特許第6604940号(P6604940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヒルティ アクチエンゲゼルシャフトの特許一覧

特許6604940前面重合によって硬化可能な反応型樹脂モルタルおよびアンカー棒の固定のための方法
<>
  • 特許6604940-前面重合によって硬化可能な反応型樹脂モルタルおよびアンカー棒の固定のための方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604940
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】前面重合によって硬化可能な反応型樹脂モルタルおよびアンカー棒の固定のための方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 26/10 20060101AFI20191031BHJP
   C08G 75/045 20160101ALI20191031BHJP
【FI】
   C04B26/10
   C08G75/045
【請求項の数】16
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-515503(P2016-515503)
(86)(22)【出願日】2014年9月19日
(65)【公表番号】特表2016-539191(P2016-539191A)
(43)【公表日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】EP2014069955
(87)【国際公開番号】WO2015040143
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2017年9月15日
(31)【優先権主張番号】13185075.2
(32)【優先日】2013年9月19日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】ブルゲル, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】プフェイル, アルミン
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−137141(JP,A)
【文献】 特表平07−509413(JP,A)
【文献】 特公昭47−042382(JP,B1)
【文献】 特開2001−234084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/045
C04B 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面重合によって硬化可能な反応型樹脂モルタルであって、
少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)、少なくとも1つのチオール官能基化された化合物(b)、および少なくとも1つの重合開始剤(c)を備え、
前記少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)と前記少なくとも1つのチオール官能基化された化合物(b)との重量比は、10:1〜2:1の範囲にあり、
前記重合開始剤(c)は、30℃より上の温度で熱的に活性化する、有機過酸化物又はアゾ化合物、および/または少なくとも1つの有機置換されたアンモニウム塩と少なくとも1つの無機過硫酸塩とから現場で形成される過硫酸アンモニウムの内から選択されており、
前記反応型樹脂モルタルは、重合開始剤(c)として過硫酸アンモニウムを含み、
前記少なくとも1つの有機置換されたアンモニウム塩および前記少なくとも1つの無機過硫酸塩が、反応を禁止するように分離されて存在し、これにより前記少なくとも1つの有機置換されたアンモニウム塩および前記少なくとも1つの無機過硫酸塩の混合のあとで初めて前記有機置換された過硫酸アンモニウムが形成される、
ことを特徴とする反応型樹脂モルタル。
【請求項2】
前記反応型樹脂モルタルは、前記少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)と前記少なくとも1つのチオール官能基化化合物(b)とからなる混合物を、10〜98重量%含むことを特徴とする、請求項1に記載の反応型樹脂モルタル。
【請求項3】
前記反応型樹脂モルタルは、前記重合開始剤(c)を2〜30重量%含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の反応型樹脂モルタル。
【請求項4】
前記反応型樹脂モルタルは、有機置換されたアンモニウム塩として、
トリアルキルアンモニウムハロゲン化物、テトラアルキルアンモニウムハロゲン化物、トリアリールアンモニウムハロゲン化物、テトラアリールアンモニウムハロゲン化物、トリアリールアルキルアンモニウムハロゲン化物、テトラアリールアルキルアンモニウムハロゲン化物、
トリアルキルアンモニウムアセテート、テトラアルキルアンモニウムアセテート、トリアリールアンモニウムアセテート、テトラアリールアンモニウムアセテート、トリアリールアルキルアンモニウムアセテート、テトラアリールアルキルアンモニウムアセテート、
トリアルキルアンモニウム(水素)炭酸塩、テトラアルキルアンモニウム(水素)炭酸塩、トリアリールアンモニウム(水素)炭酸塩、テトラアリールアンモニウム(水素)炭酸塩、トリアリールアルキルアンモニウム(水素)炭酸塩、テトラアリールアルキルアンモニウム(水素)炭酸塩、
トリアルキルアンモニウム(水素)燐酸塩、テトラアルキルアンモニウム(水素)燐酸塩、トリアリールアンモニウム(水素)燐酸塩、テトラアリールアンモニウム(水素)燐酸塩、トリアリールアルキルアンモニウム(水素)燐酸塩、テトラアリールアルキルアンモニウム(水素)燐酸塩、
トリアルキルアンモニウム(水素)硫酸塩、テトラアルキルアンモニウム(水素)硫酸塩、トリアリールアンモニウム(水素)硫酸塩、テトラアリールアンモニウム(水素)硫酸塩、トリアリールアルキルアンモニウム(水素)硫酸塩、テトラアリールアルキルアンモニウム(水素)硫酸塩、
トリアルキルアンモニウム(メタ)アクリレート、テトラアルキルアンモニウム(メタ)アクリレート、トリアリールアンモニウム(メタ)アクリレート、テトラアリールアンモニウム(メタ)アクリレート、トリアリールアルキルアンモニウム(メタ)アクリレート、テトラアリールアルキルアンモニウム(メタ)アクリレート、
またはこれらの化合物の混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の反応型樹脂モルタル。
【請求項5】
前記反応型樹脂モルタルは、重合開始剤(c)として有機過酸化物および/またはアゾ化合物を含み、これらは場合により重合促進剤(d)が存在する状態で、クロロベンゼン中で100℃の温度で、それぞれ1〜200分の範囲の半減期を有することを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の反応型樹脂モルタル。
【請求項6】
前記反応型樹脂モルタルは、さらに重合促進剤(d)を含むことを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の反応型樹脂モルタル。
【請求項7】
前記反応型樹脂モルタルは、さらに無機および/または有機添加物を含むことを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載の反応型樹脂モルタル。
【請求項8】
前記添加物は、充填材(複数)および/または添加剤(複数)の内から選択されていることを特徴とする、請求項7に記載の反応型樹脂モルタル。
【請求項9】
前記添加物が、60重量%までの量で含まれていることを特徴とする、請求項8に記載の反応型樹脂モルタル。
【請求項10】
前記重合促進剤(d)は、アミン類、硫化物類、チオ尿素、またはメルカプトン類、および/または金属化合物の内から選択されていることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の反応型樹脂モルタル。
【請求項11】
前記少なくとも1つの重合促進剤(d)が、0.01〜1重量%で含まれていることを特徴とする、請求項6乃至10に記載の反応型樹脂モルタル。
【請求項12】
アンカー棒、鉄筋、またはこれらの同等物を、様々な基礎のボアホールに固定するための方法であって、
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の反応型樹脂モルタルを前記ボアホールに投入し、前記アンカー棒、前記鉄筋、またはこれらの同等物を挿入し、前記反応型樹脂モルタルを前記重合開始剤あるいは前記重合促進剤の反応温度より上の温度に加熱することによって前面重合が開始されることを特徴とする方法。
【請求項13】
アンカー棒、鉄筋、またはこれらの同等物を孔あき基礎に固定するための、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記反応型樹脂モルタルの重合が、モルタルマスの表面または内部での局所的または平面的な加熱によって開始されることを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記反応型樹脂モルタルの重合は、前記アンカー棒、鉄筋、またはこれらの同等物を介した熱付与によって開始されることを特徴とする、請求項12乃至14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記局所的または平面的な加熱は、バーナー、半田ごてのこて先、電熱線、熱風ブロワ、誘導オーブン、フラッシュ光、レーザ光を利用して、および/または現場での化学反応によって行われることを特徴とする、請求項14または15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物、少なくとも1つのチオール官能基化された化合物、および少なくとも1つの重合開始剤を有する、前面重合によって硬化可能な反応型樹脂モルタルに関し、またこの反応型樹脂モルタルを用いてアンカー棒、鉄筋、またはこれらの同等物を固い基盤に固定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンカー棒、鉄筋、またはこれらの類似の部材を、コンクリートまたは煉瓦造り等の鉱物性の基礎における1つのボアホールに固定するために、通常は、メタクリル樹脂類またはエポキシ樹脂類をベースにした2成分反応型樹脂モルタルが使用される。この反応型樹脂モルタルは、相互に反応する組成成分を混合した後に、かなりの可使時間を有し、この時間の間に固定される部材を打込むことができ、さらなる時間経過後にその最終的な強度に達する。上記の可使時間は、通常の条件では数分の範囲にある。原則的に硬化は数分〜数時間の間に行われる。どのような場合でも2つの効果が互いに結びついており、すなわち長い可使時間は長い硬化時間をもたらし、ここでこれらの時間は環境条件、すなわち温度に依存して変化し得る。
【0003】
特許文献1にはアンカーリング部の固定のための反応型樹脂モルタルが開示されており、この反応型樹脂モルタルは、ラジカル硬化可能なビニルエステルウレタン類を結合剤として含み、極めて優れた耐久性および強度を有する固定部を提供する。
【0004】
特許文献2の目的物は、無機または有機ベースの化合物と硬化剤とを含む、ボアホールのおけるアンカーリング剤の固定のための2成分反応型樹脂モルタルであり、この樹脂モルタルはこれが水硬性および/または重縮合可能な化合物類を含み、かつ硬化可能なビニルエステル類を含むために、低減された収縮性に加えて非常に優れて有利な貯蔵性、高い熱たわみ耐性、改善された防火性、気候条件に対する耐久性、高い結合強度、好ましい膨張係数、充分な長期性能、および高い温度変化耐性を備える。
【0005】
最後に特許文献3は、固い物体へのアンカーの固定のためのアンカーリング樹脂(Duebelharze)を開示しており、このアンカーリング樹脂は、アンプルまたはカートリッジに収容され、結合剤としてラジカルには重合可能でないポリマー類、少なくとも2つの(メタ)アクリレート基を有する反応性希釈剤、他の反応性希釈剤、180℃の沸点を有する反応性希釈剤、他のポリマー類、および非反応性溶剤を含んでいる。このアンカーリング樹脂は、従来技術で一般的な、あるいは要求される保持力を達成しており、その取扱いは安全であり、少ない毒性成分を含み、かつその物理的特性においてそれぞれのアプリケーション目的に適合させることができる。
【0006】
この反応型樹脂モルタル、すなわちアンカーリング樹脂の建築現場での使用の際にも、理想的な条件で作業することは全く可能ではないので、たとえば複数のボアホールにまずこれらの反応型樹脂モルタルまたはアンカーリング樹脂が注入され、そして固定部材が次々挿入される場合は、硬化する反応型樹脂モルタルあるいはアンカーリング樹脂の打込みとこれらの固定部材の挿入との間には時間差が生じ、これがこの反応型樹脂モルタルあるいはアンカーリング樹脂の早すぎる硬化をもたらし得、この結果このボアホールはもはや使用できなくなってしまう。これは特に高温(夏季)では重大である。
【0007】
可使時間および/または硬化時間の温度依存性の克服のため、古い独国特許(特許文献4)は、熱開始後の前面重合によって硬化可能な反応型樹脂モルタルを提案しており、これは重合可能なモノマーまたは硬化可能な樹脂および場合により少なくとも1つの充填材の他に、このモノマー用の30℃より高い温度で活性化可能および/または熱的に放出可能な重合開始剤、および/またはこの硬化可能な樹脂用の硬化促進剤を含み、ここでモノマーあるいは樹脂および重合開始剤あるいは硬化促進剤の種類と量は、重合の開始の後に、この重合前面の速度(前面速度)が少なくとも10cm/minとなるように選択されている。この系の欠点は、貯蔵安定性が十分でないことである。
【0008】
この系の貯蔵安定性を高くするため、しかしながらそれでも極めて反応性の系を提供するため、特許文献5は、重合開始剤として有機置換された過硫酸アンモニウムを使用することを提案しており、この過硫酸アンモニウムは、必要な原材料(複数)の形態でのみこの反応型樹脂モルタルの分離された成分(複数)に中に存在し、少なくとも2つの成分の現場での混合の際に漸くこの反応型樹脂モルタルの中に形成される。この際この反応型樹脂モルタルの1つの成分は、少なくとも1つの有機置換されたアンモニウム塩を含み、これに対し別の1つの成分は、少なくとも1つの無機加硫酸塩を含み、これらは上記の有機置換された過硫酸アンモニウムを非常に速い反応で形成する。こうしてこの過硫酸アンモニウムが、この反応型樹脂モルタルのラジカル硬化用の開始剤として供される。
【0009】
ここでしかしながら特許文献4の反応型樹脂モルタルも、また特許文献5の反応型樹脂モルタルも、極めて反応性の系であり、これらの系では高い前面温度に達するという欠点を有している。これらの高い温度は、硬化の際に著しい発煙および泡立ちをもたらす。分解生成物に由来する危険なガスが発生する。さらにこれらの系では、マスの硬化の際にかなり強い泡立ちが見られる。この結果、あまり密でない固形物が得られ、これは荷重値に対し不利に作用し、これによりこの反応型樹脂モルタルの適用領域は制限されている。
【0010】
発明者らは、反応性成分、具体的には反応性の重合可能な化合物をより反応性の低い化合物に交換することによっては、これらの問題は解決されないことを見出した。むしろ、その硬化が不十分になり、重合前面が崩壊し、そしてこれによって、この反応型樹脂モルタルが完全硬化される前にこの硬化が停止してしまうことが見られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】独国特許出願公開第3940309A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第4231161A1号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第4315788A1号明細書
【特許文献4】独国特許第10002357C1号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第10132336A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明の課題は、熱開始後に前面重合によって硬化する反応型樹脂モルタルを提供することであり、この反応型樹脂モルタルは特に少ない発煙かつ僅かな泡立ちを示し、完全に硬化し、かつこの反応型樹脂モルタルの硬化後に密なマスとなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここで驚くべきことに、この課題は、チオール官能基化された化合物の添加によって解決されることが分った。これによって、特許文献4および特許文献5に開示された系と比較して、より反応性が低く、より少ない発煙および低減された泡立ちを示し、しかしながらそれでもそれでも完全に硬化しかつ密なポリマーとなる、反応型樹脂モルタルを提供することが可能である。
【0014】
したがって本発明の目的物は、前面重合によって硬化可能な反応型樹脂モルタルであって、少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)、少なくとも1つのチオール官能基化された化合物(b)、および少なくとも1つの重合開始剤(c)を備え、ここでこの少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)およびこの少なくとも1つのチオール官能基化された化合物(b)の重量比は、10:1〜2:1の範囲にあり、かつここでこの重合開始剤(c)は、30℃より上の温度で熱的に活性化可能な化合物、および/または熱的に放出可能なもの、および/または少なくとも1つの有機置換されたアンモニウム塩と少なくとも1つの無機過酸塩とから現場で形成される過酸アンモニウムの内から選択されている。
【0015】
本発明による反応型樹脂モルタルは、実質的に、熱開始、すなわち表面層の局所的または平面的な加熱によって、またはこの反応型樹脂モルタルの内部の加熱によって、上記の熱的に活性化可能な重合開始剤および/または熱的に放出可能な重合開始剤が活性となり、そして上記の硬化可能な化合物の重合が開始される。これによって実質的に、このモルタルの任意に長い可使時間を実現することができ、かつこの可使時間を硬化時間から完全に切り離すことができる。これは硬化が熱開始によって漸く開始されるからである。このようにして、固定される部材を、場合によっては、反応型樹脂モルタルのボアホールへの投入してから何時間も後に打込んで調整することが可能となり、この反応型樹脂モルタルの硬化は、モルタル表面の短時間の加熱によって数秒から数分の内に起こる。
【0016】
ここで熱開始とは、反応型樹脂モルタルの重合反応が任意の時点で、場合によっては分離された部品(複数)に存在する組成成分(複数)の混合によるこの反応型樹脂モルタルの形成後に、熱を与えることによって開始することができることを意味し、これによりこの反応型樹脂モルタルの非常に長い可使時間が得られ、またその硬化を狙いを定めた所望の時点で開始することができる。これによって、まず非常に多数のボアホールに反応型樹脂モルタルを注入し、続いて固定部材を挿入して調整し、そしてそれから硬化を開始することが可能となり、これより最適かつ全体で同一な硬化が実現され、これによって取り付けられた固定部材の全体で同一の引き抜き強度を実現することができる。
【0017】
最後に、本発明による反応型樹脂モルタルを用いて、重力に従って下方に向かって起こる前面重合が可能であるだけでなく、水平方向あるいは上向きの垂直方向においても可能である。このようにして反応型樹脂モルタルの粘度を適宜調整することによって、たとえば天井に存在する、下方に開放されたボアホールも反応型樹脂モルタルで充填し、固定部材を挿入して熱開始によって硬化を開始することができる。
【0018】
ここで本発明によれば、反応型樹脂モルタルの重合の開始は、好ましくは、バーナー、半田ごてのこて先、固定部材の全長または部分長に渡って延在する電熱線、熱風ブロワ、フラッシュ光/レーザ光、誘導オーブン、またはこれらの同等物を利用した表面層の局所的または平面的な加熱によって、または現場での化学反応によって、または熱伝導性の固定部材を介した反応型樹脂モルタルの内部への熱付与によっても行われる。
【0019】
代替として反応型樹脂モルタルの組成成分を適宜選択することによって、本発明による反応型樹脂モルタルは、熱的な活性化無しに、ある程度の待ち時間の後に自発的に硬化することが可能である。発明者は、1つの重合促進剤(d)が存在する場合に、この重合促進剤の濃度に依存する、ある程度の時間の後に、この反応型樹脂モルタルの重合が事前の熱開始無しに開始されることを見出した。
【0020】
好適には、ラジカル重合可能な化合物(a)としては、少なくとも1つのC−C二重結合を有する化合物が用いられる。この化合物はラジカル重合可能であり、また単独重合することが無いため充分な貯蔵安定性がある。
【0021】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、上記の少なくとも1つの反応性のC−C二重結合を有する化合物は、少なくとも1つの非芳香族のC−C二重結合を有する化合物であり、(メタ)アクリレート官能基化された化合物類、アリル官能基化された化合物類、ビニル官能基化された化合物類、ノルボルネン官能基化された化合物類、および不飽和ポリエステル化合物類等である。
【0022】
不飽和ポリエステル化合物類の例は、M.Maik等の論文、J. Macromol. Sci., Rev. Macromol. Cem. Phys. 2000, C40, 139-165に記載されており、ここにはその構造に基づいたこのような化合物類の分類があり、以下の5つの群が記載されている。(1)オルソ系樹脂、(2)イソ系樹脂、(3)ビスフェノール−A−フマレート類、(4)クロレンド酸類、および(5)ビニルエステル樹脂類。これらからいわゆるジクロペンタジエン−(DCPD−)樹脂がさらに区別されてよい。
【0023】
他に好ましくは、反応性の炭素多重結合を有する化合物は、アリル化合物、ビニル化合物、(メタ)アクリル化合物、フマル酸化合物、マレイン酸化合物、イタコン酸化合物、クロトン酸化合物、または桂皮酸化合物の二重結合単位を備え、またはこの反応性の炭素多重結合を有する化合物は、ディールス−アルダー付加化合物またはこのノルボルネン誘導体、またはこの誘導体であって、二環式の二重結合を持つ他の化合物を有するものである。化合物の例としては、ビニルエステル類、アリルエステル類、ビニルエーテル類、アリルエーテル類、ビニルアミン類、アリルアミン類、ビニルアミド類、(メタ)アクリル酸のエステル類およびアミド類、フマル酸およびマレイン酸のエステル類がある。
【0024】
本発明により使用される重合可能なモノマー類あるいは硬化可能な樹脂類は、好ましくは以下のものから選択される。アクリル酸、メタクリル酸、スチロール、ジビニルベンゼン、ビニルアセテート、アクリルアミド、遷移金属硝酸塩/アクリルアミド錯体;アクリレート類であって、ブチルアクリレート、2−(2−エトキシ−エトキシ)エチルアクリレート(EOEOEA)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、ラウリルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、トリデシルアクリレート、エトキシル化ノニルフェノールアクリレート、イソボルニルアクリレート(IBOA)、エトキシル化ビスフェノールA−ジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)、アルコキシル化ジアクリレート、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGPODA)、エトキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGEODA)、ヘキサン−1,6−ジオールジアクリレート(HDDA)、テトラエチレングリコールジアクリレート(TTEGDA)、トリエチレングリコールジアクリレート(TIEGDA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DiTMPTTA)、トリス−(2−ヒドロキシエチル)−イソシアヌレートトリアクリレート(THEICTA)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(DiPEPA)、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPEOTA)、プロポキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPPOTA)、エトキシル化ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PPTTA)、プロポキシル化グリセリルトリアクリレート(GPTA)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETTA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、および修飾されたペンタエリスリトールアクリレート等;メタクリレート類であって、メチルメタクリレート(MMA)、アリルメタクリレート(AMA)、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)、フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(TIEGDMA)、エチレンングリコールジメタクリレート(EGDMA)、テトラエチレングリコールジメタクリレート(TTEGDMA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、ブタンジオールジメタクリレート(BDDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEG600DMA)、ブチレングリコールジメタクリレート(BGDMA)、エトキシル化ビスフェノールA−ジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)等;および/またはオリゴマー類またはプレポリマー類であって、ビスフェノールA−エポキシアクリレート、エポキシ化大豆油−アクリレート、エポキシ−ノボラック−アクリレート−オリゴマー類、脂肪酸修飾されたビスフェノールA−エポキシアクリレート、芳香族モノアクリレート−オリゴマー、脂肪族ジアクリレート−オリゴマー、四官能性エポキシアクリレート、アミン修飾されたポリエーテルアクリレート−オリゴマー、脂肪族ウレタントリアクリレート、脂肪族ウレタンテトラアクリレート、脂肪族ウレタンジアクリレート、五官能性芳香族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンジアクリレート、芳香族ウレタンテトラアクリレート、および五官能性ポリエステルアクリレート等。
【0025】
これらの重合可能なモノマー類あるいは硬化可能な樹脂類は、単体でまたは混合物として用いられてよい。
【0026】
本発明による反応型樹脂モルタルは、必要に応じ10重量%までの量で、とりわけ5重量%までの量で、低級アルキルケトン類等たとえばアセトン、ジメチルアセトアミド等のジ低級アルキル−ジ低級アルカノイルアミド類、キシロールまたはトルオール等の低級アルキルベンゼン類、フタル酸エステルまたはパラフィン、または水、とりわけジアルキルフタレートまたはジアルキルアジペート、および/またはジメチルホルムアミド、等の非反応性希釈剤を含んでよい。
【0027】
好適には、チオール官能基化化合物(b)として、少なくとも2つより多いチオール基を伴う全ての化合物が用いられてよい。ここで各々のチオール基は直接またはリンカーを介して骨格に結合されており、ここで本発明でのこのチオール官能基化化合物は、多種多様の骨格を介して用いられてよい。
【0028】
この骨格は、1つのモノマー、1つのオリゴマー、または1つのポリマーであってよい。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態においては、この骨格は、50,000g/mol以下、好ましくは25,000g/mol以下、極めて好ましくは10,000g/mol以下、さらに極めて好ましくは2,000g/mol以下、最も好ましくは1,000g/mol以下の分子質量(Mw)のモノマー類、オリゴマー類、またはポリマー類を備える。
【0030】
骨格として適しているモノマー類としては、例として、アルカンジオール類、アルキレングリコール類、糖類、これらの多価誘導体またはこれらの混合物、およびエチレンジアミンおよびヘキサメチレンジアミン等のアミン類、およびチオール類が挙げられる。骨格として適しているオリゴマーまたはポリマーとしては、例として以下のようなものが挙げられる。ポリアルキレンオキシド、ポリウレタン、ポリエチレンビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリジエン、水素化ポリジエン、アルキド、アルキドポリエステル、(メタ)アクリルポリマー、ポリオレフィン、ポリエステル、ハロゲン化ポリオレフィン、ハロゲン化ポリエステル、ポリマーカプタン、およびこれらの共重合体類または混合物。
【0031】
本発明の好ましい実施形態においては、この骨格は1つの多価アルコールまたは1つの多価アミンであり、ここでこれらはモノマー、オリゴマー、またはポリマーであってよい。極めて好ましくはこの骨格は1つの多価アルコールである。
【0032】
ここで骨格として適している多価アルコールとしては、例として以下のものが挙げられる。アルカンジオール類であって、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等、アルキレングリコール類であって、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびポリプロピレングリコール等、グリセリン、2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン、1,1,1−トリメチロールプロパン、ジ(トリメチロールプロパン)、トリシクロデカンジメチロール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノール、アルコキシル化および/またはエトキシル化および/またはプロポキシル化されたネオペンチルグリコールの誘導体、
テトラエチレングリコールシクロヘキサンジメタノール、ヘキサンジオール、2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン、1,1,1−トリメチロールプロパン、およびひまし油、糖類、これらの多価誘導体またはこれらの混合物。
【0033】
リンカーとしては、骨格と官能基とを結合するのに適した任意のユニットが利用されてよい。チオール官能基化された化合物に対しては、リンカーは以下の(I)〜(XI)の構造のものから選択されている。
1:官能基への結合部
2:骨格への結合部
【化1】
【0034】
チオール官能基化された化合物に対するリンカーとしてとりわけ好ましくは(I)、(II)、(III)、および(IV)の構造のものである。
【0035】
チオール官能基化された化合物に対しては、この官能基は、チオール基(−SH)である。
【0036】
とりわけ好ましいチオール官能基化された化合物は、α−チオ酢酸(2−メルカプトアセテート)であり、モノアルコール類、ジオール類、トリオール類、テトラオール類、ペンタオール類または他のポリオール類を有するβ−チオプロピオン酸(3−メルカプトプロピオネート)および3−チオ酪酸(3−メルカプトブチレート)であり、およびモノアルコール類、ジオール類、トリオール類、テトラオール類、ペンタオール類または他のポリオール類を用いた2−ヒドロキシ−3−メルカプトプロピル誘導体である。ここではアルコール類の混合物もチオール官能基化化合物用のベースとして使用されてよい。この観点において、国際公開第99/51663A1号パンフレットに示す内容は本出願に取り込まれるものである。
【0037】
とりわけ好ましいチオール官能基化化合物としては、例として以下のものが挙げられる。グリコール−ビス(2−メルカプトアセテート)、グリコール−ビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−プロピレングリコール−ビス(2−メルカプトアセテート)、1,2−プロピレングリコール−ビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,3−プロピレングリコール−ビス(2−メルカプトアセテート)、1,3−プロピレングリコール−ビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス(ヒドロキシメチル)メタン−トリス(2−メルカプトアセテート)、トリス(ヒドロキシメチル)メタン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン−トリス(2−メルカプトアセテート)、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(2−メルカプトアセテート)、エトキシル化1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(2−メルカプトアセテート)、プロポキシル化1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(2−メルカプトアセテート)、1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、エトキシル化1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、プロポキシル化1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、1,1,1−トリメチロールプロパン−トリス(3−メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトール−トリス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトール−トリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトール−トリス(3−メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−メルカプトブチレート)、カップキュア(登録商標)3−800(BASF社)、GPM−800(ガブリエルパフォーマンスプロダクツ社)、カップキュアLOF(BASF社)、GPM−800LO(ガブリエルパフォーマンスプロダクツ社)、カレンズ(登録商標)MT PE−1(昭和電工株式会社)、2−エチルヘキシルチオグリコレート、イソ−オクチルチオグリコレート、ジ(nーブチル)チオジグリコレート、グリコール−ジ−3−メルカプトプロピオネート、1,6−ヘキサンジチオール、エチレングリコール−ビス(2−メルカプトアセテート)、およびテトラ(エチレングリコール)ジチオール。
【0038】
上記のチオール官能基化化合物は、単体で用いられてよく、または2つ以上の異なるチオール官能基化化合物の混合物として用いられてよい。
【0039】
本発明によれば、上記の少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)と上記の少なくとも1つのチオール官能基化化合物(b)との重量比は10:1〜2:1であり、好ましくは8:1から3:1である。
【0040】
本発明による反応型樹脂モルタルは、上記の少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)と上記の少なくとも1つのチオール官能基化化合物(b)からなる混合物を、上述の重量比で、10〜98重量%、好ましくは30〜80重量%含む。
【0041】
ここで用いられている質量表示である重量%は、特に記載していない限り、常にこの反応型樹脂モルタルの総重量に対するものである。
【0042】
本発明によよる反応型樹脂モルタルの硬化は、ラジカル重合によって行われる。この重合の際に使用される重合開始剤(c)(複数)は、場合により重合促進剤(d)として触媒または活性化剤と混合された、30℃より上の温度で熱的に活性化および/または熱的に反応開始される化合物であり、こうしてこの重合開始剤は重合可能な化合物を硬化するように作用する。
【0043】
上記の重合開始剤(c)は、クロロベンゼン中で100℃の温度で1〜200分、好ましくは1〜120分の範囲の半減期t1/2を有する。この半減期t1/2は、与えられた温度での重合開始剤(c)の半分が分解する時間である。様々な温度での重合開始剤の分解速度に関する情報は、これらの重合開始剤の製造者から得られるか、または専門家により決定されてよい。この半減期t1/2の推定のさらなる1つの代替の方法は、文献からのプレエクスポネンシャル係数Aと活性化エネルギーEAにより以下の式を用いるものである。なおこれらのプレエクスポネンシャル係数Aと活性化エネルギーEAも同様にこの重合開始剤の製造者から得られるものである。
【数1】
【0044】
適合する重合開始剤(c)は、ペルオキシドであり、特に、ジ−tert−ブチルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類であり、ジベンゾイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類であり、tert−ブチルヒドロペルオキシドまたはクモールヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類であり、ブチルペルベンゾエート等のペルカルボン酸エステル類であり、1,1−ジ−tert−ブチル−ペルオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のペルケタル類であり、過酸ナトリウム、過酸カリウム、場合により有機置換された過酸アンモニウム(たとえばテトラ−n−ブチルアンモニウム過酸塩)および/またはアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物であり、100℃のクロロベンゼン中で、1〜200分、好ましくは1〜120分の範囲の半減期t1/2を有するものである。これらの重合開始剤(c)は単体で、あるいは混合物として用いられてよい。
【0045】
同様に半減期なる用語はここで与えられた混合物における触媒による重合開始剤(c)の分解に対しても使用される。
【0046】
上記の重合開始剤(c)は、カバー材(たとえばマイクロカプセルによって)でカプセル化することによっても、30℃より上の温度への加熱の際にこのカバー材が軟化あるいは解放され、この重合開始剤が活性となるかあるいは放出されるようにすることで鈍感化することができる。
【0047】
代替として上記の重合開始剤(c)は、過酸アンモニウムであってよく、この過酸アンモニウムは、上記の適合した出発材料から現場で初めて形成される。好適には、出発材料(複数)としては、1つの有機置換されたアンモニウム塩および少なくとも1つの無機過酸塩が使用される。これらはその混合により、上記の有機置換された過酸アンモニウムを生成する。
【0048】
適合した有機置換されたアンモニウム塩は以下のものである。トリアルキルアンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルアリールアンモニウム塩、テトラアリールアンモニウム塩、トリアリールアンモニウム塩、またはテトラアリールアルキルアンモニウム塩であり、たとえば塩化物等のハロゲン化物、アセテート、(メタ)アクリレート、および/または硫酸水素塩。とりわけ好ましくは、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、硫酸水素テトラブチルアンモニウム、塩化テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム、または塩化トリメチルカプリルアンモニウム、またはこれらの化合物の混合物。
【0049】
適合した無機過酸塩は以下のものである。ナトリウム過硫酸、カリウム過硫酸、非置換のまたはあまり置換されていない過硫酸アンモニウムであって、モノ過硫酸アンモニウムまたはジアルキル過硫酸アンモニウム過硫酸アリール−または/および過硫酸アリールアルキルアンモニウム。
【0050】
これらの重合開始剤(c)は単体で、あるいは混合物として用いられてよい。
【0051】
本発明のもう1つの好ましい実施形態によれば、硬化の改善のための過酸アンモニウムに加えてペルオキシド、特にジ−tert−ブチルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシドまたはクモールヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド、ブチルペルベゾエート等のペルカルボン酸エステル、1,1−ジ−tert−ブチル−ペルオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のペルケタル、およびまたはアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物であって、上述のように100℃のクロロベンゼン中で、1〜200分、好ましくは1〜120分の範囲の半減期t1/2を有するもの等がある。
【0052】
上記の重合開始剤(c)は、2〜30重量%の量で、好ましくは2〜12重量%の量で、非常に好ましくは5〜10重量%の量で、上記の反応型樹脂モルタルに含まれていてよい。重合開始剤の混合物が使用される場合、これらの重合開始剤の総量は正に上述の範囲にある。
【0053】
重合の促進のため、上記の反応型樹脂モルタルに、上記の重合開始剤(c)の分解のための重合促進剤(d)が添加されてよい。この重合促進剤によって、ペルオキシド類はそのその半減期が短くなり、使用することができるようになる。これらのペルオキシド類は促進剤無しでは100℃で200分より長い半減期を有している。
【0054】
適合した重合促進剤(d)は、特にアミン類であり、好ましくは、ジメチルアニリン、ビス(ヒドリキシエチル)−m−トルイジンまたはこれらの同等物等の第三級アミン、および/またはコバルト−、マンガン−、銅−、鉄−、および/またはバナジウム化合物等の金属化合物類である。
【0055】
外部からの熱付与による重合の早すぎる反応開始を避けるために、カプセル化した形態(たとえばマイクロカプセル化)および/または他の方法で鈍感化されて、重合開始剤の活性化のための触媒が上記の反応型樹脂モルタルに第2の成分中に添加されてよい。
【0056】
1つの特別な例は、重合促進剤(d)のポリマーへの固定であり、このポリマーは少なくとも30℃の限界温度の上でペルオキシド重合開始剤の分解を開始する、コバルト、マンガン、銅、鉄、および/またはバナジウム等の金属を放出する。適合した、当業者には既知の、重合開始剤(c)と重合促進剤(d)あるいは適合した禁止剤を有する硬化促進剤との組み合わせにより、30℃より上の所望の開始温度に狙いを定めて調整することができる。
【0057】
上記の重合促進(d)は、0〜1重量%の量で、好ましくは0.1〜0.5重量%の量で、上記の反応型樹脂モルタルに含まれていてよい。
【0058】
本発明の1つの好ましい実施形態においては、本発明による反応型樹脂モルタルは、さらに、充填材および/または他の添加剤等の、マスの様々な特性を制御するための1つの有機および/または無機添加物を含む。
【0059】
充填材として使用されるものは、一般的な充填材であり、好ましくは鉱物性または鉱物類似の充填材であり、石英、ガラス、砂、石英砂、石英粉、磁器、コランダム、セラミック、タルカム、ケイ酸(たとえばヒュームドシリカ)、ケイ酸塩、粘土、二酸化チタン、白亜、バライト、長石、玄武岩、水酸化アルミニウム、花崗岩、または砂岩等であり、熱硬化性樹脂等のポリマー充填材、石膏等の水硬性充填材、生石灰またはセメント(たとえばアルミナセメントまたはポートランドセメント)、アルミニウム等の金属、カーボンブラック、さらに木材、あるいはこれらの2つ以上の混合物、またはこれらの同等物またはこれらの同等物の2つ以上の混合物であり、これらは紛体として、粒状または成形体の形状で添加されていてよい。これらの充填材は、任意の形態で存在してよく、たとえば粉末または微粉末であってよく、またはたとえば円柱、円環、球、小板、小棒、鞍型、または結晶の形態の成形体であってよく、またはさらに繊維形状(繊維状充填材)であってよく、かつこれらのそれぞれの基本粒子は好ましくは最大の直径が10mmである。
【0060】
他に考えられる添加剤は、さらにチキソトロピー剤であり、場合により有機的に再処理されるヒュームドシリカ、ベントナイト、アルキルおよびメチルセルロース、ヒマシ油誘導体、またはこれらの同等物、フタル酸エステルまたはセバシン酸エステル等の可塑剤、安定化剤、帯電防止剤、増粘剤、軟化剤、硬化触媒、レオロジー助剤、湿潤剤であり、またたとえばこれらの成分に異なる着色を行い、これらの充分な混合をより良好に制御するための、色素または特に顔料等の着色用添加物が可能であり、またはこれらの同等物,またはこれらの2つ以上の混合物が可能である。
【0061】
上記の無機および/または有機の添加物は、上記の反応型樹脂モルタルに、60重量%までの量で含まれていてよい。
【0062】
本発明の1つの好ましい実施形態においては、反応型樹脂モルタルは、少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)と少なくとも1つのチオール官能基化された化合物(b)とが10:1〜2:1、好ましくは8:1〜3:1の重量比となっているものから成る混合物を10〜98重量%で含み、少なくとも1つの重合開始剤(c)を2〜12重量%で含み、少なくとも1つの重合促進剤(d)を0〜1重量%で含み、少なくとも1つの無機および/または有機の添加物(e)を0〜60重量%で含み、少なくとも1つの溶剤または希釈剤(f)を0〜10重量%で含む。
【0063】
本発明の1つの好ましい実施形態においては、反応型樹脂モルタルは、少なくとも1つのラジカル重合可能な化合物(a)と少なくとも1つのチオール官能基化された化合物(b)とが10:1〜2:1、好ましくは8:1〜3:1の重量比となっているものから成る混合物を30〜80重量%で含み、少なくとも1つの重合開始剤(c)を5〜10重量%で含み、1つの重合促進剤(d)を0〜0.5重量%で含み、少なくとも1つの無機および/または有機の添加物(e)を20〜60重量%で含み、少なくとも1つの溶剤または希釈剤(f)を0〜10重量%で含む。
【0064】
これらの組成成分の割合は、その重量%がそれぞれ加算されて100重量%となるように選択される。
【0065】
この本発明による反応型樹脂モルタルは、1成分または多成分で調合することができる。1成分の形態の場合においては、上記の成分(複数)は、熱を与えた後に漸くこの反応型樹脂モルタルの硬化が行われるように選択される。より良好な貯蔵性の観点から、本発明による反応型樹脂モルタルは、多成分で、具体的には2成分で調合されている。同様に、この反応型樹脂モルタル用には、もし重合開始剤として1つの有機置換過酸アンモニウムが用いられなければならない場合は、多成分の形態、具体的には2成分の形態が好ましい。この際この反応型樹脂モルタルの1つの成分は、少なくとも1つの有機置換されたアンモニウム塩を含み、これに対し別の1つの成分は、少なくとも1つの無機加硫酸塩を含み、これらの成分が互いに混合されると直ぐにこれらは上記の有機置換された過硫酸アンモニウムを非常に速い反応で形成し、この過硫酸アンモニウムが、この反応型樹脂モルタルのラジカル硬化用の開始剤として供される。
【0066】
本発明のもう1つの目的物は、アンカー棒(複数)、鉄筋、またはこれらの同等物を、様々な鉱物性基礎におけるボアホール(複数)に固定するための方法であって、この方法は、上述の本発明による反応型樹脂モルタルをこのボアホールの中に投入するものである。続いてこれらのアンカー棒、鉄筋、または同様の固定部材この反応型樹脂モルタルが充填されたボアホールに挿入され、ここでこの反応型樹脂モルタルの上記の重合開始剤および/または上記の重合促進剤の反応温度の上の温度に加熱することによって前面重合が開始される。
【0067】
ここで、この反応型樹脂モルタルが2成分または多成分の形態であると、この反応型樹脂モルタルのこれらの成分の混合は、静的ミキサーを用いて行われる。重合開始剤として過酸アンモニウムを用いる場合には、この反応型樹脂モルタルの1つの成分に含まれている上記の有機置換されたアンモニウム塩は、この反応型樹脂モルタルの上記の少なくとももう1つの成分に含まれている無機過酸塩と現場で自発的に完全反応して、これに対応した有機置換された過酸アンモニウムとなり、こうして熱作用によってラジカル重合可能な反応型樹脂モルタルが生成される。
【0068】
この際、この反応型樹脂モルタルの重合は、この反応型樹脂モルタルの表面または内部の局所的または平面的な加熱によって開始することができる。この反応型樹脂モルタルを熱伝導性の固定部材を介した熱付与によって反応開始することが可能であるが、本発明では、好ましくはこの反応型樹脂モルタルの局所的または平面的な加熱が、バーナー、半田ごてのこて先、熱風ブロワ、固定部材の全長または部分長に渡って延在する電熱線、フラッシュ光/レーザ光、誘導オーブン、および/または化学反応を利用して現場で行われる。
【0069】
さらに、この反応型樹脂モルタルの熱開始を、熱伝導性の固定部材を介した熱付与によって引き起こすことが可能であり、これは熱伝導によって、抵抗加熱、またはたとえばこの固定部材を介して照射される、電場、磁場、または電磁場等のエネルギー場、たとえばマイクロ波照射を利用して可能である。
【0070】
本発明による方法の実施の際には、ボアホールおよびアンカー棒のサイズの選択は、注入システムの従来技術に対応して行われる。この際準備されたボアホールへ投入される本発明による反応型樹脂モルタルは、固定される部材の打込みの後での環状の空隙が完全に充填されるような量で投入される。本発明によれば、この部材の調整が可能である。これはこの反応型樹脂モルタルが、数秒間の少なくとも80℃への短時間の加熱後に硬化するからである。
【0071】
本発明による反応型樹脂モルタルは、とりわけ化学的固定に適しており、特にメッシュスリーブを用いた孔あき煉瓦へのアンカーリングのアプリケーションに使用するのに適している。以上によりここでは特に、独国特許第10002367C1号明細書に記載されているような10cm/minより低い前面速度を用いて作業することも可能である。
【発明の効果】
【0072】
このようにして、多量の泡立ちおよび発煙無しに、反応型樹脂モルタルの完全かつとりわけ均一に硬化するように作用させることが可能であり、これによって密に硬化された、改善された特性をもたらすマスを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】メッシュスリーブの概略図である。
【0074】
以下に示す例は、本発明の更なる詳細な説明である。
(実施例)
(前面温度および前面速度の測定)
前面温度の測定は、6mmの直径を有する試験管の中で行われる。適切な間隔で、2つの測定点に熱電対が設けられ、これらの熱電対を用いて温度の変化を測定することができる。検査される反応型樹脂モルタルは、室温(23℃)でこの試験管の中に投入される。この反応型樹脂モルタルの重合は、約200℃の半田ごてを用いたモルタル表面の一点への点火によって開始される。これらの測定点では、温度が測定される。これら2つの測定点の間隔のそれらの温度ピーク間の時間差での割り算から前面速度が計算される。
可使時間は、最終的に混合された反応型樹脂モルタルが室温で加工することができる期間である。そこで自発的に硬化しないモルタルマスに対しては、可使時間は与えられない。
【0075】
(破壊荷重の測定)
硬化したマスの破壊荷重の測定のため、EN791−1に準拠し、ただし約35MPの押圧力で16mmの直径で85mm深さの穴(複数)を孔あき煉瓦にボーリングし、図1に概略を示すように、差込端(2)および開放端(3)を有するヒルティ社のメッシュスリーブHIT−SC*85(1)を、このメッシュスリーブ(1)を反応型樹脂モルタルで充填しアンカー棒を収容するために、挿入する。これらのメッシュスリーブは、図1に示すように、1つの抵抗線(抵抗値約10オーム)(4)で簡単に巻かれている。このメッシュスリーブ(1)を反応型樹脂モルタルで充填した後、M10のサイズのアンカーねじ棒が打ち込まれ、約12Vの電圧を電熱線(4)を介して短時間印加することにより硬化が開始される。このアンカーねじ棒の中心引抜によって平均的破壊荷重が測定される。それぞれ3個のアンカーねじ棒が打込まれ、2時間硬化後にその荷重値が決定された。
【0076】
こうして測定された破壊荷重(kN)が、平均値として以下の表1に示されている。
(例1〜8)
以下の表1に示す組成成分を用いて、反応型樹脂モルタルが製造され、また上記の重合の際の前面温度および前面速度、および上述したような破壊荷重が決定される。
【0077】
これらの結果から、チオール官能基化化合物を用いることによって、上記の前面温度を時には顕著に低減することができ、特に例1〜8で顕著である。これは、マスのより少ない泡立ちおよびより良好な硬化をもたらす。こうして本発明による反応型樹脂モルタルを用いて、比較例による反応型樹脂モルタルを用いた場合よりも大きな破壊荷重を実現することができる。さらにこれらの結果は、本発明による組成物では、マスの充分な硬化を達成するために、独国特許第10002367C1号明細書にあるような、重合前面が決まった速度で前進しなければならないということはもはや必要ではない。本発明による反応型樹脂モルタルでは、良好な硬化がもはや前面速度に依存しない
【0078】
表1:反応型樹脂モルタルの組成および重合前面の温度測定の結果
【表1】
【符号の説明】
【0079】
1 メッシュスリーブ
2 差込端
3 開放端
4 電熱線
図1