【実施例】
【0043】
以下、具体的実施例により、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明は、実施例の記載により限定されるものではない。
<実施例1>
本実施例では、Euglena anabaena種の変種であるEuglena anabaena var. minorを用いた。
本発明の実施例1に係るEuglena anabaena var. minor EU044株(以下、「実施例1のEuglena anabaena」と称する。)は、日本の神奈川県の野池から採取された株である。
実施例1のEuglena anabaenaは、Mainx F. Beitrage zur Morphologie und Physiokogie der Eugleninen. Arch. Protisk. 1927;60:305-354の記述との一致性において同定された。
つまり、この記述には、Euglena anabaena var. minorが、自然条件下において細胞は紡錘形であり、細胞の長さ36-43μm、幅9-12μmであって、8つのクロロプラスト及びピレノイドが、皿形のパラミロン鞘に囲まれていると記載されているところ、実施例1のEuglena anabaenaは、長さ35-46μm、幅10-14μmであり、対数増殖期では、5−8のクロロプラストを備えている。
また、他のEuglena anabaenaの変種は、細胞サイズにより区別できる。Euglena anabaena var. anabaenaは、自然条件下において長さ88-94μm、幅20-25μmであり、Euglena anabaena var. minimaは、自然条件下において長さ26-30μm、幅9-12μmである。
【0044】
既知のユーグレナ属微生物と実施例1のEuglena anabaenaとの関係を示した系統樹を、
図1に示す。
図1は、Eutreptia viridisをアウトグループとした有根系統樹である。
図1の分岐点に示された数値は、ブートストラップ値(%,反復回数1000)であり、スケールバーは、置換数/サイトを示す。
図1の系統樹に示すように、それぞれ配列番号1及び2に示す実施例1のEuglena anabaenaの16SrDNA及び18SrDNA配列によっても、実施例1のEuglena anabaenaが、他のEuglena anabaena株と近い関係にあることが確認できた。実施例1のEuglena anabaenaの16SrDNA及び18SrDNA配列を、それぞれ、配列表の配列番号1,2に示す。
【0045】
<試験例1 増殖速度の評価>
本試験例では、Euglena gracilis以外のユーグレナ種において、実施例1のEuglena anabaenaの増殖速度が他のユーグレナ種よりも速いことを確認する試験を行った。
Euglena gracilisの株としては、Euglena gracilis(日本国 国立環境研究所保存株:NIES-48)を用いた。
Euglena gracilis 以外の種の株として、実施例1のEuglena anabaena var. minor 、Euglena clara、Euglena deses、Euglena granulate、Euglena schmitzii、Euglena stellata(本発明者らの保存する株)の6種のユーグレナ種の株を準備した。Euglena clara、Euglena deses、Euglena granulate、Euglena schmitzii、Euglena stellataの5種の株は、日本国内の池や川から採取し単離されたものであり、それぞれ形態観察、粘液体染色、もしくは16s, 18s rDNAの配列解析により種を同定済みであった。
この5種の株及び実施例1のEuglena anabaenaは、微細藻類用汎用培地である表3のAF6培地(S. Kato, 1982)を用い、23℃、50μmol/m
2sの光量で明期14時間、暗期10時間の明暗周期で維持継代されていたものである。
【0046】
本試験例で扱う上記7種のユーグレナ株を、40倍の対物レンズを使用し顕微鏡(LeicaDM2500)にて観察撮影した顕微鏡像を、
図2に示す。
図2において、スケールバーは20μmを示す。
【0047】
また、本試験例で扱う上記7種のユーグレナ株について培養試験を行い、各株の増殖速度を比較した。
培養は、24穴プレート(TPP社)で1mLの培地を使用して3回ずつ行った。各株の初期濃度は約0.01(OD680)とし、培養は23℃のインキュベーター内で静置して行い、50μmol/m
2sの光量で明期14時間、暗期10時間の明暗周期で培養を行った。
7種の株のうち、Euglena gracilisには、表3に示すCM培地を用いた。
【0048】
【表3】
【0049】
また、7種の株のうち、Euglena gracilis以外の株には、表2に示すC培地を用いた。
各株の培養試験における培養0,2,4,6,8,10,12,14日後の濃度を測定した。各経過日数での藻体量は、680nmでの吸光度(OD680)をプレートリーダー(SH1200コロナ電気)により測定し評価した。
図3に、7種の株の培養試験の結果を示す。
図3は、実施例1のEuglena anabaena、Euglena clara、Euglena deses、Euglena granulata、Euglena schmitzii、Euglena stellata のC培地での増殖曲線とEuglena gracilisのCM培地(pH 3.5)での増殖曲線を示している。エラーバーは3ウェルの結果のSEM(平均値の標準誤差:standard error of the mean)を示す。
図3の結果より、Euglena gracilisの増殖が圧倒的に速かったが、それ以外の種では実施例1のEuglena anabenaの増殖が比較的速いことが分かった。
【0050】
<試験例2 実施例1のEuglena anabaenaの培地の検討>
実施例1のEuglena anabaenaを、各種培地(AF6、BG-11、C、TAP、mAC、CM、KH)を用い、試験例1と同様の条件で静置培養した。
AF培地の作製方法を、表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
BG-11培地の作製方法を、表5に示す。
【0053】
【表5】
【0054】
mAC培地の作製方法を、表6に示す。
【0055】
【表6】
【0056】
KH培地の作製方法を、表7に示す。
【0057】
【表7】
【0058】
また、各種培地(AF6、BG-11、C、TAP、mAC、CM、KH)の成分を表8に示す。
【0059】
【表8】
【0060】
図4に、実施例1のEuglena anabaenaの培養試験の結果を示す。
実施例1のEuglena anabaenaは、TAP培地で最も増殖が良かった。また、C培地とTAP培地で特殊な表現型を示した。それぞれC培地では比較的素早く泳ぎ回り、TAP培地では形態が太く、黒っぽい色となった。
【0061】
実施例1のEuglena anabaenaの培地の相違による表現型を確認するために、C培地、TAP培地、C&TAP培地を用い、実施例1のEuglena anabaenaを23℃で1週間静置培養した。
1週間静置培養後のそれぞれの細胞を、40倍の対物レンズを使用し顕微鏡(LeicaDM2500)にて観察撮影した顕微鏡像を、
図5に示す。
図5において、スケールバーは10μmを示す。
【0062】
以上のように、本試験例において、Euglena gracilis特異的に増殖を強く促進するCM培地、KH培地では、実施例1のEuglena anabaenaはあまり増殖しなかった。これはCM培地とKH培地がEuglena gracilisのために開発された経緯から予想される結果ではあったが、Euglena gracilisと実施例1のEuglena anabaenaでは培地に要求する条件が大きく異なることが示唆された。そのことを支持する事実として、実施例1のEuglena anabaenaはアンモニア態窒素を含まないC培地で増殖することも挙げられる。これはEuglena gracilisが硝酸態窒素をほとんど資化できないことと対照的である(M. Cramer et al., 1952)。
【0063】
実施例1のEuglena anabaenaはTAP培地で最もよい増殖を示したが、同時に、
図5のように、太く、黒っぽくなるという表現型も示した。これはTAP培地のみに含まれない、もしくはTAP培地のみに含まれる成分に由来することが予想された。表8において、培地に含まれる成分を比較するとTAP培地のみに含まれない、もしくは含まれる成分は存在しない。
TAP培地を大きく特徴づける成分としては酢酸(0.1%)が挙げられ、mAC培地が同様に酢酸ナトリウム由来の酢酸を含むが、その量はTAP培地の方が多い。そのため、太く、黒っぽくなる表現型は酢酸に由来する可能性が予想されたが、C培地に酢酸(0.1%)のみを加えた場合には実施例1のEuglena anabaenaは致死であった。TAP培地を作製する際、酢酸を加えた後にオートクレーブ滅菌するため、揮発によりTAP培地中に含まれる酢酸濃度は0.1%より少なくなっている可能性が考えられる。一方で、さらに少量の酢酸をC培地に加えることも試したが、生存可能な酢酸濃度(〜0.01%)では効果は現れなかった。
以上のことから、TAP培地に含まれる酢酸が、実施例1のEuglena anabaenaの形態変化の原因であるとしても、それ以外の成分のバランス等も影響していると考えられる。例えば、ホウ酸もTAP培地には他の培地より多く含まれているので、これも要因の一つとなっている可能性が考えられた。
【0064】
<試験例3 実施例1のEuglena anabaenaの培養特性の評価>
試験例2において調べた各種ユーグレナ種のうち、Euglena gracilis以外では実施例1のEuglena anabaenaの増殖が格段に速かった。その際に培養は、1mLの容量で比較的低温(23℃)、低光量(50μmol/m
2s)で行った。
経験上、培養の規模は増殖の良し悪しに影響を与えることが多いため、本試験例3では、通常の試験管培養試験で用いる40mLほどの容量で同様に増殖可能であるかを検討した。また、より高温で培養することによって増殖が速くなる可能性が考えられたため、実施例1のEuglena anabaenaの培養に適した温度条件を検討した。さらに至適温度、最適培地で培養した際にEuglena gracilisとの増殖の速さの比較を行った。
【0065】
培養の至適温度の検討では、100mL試験管を用い、40mLのAF6培地で実験を行った。実験開始時の藻体量は、OD680 = 0.03程度に合わせ、試験管を3本ずつ用い、20℃、23℃、26℃、29℃、32℃の5種類の温度に設定した水槽中でそれぞれ実験を行った。実験の際の光照射は150μmol/m
2sの恒常光で行い、5% CO
2を含む空気を40mL/min. 通気して培養した。藻体濃度は吸光光度計(島津、UVmini-1240)にてOD680を各日測定し評価した。
一方、至適培養条件でのEuglena gracilisとの増殖比較試験では、至適温度の検討の実験と同様の方法で、実施例1のEuglena anabaenaの培養を行った。ただし、温度は29℃とし、培地は、TAP培地(+ビタミン)、C培地、C培地とTAP培地(+ビタミン)の等量混合培地(C&TAP)を用いた。対照実験でのEuglena gracilisの培養は同様の条件で行い、培地はCM培地(pH3.5)を用いた。
【0066】
本試験例3における培養の至適温度の検討試験の結果を、
図6に示す。
図6のエラーバーはSEMを示す。
AF6培地を用いた40mL容量での培養でも、
図6に示すように、実施例1のEuglena anabaenaの増殖を確認することができた。24穴プレートでの培養実験で設定した23℃での増殖と比較して、26℃、29℃と温度が高くなるほど増殖が速くなった。一方で、32℃まで温度を上げるとほとんど増殖しなくなり、大部分が死滅、もしくはシスト化した。
「シスト化」とは、細胞が、動かない球形の形態であるシスト形態になることをいう。
【0067】
一方、本試験例3における至適培養条件での増殖試験の結果を、
図7に示す。
図7のエラーバーはSEMを示す。
TAP培地、C培地、C&TAP培地を用い、同様に40mLの容量、29℃で増殖を調べた結果、
図7に示すように、TAP培地とC&TAPで増殖が速く、6日目までに6〜7倍に増加した。これは同様の条件でCM培地(pH3.5)を使い培養したEuglena gracilisの半分程度の増殖の速さであった。
【0068】
以上より、実施例1のEuglena anabaenaの増殖はEuglena gracilisと同様に29℃が一番よく、より速い増殖を得るために必要な温度条件が明らかになったのと同時に、ある程度の高温に対する耐性を持っていることが示された。
TAP培地、及びC&TAP混合培地を用いた培養では、それぞれでEuglena gracilisをCM培地(pH3.5)で培養した際の半分程度の増殖速度を示した。TAP培地はクラミドモナスなどの培養で広く使われる培地であるが、この培地を基としてさらなる改良を行うことによって実施例1のEuglena anabaenaの増殖により適した培地を作製できる余地があることが分かった。なお、TAP培地とC&TAP混合培地では同じぐらいの増殖の速さを示したが、C&TAP混合培地中での細胞形態はTAP培地で培養した場合と同様に、太く、黒っぽい形態となった。このことは、試験例2で考察した形態の表現型を引き起こすTAP培地の成分について、TAP培地に少ない成分ではなく、TAP培地に多く含まれる成分(0.1%酢酸)が影響していることを再度示唆する結果であった。
【0069】
<試験例4 実施例1のEuglena anabaenaのパラミロン含量及びその特性の評価>
ユーグレナ類を産業利用する際の目的産物の一つに、ユーグレナが特異的に産生するβ−1,3グルカンであるパラミロンが挙げられる。培養する過程で実施例1のEuglena anabaenaでは、藻体が試験管の底にすぐに沈降してしまう様子が観察された。パラミロンは比重が高い(〜1.5)物質であるため(R. H. Marchessault et al., 1979, Carbohydr. Res., 75, 231-242)、よく沈降する性質はパラミロンを多く蓄積していることを示唆している。実施例1のEuglena anabaenaは40mLの容量でも一定の増殖を示し、炭水化物含量を測定するのに十分な量の藻体を集めることができたため、以下の通り、その含量を定量した。
【0070】
Euglena gracilisはCM培地(pH3.5)、実施例1のEuglena anabaenaはTAP培地(+ビタミン)でそれぞれ1週間培養し、培養液を大試験管内にOD680 = 0.38となるように希釈調整し静置した。10分後、30分後、60分後の沈降の経時変化を撮影記録した。60分後には沈降の具合を良く確認するために底面の様子の写真も撮影した。撮影した写真を、
図8に示す。
図8において、grとanはそれぞれEuglena gracilisと実施例1のEuglena anabaenaを示す。
図8に示すように、培養液の藻体濃度を揃え静置すると、実施例1のEuglena anabaenaでは一時間後にはその大部分が沈殿し、Euglena gracilisの細胞はあまり沈殿しない様子が観察された。
実施例1のEuglena anabaenaについて、沈降試験を行った。実施例1のEuglena anabaenaは、試験管内で、10cm深さの培養液を静置したところ、静置開始から60分後に、沈殿として元の藻体量の64.0%が回収された。
また、Euglena gracilisと実施例1のEuglena anabaenaについて、対比沈降試験を行った。
それぞれEuglena gracilisはCM培地(pH3.5)、実施例1のEuglena anabaenaは、TAP培地に懸濁し、それぞれOD680 = 0.473, 0.478となる濃度に調整した。
その後、これらを20mL容量の試験管それぞれ5本に10mL(水深約6.5cm)入れ、静置し、それぞれ、5分後、10分後、20分後、30分後、60分後に上清を捨てた。それぞれの試験管に元と同じ水深に戻るまでそれぞれの培地を足し、藻体を浮遊させてOD680を測定した。測定値を、元の濃度と比較して、回収率を計算した。算出した計算結果を、
図9のグラフに示す。
図9に示すように、Euglena gracilisでは、5分後、10分後、20分後、30分後、60分後の回収率が、それぞれ、15.6%,11.8%,15.4%,20.9%,42.2%であったのに対し、実施例1のEuglena anabaenaでは、5分後、10分後、20分後、30分後、60分後の回収率が、それぞれ、19.8%,34.1%,49.0%,63.1%,93.3%であり、60分後には、9割以上が回収された。
【0071】
また、パラミロン粒子の詳細な観察のため、実施例1のEuglena anabaenaを培養した後、一部の細胞を採取してカバーグラスを載せた後に5分程度放置した。カバーグラスの重みで潰れた細胞を、顕微鏡(LeicaDM2500)で観察し、40倍対物レンズを利用し写真を撮影した。撮影した写真を、
図10に示す。
図10のように、各細胞には40-70個のパラミロン粒子が確認できた。スケールバーは10μmを示す。
実施例1のEuglena anabaenaを各種培地で育てた細胞を観察すると予想通り多くのパラミロン粒子が観察された。さらにカバーグラスの重みでつぶれた細胞を観察すると、多いものは一細胞あたり数十個ものパラミロン粒子が含まれることが確認できた。
【0072】
更に、100mL試験管を用い1週間培養した実施例1のEuglena anabaenaとEuglena gracilisの炭水化物含量を測定した。
Euglena gracilisはCM培地、もしくは窒素源を抜いたCM培地(以下、「CM(-N)培地」と称する。)を用いて培養した。実施例1のEuglena anabaenaはC培地、TAP培地、C&TAP混合培地のそれぞれを用いて培養した。
各細胞の含有炭水化物量は、藻体を凍結乾燥機(FDV-1200, EYLA)により乾燥させた後、10 mg程度を利用し定量した。乾燥操体に10mLのアセトンを加え、超音波破砕機(UD-201, TOMY)により細胞を破砕し、遠心により回収した沈殿をSDS水溶液(10%,1%)と水を利用して3回洗浄した。その後、得られたパラミロンを含む沈殿をフェノール硫酸法により定量し、元の藻体の乾燥重量と比較して、含有率を計算した。
【0073】
Euglena gracilisと実施例1のEuglena anabaenaの細胞の炭水化物含有率を、
図11に示す。
実施例1のEuglena anabaenaの藻体に含まれるパラミロンを定量すると、
図11に示すように、最大で乾燥重量の45%程度含むことが明らかとなった。Euglena gracilisも窒素制限などのストレスにより40%程度のパラミロンを蓄積したが、CM培地で独立培養した状態ではほとんどパラミロンの蓄積は確認できなかった。
【0074】
実施例1のEuglena anabaenaはTAP培地で培養することにより、増殖期であっても乾燥重量の45%程度のパラミロンを蓄積し、Euglena gracilisに匹敵する量のパラミロンを蓄積することが明らかになった。
【0075】
また、本試験例において、CM培地で培養した後に窒素制限を行ったEuglena gracilisと、TAP培地で培養した実施例1のEuglena anabaenaから分離したパラミロンの長径を測定した。パラミロンの長径の測定は、それぞれの顕微鏡写真から、画像処理ソフトであるImageJを用いて、100個のパラミロンをランダムに選択して長径を測定することにより行った。
Euglena gracilis及び実施例1のEuglena anabaenaのパラミロンの長径測定に用いたパラミロンの顕微鏡写真を
図12に、長径の測定値のヒストグラムを
図13に示す。
図12に示すように、目視において、実施例1のEuglena anabaenaの粒径がEuglena gracilisよりも小さい傾向があることが確認できた。
【0076】
図13より、Euglena gracilisのパラミロンの長径の平均値は2.91μm、標準誤差0.06μm、標準偏差0.61μm、実施例1のEuglena anabaenaの長径のパラミロンの平均値は1.94μm、標準誤差0.06μm、標準偏差0.57μmであり、実施例1のEuglena anabaenaのパラミロンの長径の平均値がEuglena gracilisのパラミロンよりも小さいことが確認できた。
Euglena anabaenaの長径の標準偏差0.57μmは、長径の平均値1.94の半分以下であり、より具体的には、1/3よりも若干小さい値であることが分かった。
Euglena anabaenaの長径の平均値は1.94μm、標準偏差は0.57μmであることから、平均値±標準偏差の範囲である長径1.37〜2.51μmの範囲に、68.27%(約2/3)のEuglena anabaenaが含まれ、平均値±(2×標準偏差)の範囲である長径0.8〜3.08μmの範囲に、95.45%(約19/20)のEuglena anabaenaが含まれるといえることが分かった。
【0077】
また、
図13に示すように、実施例1のEuglena anabaenaのパラミロンの長径の最頻値は、1.6〜1.8μmの範囲内であるのに対し、Euglena gracilisのパラミロンの長径の最頻値は、2.6〜2.8μmの範囲内であり、長径の最頻値についても、実施例1のEuglena anabaenaのパラミロンが、Euglena gracilisのパラミロンよりも大きいことが確認できた。なお、最頻値とは、度数分布において、度数が最も多く現れる値をいい、モード、並数ともいう。
図13に示すように、ランダムに選択された100個のEuglena anabaenaの細胞においては、最も小さい細胞の長径は、1.0〜1.2μmの範囲内であった。
【0078】
<試験例5 2Lスケールでの開放系培養試験>
本試験例では、実施例1のEuglena anabaenaを用いて、2Lスケールでの開放系培養試験を行った。
底面10cm x 10cmの直方体型の培養槽の側面をアルミホイルで遮光し、TAP培地+ vitamine(ビタミンB1:10μg/L,ビタミンB12:1μg/L)培地と、実施例1のEuglena anabaenaを、水量2L(水深20cm)となるように投入し、実施例1のEuglena anabaenaの培養を行った。
実施例1のEuglena anabaenaは、TAP培地を用いて前培養したものを用い、培養開始時の濃度を、5×10
5細胞/mL, 100g/m
2の濃度とした。
培養中において、培養槽の上面は蓋をせず開放し、メタルハライドランプを使用して、光量を800μmol photons/m
2s,明暗周期をL(明期)14h:D(暗期)10hとした。培養温度29℃、CO
210mL/minを含むよう、200mL/minで曝気し、培地を、底面からスターラーにより100rpmで撹拌した。
【0079】
本試験例の培養開始から180時間後までの藻体重量、藻体重量増加量、細胞数の変化を示すグラフを、
図14〜
図16に示す。
培養を1週間(168時間)行った結果、
図14に示すように、乾燥藻体重量は、250g/m
2程度増加した。また、
図15に示すように、1日あたり藻体重量増加平均は30g/m
2を超えていた。
1週間培養後の藻体と雑菌を、顕微鏡で40倍対物レンズで撮影した写真を、
図17(A)に、100倍対物レンズで撮影した写真であって、
図17(A)の写真を2.5倍に拡大した写真を、
図17(B)に、示す。
図17(B)の矢印で示すように、実施例1のEuglena anabaenaと共に、Euglena anabaenaよりも小粒の雑菌が観察され、培養液では雑菌の増殖も見られたが、Euglena anabaenaも順調に増殖した。
【0080】
本試験例より、少なくとも屋内で培養する限りにおいては、上面に蓋をせず開放した状態でEuglena anabaenaを培養することができることを確認した。培地は炭素源として酢酸を含むが、これがある程度の抗菌作用を示し、雑菌の増殖を抑制していることが予想される。
本試験例における20cm水深の角形培養槽は、屋外の20cm水深のプールの一部を切り取った状態を模している。本試験例で高い増殖を示したことから、屋外でも同様にEuglena anabaenaを培養できることが分かった。
ただし、本試験例の結果が、閉鎖系のバイオリアクター等によるEuglena anabaenaの高効率の増殖を否定するものではない。
【0081】
<試験例6 Euglena anabaenaにおけるパラミロンの油脂変換>
本試験例では、実施例1のEuglena anabaenaが嫌気状態においてパラミロンから油脂への変換を行うかの検討を行った。
メタルハライドランプ下、2Lスケールでの開放培養を7日間行った。培養は、光量800μmol photons/m
2sにて、明期14h, 暗期10hの周期とし、CO
2 5%を含む空気を200mL/minで曝気し、スターラーにて100rpmで撹拌した。
開放培養により一定量の藻体が集まったので、これを回収して嫌気発酵を行い油脂合成の可否を試験した。
つまり、2LにEuglena anabaenaの乾燥藻体をおよそ3.6g含む培養液から、一部(2.5g相当)のEuglena anabaena藻体を80mLに遠心濃縮した。
そのうちの50mLを使用し、100% N
2での曝気を行い嫌気状態にした。残り30mL分は冷凍保存した。
【0082】
嫌気状態の濃縮液を密閉し、2日間29℃にて遮光保存した。また、嫌気前後の藻体をEYELA FDV-1200で凍結乾燥した。
乾燥藻体のそれぞれ10 mg程度を利用し、パラミロンの定量を行った。
パラミロンの定量は、次の方法により行った。乾燥藻体をアセトン10mLに懸濁し、90秒超音波破砕(TOMY, UD-201)を行った。800g, 5分遠心により沈殿を回収し、再びアセトン10mLを加え、再度超音波破砕を行った。800g, 5分遠心により沈殿を回収し、1% SDSを20mL加え撹拌し、30分湯浴した。800g, 5分遠心により沈殿を回収し、0.1% SDSを10mL加え、よく撹拌した。800g, 5分遠心により沈殿を回収し、イオン交換水20mLを加え洗浄した。800g, 5分遠心により沈殿を回収し、0.5 N NaOHに定容して、フェノール硫酸法にて糖定量した。
【0083】
また、乾燥藻体のそれぞれ100 mg程度を利用し、含有油脂量の定量を行った。
含有油脂量の定量は、次の方法により行った。乾燥藻体を20mLヘキサンに懸濁し、90秒超音波破砕(TOMY, UD-201)を行った。ろ紙にて残渣を吸引濾過し、さらにヘキサンで残渣を洗浄しつつ油脂を含むヘキサンを全量回収した。回収したヘキサンを、乾燥重量を測定した50mL容ナスフラスコに移した。ロータリーエバポレーター(EYELA, NVC-2100 N-1100)を用いてヘキサンを留去した。ナスフラスコの乾燥重量を測定し、回収した油脂重量を計算した。
【0084】
パラミロンの定量結果を
図18(A)に、油脂含有量の定量結果を
図18(B)に示す。
嫌気後には、ほぼ全ての藻体が死んでしまっていた。嫌気発酵が途中で止まり、不十分だった可能性がある。
図18(A)に示すように、定量したパラミロン量は、嫌気発酵前で乾燥藻体重量の14%程度であった。これは、試験例4の結果より少ない値であった。原因としては、増殖を促進する目的で培養途中に硫安を大量に添加したためと考えられ、Euglena gracilisがアンモニア量依存でパラミロン蓄積量が変化するのと同様の現象が現れている可能性が考えられた。ただ、Euglena gracilisが増殖期でほとんどパラミロンを蓄積しないのと比較して、実施例1のEuglena anabaenaでは、依然としてパラミロンの蓄積は多かった。
【0085】
嫌気発酵前後で藻体重量はおよそ37%減少した。この藻体重量の減少分を考慮して、
図18(A)(B)において、パラミロン含量と油脂含量は、嫌気発酵前の藻体重量を基準とした割合で表している。
図18(A)において、嫌気発酵前後でパラミロン含量が減少しているのに対し、
図18(B)において、油脂含量は増加がみられた。以上のことから実施例1のEuglena anabaenaも、Euglena gracilisと同様に、嫌気状態においてパラミロンを消費してエネルギーを獲得し、同時に油脂生産を行っていることがわかった。
以上より、実施例1のEuglena anabaenaの培養を行った後、実施例1のEuglena anabaenaの濃縮液を作製し、この濃縮液を嫌気状態におくことにより、パラミロンが油脂に変換され、実施例1のEuglena anabaena由来の油脂が生成できることが分かった。