特許第6604658号(P6604658)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6604658高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法、高炉操業方法及び送風羽口
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604658
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法、高炉操業方法及び送風羽口
(51)【国際特許分類】
   C21B 7/24 20060101AFI20191031BHJP
   C21B 5/00 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   C21B7/24 305
   C21B5/00 319
   C21B5/00 321
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-112046(P2017-112046)
(22)【出願日】2017年6月6日
(65)【公開番号】特開2018-204076(P2018-204076A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2019年1月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成25年度、国立研究開発−法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「環境調和型製鉄プロセス技術開発(STEP2)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日鉄日新製鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】盛家 晃太
(72)【発明者】
【氏名】村尾 明紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 功一
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】深田 喜代志
【審査官】 印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−030105(JP,A)
【文献】 特開平07−305105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00 − 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送風羽口本体の送風流路または送風羽口上流側のブローパイプ部の送風流路に先端部が位置する吹込み管を通じて還元材を炉内へ吹込む高炉操業において、
該羽口本体または該ブローパイプ部に設けた観察孔を通じて該還元材の燃焼場におけるラジカルの発光ピーク強度を測定し、得られた該発光ピーク強度を、予め作成しておいた該還元材の燃焼率とその燃焼場におけるラジカルの発光ピーク強度との関係を表す検量線と照合することにより、測定した燃焼場におけるラジカルの発光ピーク強度から該還元材の燃焼率を推定することを特徴とする高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法。
【請求項2】
還元材として、微粉炭、天然ガス、プロパンガス、重油、軽油、化石燃料、植物性油脂、コークス炉ガスおよび廃プラスチックのうちから選んだ少なくとも一種を用いることを特徴とする請求項1に記載の高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法を利用する高炉操業において、
推定された還元材の燃焼率が、安定操業時の燃焼率に対する相対値として0.95を下回った際に、送風中の酸素濃度を1vol%以上上昇させることを特徴とする高炉操業方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法を利用する高炉操業において、
推定された還元材の燃焼率が、安定操業時の燃焼率に対する相対値として0.95を下回った際に、送風温度を20℃以上上昇させることを特徴とする高炉操業方法。
【請求項5】
送風羽口本体または送風羽口上流側のブローパイプ部のいずれかの送風流路に先端部が位置する還元材の吹込み管を有し、さらに該送風羽口本体または該ブローパイプ部のいずれかまたは両方に、その内外に通じる観察ランスを有し、該観察ランスは、該送風羽口本体または該ブローパイプ部の外側に観察窓をそなえると共に、その他端部には該送風流路内に吹き込んだ還元材の燃焼場におけるラジカルの発光ピーク強度を測定するための発光強度測定装置をそなえ、加えて送風羽口本体から高炉のレースウェイ内へ噴出した還元材を採取するための還元材採取装置を有することを特徴とする送風羽口。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元材を炉内へ吹き込む高炉操業において、吹き込まれた還元材の燃焼率を的確に推定することができる高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法に関するものである。
また、本発明は、上記した高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法を利用することによって高炉の安定操業を図る高炉操業方法に関するものである。
さらに、本発明は、上記した高炉操業方法の実施に用いて好適な送風羽口に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、高炉操業においては、コークス使用量の削減を目的として、送風羽口から還元材を吹き込む操業が実施されている。
かような高炉操業において、送風羽口から吹き込まれる還元材としては、微粉炭、天然ガス、プロパンガス、重油、軽油、タールなどの化石燃料、菜種油をはじめとする植物性油脂、コークス炉ガスおよび廃プラスチックなどが挙げられる。これらの還元材は、ブローパイプと送風羽口本体で構成される送風羽口内に挿入されたランスと呼ばれる吹込み管を通じて熱風流路に吹き込まれ、熱風とともに高炉炉内に供給されている。
【0003】
高炉炉内に供給された還元材は、送風羽口内部および羽口先端に形成されるレースウェイ部で燃焼し、高炉下部の熱の維持および酸化鉄の還元などの観点からコークスの代替となるが、送風流速が毎秒200mと非常に速いため、還元材が送風羽口内に吹き込まれてからレースウェイを通り炉内充填層に入るまでの時間は数ミリ秒と非常に短い。
そのため、コークス使用量をより削減するために吹込む還元材の量を増加させていくと、レースウェイ内で完全に燃焼できなかった還元材(以降、未燃チャーと呼ぶ)が炉内充填層に侵入し、炉内に残留することがあった。
【0004】
炉内に残留した未燃チャーの一部は、ソリューションロス反応で消費されるが、その消費量には限界があるため、未消費のままの未燃チャーは、一部が炉頂から排出されてコークス置換率の低下を招き、それに伴い還元材比の上昇につながる。また、その一部は、炉芯や滴下帯に蓄積して炉内通気・通液性の悪化の原因となる。
そのため、健全な高炉操業を維持するためには、還元材の燃焼率を一定水準以上に保つことが必要である。
【0005】
そのためには、還元材が燃焼する送風羽口内部およびレースウェイ部において還元材の燃焼率を把握する必要があるが、高炉の送風羽口内部およびレースウェイ部は摂氏2000度を超える高温燃焼場であるうえ、レースウェイ部にはコークスや溶銑、スラグなども存在しているため、還元材の燃焼率の測定は極めて困難である。
【0006】
これまで、燃焼率に代表される還元材の燃焼挙動を把握する方法として、次のような方法が提案されてきた。
たとえば、特許文献1では、送風羽口覗き窓に設置した放射温度カメラで測定したレースウェイの輝度から温度を計算し、該温度の時系列データのスペクトル解析を行い、パワー密度スペクトルが最大となる周波数の逆数からレースウェイ崩壊周期を算出し、この崩壊周期から微粉炭燃焼率を評価する方法が提案されている。
【0007】
また、特許文献2では、高炉の羽口部に設置したゾンデの先端から微粉炭燃焼炎の発光を検出し、該発光を分光分析して、特にアルカリ金属ピークの強度比から微粉炭の燃焼挙動を観測する方法が提案されている。
【0008】
さらに、特許文献3では、高炉送風羽口背面の窓からレースウェイ内燃焼場の発光を異なる2波長で撮像し、かかるデータをデジタル化した画像の画素を2色輝度から温度を求めてヒストグラム化し、このヒストグラムの形状から炉況を検知する方法が提案されている。
【0009】
その他、高炉以外の分野では、燃料の燃焼挙動を計測する方法として、次のような方法が提案されている。
たとえば、特許文献4では、ガスタービン中トランジションピース(TP)内において、ガス燃焼場を分割し、このガス燃焼場の発光をTP内壁に複数設けられた受光部で検出し、分光分析することでバンドスペクトル強度を求め、かかるガスの燃焼属性に基づいてガス燃焼場各部位の平均ガス温度を計算し、各部位ごとに計算された平均ガス温度と前記バンドスペクトル強度から該ガス燃焼場のガス温度分布を算出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−305105号公報
【特許文献2】特開平10−30105号公報
【特許文献3】特許4873788号公報
【特許文献4】特開2012−193978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1および特許文献3に述べられた方法は、送風羽口の背面覗き窓から輝度あるいは放射温度を測定し微粉炭の燃焼挙動を推定する方法であり、計測する方向とブローパイプ部・羽口内のガス流れが同方向であるため、測定対象である微粉炭の位置の特定が難しく、たとえ微粉炭の燃焼挙動を把握できたとしても、その現象が起こった位置を判別できないという問題点があった。
【0012】
また、特許文献2に記載の方法では、微粉炭の発光を測定するために羽口部からゾンデを挿入する必要があるが、羽口内にゾンデを挿入すると羽口内のガス流れが乱れ微粉炭の燃焼挙動が通常の操業から変化してしまうという問題があった。また、羽口部からレースウェイにゾンデを挿入して発光を測定する場合では溶銑滓やコークスの発光の影響を受け微粉炭の発光を正しく測定できないという問題があった。
【0013】
さらに、特許文献4に記載の方法は、燃料の燃焼温度の制御性を高めるために、燃焼装置内壁に光ファイバーなどの受光部を設置し、検出した光を元に燃焼装置内の特定位置における燃焼ガスの温度分布を算出する方法であって、高炉羽口部における還元材の燃焼率測定という課題とは合致しない。
また、ブローパイプ部〜羽口部においては一般的に、微粉炭をはじめとした固体還元材を吹込む場合があるほか、熱風炉から脱落したレンガの破片をはじめとする異物などが、燃焼ガスとともに固体が装置内を流れる。このような環境下において炉内壁に受光部を設置すると、飛来した固体の受光部への衝突、吹込み還元材から発生する溶融難燃物の付着により、受光部が破損し、炉内燃焼場の発光の検出が不可能になる場合があった。一旦発光の検出が不可能になると、ブローパイプあるいは羽口の交換作業が必要となるが、そのためには高炉の操業を中断する必要があり、溶銑の生産量が減少するという課題があった。
【0014】
本発明は、上記の課題を有利に解決するもので、還元材吹込みを行う高炉操業において、吹込んだ還元材の燃焼率を的確に推定することができる高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記した高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法で得られた結果に基づいて、操業条件を調整することにより高炉の安定操業を行うことができる高炉操業方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、上記した高炉操業方法の実施に用いて好適な送風羽口を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.送風羽口本体の送風流路または送風羽口上流側のブローパイプ部の送風流路に先端部が位置する吹込み管を通じて還元材を炉内へ吹込む高炉操業において、
該羽口本体または該ブローパイプ部に設けた観察孔を通じて該還元材の燃焼場におけるラジカルの発光ピーク強度を測定し、得られた該発光ピーク強度を、予め作成しておいた該還元材の燃焼率とその燃焼場におけるラジカルの発光ピーク強度との関係を表す検量線と照合することにより、測定した燃焼場におけるラジカルの発光ピーク強度から該還元材の燃焼率を推定することを特徴とする高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法。
【0016】
2.還元材として、微粉炭、天然ガス、プロパンガス、重油、軽油、化石燃料、植物性油脂、コークス炉ガスおよび廃プラスチックのうちから選んだ少なくとも一種を用いることを特徴とする前記1に記載の高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法。
【0017】
3.前記1または2に記載の高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法を利用する高炉操業において、
推定された還元材の燃焼率が、安定操業時の燃焼率に対する相対値として0.95を下回った際に、送風中の酸素濃度を1vol%以上上昇させることを特徴とする高炉操業方法。
【0018】
4.前記1または2に記載の高炉吹込み還元材の燃焼率推定方法を利用する高炉操業において、
推定された還元材の燃焼率が、安定操業時の燃焼率に対する相対値として0.95を下回った際に、送風温度を20℃以上上昇させることを特徴とする高炉操業方法。
【0019】
5.送風羽口本体または送風羽口上流側のブローパイプ部のいずれかの送風流路に先端部が位置する還元材の吹込み管を有し、さらに該送風羽口本体または該ブローパイプ部のいずれかまたは両方に、その内外に通じる観察ランスを有し、該観察ランスは、該送風羽口本体または該ブローパイプ部の外側に観察窓をそなえると共に、その他端部には該送風流路内に吹き込んだ還元材の燃焼場におけるラジカルの発光ピーク強度を測定するための発光強度測定装置をそなえ、加えて送風羽口本体から高炉のレースウェイ内へ噴出した還元材を採取するための還元材採取装置を有することを特徴とする送風羽口。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、還元材の燃焼により生成したラジカルの発光ピーク強度と、送風羽口内に吹き込まれた還元材の燃焼率との関係を予め求めておき、その上で送風羽口内のラジカルの発光ピーク強度を測定することで、還元材の燃焼率を非接触で推定し、またこの推定値に基づいて操業条件を制御することによって、炉内の環境に干渉することなく還元材の燃焼率を正確に把握することができ、その結果、より安定した高炉操業を行うことができる。
また、観察孔を通じて炉外から還元材燃焼場の発光強度を測定することによって、受光部の破損を防ぎ、高炉操業に支障をきたすことなしに還元材の燃焼率を正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施に用いて好適な送風羽口の模式図である。
図2】本発明に従って作成された検量線を示す図である。
図3】小型燃焼炉の断面を示す模式図である。
図4】本発明に従い作成した微粉炭燃焼率の検量線を示す図である。
図5】微粉炭燃焼場の発光スペクトルの一部,ならびにラジカルの発光ピーク強度の算出方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体的に説明する。
送風羽口本体や送風羽口上流側のブローパイプ部の送風流路に吹き込まれた還元材の燃焼場は、2000℃を超える高温条件であるため、大気中や常温では存在しないラジカルが生成する。
還元材燃焼場の例として微粉炭燃焼場について述べると、微粉炭中の炭化水素の燃焼に由来するOH,CH,Cラジカルや、微粉炭中の灰分に含まれるNa,Kに由来するNa,Kラジカルが存在する。
このような燃焼場では、熱や燃焼反応によってラジカルが励起され、このラジカルが励起状態から基底状態に遷移する際にラジカルに固有な波長をもつ光を放出する現象が確認されている(OHラジカル:309nm,CHラジカル:431nm,Cラジカル:517nm,Naラジカル:589nm,Kラジカル:766,770nm)。
【0023】
ここに、ラジカルの発光ピーク強度は、ラジカルが還元材の燃焼により生成するものであるから還元材の燃焼率との相関があると考えられる。
本発明は、上記の相関を利用して、還元材の燃焼率とその燃焼場に存在するラジカルの発光ピーク強度の関係を表す検量線を予め作成しておくことで、燃焼場に存在するラジカルの発光ピーク強度から還元材の燃焼率を推定するものである。
また、本発明は、その推定値がある一定の水準未満となった時に、還元材の燃焼率を向上させるような操業条件の変更を行うことで、より安定的な高炉操業を行うものである。
【0024】
図1に、本発明の実施に用いて好適な送風羽口の一例を示す。
図中、符号1は送風羽口本体、2は送風羽口本体に接続しているブローパイプ部、3は還元材吹込み管であり、この例ではこの還元材吹込み管3の先端部が送風羽口本体1の送風流路に挿入された場合について示している。4は高炉のレースウェイ、5は送風羽口本体1を通り、レースウェイ4中でサンプリングを実施するためのサンプリング器具である。6はブローパイプ部2の内外に通じる観察孔であり、7は観察孔6のパイプ部外側に設けた観察窓、8は観察孔6の他端部において送風羽口本体1内のラジカルの発光ピーク強度を測定する発光強度測定装置である。
【0025】
ここに、サンプリング器具5としては、レースウェイ内へ噴出した還元材の採取が可能であればどのような形式でもよい。
また、観察ランス孔6について、図1ではブローパイプ部2に設置されているが、この点については流れ方向の位置を特定できる形で炉内の還元材燃焼場の発光を計測可能な位置であれば、設置箇所は問わない。
さらに、発光強度測定装置8としては、ラジカルの発光ピーク強度が計算可能という条件を満たす分光装置であれば、干渉フィルターを用いたもの、回折格子を用いたもの、プリズムを用いたものなどいずれもが適合し、その形式は問わない。
【0026】
さて、本発明では、種々の還元材について、その燃焼率と特定のラジカルの発光ピーク強度との関係を予め求めて、検量線を作成しておく。
その一例を図2に示す。
図2は、還元材として粉炭を用い、その燃焼率とOHラジカルの発光ピーク強度との関係を求めて作成した検量線である。
同図に示したとおり、還元材の燃焼率とラジカルの発光ピーク強度との間には強い相関がある。
そこで、この検量線を利用して還元材の燃焼率を推定するのである。
【0027】
すなわち、図1に示したような構成の送風羽口を用いて送風流路に還元材を吹き込む高炉操業を行う場合において、燃焼場における特定のラジカルの発光ピーク強度を測定し、得られた発光ピーク強度を予め作成しておいた検量線と照合することにより、還元材の燃焼率を推定するのである。
【0028】
ここに、発光ピーク強度を測定するラジカル種については、還元材の燃焼場に生成するラジカルであれば何でもよい。
本発明では、OH,CH,C,Na,Kラジカルなどを用いることができるが、特にOH,CH,Cラジカルは、化石燃料系の還元材でなくても燃焼の際に生成するため、これらを用いることがとりわけ有利である。
【0029】
本発明に従い、かような検量線を、還元材ごとに求めておけば、使用した還元材の燃焼場におけるラジカルの発光ピーク強度を測定することにより、還元材の燃焼率を推定することができる。
なお、発明者らの実験によれば、還元材の種類によって、還元材の燃焼率との燃焼場における特定のラジカル発光ピーク強度との関係にさほどの差異はなく、従ってこれらを合成することにより、検量線は一本に集約しても問題はないことが判明した。
【0030】
また、上記の検量線を利用して推定した還元材の燃焼率を、実際にサンプリング器具5を用いて測定したレースウェイ4内の還元材燃焼率と比較したところ、よい相関が見られることも確かめられた。
【0031】
そして、上記のようにして正確に還元材の燃焼率を推定することができれば、この推定値を高炉操業に活用することにより、高炉操業の一層の安定化を図ることができる。
推定された還元材の燃焼率が、安定操業期のおける燃焼率を下回った場合は、高炉内における熱量不足のみならず、未燃チャーの発生が懸念される。
従って、かような場合には、炉内における還元材燃焼率の回復を図る必要がある。
【0032】
そこで、本発明では、推定された還元材の燃焼率が、安定操業期の燃焼率に対する相対値で0.95を下回った場合には、送風酸素濃度を1vol%以上上昇させることにしたのである。なお、送風酸素濃度の上昇率は1〜5vol%とするのが好ましい。5vol%を超えると炉内へ供給されるCO等の還元ガスの増加に伴う炉内装入物の荷下がり速度の増大から、低温の装入物が炉下部に到達して操業トラブルを引き起こす。より好ましい送風酸素濃度の上昇率は1〜2vol%である。
かくして、前記したような、還元材燃焼率の低下に起因するコークス置換率の低下に伴う還元材比の増加や、滴下帯や炉芯への未燃チャーの蓄積による炉内通気性の悪化といった悪影響を未然に防止して、安定した高炉操業を行うことができる。
ここで、安定操業期とは、棚吊り、吹き抜け、羽口閉塞、出銑滓異常などに代表される高炉操業上のトラブルが発生しなかった期間とする。
【0033】
また、還元材の燃焼率が低下した際の対処法としては、送風酸素濃度を上昇させることの他、送風温度を上昇させることによっても、同様な効果が得られることが判明した。
すなわち、推定された還元材の燃焼率が、安定操業時の燃焼率に対する相対値で0.95を下回った場合には、送風温度を20℃以上上昇させることによっても、同様に対処することができる。なお、送風温度の上昇程度は20〜50℃とするのが好ましい。50℃を超えると炉熱の上昇に伴い溶銑中Si濃度の上昇幅が大きく、後の工程で不純物除去に要する時間やコストが増大するため望ましくない。より好ましい送風温度の上昇程度は20〜30℃である。
【実施例】
【0034】
(実施例1)送風中酸素濃度調整の実施例
実験は、図3に示すような円筒形の小型燃焼炉10を用いて行った。この小型燃焼炉10は、内径100mmの円柱状の流路を有し、その長手方向に沿って還元材吹込み管3−1,3−2の先端からそれぞれ80mm、280mm隔てて2つの側面観察窓6−1,6−2が設置されている。
【0035】
図3に示した円筒形の小型燃焼炉を用い、その上流側から送風量毎時210Nm,送風温度1000℃,酸素濃度16,28,37,43,49vol%の条件で熱風を吹き込んだ。その熱風中に、側面観察窓から先端が見える位置に、側面・上流側から20度の角度で挿入した2本の還元材吹込み管3−1,3−2を通じて、還元材として微粉炭を毎時35kg、コークス炉ガスを模擬した気体(その組成を表1に示す)を毎時22Nm吹込み、この還元材の燃焼によって生成されたOHラジカルの発光ピーク強度(OHラジカル:309nm)と、微粉炭の燃焼率の関係について調査を行い(図4中にηBT、ηBOで示す点)、検量線を作成した。
【0036】
【表1】
【0037】
作成した検量線を図4に示す。なお、この検量線は、後述する実施例2で求めたOHラジカルの発光ピーク強度と微粉炭の燃焼率の関係についての調査結果と合成して作成したものである。ここで、ηBOは送風温度一定(1000℃)で送風酸素濃度を変更した本実施例の条件、ηBTは送風酸素濃度一定(37vol%)で送風温度を変更した実施例2の条件におけるプロットである。
ここに、発光ピーク強度の計測は、還元材吹込み管の先端から80mmの距離に位置する側面観察窓6−1から実施した。発光ピーク強度計測には190nm〜1100nmの波長範囲の光を測定可能な分光装置を用い、この分光装置を用いた測定により得られた図5に示すような発光スペクトルから、OHラジカルのピーク強度を算出した。また、微粉炭の燃焼率は、還元材吹込み管の先端280mmに位置する側面観察窓6−2の対面に設置されたサンプリングゾンデ(図示省略)を用いて炉内を流れるガスを採取し、採取したガス中の気体の濃度の分析値を利用して、次の式を用いて算出した。
【0038】
【数1】
ここで、ηc:微粉炭燃焼率[%],xi:1分子あたり炭素原子をi個含む気体の採取ガス中の濃度[vol%],xN2:採取ガス中の窒素濃度[vol%],VN2°:送風中窒素流量[Nm/時],Vi°:1分子あたり炭素原子をi個含む気体の送風、還元ガス中の体積の合計[Nm/時],xc,pc:微粉炭中炭素原子分率[mass%],mpc:微粉炭吹込み量[kg/時]である。
【0039】
図4より、OHラジカルの発光ピーク強度は微粉炭燃焼率と良い相関関係にあることが分かる。
かくして、この関係を利用して、ラジカルの発光ピーク強度を測定することで微粉炭の燃焼率を推定できることが明らかとなった。
【0040】
次に、炉内体積12mの高炉を模擬した試験炉において、OHラジカルの発光ピーク強度測定から推定した燃焼率と高炉操業の安定性について検証を行った。高炉の出銑量は30t/日(下記表2中ではt/dと記載)で一定となるように送風量を決定し、操業の安定性の指標として通気抵抗指数を用いた。通気抵抗指数は、炉頂圧と送風圧との圧力差および送風量をパラメータとした炉内の通気性を示す指数であり、この数値が大きいほど炉内の通気性が悪いことを意味する。この検証を行った期間では、送風温度1000℃の条件下で羽口先温度が一定の範囲となるように送風中湿分を調整し、溶銑温度は1470℃±10℃の範囲に収めた。
まず、ベース条件として、表2に示すケース1の条件、すなわちコークス比401kg/t、微粉炭比136kg/t、送風酸素濃度27.0vol%で操業を行ったところ、トラブルなく安定した操業を行うことができた。この条件を安定操業期とし、この条件における微粉炭燃焼率、通気抵抗指数を1.0と規格化した。ついで、表2に示すように条件を種々に変更して操業を行った際の通気抵抗指数を相対比較した。通気抵抗指数は、1.05までは安定操業を行う上で問題ない値であった。ここで、微粉炭は全条件で同じ銘柄のものを使用し、微粉炭吹込みランスは全羽口において単管のものを1本ずつ使用した。
【0041】
【表2】
【0042】
ケース2は、ケース1に対して微粉炭比を5kg/t増加させた条件である。ケース1に比してケース2では、相対微粉炭燃焼率が0.96まで低下し、通気抵抗指数が1.04まで増加したが、安定に操業できる範囲内であった。
ケース3は、ケース2からさらに微粉炭比を5kg/t増加させた条件である。ケース2に比してケース3では相対微粉炭燃焼率が0.93まで低下し、通気抵抗指数は1.08まで増加した。この条件では、炉内の通気性が非常に悪く、コークス比を414kg/tまで増加させたものの、安定操業を行うことが非常に難しくなった。この原因としては、前述したとおり、未燃チャーが滴下帯および炉心に蓄積し、炉内の通気を阻害したことが考えられる。
ケース4は、ケース3の条件から送風中酸素濃度を0.5vol%上昇させ、微粉炭燃焼率の向上を試みた場合である。ケース3に比してケース4では、相対微粉炭燃焼率が0.94まで上昇し、通気抵抗指数は1.06まで改善したものの、コークス比は410kg/tと依然として高く、炉況は安定しなかった。
ケース5は、ケース4の条件から送風中酸素濃度をさらに0.5vol%上昇させ、微粉炭燃焼率の向上を試みた場合である。ケース4に比してケース5では、相対微粉炭燃焼率が0.95まで増加し、通気抵抗指数は1.03まで改善された。また、コークス比もベース条件であるケース1に比して6kg/t減少した395kg/tとなった。この条件では、ケース3および4とは異なり、安定した操業を行うことができた。
ケース6は、ケース5の条件から送風中酸素濃度をさらに0.8vol%上昇させ、微粉炭燃焼率の向上を試みた条件である。ケース5に比してケース6では、相対微粉炭燃焼率が0.99まで増加し、安定操業を行うことができ、通気抵抗指数も1.02とケース5に比して0.01低下した。ただ、コークス比は394kg/tで、ケース5に比した減少の幅は1kg/tに止まった。
以上の検証から、安定操業期の微粉炭燃焼率に対する相対微粉炭燃焼率が0.95を下回らないように送風酸素濃度を少なくとも1vol%上昇させることで、安定した高炉操業を実施することが可能であることが確認された。
【0043】
(実施例2)送風温度調整の実施例
実験は、実施例1と同様、図3に示すような円筒形の小型燃焼炉10を用いて行った。
送風条件は、上流側から送風量毎時210Nm,送風温度900,1000,1100,1200℃、酸素濃度37vol%の熱風を吹き込む条件とした。そして、実施例1と同様、2本の還元材吹込み管を通じて、還元材として微粉炭を毎時35kg、コークス炉ガスを模擬した気体を毎時22Nm吹込み、この還元材の燃焼によって生成されたOHラジカルの発光ピーク強度(OHラジカル:309nm)と、微粉炭の燃焼率の関係について調査を行った。
この調査結果を利用して求めた検量線は、前掲図4に示したものである。
ここに、発光ピーク強度の計測は、実施例1と同様にして行った。
【0044】
図4に示したとおり、OHラジカルの発光ピーク強度は微粉炭燃焼率と良好な相関関係に有ることが確認された。それ故、この関係を利用して、ラジカルの発光ピーク強度を測定することによって、微粉炭の燃焼率を推定できることができるのである。
【0045】
次に、実施例1と同様、炉内体積12mの高炉を模擬した試験炉で、OHラジカルの発光ピーク強度を測定し、その値から推定した燃焼率と操業の安定性について検証を行った。高炉の出銑量は30t/日(下記表2中ではt/dと記載)で一定となるように送風量を決定し、操業の安定性の指標として通気抵抗指数を用いた。
まず、ベース条件として、表3に示すケース1の条件、すなわちコークス比399kg/t、微粉炭比135kg/t、送風温度980℃で操業を行ったところ、トラブルなく安定した操業を行うことができた。この条件を安定操業期とし、この条件における微粉炭燃焼率、通気抵抗指数を1.0と規格化した。ついで、表3に示すように条件を種々に変更して操業を行った際の通気抵抗指数を相対比較した。通気抵抗指数は、1.05までは安定操業を行う上で問題ない値であった。ここで、微粉炭は全条件で同じ銘柄のものを使用し、微粉炭吹込みランスは全羽口において単管のものを1本ずつ使用した。
【0046】
【表3】
【0047】
ケース2は、ケース1に対して微粉炭比を5kg/t増加させた条件である。ケース1に比してケース2では、相対微粉炭燃焼率が0.97まで低下し、通気抵抗指数が1.04まで増加したが、安定に操業できる範囲内であった。
ケース3は、ケース2からさらに微粉炭比を5kg/t増加させた条件である。ケース2に比してケース3では相対微粉炭燃焼率が0.93まで低下し、通気抵抗指数は1.07まで増加した。この条件では、炉内の通気性が非常に悪く、コークス比を416kg/tまで増加させたものの、安定操業を行うことが非常に難しくなった。この原因としては、前述したとおり、未燃チャーが滴下帯および炉芯に蓄積し、炉内の通気を阻害したことが考えられる。
ケース4は、ケース3の条件から送風温度を10℃上昇させ、微粉炭燃焼率の向上を試みた場合である。ケース3に比してケース4では、相対微粉炭燃焼率が0.94まで上昇し、通気抵抗指数は1.06まで改善した。しかし、コークス比は409kg/tと依然高く、炉況は安定しなかった。
ケース5は、ケース4の条件から送風温度をさらに10℃上昇させ、微粉炭燃焼率の向上を試みた場合である。ケース4に比してケース5では、相対微粉炭燃焼率が0.95まで増加し、通気抵抗指数は1.03まで改善した。また、コークス比もベース条件であるケース1に比して6kg/t減少した393kg/tとなった。この条件では、ケース3および4とは異なり、安定した操業を行うことができた。
ケース6は、ケース5の条件から送風温度をさらに10℃上昇させ、微粉炭燃焼率の向上を試みた条件である。ケース5に比してケース6では、相対微粉炭燃焼率が0.99まで増加し、安定操業を行うことができたものの、通気抵抗指数に関しては1.03とケース5と同じ値であった。また、コークス比は392kg/tで、ケース5に比した減少幅は1kg/tに止まった。
以上の検証から、安定操業期の微粉炭燃焼率に対する相対微粉炭燃焼率が0.95を下回らないように送風温度を少なくとも20℃上昇させることで、安定した高炉操業を実施することが可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によって、還元材の吹込みを行う高炉操業において、送風羽口内における還元材の燃焼率を正確に推定して、より安定した高炉操業を行うことが可能となった。
【符号の説明】
【0049】
1 送風羽口本体
2 ブローパイプ部
3 還元材吹込み管
4 レースウェイ
5 サンプリング器具
6 観察孔
7 観察窓
8 発光強度測定装置
10 小型燃焼炉
図1
図2
図3
図4
図5