特許第6604467号(P6604467)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604467
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】細胞懸濁液の供給装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20191031BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   C12M1/00 Z
   C12M1/26
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-114022(P2015-114022)
(22)【出願日】2015年6月4日
(65)【公開番号】特開2017-3(P2017-3A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082108
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】東 健一
【審査官】 伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−293391(JP,A)
【文献】 特開平08−038157(JP,A)
【文献】 特開昭62−027045(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0054393(US,A1)
【文献】 特開2013−017461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
G01N 1/00−1/44
B01L 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞懸濁液を供給する細胞懸濁液の供給装置であって、
上記細胞懸濁液を貯溜するとともに細胞懸濁液の上部に密閉された空寸部の形成された貯溜タンクと、上記貯溜タンクの下部に接続されて上記細胞懸濁液を給液する給液通路と、当該給液通路の先端に設けられた供給ノズルと、上記貯溜タンクの空寸部に気体を供給して上記細胞懸濁液を供給ノズルより排出させる加圧手段と、貯溜タンク内の細胞懸濁液の液面高さに応じて上記加圧手段による上記気体の供給量を異ならせる制御手段とを備え、
上記給液通路に当該給液通路を開閉する開閉バルブを設けず、
上記制御手段には、上記貯溜タンク内の細胞懸濁液の液面高さに応じて、上記加圧手段から供給される気体の供給量が登録され、
上記制御手段は、上記加圧手段により上記貯溜タンク内の細胞懸濁液の液面高さに対応する供給量の気体を供給させ、これにより上記供給ノズルより所定量の細胞懸濁液が排出されると、貯溜タンクにおける空寸部の圧力と供給ノズル先端における表面張力とが均衡して、細胞懸濁液の排出が停止することを特徴とする細胞懸濁液の供給装置。
【請求項2】
上記加圧手段は、内部に空間が形成されたシリンダと、当該シリンダの内部を進退動するピストンとを有し、上記ピストンが前進することで上記空間の気体を上記貯溜タンクの空寸部に供給するように構成され、
さらに上記加圧手段と貯溜タンクとの間に配設された給気通路に、当該給気通路を開閉する開閉弁と、当該開閉弁と加圧手段との間に設けられて気体の流入を許容する吸引弁とを設け、
上記加圧手段によって貯溜タンクに気体を供給する際には上記開閉弁を開放するとともに上記吸引弁を閉鎖し、加圧手段における上記ピストンを後退させる際には上記開閉弁を閉鎖して上記吸引弁を開放することを特徴とする請求項1に記載の細胞懸濁液の供給装置。
【請求項3】
上記貯溜タンクを内部が閉鎖されたチャンバ内に設けるとともに、上記加圧手段を当該チャンバの外部に設け、
上記加圧手段と貯溜タンクとの間に配設された給気通路にフィルタを設けて、上記加圧手段から供給される気体を清浄化してから上記貯溜タンクの空寸部に供給することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の細胞懸濁液の供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞懸濁液の供給装置に関し、詳しくは細胞培養に使用する細胞懸濁液を所定量ずつ容器等に分注するための細胞懸濁液の供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、例えば再生医療の分野において、細胞を培地等の液体中に分散させた細胞懸濁液をシャーレ等の容器に所定量ずつ分注して、当該細胞の培養を繰り返すことが行われている。
このような細胞懸濁液の分注には、作業者が細胞懸濁液を貯溜した容器からピペットにより細胞懸濁液を吸引し、これを複数のシャーレに分注する方法が知られ、またこれを機械化した供給装置も知られている(特許文献1)。
しかしながら、上記ピペットを用いた細胞懸濁液の分注は、細胞懸濁液の吸引と吐出という作業の繰り返しが必要であり、より効率的な分注作業を行うために図2に示すような細胞懸濁液の供給装置101が提案されている。
この供給装置101は、細胞懸濁液を貯溜するとともに細胞懸濁液の上部に密閉された空寸部Sの形成された貯溜タンク103と、上記貯溜タンク103の下部に接続されて上記細胞懸濁液を給液する給液通路104と、当該給液通路104の先端に設けられた供給ノズル105と、上記貯溜タンク103の空寸部Sに気体を供給して上記細胞懸濁液を供給ノズル105より排出させる加圧手段106とを備えている。
上記構成を有する供給装置101では、上記加圧手段106によって上記貯溜タンク103の空寸部Sに気体を供給することで、貯溜タンク103内の細胞懸濁液を押し出してこれを上記供給ノズル105より排出させるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−17461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記図2の細胞懸濁液の供給装置101では、供給ノズル105より所定量の細胞懸濁液が排出されると、上記給液通路104に設けた開閉バルブBによって細胞懸濁液の排出を停止させるようになっている。
しかしながら、開閉バルブBを開閉させると、上記給液通路104が圧迫されたり開閉バルブBの開閉動作によって細胞に負担がかかることから、その後の培養において異常が発生するおそれがあった。
このような問題に鑑み、本発明は排出される細胞懸濁液中の細胞に負担がかからないようにした細胞懸濁液の供給装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかる細胞懸濁液の供給装置は、細胞懸濁液を供給する細胞懸濁液の供給装置であって、
上記細胞懸濁液を貯溜するとともに細胞懸濁液の上部に密閉された空寸部の形成された貯溜タンクと、上記貯溜タンクの下部に接続されて上記細胞懸濁液を給液する給液通路と、当該給液通路の先端に設けられた供給ノズルと、上記貯溜タンクの空寸部に気体を供給して上記細胞懸濁液を供給ノズルより排出させる加圧手段と、貯溜タンク内の細胞懸濁液の液面高さに応じて上記加圧手段による上記気体の供給量を異ならせる制御手段とを備え、
上記給液通路に当該給液通路を開閉する開閉バルブを設けず、
上記制御手段には、上記貯溜タンク内の細胞懸濁液の液面高さに応じて、上記加圧手段から供給される気体の供給量が登録され、
上記制御手段は、上記加圧手段により上記貯溜タンク内の細胞懸濁液の液面高さに対応する供給量の気体を供給させ、これにより上記供給ノズルより所定量の細胞懸濁液が排出されると、貯溜タンクにおける空寸部の圧力と供給ノズル先端における表面張力とが均衡して、細胞懸濁液の排出が停止することを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、給液通路に開閉バルブを設けていないことから、給液通路を流通する細胞懸濁液中の細胞に負担がかからず、分注された細胞のその後の培養を正常に行うことができる。
そして本発明では、上記開閉バルブを設けない代わりに、上記貯溜タンク内の細胞懸濁液の液面高さに応じて上記加圧手段が所定量の気体を供給するようになっている。
具体的には、液面高さに応じて上記貯溜タンク内の空寸部の体積が変動するのに応じて加圧手段が所定量の気体を空寸部に供給することにより、当該空寸部の圧力を増大させて細胞懸濁液を排出することができる。
そして所定量の細胞懸濁液が排出されると、貯溜タンクにおける空寸部の圧力が低下して供給ノズル先端における表面張力とが均衡するため、開閉バルブを用いずとも細胞懸濁液の排出を停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本実施例にかかる細胞懸濁液の供給装置の構成図
図2】従来の細胞懸濁液の供給装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、図1は本実施例にかかる細胞懸濁液の供給装置1を示し、内部に閉鎖空間が形成されたチャンバ2と、当該チャンバ2内に設けられて上記細胞懸濁液を貯溜する貯溜タンク3と、上記貯溜タンク3に接続された給液通路4と、当該給液通路4の先端に設けられた供給ノズル5と、上記貯溜タンク3に気体を供給する加圧手段6と、上記加圧手段6を制御する制御手段7とを備えている。
上記構成を有する供給装置1によれば、上記貯溜タンク3の細胞懸濁液を所定量ずつシャーレ等の容器に分注することができ、細胞懸濁液の分注された容器はその後図示しないインキュベータに移送されて細胞の培養が行われるようになっている。
【0009】
上記チャンバ2には図示しない空気清浄手段が設けられており、内部が無菌状態に維持され、またチャンバ2の側面には作業者が装着する図示しないグローブと、図示しない開閉扉を介して連通するパスボックスが設けられている。
上記パスボックスには外部より上記貯溜タンク3や容器等の資材が収容され、これらの資材を当該パスボックス内において除染することが可能となっており、その後上記開閉扉を開放することで、上記グローブを装着した作業者がパスボックスから上記資材をチャンバ2内に無菌状態を維持したまま移送するようになっている。
【0010】
貯溜タンク3は透明な樹脂製となっており、当該貯溜タンク3の上部に設けられた蓋部3aによって内部が密閉され、貯溜された細胞懸濁液の上方には無菌の気体からなる空寸部Sが形成されている。
上記貯溜タンク3は予め上記細胞懸濁液が充填された状態でチャンバ2内に移送され、その後チャンバ2の内部に設けた図示しない保持部材によって当該チャンバ2の底面に対して所定高さに保持されるようになっている。
そして、上記貯溜タンク3の外部には、当該貯溜タンク3における細胞懸濁液の液面高さを検出するセンサ8が設けられており、このセンサ8が検出した液面高さは上記制御手段7に送信されるようになっている。
上記給液通路4は可撓性を有する樹脂製からなり、上記貯溜タンク3の下部に接続されるとともに、当該給液通路4の先端に設けられた供給ノズル5は上記貯溜タンク3における細胞懸濁液の液面よりも下方に保持されている。
また本実施例の上記給液通路4には、開閉バルブやチューブポンプといった細胞懸濁液の流通を停止させる手段は設けられておらず、これにより給液通路4内を流通する細胞懸濁液中の細胞が圧縮等されないようにされている。
【0011】
上記加圧手段6は上記チャンバ2の外部に設けられており、上記加圧手段6と貯溜タンク3の蓋部3aとの間に給気通路9が配設されている。
上記加圧手段6は内部に空間が形成されたシリンダ11と、当該シリンダ11の内部を進退動するピストン12とを有し、上記ピストン12が前進することで上記空間の気体を上記貯溜タンク3の空寸部Sに供給するようになっている。
上記ピストン12は図示しない駆動手段によって進退動し、その移動量は上記制御手段7によって制御されるようになっている。そして制御手段7がピストン12の移動量を変化させることで、上記貯溜タンク3に供給される気体の体積を変動させるようになっている。
上記給気通路9には、上記加圧手段6との間に当該給気通路9を開閉する開閉弁13と、当該開閉弁13と加圧手段6との間に設けられて気体の流入を許容する吸引弁14とが設けられている。
そして貯溜タンク3に加圧手段6の気体を供給するには、上記開閉弁13を開放するとともに上記吸引弁14を閉鎖した状態で、上記ピストン12を前進させればよい。
一方、加圧手段6のシリンダ11に上記吸引弁14を介して外部の空気を吸引するには、上記開閉弁13を閉鎖するとともに上記吸引弁14を開放した状態で、ピストン12を後退させればよい。
そして、上記給気通路9における上記開閉弁13よりも貯溜タンク3側には、上記チャンバ2の壁面に固定されて空気を清浄化するフィルタ15が設けられており、上記吸引弁14を介してシリンダ11内に吸引された空気は、その後ピストン12が前進されて貯溜タンク3へと供給される際に、上記フィルタ15によって清浄化されるようになっている。
【0012】
上記構成を有する細胞懸濁液の供給装置1の使用方法について説明すると、まず上記チャンバ2内に上記パスボックスを介して細胞懸濁液の充填された貯溜タンク3を移送し、これを所定の高さに保持するとともに、上記給液通路4および給気通路9をそれぞれ接続する。
その後、細胞懸濁液を上記供給ノズル5の先端まで送液し、当該供給ノズル5の先端では表面張力によって細胞懸濁液が保持されるようになっている。具体的には、上記供給ノズル5での表面張力が上記貯溜タンク3における上記細胞懸濁液の上方の空寸部Sの圧力と平衡を維持することで、供給ノズル5から細胞懸濁液が排出されないようになっている。
この状態から上記供給ノズル5の下方に容器を位置させると、上記制御手段7が加圧手段6を制御して、加圧手段6より貯溜タンク3へと気体を供給する。すると、空寸部Sの圧力が上昇して上記供給ノズル5の表面張力とのバランスが崩れ、細胞懸濁液が排出される。
その際、制御手段7は上記センサ8によって貯溜タンク3内における細胞懸濁液の液面高さを認識しており、液面高さに対応して予め設定した量の気体を貯溜タンク3へと供給することで、所定量の細胞懸濁液が供給ノズル5より排出される。
具体的に説明すると、上記供給ノズル5から細胞懸濁液が排出されると、貯溜タンク3においては細胞懸濁液の液面が下降して空寸部Sの体積が増大する。このとき加圧手段6からの気体の供給は停止しており、これにより空寸部Sの体積増大に伴って当該空寸部Sの圧力が低下することとなる。
その結果、空寸部Sの圧力低下に伴って供給ノズル5からの細胞懸濁液の排出が減少し、その後再び貯溜タンク3の圧力と供給ノズル5の表面張力とが平衡状態となることで、供給ノズル5からの排出が停止する。
このように、供給ノズル5からの細胞懸濁液の排出を停止させる際に、給液通路4を開閉バルブ等によって閉鎖する必要がないことから、開閉バルブの開閉による細胞の損傷を防止することができる。
【0013】
その後、供給ノズル5から再度同量の細胞懸濁液を排出させる場合、制御手段7は前回の排出によって下がった細胞懸濁液の液面高さに基づいて、加圧手段6を制御し、前回に比べて若干多い気体を供給させる。
具体的には、貯溜タンク3において細胞懸濁液の液面高さが減少することにより、空寸部Sの体積が増大するため、前回と同量の細胞懸濁液を排出するために空寸部Sの圧力を上げるためには、前回よりも多い気体を供給する必要があり、その際の気体の供給量はセンサ8が検出した液面高さ毎に予め制御手段7に登録されている。
また、加圧手段6は上記シリンダ11内の空気の残量に応じてピストン12を後退させることなく貯溜タンク3に気体を供給することが可能であるが、上記空間が減少してしまった場合には、ピストン12を後退させる必要がある。
その場合、制御手段7は開閉弁13を閉鎖するとともに、ピストン12を後退させ、吸引弁14を介して空気が上記シリンダ11の空間に吸引されることとなる。
そして吸引された空気は、その後上記開閉弁13が開放されてピストン12が前進されると、上記フィルタ15によって清浄化された後、上記貯溜タンク3の空寸部Sに供給されるようになっている。
【0014】
上記実施例によれば、貯溜タンク3に貯溜された細胞懸濁液を供給ノズル5より排出した後、開閉バルブを用いずに当該細胞懸濁液の排出を停止できることから、開閉バルブの開閉による細胞の損傷を防止することができる。
なお、上記実施例に対し、上記供給ノズル5を貯溜タンク3における細胞懸濁液の液面よりも上方に設けることも可能であり、その場合には上記加圧手段6によって空寸部Sの圧力を上昇させることにより供給ノズル5より細胞懸濁液を排出させることができる。
また加圧手段6としては、上記シリンダ11およびピストン12によって構成されるものの他、チューブポンプ等を用いることも可能である。
また上記給気通路9に設けたフィルタ15については、貯溜タンク3と加圧手段6との間に設けられていればよく、必ずしも上記チャンバ2に固定されている必要はない。
さらに、上記チャンバ2の内部に、上記供給装置1の他にシャーレや遠沈管などの容器を保持する容器保持手段、遠沈管内の細胞懸濁液を遠心分離する遠心分離手段、上記容器類を上記供給装置1や容器保持手段の間で移動させるロボット等を設けて、細胞培養にかかる作業を自動的に行うことが可能な細胞培養装置を構成することも可能となっている。
【符号の説明】
【0015】
1 供給装置 2 チャンバ
3 貯溜タンク 4 給液通路
5 供給ノズル 6 加圧手段
7 制御手段 8 センサ
9 給気通路 S 空寸部
図1
図2