特許第6605129号(P6605129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6605129片面メッキ鋼板の表面処理用組成物、これを用いて表面処理された鋼板、およびこれを用いた表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6605129
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】片面メッキ鋼板の表面処理用組成物、これを用いて表面処理された鋼板、およびこれを用いた表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/53 20060101AFI20191031BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20191031BHJP
   C25D 5/02 20060101ALI20191031BHJP
   C25D 5/26 20060101ALI20191031BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   C23C22/53
   C23C28/00 A
   C25D5/02 Z
   C25D5/26 C
   C25D5/48
【請求項の数】17
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-513663(P2018-513663)
(86)(22)【出願日】2015年9月24日
(65)【公表番号】特表2018-527466(P2018-527466A)
(43)【公表日】2018年9月20日
(86)【国際出願番号】KR2015010108
(87)【国際公開番号】WO2017047853
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2018年3月14日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0132706
(32)【優先日】2015年9月18日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ス ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】クォン、 ムンジェ
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 ウォン−ホ
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−186745(JP,A)
【文献】 特表2009−521608(JP,A)
【文献】 特表2003−514095(JP,A)
【文献】 特開2007−270302(JP,A)
【文献】 特開2004−013127(JP,A)
【文献】 特開2002−055202(JP,A)
【文献】 特開平08−248204(JP,A)
【文献】 特開2004−256694(JP,A)
【文献】 特開2006−306020(JP,A)
【文献】 特開平05−163358(JP,A)
【文献】 特開平07−011223(JP,A)
【文献】 特開2003−231346(JP,A)
【文献】 特開2008−169271(JP,A)
【文献】 特開平02−285093(JP,A)
【文献】 特開昭54−130444(JP,A)
【文献】 実開昭56−078878(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0169363(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0361572(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00−22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面メッキ鋼板の表面処理用組成物であって、
アクリル−ウレタン共重合樹脂(A);
Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド添加剤(B);および
溶媒;を含み、
下記式1および2を満足し、
前記表面処理用組成物は、カップリング剤、密着増進剤、またはこれらの混合物をさらに含み、
前記カップリング剤を含む場合は、前記表面処理用組成物の総量(100重量%)に対する前記カップリング剤の含有量は、0.5〜10重量%であり、
前記密着増進剤を含む場合は、前記表面処理用組成物の総量(100重量%)に対する前記密着増進剤の含有量は、2〜20重量%である、片面メッキ鋼板の表面処理用組成物。
[式1]0.3<[A]/([A]+[B])<0.7
[式2]20重量%<[A]+[B]<70重量%
(上記式1および2中、[A]および[B]はそれぞれ、前記表面処理用組成物の総量(100重量%)に対する前記Aの含有量(重量%)および前記Bの含有量(重量%)を意味する)
【請求項2】
前記Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド添加剤(B)は、シリコン(Si)系物質、ジルコニウム(Zr)系キレート剤、チタン(Ti)系キレート剤、および中和剤の反応で形成されたキレート化合物である、請求項1に記載の片面メッキ鋼板の表面処理用組成物。
【請求項3】
前記シリコン(Si)系物質は、コロイダルシリカ、シリカゾル、およびシリケートを含むシリコン(Si)系物質の中から選択される1種、または2〜3種の混合物である、請求項2に記載の片面メッキ鋼板の表面処理用組成物。
【請求項4】
前記ジルコニウム(Zr)系キレート剤は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアシレート、テトラアルキルジルコネートを含むジルコニウム(Zr)系キレート剤の中から選択される1種、または2〜3種の混合物である、請求項2に記載の片面メッキ鋼板の表面処理用組成物。
【請求項5】
前記チタン(Ti)系キレート剤は、ヘキサフルオロチタン酸、チタンフッ化水素酸、酸化チタン、硝酸チタニル、硫酸チタニル、四塩化チタン、テトラブチルチタン酸、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム、およびチタニウムアルコキシドを含むチタン(Ti)系キレート剤の中から選択される1種、または2〜3種の混合物である、請求項2に記載の片面メッキ鋼板の表面処理用組成物。
【請求項6】
前記中和剤は、イソプロピルアミン、およびトリエチルアミンを含むアミン系化合物の中から選択される1種、または2〜3種の混合物である、請求項2に記載の片面メッキ鋼板の表面処理用組成物。
【請求項7】
前記アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)は、数平均分子量が500,000〜1,500,000のアクリル樹脂、および数平均分子量が5,000〜15,000のウレタン樹脂のブロック共重合体である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の片面メッキ鋼板の表面処理用組成物。
【請求項8】
前記ブロック共重合体の共重合比率は、前記ウレタン樹脂に対する前記アクリル樹脂の重量比率で、40:60〜60:40である、請求項7に記載の片面メッキ鋼板の表面処理用組成物。
【請求項9】
前記カップリング剤は、ガンマ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ガンマ−アミノプロピルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含むシラン系カップリング剤の中から選択される1種、または2〜3種以上の混合物である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の片面メッキ鋼板の表面処理用組成物。
【請求項10】
前記密着増進剤は、リン酸エステル、リン酸アンモニウム、またはこれらの混合物である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の片面メッキ鋼板の表面処理用組成物。
【請求項11】
片面メッキ鋼板;および
表面処理層;を含み、
前記片面メッキ鋼板は、冷延鋼板および前記冷延鋼板の片面上に位置する第1メッキ層を含み、
前記表面処理層は、前記片面メッキ鋼板の第1メッキ層上に位置し、アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)およびSi−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド添加剤(B)を含み、下記式1を満足し、
前記表面処理層は、カップリング剤、密着増進剤、またはこれらの混合物をさらに含み、
前記片面メッキ鋼板の片面あたりの前記表面処理層の質量は、300〜2500mg/mであり、
前記冷延鋼板の片面あたりの前記第1メッキ層の質量は、5〜300g/mである、表面処理された片面メッキ鋼板。
[式1]0.3<[A]/([A]+[B])<0.7
(上記式1中、[A]および[B]はそれぞれ、前記表面処理層の総量(100重量%)に対する前記Aの含有量(重量%)および前記Bの含有量(重量%)を意味する)
【請求項12】
前記第1メッキ層は、亜鉛、亜鉛系合金、またはこれらの組み合わせを含むものである、請求項11に記載の表面処理された片面メッキ鋼板。
【請求項13】
前記片面メッキ鋼板は、前記冷延鋼板の他の片面上に存在する第2メッキ層をさらに含み、前記冷延鋼板の片面あたりの前記第2メッキ層の質量は、10mg/m以下(ただし、0mg/mを除く)である、請求項11または12に記載の表面処理された片面メッキ鋼板。
【請求項14】
冷延鋼板および前記冷延鋼板の片面上に位置する第1メッキ層を含む、片面メッキ鋼板を準備する段階;
前記片面メッキ鋼板の第1メッキ層上に、表面処理用組成物を塗布する段階;および
前記塗布された表面処理用組成物を硬化させて、表面処理層を形成する段階;を含み、
前記表面処理用組成物は、アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)、Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド添加剤(B)、および溶媒を含み、下記式1および2を満足し、カップリング剤、密着増進剤、またはこれらの混合物をさらに含み、
前記カップリング剤を含む場合は、前記表面処理用組成物の総量(100重量%)に対する前記カップリング剤の含有量は、0.5〜10重量%であり、
前記密着増進剤を含む場合は、前記表面処理用組成物の総量(100重量%)に対する前記密着増進剤の含有量は、2〜20重量%であり、
前記片面メッキ鋼板の片面あたりの前記表面処理層の質量が300〜2500mg/mとなるように前記表面処理層を形成し、
前記冷延鋼板の片面あたりの前記第1メッキ層の質量は5〜300g/mである、片面メッキ鋼板の表面処理方法。
[式1]0.3<[A]/([A]+[B])<0.7
[式2]20重量%<[A]+[B]<70重量%
(上記式1および2中、[A]および[B]はそれぞれ、前記表面処理層の総量(100重量%)に対する前記Aの含有量(重量%)および前記Bの含有量(重量%)を意味する)
【請求項15】
前記片面メッキ鋼板の第1メッキ層上に、表面処理用組成物を塗布する段階;は、ロールコーティング法、スプレー法、または浸漬法で行われるものである、請求項14に記載の片面メッキ鋼板の表面処理方法。
【請求項16】
前記塗布された表面処理用組成物を硬化させて、表面処理層を形成する段階;は、鋼板温度(MT−Metal Temperature)を基準にして、130〜250℃の温度範囲で行われるものである、請求項14または15に記載の片面メッキ鋼板の表面処理方法。
【請求項17】
前記片面メッキ鋼板を準備する段階;は、一側面に電流遮蔽装置が位置するメッキ槽を用いて行われるものである、請求項14〜16のいずれか一項に記載の片面メッキ鋼板の表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
片面メッキ鋼板の表面処理用組成物、これを用いて表面処理された鋼板、およびこれを用いた表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、モーターサイクルなどの車両の燃料タンクに用いられる鋼板は、車両の安全に直結する主要部品で、基本的に一定の強度および耐久性を有しながらも、燃料に対する耐食性と、燃料タンクと他の副資材が連結される継手部分から燃料が漏れる現象(leak)を防止するための溶接性などの品質が一定水準以上に確保される必要がある。
【0003】
かつて、鋼板の品質を改善する方法の一つとして、鉛(Pb)、スズ(Sn)、クロム(Cr)等重金属物質のメッキ方法が活発に研究されていた。しかし、これら重金属物質が環境汚染物質として規制される最近の実情において、それ以上研究されることは不適切である。
【0004】
一方、鋼板の品質を改善する他の方法として、有機樹脂によるコーティング方法が知られている。しかし、耐食性を確保するために、過度に厚い厚さにコーティングしたり、不可避に非導電体物質で後処理したりして、むしろ溶接性を低下させる問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実現例において提供される、片面メッキ鋼板の表面処理用組成物、これを用いて表面処理された鋼板、およびこれを用いた表面処理方法により、先に指摘された問題を解消する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
片面メッキ鋼板の表面処理用組成物
本発明の一実現例では、
アクリル−ウレタン共重合樹脂(A);Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B);および溶媒;を含み、
下記式1および2を満足する、片面メッキ鋼板の表面処理用組成物を提供し、このような表面処理用組成物に関する説明は次の通りである。
【0007】
[式1]0.3<[A]/([A]+[B])<0.7
[式2]20重量%<[A]+[B]<70重量%
(上記式1および2中、[A]および[B]はそれぞれ、前記表面処理用組成物の総量(100重量%)に対する前記Aの含有量(重量%)および前記Bの含有量(重量%)を意味する)
まず、前記Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B)は、シリコン(Si)系物質、ジルコニウム(Zr)系キレート剤、チタン(Ti)系キレート剤、および中和剤の反応で形成されたキレート化合物であってもよい。
【0008】
この時、前記シリコン(Si)系物質は、コロイダルシリカ、シリカゾル、およびシリケートを含むシリコン(Si)系物質の中から選択される1種、または2〜3種の混合物であってもよい。
【0009】
前記ジルコニウム(Zr)系キレート剤は、ジルコニウムアルコキシド(Zirconium Alkoxide)、ジルコニウムアシレート(Zirconium Acylate)、テトラアルキルジルコネート(Tetraalkyl Zirconate)を含むジルコニウム(Zr)系キレート剤の中から選択される1種、または2〜3種の混合物であってもよい。
【0010】
前記チタン(Ti)系キレート剤は、ヘキサフルオロチタン酸(Hexafluoro Titanic Acid)、チタンフッ化水素酸(Fluorotitanic Acid)、酸化チタン(Titanium Dioxide)、硝酸チタニル(Titanyl Nitrate)、硫酸チタニル(Titanyl Sulfate)、四塩化チタン(Titanium Tetrachloride)、テトラブチルチタン酸(Tetrabutyl titanic acid)、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム(Hexafluoro Ammonium Titanate)、およびチタニウムアルコキシド(Titanium Alkoxide)を含むチタン(Ti)系キレート剤の中から選択される1種、または2〜3種の混合物であってもよい。
【0011】
前記中和剤は、イソプロピルアミン(Isopropyl Amine)、およびトリエチルアミン(Triethyl Amine)を含むアミン系化合物の中から選択される1種、または2〜3種の混合物であってもよい。
【0012】
一方、前記アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)は、アクリル樹脂およびウレタン樹脂のブロック共重合体であってもよい。
【0013】
前記アクリル−ウレタン共重合バインダー樹脂は、数平均分子量が500,000〜1,500,000のアクリル樹脂、および数平均分子量が5,000〜15,000のウレタン樹脂のブロック共重合体であって、前記アクリル−ウレタン共重合バインダー樹脂内のアクリル樹脂の共重合比率が40〜60重量%であってもよい。
【0014】
他方、前記表面処理用組成物は、カップリング(coupling)剤、密着増進剤、またはこれらの混合物;をさらに含むものであってもよい。
【0015】
前記カップリング(coupling)剤は、ガンマ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(g−Glycidoxypropyl triethoxy silane)、ガンマ−アミノプロピルトリエトキシシラン(g−Aminopropyltriethoxy silane)、テトラエトキシシラン(Tetraethoxy silane)、メチルトリメトキシシラン(methyl trimethoxy silane)、および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(3−Glycidoxypropyl trimethoxysilane)を含むシラン系カップリング(coupling)剤の中から選択される1種、または2〜3種以上の混合物であってもよい。
【0016】
具体的には、前記表面処理用組成物は、前記カップリング(coupling)剤をさらに含み、前記表面処理用組成物の総量(100重量%)に対する前記カップリング(coupling)剤の含有量は、0.5〜10重量%であってもよい。
【0017】
前記密着増進剤は、リン酸エステル、リン酸アンモニウム、またはこれらの混合物であってもよい。
【0018】
具体的には、前記表面処理用組成物は、前記密着増進剤をさらに含み、前記表面処理用組成物の総量(100重量%)に対する前記密着増進剤の含有量は、2〜20重量%であってもよい。
【0019】
表面処理された片面メッキ鋼板
本発明の他の実現例では、
片面メッキ鋼板;および表面処理層;を含み、
前記片面メッキ鋼板は、冷延鋼板および前記冷延鋼板の片面上に位置する第1メッキ層を含み、
前記表面処理層は、前記片面メッキ鋼板の第1メッキ層上に位置し、アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)およびSi−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B)を含み、下記式1を満足する、表面処理された片面メッキ鋼板を提供する。
【0020】
[式1]0.3<[A]/([A]+[B])<0.7
(上記式1中、[A]および[B]はそれぞれ、前記表面処理層の総量(100重量%)に対する前記Aの含有量(重量%)および前記Bの含有量(重量%)を意味する)
具体的には、前記表面処理層は、前述した表面処理用組成物を用いて形成されたものであってもよい。以下、前述したものと重複する説明を除いた、前記表面処理された片面メッキ鋼板に関する説明を提供する。
【0021】
まず、前記片面メッキ鋼板の片面あたりの前記表面処理層の質量は、300〜2500mg/mであってもよい。
【0022】
また、前記冷延鋼板の片面あたりの前記第1メッキ層の質量は、5〜300g/mであってもよい。
【0023】
前記第1メッキ層は、亜鉛、亜鉛系合金、またはこれらの組み合わせを含むものであってもよい。
【0024】
一方、前記片面メッキ鋼板は、前記冷延鋼板の他の片面上に不可避に存在する第2メッキ層をさらに含み、前記冷延鋼板の片面あたりの前記第2メッキ層の質量は、10mg/m以下(ただし、0mg/mを除く)であってもよい。
【0025】
片面メッキ鋼板の表面処理方法
本発明のさらに他の実現例では、
冷延鋼板および前記冷延鋼板の片面上に位置する第1メッキ層を含む、片面メッキ鋼板を準備する段階;
前記片面メッキ鋼板の第1メッキ層上に、表面処理用組成物を塗布する段階;および
前記塗布された表面処理用組成物を硬化させて、表面処理層を形成する段階;を含み、
前記表面処理用組成物は、アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)、Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B)、および溶媒を含み、下記式1および2を満足するものである、片面メッキ鋼板の表面処理方法を提供する。
【0026】
[式1]0.3<[A]/([A]+[B])<0.7
[式2]20重量%<[A]+[B]<70重量%
(上記式1および2中、[A]および[B]はそれぞれ、前記表面処理層の総量(100重量%)に対する前記Aの含有量(重量%)および前記Bの含有量(重量%)を意味する)
具体的には、前記片面メッキ鋼板の表面処理方法で用いられる表面処理用組成物は、前述したものと同一であってもよい。以下、前述したものと重複する説明を除いた、前記片面メッキ鋼板の表面処理方法に関する説明を提供する。
【0027】
前記片面メッキ鋼板の第1メッキ層上に、表面処理用組成物を塗布する段階;は、ロールコーティング法、スプレー法、または浸漬法で行われるものであってもよい。
【0028】
また、前記塗布された表面処理用組成物を硬化させて、表面処理層を形成する段階;は、130〜250℃の温度範囲で行われるものであってもよい。
【0029】
一方、前記片面メッキ鋼板を準備する段階;は、一側面に電流遮蔽装置(edge mask)が位置するメッキ槽を用いて行われるものであってもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の実現例により、片面メッキ鋼板の表面処理用組成物を用いて表面処理された鋼板は、環境にやさしいながらも、耐食性および溶接性に優れているという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明の一実現例による、表面処理された片面メッキ鋼板を概略的に示すものである。
図2図2は、本発明の評価例において用いられる、耐燃料性評価装置を概略的に示すものである。
図3図3は、本発明の実施例において用いられる、片面メッキおよび表面処理の全体工程を概略的に示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の利点および特徴、そしてそれらを達成する方法は、詳細に後述する実現例を参照すれば明確になるであろう。しかし、本発明は、以下に開示される実現例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態からなってもよいし、単に、本実現例は本発明の開示が完全になるようにし、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は請求項の範疇によってのみ定義される。
【0033】
明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。
【0034】
片面メッキ鋼板の表面処理用組成物
本発明の一実現例では、
アクリル−ウレタン共重合樹脂(A);Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B);および溶媒;を含み、
下記式1および2を満足する、片面メッキ鋼板の表面処理用組成物を提供する。
【0035】
[式1]0.3<[A]/([A]+[B])<0.7
[式2]20重量%<[A]+[B]<70重量%
(上記式1および2中、[A]および[B]はそれぞれ、前記表面処理用組成物の総量(100重量%)に対する前記Aの含有量(重量%)および前記Bの含有量(重量%)を意味する)
前記表面処理用組成物は、鉛(Pb)、スズ(Sn)、クロム(Cr)等重金属物質を含まず、環境にやさしいながらも、前記アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)によって優れた耐食性を確保することができ、前記Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B)によって導電性発現することによって、先に指摘された問題を解消することができるのである。
【0036】
具体的には、前記表面処理用組成物において、前記アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)および前記Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B)を主要成分として含むが、これらの含有量は上記式1および2を同時に満足するように制御される必要がある。
【0037】
上記式1に関連し、前記表面処理用組成物の総量(100重量%)に対して、前記Aおよび前記Bの合計含有量が70重量%以上の場合、固形分が過剰で前記表面処理用組成物の安定性が低下し、これを用いて表面処理された鋼板の表面特性が悪化することがある。それに対し、10重量%以下の場合、十分な耐食性を確保しにくい限界がある。
【0038】
また、上記式2に関連し、前記表面処理用組成物内の前記Aおよび前記Bの合計含有量に対して、前記Aの含有量の比率が0.3以下の場合、十分な耐食性の確保が難しいだけでなく、鋼板(具体的には、片面メッキ鋼板)に対する密着性が低下することがある。それに対し、0.7以上の場合、導電性が低下して溶接性が悪化することがある。
【0039】
この事実は、後述する実施例(上記式1および2を同時に満足する場合)、比較例(上記式1および/または2を満足しない場合)、およびこれらの評価例により裏づけられる。
【0040】
一方、前記表面処理用組成物は、片面メッキの表面処理に用いられる。具体的には、片面メッキ鋼板のメッキ層上に前記表面処理用組成物を塗布した後、焼付けて硬化すると、片面にのみメッキ層および表面処理層が形成された鋼板を得ることができる。
【0041】
このように表面処理された片面メッキ鋼板において、メッキ層および表面処理層が形成された片面の場合、耐食性および溶接性に優れて、燃料接触面として適用されるのに適合する。他の片面の場合、燃料接触面のメッキ層の形成および表面処理時に不可避に形成されるメッキ層および表面処理層を除き、別途のメッキ処理や表面処理をしないことによって、表面処理層によって溶接工程で発生し得る溶接強度の低下、ヒューム(fume)発生などの問題点を防止できるという利点がある。
【0042】
以下、前記表面処理用組成物に関して詳しく説明し、これを用いた表面処理方法およびこれを用いて表面処理された片面メッキ鋼板に関する具体的な説明は後述する。
【0043】
前記アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)は、耐食性と疎水性に優れた物質であって、アクリル樹脂およびウレタン樹脂のブロック共重合体であってもよい。
【0044】
この時、前記ブロック共重合体の共重合比率は、前記ウレタン樹脂に対する前記アクリル樹脂の重量比率で、40:60〜60:40であってもよい。もし、前記比率が40:60未満と、前記ブロック共重合体内のアクリル樹脂の共重合比率が少量の場合、導電性が低くなり得る。これとは異なり、60:40以上と、前記ブロック共重合体内のアクリル樹脂の共重合比率が過剰の場合、表面処理層の柔軟性が減少して加工性が悪化する。
【0045】
具体的には、前記ブロック共重合体は、数平均分子量が500,000〜1,500,000のアクリル樹脂と、数平均分子量が5,000〜15,000のウレタン樹脂とのブロック共重合反応により形成されたブロック共重合体であってもよい。
【0046】
この時、メラミンを硬化剤として用い、補助硬化剤としてエチレンアクリル酸またはアジリジン系硬化剤を用いることができる。
【0047】
より具体的には、前記ブロック共重合体は、前記ウレタン樹脂および前記アクリル樹脂の混合物を製造し、前記混合物の混合比率は前記共重合比率と一致させてもよい。また、前記混合物100重量部を基準として、前記メラミン硬化剤は1〜10重量部添加し、前記補助硬化剤は2〜15重量部添加してもよい。
【0048】
前記メラミン硬化剤および前記補助硬化剤の各添加量範囲は、下限以下の場合、ブロック共重合反応が不十分に起こり、上限以上の場合、未反応の物質によって表面処理用組成物の安定性が低下することを考慮したものである。
【0049】
この後、紫外線または熱を照射すると、ブロック共重合反応が誘導され、結果的に、前記アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)を得ることができる。
【0050】
一方、前記Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B)は、シリコン(Si)系物質、ジルコニウム(Zr)系キレート剤、チタン(Ti)系キレート剤、および中和剤の反応で形成されたキレート化合物であってもよい。
【0051】
具体的には、前記シリコン(Si)系物質は、前記ジルコニウム(Zr)系キレート剤および前記チタン(Ti)系キレート剤とともに化学的に反応(具体的には、キレート反応)して化合物を形成し、前記中和剤は、前記反応の適切な条件を形成する役割を果たす。
【0052】
前記シリコン(Si)系物質は、コロイダルシリカ、シリカゾル、およびシリケートを含むシリコン(Si)系物質の中から選択される1種、または2〜3種の混合物であってもよい。
【0053】
前記ジルコニウム(Zr)系キレート剤は、ジルコニウムアルコキシド(Zirconium Alkoxide)、ジルコニウムアシレート(Zirconium Acylate)、テトラアルキルジルコネート(tetraalkyl zirconate)を含むジルコニウム(Zr)系キレート剤の中から選択される1種、または2〜3種の混合物であってもよい。
【0054】
前記チタン(Ti)系キレート剤は、ヘキサフルオロチタン酸(Hexafluoro Titanic Acid)、チタンフッ化水素酸(Fluorotitanic Acid)、酸化チタン(Titanium Dioxide)、硝酸チタニル(Titanyl Nitrate)、硫酸チタニル(Titanyl Sulfate)、四塩化チタン(Titanium Tetrachloride)、テトラブチルチタン酸(Tetrabutyl titanic acid)、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム(Hexafluoro Ammonium Titanate)、およびチタニウムアルコキシド(Titanium Alkoxide)を含むチタン(Ti)系キレート剤の中から選択される1種、または2〜3種の混合物であってもよい。
【0055】
前記中和剤は、イソプロピルアミン(Isopropyl Amine)、およびトリエチルアミン(Triethyl Amine)を含むアミン系化合物の中から選択される1種、または2〜3種の混合物であってもよい。
【0056】
例えば、粒度が5〜50nmに分布したコロイダルシリカを前記シリコン(Si)系物質として用い、これに、前記チタン(Ti)系キレート剤としてヘキサフルオロチタン酸(Hexafluoro Titanic Acid)を投入し、前記ジルコニウム(Zr)系キレート剤としてテトラアルキルジルコネート(Tetraalkyl Zirconate)を投入して混合物を製造することができる。
【0057】
前記シリコン(Si)系物質、前記チタン(Ti)系キレート剤、および前記ジルコニウム(Zr)系キレート剤の混合物総量(100重量%)に対して、前記シリコン(Si)系物質は40〜90重量%、前記チタン(Ti)系キレート剤は5〜30重量%、および前記ジルコニウム(Zr)系キレート剤は5〜30重量%含まれるようにしてもよい。
【0058】
このような混合物100重量部を基準としてアミンを3〜10重量部添加しながら、キレート反応を誘導することができる。ただし、アミンの添加量が3重量部以下の場合、塩基性の条件が形成されにくくて、沈澱が起こることがある。それに対し、前記アミンの添加量が10重量部以上の場合、アミンの添加量が過度に多くて、反応溶液の安定性が低下することがある。
【0059】
他方、前記表面処理用組成物は、カップリング(coupling)剤、密着増進剤、またはこれらの混合物;をさらに含むものであってもよい。
【0060】
前記カップリング(coupling)剤の場合、前記アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)および前記Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B)の緻密な結合を誘導して、耐食性を向上させる役割を果たすことができる。
【0061】
例えば、前記カップリング(coupling)剤は、ガンマ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(g−Glycidoxypropyl triethoxy silane)、ガンマ−アミノプロピルトリエトキシシラン(g−Aminopropyltriethoxy silane)、テトラエトキシシラン(Tetraethoxy silane)、メチルトリメトキシシラン(methyl trimethoxy silane)、および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(3−Glycidoxypropyl trimethoxysilane)を含むシラン系カップリング(coupling)剤の中から選択される1種、または2〜3種以上の混合物であってもよい。
【0062】
前記密着増進剤の場合、メッキ層との密着性を向上させる役割を果たすことができ、例えば、リン酸エステル、リン酸アンモニウム、またはこれらの混合物であってもよい。
【0063】
具体的には、前記表面処理用組成物の総量(100重量%)に対して、それぞれ独立に、前記カップリング(coupling)剤の含有量は0.5〜10重量%、前記密着増進剤の含有量は2〜20重量%であってもよい。前記各範囲の下限以下の場合、実効性がなく、上限以上の場合、前記表面処理用組成物の安定性が低下することがある。
【0064】
より具体的には、前記カップリング(coupling)剤は、ガンマ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(g−Glycidoxypropyl triethoxy silane)、ガンマ−アミノプロピルトリエトキシシラン(g−Aminopropyltriethoxy silane)、テトラエトキシシラン(Tetraethoxy silane)、メチルトリメトキシシラン(methyl trimethoxy silane)、および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(3−Glycidoxypropyl trimethoxysilane)を含むシラン系カップリング(coupling)剤の中から選択される1種、または2〜3種以上の混合物であってもよい。
【0065】
また、前記密着増進剤は、リン酸エステル、リン酸アンモニウム、またはこれらの混合物であってもよい。
【0066】
表面処理された片面メッキ鋼板
本発明の他の実現例では、
片面メッキ鋼板;および表面処理層130;を含み、
前記片面メッキ鋼板は、冷延鋼板110および前記冷延鋼板の片面上に位置する第1メッキ層120を含み、
前記表面処理層130は、前記片面メッキ鋼板の第1メッキ層120上に位置し、アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)およびSi−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B)を含み、下記式1を満足する、表面処理された片面メッキ鋼板100を提供し、図1は、これを概略的に示すものである。
【0067】
[式1]0.3<[A]/([A]+[B])<0.7
(上記式1中、[A]および[B]はそれぞれ、前記表面処理層の総量(100重量%)に対する前記Aの含有量(重量%)および前記Bの含有量(重量%)を意味する)
具体的には、前記表面処理層130は、前述した表面処理用組成物を用いて形成されたものであってもよい。以下、前述したものと重複する説明を除いた、前記表面処理された片面メッキ鋼板に関する説明を提供する。
【0068】
まず、前記片面メッキ鋼板の片面あたりの前記表面処理層130の質量は、300〜2500mg/mであってもよい。ただし、300mg/m未満の場合、前記表面処理層130の厚さが過度に薄くなって、耐食性の確保が難しいことがある。これとは異なり、2500mg/m超過の場合、むしろ前記表面処理層130の厚さが過度に厚くなって、溶接性が低下し、前記メッキ層に対する密着性が悪化することがある。
【0069】
一方、前記冷延鋼板の片面あたりの前記第1メッキ層120の質量は、5〜300g/mであってもよい。ただし、5g/m未満の場合、前記第1メッキ層120の厚さが過度に薄くなって、耐食性の確保が難しいことがある。これとは異なり、300g/m超過の付着量では、加工性および経済性が悪化するという欠点がある。
【0070】
この時、前記第1メッキ層120は、亜鉛、亜鉛系合金、またはこれらの組み合わせを含むものであってもよい。具体的には、前記亜鉛系合金は、Zn−Ni、Zn−Mg、Zn−Al、またはZn−Al−Mgであってもよい。
【0071】
他方、前記片面メッキ鋼板は、前記冷延鋼板の他の片面上に不可避に存在する第2メッキ層(図示せず)をさらに含み、前記冷延鋼板の片面あたりの前記第2メッキ層(図示せず)の質量は10mg/m以下(ただし、0mg/mを除く)であってもよい。
【0072】
先に言及したように、前記冷延鋼板の片面に第1メッキ層120を形成する時、他の片面に前記第2メッキ層(図示せず)が不可避に形成されるが、意図的に形成されたものではない。
【0073】
片面メッキ鋼板の表面処理方法
本発明のさらに他の実現例では、
冷延鋼板110および前記冷延鋼板110の片面上に位置する第1メッキ層120を含む、片面メッキ鋼板を準備する段階;
前記片面メッキ鋼板の第1メッキ層上に、表面処理用組成物を塗布する段階;および
前記塗布された表面処理用組成物を硬化させて、表面処理層130を形成する段階;を含み、
前記表面処理用組成物は、アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)、Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B)、および溶媒を含み、下記式1および2を満足するものである、片面メッキ鋼板の表面処理方法を提供する。
【0074】
[式1]0.3<[A]/([A]+[B])<0.7
[式2]20重量%<[A]+[B]<70重量%
(上記式1および2中、[A]および[B]はそれぞれ、前記表面処理層の総量(100重量%)に対する前記Aの含有量(重量%)および前記Bの含有量(重量%)を意味する)
具体的には、前記片面メッキ鋼板の表面処理方法で用いられる表面処理用組成物は、前述したものと同一であってもよい。以下、前述したものと重複する説明を除いた、前記片面メッキ鋼板の表面処理方法に関する説明を提供する。
【0075】
まず、前記片面メッキ鋼板を準備する段階;は、一側面に電流遮蔽装置(edge mask)が位置するメッキ槽を用いて行われるものであってもよい。
【0076】
具体的には、前記メッキ槽で、前記電流遮蔽装置(edge mask)が位置する一側面は電流が流れず、他の一側面にのみ電流が流れる。前記冷延鋼板を前記メッキ槽に投入して作動させると、電流が流れる一側面でのみ電気メッキが誘導される。
【0077】
この時、前記電流遮蔽装置がメッキしようとする素材鋼板(つまり、前記冷延鋼板、110)と過度に近接すると、前記素材鋼板および前記電流遮蔽装置を損傷させることがある。逆に、過度に遠くなる場合、メッキを目的としない側面の角(edge)に電流が流れて、メッキが行われることがあり、溶接品質が劣化する。したがって、前記電流遮蔽装置内の、メッキしようとする素材鋼板110の位置を適切に調節する必要がある。
【0078】
一方、前記片面メッキ鋼板の第1メッキ層120上に、表面処理用組成物を塗布する段階;は、ロールコーティング法、スプレー法、または浸漬法で行われるものであってもよい。具体的には、ロールコーティング法で、前記片面メッキ鋼板の第1メッキ層120上に300〜2500mg/mの塗布量で、前記表面処理用組成物を塗布するものであってもよい。この塗布量は、前述した内容を考慮したものである。
【0079】
他方、前記塗布された表面処理用組成物を硬化させて、表面処理層130を形成する段階;は、130〜250℃の温度範囲で行われるものであってもよい。具体的には、前記温度範囲は、鋼板温度(MT−Metal Temperature)を基準としたものである。
【0080】
もし、130℃未満になると、前記アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)およびSi−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B)の反応が不十分になって、後処理(具体的には、水洗)時に表面処理層の一部が脱落することがある。それに対し、250℃超過になると、むしろ硬化反応がそれ以上起こらず、熱量損失だけが大きくなり得る。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の実現例に関する実施例、これに対比される比較例、およびこれらの評価例により詳しく説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0082】
具体的には、以下の実施例および比較例は、共通して、次の過程により、(1)表面処理用組成物を製造し、(2)片面メッキ鋼板を製造し、(3)表面処理して、(4)最終表面処理された片面メッキ鋼板を評価した。
【0083】
これに関連し、図3は、前記(2)の片面メッキ、および前記(1)で製造された組成物を用いた前記(3)の表面処理工程を総括的に示すものである。
【0084】
図3を参照すれば、冷延鋼板110を溶接機(Welder)およびレベラー(Leveller)を通過させた後、水洗(Cleaning)および酸洗(Pickling)処理した後、水平セル(Horizontal Cell)形態のメッキ槽に移動させて前記(2)の片面メッキを行う。
【0085】
この時、前記メッキ槽の一側面には電流遮蔽装置(edge mask)が位置し、当該側面では電流が流れず(Off−current)、メッキが行われない(Non−Plating)。一方、他の一側面には電流が流れ(On−current)、メッキが行われて(Plating)、第1メッキ層120が形成される。これと同時に、不可避に前記電流遮蔽装置(edge mask)が位置する側面でも一部メッキが行われて、第2メッキ層(図示せず)が形成される。
【0086】
このように片面メッキされた鋼板は、後処理(Post Treatment)工程を経た後、ストリップ方向を変えた(Strip reversal)後、ロールコーター(Coater)に移動させて前記(3)の表面処理工程を行う。この時、前記(1)で製造した組成物を用いて、前記第1メッキ層120の表面のみを処理することができる。
【0087】
具体的には、前記第1メッキ層120が位置する面のロールを閉じて(Close)、前記(1)で製造した組成物を塗布することができる。これと同時に、前記第2メッキ層(図示せず)が位置する面のロールは開けて(Open)、前記(1)で製造した組成物が塗布されないようにしてもよい。
【0088】
この後、オーブン(Oven)で、前記第1メッキ層120上に塗布された組成物を硬化させて、表面処理層130を形成することができる。最終的に、表面品質を検査(Inspection)し、製品として得ることができる。
【0089】
以下、図3を参照して前記(1)〜(4)を説明する。
【0090】
(1)表面処理用組成物の製造
表1〜3により、アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)、Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B)、シラン系カップリング(coupling)剤、密着増進剤、および水を混合して、それぞれの組成を満足する表面処理用組成物を製造した。
【0091】
この時使用された各原料物質は、すでに商業化された各製品を購入して使用した。
【0092】
(2)片面メッキ鋼板の製造
表1〜3により、亜鉛または亜鉛系合金で片面メッキされた鋼板を製造した。
【0093】
亜鉛または亜鉛系合金メッキのために、純亜鉛または亜鉛系合金メッキ組成のメッキ溶液を用いた。より具体的には、温度が40〜90℃に制御され、pH0.5〜2に制御される硫酸浴に、亜鉛または亜鉛系合金メッキインゴット(ingot)を濃度40〜120g/Lに溶融させて使用したものである。
【0094】
前記メッキ槽に冷延鋼板(常温で厚さ0.4〜2.3mmに圧延された鋼板)を投入し、前記メッキ溶液を使用するメッキ槽で10〜100A/dmの電流密度条件で作動させると、電流が流れる一側面でのみ電気メッキが誘導されて、前記冷延鋼板の片面にのみ目的のメッキが行われる。このように目的のメッキが行われた面を、下記表2では「燃料接触面」と記載した。
【0095】
ただし、前記冷延鋼板の他の片面にも、不可避に極少量のメッキが行われた。このように不可避にメッキが行われた面を、下記表2では「塗装面」と記載した。
【0096】
(3)片面メッキ鋼板の表面処理
表1〜3により、ロールコーティング法を利用して、前記(1)の表面処理用組成物を前記(2)の片面メッキ鋼板の燃料接触面に塗布した後、210℃で焼付硬化させて、それぞれの表面処理された片面メッキ鋼板を最終的に得た。
【0097】
(4)表面処理された片面メッキ鋼板の評価
表1〜3により、前記(1)の表面処理用組成物または前記(3)の表面処理された片面メッキ鋼板に対して、溶液安定性、耐食性、耐燃料性、溶接性など、燃料タンク鋼板に必要な物性を評価した。具体的には、各物性の評価条件は次の通りである。
【0098】
溶液安定性:前記(1)の表面処理用組成物に対して、常温で60日間および50℃の温度で45日間保管した後、組成物内部の沈殿発生またはゲル化現象の有無を観察して、良好○、不良×基準で評価した。
【0099】
耐食性:前記(3)の表面処理された片面メッキ鋼板に対して、平板状態で35℃の塩水(濃度5%)、1kg/cmの噴霧圧で500時間経過した後、次の基準で腐食面積(表面全体面積%に対して発生した錆の面積%)を評価した。
【0100】
◎:腐食面積がほぼ0に近い場合
○:腐食面積が5以下の場合
□:腐食面積が5超過30以下の場合
△:腐食面積が30超過50以下の場合
×:腐食面積が50超過の場合
耐燃料性図2の耐燃料性評価装置を用いて、高温条件で劣化ガソリンおよびバイオディーゼルそれぞれに対する耐燃料性を評価した。
【0101】
具体的には、劣化ガソリンに対する耐燃料性評価は、78.58体積%のガソリン、20体積%のエタノール、および1.42体積%の純水を含む劣化ガソリン溶液(総100体積%)を製造し、前記劣化ガソリン溶液の重量基準(1kg)で100ppm(=100mg/kg)のギ酸および100ppm(=100mg/kg)の酢酸を添加し、60℃で3ヶ月間放置した後、鋼板の腐食状態を点検した。
【0102】
一方、バイオディーゼルに対する耐燃料性評価は、81体積%の軽油、9体積%のバイオ(BIO)ディーゼル、5体積%の純水、および5体積%のメタノールを含むバイオディーゼル溶液(総100体積%)を製造し、前記バイオディーゼル溶液の重量(1kgまたは100重量部)基準で20ppm(=20mg/kg)のギ酸および0.3重量部のペルオキシド(peroxide)を添加し、85℃で3ヶ月間放置した後、鋼板の腐食状態を点検した。
【0103】
各鋼板の腐食状態は、腐食面積(表面全体面積%に対して発生した錆の面積%)を基準として、次のように評価した。
【0104】
◎:腐食面積がほぼ0に近い場合
○:腐食面積が5以下の場合
□:腐食面積が5超過30以下の場合
△:腐食面積が30超過50以下の場合
×:腐食面積が50超過の場合
溶接性:アーク溶接機を用いて、KC−27溶接wire(直径1.2mm)、雰囲気gas Ar−20%CO下、電流95A、電圧15.9Volt、および溶接速度13.5mpmの条件でアーク溶接を行った後、溶接部の状態、Spatter、ヒューム発生、強度などを観察して、溶接性良好(○)、溶接不能(×)、および溶接品質不良()基準で評価した。
【0105】
評価例1:表面処理用組成物の各成分の含有量による評価
前記(1)〜(3)過程により、冷延鋼板の片面に、亜鉛−ニッケル合金メッキの付着量が30g/mとなるようにメッキ層を形成し、その上に表1の表面処理用組成物を1000mg/m塗布し、鋼板温度が210℃となる条件で焼付硬化した。この後、前記(4)により品質評価を行って、その結果を表1に記録した。
【0106】
【表1】
【0107】
表1を参照すれば、それぞれの表面処理用組成物の総量(100重量%)に対して、アクリル−ウレタン共重合樹脂(A)および前記Si−Zr−Ti系有機−無機ハイブリッド(hybrid)添加剤(B)の含有量は下記式1および2を同時に満足し、カップリング(coupling)剤の含有量は0.5〜10重量%であり、密着増進剤の含有量は2〜20重量%を満足してこそ、すべての物性評価結果が優れていることが分かる。
【0108】
[式1]0.3<[A]/([A]+[B])<0.7
[式2]20重量%<[A]+[B]<70重量%
評価例2:メッキ付着量による評価
前記(1)〜(3)過程により、冷延鋼板の片面に、表2の付着量で亜鉛−ニッケル合金メッキ層を形成し、その上に表面処理用組成物を1000mg/m塗布し、鋼板温度が210℃となる条件で焼付硬化した。この後、前記(4)により品質評価を行って、その結果を表2に記録した。
【0109】
【表2】
【0110】
表2を参照すれば、燃料接触面のメッキ付着量が5〜300g/mかつ、塗装面のメッキ付着量は10mg/m以下の場合、すべての物性評価結果が優れていることが分かる。
【0111】
評価例3:表面処理用組成物の各成分の含有量による評価
前記(1)〜(3)過程により、冷延鋼板の片面に、亜鉛−ニッケル合金メッキの付着量が30g/mとなるようにメッキ層を形成し、その上に表3の鋼板温度および付着量の条件で表面処理層を形成した。この後、前記(4)により品質評価を行って、その結果を表3に記録した。
【0112】
【表3】
【0113】
表3を参照すれば、燃料接触面の表面処理層付着量(つまり、表面処理用組成物の塗布量)が300〜2500mg/mとなるようにし、鋼板温度が130〜250℃の温度範囲で焼付硬化する場合、すべての物性評価結果が優れていることが分かる。
【0114】
以上、添付した図面を参照して本発明の実施例を説明したが、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明がその技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。
【0115】
そのため、以上に述べた実施例はあらゆる面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。本発明の範囲は、上記の詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および範囲、そしてその均等概念から導出されるあらゆる変更または変更された形態が本発明の範囲に含まれると解釈されなければならない。
図1
図2
図3