【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の通り、従前においてもショット材を変更したり、水とショット材の混合液を噴射する等によって、防爆対策を講じる技術については種々提案されている。しかしながら、前記特許文献1においては、防爆対策としてある特定したショット材(特許文献1ではスズ)しか使用できないという問題が生じた。即ち、ブラスト処理を行う上では、加工目的及びワークの素材によっては様々なショット材が用いられることもある。その為に、ショット材の素材が限定された場合には、加工できるワークの素材、並びにブラスト処理後のワークの形状が制限されてしまい、要望通りの加工を施すことが困難になっていた。
【0010】
また、特許文献2で示すような湿式のブラスト処理を行うに当たっては、金属のワークを使用した場合には、ワークが濡れてしまい、錆びてしまったり、水の後処理の手間が煩雑といった問題があった。
【0011】
そこで本発明では、使用できるショット材及びワークの素材を限定すること無く、簡易且つ安全に粉塵爆発対策を講じることができる不活性ガス循環式ブラスト装置を提供することを第1の課題とする。
【0012】
また、近年においては金属粉末等を用いた3D積層造形技術にも注目が集まり、様々な機関で研究開発・技術開発並びに実用化に力が注がれている。かかる金属粉末を用いた3D積層造形技術は、レーザービームや電子ビームなどのエネルギーを照射して、金属粉末を選択的に溶融・凝固させた層を積層させて3次元の造形物を作製するものであり、中でも電子ビームをエネルギー源として用いた3D積層造形技術では、様々な金属粉末を使用することができる。
【0013】
しかしながら、電子ビームを用いた3D積層造形技術では、金属粉末の余熱時か又は溶融・凝固時に、3次元造形物の周りには、金属粉末同士が溶融でも焼結でもない状態で存在する仮焼結体が生じる。よって、この仮焼結体を解砕する技術が必要になる。また、電子ビームを用いた3D積層造形技術以外であっても、金属粉末による造形物に対して、造形物の表面状態を改善する為にブラスト処理が行われることもある。そして、仮焼結体だけを効果的に解砕する為、金属粉末の造形物の造形精度を改善する為、或いは表面状態を改善する為には、ショット材としてできるだけ微細粒径の金属或いは合金を使用するのが望ましかった。しかし、微細粒径の金属或いは合金等の素材をショット材として使用した場合には、より粉塵爆発を発生させる危険性が高まおそれがあった。
【0014】
そこで本発明では、ショット材として微細粒径の金属、或いは合金等を使用したとしても、粉塵爆発を未然に防止することができるようにした、不活性ガス循環式ブラスト装置を提供することを第2の課題とする。
【0015】
さらに、前述のとおり、電子ビームを使用して金属粉末を溶融・凝固させる際には、造形物の周りには余熱か又は溶融によって、溶融でも焼結でもない仮焼結体が形成される。そこで、ブラスト処理によって、この仮焼結体を解砕し除去するのだが、材料の無駄をなくす上では、解砕した仮焼結体を有効に利用するのが望ましい。これは、金属材料が高価な場合に、特に顕著となる。また、このような仮焼結体の解砕に際しては、金属粉末が多く発生し、これが舞い上がって浮遊することから、粉塵爆発の危険性も高まることが予想される。
【0016】
そこで、本発明では粉塵爆発の危険性を低く抑えた上で、ブラスト処理における加工品の解砕物を有効に再利用できるよう工夫した不活性ガス循環式ブラスト装置を提供することを第3の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題の少なくとも何れかを解決するべく、本発明では加工品の解砕物を有効に再利用できると共に、ブラスト装置内部空間の酸素濃度を低くすることで、簡易且つ安全に粉塵爆発対策を講じることができる不活性ガス循環式ブラスト装置を提供する。
【0018】
即ち、本発明は加工品を収容するキャビネットと、前記キャビネット内に収容した加工物に対してショット材を気流によって投射する投射部と、前記ショット材を付勢する気流を生じさせる送風機と、キャビネット内の気体を吸引して、当該気体中の粉塵を収集する集塵装置とから成るブラスト装置であって、前記キャビネット内には不活性ガスが充填されており、当該不活性ガスは前記送風機、キャビネット、及び集塵装置を循環する事を特徴とする不活性ガス循環式ブラスト装置を提供するものである。
【0019】
前記加工品とは金属やセラミック、ガラス、プラスチック等の硬質素材で形成された構造物や、ゴムといった軟質素材で形成された構造物等を広く含み、素材、大きさ、形状或いは重量等に大きな制限は無い。しかし、装置内に設置してブラスト処理を施す目的を鑑みれば、容易に持ち運び及び/又は設置が可能な形状であることが望ましく、装置に破損等が生じない程度の重量のものを使用するのが望ましい。特に本発明にかかるブラスト装置は、前記加工品が粉塵爆発の要因となり得る発火源(静電気等)を発生し易い素材である金属或いは合金等でできた構造物である場合に、より一層顕著な効果を奏する事ができる。また、金属粉末が多く発生する場合に有効であり、よって電子ビームによって形成した3次元造形物の仮焼結体を解砕する目的において有用である。よって、本発明にかかるブラスト装置で加工する加工品は、電子ビームによって形成した3次元造形物である場合に、最大の効果を発揮することができる。
【0020】
またショット材は、金属系やセラミック系、或いは樹脂系などの様々な素材からなるショット材が適宜使用可能であるが、本発明における粉体爆発の危険性を回避するための作用効果を考慮すれば、アルミや亜鉛、又は合金、フリント、グリッド、鋳鋼等の金属或いは合金の素材からなるショット材を使用する場合に特に有効である。さらに言えば、ショット材は加工品と同じ材料のものを使用するのが望ましい。本発明にかかるブラスト装置を、金属粉末を電子ビームで溶融・凝固させて形成した3次元造形物の仮焼結体を解砕する目的で使用する場合に、解砕物を再利用できるようにするためである。かかる解砕物は、再度、3次元造形物を形成するための造形材料(金属粉末)として利用する他、ショット材として利用することもできる。
【0021】
よって、本発明にかかるブラスト装置は、加工品の解砕物の少なくともその一部をショット材又は加工品の造形材料として再利用する事が望ましく、そのために、ショット材として加工品と同じ材料の物を使用し、高価な材料費用等を節約するのが望ましい。
【0022】
前記キャビネットは、前記加工品を収容すると共に、ブラスト処理を実施する空間として機能する。キャビネットを形成する素材及び大きさに制限は無いが、防錆性も鑑みてステンレス製の素材で形成するのが望ましく、また解砕物をショット材又は造形材料として使用する場合には、その汚染を阻止する為に、ショット材(及び造形材料)よりも硬い材料か、あるいはショット材(及び造形材料)と同じ材質で内壁面が形成されている事が望ましい。また、キャビネットの内部(内壁)は、ショット材或いは解砕物の堆積や付着を防ぐ為にも、極力段差や凹凸を設けず、滑らかな平面構造とするのが望ましい。また、加工品の解砕物を下方向に落下させて1か所に集めることができるように、キャビネットの下部は下方向に向けて窪むように勾配を設けるのが望ましい。さらに、ブラスト作業に際して、キャビネット内に手を挿入して作業できるように、キャビネットの側面に開口部を設けたり、照明装置を設置したり、加工品の出入用のメンテナンス用ドアや、装置制御用の電装機器類を配置した制御ボックス等を、使用目的に応じて適宜配置しても良い。
【0023】
但し、キャビネットの側面に開口部等を設ける場合は、キャビネット内の気体が外に漏れないよう密閉構造にし、気体の循環に支障が無い構造とするのが望ましい。また、キャビネットの上部や側部(但し、作業者が作業する側以外の側部)には、仮に粉塵爆発が生じた場合に備え、圧力を拡散し作業者を守る為の爆発圧力拡散口を設けるのも良い。さらに、キャビネット内の下部側には、篩網等の解砕物分別手段を設けるのも望ましい。これは、大きな解砕物が、後述するメディア収容タンクに入っていくのを防ぐと共に、回収した大きな解砕物をショット材又は加工品の造形材料として再利用する為に、所定範囲を超える大きさの解砕物を取り除く為である。なお、この解砕物分別手段は、更に取り除いた大きな解砕物を細かく砕くための粉砕手段を設けても良い。かかる粉砕手段としては、ボールミルや高圧粉砕ロール等の周知の粉砕手段を用いることができる。
【0024】
ここで、前記キャビネットは、キャビネット内の気体を吸引して当該気体中の粉塵を収集する集塵装置と繋がっている。かかる集塵装置は、粉塵の捕集に適したものを使用することができる。例えば、遠心分離によって集塵するサイクロンとダストコレクターから構成される装置が一般的であるが、布袋式集塵装置や湿式集塵装置等を用途に合わせて使用しても構わない。但し、超微粒子のショット材を使用する場合等には、集塵装置を単独で使用しても粉塵の完全な捕集が達成できない可能性もある為、その際は様々な集塵装置を複数設置するなどしても構わない。
【0025】
また、前記集塵装置によって粉塵が取り除かれた気体は、前記送風機に移送される。この送風機は、ショット材を付勢する気流を生じさせる為の装置であり、送風ファン、コンプレッサー、或いはルーツ式のロータリーブロアを使用することができる。但し、ルーツ式のロータリーブロアが望ましい。これは、ファンを用いた方式とは異なり、空気の吸入側と吐出側が常に完全に仕切られる構造の為、停止状態でも吐出側の高圧空気が吸入側に漏れない構造である為、エネルギー効率が良い為である。また、ロータリーブロアの回転制御によって送風量の調整が容易となり、潤滑油を使用しないため送風空気中に油分が混入することはない。更に、吸気と排気とが同時になされる為、多風量に対応できるなどブラスト装置に好適な空気供給装置を構成できる為である。当該送風機によって気流を生じさせ、付勢した気流によってショット材を付勢し、スプレーガン等を用いて形成された前記投射部からショット材を投射して、加工品に対してブラスト処理を行う。
【0026】
ここで、本発明にかかるブラスト装置ではキャビネット内、及び配管系を全て密閉し、装置内部に窒素やアルゴン等の不活性ガスを導入・充填させ、前記送風機を利用して当該不活性ガスを循環させる。即ち、装置内の気体を不活性ガスで置換することで、内部の酸素濃度を粉塵爆発限界値よりも低くし、粉塵爆発の発生要因を未然に防止できる構造としている。具体的には、装置内の酸素濃度を5%未満(特に3%未満)に設定するのが望ましく、ある一定の酸素濃度が検知された場合には再度不活性ガスが導入され、不活性ガス置換を実施するように構成するのが望ましい。上記不活性ガス置換動作は自動制御で行うこともでき、規定の酸素濃度に達しなければブラスト動作が機能しないインターロック機能等を具備するなどして、より安全面を考慮した構造としても良い。
【0027】
上記構成によれば、装置内部の酸素濃度を常時、粉塵爆発限界値よりも低い酸素濃度に維持することが可能な為、加工品及び/又はショット材に微細粒径の金属或いは合金等の素材を用いた場合でも、効果的に且つ安全に粉塵爆発対策を講じることができる。また、用途によってはドライアイスをショット材として使用しても構わない。ドライアイスをショット材として使用した場合についても、本発明においては不活性ガスを供給していることで、単独のドライアイスショットと比較し内部の湿度が低く抑えられる為、より効果的な加工品の洗浄が可能となる。即ち、ショット材及び加工品に使用できる素材や粒径の制限が無くなる為、より広範囲(広分野)でのブラスト装置の利用が可能になる。更に、静電気等の発火源を生じさせる可能性を大幅に減じることができる。
【0028】
また、前記キャビネットの下方には、キャビネット内に蓄積した加工品の解砕物を収容する為のメディア収容タンクを設けるのが望ましい。当該メディア収容タンクを形成する素材及び形状については用途に応じて適宜設定可能であるが、長時間ブラスト処理を実施することも鑑みた上で、加工品の解砕物を多く収容できる容量に設定するのが望ましい。特に金属粉末を電子ビームで溶融・凝固させて形成した3次元造形物の仮焼結体を解砕する目的で使用する場合であって、解砕物を造形材料又はショット材として利用する場合には、解砕物とショット材とが貯留される事から、その容量は大きく確保するのが望ましい。
【0029】
さらに、前記キャビネット内で生じた加工品の解砕物の出口側、または前記メディア収容タンクにおける解砕物の入口側の少なくとも何れかには、ロータリーバルブを設けるのが望ましい。これは、ロータリーバルブを設けることで、回転作用で解砕物の流量を調整及び制御することが可能になる為、多量の解砕物の落下を防ぐことができ、前記メディア収容タンクの入口側の目詰まり等を発生させる危険性を大幅に減じることができる為である。また、ロータリーバルブを使用することにより、当該ロータリーバルブの両側に存在する空間同士の気圧に関係なく解砕物を送り出すことができる。
【0030】
また、加工品の解砕物を大きさ、形状、及び重量の少なくとも何れか分級できる分級部を備えても良い。当該分級部は従前において粉粒物を分級する為に使用されているものであればよく、篩機や遠心分離式のサイクロン、或いは液体サイクロン等、用途に応じて適宜使用することができる。例えば、解砕物を複数に分級したい場合には、前記メディア収容タンクを複数使用し、これら複数のメディア収容タンクを並列又は直列に並べて設置して、それぞれのメディア収容タンクに仕分ける分級部を設けることで、粒径等によってショット材、加工品の造形材料、或いはその他の材料として分級し、それぞれを再利用に供することも可能になる。
【0031】
さらに、前記分級部の他に、ショット材、或いはその他の用途に利用できる粒体を形成する為に、加工品の解砕物を更に細かく粉砕する粉砕手段を設けるのも望ましい。かかる粉砕手段を別途設けることにより、より多くの解砕物の再利用が可能になり、材料の節約にも繋がる。
【0032】
ここで、前記メディア収容タンクの下方又は側方には、前記キャビネット内で生じた加工品の解砕物を、前記送風機から吐出される気体内に投入する為の混合器が設けられる。混合器を設けることで、前記分級部或いは解砕手段によって細かく解砕された加工品の解砕物は送風機から送り出された気体に混入され、ショット材として投射可能になる。即ち、新たにショット材を投入すること無く、加工品の解砕物をショット材として再利用可能になる為、永続的なブラスト加工が可能になる。特にショット材として、加工品と同じ材料で形成したものを使用すれば、キャビネット内に存在する粉体は、単に分級するだけでショット材として使用することができる。
【0033】
また、前記送風機から吐出される気体は、前記混合器を通って前記投射部に至る第一系統と、前記混合器を通らずにキャビネット内に供給される第二系統に分岐するよう設けるのが望ましく、特に前記キャビネット内における集塵機に向かう気体の吸引口は、前記第二系統のキャビネット内への供給口よりも、キャビネット内に収容された加工品の近くに存在するよう設けるのが望ましい。これは、前記送風機から吐出される気体を分岐することによってキャビネット内の気体圧力を調整し、気体の循環を効率良く行う為である。また、キャビネット内において、集塵機に向かう気体の吸引口を、第二系統の供給口よりも加工品の近くに存在させることにより、加工品の近くにおいては、集塵機に向かう気体の吸気量を、投射部における気体の吐出量よりも多くすることができる。これにより、キャビネット内の吸塵効果を高めることができる。
【0034】
上記構成にかかれば、分級された解砕物は混合器を通ってショット材として再利用可能になる為、ショット材を補充する必要を無くしてブラスト加工が可能になる。即ち、高価な金属或いは合金素材をショット材及び/又は加工品に使用した場合にも、新たに部材を投入する必要性が限りなく少なくなる為、部材及び人件費の節約に繋がる。また、分級された比較的大きな解砕物は加工品の造形材料として再利用可能になる為、加工品の原材料費用の節約にも繋げることができる。
【発明の効果】
【0035】
上記発明によれば、装置内に不活性ガスを充填し、送風機を利用して当該不活性ガスを循環させていることで、内部の酸素濃度を粉塵爆発限界値よりも低くし、粉塵爆発の発生を未然に防止できる。
【0036】
また、粉塵爆発対策を講じていることから、ショット材及び加工品の素材として微細粒径の金属、或いは合金等を使用したとしても、粉塵爆発の危険性を大幅に減じることができる。即ち、ショット材及びワークの素材を限定すること無く、効果的にブラスト処理を実施することができる。
【0037】
さらに、投射されたショット材によって解砕された加工品の解砕物は、少なくともその一部をショット材又は加工品の造形材料として有効に再利用が可能な為、材料の節約にも繋がる。
【0038】
さらに、分級された解砕物は混合器を通ってショット材として再利用可能になる為、連続的にブラスト加工が可能になり、新たに部材を投入する必要性が限りなく少なくなる為、部材及び人件費の節約にも繋がる。
【0039】
特に、金属粉末を電子ビームで溶融・凝固させて形成した3次元造形物(加工品)の仮焼結体を解砕する場合には、その解砕物をショット材又は造形材料として再利用でき、高価な金属材料の節約ができる為、大きなコストメリットが見出せる。