【実施例】
【0035】
上記アルミニウム部材の実施例について、図を用いて説明する。なお、本発明は、以下に示す態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0036】
図1に示すように、アルミニウム部材1は、アルミニウムまたはアルミニウム合金よりなる母材2と、母材2の表面上に形成された陽極酸化皮膜3とを有している。陽極酸化皮膜3は、母材2上に形成された厚さ300〜800nmのバリア層31と、バリア層31上に形成され、多数の孔321を有する厚さ10〜100μmの多孔質層32とを有している。
【0037】
本例においては、JIS A1100アルミニウムまたはJIS A6063アルミニウム合金のいずれかよりなる母材2を準備した後、母材2にアルカリ脱脂、化学研磨、機械研磨または電解研磨のいずれかの下地処理を行った。その後、ポーラス型陽極酸化処理及びバリア型陽極酸化処理を順次母材に施し、アルミニウム部材1を作製した。
【0038】
ポーラス型陽極酸化処理は、リン酸、シュウ酸、クロム酸、ホウ酸、ホウ酸塩、アジピン酸塩または酒石酸塩を電解質とする水溶液中で行った。水溶液の電解質濃度は0.01〜0.1mol・dm
-3、液温は40〜80℃とした。また、ポーラス型陽極酸化処理は、電流密度100〜300A・m
-2、到達電圧100〜300Vの条件で行い、到達電圧を15〜150分間保持した後に処理を完了した。
【0039】
バリア型陽極酸化処理は、ホウ酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム、シュウ酸チタン酸カリウム、クエン酸アンモニウム、シュウ酸ナトリウムまたは酒石酸アンモニウムを電解質とする水溶液中で行った。水溶液の電解質濃度は0.02〜0.5mol・dm
-3、液温は10〜30℃とした。また、バリア型陽極酸化処理は、電流密度5〜100A・m
-2、到達電圧200〜500Vの条件で行い、到達電圧に達した直後に処理を完了するか、あるいは最大で30分間到達電圧を保持した後に処理を完了した。
【0040】
より詳細には、表1に示す処理条件の組み合わせにより、下地処理、ポーラス型陽極酸化処理及びバリア型陽極酸化処理を順次行い、試験体E1〜E32を作製した。
【0041】
また、本例においては、試験体E1〜E32との比較のため、ポーラス型陽極酸化処理やバリア型陽極酸化処理の処理条件等を表2に示すように変更して試験体C1〜C10を作製した。具体的には、試験体C1はポーラス型陽極酸化処理を行わずに作製した試験体である。試験体C2は、バリア型陽極酸化処理を行わずに作製した試験体である。試験体C3〜C8は、ポーラス型陽極酸化処理またはバリア型陽極酸化処理の処理条件を上記特定の範囲外とした試験体である。試験体C9及びC10は、ポーラス型陽極酸化処理またはバリア型陽極酸化処理のいずれかに、強酸性の水溶液である硫酸水溶液を使用した試験体である。
【0042】
走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM−6701F」を用いて各試験体の陽極酸化皮膜3の断面を観察した。これにより得られたSEM像に基づき、多孔質層32の厚み、バリア層31の厚み、多孔質層32における孔321の枝分かれの有無、孔321の平均径w
ave及び平均間隔d
ave、並びにバリア層31と母材2との界面311における頂部312と底部313との高さの差h
aveを、以下の方法により算出した。
【0043】
・多孔質層32の厚み
例えば
図2に示すように、陽極酸化皮膜3の厚み方向における全体が視野に入るようにして、陽極酸化皮膜3の断面をSEMにより観察した。得られたSEM像に基づいて、1視野あたりの多孔質層32の厚みの平均を算出し、この値を多孔質層32の厚みとして表3及び表4に記載した。
・バリア層31の厚み
例えば
図3に示すように、バリア層31の厚み方向における全体が視野に入るようにして、陽極酸化皮膜3の断面をSEMにより観察した。得られたSEM像に基づいて、個々の孔321の底からバリア層31と母材2との界面311の底部までの厚さt(
図1参照)を計測した。1視野あたりの厚さtの平均をバリア層31の厚みとして表3及び表4に記載した。
【0044】
・孔321の枝分かれの有無
多孔質層32の厚みの測定に用いたSEM像において、1視野中に枝分かれを有する孔321が30%以上確認された場合には枝分かれ有りと判定し、表3及び表4の「孔の枝分かれ」の欄にAの記号を記載した。また、1視野中の枝分かれを有する孔321が30%未満であった場合には、枝分かれ無しと判定し、表3及び表4の「孔の枝分かれ」の欄にBの記号を記載した。
【0045】
・孔321の平均径w
ave及び平均間隔d
ave
バリア層31の厚みの測定に用いたSEM像において、個々の孔321の幅w(
図1参照)を計測した。そして、1視野あたりに存在する孔321の幅wの平均を孔321の平均径w
aveとして表3及び表4に記載した。
また、上記SEM像において、孔321の間隔d(
図1参照)を計測した。そして、1視野あたりの間隔dの平均を孔321の平均間隔d
aveとして表3及び表4に記載した。
【0046】
・バリア層31と母材2との界面311における頂部312と底部313との高さの差h
ave
バリア層31の厚みの測定に用いたSEM像において、バリア層31と母材2との界面311の底部313を結ぶ直線Lを基準とし、この基準から界面311の各頂部312までの距離h(
図1参照)を計測した。そして、1視野あたりの距離hの平均を高さの差h
aveとして表3及び表4に記載した。
【0047】
得られた試験体のASTM E313−73に規定される白色度及びグロス値を、分光測色計(コニカミノルタ株式会社製「CM−5」)を用いて測定した。その結果を表3及び表4に記載した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
表1及び表3に記載したように、試験体E1〜E32は、ポーラス型陽極酸化処理及びバリア型陽極酸化処理を上記特定の範囲の処理条件で行うことにより作製されたため、多孔質層32の厚み及びバリア層31の厚みが上記特定の範囲となった。その結果、これらの試験体は、高い白色度を有していた。
【0053】
高い白色度を有する試験体の陽極酸化皮膜の例として、試験体E2のSEM像を
図2及び
図3に示す。なお、
図2は、陽極酸化皮膜の厚み方向の全体が視野に入るようにして断面を観察したSEM像であり、
図3は、
図2を拡大してバリア層を観察したSEM像である。
【0054】
図2に示すように、試験体E2の多孔質層32には、表面から厚み方向の略中央まで直管状を呈し、厚み方向の略中央からバリア層31との界面311までの範囲に亘って多数の枝分かれを有する孔321が形成されていた。また、
図3に示すように、試験体E2のバリア層31は、界面311における頂部312と底部313との高さの差が小さく、ポーラス型陽極酸化処理を行った後に形成されるバリア層31(例えば、
図5参照)に比べて平坦であった。
【0055】
グロー放電発光分光分析(GD−OES)により試験体E2のバリア層31をさらに詳細に分析したところ、厚み方向における多孔質層32側には、陽極酸化処理に用いた電解質のアニオンが混入したアニオン混入層が形成されており、母材2側には、アニオンが混入していないアルミナ層が形成されていることを確認した。アニオン混入層の厚みは、バリア層31全体の厚みの40%以下であった。なお、図には示さないが、試験体E1〜E32のアニオン混入層の厚みは、いずれもバリア層31全体の厚みの50%以下であった。
【0056】
一方、表2及び表4に示すように、試験体C1及びC2は、ポーラス型陽極酸化処理またはバリア型陽極酸化処理のいずれか一方を行っていないため、試験体E1〜E32に比べて白色度が低くなった。
【0057】
ポーラス型陽極酸化処理のみを行った陽極酸化皮膜の一例として、試験体C2のSEM像を
図4及び
図5に示す。なお、
図4は、陽極酸化皮膜の厚み方向の全体が視野に入るようにして断面を観察したSEM像であり、
図5は、バリア層の厚み方向の全体が視野に入るように
図4を拡大したSEM像である。
【0058】
図4に示すように、試験体C2の多孔質層32は、試験体E2と同様に、厚み方向の略中央からバリア層31との界面までの範囲に亘って多数の枝分かれを有する孔321が形成されていた。しかし、
図5に示すように、試験体C2のバリア層31は、孔321を中心とする略半球状を呈しており、試験体E1〜E32に比べて頂部と底部との高さの差が大きかった。また、試験体C2のバリア層においては、アニオン混入層の厚みが、バリア層全体の厚みの75%を越えていた。
【0059】
試験体C3は、ポーラス型陽極酸化処理における電解質濃度が薄かったため、本条件ではポーラス型陽極酸化処理により焼けが発生した。それ故、試験体C3の白色度は、試験体E1〜E32に比べて低かった。なお、試験体C3は、例えばポーラス型陽極酸化処理における到達電圧や液温等を変更することにより、焼けの発生を回避することができると考えられる。
【0060】
試験体C4は、ポーラス型陽極酸化処理における電解質濃度が濃かったため、本条件では枝分かれした孔の割合が少なかった。それ故、試験体C4の白色度は、試験体E1〜E32に比べて低かった。なお、試験体C4は、例えばポーラス型陽極酸化処理における到達電圧や液温等を変更することにより、枝分かれした孔の割合を多くすることができると考えられる。
【0061】
試験体C5は、ポーラス型陽極酸化処理における到達電圧が低かったため、孔の平均径及び平均間隔が上記特定の範囲よりも小さくなった。それ故、試験体C5の白色度は、試験体E1〜E32に比べて低かった。
試験体C6は、ポーラス型陽極酸化処理における到達電圧が高かったため、孔の平均径及び平均間隔が上記特定の範囲よりも大きくなった。それ故、試験体C6の白色度は、試験体E1〜E32に比べて低かった。
【0062】
試験体C7は、バリア型陽極酸化処理における到達電圧が低かったため、バリア層の厚みを上記特定の範囲まで厚くすることができなかった。また、試験体C7は、バリア層の成長が不十分だったことにより、試験体E1〜E32に比べて頂部と底部との高さの差が大きかった。それ故、試験体C7の白色度は、試験体E1〜E32に比べて低かった。
試験体C8は、バリア型陽極酸化処理における到達電圧が高かったため、処理中に火花放電が発生した。その結果、試験体C8の白色度は、試験体E1〜E32に比べて低かった。
【0063】
試験体C9及びC10は、ポーラス型陽極酸化処理またはバリア型陽極酸化処理のいずれかを強酸性の硫酸浴中で行ったため、不透明白色を呈する陽極酸化皮膜を得ることができなかった。