特許第6604352号(P6604352)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6604352ワイヤレス送電装置およびワイヤレス電力伝送システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604352
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】ワイヤレス送電装置およびワイヤレス電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/10 20160101AFI20191031BHJP
   H01F 38/14 20060101ALI20191031BHJP
   H02M 3/28 20060101ALI20191031BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20191031BHJP
【FI】
   H02J50/10
   H01F38/14
   H02M3/28 Q
   H02M7/48 P
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-64529(P2017-64529)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-170819(P2018-170819A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2018年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】花房 一義
【審査官】 阿部 陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−152049(JP,A)
【文献】 特開2010−200571(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104953667(CN,A)
【文献】 国際公開第2014/126181(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/080045(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103825372(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00−50/90
H02J 7/00
H01F 38/14
H02M 3/28
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力伝送を行う送電コイルを含み、一対の直流入力端子間に印加される直流電圧を交流電圧に変換して前記送電コイルに供給する自励発振回路を備え、
前記自励発振回路は、
前記送電コイルと共に共振回路を構成する共振コンデンサと、
前記送電コイルの一端に接続される第1のスイッチ素子と、
前記送電コイルの他端に接続される第2のスイッチ素子と、
前記送電コイルの一端と前記一対の直流入力端子の一方との間に接続される第1のインダクタと、
前記送電コイルの他端と前記一対の直流入力端子の一方との間に接続される第2のインダクタと、
前記第1のスイッチ素子の制御電極と前記送電コイルの他端との間に接続される第1のインピーダンス素子と、
前記第2のスイッチ素子の制御電極と前記送電コイルの一端との間に接続される第2のインピーダンス素子とを含み、
前記第1のインピーダンス素子は、第1の抵抗および第1のコンデンサの少なくとも一方を有し、
前記第2のインピーダンス素子は、第2の抵抗および第2のコンデンサの少なくとも一方を有し、
前記送電コイルが単一のコイルで構成されていることを特徴とするワイヤレス送電装置。
【請求項2】
前記第1のインピーダンス素子は、前記送電コイルの他端にカソードが接続される第1のダイオードをさらに有し、
前記第2のインピーダンス素子は、前記送電コイルの一端にカソードが接続される第2のダイオードをさらに有する、請求項1に記載のワイヤレス送電装置。
【請求項3】
前記送電コイルの巻数は1ターンである、請求項1または2に記載のワイヤレス送電装置。
【請求項4】
前記送電コイルは、磁性体と、前記磁性体の主面に渦巻き状に巻回された導線とを有する、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のワイヤレス送電装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のワイヤレス送電装置と、
前記ワイヤレス送電装置から送電される電力をワイヤレスにて受電するワイヤレス受電装置と、を備え、
前記ワイヤレス受電装置は、
前記送電コイルと磁気結合する受電コイルと、
前記受電コイルに発生した交流電圧を直流電圧に変換する整流回路とを含むことを特徴とするワイヤレス電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力をワイヤレスで伝送するワイヤレス送電装置およびワイヤレス電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電源ケーブルや電源コードを用いずに電力を供給するワイヤレス電力伝送技術が注目されている。ワイヤレス電力伝送技術は、送電側から受電側にワイヤレスで電力を供給できることから、電車、電気自動車等の輸送機器、家電製品、電子機器、無線通信機器、玩具、産業機器といった様々な製品への応用が期待されている。
【0003】
ワイヤレス電力伝送技術においては、他の電子機器と同様に、簡素な構成で低コスト且つ高効率のものが求められている。この要求を実現するため、簡単な回路で構成できる自励発振回路を用いたものが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、送電側共振部からトランスを介して受電側共振部に非接触で電力供給を行う非接触給電装置において、送電側共振部が自励式発振回路を備えることが記載されている。この自励式発振回路は、トランスのリファレンスを確保するために当該トランスの送電側一次コイルの中点端子に直流電圧を印加するリファレンス回路と、第1、第2のスイッチング素子と、送電側一次コイルに並列接続されるコンデンサとを有している。送電側一次コイルの両端には送電側一次コイルとコンデンサとの共振回路が有する共振周波数の電圧が生成され、この電圧をもとに送電側二次コイルに発生した誘導電圧を第1、第2のスイッチング素子のゲート側にフィードバックで印加することにより、この誘起電圧を増幅させたドレイン電圧を送電側一次コイルの両端に印加し、このような動作を繰り返すことにより、自励発振が行われる。
【0005】
また、特許文献2には、自励発振を行うプッシュプル式共振型コンバータが記載されている。この共振型コンバータは、励磁コイルL0とコンデンサC0の並列回路と、この並列回路に並列接続される2つのトランジスタQ1,Q2の直列回路とを備えている。2つのトランジスタQ1,Q2のベースは、抵抗R1,R2をそれぞれ介して、DC入力のマイナス端子に接続されており、また、一方のトランジスタQ1のベースは、コンデンサC1と抵抗R3の並列回路を介して、他方のトランジスタQ2のコレクタに接続され、他方のトランジスタQ2のベースは、コンデンサC2と抵抗R4の並列回路を介して、一方のトランジスタQ1のコレクタに接続されている。また、2つのトランジスタQ1,Q2のエミッタが共通接続されて、DC入力のマイナス端子に接続され、DC入力のプラス端子は、コイルL1を介して励磁コイルL0の中間接続点に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−175880号公報
【特許文献2】特開平9−19078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、中点端子を介して直列接続される2つのコイルによって送電側一次コイルが形成され、さらに帰還巻線としての送電側二次コイルを有することから、送電コイル部の構成が複雑になり、コストアップとなってしまうという課題があった。加えて、2つのコイルで形成されている送電側一次コイルは、同一のインダクタンス値で結合係数が1となるのが理想であるが、実際には構造上、それぞれのコイルのインダクタンス値は異なり、さらに結合係数も理想より小さくなる。従って、自励発振している第1、第2のスイッチング素子の電流波形は非対称となり、スイッチング損失が増え、効率が低下する課題があった。
【0008】
また、特許文献2に開示された技術は、帰還巻線を用いないものの、中点接続点を介して直列接続される2つのコイルによって励磁コイルL0が形成されており、送電コイル部の構成が複雑となり、コストアップとなってしまうという課題があった。加えて、2つのコイルで形成されている励磁コイルL0は、同一のインダクタンス値で結合係数が1となるのが理想であるが、実際には構造上、2つのコイルのインダクタンス値が異なり、さらに結合係数も理想よりも小さくなる。従って、自励発振している2つのトランジスタQ1,Q2の電流波形は非対称となり、スイッチング損失が増え、効率が低下する課題があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、簡素な回路構成であって、低コスト、高品質、且つ高効率な自励発振回路を備えたワイヤレス送電装置およびワイヤレス電力伝送システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明によるワイヤレス送電装置は、電力伝送を行う送電コイルを含み、一対の直流入力端子間に印加される直流電圧を交流電圧に変換して前記送電コイルに供給する自励発振回路を備え、前記送電コイルが単一のコイルで構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、帰還巻線や中間タップを介して接続される2つのコイルからなる送電コイルを使用しなくてよいので、高品質且つ高効率な自励発振回路を備えたワイヤレス送電装置を低コストで実現することができる。
【0012】
本発明において、前記自励発振回路は、前記送電コイルと共に共振回路を構成する共振コンデンサと、前記送電コイルの一端に接続される第1のスイッチ素子と、前記送電コイルの他端に接続される第2のスイッチ素子と、前記送電コイルの一端と前記一対の直流入力端子の一方との間に接続される第1のインダクタと、前記送電コイルの他端と前記一対の直流入力端子の一方との間に接続される第2のインダクタとを含むことが好ましい。この構成によれば、高品質且つ高効率な自励発振回路を備えたワイヤレス送電装置を低コストで実現することができる。なお、第1および第2のスイッチ素子は、送電コイルの一端および他端にそれぞれ直接接続されてもよく、共振回路を構成する素子等を介して間接的に接続されてもよい。
【0013】
本発明において、前記自励発振回路は、前記第1のスイッチ素子の制御電極と前記送電コイルの他端との間に接続される第1のインピーダンス素子と、前記第2のスイッチ素子の制御電極と前記送電コイルの一端との間に接続される第2のインピーダンス素子とをさらに含むことが好ましい。この場合において、前記第1のインピーダンス素子は、第1の抵抗および第1のコンデンサの少なくとも一方を有し、前記第2のインピーダンス素子は、第2の抵抗および第2のコンデンサの少なくとも一方を有することが好ましい。さらに、前記第1のインピーダンス素子は、前記送電コイルの他端にカソードが接続される第1のダイオードをさらに有し、前記第2のインピーダンス素子は、前記送電コイルの一端にカソードが接続される第2のダイオードをさらに有することが好ましい。これにより、スイッチ素子の損失の低減が可能となるため、一層高効率の自励発振回路を実現できる。なお、第1および第2のインピーダンス素子は、送電コイルの他端および一端にそれぞれ直接接続されてもよく、共振回路を構成する素子等を介して間接的に接続されてもよい。
【0014】
本発明において、前記送電コイルの巻数は1ターンであることが好ましい。これにより、送電コイルの構成の一層の簡素化を図ることができる。
【0015】
本発明において、前記送電コイルは、磁性体と、前記磁性体の主面に渦巻き状に巻回された導線とを有することが好ましい。これにより、高効率且つ低ノイズの送電が可能となる。
【0016】
また、本発明によるワイヤレス電力伝送システムは、上記特徴を有する本発明によるワイヤレス送電装置と、前記ワイヤレス送電装置から送電される電力をワイヤレスにて受電するワイヤレス受電装置と、を備え、前記ワイヤレス受電装置は、前記送電コイルと磁気結合する受電コイルと、前記受電コイルに発生した交流電圧を直流電圧に変換する整流回路とを含むことを特徴とする。本発明によれば、簡素な回路構成であって、低コスト、高品質、且つ高効率な自励発振回路を用いたワイヤレス送電装置を備えたワイヤレス電力伝送システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡素な回路構成であって、低コスト、高品質、且つ高効率な自励発振回路を備えたワイヤレス送電装置およびワイヤレス電力伝送システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の第1の実施の形態によるワイヤレス電力伝送システムの構成を示す回路図である。
図2図2は、送電コイルLTXの構造の一例を示す略斜視図である。
図3図3(a)および(b)は、ワイヤレス送電装置の動作説明図である。
図4図4(a)および(b)は、ワイヤレス送電装置の動作説明図である。
図5図5は、自励発振回路15の動作を説明するための電圧波形図である。
図6図6は、本発明の第2の実施の形態によるワイヤレス電力伝送システムの構成を示す回路図である。
図7図7は、ワイヤレス送電装置10の変形例を示す回路図である。
図8図8は、ワイヤレス送電装置10の変形例を示す回路図である。
図9図9は、ワイヤレス受電装置20の変形例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1の実施の形態によるワイヤレス電力伝送システムの構成を示す回路図である。
【0021】
図1に示すように、ワイヤレス電力伝送システム1は、ワイヤレス送電装置10とワイヤレス受電装置20とを組み合わせてなり、ワイヤレス送電装置10からワイヤレス受電装置20に電力をワイヤレス伝送するものである。
【0022】
ワイヤレス送電装置10は、電力伝送を行う送電コイルLTXを含み、一対の直流入力端子12a,12b間に印加される直流電圧を交流電圧に変換して送電コイルLTXに供給する自励発振回路15と、一対の直流入力端子12a,12b間に接続される入力コンデンサCinとを備えている。
【0023】
送電コイルLTXは、単一のコイルで構成されている。なお、単一のコイルとは、端子が2つであり、中間タップを有しないことを意味している。図2に示すように、本実施形態による送電コイルLTXは、平板状の磁性体13の主面に一本の導線11が渦巻き状に巻回されてなるスパイラルコイルであることが好ましい。この構成より、高効率且つ低ノイズの送電が可能となる。送電コイルLTXのターン数は特に限定されず、約1ターンであってもよい。送電コイルLTXを1ターンとする場合には、送電コイルの構成の一層の簡素化を図ることができる。
【0024】
自励発振回路15は、送電コイルLTXに並列接続される共振コンデンサCp1と、送電コイルLTXの一端11aと一対の直流入力端子のプラス端子12aとの間に接続される第1のインダクタL1と、送電コイルLTXの他端11bと一対の直流入力端子のプラス端子12aとの間に接続される第2のインダクタL2と、送電コイルLTXの一端11aに接続される第1のスイッチ素子Q1と、送電コイルLTXの他端11bに接続される第2のスイッチ素子Q2と、第1のスイッチ素子Q1のゲートと送電コイルLTXの他端11bとの間に接続される第1のインピーダンス素子Z1と、第2のスイッチ素子Q2のゲートと送電コイルLTXの一端11aとの間に接続される第2のインピーダンス素子Z2とを備えている。
【0025】
共振コンデンサCp1は、送電コイルLTXおよび第1および第2のインダクタL1,L2と共に共振回路を構成している。また詳細は後述するが、共振コンデンサCp1は送電コイルLTXに直列接続されるものであってもよく、2つ以上のコンデンサが直並列接続されるものであってもよい。
【0026】
本実施形態において第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2はNMOSトランジスタである。第1のスイッチ素子Q1のドレインは第1のインダクタL1を介して一対の直流入力端子の一方であるプラス端子12aに接続されており、第2のスイッチ素子Q2のドレインは第2のインダクタL2を介して一対の直流入力端子のプラス端子12aに接続されている。また第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2のソースは一対の直流入力端子の他方であるマイナス端子12bに接続されている。さらに第1のスイッチ素子Q1のゲート(制御電極)は第2のインダクタL2を介して一対の直流入力端子のプラス端子12aに接続されており、第2のスイッチ素子Q2のゲートは第1のインダクタL1を介して一対の直流入力端子のプラス端子12aに接続されている。
【0027】
第1および第2のインピーダンス素子Z1,Z2の構成は特に限定されないが、例えば図示のように、ダイオード、キャパシタおよび抵抗の並列回路を用いることができる。このように、第1のインピーダンス素子Z1は、抵抗またはコンデンサを有することが好ましく、送電コイルLTXの他端11b側にカソード(第1のスイッチ素子Q1のゲート側にアノード)が接続されるダイオードを有することがさらに好ましい。第2のインピーダンス素子Z2もまた、抵抗またはコンデンサを有することが好ましく、送電コイルLTXの一端11a側にカソード(第2のスイッチ素子Q2のゲート側にアノード)が接続されるダイオードを有することがさらに好ましい。
【0028】
ワイヤレス受電装置20の構成は特に限定されないが、例えば、電力伝送時に送電コイルLTXと磁気結合する受電コイルLRXと、受電コイルLRXに直列接続される共振コンデンサCs1と、受電コイルLRXに発生した交流電圧を直流電圧に変換して負荷22に出力する整流回路21と、整流回路21の一対の出力端子間に接続される平滑コンデンサCoutとを備えている。また詳細は後述するが、共振コンデンサCs1は、受電コイルLRXに並列接続されるものであってもよく、2つ以上のコンデンサが直並列接続されるものであってもよい。
【0029】
次に、図3および図4を参照しながらワイヤレス送電装置10の動作について説明する。
【0030】
まず一対の直流入力端子12a,12b間に直流電圧が印加されると、第1のインダクタL1および第2のインピーダンス素子Z2を介して第2のスイッチ素子Q2がオンになるか、第2のインダクタL2および第1のインピーダンス素子Z1を介して第1のスイッチ素子Q1がオンになる。通常、電子部品の特性のばらつきにより回路の対称性が崩れているため、スイッチ素子Q1,Q2のどちらか一方が先にオンになる。回路の非対称性を確保するため、意図的に第1のインピーダンス素子Z1のインピーダンスを第2のインピーダンス素子Z2よりも小さく設定し、スイッチ素子Q1を先にオンさせてもよい。
【0031】
図3(a)に示すように、例えば第1のスイッチ素子Q1がオンになると、第1のインダクタL1から第1のスイッチ素子Q1に電流I1が流れる。また、第2のインダクタL2から送電コイルLTXおよび共振コンデンサCp1の並列回路を通って第1のスイッチ素子Q1に電流I2が流れる。さらに第1のスイッチ素子Q1がオンになると、第1のスイッチ素子Q1のドレイン電圧Vds1と共に第2のスイッチ素子Q2のゲート電圧Vgs2がほぼゼロ[V]になるので、第2のスイッチ素子Q2のオフ状態が維持される。
【0032】
電流I2が流れることによって第2のスイッチ素子Q2のドレイン電圧Vds2は上昇していくが、送電コイルLTXおよび共振コンデンサCp1を含む共振回路の動作により、ある電圧レベルまで達すると、降下していく。そして第2のスイッチ素子Q2のドレイン電圧Vds2がゼロ[V]付近まで降下すると、第1のスイッチ素子Q1のゲート電圧Vgs1もほぼゼロ[V]となり、第1のスイッチ素子Q1がオフになる。
【0033】
こうして図3(b)に示すように第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2は共にオフになるが、第1のインダクタL1が電流I1を流し続けようとし、また送電コイルLTXも電流I2を流し続けようとするので、第1のスイッチ素子Q1のドレイン電圧Vds1および第2のスイッチ素子Q2のゲート電圧Vgs2が上昇し、これにより第2のスイッチ素子Q2がオンになる。
【0034】
図4(a)に示すように、第2のスイッチ素子Q2がオンになると、第2のインダクタL2から第2のスイッチ素子Q2に電流I2が流れる。また、第1のインダクタL1から送電コイルLTXおよび共振コンデンサCp1の並列回路を通って第2のスイッチ素子Q2に電流I1が流れる。さらに第2のスイッチ素子Q2がオンになると、第2のスイッチ素子Q2のドレイン電圧Vds2と共に第1のスイッチ素子Q1のゲート電圧Vgs1がほぼゼロ[V]になるので、第1のスイッチ素子Q1のオフ状態が維持される。
【0035】
電流I1が流れることによって第1のスイッチ素子Q1のドレイン電圧Vds1は上昇していくが、送電コイルLTXおよび共振コンデンサCp1を含む共振回路の動作により、ある電圧レベルまで達すると、降下していく。そして第1のスイッチ素子Q1のドレイン電圧Vds1がゼロ[V]付近まで降下すると、第2のスイッチ素子Q2のゲート電圧Vgs2もほぼゼロ[V]となり、第2のスイッチ素子Q2がオフになる。
【0036】
こうして図4(b)に示すように第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2は共にオフになるが、第2のインダクタL2が電流I2を流し続けようとし、また送電コイルLTXが電流I1を流し続けようとするので、第2のスイッチ素子Q2のドレイン電圧Vds2および第1のスイッチ素子Q1のゲート電圧Vgs1が上昇し、これにより第1のスイッチ素子Q1が再びオンになる(図2(a)参照)。
【0037】
第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2は以上のオンオフ動作を繰り返しながら定常状態となり、送電コイルLTXには互いに逆向きで同じ大きさの電流I1、I2が交互に流れ、送電コイルLTXの両端には所定の発振周波数の交流電圧が発生する。
【0038】
図5は、自励発振回路15の動作を説明するための電圧波形図である。
【0039】
図5に示すように、第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2は交互にオンオフ動作を繰り返すが、第1のスイッチ素子Q1のドレイン電圧Vds1は、第1のスイッチ素子Q1がオンのときにはゼロ[V]となり、オフのときに半周期の正弦波となる。第2のスイッチ素子Q2のドレイン電圧Vds2もまた、第2のスイッチ素子Q2がオンのときにはゼロ[V]となり、オフのときには半周期の正弦波となる。
【0040】
また、第1のスイッチ素子Q1のゲート電圧Vgs1は、第1のスイッチ素子Q1がオンのときには半周期の正弦波となり、特に第1のインピーダンス素子Z1の電圧降下分だけ第2のスイッチ素子Q2のドレイン電圧Vds2よりも小さいピークレベルとなる。第1のスイッチ素子Q1がオフのときにはほぼゼロ[V]となる。同様に、第2のスイッチ素子Q2のゲート電圧Vgs2は、第2のスイッチ素子Q2がオンのときには半周期の正弦波となり、特に第2のインピーダンス素子Z2の電圧降下分だけ第1のスイッチ素子Q1のドレイン電圧Vds1よりも小さいピークレベルとなる。第2のスイッチ素子Q2がオフのときにはほぼゼロ[V]となる。
【0041】
したがって、送電コイルLTXの両端の電圧Voutは、第1のスイッチ素子Q1のドレイン電圧Vds1と第2のスイッチ素子Q2のドレイン電圧Vds2とが合成された交流出力電圧となり、Vout=Vds1−Vds2として示すことができる。
【0042】
送電コイルの中間タップ(中点端子)から取り出した出力電圧を帰還させることによって発振動作を行う従来の自励発振回路においては、中間タップを介して接続される2つのコイルの非対称性によってスイッチ素子Q1,Q2の電流波形も非対称となり、スイッチング損失が増えることにより効率が低下していた。しかし本実施形態においては、送電コイルLTXが単一のコイルで構成されており、自励発振回路15が中間タップから取り出した出力電圧を用いることなく発振動作を行うので、スイッチ素子Q1,Q2の電流波形の対称性を高めることができ、スイッチング損失を低減して電力変換効率を高めることができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によるワイヤレス電力伝送システム1は、ワイヤレス送電装置10とワイヤレス受電装置20とを備え、ワイヤレス送電装置10は、送電コイルLTXと、送電コイルLTXに交流電圧を供給する自励発振回路15とを備え、送電コイルLTXは中間タップを有しない単一のコイルで構成されているので、自励発振回路15を構成する第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2の電流波形が非対称となることによるスイッチング損失を低減して電力変換効率を高めることができる。また、本実施形態による自励発振回路15は、送電コイルLTXが単一のコイルで構成されており、帰還巻線などを有しない簡素な回路構成であるため、高品質且つ高効率なワイヤレス送電装置10およびワイヤレス電力伝送システム1を低コストで実現することができる。
【0044】
図6は、本発明の第2の実施の形態によるワイヤレス電力伝送システムの構成を示す回路図である。
【0045】
図6に示すように、このワイヤレス電力伝送システム2の特徴は、自励発振回路15を構成する第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2としてNMOSトランジスタではなくPMOSトランジスタを用いた点にある。そのため、送電コイルLTXの一端11aは、第1のインダクタL1を介して一対の直流入力端子の一方であるマイナス端子12bに接続されており、送電コイルLTXの他端11bは、第2のインダクタL2を介して一対の直流入力端子のマイナス端子12bに接続されている。
【0046】
本実施形態において、第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2のドレインは一対の直流入力端子の他方であるプラス端子12aに接続されており、第1のスイッチ素子Q1のソースは第1のインダクタL1を介して一対の直流入力端子のマイナス端子12bに接続されており、第2のスイッチ素子Q2のソースは第2のインダクタL2を介して一対の直流入力端子のマイナス端子12bに接続されている。さらに第1のスイッチ素子Q1のゲートは第1のインピーダンス素子Z1および第2のインダクタL2を介してマイナス端子12bに接続されており、第2のスイッチ素子Q2のゲートは第2のインピーダンス素子Z2および第1のインダクタL2を介してマイナス端子12bに接続されている。
【0047】
以上の構成を有するワイヤレス電力伝送システム2は、第1の実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。すなわち、本実施形態による自励発振回路15は、送電コイルLTXが単一のコイルで構成されており、帰還巻線などを有しない簡素な回路構成であるため、高品質且つ高効率なワイヤレス送電装置10およびワイヤレス電力伝送システム2を低コストで実現することができる。
【0048】
図7および図8は、ワイヤレス送電装置10の変形例を示す回路図である。なお、図7および図8では、第1の実施の形態によるワイヤレス電力伝送システム1におけるワイヤレス送電装置10の変形例を示しているが、第2の実施の形態によるワイヤレス電力伝送システム2におけるワイヤレス送電装置10にも適用可能である。
【0049】
図7(a)に示すワイヤレス送電装置10の特徴は、送電コイルLTXおよび第1および第2のインダクタL1,L2と共に共振回路を構成する共振コンデンサCp1が送電コイルLTXと直列接続されている点にある。また図7(b)に示すワイヤレス送電装置10の特徴は、送電コイルLTXおよび第1および第2のインダクタL1,L2と共に共振回路を構成する2つの共振コンデンサCp1,Cp2を備え、第1の共振コンデンサCp1が送電コイルLTXの一端11a側に直列接続されており、第2の共振コンデンサCp2が送電コイルLTXの他端11b側に直列接続されている点にある。
【0050】
図8(a)および(b)に示すワイヤレス送電装置10の特徴は、送電コイルLTXおよび第1および第2のインダクタL1,L2と共に共振回路を構成する3つの共振コンデンサCp1,Cp2,Cp3を備え、第1の共振コンデンサCp1が送電コイルLTXに並列接続されており、第2の共振コンデンサCp2が送電コイルLTXの一端11a側に直列接続されており、第3の共振コンデンサCp3が送電コイルLTXの他端11b側に直列接続されている点にある。
【0051】
このうち、図8(a)に示すワイヤレス送電装置10における第2および第3の共振コンデンサCp2,Cp3は、第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2それぞれの接続点よりも送電コイルLTX寄りに設けられている。そのため、第1のスイッチ素子Q1のドレインは、第2の共振コンデンサCp2を介して送電コイルLTXの一端11aに接続されており、第2のスイッチ素子Q2のドレインは、第3の共振コンデンサCp3を介して送電コイルLTXの他端11bに接続されている。このように、第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2は、共振回路の構成素子等を介して送電コイルLTXの一端11aおよび他端11bに間接的に接続されていてもよい。
【0052】
また、図8(b)に示すワイヤレス送電装置10における第2および第3の共振コンデンサCp2,Cp3は、第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2それぞれの接続点よりも直流入力端子寄り(第1および第2のインダクタL1,L2寄り)に設けられている。そのため、第1のスイッチ素子Q1のドレインは、送電コイルLTXの一端11aに直接接続されており、第2のスイッチ素子Q2のドレインは、送電コイルLTXの他端11bに直接接続されている。このように、第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2は、送電コイルLTXの一端11aおよび他端11bに直接接続されていてもよい。さらに、第1および第2のスイッチ素子Q1,Q2は、共振回路の構成素子等を介して第1および第2のインダクタL1,L2に間接的に接続されていてもよい。
【0053】
図9は、ワイヤレス受電装置20の変形例を示す回路図である。
【0054】
図9(a)に示すワイヤレス受電装置20の特徴は、受電コイルLRXと共に共振回路を構成する共振コンデンサCs1が受電コイルLRXに並列接続されている点にある。また図9(b)に示すワイヤレス受電装置20の特徴は、受電コイルLRXと共に共振回路を構成する2つの共振コンデンサCs1,Cs2を備え、第1の共振コンデンサCs1は受電コイルLRXに直列接続されており、第2の共振コンデンサCs2は受電コイルLRXに並列接続されている点にある。さらに図9(c)に示すワイヤレス受電装置20の特徴は、共振コンデンサを省略した点にある。このように、ワイヤレス受電装置20には様々な構成の共振回路を採用することができる。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0056】
例えば、上記実施形態においては、一対の直流入力端子12a,12b間の直流電圧が自励発振回路15に直接供給されているが、自励発振回路15の前段に昇圧コンバータや降圧コンバータなどの電源回路を設けてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1,2 ワイヤレス電力伝送システム
10 ワイヤレス送電装置
11 渦巻き状の導線
11a 送電コイルLTXの一端(導線の一端)
11b 送電コイルLTXの他端(導線の他端)
12a 直流入力のプラス端子
12b 直流入力のマイナス端子
13 磁性体
15 自励発振回路
20 ワイヤレス受電装置
21 整流回路
22 負荷
in 入力コンデンサ
out 平滑コンデンサ
p1,Cp2,Cp3 共振コンデンサ
s1,Cs2 共振コンデンサ
1 第1の電流
2 第2の電流
1 第1のインダクタ
2 第2のインダクタ
RX 受電コイル
TX 送電コイル
1 第1のスイッチ素子(トランジスタ)
2 第2のスイッチ素子(トランジスタ)
ds1 第1のスイッチ素子Q1のドレイン電圧
ds2 第2のスイッチ素子Q2のドレイン電圧
gs1 第1のスイッチ素子Q1のゲート電圧
gs2 第2のスイッチ素子Q2のゲート電圧
out 送電コイルLTXの両端の電圧
1 第1のインピーダンス素子
2 第2のインピーダンス素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9