤が分解して気体が発生し、30日後には剥離性が消失することが判明した。
【0091】
[実施例5〜13、比較例5〜10]
(A)〜(C)成分、(F)成分および充填剤を秤量して攪拌釜に添加した後、30分間、真空下で脱泡しながら攪拌を行った。その後、(D)成分を秤量して攪拌釜に添加し、15分間、真空下で脱泡しながら攪拌した。その後、(E)成分を秤量して攪拌釜に添加して15分間、真空下で脱泡しながら攪拌を行った。詳細な調製量(添加量)は表3に従い、表中、数値は全て質量部で表記した。
【0092】
【表3】
【0093】
実施例5〜13および比較例5〜10の組成物に対して、それぞれ、外観確認、剥離性確認(初期)、剥離後の硬化物状態確認および引張剪断接着強さ測定を行った。その結果を表4にまとめる。
【0094】
[外観確認]
組成物の調製後の状態を目視で確認し、下記の評価基準で評価して「外観」とした。光硬化性に対する観点から「透明」であることが好ましい。
【0095】
〈評価基準〉
透明:均一で透明な状態
不透明:均一になっているが、濁っていた。
【0096】
[剥離性確認(初期)]
上記実施例1〜4および比較例1〜4の組成物についての[剥離性確認(初期)]と同様の方法で評価を行った。
【0097】
[剥離後の硬化物状態確認]
上記実施例1〜4および比較例1〜4の組成物についての[剥離後の硬化物状態確認]と同様の方法で評価を行った。
【0098】
[引張剪断接着強さ測定]
引張剪断接着強さには、厚さ5mm×幅25mm×長さ100mmのガラス板同士を被着体として、25mm×5mmの接着面で貼り合わせて、治具で固定を行った。積算光量3000mJ/cmで紫外線を照射してテストピースを作製した。引張試験機により、速度200mm/minで剪断方向に引っ張って測定を行った。「最大強度(N)」を測定して接着面積から計算して「接着強さ(単位:MPa)」とした。測定する前にテストピースを取り扱う際にガラス板が剥がれてしまう場合は、「NG」と記載した。加工作業において被着体の脱落が発生しないためには、接着強さが1MPa以上であることが好ましく、さらに好ましくは4MPa以上である。
【0099】
【表4】
【0100】
実施例5〜8の組成物は剥離性も良好であると共に、接着強さも発現しており、被着体に対する固定と剥離作業の容易性とが両立されている。一方、(C)成分を添加しない比較例9では剥離性を発現することができず、(B)成分を添加しない比較例10では組成物が不透明であり(C)成分が(A)成分を相溶せず、接着強さが発現しなかった。(B)成分と(C)成分とが共に含まれてない比較例6と7の組成物について、(D)成分が少ない比較例6では剥離性が発現せず、(D)成分が多い比較例7では剥離性が30分以上であり、剥離作業に時間がかかる。比較例5においては、(D)成分の代わりに溶剤を添加しているが接着強さが発現しなかった。さらに、(D)成分の添加量が多すぎた比較例8では、剥離後の硬化物が熱水中で膨潤するため剥離作業に支障が発生した。また、実施例5〜8に対して、さらに(F)成分を添加した組成物である実施例9〜13では、接着強さを低下させることなく剥離性をさらに向上させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の光硬化性組成物は、被着体を比較的大きな面積で面接着しているにもかかわらず、被着体のクリアランスが狭くても90℃以上(好ましくは、90〜200℃)の媒体中で容易に剥離することができる。被着体としては、シリコーンウェハ、サファイアガラス、セラミックス材料、光学用ガラス、水晶、磁性材料など様々な材質に使用できると共に、仮固定の工程に於いて汎用的に使用することができる。
【0102】
本出願は、2014年8月28日に出願された日本特許出願番号2014−173482号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。