特許第6604553号(P6604553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604553
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】表面被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20191031BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20191031BHJP
   C23C 16/36 20060101ALI20191031BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20191031BHJP
   C23C 16/32 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   B23B27/14 A
   C23C16/34
   C23C16/36
   C23C16/40
   C23C16/32
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-69629(P2016-69629)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-177292(P2017-177292A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100204526
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 靖
(72)【発明者】
【氏名】土橋 正卓
(72)【発明者】
【氏名】宮下 大
(72)【発明者】
【氏名】河田 与志則
(72)【発明者】
【氏名】素花 章
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 卓司
(72)【発明者】
【氏名】大森 弘
(72)【発明者】
【氏名】原 央
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 祥知
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−530112(JP,A)
【文献】 特開2011−200953(JP,A)
【文献】 特開2008−886(JP,A)
【文献】 特開2013−132717(JP,A)
【文献】 特開2007−160460(JP,A)
【文献】 特開2009−34766(JP,A)
【文献】 特開2009−220241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
C23C 16/32
C23C 16/34
C23C 16/36
C23C 16/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
WC基超硬合金またはTiCN基サーメットからなる工具基体の表面に、少なくとも下部層と上部層とを含む硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層の下部層は、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層およびTiCNO層(以下、まとめて、Ti化合物層という。)のうちの2層以上からなり、その内の少なくとも1層はTiCN層で構成した該下部層の表面には、前記硬質被覆層の上部層である、Al層が形成されており、
(b)少なくとも、前記表面被覆切削工具のすくい面の該上部層の最表面には、面積率30〜70%にて酸化ジルコニウム層が形成され、前記すくい面におけるAl層は10〜200MPaの引張残留応力を有し、表面粗さRaが0.25μm以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載の表面被覆切削工具において、前記すくい面におけるTiCN層の引張残留応力が10〜250MPaであることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の表面被覆切削工具において、逃げ面の上部層である前記Al層の最表面には、TiN層、TiC層、TiCN層、又は、TiNO層が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表面被覆切削工具。









【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭素鋼や合金鋼等の切削加工において、耐溶着性、及び、耐欠損性、特に、断続切削等における耐チッピング性、耐欠損性においても優れた表面被覆切削工具(以下、単に「被覆工具」という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、工具基体という)の表面に、下部層として、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層と、また、その上部層として、α型結晶構造を有するAl層とからなる硬質被覆層を設けた被覆工具が知られている。
そして、前記硬質被覆層を形成した被覆工具の切削性能を高めるために、従来から種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、基材表面にTiN、TiCN、及び/又はTiAlCNOを含む硬質材料層からなる下部層と、特定の優先配向組織を有するα−Al層からなる上部層が形成された被覆工具において、前記上部層であるα−Al層に対し、TiN層、TiC層、TiCN層、又は、これらの組み合わせからなる層により構成された摩耗識別層を化学蒸着により形成した後、すくい面に対し、従来用いられていた高硬度のコランダム(α−Al)製の粒状ブラスト材よりも硬度の低い、鋼、ガラス、ZrO製のブラスト材を用いて、ブラスト処理を行うことにより、摩耗識別層が除去された後のα−Al層において、引張応力の緩和が図られ、また、α−Al層の表面が平滑化され、耐欠損性に優れた被覆工具が得られるとの提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−530112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に示される被覆工具においては、従来用いられていた高硬度のコランダム(α−Al)製の粒状ブラスト材よりも硬度の低いZrO製のブラスト材(平均粒径20〜450μm)を用いてブラスト処理を行うことにより、α−Al層の表面に存在する凸部(すなわち、α−Al層の表面の粒子頂部)、及び、凹部(すなわち、α−Al層の表面の粒子間部)のうち、凸部に対しては平滑化が進んだものと考えられる。
しかしながら、前記ZrO製のブラスト材は、硬度が低く、研削加工能力に劣るため、少なくとも被膜表面の凹部(すなわち、前記α−Al層の表面の粒子間部)においては、十分な研磨が行われず、平滑化が進まないことから、前記α−Al層の表面の粒子間部である凹部を起点としてチッピングが発生してしまい、特に、かかる切削初期に発生したチッピングが成長した場合には、致命的な欠損に至ることが想定された。
そこで、被覆工具として、被膜表面において一層の平滑性を有し、更なる耐溶着性、耐チッピング性、耐欠損性に優れた被覆工具が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、被覆工具において、一層の平滑性を有し、更なる耐溶着性、耐チッピング性、耐欠損性に優れた硬質被覆層の構造について鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。
【0007】
即ち、工具基体表面に、硬質被覆層として少なくともAl層を被覆形成した被覆工具において、すくい面のα−Al層の最表面の前記課題とされた粒子間部である凹部に対して、酸化ジルコニウムを導入し、そのα−Al層の最表面において、面積率が30〜70%である酸化ジルコニウム層を形成した場合に、更なる被膜表面の平滑性の改善がなされ、耐溶着性、耐チッピング性、耐欠損性において、一層優れた被覆工具が得られることを見出したものである。
そして、具体的には、例えば、工具基体のすくい面及び逃げ面に下部層としてのTiC、TiN、TiCNのいずれか1層または2層以上を形成し、該下部層の上に上部層としての
Al層を形成し、次いで、すくい面について、30〜70%の面積率のジルコニウム層を形成することによって得ることができる。
なお、必要に応じて、該Al層の最表面に、TiN層、TiC層、TiCN層、又は、TiNO層からなる摩耗識別層を形成し、前記すくい面における摩耗識別層を除去するとともに、すくい面最表面に酸化ジルコニウム層を形成する。
【0008】
そして、ここで得られた本発明に係る被膜工具は、すくい面について、ブラスト条件を調整することにより、Al層の表面に30〜70%の面積率のジルコニウム層を形成してAl層最表面の欠陥の影響を排除するとともに、一層の表面平滑性を高め、耐溶着性を向上させることができ、また、残留応力の低減を図ることができるために、耐チッピング性、耐欠損性に優れたものとなる。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) WC基超硬合金またはTiCN基サーメットからなる工具基体の表面に、少なくとも下部層と上部層とを含む硬質被覆層が形成されている表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層の下部層は、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層およびTiCNO層(以下、まとめて、Ti化合物層という。)のうちの2層以上からなり、その内の少なくとも1層はTiCN層で構成した該下部層の表面には、前記硬質被覆層の上部層である、Al層が形成されており、
(b)少なくとも、前記表面被覆切削工具のすくい面の該上部層の最表面には、面積率30〜70%にて酸化ジルコニウム層が形成され、前記すくい面におけるAl層は10〜200MPaの引張残留応力を有し、表面粗さRaが0.25μm以下であることを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記(1)に記載の表面被覆切削工具において、前記すくい面におけるTiCN層の引張残留応力が10〜250MPaであることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3)前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具において、逃げ面の上部層である前記Al層の最表面には、TiN層、TiC層、TiCN層、又は、TiNO層が形成されていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
【0010】
以下に、この発明の被覆工具について、詳細に説明する。
【0011】
下部層;
Ti化合物層からなる下部層は、基本的には、Al層からなる上部層の下部に設けられ、工具基体と上部層のいずれにも強固に密着し、硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与する作用を有するが、下部層自身の特性である高い硬度によって硬質被覆層に高い耐摩耗性、特に優れた耐逃げ面摩耗性を具備する。
このような下部層に好適な膜種としては、TiC層、TiN層、TiCN層、TiCO層およびTiCNO層のうちの2層以上のTi化合物層を挙げることができ、その内の少なくとも1層はTiCN層として下部層を構成する。
また、下部層の平均層厚については特に限定するものではないが、その平均層厚が3μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方、その平均層厚が20μmを越えると、耐欠損性に悪影響を及ぼすことから、下部層の平均層厚は3〜20μmとすることが望ましい。
【0012】
上部層:
Al層からなる上部層は、その硬さ、耐熱性、耐酸化性によって、被覆工具の耐摩耗性を向上させる。本発明では、上部層の層厚を特に制限するものではないが、Al層の平均層厚が1μm未満では長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性発揮することができず、一方、その平均層厚が15μmを超えると、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷を発生しやすくなる。したがって、Al層からなる上部層の平均層厚は1〜15μmとすることが望ましい。
【0013】
すくい面の硬質被覆層:
すくい面に形成される硬質被覆層は、Ti化合物層からなる下部層と、Al層からなる上部層と、最表面に面積率30〜70%にて形成される酸化ジルコニウム層とで構成される。
後記する本発明被覆工具の製造法の一例によれば、まず、工具基体のすくい面および逃げ面に下部層としてのTi化合物層を形成し、ついで、下部層表面に上部層としてのAl層を形成し、その後、すくい面については、すくい面のAl層の表面平滑性を高め、同時に、残留応力の低減を図るためのブラスト処理を行うことにより、Al層の表面を面積率30〜70%にて覆う酸化ジルコニウム層が形成されると同時に、表面粗さRaが0.25μm以下、好ましくは0.20μm以下に調整されることで、耐チッピング性と耐溶着性が向上する。
また、ブラスト処理後、Al層内の残留応力は緩和され、引張残留応力の値は10〜200MPa、好ましくは、10〜150MPaとすることで、硬質被覆層全体としての耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性は向上する。
更には、TiCN層の引張残留応力の値は10〜250MPa、好ましくは、10〜150MPaとすることで、硬質被覆層全体としての耐チッピング性、耐欠損性、耐剥離性は向上する。
【0014】
なお、すくい面のAl層の最表面における酸化ジルコニウム層の面積率については、
すくい面についてのSEM観察およびEDS分析を行うことによって測定した面積率をいう。
すくい面の表面粗さRaについては、JIS B0601:2001に準拠し、カットオフ値:0.08mm、基準長さ:0.8mm、走査速度:0.1mm/秒にて触針式表面粗さ測定器を用いて測定した。
また、上部層のAl層の残留応力は、sinΨ法を用い、Cuκαを用いたX線回折装置を用いて測定する。測定にはα−Alについては(13_10)面の回折ピークを用い、ヤング率として384GPa、ポアソン比として0.232を使用して計算を実施する。
同じく、下部層のTiCN層の残留応力は、(422)面の回折ピークを用い、ヤング率として480GPa、ポアソン比として0.2を使用して計算を実施する。
【0015】
逃げ面の硬質被覆層:
逃げ面に形成される硬質被覆層は、Ti化合物層からなる下部層と、Al層からなる上部層と、必要に応じて、Al層の最表面に形成されるTiN層、TiC層、TiCN層、又は、TiNO層からなる摩耗識別層からなる。
【0016】
硬質被覆層の作製法:
本発明の硬質被覆層は、例えば、以下の方法によって作製することができる。
まず、工具基体表面に、通常の化学蒸着法によって、下部層としてのTi化合物層および上部層としてのAl層を所定の平均層厚で形成し、
次いで、上部層のAl層の最表面に、通常の化学蒸着法によって、TiN層、TiC層、TiCN層、又は、TiNO層の平均層厚を0.1〜1μm程度の層厚になるように形成する。
次いで、すくい面に対し、ウエットブラスト処理を施し、すくい面にTiN層、TiC層、TiCN層、TiNO層を形成した場合には、形成されたTiN層、TiC層、TiCN層、TiNO層を除去するとともに、Al層の最表面に対し、面積率30〜70%にて覆う酸化ジルコニウム層を形成するように処理を行うことにより、作製することができる。
【0017】
ブラスト処理:
ブラスト処理について、より具体的な条件を述べれば、例えば、
ブラスト処理液:砥粒+水、
砥粒:ZrO2粒、
砥粒形状:球形および/または多角形、
砥粒サイズ(粒径):125−425μm(球形)/<125μm(多角形)
砥粒割合:70−90質量%(球形)/10−30質量%(多角形)
砥粒濃度:20体積%以下、
ブラスト圧力:0.10−0.35MPa
すくい面の法線に対する投射角度:0−20度
投射時間: 5−30秒
という条件で、すくい面にブラスト処理を施し、特に、砥粒形状及び砥粒サイズ、ブラスト圧力、投射角度等を調整することにより、上部層のAl層の残留応力、及び、Al層の表面層の酸化ジルコニウム層の面積率を調整することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の被覆工具は、すくい面において、上部層であるAl層の最表面に面積率30〜70%の酸化ジルコニウム層を設けることにより、最表面の一層の平滑化が達成されたために、耐溶着性、及び、耐欠損性、特に、断続切削等における耐チッピング性、耐欠損性においても優れ、長期の使用にわたって、すぐれた切削性能を発揮するものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、この発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
なお、ここでは、工具基体として、WC基超硬合金を使用した例を示すが、工具基体として、TiCN基サーメットを使用した場合も同様である。
【実施例1】
【0020】
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、TiN粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr粉末およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示す配合組成に配合し、ワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.05mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するインサート形状のWC基超硬合金製の工具基体A〜Cを製造した。
【0021】
ついで、この工具基体を、通常の化学蒸着装置に装入し、
まず、表2(表2中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表3に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成した。
【0022】
ついで、前記下部層の表面に、表2に示される条件で表3に示される目標層厚のAl層、およびTiN層を蒸着形成した。
【0023】
ついで、砥粒としてZrO粒を用い、表4に示す条件にてすくい面に対してウエットブラスト処理を施し、表5に示されるすくい面のAl層および酸化ジルコニウム層を有する本発明被覆工具1〜3を作製した。
【0024】
上記本発明被覆工具1〜3の下部層、上部層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
【0025】
また、上記本発明被覆工具1〜3のAl層の最表面について、SEM観察およびEDS分析することにより、すくい面のAl層の表面に存在する酸化ジルコニウム層の面積率を測定した。
表5に、測定した酸化ジルコニウム層の面積率を示す。
【0026】
また、上記で作製した本発明被覆工具1〜3について、すくい面の表面粗さRaを測定した。
なお、表面粗さRaの測定は、JIS B0601:2001に準拠し、カットオフ値:0.08mm、基準長さ:0.8mm、走査速度:0.1mm/秒にて触針式表面粗さ測定器を用いて測定した。
表5に、その結果を示す。
【0027】
さらに、上記で作製した本発明被覆工具1〜3について、Al層およびTiCN層について、残留応力を測定した。
残留応力はsinΨ法を用い、Cuκαを用いたX線回折装置を用いて測定した。測定にはα−Alについては(13_10)面の回折ピークを用い、ヤング率として384GPa、ポアソン比として0.232、TiCNについては(422)面の回折ピークを用い、ヤング率として480GPa、ポアソン比として0.2を使用して計算を実施した。表5に、その結果を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】



【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
比較の目的で、前記で作製したWC基超硬合金製の工具基体A〜Cに対して、表2に示される条件にて、表6に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成した後、ついで、該下部層の表面に、表2に示す条件で、表6に示される目標層厚のAl層およびTiN層を蒸着形成した。
【0034】
ついで、表7に示す条件にて、すくい面に対してブラスト処理を施して、表8に示されるすくい面にAl層を有する比較例被覆工具1〜3を作製した。
【0035】
また、上記比較例被覆工具1〜3のAl層の最表面について、SEM観察およびEDS分析することにより、すくい面のAl層の表面に存在する酸化ジルコニウム層の面積率を測定した。
表8に、測定した酸化ジルコニウム層の面積率を示す。
【0036】
また、上記で作製した比較例被覆工具1〜3について、本発明被覆工具1〜3と同様の方法により、すくい面の表面粗さRaを測定し、さらに、Al層およびTiCN層について、残留応力を測定した。
表8に、その結果を示す。
【0037】
【表6】


【0038】
【表7】



【0039】
【表8】


【0040】
つぎに、上記の本発明被覆工具1〜3および比較例被覆工具1〜3について、いずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、以下の切削条件Aおよび切削条件Bで切削試験を実施した。
≪切削条件A≫
被削材:JIS・S45Cの丸棒、
切削速度: 250 m/min、
切込み: 1.5 mm、
送り: 0.25 mm/rev、
切削時間: 10 分
の条件での炭素鋼の乾式切削試験。
≪切削条件B≫
被削材:JIS・SNCM439の長さ方向等間隔4本立て溝入り丸棒、
切削速度: 150 m/min、
切込み: 3.0 mm、
送り: 0.25 mm/rev、
切削時間: 6 分
の条件での合金鋼の乾式断続切削試験。

上記切削試験において、溶着発生の有無、チッピング発生の有無、欠損発生の有無を観察した。表9に切削試験結果を示す。
【0041】
【表9】



【0042】
表5、8、9に示される結果から、本発明被覆工具は、すくい面の上層であるAl層の最表面に面積率30〜70%にて酸化ジルコニア層を有するものであって、耐溶着性、耐チッピング性、及び、耐欠損性に優れたものとなっていることが理解できる。
これに対して、比較例被覆工具は、いずれも、すくい面の上層であるAl層の最表面
には、酸化ジルコニア層が形成されていないか、形成されているとしても面積率は30%未満であり、その結果、耐溶着性、耐チッピング性、及び、耐欠損性に関して、十分な切削性能を有するものとはいえない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のとおり、本発明に係る被覆工具は、切削性能にすぐれることから、切削装置の高性能化並びに切削加工の省力化および省エネ化による低コスト化および高作業性を実現できるものである。