(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  試料用ポンプを使って試料用セルに試料液を送液し、参照用ポンプを使って参照用セルに参照液を送液し、前記試料用セルおよび前記参照用セルを順次透過する光の進行方向の変化を光検出器で検出することによって、前記試料液および前記参照液の示差屈折率を測定する方法であって、
  試料側と参照側の流路の長さの違い、又は、試料側と参照側の流路に接続されている機器の違い、
に応じた前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差の調整値を、前記光検出器の出力信号に生じるノイズ波形情報に基づいて決定する調整値決定ステップ、および、
  前記示差屈折率の測定開始前に、前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差を調整する位相差調整ステップを備え、
  前記位相差調整ステップは、
  前記試料用ポンプからの脈流が前記試料用セル内に伝搬することによって前記光検出器の出力信号に生じるノイズと、前記参照用ポンプからの脈流が前記参照用セル内に伝搬することによって前記光検出器の出力信号に生じるノイズとが打ち消し合うように、前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差を調整するステップである、
ことを特徴とする示差屈折率の測定方法。
  試料液が通過する試料用セル、参照液が通過する参照用セル、および、前記2つのセルを順次透過する光の進行方向の変化を検出する光検出器を有する示差屈折率用の検出部と、
  前記試料用セルに溶媒を送液する試料用ポンプと、
  前記試料用ポンプから前記試料用セルまでの流路に設けられて前記試料用ポンプからの溶媒に試料を注入して試料液を形成する試料注入部と、
  前記参照用セルに溶媒を参照液として送液する参照用ポンプと、
  制御装置と、を備え、
  前記光検出器の出力信号に基づいて前記試料液および前記参照液の示差屈折率を測定する装置であって、前記制御装置は、
  試料側と参照側の流路の長さの違い、又は、試料側と参照側の流路に接続されている機器の違い、
に応じた前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差の調整値を、前記光検出器の出力信号に生じるノイズ波形情報に基づいて決定する調整値決定手段、および、
  前記試料用ポンプからの脈流が前記試料用セル内に伝搬することによって前記光検出器の出力信号に生じるノイズと、前記参照用ポンプからの脈流が前記参照用セル内に伝搬することによって前記光検出器の出力信号に生じるノイズとが打ち消し合うように、前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差を調整する位相差調整手段、を含むことを特徴とする示差屈折率の測定装置。
  試料液を成分ごとに分離する分離部が前記試料注入部から前記試料用セルまでの流路に設けられている液体クロマトグラフであることを特徴とする請求項6記載の示差屈折率の測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
  発明者らは、デュアルフロータイプの分析装置の更なる性能向上を目指し、RI検出部の出力信号に含まれるノイズの低減化に取り組んだ。デュアルフロータイプでは、2台の送液ポンプの脈流がそれぞれのセル内の液に影響を及ぼすことが、ノイズの低減化の妨げになっていると考えて鋭意研究を進めた。本発明の目的は、RI検出部の出力信号のノイズ低減を可能とし、安定した示差屈折率の測定を実現することができる示差屈折率の測定方法、示差屈折率の測定装置、および、示差屈折率の測定プログラムを提供することである。
 
【課題を解決するための手段】
【0007】
  すなわち、本発明の示差屈折率の測定方法は、
  試料用ポンプを使って試料用セルに試料液を送液し、参照用ポンプを使って参照用セルに参照液を送液し、前記試料用セルおよび前記参照用セルを順次透過する光の進行方向の変化を光検出器で検出することによって、前記試料液および前記参照液の示差屈折率を測定する方法であって、
  
試料側と参照側の流路の長さの違い、又は、試料側と参照側の流路に接続されている機器の違い、に応じた前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差の調整値を、前記光検出器の出力信号に生じるノイズ波形情報に基づいて決定する調整値決定ステップと、
  前記示差屈折率の測定開始前に、前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差を調整する位相差調整ステップを備え、
  前記位相差調整ステップは、
  前記試料用ポンプからの脈流が前記試料用セル内に伝搬することによって前記光検出器の出力信号に生じるノイズと、前記参照用ポンプからの脈流が前記参照用セル内に伝搬することによって前記光検出器の出力信号に生じるノイズとが打ち消し合うように、前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差を調整するステップである、
ことを特徴とする。
【0008】
  本発明の測定方法に従って、試料用ポンプおよび参照用ポンプの位相差を調整すれば、試料用セルに伝搬した脈流に起因する光検出器の出力信号に含まれるノイズと、参照用セルに伝搬した脈流に起因する光検出器の出力信号に含まれるノイズとが、打ち消しあって、RI検出部の出力信号のノイズが低減される。例えば、試料側の流路には、試料注入部、分離カラム、他の検出器など、分析の目的や条件に適合した機器が接続される。一方、参照側の流路には、さまざまな事情で必ずしも試料側の流路と同一の機器が接続される訳ではない。また、分析の環境条件によっては、試料側の流路の長さと参照側の流路の長さが大きく異なる場合もある。これらの理由で、試料側および参照側の2つの流路の容量(システム容量とも呼ぶ)が異なり、各流路における脈流の伝搬係数が異なるような場合であっても、本発明の測定方法によれば、各流路における脈流の伝搬係数の相違に関わらず、RI検出部の出力信号のノイズ低減が確実になされる。
【0009】
  また、前記位相差調整ステップの前に、前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差の調整値を決定する調整値決定ステップを備え、
  前記調整値決定ステップは、
  前記参照用セルに溶媒を封入して、前記参照用ポンプによる前記参照用セルへの溶媒の送液を停止し、前記試料用ポンプを使って前記試料用セルに溶媒を送液している状態にして、前記試料用ポンプの位相情報および前記光検出器の出力信号に生じるノイズ波形情報を取得するステップと、
  前記試料用セルに溶媒を封入して、前記試料用ポンプによる前記試料用セルへの溶媒の送液を停止し、前記参照用ポンプを使って前記参照用セルに溶媒を送液している状態にして、前記参照用ポンプの位相情報および前記光検出器の出力信号に生じるノイズ波形情報を取得するステップと、
  前記2つのポンプの位相情報および前記2つのノイズ波形情報から、前記2つのポンプの位相が揃った状態における前記2つのノイズ波形を比較して、当該2つのノイズ波形の位相差を読み取って、当該位相差に基づいて前記2つのポンプの位相差の調整値を決定するステップと、を含むことが好ましい。
【0010】
  本発明の測定方法に従えば、比較的簡単な手順で、試料用ポンプおよび参照用ポンプの位相差の調整値を決定することができる。発明者らは、上述のように、RI検出部の出力信号のノイズの正体が、試料用セルに伝搬した脈流に起因するノイズと、参照用セルに伝搬した脈流に起因するノイズとが重なり合ったものであると考えた。そこで、各ポンプを単独駆動させた際に生じるノイズ波形を個々に取得し、それら2つのノイズ波形が打ち消しあうようなポンプの位相差の条件を導き出すことにした。例えば、同一の分析装置を用いる場合であっても、試料側および参照側の2つの流路に接続される機器は様々に変更され、それぞれの流路長さも変更される。本発明の測定方法によれば、システム容量に応じたポンプの位相差の調整値を容易に決定することができるので、分析装置のシステム構成が頻繁に変更されるような場合にも適用する。
【0011】
  また、本発明の測定方法において、試料側の前記ノイズ波形情報を取得するステップでは、前記参照用セルに溶媒が封入された状態で、前記参照用ポンプを停止させること、および、参照側の前記ノイズ波形情報を取得するステップでは、前記試料用セルに溶媒が封入された状態で、前記試料用ポンプを停止させること、が好ましい。
  あるいは、本発明の測定方法において、試料側の前記ノイズ波形情報を取得するステップでは、前記参照用セルに溶媒が封入された状態で、前記参照用ポンプを駆動させたまま、当該参照用ポンプの吐出側のドレイン弁を開放すること、および、参照側の前記ノイズ波形情報を取得するステップでは、前記試料用セルに溶媒が封入された状態で、前記試料用ポンプを駆動させたまま、当該試料用ポンプの吐出側のドレイン弁を開放すること、が好ましい。
【0012】
  上記のように、試料側および参照側のノイズ波形情報の読み取りを、他方のポンプを停止させて一方のポンプだけを駆動させた状態にして実行してもよいし、両方のポンプを駆動させたまま、一方のポンプをパージさせた(ドレインへ流す)状態にして実行してもよい。特に、後者の場合は、両方のポンプを停止させる動作が不要になるので、ノイズ波形情報の読み取り時間の短縮化を図れる。
【0013】
  また、前記調整値決定ステップは、前記2つのポンプの位相情報に基づいて、当該2つのポンプの位相が一致するように前記2つのノイズ波形情報の時間軸を調整するステップを含むことが好ましい。
【0014】
  上記の調整値決定ステップのように、ノイズ波形と同時に取得するポンプの位相情報を利用して、2つのノイズ波形情報の時間軸を調整することにより、それぞれのノイズ波形を取得する際の各ポンプの位相を一致させることができる。その結果、個々に取得した2つのノイズ波形について、それぞれのポンプの位相が揃った状態におけるノイズ波形の位相差を容易に読み取ることができる。よって、2つのノイズ波形が打ち消しあうようなポンプの位相差の条件を容易に導き出すことができる。
【0015】
  本発明の示差屈折率の測定装置は、
  試料液が通過する試料用セル、参照液が通過する参照用セル、および、前記2つのセルを順次透過する光の進行方向の変化を検出する光検出器を有する示差屈折率用の検出部と、
  前記試料用セルに溶媒を送液する試料用ポンプと、
  前記試料用ポンプから前記試料用セルまでの流路に設けられて前記試料用ポンプからの溶媒に試料を注入して試料液を形成する試料注入部と、
  前記参照用セルに溶媒を参照液として送液する参照用ポンプと、
  
制御装置と、を備え、
  前記光検出器の出力信号に基づいて前記試料液および前記参照液の示差屈折率を測定する装置であって、
前記制御装置は、
  試料側と参照側の流路の長さの違い、又は、試料側と参照側の流路に接続されている機器の違い、に応じた前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差の調整値を、前記光検出器の出力信号に生じるノイズ波形情報に基づいて決定する調整値決定手段と、
  前記試料用ポンプからの脈流が前記試料用セル内に伝搬することによって前記光検出器の出力信号に生じるノイズと、前記参照用ポンプからの脈流が前記参照用セル内に伝搬することによって前記光検出器の出力信号に生じるノイズとが打ち消し合うように、
前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差を調整する位相差調整手段、を含むことを特徴とする。
【0016】
  本発明の測定装置の構成によれば、試料用ポンプおよび参照用ポンプの位相差が調整されているので、試料用セルに伝搬した脈流に起因する光検出器の出力信号に含まれるノイズと、参照用セルに伝搬した脈流に起因する光検出器の出力信号に含まれるノイズとが、打ち消しあって、RI検出部の出力信号のノイズが低減される。従って、RI検出部の出力信号について低ノイズの分析装置を提供することができる。
【0017】
  前記測定装置は、試料液を成分ごとに分離する分離部が前記試料注入部から前記試料用セルまでの流路に設けられている液体クロマトグラフ(LC)であることが好ましく、特に、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)であることが好ましい。
【0018】
  本発明の測定装置を液体クロマトグラフ(LC)、特にゲル浸透クロマトグラフ(GPC)に適用した場合、測定されるRIのクロマトグラムのベースラインのノイズレベルが低減され、本発明の効果が最大限に生かされる。
【0019】
  本発明の示差屈折率の測定プログラムは、
  コンピュータを、
  試料用セルに試料液を送液するために試料用ポンプを駆動させる駆動指令手段、
  参照用セルに参照液を送液するために参照用ポンプを駆動させる駆動指令手段、
  および、
  前記試料用セルおよび前記参照用セルを順次透過した光を検出する光検出器の出力信号を取得する信号取得手段、
として機能させる示差屈折率の測定プログラムであって、
  さらに前記コンピュータを、
  
試料側と参照側の流路の長さの違い、又は、試料側と参照側の流路に接続されている機器の違い、に応じた前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差の調整値を、前記光検出器の出力信号に生じるノイズ波形情報に基づいて決定する調整値決定手段と、
  前記示差屈折率の測定開始前に、前記試料用ポンプからの脈流が前記試料用セル内に伝搬することによって前記光検出器の出力信号に生じるノイズと、前記参照用ポンプからの脈流が前記参照用セル内に伝搬することによって前記光検出器の出力信号に生じるノイズとが打ち消し合うように、前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプの位相差を調整する位相差調整手段として機能させることを特徴とする。
【0020】
  また、前記コンピュータを、さらに、
  前記試料用ポンプおよび前記参照用ポンプのそれぞれの位相情報を取得する位相情報取得手段、
  前記参照用セルに溶媒を封入した状態にして、前記参照用ポンプによる前記参照用セルへの溶媒の送液を停止させて、前記試料用ポンプを使って前記試料用セルに溶媒を送液している状態にして、前記試料用ポンプの位相情報とともに、前記光検出器の出力信号に生じるノイズ波形情報を取得するノイズ波形情報取得手段、
および、
  前記試料用セルに溶媒を封入した状態にして、前記試料用ポンプによる前記試料用セルへの溶媒の送液を停止させて、前記参照用ポンプを使って前記参照用セルに溶媒を送液している状態にして、前記参照用ポンプの位相情報とともに、前記光検出器の出力信号に生じるノイズ波形情報を取得するノイズ波形情報取得手段、
として機能させて、
  前記調整値決定手段は、前記2つのポンプの位相情報および前記2つのノイズ波形情報から、前記2つのポンプの位相が揃った状態における前記2つのノイズ波形を比較して、当該2つのノイズ波形の位相差を読み取って、当該位相差に基づいて前記2つのポンプの位相差の調整値を決定す
ることが好ましい。
【0021】
  ここで、前記位相情報取得手段は、2つのポンプのそれぞれの脈流波形情報を取得する脈流情報取得手段であり、取得したポンプの脈流波形情報をポンプの位相情報とすることが好ましい。
  また、試料側の前記ノイズ波形情報取得手段は、前記参照用セルに溶媒が封入された状態で、前記参照用ポンプを停止させるとともに、参照側の前記ノイズ波形情報取得手段は、前記試料用セルに溶媒が封入された状態で、前記試料用ポンプを停止させること、が好ましい。あるいは、試料側の前記ノイズ波形情報取得手段は、前記参照用セルに溶媒が封入された状態で、前記参照用ポンプを駆動させたまま、当該参照用ポンプの吐出側のドレイン弁を開放すること、および、参照側の前記ノイズ波形情報取得手段は、前記試料用セルに溶媒が封入された状態で、前記試料用ポンプを駆動させたまま、当該試料用ポンプの吐出側のドレイン弁を開放すること、が好ましい。
【0022】
  以上の測定プログラムの構成によれば、コンピュータを利用したポンプの位相差調整の自動化、有線または無線のネットワークを介した遠隔操作が可能になる。
【0023】
  なお、本発明では、試料用ポンプおよび参照用ポンプの位相差の調整値を決定する際に、光検出器の出力信号とともに、ポンプの位相情報を取得する。例えば、ポンプの周期的な動作(プランジャーの変位位置やカムの回転位置など)の検出信号に基づいて、ポンプの位相情報を取得してもよい。あるいは、ポンプの周期的な動作によって発生する脈流の位相情報を、ポンプの位相情報としてもよい。例えば、ポンプの吐出直後の溶媒圧力の検出信号に基づいて、ポンプの位相情報を取得してもよい。
 
【発明の効果】
【0024】
  本発明によれば、デュアルフロータイプのRI検出部を備えた分析装置において、RI検出部の出力信号のノイズ低減が可能になり、安定した示差屈折率の測定を実現することができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0026】
  図1は、本発明の一実施形態に係る液体クロマトグラフ1の概略構成図である。この液体クロマトグラフ1は、デュアルフロータイプであって、一組の送液ポンプ2、試料注入部3、カラムオーブン4、RI検出部5、溶媒ボトル6および制御装置7を主な構成として含む。
 
【0027】
  一組の送液ポンプ2は、試料用ポンプ21および参照用ポンプ22であり、いずれも往復ポンプである。各ポンプは、プランジャー(又はピストン)を前後に往復させて、溶媒ボトル6中の溶媒を吸込む動作と、溶媒を圧縮して吐出する動作とを繰り返す。プランジャーの往復移動の駆動方式はカム式が多いが、クランク式やボールねじ式などの他の方式でも構わない。
 
【0028】
  試料用ポンプ21が吐出した溶媒は、試料用ポンプ21からRI検出部5の試料用セル51までの試料側の流路を流れる。その流路上に、試料注入部3および分離カラム41が接続されている。一方、参照用ポンプ22が吐出した溶媒は、「参照液」として参照用ポンプ22からRI検出部5の参照用セル52までの参照側の流路を流れる。その流路上にはリファレンスループ42が接続されている。
 
【0029】
  試料注入部3はオートインジェクターおよび手動インジェクターの少なくとも一方を有し、試料用ポンプ21からの溶媒に試料を注入する。溶媒に試料が注入されたものを「試料液」と呼ぶ。
 
【0030】
  試料側および参照側の2つの流路は、カラムオーブン4内を通っている。カラムオーブン4には、分離カラム41、リファレンスループ42、これら分離カラム41およびリファレンスループ42を加熱するための加熱装置が収容されている。
 
【0031】
  試料液は、分離カラム41を通過する過程で、内部の充填剤によって成分ごとに分離して、分離カラム41から分離された成分ごとに排出される。本実施形態のようにRI検出部5を用いた液体クロマトグラフ1は、ポリマーの分子量測定に特に適している。特に、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)と呼ばれる液体クロマトグラフは、多孔質の充填剤からなる分離カラムを用いて、示差屈折率のクロマトグラムを取得し、その溶出ピークの保持時間やピーク形状などからポリマーの分子量や分子量分布などの物性情報を得るように構成されている。
 
【0032】
  リファレンスループ42は、パイプをループ状に巻いたものである。リファレンスループ42のループ長さを変更することで、参照側の流路のシステム容量が調整される。
 
【0033】
  RI検出部5は、検出セル、この検出セルに光を照射するための光源(不図示)、および検出セルの透過光を検出する光検出器を有する。検出セルは、試料用セル51および参照用セル52が仕切り板を介して一体に形成されたセルである。光検出器53は、試料用セル51中の試料液および参照用セル52中の参照液を順次透過した透過光の進行方向に設けられ、透過光が検出面のどの位置に入射したかを検出する。そして、光検出器53からの透過光の位置情報は、出力信号の強度の大小によって、制御装置7に伝達される。制御装置7は、光検出器53からの出力信号に基づいて、試料液および参照液の示差屈折率(RI)を算出する。
 
【0034】
  図2を用いて、RIの検出原理を簡単に説明する。
図2は、検出セルを上から見た図である。検出セルの外形は、上面が正方形である角柱形状であり、セル内の仕切り板54によって内部空間が2つに区切られている。一方が試料用セル51であり、その外形は、直角二等辺三角形の上面を有する角柱形状である。他方が参照用セル52であり、同様に上面が直角二等辺三角形である角柱形状の外形を有する。試料用セル51には、図示しないが、セル内への液体の入口と、液体の出口とが形成され、参照用セル52にも、同様に、液体の入口および出口が形成されている。
 
【0035】
  試料用セル51に屈折率n
Sの試料液が入れられ、参照用セル52に異なる屈折率n
Rの参照液が入れられた場合、試料用セル51の側壁に対して直角に照射された光は、2種類の液体の屈折率に差があることで、液体の境界面で屈折する。セル内の仕切り板54に対する入射角iと出射角r(r>i)によって示されるように、検出セルの透過光は、光源からの光の光軸に対して偏向角だけ傾斜した方向に進行する。RI検出実行の際、参照用セル52へは参照液(溶媒のみ)が送液され、試料用セル51へは前段の分離カラムで分離された複数成分が溶媒とともに順次送液されるので、送られてくる成分ごとに2つの液体の示差屈折率が変化して、検出セルの透過光の偏向角が変化する。従って、光検出器53が検出する透過光の進行方向の位置情報から、試料液と参照液の示差屈折率の僅かな変化を算出することができる。
 
【0036】
  なお、検出セルとしては、
図2の構造に限定されない。例えば、検出セルの出射面を反射面に変更すれば、その反射面を反射した光は再び検出セル内を通って、入射面側から外に出る。これによって検出セルの透過光を光源と同じ側で検出できる。
 
【0037】
  図1を用いて、試料側の流路に沿って説明すると、溶媒ボトル6内の溶媒は、試料用ポンプ21によって試料注入部3に送られて、試料を注入される。試料注入部3からの試料液は、分離カラム41に送られて各成分に分離される。各成分が分離された状態の試料液は、RI検出部5の試料用セル51に送られる。試料用セル51の入口から入った試料液は、出口から排出されてドレインを通って廃液される。
 
【0038】
  これに対し、参照側の流路では、溶媒ボトル6内の溶媒は、参照用ポンプ22によって参照液としてリファレンスループ42に送られる。リファレンスループ42からの参照液は、RI検出部5の参照用セル52に送られる。参照用セル52の入口から入った参照液は、出口から排出されてドレインを通って廃液される。なお、参照液を再利用する場合は、ドレインの手前で流路を切り換えて、参照液を溶媒ボトル6に回収してもよい。
 
【0039】
  RI検出部5には、試料用セル51および参照用セル52のそれぞれの入口手前の流路に熱交換器を接続してもよい。この場合、試料液は、試料側の熱交換器を通ってから試料用セル51に入り、参照液は参照側の熱交換器を通ってから参照用セル52に入る。その他、
図1の分離カラム41およびRI検出部5の間の流路に、分離した成分の示差屈折率とUV吸光度の両方を検出するためにUV吸光度検出器が接続される場合もある。
 
【0040】
  次に、本実施形態の液体クロマトグラフ1の制御系の構成について説明する。
 
【0041】
  図1に示すように、制御装置7は、コンピュータなどの演算処理手段を含み、送液ポンプ21,22、試料注入部3、カラムオーブン4、光検出器53などの機器に電気的に接続されている。
図1には、その一部の電気的な接続を破線で示す。すなわち、制御装置7は、送液ポンプ21,22に設けられたポンプの位相検出器23,24から、各ポンプの位相情報の信号を受け、また、送液ポンプ21,22の吐出口に設けられた圧力計などの脈流検出器25,26から、各ポンプの脈流波形情報の信号を受ける。一方、制御装置7から各ポンプの駆動用モーターへ制御用信号が送られる。また、制御装置7は、光検出器53から出力信号を受ける。
 
【0042】
  例えば、カム駆動式の往復ポンプ(レシプロポンプ)の場合、モーターの駆動力によってカムの回転軸が回転すると、カム面に常時当接しているプランジャーの頭部がカムの偏心量に応じて前後に変位する。
 
【0043】
  本実施形態では、ポンプの位相を検出する位相検出器23,24が、チョッパーおよびフォトインタラプターによって構成されている。チョッパーは、カムの回転軸から当該回転軸に直交する一方向へ延設された部材などで構成されている。また、フォトインタラプターは、チョッパーがカムの回転軸の周りを1周する間に1回だけ光を遮るように、設けられている。このような位相検出器23,24がカムの軸の回転位置を検出することで、プランジャーの1往復の移動を1周期とするポンプの周期的な動作、つまり、ポンプの位相状態を監視することができる。
 
【0044】
  あるいは、位相検出器23,24に代えて、ポンプの位相情報を取得するために、プランジャーの変位位置を直接検出するような位相検出器を用いてもよい。その他、プランジャーを往復移動させるためのカム駆動モーターやボールねじ駆動モーターへの制御信号(例えば、ステッピングモーターのように入力クロック数でモーター回転量を制御する場合は、そのクロック数など)を検出する手段を用いて、ポンプの位相を検出してもよい。
 
【0045】
  なお、チョッパーおよびフォトインタラプターを利用する場合は、試料用ポンプ21のチョッパーが光を遮断するタイミングでのポンプ21のプランジャーの位置と、参照用ポンプ22のチョッパーが光を遮断するタイミングでのポンプ22のプランジャーの位置とが一致するように、それぞれのチョッパーおよびフォトインタラプターが取り付けられている。
 
【0046】
  制御装置7には、2台のポンプ21,22を同期運転させる機能手段(シンクロモード手段)として当該制御装置7を機能させるプログラムが記憶されている。例えば、試料用ポンプ21と参照用ポンプ22を同じモータークロック信号で駆動制御する1枚の制御ボードを制御装置7に設けてもよい。
 
【0047】
  制御装置7は、各ポンプのプランジャーを、例えば、0.1秒から数百秒間の範囲で設定された所定時間で1往復させる。プランジャーの往復運動と同じ周期で、ポンプ内の溶媒の加圧状態と減圧状態が周期的に繰り返される。このような送液圧力の周期的な変化が、いわゆる脈流となって流路を伝搬する。本実施形態では、ポンプの位相検出器23,24とは別に、ポンプの吐出口または吐出口から所定距離の流路上に、溶媒圧力を検出する脈流検出器25,26を設けて、これらの検出信号をポンプの脈流信号として利用している。その他、ポンプの駆動用モーターの電流値波形から、ポンプによる脈流を検出してもよい。
 
【0048】
  なお、本実施形態では、位相検出器23,24をポンプの位相検出手段として、また、脈流検出器25,26をポンプによる脈流の検出手段として、それぞれ別個に設けているが、どちらか一方の検出手段で、ポンプの位相および脈流の両方を検出してもよい。
 
【0049】
  図1では制御装置7を機能ブロックで表している。制御装置7は、コンピュータが測定プログラムを実行することにより、
図1に示す複数の機能ブロックの実行手段として機能する。
 
【0050】
  まず、制御装置7は、コンピュータが測定プログラムを実行することにより、試料用ポンプの駆動指令手段71、参照用ポンプの駆動指令手段72、試料注入部の駆動指令手段73、光検出器の出力信号を取得する信号取得手段74、ポンプの位相情報を取得する位相情報取得手段75、ポンプ吐出側のドレイン弁の駆動指令手段76などとして機能する。
 
【0051】
  試料用ポンプの駆動指令手段71の機能は、試料用ポンプ21の駆動モーターを所定の回転速度で駆動させることであり、試料用ポンプ21に対してPWM信号などの駆動指令信号が発せられる。この駆動指令手段71は、位相情報取得手段75によって取得された試料用ポンプ21の往復運動の位相情報に基づいて、駆動モーターの回転速度を所定の回転速度に維持する。
 
【0052】
  参照用ポンプの駆動指令手段72の機能は、参照用ポンプ22の駆動モーターを試料用ポンプ21の駆動モーターと同じ回転速度で駆動させることであり、参照用ポンプ22に対してPWM信号などの駆動指令信号が発せられる。この駆動指令手段72も、位相情報取得手段75によって取得された参照用ポンプ22の往復運動の位相情報に基づいて、駆動モーターの回転速度を制御している。
 
【0053】
  試料注入部の駆動指令手段73の機能は、オートインジェクターなどの試料注入部3に試料を注入させることである。
 
【0054】
  光検出器の信号取得手段74の機能は、光検出器53の出力信号を取得することである。つまり、信号取得手段74は、試料液および参照液の示差屈折率に応じて変化する光検出器53からの出力信号強度の時間変化を読み取っている。ドレイン弁の駆動指令手段76の機能は、後述するノイズ波形情報を取得する際に、各ポンプ21,22と脈流検出器25,26との間にそれぞれ設けられたドレイン弁27,28を開閉させることである。
 
【0055】
  また、制御装置7は、コンピュータが測定プログラムに含まれる位相差調整プログラムを実行することにより、試料側のノイズ波形情報取得手段81、参照側のノイズ波形情報取得手段82、ノイズ波形情報の時間軸調整手段83、ポンプ位相差の調整値決定手段84、ポンプ位相差の調整手段85などとして機能する。
 
【0056】
  試料側のノイズ波形情報取得手段81の機能は、試料用ポンプ21の発する脈流に起因するRI検出部5の出力信号のノイズ波形を取得することである。具体的には、試料側のノイズ波形情報取得手段81は、参照用ポンプ22を駆動させて参照用セル52に溶媒を封入した状態にして参照用ポンプ22を停止させるとともに、試料用ポンプ21を駆動させて試料用セル51に溶媒を送液させた状態を維持する。そして、位相検出器23からの試料用ポンプ21の位相情報とともに、光検出器53からの出力信号を取得して、出力信号に含まれているノイズ波形情報を読み取る。
 
【0057】
  なお、試料側のノイズ波形情報を取得する際、参照用ポンプ22を駆動させたままでも、試料用ポンプ21のみが溶媒を送液する状態を作ることができる。例えば、
図1に示すように、参照用ポンプ22の吐出口に設けたドレイン弁28を開放して、参照用ポンプ22から吐出される溶媒をドレインに送る(パージする)ようにする。これで、参照用ポンプ22の駆動を停止させずに、参照用ポンプ22による参照用セル52への溶媒の送液を止めることができる。
 
【0058】
  参照側のノイズ波形情報取得手段82の機能は、参照用ポンプ22の発する脈流に起因するRI検出部5の出力信号のノイズ波形を取得することである。具体的には、参照側のノイズ波形情報取得手段82は、試料用ポンプ21を駆動させて試料用セル51に溶媒を封入した状態にして試料用ポンプ21を停止させるとともに、参照用ポンプ22を駆動させて参照用セル52に溶媒を送液させた状態を維持する。そして、位相検出器24からの参照用ポンプ22の位相情報とともに、光検出器53からの出力信号を取得して、出力信号に含まれているノイズ波形情報を読み取る。
 
【0059】
  なお、試料側と同様、参照側のノイズ波形情報を取得する際も、試料用ポンプ21を駆動させたまま、参照用ポンプ22のみが溶媒を送液する状態を作ることができる。つまり、試料用ポンプ21の吐出側のドレイン弁27を開放して、試料用ポンプ21から吐出される溶媒をドレインに送るようにする。本実施形態の制御装置7は、ドレイン弁の駆動指令手段76によって自動制御弁付きのドレイン弁27,28が自動開閉するように構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば手動型のドレイン弁を用いることもでき、ドレイン弁の開閉動作を手動で実行しても構わない。
 
【0060】
  ノイズ波形情報の時間軸調整手段83の機能は、位相情報取得手段75による各ポンプ21,22の位相情報に基づいて、当該2台のポンプ21,22の位相が一致するように、ノイズ波形情報取得手段81,82による2つのノイズ波形情報の時間軸を調整することである。すなわち、試料側および参照側のノイズ波形情報取得手段81,82が読み取ったノイズ波形情報は、一方のポンプによる検出セルへの溶媒の送液を行って、他方のポンプによる検出セルへの溶媒の送液を停止させた状態で、検出された光検出器53の出力信号の情報である。よって、2つのノイズ波形を比較するには、試料側のノイズ波形の測定期間の試料用ポンプ21の位相と、参照側のノイズ波形の測定期間の参照用ポンプ22の位相とを一致させる必要がある。
 
【0061】
  ポンプ位相差の調整値決定手段84の機能は、時間軸調整手段83によって時間軸を調整された2つのノイズ波形情報から、当該ノイズ波形の位相差を読み取り、これに基づいて、ポンプ21,22の位相差の調整値(オフセット角)を決定することである。
 
【0062】
  ポンプ位相差の調整手段85の機能は、調整値決定手段84により決定された調整値を用いて、実際に2台のポンプ21,22の位相差の調整を実行することである。
 
【0063】
  図3〜5のフローチャート、および、具体的な信号波形の一例(
図6〜9)を用いて、制御装置7によるRI測定の流れを詳しく説明する。
図3に、制御装置7によるRIの測定フローの全体の流れを示す。液体クロマトグラフ1による示差屈折率の測定は、使用する分離カラムの種類や検出器の種類などの測定条件に適合したシステム構成が組み立てられた後、開始される。
 
【0064】
  まず、制御装置7は、試料用ポンプ21および参照用ポンプ22の位相差の調整値を決定する(ステップS1)。次に、制御装置7は、決定したポンプ位相差の調整値に基づいて、2台のポンプ21,22の位相差を調整する(ステップS2)。次に、制御装置7は、試料用セル51および参照用セル52にそれぞれ溶媒を送液して光検出器53の出力信号のベースラインの安定性を確認する(ステップS3)。その確認が得られた場合は、制御装置7は、試料を注入して示差屈折率の検出を開始する(ステップS4)。
 
【0065】
  図4は、
図3のフローにおけるポンプ位相差の調整値決定ステップS1の詳しい流れである。ステップS11〜S15では、RI検出部5から得られるノイズ波形情報と、そのノイズの要因となるポンプの脈流波形情報とに基づいて、最終的な(最適化後の)ノイズ波形が最小になるようなポンプ位相差の調整値(オフセット角)を決定する。ノイズ波形が最小になる場合とは、ノイズ波形の振幅が最小になる場合としてもよいが、好ましくは、
図10(D)のノイズ波形に示すように面積値を算出し、この面積値が最小になるようにポンプ位相差の調整値を決定する。各々の変動サイクルについての谷部同士を結んだラインを基準とした面積値を一例として示す。ここでのノイズ波形は、各ポンプからの脈動によるノイズの合成波形であるから、面積値のような積分値で評価する方が、迅速に判断できる。
 
【0066】
  なお、ここでの説明は、ポンプの位相情報取得手段75が、2つのポンプのそれぞれの脈流波形情報を取得する脈流情報取得手段であり、脈流検出器25,26からのポンプの脈流波形情報をポンプの位相情報として利用する場合を説明する。ポンプの脈流波形は、各ポンプの吐出口に設けた脈流検出器25,26によって取得される。例えば、脈流検出器として圧力計を用いて、溶媒圧力の変化を測定してもよいし、ポンプの駆動用モーターの電流値波形を測定してもよい。
 
【0067】
  脈流波形情報の取得に代えて、ポンプの往復移動の位相情報を取得し、ポンプの位相情報とノイズ波形情報に基づいてポンプ位相差の調整値を決定してもよい。例えばチョッパーとフォトインタラプターを用いて構成されるような位相検出器23,24に基づいて、ポンプの位相情報を検出する場合は、一方の位相検出器23が検出するカムの位相角と他方の位相検出器24が検出するカムの位相角とが一致すること、また、2台のポンプが同期モードで駆動可能であること(位相差がゼロであること)を予め確認してもよい。位相検出器の検出タイミングの調整が必要な場合は、チョッパーの取付位置を変更したり、補正値を設定したりする。
 
【0068】
  以下、
図4に従って、ポンプ位相差の調整値決定ステップについて説明する。まず、ステップS11では、制御装置7が、試料用ポンプ21および参照用ポンプ22を同期駆動させて、試料用セル51および参照用セル52の両方に溶媒が送液された状態にする。その後、参照用ポンプ22のドレイン弁28を開放する。これにより、参照用セル52に溶媒が満たされた状態で、参照用セル52への送液が停止した状態になり、また、試料用セル51へは溶媒が送液されている状態になる。そして、制御装置7は、試料用セル51への送液状態における試料用ポンプ21の脈流検出器25からの脈流波形情報を取得しつつ、光検出器53の出力信号を所定時間分だけ取得する。光検出器53の出力信号は、RI検出部5のベースラインの信号であり、周期的なノイズ波形を含んでいる。制御装置7は、ベースラインからノイズ波形情報を読み取る。
 
【0069】
  図6(A)に、ステップS11において取得するベースライン信号を示す。ノイズ波形を見やすくするため、信号強度軸の縮尺を大きくした。1周期が約2.4秒であるノイズ波形が認められる。
図6(B)に、ステップS11における試料用ポンプ21の脈流信号強度の変化を示す。
図6(B)には、
図6(A)と同周期の脈流波形が認められる。また、
図6(A)のノイズ波形のピークには、
図6(B)の脈流波形のピークに対して約1.2秒の位相のズレが認められる。
 
【0070】
  次に、ステップS12では、制御装置7が、参照用ポンプ22のドレイン弁28を閉じて、参照用セル52に溶媒を送液している状態にする。また、試料用ポンプ21のドレイン弁27を開放して、試料用セル51に溶媒が満たされた状態で、試料用セル51への送液を停止させる。そして、制御装置7は、参照用セル52への送液状態における参照用ポンプ22の脈流検出器26からの脈流波形情報を取得しつつ、光検出器53の出力信号をベースラインとして所定時間分だけ取得する。制御装置7は、取得したベースラインからノイズ波形情報を読み取る。
 
【0071】
  図7(A)に、ステップS12において取得するベースラインの信号を示す。
図7(B)に、ステップS12における参照用ポンプ22の脈流信号強度の変化を示す。どちらの波形情報にも、ステップS11と同周期の波形が認められる。また、
図7(A)のノイズ波形のピークには、
図7(B)の脈流波形のピークに対して約0.6秒の位相のズレが認められる。
 
【0072】
  なお、RI検出器5の検出セルの構造上、試料用セル51に伝搬する脈流に起因するノイズ波形と、参照用セル52に伝搬する脈流に起因するノイズ波形とは、検出される信号の極性が反転している。本実施形態では、ステップS11およびステップS12で取得されるノイズ波形の位相の比較を容易にするため、ステップS12にて光検出器53の出力信号を検出する際は、光検出器53の信号出力の極性をステップS11とは逆にした。従って、
図6(A)のノイズ波形と
図7(A)のノイズ波形とは、表示の上での極性は一致している。
 
【0073】
  ステップS13では、制御装置7が、各ポンプ21,22の脈流波形情報に基づいて、これらの脈流波形を取得した際の各ポンプ21,22の位相が一致するような時間軸の調整量を読み取る。そして、2つのノイズ波形情報の時間軸を調整する。
 
【0074】
  具体的な波形情報の処理方法を
図8,
図9を用いて説明する。
図8に、ステップS11の試料用ポンプの脈流波形(
図6(B))と、ステップS12の参照用ポンプの脈流波形(
図7(B))とを並べて示す。ステップS13では、例えば、2つの脈流波形のピークトップの時間差を、2台のポンプ21,22の位相差(差分A)として読み取る。1つのピークトップの比較でもよいが、脈流波形の中の40個程度のピークトップをそれぞれ比較して差分Aを算出してもよい。
図8の一例では、試料用ポンプの位相が参照用ポンプの位相よりも約1.2秒早い。そして、ステップS11でのノイズ波形(
図6(A))と、ステップS12でのノイズ波形(
図7(A))との時間軸を上記の差分Aだけ調整する。つまり、
図7(A)に示す参照側のベースラインの信号の時間軸を差分Aだけ遅らせる。時間軸を調整した参照側のベースラインと試料側のベースラインとを重ねたものを
図9の上段に示す。
図9の中段は、試料用ポンプ21の脈流波形であり、
図9の下段は、時間軸の調整後の参照用ポンプ22の脈流波形である。
 
【0075】
  図9の上段の2つのノイズ波形は、疑似的な同期モードで取得されたノイズ波形の各成分であると言える。各成分とは、試料用セルに伝搬した脈流に起因するノイズ波形の成分と、参照用セルに伝搬した脈流に起因するノイズ波形の成分とを指す。つまり、実際にポンプを同期モードで駆動した際に検出されるノイズ波形は、これら2つのノイズ波形の成分を重ね合わせたものになっているとみなせる。
 
【0076】
  そして、ステップS14では、
図9の上段の2つのノイズ波形情報に基づいて、当該2つのノイズ波形の位相差(ΔT)を読み取る。例えば、時間軸調整後の参照側のベースラインのピークトップと試料側のベースラインのピークトップとの時間差を読み取ればよい。読み取ったノイズ波形の位相差(ΔT)が、2つのポンプ21,22に設定すべき位相差である。
図9の例は、参照側のノイズ波形が、試料側のノイズ波形よりも約1.9秒遅れていることを示す。
 
【0077】
  ステップS15は、ノイズ波形の位相差(ΔT)を、参照側のベースラインのノイズ周期(T)に基づいて、位相角の差(Δθ、オフセット角と呼ぶ)に角度換算する処理であり、このオフセット角Δθをポンプ21,22の位相差の調整値として使用する。角度換算式を式(1)に示す。
(数1)
                ΔT/T×360度=Δθ(単位は「度」)・・・(1)
 
【0078】
  以上のステップS11からS15までを実行することによって、RI検出部5のベースライン信号のノイズレベルが最小になるようなポンプの位相差の調整値を決定することができる。
 
【0079】
  図5に、
図3の測定フロー内のポンプ位相差を調整するステップS2の詳しい流れを示す。まず、ステップS21では、制御装置7が、試料用ポンプ21の駆動モーターを低速で回転させて、ポンプ21のチョッパーがフォトインタラプターを遮断する回転位置で試料用ポンプ21を停止させる。次に、ステップS22では、制御装置7が、参照用ポンプ22の駆動モーターを低速で回転させて、ポンプ22のチョッパーがフォトインタラプターを遮断する回転位置まで回転させる。
 
【0080】
  そして、ステップS23でポンプの位相差の調整値(オフセット角Δθ)に基づいて、オフセット角Δθが0度である場合は、制御装置7が、チョッパーの遮断位置で参照用ポンプ22を停止させる(ステップ24)。または、オフセット角Δθが0度以外の任意の角度である場合は、制御装置7が、参照用ポンプ22を更にオフセット角Δθの分だけ回転させてから参照用ポンプ22を停止させる(ステップ25)。
 
【0081】
  以上のステップS21からS24(またはS25)までを実行すれば、各ポンプ21,22からの脈流の位相差が補正され、試料用セル51および参照用セル52におけるそれぞれの脈流の位相が半周期だけ異なるようになり、互いに打ち消しあうため、光検出器53の出力信号に含まれるノイズレベルを最小にすることができる。
 
【0082】
  なお、各ポンプのチョッパーによる遮断位置は、遮断位置における各ポンプの位相が一致していればよく、遮断位置を特定の位相角にする必要はない。例えば、各ポンプのプランジャーの送液開始位置に、チョッパーによる遮断位置を合わせてもよい。
 
【0083】
  図10は、比較のために、デュアルフロータイプの液体クロマトグラフを同期モードで駆動させた場合のベースラインのノイズ振幅を示す図である。つまり、ポンプ位相差の調整を実行しないで、同じ回転速度の2台のポンプの位相を揃えた状態で、RI検出部の出力波形を測定したものである。各ポンプの脈流波形は、同じ周波数で同期する(
図10(A),(B))。RI検出部での脈流の干渉波が生じないため、ほぼ一定のノイズ振幅のベースラインが得られる(
図10(C))。このノイズ振幅は、ベースラインの信号の強度軸の縮尺を大きくした
図10(D)からも明らかなように、まだまだ改善の余地があった。
 
【0084】
  なお、デュアルフロータイプの場合、試料側および参照側の各流路のシステム容量を同等にするのが、ベースラインの安定性を確保する上で重要と言えるが、システム容量を完全に一致させることは困難である。測定条件が変われば、条件に応じた測定機器が選択されるので、各流路のシステム容量が変わるからである。例えば、液体クロマトグラフの場合、試料側の流路に設けるカラムと同じカラムを参照側に設けることはコスト面で避けたい。
 
【0085】
  一方、
図10と同じデュアルフロータイプの液体クロマトグラフに対して、本実施形態のポンプ位相差の調整を実行した場合のベースラインのノイズ振幅を
図11に示す。2台のポンプの回転速度は同じであるが、位相差を調整した結果、所定の位相差ΔTだけ位相が異なっている(
図11(A),(B))。ベースラインのノイズ振幅は
図10と比較して大幅に低減され、安定したベースラインが得られることが分かる(
図11(C),(D))。
 
【0086】
  本実施形態のポンプ位相差の調整を実行した結果、試料用ポンプ21からの脈流が試料用セル51内に伝搬することによって光検出器53の出力信号に生じるノイズと、参照用ポンプ22からの脈流が参照用セル52内に伝搬することによって光検出器53の出力信号に生じるノイズとが打ち消し合うようになる。従って、試料側および参照側の各流路(具体的には、送液ポンプからRI検出部までの流路)のシステム容量に相違があっても、ポンプ位相差の調整を実行することによって、ベースラインのノイズ振幅を低減させることができる。そして、安定したRIクロマトグラムを取得することができ、各成分の定性・定量分析の信頼性が向上する。
 
【0087】
  また、本実施形態の測定プログラムによれば、2台のポンプの適切な位相差の調整値を自動的に決定することができる。また、その調整値を使ってポンプの位相差を自動的に調整することができる。
 
【0088】
  ここで、
図12を用いて、第二実施形態に係るポンプ位相差の調整方法について説明する。
図12の2つのグラフは、システムAおよびシステムBの2つの分析装置について、ポンプ位相差(横軸)とノイズレベル(縦軸)の関係の実測値である。発明者らは、2台の送液ポンプの位相差を順々に変えた場合に、そのシステム構成で最もベースラインのノイズ振幅が小さくなる位相差が存在することを実験的に確認した。ポンプの位相差をどの程度にすれば、ベースラインのノイズ振幅が最小になるかは、システム容量、溶媒の種類、および、システム圧などに応じて異なるので、システム構成毎に実験的に求める必要がある。
 
【0089】
  そこで、第二実施形態に係るポンプ位相差の調整方法は、ベースラインをモニターしながら、ポンプの位相差を走査し、ベースラインのノイズレベルが最小になる位相差を見つけ出し、そのシステム(システム容量、移動相の種類、システム圧)に最適な位相差を決定する、という手順である。
 
【0090】
  図13に第二実施形態に係るポンプ位相差の調整方法のフローを示す。液体クロマトグラフの2台の送液ポンプを駆動させて試料用セルおよび参照用セルに溶媒を送液させる(S111)。その状態で、RI検出部のノイズレベルを取得する(S112)。次に、ポンプの位相差を僅かだけ変更させる(S113)。そして、変更後の位相角にて、ノイズレベルを取得する(S112)。0〜360度の位相差の範囲でのノイズレベルの取得が完了するまで、S112およびS113の一連の手順を繰り返す(S114)。0〜360度の位相差の範囲でのノイズレベルの取得が完了したら、取得した位相差とノイズレベルの関係からノイズレベルが最小になる位相差を読み取って、これをポンプの位相差の調整値にする(S115)。
 
【0091】
  以上の第二実施形態の方法(S111〜S115)によっても、ポンプの位相差の調整値を決定することができる。ただし、送液ポンプと検出セルの間には或る長さの流路が存在するため、ノイズ波形をモニターしながらポンプの位相差を微小量だけ変更してから、実際にモニターしているノイズ波形に変化が生じるまでには、一定以上のタイムラグが生じる。よって、調整時間の短縮や確実性を重視する上では、第一実施形態の方法が優れている。
 
【0092】
  最後に、
図14に第一実施形態のクロマトグラフをGPC(デュアルフロータイプ)に適用した場合のクロマトグラムの一例を示す。また、比較のため、
図15に、従来型のGPC(シングルフロータイプ)を用いて測定したクロマトグラムの一例を示す。縦軸は示差屈折率であり、横軸は保持時間である。いずれも、移動相に安定化剤を含まないテトラヒドロフラン(THF)を用いて、試料として5成分からなるポリスチレン標準試料を用いた。繰り返し回数はそれぞれ10回である。
 
【0093】
  両者を比較すれば分かるように、本実施形態に係る
図14のクロマトグラムには、
図15のクロマトグラムのようなベースラインのドリフトが見られず、安定したベースラインが得られ、測定の繰り返し性にも優れている。安定化剤を含まないTHFなどのように組成の不安定な移動相を溶媒に用いる場合であっても、RI検出器の安定したベースラインを実現することができる。
 
【0094】
  以上の実施形態では、RI検出器を利用した装置として一般的である、GPCについて説明したが、本発明は、GPCへの適用に限られず、糖分析などRI検出器を使用する様々な分析装置に適用される。
 
 
【解決手段】試料用ポンプ21を使って試料用セル51に試料液を送液し、参照用ポンプ22を使って参照用セル52に参照液を送液し、2つのセル51,52を順次透過する光の進行方向の変化を光検出器53で検出する。RI測定開始前に、試料用ポンプ21および参照用ポンプ22の位相差を調整する。つまり、試料用ポンプ21からの脈流が試料用セル51内に伝搬することによって光検出器53の出力信号に生じるノイズと、参照用ポンプ22からの脈流が参照用セル52内に伝搬することによって光検出器53の出力信号に生じるノイズとが打ち消し合うように、2つのポンプ21,22の位相差を調整する。