特許第6604412号(P6604412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604412
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/706 20060101AFI20191031BHJP
   G11B 5/714 20060101ALI20191031BHJP
   G11B 5/70 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   G11B5/706
   G11B5/714
   G11B5/70
【請求項の数】20
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-190317(P2018-190317)
(22)【出願日】2018年10月5日
(62)【分割の表示】特願2016-528986(P2016-528986)の分割
【原出願日】2015年4月10日
(65)【公開番号】特開2019-21372(P2019-21372A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2018年10月19日
(31)【優先権主張番号】特願2014-129517(P2014-129517)
(32)【優先日】2014年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(72)【発明者】
【氏名】中塩 栄治
(72)【発明者】
【氏名】山鹿 実
(72)【発明者】
【氏名】寺川 潤
(72)【発明者】
【氏名】印牧 洋一
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 克紀
(72)【発明者】
【氏名】橋本 淳
【審査官】 斎藤 眞
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−229037(JP,A)
【文献】 特開2005−109191(JP,A)
【文献】 特開2010−113743(JP,A)
【文献】 特開2008−060293(JP,A)
【文献】 特開2008−277726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62−5/858
H01F 1/40−1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
上記支持体の一方の主面に設けられ、磁性粉を含む磁性層と
を備え、
上記磁性粉は、立方晶フェライトを含む磁性粒子からなる磁性粉、およびε相酸化鉄を含む磁性粒子からなる磁性粉の少なくとも一方を含み、
上記磁性粉の平均アスペクト比は、0.75以上1.25以下であり、
十点平均粗さRzは、35nm以下であり、
垂直方向の保磁力は、230kA/m以上400kA/m以下であり、
垂直方向の角型比は、0.6以上である磁気記録媒体。
【請求項2】
上記磁性粉の平均粒子サイズは、14nm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
上記支持体と上記磁性層の間に設けられ、非磁性粉を含む非磁性層と、
上記支持体の他方の主面に設けられたバック層と
を備える請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
上記立方晶フェライトは、Coを含んでいる請求項1から3のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
上記立方晶フェライトは、Ni、MnおよびZnのうちの1種以上をさらに含んでいる請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
上記立方晶フェライトを含む磁性粒子からなる磁性粉は、立方体状有し、
上記ε相酸化鉄を含む磁性粒子からなる磁性粉は、球状有している請求項1から5のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
上記磁性層は、垂直記録層である請求項1から6のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項8】
上記磁性粉は、立方晶フェライトを含む磁性粒子からなる磁性粉を含んでいる請求項1から7のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項9】
上記立方晶フェライトを含む磁性粒子からなる磁性粉が正方形状面を持ち、上記磁性層の表面から上記正方形状面が露出している請求項8に記載の磁気記録媒体。
【請求項10】
垂直方向の保磁力は、325kA/m以上400kA/m以下である請求項8または9に記載の磁気記録媒体。
【請求項11】
上記磁性粉は、ε相酸化鉄を含む磁性粒子からなる磁性粉を含んでいる請求項1から7のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
上記ε相酸化鉄を含む磁性粒子からなる磁性粉の平均アスペクト比は、1ある請求項11に記載の磁気記録媒体。
【請求項13】
上記ε相酸化鉄を含む磁性粒子からなる磁性粉が球状面を持ち、上記磁性層の表面から上記球状面の一部分が露出している請求項11または12に記載の磁気記録媒体。
【請求項14】
上記ε相酸化鉄のFeサイトの一部が、金属元素で置換されている請求項1から7、11から13のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項15】
上記金属元素は、Al、GaおよびInからなる群より選ばれる1種以上である請求項14に記載の磁気記録媒体。
【請求項16】
垂直方向の角型比は、0.65以上である請求項1から15のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項17】
上記磁性粉の平均粒子サイズは、10nm以上14nm以下である請求項1から16のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項18】
上記磁性層の厚みは、30nm以上100nm以下である請求項1から17のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項19】
上記磁性層の厚みは、50nm以上70nm以下である請求項1から18のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【請求項20】
上記磁性粉は、上記磁性層の厚み方向に配向している請求項1から19のいずれかに記載の磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、磁気記録媒体に関する。詳しくは、支持体と、磁性粉を含む磁性層とを備える磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子データの保存のため、磁気記録媒体が幅広く利用されている。その媒体の一つとして磁気テープが普及している。磁気テープとしては、可撓性の支持体上に、非磁性層と、磁性粉を含む磁性層が積層された構成のものが知られている。
【0003】
オ−ディオ用、ビデオ用、データ用などの磁気テープでは、強磁性酸化鉄、Co変性強磁性酸化鉄、CrO2、強磁性合金などの磁性粉を結合剤中に分散した磁性層が広く用いられる。これらの磁性粉は、一般には針状でその長手方向に磁化される。針状磁性粉を用いた磁気テープでは、高記録密度を実現するためには、超短波長記録(記録波長の超短波長化)が必要となる。しかし、超短波長記録を実現するために、針状磁性粉の長軸を短くすると、保磁力が低下してしまう。これは、針状粒子の保磁力の発現が針状というその形状に起因するものであるからである。さらに短波長記録がなされると、自己減磁が大きくなり、十分な出力が得られなくなる。
【0004】
そこで、LTO6(LTO:Linear Tape Openの略)対応の最近の磁気テープでは、六方晶のバリウムフェライト磁性粉が用いられている。針状磁性粒子の長手記録方式からバリウムフェライト磁性粉の垂直記録方式へ移行する高密度記録化のロードマップが描かれている(例えば非特許文献1参照)。垂直記録方式の磁気テープの磁性粉としては、立方晶のCoMn系スピネルフェライト磁性粉を用いる技術(例えば特許文献1参照)、ε−Fe23磁性粉を用いる技術(例えば特許文献2参照)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4687136号公報
【0006】
【特許文献2】特許第5013505号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】IEEE Trans. Magn. Vol.47, No.1,P137(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本技術の目的は、短波長記録が可能で、かつ高いS/N比(signal-noise ratio)を有する磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本技術は、
支持体と、
支持体の一方の主面に設けられ、磁性粉を含む磁性層と
を備え、
磁性粉は、立方晶フェライトを含む磁性粒子からなる磁性粉、およびε相酸化鉄を含む磁性粒子からなる磁性粉の少なくとも一方を含み、
磁性粉の平均アスペクト比は、0.75以上1.25以下であり、
十点平均粗さRzは、35nm以下であり、
垂直方向の保磁力は、230kA/m以上400kA/m以下であり、
垂直方向の角型比は、0.6以上である磁気記録媒体である。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本技術によれば、短波長記録が可能で、かつ高いS/N比を有する磁気記録媒体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本技術の第1の実施形態に係る磁気記録媒体の構成の一例を示す概略断面図である。
図2図2Aは、磁性粒子の形状の一例を示す概略図である。図2Bは、磁性層の断面の一例を示す断面図である。図2Cは、磁性層の表面の一例を示す平面図である。
図3図3Aは、磁性粒子の形状の一例を示す概略図である。図3Bは、磁性層の断面の一例を示す断面図である。図3Cは、磁性層の表面の一例を示す平面図である。
図4図4Aは、実施例1の磁気テープの断面TEM像である。図4Bは、図4Aの磁性層の一部を拡大して表す図である。
図5図5Aは、比較例13の磁気テープの断面TEM像である。図5Bは、図5Aの磁性層の一部を拡大して表す図である。
図6図6Aは、比較例17の磁気テープの断面TEM像である。図6Bは、図6Aの磁性層の一部を拡大して表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
バリウムフェライト磁性粉を用いた磁気記録媒体は、現在、LTO6対応の磁気記録媒体にて実用化されており、次世代の磁気記録媒体の磁性粉は、バリウムフェライト磁性粉であると一般的には考えられている。しかしながら、本発明者らの知見によれば、バリウムフェライト磁性粉には以下の問題点がある。
【0013】
(1)隣接粒子間の接触面積
バリウムフェライト粒子は六角板状(高さが低い六角柱状)を有しているため、バリウムフェライト粒子を超微粒子化した場合には、隣接するバリウムフェライト粒子の六角形状面同士が密着し、磁性粉が凝集してしまう可能性がある。すなわち、バリウムフェライト粒子を超微粒子化したとしても、バリウムフェライト粒子個々の分散が進行しない可能性がある。また、バリウムフェライト粒子に垂直磁界による垂直配向処理を施した場合、おのずと非磁性支持体表面とバリウムフェライト粒子の六角形状面が並行になる。これは、バリウムフェライト粒子の磁化容易軸方向は六角形状面に垂直な方向であるため、六角形状面が媒体表面に配列することになるためである。このような粒子配列では、媒体の厚さ方向におけるバリウムフェライト粒子の接触面積が増えるため、粒子同士が凝集する可能性が増大する。したがって、超微粒子からなる磁性粉の分散性を高めて、微粒子化の利点である高密度記録を実現するためには、隣接する超磁性粒子同士の接触面積を小さくして、できる限り凝集を抑制することが有効になると考えられる。
【0014】
(2)媒体表面における粒子の露出面積
垂直配向方式では、六角板状のバリウムフェライト粒子では、最も面積が大きい六角形状面が磁気記録媒体の表面に露出することになる。この六角形状面に磁気ヘッドにより短波長記録を行うことは、同一体積の立方体状磁性粒子の正方形状面、あるいは球状磁性粉の球面に短波長記録を行う場合に比べて、高密度記録の観点で明らかに不利である。
【0015】
(3)単位格子サイズ
バリウムフェライト粒子の結晶構造は、マグネトプラムバイト型であり単位格子のC軸が2.3nmと比較的大きい。バリウムフェライトが現在実用化されているとはいえ、将来の超微粒子化に対しては、単位格子サイズができる限り小さい立方晶酸化鉄の方が好適であると考えられる。
【0016】
本技術の実施形態に係る磁気記録媒体では、(1)隣接粒子間の接触面積、(2)媒体表面における粒子の露出面積、(3)単位格子サイズの3つの観点から、短波長の磁気記録を可能とすべく、磁性粉として以下のものを用いる。すなわち、単位結晶子が小さい立方晶などの結晶構造を有し、アスペクト比の小さい立方体状、球状またはそれらに近い形状を有し、磁気記録媒体の記録面に露出する磁性粒子の面積が小さい磁性粉を用いる。具体的には、立方体状またはほぼ立方体状を有する立方晶フェライト磁性粉、および球状またはほぼ球状を有しているε−Fe23磁性粉(ε相酸化鉄磁性粉)の少なくとも一方を用いる。
【0017】
本明細書では、立方体状またはほぼ立方体状の磁性粒子の粒子サイズ、アスペクト比をそれぞれ板径、板状比といい、球状またはほぼ球状の磁性粒子の粒子サイズ、アスペクト比をそれぞれ粒径、球状比ということがある。六角板状またはほぼ六角板状の磁性粒子の粒子サイズ、アスペクト比を板径、板状比といい、針状またはほぼ針状の磁性粒子の粒子サイズ、アスペクト比を長軸径、針状比ということがある。
【0018】
本技術の実施形態について図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1 第1の実施形態
1.1 磁気記録媒体の構成
1.2 磁気記録媒体の製造方法
1.3 効果
2 第2の実施形態
2.1 磁気記録媒体の構成
2.2 効果
2.3 変形例
【0019】
<1 第1の実施形態>
[1.1 磁気記録媒体の構成]
図1に示すように、本技術の第1の実施形態に係る磁気記録媒体は、いわゆる垂直磁気記録媒体であり、非磁性支持体1と、非磁性支持体1の一方の主面上に設けられた下地層2と、下地層2上に設けられた磁性層3とを備える。磁気記録媒体が、必要に応じて、非磁性支持体1の他方の主面に設けられたバックコート層4をさらに備えるようにしてもよい。また、磁性層3上に保護層および潤滑剤層などをさらに設けるようにしてもよい。
【0020】
(非磁性支持体)
非磁性支持体1は、例えば、可撓性を有する長尺状のフィルムである。非磁性支持体1の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、セルローストリアセテート、セルロースダイアセテート、セルロースブチレートなどのセルロース誘導体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのビニル系樹脂、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミドなどのプラスチック、アルミニウム合金、チタン合金などの軽金属、アルミナガラスなどのセラミックなどを用いることができる。さらには、機械的強度を高めるために、AlまたはCuの酸化物を含む薄膜を、ビニル系樹脂などを含む非磁性支持体1の主面のうち少なくとも一方に成膜したものを用いてもよい。
【0021】
(磁性層)
磁性層3は、短波長記録または超短波長記録が可能な垂直記録層である。磁性層3は、磁性層3の厚さ方向に磁気異方性を有する。すなわち、磁性層3の磁化容易軸は、磁性層3の厚さ方向に向いている。磁性層3の平均厚さは、好ましくは30nm以上100nm以下、より好ましくは50nm以上70nm以下である。
【0022】
磁性層3の保磁力Hcが、好ましくは230kA/m以上400kA/m以下である。保磁力Hcが230kA/m未満であると、高密度磁気記録媒体として必要な、波長が短い領域の出力が低下してしまい、良好なS/N比が得られなくなる虞がある。一方、保磁力Hcが400kA/mを超えてしまうと、信号書き込み時に飽和記録が難しくなってしまい、結果として良好なS/N比が得られなくなる虞がある。
【0023】
スペーシングdと遷移幅aの和“d+a”が、好ましくは30nm以下である。スペーシングdは磁気記録媒体の表面粗さに強く依存し、磁気ヘッドと磁気記録媒体の距離となる。遷移幅aは、磁化が反転している領域の幅であり、スペーシングdにも依存し、スペーシングdが小さいほど急峻な磁化転移が形成される。これは、磁気ヘッドの記録磁界形状がスペーシングdによって変化するためである。“d+a”を30nm以下に低減することで、遷移幅が狭く短波長の記録再生を実現し、良好な電磁変換特性を有する磁気記録媒体を実現できる。なお、“d+a”については、H. Neal Bertram著、Theory of Magnetic Recordingに記載されている。
【0024】
磁気記録媒体の記録面(最表面)の十点平均粗さRz、すなわち磁性層3の表面の十点平均粗さRzが、好ましくは35nm以下である。Rzが35nmを超えると、スペーシングdが大きくなり、“d+a”が30nmを超える虞がある。すなわち、良好な電磁変換特性が得られなくなる虞がある。なお、磁性層3上に保護層および潤滑剤層などの薄膜がさらに設けられている場合には、その薄膜の表面の十点平均粗さRzが、磁気記録媒体の記録面の十点平均粗さRzとなる。
【0025】
磁性層3の垂直方向に測定した角型比Rs(残留磁化Mr/飽和磁化Ms)が、好ましくは0.6以上、具体的には0.6以上1.0以下である。垂直方向の角型比が0.6以上であると、S/N比を更に向上することができる。角型比Rsの上限値は原理上1.0である。
【0026】
磁性層3は、例えば、磁性粉、結着剤および導電性粒子を含んでいる。磁性層3が、必要に応じて、潤滑剤、研磨剤、防錆剤などの添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0027】
磁性粉は、立方晶フェライト磁性粉である。本明細書では、立方晶フェライト磁性粒子からなる磁性粉を立方晶フェライト磁性粉という。磁気記録媒体の記録密度向上のためには、磁気記録媒体が高いS/N比を有していることが望ましい。一般に記録減磁や短波長記録した際の自己減磁を抑制するために保磁力Hcを増大させ、ノイズを抑制することを考慮すると、磁性粉の粒子サイズをできるだけ小さく設計することが望ましい。特に垂直配向膜では、反磁界の影響のため保磁力Hcが高い場合の方が、高出力が得られる傾向がある。さらに高保磁力化は微粒子化した際の熱的安定性にも優れる。したがって、次世代の磁気記録媒体としては、高い保磁力Hcを有するものが好ましい。この点を考慮して、第1の実施形態では、六方晶バリウムフェライト磁性粉よりも高い保磁力Hcを発現する可能性の高い立方晶フェライト磁性粉を用いる。
【0028】
図2Aに示すように、立方晶フェライト磁性粉21が立方体状またはほぼ立方体状を有している。ここで、“立方晶フェライト磁性粉21がほぼ立方体状”とは、立方晶フェライト磁性粉21の平均板状比(平均アスペクト比(平均板径LAM/平均板厚LBM))が0.75以上1.25以下である直方体状のことをいう。立方晶フェライト磁性粉21は、単位格子サイズが小さいので、将来の超微粒子化の観点で有利である。
【0029】
図2Bの断面図に示すように、立方晶フェライト磁性粉21は、磁性層3内に分散されている。立方晶フェライト磁性粉21の磁化容易軸は、磁性層3の厚さ方向を向いているか、もしくはほぼ磁性層3の厚さ方向を向いている。すなわち、立方晶フェライト磁性粉21は、その正方形状面SAが磁性層3の厚さ方向と垂直またはほぼ垂直となるように、磁性層3内に分散されている。立方体状またはほぼ立方体状の立方晶フェライト磁性粉21では、六角板状のバリウムフェライト磁性粉に比べて、媒体の厚さ方向における粒子同士の接触面積を低減し、粒子同士の凝集を抑制できる。すなわち、磁性粉の分散性を高めることができる。
【0030】
正方形状面SAが、磁性層3の表面から露出している。この正方形状面SAに磁気ヘッドにより短波長記録を行うことは、同一体積を有する六角板状のバリウムフェライト磁性粉の六角形状面に短波長記録を行う場合に比べて、高密度記録の観点で有利である。図2Cの平面図に示すように、磁性層3の表面には、高密度記録の観点からすると、立方晶フェライト磁性粉21の正方形状面SAが敷き詰められていることが好ましい。
【0031】
立方晶フェライト磁性粒子は、いわゆるスピネルフェリ磁性粒子である。立方晶フェライト磁性粒子は、立方晶フェライトを主相とする鉄酸化物の粒子である。立方晶フェライトは、Co、Ni、Mn、Al、CuおよびZnからなる群より選ばれる1種以上を含んでいる。好ましくは、立方晶フェライトは、Coを少なくとも含み、Co以外にNi、Mn、Al、CuおよびZnからなる群より選ばれる1種以上をさらに含んでいる。より具体的には例えば、立方晶フェライトは、一般式MFe24で表される平均組成を有する。但し、Mは、Co、Ni、Mn、Al、CuおよびZnからなる群より選ばれる1種以上の金属である。好ましくは、Mは、Coと、Ni、Mn、Al、CuおよびZnからなる群より選ばれる1種以上の金属との組み合わせである。
【0032】
立方晶フェライト磁性粉21の平均板径(平均粒子サイズ)は、好ましくは14nm以下、より好ましくは10nm以上14nm以下である。平均板径が14nmを超えると、媒体表面における粒子の露出面積が大きくなり、S/N比が低下する虞がある。一方、平均板径が10nm未満であると、立方晶フェライト磁性粉21の作製が困難となる虞がある。
【0033】
ここで、立方晶フェライト磁性粉21の平均板径は、以下のようにして求められる。まず、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)により磁性層表面を観察し、そのAFM像に含まれる数百個の立方晶フェライト磁性粉21の正方形状面SAの一辺の長さLAを板径として求める(図2A図2C参照)。次に、数百個の立方晶フェライト磁性粉21の板径を単純に平均(算術平均)して、平均板径LAMを求める。
【0034】
立方晶フェライト磁性粉21の平均板状比(平均アスペクト比(平均板径LAM/平均板厚LBM))が、0.75以上1.25以下であることが好ましい。平均板状比がこの数値範囲から外れると、立方晶フェライト磁性粉21の形状が立方体状またはほぼ立方体状ではなくなるため、凝集が発生し、短波長記録が困難になる虞がある。
【0035】
ここで、立方晶フェライト磁性粉21の平均板状比は、以下のようにして求められる。まず、上述したようにして、立方晶フェライト磁性粉21の平均板径LAMを求める。次に、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)により磁性層断面を観察し、そのTEM像に含まれる数百個の立方晶フェライト磁性粉21の側面の幅LB、すなわち側面を構成する正方形状面SBの辺の長さLBを板厚として求める(図2A図2B参照)。次に、数百個の立方晶フェライト磁性粉21の板厚LBを単純に平均(算術平均)して、平均板厚LBMを求める。次に、上述のようにして求めた平均板径LAMおよび平均板厚LBMを用いて、平均板状比(平均板径LAM/平均板厚LBM)を求める。
【0036】
結着剤としては、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂などに架橋反応を付与した構造の樹脂が好ましい。しかしながら結着剤はこれらに限定されるものではなく、磁気記録媒体に対して要求される物性などに応じて、その他の樹脂を適宜配合してもよい。配合する樹脂としては、通常、塗布型の磁気記録媒体において一般的に用いられる樹脂であれば、特に限定されない。
【0037】
例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニリデン共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニル共重合体、メタクリル酸エステル−エチレン共重合体、ポリ弗化ビニル、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、セルロース誘導体(セルロースアセテートブチレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、ニトロセルロース)、スチレンブタジエン共重合体、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、合成ゴムなどが挙げられる。
【0038】
また、熱硬化性樹脂、または反応型樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。
【0039】
また、上述した各結着剤には、磁性粉の分散性を向上させる目的で、−SO3M、−OSO3M、−COOM、P=O(OM)2などの極性官能基が導入されていてもよい。ここで、式中Mは、水素原子、あるいはリチウム、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属である。
【0040】
更に、極性官能基としては、−NR1R2、−NR1R2R3+X−の末端基を有する側鎖型のもの、>NR1R2+X−の主鎖型のものが挙げられる。ここで、式中R1、R2、R3は、水素原子、または炭化水素基であり、X−は弗素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン元素イオン、または無機もしくは有機イオンである。また、極性官能基としては、−OH、−SH、−CN、エポキシ基なども挙げられる。
【0041】
導電性粒子としては、炭素を主成分とする微粒子、例えば、カーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックとしては、例えば、旭カーボン社の旭#15、#15HSなどを用いることができる。また、シリカ粒子表面にカーボンを付着させたハイブリッドカーボンを用いてもよい。
【0042】
磁性層3は、非磁性補強粒子として、酸化アルミニウム(α、βまたはγアルミナ)、酸化クロム、酸化珪素、ダイヤモンド、ガーネット、エメリー、窒化ホウ素、チタンカーバイト、炭化珪素、炭化チタン、酸化チタン(ルチル型またはアナターゼ型の酸化チタン)などをさらに含有していてもよい。
【0043】
(下地層)
下地層2は、非磁性粉および結着剤を主成分として含む非磁性層である。下地層2が、必要に応じて、導電性粒子、潤滑剤などの各種添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0044】
非磁性粉は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラックなども使用できる。無機物質としては、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。非磁性粉の形状としては、例えば、針状、球状、板状などの各種形状が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0045】
結着剤としては、上述した磁性層3において適用可能なものをいずれも使用することができる。また、下地層2においては、樹脂にポリイソシアネートを併用して、これを架橋硬化させるようにしてもよい。ポリイソシアネートとしては、例えば、トルエンジイソシアネート、およびこれらの付加体、アルキレンジイソシアネート、およびこれらの付加体などが挙げられる。
【0046】
下地層2の導電性粒子としては、上述した磁性層3の導電性粒子と同様に、例えば、カーボンブラック、シリカ粒子表面にカーボンを付着させたハイブリッドカーボンなどを用いることができる。
【0047】
磁性層3および下地層2に含有させる潤滑剤としては、例えば、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸と、炭素数2〜12の1価〜6価アルコールのいずれかとのエステル、これらの混合エステル、またはジ脂肪酸エステル、トリ脂肪酸エステルを適宜用いることができる。潤滑剤の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸ペンチル、ステアリン酸ヘプチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸イソオクチル、ミリスチン酸オクチルなどが挙げられる。
【0048】
[1.2 磁気記録媒体の製造方法]
次に、上述の構成を有する磁気記録媒体の製造方法の一例について説明する。
まず、非磁性粉、導電性粒子および結着剤などを溶剤に混練、分散させることにより、下地層形成用塗料を調製する。次に、磁性粉、導電性粒子および結着剤などを溶剤に混練、分散させることにより、磁性層形成用塗料を調製する。磁性層形成用塗料および下地層形成用塗料の調製には、同様の溶剤、分散装置および混練装置を適用することができる。
【0049】
上述の塗料調製に用いられる溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、エチレングリコールアセテートなどのエステル系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2−エトキシエタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜混合して用いてもよい。
【0050】
上述の塗料調製に用いられる混練装置としては、例えば、連続二軸混練機、多段階で希釈可能な連続二軸混練機、ニーダー、加圧ニーダー、ロールニーダーなどの混練装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。また、上述の塗料調製に用いられる分散装置としては、例えば、ロールミル、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、スパイクミル、ピンミル、タワーミル、パールミル(例えばアイリッヒ社製「DCPミル」など)、ホモジナイザー、超音波分散機などの分散装置を用いることができるが、特にこれらの装置に限定されるものではない。
【0051】
次に、下地層形成用塗料を非磁性支持体1の一方の主面に塗布して乾燥させることにより、下地層2を形成する。次に、この下地層2上に磁性層形成用塗料を塗布して乾燥させることにより、磁性層3を下地層2上に形成する。なお、乾燥の際に、磁性粉に含まれる立方晶フェライト磁性粉を磁場配向させることにより、立方晶フェライト磁性粉の磁化容易軸を磁性層3の厚さ方向に向けるか、もしくはほぼ磁性層3の厚さ方向に向けることが好ましい。次に、バックコート層形成用塗料を非磁性支持体1の他方の主面に塗布して乾燥させることにより、バックコート層4を形成する。
【0052】
次に、下地層2、磁性層3、およびバックコート層4が形成された非磁性支持体1を大径コアに巻き直し、硬化処理を行う。次に、下地層2、磁性層3、およびバックコート層4が形成された非磁性支持体1に対してカレンダー処理を行った後、所定の幅に裁断する。このようにして、所定の幅に裁断されたパンケーキを得ることができる。なお、バックコート層4を形成する工程は、カレンダー処理後であってもよい。
【0053】
下地層2および磁性層3の形成工程は、上述の例に限定されるものではない。例えば、下地層形成用塗料を非磁性支持体1の一方の主面に塗布して塗膜を形成し、この湿潤状態にある塗膜上に磁性層形成用塗料を重ねて塗布して塗膜を形成した後、両塗膜を乾燥させることにより、下地層2および磁性層3を非磁性支持体1の一主面上に形成するようにしてもよい。
【0054】
[1.3 効果]
本技術の第1の実施形態に係る磁気記録媒体では、磁性層3は、立方晶酸化鉄磁性粉である立方晶フェライト磁性粉21を含んでいる。また、立方晶フェライト磁性粉21の平均板径が14nm以下であり、立方晶フェライト磁性粉21の平均板状比が0.75以上1.25以下であり、磁性層3の十点平均粗さRzが35nm以下である。したがって、垂直磁気記録方式に好適な短波長記録が可能で、かつ高いS/N比を有する磁気記録媒体を提供できる。
【0055】
<2 第2の実施形態>
[2.1 磁気記録媒体の構成]
第2の実施形態に係る磁気記録媒体は、磁性層3が立方晶フェライト磁性粉21に代えてε−Fe23磁性粉を含む点において、第1の実施形態に係る磁気記録媒体とは異なっている。本明細書では、ε−Fe23磁性粒子からなる磁性粉をε−Fe23磁性粉という。
【0056】
次世代の磁気記録媒体としては、第1の実施形態にて説明したように、高い保磁力Hcを有するものが好ましい。この点を考慮して、第2の実施形態では、六方晶バリウムフェライト磁性粉よりも高い保磁力Hcを発現する可能性の高いε−Fe23磁性粉を用いる。
【0057】
図3Aに示すように、ε−Fe23磁性粉22が球状またはほぼ球状を有している。ε−Fe23磁性粉22は、単位格子サイズが小さいので、将来の超微粒子化の観点で有利である。図3Bの断面図に示すように、ε−Fe23磁性粉22は、磁性層3内に分散されている。ε−Fe23磁性粉22の磁化容易軸は、磁性層3の厚さ方向を向いているか、もしくはほぼ磁性層3の厚さ方向を向いている。球状またはほぼ球状のε−Fe23磁性粉22では、六角板状のバリウムフェライト磁性粉に比べて、媒体の厚さ方向における粒子同士の接触面積を低減し、粒子同士の凝集を抑制できる。すなわち、磁性粉の分散性を高めることができる。
【0058】
球状面の一部分SAが、磁性層3の表面から露出している。この球状面の一部分SAに磁気ヘッドにより短波長記録を行うことは、同一体積を有する六角板状のバリウムフェライト磁性粉の六角形状面に短波長記録を行う場合に比べて、高密度記録の観点で有利である。図3Cの平面図に示すように、磁性層3の表面には、高密度記録の観点からすると、ε−Fe23磁性粉22の球状面の一部分SAが敷き詰められていることが好ましい。
【0059】
ε−Fe23磁性粉22の平均粒径(平均粒子サイズ)は、好ましくは14nm以下、より好ましくは10nm以上14nm以下である。ここで、ε−Fe23磁性粉22の平均粒径は、TEMにより磁性層断面を観察し、そのTEM像に含まれる数百個のε−Fe23磁性粉22の粒径D、すなわち球状面の一部分SBの粒径Dを求める(図3A図3B参照)。次に、数百個のε−Fe23磁性粉22の粒径Dを単純に平均(算術平均)して、平均粒径DMを求める。ε−Fe23磁性粉22は球状またはほぼ球状を有するため、ε−Fe23磁性粉22の粒径は測定方向に依らず一定またはほぼ一定であることから、ε−Fe23磁性粉22の平均球状比(平均アスペクト比)は1または約1と定義する。
【0060】
ε−Fe23磁性粉22は、ε−Fe23結晶(Feサイトの一部が金属元素Mで置換されたものを含む)を主相とする鉄酸化物の粒子粉である。金属元素Mは、例えば、Al、GaおよびInからなる群より選ばれる1種以上である。但し、鉄酸化物におけるMとFeのモル比をM:Fe=x:(2−x)と表すとき、0≦x<1である。
【0061】
本技術において、ε−Fe23結晶には、特に断らない限り、Feサイトが他の元素で置換されていない純粋なε−Fe23結晶の他、Feサイトの一部が3価の金属元素Mで置換されており、純粋なε−Fe23結晶と空間群が同じである(すなわち空間群がPna21である)結晶が含まれる。
【0062】
上記以外の磁気記録媒体の構成は、上述の第1の実施形態に係る磁気記録媒体と同様である。
【0063】
[2.2 効果]
本技術の第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に、垂直磁気記録方式に好適な短波長記録が可能で、かつ高いS/N比を有する磁気記録媒体を提供できる。
【0064】
[2.3 変形例]
第2の実施形態では、磁性層3が立方晶フェライト磁性粉21に代えてε−Fe23磁性粉22を含む構成について説明したが、磁気記録媒体の構成はこれに限定されるものではない。例えば、磁性層3が立方晶フェライト磁性粉21とε−Fe23磁性粉22の両方を含んでいてもよい。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本技術を具体的に説明するが、本技術はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0066】
以下の実施例および比較例において、磁性粉の平均粒子サイズ(平均板径、平均粒径、平均長軸径)および平均アスペクト比(平均板状比、平均球状比、平均針状比)は以下のようにして求めた。
【0067】
(立方体状磁性粉の平均板径)
磁性層に含まれる立方体状磁性粉(Co系フェライト磁性粉)の平均板径を以下のようにして求めた。Veeco社のNanoscopeIVを用いて200nm×200nmのエリアをPhaseモードで粒子観察を行い、解析処理の一つのGrain Sizeを用いて、Mean Grain sizeを求め、これを平均板径とした。
【0068】
(立方体状磁性粉の平均板状比)
磁性層に含まれる立方体状磁性粉(Co系フェライト磁性粉)の平均板状比を以下のようにして求めた。まず、TEMで磁性層断面を40万倍で撮影した。次に、断面TEM像から、側面が見える粒子を無作為に数百個選び出した。次に、選び出した数百個の粒子の板厚を単純に平均(算術平均)して、平均板厚を求めた。次に、上述のようにして求められた平均板径および平均板厚を用いて、平均板状比(平均板径/平均板厚)を求めた。
【0069】
(球状磁性粉の平均粒径)
磁性層に含まれる球状磁性粉(ε−Fe23結晶磁性粉)の平均球状比を以下のようにして求めた。まず、TEMで磁性層断面を40万倍で撮影した。次に、断面TEM像から、側面が見える粒子を無作為に数百個選び出した。次に、選び出した数百個の粒子の粒径(直径)を測定し、それらを単純に平均(算術平均)して、平均粒径を求めた。
【0070】
(球状磁性粉の平均球状比)
磁性粉が球状である場合には、粒径は測定方向に依らず一定であることから、平均球状比を実測値から求めずに、“1”と定義した。
【0071】
(六角板状磁性粉の平均板径)
上述の“立方体状磁性粉の平均板径”と同様にして、磁性層に含まれる六角板状磁性粉(六方晶バリウムフェライト磁性粉)の平均板径を求めた。
【0072】
(六角板状磁性粉の平均板状比)
磁性層に含まれる六角板状磁性粉(六方晶バリウムフェライト磁性粉)の平均板状比を以下のようにして求めた。まず、TEMで磁性層断面を40万倍で撮影した。次に、断面TEM像から、側面が見える粒子を無作為に数百個選び出した。次に、選び出した数百個の粒子の板厚を単純に平均(算術平均)して、平均板厚を求めた。次に、上述のようにして求められた平均板径および平均板厚を用いて、平均板状比(平均板径/平均板厚)を求めた。
【0073】
(針状磁性粉の平均長軸径)
上述の“立方体状磁性粉の平均板径”と同様にして、磁性層に含まれる針状磁性粉(メタル磁性粉)の平均長軸径を求めた。
【0074】
(針状磁性粉の平均針状比)
磁性層に含まれる針状磁性粉(メタル磁性粉)の平均針状比を以下のようにして求めた。まず、TEMで磁性層断面を40万倍で撮影した。次に、断面TEM像から、側面が見える粒子を無作為に数百個選び出した。次に、選び出した数百個の粒子の短軸径を単純に平均(算術平均)して、平均短軸径を求めた。次に、上述のようにして求められた平均板径および平均板厚を用いて、平均針状比(平均長軸径/平均短軸径)を求めた。
【0075】
(実施例1〜6、比較例1〜6)
下記配合の第一組成物をエクストルーダで混練した。その後、ディスパーを備えた攪拌タンクに、第一組成物と、下記配合の第二組成物を加えて予備混合を行った。その後、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、磁性層形成用塗料を調製した。
【0076】
(第一組成物)
CoNiフェライト結晶磁性粉:100質量部
(但し、CoNiフェライト結晶磁性粉としては、表1、表2に示す平均粒子サイズ(平均板径)および平均アスペクト比(平均板状比)を有するものを用いた。)
塩化ビニル系樹脂(シクロヘキサノン溶液30質量%):55.6質量部
(重合度300、Mn=10000、極性基としてOSO3K=0.07mmol/g、2級OH=0.3mmol/gを含有する。)
酸化アルミニウム粉末:5質量部
(α−Al23、平均粒径0.2μm)
カーボンブラック:2質量部
(東海カーボン社製、商品名:シーストTA)
【0077】
(第二組成物)
塩化ビニル系樹脂:27.8質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
n−ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:121.3質量部
トルエン:121.3質量部
シクロヘキサノン:60.7質量部
【0078】
次に、下記配合の第三組成物をエクストルーダで混練した。その後、ディスパーを備えた攪拌タンクに、第三組成物と、下記配合の第四組成物を加えて予備混合を行った。その後、さらにサンドミル混合を行い、フィルター処理を行い、下地層形成用塗料を調製した。
【0079】
(第三組成物)
針状酸化鉄粉末:100質量部
(α−Fe23、平均長軸長0.15μm)
塩化ビニル系樹脂:55.6質量部
(樹脂溶液:樹脂分30質量%、シクロヘキサノン70質量%)
カーボンブラック:10質量部
(平均粒径20nm)
【0080】
(第四組成物)
ポリウレタン系樹脂UR8200(東洋紡績製):18.5質量部
n−ブチルステアレート:2質量部
メチルエチルケトン:108.2質量部
トルエン:108.2質量部
シクロヘキサノン:18.5質量部
【0081】
次に、上述のようにして調製した磁性層形成用塗料、および下地層形成用塗料のそれぞれに、硬化剤として、ポリイソシアネート(商品名:コロネートL、日本ポリウレタン社製)を4質量部と、ミリスチン酸を2質量部添加した。
【0082】
次に、これらの塗料を用いて、非磁性支持体であるポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム)上に下地層、および磁性層を以下のようにして形成した。まず、非磁性支持体である厚さ6.2μmのPENフィルム上に、下地層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、PENフィルム上に下地層を形成した。次に、下地層上に、磁性層形成用塗料を塗布、乾燥させることにより、下地層上に磁性層を形成した。なお、乾燥の際に、磁性粉を磁場配向させた。次に、下地層、および磁性層が形成されたPENフィルムに対して、金属ロールによるカレンダー処理を行い、磁性層表面を平滑化した。なお、カレンダー処理の条件を調整することで、十点平均粗さRzを表1、表2に示すように調整した。
【0083】
次に、バックコート層として、磁性層とは反対側の面に、下記の組成の塗料を膜厚0.6μmに塗布し乾燥処理を行った。
カーボンブラック(旭社製、商品名:#80):100質量部
ポリエステルポリウレタン:100質量部
(日本ポリウレタン社製、商品名:N−2304)
メチルエチルケトン:500質量部
トルエン:400質量部
シクロヘキサノン:100質量部
【0084】
次に、上述のようにして下地層、磁性層、およびバックコート層が形成されたPENフィルムを1/2インチ(12.65mm)幅に裁断し、磁気テープを得た。
【0085】
(実施例7、8)
第一組成物の調製工程において、CoNiフェライト磁性粉に代えて、表1に示す平均粒子サイズ(平均板径)および平均アスペクト比(平均板状比)を有するCoNiMnフェライト磁性粉を用いた。カレンダー処理の条件を調整することで、十点平均粗さRzを表1に示すように調整した。これ以外のことは、実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0086】
(実施例9)
第一組成物の調製工程において、CoNiフェライト磁性粉に代えて、表1に示す平均粒子サイズ(平均板径)および平均アスペクト比(平均板状比)を有するCoNiMnZnフェライト磁性粉を用いた。カレンダー処理の条件を調整することで、十点平均粗さRzを表1に示すように調整した。これ以外のことは、実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0087】
(実施例10〜15、比較例7〜12)
第一組成物の調製工程において、CoNiフェライト磁性粉に代えて、表1、表2に示す平均粒子サイズ(平均粒径)および平均アスペクト比(平均球状比)を有するε−Fe23結晶磁性粉を用いた。カレンダー処理の条件を調整することで、十点平均粗さRzを表1、表2に示すように調整した。これ以外のことは、実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0088】
(比較例13〜16)
第一組成物の調製工程において、CoNiフェライト磁性粉に代えて、表2に示す平均粒子サイズ(平均板径)および平均アスペクト比(平均板状比)を有する六方晶バリウムフェライト磁性粉を用いた。カレンダー処理の条件を調整することで、十点平均粗さRzを表2に示すように調整した。これ以外のことは、実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0089】
(比較例17、18)
第一組成物の調製工程において、CoNiフェライト磁性粉に代えて、表2に示す平均粒子サイズ(平均長軸径)および平均アスペクト比(平均針状比)を有する針状メタル磁性粉を用いた。カレンダー処理の条件を調整することで、十点平均粗さRzを表2に示すように調整した。これ以外のことは、実施例1と同様にして磁気テープを得た。
【0090】
(磁気特性)
磁気特性(保磁力Hc、角型比Rs)は、振動試料型磁束計(Lakeshore社製)を用い、23〜25℃で印加磁界15kOeで測定した。なお、実施例1〜15、比較例1〜16では、磁性層表面に対して垂直方向(磁性層の厚さ方向)の磁気特性(Hc、Rs)を測定し、比較例17、18では、磁性層表面に対して水平方向(磁性層表面の長手方向)の磁気特性(Hc、Rs)を測定した。
【0091】
(十点平均粗さRz)
Veeco社のNanoscopeIVを用いてタッピングAFM(Atomic Force Microscope)のモードで40μm×40μmのエリアの測定行い、解析処理の一つRoughnessを用いて十点平均粗さRzを導出した。
【0092】
(d+a)
まず、磁気テープの周波数特性から求められるスペーシングdと遷移幅aの和(d+a)を求めた(H. Neal Bertram著、Theory of Magnetic Recording参照)。次に、この和(d+a)を評価指標とし、以下のように評価した。なお、スペーシングdに影響を与える十点平均粗さRzは、テープ作製後の金属ロールによるプレス処理(カレンダー処理)により変化させた。
○:d+aが30nm以下である
×:d+aが30nmを超える
【0093】
(S/N比)
まず、市販のMountain Engineering社製のLFFで磁気テープを走行させ、リニアテープドライブ用のヘッドを用いて記録再生を行うことにより、S/N比を求めた。なお、記録波長を270kFCI(kilo Flux Changes per Inch)とした。次に、求めたS/N比を以下の基準で評価した。
◎:S/N比が17dB以上である。
○:S/N比が15dB以上17dB未満である。
×:S/N比が15dB未満である。
なお、記録再生システムを成立させるのに最低必要となるS/N比は、一般に15dB程度といわれているため、15dBをS/N比の判断基準とした。
【0094】
(断面TEM像)
実施例1、比較例13、17の磁気テープの断面TEM像を取得した。その結果を図4A図4B図5A図5B図6A図6Bに示す。
【0095】
表1は、実施例1〜15の磁気テープの構成および評価結果を示す。
【表1】
【0096】
表2は、比較例1〜18の磁気テープの構成および評価結果を示す。
【表2】
【0097】
表1、表2から以下のことがわかる。
実施例1〜15では、十点平均粗さRzは35nm以下であるため、d+aが30nm以下になっている。
比較例1、2、5〜8、11〜18では、十点平均粗さRzは35nmを超えているため、d+aが30nmを超えている。
【0098】
実施例1〜6では、立方体状またはほぼ立方体状(すなわち平均板状比0.75以上1.25以下の直方体状)のCoNiフェライト磁性粉を用い、平均板径を10nm以上14nm以下、保磁力を230kA/m以上400kA/m以下、十点平均粗さRzを35nm以下としている。このため、短波長の記録再生が可能で、かつ高いS/N比が得られる。
実施例7〜9では、CoNiフェライトにMnを添加したCoNiMnフェライト磁性粉、およびCoNiフェライトにMnZnを添加したCoNiMnZnフェライト磁性粉を用いている。この場合にも、磁性粉の形状(平均板状比)、平均板径、保磁力、および十点平均粗さRzを、上述のようにすることで、短波長の記録再生が可能で、かつ高いS/N比が得られる。
比較例1では、CoNiフェライト磁性粉の形状が、立方体状またはほぼ立方体状(すなわち平均板状比0.75以上1.25以下の範囲の直方体状)でない。また、十点平均粗さRzも35nmを超えている。このため、高いS/N比が得られていない。
比較例2では、CoNiフェライト磁性粉の形状が、立方体状またはほぼ立方体状ではない。また、磁性粉の平均板径が、14nmを超えている。さらに、十点平均粗さRzが35nmを超えている。このため、高いS/N比が得られていない。
比較例3では、保磁力が230kA/m未満であるため、高いS/N比が得られていない。
比較例4では、CoNiフェライト磁性粉の磁性粉の平均板径が14nmを超えている。また、保磁力が400kA/mを超えている。このため、高いS/N比が得られていない。
比較例5、6では、十点平均粗さRzが35nmを超えている。このため、高いS/N比が得られていない。
【0099】
実施例10〜15では、球状のε―Fe23磁性粉を用い、平均粒径を10nm以上14nm以下、保磁力を230kA/m以上400kA/m以下、十点平均粗さRzを35nm以下としている。このため、短波長の記録再生が可能で、かつ高いS/N比が得られる。
比較例7では、十点平均粗さRzが35nmを超えている。このため、高いS/N比が得られていない。
比較例8では、磁性粉の平均板径が14nmを超えている。また、十点平均粗さRzも35nmを超えている。このため、高いS/N比が得られていない。
比較例9では、保磁力が230kA/m未満である。このため、高いS/N比が得られていない。
比較例10では、磁性粉の平均板径が14nmを超えている。また、保磁力が400kA/mを超えている。このため、高いS/N比が得られていない。
比較例11、12では、十点平均粗さRzが35nmを超えている。このため、高いS/N比が得られていない。
【0100】
比較例13〜16では、六方晶バリウムフェライト磁性粉を用いているので、平均板径が10nm以上14nm以下の範囲を外れ、また平均板状比も0.75以上1.25以下の範囲を外れている。さらに、十点平均粗さRzが35nmを超えている。このため、高いS/N比が得られていない。
【0101】
比較例17、18では、針状メタル磁性粉を用いているので、平均長軸径が10nm以上14nm以下の範囲を外れ、また平均針状比も0.75以上1.25以下の範囲を外れている。更に、十点平均粗さRzも35nmを超えている。このため、高いS/N比が得られていない。
【0102】
以上、本技術の実施形態およびその変形例、ならびに実施例について具体的に説明したが、本技術は、上述の実施形態およびその変形例、ならびに実施例に限定されるものではなく、本技術の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0103】
例えば、上述の実施形態およびその変形例、ならびに実施例において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0104】
また、上述の実施形態およびその変形例、ならびに実施例の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、本技術の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0105】
また、本技術は以下の構成を採用することもできる。
(1)
支持体と、
磁性粉を含む磁性層と
を備え、
上記磁性粉は、立方晶フェライトを含む磁性粒子からなる磁性粉、およびε相酸化鉄を含む磁性粒子からなる磁性粉の少なくとも一方を含み、
上記磁性粉の平均粒子サイズは、14nm以下であり、
上記磁性粉の平均アスペクト比は、0.75以上1.25以下であり、
十点平均粗さRzは、35nm以下である磁気記録媒体。
(2)
垂直方向の保磁力は、230kA/m以上400kA/m以下である(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)
垂直方向の角型比は、0.6以上である(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)
上記立方晶フェライトは、Coを含んでいる(1)から(3)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(5)
上記立方晶フェライトは、Ni、MnおよびZnのうちの1種以上をさらに含んでいる(4)に記載の磁気記録媒体。
(6)
上記立方晶フェライトを含む磁性粒子からなる磁性粉は、立方体状またはほぼ立方体状を有し、
上記ε相酸化鉄を含む磁性粒子からなる磁性粉は、球状またはほぼ球状を有している(1)から(5)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(7)
上記磁性層は、垂直記録層である(1)から(6)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(8)
上記磁性粉は、立方晶フェライトを含む磁性粒子からなる磁性粉を含んでいる(1)から(7)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(9)
上記磁性粉は、ε相酸化鉄を含む磁性粒子からなる磁性粉を含んでいる(1)から(7)のいずれかに記載の磁気記録媒体。
(10)
上記磁性粉の平均アスペクト比は、1または約1である(9)に記載の磁気記録媒体。
【符号の説明】
【0106】
1 非磁性支持体
2 下地層
3 磁性層
4 バックコート層
21 立方晶フェライト磁性粉
22 ε−Fe23磁性粉
AM 平均板径
BM 平均板厚
A、SB 正方形状面
図1
図2
図3
図4
図5
図6