(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記円筒型構造体が地上に設置されているときに前記環状部材を地上から所定高さの位置に保持する保持部材が前記環状部材に取り付けられている、請求項1に記載の係留装置。
前記碇部材と前記長尺部材との接続部の強度は、前記長尺部材の強度及び前記環状部材と前記長尺部材との接続部の強度よりも低く設定されている、請求項1から5の何れか一項に記載の係留装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、高さが10mを超えるような大型の津波に対しての防波堤設置は、そもそも時間的・経済的に困難で不可能に近い。
【0006】
また、特許文献1に記載されたような漂流防止構造体を採用すると、タンクの周囲を大型構造体が囲むことから、日常のタンクの点検・検査及び保全改造工事や緊急時消火活動等が困難となる。また、漂流防止構造体自体が地震や津波により破壊され、タンクに被害を与える虞がある。また、地震や津波に耐えられる強度の漂流防止構造体を採用すると、構造体が大型となり、構造体設置敷地の制約やタンクの検査、保全、緊急時消火活動等の制約が増大してしまう。また、特許文献1に記載されたような漂流防止構造体は、大型津波や大型タンクには適さない。すなわち、漂流防止構造体の高さは津波高さ及びタンク側板の高さから決まるため、例えば10mを超えるような大型の津波の場合は漂流防止構造体の高さが10m以上必要となり、津波波力に耐えることができるこのような構造体の設置は現実的に不可能である。また、敷地の制約等により、既設タンクでの対策工事が困難である。そして、上記のような事情により、消防法の危険物申請が許可されない可能性がある。さらに、津波波力によりタンクが傾き、タンク側板と漂流防止構造体が接触してタンクがスムーズに上昇(下降)しない場合もあり、このような場合には、漂流防止構造体及びタンクのそれぞれに、タンクの浮力やタンク重量(タンクの自重及び貯蔵した内容物の重量)が作用することになり、漂流防止構造体破壊及びタンク破壊の危険性がある。
【0007】
また、特許文献2及び3に記載されたような複数本のワイヤによる係留技術を採用すると、津波波力によりタンクが転倒する危険性があることに加え、ワイヤが絡むことによりタンクが上下降出来ない場合があり、このような場合には、ワイヤ及び側板のそれぞれに、タンク上昇時にはタンクの浮力が作用し、タンク下降時にはタンクの重量が作用し、ワイヤ切断やタンク破壊の危険性がある。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、屋外に設置された構造体に大型の津波が来襲した場合においても、構造体の損傷を抑制しつつ、構造体が所定領域外へと漂流することを防ぐことができる係留装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明に係る係留装置は、円筒型構造体の側壁の外周面の少なくとも一部を覆うように構成される所定幅の環状部材と、単一の長尺部材と、地面に固定される碇部材と、を備え、長尺部材の一端が接続部材を介して環状部材に接続されるとともに、長尺部材の他端が接続部材を介して碇部材に接続されてなるものである。
【0010】
かかる構成を採用すると、円筒型構造体の側壁の外周面の少なくとも一部を覆うように構成される環状部材と、単一の長尺部材と、地面に固定される碇部材と、が接続部材を介して接続されているため、屋外に設置された円筒型構造体に津波による大きな浮力と波力(水平力)が作用して円筒型構造体が地上から浮き上がった場合に、円筒型構造体を係留することができ、円筒型構造体が所定領域外へ漂流することを防ぐことができる。係留の際には、円筒型構造体の側壁に接している比較的広い面積を有する環状部材を介して係留力が円筒型構造体に作用することになり、長尺部材が直接的に側壁に接続されていないため、局所的な荷重が側壁に作用するのを防ぐことができ、側壁の損傷を防ぐことができる。また、単一の長尺部材を用いて円筒型構造体を係留することとなるため、円筒型構造体を常に津波の方向(海から陸上へ、陸上から海へ、と変化する)に沿って移動させることができ、円筒型構造体の浮遊、水平・上下移動、水平回転を許容することができる。この結果、円筒型構造体の捩りを防ぐとともに、浮力及び波力による側壁の座屈や浮力による底板の座屈を防ぐことができる。また、係留の際に長尺部材に作用する力は運動エネルギ(水圧)のみに着目して決定すればよいことから、比較的小さくなる。この結果、係留装置の小型化が可能となるため、装置設置用に広い敷地を確保する必要がなくなり、円筒型構造体の検査・保全・緊急時消火活動等への支障が少なくなるという利点がある。また、環状部材は、円筒型構造体の側壁の外周面の少なくとも一部を覆うように構成されているため、津波来襲時の漂流物(津波により流されてくる物体)の衝突による円筒型構造体の被害を低減させることができる。
【0011】
本発明に係る係留装置において、円筒型構造体が地上に設置されているときに環状部材を地上から所定高さの位置に保持する保持部材を、環状部材に取り付けることができる。
【0012】
かかる構成を採用すると、円筒型構造体が地上に設置されているときに、保持部材によって、環状部材を地上から所定高さの位置に保持することができる。従って、環状部材の取付けのために円筒型構造体の側壁に溶接や締結を行う必要がないことから、環状部材の重量や取付けのための溶接応力・締結応力等が円筒型構造体の側壁に恒常的に作用することを防ぐことができる。また、漂流していた円筒型構造体が着地するときには、環状部材の下方に取り付けられた保持部材を円筒型構造体よりも先行して着地させることができるので、円筒型構造体の底壁に加わる着地時の衝撃を和らげることができる。
【0013】
本発明に係る係留装置において、接続部材としてユニバーサルジョイントを採用することができる。
【0014】
かかる構成を採用すると、長尺部材が環状部材及び碇部材にユニバーサルジョイントを介して接続されるため、環状部材及び碇部材に対して長尺部材が自在に回転することができるようになり、円筒型構造体の水平・上下移動や水平回転が容易となるという利点がある。
【0015】
本発明に係る係留装置において、環状部材の内面に緩衝材を設けることができる。
【0016】
かかる構成を採用すると、環状部材の内面に緩衝材が設けられているので、円筒型構造体の側壁に環状部材が接触する際に、側壁が受ける衝撃を和らげることができる。また、係留時において、環状部材を介して円筒型構造体に作用する津波波力(長尺部材の牽引力)に起因する局部応力の発生を防止することができる。
【0017】
本発明に係る係留装置において、緩衝材をゴム材料で構成することができる。
【0018】
かかる構成を採用すると、比較的摩擦係数の大きいゴム材料で緩衝材が構成されているので、津波波力により環状部材が円筒型構造体の側壁に接触した際に、円筒型構造体の側壁に対して比較的大きい摩擦力を作用させることができ、環状部材のズレを防止できる。従って、確実な係留を実現させることができる。
【0019】
本発明に係る係留装置において、碇部材と長尺部材との接続部の強度を、長尺部材の強度及び環状部材と長尺部材との接続部の強度よりも低く設定することができる。
【0020】
かかる構成を採用すると、きわめて大きい波力の津波が来襲した場合に、長尺部材及び環状部材と長尺部材との接続部より先に、碇部材と長尺部材との接続部を破断させることができる。このとき円筒型構造体は碇部材から分離することとなるが、長尺部材を比較的重い材料で構成した場合には長尺部材が碇部材としての機能を果たすため、依然として円筒型構造体の漂流を抑制することができる。
【0021】
本発明に係る係留装置において、長尺部材として、連結部材を介して所定長さの綱部材又は鎖部材を複数連結して構成したものを採用することができる。連結部材としては、連結した綱部材又は鎖部材を相互に回転させることを可能にした回転治具を採用することができる。
【0022】
かかる構成を採用すると、綱部材又は鎖部材自身の曲げ抵抗や回転抵抗によって円筒型構造体の水平・上下移動や水平回転が妨げられることを防止することができる。
【0023】
また、本発明に係る係留方法は、既に述べた係留装置を用いて円筒型容器を係留する方法であって、円筒型容器の内部に貯蔵される液体の最低管理液量を設定し、係留装置の環状部材と長尺部材との接続部を、円筒型容器の側壁の想定浸水領域内で且つ最低管理液量に基づく液面の高さより低い位置に設定するものである。
【0024】
かかる方法を採用すると、円筒型容器の内部に貯蔵される液体の最低管理液量を予め設定し、環状部材と長尺部材との接続部を、円筒型容器の側壁の想定浸水領域(円筒型容器が津波により浮き上がった場合に浸水すると想定される側壁の領域)内で且つ設定した最低管理液量に基づく液面の高さより低い位置に配置するので、津波により円筒型容器が地上から浮き上がったときに円筒型容器が転倒することを防止することができる。なお、(内容液比重によって異なるが)通常、環状部材と長尺部材との接続部を、円筒型容器の側壁の想定浸水領域の下半分の領域に配置すると、漂流時に円筒型容器がさらに安定し、転倒を効果的に防止することができるので好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、屋外に設置された構造体に大型の津波が来襲した場合においても、構造体の損傷を抑制しつつ、構造体が所定領域外へと漂流することを防ぐことができる係留装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態はあくまでも好適な適用例であって、本発明の適用範囲がこれに限定されるものではない。
【0028】
まず、
図1〜
図4を用いて、本発明の実施形態に係る係留装置1の構成について説明する。
【0029】
本実施形態に係る係留装置1は、屋外に設置された円筒型構造体Sに大型の津波が来襲した場合に、円筒型構造体Sが所定領域外へと漂流することを防ぐものである。係留装置1は、
図1に示すように、円筒型構造体Sの側壁W
Sの外周面の一部を覆うように構成される環状部材10と、単一の長尺部材20と、地面Gに固定される碇部材30と、を備えている。なお、以下の実施形態においては、円筒型構造体(以下、単に「構造体」ということがある)Sとして、内部に液体を貯蔵する円筒型容器を採用している。
【0030】
環状部材10は、
図1に示すように、複数の平面視円弧状の分割部材11をボルトで連結して構成した環状の部材であり、所定の幅及び厚さを有している。環状部材10は、構造体Sの側壁W
Sの一部に接触するような内径を有しているが、分割部材11を連結する際のボルト締結による外力が構造体Sの側壁W
Sに作用しないように構成されている。環状部材10は、金属材料等で構成することができる。環状部材10は、最低管理液面付近で且つ構造体Sの底壁付近の比較的強度の高い部位に取り付けられる。環状部材10の幅(構造体Sの高さ方向における寸法)は、例えば、構造体Sの高さの5〜10%程度)に設定される。環状部材10の構造は、係留時の引張力による変形量が少なく、構造体Sの側壁W
Sとの面接触を可能にして側壁W
Sに局部応力を発生させない剛性を有するものとする。なお、本実施形態では、複数の分割部材11で環状部材10を構成した例を示したが、単一の部材で環状部材10を構成することもできる。
【0031】
環状部材10の内面には、(図示されていない)緩衝材が設けられている。本実施形態における緩衝材は、ゴム材料で構成されている。このように環状部材10の内面に緩衝材が設けられているので、構造体Sの側壁W
Sに環状部材10が接触する際に、側壁W
Sが受ける衝撃を和らげることができることに加え、係留時において、環状部材10を介して構造体Sに作用する津波波力に起因する局部応力の発生を防止することができる。また、比較的摩擦係数の大きいゴム材料で緩衝材が構成されているので、津波波力により環状部材10が構造体Sの側壁W
Sに接触した際に、構造体Sの側壁W
Sに対して比較的大きい摩擦力を作用させることができる。なお、緩衝材の材料はゴム材料に限られるものではなく、クッション性を有する各種材料で緩衝材を構成することができる。
【0032】
環状部材10の下方には、
図1に示すように、構造体Sが地上に設置されているときに環状部材10を地上から所定高さの位置に保持する保持部材40がボルト等で取り付けられている。保持部材40は、環状部材10の重量を下方から支えることができるものであればよく、その形状や材料は特に限定されるものではない。このような保持部材40を採用することにより、環状部材10の取付けのために構造体Sの側壁W
Sに溶接や締結を行う必要がないことから、環状部材10の重量や取付けのための溶接応力・締結応力等が構造体Sの側壁W
Sに恒常的に作用することを防ぐことができ、側壁W
Sの損傷を防ぐことができる。なお、保持部材40の取付位置や取付構造は特に限定されるものではなく、環状部材10を地上から所定高さの位置に保持することができればよい。
【0033】
長尺部材20は、環状部材10と碇部材30とを接続する部材であり、全体として曲げ及び捩りが可能であるとともに、構造体Sを係留することができる強度を有している。本実施形態における長尺部材20は、
図2及び
図3に示すように、連結部材22を介して所定長さの綱部材21を複数連結して構成したものである。綱部材21の材料は、曲げや捩りが可能であり且つ所望の強度を確保できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、高炭素鋼材料で綱部材21を構成することができる。綱部材21の長さ及び本数は、長尺部材20の全長、綱部材21の曲げ抵抗及び回転抵抗、綱部材21設置時のハンドリング等を考慮して適宜設定することができる。例えば、長尺部材20の全長が比較的短い場合には、1本の綱部材21で長尺部材20を構成することもできる。なお、綱部材21に代えて、金属製の鎖部材を採用することもできる。
【0034】
本実施形態における連結部材22は、連結した綱部材21を相互に回転させることを可能にした回転治具(各綱部材21の端部に取り付けられるシャックル(U字型連結金具)22a及びシャックル22a同士を回転自在に連結するスイベルフック22b)である。このような構成の長尺部材20を構成することにより、綱部材21自身の曲げ抵抗や回転抵抗によって構造体Sの水平・上下移動や水平回転が妨げられることを防止することができる。
【0035】
長尺部材20の一端20aは、
図2及び
図3に示すように、第一接続部材50を介して環状部材10に接続されている。本実施形態における第一接続部材50は、環状部材10の外周面の一部に固定された板状金具51と、板状金具51に形成された孔に取り付けられたシャックル(U字型連結金具)52と、から構成されており、シャックル52には、長尺部材20の一端20aが取り付けられている。シャックル52は、板状金具51の孔を通る水平方向の軸を中心に鉛直面内(
図2の矢印R
V方向)で回転することができ、長尺部材20は、U字型連結金具であるシャックル52によって左右(水平)方向(
図3の矢印R
H方向)に回転することができる。すなわち、第一接続部材50はユニバーサルジョイントとして機能する。
【0036】
環状部材10と長尺部材20との接続部(第一接続部材50)は、
図4に示すように、構造体Sの側壁W
Sの想定浸水領域(構造体Sが津波により浮き上がった場合に浸水すると想定される側壁W
Sの領域)A
W内で且つ構造体Sに貯蔵される液体Lの最低液面L
Sの高さより低い位置に配置されている。最低液面L
Sは、予め設定した最低管理液量に基づくものである。このようにすることにより、津波により構造体Sが地上から浮き上がったときに構造体Sが転倒することを防止することができる。なお、(内容液比重によって異なるが)通常、第一接続部材50を、構造体Sの側壁W
Sの想定浸水領域A
Wの下半分の領域に配置すると、漂流時に構造体Sがさらに安定し、転倒を効果的に防止することができるので好ましい。
【0037】
碇部材30は、長尺部材20を介して環状部材10に接続される部材であり、構造体Sを係留することができるように地面に固定されている。碇部材30の大きさや材料は、構造体Sの係留を実現させるものであれば特に限定されるものではない。碇部材30は、
図2及び
図3に示すように、第二接続部材60を介して長尺部材20の他端20bに接続されている。本実施形態における第二接続部材60は、碇部材30の上面の一部に固定された板状金具61と、板状金具61に形成された孔に取り付けられたシャックル(U字型連結金具)62と、から構成されており、シャックル62には、長尺部材20の他端20bが取り付けられている。シャックル62は、板状金具61の孔を通る水平方向の軸を中心に鉛直面内(
図2の矢印R
V方向)で回転することができ、長尺部材20は、U字型連結金具であるシャックル62によって左右方向(
図3の矢印R
H方向)に回転することができる。すなわち、第二接続部材60もまた、ユニバーサルジョイントとして機能する。
【0038】
本実施形態においては、碇部材30と長尺部材20との接続部(第二接続部材60)の強度を、長尺部材20の強度及び環状部材10と長尺部材20との接続部(第一接続部材50)の強度よりも低く設定している。このようにすることにより、きわめて大きい波力の津波が来襲した場合に、長尺部材20及び環状部材10と長尺部材20との接続部(第一接続部材50)より先に、碇部材30と長尺部材20との接続部(第二接続部材60)を破断させることができる。なお、長尺部材20の強度とは、長尺部材20の引張り時の破断強度をいう。また、接続部(第一接続部材50及び第二接続部材60)の強度とは、引張り、せん断、曲げの何れかで接続部が破断する強度のうち最も小さい値をいう。
【0039】
以上説明した実施形態に係る係留装置1においては、円筒型構造体Sの側壁W
Sの外周面の一部を覆うように構成される環状部材10と、単一の長尺部材20と、地面Gに固定される碇部材30と、が接続部材50・60を介して接続されているため、屋外に設置された構造体Sに津波による大きな浮力と波力(水平力)が作用して構造体Sが地上から浮き上がった場合に、構造体Sを係留することができ、構造体Sが所定領域外へ漂流することを防ぐことができる。係留の際には、構造体Sの側壁W
Sに接している比較的広い面積を有する環状部材10を介して係留力が構造体Sに作用することになり、長尺部材20が直接的に側壁W
Sに接続されていないため、局所的な荷重が側壁W
Sに作用するのを防ぐことができ、側壁W
Sの損傷を防ぐことができる。また、単一の長尺部材20を用いて構造体Sを係留することとなるため、構造体Sを常に津波の方向に沿って移動させることができ、構造体Sの浮遊、水平・上下移動、水平回転を許容することができる。この結果、構造体Sの捩りを防ぐとともに、浮力及び波力による側壁W
Sの座屈や浮力による底板の座屈を防ぐことができる。また、係留の際に長尺部材20に作用する力は運動エネルギ(水圧)のみに着目して決定すればよいことから、比較的小さくなる。この結果、係留装置1の小型化が可能となるため、装置設置用に広い敷地を確保する必要がなくなり、構造体Sの検査・保全・緊急時消火活動等への支障が少なくなるという利点がある。また、環状部材10は、構造体Sの側壁W
Sの外周面の少なくとも一部を覆うように構成されているため、津波来襲時の漂流物(津波により流されてくる物体)の衝突による構造体Sの被害を低減させることができる。
【0040】
また、以上説明した実施形態に係る係留装置1においては、構造体Sが地上に設置されているときに、保持部材40によって、環状部材10を地上から所定高さの位置に保持することができる。従って、環状部材10の取付けのために構造体Sの側壁W
Sに溶接や締結を行う必要がないことから、環状部材10の重量や取付けのための溶接応力・締結応力等が構造体Sの側壁W
Sに恒常的に作用することを防ぐことができる。また、漂流していた構造体Sが着地するときには、環状部材10の下方に取り付けられた保持部材40を、構造体Sよりも先行して着地させることができるので、構造体Sの底壁に加わる着地時の衝撃を和らげることができる。
【0041】
また、以上説明した実施形態に係る係留装置1においては、長尺部材20が環状部材10及び碇部材30にユニバーサルジョイント(第一接続部材50及び第二接続部材60)を介して接続されるため、環状部材10及び碇部材30に対して長尺部材20が自在に回転することができるようになり、構造体Sの水平・上下移動や水平回転が容易となるという利点がある。
【0042】
また、以上説明した実施形態に係る係留装置1においては、環状部材10の内面に緩衝材が設けられているので、構造体Sの側壁W
Sに環状部材10が接触する際に、側壁W
Sが受ける衝撃を和らげることができる。また、係留時において、環状部材10を介して構造体Sに作用する津波波力(長尺部材20の牽引力)に起因する局部応力の発生を防止することができる。
【0043】
また、以上説明した実施形態に係る係留装置1においては、比較的摩擦係数の大きいゴム材料で緩衝材が構成されているので、津波波力により環状部材10が構造体Sの側壁W
Sに接触した際に、構造体Sの側壁W
Sに対して比較的大きい摩擦力を作用させることができる。従って、確実な係留を実現させることができる。
【0044】
また、以上説明した実施形態に係る係留装置1においては、碇部材30と長尺部材20との接続部(第二接続部材60)の強度を、長尺部材20の強度及び環状部材10と長尺部材20との接続部(第一接続部材50)の強度よりも低く設定しているため、きわめて大きい波力の津波が来襲した場合に、長尺部材20及び環状部材10と長尺部材20との接続部より先に、碇部材30と長尺部材20との接続部を破断させることができる。このとき構造物Sは碇部材30から分離することとなるが、長尺部材20を比較的重い材料で構成した場合には長尺部材20が碇部材30としての機能を果たすため、依然として構造物Sの漂流を抑制することができる。
【0045】
また、以上説明した実施形態に係る係留装置1においては、長尺部材20として、連結部材22を介して所定長さの綱部材21を複数連結して構成したものを採用し、連結部材22として、連結した綱部材21を相互に回転させることを可能にした回転治具を採用しているので、綱部材21自身の曲げ抵抗や回転抵抗によって構造体Sの水平・上下移動や水平回転が妨げられることを防止することができる。
【0046】
また、以上説明した実施形態においては、構造体Sの内部に貯蔵される液体Lの最低管理液量を予め設定し、環状部材10と長尺部材20との接続部(第一接続部材50)を、構造体Sの側壁W
Sの想定浸水領域A
W内で且つ、設定した最低管理液量に基づく液面(最低液面L
S)の高さより低い位置に配置しているので、津波により構造体Sが地上から浮き上がったときに構造体Sが転倒することを防止することができる。
【0047】
<実施例>
次に、本発明の実施例(シミュレーション結果)について説明する。
【0048】
本実施例においては、構造体Sに津波波力が作用した場合における側壁W
Sの変形状況について、シミュレーションを行った。採用した構造体Sのモデルは、
図5に示すように、内部に80%の割合で液体Lが貯蔵されている高さ15.2m、外径19.2mの円筒型容器である。環状部材10としては、鋼製の幅0.76m、厚さ0.12mのモデルを採用し、地面(構造体Sの下端)から環状部材10の幅方向中央位置までの寸法(高さ)を3.04mに設定した。長尺部材20としては、公称径0.075m、長さ18mのワイヤーロープを採用し、碇部材30としては、鉄筋コンクリート製の杭基礎を採用し、第一・第二接続部材50・60としては、鋼製の板状部材及びシャックルを採用した。また、本実施例においては、長尺部材20の強度を2452kNに設定し、環状部材10と長尺部材20との接続部(第一接続部材50)の強度を2229kNに設定し、碇部材30と長尺部材20との接続部(第二接続部材60)の強度を1621kNに設定した。
【0049】
本実施例においては、想定する最大津波波力により構造体Sが滑動した(地上から僅かに浮き上がり漂流した)結果、
図5に示すように長尺部材20が最大長まで伸び、これに伴って構造体Sの背面側(津波方向と反対側)の側壁W
Sに水平応力が作用することを想定した。また、本実施例においては、
図6に示すように、構造体Sの側壁W
Sと環状部材10とが、構造体Sの側壁W
Sの全周の1/4(90°)の範囲で接触するものとし、この接触領域A
Cに作用する応力と、それに伴う接触領域A
Cの変形と、を算出した。
【0050】
図7は、構造体Sに作用する津波波力(合計水平波力)の時間履歴を示したタイムチャート(西日本南海トラフ地震(マグニチュード9)を想定したシミュレーションデータ例)である。構造体Sに作用する津波波力の最大値は、1610kNとなっている。
図8(A)は、初期状態(
図7で時間0sの状態)における構造体Sの応力変形図であり、
図8(B)は、最大津波波力作用時(
図7で時間19.3sの状態)における構造体Sの応力変形図である。最大津波波力作用時において接触領域A
Cに作用した最大応力は、53234kN/m
2(降伏応力の約25%)であり、弾性範囲であった。また、接触領域A
Cの変形(へこみ)量は約3.8mmであった。
【0051】
以上の実施例から明らかなように、係留の際には、構造体Sの側壁W
Sに接している比較的広い面積を有する環状部材10を介して係留力が構造体Sに作用することになり、長尺部材20が直接的に側壁W
Sに接続されていないため、局所的な荷重が側壁W
Sに作用するのを防ぐことができ、側壁W
Sの変形を僅かな量に抑えることができる。
【0052】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、かかる実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。すなわち、前記実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前記実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。