特許第6604883号(P6604883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604883
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/532 20060101AFI20191031BHJP
【FI】
   A61F13/532 100
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-65244(P2016-65244)
(22)【出願日】2016年3月29日
(65)【公開番号】特開2017-176314(P2017-176314A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼間 一晃
【審査官】 冨江 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−209940(JP,A)
【文献】 特開2008−178667(JP,A)
【文献】 特開2013−63254(JP,A)
【文献】 特表平8−511459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15−13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維と高吸水性ポリマーとからなる吸収体を備えた吸収性物品において、
前記吸収体は、排尿口部及びその近傍を含む排尿口対応領域と、前記排尿口対応領域の少なくとも前側及び後側に隣接するとともに、前記吸収体の外縁と前記排尿口対応領域の外縁との間の中間位置まで延びる中間領域と、少なくとも前記中間領域の外側に隣接するとともに、前記吸収体の外縁まで延びる外側領域とを有し、
前記パルプ繊維に対する前記高吸水性ポリマーの比率が、前記排尿口対応領域<前記中間領域<前記外側領域の関係を有するとともに、前記高吸水性ポリマーの目付が、前記排尿口対応領域<前記中間領域<前記外側領域の関係を有していることを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
前記中間領域は前記排尿口対応領域に隣接する領域から吸収体の外縁側に向けて複数の領域に画成され、前記パルプ繊維に対する前記高吸水性ポリマーの比率及び前記高吸水性ポリマーの目付が、前記排尿口対応領域に隣接する領域から吸収体の外縁側に向けて徐々に大きくなるように形成されている請求項1記載の吸収性物品。
【請求項3】
前記排尿口対応領域には前記高吸水性ポリマーが含まれていない請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使い捨ておむつ、尿取りパッド、失禁パッドなどの吸収性物品に係り、詳しくはパルプ繊維と高吸水性ポリマーとからなる吸収体を備え、前記パルプ繊維と高吸水性ポリマーとの配合比率及び高吸水性ポリマーの目付を変化させた複数の領域を形成することにより、体液を広範囲に拡散させるようにした吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、前記吸収性物品として、ポリエチレンシートまたはポリエチレンシートラミネート不織布などの不透液性裏面シートと、不織布または透液性プラスチックシートなどの透液性表面シートとの間に吸収体を介在したものが知られている。
【0003】
前記吸収性物品は、着用者の股下部を通って腹側から背側に亘る範囲を連続して覆うように、幅方向より前後方向の寸法が相対的に長く形成された縦長の吸収体を備えている。ところが、吸収体に吸収された体液の拡散範囲は、排尿口対応部位とその周辺の比較的狭い範囲であることが多く、これより広がったとしても、排尿時の着用者の姿勢によって表面を液流れして排尿口対応領域から股下領域に亘る範囲となるくらいである。
【0004】
従来の吸収性物品では、吸収速度が速いが吸収能が劣るパルプ繊維と、吸収能が高いが吸収速度が遅い高吸水性ポリマーとを所定の配合比率で配合することによって、吸収体として所望の吸収能と吸収速度が得られるようにする開発が成されていた。ところが、高吸水性ポリマーを多くし過ぎると吸収速度が遅くなるとともに、高吸水性ポリマーが吸水して膨潤することにより隣り合う高吸水性ポリマー同士が接合して通水しにくくなるゲルブロッキングを生じやすく、パルプ繊維の割合を多くし過ぎると保持できる体液の量が減少し漏れが生じやすくなるとともに、吸収した体液の表面への逆戻りが生じやすく、吸収能が劣る結果となっていた。このため、従来の吸収性物品では、吸収体以外の部材を別途配置することによって吸収速度の遅さや吸収能の低さをカバーする対策がなされていた。
【0005】
吸収体内に吸収された体液は、吸収体の体液保持能力が限界に達すると、体液の漏れ、特に寸法が狭い幅方向からの漏れ(横漏れ)を生じたり、一旦吸収体に吸収された体液が表面側に浸出する体液の逆戻りを生じたりして、着用者に不快感を与えていた。
【0006】
このような問題を解決するため、体液が吸収体の広範囲に拡散するように体液の拡散性を向上させる技術が種々提案されている。例えば、下記特許文献1では、吸収体と液不透過性シートとの間に液拡散シートが配設されていて、前記吸収体は、パルプ繊維と吸水性ポリマーとを含んでいるとともに、該吸収体の厚さ方向の断面を該厚さ方向に5等分したとき、吸収体全体に含まれる吸水性ポリマーの体積に対して、含有する吸水性ポリマーの体積割合が最も高く設定された吸水性ポリマー高体積層と、該吸水性ポリマー高体積層よりも含有する吸水性ポリマーの体積割合が低い吸水性ポリマー低体積層とで構成され、少なくとも最も液不透過性シート側に位置する第1の層が吸水性ポリマー高体積層である吸収性物品が開示されている。
【0007】
また、下記特許文献2では、トップシートとバックシートとの間に配置される吸収体と、吸収体とトップシートとの間に配置される拡散部とを備え、前記拡散部は、拡散層および上側吸収層を備え、前記上側吸収層は拡散層とトップシートとの間にて拡散層の後部と対向する位置に設けられた吸収性物品が開示されている。かかる吸収性物品によれば、着用者から排泄される体液を、拡散層を介して吸収体の広い範囲に導くことができる、また、上側吸収層により、後方部において吸収体側の水分が着用者側に戻ることを抑制することができるなどの効果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−66382号公報
【特許文献2】特開2015−167724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1記載の吸収性物品では、吸収体の厚み方向に高吸水性ポリマーの配合割合を変化させ、液拡散シートが配設されている液不透過性シート側の吸水性ポリマーの含有割合を、液透過性シート側よりも多くすることにより、液拡散性シート側の液吸収量に比べて液不透過性シート側の液吸収量を大きくして、液拡散シートの排泄液を拡散させるようにしているが、吸収体の平面方向に対してはほぼ均一に配合されているため、肌側層での拡散方向を制御することができず、幅方向に拡散した体液によって横漏れが生じるおそれがあった。また、肌側層の方が高吸水性ポリマーの割合が低く、吸収能の弱いパルプ繊維が多く存在するため、吸収体の肌側層の吸収能が限界に達しやすく、肌面への体液の逆戻りが生じやすかった。
【0010】
また、上記特許文献2記載の吸収性物品では、吸収体とトップシートとの間に配置された拡散部の分だけ部材点数が多くなり、構造が複雑になるため、大量生産に不向きであるとともに、前記拡散部にも高吸水性ポリマーが配合されるため、製造ラインで高吸水性ポリマーの脱落などが起こりやすく、製造工程での取り扱いが悪いなどの製造上の問題があった。
【0011】
そこで本発明の主たる課題は、体液を吸収体の長手方向に素早く拡散させることによって横漏れを防止するとともに、体液の逆戻りを低減し、製造を簡単にした吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、パルプ繊維と高吸水性ポリマーとからなる吸収体を備えた吸収性物品において、
前記吸収体は、排尿口部及びその近傍を含む排尿口対応領域と、前記排尿口対応領域の少なくとも前側及び後側に隣接するとともに、前記吸収体の外縁と前記排尿口対応領域の外縁との間の中間位置まで延びる中間領域と、少なくとも前記中間領域の外側に隣接するとともに、前記吸収体の外縁まで延びる外側領域とを有し、
前記パルプ繊維に対する前記高吸水性ポリマーの比率が、前記排尿口対応領域<前記中間領域<前記外側領域の関係を有するとともに、前記高吸水性ポリマーの目付が、前記排尿口対応領域<前記中間領域<前記外側領域の関係を有していることを特徴とする吸収性物品が提供される。
【0013】
上記請求項1記載の発明では、前記吸収体が、着用者の排尿口部及びその近傍を含む排尿口対応領域と、前記排尿口対応領域の少なくとも前側及び後側に隣接するとともに、前記吸収体の外縁と前記排尿口対応領域の外縁との間の中間位置まで延びる中間領域と、少なくとも前記中間領域の外側に隣接するとともに、前記吸収体の外縁まで延びる外側領域とを有している。前記吸収体は、前記パルプ繊維に対する前記高吸水性ポリマーの比率が、排尿口対応領域<中間領域<外側領域の関係を有するとともに、前記高吸水性ポリマーの目付が、排尿口対応領域<中間領域<外側領域の関係を有している。このため、排尿直後は、着用者の排尿口部に配置された排尿口対応領域に体液が素早く吸収され、この排尿口対応領域から溢れ出た体液は、この排尿口対応領域よりパルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率が相対的に高いとともに、高吸水性ポリマーの目付が相対的に高く形成された前記中間領域に移行し、この領域内を拡散する。かかる中間領域は、前記排尿口対応領域の少なくとも前側及び後側に隣接して吸収体の外縁と前記排尿口対応領域の外縁との間の中間位置まで形成されているため、体液が吸収性物品の前側及び後側に向けて縦拡散するのが促進され、体液の横漏れが防止できるようになる。また、前記中間領域は、前記外側領域と比較して、パルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率が相対的に低いとともに、高吸水性ポリマーの目付も相対的に低く形成され、結果としてパルプ繊維が高目付で配置されているため、このパルプ繊維の密度差によって、中間領域から外側領域に体液が移行するのが抑えられ、中間領域を体液が拡散しやすくなっている。このパルプ繊維の密度差は、排尿口対応領域から中間領域を経て外側領域に向けて徐々にパルプ繊維が低密度になるように、吸収性物品の全体に亘って備えられているため、このパルプ繊維の密度差によって、着用者の排尿口部に近い領域から外側へ体液が移行するより、内側の領域内で体液拡散しやすくなっている。前記中間領域を拡散した体液は、中間領域から溢れ出るようにして前記外側領域に移行する。この外側領域は、パルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率が最も高く、高吸水性ポリマーの目付が最も高いため、この外側領域に確実に体液が吸収保持され、外部に対する漏れ及び体液の逆戻りが低減できる。
【0014】
また、本吸収性物品は、吸収体の各領域を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーの配合割合を調整することによって上記課題を解決しているため、別部材を配設する場合などに比べて製造が簡略化できるようになる。
【0015】
請求項2に係る本発明として、前記中間領域は前記排尿口対応領域に隣接する領域から吸収体の外縁側に向けて複数の領域に画成され、前記パルプ繊維に対する前記高吸水性ポリマーの比率及び前記高吸水性ポリマーの目付が、前記排尿口対応領域に隣接する領域から吸収体の外縁側に向けて徐々に大きくなるように形成されている請求項1記載の吸収性物品が提供される。
【0016】
上記請求項2記載の発明では、前記中間領域を前記排尿口対応領域に隣接する領域から吸収体の外縁側に向けて複数の領域に画成した場合において、前記パルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率及び前記高吸水性ポリマーの目付を前記排尿口対応領域に隣接する領域から吸収体の外縁側に向けて徐々に大きくなるように形成している。これにより、中間領域において排尿口対応領域に隣接する領域から吸収体の外縁側に向けて拡散する体液の吸収保持性が更に向上できるようになる。
【0017】
請求項3に係る本発明として、前記排尿口対応領域には前記高吸水性ポリマーが含まれていない請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明では、前記排尿口対応領域に高吸水性ポリマーが含まれていないため、1回目の排尿により、排尿口対応領域を構成するパルプ繊維がへたって表面が落ち込むように変形する一方で、中間領域や外側領域では高吸水性ポリマーが吸水して膨潤するため嵩高となる。これにより、2回目以降の排尿時において、1回目の吸水により落ち込んだ排尿口対応領域の表面と肌面との間の隙間部分に一時的に体液が貯留された後、排尿口対応領域や中間領域に吸収されるようになる。このように、一時的な体液貯留空間が形成されるため、複数回の排尿によっても横漏れや逆戻りが防止できるようになる。
【発明の効果】
【0019】
以上詳説のとおり本発明によれば、体液を吸収体の長手方向に素早く拡散させることによって横漏れが防止できるとともに、体液の逆戻りが低減でき、製造が簡単に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る吸収性物品1の一部破断展開図である。
図2図1のII−II線矢視図である。
図3】第1形態例に係る吸収体2の平面図である。
図4】第2形態例に係る吸収体2の平面図である。
図5】第3形態例に係る吸収体2の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔吸収性物品の基本構成〕
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。本書において、「長手方向」とは吸収性物品1の前側と後側を結ぶ方向を意味し、「幅方向」とは長手方向と直交する方向(吸収性物品1の展開時の左右方向)を意味する。
【0022】
前記吸収性物品1は、図1及び図2に示されるように、パルプ繊維と高吸水性ポリマーとからなる、たとえば略砂時計状のある程度の剛性を有するとともに、必要に応じてクレープ紙や不織布等からなる被包シートによって囲繞された吸収体2と、前記吸収体2の肌側(表面側)を覆うように配設された有孔または無孔の不織布や孔開きプラスチックシート等からなる透液性のトップシート3と、前記吸収体2の非肌側を覆うように配設されたポリエチレン等からなる不透液性の防水シート4とから主に構成されている。また、前記吸収体2の周囲において、その吸収体2の外縁よりも外側に延出しているトップシート3と防水シート4とがホットメルトなどの接着剤やヒートシール、超音波シール等の接合手段によって接合され、外周に吸収体2の存在しない外周フラップ部が形成されている。
【0023】
前記吸収体2は、フラッフ状パルプと高吸水性ポリマーとにより構成されたものを用いるのが好ましい。前記パルプとしては、木材から得られる化学パルプ、溶解パルプ等のセルロース繊維や、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維からなるものが挙げられ、広葉樹パルプよりは繊維長の長い針葉樹パルプの方が機能および価格の面で好適に使用される。吸収体2を囲繞する被包シートを設ける場合には、結果的にトップシート3と吸収体2との間に被包シートが介在することになり、吸収性に優れる被包シートを用いることによって体液を速やかに拡散させるとともに、これら尿の逆戻りを防止するようになる。
【0024】
前記高吸水性ポリマーは吸収体2を構成するパルプ中に、例えば粒状粉として混入されている。前記高吸水性ポリマーとしては、たとえばポリアクリル酸塩架橋物、自己架橋したポリアクリル酸塩、アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体架橋物のケン化物、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体架橋物、ポリスルホン酸塩架橋物や、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミドなどの水膨潤性ポリマーを部分架橋したもの等が挙げられる。これらの内、吸水量、吸水速度に優れるアクリル酸またはアクリル酸塩系のものが好適である。前記吸水性能を有する高吸水性ポリマーは製造プロセスにおいて、架橋密度および架橋密度勾配を調整することにより吸収倍率(吸水力)と吸収速度の調整が可能である。
【0025】
前記吸収体2は、図示例では平面形状を略砂時計状として成形されたものが使用され、股下部では吸収体の幅寸法を狭めることにより股間部への当たりを弱くし着用者にゴワ付き感を与えないようにしているが、略長方形状として成形されたものを使用してもよい。この吸収体2は、形状保持とトップシート3を透過した体液の拡散性向上のために被包シートによって被包されているのが好ましい。
【0026】
前記吸収体2の肌側(上層側)を覆う透液性のトップシート3としては、液を透過する性質を有し、例えば、有孔または無孔の不織布や多孔性プラスチックシートなどが好適に用いられる。不織布を構成する素材繊維は特に限定されない。例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維などや、これらから二種以上が使用された混合繊維、複合繊維などを例示することができ、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法、エアスルー法、ポイントボンド法等の適宜の加工法によって得られた不織布を用いることができる。これらの加工法の内、スパンレース法は柔軟性、スパンボンド法はドレープ性に富む点で優れ、サーマルボンド法、ポイントボンド法及びエアスルー法は嵩高で圧縮復元性(=ソフト性)が高い点で優れている。また、トップシート3は、1枚のシートから成るものであっても、2枚以上のシートを貼り合わせて得た積層シートから成るものであってもよい。透液性トップシート3に多数の透孔を形成した場合には、尿などが速やかに吸収されるようになり、ドライタッチ性に優れたものとなる。不織布の繊維は、長繊維または短繊維のいずれでもよいが、好ましくはタオル地の風合いを出すため短繊維を使用するのがよい。また、エンボス処理を容易とするために、比較的低融点のポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系繊維のものを用いるのがよい。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイド−バイ−サイド型繊維、分割型繊維等の複合繊維を好適に用いることもできる。
【0027】
前記吸収体2の非肌側(下層側)を覆う防水シート4は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂等からなるプラスチックフィルムや不織布の表面にプラスチックフィルムを設けたラミネート不織布、プラスチックフィルムに不織布等を重ねて接合した積層シートなどを例示することができるが、近年はムレ防止の点から透湿性を有するものが好適に用いられる。この遮水・透湿性シートは、たとえばポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン樹脂中に無機充填材を溶融混練してシートを形成した後、一軸または二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートであり、仮にシート厚が同じであれば無孔シートよりも剛性が低下するため、柔軟性の点で勝るものとなる。この他にも、マイクロデニール繊維を用いた不織布、熱や圧力をかけることで繊維の空隙を小さくすることによる防漏性強化、高吸水性樹脂または疎水性樹脂や撥水剤の塗工といった方法により、プラスチックフィルムを用いずに液不透過性としたシートも用いることができる。前記防水シート4の外縁は、吸収性物品1の外縁とほぼ一致している。
【0028】
〔吸収体2〕
以下、前記吸収体2について更に詳細に説明する。
【0029】
前記吸収体2は、図1に示されるように、着用者の排尿口部及びその近傍を含む排尿口対応領域10と、前記排尿口対応領域10の少なくとも前側及び後側に隣接するとともに、前記吸収体2の外縁と前記排尿口対応領域10の外縁との間の中間位置まで延びる中間領域11と、少なくとも前記中間領域11の外側に隣接するとともに、前記吸収体2の外縁まで延びる外側領域12とを有している。
【0030】
また、前記吸収体2は、パルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率が、排尿口対応領域10<中間領域11<外側領域12の関係を有するとともに、前記高吸水性ポリマーの目付が、排尿口対応領域10<中間領域11<外側領域12の関係を有するように形成されている。
【0031】
このため、排尿直後は、着用者の排尿口部に対応する排尿口対応領域10に体液が素早く吸収され、この排尿口対応領域10から溢れ出た体液は、この排尿口対応領域10よりパルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率が相対的に高いとともに、高吸水性ポリマーの目付が相対的に高く形成された中間領域11に移行し、この中間領域11を拡散するようになる。かかる中間領域11は、排尿口対応領域10の少なくとも前側及び後側に隣接する吸収体2の外縁と前記排尿口対応領域10の外縁との間の中間位置まで形成されているため、体液が吸収性物品1の前側及び後側に向けて縦拡散するのが促進され、体液の横漏れが防止できるようになる。また、前記中間領域11は、前記外側領域12と比較して、パルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率が相対的に低いとともに、高吸水性ポリマーの目付も相対的に低く形成され、結果としてパルプ繊維が高目付で配置されているため、このパルプ繊維の密度差によって、中間領域から外側領域に体液が移行するのが抑えられ、中間領域を体液が拡散しやすくなっている。
【0032】
前記中間領域11を拡散した体液は、中間領域11から溢れ出るようにして外側領域12に移行する。この外側領域12では、パルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率が最も高いとともに、高吸水性ポリマーの目付が最も高いため、この外側領域12に確実に体液が吸収保持され、外部に対する漏れ及び体液の逆戻りが低減できるようになる。
【0033】
また、本吸収性物品1は、吸収体2の各領域を構成するパルプ繊維及び高吸水性ポリマーの配合割合を調整することによって上記課題を解決しているため、別部材を配設する場合などに比べて製造が簡略化できるようになる。
【0034】
前述の通り、排尿口対応領域10から中間領域11を経て外側領域12に向けて、パルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率が徐々に低くなるとともに、高吸水性ポリマーの目付も徐々に低くなっているので、結果として、外側の領域の方がパルプ繊維が相対的に低目付となっているため、このパルプ繊維の密度差によって、着用者の排尿口部に近い領域から外側の領域に体液が移行するより、内側の領域内を体液が拡散しやすくなっている。このため、体液の縦拡散が促進されるようになる。
【0035】
前記排尿口対応領域10は、吸収性物品1の装着時に着用者の排尿口部が当接する部分及びその近傍を含む領域であって、吸収体2の長手方向中央部より前側寄りの幅方向中央部に位置している。この排尿口対応領域10の平面形状は、吸収性物品1の長手方向に長い縦長とするのが好ましく、具体的には、吸収性物品1の長手方向の長さが20〜90mm、特に40〜60mm、幅が10〜35mm、特に15〜25mmの略長方形状とするのが好ましい。
【0036】
前記排尿口対応領域10は高吸水性ポリマーを含まず、パルプ繊維のみで構成するのが好ましい。排尿口対応領域10が高吸水性ポリマーを含まないことにより、1回目の排尿により、排尿口対応領域10を構成するパルプ繊維がへたって表面が落ち込むように変形する一方で、中間領域11や外側領域12では高吸水性ポリマーが吸水して膨潤するため嵩高となる。これにより、2回目以降の排尿時においては、1回目の吸水により落ち込んだ排尿口対応領域10の表面と肌面との間の隙間部分に一時的に体液が貯留された後、排尿口対応領域10や中間領域11に吸収されるようになる。このように、一時的な体液貯留空間が形成されるため、複数回の排尿によっても横漏れや逆戻りが防止できるようになる。
【0037】
前記排尿口対応領域10において、前記パルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率(重量比)は、0〜0.05、好ましくは0〜0.01とするのがよい。パルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率が0.05より大きいと、パルプ繊維の割合が小さくなりすぎて体液が素早く吸収しにくくなり、吸収性物品1の表面を伝う液流れが生じやすくなるとともに、高吸水性ポリマーのゲルブロッキングが生じやすくなり、2回目以降の吸水がしにくくなる。
【0038】
また、前記高吸水性ポリマーの目付は、0〜50g/m、好ましくは0〜10g/m、より好ましくは前述の通り高吸水性ポリマーを配合しないのがよい。
【0039】
前記パルプ繊維の目付は、300〜1700g/m、好ましくは800〜1200g/mとするのがよい。また、前記パルプ繊維及び高吸水性ポリマーの合計目付は、300〜1700g/m、好ましくは800〜1200g/mとするのがよい。
【0040】
前記排尿口対応領域10の前側及び後側に隣接して、前記中間領域11が設けられている。また、前記中間領域11が排尿口対応領域10の前側及び後側のみに設けられる場合、前記排尿口対応領域10の両側に隣接して、外側領域12が設けられ(図3及び図4)、前記中間領域11が排尿口対応領域10の周囲を囲むように設けられる場合、前記排尿口対応領域10の両側に隣接して、中間領域11が設けられている(図5)。
【0041】
前記中間領域11は、前記排尿口対応領域10の少なくとも前側及び後側に隣接するとともに、吸収体2の外縁と前記排尿口対応領域10の外縁との間の中間位置まで延びる吸収体2の外縁に達しない領域である。前記中間領域11は、吸収体2の前端及び後端からの離隔長さがほぼ同等となる位置まで排尿口対応領域10の前側及び後側にそれぞれ延びている。従って、前記排尿口対応領域10を前側寄り位置に設けたとき、前記中間領域11は、排尿口対応領域10の前側に延在する長さより、排尿口対応領域10の後側に延在する長さの方が長く形成されている。
【0042】
前記中間領域11は、吸収体2の全長に対して50〜90%、好ましくは60〜80%の範囲まで形成するのが好ましい。これにより、中間領域11に吸収された体液を吸収体2の前後に広い範囲に拡散させることができるようになる。具体的に、前記中間領域11の長手寸法は、100〜500mm、特に200〜300mm程度とするのが好ましい。前記中間領域11の長手寸法とは、中間領域11の前端と後端との吸収性物品1の長手方向の離隔長さをとったものであって、図1に示されるように、中間領域11が排尿口対応領域10の前後にそれぞれ分離して設けられる場合でも同様に、中間領域11の最も前側の端部と最も後側の端部との吸収性物品1の長手方向の離隔長さをとったものである。また、幅寸法は、前記排尿口対応領域10と等幅とするか、前記排尿口対応領域10より広い10〜80mm、特に15〜60mm程度とするのが好ましい。
【0043】
前記中間領域11は、排尿口対応領域10の前側及び後側にのみ延びるように、排尿口対応領域10の前後にそれぞれ分離して形成し、排尿口対応領域10の両側に存在しないようにしてもよいし(後述の第1形態例(図3)及び第2形態例(図4)参照)、排尿口対応領域10の外周を囲むように形成してもよい(後述の第3形態例(図5)参照)。
【0044】
前記中間領域11のパルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率(重量比)は、0.2〜1.0、好ましくは0.2〜0.7とするのがよい。また、前記高吸水性ポリマーの目付は、25〜100g/m、好ましくは70〜90g/mとするのがよい。更に、前記パルプ繊維及び高吸水性ポリマーの合計目付は、120〜600g/m、好ましくは200〜400g/mとするのがよい。
【0045】
前記外側領域12は、前記排尿口対応領域10及び中間領域11を除いた残りの吸収体2の外周部に配置される領域である。前記外側領域12は、前記排尿口対応領域10及び中間領域11の外側を囲むように存在している。
【0046】
前記外側領域12のパルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率(重量比)は、1.0〜2.0、好ましくは1.0〜1.5とするのがよい。また、高吸水性ポリマーの目付は、100〜300g/m、好ましくは170〜230g/mとするのがよい。更に、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーの合計目付は、200〜400g/m、好ましくは200〜360g/mとするのがよい。
【0047】
いずれの領域においても、前記パルプ繊維及び高吸水性ポリマーは、吸収体2の厚み方向に対してはほぼ均一に設けられている。また、前記吸収体2は、使用前においては、全面に亘ってほぼ均一の厚みで形成されている。
【0048】
以下、前記吸収体2のより具体的な形態例について説明する。
【0049】
〔第1形態例〕
第1形態例に係る吸収体2としては、図3に示されるように、着用者の排尿口部及びその近傍を含む排尿口対応領域10と、前記排尿口対応領域10の前側及び後側に隣接するとともに、吸収体2の長手方向の中間位置まで延びる中間領域11と、前記中間領域11及び排尿口対応領域10の外側に隣接するとともに、吸収体2の外縁まで延びる外側領域12とを有している。
【0050】
前記中間領域11は、排尿口対応領域10の前後にそれぞれ分離して配置され、排尿口対応領域10の両側には形成されていない。前記中間領域11は、排尿口対応領域10とほぼ等幅に形成されている。これにより、排尿口対応領域10の前後にはそれぞれ前記中間領域11が隣接するとともに、排尿口対応領域10の両側にはそれぞれ前記外側領域12が隣接している。
【0051】
このとき、パルプ繊維の目付は、排尿口対応領域10>中間領域11>外側領域12の関係で形成するのが好ましい。これにより、排尿口対応領域10に吸収された体液は隣接する中間領域11及び外側領域12に溢れ出るようにして移行するが、高吸水性ポリマーのパルプ繊維に対する比率が中間領域11の方が外側領域12より小さいので、通水しやすくなり、中間領域11から外側領域12へ移行するよりも、中間領域11に沿って吸収性物品1の長手方向に拡散しやすくなる。
【0052】
〔第2形態例〕
第2形態例に係る吸収体2としては、図4に示されるように、着用者の排尿口部及びその近傍を含む排尿口対応領域10と、前記排尿口対応領域10の前側及び後側に隣接するとともに、吸収体2の長手方向の中間位置まで延びる中間領域11と、前記中間領域11及び排尿口対応領域10の外側に隣接するとともに、吸収体2の外縁まで延びる外側領域12とを有している。前記中間領域11は、排尿口対応領域10から前側及び後側に向けてそれぞれ漸次拡幅するように形成されている。前記中間領域11が前後に向けて漸次拡幅して形成されることにより、排尿口対応領域10から移行した体液が前後に拡散するとき、拡散範囲が幅方向に拡大しながら長手方向に進むようになるため、体液の縦拡散がしやすくなる。前記中間領域11の拡幅率は、前記排尿口対応領域10との境界部の幅と前後端部の幅との比が1.2〜2.0倍程度とするのがよい。
【0053】
上記第1形態例と同様の理由から、パルプ繊維の目付は、排尿口対応領域10>中間領域11>外側領域12の関係で形成するのが好ましい。
【0054】
〔第3形態例〕
第3形態例に係る吸収体2としては、図5に示されるように、着用者の排尿口部及びその近傍を含む排尿口対応領域10と、前記排尿口対応領域10の周囲に隣接するとともに、吸収体2の長手方向及び幅方向の中間位置まで延びる中間領域11と、前記中間領域11の外側に隣接するとともに、吸収体2の外縁まで延びる外側領域12とを有している。前記中間領域11は排尿口対応領域10の周囲を囲む閉合したパターンとされている。これにより、中間領域11の内側は全周に亘って排尿口対応領域10に隣接し、中間領域11の外側は全周に亘って外側領域12に隣接している。すなわち、排尿口対応領域10と外側領域12との間には常に中間領域11が介在するようになっている。
【0055】
前記中間領域11は、単一の領域からなるようにしてもよいし、図5に示されるように、排尿口対応領域10に隣接する領域から吸収体の外縁側に向けて複数の領域に画成されるようにしてもよい。図5に示される例では、排尿口対応領域10の外側に隣接する内側中間領域11aと、この外側に隣接する外側中間領域11bとからなる2つの領域が画成されている。このように複数の領域に画成した中間領域11は、パルプ繊維に対する高吸水性ポリマーの比率及び高吸水性ポリマーの目付が、前記排尿口対応領域10に隣接する領域から吸収体の外縁側に向けて徐々に大きくなるように形成することができる。これにより、中間領域11において排尿口対応領域10に隣接する領域から吸収体の外縁側に向けて拡散する体液の吸収保持性が更に向上できるようになる。
【0056】
また、前記中間領域11を複数の領域に画成した場合において、中間領域11は、着用者の排尿口部に近い内側の領域から外側の領域に向けてパルプ繊維の目付が徐々に小さくなるように形成することができる。すなわち、内側中間領域11aより外側中間領域11bの方がパルプ繊維の目付を小さくすることができる。これにより、パルプ繊維の密度差によって、内側中間領域11aから外側中間領域11bに体液が移行するよりも、パルプ繊維の毛管作用によって内側中間領域11a内を体液が拡散しやすくなり、より確実に体液の縦拡散が促進されるようになる。また、この場合においても、排尿口対応領域10から中間領域11を経て外側領域12へと徐々にパルプ繊維の目付が小さくなるように形成するのが好ましい。
【実施例】
【0057】
上記第1形態例に係る吸収体2(実施例)と、パルプ繊維及び高吸水性ポリマーが全体に亘って均一に配合された従来の吸収体(比較例)とを用いて吸水実験を行った。吸水実験は、各吸収体を目付16.5g/mのクレープ紙にて被包し、各吸収体の排尿口部に対応する位置に、直径25mm、高さ100mmの円柱状の注入筒を、注入筒の一端の円の中心が該吸収体の排尿口部に対応する位置にくるように直立させて設置し、他方の一端から、約37℃に保った50ccの人工尿に青色一号を0.001g加えて着色したものを30分おきに3回流したとき、30分後の人工尿の拡散距離及び拡散面積を測定した。前記拡散距離は、人工尿が拡散した吸収体の長手方向の最大長さを金さしで測定した。前記拡散面積は、吸収体表面を画像データとしてコンピュータに取り込み、二値化して黒白比として算出し、吸収体の面積(0.043m)に対する割合(%)を求めた。パルプ繊維と高吸水性ポリマーの配合量及び各領域の面積は、表1に示す通りである。
【0058】
なお、前記人工尿の組成は、尿素2wt%、塩化ナトリウム0.8wt%、塩化カルシウム二水和物0.03wt%、硫酸マグネシウム七水和物0.08wt%、イオン交換水97.09wt%からなるものを使用した。
【0059】
【表1】
*1 比較例の領域1は、実施例の排尿口対応領域10に対応する領域である。
*2 比較例の領域2は、実施例の中間領域11に対応する領域である。
*3 比較例の領域3は、実施例の外側領域12に対応する領域である。
【符号の説明】
【0060】
1…吸収性物品、2…吸収体、3…トップシート、4…防水シート、10…排尿口対応領域、11…中間領域、12…外側領域
図1
図2
図3
図4
図5