(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アンモニア分解能を有する担持金属触媒に対し、水熱合成法により前記担持金属触媒に担持された金属粒子の粒径より小さな径の細孔を有する多孔質材料の被覆層を形成し、
前記金属粒子の粒径が1〜20nmであり、
前記多孔質材料は、ゼオライト又はシリカライトであり、
前記多孔質材料の細孔の径は、0.2〜3.0nmである、
アンモニア分解触媒の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の効果を実証すべく、実験結果を交えて本発明について説明する。
【0014】
<発明に到った経緯>
はじめに、本発明に到った経緯について説明する。本発明者らは、アンモニアの分解速度の向上のため、分解速度とアンモニアの圧力依存性に着目した。例えば、表1は後述する比較例1c及び2に係るNi触媒における圧力次数を示すものである。ここで、圧力次数について説明する。一般的に触媒の反応速度は以下の式で表される。
(数1)r=k[P]
α
r:反応速度
k:反応速度定数
P:反応気体の圧力
α:圧力次数
ここで、上の式の両辺のlogをとると、以下の式が得られる。
(数2)logr=logk[P]
α
=logk+log[P]
α
=logk+αlog[P]
これは、x軸をlogP、y軸をlogrとして実験により得られた値をプロットしたグラフの「傾き」の値がαとなることを意味する。
したがって、表1より、Ni触媒におけるアンモニアの分解速度はアンモニアの圧力に大きく依存し、アンモニアの圧力が高いほど分解速度も速くなるといえる。
【0016】
そして、アンモニア分解プロセスの終盤においてアンモニア濃度が低くなった状態でも、アンモニア分子の担体から金属粒子への供給速度を増大させることでアンモニアの分解速度を高めることを狙った。
【0017】
そこで、アンモニア分子の金属粒子への供給速度を増大させるため、
図1に示すような「アンモニア吸着能を有する多孔質層を利用した分解触媒」というコンセプトを生み出した。かかるコンセプトは、触媒粒子を多孔質層が有する細孔内に配置し、アンモニア分子を細孔壁に吸着させることにより、アンモニア分子の金属粒子への供給速度を増大させることを狙うものである。そして、その効果を検証すべく、酸化物担体としてAl
2O
3、活性金属粒子としてNi、多孔質層としてゼオライトを用いて実験を行った。
【0018】
しかし、期待されるほどの効果が得られなかった。これについて検討したところ、文献「J Zhang et al.,Appl.Catal.A 296,257(2005)」に開示されているグラフである
図2に示されるように、Ni触媒活性を表す指標である後述するターンオーバー頻度(Turnover Frequency:以下TOF)はNi粒径に大きく依存し、Ni粒径が2.3nm近傍において極大値をとっていることがわかった。上記実験で用いたゼオライトの細孔の径は約0.7nmであり、これに収まるように0.7nm未満の粒径のNi粒子を用いていた。このため、
図2における極大値をとる粒径から大きくはずれていたために、TOFの大幅な向上が見られなかったものと思われる。
【0019】
ところが、Ni粒子の粒径をTOFが極大値をとる値、つまりゼオライトの細孔の径より大きくすると、
図1のように細孔内にNi粒子を配置することは不可能となる。そこで、本発明者らは、アンモニア分解触媒として最適な粒径の触媒粒子を用いつつ、触媒粒子の粒径よりも小さな細孔を有する多孔質材料を利用するといった、一見不可能とも思える命題を実現するべく、以下に説明するアンモニア分解触媒に到った。
【0020】
1.第1実施形態
<発明の概要>
図3は、本実施形態におけるアンモニア分解触媒の概要を示す図である。
図3(a)に示されるように、担体上に金属粒子を担持し、その上から金属粒子の粒径より小さい細孔を有する多孔質材料の被覆層を形成する。被覆層は、例えば高温高圧の熱水の存在下で行われる水熱合成により形成することができる。
【0021】
金属粒子は例えばNi(ニッケル)、Ru(ルテニウム)、Os(オスミウム)等のアンモニア分解能を有する金属粒子であり、多孔質材料は例えばゼオライト、粘土等の細孔を有する材料である。ゼオライトとしては、モルデナイト、ZSM5、フェリエライト、ベータ型ゼオライト、Y型ゼオライトなどが利用可能である。
【0022】
本実施形態では、アンモニア分解触媒における金属粒子の質量分率が例えば0.1〜40%の範囲であり、1〜35%が好ましく、3〜30%がさらに好ましい。アンモニア分解触媒における金属粒子の質量分率は、具体的には、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5、6、7、8、9、10、15、20、25、26,27,28,29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0023】
また、金属粒子の粒径は例えば1〜20nmであり、1.5〜10nmが好ましく、2.0〜5.0nmがさらに好ましい。金属粒子の粒径は、具体的には、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、12.5、13、13.5、14、14.5、15、15.5、16、16.5、17、17.5、18、18.5、19、19.5、20nmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。金属粒子の粒径は、水素吸着量測定により決定した。具体的には、焼成後の担持金属触媒粉末0.1g〜1.0gを石英製U字管に充填した。この石英管を吸着量測定装置(ベルソープマックス、マイクロトラックベル製)に取り付け、水素気流中、500℃まで1時間で昇温し、500℃で1時間保持し水素還元処理を行った。次に500℃で10分間真空排気し吸着水素を除去した後に50℃まで冷却し、50℃でヘリウムを用いて石英管の死体積を測定し、ヘリウムを真空排気後、水素を100kPaまで段階的に導入し水素吸着量を測定した。ここから得られた吸着等温線から水素吸着量を求め、金属分散度および金属粒子径を算出した。
【0024】
また、多孔質材料の細孔の径は例えば0.2〜3.0nmであり、0.4〜2.0nmが好ましく、0.6〜0.7nmがさらに好ましい。多孔質材料の細孔の径は、具体的には、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0nmであり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。多孔質材料の細孔径は、窒素吸着量測定により決定した。具体的には、担持金属触媒粉末0.1g〜1.0gを専用のパイレックス硝子製試料管に充填した。この試料管を専用の前処理装置に取り付け、300℃、30分、真空排気処理を行った。次に処理した試料管を吸着量測定装置(ベルソープマックス、マイクロトラックベル製)に取り付け、液体窒素を充填したデュワー瓶中で液体窒素温度まで冷却した後、ヘリウムを用いて試料管の死体積を測定し、ヘリウムを真空排気後、液体窒素温度で窒素を大気圧まで段階的に導入し吸着量を測定した。ここから得られた吸着等温線からBET比表面積および細孔径分布を算出した。
【0025】
金属粒子の粒径は多孔質材料の細孔の径の例えば5〜25倍であり、7〜20倍が好ましく、10〜14倍がさらに好ましい。(金属粒子の粒径)/(多孔質材料の細孔の径)の値は、具体的には、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
図3(b)は、
図3(a)の部分拡大端面模式図である。金属粒子が細孔内に配置されるわけではないが、細孔を有する被覆層を金属粒子の表面と接触させて形成することで、アンモニア分子を細孔壁に吸着させることにより、アンモニア分子の金属粒子への供給速度を増大させることができる。また、細孔は図の横方向にも形成されているので、アンモニアが分解されて生成される水素や窒素は縦/横方向の細孔を通って排出することができる。
【0027】
これにより、アンモニア分解プロセスの終盤において周囲のアンモニア濃度が低下しても、細孔内においてアンモニア分子の金属粒子への供給速度を増大させることができる。
【0028】
このような構成とすることで、反応速度が極大値をとる最適な粒径の金属粒子を用いつつ、細孔壁にアンモニア分子を吸着させることでアンモニア分子の金属粒子への供給速度を増大させることが可能となる。なお、被覆層として金属粒子の粒径より小さい細孔を有する多孔質材料を用いたが、金属粒子の粒径より大きな細孔を有する多孔質材料を用いてもよい。
【0029】
また、被覆層だけでなく、被覆層及び担体をともに多孔質材料としてもよい。さらに、複数の被覆層を形成してもよい。例えば、
図4はゼオライトの一種であるシリカライトを用いた多層被覆の図であり、
図4(a)はNi/SLをシリカライトで被覆したSL/Ni/SLの概念図、
図4(b)はSL/Ni/SLの被覆層上にさらにNi粒子を担持させ、その表面をさらにシリカライトで被覆したSL/Ni/SL/Ni/SLについての概念図である。なお、このような多層被覆層に限定されず、金属粒子が多孔質材料の結晶中に含まれる態様であればよい。
【0030】
かかる構造のアンモニア分解触媒では、金属粒子と酸化物の界面を表面積としてとらえると、表面積はゼオライト被覆層が1層のときと比較して3層被覆で約5倍、10層被覆で約20倍となるため、表面積の増加にともない担持できる金属粒子の数も増加するので、被覆層を増やすことでアンモニアの分解速度を指数関数的に向上させることが可能となる。
【0031】
2.第2実施形態
次に、
図5を用いて第2実施形態について説明する。
図5は本実施形態についての概念図である。多孔質材料の被覆層がなくとも、担体を多孔質材料とすることで、接触面において細孔の効果によりアンモニア分子の金属粒子への供給速度が増大すると推定される。担体として例えばモルデナイト、ZSM5、フェリエライト、ベータ型ゼオライト、Y型ゼオライトなどが利用可能である。
【0032】
なお、このような構造は、例えば以下の方法で製造できる。まず、アンモニア分解能を有する金属粒子の金属塩水溶液に多孔質材料を浸漬させた混合液を蒸発乾固させる。そして、金属塩を多孔質材料の外表面に析出させ、それらを酸化、還元することで金属粒子を多孔質材料の外表面に担持させる。ここで、蒸発乾固させるために、例えば混合液中において金属イオンと多孔質材料中のカチオンとの間でイオン交換が実質的に生じない程度の温度で溶媒を蒸発させる方法がある。ここで、イオン交換が実質的に生じない程度の温度とは、20℃〜50℃が好ましい。より好ましくは、25℃〜45℃である。さらに好ましくは、30℃〜40℃である。
【0033】
3.アンモニア分解触媒の利用例
次に、第1実施形態及び第2実施形態に係るアンモニア分解触媒の利用例について
図6を用いて説明する。例えば、「国際公開第01/87770号パンフレット」や「室井高城著「工業貴金属触媒」幸書房、2003年5月26日、p297」に示されるような、オートサーマルリフォーマー(ATR)方式のアンモニア分解装置などに利用することができる。これは、簡便に水素を得る手段としてアンモニアの分解反応を利用する方法であり、アンモニアと空気を予め混合し、アンモニアの燃焼熱をアンモニア分解の反応熱として用いるものである。第1実施形態及び第2実施形態に係るアンモニア分解触媒を利用することで、高精度に分解されたH
2を得ることが可能となる。なお、アンモニア分解触媒には貴金属が必要である。
【0034】
また、外部熱源を利用した反応器にアンモニアを流通し、分解反応によってH
2とN
2を生成する「外部加熱方式」のアンモニア分解装置に利用することもできる。この方式では、生成物中にH
2Oが含まれないため、ATR方式と異なりH
2Oの除去が不要となる。また、触媒としてNi系を利用することが可能である。
【0035】
これらのアンモニア分解装置は単独で利用することができるが、他のアンモニア分解装置と併用することも可能である。例えば、第1実施形態及び第2実施形態に係るアンモニア分解触媒を利用していない(既存の)アンモニア分解装置によりアンモニアを分解する。このとき、水素の収率はすでに述べた通り100%ではなく、触媒により分解されなかったアンモニアが残存している。この残存したアンモニアを第1実施形態及び第2実施形態に係るアンモニア分解触媒を利用したアンモニア分解装置に流通することで、少量のアンモニア、つまり、触媒周辺の空間における濃度が低く、圧力も低い状態であっても、細孔の効果によりアンモニア分子の金属粒子への供給速度を増大させることで、従来のアンモニア分解装置では分解しきれずに残存したアンモニアをさらに分解することが可能となる。
【0036】
4.アンモニア分解方法
(方法1)
次に、第1実施形態及び第2実施形態に係るアンモニア分解触媒を利用したアンモニア分解方法について説明する。例えば、270℃〜550℃の動作温度にて第1実施形態及び第2実施形態に係るアンモニア分解触媒にアンモニアを流通させることでアンモニアを分解する。そして、アンモニア分解反応後のアンモニア転化率が90%以上となると、アンモニア分解プロセスを終了し、高精度に分解されたH
2を得る。既存のアンモニア分解触媒ではアンモニア転化率90%以上を達成するためには600℃前後の動作温度が必要であったが、第1実施形態及び第2実施形態に係るアンモニア分解触媒では反応速度が極大値をとる最適な粒径の金属粒子を用いつつ、細孔壁にアンモニア分子を吸着させることでアンモニア分子の金属粒子への供給速度を増大させているので、より低い動作温度でもアンモニア転化率90%以上を達成することが可能となる。なお、転化率が90%以上となった時点でアンモニア分解反応を停止することなく、さらにアンモニア分解反応を継続してもよい。例えば、転化率が99%、99.9%、99.99%、99.999%、99.9999%を達成するまでアンモニア分解反応を継続してもよい。この場合、アンモニアの残存濃度はそれぞれ10,000ppm、1,000ppm、100ppm、10ppm、1ppmとなる。
【0037】
また、動作温度は適宜調整され、アンモニア転化率90%以上を目標とする場合には例えば270℃〜550℃であり、280℃〜500℃が好ましく、290℃〜450℃がさらに好ましい。具体的には、270、275、280、285、290、295、300、305、310、315、320、325、330、335、340、345、350、355、360、365、370、375、380、385、390、395、400、405、410、415、420、425、430、435、440、445、450、455、460、465、470、475、480、485、490、495、500、510、515、520、525、530、535、540、545、550℃であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。また、アンモニア転化率の目標を90%より小さくする場合には必要な動作温度は低くなり、逆にアンモニア転化率の目標を100%に近づける場合、必要な動作温度は高くなる。
【0038】
(方法2)
また、第1実施形態及び第2実施形態に係るアンモニア分解触媒を利用したアンモニア分解方法について、以下のような方法とすることもできる。例えば、第1実施形態及び第2実施形態に係るアンモニア分解触媒を利用していない(既存の)アンモニア分解装置によりアンモニアを分解する。このとき、水素の収率はすでに述べた通り100%ではなく、触媒により分解されなかったアンモニアが残存している。この残存したアンモニアを第1実施形態及び第2実施形態に係るアンモニア分解触媒に流通することで残存するアンモニアをさらに分解する。ここで、例えば残存するアンモニアの濃度が20,000ppmであった場合、つまり、上記方法1において転化率98%に達したときのアンモニアの残存濃度と等しい場合、これをさらに分解するために、上記方法1と同程度の動作温度でアンモニア分解反応を進行させる。
【0039】
4.実施例
本発明のアンモニア分解触媒の効果を実証すべく、以下に示す種々の実験を行った。
【0040】
<触媒の製造>
まず、本発明者らが行った触媒の製造につき、詳細に説明する。なお、以下に示す比較例及び実施例において、多孔質材料の細孔径は、窒素吸着量測定により測定した値およびX線回折測定により同定した物質の文献値を用いた。金属粒子の粒径は、水素吸着量測定により決定した。それぞれの測定条件は上記の通りである。
【0041】
1.比較例1(アルミナ担持ニッケル触媒(0.5wt%Ni/Al
2O
3〜10wt%Ni/Al
2O
3)の調製)
以下のa)〜d)の方法でアルミナ担持ニッケル触媒を調製した。アルミナは多孔質材料ではないので、a)〜d)は全て比較例であり、a)〜d)が比較例1a〜比較例1dに対応する。
【0042】
a)0.5wt%Ni/Al
2O
3の調製:α−アルミナ粉末(HIT70、住化アルケム製)9.5gを純水100mLに加えた懸濁液に、酢酸ニッケル四水和物0.21153g(関東化学製)を純水200mlに溶解させた溶液をビュレットを用いて全量滴下し10分間撹拌した。室温で30分、45℃の湯浴中で30分攪拌した後、一度室温まで冷却した。その後、35〜50℃の湯浴中でエバポレーターにかけ、水分を全て飛ばした。得られた粉末を、110℃で12時間乾燥させた後、500℃で3時間焼成し、金属換算でNi5wt%を担持したNi/Al
2O
3からなる触媒を得た。
【0043】
b)1wt%Ni/Al
2O
3の調製:α−アルミナ粉末(HIT70、住化アルケム製)9.5gを純水100mLに加えた懸濁液に、酢酸ニッケル四水和物0.4231g(関東化学製)を純水200mlに溶解させた溶液をビュレットを用いて全量滴下し10分間撹拌した。その後上記と同様の操作を加え、金属換算でNi1wt%を担持したNi/Al
2O
3からなる触媒を得た。
【0044】
c)5wt%Ni/Al
2O
3の調製:α−アルミナ粉末(HIT70、住化アルケム製)9.5gを純水100mLに加えた懸濁液に、酢酸ニッケル四水和物2.1153g(関東化学製)を純水200mlに溶解させた溶液をビュレットを用いて全量滴下し10分間撹拌した。その後上記と同様の操作を加え、金属換算でNi5wt%を担持したNi/Al
2O
3からなる触媒を得た。
【0045】
d)10wt%Ni/Al
2O
3の調製:α−アルミナ粉末(HIT70、住化アルケム製)9.5gを純水100mLに加えた懸濁液に、酢酸ニッケル四水和物4.2306g(関東化学製)を純水200mlに溶解させた溶液をビュレットを用いて全量滴下し10分間撹拌した。その後上記と同様の操作を加え、金属換算でNi10wt%を担持したNi/Al
2O
3からなる触媒を得た。なお、電子顕微鏡により測定したNi粒子の粒径は約10nmであった。
【0046】
2.比較例2(X型ゼオライト担持ニッケル触媒(5wt%Ni/X)の調製)
以下の方法でX型ゼオライト担持Ni触媒(5%Ni/X)を調製した。まずX型ゼオライト粉末(モレキュラーシーブ13X、関東化学製)を500℃、3時間焼成し、デシケーターに手早く移し室温まで冷却した。この操作はX型ゼオライトに吸着した水分を十分に取り除くためである。X型ゼオライト5gを、0.05M硝酸Ni水溶液100mlに加え、80℃、6h撹拌した。その後、濾過および洗浄を行い、空気中、120℃、14時間乾燥した後、400℃、4h焼成した。このとき、X型ゼオライトの細孔の径は約0.6nmであり、電子顕微鏡により測定したNi粒子の粒径は0.6nm未満であった。
【0047】
3.比較例3(モルデナイト担持ニッケル触媒(1wt%Ni/MOR)の調製)
以下の方法でモルデナイト担持Ni触媒(1wt%Ni/MOR)を調製した。まずモルデナイト粉末(Z−HM−20、東ソー製)を500℃、3時間焼成し、デシケーターに手早く移し室温まで冷却した。次にモルデナイト粉末5gを0.05M酢酸Ni水溶液100mlに加え、80℃、6時間撹拌した。その後、濾過および洗浄を行い、空気中、120℃、14時間乾燥した後、400℃、4h焼成した。このとき、モルデナイトの細孔の径は約0.5nmであり、Ni粒子の粒径は0.5nm未満であった。
【0048】
4.比較例4(メソポーラスシリカ担持ニッケル触媒(10wt%Ni/MS)の調製)
以下の方法でメソポーラスシリカ担持Ni触媒(Ni/MS)を調製した。セチルトリメチルアンモニウム臭化物粉末(関東化学製)4.9gに、エタノール386.2g(関東化学製)、超純水1234.1gおよび28%アンモニア水14.0g(関東化学製)を加え30分間撹拌し、セチルトリメチルアンモニウムを完全に溶解した。この溶液にエタノール80.1g、テトラエトキシシラン9.2g(関東化学製)、アセチルアセトン2.0g(関東化学製)、チタニウムテトライソプロポキシド0.4g(関東化学製)を加え16時間撹拌した。その後得られた固体を濾過し、50℃、2時間真空乾燥した後、空気中550℃、4時間焼成しメソポーラスシリカ(MS)粉末を得た。その後、このメソポーラスシリカ担体にインシピエントウェットネス含浸法を用いてメソポーラスシリカの吸水量に等しい0.6M酢酸Ni溶液7.5mlを2回にわけて添加し、110℃で一晩乾燥後、500℃、3h焼成し10wt%Ni/MS粉末を得た。このとき、メソポーラスシリカの細孔の径は約3nmであり、Ni粒子の粒径は3nm未満であった。
【0049】
5.比較例5(アルミナ担持ルテニウム触媒(5wt%Ru/Al
2O
3)の調製)
Al
2O
3(HIT−70、住化アルケム製)粉末14.3gを超純水200mLに投入し縣濁液とした。この懸濁液を撹拌しながら1.5%ニトロシル硝酸ルテニウム溶液(STREMCHEMICALS製)50gを滴下し1時間撹拌した。次にこの懸濁液をなすフラスコに移し80℃の水浴中で1時間撹拌した後に、ロータリーエバポレーターを用いて35℃で2時間、減圧乾燥した。得られた固体を110℃で12時間乾燥後500℃で5時間焼成後し、5wt%Ru/Al
2O
3粉末を得た。
【0050】
6.実施例1(ZSM5被覆ニッケル/アルミナ触媒(20%ZSM5/5wt%Ni/Al
2O
3)の調製)
比較例1cで調製した5wt%Ni/Al
2O
3触媒上に、以下の方法でZSM5ゼオライト層を形成した。テトラエトキシシラン(関東化学製)1.84ml、25%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム溶液(関東化学製)1.62g、エタノール(関東化学製)1.94ml、超純水8.99ml、硝酸アルミニウム九水和物(関東化学製)0.078gを100mlフッ素樹脂製内筒付オートクレーブに充填し、2h、55℃で撹拌した。その後、比較例1cで得られた5wt%Ni/α−Al
2O
3触媒4.0gを加えて密封し、180℃、24h水熱合成を行った。得られた個体を濾過、洗浄後、12h、120℃で乾燥を行い、ZSM5/5wt%Ni/Al
2O
3を得た。次に上記操作と同様にテトラエトキシシラン(関東化学製)1.84ml、25%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム溶液(関東化学製)1.63g、エタノール(関東化学製)1.94ml、超純水8.99ml、硝酸アルミニウム九水和物(関東化学製)0.078gを100mlフッ素樹脂製内筒付オートクレーブに入れ2h、55℃で撹拌し、上記で得たZSM5/5wt%Ni/Al
2O
3触媒粉末を加え密封し、180℃、24h水熱合成を行った。得られた個体を濾過、洗浄後、12h、120℃乾燥を行い、500℃、5h焼成し、20%ZSM5/5wt%Ni/Al
2O
3を得た。このとき、ZSM5の細孔の径は約0.5nmであり、Ni粒子の粒径は約10nmであった。
【0051】
7.実施例2(ZSM5被覆アルミナ担持ルテニウム触媒(20%ZSM5/5wt%Ru/Al
2O
3)の調製)
以下の方法でルテニウム担持アルミナ触媒上にZSM5ゼオライト層を形成した。テトラエトキシシラン(関東化学社製)1.84mL、25%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム溶液(関東化学社製)1.62g、エタノール(関東化学社製)1.94mL、超純水9.0mLを混合した。つぎにこの溶液に硝酸アルミニウム九水和物(関東化学社製)78.4mgを投入し55℃で2時間撹拌した。得られた溶液に5wt%Ru/Al
2O
3粉末4.0gを加え撹拌した後、フッ素樹脂製内筒付オートクレーブ中に密封し180℃で24時間水熱合成を行った。得られた固体を濾過洗浄し、120℃で12時間乾燥させ粉末を得た。得られた粉末を同様の手順で再度ZSM5被覆を行った。2度被覆操作を施した粉末を500℃で5時間焼成を行い、ZSM5被覆ルテニウムアルミナ触媒粉末(20%ZSM5/5wt%Ru/Al
2O
3)を得た。このとき、ZSM5の細孔の径は約0.5nmであり、Ru粒子の粒径は0.7nmより大きかった。
【0052】
8.実施例3(フェリエライト担持ニッケル触媒(5wt%Ni/FER−含浸法)の調製)
以下の方法でフェリエライト担持ニッケル触媒を調製した。フェリエライト粉末(東ソー製)14.25gを純水300mLに加えた懸濁液に、酢酸ニッケル四水和物3.18g(関東化学製)を純水21mlに溶解させた溶液をビュレットを用いて全量滴下し60分間撹拌した。その後、35℃(Niイオンとフェリエライトのカチオンのイオン交換が実質的に生じない程度の温度)の湯浴中でエバポレーターにかけ、水分を全て飛ばし、Ni塩をフェリエライトの外表面に析出させた。得られた粉末を、110℃で12時間乾燥させた後、500℃で4時間焼成し、Ni塩をNiOへと酸化し、金属換算でNi5wt%を担持したフェリエライト担持ニッケル触媒(5wt%Ni/FER−含浸法)を得た。このとき、フェリエライトの細孔の径は約0.5nmであり、Ni粒子の粒径は約7nmであった。
【0053】
9.実施例4(モルデナイト担持ニッケル触媒(5wt%Ni/MOR−含浸法)の調製)
以下の方法でモルデナイト担持ニッケル触媒を調製した。モルデナイト粉末(東ソー製)14.25gを純水300mLに加えた懸濁液に、酢酸ニッケル四水和物3.18g(関東化学製)を純水21mlに溶解させた溶液をビュレットを用いて全量滴下し60分間撹拌した。その後、35℃(Niイオンとモルデナイトのカチオンのイオン交換が実質的に生じない程度の温度)の湯浴中でエバポレーターにかけ、水分を全て飛ばし、Ni塩をモルデナイトの外表面に析出させた。得られた粉末を、110℃で12時間乾燥させた後、500℃で4時間焼成し、Ni塩をNiOへと酸化し、金属換算でNi5wt%を担持したモルデナイト担持ニッケル触媒(5wt%Ni/MOR−含浸法)を得た。このとき、モルデナイトの細孔の径は約0.5nmであり、Ni粒子の粒径は約7nmであった。ここで、比較例3ではモルデナイトのカチオンとNiイオンの交換が生じ、モルデナイトの細孔内にNiイオンが導入されたと推定されるため、還元処理後に生じるNi粒子の粒径の方がモルデナイトの細孔の径よりも小さくなっていた。これに対し、実施例4では、イオン交換が実質的に生じない温度(35℃)で蒸発乾固して水分を飛ばすことでニッケル塩を析出させているので、比較例3と比べて得られた触媒におけるNi粒子の粒径が大きくなったものと思われる。
【0054】
10.実施例5(ZSM5担持ニッケル触媒(5wt%Ni/ZSM5−含浸法)の調製)
以下の方法でZSM5担持ニッケル触媒を調製した。ZSM5粉末(東ソー製)14.25gを純水300mLに加えた懸濁液に、酢酸ニッケル四水和物3.18g(関東化学製)を純水21mlに溶解させた溶液をビュレットを用いて全量滴下し60分間撹拌した。その後、35℃(NiイオンとZSM5のカチオンのイオン交換が実質的に生じない程度の温度)の湯浴中でエバポレーターにかけ、水分を全て飛ばし、Ni塩をZSM5の外表面に析出させた。得られた粉末を、110℃で12時間乾燥させた後、500℃で4時間焼成し、Ni塩をNiOへと酸化し、金属換算でNi5wt%を担持したZSM5担持ニッケル触媒(5wt%Ni/ZSM5−含浸法)を得た。このとき、ZSM5の細孔の径は約0.5nmであり、Ni粒子の粒径は約7nmであった。
【0055】
11.実施例6(ベータ型ゼオライト担持ニッケル触媒(5wt%Ni/BEA−含浸法)の調製)
以下の方法でベータ型ゼオライト担持ニッケル触媒を調製した。ベータ型ゼオライト粉末(東ソー製)14.25gを純水300mLに加えた懸濁液に、酢酸ニッケル四水和物3.18g(関東化学製)を純水21mlに溶解させた溶液をビュレットを用いて全量滴下し60分間撹拌した。その後、35℃(Niイオンとベータ型ゼオライトのカチオンのイオン交換が実質的に生じない程度の温度)の湯浴中でエバポレーターにかけ、水分を全て飛ばし、Ni塩をベータ型ゼオライトの外表面に析出させた。得られた粉末を、110℃で12時間乾燥させた後、500℃で4時間焼成し、Ni塩をNiOへと酸化し、金属換算でNi5wt%を担持したベータ型ゼオライト担持ニッケル触媒(5wt%Ni/BEA−含浸法)を得た。このとき、ベータ型ゼオライトの細孔の径は約0.5nmであり、Ni粒子の粒径は約7nmであった。
【0056】
12.実施例7(Y型ゼオライト担持ニッケル触媒(5wt%Ni/Y−含浸法)の調製)
以下の方法でY型ゼオライト担持ニッケル触媒を調製した。Y型ゼオライト粉末(東ソー製)14.25gを純水300mLに加えた懸濁液に、酢酸ニッケル四水和物3.18g(関東化学製)を純水21mlに溶解させた溶液をビュレットを用いて全量滴下し60分間撹拌した。その後、35℃(NiイオンとY型ゼオライトのカチオンとのイオン交換が実質的に生じない程度の温度)の湯浴中でエバポレーターにかけ、水分を全て飛ばし、Ni塩をY型ゼオライトの外表面に析出させた。得られた粉末を、110℃で12時間乾燥させた後、500℃で4時間焼成し、Ni塩をNiOへと酸化し、金属換算でNi5wt%を担持したY型ゼオライト担持ニッケル触媒(5wt%Ni/Y−含浸法)を得た。このとき、Y型ゼオライトの細孔の径は約0.7nmであり、Ni粒子の粒径は約7nmであった。
【0057】
13.実施例8(シリカライト被覆アルミナ担持ニッケル触媒(20%SL/5wt%Ni/Al
2O
3)の調製)
比較例1cで調製した5wt%Ni/Al
2O
3触媒上に、以下の方法でシリカライト層を形成した。テトラエトキシシラン(関東化学製)2.2ml、25%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム溶液(関東化学製)2.0g、エタノール(関東化学製)2.3ml、超純水9.1mlを100mlフッ素樹脂製内筒付オートクレーブに充填し、30min、55℃で撹拌した。その後、比較例1cで得られた5wt%Ni/α−Al
2O
3触媒1.0gを加えて密封し、180℃、24h水熱合成を行った。得られた固体を濾過、洗浄後、12h、120℃で乾燥を行った後に、500℃、5h焼成し、シリカライト被覆アルミナ担持ニッケル触媒(20%SL/5wt%Ni/Al
2O
3)を得た。このとき、シリカライトの細孔の径は約0.5nmであり、Ni粒子の粒径は約7nmであった。
【0058】
14.実施例9(シリカライト被覆シリカライト担持ニッケル触媒(37%SL/5wt%Ni/SL)の調製)
テトラエトキシシラン(関東化学製)4.4ml、25%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム溶液(関東化学製)4.0g、エタノール(関東化学製)4.6ml、超純水18.0mlを100mlフッ素樹脂製内筒付オートクレーブに充填し、60min、55℃で撹拌した。その後密封し、180℃、24h水熱合成を行った。得られた固体を濾過、洗浄後、12h、120℃で乾燥を行った後に、500℃、5h焼成し、シリカライト粉末を得た。
次に、得られたシリカライト粉末2.85gを純水300mLに加えた懸濁液に、酢酸ニッケル四水和物0.63g(関東化学製)を純水20mlに溶解させた溶液をビュレットを用いて全量滴下し60分間撹拌した。その後、35℃の湯浴中でエバポレーターにかけ、水分を全て飛ばした。得られた粉末を、110℃で12時間乾燥させた後、500℃で4時間焼成し、Ni5wt%を担持したNi/SL粉末を得た。
次に得られた5wt%Ni/SL粉末上に、以下の方法でシリカライト層を形成した。テトラエトキシシラン(関東化学製)3.4ml、25%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム溶液(関東化学製)3.0g、エタノール(関東化学製)3.4ml、超純水13.6mlを100mlフッ素樹脂製内筒付オートクレーブに充填し、30min、55℃で撹拌した。その後、先に得られた5wt%Ni/SL触媒1.5gを加えて30min撹拌後密封し、180℃、24h水熱合成を行った。得られた固体を濾過、洗浄後、12h、120℃で乾燥を行った後に、500℃、5h焼成し、シリカライト被覆シリカライト担持ニッケル触媒(37%SL/5wt%Ni/SL)を得た。このとき、シリカライトの細孔の径は約0.5nmであり、Ni粒子の粒径は0.5nmより大きかった。
【0059】
15.実施例10(シリカライト多重被覆シリカライト担持ニッケル触媒(SL/Ni/SL/Ni/SL)の調製)
以下の方法でシリカライト多重被覆シリカライト担持ニッケル触媒を調製した。実施例9で得られた37wt%SL/5wt%Ni/SL粉末上に、以下の方法でNiを担持した。SL/5wt%Ni/SL粉末1.5gを純水300mLに加えた懸濁液に、酢酸ニッケル四水和物0.33g(関東化学製)を純水20mlに溶解させた溶液をビュレットを用いて全量滴下し60分間撹拌した。その後、35℃の湯浴中でエバポレーターにかけ、水分を全て飛ばした。得られた粉末を、110℃で12時間乾燥させた後、500℃で4時間焼成し、Ni5wt%を担持したSL/5wt%Ni/SL粉末を得た。
次に以下の方法でこのNi5wt%を担持したSL/5wt%Ni/SL粉末に、二層目のシリカライト被覆を行った。テトラエトキシシラン(関東化学製)3.4ml、25%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム溶液(関東化学製)3.0g、エタノール(関東化学製)3.4ml、超純水13.6mlを100mlフッ素樹脂製内筒付オートクレーブに充填し、30min、55℃で撹拌した。その後、先に得られたNi/SL/Ni/SL粉末1.5gを加えて30min撹拌後密封し、180℃、24h水熱合成を行った。得られた固体を濾過、洗浄後、12h、120℃で乾燥を行った後に、500℃、5h焼成し、シリカライト多重被覆シリカライト担持ニッケル触媒(SL/Ni/SL/Ni/SL)を得た。このとき、シリカライトの細孔の径は約0.5nmであり、Ni粒子の粒径は0.5nmより大きかった。
【0060】
16.実施例11(チタン含有ゼオライト被覆アルミナ担持ニッケル触媒(TS/5wt%Ni/Al
2O
3)の調製)
以下の方法でチタン含有ゼオライト被覆アルミナ担持ニッケル触媒を調製した。製造例1で得られた5wt%Ni/Al
2O
3粉末上に、以下の方法でチタン含有ゼオライト被覆層を形成した。テトラエトキシシラン(関東化学製)4g、チタンイソプロポキシド(関東化学製)0.13g、25%水酸化テトラ−n−プロピルアンモニウム溶液(関東化学製)7gを混合し、25℃で1時間撹拌し均一な溶液を得た。次に、この溶液を撹拌しながら80℃で30min加熱した後25℃に冷却し、超純水5.5mLを添加しわずかに白濁した溶液を得た。この溶液全量と、比較例1cで得られた5wt%Ni/Al
2O
3粉末2.0gを、フッ素樹脂製内筒付オートクレーブに充填し、30min、25℃で撹拌後密封し、180℃、24h水熱合成を行った。得られた固体を濾過、洗浄後、6h、110℃で乾燥を行った後に、550℃、6h焼成し、チタン含有ゼオライト被覆アルミナ担持ニッケル触媒(TS/5wt%Ni/Al
2O
3)を得た。このとき、チタン含有ゼオライトの細孔の径は約0.5nmであり、Ni粒子の粒径は0.5nmより大きかった。
【0061】
<電子顕微鏡観察>
上記製造例で調製した触媒の電子顕微鏡観察を行った。触媒の電子顕微鏡観察の手順を以下に説明する。比較例1d,2,4及び実施例1、実施例3〜実施例7、実施例9、実施例10で得られた触媒粉末を石英ガラス製反応管に充填し、水素500mL/min流通下500℃まで昇温し同温度で1時間保持した後に、流通ガスを窒素500mL/minに切り替え、窒素流通下で室温まで冷却した。その後0.5%酸素/窒素バランスガス100mL/minを12時間流通し触媒粉末の不動態化を行った。この操作は還元された担持金属触媒を空気中に曝露した際に急激に酸化されることを防ぐための操作である。得られた粉末を微量エタノール中に分散し、その分散液を透過型電子顕微鏡観察用マイクログリッド貼付銅メッシュ(日新EM製)にスポイトを用いて滴下し室温で乾燥した。この試料を乾固したマイクログリッド貼付メッシュを、透過型電子顕微鏡観察用ホルダーに固定し、透過型電子顕微鏡(H−9500、日立ハイテクノロジーズ)を用いて電子顕微鏡観察を行った。
【0062】
図7は実際の電子顕微鏡像であり、
図7(a)は比較例1dで得られたNi/Al
2O
3、
図7(b)は比較例4で得られた10wt%Ni/MS、
図7(c)は比較例2で得られた5wt%Ni/X、
図7(d)は実施例1で得られた20%ZSM5/5wt%Ni/Al
2O
3を示す。
図7(a)に示されるように、Ni/Al
2O
3では約10nmのNi粒子がAl
2O
3担体上に担持されていることがわかる。
図7(b)に示されるように、Ni/MSでは3nm以下のNi粒子が担体の直径約3nmのメソ孔(直径2〜50nmの細孔)中に存在していることがわかる。
図7(c)に示されるように、Ni/Xでは明確なNi粒子は観測されず、Ni粒子の粒径は直径約0.6nmのゼオライトのミクロ孔(直径2nm以下の細孔)以下となっているものと考えられる。
図7(d)に示されるように、ZSM5/Ni/Al
2O
3では
図7(a)のNi/Al
2O
3の表面が約10nmのゼオライト被覆層で覆われていることがわかる。
【0063】
また、
図7(e)〜(h)は実施例9で得られた37%SL/5wt%Ni/SLの電子顕微鏡像であり、
図7(e)は二次元電子像、
図7(f)はZコントラスト像(透過像)、
図7(g)はTEM像、
図7(h)は全体像である。
図7(e)〜(g)より、下地(担体)のシリカライト上に被覆層としてのシリカライト層が形成されていることがわかる。なお、
図7(f)の白い箇所はNi粒子を表す。
【0064】
図8は、実施例9で得られた37%SL/5wt%Ni/SLの電子顕微鏡像であり、
図8(a)は略8角形構造の平面図(右)及び側面図(左)、
図8(b)は
図8(a)の点線領域の拡大図、
図8(c)は
図8(b)の点線領域の拡大図である。この被覆層は、下地のシリカライト単結晶の結晶構造を反映したエピタキシャル成長をしており、被覆層全体が単結晶に近い構造を有している。なお、白い部分はミクロ孔を表し、
図8(c)の点線は被覆層と下地(担体)のシリカライト層の界面を表す線である。
【0065】
図9は、実施例10で得られたSL/Ni/SL/Ni/SLの電子顕微鏡像である。シリカライト単結晶を担体として、Ni粒子の担持とシリカライト被覆を繰り返し行なった結果、エピタキシャル成長したシリカライト単被覆層を繰り返して形成することに成功した。
【0066】
図10(a)は、実施例9で得られた37%SL/5wt%Ni/SLの電子顕微鏡像であり、
図10(b)は、実施例10で得られたSL/Ni/SL/Ni/SLの電子顕微鏡像である。
図10(a)に示されるように、エピタキシャル成長した被覆層が黒い線となって観察された。このように、エピタキシャル成長した被覆層により、アンモニアガスの拡散性が向上するとともに、担体、被覆層のいずれにも存在する細孔により、細孔を有さないアンモニア分解触媒と比較してアンモニアの分解速度が向上することが予想される。また、
図10(b)に示されるように、シリカライト被覆層の1層目及び2層目が形成されていることが観察された。
【0067】
図11は実施例3〜実施例7で得られた各種ゼオライト担持Ni触媒の電子顕微鏡像であり、(a)は実施例3で得られた5wt%Ni/FER(含浸法)、(b)は実施例4で得られた5wt%Ni/MOR(含浸法)、(c)は実施例5で得られた5wt%Ni/ZSM5(含浸法)、(d)は実施例6で得られた5wt%Ni/BEA(含浸法)、(e)は実施例7で得られた5wt%Ni/Y(含浸法)を表す。Ni粒子の粒径及び各種担体の細孔径(縦×横)は以下の通りである。
(a)実施例3:Ni/FER
Ni粒子の粒径:10nm
担体の細孔径:0.56×0.53nm
(b)実施例4:Ni/MOR
Ni粒子の粒径:19nm
担体の細孔径:0.70×0.65nm
(c)実施例5:Ni/ZSM5
Ni粒子の粒径:13nm
担体の細孔径:0.74×0.74nm
(d)実施例6:Ni/BEA
Ni粒子の粒径:13nm
担体の細孔径:0.55×0.55nm
(e)実施例7:Ni/Y
Ni粒子の粒径:15nm
担体の細孔径:0.54×0.42nm
このように、いずれの触媒においても金属粒子の粒径が担体の細孔の径よりも大きくなっている。
【0068】
<TOFの計算>
次に、比較例1,2及び実施例1で得られた触媒について、以下の式で表されるアンモニア分解反応速度(TOF:ターンオーバー頻度)を求めた。
(数3)TOF(s
−1)=アンモニア分解速度(mol/s・g)/水素吸着量(mol/g)
式中の水素吸着量につては、以下の実験により求めた。
【0069】
<水素吸着量測定試験>
水素吸着量測定試験における測定条件及び手順は、以下の通りである。まず、水素吸着量測定試験に先立ち触媒試料の水素還元処理を行った。これは、酸化物担体に担持されたNi酸化物を還元し金属状態とするためである。触媒を石英硝子製試料管に0.1g充填し、容量法吸着量測定装置(ベルソープマックス、日本ベル製)に取付け超高真空排気した後、100mL/minの水素流通下、10℃/minで500℃まで昇温し同温で60分温度保持した。還元処理終了後、真空排気しながら50℃まで降温し、50℃において水素吸着等温線を測定した。
【0070】
得られた測定結果及び予め測定しておいたアンモニア分解速度より、それぞれの触媒について求めた400℃、15%NH
3におけるTOFの結果を表2に示す。表2に示すように、Ni/Al
2O
3よりもNi/Xの方がTOFが大きい。このような結果が得られたのは、Ni/Xでは、Ni粒子がX型ゼオライトの細孔内に担持されており、アンモニア分子のX型ゼオライト担体からNi粒子への供給速度が増大したことが要因であると考えられる。この結果は、X型ゼオライトによるアンモニア吸着能を示していると言える。
【0072】
また、Ni/XよりもZSM5/Ni/Al
2O
3の方がTOFが高くなっている。このような結果が得られた要因としては、(1)ZSM5/Ni/Al
2O
3では、Ni粒子径がZSM5の細孔径よりも大きくなっていることと、(2)Ni/Al
2O
3からなる担持金属触媒の表面がZSM5ゼオライトからなる被覆層で覆われていることが考えられる。(1)については、上述したように、Ni粒子径は触媒活性と強く相関しており、Ni/XではNi粒子径が小さすぎて触媒活性が適切に発揮されなかったのに対し、ZSM5/Ni/Al
2O
3ではNi粒子径がより最適化されたために、より高いTOFが達成されたと考えられる。(2)については、担持金属触媒の表面を被覆層で覆うことによってアンモニア分子の担体から金属粒子への供給速度がさらに増大し、より高いTOFが達成されたと考えられる。
【0073】
<Ni粒子の粒径とTOF>
次に、Ni粒子の粒径とTOFについての実験結果を表3に示す。実験では、比較例1で得られたNi濃度が異なる4種類の触媒を用いた。Ni濃度が低くなるほどNi粒子の粒径が小さくなっている。ここで、Ni濃度が0.5wt%のときと1wt%のときとでは0.5wt%の方がNi粒子の粒径が大きくなっているが、これは測定上の誤差と思われる。
【0075】
Ni粒子の粒径とTOFには負の相関関係が存在し、Ni粒子の粒径が小さくなればTOFが大きくなっている。この実験結果は
図2の結果を支持しており、逆ミセル法やコロイド法等を用いたNi担持法の改良によるNi粒径の最適化により、TOFの向上に寄与することを示す結果である。なお、
図2の結果より、Ni粒子の粒径はなるべく2.3nmに近い方が望ましい。
【0076】
<アンモニア及び窒素の放出量について>
次に、比較例1d,2,3及び4で得られた触媒について、アンモニア及び窒素の放出量とTOFの関係について説明する。
【0077】
<アンモニア昇温脱離試験>
比較例1d,2,3及び4で得られた触媒について、アンモニア昇温脱離試験を行った。アンモニア昇温脱離試験の測定条件と手順は以下の通りである。まず、アンモニア昇温脱離試験に先立ち触媒試料の水素還元処理を行った。これは、酸化物担体に担持されたNi酸化物を還元し金属状態とするためである。触媒を石英硝子製試料管に0.1g充填し、昇温脱離測定装置(ベルキャット、日本ベル製)に取付け100mL/minの水素流通下、10℃/minで500℃まで昇温し同温で60分温度保持した。還元処理終了後、He100mL/min流通下50℃まで降温し、0.1%NH
3/Heバランスガスを30min流通しアンモニア吸着を行った後、同温で30min、He100mL/min流通下パージを行った。次にHe100mL/min流通下、10℃/minで700℃まで昇温し出口ガスを四重極質量分析器で測定しアンモニアと窒素の放出量の合計の温度変化を表す放出曲線を得た。得られた放出曲線を積分することによってアンモニアと窒素の放出量の合計を求めた。得られた放出曲線を
図12に示す。
【0078】
図12に示されるように、比較例1dで得られたNi/Al
2O
3はアンモニア放出及び窒素放出をほとんど示さなかった。これに対して、比較例2で得られたNi/X、比較例3で得られたNi/MOR及び比較例4で得られたNi/MSは大きなアンモニア放出及び窒素放出を示した。比較例4で得られたNi/MSは100℃を極大値とした放出曲線を示した。この結果より、メソ孔を有することでより大きなアンモニア放出及び窒素放出を示すが、100℃程度でアンモニアが脱離することから、このアンモニアは単なる物理吸着物にすぎず、メソ孔ではアンモニアを十分に安定化して吸着させることができなかったと推定される。これに対し、ミクロ孔を有する比較例2で得られたNi/X及び比較例3で得られたNi/MORでは100℃から600℃の高温域にわたってアンモニア放出及び窒素放出を示した。これは、ミクロ孔内のアンモニアには十分な吸着力が働いていたためであると推定される。なお、本放出曲線において、低温側ではアンモニア放出が優位であり、高温側では窒素放出が優位である。
【0079】
ここで、本発明に係るアンモニア分解触媒の目標分解温度域である400℃近傍(400℃±10℃)における放出曲線を積分することで400℃近傍におけるアンモニアと窒素の放出量の合計を求め、これと各触媒のTOFをまとめた結果を表4に示す。
【0081】
表4に示されるように、比較例1dで得られた細孔を有さないNi/Al
2O
3と比較して、比較例4で得られたメソ孔を有するNi/MSはアンモニアと窒素の放出量の合計が約5.7倍となったものの、TOFは約0.5倍と低下している。一方、比較例2及び3で得られたミクロ孔を有するNi/X及びNi/MORでは、比較例1dで得られた細孔を有さないNi/Al
2O
3と比較してアンモニアと窒素の放出量の合計がそれぞれ約13倍と約11倍となり、TOFについても約2.1倍と明らかな有意差がみられた。このことから、メソ孔では孔の大きさが大きすぎ、メソ孔内のアンモニア分子の吸着量を十分に高めることができないため、メソ孔がない場合と比較してあまり効果はないものと思われる。一方、メソ孔よりも小さなミクロ孔では、ミクロ孔内に生じるファンデルワールス力が互いに重なりあい、これによりアンモニアを強くトラップし、Ni粒子へのアンモニア供給速度を増大させることが可能となるので、TOFが劇的に大きくなったものと考えられる。
【0082】
また、表4に示されるように、触媒の400℃±10℃の温度範囲におけるアンモニアと窒素の放出量の合計と、同温度域におけるアンモニア分解活性の間には正の相関関係があり、アンモニア分解温度域におけるアンモニアと窒素の放出量の合計が多いほどアンモニア分解速度が大きくなることがわかる。ただし、この相関はミクロ孔を有するゼオライト担持Ni触媒(Ni/X及びNi/MOR)には見られるが、メソ孔を有するメソポーラスシリカ担持Ni触媒(Ni/MS)にはあてはまらないことから、メソ孔に比べてミクロ孔の方がアンモニア分解のTOF向上に寄与していることを強く示唆している。
【0083】
<アンモニア放出量及び窒素放出量並びにTOFとの関係>
次に、実施例3〜7で得られた触媒について、前述のアンモニア昇温脱離試験を実施し、室温〜600℃までの積算値として求めたアンモニアの放出量及び窒素の放出量と、別の実験で触媒温度を400℃としてアンモニア分解することで求めたTOFとの関係について考察した。
図13にその結果を示す。
図13(a)は実施例3で得られた5wt%Ni/FER(含浸法)(図中のFER)、実施例4で得られた5wt%Ni/MOR(含浸法)(図中のMOR)、実施例5で得られた5wt%Ni/ZSM5(含浸法)(図中のZSM5)、実施例6で得られた5wt%Ni/BEA(含浸法)(図中のBEA)、実施例7で得られた5wt%Ni/Y(含浸法)(図中のY)のアンモニアの放出量を、図(b)はそれらの窒素の放出量を、図(c)は図(b)で求めた窒素の放出量を室温〜600℃までの積算値として積分した値とTOFとの関係について5種の触媒毎にプロットした図である。
【0084】
図13(c)の結果より、各種ゼオライト担持Ni触媒のアンモニア昇温離脱中における窒素の放出量とTOFとの間に正の相関関係があることが明らかとなった。これにより、アンモニア昇温脱離中における窒素の放出量を測定することで、実際にTOFを測定することなくTOFを予測することが可能となり、分解活性評価試験に必要な触媒量と比較して10分の1以下の触媒量で迅速な評価が可能となった。なお、アンモニアの放出量についてもTOFとの間に正の相関関係が見られたが、窒素の方がより大きな相関関係が見られたので、窒素の排出量を採用した。
【0085】
<各種触媒の窒素放出量のゼオライト被覆による変化>
上記で得られた知見に基いて、本発明者らは比較例1cで得られた5wt%Ni/Al
2O
3とそれをゼオライトで被覆した触媒である実施例1で得られたZSM5/5wt%Ni/Al
2O
3及び実施例11で得られたTS/5wt%Ni/Al
2O
3並びに比較例5で得られた5wt%Ru/Al
2O
3とそれをゼオライトで被覆した触媒である実施例2で得られたZSM5/5wt%Ru/Al
2O
3につき、それぞれアンモニア昇温離脱中におけるアンモニア及び窒素の放出量を測定した。結果を
図14に示す。
図14(a)は比較例1cで得られた5wt%Ni/Al
2O
3、
図14(b)は実施例1で得られたZSM5/5wt%Ni/Al
2O
3、
図14(c)は実施例11で得られたTS/5wt%Ni/Al
2O
3、
図14(d)は比較例5で得られた5wt%Ru/Al
2O
3、
図14(e)は実施例2で得られたZSM5/5wt%Ru/Al
2O
3についての結果である。なお、これらの図は
図13(a)と
図13(b)を合成したものに相当する。
【0086】
そして、これらについて
図13(c)と同様に室温〜600℃までの積算値として積分した値をまとめたものが表5である。なお、実施例8で得られたSL/5wt%Ni/Al
2O
3についても
図14と同様のグラフを求めて積分値を算出した。
【0088】
比較例1cで得られたNi/Al
2O
3をNi粒子の粒径より小さな径の細孔を有する各種ゼオライトで被覆することで、窒素の放出量は実施例1(ZSM5で被覆)において約2倍、実施例8(シリカライトで被覆)において約5.5倍、実施例11(チタン含有ゼオライトで被覆)において約1.6倍となった。また、比較例5で得られた5wt%Ru/Al
2O
3をRu粒子の粒径より小さな径の細孔を有するゼオライトで被覆することで、窒素の放出量は実施例2(ZSM5で被覆)において約5.5倍まで高まった。
【0089】
これらの結果より、各種担持金属を金属粒子の粒径より小さな径の細孔を有する各種ゼオライトで被覆することによりアンモニア昇温脱離中における窒素の放出量が増大し、
図13(c)の相関関係により、TOFが大きくなることが予想される。
【0090】
<本実施形態に係るアンモニア分解触媒を利用したアンモニア分解に要する温度について>
ここで、本実施形態に係るアンモニア分解触媒を利用したアンモニア分解に要する温度について説明する。例えば、アンモニアの分解転化率が90%以上となることを目標とする。比較例1cで得られる通常のNi/Al
2O
3では、常圧でアンモニア分解反応を行った場合、既存の分解反応のみでアンモニアの分解転化率を90%以上とするためには、熱力学的に600℃前後の分解温度が必要であった。
【0091】
一方、本実施形態のようにゼオライト被覆層を有し、金属粒子の粒径も最適化(2.3nm近傍)した場合、粒径の最適化によってTOFが約12倍に向上すると同時に金属分散度の向上によって金属表面積が約5倍に増加することから、触媒の重量当たりの活性は約12倍×約5倍=約60倍に増加する。さらにゼオライト被覆層を形成することにより、ミクロ孔内におけるアンモニア吸着量を細孔外表面よりも高め、アンモニア分子の担体から金属粒子への供給速度を増大させることで、活性はさらに約10倍に増加したとする。すなわち、比較例1cで得られる通常のNi/Al
2O
3触媒の約600倍の活性向上効果が得られることとなる。
【0092】
次に、Ni/Al
2O
3触媒上のNH
3分解転化率が90%に達する温度(現在は600℃)が、この600倍の活性向上によって何度まで下がるか見積もることとする。基準としたNi/Al
2O
3におけるアンモニア分解反応の転化率(X)のアレニウスプロットを
図15に示す。拡散の効果が無視できる温度域の直線を低温に外挿すると、90%転化率の時の分解速度の600分の1、すなわち転化率0.2%となる温度は295℃である。つまりこれは、物質拡散と化学平衡を考慮しない場合、Ni/Al
2O
3触媒の活性と比べ、本実施形態に係るアンモニア分解触媒の活性が粒径最適化とミクロ孔を有する多孔質材料での被覆によって600倍に増加すれば、試算上では295℃でアンモニア分解転化率が90%に達することを意味している。このように、アンモニア分解反応に要する温度を低下させることは必要な熱量を低下させることであり、これは安全性やコストの面からみても望ましい結果である。
【0093】
<まとめ>
最後に、本発明者らが実施した実験についてまとめる。
1.表2に示されるように、Ni/Al
2O
3(比較例1c)をNi粒子の粒径よりも小さな径の細孔を有するゼオライトZSM5で被覆(実施例1)することで、TOFが1.75倍まで向上した。
2.表5に示されるように、Ni/Al
2O
3(比較例1c)にNi粒子の粒径よりも小さな径の細孔を有する多孔質材料ゼオライトであるZSM5(実施例1)、シリカライト(実施例8)及びチタン含有ゼオライト(実施例11)で被覆層を形成することでTOFが向上した。また、Ru/Al
2O
3(比較例5)をRu粒子の粒径よりも小さな径の細孔を有するゼオライトZSM5(実施例2)で被覆層を形成することでTOFが向上した。
3.
図13(c)に示されるように、Ni/Al
2O
3(比較例1c)の担体をNi粒子の粒径よりも小さな径の細孔を有する種々のゼオライトとすることで、アンモニア昇温離脱中における窒素の放出量が増加した。これは、窒素の放出量とTOFは正の相関関係を有することより、これらにおいてもTOFが向上するものと推定される。
【0094】
これらの結果より、金属粒子の粒径より小さな径の細孔を有する多孔質材料を被覆層として用いることでTOFが向上し、アンモニア分解速度を飛躍的に向上させることがわかった。また、比較例同士ではあるが、表2及び表4より、単に多孔質材料を担体として用いることでも細孔内におけるアンモニア吸着量を細孔外表面よりも高めることでTOFが向上することが確認された。このとき、表4より、メソ孔よりもミクロ孔の方がより効果が顕著であった。
【0095】
なお、本明細書中における材料は単なる例示であり、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。例えば、多孔質材料として、ゼオライト以外にも粘土を用いることができる。また、活性金属粒子として、Ni,Ru以外にもOs(オスミウム)を用いることができる。また、これらの細孔を有する多孔質材料を担体若しくは被覆層又は担体及び被覆層として用いることで、TOFの向上を実現することができるものと推定される。
【0096】
今回の実験では実際に2.3nmのNi粒子を準備できなかったが、例えばポリビニルピロリドン(PVP)を用いたポリオール法や逆ミセル法で2.3nm程度のNi粒子を作成することができる。そして、このようにして最適化された粒径の金属粒子と、今回の実験で明らかになった多孔質による効果をあわせることで、さらにTOFを向上させることが可能になると確信している。