(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記支持基板と前記接合層との界面が、直接接合された界面であり、前記接合層の前記支持基板側の前記端部における前記酸素比率xが0.001以上、0.408以下であることを特徴とする、請求項1記載の接合体。
前記圧電性単結晶基板と前記接合層との界面が、直接接合された界面であり、前記接合層の前記圧電性単結晶基板側の前記端部における前記酸素比率xが0.001以上、0.408以下であることを特徴とする、請求項1または2記載の接合体。
前記支持基板が、シリコン、サファイア、ムライト、コージェライト、透光性アルミナおよびサイアロンからなる群より選ばれた材質からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の接合体。
前記圧電性単結晶基板が、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体からなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つの請求項に記載の接合体。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等に使用されるフィルタ素子や発振子として機能させることができる弾性表面波デバイスや、圧電薄膜を用いたラム波素子や薄膜共振子(FBAR:Film Bulk Acoustic Resonator)などの弾性波デバイスが知られている。こうした弾性波デバイスとしては、支持基板と弾性表面波を伝搬させる圧電基板とを貼り合わせ、圧電基板の表面に弾性表面波を励振可能な櫛形電極を設けたものが知られている。このように圧電基板よりも小さな熱膨張係数を持つ支持基板を圧電基板に貼付けることにより、温度が変化したときの圧電基板の大きさの変化を抑制し、弾性表面波デバイスとしての周波数特性の変化を抑制している。
【0003】
特許文献1には、圧電性単結晶基板とシリコン基板とを、エポキシ接着剤からなる接着層によって貼り合わせた構造の弾性表面波デバイスが提案されている。
【0004】
圧電基板とシリコン基板とを接合するのに際して、圧電基板表面に酸化珪素膜を形成し、酸化珪素膜を介して圧電基板とシリコン基板とを直接接合することが知られている。この接合の際には、酸化珪素膜表面とシリコン基板表面とにプラズマビームを照射して表面を活性化し、直接接合を行う(特許文献2)。
【0005】
また、いわゆるFAB(Fast Atom Beam)方式の直接接合法が知られている。この方法では、中性化原子ビームを常温で各接合面に照射して活性化し、直接接合する(特許文献3)。
【0006】
圧電性単結晶基板を、シリコン基板ではなく、セラミックス(アルミナ、窒化アルミニウム、窒化珪素)からなる支持基板に対して、中間層を介して直接接合することが記載されている(特許文献4)。この中間層の材質は、珪素、酸化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウムとされている。
【0007】
また、圧電基板と支持基板とを有機接着層で接着するのに際して、支持基板の圧電基板に対する接着面のRt(粗さ曲線の最大断面高さ)を5nm以上、50nm以下とすることで、応力緩和による割れ防止効果を得ることが記載されている(特許文献5)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
図1、
図2は、圧電性単結晶基板4上に接合層2を設け、これを支持基板1の表面1aに直接接合する実施形態に係るものである。
【0016】
図1(a)に示すように、圧電性単結晶基板4の表面4aに接合層2を設ける。4bは反対側の表面である。この時点では、接合層2の表面2aには凹凸があってもよい。
【0017】
次いで、好適な実施形態においては、接合層2の表面2aを平坦化加工することによって、
図1(b)に示すように、接合層2に平坦面2bを形成する。この平坦化加工によって、通常、接合層2の厚さは小さくなり、より薄い接合層2Aになる(
図1(b)参照)。ただし、平坦化加工は必ずしも必要ない。次いで、接合層2Aの表面2bに対して矢印Cのように中性化ビームを照射し、接合層2Aの表面2bを活性化して活性化面とする。
【0018】
一方、
図1(c)に示すように、支持基板1の表面1aに矢印Dのように中性化ビームを照射することによって活性化する。そして、
図2(a)に示すように、支持基板1の活性化された表面1aと接合層2Aの活性化された表面2bとを直接接合することによって、接合体5を得る。
【0019】
好適な実施形態においては、接合体5の圧電性単結晶基板4の表面4bを更に研磨加工し、
図2(b)に示すように圧電性単結晶基板4Aの厚さを小さくし、接合体5Aを得る。4cは研磨面である。
【0020】
図2(c)では、圧電性単結晶基板4Aの研磨面4c上に所定の電極6を形成することによって、弾性波素子7を作製している。
【0021】
本発明においては、接合層2AがSi
(1−x)O
x(xは酸素比率である)の組成を有している。そして、
図3に示すように、接合層2Aの厚さ方向の中央部における酸素比率xOが、接合層2Aの圧電性単結晶基板4(4A)側の端部(界面B近傍)における酸素比率xBおよび接合層2Aの支持基板1側の端部(界面A近傍)における酸素比率xAよりも高くなっている。その上で、接合層2Aの厚さ方向の中央部における酸素比率xOを0.013以上、0.666以下とする。これによって接合強度が高く、かつQ値の高い弾性波素子7を提供することが可能である。
【0022】
本発明においては、接合層2Aにおける酸素比率xの最大値が0.013以上、0.666以下である。これによってQ値を顕著に改善することができ、かつ圧電性単結晶基板4(4A)の支持基板1への接合強度を高くすることができる。こうした観点からは、接合層2Aにおける酸素比率xの最大値を0.05以上とすることが好ましい。
【0023】
図4〜
図6の実施形態では、支持基板1上に接合層12Aを形成し、接合層12Aを圧電性単結晶基板4に対して接合している。
すなわち、
図4(a)に示すように、支持基板1の表面1aに接合層12を設ける。この時点では、接合層12の表面12aには凹凸があってもよい。
【0024】
次いで、好適な実施形態においては、接合層12の表面12aを平坦化加工することによって、
図4(b)に示すように、接合層12Aに平坦面12bを形成する。この平坦化加工によって、通常、接合層12の厚さは小さくなり、より薄い接合層12Aになる(
図4(b)参照)。ただし、平坦化加工は必ずしも必要ない。次いで、接合層12Aの表面12bに対して矢印Cのように中性化ビームを照射し、接合層12Aの表面を活性化して活性化面とする。
【0025】
一方、
図4(c)に示すように、圧電性単結晶基板4の表面に中性化ビームDを照射することによって活性化し、活性化面4aとする。そして、
図5(a)に示すように、接合層12Aの活性化された表面12bと圧電性単結晶基板4の表面4aとを直接接合することによって、接合体15を得る(
図5(a)を参照)。その後、
図5(b)及び
図5(c)に示すように、接合体15の圧電性単結晶基板4の表面4bを更に研磨加工して接合体15Aを得、圧電性単結晶基板4Aの研磨面4c上に所定の電極6を形成することによって、弾性波素子17を作製する。
【0026】
本実施形態においては、
図6の模式図に示すように、接合層12Aの厚さ方向の中央部における酸素比率xOが、接合層12Aの圧電性単結晶基板4(4A)側の端部における酸素比率xBおよび接合層12Aの支持基板1側の端部における酸素比率xAよりも高くなっている。その上で、接合層12Aの厚さ方向の中央部における酸素比率xOを0.013以上、0.666以下とする。これによって接合強度が高く、かつQ値の高い弾性波素子17を提供することが可能である。
【0027】
好適な実施形態においては、支持基板1と接合層2Aとの界面Aが、直接接合された界面である。
図1〜3はこの実施形態に係るものである。そして、本実施形態では、接合層2Aの支持基板1側の端部における酸素比率xAが0.001以上、0.408以下である。これによって接合強度を一層向上させることができ、またQ値も高く保持できる。この観点からは、接合層2Aの支持基板1側の端部における酸素比率xAを0.005以上とすることが更に好ましく、また、0.3以下とすることが更に好ましい。
【0028】
また、好適な実施形態においては、圧電性単結晶基板4(4A)と接合層12Aとの界面Bが、直接接合された界面である。
図4〜6はこの実施形態に係るものである。そして、本実施形態では、接合層12Aの圧電性単結晶基板4(4A)側の端部(界面Bの近傍)における酸素比率xBが0.001以上、0.408以下である。これによって接合強度を一層向上させることができ、またQ値も高く保持できる。この観点からは、接合層12Aの圧電性単結晶基板4(4A)側の端部における酸素比率xBを0.005以上とすることが更に好ましく、また、0.3以下とすることが更に好ましい。
【0029】
更に、好適な実施形態においては、接合層2A、12Aの圧電性単結晶基板4(4A)側の端部における酸素比率xB、接合層2A、12Aの支持基板1側の端部における酸素比率xAが、共に0.001以上、0.408以下である。これによって接合強度を一層向上させることができ、またQ値も高く保持できる。この観点からは、接合層2A、12Aの圧電性単結晶基板4(4A)側の端部における酸素比率xB、接合層2A、12Aの支持基板1側の端部における酸素比率xAを、共に0.005以上とすることが更に好ましく、また、0.3以下とすることが更に好ましい。
【0030】
なお、接合層2A、12Aの圧電性単結晶基板4(4A)側の端部における酸素比率xB、接合層2A、12Aの支持基板1側の端部における酸素比率xA、及び、接合層2A、12Aの厚さ方向の中央部における酸素比率xOは、実施例記載のように測定するものとする。
【0031】
以下、本発明の各構成要素について更に説明する。
本発明では、支持基板1は多結晶セラミック材料または単結晶材料からなる。支持基板1を構成する単結晶材料としては、シリコンおよびサファイアが好ましい。また多結晶セラミックス材料としては、ムライト、コージェライト、透光性アルミナ、およびサイアロンからなる群より選ばれた材質が好ましい。
【0032】
圧電性単結晶基板4、4Aの材質は、具体的には、タンタル酸リチウム(LT)単結晶、ニオブ酸リチウム(LN)単結晶、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶、水晶、ホウ酸リチウムを例示できる。このうち、LT又はLNであることがより好ましい。LTやLNは、弾性表面波の伝搬速度が速く、電気機械結合係数が大きいため、高周波数且つ広帯域周波数用の弾性表面波デバイスとして適している。また、圧電性単結晶基板4、4Aの主面の法線方向は、特に限定されないが、例えば、圧電性単結晶基板4、4AがLTからなるときには、弾性表面波の伝搬方向であるX軸を中心に、Y軸からZ軸に36〜47°(例えば42°)回転した方向のものを用いるのが伝搬損失が小さいため好ましい。圧電性単結晶基板4がLNからなるときには、弾性表面波の伝搬方向であるX軸を中心に、Y軸からZ軸に60〜68°(例えば64°)回転した方向のものを用いるのが伝搬損失が小さいため好ましい。更に、圧電性単結晶基板4、4Aの大きさは、特に限定されないが、例えば、直径50〜150mm,厚さが0.2〜60μmである。
【0033】
接合層2、2A、12、12Aの電気抵抗率は4.8×10
3Ω・cm以上であることが好ましく、5.8×10
3Ω・cm以上であることが更に好ましく、6.2×10
3Ω・cm以上が特に好ましい。一方、接合層2、2A、12、12Aの電気抵抗率は、一般に1.0×10
8Ω・cm以下となる。
接合層2、2A、12、12Aの厚さTは、特に限定されないが、製造コストの観点からは0.01〜10μmが好ましく、0.05〜0.5μmが更に好ましい。
【0034】
接合層2、2A、12、12Aの成膜方法は限定されないが、スパッタリング(sputtering)法、化学的気相成長法(CVD)、蒸着を例示できる。ここで、特に好ましくは、スパッタターゲットをSiとした反応性スパッタリングの際に、チャンバー内に流す酸素ガス量を調整することによって、接合層2、2A、12、12Aの酸素比率(x)をコントロールすることが可能である。すなわち、一つの接合層2、2A、12、12Aを成膜する間に、酸素ガス量を増加させることで酸素比率xを増加させることができ、酸素ガス量を減少させることで酸素比率xを低下させることができる。
【0035】
接合層2、2A、12、12Aの具体的な製造条件はチャンバー仕様によるので適宜選択するが、好適例では、全圧を0.28〜0.34Paとし、酸素分圧を1.2×10
―3〜5.7×10
−2Paとし、成膜温度を常温とする。また、SiターゲットとしてはBドープSiを例示できる。
【0036】
好適な実施形態においては、接合層12、12Aの表面12bと圧電性単結晶基板4の表面4aとが直接接合されており、または接合層2、2Aの表面2bと支持基板1の表面1aとが直接接合されている。この場合には、接合層2、2A、12、12Aの表面2b、12bの算術平均粗さRaが1nm以下であることが好ましく、0.3nm以下であることが更に好ましい。また、圧電性単結晶基板4の前記表面4a、支持基板1の表面1aの算術平均粗さRaが1nm以下であることが好ましく、0.3nm以下であることが更に好ましい。これによって圧電性単結晶基板4または支持基板1と接合層2、2A、12、12Aとの接合強度が一層向上する。
【0037】
接合層2、2A、12、12Aの表面2b、12b、及び、圧電性単結晶基板4、支持基板1の表面4a、1aを平坦化する方法は、ラップ(lap)研磨、化学機械研磨加工(CMP)などがある。
【0038】
好適な実施形態においては、中性化ビームによって、接合層2、2Aの表面2b、及び、圧電性単結晶基板4、支持基板1の表面4a、1aを活性化できる。特に、接合層2、2A、12、12Aの表面2b、12b、及び、圧電性単結晶基板4の表面4a、支持基板1の表面1aが平坦面である場合には、直接接合しやすい。
【0039】
中性化ビームによる表面活性化を行う際には、特許文献3に記載のような装置を使用して中性化ビームを発生させ、照射することが好ましい。すなわち、ビーム源として、サドルフィールド型の高速原子ビーム源を使用する。そして、チャンバーに不活性ガスを導入し、電極へ直流電源から高電圧を印加する。これにより、電極(正極)と筺体(負極)との間に生じるサドルフィールド型の電界により、電子eが運動して、不活性ガスによる原子とイオンのビームが生成される。グリッドに達したビームのうち、イオンビームはグリッドで中和されるので、中性原子のビームが高速原子ビーム源から出射される。ビームを構成する原子種は、不活性ガス(アルゴン、窒素等)が好ましい。
【0040】
ビーム照射による活性化時の電圧は0.5〜2.0kVとすることが好ましく、電流は50〜200mAとすることが好ましい。
【0041】
次いで、真空雰囲気で、活性化面同士を接触させ、接合する。この際の温度は常温であるが、具体的には40℃以下が好ましく、30℃以下が更に好ましい。また、接合時の温度は20℃以上、25℃以下が特に好ましい。接合時の圧力は、100〜20000Nが好ましい。
【0042】
本発明の接合体5、5A、15、15Aの用途は特に限定されず、例えば、弾性波素子や光学素子に好適に適用できる。
弾性波素子7、17としては、弾性表面波デバイスやラム波素子、薄膜共振子(FBAR)などが知られている。例えば、弾性表面波デバイスは、圧電性単結晶基板の表面に、弾性表面波を励振する入力側のIDT(Interdigital Transducer)電極(櫛形電極、すだれ状電極ともいう)と弾性表面波を受信する出力側のIDT電極とを設けたものである。入力側のIDT電極に高周波信号を印加すると、電極間に電界が発生し、弾性表面波が励振されて圧電基板上を伝搬していく。そして、伝搬方向に設けられた出力側のIDT電極から、伝搬された弾性表面波を電気信号として取り出すことができる。
【0043】
圧電性単結晶基板4、4Aの底面に金属膜を有していてもよい。金属膜は、弾性波デバイスとしてラム波素子を製造した際に、圧電基板の裏面近傍の電気機械結合係数を大きくする役割を果たす。この場合、ラム波素子は、圧電性単結晶基板4、4Aの表面4b、4cに櫛歯電極が形成され、支持基板1に設けられたキャビティによって圧電性単結晶基板4、4Aの金属膜が露出した構造となる。こうした金属膜の材質としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、銅、金などが挙げられる。なお、ラム波素子を製造する場合、底面に金属膜を有さない圧電性単結晶基板4、4Aを備えた複合基板を用いてもよい。
【0044】
また、圧電性単結晶基板4、4Aの底面に金属膜と絶縁膜を有していてもよい。金属膜は、弾性波デバイスとして薄膜共振子を製造した際に、電極の役割を果たす。この場合、薄膜共振子は、圧電性単結晶基板4、4Aの表裏面に電極が形成され、絶縁膜をキャビティにすることによって圧電性単結晶基板の金属膜が露出した構造となる。こうした金属膜の材質としては、例えば、モリブデン、ルテニウム、タングステン、クロム、アルミニウムなどが挙げられる。また、絶縁膜の材質としては、例えば、二酸化ケイ素、リンシリカガラス、ボロンリンシリカガラスなどが挙げられる。
【0045】
また、光学素子としては、光スイッチング素子、波長変換素子、光変調素子を例示できる。また、圧電性単結晶基板4、4A中に周期分極反転構造を形成することができる。
【0046】
本発明を光学素子に適用した場合には、光学素子の小型化が可能であり、また特に周期分極反転構造を形成した場合には、加熱処理による周期分極反転構造の劣化を防止できる。更に、本発明の接合層2、2A、12、12Aの材料は、高絶縁材料でもあるので、接合前の中性化ビームによる処理時に、分極反転の発生が抑制され、また圧電性単結晶基板4、4Aに形成された周期分極反転構造の形状を乱すことがほとんどない。
【実施例】
【0047】
(実験A)
図1〜
図3を参照しつつ説明した方法に従って、表1に示す各例の接合体5、5Aおよび弾性波素子7を作製した。
具体的には、OF部を有し、直径が4インチ,厚さが250μmのタンタル酸リチウム基板(LT基板)を、圧電性単結晶基板4として使用した。LT基板は、弾性表面波(SAW)の伝搬方向をXとし、切り出し角が回転Yカット板である46°YカットX伝搬L
T基板を用いた。圧電性単結晶基板4の表面4aは、算術平均粗さRaが0.3nmとなるように鏡面研磨しておいた。ただし、Raは、原子間力顕微鏡(AFM)によって10μm×10μmの視野で測定する。
【0048】
次いで、圧電性単結晶基板4の表面4aに、直流スパッタリング法によって接合層2を成膜した。ターゲットにはボロンドープのSiを使用した。また、酸素源として酸素ガスを導入した。この際、酸素ガス導入量を変化させることによって、チャンバー内の雰囲気の全圧と酸素分圧を変化させ、これによって接合層2の酸素比率(x)を変化させた。接合層2の厚さは100〜200nmとした。接合層2の表面2aの算術平均粗さRaは0.2〜0.6nmであった。次いで、接合層2を化学機械研磨加工(CMP)し、膜厚を80〜190nmとし、Raを0.08〜0.4nmとした。
【0049】
一方、支持基板1として、オリエンテーションフラット(OF)部を有し、直径が4インチ,厚さが500μmのSiからなる支持基板1を用意した。支持基板1の表面1a、1bは、化学機械研磨加工(CMP)によって仕上げ加工されており、各算術平均粗さRaは0.2nmとなっている。
【0050】
次いで、接合層2Aの平坦面2bと支持基板1の表面1aとを洗浄し、汚れを取った後、真空チャンバーに導入した。10
−6Pa台まで真空引きした後、それぞれの基板の接合面1a、2bに高速原子ビーム(加速電圧1kV、Ar流量27sccm)を120sec間照射した。ついで、接合層2Aのビーム照射面(活性化面)2bと支持基板1の活性化面1aとを接触させた後、10000Nで2分間加圧して両基板1、4を接合した(
図2(a)参照)。次いで、得られた各例の接合体5を100℃で20時間加熱した。
【0051】
次いで、圧電性単結晶基板4の表面4bを厚みが当初の250μmから1μmになるように研削及び研磨して、接合体5Aを得た(
図2(b)参照)。
【0052】
得られた各例の接合体5Aおよび弾性波素子7について、以下の特性を評価した。
(接合層2A中の酸素比率(x))
接合層2Aを、ラザフォード後方散乱法によって以下の条件で評価した。
装置:National
Electrostatics Corporation製Pelletron 3SDH
条件:入射イオン:4He++
入射エネルギー:2300keV
入射角:0〜4deg
散乱角:110deg
試料電流:10nA
ビーム径:2mmφ
面内回転:無し
照射量:70μC
得られた結果を解析し、接合層2Aの深さ方向の元素分布を得た。解析には以下のパラメータを用いた。
接合層2Aの膜厚:光学式非接触膜厚測定装置(ナノメトリクス社 ナノスペック膜厚測定器モデル5000)にて測定した値
タンタル酸リチウムの原子数密度:9.52×10
22atoms/cm
3
上記のようにして得られた接合層2Aの膜厚の測定値と、接合層2Aの深さ(厚さ)方向の元素分布(酸素比率分布を含む)とを照合することによって、接合層2Aの圧電性単結晶基板4A側の端部における酸素比率xB、接合層2Aの中央部における酸素比率xOおよび接合層2Aの支持基板1側の酸素比率xAを読み取った。
この際、各端部における酸素比率xB、xA
の測定値は、各界面から厚さ5nmの範囲内における測定値である。
また、接合層2Aの中央部とは、上述した膜厚測定装置にて測定した接合層2Aの膜厚のうち、中間(言い換えると、界面Aから接合層2Aの中央部までの距離と、界面Bから接合層2Aの中央部までの距離とが、ほぼ等しい位置)を意味する。
【0053】
(接合強度)
各例の接合体5Aについて、クラックオープニング法によって接合強度を測定した。
【0054】
(Q値)
次いで、弾性波素子7を作製し、Q値を測定した。
具体的には、弾性表面波を発生させるIDT電極6は、フォトリソグラフィー工程を経て形成した。電極6を形成後、ダイシングにより小片化し、伝搬方向5mm、その垂直方向4mmの弾性波素子チップを得た。
これらの測定結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1と比較例1、2とを比較すると、実施例1では、本発明の条件を満足しているが、接合強度およびQ値が高い(Q値:1700)。一方、比較例1では、接合層2Aにおける酸素比率xが一定であるため、接合層2A全体における酸素比率の平均値は実施例1と同程度であるにもかかわらず、Q値が顕著に低下した(Q値:1200)。比較例2では、接合層2Aの中央部における酸素比率xOが、接合層2Aの支持基板1側の端部における酸素比率xAおよび接合層2Aの圧電性単結晶基板4A側の端部における酸素比率xBよりも高いが、しかし0.009と低いため、やはりQ値が顕著に低下していた(Q値:1100)。
【0057】
(実験B)
実験Aと同様にして接合体5Aおよび弾性波素子7を作製した。ただし、実験Aにおいて、接合層5Aにおける酸素比率xを、表2に示すように変更した。得られた各接合体5Aおよび弾性波素子7について、実施例Aと同様にして接合強度およびQ値を測定し、結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例2、3と比較例3〜5とを比較すると、実施例2、3では、高い接合強度とQ値とが得られた(ともに、Q値:2000)。これに対して、比較例3では、接合層2Aにおける酸素比率xが一定であり、かつ接合層2Aにおける酸素比率xが0.001と低いため、Q値が低くなっていた(Q値:1000)。また、比較例5では、接合層2Aにおける酸素比率xが一定であり、かつ接合層2Aにおける酸素比率xが0.666と高いため、接合強度が低く、弾性波素子を作製できなかった。比較例4では、接合層2Aにおける酸素比率xが一定であり、かつ0.333としたが、実施例2、3に比べてQ値が劣っていた(Q値:1900)。
【0060】
(実験C)
実験Aと同様にして接合体5Aおよび弾性波素子7を作製した。ただし、実験Bの実施例2において、支持基板1の材質を、表3に示すように変更した。すなわち、支持基板1の材質を、実施例4ではサファイア、実施例5ではムライト、実施例6ではコージェライト、実施例7では透光性アルミナ焼結体、実施例8ではサイアロンとした。得られた各接合体5Aおよび弾性波素子7について、実施例Aと同様にして接合強度およびQ値を測定し、結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
実施例4〜8においては、支持基板1の材質をサファイアや各種セラミックスに変更したが、やはり高い接合強度とQ値とが得られることが確認された(実施例4では、Q値:2200、実施例5では、Q値:2500、実施例6では、Q値:2500、実施例7では、Q値:2300、実施例8では、Q値:2500)。
なお、上述した実施例1〜8では、接合体5Aおよび弾性波素子7について説明したが、接合体15Aおよび弾性波素子17に関しても、同様な結果が得られた。
【課題】多結晶セラミック材料または単結晶材料からなる支持基板と圧電性単結晶基板との接合強度を高くし、かつQ値を向上させる。【解決手段】接合体5、5Aは、支持基板1、圧電性単結晶基板4、4A、および支持基板1と圧電性単結晶基板4、4Aとの間に設けられた接合層2Aを備える。接合層2AがSi
(xは酸素比率である)の組成を有する。接合層2Aの厚さ方向の中央部における酸素比率xが、接合層2Aの圧電性単結晶基板4、4A側の端部における酸素比率xおよび接合層2Aの支持基板1側の端部における酸素比率xよりも高い。接合層2Aの厚さ方向の中央部における酸素比率xが0.013以上、0.666以下である。