特許第6604429号(P6604429)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604429
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】キノン誘導体及び電子写真感光体
(51)【国際特許分類】
   C07C 50/24 20060101AFI20191031BHJP
   G03G 5/06 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   C07C50/24CSP
   G03G5/06 314A
   G03G5/06 312
   G03G5/06 371
【請求項の数】6
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2018-501556(P2018-501556)
(86)(22)【出願日】2017年2月8日
(86)【国際出願番号】JP2017004547
(87)【国際公開番号】WO2017145759
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2018年8月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-33163(P2016-33163)
(32)【優先日】2016年2月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 健輔
(72)【発明者】
【氏名】菅井 章雄
(72)【発明者】
【氏名】清水 智文
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−092936(JP,A)
【文献】 特開2010−054583(JP,A)
【文献】 特開2008−268804(JP,A)
【文献】 特開2002−169306(JP,A)
【文献】 特開2002−107978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 50/00
G03G 5/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1−1)、化学式(1−2)、化学式(1−3)、化学式(1−4)、化学式(1−5)、又は化学式(1−6)で表されるキノン誘導体。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項2】
導電性基体と、感光層とを備える電子写真感光体であって、
前記感光層は、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、バインダー樹脂と、請求項1に記載のキノン誘導体とを含有する、電子写真感光体。
【請求項3】
前記電荷発生剤は、X型無金属フタロシアニン、又はY型チタニルフタロシアニンを含む、請求項に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記正孔輸送剤は、一般式(2)で表される化合物を含む、請求項に記載の電子写真感光体。
【化7】
前記一般式(2)中、
21〜R26は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、又は炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基を表し、
r、s、v、及びwは、各々独立に、0以上5以下の整数を表し、
t及びuは、各々独立に、0以上4以下の整数を表す。
【請求項5】
前記一般式(2)で表される化合物は、化学式(H−1)で表される化合物である、請求項に記載の電子写真感光体。
【化8】
【請求項6】
前記感光層は、単層型感光層である、請求項に記載の電子写真感光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノン誘導体及び電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、電子写真方式の画像形成装置に用いられる。電子写真感光体としては、例えば、積層型電子写真感光体又は単層型電子写真感光体が用いられる。電子写真感光体は、感光層を備える。積層型電子写真感光体は、感光層として、電荷発生の機能を有する電荷発生層と、電荷輸送の機能を有する電荷輸送層とを備える。単層型電子写真感光体は、感光層として、電荷発生の機能と電荷輸送の機能とを有する単層型感光層を備える。
【0003】
電子写真方式の画像形成装置で画像を形成すると、白点現象と呼ばれる画像不良が発生する場合があった。白点現象とは、例えば、トナー像が記録媒体上に転写されて形成される領域(画像領域)に、微小の画像欠陥(より具体的には、直径が0.5mm以上2.5mm以下の円状の画像欠陥)が生じる現象である。
【0004】
特許文献1に記載の電子写真感光体が備える感光層は、例えば、下記化学式(E−1)で表される化合物を含有する。
【0005】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−173292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の電子写真感光体では、白点現象の発生を十分に抑制することができなかった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電子写真感光体の白点現象の発生を抑制するキノン誘導体を提供することである。また、本発明の別の目的は、白点現象の発生を抑制する電子写真感光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のキノン誘導体は、一般式(1)で表される。
【0010】
【化2】
【0011】
前記一般式(1)中、R1は、置換基を有してもよい炭素原子数1以上8以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、及び炭素原子数3以上20以下のシクロアルキル基からなる群から選択される基を表す。前記基は、1又は複数のハロゲン原子で置換される。2つのR1は互いに同一であっても異なっていてもよい。R2は、水素原子、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数6以上14以下のアリール基、炭素原子数3以上20以下のシクロアルキル基、又は置換基を有してもよい複素環基を表す。2つのR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0012】
本発明の電子写真感光体は、導電性基体と、感光層とを備える。前記感光層は、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、バインダー樹脂と、上述のキノン誘導体とを含有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のキノン誘導体は、電子写真感光体の白点現象の発生を抑制することができる。また、本発明の電子写真感光体によれば、白点現象の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本発明の第一実施形態に係る電子写真感光体の一例を示す概略断面図である。
図1B】は、本発明の第一実施形態に係る電子写真感光体の一例を示す概略断面図である。
図1C】は、本発明の第一実施形態に係る電子写真感光体の一例を示す概略断面図である。
図2A】は、本発明の第一実施形態に係る電子写真感光体の別の例を示す概略断面図である。
図2B】は、本発明の第一実施形態に係る電子写真感光体の別の例を示す概略断面図である。
図2C】は、本発明の第一実施形態に係る電子写真感光体の別の例を示す概略断面図である。
図3】本発明の第一実施形態に係るキノン誘導体(1−1)の1H−NMRスペクトルである。
図4】摩擦帯電量の測定装置の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨は限定されない。
【0016】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。
【0017】
以下、ハロゲン原子、炭素原子数1以上8以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数1以上5以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数2以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、炭素原子数6以上14以下のアリール、炭素原子数3以上14以下の複素環基、及び炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基は、何ら規定していなければ、それぞれ次の意味である。
【0018】
ハロゲン原子(ハロゲン基)としては、例えば、フッ素原子(フルオロ基)、塩素原子(クロロ基)、臭素原子(ブロモ基)、又はヨウ素原子(ヨード基)が挙げられる。
【0019】
炭素原子数1以上8以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上8以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−へプチル基、又はn−オクチル基、が挙げられる。
【0020】
炭素原子数1以上6以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基又はヘキシル基が挙げられる。
【0021】
炭素原子数1以上5以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上5以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、又はネオペンチル基が挙げられる。
【0022】
炭素原子数1以上4以下のアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上4以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、又はt−ブチル基が挙げられる。
【0023】
炭素原子数2以上4以下のアルキル基は、非置換である。炭素原子数2以上4以下のアルキル基としては、例えば、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、又はt−ブチル基が挙げられる。
【0024】
炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基は、非置換である。炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基、又はヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0025】
炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基は、非置換である。炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、又はtert−ブトキシ基が挙げられる。
【0026】
炭素原子数6以上14以下のアリール基は、非置換である。炭素原子数6以上14以下のアリール基は、例えば、炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族単環炭化水素基、炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族縮合二環炭化水素基又は炭素原子数6以上14以下の非置換の芳香族縮合三環炭化水素基である。炭素原子数6以上14以下のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基又はフェナントリル基が挙げられる。
【0027】
炭素原子数3以上14以下の複素環基は、非置換である。炭素原子数3以上14以下の複素環基は、例えば、1個以上(好ましくは1個以上3個以下)のヘテロ原子を含み、芳香性を有する5員又は6員の単環の複素環基;このような単環同士が縮合した複素環基;又は、このような単環と、5員又は6員の炭化水素環とが縮合した複素環基が挙げられる。ヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子からなる群から選択される1種以上である。複素環基の具体例としては、チオフェニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、イソチアゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、ピラニル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、ピラジニル基、インドリル基、1H−インダゾリル基、イソインドリル基、クロメニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、プリニル基、プテリジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、4H−キノリジニル基、ナフチリジニル基、ベンゾフラニル基、1,3−ベンゾジオキソリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、又はベンズイミダゾリル基が挙げられる。
【0028】
炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基は、非置換である。炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基は、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、又はシクロデシル基が挙げられる。
【0029】
<第一実施形態:キノン誘導体>
[1.キノン誘導体]
本発明の第一実施形態はキノン誘導体に関する。第一実施形態に係るキノン誘導体は、一般式(1)で表される。以下、一般式(1)で表されるキノン誘導体をキノン誘導体(1)と記載することがある。
【0030】
【化3】
【0031】
一般式(1)中、R1は、置換基を有してもよい炭素原子数1以上8以下のアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を有してもよい炭素原子数6以上14以下のアリール基、及び炭素原子数3以上20以下のシクロアルキル基からなる群から選択される基を表す。基は、1又は複数のハロゲン原子で置換される。2つのR1は互いに同一であっても異なっていてもよい。R2は、水素原子、置換基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルキル基、炭素原子数6以上14以下のアリール基、炭素原子数3以上20以下のシクロアルキル基、又は置換基を有してもよい炭素原子数3以上14以下の複素環基を表す。2つのR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0032】
第一実施形態に係るキノン誘導体(1)は、感光体の白点現象を抑制することができる。その理由は以下のように推測される。
【0033】
ここで、便宜上、白点現象について説明する。電子写真方式の画像形成装置は、像担持体(感光体)と、帯電部と、露光部と、現像部と、転写部とを備える。画像形成装置が直接転写方式を採用する場合、転写部は、現像部により現像されたトナー像を記録媒体(例えば、記録紙)に転写する。より詳細には、転写部は、感光体の表面に現像されたトナー像を記録媒体に転写する。その結果、記録媒体上にトナー像が形成される。
【0034】
トナー像の転写において、記録媒体は感光体の表面で摺擦され、記録媒体が帯電(いわゆる摩擦帯電)することがある。かかる場合、記録媒体が感光体の帯電極性に対して同極性に帯電し帯電性が低下する傾向、又は逆極性に帯電(いわゆる逆帯電)する傾向がある。記録媒体がこのような帯電性を有すると、記録媒体が有する微小な成分(例えば、紙粉)が感光体の表面に移動し付着することがある。そして、微小な成分が感光体の表面の画像領域に付着すると、記録媒体上に形成された画像に欠陥(白点)が生じることがある。このような画像欠陥が生じる現象を白点現象という。白点現象の発生の評価方法は、実施例にて詳細に後述する。
【0035】
第一実施形態に係るキノン誘導体(1)は、ハロゲン原子を有する。このため、感光体の感光層がキノン誘導体(1)を含有すると、転写部において記録媒体が感光体の表面と摺擦しても、記録媒体は感光体の帯電極性に対して同極性で帯電性が低下しにくい傾向、及び逆帯電しにくい傾向にある。よって、感光体の表面に微小な成分が付着しにくくなり、白点現象の発生が抑制されると考えられる。
【0036】
引き続き、第一実施形態に係るキノン誘導体(1)を説明する。一般式(1)中、R1の表す炭素原子数1以上8以下のアルキル基は、炭素原子数1以上5以下のアルキル基が好ましく、炭素原子数2以上4以下のアルキル基がより好ましく、エチル基、イソプロピル基、又はtert−ブチル基が更に好ましい。炭素原子数1以上8以下のアルキル基は、置換基を有してもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子、又は炭素原子数6以上14以下のアリール基が挙げられ、フッ素原子、塩素原子、又はフェニル基が好ましい。炭素原子数6以上14以下のアリール基は、ハロゲン原子を有してもよい。炭素原子数6以上14以下のアリール基がフェニル基である場合、フェニル基におけるハロゲン原子の置換位置は、例えば、フェニル基が炭素原子数1以上8以下のアルキル基と結合する位置に対して、オルト位(o位)、メタ位(m位)、パラ位(p位)、又はこれらの少なくとも1つが挙げられ、パラ位が好ましい。置換基を有する炭素原子数1以上8以下のアルキル基は、ハロゲン原子を有する炭素原子1以上5以下のアルキル基、又はハロゲン原子で置換された炭素原子数6以上14以下のアリール基を有する炭素原子数1以上5以下のアルキル基が好ましく、ハロゲン原子を有する炭素原子数2以上4以下のアルキル基、又はハロゲン原子で置換されたフェニル基を有する炭素原子数2以上4以下のアルキル基がより好ましく、2−クロロ−1,1−ジメチルエチル基、2,2,2−トリクロロ−1,1−ジメチルエチル基、1,1−ジメチル−1−(4−クロロフェニル)メチル基、1−(4−クロロフェニル)エチル基、2−クロロ−1−フェニルエチル基、2−クロロ−1−(4−クロロフェニル)エチル基、又は1−(4−フルオロフェニル)エチル基が更に好ましい。
【0037】
一般式(1)中、R2の表す炭素原子数1以上6以下のアルキル基は、置換基を有してもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はシアノ基が挙げられる。一般式(1)中、R2の表す炭素原子数3以上14以下の複素環基は、置換基を有してもよい。このような置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はシアノ基が挙げられる。
【0038】
一般式(1)中、R1は、炭素原子数6以上14以下のアリール基を有してもよい炭素原子数1以上5以下のアルキル基を表すことが好ましい。このような炭素原子数6以上14以下のアリール基又は炭素原子数1以上5以下のアルキル基は、1又は複数のハロゲン原子で置換されることが好ましい。2つのR1は、互いに同一であることが好ましい。R2は、水素原子を表すことが好ましい。2つのR2は、互いに同一であることが好ましい。
【0039】
一般式(1)中、2つのR1の表す基の有するハロゲン原子の総数は、白点現象を抑制する観点から、4以上であることが好ましく、4以上6以下であることがより好ましい。
【0040】
一般式(1)中、ハロゲン原子は塩素原子又はフッ素原子であることが好ましくい、塩素原子であることがより好ましい。
【0041】
キノン誘導体(1)の具体例としては、化学式(1−1)〜(1−7)で表されるキノン誘導体(以下、キノン誘導体(1−1)〜(1−7)と記載することがある)が挙げられる。
【0042】
【化4】
【0043】
【化5】
【0044】
【化6】
【0045】
【化7】
【0046】
【化8】
【0047】
【化9】
【0048】
【化10】
【0049】
[2.キノン誘導体(1)の製造方法]
キノン誘導体(1)は、例えば、反応式(R−1)で表す反応式(以下、反応(R−1)と記載することがある)、及び反応式(R−2)で表す反応式(以下、反応(R−2)と記載することがある)に従って又はこれに準ずる方法によって製造される。キノン誘導体(1)の製造方法は、例えば、反応(R−1)と、反応(R−2)とを含む。
【0050】
反応(R−1)において、R1及びR2は、それぞれ一般式(1)中のR1及びR2と同義である。
【0051】
【化11】
【0052】
反応(R−1)では、1当量の化学式(A)で表される化合物(ナフトール誘導体)(以下、ナフトール誘導体(A)と記載することがある。なお、一般式(1)中、R1が水素原子を表す場合、ナフトール誘導体(A)はナフトールを示す。)と1当量の一般式(B)で表される化合物(アルコール誘導体)(以下、アルコール誘導体(B)と記載することがある)とを溶媒中、濃硫酸の存在下で反応させて、1当量の中間体である一般式(C)で表される化合物(以下、ナフトール誘導体(C)と記載することがある)を得る。反応(R−1)では、1モルのナフトール誘導体(A)に対して、1モル以上2.5モル以下のアルコール誘導体(B)を添加することが好ましい。1モルのナフトール誘導体(A)に対して1モル以上のアルコール誘導体(B)を添加すると、ナフトール誘導体(C)の収率を向上させ易い。一方、1モルのナフトール誘導体(A)に対して2.5モル以下のアルコール誘導体(B)を添加すると、反応(R−1)後に未反応のアルコール誘導体(B)が残留し難く、キノン誘導体(1)の精製が容易となる。反応(R−1)の反応温度は室温(例えば、25℃)であることが好ましい。反応(R−1)の反応時間は1時間以上10時間以下であることが好ましい。反応(R−1)は、溶媒中で行うことができる。溶媒としては、例えば、有機酸水溶液(例えば、酢酸)が挙げられる。
【0053】
より具体的には、反応(R−1)では、ナフトール誘導体(A)とアルコール誘導体(B)とを反応させる。反応後、反応液にイオン交換水を加え、有機層に抽出する。有機層に含まれる有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、又は酢酸エチルが挙げられる。有機層にアルカリ水溶液で加え、有機層を洗浄し中和する。アルカリとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(より具体的には、水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウム等)、又はアルカリ土類金属の水酸化物(より具体的には、水酸化カルシウム等)が挙げられる。
【0054】
反応(R−1)では、アルコール誘導体(B)から反応中間体としてカルボカチオンが生成すると考えられる。このため、アルコール誘導体(B)としては、例えば、第三級アルコール又はアリール基を有する第二級アルコールが好ましい。本明細書では、アリール基を有する第二級アルコールとは、ヒドロキシル基が結合した炭素原子にアリール基が結合した第二級アルコールを意味する。このような第二級アルコールは、アリール基により電子が非局在化しカルボカチオンが安定化すると考えられる。
【0055】
反応(R−2)において、R1及びR2は、それぞれ一般式(1)中のR1及びR2と同義である。
【0056】
【化12】
【0057】
反応(R−2)では、2つのR1が互いに同一であり2つのR2が互いに同一である場合、2当量のナフトール誘導体(C)を酸化剤の存在下で反応して、1当量のキノン誘導体(1)を得る。反応(R−2)では、1モルのナフトール誘導体(C)に対して、1モルの酸化剤を添加することが好ましい。酸化剤としては、例えば、クロラニル、過マンガン酸カリウム、又は酸化銀が挙げられる。反応(R−2)の反応温度は室温(例えば、25℃)であることが好ましい。反応(R−2)の反応時間は1時間以上10時間以下であることが好ましい。溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタンが挙げられる。
【0058】
反応(R−2)では、2つのR1及び2つのR2のうち少なくとも一方が互いに異なる場合、ナフトール誘導体(C)2当量をナフトール誘導体(C)1当量とこれと異なるナフトール誘導体(C)1当量とに変更した以外は、2つのR1が互いに同一であり2つのR2が互いに同一である場合の反応(R−2)と同様にしてキノン誘導体(1)を得る。
【0059】
キノン誘導体(1)の製造では、必要に応じて他の工程(例えば、精製工程)を含んでもよい。このような工程としては、例えば、精製工程が挙げられる。精製方法としては、例えば、公知の方法(より具体的には、ろ過、クロマトグラフィー、又は晶折等)が挙げられる。
【0060】
以上、第一実施形態に係るキノン誘導体(1)を説明した。第一実施形態に係るキノン誘導体(1)によれば、感光体の白点現象を抑制することができる。
【0061】
<第二実施形態:電子写真感光体>
本発明の第二実施形態は、電子写真感光体(以下、感光体と記載することがある)に関する。感光体は、導電性基体と、感光層とを備える。感光体としては、例えば、積層型電子写真感光体(以下、積層型感光体と記載することがある)、又は単層型電子写真感光体(以下、単層型感光体と記載することがある)が挙げられる。
【0062】
[1.積層型感光体]
積層型感光体では、感光層は、電荷発生層と、電荷輸送層とを備える。以下、図1A図1Cを参照して、積層型感光体の構造について説明する。図1A図1Cは、第二実施形態に係る感光体1の一例である積層型感光体の構造を示す。
【0063】
図1A図1Cは、感光体1は積層型感光体を示す。図1Aに示すように、積層型感光体1は、例えば、導電性基体2と感光層3とを備える。感光層3は、電荷発生層3aと電荷輸送層3bとを備える。図1Bに示すように、積層型感光体では、導電性基体2上に電荷輸送層3bが設けられ、電荷輸送層3b上に電荷発生層3aが設けられてもよい。ただし、一般に電荷輸送層3bの膜厚は、電荷発生層3aの膜厚に比べ厚いため、電荷輸送層3bは、電荷発生層3aに比べ破損し難い。このため、積層型感光体の耐摩耗性を向上させるためには、図1Aに示すように、導電性基体2上に電荷発生層3aが設けられ、電荷発生層3a上に電荷輸送層3bが設けられることが好ましい。
【0064】
図1Cに示すように、積層型感光体は、導電性基体2と感光層3と中間層(下引き層)4とを備えていてもよい。中間層4は、導電性基体2と感光層3との間に備えられる。また、感光層3上には、保護層5(図2参照)が設けられていてもよい。
【0065】
電荷発生層3a及び電荷輸送層3bの厚さは、それぞれの層としての機能を十分に発現できる限り、特に限定されない。電荷発生層3aの厚さは、0.01μm以上5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上3μm以下であることがより好ましい。電荷輸送層3bの厚さは、2μm以上100μm以下であることが好ましく、5μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0066】
[2.単層型感光体]
以下、図2A図2Cを参照して、単層型感光体の構造について説明する。図2A図2Cは、第二実施形態に係る感光体1の別の例である単層型感光体の構造を示す。
【0067】
図2A図2Cでは、感光体1は、単層型感光体を示す。図2Aに示すように、単層型感光体は、導電性基体2と感光層3とを備える。単層型感光体は、感光層3として単層型感光層3cを備える。単層型感光層3cは、一層の感光層3である。
【0068】
図2Bに示すように、感光体1としての単層型感光体は、導電性基体2と、単層型感光層3cと、中間層(下引き層)4とを備えてもよい。中間層4は、導電性基体2と単層型感光層3cとの間に設けられる。また、図2Cに示すように、単層型感光層3c上に保護層5が設けられてもよい。
【0069】
単層型感光層3cの厚さは、単層型感光層としての機能を十分に発現できる限り、特に限定されない。単層型感光層3cの厚さは、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。
【0070】
以上、図1A図1C及び図2A図2Cを参照して、感光体1の構造について説明した。
【0071】
第二実施形態に係る感光体は、感光層を備える。感光層は、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、バインダー樹脂と、キノン誘導体(1)とを含有する。積層型感光体では、電荷発生層は、例えば、電荷発生剤と、電荷発生剤用バインダー樹脂(以下、ベース樹脂と記載することがある)とを含有する。電荷輸送層は、例えば、電子アクセプター化合物としてキノン誘導体(1)と、正孔輸送剤と、バインダー樹脂とを含有する。単層型感光体では、単層型感光層は、例えば、電荷発生剤と、電子輸送剤としてキノン誘導体(1)と、正孔輸送剤と、バインダー樹脂とを含有する。電荷発生層、電荷輸送層、及び単層型感光層は、添加剤を更に含有してもよい。以下、感光体の要素として導電性基体、電子輸送剤、電子アクセプター化合物、正孔輸送剤、電荷発生剤、バインダー樹脂、ベース樹脂、添加剤、及び中間層を説明する。また、感光体の製造方法も説明する。
【0072】
[3.導電性基体]
導電性基体は、感光体の導電性基体として用いることができる限り、特に限定されない。導電性基体は、少なくとも表面部が導電性を有する材料で形成されていればよい。導電性基体の一例としては、導電性を有する材料で形成される導電性基体が挙げられる。導電性基体の別の例としては、導電性を有する材料で被覆される導電性基体が挙げられる。導電性を有する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、錫、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、又はインジウムが挙げられる。これらの導電性を有する材料を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上の組合せとしては、例えば、合金(より具体的には、アルミニウム合金、ステンレス鋼、又は真鍮等)が挙げられる。これらの導電性を有する材料の中でも、感光層から導電性基体への電荷の移動が良好であることから、アルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
【0073】
導電性基体の形状は、画像形成装置の構造に合わせて適宜選択される。導電性基体の形状としては、例えば、シート状又はドラム状が挙げられる。また、導電性基体の厚さは、導電性基体の形状に応じて適宜選択される。
【0074】
[4.電子輸送剤、電子アクセプター化合物]
既に上述したように、積層型感光体では、電荷輸送層は、電子アクセプター化合物としてキノン誘導体(1)を含有する。単層型感光体では、単層型感光層は、電子輸送剤としてキノン誘導体(1)を含有する。感光層がキノン誘導体(1)を含有することにより、第二実施形態に係る感光体は白点現象の発生を抑制することができる。
【0075】
感光体が積層型感光体である場合、キノン誘導体(1)の含有量は、電荷輸送層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、20質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
【0076】
感光体が単層型感光体である場合、キノン誘導体(1)の含有量は、単層型感光層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上75質量部以下であることが特に好ましい。
【0077】
電荷輸送層は、キノン誘導体(1)に加えて、更に別の電子アクセプター化合物を含有してもよい。単層型感光層は、キノン誘導体(1)に加えて、更に別の電子輸送剤を含有してもよい。別の電子アクセプター化合物及び電子輸送剤としては、例えば、キノン系化合物(キノン誘導体(1)以外のキノン系化合物)、ジイミド系化合物、ヒドラゾン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、又はジブロモ無水マレイン酸が挙げられる。キノン系化合物としては、例えば、ジフェノキノン系化合物、アゾキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、ニトロアントラキノン系化合物、又はジニトロアントラキノン系化合物が挙げられる。これらの電子輸送剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0078】
[5.正孔輸送剤]
感光体が積層型感光体である場合、電荷輸送層は、正孔輸送剤を含有してもよい。感光体が単層型感光体である場合、単層型感光層は、正孔輸送剤を含有してもよい。正孔輸送剤としては、例えば、ジアミン誘導体(より具体的には、ベンジジン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェニレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルナフチレンジアミン誘導体、又はN,N,N’,N’−テトラフェニルフェナントリレンジアミン誘導体等)、オキサジアゾール系化合物(より具体的には、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール)、スチリル化合物(より具体的には、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン)、カルバゾール化合物(より具体的には、ポリビニルカルバゾール)、有機ポリシラン化合物、ピラゾリン系化合物(より具体的には、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン)、ヒドラゾン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物又はトリアゾール系化合物が挙げられる。これらの正孔輸送剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの正孔輸送剤のうち、一般式(2)で表される化合物(ベンジジン誘導体)が好ましい。
【0079】
【化13】
【0080】
一般式(2)中、R21〜R26は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、又は炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基を表す。r、s、v、及びwは、各々独立に、0以上5以下の整数を表す。t及びuは、各々独立に、0以上4以下の整数を表す。
【0081】
一般式(2)中、R21〜R26は、各々独立に、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表すことが好ましく、炭素原子数1以上3以下のアルキル基を表すことがより好ましく、メチル基を表すことが更に好ましい。r、s、v、w、t、及びuは、1を表すことが好ましい。
【0082】
一般式(2)で表される化合物は、化学式(H−1)で表される化合物(以下、化合物(H−1)と記載することがある)が好ましい。
【0083】
【化14】
【0084】
感光体が積層型感光体である場合、正孔輸送剤の含有量は、電荷輸送層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、20質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
【0085】
感光体が単層型感光体である場合、正孔輸送剤の含有量は、単層型感光層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上75質量部以下であることが特に好ましい。
【0086】
[6.電荷発生剤]
感光体が積層型感光体である場合、電荷発生層は、電荷発生剤を含有してもよい。感光体が単層型感光体である場合、単層型感光層は、電荷発生剤を含有してもよい。
【0087】
電荷発生剤は、感光体用の電荷発生剤である限り、特に限定されない。電荷発生剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料、ビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、無機光導電材料(より具体的には、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム又はアモルファスシリコン等)の粉末、ピリリウム顔料、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料又はキナクリドン系顔料が挙げられる。電荷発生剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
フタロシアニン系顔料としては、例えば、化学式(C−1)で表される無金属フタロシアニン(以下、化合物(C−1)と記載することがある)又は金属フタロシアニンが挙げられる。金属フタロシアニンとしては、例えば、化学式(C−2)で表されるチタニルフタロシアニン(以下、化合物(C−2)と記載することがある)、ヒドロキシガリウムフタロシアニン又はクロロガリウムフタロシアニンが挙げられる。フタロシアニン系顔料は、結晶であってもよく、非結晶であってもよい。フタロシアニン系顔料の結晶形状(例えば、X型、α型、β型、Y型、V型又はII型)については特に限定されず、種々の結晶形状を有するフタロシアニン系顔料が使用される。
【0089】
【化15】
【0090】
【化16】
【0091】
無金属フタロシアニンの結晶としては、例えば、無金属フタロシアニンのX型結晶(以下、X型無金属フタロシアニンと記載することがある)が挙げられる。チタニルフタロシアニンの結晶としては、例えば、チタニルフタロシアニンのα型、β型又はY型結晶(以下、それぞれα型チタニルフタロシアニン、β型チタニルフタロシアニン、及びY型チタニルフタロシアニンと記載することがある)が挙げられる。ヒドロキシガリウムフタロシアニンの結晶としては、ヒドロキシガリウムフタロシアニンのV型結晶が挙げられる。クロロガリウムフタロシアニンの結晶としては、クロロガリウムフタロシアニンのII型結晶が挙げられる。
【0092】
例えば、デジタル光学式の画像形成装置には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体を用いることが好ましい。デジタル光学式の画像形成装置としては、例えば、半導体レーザーのような光源を使用した、複合機、レーザービームプリンター又はファクシミリが挙げられる。700nm以上の波長領域で高い量子収率を有することから、電荷発生剤としては、フタロシアニン系顔料が好ましく、無金属フタロシアニン又はチタニルフタロシアニンがより好ましい。感光層がキノン誘導体(1)を含有する場合に感光体の電気特性を特に向上させるためには、電荷発生剤としては、X型無金属フタロシアニン又はY型チタニルフタロシアニンが更に好ましい。感光層がキノン誘導体(1)を含有する場合に白点現象を抑制するためには、電荷発生剤はX型無金属フタロシアニン又はY型チタニルフタロシアニンを含むことが好ましく、X型無金属フタロシアニンを含むことがより好ましい。
【0093】
Y型チタニルフタロシアニンは、CuKα特性X線回折スペクトルにおいて、例えば、ブラッグ角(2θ±0.2°)の27.2°に主ピークを有する。CuKα特性X線回折スペクトルにおける主ピークとは、ブラッグ角(2θ±0.2°)が3°以上40°以下である範囲において、1番目又は2番目に大きな強度を有するピークである。
【0094】
(CuKα特性X線回折スペクトルの測定方法)
CuKα特性X線回折スペクトルの測定方法の一例について説明する。試料(チタニルフタロシアニン)をX線回折装置(例えば、株式会社リガク製「RINT(登録商標)1100」)のサンプルホルダーに充填して、X線管球Cu、管電圧40kV、管電流30mA、かつCuKα特性X線の波長1.542Åの条件で、X線回折スペクトルを測定する。測定範囲(2θ)は、例えば3°以上40°以下(スタート角3°、ストップ角40°)であり、走査速度は、例えば10°/分である。
【0095】
短波長レーザー光源を用いた画像形成装置に適用される感光体には、電荷発生剤として、アンサンスロン系顔料が好適に用いられる。短波長レーザー光の波長は、例えば、350nm以上550nm以下である。
【0096】
感光体が積層型感光体である場合、電荷発生剤の含有量は、電荷発生層に含有されるベース樹脂100質量部に対して、5質量部以上1000質量部以下であることが好ましく、30質量部以上500質量部以下であることがより好ましい。
【0097】
感光体が単層型感光体である場合、電荷発生剤の含有量は、単層型感光層に含有されるバインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上30質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上4.5質量部以下であることが特に好ましい。
【0098】
[7.バインダー樹脂]
バインダー樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン−アクリロニトリル樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、アクリル酸系樹脂、スチレン−アクリル酸樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂又はポリエーテル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂又はメラミン樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ−アクリル酸系樹脂(より具体的には、エポキシ化合物のアクリル酸誘導体付加物等)又はウレタン−アクリル酸系樹脂(ウレタン化合物のアクリル酸誘導体付加物)が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0099】
これらの樹脂の中では、加工性、機械的強度、光学的特性及び耐摩耗性のバランスに優れた単層型感光層及び電荷輸送層が得られることから、ポリカーボネート樹脂が好ましい。ポリカーボネート樹脂の例としては、下記化学式(Resin−1)で表されるビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(以下、Z型ポリカーボネート樹脂(Resin−1)と記載することがある)、ビスフェノールZC型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂又はビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂が挙げられる。キノン誘導体(1)との相溶性が良好であり、キノン誘導体(1)の感光層中での分散性が向上する観点から、Z型ポリカーボネート樹脂(Resin−1)が好ましい。
【0100】
【化17】
【0101】
バインダー樹脂の粘度平均分子量は、40,000以上であることが好ましく、40,000以上52,500以下であることがより好ましい。バインダー樹脂の粘度平均分子量が40,000以上であると、感光体の耐摩耗性を向上させ易い。バインダー樹脂の粘度平均分子量が52,500以下であると、感光層の形成時にバインダー樹脂が溶剤に溶解し易くなり、電荷輸送層用塗布液又は単層型感光層用塗布液の粘度が高くなり過ぎない。その結果、電荷輸送層又は単層型感光層を形成し易くなる。
【0102】
[8.ベース樹脂]
感光体が積層型感光体である場合、電荷発生層は、ベース樹脂を含有する。ベース樹脂は、感光体に適用できるベース樹脂である限り、特に制限されない。ベース樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン−ブタジエン樹脂、スチレン−アクリロニトリル樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、スチレン−アクリル酸樹脂、アクリル酸系樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエーテル樹脂又はポリエステル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂又はその他架橋性の熱硬化性樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ−アクリル酸系樹脂(より具体的には、エポキシ化合物のアクリル酸誘導体付加物等)又はウレタン−アクリル酸系樹脂(より具体的には、ウレタン化合物のアクリル酸誘導体付加物等)が挙げられる。ベース樹脂は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0103】
電荷発生層に含有されるベース樹脂は、電荷輸送層に含有されるバインダー樹脂とは異なることが好ましい。電荷輸送層用塗布液の溶剤に電荷発生層を溶解させないためである。積層型感光体の製造では、導電性基体上に電荷発生層を形成し、電荷発生層上に電荷輸送層を形成することが一般的である。電荷輸送層を形成する際に、電荷発生層上に電荷輸送層用塗布液を塗布するからである。
【0104】
[9.添加剤]
感光体の感光層(電荷発生層、電荷輸送層又は単層型感光層)は、必要に応じて、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、劣化防止剤(より具体的には、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、消光剤又は紫外線吸収剤等)、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、ドナー、界面活性剤、可塑剤、増感剤又はレベリング剤が挙げられる。
【0105】
[10.中間層]
中間層(下引き層)は、例えば、無機粒子及び樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層が存在することにより、リーク発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持しつつ、感光体を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、抵抗の上昇が抑えられると考えられる。
【0106】
無機粒子としては、例えば、金属(より具体的には、アルミニウム、鉄、又は銅等)の粒子、金属酸化物(より具体的には、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、又は酸化亜鉛等)の粒子又は非金属酸化物(より具体的には、シリカ等)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0107】
中間層用樹脂としては、中間層を形成する樹脂として用いることができる限り、特に限定されない。中間層は、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤は、感光層の添加剤と同様である。
【0108】
[11.感光体の製造方法]
感光体が積層型感光体である場合、積層型感光体は、例えば、以下のように製造される。まず、電荷発生層用塗布液及び電荷輸送層用塗布液を調製する。電荷発生層用塗布液を導電性基体上に塗布し、乾燥することによって、電荷発生層を形成する。続いて、電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に塗布し、乾燥することによって、電荷輸送層を形成する。これにより、積層型感光体が製造される。
【0109】
電荷発生剤及び必要に応じて添加される成分(例えば、ベース樹脂及び各種の添加剤)を、溶剤に溶解又は分散させることにより、電荷発生層用塗布液は調製される。電子アクセプター化合物及び必要に応じて添加される成分(例えば、バインダー樹脂、正孔輸送剤及び各種添加剤)を、溶剤に溶解又は分散させることにより、電荷輸送層用塗布液は調製される。
【0110】
次に、感光体が単層型感光体である場合、単層型感光体は、例えば、以下のように製造される。単層型感光体は、単層型感光層用塗布液を導電性基体上に塗布し塗布膜を形成する。塗布膜を乾燥することによって製造される。単層型感光層用塗布液は、電子輸送剤及び必要に応じて添加される成分(例えば、電荷発生剤、正孔輸送剤、バインダー樹脂及び各種添加剤)を、溶剤に溶解又は分散させることにより製造される。
【0111】
電荷発生層用塗布液、電荷輸送層用塗布液又は単層型感光層用塗布液(以下、これら3つの塗布液を合せて塗布液と記載することがある)に含有される溶剤は、塗布液に含まれる各成分を溶解又は分散できる限り、特に限定されない。溶剤の例としては、アルコール(より具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール又はブタノール等)、脂肪族炭化水素(より具体的には、n−ヘキサン、オクタン又はシクロヘキサン等)、芳香族炭化水素(より具体的には、ベンゼン、トルエン又はキシレン等)、ハロゲン化炭化水素(より具体的には、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素又はクロロベンゼン等)、エーテル(より具体的には、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル又はプロピレングリコールモノメチルエーテル等)、ケトン(より具体的には、アセトン、メチルエチルケトン又はシクロヘキサノン等)、エステル(より具体的には、酢酸エチル又は酢酸メチル等)、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド又はジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。感光体の製造時の作業性を向上させるためには、溶剤として非ハロゲン溶剤(ハロゲン化炭化水素以外の溶剤)を用いることが好ましい。
【0112】
塗布液は、各成分を混合し、溶剤に分散することにより調製される。混合又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー又は超音波分散機を用いることができる。
【0113】
塗布液は、各成分の分散性を向上させるために、例えば、界面活性剤を含有してもよい。
【0114】
塗布液を塗布する方法としては、塗布液を導電性基体上に均一に塗布できる方法である限り、特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法又はバーコート法が挙げられる。
【0115】
塗布液を乾燥する方法としては、塗布液中の溶剤を蒸発させ得る限り、特に限定されない。例えば、高温乾燥機又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理条件は、例えば、40℃以上150℃以下の温度、かつ3分間以上120分間以下の時間である。
【0116】
なお、感光体の製造方法は、必要に応じて、中間層を形成する工程及び保護層を形成する工程の一方又は両方を更に含んでもよい。中間層を形成する工程及び保護層を形成する工程では、公知の方法が適宜選択される。
【0117】
以上、第二実施形態に係る感光体について説明した。第二実施形態の感光体によれば、感光体の電気特性を向上させることができる。
【実施例】
【0118】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
【0119】
<1.感光体の材料>
単層型感光体の単層型感光層を形成するための材料として、以下の電子輸送剤、正孔輸送剤、電荷発生剤、及びバインダー樹脂を準備した。
【0120】
[1−1.電子輸送剤]
電子輸送剤として、キノン誘導体(1−1)〜(1−7)を準備した。キノン誘導体(1−1)〜(1−7)は、それぞれ以下の方法で製造した。
【0121】
[1−1−1.キノン誘導体(1−1)の製造]
反応式(r−1)及び反応式(r−2)で表される反応(以下、それぞれ反応(r−1)及び(r−2)と記載することがある)に従ってキノン誘導体(1−1)を製造した。
【0122】
【化18】
【0123】
反応(r−2)では、ナフトール誘導体(1A)(1−ナフトール)とアルコール誘導体(1B)とを反応させて、中間生成物であるナフトール誘導体(1C)を得た。詳しくは、ナフトール誘導体(1A)1.44g(0.010モル)と、アルコール誘導体(1B)1.57g(0.010モル)と、酢酸30mLとをフラスコに投入し、酢酸溶液を調製した。フラスコ内容物に濃硫酸0.98g(0.010モル)を滴下し、室温で8時間攪拌した。フラスコ内容物にイオン交換水及びクロロホルムを加え有機層を得た。有機層を水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、中和した。続けて、有機層に無水硫酸ナトリウムを加え、有機層を乾燥させた。乾燥させた有機層を減圧留去し、ナフトール誘導体(1C)を含む粗生成物を得た。
【0124】
【化19】
【0125】
反応(r−2)では、ナフトール誘導体(1C)を酸化反応させて、キノン誘導体(1−1)を得た。詳しくは、ナフトール誘導体(1C)を含む粗生成物と、クロロホルム100mLとをフラスコに投入し、クロロホルム溶液を調製した。フラスコ内容物にクロラニル2.46g(0.010モル)を加え、室温で8時間攪拌した。続けて、フラスコ内容物をろ過し、ろ液を得た。得られたろ液の溶媒を留去し、残渣を得た。展開溶媒としてクロロホルムを用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによりで得られた残渣を精製した。これにより、キノン誘導体(1−1)を得た。キノン誘導体(1−1)の収量は、1.68gであり、ナフトール誘導体(1A)からのキノン誘導体(1−1)の収率は、60モル%であった。
【0126】
[1−1−2.キノン誘導体(1−2)〜(1−7)の製造]
以下の点を変更した以外は、キノン誘導体(1−1)の製造と同様の方法で、キノン誘導体(1−2)〜(1−7)をそれぞれ製造した。なお、キノン誘導体(1−2)〜(1−7)の製造において各原料は、キノン誘導体(1−1)の製造において対応する原料のモル数と同じモル数で添加した。
【0127】
表1に反応(r−1)におけるナフトール誘導体(A)、アルコール誘導体(B)、及びナフトール誘導体(C)を示す。表1中、ナフトール誘導体(A)欄の1Aは、ナフトール誘導体(1A)を示す。アルコール誘導体(B)欄の1B〜7Bは、それぞれアルコール誘導体(1B)〜(7B)を示す。ナフトール誘導体(C)欄の1C〜7Cは、それぞれナフトール誘導体(1C)〜(7C)を示す。
【0128】
反応(r−1)で使用するアルコール誘導体(1B)をアルコール誘導体(2B)〜(7B)の何れかに変更した。それらの結果、反応(r−1)では、ナフトール誘導体(1C)の代わりに、それぞれナフトール誘導体(2C)〜(7C)を含む粗生成物が得られた。
【0129】
表1に反応(r−2)におけるナフトール誘導体(C)、及びキノン誘導体(1)を示す。表1中、キノン誘導体(1)欄の1−1〜1−7は、それぞれキノン誘導体(1−1)〜(1−7)を示す。反応(r−2)で使用するナフトール誘導体(1C)を含む粗生成物をナフトール誘導体(2C)〜(7C)の何れかを含む粗生成物に変更した。それらの結果、反応(r−2)では、キノン誘導体(1−1)の代わりに、それぞれキノン誘導体(1−2)〜(1−7)が得られた。
【0130】
表1にキノン誘導体(1)の収量及び収率を示す。なお、表1中、アルコール誘導体(2B)〜(7B)は、それぞれ下記化学式(2B)〜(7B)で表される。また、ナフトール誘導体(2C)〜(7C)は、それぞれ下記化学式(2C)〜(7C)で表される。
【0131】
【表1】
【0132】
【化20】
【0133】
【化21】
【0134】
【化22】
【0135】
【化23】
【0136】
【化24】
【0137】
【化25】
【0138】
【化26】
【0139】
【化27】
【0140】
【化28】
【0141】
【化29】
【0142】
【化30】
【0143】
【化31】
【0144】
次に、プロトン核磁気共鳴分光計(日本分光株式会社製、300MHz)を用いて、製造したキノン誘導体(1−1)〜(1−7)の1H−NMRスペクトルを測定した。溶媒としてCDCl3を用いた。内部標準試料としてテトラメチルシラン(TMS)を用いた。これらのうちキノン誘導体(1−1)を代表例として挙げる。図3は、キノン誘導体(1−1)の1H−NMRスペクトルを示す。図3中、縦軸は信号強度(単位:任意単位)を示し、横軸は化学シフト(単位:ppm)を示す。以下に、キノン誘導体(1−1)の化学シフト値を示す。
キノン誘導体(1−1):1H−NMR(300MHz,CDCl3) δ=8.30(d, 2H), 7.18−7.74(m, 16H), 4.57(q, 2H), 1.50(d, 6H).
【0145】
1H−NMRスペクトル及び化学シフト値により、キノン誘導体(1−1)が得られていることを確認した。他のキノン誘導体(1−2)〜(1−7)も同様にして、1H−NMRスペクトル及び化学シフト値により、それぞれキノン誘導体(1−2)〜(1−7)が得られていることを確認した。
【0146】
[1−1−3.化合物(E−1)〜(E−2)の準備]
電子輸送剤として、化学式(E−1)〜(E−2)で表される化合物(以下、それぞれ化合物(E−1)〜(E−2)と記載することがある)を準備した。
【0147】
【化32】
【0148】
【化33】
【0149】
[1−2.正孔輸送剤]
正孔輸送剤として、第二実施形態で説明した化合物(H−1)を準備した。
【0150】
[1−3.電荷発生剤]
電荷発生剤として、第二実施形態で説明した化合物(C−1)及び(C−2)を準備した。化合物(C−1)は、化学式(C−1)で表される無金属フタロシアニン(X型無金属フタロシアニン)であった。また、化合物(C−1)の結晶構造はX型であった。
【0151】
化合物(C−2)は、化学式(C−2)で表されるチタニルフタロシアニン(Y型チタニルフタロシアニン)であった。また、化合物(C−2)の結晶構造はY型であった。
【0152】
[1−4.バインダー樹脂]
バインダー樹脂としてZ型ポリカーボネート樹脂(Resin−1)(帝人株式会社製「パンライト(登録商標)TS−2050」、粘度平均分子量50,000)を準備した。
【0153】
<2.単層型感光体の製造>
感光層を形成するための材料を用いて、単層型感光体(A−1)〜(A−14)及び単層型感光体(B−1)〜(B−4)を製造した。
【0154】
[2−1.単層型感光体(A−1)の製造]
容器内に、電荷発生剤としての化合物(C−1)2質量部、正孔輸送剤としての化合物(H−1)50質量部、電子輸送剤としてのキノン誘導体(1−1)30質量部、バインダー樹脂としてのZ型ポリカーボネート樹脂(Resin−1)100質量部及び溶剤としてのテトラヒドロフラン600質量部を投入した。容器の内容物を、ボールミルを用いて12時間混合して、溶剤に材料を分散させた。これにより、単層型感光層用塗布液を得た。単層型感光層用塗布液を、導電性基体としてのアルミニウム製のドラム状支持体上に、ディップコート法を用いて塗布した。塗布した単層型感光層用塗布液を、120℃で80分間熱風乾燥させた。これにより、導電性基体上に、単層型感光層(膜厚30μm)を形成した。その結果、単層型感光体(A−1)が得られた。
【0155】
[2−2.単層型感光体(A−2)〜(A−14)及び単層型感光体(B−1)〜(B−4)の製造]
以下の点を変更した以外は、単層型感光体(A−1)の製造と同様の方法で、単層型感光体(A−2)〜(A−14)及び単層型感光体(B−1)〜(B−4)をそれぞれ製造した。単層型感光体(A−1)の製造に用いた電荷発生剤としての化合物(C−1)を、表2に示す種類の電荷発生剤に変更した。単層型感光体(A−1)の製造に用いた電子輸送剤としてのキノン誘導体(1−1)を、表2に示す種類の電子輸送剤に変更した。なお、表2に感光体(A−1)〜(A−14)及び感光体(B−1)〜(B−4)の構成を示す。表2中、CGM、HTM、及びETMは、それぞれ電荷発生剤、正孔輸送剤、及び電子輸送剤を示す。表2中、CGM欄のx−H2Pc及びY−TiOPcは、それぞれX型無金属フタロシアニン及びY型チタニルフタロシアニンを示す。HTM欄のH−1は化合物(H−1)を示す。ETM欄の1−1〜1−7、及びE−1〜E−2は、それぞれキノン誘導体(1−1)〜(1−7)及び化合物(E−1)〜(E−2)を示す。
【0156】
<3.感光体の評価>
[3−1.単層型感光体の電気特性(感度特性)の評価]
製造した単層型感光体(A−1)〜(A−14)及び単層型感光体(B−1)〜(B−4)のそれぞれに対して、電気特性(感度特性)を評価した。電気特性の評価は、温度23℃及び湿度50%RH(相対湿度)の環境下で行った。
【0157】
ドラム感度試験機(ジェンテック株式会社製)を用いて、単層型感光体の表面を正極性に帯電させた。帯電条件を、単層層型感光体の回転数31rpmに設定した。帯電直後の単層型感光体の表面電位を+600Vに設定した。次いで、バンドパスフィルターを用いて、ハロゲンランプの白色光から単色光(波長780nm、半値幅20nm、光エネルギー1.5μJ/cm2)を取り出した。取り出された単色光を、単層型感光体の表面に照射した。照射が終了してから0.5秒経過した時の単層型感光体の表面電位を測定した。測定された表面電位を、露光後電位(VL、単位V)とした。測定された単層型感光体の露光後電位(VL)を、表2に示す。なお、露光後電位(VL)の絶対値が小さいほど、単層型感光体の感度特性が優れていることを示す。
【0158】
[3−2.単層型感光体の電気特性(摩擦帯電性)の評価]
感光層と炭酸カルシウムとを摩擦させたときの炭酸カルシウムの帯電量(摩擦帯電量)を測定した。炭酸カルシウムは、紙粉の主成分である。以下、図4を参照して、感光層3cと炭酸カルシウムとを摩擦させたときの炭酸カルシウムの摩擦帯電量を測定する方法を説明する。図4は、摩擦帯電量の測定装置の概要を示す。炭酸カルシウムの摩擦帯電量は、下記の第一ステップ、第二ステップ、第三ステップ及び第四ステップを行うことにより測定した。炭酸カルシウムの摩擦帯電量の測定には、治具10を使用した。
【0159】
図4に示すように、治具10は、第一台12と、回転シャフト14と、回転駆動部16(例えば、モーター)と、第二台18とを備えている。回転駆動部16は、回転シャフト14を回転する。回転シャフト14は、回転シャフト14の回転軸Sを中心に回転する。第一台12は、回転シャフト14と一体になって、回転軸Sを中心に回転する。第二台18は、回転することなく固定されている。
【0160】
(第一ステップ)
第一ステップでは、感光層3を2個準備した。以下、感光層3cの一方を第一感光層30と、感光層3の他方を第二感光層32と記載する。上述の単層型感光体(A−1)〜(A−14)及び単層型感光体(B−1)〜(B−4)の何れかの作製する際に調製した感光層用塗布液を、アルミパイプ(直径:78mm)に巻きつけたオーバーヘッドプロジェクタシート(以下、OHPシートと記載することがある)に塗布した。塗布した塗布液を、120℃で80分間乾燥した。これにより、膜厚30μmの感光層3が形成された摩擦帯電性評価用のシートを作製した。その結果、第一感光層30(膜厚L1:30μm)と第一OHPシート20とを備える第一シート、及び第二感光層32(膜厚L2:30μm)と第二OHPシート22とを備える第二シートとを得た。第一OHPシート20及び第二OHPシート22の大きさは、それぞれ、縦5cm及び横5cmであった。
【0161】
(第二ステップ)
第二ステップでは、炭酸カルシウム0.007gを第一感光層30上に乗せた。そして、炭酸カルシウムの層24上に第二感光層32を載せた。具体的な手順は以下の通りであった。
【0162】
まず、両面テープを用いて第一OHPシート20と第一台12とを接着させ、第一シートを第一台12に固定した。両面テープを用いて第二OHPシート22と第二台18とを接着させ、第二シートを第二台18に固定した。第一シートが備える第一感光層30上に、0.007gの炭酸カルシウムを載せ、膜厚が均一になるようにして、炭酸カルシウムの層24を形成した。炭酸カルシウムの量は、第三ステップにおいて回転時間60秒間で第一感光層30及び第二感光層32との間で炭酸カルシウムが十分にかつ万遍なく摩擦され、炭酸カルシムが十分に万遍なく帯電できる量である。炭酸カルシウムの層24は、第三ステップにおける回転駆動部16の駆動により、第一感光層30と第二感光層との間から溺れ落ちないように回転軸Sを中心に第一感光層30の内側に形成されている。そして、第一感光層30と第二感光層32とが炭酸カルシウムの層24を介して対向するように、第二感光層32と炭酸カルシウムの層24とを接触させて炭酸カルシウムの層24上に第二感光層32を載せた。これにより、下から順に、第一台12、第一OHPシート20、第一感光層30、炭酸カルシウムの層24、第二感光層32、第二OHPシート22、及び第二台18が配置された。第一台12、第一OHPシート20、第一感光層30、炭酸カルシウムの層24、第二感光層32、第二OHPシート22、及び第二台18の各中心が、回転軸Sを通るように配置された。
【0163】
(第三ステップ)
第三ステップでは、温度23℃及び湿度50%RHの環境下で、第二感光層32を固定したまま、回転速度60rpmで60秒間第一感光層30を回転させた。具体的には、回転シャフト14、第一台12、第一OHPシート20、及び第一感光層30を、回転速度60rpmで60秒間、回転軸Sを中心に回転させるように回転駆動部16を駆動させた。これにより、炭酸カルシウムが第一感光層30との間及び第二感光層32との間で摩擦され、炭酸カルシウムが帯電した。
【0164】
(第四ステップ)
第四ステップでは、第三ステップで帯電させた炭酸カルシウムを治具10から取出し、帯電量測定装置(吸引式小型帯電量測定装置、トレック社製「MODEL 212HS」)を用いて吸引した。吸引された炭酸カルシウムの総電気量Q(単位μC)と質量M(単位g)とを、帯電量測定装置を用いて測定した。式「摩擦帯電量=Q/M」から、炭酸カルシウムの摩擦帯電量(単位μC/g)を算出した。
【0165】
測定された炭酸カルシウムの摩擦帯電量を表2に示す。なお、炭酸カルシウムの摩擦帯電量が大きい正の値であるほど、炭酸カルシウムは第一感光層30及び第二感光層32に対して正帯電し易いことを示す。また、炭酸カルシウムの摩擦帯電量が大きい正の値であるほど、炭酸カルシウムに対して第一感光層30及び第二感光層32は負帯電し易いことを示す。
【0166】
[3−3.画像特性の評価(白点個数の測定)]
単層型感光体(A−1)〜(A−14)及び単層型感光体(B−1)〜(B−4)のそれぞれに対して、画像特性を評価した。画像特性の評価は、温度32.5℃及び湿度80%RHの環境下で行った。評価機として、画像形成装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製「モノクロプリンターFS−1300D」)を用いた。この画像形成装置は、非接触現像方式、直接転写方式及びブレードクリーニング方式を採用する。この画像形成装置では、帯電部としてスコロトロン帯電器が備えられている。記録媒体として、京セラドキュメントソリューションズ株式会社販売「京セラドキュメントソリューションズブランド紙VM−A4」(A4サイズ)を使用した。評価機による評価には、一成分現像剤(試作品)を使用した。
【0167】
評価機を用いて、単層型感光体の回転速度168mm/秒の条件で、20,000枚の記録媒体に画像I(印字率1%の画像)を連続して印刷した。続いて、1枚の記録媒体に画像II(黒ソリッド画像、縦297mm×横210mm A4サイズ)を印刷した。画像IIが形成された記録媒体を肉眼で観察し、形成画像における画像不良の有無を観察した。画像不良として、黒ソリッド画像内に現れる白点の数を数えた。感光体に紙粉が付着すると、黒ソリッド画像内に白点が現れる傾向がある。黒ソリッド画像内に現れる白点の数を表2に示す。白点の数が少ないほど、紙粉の付着に起因した画像不良の発生(白点現象の発生)が抑制されていることを示す。
【0168】
【表2】
【0169】
表2に示すように、感光体(A−1)〜(A−14)では、感光層は電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤としてキノン誘導体(1−1)〜(1−7)の何れか1種とを含有していた。キノン誘導体(1−1)〜(1−7)は、一般式(1)で表されるキノン誘導体であった。感光体(A−1)〜(A−14)では、白点の個数が11個以上28個以下だった。
【0170】
表2に示すように、感光体(B−1)〜(B−4)では、感光層は、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤として化合物(E−1)〜(E−2)の何れか1種とを含有していた。化合物(E−1)〜(E−2)は、キノン誘導体(1)ではなかった。感光体(B−1)〜(B−4)では、白点の個数が38個以上67個以下だった。
【0171】
一般式(1)で表されるキノン誘導体は、化合物(E−1)〜(E−2)に比べ、感光体の白点現象の発生を抑制できることが明らかである。また、感光体(A−1)〜(A−14)は、感光体(B−1)〜(B−4)に比べ、白点現象の発生を抑制できることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明に係るキノン誘導体は、感光体に利用することができる。本発明に係る感光体は、画像形成装置に利用することができる。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4