特許第6604583号(P6604583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604583
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】繊維製品の熱成形法
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/06 20060101AFI20191031BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20191031BHJP
   D03D 15/00 20060101ALI20191031BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20191031BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20191031BHJP
   D04C 1/02 20060101ALI20191031BHJP
   D04C 1/12 20060101ALI20191031BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20191031BHJP
   B32B 5/02 20060101ALI20191031BHJP
   D06C 7/00 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   D01F8/06
   D01F8/14 Z
   D03D15/00 B
   D03D15/00 G
   D03D15/00 E
   D04B1/16
   D04B21/16
   D04C1/02
   D04C1/12
   B32B5/26
   B32B5/02 C
   D06C7/00
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-167031(P2018-167031)
(22)【出願日】2018年9月6日
(65)【公開番号】特開2019-163575(P2019-163575A)
(43)【公開日】2019年9月26日
【審査請求日】2019年7月2日
(31)【優先権主張番号】特願2018-50348(P2018-50348)
(32)【優先日】2018年3月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】池田 弘平
(72)【発明者】
【氏名】本多 真理子
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−302944(JP,A)
【文献】 特開平10−102348(JP,A)
【文献】 特開平10−276606(JP,A)
【文献】 特開平3−260115(JP,A)
【文献】 特開昭58−208435(JP,A)
【文献】 特開2005−105259(JP,A)
【文献】 特開2003−268667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−8/18
B32B 1/00−43/00
D03D 1/00−27/18
D04B 1/00− 1/28
D04B 21/00−21/20
D04C 1/02
D04H 1/00−18/04
D06C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度280℃及び荷重2.16kgの測定条件下でのメルトフローレートが10〜15g/10分であるポリエチレンを鞘成分とし、ポリエチレンテレフタレートを芯成分として、複合溶融紡糸法により、該芯成分と該鞘成分の質量比が芯成分:鞘成分=1〜4:1である芯鞘型複合長繊維が集束されてなるマルチフィラメント糸を得る工程、
前記マルチフィラメント糸を用いて繊維製品を得る工程及び
前記繊維製品を加熱し、前記ポリエチレンを溶融させると共に、前記ポリエチレンテレフタレートは当初の繊維形態を維持した状態で、前記芯鞘型複合長繊維相互間を融着せしめる工程を具備することを特徴とする繊維製品の熱成形法。
【請求項2】
繊維製品が、編織物、網地及び紐よりなる群から選ばれたものである請求項1記載の繊維製品の熱成形法。
【請求項3】
繊維製品同士を積層した後に、ポリエチレンを溶融させると共に、前記ポリエチレンテレフタレートは当初の繊維形態を維持した状態で、該繊維製品中に存在する芯鞘型複合長繊維相互間を融着せしめると共に、該繊維製品同士を一体化させる請求項1記載の繊維製品の熱成形法。
【請求項4】
繊維製品と他種物品を積層した後に、ポリエチレンを溶融させると共に、前記ポリエチレンテレフタレートは当初の繊維形態を維持した状態で、該繊維製品中に存在する芯鞘型複合長繊維相互間を融着せしめると共に、該繊維製品と該他種物品を一体化させる請求項1記載の繊維製品の熱成形法。
【請求項5】
請求項1に記載の繊維製品の熱成形法に用いるマルチフィラメント糸であって、
前記マルチフィラメント糸は複数本の芯鞘型複合長繊維が集束されてなり、
前記芯鞘型複合長繊維の芯成分はポリエチレンテレフタレートであり、前記芯鞘型複合長繊維の鞘成分は温度280℃及び荷重2.16kgの測定条件下でのメルトフローレートが10〜15g/10分であるポリエチレンであり、該芯成分と該鞘成分の質量比は芯成分:鞘成分=1〜4:1であることを特徴とするマルチフィラメント糸。
【請求項6】
鞘成分にステアリン酸マグネシウムが含有されている請求項5記載のマルチフィラメント糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯鞘型複合長繊維が集束されてなるマルチフィラメント糸よりなる繊維製品に、熱及び必要により圧を与えて熱成形する方法に関し、特に、耐摩耗性に優れ、また他種物品に貼着させたときの剥離強力に優れた熱成形体を得ることのできる熱成形法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、芯成分がポリエチレンテレフタレートで鞘成分がポリエチレンよりなる芯鞘型複合長繊維が集束されてなるマルチフィラメント糸を用いて、織物や網地等の繊維製品を得ることは知られている。また、かかる繊維製品をメッシュシート等に用いることが知られている。メッシュシートの場合には、織物や網地に目づれが生じないように、これらを熱成形して、芯鞘型複合長繊維の鞘成分であるポリエチレンを軟化又は溶融させ、織物や網地の交点を融着することも知られている。これらの事項は特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2009−299209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の織物等を熱成形すると、融着部位の耐摩耗性が不十分であることが判明した。また、特許文献1記載の織物同士を積層し、熱成形して接着すると、織物同士の接着力が不十分で剥離しやすいことも判明した。
【0005】
本発明の課題は、熱成形した際に融着部位の耐摩耗性に優れ、かつ、織物同士や他種物品に対する接着力に優れた熱成形体を得るための熱成形法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、芯鞘型複合長繊維の鞘成分であるポリエチレンとして、メルトフローレートの低いもの、すなわち、溶融した際の流動性の低いものを採用することにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、温度280℃及び荷重2.16kgの測定条件下でのメルトフローレートが10〜15g/10分であるポリエチレンを鞘成分とし、ポリエチレンテレフタレートを芯成分として、複合溶融紡糸法により、該芯成分と該鞘成分の質量比が芯成分:鞘成分=1〜4:1である芯鞘型複合長繊維が集束されてなるマルチフィラメント糸を得る工程、前記マルチフィラメント糸を用いて繊維製品を得る工程及び前記繊維製品を加熱し、前記ポリエチレンを溶融させると共に、前記ポリエチレンテレフタレートは当初の繊維形態を維持した状態で、前記芯鞘型複合長繊維相互間を融着せしめる工程を具備することを特徴とする繊維製品の熱成形法に関するものである。
【0007】
本発明においては、まず、温度280℃及び荷重2.16kgの測定条件下でのメルトフローレートが10〜15g/10分であるポリエチレンを準備する。ポリエチレンの種類としては、線状高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン又は分枝状ポリエチレン等があり、またその分子量は種々である。本発明は、これらのポリエチレンの中から、上記した特定のポリエチレンを用いる。具体的には、線状低密度ポリエチレンの中から分子量の高いものが、好ましく用いられる。メルトフローレートが10g/10分未満であると、ポリエチレンテレフタレートと複合溶融紡糸しにくくなるので、好ましくない。また、メルトフローレートが15g/10分を超えると、融着部位の耐摩耗性が低下すると共に、他種物品に対する接着力が低下するので、好ましくない。メルトフローレートの測定は、温度280℃及び荷重2.16kgの条件下で、JIS K7210記載の方法に準拠して行うことは言うまでもない。なお、本発明の実施例では、東洋精機製作所社製のメルトインデクサーG−01なる機器を用い、上記した条件下でメルトフローレートを測定した。
【0008】
上記した特定のポリエチレンと共に、ポリエチレンテレフタレートを準備する。ポリエチレンテレフタレートとしては、従来公知のものが用いられる。ポリエチレンテレフタレートは、ポリエチレンが溶融する温度では溶融せず、当初の繊維形態を維持するものである。したがって、融着部位の耐摩耗性や接着力とは無関係であるので、そのメルトフローレートは任意である。そして、ポリエチレンを鞘成分とし、ポリエチレンテレフタレートを芯成分として、複合溶融紡糸法によって芯鞘型長繊維を得た後に、これを集束してマルチフィラメント糸を得る。複合溶融紡糸法において、芯成分と鞘成分の質量比が芯成分:鞘成分=1〜3:1となるように、ノズル孔の形態及びノズル孔からの芯成分と鞘成分の吐出量を調整する。鞘成分の質量比がこの範囲より低いと、融着部位の耐摩耗性や接着力が低下するので、好ましくない。また、鞘成分の質量比がこの範囲より高いと、当初の繊維形態を維持している芯成分の径が小さくなり、熱成形体の引張強度が低下するので、好ましくない。なお、芯鞘型複合長繊維の繊度は任意であるが、一般的に4〜20デシテックス程度であり、またマルチフィラメント糸を得る際の芯鞘型複合長繊維の集束本数も任意であるが、一般的に30〜400本程度である。また、芯鞘型複合長繊維の芯と鞘とは略同心に配置されているのが好ましい。偏心していると、熱成形時に収縮しやすくなり、形態安定性に劣る。
【0009】
マルチフィラメント糸を用いて繊維製品を得る。マルチフィラメント糸は無撚であってよいが、一般的に撚りが施されている。繊維製品としては、たとえば、マルチフィラメント糸を経糸及び緯糸として製織し織物を得てもよいし、マルチフィラメント糸を経編機や緯編機に掛けて編物を得てもよい。また、マルチフィラメント糸を複数本撚り合わせながら、結節網地や無結節網地を得てもよい。さらに、マルチフィラメント糸を複数本組んで紐を得てよい。その他、種々の方法で従来公知の繊維製品を得る。
【0010】
編織物等の繊維製品を製編織する際には、マルチフィラメント糸を筬に通すことになる。具体的には、織物の場合は筬目に経糸であるマルチフィラメント糸を通すことになるし、経編の場合は筬のガイドアイに経糸であるマルチフィラメント糸を通すことになる。この際、マルチフィラメント糸は筬目やガイドアイの縁に接触し摩擦が生じて、マルチフィラメント糸に摩耗が生じる。本発明で用いるマルチフィラメント糸は、かかる状況において耐摩耗性に優れているものである。これは、マルチフィラメント糸を構成している芯鞘型複合長繊維の鞘成分が低メルトフローレートであるため、筬目やガイドアイの縁と接触する鞘成分が摩擦熱で溶融又は軟化しても、筬目やガイドアイの縁に付着しにくく、鞘成分が削り取られにくいからである。特に、鞘成分にステアリン酸マグネシウムを含有させておくと、鞘成分がより筬目やガイドアイの縁に付着しにくくなる。鞘成分中におけるステアリン酸マグネシウムの含有量は、0.01〜1重量%程度でよい。したがって、本発明に用いるマルチフィラメント糸を採用すれば、芯鞘型複合長繊維中の鞘成分の損傷を防止しながら、編織物等の繊維製品を得られ、繊維製品同士を熱接着した場合も接着力が向上する。
【0011】
次に、得られた繊維製品を加熱し、熱成形を施す。加熱温度は、芯鞘型複合長繊維の鞘成分であるポリエチレンの融点以上であり、具体的には140℃以上である。この加熱により、ポリエチレンが溶融すると共に、芯成分であるポリエチレンテレフタレートは当初の繊維形態を維持した状態で、芯鞘型複合長繊維相互間が融着して、熱成形体が得られる。たとえば、繊維製品として粗目の編織物又は網地を採用し、この編織物又は網地を加熱してポリエチレンを溶融させると、編織物又は網地の交点で強固に融着した熱成形体が得られる。なお、編織物又は網地の交点とは、たとえば、織物の場合は経糸及び緯糸の交差点であり、編物や網地の場合は結節点のことである。かかる熱成形体は、目づれのしにくいメッシュシートや剥落防止シート等として建設現場で良好に用いることができる。また、編織物又は網地の交点だけではなく、全体に融着させると、剛性のある熱成形体となって、定置網、籠網或いは養殖網等の漁網として好適に用いることができる。
【0012】
得られた繊維製品同士を積層した積層体を加熱して、熱成形を施してもよい。たとえば、織物同士、織物と網地又は編物と網地を積層して、熱成形してもよい。この場合、積層体の積層面において、上層の繊維製品と下層の繊維製品の各芯鞘型複合長繊維相互間が融着して接着し、積層面で剥離しにくい複合材料が得られる。また、繊維製品と他種物品を積層した積層体を加熱して、熱成形を施してもよい。この場合、繊維製品中の芯鞘型複合長繊維の鞘成分が融着して、他種物品と接着する。他種物品としては、プラスチック製物品、金属製物品又はセラミック製物品等の任意の物品が挙げられる。特に、他種物品として、ポリオレフィン系樹脂等で形成された筐体を用いると、芯鞘型複合長繊維の鞘成分とポリオレフィン系樹脂とが強固に接着すると共に、芯成分が当初の繊維状態を維持しているので、補強された筐体が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る繊維製品の熱成形法は、繊維製品中に特定のポリエチレンを鞘成分とする芯鞘型複合長繊維が存在するので、このポリエチレンで芯鞘型複合長繊維相互間を融着すると、融着部位の耐摩耗性が向上するという効果を奏する。また、このポリエチレンで融着した芯鞘型複合長繊維相互間は、接着力が高くなるという効果も奏する。したがって、たとえば、本発明で用いる繊維製品と他種物品とを積層して融着すると、繊維製品と他種物品とが剥離しにくくなる。
【実施例】
【0014】
実施例1
[マルチフィラメント糸の準備]
鞘成分として、融点126℃でメルトフローレート13.2g/10分のポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、品番UJ960)を準備した。一方、芯成分として、融点256℃のポリエチレンテレフタレートを準備した。
孔径0.6mmで孔数192個の芯鞘型複合紡糸口金を具えた複合溶融紡糸装置に、上記したポリエチレンとポリエチレンテレフタレートを供給し、口金温度を280℃とし、ポリエチレン:ポリエチレンテレフタレート=1:3(質量比)として、複合溶融紡糸を行った。得られた芯鞘型複合長繊維192本が集束した糸条に、常用の手段で冷却、延伸及び弛緩処理を施し、1670デシテックス/192フィラメントのマルチフィラメント糸を得た。
【0015】
[繊維製品の準備及び熱成形(その1)]
得られたマルチフィラメント糸に撚数60T/mの撚りを掛け、経糸及び緯糸として、経糸密度及び緯糸密度共に20本/インチの平織物を製織した。巾40mmで長さ260mmの大きさに切断した平織物を、二枚積層して金型に入れ、温度150℃、時間5分及び圧力0.5MPaの条件で熱成形し、中央部分に巾20mmで長さ200mmの融着部位を形成した熱成形体Aを得た。この熱成形体Aは、その中央部分において、各平織物中の芯鞘型複合長繊維の鞘成分が融着してなるもので、二枚の平織物が強固に接着されてなるものであった。
【0016】
[繊維製品の準備及び熱成形(その2)]
得られたマルチフィラメント糸に撚数60T/mの撚りを掛け、8打角製紐機に導入し、8本組紐を得た。そして、温度150℃及び時間10分の条件で、組紐中の芯鞘型複合長繊維の鞘成分を融着させ、全体が一体化された熱成形体Bを得た。この熱成形体Bは、耐摩耗性に優れたものであった。
【0017】
実施例2
鞘成分として、融点127℃でメルトフローレート14.5g/10分のポリエチレン(株式会社プライムポリマー製、品番SP4030)を用いる他は、実施例1と同一の方法でマルチフィラメント糸を得た。このマルチフィラメント糸を用い、実施例1と同一の方法で、繊維製品の準備及び熱成形(その1)及び(その2)を行って、熱成形体A及びBを得た。
【0018】
比較例1
鞘成分として、融点133℃でメルトフローレート65.3g/10分のポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、品番HJ490)を用いる他は、実施例1と同一の方法でマルチフィラメント糸を得た。このマルチフィラメント糸を用い、実施例1と同一の方法で、繊維製品の準備及び熱成形(その1)及び(その2)を行って、熱成形体A及びBを得た。
【0019】
比較例2
鞘成分として、融点123℃でメルトフローレート59.8g/10分のポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、品番UJ560)を用いる他は、実施例1と同一の方法でマルチフィラメント糸を得た。このマルチフィラメント糸を用い、実施例1と同一の方法で、繊維製品の準備及び熱成形(その1)及び(その2)を行って、熱成形体A及びBを得た。
【0020】
実施例1、2、比較例1及び2で得られた熱成形体Aについて、株式会社島津製作所製オートグラフAG50kNIを用い、熱成形体Aの巾の一端で接着されていない各平織物の部位をチャックで把持して、引張速度100mm/分で剥離試験を行い、剥離強力を測定した。剥離試験は3点の熱成形体Aについて行い、剥離強力は試験中において荷重が極大値を示す各値の平均値を剥離強力とした。この結果、実施例1に係る熱成形体Aは17.8N、実施例2に係るものは15.7N、比較例1に係るものは10.1N、比較例2に係るものは13.1Nであった。このことから、実施例1及び2に係る熱成形体Aは、二枚の平織物の接着力に優れていることが分かる。
【0021】
実施例1、2、比較例1及び2で得られた熱成形体Bについて、株式会社米倉製作所製の耐摩耗試験機を用いて、耐摩耗性を判定した。具体的には、熱成形体Bの一端に180gの錘を吊るし、六角棒と直角に接触するように、他端をチャックで把持した。そして、他端を往復運動させた。往復運動は、往復回数30±1回/分で、ストローク幅を230mm±30mmとした。この結果、実施例1及び2に係る熱成形体Bに比べて、比較例1及び2に係る熱成形体Bの表面の毛羽立ちが顕著であった。また、錘の質量を1kgに代えて、約20分摩耗試験を続けると、実施例1及び2に係る熱成形体Bは破断しなかったが、比較例1に係る熱成形体Bは約15分で破断した。また、比較例2に係る熱成形体Bは破断はしないものの、熱成形体Bの融着が解けて、マルチフィラメント糸が露出して繊維状となった。以上のことから、実施例1及び2に係る熱成形体Bは耐摩耗性に優れていることが分かる。
【0022】
実施例3
[マルチフィラメント糸の準備]
鞘成分として、融点126℃でメルトフローレート13.2g/10分のポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製、品番UJ960)に、ステアリン酸マグネシウム0.05重量%添加したポリエチレン組成物を準備した。一方、芯成分として、融点256℃のポリエチレンテレフタレートを準備した。
孔径0.6mmで孔数128個の芯鞘型複合紡糸口金を具えた複合溶融紡糸装置に、上記したポリエチレン組成物とポリエチレンテレフタレートを供給し、口金温度を280℃とし、ポリエチレン組成物:ポリエチレンテレフタレート=1:3(質量比)として、複合溶融紡糸を行った。得られた芯鞘型複合長繊維128本が集束した糸条に、常用の手段で冷却、延伸及び弛緩処理を施し、1830デシテックス/128フィラメントのマルチフィラメント糸を得た。
【0023】
得られたマルチフィラメント糸に撚数60T/mの撚りを掛け、8打角製紐機に導入し、8本組紐を得た。そして、温度180℃及び時間2分の条件で、組紐中の芯鞘型複合長繊維の鞘成分を融着させ、全体が一体化された熱成形体を得た。この熱成形体は、耐摩耗性に優れたものであった。
【0024】
また、ステンレス製筬(筬羽44本/吋)を三枚準備し、三枚の筬を平行に配置すると共に真ん中の筬の位置をずらし、マルチフィラメント糸が真ん中で45°の角度となるように通し、マルチフィラメント糸を速度1000m/分で10分間走行させた。その後、各筬をマイクロスコープで観察したところ、削れカスが付着しているものの、その量は非常に少ないものであった。