【課題を解決するための手段】
【0013】
ここで驚くべきことに、この課題は、チオール官能基化された化合物の添加によって解決されることが分った。これによって、特許文献4および特許文献5に開示された系と比較して、より反応性が低く、より少ない発煙および低減された泡立ちを示し、しかしながらそれでもそれでも完全に硬化しかつ密なポリマーとなる、反応型樹脂モルタルを提供することが可能である。
【0014】
したがって本発明の目的物は、前面重合によって硬化可能な反応型樹脂モルタルであって、少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)、少なくとも1つのチオール官能基化された化合物(b)、および少なくとも1つの重合開始剤(c)を備え、ここでこの少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)およびこの少なくとも1つのチオール官能基化された化合物(b)の重量比は、10:1〜2:1の範囲にあり、かつここでこの重合開始剤(c)は、30℃より上の温度で熱的に活性化可能な化合物、および/または熱的に放出可能なもの、および/または少なくとも1つの有機置換されたアンモニウム塩と少なくとも1つの無機過
硫酸塩とから現場で形成される過
硫酸アンモニウムの内から選択されている。
【0015】
本発明による反応型樹脂モルタルは、実質的に、熱開始、すなわち表面層の局所的または平面的な加熱によって、またはこの反応型樹脂モルタルの内部の加熱によって、上記の熱的に活性化可能な重合開始剤および/または熱的に放出可能な重合開始剤が活性となり、そして上記の硬化可能な化合物の重合が開始される。これによって実質的に、このモルタルの任意に長い可使時間を実現することができ、かつこの可使時間を硬化時間から完全に切り離すことができる。これは硬化が熱開始によって漸く開始されるからである。このようにして、固定される部材を、場合によっては、反応型樹脂モルタルのボアホールへの投入してから何時間も後に打込んで調整することが可能となり、この反応型樹脂モルタルの硬化は、モルタル表面の短時間の加熱によって数秒から数分の内に起こる。
【0016】
ここで熱開始とは、反応型樹脂モルタルの重合反応が任意の時点で、場合によっては分離された部品(複数)に存在する組成成分(複数)の混合によるこの反応型樹脂モルタルの形成後に、熱を与えることによって開始することができることを意味し、これによりこの反応型樹脂モルタルの非常に長い可使時間が得られ、またその硬化を狙いを定めた所望の時点で開始することができる。これによって、まず非常に多数のボアホールに反応型樹脂モルタルを注入し、続いて固定部材を挿入して調整し、そしてそれから硬化を開始することが可能となり、これより最適かつ全体で同一な硬化が実現され、これによって取り付けられた固定部材の全体で同一の引き抜き強度を実現することができる。
【0017】
最後に、本発明による反応型樹脂モルタルを用いて、重力に従って下方に向かって起こる前面重合が可能であるだけでなく、水平方向あるいは上向きの垂直方向においても可能である。このようにして反応型樹脂モルタルの粘度を適宜調整することによって、たとえば天井に存在する、下方に開放されたボアホールも反応型樹脂モルタルで充填し、固定部材を挿入して熱開始によって硬化を開始することができる。
【0018】
ここで本発明によれば、反応型樹脂モルタルの重合の開始は、好ましくは、バーナー、半田ごてのこて先、固定部材の全長または部分長に渡って延在する電熱線、熱風ブロワ、フラッシュ光/レーザ光、誘導オーブン、またはこれらの同等物を利用した表面層の局所的または平面的な加熱によって、または現場での化学反応によって、または熱伝導性の固定部材を介した反応型樹脂モルタルの内部への熱付与によっても行われる。
【0019】
代替として反応型樹脂モルタルの組成成分を適宜選択することによって、本発明による反応型樹脂モルタルは、熱的な活性化無しに、ある程度の待ち時間の後に自発的に硬化することが可能である。発明者は、1つの重合促進剤(d)が存在する場合に、この重合促進剤の濃度に依存する、ある程度の時間の後に、この反応型樹脂モルタルの重合が事前の熱開始無しに開始されることを見出した。
【0020】
好適には、ラジカル重合可能な化合物(a)としては、少なくとも1つのC−C二重結合を有する化合物が用いられる。この化合物はラジカル重合可能であり、また単独重合することが無いため充分な貯蔵安定性がある。
【0021】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、上記の少なくとも1つの反応性のC−C二重結合を有する化合物は、少なくとも1つの非芳香族のC−C二重結合を有する化合物であり、(メタ)アクリレート官能基化された化合物類、アリル官能基化された化合物類、ビニル官能基化された化合物類、ノルボルネン官能基化された化合物類、および不飽和ポリエステル化合物類等である。
【0022】
不飽和ポリエステル化合物類の例は、M.Maik等の論文、J. Macromol. Sci., Rev. Macromol. Cem. Phys. 2000, C40, 139-165に記載されており、ここにはその構造に基づいたこのような化合物類の分類があり、以下の5つの群が記載されている。(1)オルソ系樹脂、(2)イソ系樹脂、(3)ビスフェノール−A−フマレート類、(4)クロレンド酸類、および(5)ビニルエステル樹脂類。これらからいわゆるジクロペンタジエン−(DCPD−)樹脂がさらに区別されてよい。
【0023】
他に好ましくは、反応性の炭素多重結合を有する化合物は、アリル
化合物、ビニル
化合物、(メタ)アクリル
化合物、フマル酸
化合物、マレイン酸
化合物、イタコン酸
化合物、クロトン酸
化合物、または桂皮酸
化合物の二重結合単位を備え、またはこの反応性の炭素多重結合を有する化合物は、ディールス−アルダー付加化合物またはこのノルボルネン誘導体、またはこの誘導体であって、二環式の二重結合を持つ他の化合物を有するものである。化合物の例としては、ビニルエステル類、アリルエステル類、ビニルエーテル類、アリルエーテル類、ビニルアミン類、アリルアミン類、ビニルアミド類、(メタ)アクリル酸のエステル類およびアミド類、フマル酸およびマレイン酸のエステル類がある。
【0024】
本発明により使用される重合可能なモノマー類あるいは硬化可能な樹脂類は、好ましくは以下のものから選択される。アクリル酸、メタクリル酸、スチロール、ジビニルベンゼン、ビニルアセテート、アクリルアミド、遷移金属硝酸塩/アクリルアミド錯体;アクリレート類であって、ブチルアクリレート、2−(2−エトキシ−エトキシ)エチルアクリレート(EOEOEA)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、ラウリルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、トリデシルアクリレート、エトキシル化ノニルフェノールアクリレート、イソボルニルアクリレート(IBOA)、エトキシル化ビスフェノールA−ジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)、アルコキシル化ジアクリレート、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGPODA)、エトキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGEODA)、ヘキサン−1,6−ジオールジアクリレート(HDDA)、テトラエチレングリコールジアクリレート(TTEGDA)、トリエチレングリコールジアクリレート(TIEGDA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DiTMPTTA)、トリス−(2−ヒドロキシエチル)−イソシアヌレートトリアクリレート(THEICTA)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DiPEPA)、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPEOTA)、プロポキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPPOTA)、エトキシル化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PPTTA)、プロポキシル化グリセリルトリアクリレート(GPTA)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、および修飾されたペンタエリスリトールアクリレート等;メタクリレート類であって、メチルメタクリレート(MMA)、アリルメタクリレート(AMA)、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)、フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(TIEGDMA)、エチレンングリコールジメタクリレート(EGDMA)、テトラエチレングリコールジメタクリレート(TTEGDMA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、ブタンジオールジメタクリレート(BDDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEG600DMA)、ブチレングリコールジメタクリレート(BGDMA)、エトキシル化ビスフェノールA−ジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)等;および/またはオリゴマー類またはプレポリマー類であって、ビスフェノールA−エポキシアクリレート、エポキシ化大豆油−アクリレート、エポキシ−ノボラック−アクリレート−オリゴマー類、脂肪酸修飾されたビスフェノールA−エポキシアクリレート、芳香族モノアクリレート−オリゴマー、脂肪族ジアクリレート−オリゴマー、四官能性エポキシアクリレート、アミン修飾されたポリエーテルアクリレート−オリゴマー、脂肪族ウレタントリアクリレート、脂肪族ウレタンテトラアクリレート、脂肪族ウレタンジアクリレート、五官能性芳香族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンジアクリレート、芳香族ウレタンテトラアクリレート、および五官能性ポリエステルアクリレート等。
【0025】
これらの重合可能なモノマー類あるいは硬化可能な樹脂類は、単体でまたは混合物として用いられてよい。
【0026】
本発明による反応型樹脂モルタルは、必要に応じ10重量%までの量で、とりわけ5重量%までの量で、低級アルキルケトン類等たとえばアセトン、ジメチルアセトアミド等のジ低級アルキル−ジ低級アルカノイルアミド類、キシロールまたはトルオール等の低級アルキルベンゼン類、フタル酸エステルまたはパラフィン、または水、とりわけジアルキルフタレートまたはジアルキルアジペート、および/またはジメチルホルムアミド、等の非反応性希釈剤を含んでよい。
【0027】
好適には、チオール官能基化化合物(b)として、少なくとも2つより多いチオール基を伴う全ての化合物が用いられてよい。ここで各々のチオール基は直接またはリンカーを介して骨格に結合されており、ここで本発明でのこのチオール官能基化化合物は、多種多様の骨格を介して用いられてよい。
【0028】
この骨格は、1つのモノマー、1つのオリゴマー、または1つのポリマーであってよい。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態においては、この骨格は、50,000g/mol以下、好ましくは25,000g/mol以下、極めて好ましくは10,000g/mol以下、さらに極めて好ましくは2,000g/mol以下、最も好ましくは1,000g/mol以下の分子質量(Mw)のモノマー類、オリゴマー類、またはポリマー類を備える。
【0030】
骨格として適しているモノマー類としては、例として、アルカンジオール類、アルキレングリコール類、糖類、これらの多価誘導体またはこれらの混合物、およびエチレンジアミンおよびヘキサメチレンジアミン等のアミン類、およびチオール類が挙げられる。骨格として適しているオリゴマーまたはポリマーとしては、例として以下のようなものが挙げられる。ポリアルキレンオキシド、ポリウレタン、ポリエチレンビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリジエン、水素化ポリジエン、アルキド、アルキドポリエステル、(メタ)アクリルポリマー、ポリオレフィン、ポリエステル、ハロゲン化ポリオレフィン、ハロゲン化ポリエステル、ポリマーカプタン、およびこれらの共重合体類または混合物。
【0031】
本発明の好ましい実施形態においては、この骨格は1つの多価アルコールまたは1つの多価アミンであり、ここでこれらはモノマー、オリゴマー、またはポリマーであってよい。極めて好ましくはこの骨格は1つの多価アルコールである。
【0032】
ここで骨格として適している多価アルコールとしては、例として以下のものが挙げられる。アルカンジオール類であって、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等、アルキレングリコール類であって、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびポリプロピレングリコール等、グリセリン、2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン、1,1,1−トリメチロールプロパン、ジ(トリメチロールプロパン)、トリシクロデカンジメチロール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノール、アルコキシル化および/またはエトキシル化および/またはプロポキシル化されたネオペンチルグリコールの誘導体、
テトラエチレングリコールシクロヘキサンジメタノール、ヘキサンジオール、2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン、1,1,1−トリメチロールプロパン、およびひまし油、糖類、これらの多価誘導体またはこれらの混合物。
【0033】
リンカーとしては、骨格と官能基とを結合するのに適した任意のユニットが利用されてよい。チオール官能基化された化合物に対しては、リンカーは以下の(I)〜(XI)の構造のものから選択されている。
1:官能基への結合部
2:骨格への結合部
【化1】
【0034】
チオール官能基化された化合物に対するリンカーとしてとりわけ好ましくは(I)、(II)、(III)、および(IV)の構造のものである。
【0035】
チオール官能基化された化合物に対しては、この官能基は、チオール基(−SH)である。
【0036】
とりわけ好ましいチオール官能基化された化合物は、α−チオ酢酸(2−メルカプトアセテート)であり、モノアルコール類、ジオール類、トリオール類、テトラオール類、ペンタオール類または他のポリオール類を有するβ−チオプロピオン酸(3−メルカプトプロピオネート)および3−チオ酪酸(3−メルカプトブチレート)であり、およびモノアルコール類、ジオール類、トリオール類、テトラオール類、ペンタオール類または他のポリオール類を用いた2−ヒドロキシ−3−メルカプトプロピル誘導体である。ここではアルコール類の混合物もチオール官能基化化合物用のベースとして使用されてよい。この観点において、国際公開第99/51663A1号パンフレットに示す内容は本出願に取り込まれるものである。
【0037】
とりわけ好ましいチオール官能基化化合物としては、例として以下のものが挙げられる。グリコール−ビス(2−メルカプトアセテート)、グリコール−ビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−プロピレングリコール−ビス(2−メルカプトアセテート)、1,2−プロピレングリコール−ビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,3−プロピレングリコール−ビス(2−メルカプトアセテート)、1,3−プロピレングリコール−ビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス(ヒドロキシメチル)メタン−トリス(2−メルカプトアセテート)、トリス(ヒドロキシメチル)メタン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン−トリス(2−メルカプトアセテート)、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(2−メルカプトアセテート)、エトキシル化1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(2−メルカプトアセテート)、プロポキシル化1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(2−メルカプトアセテート)、1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、エトキシル化1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、プロポキシル化1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(3−メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトール−トリス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトール−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトール−トリス(3−メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−メルカプトブチレート)、カップキュア(登録商標)3−800(BASF社)、GPM−800(ガブリエルパフォーマンスプロダクツ社)、カップキュアLOF(BASF社)、GPM−800LO(ガブリエルパフォーマンスプロダクツ社)、カレンズ(登録商標)MT PE−1(昭和電工株式会社)、2−エチルヘキシルチオグリコレート、イソ−オクチルチオグリコレート、ジ(nーブチル)チオジグリコレート、グリコール−ジ−3−メルカプトプロピオネート、1,6−ヘキサンジチオール、エチレングリコール−ビス(2−メルカプトアセテート)、およびテトラ(エチレングリコール)ジチオール。
【0038】
上記のチオール官能基化化合物は、単体で用いられてよく、または2つ以上の異なるチオール官能基化化合物の混合物として用いられてよい。
【0039】
本発明によれば、上記の少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)と上記の少なくとも1つのチオール官能基化化合物(b)との重量比は10:1〜2:1であり、好ましくは8:1から3:1である。
【0040】
本発明による反応型樹脂モルタルは、上記の少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)と上記の少なくとも1つのチオール官能基化化合物(b)からなる混合物を、上述の重量比で、10〜98重量%、好ましくは30〜80重量%含む。
【0041】
ここで用いられている質量表示である重量%は、特に記載していない限り、常にこの反応型樹脂モルタルの総重量に対するものである。
【0042】
本発明によよる反応型樹脂モルタルの硬化は、ラジカル重合によって行われる。この重合の際に使用される重合開始剤(c)(複数)は、場合により重合促進剤(d)として触媒または活性化剤と混合された、30℃より上の温度で熱的に活性化および/または熱的に反応開始される化合物であり、こうしてこの重合開始剤は重合可能な化合物を硬化するように作用する。
【0043】
上記の重合開始剤(c)は、クロロベンゼン中で100℃の温度で1〜200分、好ましくは1〜120分の範囲の半減期t
1/2を有する。この半減期t
1/2は、与えられた温度での重合開始剤(c)の半分が分解する時間である。様々な温度での重合開始剤の分解速度に関する情報は、これらの重合開始剤の製造者から得られるか、または専門家により決定されてよい。この半減期t
1/2の推定のさらなる1つの代替の方法は、文献からのプレエクスポネンシャル係数Aと活性化エネルギーE
Aにより以下の式を用いるものである。なおこれらのプレエクスポネンシャル係数Aと活性化エネルギーE
Aも同様にこの重合開始剤の製造者から得られるものである。
【数1】
【0044】
適合する重合開始剤(c)は、ペルオキシドであり、特に、ジ−tert−ブチルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類であり、ジベンゾイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類であり、tert−ブチルヒドロペルオキシドまたはクモールヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類であり、ブチルペルベンゾエート等のペルカルボン酸エステル類であり、1,1−ジ−tert−ブチル−ペルオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のペルケタル類であり、過
硫酸ナトリウム、過
硫酸カリウム、場合により有機置換された過
硫酸アンモニウム(たとえばテトラ−n−ブチルアンモニウム過
硫酸塩)および/またはアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物であり、100℃のクロロベンゼン中で、1〜200分、好ましくは1〜120分の範囲の半減期t
1/2を有するものである。これらの重合開始剤(c)は単体で、あるいは混合物として用いられてよい。
【0045】
同様に半減期なる用語はここで与えられた混合物における触媒による重合開始剤(c)の分解に対しても使用される。
【0046】
上記の重合開始剤(c)は、カバー材(たとえばマイクロカプセルによって)でカプセル化することによっても、30℃より上の温度への加熱の際にこのカバー材が軟化あるいは解放され、この重合開始剤が活性となるかあるいは放出されるようにすることで鈍感化することができる。
【0047】
代替として上記の重合開始剤(c)は、過
硫酸アンモニウムであってよく、この過
硫酸アンモニウムは、上記の適合した出発材料から現場で初めて形成される。好適には、出発材料(複数)としては、1つの有機置換されたアンモニウム塩および少なくとも1つの無機過
硫酸塩が使用される。これらはその混合により、上記の有機置換された過
硫酸アンモニウムを生成する。
【0048】
適合した有機置換されたアンモニウム塩は以下のものである。トリアルキル
アンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩、
トリアルキルアリールアンモニウム塩、テトラアリール
アンモニウム塩、トリアリールアンモニウム塩、または
テトラアリールアルキルアンモニウム塩であり、たとえば塩化物等のハロゲン化物、アセテート、(メタ)アクリレート、および/または硫酸水素塩。とりわけ好ましくは、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、硫酸水素テトラブチルアンモニウム、塩化テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム、または塩化トリメチルカプリルアンモニウム、またはこれらの化合物の混合物。
【0049】
適合した無機過
硫酸塩は以下のものである。ナトリウム
過硫酸、カリウム
過硫酸、非置換のまたはあまり置換されていない過硫酸アンモニウムであって、モノ
過硫酸アンモニウムまたはジアルキル
過硫酸アンモニウム、
過硫酸アリール−または/および過硫酸アリールアルキルアンモニウム。
【0050】
これらの重合開始剤(c)は単体で、あるいは混合物として用いられてよい。
【0051】
本発明のもう1つの好ましい実施形態によれば、硬化の改善のための過
硫酸アンモニウムに加えてペルオキシド、特にジ−tert−ブチルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシドまたはクモールヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド、ブチルペルベゾエート等のペルカルボン酸エステル、1,1−ジ−tert−ブチル−ペルオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のペルケタル、およびまたはアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物であって、上述のように100℃のクロロベンゼン中で、1〜200分、好ましくは1〜120分の範囲の半減期t
1/2を有するもの等がある。
【0052】
上記の重合開始剤(c)は、2〜30重量%の量で、好ましくは2〜12重量%の量で、非常に好ましくは5〜10重量%の量で、上記の反応型樹脂モルタルに含まれていてよい。重合開始剤の混合物が使用される場合、これらの重合開始剤の総量は正に上述の範囲にある。
【0053】
重合の促進のため、上記の反応型樹脂モルタルに、上記の重合開始剤(c)の分解のための重合促進剤(d)が添加されてよい。この重合促進剤によって、ペルオキシド類はそのその半減期が短くなり、使用することができるようになる。これらのペルオキシド類は促進剤無しでは100℃で200分より長い半減期を有している。
【0054】
適合した重合促進剤(d)は、特にアミン類であり、好ましくは、ジメチルアニリン、ビス(ヒドリキシエチル)−m−トルイジンまたはこれらの同等物等の第三級アミン、および/またはコバルト−、マンガン−、銅−、鉄−、および/またはバナジウム化合物等の金属化合物類である。
【0055】
外部からの熱付与による重合の早すぎる反応開始を避けるために、カプセル化した形態(たとえばマイクロカプセル化)および/または他の方法で鈍感化されて、重合開始剤の活性化のための触媒が上記の反応型樹脂モルタルに第2の成分中に添加されてよい。
【0056】
1つの特別な例は、重合促進剤(d)のポリマーへの固定であり、このポリマーは少なくとも30℃の限界温度の上でペルオキシド重合開始剤の分解を開始する、コバルト、マンガン、銅、鉄、および/またはバナジウム等の金属を放出する。適合した、当業者には既知の、重合開始剤(c)と重合促進剤(d)あるいは適合した禁止剤を有する硬化促進剤との組み合わせにより、30℃より上の所望の開始温度に狙いを定めて調整することができる。
【0057】
上記の重合促進(d)は、0〜1重量%の量で、好ましくは0.1〜0.5重量%の量で、上記の反応型樹脂モルタルに含まれていてよい。
【0058】
本発明の1つの好ましい実施形態においては、本発明による反応型樹脂モルタルは、さらに、充填材および/または他の添加剤等の、マスの様々な特性を制御するための1つの有機および/または無機添加物を含む。
【0059】
充填材として使用されるものは、一般的な充填材であり、好ましくは鉱物性または鉱物類似の充填材であり、石英、ガラス、砂、石英砂、石英粉、磁器、コランダム、セラミック、タルカム、ケイ酸(たとえばヒュームドシリカ)、ケイ酸塩、粘土、二酸化チタン、白亜、バライト、長石、玄武岩、水酸化アルミニウム、花崗岩、または砂岩等であり、熱硬化性樹脂等のポリマー充填材、石膏等の水硬性充填材、生石灰またはセメント(たとえばアルミナセメントまたはポートランドセメント)、アルミニウム等の金属、カーボンブラック、さらに木材、あるいはこれらの2つ以上の混合物、またはこれらの同等物またはこれらの同等物の2つ以上の混合物であり、これらは紛体として、粒状または成形体の形状で添加されていてよい。これらの充填材は、任意の形態で存在してよく、たとえば粉末または微粉末であってよく、またはたとえば円柱、円環、球、小板、小棒、鞍型、または結晶の形態の成形体であってよく、またはさらに繊維形状(繊維状充填材)であってよく、かつこれらのそれぞれの基本粒子は好ましくは最大の直径が10mmである。
【0060】
他に考えられる添加剤は、さらにチキソトロピー剤であり、場合により有機的に再処理されるヒュームドシリカ、ベントナイト、アルキルおよびメチルセルロース、ヒマシ油誘導体、またはこれらの同等物、フタル酸エステルまたはセバシン酸エステル等の可塑剤、安定化剤、帯電防止剤、増粘剤、軟化剤、硬化触媒、レオロジー助剤、湿潤剤であり、またたとえばこれらの成分に異なる着色を行い、これらの充分な混合をより良好に制御するための、色素または特に顔料等の着色用添加物が可能であり、またはこれらの同等物,またはこれらの2つ以上の混合物が可能である。
【0061】
上記の無機および/または有機の添加物は、上記の反応型樹脂モルタルに、60重量%までの量で含まれていてよい。
【0062】
本発明の1つの好ましい実施形態においては、反応型樹脂モルタルは、少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)と少なくとも1つのチオール官能基化された化合物(b)とが10:1〜2:1、好ましくは8:1〜3:1の重量比となっているものから成る混合物を10〜98重量%で含み、少なくとも1つの重合開始剤(c)を2〜12重量%で含み、少なくとも1つの重合促進剤(d)を0〜1重量%で含み、少なくとも1つの無機および/または有機の添加物(e)を0〜60重量%で含み、少なくとも1つの溶剤または希釈剤(f)を0〜10重量%で含む。
【0063】
本発明の1つの好ましい実施形態においては、反応型樹脂モルタルは、少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)と少なくとも1つのチオール官能基化された化合物(b)とが10:1〜2:1、好ましくは8:1〜3:1の重量比となっているものから成る混合物を30〜80重量%で含み、少なくとも1つの重合開始剤(c)を5〜10重量%で含み、1つの重合促進剤(d)を0〜0.5重量%で含み、少なくとも1つの無機および/または有機の添加物(e)を20〜60重量%で含み、少なくとも1つの溶剤または希釈剤(f)を0〜10重量%で含む。
【0064】
これらの組成成分の割合は、その重量%がそれぞれ加算されて100重量%となるように選択される。
【0065】
この本発明による反応型樹脂モルタルは、1成分または多成分で調合することができる。1成分の形態の場合においては、上記の成分(複数)は、熱を与えた後に漸くこの反応型樹脂モルタルの硬化が行われるように選択される。より良好な貯蔵性の観点から、本発明による反応型樹脂モルタルは、多成分で、具体的には2成分で調合されている。同様に、この反応型樹脂モルタル用には、もし重合開始剤として1つの有機置換過
硫酸アンモニウムが用いられなければならない場合は、多成分の形態、具体的には2成分の形態が好ましい。この際この反応型樹脂モルタルの1つの成分は、少なくとも1つの有機置換されたアンモニウム塩を含み、これに対し別の1つの成分は、少なくとも1つの無機加硫酸塩を含み、これらの成分が互いに混合されると直ぐにこれらは上記の有機置換された過硫酸アンモニウムを非常に速い反応で形成し、この過硫酸アンモニウムが、この反応型樹脂モルタルのラジカル硬化用の開始剤として供される。
【0066】
本発明のもう1つの目的物は、アンカー棒(複数)、鉄筋、またはこれらの同等物を、様々な鉱物性基礎におけるボアホール(複数)に固定するための方法であって、この方法は、上述の本発明による反応型樹脂モルタルをこのボアホールの中に投入するものである。続いてこれらのアンカー棒、鉄筋、または同様の固定部材この反応型樹脂モルタルが充填されたボアホールに挿入され、ここでこの反応型樹脂モルタルの上記の重合開始剤および/または上記の重合促進剤の反応温度の上の温度に加熱することによって前面重合が開始される。
【0067】
ここで、この反応型樹脂モルタルが2成分または多成分の形態であると、この反応型樹脂モルタルのこれらの成分の混合は、静的ミキサーを用いて行われる。重合開始剤として過
硫酸アンモニウムを用いる場合には、この反応型樹脂モルタルの1つの成分に含まれている上記の有機置換されたアンモニウム塩は、この反応型樹脂モルタルの上記の少なくとももう1つの成分に含まれている無機過
硫酸塩と現場で自発的に完全反応して、これに対応した有機置換された過
硫酸アンモニウムとなり、こうして熱作用によってラジカル重合可能な反応型樹脂モルタルが生成される。
【0068】
この際、この反応型樹脂モルタルの重合は、この反応型樹脂モルタルの表面または内部の局所的または平面的な加熱によって開始することができる。この反応型樹脂モルタルを熱伝導性の固定部材を介した熱付与によって反応開始することが可能であるが、本発明では、好ましくはこの反応型樹脂モルタルの局所的または平面的な加熱が、バーナー、半田ごてのこて先、熱風ブロワ、固定部材の全長または部分長に渡って延在する電熱線、フラッシュ光/レーザ光、誘導オーブン、および/または化学反応を利用して現場で行われる。
【0069】
さらに、この反応型樹脂モルタルの熱開始を、熱伝導性の固定部材を介した熱付与によって引き起こすことが可能であり、これは熱伝導によって、抵抗加熱、またはたとえばこの固定部材を介して照射される、電場、磁場、または電磁場等のエネルギー場、たとえばマイクロ波照射を利用して可能である。
【0070】
本発明による方法の実施の際には、ボアホールおよびアンカー棒のサイズの選択は、注入システムの従来技術に対応して行われる。この際準備されたボアホールへ投入される本発明による反応型樹脂モルタルは、固定される部材の打込みの後での環状の空隙が完全に充填されるような量で投入される。本発明によれば、この部材の調整が可能である。これはこの反応型樹脂モルタルが、数秒間の少なくとも80℃への短時間の加熱後に硬化するからである。
【0071】
本発明による反応型樹脂モルタルは、とりわけ化学的固定に適しており、特にメッシュスリーブを用いた孔あき煉瓦へのアンカーリングのアプリケーションに使用するのに適している。以上によりここでは特に、独国特許第10002367C1号明細書に記載されているような10cm/minより低い前面速度を用いて作業することも可能である。