特許第6604515号(P6604515)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604515
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】樹脂被覆銅線から銅を回収する方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 5/00 20060101AFI20191031BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   B09B5/00 ZZAB
   B09B3/00 303Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-38092(P2016-38092)
(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公開番号】特開2017-154057(P2017-154057A)
(43)【公開日】2017年9月7日
【審査請求日】2018年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】畠山 耕
(72)【発明者】
【氏名】川崎 始
(72)【発明者】
【氏名】大和田 勇夫
【審査官】 柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−069137(JP,A)
【文献】 特開2000−306444(JP,A)
【文献】 特開2014−029817(JP,A)
【文献】 特開平11−188335(JP,A)
【文献】 特開平06−226242(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/004801(WO,A1)
【文献】 特開昭54−125487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂被覆銅線を、空気雰囲気下、250℃〜380℃で20分〜1時間加熱処理することによって、銅線表面に酸化銅被膜を生成させずに樹脂被覆を熱変性させ、熱変性した樹脂被覆に機械的圧力を加えて亀裂を生じさせて銅線から剥離させることによって樹脂被覆を除去した銅線を回収することを特徴とする銅の回収方法。
【請求項2】
加熱処理した樹脂被覆銅線を打撃、プレス、せん断、衝撃、または振動を与えて熱変性した樹脂被覆を機械的に剥離させる請求項1に記載する銅の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電製品、産業用電気機器などに使用されている樹脂被覆銅線から銅を効率よく回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品、産業用電気機器などには樹脂で被覆された銅線(樹脂被覆銅線と云う)が多く使用されている。一般に樹脂被覆銅線に用いられている銅材は純度99.9%以上の銅であるが、現状では、樹脂被覆銅線から回収された銅材の純度は98%程度として取り扱われており、大部分が銅製錬の原料としてリサイクルされている。回収された銅の品位が低いのは、被覆材の樹脂、樹脂中のフィラー材、絶縁物、素子類、はんだ等が不純物として含まれているためである。また、従来は、樹脂被覆銅線から銅線を回収するため加熱処理する際に樹脂の熱分解によって油煙が生じ、作業環境を損なっている。
【0003】
樹脂被覆や不純物を十分に取り除き、素材の品位に近い銅線を回収することができれば、被覆銅線から回収した銅線を高品位の銅として再利用することができ、例えば、伸銅品原料、または他の銅製品原料として再利用することができるので、高品位銅の原料調達や製造コストの低減を図るうえで好ましい。
【0004】
樹脂被覆銅線から樹脂被覆を除去して銅線を回収する方法として、従来、以下の処理方法が知られている。
(イ) 樹脂被覆を有する廃銅線を加熱炉に入れ、300〜450℃の温度で、非酸化性雰囲気下で乾留処理し、塩化水素ガスを含む排ガスを排出し、炭素を含む残渣が付着した銅線を未溶融状態で回収し、振動、分篩、破砕の各工程を経て銅線に付着した残渣を除去し、樹脂被覆を取り除いた銅線を回収する(特許文献1)。
(ロ) 樹脂被覆銅線を、無酸素ないし低酸素雰囲気下で、電気ヒータとマイクロ波照射、さらに過熱水蒸気による加熱手段によって熱分解し、この熱分解には一段または二段以上の熱分解室を有する連続乾留装置を用い、この熱分解によって樹脂被覆が分解されてその残渣と銅線が分離され、分離した銅線を酸洗浄して回収する(特許文献2)。
(ハ) 樹脂被覆銅線を加熱処理して樹脂被覆を炭化し、この炭化物と銅線を分別し、分別された銅線を酸洗浄して銅を回収する方法であり、加熱処理において、熱風、電磁誘導加熱または過熱水蒸気によって500〜800℃に加熱し、炭化した樹脂と銅を、振動または機械的外力または洗浄によって分離する(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−188335号公報
【特許文献2】特開2014−029817号公報
【特許文献3】特開2014−069137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(イ)の方法は、非酸化性雰囲気を形成するために不活性ガスを使用し、または真空を維持する必要があるためコスト高になる。さらに、銅線に付着した残渣に含まれる炭素量が多いため、回収した銅を溶解するとき油煙が発生すると云う問題がある。上記(ロ)の方法は、表面が金属光沢をもつ銅線が得られるが、加熱方法が複雑であるため設備コストが高くになり、また酸処理するために排水処理の負担が大きい。上記(ハ)の方法は、加熱温度が高いので加熱コストが高くなる。さらに上記(ロ)および上記(ハ)の何れの方法も酸洗浄を行うので排水処理のコストも高くなると云う問題がある。
【0007】
本発明は、樹脂被覆銅線から銅線を回収する従来の方法における上記問題を解決したものであり、酸洗浄を必要とせず、樹脂被覆を効率よく銅線から剥離して、不純物の少ない銅を低コストで回収することができる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の構成からなる銅回収方法を提供する。
〔1〕樹脂被覆銅線を、空気雰囲気下、250℃〜380℃で20分〜1時間加熱処理することによって、銅線表面に酸化銅被膜を生成させずに樹脂被覆を熱変性させ、熱変性した樹脂被覆に機械的圧力を加えて亀裂を生じさせて銅線から剥離させることによって樹脂被覆を除去した銅線を回収することを特徴とする銅の回収方法。
〔2〕加熱処理した樹脂被覆銅線を打撃、プレス、せん断、衝撃、または振動を与えて熱変性した樹脂被覆を機械的に剥離させる上記[1]に記載する銅の回収方法。
【0009】
〔具体的な説明〕
本発明は、樹脂被覆銅線を、空気雰囲気下、250℃〜380℃で20分〜1時間加熱処理することによって、銅線表面に酸化銅被膜を生成させずに樹脂被覆を熱変性させ、熱変性した樹脂被覆に機械的圧力を加えて亀裂を生じさせて銅線から剥離させることによって樹脂被覆を除去した銅線を回収することを特徴とする銅の回収方法である。
【0010】
本発明において処理する樹脂被覆銅線は、樹脂で被覆された銅線であり、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂などの絶縁性樹脂によって被覆された銅線である。これらの樹脂被覆銅線はモーターや発電機や変圧器に多く使われるので一般にマグネットワイヤーと称されており、エナメル線としても知られている。本発明の方法は、これらの樹脂被覆銅線に広く適用することができる。また、本発明の回収方法は、樹脂被覆銅線の単体に限らず、樹脂被覆銅線がコイルに巻かれた状態の破砕片やコイルを粉砕して得られる粉砕片などについても処理することができる。
【0011】
本発明の銅回収方法は、樹脂被覆銅線を、空気雰囲気下、樹脂被覆が熱変性すると共に銅線表面の酸化銅被膜を生成しない温度条件下で加熱処理する。樹脂被覆が熱変性すると共に銅線表面の酸化銅被膜を生成しない温度条件下の加熱処理は、例えば、250℃〜380℃で20分〜1時間、好ましくは250℃〜300℃で30分〜1時間の加熱処理である。空気雰囲気下、上記加熱処理によって被覆樹脂を熱変性させる。この熱変性は樹脂が熱分解して脱酸素が始まり、FT‐IRスペクトル測定ではC−O結合、C−O−C結合、C=O結合のピークが消失または減少してカーボンのピークが生じる変化であり、熱処理した被覆樹脂は脆いので折り曲げや衝撃などによって容易に剥離することができる。
【0012】
加熱温度が250℃未満では有機物の上記熱変性が不十分であり、加熱処理した樹脂被覆をうまく剥離することができない。一方、380℃を超えると、樹脂被覆下側の銅線まで酸化され、銅線表面に酸化銅の被膜が生じる。この酸化銅のために銅回収の歩留まりが低下する。
【0013】
本発明の銅回収方法の加熱処理工程は、樹脂被覆銅線を、空気雰囲気下で加熱処理して樹脂被覆を熱変性させる工程であり、非酸化性雰囲気で樹脂被覆を炭化させる処理方法とは異なる。加熱条件は樹脂を熱変性させる程度であり、具体的な加熱温度と加熱時間は、上記範囲内で、樹脂の種類に応じて設定すればよい。例えば、樹脂被覆銅線に多く用いられているポリエステル樹脂またはポリウレタン樹脂は、空気雰囲気下、250℃〜300℃で20分〜1時間加熱処理することによって熱変性させることができる。
【0014】
上記加熱処理によって、樹脂被覆が熱変性し、一方、銅線表面は殆ど酸化されないので酸化銅被膜の生成を避けることでき、あるいは銅線表面の酸化は極く僅かであるので、酸化銅被膜を生成せず、酸化銅を殆ど含まない銅線を回収することができる。また、上記加熱処理によれば、加熱温度が低いため樹脂被覆は燃焼しないので、樹脂に含まれる有機成分やバインダー成分は樹脂に取り込まれた状態のままであり、熱変性した樹脂被覆を除去することによって、有機成分やバインダー成分を樹脂被覆と共に除去することができる。さらに、樹脂の燃焼による環境悪化も生じない。
【0015】
上記加熱処理後に、熱変性した樹脂被覆に機械的圧力を加えて亀裂を生じさせ、銅線から剥離させることによって樹脂被覆を除去した銅線を回収する。機械的圧力は、例えば、加熱処理した樹脂被覆銅線を折り曲げ、あるいは打撃、プレス、振動などの衝撃を与えれば良い。熱変性した樹脂被覆は上記機械的圧力によって亀裂が生じ、容易に銅線から剥離する。具体的には、加熱処理した樹脂被覆銅線を、例えば、油圧式、空気圧式あるいはギロチン式のせん断機や一軸あるいは二軸せん断式破砕機、衝撃破砕機に入れて樹脂被覆を剥離し、エアテーブルや振動篩などの篩分けにより剥離した樹脂被覆と銅線を分離すればよく、樹脂被覆が機械的に除去された銅線を容易に回収することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の処理方法によれば、樹脂被覆が剥離された、有機成分やバインダー成分などの不純物を殆ど含まない高品位の純銅を容易に回収することができる。また、回収した銅線には炭素が殆ど在留していないので、銅の溶解時に油煙は発生しない。
本発明の処理方法は、従来の方法よりも低温度で処理するので加熱コストを低減することができる。また、空気雰囲気下で処理するので、特殊な雰囲気(無酸素状態、例えば、窒素雰囲気、真空雰囲気など)にする必要がなく、ランニングコストおよび設備コストを低減することができる。さらに、銅線表面に酸化銅被膜が殆ど生じないので、銅回収の歩留まりが高い。また、加熱処理した樹脂被覆を容易に剥離することができ、回収した銅線を酸洗浄する必要が無いので、排水処理などの後処理が不要であり、処理コストを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
各例において、回収した銅線に残留する炭素は、炭素・硫黄同時分析装置(LECO製CSLS-600)を用いて燃焼−赤外線吸収法によって定量した。水素は、水素分析装置(LECO製RHEN-602)を用いて不活性ガス融解−熱伝導度法によって定量した。酸素は、窒素・酸素同時分析装置(LECO製TCEN-600)を用いて不活性ガス融解−赤外線吸収法によって定量した。銅の純度は電解重量法によって定量した。
加熱処理した樹脂被覆のFT‐IRスペクトルを測定して熱変性の状況を調べた。該スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(Thermo Scientific Nicolet6700FT-IR)によって測定した。
【0018】
実施例および比較例で使用した樹脂被覆銅線Iはテレビ用であり、樹脂被覆銅線IIはコイルから引き抜いた銅線である。樹脂被覆銅線Iの被覆樹脂はポリウレタン樹脂、樹脂被覆銅線IIの被覆樹脂はポリエステル樹脂である。
なお、空気雰囲気下、250℃〜380℃で20分〜1時間加熱する本発明の処理方法は、ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂に限らず、C−O結合、C−O−C結合、C=O結合を有する他の多くの樹脂についても適用することができる。
【実施例】
【0019】
〔実施例1〕
表1に示す成分分析値の樹脂被覆銅線Iを以下のように加熱処理した。
該樹脂被覆銅線I(250g)を電気炉に入れ、温度250℃、空気流量1L/分の条件で、1時間加熱処理した。加熱後に炉内を室温まで冷却して上記樹脂被覆銅線Iを取り出し、手で折り曲げて熱変性した樹脂被覆を取り除いた。回収した銅線について、炭素、水素、酸素の残留量を測定した。この結果を表2に示す。
表2に示すように、炭素量は400ppm、水素量は30ppmであり、有機物は殆ど除去されている。また、銅線表面は金属光沢の銅色であった。銅回収歩留まりは100%であり、銅の純度は99.9%であった。なお、加熱処理前後に樹脂被覆のFT‐IRスペクトルを測定し、熱変性の状況を調べたところ、C−O結合に帰属する1070cm−1のピーク及びC−O−C結合に帰属する1220cm−1のピークが消失し、C=O結合に帰属する1715cm−1のピークが減少しており、脱酸素によって熱分解が進んでいることを確認した。
【0020】
〔実施例2〕
加熱時間を20分に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂被覆銅線Iを加熱処理した。この結果を表2に示す。表2に示すように、回収した銅線に残留する炭素量は1100ppm、水素量は60ppmであり、有機物は殆ど除去されている。また、銅線表面は金属光沢の銅色であった。銅回収歩留まりは100%であり、銅の純度は99.9%であった。
【0021】
〔実施例3〕
加熱温度を380℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂被覆銅線Iを加熱処理した。この結果を表2に示す。表2に示すように、回収した銅線に残留する炭素量は100ppm、水素量は20ppmであり、有機物は殆ど除去されている。銅回収歩留まりは100%であり、銅の純度は99.9%であった。また、加熱処理前後に樹脂被覆のFT‐IRスペクトルを測定し、熱変性の状況を調べたところ、C−O結合に帰属する1070cm−1及びC−O−C結合に帰属する1220cm−1のピークが消失し、C=O結合に帰属する1715cm−1のピークが減少しており、カーボンに由来する1600cm−1のピークが生じていることから剥離に必要な熱変性が十分に進んでいることを確認した。
【0022】
〔実施例4〕
表1に示す成分分析値の樹脂被覆銅線II(250g)を用い、加熱温度を275℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂被覆銅線IIを加熱処理した。この結果を表2に示す。表2に示すように、回収した銅線に残留する炭素量は100ppm、水素量は10ppmであり、有機物は殆ど除去されている。銅回収歩留まりは100%であり、銅の純度は99.9%であった。
【0023】
〔比較例1〕
実施例1の加熱温度を225℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂被覆銅線Iを加熱処理した。この結果を表2に示す。回収した銅線に残留する炭素量は9000ppm、水素量は180ppmであり、有機物の多くが残留しており、樹脂被覆を十分に除去することができなかった。銅回収歩留まりは100%であるが、銅の純度は98.6%であった。また、加熱処理前後に測定した樹脂被覆のFT‐IRスペクトルは、C−O結合に帰属する1070cm−1及びC−O−C結合に帰属する1220cm−1、C=O結合に帰属する1715cm−1のピークに変化が無く、剥離させるのに必要な熱変性が生じていないことが確認された。
【0024】
〔比較例2〕
実施例1の加熱温度を420℃に変更した以外は実施例1と同様にして樹脂被覆銅線Iを加熱処理した。この結果を表2に示す。回収した銅線に残留する炭素量は13ppm、水素量は3ppmであり、有機物の殆どが除去されている。一方、回収した銅線の表面は酸化されて酸化銅被膜が生じていた。この加熱処理した樹脂被覆銅線Iを手で折り曲げて樹脂被覆を除去したところ、樹脂被覆と共に酸化銅被膜が剥離したため、銅回収歩留まりは97.5%に低下した。
【0025】
表2に示す結果から、被覆樹脂銅線の加熱温度は250℃〜380℃が良く、加熱時間は20分〜1時間が好ましいことが確認された。また、実施例1,3と比較例1の加熱処理前後のFT‐IRスペクトルの比較によって、実施例1、3では250℃〜380℃の加熱処理ではC−O結合に帰属するピーク及びC−O−C結合に帰属するピーク、C=O結合に帰属するピークが熱分解で消滅または減少し、さらに380℃の加熱処理では炭素のピークが生じていることから熱分解が十分生じていることを確認した。一方、比較例1の加熱温度ではC−O結合及びC−O−C結合、C=O結合の熱分解が不十分であることが分かる。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】