【実施例】
【0034】
(実施例1)送風中酸素濃度調整の実施例
実験は、
図3に示すような円筒形の小型燃焼炉10を用いて行った。この小型燃焼炉10は、内径100mmの円柱状の流路を有し、その長手方向に沿って還元材吹込み管3−1,3−2の先端からそれぞれ80mm、280mm隔てて2つの側面観察窓6−1,6−2が設置されている。
【0035】
図3に示した円筒形の小型燃焼炉を用い、その上流側から送風量毎時210Nm
3,送風温度1000℃,酸素濃度16,28,37,43,49vol%の条件で熱風を吹き込んだ。その熱風中に、側面観察窓から先端が見える位置に、側面・上流側から20度の角度で挿入した2本の還元材吹込み管3−1,3−2を通じて、還元材として微粉炭を毎時35kg、コークス炉ガスを模擬した気体(その組成を表1に示す)を毎時22Nm
3吹込み、この還元材の燃焼によって生成されたOHラジカルの発光ピーク強度(OHラジカル:309nm)と、微粉炭の燃焼率の関係について調査を行い(
図4中にηBT、ηBO
2で示す点)、検量線を作成した。
【0036】
【表1】
【0037】
作成した検量線を
図4に示す。なお、この検量線は、後述する実施例2で求めたOHラジカルの発光ピーク強度と微粉炭の燃焼率の関係についての調査結果と合成して作成したものである。ここで、ηBO
2は送風温度一定(1000℃)で送風酸素濃度を変更した本実施例の条件、ηBTは送風酸素濃度一定(37vol%)で送風温度を変更した実施例2の条件におけるプロットである。
ここに、発光ピーク強度の計測は、還元材吹込み管の先端から80mmの距離に位置する側面観察窓6−1から実施した。発光ピーク強度計測には190nm〜1100nmの波長範囲の光を測定可能な分光装置を用い、この分光装置を用いた測定により得られた
図5に示すような発光スペクトルから、OHラジカルのピーク強度を算出した。また、微粉炭の燃焼率は、還元材吹込み管の先端280mmに位置する側面観察窓6−2の対面に設置されたサンプリングゾンデ(図示省略)を用いて炉内を流れるガスを採取し、採取したガス中の気体の濃度の分析値を利用して、次の式を用いて算出した。
【0038】
【数1】
ここで、η
c:微粉炭燃焼率[%],x
i:1分子あたり炭素原子をi個含む気体の採取ガス中の濃度[vol%],x
N2:採取ガス中の窒素濃度[vol%],V
N2°:送風中窒素流量[Nm
3/時],V
i°:1分子あたり炭素原子をi個含む気体の送風、還元ガス中の体積の合計[Nm
3/時],x
c,pc:微粉炭中炭素原子分率[mass%],m
pc:微粉炭吹込み量[kg/時]である。
【0039】
図4より、OHラジカルの発光ピーク強度は微粉炭燃焼率と良い相関関係にあることが分かる。
かくして、この関係を利用して、ラジカルの発光ピーク強度を測定することで微粉炭の燃焼率を推定できることが明らかとなった。
【0040】
次に、炉内体積12m
3の高炉を模擬した試験炉において、OHラジカルの発光ピーク強度測定から推定した燃焼率と高炉操業の安定性について検証を行った。高炉の出銑量は30t/日(下記表2中ではt/dと記載)で一定となるように送風量を決定し、操業の安定性の指標として通気抵抗指数を用いた。通気抵抗指数は、炉頂圧と送風圧との圧力差および送風量をパラメータとした炉内の通気性を示す指数であり、この数値が大きいほど炉内の通気性が悪いことを意味する。この検証を行った期間では、送風温度1000℃の条件下で羽口先温度が一定の範囲となるように送風中湿分を調整し、溶銑温度は1470℃±10℃の範囲に収めた。
まず、ベース条件として、表2に示すケース1の条件、すなわちコークス比401kg/t、微粉炭比136kg/t、送風酸素濃度27.0vol%で操業を行ったところ、トラブルなく安定した操業を行うことができた。この条件を安定操業期とし、この条件における微粉炭燃焼率、通気抵抗指数を1.0と規格化した。ついで、表2に示すように条件を種々に変更して操業を行った際の通気抵抗指数を相対比較した。通気抵抗指数は、1.05までは安定操業を行う上で問題ない値であった。ここで、微粉炭は全条件で同じ銘柄のものを使用し、微粉炭吹込みランスは全羽口において単管のものを1本ずつ使用した。
【0041】
【表2】
【0042】
ケース2は、ケース1に対して微粉炭比を5kg/t増加させた条件である。ケース1に比してケース2では、相対微粉炭燃焼率が0.96まで低下し、通気抵抗指数が1.04まで増加したが、安定に操業できる範囲内であった。
ケース3は、ケース2からさらに微粉炭比を5kg/t増加させた条件である。ケース2に比してケース3では相対微粉炭燃焼率が0.93まで低下し、通気抵抗指数は1.08まで増加した。この条件では、炉内の通気性が非常に悪く、コークス比を414kg/tまで増加させたものの、安定操業を行うことが非常に難しくなった。この原因としては、前述したとおり、未燃チャーが滴下帯および炉心に蓄積し、炉内の通気を阻害したことが考えられる。
ケース4は、ケース3の条件から送風中酸素濃度を0.5vol%上昇させ、微粉炭燃焼率の向上を試みた場合である。ケース3に比してケース4では、相対微粉炭燃焼率が0.94まで上昇し、通気抵抗指数は1.06まで改善したものの、コークス比は410kg/tと依然として高く、炉況は安定しなかった。
ケース5は、ケース4の条件から送風中酸素濃度をさらに0.5vol%上昇させ、微粉炭燃焼率の向上を試みた場合である。ケース4に比してケース5では、相対微粉炭燃焼率が0.95まで増加し、通気抵抗指数は1.03まで改善された。また、コークス比もベース条件であるケース1に比して6kg/t減少した395kg/tとなった。この条件では、ケース3および4とは異なり、安定した操業を行うことができた。
ケース6は、ケース5の条件から送風中酸素濃度をさらに0.8vol%上昇させ、微粉炭燃焼率の向上を試みた条件である。ケース5に比してケース6では、相対微粉炭燃焼率が0.99まで増加し、安定操業を行うことができ、通気抵抗指数も1.02とケース5に比して0.01低下した。ただ、コークス比は394kg/tで、ケース5に比した減少の幅は1kg/tに止まった。
以上の検証から、安定操業期の微粉炭燃焼率に対する相対微粉炭燃焼率が0.95を下回らないように送風酸素濃度を少なくとも1vol%上昇させることで、安定した高炉操業を実施することが可能であることが確認された。
【0043】
(実施例2)送風温度調整の実施例
実験は、実施例1と同様、
図3に示すような円筒形の小型燃焼炉10を用いて行った。
送風条件は、上流側から送風量毎時210Nm
3,送風温度900,1000,1100,1200℃、酸素濃度37vol%の熱風を吹き込む条件とした。そして、実施例1と同様、2本の還元材吹込み管を通じて、還元材として微粉炭を毎時35kg、コークス炉ガスを模擬した気体を毎時22Nm
3吹込み、この還元材の燃焼によって生成されたOHラジカルの発光ピーク強度(OHラジカル:309nm)と、微粉炭の燃焼率の関係について調査を行った。
この調査結果を利用して求めた検量線は、前掲
図4に示したものである。
ここに、発光ピーク強度の計測は、実施例1と同様にして行った。
【0044】
図4に示したとおり、OHラジカルの発光ピーク強度は微粉炭燃焼率と良好な相関関係に有ることが確認された。それ故、この関係を利用して、ラジカルの発光ピーク強度を測定することによって、微粉炭の燃焼率を推定できることができるのである。
【0045】
次に、実施例1と同様、炉内体積12m
3の高炉を模擬した試験炉で、OHラジカルの発光ピーク強度を測定し、その値から推定した燃焼率と操業の安定性について検証を行った。高炉の出銑量は30t/日(下記表2中ではt/dと記載)で一定となるように送風量を決定し、操業の安定性の指標として通気抵抗指数を用いた。
まず、ベース条件として、表3に示すケース1の条件、すなわちコークス比399kg/t、微粉炭比135kg/t、送風温度980℃で操業を行ったところ、トラブルなく安定した操業を行うことができた。この条件を安定操業期とし、この条件における微粉炭燃焼率、通気抵抗指数を1.0と規格化した。ついで、表3に示すように条件を種々に変更して操業を行った際の通気抵抗指数を相対比較した。通気抵抗指数は、1.05までは安定操業を行う上で問題ない値であった。ここで、微粉炭は全条件で同じ銘柄のものを使用し、微粉炭吹込みランスは全羽口において単管のものを1本ずつ使用した。
【0046】
【表3】
【0047】
ケース2は、ケース1に対して微粉炭比を5kg/t増加させた条件である。ケース1に比してケース2では、相対微粉炭燃焼率が0.97まで低下し、通気抵抗指数が1.04まで増加したが、安定に操業できる範囲内であった。
ケース3は、ケース2からさらに微粉炭比を5kg/t増加させた条件である。ケース2に比してケース3では相対微粉炭燃焼率が0.93まで低下し、通気抵抗指数は1.07まで増加した。この条件では、炉内の通気性が非常に悪く、コークス比を416kg/tまで増加させたものの、安定操業を行うことが非常に難しくなった。この原因としては、前述したとおり、未燃チャーが滴下帯および炉芯に蓄積し、炉内の通気を阻害したことが考えられる。
ケース4は、ケース3の条件から送風温度を10℃上昇させ、微粉炭燃焼率の向上を試みた場合である。ケース3に比してケース4では、相対微粉炭燃焼率が0.94まで上昇し、通気抵抗指数は1.06まで改善した。しかし、コークス比は409kg/tと依然高く、炉況は安定しなかった。
ケース5は、ケース4の条件から送風温度をさらに10℃上昇させ、微粉炭燃焼率の向上を試みた場合である。ケース4に比してケース5では、相対微粉炭燃焼率が0.95まで増加し、通気抵抗指数は1.03まで改善した。また、コークス比もベース条件であるケース1に比して6kg/t減少した393kg/tとなった。この条件では、ケース3および4とは異なり、安定した操業を行うことができた。
ケース6は、ケース5の条件から送風温度をさらに10℃上昇させ、微粉炭燃焼率の向上を試みた条件である。ケース5に比してケース6では、相対微粉炭燃焼率が0.99まで増加し、安定操業を行うことができたものの、通気抵抗指数に関しては1.03とケース5と同じ値であった。また、コークス比は392kg/tで、ケース5に比した減少幅は1kg/tに止まった。
以上の検証から、安定操業期の微粉炭燃焼率に対する相対微粉炭燃焼率が0.95を下回らないように送風温度を少なくとも20℃上昇させることで、安定した高炉操業を実施することが可能であることが確認された。