特許第6604453号(P6604453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6604453-α線測定装置 図000003
  • 特許6604453-α線測定装置 図000004
  • 特許6604453-α線測定装置 図000005
  • 特許6604453-α線測定装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604453
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】α線測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/18 20060101AFI20191031BHJP
【FI】
   G01T1/18 C
【請求項の数】16
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-80753(P2019-80753)
(22)【出願日】2019年4月22日
(65)【公開番号】特開2019-194579(P2019-194579A)
(43)【公開日】2019年11月7日
【審査請求日】2019年8月2日
(31)【優先権主張番号】特願2018-85861(P2018-85861)
(32)【優先日】2018年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】澤田 佳則
(72)【発明者】
【氏名】塩野 一郎
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−054489(JP,A)
【文献】 特開平05−041196(JP,A)
【文献】 特開平01−211852(JP,A)
【文献】 特開昭63−238587(JP,A)
【文献】 米国特許第05019711(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/18
G01T 1/185
H01J 47/00−47/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流入口及びガス排出口を有する箱型容器と、
前記箱型容器の内側に設けられたカソード膜と、
前記カソード膜と間隔をおいて平行にかつ相互に平行に間隔をおいて並べられ、相互に電気的に接続され、直径が30μm以下である複数本のアノードワイヤと、
前記アノードワイヤと間隔をおいて平行にかつ相互に平行に間隔をおいて並べられ、前記カソード膜と電気的に接続され、直径が30μm以下である複数本のカソードワイヤとを備えることを特徴とするα線測定装置。
【請求項2】
前記アノードワイヤの前記直径および前記カソードワイヤの前記直径がいずれも2μm以上であることを特徴とする請求項1に記載のα線測定装置。
【請求項3】
前記アノードワイヤの前記直径と前記カソードワイヤとの前記直径が同じであることを特徴とする請求項1または2のいずれか記載のα線測定装置。
【請求項4】
前記カソード膜と前記アノードワイヤとの離間距離、及び前記アノードワイヤと前記カソードワイヤとの離間距離は、いずれも3mm以上10mm未満であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のα線測定装置。
【請求項5】
前記カソード膜と前記アノードワイヤとの前記離間距離、及び前記アノードワイヤと前記カソードワイヤとの前記離間距離は、いずれも9mm以下であることを特徴とする請求項4記載のα線測定装置。
【請求項6】
前記アノードワイヤの各線間距離は10mm以上20mm未満であり、前記カソードワイヤの各線間距離は5mm以上10mm以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載のα線測定装置。
【請求項7】
前記アノードワイヤの前記線間距離が19mm以下であることを特徴とする請求項6記載のα線測定装置。
【請求項8】
前記カソードワイヤの前記線間距離が9mm以下であることを特徴とする請求項6記載のα線測定装置。
【請求項9】
前記箱型容器の内面と各前記アノードワイヤとの間に、絶縁材料からなる複数の支持棒と、α線放射元素の含有量が1ppb未満の導電性材料からなり、各前記アノードワイヤの両端部および各前記支持棒に固定され、前記アノードワイヤを保持するとともに各前記アノードワイヤ同士を電気的に接続する複数の支持導線と、が設けられており、
前記支持棒は、前記カソード膜に形成された孔を貫通して前記箱容器内に一部分が露出する棒状の内側絶縁部と、前記箱型容器内に露出する部分の前記内側絶縁部を覆う絶縁被覆部とを有する
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項記載のα線測定装置。
【請求項10】
各前記アノードワイヤと各前記支持導線との接合部を固定する導電性接合材を備えることを特徴とする請求項9記載のα線測定装置。
【請求項11】
前記支持導線は直径1mm以上10mm以下の銅線であることを特徴とする請求項9記載のα線測定装置。
【請求項12】
前記ガス流入口及び前記ガス排出口は、前記箱型容器の前記カソードワイヤと底面との
間の側板部に形成されていることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項記載のα線測定装置。
【請求項13】
前記カソード膜は銅又はアルミニウムからなることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項記載のα線測定装置。
【請求項14】
前記カソード膜の厚さは100nm以上200nm以下であることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項記載のα線測定装置。
【請求項15】
前記アノードワイヤおよび前記カソードワイヤはタングステン線であることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項記載のα線測定装置。
【請求項16】
各前記アノードワイヤにより形成される平面とカソード膜とは100cm以上1000cm以下の面積で対向することを特徴とする請求項1から15のいずれか一項記載のα線測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面状の陰極を用い、ガスを流しながら高電圧を印加してα線を計測する2π型ガスフロー比例計数管に属するα線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器の高度化に伴い様々な分野に高精度の電子回路が適用されている。この結果、電子回路におけるソフトエラーの発生頻度は、自動車分野においては安全性に、情報通信分野では情報の伝達品質に大きな影響を及ぼす。ソフトエラーの発生頻度を増加させる原因はいくつか存在するが、中でも電子回路を構成する半導体素子を回路基板に接合する接合材から放出されるα線が半導体素子に照射されることで、半導体素子が誤動作することが知られている。このため、実際に半導体素子を回路基板に接合するには、半導体接合材料が所望のα線放出量であることを事前に検証する必要がある。
【0003】
このα線を計測する装置の一種に、面状の陰極と、線状の陽極及び陰極とを配置した箱型容器内に測定対象試料を配置し、ガスを流しながら陰極と陽極との間に高電圧を印加して、気体の電離作用を利用してα線を計測する2π型ガスフロー比例計数管がある。
【0004】
例えば、特許文献1に開示の2πガスフロー計数管は、ガス導入出口を有する箱型容器内に、上部より陰極板、多線式陽極、多線式陰極及び試料台が配置された構成とされている。この場合、陰極板、陽極、下部の多線式陰極はいずれもα線放射元素含有量の少ない導電性材料からなる。陰極板には、超高純度の銅、アルミニウム等の金属を蒸着したプラスチック板、超高純度金属メッキ板などが用いられ、陽極としては、線径10〜200μmのステンレススチール、銅等の細線が用いられている。
【0005】
陽極の各細線間の間隔は2〜3mm、陽極と各陰極との間隔は1〜2cmの範囲に設定される。また、下部の多線式陰極としては、線径50〜100μmの陽極と同一材料のものが用いられ、線間隔が5〜20mmとすることにより、計数効率が良いと記載されている。試料測定面と下部の多線式陰極との間隔は3〜6mmであるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61‐54489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示の2πガスフロー計数管を用いたα線測定装置により、各種材料のある程度のα線放出量を計測できる。しかしながら、近年では、α線放出量が極めて少ない半導体接合材料が求められており、このため、例えば、0.001cph/cm以下の低α線放出量を計測できる装置が求められている。特許文献1開示の装置では、0.001cph/cm以下の低α線放出量を高い信頼性をもって測定検証することは難しく、測定できるとしても、例えば100時間以上もの測定時間を要する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、例えば0.001cph/cm以下の低α線放出量を短時間で高い信頼性をもって計測できるα線測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のα線測定装置は、ガス流入口及びガス排出口を有する箱型容器と、前記箱型容器の内側に設けられたカソード膜と、該カソード膜と間隔をおいて平行にかつ相互に平行に間隔をおいて並べられ、相互に電気的に接続され、直径が30μm以下である複数本のアノードワイヤと、前記アノードワイヤと間隔をおいて平行にかつ相互に平行に間隔をおいて並べられ、前記カソード膜と電気的に接続され、直径が30μm以下である複数本のカソードワイヤとを備える。
【0010】
α線の計数効率は印加電圧に応じて変化し、印加電圧と放射線の計数効率との関係においては、特定の電圧の範囲で計数効率の変化が少なくほぼ一定となるプラトーと呼ばれる領域が存在する。通常、α線測定時の印加電圧はこのプラトー領域の最低電圧に設定するとよい。一方、微量のα線を短時間で測定するためには、測定装置のバックグランドレベルを低くする必要があるが、このバックグランドレベルを下げるためには、印加電圧を低くする必要がある。しかしながら、プラトー領域の最低電圧からさらに電圧を下げてしまうと、計数効率も低下してしまう。
【0011】
これに対して、本発明の発明者らは、アノードワイヤの直径及びカソードワイヤの直径をいずれも30μm以下と細くすることによりプラトー領域が低電圧側にシフトすることを発見した。これにより、計数効率を下げることなく、より低い印加電圧にてα線を測定でき、バックグランドも低減し、低α線放出量の試料を短時間で測定することができる。各直径が30μmを超えると、プラトー領域が低電圧側に十分にシフトしないため、バックグランドの影響により低α線放出量の試料を短時間で測定することが難しい。
【0012】
アノードワイヤの直径及びカソードワイヤの直径の下限値はいずれも好ましくは2μmである。
【0013】
α線測定装置の一つの実施態様は、前記アノードワイヤと前記カソードワイヤとの直径が同じであることが好ましい。これにより、両極間に形成される電場の間隔が均一になり、計数効率が安定する。
【0014】
α線測定装置の他の一つの実施態様は、前記カソード膜と前記アノードワイヤとの離間距離、及び前記アノードワイヤと前記カソードワイヤとの離間距離は、いずれも3mm以上10mm未満である。
【0015】
これらの離間距離が3mm未満では、バックグランドが上昇して低電圧での測定が困難になるおそれがあるとともに、電極間が接近するため測定装置の組み立ても難しくなる。離間距離が10mm以上であると、ノイズが発生し易くなり、それに伴ってバックグランドも上昇するおそれがある。これらアノードワイヤとカソードワイヤとの離間距離は3mm以上9mm以下がより好ましい。
【0016】
α線測定装置のさらに別の一つの実施態様は、前記アノードワイヤの各線間距離は10mm以上20mm未満であり、前記カソードワイヤの各線間距離は5mm以上10mm以下である。
【0017】
アノードワイヤについては、各線間距離が10mm未満では電場同士が干渉してバックグラウンドが上昇するおそれがあり、20mm以上であるとアノードワイヤによって形成される電場の間隔が大きくなり、計数効率が低下するおそれがある。計数効率が低下すると、印加電圧を上昇させる必要があるが、その場合、バックグランドが上昇し、目的の性能が出せなくなる。
【0018】
カソードワイヤも、各線間距離が5mm未満では測定装置のバックグランドが上昇するおそれがあり、10mmを超えると線間が広すぎて計数効率が低下するおそれがある。
【0019】
アノードワイヤの線間距離は10mm以上19mm以下がより好ましく、カソードワイヤの線間距離は5mm以上9mm以下がより好ましい。
【0020】
α線測定装置のさらに別の一つの実施態様は、前記箱型容器の内面と各前記アノードワイヤとの間に、絶縁材料からなる複数の支持棒と、α線放射元素の含有量が1ppb未満の導電性材料からなり、各前記アノードワイヤの両端部および各前記支持棒に固定され、前記アノードワイヤを保持するとともに各前記アノードワイヤ同士を電気的に接合する支持導線と、が設けられており、前記支持棒は、前記カソード膜に形成された孔を貫通して前記箱型容器内に一部分が露出する棒状の内側絶縁部と、前記箱型容器内に露出する部分の前記内側絶縁部を覆う絶縁被覆部とを有する。
【0021】
カソード膜の孔に貫通させる際に内側絶縁部の外周面がカソード膜に接触してカソード膜の一部(粉等)が付着するおそれがあるので、箱容器内に露出する部分を絶縁被覆部により覆うことにより、絶縁性を高めて支持棒表面での導電性通路(導通経路)の形成を防止し、ノイズを低減している。
【0022】
α線測定装置のさらに別の一つの実施態様は、各前記アノードワイヤと各前記支持導線との接合部を固定する導電性接合材を備える。
【0023】
各アノードワイヤが細いので、支持導線との接合部を導電性接合材により接合することで、アノードワイヤの変形、破断等を防止することができ、適切な張力を付与した状態で整然と配置することができる。
【0024】
α線測定装置のさらに別の一つの実施態様は、前記ガス流入口及びガス排出口は、前記箱型容器の前記カソードワイヤと底面との間の側板部に形成されている。
【0025】
ガスの流れに伴う箱型容器内の気体の流動がカソードワイヤやアノードワイヤに大きく作用しないようにして、細いアノードワイヤ及びカソードワイヤの振れや撓み等を防止し、測定精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、アノードワイヤ及びカソードワイヤの直径を30μm以下と細くしたので、計数効率を下げることなく、より低い印加電圧にてα線を測定でき、バックグランドも低減し、低α線放出量の試料を短時間で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明のα線測定装置の一実施形態を示す縦断面図である。
図2図1のA−A線に沿う矢視断面図である。
図3図1のB−B線に沿う矢視断面図である。
図4】印加電圧と計数効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。実施形態のα線測定装置1は、図1図3に示すように、ガス流入口2及びガス排出口3を有する箱型容器11と、箱型容器11の天板部12の内面(天井面)に形成されたカソード膜21と、カソード膜21と間隔をおいて平行にかつ相互に平行に間隔をおいて並べられ、相互に電気的に接続された複数本のアノードワイヤ22と、アノードワイヤ22と間隔をおいて平行にかつ相互に平行に間隔をおいて並べられ、カソード膜21と電気的に接続された複数本のカソードワイヤ23とを備えている。
【0029】
箱型容器11は、底板部13、四方を囲む各側板部14、天板部12を有する直方体状に形成されている。この箱型容器11は、底板部13、各側板部14、天板部12はアクリル樹脂等の合成樹脂により形成されている。天板部12の内面(天井面)には、スパッタリング等によってカソード膜21が全面に形成されている。
【0030】
このカソード膜21と平行に、複数本のアノードワイヤ22が設けられている。これらアノードワイヤ22を支持するために、天板部12(カソード膜21)の両側部を貫通する複数の支持棒31が、天板部12の側部に沿って2列をなすように並べて設けられている。これら2列の支持棒31の先端(図1,2の下端)に、各列に沿って支持導線32が相互に平行に固着されている。
【0031】
図3に示すように、支持導線32は、支持棒31が2列に設けられることから、支持棒の列ごとに1本ずつ、合計2本配置されている。この支持導線32間を架け渡すようにアノードワイヤ22が設けられている。
【0032】
換言すると、箱型容器11の内面と各アノードワイヤ22との間に、絶縁材料からなる複数の支持棒31と、各支持棒31に固定された複数(本実施形態では2本)の支持導線32とが備えられている。各アノードワイヤ22は、両端が各支持導線32に固定されることにより、各支持導線32に保持されている。各支持導線32は、α線放射元素の含有量が1ppb未満の導電性材料からなり、各アノードワイヤ22同士を電気的に接続している。
【0033】
各支持棒31は、箱型容器11の天板部12およびカソード膜21を貫通する棒本体(内側絶縁部)31aと、天板部12を貫通して箱型容器11内に露出する部分を覆うように形成された絶縁被覆部31bとにより構成される。支持導線32は、その絶縁被覆部31bに固定される。
【0034】
換言すると、各支持棒31は、カソード膜21に形成された孔を貫通して箱容器11内に一部分が露出する棒本体31aと、箱型容器11内に露出する部分の棒本体31aを覆う絶縁被覆部31bとを有する。棒本体31aが絶縁被覆部31bによって覆われることにより、棒本体31aが貫通しているカソード膜21と絶縁被覆部31bに固定されている各支持導線32とが確実に絶縁される。
【0035】
各アノードワイヤ22は、これら支持棒31先端の支持導線32の間に、支持導線32に直交する方向に沿って相互に平行に、かつ一定間隔で設けられることにより、カソード膜21と一定の間隔をおく平行な面状をなすように配置される。これにより、広い面積の電場を形成できる。
【0036】
支持導線32とアノードワイヤ22との間は、Ag、Ni,Cu,Al,Auのいずれかの系の導電性接合材(図示略)によって電気的、機械的に接合されている。導電性接合材は、例えば、銀系接合材の場合には、具体的には、銀系粉末と樹脂等からなる銀ペーストを塗布して固化することにより形成される。支持導線32とアノードワイヤ22との接合部は、さらにエポキシ樹脂等の接着剤を付着させて補強される。なお、支持導線32とアノードワイヤ22との接合は、直接くくりつけてねじ止めする構造や、金具でかしめる構造等を採用してもよい。
【0037】
図2,3に示すように、これらアノードワイヤ22及びカソード膜21に、外部の電源(図示略)と接続するためのケーブル41が接続されている。ケーブル41は例えば同軸ケーブルであり、内部導線41aと、内部導線41aから絶縁された外部導線41bとを有し、箱型容器11の天板部12にコネクタ42によって固定される。内部導線41aはコネクタ42を介して支持導線32に電気的に接続され、外部導線41bはコネクタ42を介してカソード膜21に電気的に接続される。
【0038】
カソードワイヤ23は、箱型容器11の内側に設けた矩形の枠部材35に固定されている。枠部材35は、アクリル樹脂等の合成樹脂からなり、その表面の全面にスパッタリング等によって導電材料からなる導電膜35aが形成され、天板部12のカソード膜21に接合した状態で各側板部14の内面に固定されている。この枠部材35において180°対向する二辺の下端に、これらの間に架け渡された状態で複数本のカソードワイヤ23が相互に平行に設けられている。これらカソードワイヤ23が枠部材35の下端に並べられるため、これらカソードワイヤ23も枠部材35の下端間にまたがる面状に配置される。
【0039】
これらカソードワイヤ23と枠部材35の導電膜35aとの間、及び枠部材35の導電膜35aと天板部12のカソード膜21との間は、アノードワイヤ22と支持導線32との接合に用いたものと同様の銀系接合材によって電気的、機械的に接合されている。カソードワイヤ23が枠部材35の導電膜35aに接合され、導電膜35aが天板部12のカソード膜21に接合しているので、カソードワイヤ23とカソード膜21とは電気的に接続される。
【0040】
前述したように、各アノードワイヤ22はカソード膜21に対して平行に一定の間隔をおいてかつ相互に平行に配置され、各カソードワイヤ23も各アノードワイヤ22により形成される面に対して平行に一定の間隔をおいてかつ相互に平行に配置される。各アノードワイヤ22と各カソードワイヤ23とも相互に平行に配置される。
【0041】
カソード膜21、各アノードワイヤ22及び各カソードワイヤ23は、いずれもα線放射元素含有量の少ない導電材料からなる。例えば、カソード膜21としては銅又はアルミニウムが用いられ、アノードワイヤ22及びカソードワイヤ23としては高純度(5N)のタングステン線が用いられる。例えばタングステン線を使用する場合、強度が高いので直径10μm以下でも切れにくい。
【0042】
支持導線32や枠部材35表面の導電膜35aも、ウラン、トリウム、鉛等のα線放射元素の含有量が合計で1ppb未満である銅、銅合金、アルミニウム、、アルミニウム合金、タングステン、タングステン合金といった導電材料が用いられる。例えば、支持導線32は直径1mm以上10mm以下の高純度(5N)の銅線が用いられる。
【0043】
カソード膜21の厚みは100nm以上200nm以下が好ましい。アノードワイヤ22及びカソードワイヤ23の直径はいずれも30μm以下であり、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは10μm以上である。アノードワイヤ22どうしの間隔(線間距離)d1は10mm以上20mm未満が好ましく、10mm以上19mm以下がより好ましい。カソードワイヤ23どうしの間隔(線間距離)d2は5mm以上10mm以下が好ましく、5mm以上9mm以下がより好ましい。
【0044】
アノードワイヤ22により形成される平面とカソード膜21とは、約1000cmの面積で対向する。100cm以上1000cm以下の面積で対向するとよい。これらアノードワイヤ22により形成される平面とカソード膜21との離間距離h1、及び、アノードワイヤ22により形成される平面とカソードワイヤ23により形成される平面との面間の離間距離h2は、それぞれ3mm以上10mm未満に設定され、3mm以上9mm以下がより好ましい。本実施形態では離間距離h1と離間距離h2とは同一であるが、異なっていてもよい。
【0045】
なお、図1図3は、説明の便宜のため、部分的に誇張した寸法関係に設定しており、実際の寸法関係を忠実に反映したものではない。
【0046】
各アノードワイヤ22及び各カソードワイヤ23は、それぞれ1×10−2N以上5×10−2N以下(例えば4×10−2N)の張力が付与された状態に懸架される。
【0047】
箱型容器11の底板部13の上面は、α線測定対象となる試料Sを載置するための試料保持面13aとなっている。試料保持面13aは、面状に配置されている各カソードワイヤ23の下方に、各カソードワイヤ23が構成する面と平行に配置される。この試料保持面13aに載置される試料Sの上面とカソードワイヤ23との離間距離h3は、1mm以上3mm以下に設定される。試料Sは、必要に応じて適宜の固定手段によって試料保持面13aに固定される。試料Sは、例えば、金属板や樹脂板、金属粉末や樹脂粉末等である。
【0048】
箱型容器11の4つの側板部14のうち、アノードワイヤ22やカソードワイヤ23の両端が対向している2つの側板部14の一方にガス流入口2、他方にガス排出口3がそれぞれ設けられている。ガス流入口2とガス排出口3は、カソードワイヤ23から離間するように側板部14の下部に設けられ、箱型容器11の1つの隅部から対角上の隅部に向けてガスが流れるように配置されている。ガス流入口2とガス排出口3を上述のように設けることで、ガスの流入に伴う箱型容器11内の気体の流動が、カソードワイヤ23やアノードワイヤ22に大きく作用しないようにして、細いアノードワイヤ22及びカソードワイヤ23の振れや撓み等を防止し、測定精度を向上させることができる。
【0049】
箱型容器11を構成する天板部12、底板部13、側板部14、および支持棒31には、表面抵抗率が1.0×1015Ω以上1.0×1016Ω以下のアクリル樹脂やポリカーボネート等の合成樹脂が用いられる。支持棒31において、棒本体31aを覆う絶縁被覆部31bは例えばエポキシ樹脂により形成され、その表面に絶縁性のソルダーレジスト補修材が塗布される。
【0050】
箱型容器11の全体を覆うように金属ケース45が設けられ、アース接続される。
【0051】
このように構成されたα線測定装置1を用いて、箱型容器11における底板部13の試料保持面13aに測定対象の試料Sを載置し、アルゴン(Ar)とメタン(CH)の混合ガスをガス流入口2から流入させ、カソード膜21及びカソードワイヤ23とアノードワイヤ22との間に外部電源から高電圧を印加し、JEDEC STANDARD JESD221に基づき、試料Sから放出されるα線を測定することができる。
【0052】
外部電源としては、ノイズが低減された外部電源を用いることが好ましい。例えば、外部電源の内部回路基板にシールドを施したり、外部電源の電力供給部へフェライトコアなどのフィルタを設置したり、外部電源のアースラインを増設するなどしてノイズを低減させることができる。
【0053】
ガスの流量は300ml/分以上400ml/分以下が適切である。
【0054】
この実施形態のα線測定装置1においては、アノードワイヤ22及びカソードワイヤ23が30μm以下と細いため、比較的低い電圧であっても、計数効率を下げることなくα線を測定することができる。
【0055】
図4は、印加電圧(V)と計数効率(cpm:count/min)との一般的な関係を示すグラフであり、電圧の変化があっても計数効率がほとんど変化しないプラトー領域が存在することを示す。α線測定においては、通常、このプラトー領域における最低電圧Vaで印加されるが、本実施形態のα線測定装置1においては、アノードワイヤ22及びカソードワイヤ23の直径を30μm以下と細くしたことにより、図4の矢印で示すようにプラトー領域を全体に低電圧側にシフトさせる効果がある。これにより、低い電圧でも計数効率を低下させることなくα線を測定することができる。
【0056】
したがって、例えば0.001cph/cm以下の低α線放出量を、短時間で高い信頼性をもって計測することができる。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態に限るものではない。例えば、上記実施形態では、箱型容器11の天板部12にカソード膜21、その下方にアノードワイヤ22、カソードワイヤ23を順次配置し、底板部13に試料保持面13aを配置した。逆に、底板部13にカソード膜21、その上方にアノードワイヤ22、カソードワイヤ23を順次配置し、天板部12に試料保持面を形成してもよい。
【0058】
上記実施形態ではアノードワイヤ22を支持する支持棒31を、カソード膜21を貫通するように設けたが、必ずしもカソード膜21を貫通していなくてもよい。例えば、箱型容器11の側板部14間に支持導線32を架け渡すように配置し、その支持導線32にアノードワイヤ22を支持させてもよい。
【0059】
上記実施形態ではカソードワイヤ23を支持する枠部材35の全面を覆う導電膜35aを設けて、導電膜35aをカソード膜21に接合させたが、カソードワイヤ23とカソード膜21とが電気的に接続状態(同電位)となる構成であれば、この実施形態に限らない。
【実施例】
【0060】
上記実施形態にて説明した部品構成のα線測定装置1を用いて、以下の諸条件を変えてそれぞれα線を測定した。
【0061】
・アノードワイヤ22の直径(μm)
・カソードワイヤ23の直径(μm)
・アノードワイヤ22とカソード膜21との離間距離h1(mm)
・アノードワイヤ22とカソードワイヤ23との離間距離h2(mm)
・アノードワイヤ22の線間距離d1(mm)
・カソードワイヤ23の線間距離d2(mm)
【0062】
測定対象の試料Sは、錫(Sn)の圧延板を用い、α線放出量が0.001cph/cm程度である。
【0063】
測定条件については、測定面積1000cm、ガス流量400ml/min、計数効率80%以上、測定時間100時間以上で実施した。
【0064】
α線測定装置のバックグランド値と、0.001cph/cmを測定するために要する印加電圧(Va)、測定時間を計測した。その結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示されるように、アノードワイヤ及びカソードワイヤの直径がいずれも30μm以下の場合に、バックグランド値が低く、0.001cph/cmを測定に要する時間も短かった。特に、ワイヤ直径がいずれも10μmである実験3では測定に要した時間が短く、50時間以内であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
計数効率を下げることなく、より低い印加電圧にてα線を測定でき、バックグランドも低減し、低α線放出量の試料を短時間で測定できる。
【符号の説明】
【0068】
1 α線測定装置
2 ガス流入口
3 ガス排出口
11 箱型容器
12 天板部
13 底板部
13a 試料保持面
14 側板部
21 カソード膜
22 アノードワイヤ
23 カソードワイヤ
31 支持棒
31a 棒本体(内側絶縁部)
31b 絶縁被覆部
32 支持導線
35 枠部材
35a 導電膜
41 ケーブル
41a 内部導線
41b 外部導線
42 コネクタ
45 金属ケース
S 試料
図1
図2
図3
図4