【実施例1】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0016】
以下、本発明の実施例1について
図1〜
図7に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態の車両用シート1は、着座した乗員の頭部を受けるヘッドレスト2と、シート1を車室床面に固定する脚機構3と、着座乗員の坐骨に対応した部位(臀部)を支持するシートクッション4と、着座乗員の脊椎(脊椎骨)に対応した部位(背部)を支持するシートバック5等を主な構成要素としている。
【0017】
また、このシート1は、後述するように、乗員の着座姿勢を変更可能な姿勢変更機構として、シートクッション4の高さ位置を変更可能なリフタ機構6と、シートクッション4の前端部分の高さ位置を変更可能なチルト機構7と、シートバック5の傾斜角度を変更可能なリクライニング機構8等を一体的に装備している。
以下、運転席である左前席に着座した乗員の視線方向を前方とし、着座乗員の左方を左方として説明する。
【0018】
まず、本シート1の剛性に関する考え方について説明する。
ばね定数は作用させた荷重を変位量で除することにより求められるため、剛性をばね定数によって表すことが可能である。
そして、このシート1は、同一の荷重を作用させた場合において、シート構成部材(弾性部材及びクッション部材)自体の変形量D
S、フレーム構造体(フレーム)の変形量D
Fとしたとき、次式(1)の条件を満足するように構成されている。
20≦D
S/D
F …(1)
【0019】
このように、フレーム構造体のばね定数(N/mm)をシート構成部材のばね定数の20倍以上に設定することにより、フレーム構造体の剛性がシート構成部材の剛性よりも十分に高くなり、着座乗員が車両との一体感を体感することができる。
特に、フレーム構造体のばね定数を70N/mm以上に設定することで、乗り心地を一層向上させている。
【0020】
また、本実施例では、シート1を左半部と右半部に区分した上で、左半部及び右半部を各々1つのばね特性(弾性変形特性)を有する左右1対のばね構造モデルと見做し、左半部及び右半部のばね定数を夫々演算している。
具体的なばね定数の演算については、本出願人が既に出願している特許出願(例えば、特願2017−145340)を含め種々の手法が存在するため、詳細な説明を省略する。
【0021】
ここで、車両用シート1の説明に戻る。
図1〜
図3に示すように、脚機構3は、車両床面に直接固定され、脚機構3と床面との間に、実質的にクッション性を与える部材は配設されていない。
脚機構3は、床面に対してシートクッション4及びシートバック5を前後にスライド可能にするスライド機構を備えている。このスライド機構は、左右1対のスライドレールに沿ってスライド可能な1対のスライダ9を乗員が所望する位置で係止可能に形成されている。
【0022】
図2〜
図6に示すように、シートクッション4は、構造的強度を付与する左右1対の金属製サイドフレーム11a,11bと、金属製弾性部材12と、ウレタン製のクッション部材13と、サイドフレーム11a,11bの前端部分に左右に亙って掛け渡されたチルトパン14と、これらを覆う表皮(図示略)等を備えている。
尚、
図2以降では、ヘッドレスト2を省略している。
【0023】
1対のサイドフレーム11a,11bは、前後に延びる板材をプレス加工することにより夫々形成され、材質、板厚、寸法等同一仕様で構成されている。
図5,
図6に示すように、1対のサイドフレーム11a,11bには、左右に貫通した複数の開口h1〜h5が夫々形成されている。
開口h1は、サイドフレーム11a,11bの前端側部分に形成され、左右に延びる連結部材15aの左右端部が固着されている。開口h2は、サイドフレーム11a,11bの後端側部分に形成され、左右に延びる連結部材15bの左右端部が固着されている。
開口h3は、サイドフレーム11a,11bの上側中央部に形成され、チルトパン14の左右後端部を上下揺動自在に軸支している。開口h4,h5は、開口h2の前側上部と開口h2の後部とに夫々形成され、シートバック5を前後揺動自在に軸支するブラケット16が固定されている。
【0024】
図6に示すように、サイドフレーム11bには、車両の旋回走行時、サイドフレーム11bの左側への変位を抑制するために、部分的に補強部材R1,R2が設けられている。
補強部材R1は、開口h1の前側上部領域に配置され、開口h1に沿った部分円弧状の金属製板材をサイドフレーム11bの左側面に固着することで形成している。
補強部材R2は、開口h2の前側領域に配置され、開口h2に沿った部分円弧状の金属製板材をサイドフレーム11bの左側面に固着することで形成している。
具体的には、開口h4の中心と開口h2の中心を結ぶ線よりも後方位置から開口h2の下端近傍位置に亙って補強部材R2が配設されている。
特に、補強部材R2は、シートバック5からの荷重(乗員に作用する慣性力等)入力が最も大きい開口h4を中心として所定半径(例えば75mm)の範囲内で且つサイドフレーム11bの曲げ方向に沿うように配置することが好ましい。
【0025】
弾性部材12は、複数の金属製板ばねであり、その前後端がサイドフレーム11a,11bに固定されている。これにより、乗員が着座したとき、弾性部材12が弾性変形し、乗員の臀部を下方から支持している。
クッション部材13は、サイドフレーム11a,11b及び弾性部材12に支持され、これらを覆うように配設されている。このクッション部材13は、弾性変形特性と振動減衰特性を有している。これにより、乗員が着座したとき、クッション部材13は、上下方向に圧縮変形され、弾性部材12と協働して乗員の臀部を支持している。乗員が離席したとき、圧縮変形したクッション部材13は、元の形状に復帰する。
【0026】
図2,
図3に示すように、シートバック5は、構造的強度を付与する左右1対の金属製縦フレーム21a,21b(背面フレーム)と、金属製弾性部材22と、ウレタン製のクッション部材23と、縦フレーム21a,21bの上端部分に逆U字状に掛け渡された上部材24と、これらを覆う表皮(図示略)等を備えている。
【0027】
1対の縦フレーム21a,21bは、上下に延びる板材をプレス加工することにより夫々形成され、材質、板厚、寸法等同一仕様で構成されている。これら縦フレーム21a,21bの下端は、左右に延びる連結部材25によって連結されている。
連結部材25の左端側部分には、後述するギヤ部材53が縦フレーム21aに隣接した状態で固着されている。この連結部材25の左右両端部は、1対のブラケット16に回動自在に枢支されている。
【0028】
弾性部材22は、網状に張り渡された複数の金属ワイヤから構成されたばねであり、その周囲が縦フレーム21a,21bに固定されている。この金属ワイヤの弾性変形によって乗員の背部を支持している。
クッション部材23は、縦フレーム21a,21b及び弾性部材22に支持され、これらを覆うように配設されている。このクッション部材23は、弾性変形特性と振動減衰特性を有している。これにより、乗員が着座したとき、クッション部材23は、前後方向に圧縮変形され、弾性部材22と協働して乗員の背部を支持している。乗員が離席したとき、圧縮変形したクッション部材23は、元の形状に復帰する。
【0029】
次に、シート1に装備された姿勢変更機構について説明する。
図2〜
図4に示すように、リフタ機構6は、床面に固定されたスライド機構のスライダ9に対してサイドフレーム11a,11bを乗員の手動操作により略水平状態を維持したまま昇降する機構である。
このリフタ機構6は、乗員が手動操作可能なレバーからなる操作部31と、この操作部31の操作によって動作可能な4節リンク機構を備えている。
操作部31は、サイドフレーム11aの左側面に回動自在に
軸支され、サイドフレーム11aに挿通されたピニオン31a(
図5参照)と連結されている。
【0030】
4節リンク機構は、前後1対の連結部材15a,15bと、左右1対の前側リンク32a,32bと、左右1対の後側リンク33a,33bを主な構成要素としている。
1対の前側リンク32a,32bは、側面視にて略楕円状に形成され、下端部はスライダ9に対して回動自在に夫々軸支され、上端部は連結部材15aの左右両端側部分が回動自在に夫々挿通されている。
後側リンク33bは、側面視にて略楕円状に形成され、下端部はスライダ9に対して回動自在に軸支され、上端部は連結部材15bの右端側部分が回動自在に挿通されている。
後側リンク33aは、略L字状に形成され、下端部はスライダ9に対して回動自在に軸支され、上側途中部は連結部材15bの左端側部分が回動自在に挿通されている。
【0031】
図5に示すように、後側リンク33aには、上側途中部の前側部分にピニオン31aと噛合可能なギヤ部35が形成されている。
操作部31の操作によって、左側面視にて、前側リンク32a,32b及び後側リンク33a,33bが時計回りに回動されたとき、サイドフレーム11a,11bは下降し、前側リンク32a,32b及び後側リンク33a,33bが反時計回りに回動されたとき、サイドフレーム11a,11bは上昇する。
【0032】
サイドフレーム11aの右側面に隣接する後側リンク33aが、サイドフレーム11bの左側面に隣接する後側リンク33bよりも大きく且つサイドフレーム11aに
軸支されたピニオン31aと噛合しているため、サイドフレーム11aの見かけ上の剛性(装備品を含むシートクッション4の左半部の剛性)が、サイドフレーム11bの見かけ上の剛性(装備品を含むシートクッション4の右半部の剛性)よりも大きくなる。
それ故、旋回走行時、特に左旋回走行時において、シートバック5からの乗員荷重がサイドフレーム11bの開口h4,h5の周辺部分に入力した際、サイドフレーム11bに曲げ荷重が作用してサイドフレーム11bが左方に内倒れする虞がある。
本実施例1では、補強部材R2をサイドフレーム11bの開口h2の前側上部領域、所謂リフタ機構6に対応した部分に配設しているため、サイドフレーム11bの曲げ荷重に対する耐力を増すことができ、サイドフレーム11aの見かけ上の剛性とサイドフレーム11bの見かけ上の剛性とを略等しくしている。
【0033】
次に、チルト機構7について説明する。
チルト機構7は、サイドフレーム11a,11bに対してシートクッション4の前端側座面部分を構成するチルトパン14を乗員の手動操作により昇降する機構である。
このチルト機構7は、乗員が手動操作可能なレバーからなる操作部41と、この操作部41の操作によって動作可能なリンク機構を備えている。
操作部41は、サイドフレーム11aの左側面に回動自在に枢支され、サイドフレーム11aに挿通されたピニオン41aを有している。
【0034】
図4に示すように、リンク機構は、左右1対の前側リンク42a,42bと、左右1対の後側リンク43a,43bと、左右端部がサイドフレーム11a,11bの開口h1の前側に形成された開口に対して回動自在に夫々枢支された連結部材44と、ギヤ部材45を主な構成要素としている。
前側リンク42a,42bは、前端がチルトパン14の左右端部に夫々回動自在に軸支され、後端が後側リンク43a,43bの前端に夫々回動自在に軸支されている。
後側リンク43a,43bの後端は、連結部材44の左右両端側部分に夫々固着されている。
【0035】
ギヤ部材45は、サイドフレーム11aの開口h1の中心を基準としてサイドフレーム11aに対して回動自在に支持されている(
図10参照)。
ギヤ部材45の後側部分はピニオン41aに噛合しており、ギヤ部材45の前側部分は後側リンク43aに形成されたギヤ部(図示略)に噛合している。
操作部41の操作によって、左側面視にて、後側リンク43a,43bが時計回りに回動されたとき、チルトパン14が開口h3に支持された軸を中心として上方に回動し、後側リンク43a,43bが反時計回りに回動されたとき、チルトパン14が開口h3に支持された軸を中心として下方に回動する。
【0036】
サイドフレーム11aの右側面に隣接するギヤ部材45が存在し、このギヤ部材45がピニオン41a及び後側リンク43aに噛合しているため、サイドフレーム11aの見かけ上の剛性が、サイドフレーム11bの見かけ上の剛性よりも大きくなる。
本実施例1では、補強部材R1をサイドフレーム11bの開口h1の前側上部領域、所謂チルト機構7に対応した部分に配設しているため、サイドフレーム11aの見かけ上の剛性とサイドフレーム11bの見かけ上の剛性とを略等しくしている。
【0037】
次に、リクライニング機構8について説明する。
リクライニング機構8は、サイドフレーム11a,11bに対するシートバック5(縦フレーム21a,21b)の傾斜角度を乗員の手動操作により調整する機構である。
このリクライニング機構8は、乗員が手動操作可能なレバーからなる操作部51と、この操作部51の操作によって動作可能なギヤ部材52と、このギヤ部材52と噛合可能なギヤ部材53と、シートバック5を左右に延びる連結部材25を回動中心として前方回動するように付勢する付勢部材54等を備えている。
操作部51、ギヤ部材52、付勢部材54の一端及び連結部材25の左右両端は、左側ブラケット16に支持され、ギヤ部材53は、左側縦フレーム21aの下端部に固着されている。付勢装置54の他端は、左側縦フレーム21aに係止されている。
【0038】
左側縦フレーム21aの下端部に隣接するギヤ部材53が存在し、このギヤ部材53が左側ブラケット16に支持されたギヤ部材52に噛合しているため、左側縦フレーム21aの見かけ上の剛性が、右側縦フレーム21bの見かけ上の剛性よりも大きくなる。
本実施例1では、補強部材R3を右側縦フレーム21bと連結部材25の右端との連結部近傍領域に配設している。
【0039】
次に、上記車両用シート1の作用、効果について説明する。
作用、効果の説明にあたり、CAE(Computer Aided Engineering)による検証実験を行った。この検証実験では、実施例1と同仕様の実施例モデルと、実施例1のサイドフレーム11bから補強部材R1,R2を省略した比較例モデルを準備し、夫々のモデルの開口h4相当位置に車幅方向に向かう100Nの荷重を入力し、開口h5の上側近傍位置の変位量を解析した。
【0040】
図7に解析結果を示す。
図7に示すように、比較例モデルは、左側サイドフレームの変位量に比べて右側サイドフレームの変位量が大きいため、右側サイドフレームに倒れ現象が発生しているものと考えられる。一方、実施例モデルは、左側サイドフレームに姿勢変更機構が固定されているものの、左側サイドフレームの変位量と右側サイドフレームの変位量とが略等しいことが確認された。
【0041】
このシート1によれば、乗員の着座姿勢を変更するためにシートクッション4の姿勢を変更可能な姿勢変更機構6,7を1対のサイドフレーム11a,11bのうち左側サイドフレーム11aに配設しているため、車両乗車時の乗員の着座姿勢を良好に調整でき、乗員の快適性を確保することができる。
右側サイドフレーム11bの姿勢変更機構6,7に対応した部分に補強部材R1,R2を設置しているため、装備品である姿勢変更機構6,7を含めたシートクッション4の左半部と右半部との剛性差を抑制することができ、シートクッション4の左半部と右半部との剛性差に起因したシート1の変位を低減することができる。
【0042】
補強部材は、右側サイドフレーム11bによる左側への変位を抑制するため、姿勢変更機構6,7が配設された左側への旋回走行時、シートバック5の右側半部に作用する乗員荷重による右側サイドフレーム11bの左側変位を抑制でき、シートクッション4の左半部と右半部との車幅方向の変位量を略均等にすることができる。
【0043】
姿勢変更機構が、シートクッション4を略水平状態で昇降させるリフタ機構6とシートクッション4の前端部を昇降させるチルト機構7のうち少なくとも1つであるため、リフタ機構6とチルト機構7のうち少なくとも1つを備えたシート1であっても、機構を構成するギヤ35,45に起因したシートクッション4の左半部と右半部との剛性差を解消することができる。