(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内歯を有するサーキュラスプライン、当該サーキュラスプラインの内側に設けられ前記内歯と噛み合う外歯を有するフレクスプライン、及び、当該フレクスプラインの内側に設けられ当該フレクスプラインを非円形に撓ませて前記外歯を前記内歯に部分的に噛み合わせるための回転体を備える波動減速機用の玉軸受であって、
前記回転体が有する非円形のカムと一体回転可能でありかつ弾性変形が可能である内側の軌道輪と、前記フレクスプラインと一体回転可能でありかつ弾性変形が可能である外側の軌道輪と、内外の前記軌道輪間に設けられている複数の玉と、当該玉を収容するポケットが周方向に複数形成されている保持器と、を有し、
前記保持器は、円環部と、当該円環部から軸方向に延在している複数の柱部と、を有し、周方向で隣り合う前記柱部の間が前記ポケットとなり、当該ポケットが有する前記玉と接触可能な内側面は、半径方向にストレートである径方向を中心線方向とする円筒面に沿った形状からなり、
前記玉と前記柱部との間に形成される周方向隙間は、非円形に変形した前記軌道輪と前記保持器との間に形成される環状空間の径方向隙間よりも小さいことを特徴とする波動減速機用の玉軸受。
非円形に変形した前記軌道輪の短軸方向が鉛直方向と一致する状態で、長軸方向の位置の前記ポケットにおける前記周方向隙間は、前記環状空間の短軸位置における径方向隙間よりも小さい請求項1に記載の波動減速機用の玉軸受。
前記短軸位置において、前記保持器と前記内側の軌道輪との径方向隙間は、前記保持器と前記外側の軌道輪との径方向隙間以上である請求項2に記載の波動減速機用の玉軸受。
【背景技術】
【0002】
図9に示すように、従来、内歯81を有する環状のサーキュラスプライン80、このサーキュラスプライン80の内側に設けられ前記内歯81と噛み合う外歯86を有する環状のフレクスプライン99、及び、このフレクスプライン99の内側に設けられている回転体89を備えた波動減速機が知られている(特許文献1参照)。波動減速機では、外歯86の歯数が内歯81の歯数よりも少なく設定されている。回転体89は、カム91と、このカム91に外嵌していると共にフレクスプライン99が外嵌している玉軸受90とを有している。カム91は楕円形を有しており、これにより、その外側の玉軸受90及びフレクスプライン99は楕円形に撓み、フレクスプライン99の外歯86をサーキュラスプライン80の内歯81に、部分的に噛み合わせることができる。つまり、楕円形に撓むフレクスプライン99の長軸の部分においてサーキュラスプライン80と歯が噛み合い、短軸の部分においてサーキュラスプライン80と歯が離れた状態にある。
【0003】
そして、カム91を回転させることで、サーキュラスプライン80に対して、フレクスプライン99の楕円の長軸位置(内歯81との噛合位置)を移動させることができ、この移動に伴い部分的に歯が噛み合った状態でフレクスプライン99を回転させることができる。
【0004】
楕円形である前記カム91の外側に設けられる玉軸受90は、フレクスプライン99が外嵌する外輪98、カム91に外嵌する内輪92、これら外輪98と内輪92との間に形成される環状空間95に配置される複数の玉96、及びこれら玉96を保持する環状の保持器97を有している。
【0005】
図10(A)は、この玉軸受90及びその周囲を示す横断面図である。保持器97としては、円環部97aと、この円環部97aから軸方向に延在している複数の柱部97bとを有し、いわゆる冠型と呼ばれるものが知られている。この保持器97では、周方向で隣り合う柱部97b間が、玉96を保持するポケット94となる。
【0006】
玉軸受90の外輪98、内輪92、及び保持器97は、カム91に取り付けられる前の状態では真円形状である。そして、カム91への取り付け後、外輪98及び内輪92は楕円に弾性変形する。これに対して、保持器97は真円形状を保とうとする。
また、このような波動減速機では、フレクスプライン99の楕円形状を損なわないように、玉軸受90におけるバックラッシ(ガタ)を抑える必要があり、そのために波動減速機用の玉軸受90では、一般的な玉軸受よりも玉数を多くしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図10(B)は、玉96及び保持器97の一部を玉軸受90の軸線に平行な方向から見た図である。従来の波動減速機用の玉軸受90が有する保持器97では、ポケット94は球面に沿った形状を有しており、この球面は玉96よりも半径が僅かに大きく設定されている。このため、玉96とポケット94との間に形成される隙間は極小さく、この構成により、玉96とポケット94とが接触することで、保持器97の径方向及び軸方向の位置決めがされる。
【0009】
ここで、
図9に示す波動減速機用であり楕円形のカム91に外嵌する玉軸受90では、内輪92が楕円に変形するのに併せて、複数の玉96が楕円配置となる。
したがって、従来の玉軸受90の場合、真円形状を保とうとする保持器97に対して、複数の玉96が楕円配置となることで、特にその楕円の長軸となる部分S1(
図9参照)では、玉96とポケット94(
図10(B)参照)との隙間が部分的に無くなり、これにより保持器97は変形し局部的な応力が発生するおそれがある。しかも、カム91は回転することからこのような応力が繰り返し発生する。
更に、長軸の部分S1を挟む両側位置S3,S4(
図9参照)では、玉96の公転速度に差が生じ、玉96の進み遅れにより柱部97b(ポケット94)に玉96が衝突して保持器97に過大な応力を生じさせることがある。
【0010】
そこで、このような楕円配置になる複数の玉96と保持器97(ポケット94)との関係により保持器97に生じる応力を低減するために、各玉96と各ポケット94(
図10(B)参照)との間に形成される隙間を大きく設定することが考えられる。
しかし、この場合、保持器97は径方向に移動可能となる範囲が広くなり、玉軸受90の回転中に例えば保持器97が外輪98に接触して保持器97の外周面が異常摩耗する等、保持器97を損傷させる可能性がある。
【0011】
そこで、本発明は、保持器に生じる応力を低減することが可能であると共に、保持器が軌道輪に接触して損傷するのを防ぐことが可能となる波動減速機用の玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、内歯を有するサーキュラスプライン、当該サーキュラスプラインの内側に設けられ前記内歯と噛み合う外歯を有するフレクスプライン、及び、当該フレクスプラインの内側に設けられ当該フレクスプラインを非円形に撓ませて前記外歯を前記内歯に部分的に噛み合わせるための回転体を備える波動減速機用の玉軸受であって、前記回転体が有する非円形のカムと一体回転可能でありかつ弾性変形が可能である内側の軌道輪と、前記フレクスプラインと一体回転可能でありかつ弾性変形が可能である外側の軌道輪と、内外の前記軌道輪間に設けられている複数の玉と、当該玉を収容するポケットが周方向に複数形成されている保持器とを有し、前記保持器は、円環部と、当該円環部から軸方向に延在している複数の柱部とを有し、周方向で隣り合う前記柱部の間が前記ポケットとなり、当該ポケットが有する前記玉と接触可能な内側面は、半径方向にストレートである面からなり、前記玉と前記柱部との間に形成される周方向隙間は、非円形に変形した前記軌道輪と前記保持器との間に形成される環状空間の径方向隙間よりも小さい。
【0013】
本発明によれば、非円形であるカムに外嵌する内側の軌道輪及び外側の軌道輪が非円形となり、また、複数の玉が非円形の配置となるが、保持器のポケットが有する玉と接触可能な内側面は、半径方向にストレートである面からなるため、非円形の配置となる複数の玉により保持器は拘束されにくく、保持器は元の形状を保とうとし、保持器に局部的な応力が発生するのを防ぎ、保持器に生じる応力を低減することが可能となる。
さらに、前記周方向隙間は、前記径方向隙間よりも小さいことから、玉軸受が回転し、更に保持器が径方向に移動した際に、保持器が軌道輪に当接するよりも優先して玉に柱部(ポケット)が当接可能であるため、保持器は複数の玉により案内され、従来のように軌道輪と保持器とが接触して保持器が異常摩耗する等、保持器が損傷するのを防ぐことができる。
なお、前記周方向隙間は、ポケット中心と玉中心とが一致している状態で得られる隙間で定義される。また、前記径方向隙間は、軌道輪中心と保持器中心とが一致している状態で非円形に変形した前記軌道輪と前記保持器との間に形成される環状空間の径方向についての寸法で定義される。
【0014】
また、非円形に変形した前記軌道輪の短軸方向が鉛直方向と一致する状態で、長軸方向の位置の前記ポケットにおける前記周方向隙間は、前記環状空間の短軸位置における径方向隙間よりも小さいのが好ましい。
この場合、非円形に変形した軌道輪の短軸方向が鉛直方向と一致する状態で、保持器が重力により鉛直下向きに移動しても、長軸方向に位置するポケットにおいて保持器は玉と当接し、軌道輪と保持器との間に形成される前記環状空間の前記径方向隙間は確保される。つまり、保持器が軌道輪に当接するよりも優先して玉に柱部(ポケット)が当接可能であるため、保持器を複数の玉により案内させることができる。
【0015】
また、この場合において、前記短軸位置において、前記保持器と前記内側の軌道輪との径方向隙間は、前記保持器と前記外側の軌道輪との径方向隙間以上であるのが好ましい。
これにより、保持器が重力により鉛直下向きに移動しても、保持器は内側の軌道輪及び外側の軌道輪に接触せず、長軸方向に位置するポケットにおいて保持器は玉と当接し、保持器を複数の玉により案内させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の波動減速機用の玉軸受によれば、保持器に生じる応力を低減することが可能であると共に、保持器が軌道輪に接触して損傷するのを防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
〔波動減速機の構成について〕
図1は、本発明の玉軸受32を備えている波動減速機5の実施の一形態を軸方向から見た模式図である。
図2は、この波動減速機5の縦断面図である。波動減速機5は、サーキュラスプライン10、フレクスプライン20、及び回転体30を備えている。
【0019】
サーキュラスプライン10は、剛性の高い環状の部材(金属部材)からなり、その内周面に内歯11を有している。内周面は軸心Cを中心とする円形(真円)の面からなる。サーキュラスプライン10は、波動減速機5のケーシング(図示せず)に固定されている。
【0020】
フレクスプライン20は、サーキュラスプライン10の径方向内側に設けられており、その外周面に内歯11と部分的に噛み合う外歯21を有している。本実施形態のフレクスプライン20は(
図2参照)、薄肉カップ形状の金属弾性体からなり、円筒部22と、底部23とを有している。外歯21は、円筒部22の外周面に設けられており、底部23には、図外の出力軸が取り付けられる。フレクスプライン20の外歯21の歯数は、サーキュラスプライン10の内歯11の歯数よりも少ない。本実施形態では、外歯21の歯数は、内歯11の歯数よりも二つ少ない。なお、この歯数差は任意である。
【0021】
また、後にも説明するが、フレクスプライン20の円筒部22は、
図1に示すように、弾性変形することで非円形(本実施形態では楕円形)に撓むことができる。そして、この楕円形の長軸となる部分S1において、外歯21と内歯11とが噛み合った状態となり、短軸となる部分S2で、外歯21と内歯11とが離れた状態となる。
【0022】
回転体30は、フレクスプライン20の円筒部22の径方向内側に設けられており、カム31と、玉軸受32とを有している。カム31は、非円形であり、本実施形態では楕円形を有している(
図1参照)。玉軸受32は、カム31に外嵌していると共に、フレクスプライン20の円筒部22が外嵌している。
【0023】
玉軸受32は、
図3に示すように、薄肉である外側の軌道輪(以下、外輪33という。)と、薄肉である内側の軌道輪(以下、内輪34という。)と、これら外輪33と内輪34との間に設けられている複数の玉35と、環状の保持器36とを有している。保持器36には、玉35を収容するポケット37が周方向に間隔をあけて複数形成されている。ポケット37の形状は全て同じである。
【0024】
外輪33及び内輪34は、例えば軸受鋼等の金属製の環状部材であるが、薄肉であることから、径方向について弾性変形が可能(弾性変形が容易)である。外輪33及び内輪34の厚さ(最大厚さ)は、例えば、玉35の直径の1/7以上、1/2以下とされている。なお、玉35も、例えば軸受鋼等の金属製である。外輪33の内周面には、断面が円弧形状である軌道溝38が形成されており、内輪34の外周面には、断面が円弧形状である軌道溝39が形成されている。そして、これら軌道溝38,39に沿って、各玉35は転動自在となっている。
【0025】
内輪34は、カム31に固定されており(カム31に外嵌しており)、内輪34とカム31とは一体回転可能である。外輪33は、フレクスプライン20の円筒部22に固定されており(円筒部22が外嵌しており)、外輪33とフレクスプライン20とは一体回転可能である。
カム31の外周輪郭形状は楕円形であることから(
図1参照)、内輪34は弾性変形してカム31の形状に沿って楕円形となり、また、複数の玉35を介して外輪33及び円筒部22も弾性変形して楕円形となる。
【0026】
図1及び
図2において、カム31及び玉軸受32を有する回転体30は、波動発生器とも呼ばれ、カム31には、図外の入力軸が取り付けられる。
以上より、回転体30は、フレクスプライン20を楕円形に撓ませ、このフレクスプラインの外歯21を、サーキュラスプライン10の内歯11に部分的に噛み合わせることができる。本実施形態では、外歯21と内歯11とが180度離れた二箇所で噛み合う。
【0027】
〔波動減速機5の動作について〕
図1に示すように、フレクスプライン20は、回転体30により楕円形に撓んだ状態にある。この楕円の長軸の部分S1で外歯21と内歯11とが噛み合い、短軸の部分S2で外歯21と内歯11とは離れた状態にある。サーキュラスプライン10は固定状態にあり、この状態でカム31を、
図1において軸心Cを中心として時計回りに回転させると(
図4(A)参照)、フレクスプライン20の長軸の部分S1の位置が移動(変化)し、外歯21と内歯11との噛み合い部分が移動(変化)する。
【0028】
図4(B)に示すように、カム31を
図1の状態から180度回転させると、フレクスプライン20は、外歯21と内歯11との歯数差の半分である一枚分に相当する距離だけ、カム31の回転方向と反対の方向(反時計回りの方向)に移動することとなる。
そして、
図4(C)に示すように、カム31を
図4(B)の状態から更に180度回転させると、フレクスプライン20は、外歯21と内歯11との歯数差である二枚分に相当する距離だけ、カム31の回転方向と反対の方向(反時計回りの方向)に移動する。カム31は図外の入力軸と一体回転可能であり、フレクスプライン20は図外の出力軸と一体回転可能であることから、この波動減速機5では、カム31の入力に対して、フレクスプライン20の回転が出力として取り出される。なお、
図4では、玉軸受32の保持器36を省略して記載している。
【0029】
〔玉軸受32が有する保持器36について〕
図5は、玉軸受32が有する保持器36の半分を示す説明図である。保持器36は、いわゆる冠型の保持器であり、環状である円環部42と、この円環部42から軸方向に延在している複数の柱部41とを有している。そして、周方向で隣り合う柱部41,41の間がポケット37となる。各ポケット37に玉35が一つ収容される。玉軸受32がカム31に取り付けられる前の状態では、保持器36は、外輪33及び内輪34と同様に、円形(真円)に形成されている。本実施形態の保持器36は樹脂製である。
【0030】
図6は、保持器36のポケット37、及びポケット37に保持されている玉35の説明図であり、(A)は半径方向から見た図であり、(B)は(A)のX−X矢視の図である。
図5及び
図6において、柱部41が有する玉35側の内側面45a、及び、円環部42が有する玉35側の内側面45bは、玉35と接触可能となる面であり、これらの内側面45a,45bは、ポケット37が有する面であって、玉35と接触可能な内側面(ポケット面)45である。そして、この内側面45は、半径方向(
図6(A)において紙面に直交する方向)にストレートである面からなる。具体的には、ポケット37(内側面45)は、径方向を中心線方向とする円筒面に沿った形状を有している。
【0031】
そして、内側面45と玉35との間には、適切な隙間が設けられており、玉軸受32がカム31に取り付けられる前の状態において、
図6に示すように、玉35と柱部41との間に形成される周方向の隙間(以下、周方向隙間という。)を、
図6では「K5」としている。なお、この周方向隙間K5は、
図6(A)に示すように、ポケット中心と玉中心とが一致している状態で得られる隙間で定義され、この隙間の周方向についての寸法である。一致するこれらポケット中心と玉中心を、
図6(A)では点Qとしている。前記ポケット中心は、ポケット37の中心であり、前記円筒面の中心線と玉35のピッチ円との交点である。また、前記玉中心は、玉35の中心である。
また、
図3に示すように、保持器36の外周面47(径方向外側面)は、保持器36の軸線を中心線とする円筒面に沿った形状を有しており、また、保持器36の内周面48(径方向内側面)は、保持器36の軸線を中心線とする円筒面に沿った形状を有している。
【0032】
〔波動減速機の玉軸受32における隙間について〕
図7は、楕円形に変形している玉軸受32の説明図であり、玉軸受32を軸方向から見た図である。この
図7では、外輪33の内周面46、保持器36の外周面47及び内周面48、並びに、内輪34の外周面49の輪郭形状を示している。
前記のとおり、玉軸受32が外嵌するカム31(
図1参照)は楕円形であることから、玉軸受32の内輪34も楕円形に弾性変形し、複数の玉35も楕円に沿った配置となり、更に、外輪33も楕円形に弾性変形している。これに対して、保持器36は、前記のとおり、ポケット37の内側面45が半径方向にストレートである面からなるため(
図6参照)、楕円配置となる玉35に追従しないで、元の真円状態が保たれている。このため、
図7において、長軸方向の両側の位置におけるポケット37では、玉35(
図6参照)とその両側の柱部41との間の周方向の隙間は、前記周方向隙間K5となる。なお、
図7では、上下方向が短軸方向となり、左右方向が長軸方向であるが、波動減速機5の稼働状態(回転状態)では、カム31が回転することで、長軸方向及び短軸方向は逐次変化する。
【0033】
そして、保持器36の外周面47と外輪33の内周面46との間には、外環状空間E1が形成されており、保持器36の内周面48と内輪34の外周面49との間には、内環状空間E2が形成されている。
【0034】
外環状空間E1では、短軸位置における径方向隙間K2と、長軸位置における径方向隙間K1とが、異なっており、K2がK1よりも小さくなる(K2<K1)。また、この短軸位置における径方向隙間K2は、外環状空間E1において最小であり、また、長軸位置における径方向隙間K1は、外環状空間E1において最大である。
内環状空間E2では、短軸位置における径方向隙間K4と、長軸位置における径方向隙間K3とが、異なっており、K3がK4よりも小さくなる(K3<K4)。また、この短軸位置における径方向隙間K4は、内環状空間E2において最大であり、また、長軸位置における径方向隙間K3は、内環状空間E2において最小である。
【0035】
前記径方向隙間K1,K2,K3,K4それぞれは、玉軸受32が止まっている状態(非回転状態)であって、外輪33及び内輪34の中心と、保持器36の中心とが一致している状態(
図7に示す状態)で、楕円に変形したこれら外輪33及び内輪34と、真円である保持器36との間に形成される外・内環状空間E1、E2の径方向についての寸法で定義される。以下において、外輪33及び内輪34は同心に配置されており、これら外輪33及び内輪34の中心を、軌道輪中心という。外輪33及び内輪34は楕円に変形していることから、前記軌道輪中心は、長軸と短軸との交点(楕円の中心)となる。また、保持器36の中心を、保持器中心という。
【0036】
そして、
図7に示す長軸位置におけるポケット37の玉35とその両側の柱部41との間に形成される前記周方向隙間K5(
図6参照)は、前記軌道輪中心と保持器中心とが一致している状態で(
図7参照)、楕円に変形した外輪33と、真円である保持器36との間に形成される外環状空間E1の短軸位置における径方向隙間K2よりも小さく設定されている(K5<K2)。
また、本実施形態では、
図7に示すように、短軸位置において、保持器36と内輪34との径方向隙間K4は、保持器36と外輪33との径方向隙間K2以上となっている(K4≧K2)。
【0037】
以上の構成を有する玉軸受32によれば、前記のとおり、楕円であるカム31によって内輪34及び外輪33が楕円となり、また、複数の玉35が楕円配置となるが、保持器36のポケット37が有する玉35と接触可能な内側面45は、半径方向にストレートである面からなるため、カム31の楕円形状によって玉軸受32が楕円に変形し複数の玉35が楕円配置となって、所により(特に長軸位置において)玉35と柱部41との間隔が狭くなっても、楕円の配置となる複数の玉35により保持器36は拘束されにくく、保持器36は元の真円形状を保ち、保持器36に局部的な応力が発生するのを防ぐことができる。このため、保持器36に生じる応力を低減することが可能となる。
【0038】
そして、
図7において、上下方向が鉛直方向であり、楕円に変形した内輪34及び外輪33の短軸方向が、鉛直方向(重力方向)と一致する状態では、保持器36は、重力により鉛直下向き(
図7において、下向き)に移動する(落下する)。この際、保持器36が落下可能となる量は径方向隙間K2となるが、本実施形態では、前記のとおり、K5<K2の寸法関係であるため、短軸方向が鉛直方向と一致している状態で、保持器36が鉛直下向きに落下すると、短軸位置P1(
図7の下端)において保持器36が外輪33に当接するよりも優先して、長軸位置P2において玉35に柱部41(ポケット37の内側面45)が当接する。このため、保持器36は外輪33ではなく複数の玉35により案内され、従来のように外輪と保持器とが接触して保持器が異常摩耗する等、保持器が損傷するのを防ぐことができる。この結果、保持器36の耐久性が向上し、波動減速機用の玉軸受32の信頼性が高まり、この結果、信頼性の高い波動減速機5が得られる。
【0039】
また、前記のとおり、短軸位置において、保持器36と内輪34との径方向隙間K4は、保持器36と外輪33との径方向隙間K2以上であるため(K4≧K2)、保持器36が重力により鉛直下向きに移動しても、保持器36は内輪34の他に外輪33にも接触せず、長軸方向に位置するポケット37において保持器36は玉35と当接し、保持器36を複数の玉35により案内させることができる。
【0040】
図7に示す状態から、カム31が90度回転すると、長軸方向が鉛直方向となり、短軸方向が水平方向となる(
図8参照)。この状態においても、保持器36は、重力により鉛直下向き(
図8において、下向き)に移動する(落下する)。この際、保持器36が落下可能となる量は、径方向隙間K1となるが、この場合であっても、
図8に示す短軸位置におけるポケット37の玉35とその両側の柱部41との間に形成される前記周方向隙間K5(
図6参照)は、前記軌道輪中心と保持器中心とが一致している状態で、楕円に変形した外輪33と、真円である保持器36との間に形成される外環状空間E1の径方向隙間K1よりも小さくに設定されている(K5<K1)。
特に本実施形態では、前記のとおり、前記周方向隙間K5は、外環状空間E1の短軸位置における径方向隙間K2よりも小さく(K5<K2)、また、この外環状空間E1では、長軸位置における前記径方向隙間K1が最大であり、短軸位置における前記径方向隙間K2が最小であることから(K1>K2)、K1>K2>K5の関係となる。
【0041】
このように、K1>K5の寸法関係であるため、
図8に示す長軸方向が鉛直方向と一致している状態で、保持器36が鉛直下向きに落下しても、長軸位置P1において保持器36が外輪33の内周面46に当接するよりも優先して、短軸位置P1において玉35に柱部41(ポケット37の内側面45a)が当接可能である。このため、保持器36は外輪33ではなく玉35により案内され、安定して回転することが可能となる。
以上より、本実施形態の玉軸受32は、保持器36を玉35に案内させる転動体案内の軸受となる。
【0042】
また、本実施形態の保持器36では、柱部41は、周方向寸法が小さくなるように構成されており、これにより、ポケット37と玉35との隙間(周方向隙間K5:
図6参照)が大きくなり、玉35と保持器36との相対的な移動の自由度が高まる。また、柱部41は、径方向寸法(厚さ)e(
図6(B)参照)も小さくなるように構成されており、これにより、外輪33及び内輪34に対する保持器36の移動の自由度が高まる。このため、保持器36が拘束されることで生じる応力を逃がす(低減する)ことのできる構成となる。
【0043】
また、保持器36は樹脂製であるが、特に、強化繊維等の強化材を含まない樹脂製(例えば66ナイロン)である。これにより、保持器36(特に柱部41)が変形しやすく、玉35が衝突等したとしても破損し難くしている。
【0044】
また、本発明の波動減速機5及び玉軸受32は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。前記実施形態では、カム31が楕円形である場合について説明したが、その他の非円形状であってもよい。また、前記実施形態では、玉軸受32(外輪33)の外周に直接的にフレクスプライン20を外嵌させた形態について説明したが、これら間に弾性層を介在させてフレクスプライン20を外嵌させてもよい。また、カム31と内輪34との間も同様に、中間部材が介在していてもよい。