(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
食付き部および完全山部を有するねじ部と、前記ねじ部を分断するように形成された溝部と、前記ねじ部および前記溝部に連続して形成されたシャンク部と、を備えるタップにおいて、
前記溝部は、少なくとも、
前記ねじ部の切刃側に形成されている第1溝と、
前記第1溝と連続して形成されている第2溝と、
前記第1溝および前記第2溝の境界である稜線部と、
から構成されており、
前記タップの中心軸から前記稜線部までの距離は、
前記中心軸から前記第1溝の溝底までの距離および
前記中心軸から前記第2溝の溝底までの距離よりも長く、
前記中心軸から前記第1溝の溝底までの距離は、
前記中心軸から前記第2溝の溝底までの距離よりも短い
ことを特徴とするタップ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係るタップの一実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限定されない。
本発明の一実施形態を示すタップ1の正面図を
図1に示す。
タップ1の先端部側は、
図1に示すようにらせん状で複数の切れ刃を備えたねじ部2と、そのねじ部2を分断するように形成された溝部3から構成されている。
また、従来のタップと同様に後端部側にシャンク部4がねじ部2および溝部3に連続して形成されている。
【0016】
次に、
図1に示すタップ1の先端部側の拡大図を
図2に示す。
タップ1のねじ部2は、
図2に示すようにタップ1の先端部側より食付き部21および完全山部22に区分されている。
食付き部21は、
図2に示すタップ1の形態においてタップ1の先端部側から第1山21a,第2山21bが形成されている。
完全山部22は、食付き部21側から第1山22a,第2山22b・・が形成されている。
また、溝部3は
図2に示すように第1溝31,第2溝32およびこれら2つの溝31,32の境界部分である稜線部33に区分されている。
【0017】
図1に示すタップ1のX−X線位置での断面図を
図3、
図3に示す溝部3周辺の部分拡大図を
図4にそれぞれ示す。
図1に示すタップ1の実施形態では、
図3に示すように中心軸Oを中心にして周方向に3ヶ所の溝部(ねじれ溝)3が形成されている、いわゆる3溝のスパイラルタップである。
溝部3は、前述したように
図3および
図4に示すように大きく分けて第1溝31,第2溝32および稜線部33から形成されている。
【0018】
第1溝31は、
図4に示すようにねじ部2の切れ刃5から連続して形成されており、すくい面6を形成している溝である。
第2溝32は、後述する稜線部33を介して第1溝31に連なり、ヒール7を形成している溝である。
つまり、タップ1の回転方向(
図4において反時計周り)側より、第2溝32、第1溝31の順に配列されている。
稜線部33は、第1溝31を形成する曲面と第2溝32を形成する曲面が互いに重なり合うことで形成される境界部分であり、
図3および4に示すようにタップ1の軸方向の断面視において径方向外側(外径側)に凸状に形成される。
【0019】
第1溝31と第2溝32の溝の深さ、すなわちタップ1の外周面から各溝31,32の溝底31b,32bまでの距離を比較すると、
図3および
図4に示すように第1溝31の溝深さが第2溝32の溝深さよりも深い。
言い換えると、タップ1の中心軸Oから第1溝31と第2溝32の各溝底31b,32bまでの距離d1,d2を比較した場合、
図4に示すように中心軸Oから第1溝31の溝底31bまでの距離d1は、中心軸Oから第2溝32の溝底32bまでの距離d2よりも短い。
【0020】
ここで、第1溝31の溝底31bは
図4に示すようにタップ1の中心軸Oを中心とした第1溝31の仮想円C1(二点鎖線で図示)と第1溝31を形成する外郭線(曲面)との接点である。
同様に、第2溝32の溝底32bも
図4に示すように中心軸Oを中心とした第2溝32の仮想円C2(二点鎖線で図示)と第2溝32を形成する外郭線(曲面)との接点である。
なお、仮想円C1はタップ1の心厚を示す。
【0021】
さらに、タップ1の中心軸Oから稜線部33までの距離eは、
図4に示すように中心軸Oから第1溝31の溝底31bまでの距離d1や中心軸Oから第2溝32の溝底32bまでの距離d2よりも長い。
【0022】
次に、本発明に係るタップにおけるヒールの逃げについて説明する。
本発明に係るタップ1の切削加工時におけるタップ1と被削材Wの内周面の拡大図を
図5に示す。
タップ1と被削材Wの内周面の間には
図5に示すように逃げ(ねじ山の逃げ)が存在する。
その逃げ量は食付き部の逃げ角θとして2°未満とする。
逃げ角θを2°未満とすることで、第2溝32に切り屑が存在する場合でも第2溝32からねじ部2側(タップ1と被削材Wの隙間)への切り屑の侵入を防止できる。
【0023】
なお、
図1に示す実施の形態ではタップ1の溝部3がねじれ溝(スパイラル)の場合を示しているが、本発明に係るタップは溝部が直溝(ストレート)でも構わない。
【0024】
本発明に係るタップの溝部をねじれ溝とすることで、被削材がチタン合金等のようにめねじ加工時に発生する切りくずが分断される形態の場合でも切り屑を第1溝内に滞留させて、第2溝への侵入を防止できる。
【0025】
つまり、めねじ加工時に発生する切りくずがタップの第2溝へ入り込むことが防止されるので、めねじ加工終了後にタップを逆回転させながら引き抜く際に切りくずがタップのヒール側からねじ部へ侵入して、切り屑とタップの噛み込みを防止するという効果を奏する。
【0026】
<試験1>
タップの溝(断面)形状および食付き部の逃げ角による切削性能を確認するためにチタン合金(Ti−6Al−4V)を被削材としてタップの切削加工試験を行った。
その試験結果について図面を用いて説明する。
本試験では、
図1等に示す本発明に係るタップ(以下、「本発明品1」という)の他に、従来のタップとして2種類のタップ(以下、それぞれ「従来品1」,「従来品2」という)を加えた計3種類のタップ(M9)を使用した。
本試験で用いた従来品1の溝形態を示すタップ100の模式断面図を
図6、従来品2の溝形態を示すタップ200の模式断面図を
図7にそれぞれ示す。
【0027】
図6および
図7に示すように、従来品1および従来品2の溝部が概ね通常のタップと同様である点は共通するが、従来品2(タップ200)の溝203の深さは従来品1(タップ100)の溝103よりも深い。
言い換えると、タップ100(従来品1)の心厚O100から溝底103bまでの距離は、タップ200(従来品2)の心厚O200から溝底203bまでの距離に比べて長い。
本試験で使用した3種類のタップの仕様を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
上記に示す3種類のタップを用いて切削加工試験を行った後、各タップから排出された切り屑の形態を
図8ないし
図13に示す。
本発明品1から排出された切り屑の内、切り屑長さが長いものを
図8、短いものを
図9に示す。
同様に、切削試験後に従来品1から排出された切り屑の形態を
図10(長い切り屑),
図11(短い切り屑)、従来品2から排出された切り屑の形態を
図12(長い切り屑),
図13(短い切り屑)に示す。
【0030】
3種類のタップを用いて切削加工試験を行った結果、3種類のタップから発生した長い切り屑を比較すると、
図8および
図10に示すように本発明品1および従来品1を用いた切削加工により発生した切り屑は1回または2回程度のらせん状に形成された形態であった。
一方、従来品2を用いた切削加工による長い切り屑は、
図12に示すように幾重にもらせん状に巻かれた形態であった。
図12に示す形態の切り屑が切削加工中に発生すると、タップの溝部に切り屑が詰まる原因となる。
【0031】
次に、上記3種類のタップから発生した短い切り屑の形態を比較する。
本発明品1および従来品2を用いた切削加工により発生した切り屑の形態は
図9および
図13に示すように細かく分断されずにカールされた(円弧)形状であった。
これに対して、従来品1の切削加工により発生した切り屑の形態は
図11に示すように細かく分断された形態であった。
図11に示す形態の切り屑が切削加工中に発生すると、切削加工後にタップを逆回転することで細かな切り屑がタップのヒールからねじ部側へ侵入して、タップと被削材の間で凝着(焼き付き)が発生する原因となる。
【0032】
以上の試験結果より、被削材がチタン合金の場合には従来品1および2の様にタップの溝形態が通常のタップと同じ形態であると、溝の深さに関わらず切削加工時に発生する切り屑は幾重にもらせん状に巻かれた形態であったり、細かく分断された形態として排出されることがわかった。
これに対して、本発明品1の様に1溝の形態を複数に分割して形成し、一方の溝の深さを他方の溝深さよりも深くすることで、切削加工で生成する切り屑が適切な長さになることがわかった。
【0033】
<試験2>
次に、タップの食付き部におけるねじ山の数(山数)と切削性能の関係性を確認するためにタップの切削加工試験を行った。
その試験結果について図面を用いて説明する。
本試験では先の試験1で用いた本発明品1の形態と同一にして、食付き部の山数を2山半のタップ(本発明品1)および食付き部の山数を1山半に減じたタップ(以下、「比較品1」という)の2種類のタップを使用した。
【0034】
本試験2では、本発明品1および比較品1の2種類のタップを用いて被削材に対して計50穴のねじ穴加工を行い、各タップから排出された切り屑の形態を確認した。
また、加工されたねじ穴に対してゲージによる寸法確認も行った。
ここで使用したゲージは、ねじ穴へ回転しながらねじ込んだ際に所定の位置まで挿入できることを確認するためのゲージ(いわゆる、通りプラグゲージ)、およびねじ穴へ回転しながらねじ込んだ際に所定の位置(2回転)以上は挿入できないことを確認するためのゲージ(いわゆる、止まりプラグゲージ)の2種類のゲージを用いてねじ穴の寸法確認を行った。
【0035】
本試験により発生した切り屑は、本発明品1および比較品1ともに試験1の試験結果と同様に
図8および
図9に示すような円弧形状であり、ほぼ一定長さに形成されたものであった。
また、切削加工されたねじ穴のゲージによる寸法確認では、本発明品1を用いて加工された計50穴のねじ穴に対して上述した2種類のゲージを用いたねじ穴の寸法確認について問題は見られなかった。
【0036】
しかし、比較品1を用いて加工されたねじ穴は、通りプラグゲージによる寸法確認を第1穴目から開始して、通算で第4穴目および第5穴目においてゲージが所定位置まで挿入するまでに大きな抵抗が感じられた。
そのためゲージをそれ以上挿入させることなく、ねじ穴の寸法確認結果については「不合格」と判断した。
なお、第6穴目以降のねじ穴の寸法確認は、ゲージのねじ部の損傷を防止する観点からその時点で終了した。
【0037】
以上の試験結果より、ねじ加工されたねじ穴について日本工業規格(JIS B0205)に準じたねじ穴寸法を確保するためには、タップの食付き部の山数は少なくとも2山以上有しているのが好ましい。