(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記透明薄膜を成膜する工程において、ターゲットから放出されたスパッタ粒子の前記基材の前記主表面上における面密度分布が、異なる面密度部分を含む非一様の面密度分布となる条件にて、前記透明薄膜を成膜する、請求項1に記載の干渉色装飾体の製造方法。
前記透明薄膜を成膜する工程において、前記マグネトロンスパッタ装置における磁石の形状および配設位置ならびに磁力に応じた厚み分布を有するように前記透明薄膜が成膜されることより、干渉色模様を前記磁石の形状および配設位置ならびに磁力に応じたものとする、請求項1または2に記載の干渉色装飾体の製造方法。
前記透明薄膜を成膜する工程において、成膜される前記透明薄膜の露出表面が連続的に滑らかに起伏するように前記透明薄膜を成膜する、請求項1から3のいずれかに記載の干渉色装飾体の製造方法。
前記マグネトロンスパッタ装置として、ターゲットのうら面側に位置しかつ前記ターゲットの前記うら面と平行な方向において互いに間隔をあけて設けられた複数の電磁石と、前記複数の電磁石に選択的に電流を印加可能な電流印加部とを備えたものを用いる、請求項1から6のいずれかに記載の干渉色装飾体の製造方法。
前記マグネトロンスパッタ装置として、ターゲットのうら面側に位置しかつ前記ターゲットの前記うら面と平行な方向において互いに間隔をあけて複数の磁石取付用穴が設けられた磁石ホルダを備えるとともに、前記複数の磁石取付用穴の各々に着脱自在に永久磁石が取付け可能なものを用いる、請求項1から6のいずれかに記載の干渉色装飾体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に開示の干渉色装飾体の製造方法にあっては、透明薄膜パターンを繰り返し成膜することが必要であるため、複数回にわたって成膜処理を実施することが不可欠となり、製造作業が煩雑化して製造コストが増大する問題がある。
【0008】
また、上記特許文献1に開示の干渉色装飾体の製造方法にあっては、ドット状やライン状等の比較的単純な干渉色模様の形成は可能であっても、複雑な干渉色模様を形成することが困難になる問題がある。ここで、複雑な干渉色模様を形成するために、異なるマスクパターンを複数準備してこれを複数回にわたって行われる成膜処理ごとに交換することも想定されるが、その製造は困難を極めることとなってしまう。
【0009】
したがって、本発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであり、所望の形状や色相変化を有する干渉色模様を容易に実現するこができる干渉色装飾体の製造方法を提供することを目的とし、また、これに併せて、所望の形状や色相変化を有する干渉色模様が実現された干渉色装飾体ならびに当該干渉色装飾体を製造するために好適に用いることのできるマグネトロンスパッタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づく干渉色装飾体の製造方法は、反射面としての主表面を有する基材を準備する工程と、マグネトロンスパッタ装置を用いたマグネトロンスパッタリングにより、単一の層からなる透明薄膜を
、上記基材の上記主表面に平行でかつ互いに交差する少なくとも2方向のそれぞれにおいて異なる厚み部分を含む非一様の厚み分布にて上記基材の上記主表面上に成膜する工程とを備えている。
【0011】
上記本発明に基づく干渉色装飾体の製造方法にあっては、上記透明薄膜を成膜する工程において、ターゲットから放出されたスパッタ粒子の上記基材の上記主表面上における面密度分布が、異なる面密度部分を含む非一様の面密度分布となる条件にて、上記透明薄膜を成膜することが好ましい。
【0012】
上記本発明に基づく干渉色装飾体の製造方法にあっては、上記透明薄膜を成膜する工程において、上記マグネトロンスパッタ装置における磁石の形状および配設位置ならびに磁力に応じた厚み分布を有するように上記透明薄膜が成膜されることより、干渉色模様を上記磁石の形状および配設位置ならびに磁力に応じたものとすることが好ましい。
【0013】
上記本発明に基づく干渉色装飾体の製造方法にあっては、上記透明薄膜を成膜する工程において、成膜される上記透明薄膜の露出表面が連続的に滑らかに起伏するように上記透明薄膜を成膜することが好ましい。
【0014】
上記本発明に基づく干渉色装飾体の製造方法にあっては、上記基材として、成膜される上記透明薄膜の露出表面よりも上記主表面が平坦なものを用いることが好ましい。
【0015】
上記本発明に基づく干渉色装飾体の製造方法にあっては、上記基材として、上記主表面がアルミニウム膜または銀膜にて構成されたものを用いることが好ましく、また、上記透明薄膜として、シリコン酸化膜、酸化アルミニウム膜、酸化インジウム錫膜および二酸化チタン膜のいずれかを成膜することが好ましい。
【0016】
上記本発明に基づく干渉色装飾体の製造方法にあっては、上記マグネトロンスパッタ装置として、ターゲットのうら面側に位置しかつ上記ターゲットの上記うら面と平行な方向において互いに間隔をあけて設けられた複数の電磁石と、上記複数の電磁石に選択的に電流を印加可能な電流印加部とを備えたものを用いてもよい。
【0017】
上記本発明に基づく干渉色装飾体の製造方法にあっては、上記マグネトロンスパッタ装置として、ターゲットのうら面側に位置しかつ上記ターゲットの上記うら面と平行な方向において互いに間隔をあけて複数の磁石取付用穴が設けられた磁石ホルダを備えるとともに、上記複数の磁石取付用穴の各々に着脱自在に永久磁石が取付け可能なものを用いてもよい。
【0018】
本発明に基づく干渉色装飾体は、反射面としての主表面を有する基材と、上記基材の上記主表面上に位置する単一の層からなる透明薄膜とを備えており、上記透明薄膜が、
上記基材の上記主表面に平行でかつ互いに交差する少なくとも2方向のそれぞれにおいて異なる厚み部分を含む非一様の厚み分布を有している。
【0019】
上記本発明に基づく干渉色装飾体にあっては、上記透明薄膜の露出表面が、連続的に滑らかに起伏していることが好ましい。
【0020】
上記本発明に基づく干渉色装飾体にあっては、上記基材の上記主表面が、上記透明薄膜の露出表面よりも平坦であることが好ましい。
【0021】
上記本発明に基づく干渉色装飾体にあっては、上記基材の上記主表面が、アルミニウム膜または銀膜にて構成されていることが好ましく、また、上記透明薄膜が、シリコン酸化膜、酸化アルミニウム膜、酸化インジウム錫膜および二酸化チタン膜のいずれかであることが好ましい。
【0022】
本発明の第1の局面に基づく干渉色装飾体を製造するためのマグネトロンスパッタ装置は、チャンバと、上記チャンバ内に設置されたターゲットと、上記ターゲットのうら面側に位置し、上記ターゲットの上記うら面と平行な方向において互いに間隔をあけて設けられた複数の電磁石と、上記複数の電磁石に選択的に電流を印加可能な電流印加部とを備えている。
上記複数の電磁石は、上記ターゲットの上記うら面に平行でかつ互いに交差する少なくとも2方向において整列して配置されている。
【0023】
本発明の第2の局面に基づく干渉色装飾体を製造するためのマグネトロンスパッタ装置は、チャンバと、上記チャンバ内に設置されたターゲットと、上記ターゲットのうら面側に位置し、上記ターゲットの上記うら面と平行な方向において互いに間隔をあけて複数の磁石取付用穴が設けられた磁石ホルダとを備えており、上記複数の磁石取付用穴の各々には、着脱自在に永久磁石が取付け可能である。
上記複数の磁石取付用穴は、上記ターゲットの上記うら面に平行でかつ互いに交差する少なくとも2方向において整列して配置されている。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、所望の形状や色相変化を有する干渉色模様を容易に実現するこができる干渉色装飾体の製造方法を提供することができ、また、所望の形状や色相変化を有する干渉色模様が実現された干渉色装飾体ならびに当該干渉色装飾体を製造するために好適に用いることのできるマグネトロンスパッタ装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0027】
(実施の形態1)
図1(A)は、本発明の実施の形態1における干渉色装飾体の模式平面図であり、
図1(B)は、
図1(A)において示すIB−IB線に沿った干渉色装飾体の模式断面図である。まず、この
図1を参照して、本実施の形態における干渉色装飾体1Aについて説明する。
【0028】
図1(A)に示すように、干渉色装飾体1Aは、その表面に円形状の干渉色模様21が形成されてなるものである。ここで、干渉色模様21は、内側から順に、紫色(V)、青色(B)、緑色(G)、黄色(Y)、赤色(R)、黄色(Y)、緑色(G)、青色(B)、紫色(V)の連続した9つの色相の変化を呈する環状模様からなる。
【0029】
図1(A)および
図1(B)に示すように、干渉色装飾体1Aは、基材10と透明薄膜20とを備えている。基材10は、たとえば平板状の部材からなり、その一方の主表面10aが反射面にて構成されている。一方、透明薄膜20は、単一の層にて構成されており、基材10の主表面10aを覆っている。
【0030】
基材10は、たとえば単一の部材にて構成されていてもよいし、基部の表面が反射膜によって覆われた部材にて構成されていてもよい。基材10を単一の部材にて構成する場合には、その表面の反射率が十分に高い金属製の部材(たとえばアルミニウム製の部材やアルミニウム合金製の部材、銀製の部材等)や樹脂製の部材等を利用することができる。また、基材10をその基部の表面が反射膜によって覆われた部材にて構成する場合には、基部としては特にその材質が制限されることはなく、反射膜としてはその表面の反射率が十分に高い金属製の膜(たとえばアルミニウム膜やアルミニウム合金膜、銀膜等)や樹脂製の膜等を利用することができる。
【0031】
なお、基材10の主表面10aは、より平坦であることが好ましく、その表面粗さは、算術平均粗さRaで10[nm]以下であることが好ましい。当該条件を満たした場合には、透明薄膜20の透過光に散乱が生じ難くなり、干渉色の明るさや色鮮やかさを増加させることができる。しかしながら、基材10の主表面10aは、必ずしも平面である必要はなく、凹凸面や湾曲面等によって構成されていてもよい。
【0032】
透明薄膜20は、基材10の主表面10aと平行な方向において非一様の厚み分布を有している。ここで、非一様の厚み分布とは、透明薄膜20の厚みに異なる部分が含まれていることを意味し、換言すれば、透明薄膜20の厚みが均一ではないことを意味している。
【0033】
本実施の形態においては、透明薄膜20の厚み分布が、
図1(B)に示す如くとなっており、これにより上述した円形状の干渉色模様21が形成されることになる。より詳細には、透明薄膜20は、その露出表面20aの一部に環状に盛り上がった部分を有しており、当該環状に盛り上がった部分における透明薄膜20の厚みは、概ね200[nm]〜450[nm]となっている。なお、環状に盛り上がった部分は、基材10の主表面10aと平行な方向において連続的に滑らかに起伏するように、その露出表面20aが径方向において山なりとなっている。
【0034】
ここで、透明薄膜20は、無色であっても有色であってもよい。また、透明薄膜20の材質は、特に制限されるものではなく、後述するマグネトロンスパッタリングによって成膜が可能な材質であれば、どのような材質を利用してもよい。好適には、透明薄膜20は、シリコン酸化膜、酸化アルミニウム膜、酸化インジウム錫膜(いわゆるITO膜)、二酸化チタン膜等である。
【0035】
上記構成の干渉色装飾体1Aにあっては、これに白色光が照射された場合に、透明薄膜20のおもて面(すなわち、露出表面20a)およびうら面(すなわち、基材10の主表面10aに接する面)のそれぞれで反射した白色光同士が互いに干渉することにより、当該部分における透明薄膜20の厚みに応じて、ある波長の光が互いに強め合うとともに、それ以外の波長の光が互いに弱め合うことになる。したがって、上述した如くの連続した色相の変化を呈する環状模様からなる干渉色模様21が、干渉色装飾体1Aの表面に形成されることになる。
【0036】
なお、透明薄膜20の露出表面20aは、上述したように基材10の主表面10aと平行な方向において連続的に滑らかに起伏していることが好ましく、このように構成することにより、複数の色相が滑らかに連続して変化する色鮮やかな干渉色模様21が形成できることになる。
【0037】
以上において説明した本実施の形態における干渉色装飾体1Aは、反射面としての主表面10aを有する基材10を予め準備し、後述するマグネトロンスパッタ装置100A(
図2参照)を用いたマグネトロンスパッタリングにより、単一の層からなる透明薄膜20を異なる厚み部分を含む非一様の厚み分布にて基材10の主表面10a上に成膜することで製造できる。
【0038】
すなわち、本実施の形態における干渉色装飾体の製造方法は、基材10の主表面10aに透明薄膜20を成膜するに際して、マグネトロンスパッタリングを用いた一度の成膜処理にて、透明薄膜20を非一様の厚み分布にて成膜するものである。以下、その詳細について、当該製造方法を実現するための上述したマグネトロンスパッタ装置100Aの構成と併せて説明する。
【0039】
図2(A)は、本実施の形態における干渉色装飾体を製造するためのマグネトロンスパッタ装置の概略構成図であり、
図2(B)は、
図2(A)に示す磁気ユニットの模式平面図である。以下、本実施の形態における干渉色装飾体の製造方法を説明するに先立って、まず、この
図2を参照して、当該製造方法において用いられるマグネトロンスパッタ装置100Aの構成について説明する。
【0040】
図2(A)に示すように、マグネトロンスパッタ装置100Aは、チャンバ110と、磁気ユニット120と、ターゲット160とを主として備えている。チャンバ110は、真空容器によって構成されており、その内部に磁気ユニット120およびターゲット160が設置されている。磁気ユニット120は、チャンバ110内の下部に配置されており、ターゲット160は、磁気ユニット120上に配置されている。
【0041】
図2(A)および
図2(B)に示すように、磁気ユニット120は、ヨーク130と、非磁性の磁石ホルダ140と、一対の永久磁石151,152とによって主として構成されている。ヨーク130は、磁気ユニット120の下部に配置されており、一対の永久磁石151,152は、磁石ホルダ140によって保持されている。ここで、一対の永久磁石151,152は、円柱状の永久磁石151と円筒状の永久磁石152とによって構成されており、これら一対の永久磁石151,152は、同心上に配置されている。
【0042】
円柱状の永久磁石151は、そのN極がターゲット160側に位置しかつそのS極がヨーク130側に位置するように配置されている。また、円筒状の永久磁石152は、そのN極がヨーク130側に位置しかつそのS極がターゲット160側に位置するように配置されている。なお、円柱状の永久磁石151と円筒状の永久磁石152とは、径方向において所定の距離をもって配置されている。
【0043】
ターゲット160は、透明薄膜20を成膜するための材料となるものであり、たとえば平板状の形状を有している。ターゲット160は、上述した一対の永久磁石151,152によって形成される磁力線MLがその内部を厚み方向に沿って通過するように、磁気ユニット120に接近配置されている。そして、ターゲット160のうら面側に一対の永久磁石151,152が配設されている。
【0044】
本実施の形態における干渉色装飾体の製造方法にあっては、まず、ワークとしての基材10が、その反射面としての主表面10aがターゲット160に対向するように、ターゲット160から所定の距離をもってチャンバ110内にセットされる。その際、ターゲット160のおもて面と基材10の主表面10aとが平行となるように、基材10がセットされる。
【0045】
この状態において、チャンバ110内が真空状態とされ、その後、チャンバ110内にArガスが導入されるとともに、ターゲット160に負の電圧が印加される。これにより、基材10とターゲット160との間の空間において、図示する如くのドーナッツ状のプラズマ領域Pが形成されることになる。
【0046】
このプラズマ領域Pで発生したArイオンは、電界で加速されてターゲット160のおもて面に衝突し、ターゲット160を構成する成膜材料としての原子を弾き出す。弾き出された原子(スパッタ粒子)は、ターゲット160に対向配置された基材10の主表面10aに到達し、当該主表面10aに付着する。これにより、基材10の主表面10aに成膜材料としてのスパッタ粒子が付着して堆積し、透明薄膜20が成膜されることになる。
【0047】
なお、本実施の形態においては、円柱状の永久磁石151の直径を30[mm]とし、円筒状の永久磁石152の内径を70[mm]とし、円筒状の永久磁石152の外径を100[mm]とし、基材10とターゲット160との間の距離を15[mm]とし、チャンバ110内の圧力を0.2[Pa]とすることにより、
図1に示す如くの干渉色装飾体1Aを得ている。
【0048】
ここで、本実施の形態における干渉色装飾体の製造方法においては、上述した成膜の際に、基材10とターゲット160との間の距離が十分に短く設定されているとともに、チャンバ110内の圧力が十分に低く設定されている。
【0049】
このような成膜条件にて成膜を行なうことにより、ターゲット160から放出されたスパッタ粒子の基材10の主表面10a上における面密度分布が、非一様の面密度分布となる。ここで、非一様の面密度分布とは、基材10の主表面10a上におけるスパッタ粒子の面密度に異なる面密度部分が含まれていることを意味し、換言すれば、基材10の主表面10a上におけるスパッタ粒子の面密度が均一でないことを意味している。
【0050】
これは、基材10とターゲット160との間の距離が十分に短くかつチャンバ110内の圧力が十分に低いことにより、ターゲット160から弾き出されたスパッタ粒子がもっぱら最短距離で基材10の主表面10aに到達する結果、基材10の主表面10a上におけるスパッタ粒子の面密度が、ターゲット160と基材10との間の空間に形成されるプラズマの粗密の影響をそのまま受けることに起因する。
【0051】
このことは、以下のシミュレーション結果からも明らかである。
図3は、ターゲットのエロージョン分布とスパッタ粒子の基材への粒子付着数分布とにどのような相関関係があるかをシミュレーションした結果の一例を示すグラフであり、
図3(A)は、ターゲットのエロージョン分布を、
図3(B)は、スパッタ粒子の基材への粒子付着数分布を、それぞれ表わしている。
【0052】
図3に示すシミュレーション結果は、上述した成膜条件とした場合の、ターゲット160のエロージョン分布(すなわち、ターゲット160から原子が弾き出されることで生じるターゲット160のおもて面の形状変化)と、基材10の主表面10aに付着するスパッタ粒子の粒子付着数分布とをシミュレーションによって算出したものである。
【0053】
この場合、
図3(A)に示すように、ターゲット160のエロージョン分布は、中心から半径方向に約23[mm]の部分においてその深さが最大となっており、当該部分を境に半径方向内側の部分および半径方向外側の部分において深さが漸減し、中心から半径方向に約14[mm]より内側の部分および中心から半径方向に約36[mm]よりも外側の部分においてエロージョンがほぼ発生していない。
【0054】
これに対し、
図3(B)に示すように、スパッタ粒子の粒子付着数分布は、中心から半径方向に約22[mm]の部分において粒子付着数が最大となっており、当該部分を境に半径方向内側の部分および半径方向外側の部分において粒子付着数が漸減している。なお、スパッタ粒子の粒子付着数分布は、基材10の主表面10a上におけるスパッタ粒子の面密度分布に対応することになる。
【0055】
このように、基材10の主表面10a上におけるスパッタ粒子の面密度分布は、ターゲット160と基材10との間の空間に形成されるプラズマの粗密によって決定され、ターゲット160のエロージョン分布と密接な相関がある。ここで、ターゲット160と基材10との間の空間に形成されるプラズマは、磁気ユニット120に設けられる磁石の形状および配設位置によって調整が可能であるため、上述した干渉色模様21は、磁石の形状および配設位置に応じた形状となる。
【0056】
したがって、上記のようなシミュレーションを予め行なうことにより、成膜する透明薄膜の厚み分布を所望のものとするのに適した成膜条件を導き出すことが可能であり、当該成膜条件に従うことにより、マグネトロンスパッタリングを用いた一度の成膜処理により、単一の層からなる透明薄膜20を非一様の厚み分布にて成膜することが可能になる。なお、予めシミュレーションを行なうことなく予備実験等にて成膜条件を導き出すことも当然に可能である。
【0057】
なお、基材10とターゲット160との間の距離は、40[mm]以下とされることが好ましく、さらには20[mm]以下とされることがなお好ましい。また、チャンバ110内の圧力は、0.7[Pa]以下とされることが好ましく、さらには0.2[Pa]以下とされることがなお好ましい。これらの条件を満たすことにより、基材10の主表面10a上におけるスパッタ粒子の面密度分布が非一様となり、成膜される透明薄膜を非一様の厚み分布を有するものとすることができる。
【0058】
また、上述したように、基材10としてその主表面10aが十分に平坦なものを使用した場合には、マグネトロンスパッタリングによって成膜される単一の層からなる透明薄膜20が非一様の厚み分布を有することにより、基材10の主表面10aが透明薄膜20の露出表面20aよりも平坦になる。この点、本実施の形態における干渉色装飾体1Aは、基材の主表面に凹凸を予め形成しておいてスピンコーティング等によって透明薄膜を成膜することで形成される干渉色装飾体とは、その構成が相違することになる。
【0059】
以上において説明したように、本実施の形態における干渉色装飾体の製造方法を採用することにより、単一の層からなる透明薄膜が異なる厚み部分を含む非一様の厚み分布にて基材の主表面上に成膜されることになるため、所望の形状や色相変化を有する干渉色模様を容易に実現するこが可能になる。
【0060】
また、本実施の形態における干渉色装飾体1Aの如く、透明薄膜が異なる厚み部分を含む非一様の厚み分布を有していることにより、所望の形状や色相変化を有する干渉色模様が実現された干渉色装飾体とすることができる。
【0061】
(第1変形例)
図4(A)は、第1変形例に係る干渉色装飾体の模式平面図であり、
図4(B)は、
図4(A)において示すIVB−IVB線に沿った干渉色装飾体の模式断面図である。以下、この
図4を参照して、上述した実施の形態1に基づいた第1変形例に係る干渉色装飾体1A’について説明する。
【0062】
図4(A)に示すように、干渉色装飾体1A’は、その表面に円形状の干渉色模様21が形成されてなるものであり、干渉色模様21が、内側から順に、赤色(R)、黄色(Y)、緑色(G)、青色(B)、紫色(V)の連続した5つの色相の変化を呈する環状模様からなる点において、上述した実施の形態1における干渉色装飾体1Aと構成が相違している。
【0063】
本変形例においては、透明薄膜20の厚み分布が、
図4(B)に示す如くとなっており、これにより上述した円形状の干渉色模様21が形成されることになる。より詳細には、透明薄膜20は、その露出表面20aの一部に凸状に盛り上がった部分を有しており、当該凸状に盛り上がった部分における透明薄膜20の厚みは、概ね200[nm]〜300[nm]となっている。なお、凸状に盛り上がった部分は、基材10の主表面10aと平行な方向において連続的に滑らかに起伏するように、その露出表面20aが径方向において山なりとなっているとともに、その頂部部分が概ね平坦となっている。
【0064】
ここで、本変形例に係る干渉色装飾体1A’は、上述した実施の形態1において説明した透明薄膜の成膜条件のうち、基材10とターゲット160との間の距離を25[mm]に変更した場合に得られるものである。
【0065】
このように、基材10とターゲット160との間の距離を変更することにより、上述した実施の形態1とは様相の異なる干渉色模様21を形成することができる。
【0066】
(第2変形例)
図5(A)は、第2変形例に係る干渉色装飾体の模式平面図であり、
図5(B)は、第2変形例に係る干渉色装飾体を製造するめのマグネトロンスパッタ装置の磁気ユニットの模式平面図である。以下、この
図5を参照して、上述した実施の形態1に基づいた第2変形例に係る干渉色装飾体1Bについて説明する。
【0067】
図5(A)に示すように、干渉色装飾体1Bは、その表面に四角形状の干渉色模様21が形成されてなるものであり、干渉色模様21が、内側から順に、紫色(V)、青色(B)、緑色(G)、黄色(Y)、赤色(R)、黄色(Y)、緑色(G)、青色(B)、紫色(V)の連続した9つの色相の変化を呈する四角形模様からなる。
【0068】
当該構成の干渉色装飾体1Bは、上述した実施の形態1において示したマグネトロンスパッタ装置100Aとは異なる構成の磁気ユニット120を備えたマグネトロンスパッタ装置100Bを用いることで製造されるものである。
【0069】
具体的には、
図5(B)に示すように、マグネトロンスパッタ装置100Bの磁気ユニット120は、磁石ホルダ140と一対の永久磁石151,152とによって主として構成されており、一対の永久磁石151,152は、同心上に配置された四角柱状の永久磁石151と四角筒状の永久磁石152とによって構成されている。
【0070】
このように、磁気ユニット120における永久磁石151,152の形状および配設位置を変更することにより、上述した実施の形態1とは様相の異なる干渉色模様21を形成することができる。
【0071】
(第3変形例)
図6(A)は、第3変形例に係る干渉色装飾体の模式平面図であり、
図6(B)は、第3変形例に係る干渉色装飾体を製造するめのマグネトロンスパッタ装置の磁気ユニットの模式平面図である。以下、この
図6を参照して、上述した実施の形態1に基づいた第3変形例に係る干渉色装飾体1Cについて説明する。
【0072】
図6(A)に示すように、干渉色装飾体1Cは、その表面に三角形状の干渉色模様21が形成されてなるものであり、干渉色模様21が、内側から順に、紫色(V)、青色(B)、緑色(G)、黄色(Y)、赤色(R)、黄色(Y)、緑色(G)、青色(B)、紫色(V)の連続した9つの色相の変化を呈する三角形模様からなる。
【0073】
当該構成の干渉色装飾体1Cは、上述した実施の形態1において示したマグネトロンスパッタ装置100Aとは異なる構成の磁気ユニット120を備えたマグネトロンスパッタ装置100Cを用いることで製造されるものである。
【0074】
具体的には、
図6(B)に示すように、マグネトロンスパッタ装置100Cの磁気ユニット120は、磁石ホルダ140と一対の永久磁石151,152とによって主として構成されており、一対の永久磁石151,152は、同心上に配置された三角柱状の永久磁石151と三角筒状の永久磁石152とによって構成されている。
【0075】
このように、磁気ユニット120における永久磁石151,152の形状および配設位置を変更することにより、上述した実施の形態1とは様相の異なる干渉色模様21を形成することができる。
【0076】
(第4変形例)
図7(A)は、第4変形例に係る干渉色装飾体の模式平面図であり、
図7(B)は、第4変形例に係る干渉色装飾体を製造するめのマグネトロンスパッタ装置の磁気ユニットの模式平面図である。以下、この
図7を参照して、上述した実施の形態1に基づいた第4変形例に係る干渉色装飾体1Dについて説明する。
【0077】
図7(A)に示すように、干渉色装飾体1Dは、その表面に円形状の干渉色模様21が3つ形成されてなるものであり、各々の干渉色模様21は、上述した実施の形態1と同様に9つの色相の変化を呈する環状模様(
図1(A)参照)からなる。
【0078】
当該構成の干渉色装飾体1Dは、上述した実施の形態1において示したマグネトロンスパッタ装置100Aとは異なる構成の磁気ユニット120を備えたマグネトロンスパッタ装置100Dを用いることで製造されるものである。
【0079】
具体的には、
図7(B)に示すように、マグネトロンスパッタ装置100Dの磁気ユニット120は、磁石ホルダ140と、3組の永久磁石対によって主として構成されており、3組の永久磁石対の各々は、一対の永久磁石151,152を含んでいる。一対の永久磁石151,152は、同心上に配置された円柱状の永久磁石151と円筒状の永久磁石152とによって構成されている。
【0080】
このように、磁気ユニット120における永久磁石151,152の形状および配設位置を変更することにより、上述した実施の形態1とは様相の異なる干渉色模様21を形成することができる。
【0081】
(実施の形態2)
図8(A)は、本発明の実施の形態2におけるマグネトロンスパッタ装置の概略構成図であり、
図8(B)は、
図8(A)に示す磁気ユニットの模式平面図である。まず、この
図8を参照して、本実施の形態におけるマグネトロンスパッタ装置100Eの構成について説明する。
【0082】
図8(A)および
図8(B)に示すように、マグネトロンスパッタ装置100Eは、上述した実施の形態1におけるマグネトロンスパッタ装置100Aと比較した場合に、異なる構成の磁気ユニット120を備えている点においてのみ相違している。
【0083】
具体的には、磁気ユニット120は、複数の電磁石153を有しており、これら複数の電磁石153の各々が、磁石ホルダ141によって個別に保持されている。複数の電磁石153の各々は、棒状の鉄心153aと、当該鉄心153aに巻回されたコイル153bとを含んでいる。
【0084】
複数の電磁石153は、ターゲット160のうら面と平行な方向において互いに間隔をあけてアレイ状に配置されている。なお、
図8(B)に示すように、本実施の形態においては、電磁石153が9行9列に配置されており、その総数は81個とされている。
【0085】
これら複数の電磁石153が有するコイル153bには、電流印加部154が接続されている。電流印加部154は、たとえばリレー等の通電状態切り替え手段を有しており、複数の電磁石153のうちから、特定の電磁石を選択してこれに電流を印加することで励磁することができるとともに、その磁力も様々に変化させることができる。また、電流印加部154は、特定のコイルに対する通電方向も切り替えることが可能であり、これにより各々の電磁石の極性を反転させることも可能である。
【0086】
このように構成された磁気ユニット120を備えたマグネトロンスパッタ装置100Eにおいては、励磁される電磁石153を電流印加部154によって様々に切り替えることにより、磁気ユニット120と基材10との間に形成される磁力線MLについても、これを様々に変更することができる。したがって、当該磁力線MLを様々に変更することにより、高い自由度で様々な干渉色模様を形成することができる。
【0087】
図9は、
図8に示すマグネトロンスパッタ装置の一使用例を説明するための図であり、
図9(A)は、当該一使用例における複数の電磁石の励磁状態を表わしており、
図9(B)は、
図9(A)において示したIXB−IXB線に沿った、当該一使用例におけるマグネトロンスパッタ装置の模式断面を表わしている。また、
図10は、
図9に示す一使用例において製造される干渉色装飾体の模式平面図である。なお、本使用例は、表面に「D」の字が浮かび上がるように干渉色模様21が形成されてなる干渉色装飾体1Eを製造する場合のものである。
【0088】
図9(A)および
図9(B)に示すように、本使用例においては、アレイ状に配置された複数の電磁石153のうちの特定の電磁石を励磁させることにより、「D」の字に対応したプラズマ領域Pが形成されるようにしている。ここで、「D」の字の内側に対応する部分の電磁石については、当該電磁石のターゲット160側の端部にN極が形成されるようにしており、「D」の字の外側に対応する部分の電磁石については、当該電磁石のターゲット160側の端部にS極が形成されるようにしている。なお、これら「D」の字の内側に対応する部分の電磁石および「D」の字の外側に対応する部分の電磁石以外の電磁石については、いずれも励磁されていない状態としている。
【0089】
このような状態のもとで本実施の形態におけるマグネトロンスパッタ装置100Eを用いて透明薄膜20を成膜することにより、
図10に示す如くの干渉色装飾体1Eが製造できることになる。ここで、「D」の字からなる干渉色模様21は、基材10とターゲット160との間の距離およびチャンバ110内の圧力を適切に調節することにより、図示する如くの、内側から順に、紫色(V)、青色(B)、緑色(G)、黄色(Y)、赤色(R)、黄色(Y)、緑色(G)、青色(B)、紫色(V)の連続した9つの色相の変化を呈するものとすることができる。
【0090】
図11は、上述した一使用例において成膜条件を変更した場合に製造される干渉色装飾体の模式平面図である。この
図11に示した干渉色装飾体1E’は、
図9中において記号「*」を付与した電磁石について、その通電電流を下げることにより、これら電磁石によって形成される磁場の強さを弱め、この状態において透明薄膜20を成膜することで製造されたものである。
【0091】
上述した一使用例では、
図10において示したように、「D」の字の全域において9つの色相が含まれるように干渉色模様21が形成されていたが、上記変更後の成膜条件で透明薄膜20を成膜した場合には、
図11に示すように、「D」の字の右肩部分について、これに5つの色相のみが含まれるように干渉色模様21’が形成される。
【0092】
このように、磁石によって形成される磁場の大きさを変化させることにより、形成される干渉色模様は、磁石の形状および配設位置のみならず、磁石の磁力にも応じた形状となる。したがって、磁石の形状および配設位置のみならず磁力をも適宜調節することにより、磁力線MLの分布を変化させることができるため、非常に高い自由度で様々な干渉色模様を形成することができる。
【0093】
(実施の形態3)
図12は、本発明の実施の形態3におけるマグネトロンスパッタ装置の概略構成図である。以下、この
図12を参照して、本実施の形態におけるマグネトロンスパッタ装置100Fについて説明する。
【0094】
図12に示すように、マグネトロンスパッタ装置100Fは、上述した実施の形態2におけるマグネトロンスパッタ装置100Eと比較した場合に、異なる構成の磁気ユニット120を備えている点においてのみ相違している。
【0095】
具体的には、磁気ユニット120は、複数の棒状の永久磁石155を有しており、これら複数の永久磁石155が、磁石ホルダ140によって保持されている。磁石ホルダ140には、ターゲット160のうら面と平行な方向において互いに間隔をあけてアレイ状に磁石取付用穴140aが複数設けられており、これら複数の磁石取付用穴140aに複数の永久磁石155の各々が着脱自在に取付け可能とされている。
【0096】
このように構成された磁気ユニット120を備えたマグネトロンスパッタ装置100Fにおいては、いずれの磁石取付用穴140aに永久磁石155を取付けるかにより、磁気ユニット120と基材10との間に形成される磁力線MLを様々に変更することができる。したがって、上述した実施の形態2において説明した使用例に準じた使用が可能になり、高い自由度で様々な干渉色模様を形成することができる。
【0097】
上述した本発明の実施の形態1ないし3およびその変形例においては、円形状、三角形状、四角形状、「D」字状等の干渉色模様を干渉色装飾体に形成する場合を例示して説明を行なったが、本発明に基づく干渉色装飾体の製造方法に従えば、これらに限らず、高い自由度で様々な干渉色模様を形成することができる。
【0098】
ここで、本発明に基づく干渉色装飾体の用途としては、各種のものが想定され、たとえば容器、皿、包装材といった日用品や、電気機器の筐体、車両や船舶、航空機、建物等の内装材や外装材など、その適用範囲は非常に広い。特に、近年その普及が著しいスマートフォンの背面カバーに本発明に基づく干渉色装飾体を好適に利用することもできる。
【0099】
また、複数の基材をランダムにマグネトロンスパッタ装置にセットして成膜を行なったり、大型の基材をマグネトロンスパッタ装置にセットして成膜した後にこれをランダムに切断したりすること等により、唯一無二の干渉色模様を有する干渉色装飾体を製造することも可能である。したがって、本発明に基づく干渉色装飾体を上述したスマートフォンの背面カバーに利用した場合には、唯一無二の背面カバーとすることもできる。
【0100】
このように、今回開示した上記実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。